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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E02D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E02D
管理番号 1167085
審判番号 不服2006-5421  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-23 
確定日 2007-11-13 
事件の表示 特願2003-349490「マンホール補修方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月 4日出願公開、特開2004- 68596〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年4月1日に出願した特願2003-097976号(優先権主張平成14年4月26日)の一部を平成15年10月8日に新たな特許出願としたものであって、平成18年2月16日付で拒絶査定がなされ、これに対して同年3月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年4月24日付で手続補正がなされたものである。

2.平成18年4月24日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年4月24日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「マンホール蓋のある路面に、該マンホール蓋と同心円で深さ方向に径が狭まる回転円弧状または球面状切り込みを入れる切り込み工程と、
前記切り込み工程で形成された切り込みと前記蓋を受ける蓋受枠との間にある環状の舗装材および前記蓋受枠を一体構造の切断片として除去する除去工程と、
前記除去工程で除去した蓋受枠のあとに新しい蓋受枠と新しいマンホール蓋を設置する蓋受枠設置工程と、
前記蓋受枠設置工程で設置した蓋受枠と前記切り込みとの間の環状の空間に、表面が前記路面と同じ高さになるまで舗装材を充填する充填工程と、
を備えたことを特徴とするマンホール補修方法。」
と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である除去する「舗装材」について、「環状の」との限定を付加し、「舗装材と前記蓋受枠」について、「一体構造の切断片として」との限定を付加し、除去した蓋受け枠のあとに、新しい蓋受け枠とともに「新しいマンホール蓋を設置する」との限定を付加し、さらに蓋受枠と切り込みとの間の空間を「環状の」形状とするものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-336682号公報(以下、「引用例1」という。)には、「道路舗装層切断工法及び修復工法」に関して、図面とともに、以下の記載がある。

(イ)「【請求項1】 傾斜地に設置されるマンホール蓋周囲の道路舗装層を切断する道路舗装層切断工法において、
上記マンホール蓋の中心より傾斜方向にオフセットした位置を中心とし、前記マンホール蓋周辺の道路舗装層を略円形状に切断することを特徴とする道路舗装層切断工法。
【請求項2】 傾斜地に設置されるマンホール蓋周囲の道路舗装層を修復する工法において、
上記マンホール蓋の中心より傾斜方向にオフセットした位置を中心とし、前記マンホール蓋周辺の道路舗装層を略円形状に切断し、前記マンホール蓋の調整工程を行い、
前記マンホール蓋の谷側の所要箇所より、液状の舗装剤を充填して道路舗装層を修復することを特徴とする道路舗装層修復工法。」
(ロ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、道路舗装面に設置されるマンホール蓋周辺の道路舗装層の切断工法及び修復工法に関する。」
(ハ)「【0002】
【従来の技術】通常、道路下には様々な管路が埋設されており、また道路面には、これらの管路に通じるためにマンホール蓋が設置されている。そして道路工事または、車両通過による加重等の理由により、マンホール蓋と道路表面とにずれが生じ、時にこれらマンホールの蓋高さ調整を行わなくてはならない。」
【0003】
これらのマンホール蓋高さ調整は、マンホール蓋周囲の道路舗装アスファルトを切断し、土砂を取り除き、マンホールブロックとマンホール蓋枠との間を調整リング,スプリング等を用いてマンホール蓋枠を上下動調整した後、復旧作業を行い終了する。」
(ニ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、マンホール蓋周囲のアスファルトを切断する際に、通常、円盤カッターを用いてマンホール蓋の周囲を四角形状に切断する。しかし、直線的に切断して四角形状にするため、交差部分に余切りが生じ、復旧の際に、この余切り部分を含めた復旧を行わなくてはならない。そのため、復旧コストが割高になってしまう問題点があった。
【0005】
本発明の目的は、これらの問題点を解決するために案出されたもので、余切りが発生せず、舗装の復旧処理が簡易に行える道路舗装層切断工法及び修復工法を提供することを目的とする。」
(ホ)「【0009】
上記の本発明による工法の作用は、以下のとおりである。まず請求項1の切断工法の発明では、マンホール蓋の中心より傾斜方向にオフセットした位置を中心として、前記マンホール蓋周囲の道路舗装層を円形カッター等を用いて略円形状に切断する。こうすることにより、余切りを発生させずに道路舗装層を切断することができる。また、修復作業における谷側の作業スペースを広く確保することができる。
【0010】
請求項2記載の修復工法の発明では、まずマンホール蓋の中心より傾斜方向にオフセットした位置を中心として、前記マンホール蓋周囲の道路舗装層を円形カッター等を用いて略円形状に切断し、切断した舗装片を除去する。そうすることにより、道路舗装層とマンホール蓋との間に溝が形成される。次に、マンホールの蓋高さ調整等の調整工程を行う。そして、前記溝で作業領域が広く確保されている谷側より、液状の舗装剤を充填して修復作業を行う。充填される舗装剤は谷側より頂部に向けて充填されていくため、舗装剤に空気の気泡が混入せず、強固な舗装層を形成することができる。」
(ヘ)「【0013】
まず本発明における切断工法を図2を用いて説明する。図に示すように、マンホール蓋1の中心より傾斜方向に若干オフセットした位置を中心とし、該マンホール蓋1周辺の道路舗装層を円形状に切断する。詳しくは、図2(a)に示すように、マンホール蓋1を中心に切断した場合は、図中、一点波線で示すように切断されるが、本発明においては、切断円の端が後述するコンクリートブロック12の端に位置するぐらい中心位置を谷側にオフセットして切断する。また、切断工具としては、従来周知の円筒状の円形カッター等を用いる。このようにすることで、従来課題とされていた余切りの発生をなくすことができ、さらに後述する修復作業において、作業効率を向上させることができる。」
(ト)「【0014】
ここで、マンホール蓋1は、蓋受枠11に支持されており、該蓋受枠11は、コンクリートブロック12の上にボルト13を介して設置されている。そしてコンクリートブロック12の下に複数のコンクリートリングが積重してマンホール全体を構成している。
(チ)「【0015】
次に、上述したように切断した舗装片を除去する。そうすることにより、道路舗装層とマンホール蓋1との間に円周状の溝Q、すなわち作業スペースを形成する。そして、マンホール蓋の蓋高さ調整を行う。具体的には、前記コンクリートブロック12の上面に調整ボルト13を立設し、コンクリートブロック12と蓋受枠13との間にテーパ状のコイルスプリング14を介在させる。そして蓋受枠13のフランジ部を前記調整ボルト12に挿通させ、該コイルスプリング14の弾性力により蓋受枠13を浮かした状態にする。また合わせて、前記コンクリートブロック12の内周縁に沿って立設するゴム性の内型枠15を設置する。そして、調整ボルト13にナット13aを螺合し、該ナット13aを締め込むことで、マンホール蓋1を路面に面合わせするようにする。」
(リ)「【0016】
次に調整工法が終了した後に、路面の修復作業を行う。まず、前記溝Q全体を覆うように蓋板2を設置する。該蓋板2は前記溝Qのみを覆うドーナツ状のものでもよく、また、図示したように円形状のものでもよい。そして、該蓋板2には、少なくとも路面谷側に舗装剤注入口21と路面頂部側に空気孔22とが設けられている。
【0017】
そして、前記舗装剤注入口21に舗装剤注入装置3を設置し、前記溝Q内に舗装剤Mを充填注入する。この舗装剤Mはモルタルまたは、樹脂等の液状のものである。この時、溝Qは谷側で広くスペースが確保されているため、舗装剤注入装置3設置等の作業が安易である。」
これらの記載及び図面の内容を総合すると、引用例1には、
「マンホール蓋1のある路面に、該マンホール蓋1の周囲に円形状の切り込みを入れる切り込み工程と、
環状の舗装片を除去する除去工程と、
前記蓋を受ける枠体を設置する蓋受枠設置工程と、
前記蓋を受ける枠体と切り込みとの間の環状の空間に、表面が路面と同じ高さになるまで舗装剤を充填する充填工程とを備えたマンホール蓋受枠の調整設置工法」
の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認めるられる。

(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「マンホール蓋1」、「環状の舗装片」、「蓋を受ける枠体」及び「舗装剤を充填する」は、本願補正発明の「マンホール蓋」、「環状の舗装材」、「蓋を受ける蓋受枠」及び「舗装材を充填する」にそれぞれ相当する。
そうすると、両者は、
「マンホール蓋及び前記蓋受枠の周囲に円形の切り込みを入れる切り込み工程と、
環状の舗装材を除去する除去工程と、
前記蓋を受ける蓋受枠を設置する蓋受枠設置工程と、
蓋受枠設置工程で設置した蓋受枠と前記切り込みとの間の環状の空間に、表面が路面と同じ高さになるまで舗装剤を充填する充填工程
とを備えたマンホール蓋受枠の調整設置工法」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
相違点1:切り込み工程及び除去工程において、本願補正発明では、切り込みがマンホール蓋と同心円で深さ方向に径が狭まる回転円弧状または球面状であり、環状の舗装材及び蓋受枠を一体構造の切断片として除去しているのに対して、引用例1発明では、切り込みが円形状であり、環状の舗装材及び蓋受枠を一体構造の切断片として除去していない点。
相違点2:蓋受枠設置工程において、本願補正発明では、除去した蓋受枠のあとに新しい蓋受枠と新しいマンホール蓋を設置するのに対して、引用例1発明では、蓋受枠の設置をするものであるが、使用していたマンホール蓋受枠のあとに新しい蓋受枠と新しいマンホール蓋を設置するものであるかどうか明示されていない点。

(4)判断
[相違点1]について
路面の構造物の周囲に切り込みを入れる場合に、切り込みが構造物と同心円で深さ方向に径が狭まる回転円弧状または球面状としたものは、特開昭62-125109号公報、特開昭63-55204号(昭和61年12月17日付手続補正書含)等に記載されているように従来より周知であるから、引用例1発明の切り込みを、円形状に換えて前記周知の回転円弧状または球面状とし、本願補正発明のようにすることは、当業者であれば容易になし得ることである。また、一般的に切り込みを入れる以前においては舗装材と蓋受枠とは一体となっているものであるから、前記周知の回転円弧状または球面状に切り込みを入れて舗装材を除去する場合においては、舗装材と蓋受枠とをあえて別体のものとせず、一体構造の切断片として処理されると考えるのが自然である。ちなみに、マンホールの補修工法において、蓋受枠と舗装材を除去する場合、これらを一体構造の切断片として除去するものも、特開2000-144773号公報、特開平9-158114号公報等に記載されているように従来より周知である。
そして、引用例1発明に上記周知技術を適用して、相違点1に係る本願補正発明のようにすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

[相違点2]について
マンホール蓋受枠の老朽化や破損、仕様の変更などがあるときにおいて、蓋受枠を取り外した際に新たな蓋受枠に取り換えることは、一般的に普通に行われている事項である。そして、引用文献1発明において、マンホールの蓋枠を上下動調整した後に新たな蓋受枠を固着することが技術的に不可能であるということはできないから、蓋受枠を取り外した後に新しい蓋受枠を取り付けて、蓋受枠を設置することに何ら困難性はなく、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度の事項であり、またこれに伴い新しいマンホール蓋を設置することも同様に適宜なし得る程度の事項であるから、当該相違点2が格別のものであるということができない。
ちなみに、上記のように判断した点は、本願の原出願の発明の無効2004-80109号事件の審決取消請求事件である平成17年(行ヶ)第10380号で判示された判断とも整合するものといえる。
なお、除去した蓋受枠のあとに新しい蓋受枠を設置したものは、上記例示した特開2000-144773号公報、特開平9-158114号公報等にも記載されているように従来周知の技術であり、このような例においても、新しいマンホールを設置することは適宜なし得る事項であるといえる。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1発明の記載及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用例1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、平成18年10月27日付で証拠申立書及び手続補足書を提出し、
「本願は、現在拒絶されて審判に継続していますが、ヨーロッパ特許庁の審査では、拒絶されるべき先行技術の提示はなく、専ら、請求項1について審査官のアドバイスにより、出願時の記載につき「前記マンホール蓋/枠を除去し新たなマンホール蓋/枠を設置し」を加入しただけで許可されていますので、本願も審判において特許適確を有するものと思料致します。」旨の意見を述べている。
しかしながら、前記ヨーロッパ特許庁で特許となった請求項1に係る発明は、この特許請求の範囲に記載された事項からみて、本願補正発明と同じものとはいえないので、上記意見を採用することができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成18年4月24日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年1月26日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「マンホール蓋のある路面に、該マンホール蓋と同心円で深さ方向に径が狭まる回転円弧状または球面状切り込みを入れる切り込み工程と、
前記切り込み工程で形成された切り込みと前記蓋を受ける蓋受枠との間にある舗装材および前記蓋受枠を除去する除去工程と、
前記除去工程で除去した蓋受枠のあとに新しい蓋受枠を設置する蓋受枠設置工程と、
前記蓋受枠設置工程で設置した蓋受枠と前記切り込みとの間の空間に、表面が前記路面と同じ高さになるまで舗装材を充填する充填工程と、
を備えたことを特徴とするマンホール補修方法。」
(以下、「本願発明」という。)

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明から、除去する「舗装材」の限定事項である「環状の」との構成、「舗装材と前記蓋受枠」の限定事項である「一体構造の切断片として」の構成、除去した蓋受け枠のあとに、新しい蓋受け枠とともに「新しいマンホール蓋を設置する」との構成、そして蓋受枠と切り込みとの間の空間を「環状の」形状とする構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-08 
結審通知日 2006-12-12 
審決日 2006-12-25 
出願番号 特願2003-349490(P2003-349490)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E02D)
P 1 8・ 121- Z (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大森 伸一  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 西田 秀彦
宮川 哲伸
発明の名称 マンホール補修方法  
代理人 丹羽 宏之  
代理人 野口 忠夫  

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