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審決分類 |
審判 判定 審理一般(別表) 属さない(申立て不成立) B65D |
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管理番号 | 1165606 |
判定請求番号 | 判定2007-600034 |
総通号数 | 95 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2007-11-30 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2007-04-17 |
確定日 | 2007-10-23 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3598146号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号写真及びイ号現物に示す「持ち手」は、特許第3598146号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
1.請求の趣旨 本件判定請求の趣旨は、イ号写真及びイ号現物に示す、被請求人であるコトコ株式会社(以下、「被請求人」という。)が製造した、商品名:ソフタッチなる「持ち手」(以下、「イ号物件」という。)が、特許第3598146号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。 2.本件特許発明 特許第3598146号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。 (A)金型の型別れ方向を上下方向として射出成型されてなる持ち手であって、 (B)上方を開放したほぼ半円筒形を呈し中央が細長い水平な握り部(2)と、 (C)この握り部の両端をそれぞれ下方へ曲げた下がり部(3)と、 (D)この下がり部の下端に水平に設けた紐乗せ部(4)と、 (E)この紐乗せ部の前記下がり部と離れた位置から上方に立ち上げた紐止め角(5)と、 (F)この紐止め角の前記下がり部に対向する面から迫り出し下面に水平面に対して傾斜した面を有する抜け止め瘤(6)とを備え、 (G)前記抜け止め瘤が型別れに際して無理抜きされて成形される (H)持ち手。 なお、(A)?(H)は、請求人が判定請求書において付与した分説であり、以下、それぞれ本件特許発明の構成(A)?(H)等という。 3.イ号物件 請求人アイキ産業株式会社が提出したイ号現物及び同イ号写真からみて、イ号物件は、次のとおりのものと認められる。 「(a)持ち手の握り部を上、紐乗せ部を下とした場合に、持ち手の上下方向に分離される金型を用いて射出成型することができる持ち手であって (b)上方を開放したほぼ半円筒形を呈し中央が細長い水平な握り部と、 (c)この握り部の両端をそれぞれ下方へ曲げた下がり部と、 (i)前記握り部の中央と下がり部とはRをなして結合され、 (d)この下がり部の下端に、側方視でその内面と外面とが円弧状であり、ほぼ水平に設けた紐乗せ部と、 (e)この紐乗せ部の前記下がり部と離れた位置からその先端が下がり部側へ傾くように上方に立ち上げた紐止め角と、 (f)この紐止め角の前記下がり部に対向する面から迫り出し下面に水平面に対して傾斜した面を有する抜け止め瘤とを備え、 (g)前記抜け止め瘤を型から抜くことは、金型を上下に分割し、続いて、抜け止め瘤を駒と共に下方向に移動させ、更に続いて、該抜け止め瘤が駒の一部を乗り越えて抜くことができる形状に形成された、 (h)コトコ株式会社が製造した、商品名:ソフタッチなる持ち手。」 なお、(a)?(i)は、被請求人が判定請求書において付与した分説であり、そのうち、(a)?(h)は、請求人が判定請求書において本件特許発明の構成(A)?(H)にそれぞれ対応するものとして付与したとおりのものであり、(i)は被請求人により付加されたものであるが、イ号現物及び同イ号写真から、イ号物件が構成(i)を有することは明白である。(以下、それぞれイ号物件の構成(a)?(i)等という。) 4.対比、判断 イ号物件の構成が本件特許発明の構成(A)?(H)を要件を充足するか否かについて検討する。 (1)本件特許発明の構成(A)について 本件特許発明の構成(A)に関連して、本件特許明細書には、「・・・本発明を実施例に基づいて説明する。図1は実施例の斜視図、図2は実施例を上下方向に組み重ねた斜視図である。なお、文中の上下関係は、持ち手を上(図1、A方向を上)、紐乗せ部を下(図1、B方向を下)にした状態で説明する。・・・」(段落【0015】)、「・・・型別れ方向を上下方向にすると、パ-ティング面に対する専有面積が小さい(従来に比して50%)ので、より多くの数が1回の成形で生産出来る。・・・」(段落【0016】)等と記載されている。 してみると、本件特許発明の構成(A)における「上下方向」は、持ち手の握り部を上、紐乗せ部を下とした場合に、金型が別れていく方向を含むものと解することができる。 したがって、本件特許発明の構成(A)とイ号物件の構成(a)は一致しており、イ号物件は、構成(a)を有する点で本件特許発明の構成要件(A)を充足する。 (2)本件特許発明の構成(B)について 本件特許発明の構成(B)とイ号物件の構成(b)は一致しており、 その構成としてべきイ号物件は、構成(b)を有する点で本件特許発明の構成要件(B)を充足する。 (3)本件特許発明の構成(C)について 本件特許発明の構成(C)とイ号物件の構成(c)は一致しており、イ号物件は構成(c)を有する点で、本件特許発明の構成(C)を充足する。 なお、イ号物件の構成(i)に係る、握り部の中央と下がり部とがRをなして結合されることは、イ号物件の構成(c)とは関わりなく、適宜付加又は削除し得るものであるから、イ号物件が本件特許発明の構成(C)を充足するか否かに何ら関わりないものである。 (4)本件特許発明の構成(D)について 本件特許発明の構成(D)は、「この下がり部の下端に水平に設けた紐乗せ部(4)」をである。 一方、イ号物件は、その構成として、「この下がり部の下端に、側方視でその内面と外面とが円弧状であり、ほぼ水平に設けた紐乗せ部」なる構成(d)を備えており、上記構成要件(D)と構成(d)とは、「持ち手」という物品を構成する「紐乗せ部」の構造ないし形状を、下がり部の下端にほぼ水平に設けたことを特定している点で、本件特許発明の構成(D)とイ号物件の構成(d)は一致しており、イ号物件は構成(d)を有する点で、本件特許発明の構成(D)を充足する。 なお、上記構成(d)における、紐乗せ部が、側方視でその内面と外面とが円弧状であることは、本件特許発明の構成要件(D)にかかわりなく、適宜付加又は削除し得るものであるから、イ号物件が本件特許発明の構成(D)を充足するか否かに何らかかわりないものである。 (5)本件特許発明の構成(H)について 本件特許発明の構成(H)とイ号物件の構成(h)は一致しており、イ号物件は構成(h)を有する点で、本件特許発明の構成(H)を充足する。 (6)構成要件(E)、(F)及び(G)について 以上のとおりイ号物件は、本件特許発明の構成(A)ないし(D)及び(H)を充足するから、(E),(F)及び(G)を充足するか否か検討する。 (6-1)本件特許発明の構成要件(G)について 本件特許発明の構成要件(G)における「型別れ」という用語は、射出成形に係る技術分野において、一般的に使用され、かつ、その意義が一律的に確立しているものとはいえない。また、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参照しても、「抜け止め瘤が型別れに際して無理抜き」を定義する記載が見当たらず(なお、願書に最初に添付された明細書または図面には、金型の型別れ方向については記載されているものの、「抜け止め瘤が型別れに際して無理抜き」との記載自体見当たらない。)、唯一、抜け止め瘤の「離型」について次のように記載されている。 (ア)【0006】「また、抜け止め瘤の下面に、水平面に対し傾斜した面があると、コア型から離型する時に滑り、無理抜きを容易にする。」 (イ)【0017】「さらに、抜け止め瘤の下面に水平面に対し傾斜した面があるので、コア型から離型する時に滑り、無理抜きを容易にすることができる。」 以上の記載からみて、「抜け止め瘤が型別れに際して無理抜き」とは、「抜け止め瘤のコア型からの離型に際して無理抜き」と解釈することが最も妥当である。 したがって、本件特許発明の構成要件(G)「前記抜け止め瘤が型別れに際して無理抜きされて成形される」とは、コア型を他方の金型から分離した後、コア型側に残った持ち手の抜け止め瘤をコア型から離型する際に無理抜きすることを含むものと解すべきである。 以上を前提に、イ号物件が本件特許発明の構成(E)及び(F)を充足するか否か検討する。 (6-2)本件特許発明の構成(E)について イ号物件の構成(e)において、紐止め角を、下がり部側へ傾くように上方に立ち上げたことは、金型から持ち手を離型する手段として、例えば判定2005-60024における請求書添付甲第5号証のごとく、他方の金型を、持ち手と駒及びコア型から外し、その後抜け止め瘤を備えた紐止め角を駒とともに下方に移動させることを前提とした構造であると解すべきである。 これに対して、本件特許発明の紐止め角(5)は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、イ号物件で用いるような駒等の特別の手段を用いることなく、コア型を他方の金型から分離した場合、持ち手を残ったコア型から直接無理抜きできるような形成でなければならないことは明白であり、下がり部側へ傾くような形状であれば、そもそも駒等を使用しない限りコア型を他方の金型から分離すること自体不可能となるものである。 したがって、本件特許発明とイ号物件とでは紐止め角の立ち上げ方の点で構造が異なるものであるから、イ号物件の構成(e)は、本件特許発明の構成(E)を充足しない。 (6-3)本件特許発明の構成要件(F)について 本件特許発明の審査経緯を参酌すると、本件特許発明の構成要件(G)「前記抜け止め瘤が型別れに際して無理抜きされて成形される」は、審査段階における拒絶理由通知に対して、公知技術との差違を明確にするべく、本件特許発明の構成要件(F)の一部を構成する「下面に水平面に対して傾斜した面を有する」と併せて、追加して補正されたものである。 また、この本件特許発明の補正に対応して、前記【0006】及び【0017】のように補正しており、意見書「3.特許すべき理由(2)引用文献との比較」において、抜け止め瘤の無理抜きに関連して引用文献1?3と比較し、例えば引用文献1の瘤は角から略水平に出ているから無理抜きできない等、要約すれば、引用文献1?3には水平面に対し傾斜した面を備えた抜け止め瘤による無理抜きに関連する記載が無いことを主張している。 その結果、特許査定に至ったことは明白であるから、前記本件特許発明の構成要件(F)における「下面に水平面に対して傾斜した面を有する」と構成要件(G)「前記抜け止め瘤が型別れに際して無理抜きされて成形される」すなわち「前記抜け止め瘤のコア型からの離型に際して無理抜きされて成形される」は、本件特許発明の本質をなす構成要件の一部であり、その作用効果からみて一体不可分の構成と認められる。 これに対し、イ号物件は、前述のように、抜け止め瘤を備えた紐止め角を駒とともに下方に移動させるものであり、構成(f)における傾斜面はコア型から無理抜きできなくても、下方に移動した駒から分離し得るものであればよいから、イ号物件の構成(f)は、本件特許発明の構成要件(F)を充足しない。 (6-4)まとめ イ号物件の構成(e)、(f)及び(g)は、本件特許発明の構成要件(E)、(F)及び(G)とは異なる構成であるから、イ号物件は、本件特許発明の構成要件(E)、(F)及び(G)を充足するとはいえない。 5.結論 以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 なお、本判定請求が、特許第3598146号に関する3回目の判定請求であることに鑑み、本件特許発明の構成要件(E),(F)及び(G)、並びにイ号物件の構成(e)、(f)及び(g)について、いわゆる均等論の適用可否について検討する。 (1)最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成6年2月24日)は、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、以下の五つの要件を満たす場合には、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、対象製品等は特許発明の技術的範囲に属するものとするのが相当であると判示している。 「(均等を判断するための五つの要件) (ア)相違部分が特許発明の本質的部分でなく、 (イ)相違部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、 (ウ)右のように置き換えることに、当業者が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、 (エ)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものでなく、かつ、 (オ)対象製品等が、特許発明の出願手続きにおいて、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情もない。」 (2)そこで、上記要件(イ)及び(ウ)を満たすか否かについて検討する。 前述のとおり、本件特許発明の構成(G)とイ号物件の構成(g)とは、イ号物件において、駒の使用を前提としている点で相違する。 そして、これまでの全判定請求における請求書等を参酌しても、イ号物件の構成(g)が、イ号物件の製造時点において、公知技術あるいは周知技術であることについて、なんら立証されておらず、しかも、前述のとおり、本件特許発明の構成(G)とイ号物件の構成(g)との相違に基づいて、本件特許発明の構成(E)とイ号物件の構成(e)、 本件特許発明の構成(F)とイ号物件の構成(f)で相違するのであるから、本件特許発明の構成(G)をイ号物件の構成(g)に置き換えることは、当業者が容易に想到し得ることではない。 したがって、本件特許発明の構成要件(E),(F)及び(G)とイ号物件の構成(e)、(f)及び(g)は均等とはいえない。 なお、本件特許発明について、さらに付言すると、金型からの無理抜きを可能とするため、射出成形品の突出部の下面に適宜傾斜面を設ける程度のことは、例えば、特開平2-292011号公報にみられるように周知の技術であり、当業者が適宜必要に応じて採用し得ることである。 |
別掲 |
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判定日 | 2007-10-11 |
出願番号 | 特願平7-107985 |
審決分類 |
P
1
2・
0-
ZB
(B65D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川本 真裕 |
特許庁審判長 |
石原 正博 |
特許庁審判官 |
関 信之 関口 勇 |
登録日 | 2004-09-17 |
登録番号 | 特許第3598146号(P3598146) |
発明の名称 | 持ち手 |
代理人 | 福田 武通 |
代理人 | 福田 賢三 |
代理人 | 福田 伸一 |