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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 D01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D01F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 D01F
管理番号 1167310
審判番号 不服2004-22509  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-02 
確定日 2007-11-08 
事件の表示 特願2001-385433「分岐状気相法炭素繊維、透明導電性組成物及びその用途」拒絶査定不服審判事件〔平成14年9月18日出願公開、特開2002-266170〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年12月19日の出願(特願2001-385433号:平成12年12月20日にした特願2000-387811号出願及び特願2000-387812号出願に基づく国内優先権主張を伴うもの)であって、平成16年3月17日付けで手続補正がされたが、同年9月30日付けで拒絶査定がされ、同年11月2日に拒絶査定に対する審判が請求されると共に同月30日付けで手続補正がされ、平成19年4月12日付けでされた審尋に対して同年6月11日に回答書が提出されたものである。

第2 平成16年11月30日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年11月30日付け手続補正を却下する。

[理由]
1 平成16年11月30日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成16年3月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項12の
「樹脂に組成物全体の質量に対し5?40質量%の炭素繊維を配合してなる導電性組成物であり、繊維外径0.01?0.1μm、アスペクト比10?15000及び圧密比抵抗0.02Ω・cm以下の中空構造の連通している分岐を有する気相法炭素繊維を含有し、透明性を有することを特徴とする透明導電性組成物。」

「樹脂に炭素繊維を配合してなる透明導電性組成物であって、炭素繊維が円筒状の中空構造を有し、繊維外径0.01μm?0.1μm、繊維長1?100μm及びアスペクト比10?2000及び圧密比抵抗0.018Ω・cm以下、かつ分岐部分の中空構造が連通している分岐状繊維を10質量%以上含有する分岐状気相法炭素繊維であることを特徴とする透明導電性組成物。」
とする補正を含むものである。

2 補正要件について
上記請求項12についての補正は、上記補正前の請求項12における炭素繊維が「組成物全体の質量に対し5?40質量%」という発明特定事項を削除する補正を含むものである。この発明特定事項を削除することにより補正後の請求項12はこの点において拡張されることになるが、このような補正は、特許法17条の2第4項各号に規定する事項のいずれをも目的とするものではない。

3 むすび
したがって、本件補正は、特許法17条の2第4項各号に規定する要件に適合しない補正を含むものであるから、その余を検討するまでもまなく、同法159条1項において準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたから、本願の発明は平成16年3月17日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであって、その請求項1係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「円筒状の中空構造を有し、繊維外径0.5μm以下、アスペクト比10以上であり、分岐部分を有し該分岐部分の中空構造が連通している気相法炭素繊維であって、圧密比抵抗が0.02Ω・cm以下であることを特徴とする分岐状気相法炭素繊維。」

2 原査定の理由の概要
本願発明1についての原査定の理由の概要は、本願発明1はその出願前頒布された下記3(1)に掲げる刊行物に記載された発明であるから特許法29条1項3号の規定に該当し特許を受けることができない、というものである。

3 当審の判断
(1) 刊行物及び主な刊行物の記載事項
1.国際公開第00/58536号パンフレット
2.特開平9-132846号公報
3.特開平7-150419号公報
4.特開平8-31404号公報
5.特開平6-2269号公報
6.特開平8-60444号公報
(以下、それぞれ「刊行物1」、「刊行物2」・・・という。)
ア 刊行物1には以下の事項が記載されている。
ア-1 「繊維径1μm以下の微細な炭素繊維にホウ素またはホウ素化合物を添加し、そして、その微細な炭素繊維を2000℃以上の温度で熱処理することを特徴とする微細な炭素繊維の製造法。」(【請求項10】)
ア-2 「産業上の利用分野
本発明は微細な炭素繊維であって、従来得られなかった高結晶性の炭素繊維及びホウ素を含有する炭素繊維である。高結晶性であるために導電性や熱伝導性に優れ、樹脂、セラミックス、金属等のフィラーとして優れたものである。」(26頁1?4行)
ア-3 「気相法炭素繊維は繊維径が非常に細かいことに加えて同心円状の結晶で、中心部に中空状またはアモルファスな部分を有する特殊な構造である」(6頁25?26行)
ア-4 「本発明の製造法において出発原料とする炭素繊維は、ベンゼン等の有機化合物の熱分解により気相で成長させた微細な炭素繊維を用いることができる。例えば前記した特開平7-150419号公報、・・・等の方法で製造することができる。また、繊維径が0.01μm以上であれば、同じ年輪構造をもつ・・・も使用できる。
気相成長法による微細な炭素繊維の製法について簡単に述べると、シードとなる遷移金属又はその化合物、例えば、鉄、ニッケル、コバルトなどの金属超微粉、又はフェロセンなどに基づく超微粒子を用い、基板上にこれらのシードの超微粉又は超微粒子を形成し、これに炭素原料と任意に水素などのキャリアガスを気相で供給し、高温下で分解させるもので、超微粉又は超微粒子をシードとして繊維径0.01μm?1μm程度あるいはそれ以上の微細な炭素繊維が成長するものである。シードの形成方法としては、基板(加熱炉の内壁を基板としてもよい)上にシード粒子分散液あるいはシード源溶液を塗布し乾燥して形成する方法、フェロセンなどを吹きつけて形成する方法、またフェロセン等を用いて鉄やその化合物の微粒子を流動状態において生成させる方法などがあり、このようにシードは基板表面上に形成するほか、流動床としてもよい。・・・気相法炭素繊維は、繊維の切断面の結晶構造が同心円状に発達した長葱状の繊維である。繊維の長さは、製造条件によって異なるが、例えば0.01?1μm程度の径の繊維では単繊維だけでなく枝別れした繊維も多く存在するので明確には規定し難いが、直線部分を走査型電子顕微鏡で測定した限りでは、平均が少なくとも5μm以上あるものがほとんどである。また、この繊維は長繊維に加えて枝分れした微細な繊維を含むために、長い繊維はもちろんのこと、5μm程度の短い繊維であっても、少なくとも大きさが10μm以上、場合によっては100μm以上の大きなフロック状になり易い。・・・気相成長法で一般的に得られる太さ(径)0.01?1μm程度、長さ0.5?400μm程度の炭素繊維をそのまま用いることができる。」(11頁13行?14頁1行「(出発原料としての炭素繊維)」の項)
ア-5 「(実施例1)
出発原料である微細な炭素繊維は、遷移金属を含有する有機化合物の存在のもとにベンゼンを熱分解する公知の方法(例えば特開平7-150419号公報)で得た気相法炭素繊維をさらに1200℃で熱処理した。このフロック状に集合した繊維を解砕し、嵩密度を0.02g/cm3、繊維の長さを10?100μmとした。繊維の太さ(径)は大部分が0.5μm以下(SEM写真で観察した平均的な径は0.1?0.2μm)であった。・・・
この繊維2.88kgに平均粒径15μmのB4C粉末を120g添加し、ヘンシェルミキサーで充分に混合した。この混合物を容量50リットルの円筒状の黒鉛ルツボに詰め込み、圧縮して嵩密度を0.075g/cm3とした。黒鉛製の加圧板で圧縮したまま蓋をし、アチソン炉に入れて加熱処理をした。このときの温度は2900℃であり、2900℃になってからの加熱時間は、60分間である。
加熱処理後冷却し、坩堝より繊維を取り出し、約2mm程度に粗解砕した後バンタムミルで粉砕し、その後非繊維状物を気流分級で分離した。
得られた繊維の太さは変わらないが、長さは5?30μmで、嵩密度は0.04g/cm3であった。」(18頁下から4行?19頁14行)
ア-6 「(実施例4)
実施例1と同様にして得た炭素繊維を解砕し、次いで粉砕して嵩密度を0.02g/cm3とした。この時の繊維の長さは大部分10?50μm、太さは平均で約0.04μmであった。この繊維3000gに平均粒径15μmのB4C120gを添加し、ヘンシェルミキサーで充分に混合した。この混合物を内径100mm、内長さ150mmの黒鉛るつぼに88g詰め込んだ。その時の嵩密度は0.08g/cm3であった。
このるつぼに蓋をしてカーボン抵抗炉に入れてアルゴン気流中、2800℃で60分間加熱処理した。
加熱処理後、成形体を取出し、乳鉢で簡単に2mm以下に解砕した。さらにバンタムミルで粉砕し、気流分級して、得られたホウ素(B)ドープ品の嵩密度は0.04g/cm3であった。また、ホウ素の分析結果から、繊維の結晶中に1.02%のホウ素が導入されたことがわかった。・・・
次ぎに、得られたファイバーの粉体抵抗を測定した。・・・本測定では、粉体密度が0.8g/cm3の時の値で比較する。
この結果を表2に示す。」(21頁表1の下1行?22頁13行)
ア-7 「表2」(23頁)において「実施例4」の「粉体抵抗(Ω・cm)」は、「0.003」である。
イ 刊行物2には以下の事項が記載されている。
イ-1 「【従来の技術】気相法炭素繊維は鉄を始めとする遷移金属またはその化合物を触媒とし、有機化合物を800?1300℃に加熱分解する方法において反応炉にキャリヤーガスと共に例えばベンゼン、トルエン、天然ガス等の炭化水素類や一酸化炭素等の炭素源を液または気体状で導入して熱分解させる方法で製造される。・・・これらの方法で得られる気相法炭素繊維は繊維径が0.05?5μm、長さ1?1000μm程度の繊維状を形成し、黒鉛網面が繊維軸に沿って発達し内部に中空の穴があるのが特色である。・・・」(【0002】?【0003】)
ウ 刊行物3には以下の事項が記載され、さらに、図1,2が記載されている。
ウ-1 「シードであり触媒となる遷移金属またはその化合物は周期律表第IVa,Va,VIa,VIIa,VIII族の元素及びそれらの合金や混合物及びその無機及び有機化合物が適する。なかでも遷移金属元素の超微粒子シード(種)となる遷移金属及びその化合物には、Fe,Ni,Co等の超微粉(30nm以下)、フェロセン、ニッケルセンなどの有機化合物が好ましい。・・・触媒としての遷移金属の含有量としては、有機化合物の炭素量(フェロセン等の使用の場合はその炭素を含めた合計量)に対して0.03?10.0重量%好ましくは0.1?5.0重量%が良い。」(【0006】)
ウ-2 「原料を液滴で供給することにより金属の微粒子周辺の炭素化合物の濃度が高まり収率も向上する。触媒を含む原料は基板または基板上で成長している炭素繊維の表面に吹き付けられ、蒸発反応していく過程でその繊維の成長を促進すると共に、炭素繊維表面に結晶核が新たに出来それを起点として、新たな成長が促進される。これの繰り返しによって分岐状の気相法炭素繊維が得られる。」(【0014】)
ウ-3 「実施例
図1に示すように、縦型加熱炉(内径17.0cm,長さ150cm)1の頂部に、スプレーノズル2を取り付ける。加熱炉1の炉内壁温度を1200℃に昇温・維持し、スプレーノズル2から4重量%のフェロセンを含有するベンゼンの液体原料20g/分を100L/分の水素ガスの流量で炉壁に直接噴霧(スプレー)散布するように供給する。この時のスプレー2の形状は円錐側面状(ラッパ状ないし傘状)であり、ノズルの頂角θが60°である。このような条件の下で、フェロセンは熱分解して鉄微粒子を作り、これがシード(種)となってベンゼンの熱分解による炭素から、炭素繊維を生成成長させた。本方法で成長した気相法炭素繊維を5分間隔で掻き落としながら1時間にわたって連続的に製造した。・・・得られた炭素繊維のうち約30gを2400℃で熱処理し、これをPP樹脂(昭和電工株式会社製:SMA410)に混ぜて、50wt%炭素繊維を含有する繊維強化プラスチックを製造した。この繊維強化プラスチックの体積比抵抗を測定したところ0.14Ωcmであった。」(【0015】)
ウ-4 「比較例
使用するスプレーノズルを炉の直下全面にスプレーする図2に示すようなタイプのものを用い、それ以外の製造条件を上述した実施例の場合と同じとし、気相法炭素繊維の製造を行った。・・・得られた炭素繊維約20gを2400℃で熱処理し、これを上述のPP樹脂に混ぜて50wt%の炭素繊維を含有する繊維強化プラスチックを同様に製造し、体積比抵抗を測定したところ0.40Ωcmであった。炭素繊維の顕微鏡写真から解るように、本発明にかかわる製造方法で得られた炭素繊維(図3)は比較例の炭素繊維(図4)よりも分岐が多い。そして、炭素繊維強化プラスチックではあるが、本発明の炭素繊維の方が導電性がよい(比抵抗が小さい)。」(【0016】)
エ 刊行物6には以下の事項が記載されている。
エ-1 「【従来の技術】
1)気相法炭素繊維の製造方法
気相成長炭素繊維製造方法は、反応炉内で有機化合物を熱分解してウイスカー状の微細な炭素繊維を1工程で得ることの出来る優れた方法である。・・・鉄を始めとする遷移金属またはその化合物を触媒とし、この触媒とキャリヤーガス及び例えばベンゼン、トルエン、天然ガス等の有機化合物を液または気体状で反応炉に導入して有機化合物を800℃?1300℃程度で熱分解し、微細な炭素繊維を短時間で生産する方法が開発され生産性が改善された。・・・フェロセン等の遷移金属化合物を液体有機化合物に分散あるいは溶解させて反応炉中にスプレーしてシードとして製造する方法(特開昭58-180615)等によって製造されるようになった。本発明の熱処理に用いられる炭素繊維もこの微細な炭素繊維である。
2)微細炭素繊維の構造物性
この炭素繊維は直径が0.01?5μm、長さが1?1000μm程度の繊維状粉末で、各繊維は黒鉛の結晶構造の網面が繊維軸に沿って発達し、繊維軸に沿った中心部に微細な中空の孔があるのが特徴である。・・・」(【0002】?【0004】)
(2) 刊行物1に記載された発明
刊行物1は、「繊維径1μm以下の微細な炭素繊維にホウ素またはホウ素化合物を添加し、そして、その微細な炭素繊維を2000℃以上の温度で熱処理することを特徴とする微細な炭素繊維の製造法」(摘記ア-1)及びそれにより得られた炭素繊維に関するものであって、その炭素繊維は、「従来得られなかった高結晶性の炭素繊維及びホウ素を含有する炭素繊維である。高結晶性であるために導電性や熱伝導性に優れ、樹脂、セラミックス、金属等のフィラーとして優れたものである」(摘記ア-2)と認められる。
そして、その製造法の出発原料である「繊維径1μm以下の微細な炭素繊維」は、摘記ア-4及び具体例である実施例1によれば、「遷移金属を含有する有機化合物の存在のもとにベンゼンを熱分解する公知の方法(例えば特開平7-150419号公報)で得た気相法炭素繊維」(摘記ア-5)であると認められる。
その公知の方法として示された特開平7-150419号公報(これは刊行物3である。)の気相法炭素繊維は、例えばその実施例の方法で製造されるもの、すなわち「図1に示すように、縦型加熱炉・・・の頂部・・・スプレーノズル2から4重量%のフェロセンを含有するベンゼンの液体原料20g /分を100L/分の水素ガスの流量で炉壁に直接噴霧(スプレー)散布するように供給する。この時のスプレー2の形状は円錐側面状(ラッパ状ないし傘状)であり、ノズルの頂角θが60°である。このような条件の下で、フェロセンは熱分解して鉄微粒子を作り、これがシード(種)となってベンゼンの熱分解による炭素から、炭素繊維を生成成長させた。本方法で成長した気相法炭素繊維を5分間隔で掻き落としながら1時間にわたって連続的に製造」(摘記ウ-3)されるものである。この刊行物3に記載される製造法によって得られる気相法炭素繊維は、「炭素繊維表面に結晶核が新たに出来それを起点として、新たな成長が促進される。これの繰り返しによって分岐状の気相法炭素繊維が得られる」(摘記ウ-2)というものであるから、分岐状気相法炭素繊維を含有するものであると認められる。
また、気相法炭素繊維は、中心部に中空状の構造を有するもの(刊行物2(摘記イ-1)、刊行物6(摘記エ-1))であり、「同心円状の結晶」構造を有する(摘記ア-3)ものであると認められるから、刊行物3に記載される製造法によって得られる分岐状の気相法炭素繊維も同心円状の結晶で中心部に中空状の構造を有するものであると認められる。
そこで、刊行物1の実施例4で製造された炭素繊維についてみると、その出発原料の気相法炭素繊維は、「実施例1と同様にして得た炭素繊維」(摘記ア-6)すなわち「出発原料である微細な炭素繊維は、遷移金属を含有する有機化合物の存在のもとにベンゼンを熱分解する公知の方法(例えば特開平7-150419号公報)で得た気相法炭素」(摘記ア-5)であって、刊行物3に係る気相法炭素繊維であり得るから、上記のとおり、同心円状の結晶で中空孔を有する構造の分岐状気相法炭素繊維を含むものもあり得るものであり、その長さは「大部分10?50μm、太さは平均で約0.04μm」(摘記ア-6)のものである。そして、そのような出発原料の気相法炭素繊維を結晶化した後の炭素繊維は、その構造は同心円状の結晶で中心部に中空状の構造を有する結晶化が進んだ分岐状気相法炭素繊維を含むものであると認められる。その長さや太さについては直接に記載するところはないが、実施例1において繊維の長さが10?100μmであったものについて同等の結晶化をした後に得られた繊維は「太さは変わらないが、長さは5?30μm」(摘記ア-5)であることからすれば、その長さは元の10?50μmの1/2?1/3程度であり、太さは原料のものと変わらない平均で約0.04μm程度であると認められる。すると、そのアスペクト比は250?1250(=10/0.04?50/0.04)の1/2?1/3程度のものと認められる。また、その粉体密度が0.8g/cm3の時の粉体抵抗は「0.003Ω・cm」(摘記ア-6,7)である。
以上によれば、刊行物1には、本願発明1の規定ぶりにならって記載すると、
「同心円状の結晶で中心部に中空状の構造を有し、繊維外径が約0.04μm程度、アスペクト比が250?1250の1/2?1/3程度であり、分岐部分を有する気相法炭素繊維であって、粉体密度が0.8g/cm3の時の粉体抵抗が0.003Ω・cmである分岐状炭素繊維」
の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
(3) 本願発明1と引用発明1の対比・判断
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「同心円状の結晶で中心部に中空状の構造」は本願発明1の「円筒状の中空構造」に相当し、引用発明1の「繊維外径が約0.04μm程度」は本願発明1の「繊維外径0.5μm以下」に包含され、引用発明1の「粉体密度が0.8g/cm3の時の粉体抵抗」は本願発明1の「圧密比抵抗」に相当するから、引用発明1の「粉体密度が0.8g/cm3の時の粉体抵抗が0.003Ω・cm」は本願発明1の「圧密比抵抗が0.02Ω・cm以下」に包含される。
すると、本願発明1と引用発明1とは、
「円筒状の中空構造を有し、繊維外径0.5μm以下、アスペクト比10以上であり、分岐部分を有する気相法炭素繊維であって、圧密比抵抗が0.02Ω・cm以下である分岐状気相法炭素繊維」
の点で一致し、以下Aの点で一応相違する(この相違点を「一応の相違点A」という。)。
A 分岐部分の中空構造が、本願発明1では「連通」しているのに対し、引用発明1では、そのような構造となっているかは明らかではない点
イ 一応の相違点Aについての検討
本願発明1の分岐部分の中空構造を連通させた炭素繊維を製造する方法について本願明細書の発明の詳細な説明の該当箇所の記載を検討するに、その段落【0024】には、「本発明の分岐状気相法炭素繊維の製造方法を説明する。出発材料となる分岐状気相法炭素繊維は、原料と触媒金属を含有する液滴を反応炉壁に吹き付けて気相法炭素繊維を製造する方法(特許2778434号)によって得ることができる。」と、また、その段落【0030】には、「従来、原料と触媒金属をガス化して反応炉に供給する製造方法が知られているが、この方法では分岐状繊維を殆ど生成しない。そこで、本発明ではベンゼンなどの有機化合物原料とフェロセンなどの触媒金属を含む溶液を液体のままキャリアーガスで噴霧して反応炉へ供給するか、キャリアーガスの一部をパージガスとして気化させて反応炉へ供給する。特に繊維径の細い炭素繊維を得る場合は原料を気化して反応炉へ供給することが好ましい。また、液状で反応炉壁に吹き付けて反応させることにより、原料及び触媒金属の濃度が局所的に濃くなり、分岐状繊維が析出し易くなる。これを回収し、結晶化工程を経て分岐部分の中空構造が連通した分岐状繊維を10質量%以上含む分岐状気相法炭素繊維を得ることができる」と記載されているが、その他実施例を含め分岐部分の中空構造を「連通」したものとするために何らかの特別な方法を採る旨の記載は認められない。
そうすると、上記段落【0024】や【0030】の製造法、すなわち「出発材料となる分岐状気相法炭素繊維は、原料と触媒金属を含有する液滴を反応炉壁に吹き付けて気相法炭素繊維を製造する方法(特許2778434号)」によれば、得られる分岐状気相法炭素繊維の分岐部分の中空構造は「連通」したものとなっていると認めざるをえない。
ところで、上記「特許2778434号」に対応する出願の公開公報は「特開平7-150419号公報」すなわち刊行物3であり、その出願は補正されることなく特許査定がされていることから、両者の文献の記載内容は同一であるといえる。すると、「出発材料となる分岐状気相法炭素繊維は、原料と触媒金属を含有する液滴を反応炉壁に吹き付けて気相法炭素繊維を製造する方法(特許2778434号)」は、刊行物3に記載される製造法と同じ製造法であると認められる。
すると、引用発明1の出発原料の気相法炭素繊維は刊行物3に記載される製造法で得られた気相法炭素繊維であるから、その分岐部分の中空構造は連通した構造のものとなっていると認められる。
してみると、上記一応の相違点Aは、両者の実質的な相違点であるということはできない。
(4) 小括
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1に記載された発明であるから特許法29条1項3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願は、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

[付記]
なお、審判請求人は平成19年6月11日の回答書において、平成16年11月30日付けでした手続補正における請求項12?23に係る発明の特許性を主張するので、その手続補正後の請求項12に係る発明(以下「本願補正発明12」という。)について、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであることをここに付記しておく。
ア 本願補正発明12
本願補正発明12は、上記「第2」の「1」に記載されたとおりの、
「樹脂に炭素繊維を配合してなる透明導電性組成物であって、炭素繊維が円筒状の中空構造を有し、繊維外径0.01μm?0.1μm、繊維長1?100μm及びアスペクト比10?2000及び圧密比抵抗0.018Ω・cm以下、かつ分岐部分の中空構造が連通している分岐状繊維を10質量%以上含有する分岐状気相法炭素繊維であることを特徴とする透明導電性組成物。」
というものである。
イ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には「本発明は微細な炭素繊維であって、従来得られなかった高結晶性の炭素繊維及びホウ素を含有する炭素繊維である。高結晶性であるために導電性や熱伝導性に優れ、樹脂、セラミックス、金属等のフィラーとして優れたものである」(摘記ア-2)として、上記引用発明1の炭素繊維、すなわち「同心円状の結晶で中心部に中空状の構造を有し、繊維外径が約0.04μm程度、アスペクト比が250?1250の1/2?1/3程度であり、分岐部分を有する気相法炭素繊維であって、粉体密度が0.8g/cm3の時の粉体抵抗が0.003Ω・cmである分岐状炭素繊維」を樹脂に配合して導電性の高い樹脂組成物とすることが記載されていると認められる。
さらに、引用発明1の炭素繊維の繊維長についてみると、刊行物1の実施例4の炭素繊維の繊維長は、結晶化工程前に10?50μmであること、実施例1の結晶化工程は実施例4におけるのと同等と認められるところ、その繊維長の変化が結晶化工程前10?100μm、後に5?30μmであることからすれば、実施例4の解砕後の繊維長は短くとも1μm以上であって、長くとも100μm以上となることはないから、引用発明1の炭素繊維の繊維長は少なくとも1?100μmの範囲内のものであると認められる。
すると、刊行物1には、本願補正発明12の規定ぶりにならって記載すると、
「樹脂に炭素繊維を配合してなる導電性樹脂組成物であって、同心円状の結晶で中心部に中空状の構造を有し、繊維外径が約0.04μm程度、繊維長が1?100μm、アスペクト比が250?1250の1/2?1/3程度であり、分岐部分を有する気相法炭素繊維であって、粉体密度が0.8g/cm3の時の粉体抵抗が0.003Ω・cmである分岐状炭素繊維を含有する導電性組成物」
の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
ウ 対比
本願補正発明12と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「繊維外径が約0.04μm程度」は本願補正発明12の「繊維外径0.01μm?0.1μm」に、引用発明2の「アスペクト比が250?1250の1/2?1/3程度」は本願補正発明12の「アスペクト比10?2000」にそれぞれ包含され、引用発明2の「同心円状の結晶で中心部に中空状の構造」は本願補正発明12の「中空構造」に、引用発明2の「粉体密度が0.8g/cm3の時の粉体抵抗」は本願補正発明12の「圧密比抵抗」にそれぞれ相当するから、引用発明2の「粉体密度が0.8g/cm3の時の粉体抵抗が0.003Ω・cm」は本願補正発明12の「圧密比抵抗が0.018Ω・cm以下」に包含される。
すると、本願補正発明12と引用発明2とは、
「樹脂に炭素繊維を配合してなる導電性組成物であり、繊維外径0.01?0.1μm、繊維長が1?100μm、アスペクト比10?15000及び圧密比抵抗0.02Ω・cm以下の中空構造の連通している分岐を有する気相法炭素繊維を含有する導電性組成物。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する(それぞれ「相違点B1」、「相違点B2」、「相違点B3」という。)。
B1 分岐部分の中空構造が、本願補正発明12では「連通」しているのに対し、引用発明2では、そのような構造となっているかは明らかではない点
B2 分岐状気相法炭素繊維が、本願補正発明12では「分岐状繊維を10質量%以上含有する」のに対し、引用発明2では、その含有量は明らかではない点
B3 本願補正発明12では「透明性を有する」「透明導電性組成物」であるのに対し、引用発明2では、透明性を有することは明らかではない点
エ 相違点についての検討
(ア) 相違点B1について
この相違点は、本願発明1と引用発明1との一応の相違点Aと同じであり、この一応の相違点Aが実質的な相違点であるということはできないことは、上記「3」「(3)」「イ」のとおりである。
(イ) 相違点B2について
引用発明2において分岐状繊維の含有割合は、明らかではない。しかしながら、同等の製造方法においてフェロセン濃度が7質量%のとき分岐状炭素繊維の含有割合が22質量%、2質量%のとき5質量%であること(本願明細書表1)からすれば、引用発明2における分岐状炭素繊維の含有割合は、刊行物3の実施例のフェロセン濃度(2?4質量%)からみて概ね5?12質量%程度であると算出されるが、仮に、10質量%以下であったとしても、刊行物3には分岐が多い炭素繊維をプラスチックに配合すると導電性が良くなることが示されている(摘記ウ-4)のであるから、引用発明2において樹脂に導電性や熱伝導性を付与するために配合するものである(摘示ア-2)と認められる炭素繊維を樹脂に配合するに際して、より少量で高い導電性が得られることが知られた分岐状炭素繊維の含有割合が大きい炭素繊維を用いることは、当業者が容易に想到し得るところである。
(ウ) 相違点B3について
上記のとおり引用発明2において炭素繊維は、樹脂に導電性や熱伝導性を付与するために配合するものであると認められるところ、引用発明2の炭素繊維の導電性は非常に高い(圧密比抵抗が0.003Ω・cm)のであるから、炭素繊維を同じ樹脂に配合した場合に所要の導電性とするために、少量で高い導電性が得られるのであり、しかも、引用発明2の炭素繊維は細い(繊維外径が約0.04μm程度。炭素繊維の径が小さいとき樹脂組成物が透明になることは周知、例えば、特開平11-353947号公報段落【0014】、【0041】参照、のことである。)のであるから、透明樹脂に配合したときに、その配合量によって、その導電性組成物は、その程度はともかくとして、「透明性を有する」「透明導電性組成物」となると認められる。なお、その透明性や導電性の程度は必要に応じ樹脂物性、膜の厚さ、炭素繊維の配合量などによって適宜調整しうるものと認められる。
したがって、相違点B3は相違点でないか、又は、当業者にとって容易になし得ることである。
(エ) 効果について
本願補正発明12の「高い導電性と透明性を兼ね備えることができる」(段落【0068】)という効果は上記のとおり、予期し得ぬ顕著なものであるということはできない。その他、本願補正明細書を検討しても、熱伝導性については何ら裏付けがない等、本願補正発明12が、格別の顕著な効果を奏するものであると認めるに足りるものはない。
オ 小括
したがって、本願補正発明12は、刊行物1?6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、平成19年9月5日付けで審理再開申立書を提出した。
しかし、審理再開申立書を検討したが、審理再開の必要は認められない。
 
審理終結日 2007-08-14 
結審通知日 2007-08-15 
審決日 2007-09-26 
出願番号 特願2001-385433(P2001-385433)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (D01F)
P 1 8・ 113- Z (D01F)
P 1 8・ 121- Z (D01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 芦原 ゆりか澤村 茂実  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 安藤 達也
岩瀬 眞紀子
発明の名称 分岐状気相法炭素繊維、透明導電性組成物及びその用途  
代理人 大家 邦久  

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