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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22B
管理番号 1166503
審判番号 不服2003-2891  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-01-20 
確定日 2007-11-02 
事件の表示 平成7年特許願第524852号「塩化物で補助される湿式冶金的な銅抽出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成8年6月27日国際公開、WO96/19593、平成10年10月13日国内公表、特表平10-510585〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年12月20日を国際出願日とする出願であって、平成14年10月9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成15年1月20日に拒絶査定に対する審判請求がされ、平成15年2月17日付けで誤訳訂正書が提出され、平成17年1月24日付けで当審より審尋が通知され、平成17年4月20日付けで回答書が提出されたものである。

2.本願発明
本願発明は、平成15年2月17日付け誤訳訂正書に記載された明細書の特許請求の範囲の請求項1?55に記載されたとおりのものであるところ、そのうちの請求項1及び51に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明51」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】酸素と酸性塩化物との存在下、鉱石または精鉱を加圧酸化に供し、結果として加圧酸化濾過液と不溶性の塩基性硫酸銅塩とを得る過程からなり、
加圧酸化が、硫酸と、酸性溶液中で加水分解する金属硫酸塩とからなる群から選択される硫酸水素イオン源または硫酸イオン源の存在下で行われ、
添加される硫酸水素イオン源または硫酸イオン源の量は、少なくとも、塩基性硫酸銅塩の量から、加圧酸化で本来産み出される硫酸塩の量を差し引いたものを生成するために必要とされる化学量論的量の硫酸水素イオン源または硫酸イオン源を含むことを特徴とする硫化銅鉱石または精鉱から銅を抽出する方法。」
「【請求項51】鉱石または精鉱を、第1の浸出過程で酸性塩化物溶液により浸出して、第1の銅溶液と、不溶性の塩基性銅塩とを生成し、
第1の銅溶液と塩基性銅塩とを分離し、
塩基性銅塩を、第2の浸出過程で、銅塩を溶解する酸性硫酸塩溶液により浸出して、第2の銅溶液と、固体残留物とを生成し、
第1及び第2の銅溶液を有機抽出剤による溶媒抽出に供して、銅の電解抽出のための濃縮された銅溶液を生成する過程からなる硫化銅鉱石または精鉱から銅を抽出する方法。」

3.引用例とその主な記載事項
原査定の理由で引用された引用例1(特開昭50-51415号公報)、引用例2(特公昭52-38806号公報)、引用例3(特開昭59-64722号公報)及び引用例4(特公昭61-34483号公報)には、それぞれ次の事項が記載されている。

(1)引用例1:特開昭50-51415号公報
(1a)「(1)銅精鉱からの銅有価物の回収において
(a)予じめ定めた濃度における塩素イオンまたは臭素イオンを含有する浸出水溶液を調製し、
(b)銅精鉱を前記浸出溶液中に分散させてスラリーを形成させ、
(c)高温および酸素過圧下において、ならびに該精鉱中に存在する銅有価物の大部分を固体塩基性硫酸銅に変化させるような塩素イオンまたは臭素イオンの濃度において前記スラリーの浸出操作を行い、
(d)前記塩基性硫酸銅を含有する生成浸出残留物を浸出溶液から分離し、次いで
(e)前記浸出残留物から銅有価物を回収する、ことを特徴とする銅精鉱から銅有価物を回収する湿式冶金法。
(2)塩素イオンを含有する浸出水溶液を塩酸で形成することを特徴とする前記第(1)項に記載の方法。
(3)塩素イオンを含有する浸出水溶液をNaCl,CaCl2またはNH4Clで形成することを特徴とする前記第(1)項に記載の方法。
(4)臭素イオンを含有する浸出水溶液をHBr,NaBrまたはKBrで形成することを特徴とする前記第(1)項に記載の方法。
(5)塩素イオンを含有する浸出水溶液を塩酸と硫酸との混合物で形成し、該混合物が少くとも25重量%の塩酸を含有するものであることを特徴とする前記第(1)項に記載の方法。
(6)浸出水溶液に硫酸イオンのイオン源をも含有させることを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。
(7)スラリー中のCl-/CuまたはBr-/Cuのモル比が約0.08/1よりも大きいことを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。
(8)スラリー中の酸の合計量がH+/Cuのモル比が約0.15/1ないし約0.65/1の間であるような量であることを特徴とする前記第(2)項または第(5)項に記載の方法。
(9)浸出反応中にスラリーのpHを約2.5ないし約4.5の間に保つことを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。
(10)浸出操作を約125ないし約160℃の間の温度で行うことを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。
(11)浸出操作を約200ないし約300psigの間の酸素分圧において行うことを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。
(12)浸出操作を少くとも97%のCuの総括転化率を達成するのに十分な時間にわたつて行うことを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。
(13)銅精鉱が実質的に黄銅鉱精鉱であることを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。
(14)銅精鉱を予じめ粉砕することなく標準条件で浸出溶液中に分散することを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。
(15)銅精鉱を浸出溶液中に分散させる前に30分間粉砕することを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。
(16)浸出残留物を分離した際に前記残留物を洗浄して残留する塩素イオンまたは臭素イオンの痕跡を除去することを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。
(17)浸出残留物を除去した際に残留浸出溶液を再循環し、かつ再使用して連続的循環方式にもとずく新銅精鉱の処理に適する浸出水溶液を形成させることを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。
(18)転化した銅の約40%よりも多くない量が溶液中に移行し、一方その残りが固体塩基性硫酸銅の形態で残留物中に沈殿するように浸出操作を調節することを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。
(19)銅をアンモニア性硫酸アンモニウム溶液中に選択的に溶解し、次いで該アンモニア性液から溶媒抽出し、硫酸でストリツピングし、次いで該硫酸溶液から電解採取することにより浸出残留物から銅有価物を回収することを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。
(20)浸出残留物を希硫酸中で浸出し、次いで溶液精製工程を行い、次いで得られた精製溶液から電解採取することにより浸出残留物から銅有価物を回収することを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。
(21)銅精鉱からの銅有価物の回収において
(a)塩素イオンまたは臭素イオンを含有する浸出水溶液を調製し、
(b)銅精鉱を前記浸出溶液中に分散させてスラリーを形成させ、
(c)該スラリー中の酸の合計量をH+/Cuのモル比が約0.15/1ないし約0.65/1の間であるように調整し、
(d)該スラリー中の塩素イオンまたは臭素イオンの量をCl-/CuまたはBr-/Cuのモル比が0.08/1よりも大きいように調整し、
(e)約125ないし約160℃の間の温度、および180psig以上の酸素分圧下においてスラリーをかきまぜながら浸出操作を行い、
(f)生成した実質的に塩基性硫酸銅の形態の銅有価物を含有する浸出残留物を浸出溶液から分離し、次いで
(g)前記浸出残留物から銅有価物を回収する、ことを特徴とする銅精鉱から銅有価物を回収する湿式冶金法。」(特許請求の範囲)
(1b)「本発明は銅精鉱を処理してそれより銅有価物を回収する新規な湿式冶金法に関する。更に詳しくは本発明は銅精鉱を高温および酸素の過圧下において浸出水溶液中で浸出することによる銅有価物の回収方法に関する。」(第2頁右下欄第10?14行)
(1c)「本発明にしたがって処理することのできる銅精鉱は黄銅鉱、精銅鉱、コベリン藍銅鉱などまたはそれらの混合物のような硫化鉱を含有する普通の精鉱である。しかしながら本方法は、工業上最も一般的である黄銅鉱の精鉱の湿式冶金処理に特に好適である。」(第4頁右下欄第6?11行)

(2)引用例2:特公昭52-38806号公報
(2a)「硫黄の融点以上の温度において硫化物硫黄の少なくとも一部を元素硫黄に酸化するため少なくとも一つの硫化物鉱物を水溶液中で処理し、この場合少量だが溶融された元素による硫化物鉱物の湿潤および被覆を最小限にするに有効な量の表面活性剤を水性懸濁液に添加し、これによって硫化物鉱物の酸化を継続し得るようにした、硫化物鉱物の処理方法。」(特許請求の範囲)

(3)引用例3:特開昭59-64722号公報
(3a)「(1)銅含有硫化物から湿式冶金法により金属を回収する方法であって、塩化物を3モル/l以下の濃度含む溶液中で酸素の注入をしつつ上記銅含有硫化物を処理することを特徴とする方法。
(2)上記溶液中での処理をゆるやかな加圧下でおこなう特許請求の範囲第1項記載の方法。
(3)該加圧が25psig以下である特許請求の範囲第2項記載の方法。
(4)該圧力が大気圧である特許請求の範囲第3項記載の方法。
(5)処理温度が適用圧力下で沸点以下である特許請求の範囲第1項ないし第4項のいずれかに記載の方法。
(6)該溶液の酸度をpH4?0.5とする特許請求の範囲第1項ないし第5項のいずれかに記載の方法。
(7)該溶液の酸度をpH1?2とする特許請求の範囲第6項記載の方法。
(8)該溶液がCl-を75g/l以下含む下含む特許請求の範囲第1項ないし第7項のいずれかに記載の方法。
(9)該溶液がCl-を15g/l含む特許請求の範囲第8項記載の方法。
(10)該溶液が硫酸塩イオンを含む特許請求の範囲第1項ないし第9項のいずれかに記載の方法。
(11)硫酸塩イオンを硫酸の形で添加された特許請求の範囲第10項記載の方法。
(12)銅含有硫化物が微粒状である特許請求の範囲第1項ないし第11項のいずれかに記載の方法。
(13)溶液を激しく攪拌する特許請求の範囲第1項ないし第12項のいずれかに記載の方法。
(14)酸素注入を連続的におこなう特許請求の範囲第1項ないし第13項のいずれかに記載の方法。
(15)該処理を単一反応容器内でおこなう特許請求の範囲第1頂ないし第14項のいずれかに記載の方法。
(16)溶出工程をさらに含む特許請求の範囲第1項ないし第15項のいずれかに記載の方法。
(17)溶出工程における固形残渣から銅含有溶液を分離し、金属成分を有機溶液中に部分的に移し、ついで酸性硫酸塩溶液と接触させ、該金属成分を該硫酸塩溶液中に部分的に移し、得られた金属含有硫酸塩溶液を電気分解して目的とする金属を回収することを特徴とする特許請求の範囲第16項記載の方法。
(18)金属成分が銅を含む特許請求の範囲第17項記載の方法。
(19)金属成分が亜鉛を含む特許請求の範囲第17又は18項記載の方法。」(特許請求の範囲)
(3b)「この発明は銅含有硫化物の湿式冶金法に係り、特にその溶出法(抽出法)に関する。」(第2頁左上欄末行?同頁右上欄第1行)
(3c)「本発明は上記湿式冶金法において、溶出工程を含む方法を提供するものである。すなわち、溶出工程における固形残渣から銅含有溶液を分離し、金属成分を有機溶液中に部分的に移し、ついで酸性硫酸塩溶液と接触させ、該金属成分を該硫酸塩溶液中に部分的に移し、得られた金属含有硫酸塩溶液を電気分解して目的とする金属を回収することを特徴とする方法を提供するものである。」(第3頁左上欄第6行?14行)
(3d)「この溶出工程は単一の反応容器内でおこなわれることが好ましいが、2段以上を用いておこなわれる場合、酸素は各段階において注入されるべきである。」(第4頁右上欄第13?16行)

(4)引用例4:特公昭61-34483号公報
(4a)「1 非鉄金属とともに、鉄5?60%、硫横15?40%を含む硫化物マツトの処理法において、微粉砕した硫化物マツトを、該マツトに含まれるすべての可溶性非鉄金属の溶解に必要な理論量の硫酸を含む浸出溶液にて、温度70?120℃、50kPa?1000kPa(7.2519psi?145.038psi)の酸素分圧下で接触させ、該浸出処理を前記浸出溶液に溶解した鉄分が可溶性非鉄金属により置換されて浸出溶液から再沈澱し、かつ実質的にすべての可溶性非鉄金属が溶解するまで行なうことを特徴とする硫化物マツトの処理方法。
2 非鉄金属全量が溶解したとき(この際溶解した鉄1.0?5.0g/lが溶液中にある)、該浸出溶液1l当り硫酸2.5?15gが残留するように硫酸の量が選ばれる上記第1項に記載の処理方法。
3 酸素分圧が200?500kPa(29.0076psi?7.2519psi)である上記第1項または第2項に記載の処理方法。
4 浸出溶液の温度が90?100℃である上記第1項ないし第3項のいづれか1つに記載の処理方法。
5 硫化物マツトが、前記鉄分と硫横のほかに、銅、コバルトおよびニツケルを含有している上記第1項ないし第4項のいづれか1つに記載の処理方法。
6 硫化物マツトが、不溶性で浸出溶液に残渣として残留する白金族金属、金および銀を含む上記第1項ないし第5項のいづれか1つに記載の処理方法。
7 浸出残渣から所望の不溶性金属または硫横を分離回収する上記第1項ないし第6項のいづれか1つに記載の処理方法。
8 浸出処理の最終段階における溶液中の残留鉄分を酸化および中和により除去する上記第1項ないし第7項のいづれか1つに記載の処理方法。
9 溶解した非鉄金属を適当な方法で互いに分離し回収する上記第1項ないし第8項のいづれか1つに記載の処理方法。」(特許請求の範囲)

4.当審の判断
(1)本願発明1について
(1-1)本願発明1と引用発明1との対比
引用例1の(1a)には、
「(1)銅精鉱からの銅有価物の回収において
(a)予じめ定めた濃度における塩素イオンまたは臭素イオンを含有する浸出水溶液を調製し、
(b)銅精鉱を前記浸出溶液中に分散させてスラリーを形成させ、
(c)高温および酸素過圧下において、ならびに該精鉱中に存在する銅有価物の大部分を固体塩基性硫酸銅に変化させるような塩素イオンまたは臭素イオンの濃度において前記スラリーの浸出操作を行い、
(d)前記塩基性硫酸銅を含有する生成浸出残留物を浸出溶液から分離し、次いで
(e)前記浸出残留物から銅有価物を回収する、ことを特徴とする銅精鉱から銅有価物を回収する湿式冶金法。
(中略)
(6) 浸出水溶液に硫酸イオンのイオン源をも含有させることを特徴とする前記第(1)、第(2)、第(3)または第(4)項に記載の方法。」と記載されており、第(1)項を引用する第(6)項の記載を独立形式に記載し直すと、
「銅精鉱からの銅有価物の回収において
(a)予じめ定めた濃度における塩素イオンまたは臭素イオンを含有し、硫酸イオンのイオン源をも含有する浸出水溶液を調製し、
(b)銅精鉱を前記浸出溶液中に分散させてスラリーを形成させ、
(c)高温および酸素過圧下において、ならびに該精鉱中に存在する銅有価物の大部分を固体塩基性硫酸銅に変化させるような塩素イオンまたは臭素イオンの濃度において前記スラリーの浸出操作を行い、
(d)前記塩基性硫酸銅を含有する生成浸出残留物を浸出溶液から分離し、次いで
(e)前記浸出残留物から銅有価物を回収する、ことを特徴とする銅精鉱から銅有価物を回収する湿式冶金法。」となる。ここで、「銅精鉱から銅有価物を回収する湿式冶金法」は、上記(1c)の「銅精鉱は黄銅鉱、・・・硫化鉱を含有する普通の精鉱である。」という記載によれば、「銅精鉱」が「硫化銅精鉱」であり、「銅有価物」及び「回収」が「銅」及び「抽出」に相当するから、「硫化銅精鉱から銅を抽出する方法」といえる。また、引用例1の「(a)予じめ定めた濃度における塩素イオンまたは臭素イオンを含有し、硫酸イオンのイオン源をも含有する浸出水溶液を調製し、(b)銅精鉱を前記浸出溶液中に分散させてスラリーを形成させ、(c)高温および酸素過圧下において、ならびに該精鉱中に存在する銅有価物の大部分を固体塩基性硫酸銅に変化させるような塩素イオンまたは臭素イオンの濃度において前記スラリーの浸出操作を行い、(d)前記塩基性硫酸銅を含有する生成浸出残留物を浸出溶液から分離し、次いで(e)前記浸出残留物から銅有価物を回収する」工程は、精鉱を酸素と塩素イオン(または臭素イオン)と硫酸イオン源の存在下で加圧酸化して加圧酸化濾過液と不溶性の塩基性硫酸銅塩とを得て、この不溶性の塩基性硫酸銅から銅を抽出する工程といえるから、本願発明1の「酸素と酸性塩化物との存在下、精鉱を加圧酸化に供し、結果として加圧酸化濾過液と不溶性の塩基性硫酸銅塩とを得る過程からなり、加圧酸化が、硫酸イオン源の存在下で行われる硫化銅精鉱から銅を抽出する」工程に相当する。
そうすると、上記記載を、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、「酸素と酸性塩化物との存在下、精鉱を加圧酸化に供し、結果として加圧酸化濾過液と不溶性の塩基性硫酸銅塩とを得る過程からなり、加圧酸化が、硫酸イオン源の存在下で行われる硫化銅精鉱から銅を抽出する方法。」という発明(「以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
そこで、本願発明1と引用発明1とを対比すると、両者は、
「酸素と酸性塩化物との存在下、精鉱を加圧酸化に供し、結果として加圧酸化濾過液と不溶性の塩基性硫酸銅塩とを得る過程からなり、加圧酸化が、硫酸イオン源の存在下で行われる硫化銅精鉱から銅を抽出する方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
本願発明1は、「添加される硫酸イオン源の量は、少なくとも、塩基性硫酸銅塩の量から、加圧酸化で本来産み出される硫酸塩の量を差し引いたものを生成するために必要とされる化学量論的量の硫酸イオン源を含む」のに対して、引用発明1は、「添加される硫酸イオン源の量」が不明である点

(1-2)相違点についての判断
本願発明1の「添加される硫酸イオン源の量は、少なくとも、塩基性硫酸銅塩の量から、加圧酸化で本来産み出される硫酸塩の量を差し引いたものを生成するために必要とされる化学量論的量の硫酸イオン源を含む」という特定事項は、誤訳訂正書の段落【0037】?【0040】の記載及び審尋に対する回答書によれば、「添加される硫酸イオン源の量」Aは、「(加圧酸化過程において生成される)塩基性硫酸銅塩の量」Cから「(酸添加無しの場合に)加圧酸化で本来産み出される硫酸塩の量」Bを差し引いたものを生成するために必要とされる化学量論的量以上であると解される。
しかしながら、理論上「添加される硫酸イオン源の量」は、「(加圧酸化過程において生成される)塩基性硫酸銅塩の量」から「(酸添加無しの場合に)加圧酸化で本来産み出される硫酸塩の量」を差し引いたものを生成するために必要とされる化学量論的量であり、段落【0038】の酸添加の場合の(2)式によれば、化学式の右辺の「塩基性硫酸銅塩」をより多く生成させるために化学式の左辺の「添加される硫酸イオン源の量」をより多くすることは、当業者に周知の事項といえるから、「添加される硫酸イオン源の量」は、「(加圧酸化過程において生成される)塩基性硫酸銅塩の量」から「(酸添加無しの場合に)加圧酸化で本来産み出される硫酸塩の量」を差し引いたものを生成するために必要とされる化学量論的量(理論量)以上とすることは、当業者が容易に想到することといえる。

してみると、本願発明1に係る上記相違点は、当業者が容易に想到することができたというべきであるから、本願発明1は、引用発明1と上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(2)本願発明51について
(2-1)本願発明51と引用発明3との対比
引用例3の(3a)には、
「(1)銅含有硫化物から湿式冶金法により金属を回収する方法であって、塩化物を3モル/l以下の濃度含む溶液中で酸素の注入をしつつ上記銅含有硫化物を処理することを特徴とする方法。
(2)上記溶液中での処理をゆるやかな加圧下でおこなう特許請求の範囲第1項記載の方法。
(中略)
(10)該溶液が硫酸塩イオンを含む特許請求の範囲第1項ないし第9項のいずれかに記載の方法。
(中略)
(16)溶出工程をさらに含む特許請求の範囲第1項ないし第15項のいずれかに記載の方法。
(17)溶出工程における固形残渣から銅含有溶液を分離し、金属成分を有機溶液中に部分的に移し、ついで酸性硫酸塩溶液と接触させ、該金属成分を該硫酸塩溶液中に部分的に移し、得られた金属含有硫酸塩溶液を電気分解して目的とする金属を回収することを特徴とする特許請求の範囲第16項記載の方法。
(18)金属成分が銅を含む特許請求の範囲第17項記載の方法。」と記載されており、第2項、第10項、第16項及び第17項を順々に引用した第18項の記載を独立形式に記載し直すと、
「銅含有硫化物から湿式冶金法により金属を回収する方法であって、塩化物を3モル/l以下の濃度含む硫酸塩イオンを含む溶液中で酸素の注入をしつつ、ゆるやかな加圧下で上記銅含有硫化物を処理し、さらに溶出工程における固形残渣から銅含有溶液を分離し、銅を含む金属成分を有機溶液中に部分的に移し、ついで酸性硫酸塩溶液と接触させ、該金属成分を該硫酸塩溶液中に部分的に移し、得られた金属含有硫酸塩溶液を電気分解して目的とする銅を含む金属を回収することを特徴とする方法。」となる。ここで、「銅含有硫化物」から「銅を含む金属を回収することを特徴とする方法」の「銅含有硫化物」及び「回収」は、「硫化銅鉱石または精鉱」及び「抽出」に相当するといえるから、上記独立形式で記載された第18項に記載の発明は、「硫化銅鉱石または精鉱から銅を抽出する方法」といえる。そして、上記独立形式で記載された第18項に記載の「塩化物を3モル/l以下の濃度含む硫酸塩イオンを含む溶液中で酸素の注入をしつつ、ゆるやかな加圧下で上記銅含有硫化物を処理し、さらに溶出工程における固形残渣から銅含有溶液を分離」する工程は、銅含有硫化物を酸性塩化物溶液により浸出し、銅溶液と塩基性銅塩とを分離するものであるから、「鉱石または精鉱を、浸出過程で酸性塩化物溶液により浸出して、銅溶液と不溶性の塩基性銅塩とを生成し、銅溶液と塩基性銅塩とを分離」する工程に相当し、「銅を含む金属成分を有機溶液中に部分的に移し、ついで酸性硫酸塩溶液と接触させ、該金属成分を該硫酸塩溶液中に部分的に移し、得られた金属含有硫酸塩溶液を電気分解」する工程は、銅溶液を有機抽出剤による溶媒抽出して濃縮された銅溶液を電解抽出するものであるから、「銅溶液を有機抽出剤による溶媒抽出に供して、銅の電解抽出のための濃縮された銅溶液を生成」する工程に相当する。
そうすると、上記記載を、本願発明51の記載ぶりに則って整理すると、引用例3には、
「鉱石または精鉱を、第1の浸出過程で酸性塩化物溶液により浸出して、第1の銅溶液と不溶性の塩基性銅塩とを生成し、第1の銅溶液と塩基性銅塩とを分離し、第1の銅溶液を有機抽出剤による溶媒抽出に供して、銅の電解抽出のための濃縮された銅溶液を生成する過程からなる硫化銅鉱石または精鉱から銅を抽出する方法」という発明(「以下、「引用発明3」という)が記載されているといえる。
そこで、本願発明51と引用発明3とを対比すると、両者は、
「鉱石または精鉱を、第1の浸出過程で酸性塩化物溶液により浸出して、第1の銅溶液と不溶性の塩基性銅塩とを生成し、第1の銅溶液と塩基性銅塩とを分離し、第1の銅溶液を有機抽出剤による溶媒抽出に供して、銅の電解抽出のための濃縮された銅溶液を生成する過程からなる硫化銅鉱石または精鉱から銅を抽出する方法」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
本願発明51は、「第1の浸出過程」で分離された「塩基性銅塩」を、「第2の浸出過程で、銅塩を溶解する酸性硫酸塩溶液により浸出して、第2の銅溶液と、固体残留物とを生成し、第1及び第2の銅溶液を有機抽出剤による溶媒抽出」に供するものであるのに対して、引用発明3は、この点が不明である点

(2-2)相違点についての判断
引用例3の(3d)には、「この溶出工程は単一の反応容器内でおこなわれることが好ましいが、2段以上を用いておこなわれる場合、酸素は各段階において注入されるべきである。」と記載されており、浸出(溶出)過程を2回とすることも示唆されているから、浸出工程を2回として、第1及び第2の銅溶液を有機抽出剤による溶媒抽出に供することは、当業者が容易に想到することといえる。
してみると、本願発明51に係る上記相違点は、当業者が容易に想到することができたというべきであるから、本願発明51は、引用発明3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

5.むすび
したがって、本願発明1及び本願発明51は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-30 
結審通知日 2006-04-25 
審決日 2006-05-11 
出願番号 特願平7-524852
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C22B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 諸岡 健一  
特許庁審判長 徳永 英男
特許庁審判官 平塚 義三
酒井 美知子
発明の名称 塩化物で補助される湿式冶金的な銅抽出方法  
代理人 佐藤 辰彦  
代理人 千葉 剛宏  

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