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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
管理番号 1166825
審判番号 不服2006-3849  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-02 
確定日 2007-11-01 
事件の表示 平成 9年特許願第 2640号「電動機」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 2月13日出願公開、特開平10- 42531〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年1月10日(国内優先権主張、平成8年5月24日)の出願であって、その請求項1ないし3に係る発明は、平成19年8月1日付けの手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。

2.本願発明1について
2-1.本願発明1
本願の請求項1に記載された発明(以下「本願発明1」という。)は次のとおりである。
「回転子の磁極数を2Pとし(Pは1以上の整数)、固定子界磁鉄心の突極数を3Pとし、
固定子界磁鉄心の一つの突極部に2個の補助溝を有し、
回転子と対面する固定子界磁鉄心の巻線溝の幅αと、補助溝の幅βとの関係は、0.5α<β<1.5αであり、
突極磁極間の角度を4θとした場合、補助溝の中心が、巻線溝の中心から、角度θ,2θの間隔で配置されていることを特徴とする電動機。」

2-2.先願明細書
これに対して、当審の拒絶の理由に引用した、本件出願の優先権主張の日前の特許出願であって、その優先権主張の日後に出願公開がされた特願平7-132616号(以下「先願」という。特開平8-308198号公報参照。)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下「先願明細書等」という。)には、「ブラシレスモータ」に関し、図面と共に次の事項が記載されている。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 外周面にS極及びN極が周方向に交互に且つ等間隔に合計n(nは偶数)極着磁された回転自在のロータと、このロータの外周面を包囲するa(aは3以上の奇数)相の励磁コイルと、この励磁コイルを保持するN(N=a×n/2)個のティースが形成されたステータと、を備え、前記ティースを周方向に等間隔に形成するとともに、前記ティースの前記ロータ側を向く端部に、周方向に張り出すように鍔部を形成したブラシレスモータにおいて、
前記ティースの周方向の形成間隔を1ピッチとして、前記鍔部の前記ロータ側を向く面の、前記ティースの周方向中心部から1/4ピッチ離隔した位置に凹溝を形成したことを特徴とするブラシレスモータ。」
・「【0017】なお、ステータ6に形成された複数のティース20や、スロット21,鍔部22,開口部23に関しては、図9に示した従来のブラシレスモータと同様であるため、同様の符号を付し、重複する説明は省略する。そして、本実施例にあっては、図3にも拡大図示するように、各鍔部22のロータ7側を向く面に回転軸4の軸方向に延びる凹溝25を形成している。即ち、各凹溝25は、断面形状が半円弧状の溝であって、各ティース20の周方向の形成間隔を1ピッチとして、そのティース20の周方向中心部から1/4ピッチ離隔した位置に形成されている。従って、その凹溝25を形成できるように、各鍔部22の幅は、ティースの周方向中心部から鍔部の周方向端部までの長さを3/10ピッチ以上としている。」
・「【0019】これに対し、図5に示すように、ロータ7が、図2の状態から1/4ピッチだけ回転した状態となると、ロータ7の各変極点m1やm2は、全て鍔部22に形成された凹溝25に対向する状態となるが、この凹溝25が形成された部分は、開口部23と同様に磁気抵抗が大きくなっている。従って、この図5に示す状態は、従来の技術で説明した図10に示す状態に比べて、発生するトルクが小さいことになり、凹溝25の幅や深さを適宜設定すれば、図4に示す状態で発生するトルクと図5に示す状態で発生するトルクとの差は、同等若しくは極めて小さくなるのである。」
・「【0024】この第2実施例のように、一部の鍔部22に凹溝25を形成するようにすれば、加工費が低減するという利点もある。また、上記第1実施例及び第2実施例では、各凹溝25の幅方向の中心が、ティース20の周方向中心部から正確に1/4ピッチ離隔した位置にくるようにしているが、そのような位置合わせは厳密にする必要はなく、例えば図8に示すように、ティース20の周方向中心部から略1/4ピッチである5度程度離隔した位置に、凹溝25を形成するようにしてもよい。このような構成は、例えばスロット21内に励磁コイルを配設するために開口部23をある程度確保しなければならない場合のように、鍔部22の幅を十分に確保できない場合に有効である。要は、凹溝25の一部が、ティース20の周方向中心部から1/4ピッチ離隔した位置を通過するようにすればよい。」
・「【0025】……また、上記実施例では、永久磁石5のS極及びN極を合計6(n=6)とし、励磁コイル6aを5(a=5)相とし、ティース20の個数を15(N=a×n/2=15)としているが、これらの数は任意であり、要は、nは偶数であればよく、aは3以上の奇数であればよく、それらn及びaに応じてNを設定すればよい。」

この記載事項によると先願明細書等には、次の事項からなる発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。
「回転子の磁極数をn(nは偶数)、励磁コイルを保持するティースの数をN(N=a(aは3以上の奇数)×n/2)とし、
ティースに2個の凹溝を有し、
ティースの周方向の形成間隔を1ピッチとして、ティースのロータ側を向く端部に周方向に張り出すように形成した鍔部の前記ロータ側を向く面の、前記ティースの周方向中心部から1/4ピッチ離隔した位置に凹溝の幅方向の中心がくるように凹溝を形成したブラシレスモータ。」

2-3.対比
本願発明と先願発明とを対比すると、後者の「励磁コイルを保持するティース」は、前者の「固定子界磁鉄心の一つの突極部」に相当し、以下同様に「凹溝」は、「補助溝」に、「ブラシレスモータ」は「電動機」にそれぞれ相当する。
また、後者の凹溝を形成する位置について、「ティースの周方向の形成間隔を1ピッチとして、ティースのロータ側を向く端部に周方向に張り出すように形成した鍔部の前記ロータ側を向く面の、前記ティースの周方向中心部から1/4ピッチ離隔した位置」とは、ティースの周方向中心部から1/2ピッチ離隔した位置が巻線溝の中心となるので、前記凹溝を形成する位置は、1つは巻線溝の中心から1/4ピッチ離隔した位置であり、もう1つは1つ目の凹溝から、1/2ピッチ離隔した位置であることは自明である。
したがって、前記1/4ピッチをθとおけば、前記ティース間の角度は4θとなり、後者の「ティースの周方向の形成間隔を1ピッチとして、ティースのロータ側を向く端部に周方向に張り出すように形成した鍔部の前記ロータ側を向く面の、前記ティースの周方向中心部から1/4ピッチ離隔した位置に凹溝の幅方法の中心がくるように凹溝を形成した」は、前者の「突極磁極間の角度を4θとした場合、補助溝の中心が、巻線溝の中心から、角度θ,2θの間隔で配置されている」に相当する。
また、後者においては、「nは偶数」、及び「aは3以上の奇数」という条件が定められているものであるから、この条件を満たす数値として例えばa=3,n=6とおけば、N=9となり、したがって、前者の、1以上の整数という条件で定義されたPを3とおけば、後者の(ロータの極数)「n(nは偶数)」と、前者の(回転子の磁極数)「2P(Pは1以上の整数)」はいずれも6となって一致し、後者の「励磁コイルを保持するN(N=a×n/2)個のティース」すなわち、固定子の突極数は、前者の「固定子界磁鉄心の突極数、3P」は、9となって一致する。

したがって両者は、
[一致点]
「回転子の磁極数を2Pとし(Pは1以上の整数)、固定子界磁鉄心の突極数を3Pとし、
固定子界磁鉄心の一つの突極部に2個の補助溝を有し、
突極磁極間の角度を4θとした場合、補助溝の中心が、巻線溝の中心から、角度θ,2θの間隔で配置されている電動機。」
で一致し、

[相違点]
本願発明では、回転子と対面する固定子界磁鉄心の巻線溝の幅αと、補助溝の幅βとの関係を、0.5α<β<1.5αであるとしているのに対し、先願発明では、このような特定をしていない点で一応相違している。

2-4.相違点に対する判断
本願明細書をみても、回転子と対面する固定子界磁鉄心の巻線溝の幅αと、補助溝の幅βとの関係に関して、上記数値範囲とすることについては、段落【0049】にこの範囲とすることにより、低コギングトルクとなる旨、記載されているのみであり、その数値限定の根拠については何ら記載されていない。
これに対して先願明細書等には、段落【0023】に、溝の幅や深さを適宜設計することでコギングトルクを小さくすることが記載されているから、上記数値限定に関しては、当業者が適宜設計し得る事項と認められる。
よって、上記相違点は、課題解決のための具体的手段における微差といわざるを得ない。

したがって、本願発明は、先願発明に対して当業者が上記数値範囲を適宜設計したものに過ぎないから、両者は発明として実質的に同一というべきである。

2-5.本願発明1についてのむすび
したがって、本願発明は、先願発明と実質的に同一であり、しかも、本願発明の発明者が先願発明の発明をした者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が先願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

3.本願発明2及び3について
3-1.国内優先権
本願の国内優先権主張に係る、特願平8-129506号の願書に最初に添付された明細書には、固定子界磁鉄心の一つの突極部に2個設けられる補助溝の中心を巻線用溝の中心からθ、2θとするもののみが記載されているものであり、それ以外の補助溝の配置を含む本願の請求項2及び3に係る発明は、後述する「引用刊行物」との関係上、国内優先権の利益を享受することができず、進歩性などの判断基準日は現実の出願日である平成9年1月10日と認定される。

3-2.本願発明2及び3
本願の請求項2及び3に記載された発明は次のとおりである。
【請求項2】「回転子の磁極数を2Pとし(Pは1以上の整数)、固定子界磁鉄心の突極数を3Pとし、
固定子界磁鉄心の一つの突極部に2個の補助溝を有し、
回転子と対面する固定子界磁鉄心の巻線溝の幅αと、補助溝の幅βとの関係は、0.5α<β<1.5αであり、
突極磁極間の角度を4θとした場合、突極磁極の中心側の補助溝の端部が、巻線溝の中心から、角度θ,2θの間隔で配置されていることを特徴とする電動機。」(以下「本願発明2」という。)
【請求項3】「回転子の磁極数を2Pとし(Pは1以上の整数)、固定子界磁鉄心の突極数を3Pとし、
固定子界磁鉄心の一つの突極部に2個の補助溝を有し、
回転子と対面する固定子界磁鉄心の巻線溝の幅αと、補助溝の幅βとの関係は、0.5α<β<1.5αであり、
突極磁極間の角度を4θとした場合、突極磁極の巻線溝側の補助溝の端部が、巻線溝の中心から、角度θ,2θの間隔で配置されていることを特徴とする電動機。」(以下「本願発明3」という。)

3-3.引用刊行物
これに対して、当審の拒絶の理由に引用した、本願の出願日前に公開された刊行物である特開平8-308198号公報(以下「引用刊行物」という。)の記載事項は、前記「2-2」に記載したとおりである。
したがって、引用刊行物には、前記「2-2」に記載した先願発明と同一の、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「回転子の磁極数をn(nは偶数)、励磁コイルを保持するティースの数をN(N=a(aは3以上の奇数)×n/2)とし、
ティースに2個の凹溝を有し、
ティースの周方向の形成間隔を1ピッチとして、ティースのロータ側を向く端部に周方向に張り出すように形成した鍔部の前記ロータ側を向く面の、前記ティースの周方向中心部から1/4ピッチ離隔した位置に凹溝の幅方向の中心がくるように凹溝を形成したブラシレスモータ。」

3-4.対比
本願発明2及び3は、上記したとおりであって、前記「2」で検討した本願発明1とは、補助溝の、巻線溝の中心から、角度θ,2θの間隔で配置されている位置が、本願発明2では、「突極磁極の中心側の補助溝の端部」であり、本願発明3では、「突極磁極の巻線溝側の補助溝の端部」である点で相違するものである。
そうすると、前記「2-3」での検討内容を踏まえた上で、本願発明2及び3と引用発明とを対比すると、本願発明2及び3の上記相違点に係る「補助溝」の位置と、引用発明の「凹溝の幅方向の中心」とは、「補助溝の一部」との概念で共通するので、本願発明2及び3と引用発明とは、
[一致点]
「回転子の磁極数を2Pとし(Pは1以上の整数)、固定子界磁鉄心の突極数を3Pとし、
固定子界磁鉄心の一つの突極部に2個の補助溝を有し、
突極磁極間の角度を4θとした場合、補助溝の一部が、巻線溝の中心から、角度θ,2θの間隔で配置されていることを特徴とする電動機。」
で一致し、

[相違点]
(ア)本願発明2及び3では、回転子と対面する固定子界磁鉄心の巻線溝の幅αと、補助溝の幅βとの関係を、0.5α<β<1.5αであるとしているのに対し、引用発明では、このような特定をしていない点、及び

(イ)巻線溝の中心から、角度θ,2θの間隔で配置されている補助溝の一部に関して、本願発明2では、「突極磁極の中心側の補助溝の端部」であり、また、本願発明3では、「突極磁極の巻線溝側の補助溝の端部」であるのに対して、引用発明では、凹溝の幅方向の中心である点で相違している。

3-5.相違点に対する判断
相違点(ア)については、前記「2-4」に記載したとおり、当業者が適宜設計し得る事項と認められる。

相違点(イ)について
引用刊行物には、前記「2-2」で摘記したとおり、段落【0024】に「第1実施例及び第2実施例では、各凹溝25の幅方向の中心が、ティース20の周方向中心部から正確に1/4ピッチ離隔した位置にくるようにしているが、そのような位置合わせは厳密にする必要はなく、……。要は、凹溝25の一部が、ティース20の周方向中心部から1/4ピッチ離隔した位置を通過するようにすればよい。」と記載されており、凹溝の位置の調整、変更について示唆されている。
そうすると、引用発明において、角度θ,2θの間隔の位置に配置する補助溝の一部を、巻線溝の中心から、「突極磁極の中心側の補助溝の端部」あるいは、「突極磁極の巻線溝側の補助溝の端部」に変更することで相違点(イ)に係る本願発明2または3の構成とすることは、当業者に容易である。

また、本願発明2及び3の奏する効果は、引用発明から予測しうる程度のものと認められる。

3-6.本願発明2及び3についてのむすび
したがって、本願発明2及び3は、いずれも引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができず、又、本願発明2及び3は、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-23 
結審通知日 2007-08-28 
審決日 2007-09-18 
出願番号 特願平9-2640
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (H02K)
P 1 8・ 121- WZ (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天坂 康種  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 渋谷 善弘
本庄 亮太郎
発明の名称 電動機  
代理人 永野 大介  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 内藤 浩樹  

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