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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16F |
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管理番号 | 1166365 |
審判番号 | 不服2005-22076 |
総通号数 | 96 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-11-17 |
確定日 | 2007-10-18 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第350856号「内燃機関の弁ばね」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 7月14日出願公開、特開平10-184751〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成8年12月27日の出願であって、平成17年10月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成17年11月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成17年12月19日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。 2.平成17年12月19日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成17年12月19日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)本件補正の内容 本件補正は、平成17年8月26日付けの手続補正にて補正された特許請求の範囲における 「【請求項1】 密巻部と粗巻部とを有し、所定の予圧縮荷重を与えられた状態の取り付け点と、最大圧縮点との間で繰り返し変形する2段ピッチ圧縮コイルばねをなす内燃機関の弁ばねであって、 ばねのたわみ対負荷曲線に於いて、前記取り付け点から、該取り付け点と前記最大圧縮点との間のたわみ量の範囲の80%?120%の区間内に設定された屈折点に於いて前記密巻部の素線が密着し、かつ前記密巻部の有効巻数が0.5?2.0であることを特徴とする弁ばね。 【請求項2】 前記密巻部が、両端に対称に振り分けられていることを特徴とする請求項1に記載の弁ばね。 【請求項3】 前記粗巻部が、両端に対称に振り分けられていることを特徴とする請求項1に記載の弁ばね。 【請求項4】 前記密巻部が、両端のいずれか一方に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の弁ばね。 【請求項5】 前記密巻部が、オープンエンドをなすコイル端部を有することを特徴とする請求項2若しくは3に記載の弁ばね。」 の記載を、 「【請求項1】 密巻部と粗巻部とを有し、所定の予圧縮荷重を与えられた状態の取り付け点と、最大圧縮点との間で繰り返し変形する2段ピッチ圧縮コイルばねをなす内燃機関の弁ばねであって、 ばねの静的たわみに重合する動的たわみを抑制するように、ばねのたわみ対負荷曲線に於いて、前記取り付け点から、該取り付け点と前記最大圧縮点との間のたわみ量の範囲の80%?120%の区間内に設定された屈折点に於いて前記密巻部の素線が密着するようにし、 かつ、高速運転が可能となり、密着高さが低くなるように、前記密巻部の有効巻数を0.5?2.0としたことを特徴とする弁ばね。 【請求項2】 前記密巻部が、両端に対称に振り分けられていることを特徴とする請求項1に記載の弁ばね。 【請求項3】 前記粗巻部が、両端に対称に振り分けられていることを特徴とする請求項1に記載の弁ばね。 【請求項4】 前記密巻部が、両端のいずれか一方に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の弁ばね。 【請求項5】 前記密巻部が、オープンエンドをなすコイル端部を有することを特徴とする請求項2若しくは3に記載の弁ばね。」 と補正しようとするものである。下線部は、対比の便のため当審において付したものである。 (2)補正の適否 本件補正による補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1に記載されていた「ばねのたわみ対負荷曲線に於いて、前記取り付け点から、該取り付け点と前記最大圧縮点との間のたわみ量の範囲の80%?120%の区間内に設定された屈折点に於いて前記密巻部の素線が密着し」を「ばねの静的たわみに重合する動的たわみを抑制するように、ばねのたわみ対負荷曲線に於いて、前記取り付け点から、該取り付け点と前記最大圧縮点との間のたわみ量の範囲の80%?120%の区間内に設定された屈折点に於いて前記密巻部の素線が密着するようにし、」と密巻部の素線の密着の作用に係る限定を付加し、同じく「前記密巻部の有効巻数が0.5?2.0であること」を「高速運転が可能となり、密着高さが低くなるように、前記密巻部の有効巻数を0.5?2.0とした」と密巻部の有効巻数の作用に係る限定を付加するものである。 したがって、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (3)刊行物に記載された発明 原査定の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である特開昭54-91656号公報(以下、「刊行物」という。)には、「サージングを防止したばね」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。 イ.「この発明はエンジンの吸排気弁等に備えるサージングを防止したばねに関し、特にコイル状ばねの線間ピツチを荷重撓み線図で最大使用撓みδ2の下、0乃至15%の範囲内に変曲点を求めるようにした線間ピツチ曲線に従つて定めることにより、ばねにかかる荷重が増加し、その変曲点を越えるとばねのばね定数、固有振動数が急激に変化してばねの両端若しくは片端近くにおいてばねの素線同士の離接を生ぜしめ、エンジンの高速化に伴う弁ばねの圧力増加を防ぎ、サージングを防止したばねを提供するにある。」(第1頁左欄第13行-右欄第8行) ロ.「第1図において(A)はこの発明のサージングを防止したばねの一例を示したものである。即ちこのばねの線間ピツチは上下を対称的とし、不等ピツチP1、P2、P3にとつてあり、その線間ピツチ線図及び荷重撓み線図を第2図及び第3図に示す。 図中符号 W1:取付け荷重 δ1:取付け撓み W2:最大使用荷重 δ2:最大使用撓み K1、K2:ばね定数 Q:変曲点 即ち不等ピツチP1、P2、P3の決め方は最大使用荷重時の最大使用撓み の下の0?15%の範囲内に変曲点を設けるようにピツチ曲線を定め、このピツチ曲線に従つて各ピツチを定める。 第3図に示すこの発明のばねの荷重撓み曲線A1は最大使用撓みδ2の下方の10%の位置に変曲点Qを設けたので、その点でばね定数がK1からK2に変化し、それと共に固有振動数も急激に変化する。・・・・・・上記した実施例のばねでは中央の線間ピツチが最も広くなるようにしてあるが、これに限定されるものではなく、上記荷重撓み曲線に合致するようにピツチ曲線の最大ピツチを一方へ片寄らせて、ばねの線間ピツチの最大の位置を片側に寄せることも可能である。」(第2頁左下欄第2行-右下欄第14行) ハ.「これに対してこの発明のばねの曲線A3は最大使用荷重、最大使用撓みの近くでばね定数、固有振動数が変化しばねの両端近く又は片端において離反、密接作用を生ずるので応力振巾をa1に減少することができる。」(第3頁右上欄第13行-左下欄第2行) これらの記載事項によれば、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 「不等ピツチP1、P2、P3にとつてあり、取り付け撓みδ1と最大使用撓みδ2との間で変形し、荷重撓み線図における最大使用撓みδ2の下、0乃至15%の範囲内で変曲点を設けるようにし、変曲点を越えるとばねの素線同士の離接を生ぜしめるエンジンの吸排気弁等に備えるサージングを防止したばね。」 (4)対比・判断 本件補正発明1と刊行物記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「不等ピツチP1、P2、P3にとつてあり、取り付け撓みδ1と最大使用撓みδ2との間で変形し、」は、P1、P2、P3でピッチが異なるものであり、ピッチが広い部分では素線は疎に巻かれ、ピッチが狭い部分では密に巻かれていることは明らかであること、及び取り付け撓みδ1は所定の予圧縮荷重を与えられた状態の取り付け点に相当する部分であり、最大使用撓みδ2は最大圧縮点に相当する部分であることを踏まえれば、本件補正発明1の「密巻部と疎巻部を有し、所定の予圧縮荷重を与えられた状態の取り付け点と、最大圧縮点との間で繰り返し変形する圧縮コイルばね」に相当する。また、刊行物記載の発明の「荷重撓み線図」は本件補正発明1の「ばねのたわみ対負荷曲線」に相当する。そして、刊行物記載の発明の「変曲点」は「屈折点」に相当し、「ばねの素線同士の離接」は「密巻部の素線が密着」に相当する構成である。さらに、刊行物記載の発明の「エンジンの吸排気弁等に備えるサージングを防止したばね」は、本件補正発明1の「内燃機関の弁ばね」、「弁ばね」に相当する。 したがって、本件補正発明1と刊行物記載の発明とは、本件補正発明1の用語に倣えば、 「密巻部と粗巻部とを有し、所定の予圧縮荷重を与えられた状態の取り付け点と、最大圧縮点との間で繰り返し変形する圧縮コイルばねをなす内燃機関の弁ばねであって、 ばねのたわみ対負荷曲線に於いて、屈折点に於いて前記密巻部の素線が密着するようにしたことを特徴とする弁ばね。」 である点で一致し、次の3点で相違する。 相違点A. 本件補正発明1の弁ばねは「2段ピッチ圧縮コイルばね」であるのに対し、刊行物記載の発明のばねは圧縮コイルばねではあるが、P1、P2、P3の3つのピッチを持つものである点 相違点B. 本件補正発明1は屈曲点について、「ばねの静的たわみに重合する動的たわみを抑制するように、ばねのたわみ対負荷曲線に於いて、前記取り付け点から、該取り付け点と前記最大圧縮点との間のたわみ量の範囲の80%?120%の区間内に設定され」ているのに対し、刊行物に記載された発明では、「荷重撓み線図における最大使用撓みδ2の下、0乃至15%の範囲内」としている点。 相違点C. 本願補正発明1では弁ばねの密巻部の有効巻数に関し、「高速運転が可能となり、密着高さが低くなるように、前記密巻部の有効巻数を0.5?2.0とし」ているのに対し、刊行物記載の発明には密巻部の有効巻数に関して特段明記されていない点。 そこで、これら相違点について検討する。 相違点A.について検討するに、一般にサージングを防止するための弁ばねとして、密巻部と疎巻部からなる2段ピッチ圧縮コイルばねを用いることは慣用手段(必要であれば特開昭59-62740号公報(第2図に図示された従来技術、第3図に図示された発明を参照)、特公昭47-22363号公報(第1図、第2図に図示されたばねを参照)、実願昭61-91926号(実開昭63-109号)のマイクロフィルム(第6図に示された従来技術を参照))であり、従来から適宜採用されている技術にすぎない。してみると、刊行物1記載のばねのピッチを2段とすることは、必要に応じて当業者が適宜なし得る設計的事項であり、このようにすることに格別な創造性が必要とされるものない。従って、相違点A.については、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得るものと認められる。 次に相違点B.について検討するに、刊行物の指摘事項ロ.及び第3図の記載からみて、刊行物における屈折点は「荷重撓み線図における最大使用撓みδ2の下、0乃至15%の範囲内」は、最大使用撓みδ2と取付け撓みδ1との間のたわみ量の範囲において、最大使用撓みδ2を100%とした場合、85%?100%の範囲ということができ、「該取り付け点と前記最大圧縮点との間のたわみ量の範囲の80%?120%の区間内」に含まれる範囲である。すなわち、刊行物に記載された発明の屈折点も、該取り付け点と前記最大圧縮点との間のたわみ量の範囲の80%?120%の区間内に設定されているものである。また、「ばねの静的たわみに重合する動的たわみを抑制するように」は、サージングを防止するための弁ばねであれば、当然有する作用である。これらのことを鑑みれば、相違点B.として指摘した事項は実質的な相違とはいえず、刊行物に記載された発明も有しているものである。 さらに相違点C.について検討する。まず、相違点C.の検討の前提となる密巻部の有効巻数を0.5?2.0とすることの技術的意義を願書に添付された明細書に基づき確認するに、願書に添付された明細書の【0022】欄には、本願発明の実施例に関し、「ばねの共振特性を変化させる上で効果的な密巻部(ダンパー部)の巻数を0.5?2.0の範囲とすると、当ピッチばねに対して、ばねの巻数をそれ程増大させることなく、従って、ばねの質量を増大させることなく、密着高さを増大させることなく、高い動的応力抑制効果を得ることができる。密巻部を対称に両側に配置した場合には、それぞれ0.25?1.0の巻数を有するものとしてよい。」と記載されている。 一方【0023】欄の表3には、ダンパ部、すなわち密巻部における有効巻数として、本発明に基づく圧縮コイルばねでは1.0、従来技術では1.25である点が記載されている。すなわち、そもそも願書に添付した明細書では、密巻部の巻数を0.5?2.0の範囲とすることが記載されており、有効巻数については、表3に1.0が記載されているのみである。 そして、従来技術でも密巻部の有効巻数が0.5?2.0の範囲にあるものがあり、密巻部の有効巻数を本件補正発明1の如く設定することに技術的意義があるとはいえない。また、【0023】の表3を含む願書に添付された明細書の記載を参酌しても、密巻部の有効巻数の下限を0.5とし、上限を2.0とすることの根拠を把握することはできない。さらに、一般に機械要素の技術分野において、コイルばねにおける「巻数」と「有効巻数」とは異なる技術的意味を持つ用語として利用されており、さらに、願書に添付した明細書をみても、本願において、「巻数」と「有効巻数」を同じ技術的意味を持つ用語として取り扱わなければならない特段の事情はない。 したがって、本件補正発明1で、密巻部の有効巻数を0.5?2.0とすることに格別な技術的意義若しくは臨界的意義はない。 よって、相違点Cに係る本件補正発明1に係る事項は、刊行物に記載された発明の密巻部の有効巻数に関し、当業者が必要に応じて適宜設定しうる設計的事項にすぎず、当業者であれば容易に想到しうるものである。 そして、本件補正発明1の奏する作用効果も、刊行物に記載された発明から当業者が予測できる範囲のものである。 よって、本件補正発明1は、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 なお、請求人は平成18年2月8日付けの手続補正にて補正した審判請求書の請求の理由において、『しかしながら、認定(i)は、単なる外形的な一致若しくは類似に基づくもので、本発明に於ける特徴(A)は、引用文献1の発明に於ける対応する特徴とは、大きく異なる実質的な構成を有するものである点が看過されている。・・・・・・。 (5) 引用文献1でも、屈折点に於ける屈折の度合を最大化せんとして、屈折点を最大圧縮点近傍に設定しているが、引用文献1中では、一貫して屈折の度合を最大化することが重要である旨が繰り返し記載され、強い非線形性を実現することによりサージングを防止し、それによりばねの最大応力を抑制せんとするものであるとしている。従って、たわみの小さい領域では、ばね定数を比較的低くし、たわみの大きい領域では、ばね定数を比較的高くしている。ばね定数を比較的低くすることは総有効巻数が多いことを意味し、屈折の度合を強くするためには、そのうちの密巻部の巻数を多くする必要がある。即ち、このことは、引用文献1では、それなりの総巻き数が必要であることを意味する。一方、本発明では、本願の図1に示されるように、たわみの小さい領域では、むしろばね定数を従来よりも高くした上で、屈折点が最大圧縮点近傍に出現するようにしている。それは、屈折の度合は従来よりも小さくなる反面、総有効巻数を従来よりも少なくできることを意味する。即ち、両発明は、屈折点を最大圧縮点近傍に設定する方法に大きな違いがある。言い換えると、外見的には,両発明は似かよって見えるが、技術的意義を考慮すると、それぞれ全く異なる技術思想を体現したものであることが明らかである。 (6) 添付の参考図は、一般的な従来技術、引用文献1及び本発明を概念的に比較したものである。・・・・・・・・言い換えると、引用文献1は、一般的な従来技術と同様の巻き数のコイルばねを用い、密巻部が密着し始める点(屈折点)がたわみの大きい領域に出現するようにしたものであるため、引用文献1では、コイルばねの巻き数は、従来に比較して減少しておらず、また減少し得ないものである。即ち、引用文献1に於ける特徴(A)に対応すると見られる特徴は、実は、特徴(B)とは両立できない特徴である。しかも、引用文献1では、密着長が大きいために、連動して取り付け点に於ける高さが大きくなる。このように、引用文献1では、慣性質量を低減させて高速運転を可能とする効果はなく、しかも、取り付け点及び最大荷重点に於ける高さが増大するという近年の高性能エンジンでは許容できない欠点を有する。 (7) それに対して、本願発明では、比較的たわみの小さい領域から既にばね定数が高く、従ってそれだけ総有効巻数が少なく、屈折の度合が小さいことから、密巻部の巻数も少なくてすむ。そのため、本願では、(a)屈折点をたわみの大きい領域に設けたことにより、ばねの最大応力を好適に抑制し、(b)総巻き数、特にデッドウェイト的な要素が強い密巻部の巻数を低減したことにより、高速運転が可能となり、密着高さが低くなるという、従来の弁ばねには見られない高い効果を奏し、近年の高性能エンジンに於ける要請を好適に満たすことができるものである。 (8) このように、2段ピッチ圧縮コイルばねをなす弁ばねの密巻部の巻数は、ばねの全体的な設計方針に強く拘束されるもので、他の要件に寄せ集め的に組み合わせることはできない。実際、引用文献1は、その発明思想は、それなりの巻数の密巻部を必要とするものであり、密巻部を減らすことは、引用文献1の発明思想に全く逆行するものである。このことから、認定(ii)は不適切な認定であり、請求項1に記載された本願発明には進歩性が欠けているという拒絶理由は解消されるべきである。また、請求項1に記載された発明に進歩性が認められるべきことから、それに従属する請求項2?5についても、当然、それらの拒絶理由は解消されるべきである。』と主張している。 しかしながら、上述の相違点C.にて摘示したように、そもそも、願書に添付した明細書及び図面に基づけば、密巻部の有効巻数を0.5?2.0の範囲に特定することに技術的意義はない。また、明細書【0023】欄の表3によれば、従来技術1,2の圧縮コイルばねもダンパ部(密巻部)の有効巻数は、1.25あるいは2.34であり、密巻部の有効巻数に係る本件補正発明1の如き特定が、従来技術の密巻部の有効巻数と比して減少しているともいえない。 さらに、ばね定数に関する本件補正発明1と刊行物記載の発明との相違の主張についても、願書に添付した明細書及び図面では、屈折点の前後でばね定数の値が異なることのみ指摘しており、比較的たわみの小さい領域でのばね定数について、本件補正発明1が技術的特徴を有する旨の記載はない(【0014】欄参照)。そして、本件補正発明1には、ばね定数に関する技術事項の特定はなく、当該主張が本件補正発明1と刊行物記載の発明との対比判断に影響を与えるものではない。 よって、請求人の上記主張を参酌しても、本件補正発明1の奏する作用効果が、刊行物に記載された発明から当業者が予測できない格別顕著なものを有しているとはいえない。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 (5)むすび したがって、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 なお、本件補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものである以上、本件補正後の請求項2ないし5に係る発明は検討するまでもなく、本件補正は却下すべきものである。 3.本願発明について 平成17年12月19日付けの手続補正は上記の通り却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年8月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の通りものと認める。 「【請求項1】 密巻部と粗巻部とを有し、所定の予圧縮荷重を与えられた状態の取り付け点と、最大圧縮点との間で繰り返し変形する2段ピッチ圧縮コイルばねをなす内燃機関の弁ばねであって、 ばねのたわみ対負荷曲線に於いて、前記取り付け点から、該取り付け点と前記最大圧縮点との間のたわみ量の範囲の80%?120%の区間内に設定された屈折点に於いて前記密巻部の素線が密着し、かつ前記密巻部の有効巻数が0.5?2.0であることを特徴とする弁ばね。」 (1)刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記「2.(3)」に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明1の「ばねの静的たわみに重合する動的たわみを抑制するように、ばねのたわみ対負荷曲線に於いて、前記取り付け点から、該取り付け点と前記最大圧縮点との間のたわみ量の範囲の80%?120%の区間内に設定された屈折点に於いて前記密巻部の素線が密着するようにし、」を「ばねのたわみ対負荷曲線に於いて、前記取り付け点から、該取り付け点と前記最大圧縮点との間のたわみ量の範囲の80%?120%の区間内に設定された屈折点に於いて前記密巻部の素線が密着し」とし、同じく「高速運転が可能となり、密着高さが低くなるように、前記密巻部の有効巻数を0.5?2.0とした」を「前記密巻部の有効巻数が0.5?2.0であること」としたものである。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに密巻部の屈曲点及び有効巻数の作用を限定したものに相当する本願補正発明1が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)結び 以上の通り、本願発明は、刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、請求項1に係る発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、請求項2ないし5に係る発明は検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、以上の通り審決する。 |
審理終結日 | 2007-08-14 |
結審通知日 | 2007-08-21 |
審決日 | 2007-09-03 |
出願番号 | 特願平8-350856 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F16F)
P 1 8・ 121- Z (F16F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 柏原 郁昭、細川 健人 |
特許庁審判長 |
村本 佳史 |
特許庁審判官 |
山岸 利治 水野 治彦 |
発明の名称 | 内燃機関の弁ばね |
代理人 | 大島 陽一 |