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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1167213
審判番号 不服2005-214  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-05 
確定日 2007-11-05 
事件の表示 平成10年特許願第173851号「射出成形機のデータ管理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月21日出願公開、特開平11-348087〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件は、平成10年6月8日に特許出願されたものであって、平成16年2月26日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年4月27日に意見書と手続補正書が提出され、同年11月30日付けで拒絶査定がされたところ、平成17年1月5日に審判が請求され(同年4月28日に手続補正書提出)、同年2月2日付けで明細書の手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、それぞれ、平成17年2月2日付け手続補正書により、誤記の訂正を目的として補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載される以下の事項を、発明を特定するために必要と認める事項(以下、「発明特定事項」という。)とするものと認める。
「【請求項1】射出成形機により成形しているとき、成形動作に異常が生じたときは、そのときの成形動作状態を示す制御装置(1)の内部演算データを制御装置(1)の不揮発性の記憶装置(4)または外部記憶装置(19、20)に保存することを特徴とする射出成形機のデータ管理方法。
【請求項2】射出成形機により成形しているとき、成形動作に異常が生じたときは、そのときの成形動作状態を示す制御装置(1)の複数個の内部演算データ群を順次制御装置(1)の不揮発性の記憶装置(4)または外部記憶装置(19、20)に保存することを特徴とする射出成形機のデータ管理方法。
【請求項3】射出成形機により成形しているとき、任意の状態の成形動作状態を示す制御装置(1)の内部演算データを制御装置(1)の不揮発性の記憶装置(4)または外部記憶装置(19、20)に保存することを特徴とする射出成形機のデータ管理方法。
【請求項4】射出成形機により成形しているとき、任意の状態の成形動作状態を示す制御装置(1)の複数個の内部演算データ群を順次制御装置(1)の不揮発性の記憶装置(4)または外部記憶装置(19、20)に保存することを特徴とする射出成形機のデータ管理方法。」

3.原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、
理由1: 本願発明1?4は、その出願前日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1又は2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、及び、
理由2: 本願発明1?4は、その出願前日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1?3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
というにある。

刊行物1: 特開平7-266395号公報
刊行物2: 特開平7-32430号公報
刊行物3: 特開平7-52219号公報

4.刊行物1の記載事項、及び、刊行物1に記載された発明
4-1.刊行物1の記載事項
ア: 「射出成形機(100)の射出成形手段の位置、射出圧力、射出速度、射出温度などの射出状態に関する物理量を検出する検出手段(500)と、
前記検出手段で検出した射出状態に関する物理量を、時間的な情報とともに逐次入力し保存する第1の記憶手段(120)と、
前記射出成形機の動作の区切り毎に前記第1の記憶手段に格納されている情報を保存する第2の記憶手段(600)と、を有する射出成形機の射出状態測定装置。」(特許請求の範囲)
イ: 「【従来の技術】…射出成形において、高品質な射出成形物を効率よく得るためには、使用する成形材料の種類、たとえば熱可塑性樹脂か熱硬化性樹脂かの材料の種類、その材料の粘度、成形品の形状、大きさなどの条件に合わせて溶融温度、射出圧力、射出速度、金型の締めつけ圧力などの様々なパラメータを適切に制御する必要がある。そのために、射出成形の状態を正確に測定し、記録し、その状態を正確に把握しておき、たとえば、不良成形物が発生した場合や、射出成形機の動作不良が生じた場合に、その記録された射出成形機の射出状態や射出条件を解析することは、その原因究明とその後の対策にとって極めて有効である。」(【0002】、【0003】)
ウ: 「本発明の目的は、比較的簡単な構成で、射出成形機の故障、射出成形品の不良の原因究明に有効なデータを効果的に測定し、記録可能な射出成形機の射出状態測定装置を提供することにある。」(【0006】)
エ: 「射出成形機の動作状態の分析に必要なデータ、たとえば、射出成形機のスクリュー位置、射出成形圧力、射出成形速度、射出成形温度などを、そのサイクル挙動に則したタイミングで(または周期で)検出手段により測定する。この検出手段により測定された物理量情報はその成形サイクルが終了するまでは第1の記憶手段に格納され、射出成形機の動作の区切り毎に他の記憶装置である第2の記憶手段に送出される。
したがって、得られる物理量情報は第2の記憶手段で必要に応じた情報処理を行うことができ、例えば日常的に使用しているソフトウェアを用いて測定された射出状態を統計学的に解析したり、グラフィックに表示したりすることがかのうとなる。」(【0009】、【0010】)
オ: 「制御部400は、たとえば、マイクロコンピュータにより構成され、油圧装置309を制御することは勿論、射出成形機100全体の管理および制御を行う。すなわち、制御部400は油圧装置309の制御、図示しないスクリュ駆動用モータの制御、成形型200の型締め装置の制御などを行う。また、制御部400は、射出成形機の成形サイクルを計数し、成形サイクル回数を示す信号を第1の記憶手段120に出力する。
射出状態検出手段500は、射出成形機100の射出成形工程の諸条件や各状態を検出する検出手段であり、射出用圧力シリンダ307の圧力を検出する圧力センサ501、射出スクリュ302の位置を検出する位置センサ502、射出スクリュ302の移動速度を検出する速度センサ503、および加熱シリンダ301内の材料温度を検出する温度センサ504などからなる。これらのセンサの各検出結果は第1の記憶手段120に出力されている。
射出状態測定装置を構成する第1の記憶手段120は、記憶部122、表示部123、および、それらをコントロールするコンピュータのCPU121より構成されており、既述したように制御部400より入力された成形サイクル数、および、射出状態検出手段500より入力された検出結果を信号処理してその結果を一時的に記録する。なお、記憶部122は例えばシーケンサのデータレジスタにより構成されている。
また、第2の記憶手段600は、例えばパーソナルコンピュータのハードディスク記憶装置601と言語変換器であるインタフェース602とからなり、インターフェース602を介して第1の記憶手段の記憶部122に格納された情報を所望の言語で記録する。」(【0014】?【0017】)
カ: 「成形型200と押出機300は制御部400によりコントロールされ、押出機300および成形型200において射出成形が行われる。射出状態検出手段500、つまり、圧力センサ501、位置センサ502、速度センサ503および温度センサ504のそれぞれは、射出成形時の射出用圧力シリンダ307の圧力P、射出スクリュ302の位置Sおよび移動速度V、加熱シリンダ301の温度Tcを検出し、これらの検出結果が記憶部122に入力されて記録される。
すなわち、CPU121が有する内部クロックを用いて、例えば10msecの間隔で、位置センサ502により射出スクリュ302の位置Sa,Sb…、速度センサ503により射出スクリュ302の速度V、圧力センサ501により射出用圧力シリンダ307の圧力P、温度センサ504により加熱シリンダ301の温度をそれぞれ記録する。
ただし、1サイクルの射出行程における射出スクリュの位置Sa,Sb…,Slのそれぞれの位置で記憶されるデータは図3のように設定されている。例えば、時間Tについては全ての位置で記憶されるが、射出スクリュ位置はSb?SeおよびSjでは記憶されない。これは、これらの地点では位置データよりも射出スクリュの移動速度や射出用圧力シリンダの圧力のほうが故障や不良の原因解析にとって重要となるからである。このような観点から必要なデータを必要十分な数だけサンプリングするように設定されている。」(【0019】、【0020】)
キ: 「第1の記憶手段の記憶部122に図4に示すフォーマットで格納されているデータは、射出成形を終了するとインターフェース602を介して外部のハードディスク記憶装置601に送出される。このとき、インターフェース602によってハードディスク記憶装置601で使用可能な言語に変換される。ハードディスク記憶装置601に取り込まれた1サイクルのデータは順次蓄積され、例えば同一言語で作動する設備管理ソフトウェア内に取り込まれて情報が適宜処理される。
このようにして外部記憶装置601に取り込まれたデータは、適宜の情報処理が施されてディスプレイやプリンタに出力されて、射出成形機の動作分析だけでなく、射出成形機の調整、たとえば、射出スクリュ302の位置Slの変更、射出スクリュ302の速度設定の変更などにも使用できる。」(【0022】、【0023】)
ク: 「射出状態検出手段500において検出する物理量は、本実施例においては、射出用圧力シリンダ307の圧力、射出スクリュ302の位置、射出スクリュ302の移動速度、および、加熱シリンダ301の温度であったが、これに限られるものではなく、その他射出油圧の圧力、被射出材の圧力、加熱シリンダ301内の流路305を流れる加熱媒体の温度などを測定してもよく、必要に応じて任意の物理量を検出対象とする。…
記憶部122における射出状態検出結果の記録フォーマットもこれに限られるものではなく、任意好適なデータ構造を規定してよい。その他、制御部400の制御方法なども、任意好適な方法を用いてよい。」(【0024】、【0025】)
ケ: 「【発明の効果】 本発明の射出成形機の射出状態測定装置においては、射出成形機の動作分析に必要十分なデータを記録できる。したがって、射出成形機を動作分析を確実に行うことができ、その結果、不良成形物の解析や、射出成形機の動作不良の解析を容易にし、射出成形機および射出成形工程の状態を正確に把握することができる。さらに、高品質な成形物を効率よく生成できる射出成形機を実現できる。」(【0026】)

4-2.刊行物1に記載された発明
まず、摘示ア?ク、特に摘示アの特許請求の範囲の記載に加えて、摘示オの「第2の記憶手段600は、例えばパーソナルコンピュータのハードディスク記憶装置601と言語変換器であるインタフェース602とからなり、」及び摘示キの「インターフェース602を介して外部のハードディスク記憶装置601に送出される。…このようにして外部記憶装置601に取り込まれたデータは、…」により、「第2の記憶手段」として、外部記憶装置たるハードディスク記憶装置が記載されていることからみて、刊行物1には、「射出成形機の射出成形手段の位置、射出圧力、射出速度、射出温度などの射出状態に関する物理量を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出した射出状態に関する物理量を、時間的な情報とともに逐次入力し保存する第1の記憶手段と、
前記射出成形機の動作の区切り毎に前記第1の記憶手段に格納されている情報を保存する、外部のハードディスク記憶装置などの第2の記憶手段と、を有する射出成形機の射出状態測定装置。」の発明が記載されているものと認められる。
更に、該発明の射出成形機の射出状態測定装置にあっては、摘示エの「検出手段により測定された物理量情報はその成形サイクルが終了するまでは第1の記憶手段に格納され、射出成形機の動作の区切り毎に他の記憶装置である第2の記憶手段に送出される。…得られる物理量情報は第2の記憶手段で必要に応じた情報処理を行うことができ、」、摘示オの「センサの各検出結果は第1の記憶手段120に出力されている。…第1の記憶手段120は、…制御部400より入力された成形サイクル数、および、射出状態検出手段500より入力された検出結果を信号処理してその結果を一時的に記録する。…また、第2の記憶手段600は、例えばパーソナルコンピュータのハードディスク記憶装置601と言語変換器であるインタフェース602とからなり、インターフェース602を介して第1の記憶手段の記憶部122に格納された情報を所望の言語で記録する。」、摘示キの「第1の記憶手段の記憶部122に…格納されているデータは、射出成形を終了するとインターフェース602を介して外部のハードディスク記憶装置601に送出される。このとき、インターフェース602によってハードディスク記憶装置601で使用可能な言語に変換される。ハードディスク記憶装置601に取り込まれた1サイクルのデータは順次蓄積され、例えば同一言語で作動する設備管理ソフトウェア内に取り込まれて情報が適宜処理される。」、摘示クの「記憶部122における射出状態検出結果の記録フォーマットもこれに限られるものではなく、任意好適なデータ構造を規定してよい。」からみれば、データの取得、格納、送出、変換及び処理等が施されるものであるので、刊行物1には、データの管理方法に関わる発明も実質的に記載されていると認められる。
してみれば、刊行物1には、「射出成形機の射出成形手段の位置、射出圧力、射出速度、射出温度などの射出状態に関する物理量を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出した射出状態に関する物理量を、時間的な情報とともに逐次入力し保存する第1の記憶手段と、
前記射出成形機の動作の区切り毎に前記第1の記憶手段に格納されている情報を保存する、外部のハードディスク記憶装置などの第2の記憶手段と、を有する射出成形機の射出状態測定装置において、第1の記憶手段に格納されているデータを射出成形機の動作の区切り毎に第2の記憶手段に送出して保存する射出成形機のデータの管理方法。」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認めることができる。

5.本願発明3についての検討
5-1.本願発明3と刊行物1発明の対比
本願発明3(5.において、以下、「前者」という。)と刊行物1発明(同じく、「後者」という。)を対比する。
後者において、第1の記憶手段に格納されているデータを射出成形機の動作の区切り毎に第2の記憶手段に送出して保存するのは、「射出成形機の動作の区切り毎」であり、具体的には、摘示キから「1サイクルのデータ」を送出するものであるところ、射出成形サイクルが繰り返され、射出成形機による成形が継続している途中であることから、前者における「射出成形機により成形しているとき」に相当するものと認められる。
後者における「第1の記憶手段」は、摘示オから「第1の記憶手段120は、記憶部122、表示部123、および、それらをコントロールするコンピュータのCPU121より構成され」るものであるから、前者における、「中央演算処理装置2、記憶装置としてRAMメモリ3、不揮発性のメモリ4等から構成されている」(本願明細書【0006】)「制御装置」に相当するものと認められる。
後者において、第1の記憶手段に格納されているデータは、「射出成形機の射出成形手段の位置、射出圧力、射出速度、射出温度などの射出状態に関する物理量を検出する検出手段で検出した射出状態に関する物理量」であるから、前者における「成形動作状態を示す」データであるとともに、制御装置の内部に格納されていることから、「内部データ」であると認められる。
後者における「第2の記憶手段」は、摘示オの「第2の記憶手段600は、例えばパーソナルコンピュータのハードディスク記憶装置601と言語変換器であるインタフェース602とからなり、」、摘示キの「第1の記憶手段の記憶部122に図4に示すフォーマットで格納されているデータは、射出成形を終了するとインターフェース602を介して外部のハードディスク記憶装置601に送出される。」からみて、前者における「外部記憶装置」に相当するものと認められる。

してみると、前者と後者とは、「射出成形機により成形しているとき、成形動作状態を示す制御装置の内部データを外部記憶装置に保存する射出成形機のデータ管理方法」において一致し、
制御装置の内部データが、前者では、「内部演算データ」であるのに対して、後者では、「射出状態に関する物理量」である点(相違点1)、及び、
外部記憶装置に保存するデータが、前者では「任意の状態」のものであるのに対して、後者では「射出成形機の動作の区切り毎」のものである点(相違点2)、で相違する。

5-2.相違点についての検討
5-2-1.相違点1について
5-2-1-1.前者における「内部演算データ」の意味内容
本願明細書には、「内部演算データ」や「演算データ」を定義する記載は特に見当たらず、当業者が常識的に理解する意味内容のものと解することができる。すなわち、「演算データ」とは、「演算したデータ」であり、「内部演算データ」とは、制御装置内部に記憶し格納されている演算したデータであるといえる。

なお、念のために、本願明細書において、「演算データ」という用語が、いかなる文脈で使用されているかを検討すると、特許請求の範囲の記載を単に繰り返している【0005】の記載以外には、
「内部演算データの確認作業のために、技術者が現地に出向いたとしても、異常時の再現が必ずしもできる訳ではない」(【0003】)、「成形異常状態の内部演算データは不揮発性のメモリ4に記憶される。」、及び「複数個の内部演算データ群を名前を付けて保存する。これにより、成形異常状態の内部演算データを表示器18に表示させることも、また外部記憶器インターフェース9および外部通信用インターフェース10を介してフロッピイディスク、情報通信媒体等を通して外部へ取り出すこともできる。」(【0008】)、「成形異常状態の内部演算データは不揮発性のメモリ4に記憶される。」、及び「複数個の内部演算データ群を名前を付けて保存する。これにより、成形異常状態の内部演算データを表示器18に表示させることも、また外部記憶器インターフェース9および外部通信用インターフェース10を介してフロッピイディスク、情報通信媒体等を通して外部へ取り出すこともできる。」(【0009】)、「本実施の形態によると、上記のようにセンサ、スイッチ群14で計測される計測値が許容範囲を越えたときの内部演算データが不揮発性のメモリ4に記憶されるようなっている」、「制御装置あるいは射出成形機の動作に異常が生じたときには、例えば計測温度が設定温度内であるにも拘らず異常温度が発生しているときには、同様にこのときの内部演算データが不揮発性のメモリ4に記憶されるようになっている。」、及び「成形状態の異常、正常に関係なく射出成形状態を示す内部演算データを保存したいときは、例えばキーボード17を操作すると、任意の射出成形状態を示す内部演算データあるいはデータ群を不揮発性のメモリ4に記憶することができるようにプログラムされている。」(【0010】)、「射出成形機により成形しているとき、成形動作に異常が生じたときは、そのときの成形動作状態示す制御装置の内部演算データあるいはデータ群を制御装置の不揮発性の記憶装置またはフロッピイディスク等の外部記憶装置に保存するので、成形異常状態の内部演算データあるいはデータ群を現場で、あるいはパソコン通信、インターネット等の情報通信媒体を使用して遠隔地で、異常の原因を正確に且つ迅速に判断でき、的確な対応ができる。」、及び、「他の発明によると、任意の状態の成形動作状態を示す制御装置の内部演算データあるいはデータ群を制御装置の不揮発性の記憶装置またはフロッピイディスク等の外部記憶装置に保存するので、射出成形機の任意の成形動作状態を、同様にして知ることができる。」(【0011】)、という記載があるが、これらをみても、先に述べたように、「内部演算データ」の意味内容が特に定義されているものではない。

次いで、更に、本願明細書において、「演算」がいかなる意味で使用されているかを検討する。
第1に、「中央演算処理装置の演算部は、制御部からの制御信号によって、計測される信号や記憶装置から与えられるデータに対して種々の演算をし、その結果を出力ポートへ出力する。これにより射出成形機は、例えばフィードバック制御により、全自動により運転される。」(【0002】)との記載から、「演算データ」が、射出成形機のフィードバック制御による全自動運転を行うための出力ポートへの出力という意味で用いられていることが窺え、位置、速度、圧力及び温度等のいずれの制御であっても、フィードバック制御に必須である現在値すなわち計測値と、指令値とのうち、「演算データ」とは、指令値を包含するものと認められる。
第2に、「中央演算処理装置2の演算部は、メモリ3に記憶されているプログラムに基づいて、メモリ3に記憶されている設定値、信号ラインaから入力される計測値等に対して射出成形に必要な各種の演算をして、駆動装置用ドライバ6へ出力する。」(【0008】)との記載から、「演算データ」とは、スクリュー、型開閉装置、突出装置及び温調装置等、射出成形機の種々の駆動機構に対する指令値を包含するものと認められる。
第3に、「上記のようにして演算し、そして射出成射しているときにも、各種の計測値が設定値の許容範囲内にあるかどうか演算されている。」(【0009】)との記載から、「演算データ」とは、各種の計測値が設定値の許容範囲内にあるかどうかの判断結果を包含するものと認められ、同時に、判断結果は、各種の計測値と併せて記憶されることが必須であることから、「演算データ」とは、計測値を包含するものと認められる。
これらをまとめると、制御装置内部に格納されている演算データであるところの「内部演算データ」とは、計測値、指令値、判断結果等々、射出成形機の運転制御に通常使用される種々のデータを広く含む概念であると認められるものである。

5-2-1-2.「内部演算データ」と、「射出状態に関する物理量」との異同の検討
そこで、前者における「内部演算データ」と、後者における「射出状態に関する物理量」とを改めて対比してみると、「射出状態に関する物理量」とは、「射出成形機の射出成形手段の位置、射出圧力、射出速度、射出温度などの射出状態に関する物理量」であるから、5-2-1-1.で述べた、現在値すなわち計測値に相当するものと認められる。
したがって、後者における「射出状態に関する物理量」は、前者における「内部演算データ」に包含されるものであるから、この両者は重複し、実質的な差異がない。
また、百歩譲って、前者における「内部演算データ」が、後者における「射出状態に関する物理量」以外のデータ、すなわち、指令値、判断結果等々、射出成形機の運転制御に通常使用される種々のデータをも、制御装置内部に記憶し格納されているものであるとしても、射出成形機の制御の分野に携わる当業者であれば、これらを併せて記憶させておくことは、技術上の単なる設計変更であり、何ら想到困難なことではない。

5-2-1-3.相違点1についてのまとめ
したがって、相違点1は、実質的な相違点ではないか、又は、当業者が容易に想到することができた程度のことであり、かつ、予期することができない顕著な効果を奏するものとも認められないものである。

5-2-2.相違点2について
まず、後者において、第2の記憶手段に情報を保存する態様として具体的に示されているのは、摘示キから「射出成形を終了」したときであり、「1サイクルのデータ」であるが、後者は、4-2.で述べたとおり、「射出成形機の動作の区切り毎」に、第2の記憶手段に情報を保存するものであるから、射出成形の終了を待つことなく、例えば、計量、型閉、射出、保圧、冷却及び取出等、複数の段階からなることが当業者に周知である射出成形の何らかの「区切り」を任意に選定して、情報の保存を行うことは当業者が適宜設計しうる程度のことである。

また、後者において、射出状態に関する物理量の検出は、「CPU121が有する内部クロックを用いて、例えば10msecの間隔で、位置センサ502により射出スクリュ302の位置Sa, Sb…、速度センサ503により射出スクリュ302の速度V、圧力センサ501により射出用圧力シリンダ307の圧力P、温度センサ504により加熱シリンダ301の温度をそれぞれ記録する。
ただし、1サイクルの射出行程における射出スクリュの位置Sa, Sb…,Slのそれぞれの位置で記憶されるデータは図3のように設定されている。例えば、時間Tについては全ての位置で記憶されるが、射出スクリュ位置はSb?SeおよびSjでは記憶されない。これは、これらの地点では位置データよりも射出スクリュの移動速度や射出用圧力シリンダの圧力のほうが故障や不良の原因解析にとって重要となるからである。このような観点から必要なデータを必要十分な数だけサンプリングするように設定されている。」(摘示カ)ものであるから、実質的に射出成形の全期間に亘って継続的にデータの収集を行い、第1の記憶手段に格納しているものである。
してみれば、該継続的に第1の記憶手段に格納されている情報を、任意の時点で、第2の記憶手段に保存させることに何らかの阻害要因があるとする理由は見当たらない。

したがって、相違点2は、当業者が容易に想到することができた程度のことであり、かつ、予期することができない顕著な効果を奏するものとも認められないものである。

5-3.本願発明3についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願発明3は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.本願発明4についての検討
6-1.本願発明4と本願発明3との関係
本願発明4と本願発明3とを対照すると、制御装置に格納されているデータが、本願発明3では「内部演算データ」であるのに対して、本願発明4では「複数個の内部演算データ群」である点、及び、「制御装置(1)の不揮発性の記憶装置(4)または外部記憶装置(19、20)」への保存が、本願発明4では「順次」とされている点において相違するものと認められる。
しかしながら、射出成形の運転制御に際して使用されるデータは、例えば、位置、速度、圧力及び温度等々、性格を異にする種々のものであることは当業者に周知のことであるから、これらを一括りにして単に「内部演算データ」というか、「複数個の内部演算データ群」というかは、表現上の差異にすぎない。また、「複数個の内部演算データ群」と称する場合には、「制御装置(1)の不揮発性の記憶装置(4)または外部記憶装置(19、20)」への保存が、「順次」行われることは自明のことである。

6-2.本願発明4と刊行物1発明の対比
してみると、本願発明4と刊行物1発明とを対比すると、両者の相違点は、実質的に、5-1.で述べた、本願発明3と刊行物1発明との相違点1、2と変わるところはない。
そして、5-2.で検討したように、相違点1は、実質的な相違点でないか、当業者が容易に想到することができた程度のものであり、相違点2は、当業者が容易に想到することができた程度のものである。

6-3.本願発明4についてのまとめ
よって、本願発明4は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.本願発明1についての検討
7-1.本願発明1と本願発明3との関係
本願発明1と本願発明3とを対照すると、「制御装置(1)の不揮発性の記憶装置(4)または外部記憶装置(19、20)」への保存が、本願発明1では、「成形動作が異常が生じたとき」であるのに対して、本願発明では、「任意」のときである点で相違するものと認められる。

7-2.本願発明1と刊行物1発明の対比
してみると、本願発明1と刊行物1発明とを対比すると、両者の相違点は、5-1.で述べた、本願発明3と刊行物1発明との相違点1、及び、
外部記憶装置に保存するデータが、本願発明1では「成形動作が異常が生じたとき」のものであるのに対して、刊行物1発明では「射出成形機の動作の区切り毎」のものである点(相違点2’)、である。

7-3.相違点についての検討
7-3-1.相違点1について
5-2-1.で検討したように、相違点1は、実質的な相違点でないか、当業者が容易に想到することができた程度のものである。

7-3-2.相違点2’について
5-2-2.で検討したように、刊行物1発明にあっては、実質的に射出成形の全期間に亘って継続的にデータの収集を行い、第1の記憶手段に格納しているものであるから、該継続的に第1の記憶手段に格納されている情報を、任意の時点で、第2の記憶手段に保存させることに何らの阻害要因も存在しない。
加えて、摘示イ、ウ、ケに示されるとおり、刊行物1発明は、成形不良の対策や原因究明をも目的とするものであるから、「成形動作に異常が生じたとき」に、現に継続的に第1の記憶手段に格納されている情報を、第2の記憶手段に保存させることは、当業者が自然に想到する程度のことであり、何らの阻害要因も見当たらない。

7-4.本願発明1についてのまとめ
よって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

8.本願発明2についての検討
8-1.本願発明2と本願発明1との関係
本願発明2と本願発明1とを対照すると、その相違点は、本願発明4と本願発明3との相違点と同一である。

8-2.本願発明2についてのまとめ
したがって、6.及び7.で検討したと同じ理由により、本願発明2は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

9.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1?4は、特許法第29条第2項の規定により、これについて特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、審判請求書において、要するところ、本願各発明は、「引用文献1?3のそれぞれに記載の引用例発明とを比較すると、発明の目的、構成および効果において相違している。」とし、「本願の請求項1に記載の発明は、成形動作に異常が生じたときの成形動作状態を示す制御装置の内部演算データを保存するので、成形異常状態の内部演算データを現場で、あるいはパソコン通信、インターネット等の情報通信媒体を使用して遠隔地で、異常の原因を正確に且つ迅速に判断でき、的確な対応ができるという、引用文献1?3のいずれに記載の引用例発明には期待することのできない本願の請求項1に記載の発明に特有の効果が得られるので、進歩性を備えている。」旨など、特有の効果を主張している(平成17年4月28日付け手続補正書)。
しかしながら、刊行物1には、摘示キの「外部記憶装置601に取り込まれたデータは、適宜の情報処理が施されてディスプレイやプリンタに出力されて、射出成形機の動作分析だけでなく、射出成形機の調整、たとえば、射出スクリュ302の位置Slの変更、射出スクリュ302の速度設定の変更などにも使用できる。」や、摘示ケの「【発明の効果】 本発明の射出成形機の射出状態測定装置においては、射出成形機の動作分析に必要十分なデータを記録できる。したがって、射出成形機を動作分析を確実に行うことができ、その結果、不良成形物の解析や、射出成形機の動作不良の解析を容易にし、射出成形機および射出成形工程の状態を正確に把握することができる。さらに、高品質な成形物を効率よく生成できる射出成形機を実現できる。」に示されるように、外部記憶装置である第2の記憶装置に保存することによる利便性について開示があることからみて、本願各発明の効果が、予期できない格別のものであるとは認められないから、請求人の主張は採用しない。

したがって、本願は、拒絶を免れないから、原査定の結論は妥当である。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-24 
結審通知日 2007-09-05 
審決日 2007-09-20 
出願番号 特願平10-173851
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
P 1 8・ 113- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 祥吾  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 渡辺 陽子
野村 康秀
発明の名称 射出成形機のデータ管理方法  
代理人 杉谷 嘉昭  

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