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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B05D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B05D
管理番号 1167380
異議申立番号 異議2003-72058  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2007-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-13 
確定日 2007-11-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第3376949号「太陽熱反射性表面処理金属板」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3376949号の請求項1ないし10に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3376949号は、平成11年3月24日(優先権主張、平成10年9月16日、平成11年1月25日)に出願され、平成14年12月6日にその特許権の設定登録がされたものであって、これに対して株式会社淀川製鋼所外3名及び大洋製鋼株式会社外5名より特許異議の申立てがなされ、平成17年4月26日付け取消理由通知書(以下、「本件取消理由通知書」という。)を発送したところ、同年7月11日付け特許異議意見書(以下、「本件異議意見書」という。)と共に、同年9月26日付け手続補正書(訂正請求書)(以下、「本件訂正補正書」という。)により補正された、同年7月11日付け訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)が提出され、更に、同年11月10日付け訂正拒絶理由通知書(以下、「本件訂正拒絶理由通知書」という。)を発送したところ、平成18年1月16日付け意見書(以下、「本件訂正意見書」という。)が提出されたものである。
また、この間、特許権者より、平成17年10月25日付け回答書(以下、「本件回答書」という。)が提出されている。

2.本件訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の適否

2-1.本件訂正拒絶理由通知書の内容
本件訂正拒絶理由通知書において示した、本件訂正請求書に係る請求は拒絶すべきであるとする理由は、概要、以下のとおりである。

「本件訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書きに規定するいずれの目的にも適合していないし、また、実質上特許請求の範囲を変更するから、同条第3項において準用する同法第126条第3項の規定に適合しないから、拒絶すべきである。」

2-2.当審の判断

2-2-1.本件訂正の内容
本件訂正補正書により補正された本件訂正請求書の記載から見て、本件訂正は、少なくとも、以下の訂正事項a及びbを有するものと認める。

訂正事項a;
【特許請求の範囲】の【請求項1】の記載につき、
「【請求項1】 基板として、アルミニウム-亜鉛合金めっき皮膜を備え、350?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE )が60%以上である基板表面に、800?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE/NIR )が20%以上の顔料を2?70重量%含有する塗膜を備えたことを特徴とする太陽熱反射性表面処理金属板。」とあるのを、
「【請求項1】 基板として、アルミニウム-亜鉛合金めっき皮膜を備え、350?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE )が60%以上である基板と、基板表面に設けた、800?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE/NIR )が40%以上の顔料を2?70重量%含有する塗膜とを備えたことを特徴とする太陽熱反射性表面処理金属板。」と、訂正する。

訂正事項b;段落【0066】の記載につき、
「【0066】塗膜に含有させる顔料として、800?2100nmの波長領域での分光反射率RE/NIR が45%、平均粒子径が0.4μmの不溶性モノアゾ顔料(大日本インキ化学工業(株)製、SYMULER FAST YELLOW 4192)(以下、符号「PY154」)、RE/NIR が25%、平均粒子径が0.5μmの無機顔料(菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S)(以下、符号「PY34」)、および、RE/NIR が15%、平均粒子径が0.5μmのクロム酸鉛(大日精化工業(株)製、325 クロームエロー 7G)(以下、符号「7G」)を用いた。」とあるのを、
「【0066】塗膜に含有させる顔料として、800?2100nmの波長領域での分光反射率RE/NIR が45%の顔料(顔料1という)およびRE/NIR が25%の顔料(顔料2という)を用いた。本発明において使用できる顔料としては、不溶性モノアゾ顔料(大日本インキ化学工業(株)製、SYMULER FAST YELLOW 4192)、無機顔料(菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S)、およびクロム酸鉛(大日精化工業(株)製、325 クロームエロー 7G)等がある。」と訂正し、
また、【表1】の記載につき、
「PY154」及び「PY34」を「顔料1」及び「顔料2」と訂正すると共に、試験番号3、6、9、12及び15に係る行を削除し、
更に、【表3】の記載につき、
「PY」を「顔料1」と訂正すると共に、試験番号32、33、35、37及び39に係る行を削除し、更に、試験番号31及び34の備考欄の「〇」を「参考例」と訂正する。

2-2-2.訂正の適否
ここでは、願書に添付した明細書又は図面を訂正前明細書といい、また、訂正後の明細書又は図面を訂正後明細書という。

(一)訂正事項aについて

本訂正は、訂正前の請求項1に記載されていた「基板表面に、」を「基板と、基板表面に設けた、」と訂正し、更に、「塗膜」を「塗膜と」と訂正することを含むものであるが、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明の、いずれかを目的としているとする理由は見当たらない。
これに対し、特許権者は、本件訂正請求書及び本件訂正意見書において、めっき皮膜が基板の構成要素であることを明りょうにするものであるから、本訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とする旨、主張するが、訂正前の請求項1に「基板として、アルミニウム-亜鉛合金めっき皮膜を備え、」と記載されており、同項の他の記載を合わせ見ても、めっき皮膜が基板の構成要素であることは明りょうであって、不明りょうとはいえないから、上記した主張に理由はない。

(二)訂正事項bについて
本訂正が、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明の、いずれかを目的としているとする理由は見当たらない。

(1)「顔料1」、「顔料2」への訂正について

1)本訂正は、訂正前明細書において、試験番号1?56として記載された具体例のいくつかで使用される、塗膜に含有される顔料につき、「分光反射率RE/NIR が45%、平均粒子径が0.4μmの不溶性モノアゾ顔料(大日本インキ化学工業(株)製、SYMULER FAST YELLOW 4192)」や「RE/NIR が25%、平均粒子径が0.5μmの無機顔料(菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S)」として特定されていたものを、その平均粒子径や製造元、更には、「SYMULER FAST YELLOW 4192)」や「ハ゜ーマエロー1650S)」といった製品名の特定されない、ただ単に、分光反射率RE/NIRが特定された顔料に訂正するものであって、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明の、いずれかを目的としているといえないことは明らかである。

2)また、訂正前及び訂正後の特許請求の範囲において、各請求項に係る発明は、「800?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE/NIR )」を発明特定事項としていることは明らかである。一方、訂正前明細書においては、「平均粒子径が0.4μmの不溶性モノアゾ顔料(大日本インキ化学工業(株)製、SYMULER FAST YELLOW 4192)」が45%と、また、「平均粒子径が0.5μmの無機顔料(菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S)」が25%とされるものとして、上記太陽熱反射率(RE/NIR )が意味づけられていたものであるが、本訂正は、その意味づけを無に帰すもので、このことからも、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明の、いずれかを目的としているといえない。

3)これに対し、本件訂正請求書、本件異議意見書及び本件回答書をみると、特許権者は、要するに、訂正前明細書において、試験番号1?56として記載された具体例のいくつかで使用される、塗膜に含有される顔料が、「平均粒子径が0.4μmの不溶性モノアゾ顔料(大日本インキ化学工業(株)製、SYMULER FAST YELLOW 4192)」や、「平均粒子径が0.5μmの無機顔料(菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S)」であったとしたのは、願書に最初に添付した明細書及び図面を作成する前迄に生じた錯誤によるものであるから、本訂正は、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的としている旨、主張する。しかしながら、上記錯誤を理由に訂正することが、訂正前明細書に係る誤記の訂正や明りょうでない記載の釈明といえないのは明らかである。
また、本件訂正意見書において、特許権者は、要するに、本訂正は、発明の本質的特徴と直接関わりのないことであるから、認められるべきである旨、主張する。しかしながら、本訂正が発明の本質的特徴と直接関わりのないか否かの是非は別にして、本訂正が拒絶されるべきものであることは、これまで述べたことから明らかで、特許権者の主張は、特許法の規定によらない、独自の見解に過ぎないから、上記主張は失当である。

(2)本発明において使用できる顔料の訂正について

1)本訂正は、訂正後の請求項に係る発明において使用できる顔料を、「不溶性モノアゾ顔料(大日本インキ化学工業(株)製、SYMULER FAST YELLOW 4192)、無機顔料(菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S)、およびクロム酸鉛(大日精化工業(株)製、325 クロームエロー 7G)等」と記載するが、「等」で示される内容が不明りょうであるから、明りょうでない記載の釈明を目的としているということはできないし、また、特許請求の範囲の減縮又は誤記の訂正の、いずれかを目的としているとする理由も見当たらない。

2)訂正後の特許請求の範囲において、各請求項に係る発明は、塗膜に含有される顔料が「太陽熱反射率(RE/NIR )が40%以上」のものであることを発明特定事項としている。
一方、訂正前明細書によれば、無機顔料(菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S)の太陽熱反射率(RE/NIR )は25%で、クロム酸鉛(大日精化工業(株)製、325 クロームエロー 7G)は15%であって、これら顔料は、いずれも、上記発明に使用できるものではなく、これらが訂正後の請求項に係る発明において使用できる顔料とする本訂正は、不明りょうな記載を附加するもので、このことからも、本訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的としているということはできない。

(3)試験番号に係る行を削除する訂正について
訂正前の各請求項に係る発明に対し、試験番号3、6、9、12、15、32、33、35、37及び39は、本発明例ではない、比較例といえるものであって、また、訂正後の各請求項に係る発明に対しても、比較例として位置づけられるものであることは明らかで、このような具体例を削除する本訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明の、いずれかを目的としているとはいえない。
なお、訂正前明細書において、試験番号32及び33は、「本発明例」と記載されているが、本発明例と比較例との関係でいえば、これが比較例に相当することは明らかである。

(4)「参考例」への訂正について
本訂正は、訂正前明細書において、試験番号31や34として記載されていた具体例を、「参考例」である旨を記載するものであるが、「参考例」は、訂正後明細書に記載の本発明例や比較例と如何なる関係にある具体例であるのかが不明りょうであって、明りょうでない記載の釈明を目的としているということはできないし、また、特許請求の範囲の減縮又は誤記の訂正の、いずれかを目的とするものとする理由は見当たらない。

2-3.まとめ
本件訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書きに規定する目的に適合するという理由が見当たらない訂正を含むから、拒絶すべきである。

3.本件取消理由通知書の内容
本件取消理由通知書において示した取消理由は、概要、以下のとおりである。

「本件請求項1?10に係る特許は、明細書又は図面の記載が不備な、特許法第36条第4項又は、第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対して、特許とされたものである。」

3-1.当審の判断

3-1-1.特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである。

「【請求項1】 基板として、アルミニウム-亜鉛合金めっき皮膜を備え、350?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE )が60%以上である基板表面に、800?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE/NIR )が20%以上の顔料を2?70重量%含有する塗膜を備えたことを特徴とする太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項2】 基板として、アルミニウム-亜鉛合金めっき皮膜を備え、350?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE )が60%以上である基板表面に、800?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE/NIR )が20%以上の顔料を2?70重量%含有することで所望の色彩に着色した塗膜を備えたことを特徴とする太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項3】 前記顔料以外に、着色顔料を含まないことを特徴とする請求項2記載の太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項4】 基板として、アルミニウム-亜鉛合金めっき皮膜を備え、350?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE )が60%以上の基板表面に、外層塗膜と1以上の内層塗膜とを備え、該外層塗膜は、800?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE/NIR )が20%以上の顔料を2?70重量%含有するものであることを特徴とする太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項5】 少なくとも1の内層塗膜は、350?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE )が20%以上の顔料を2?70重量%含有するものであることを特徴とする請求項4に記載の太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項6】 少なくとも1の内層塗膜は、鱗片状アルミニウム顔料を2?20重量%含有することを特徴とする請求項4または5に記載の太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項7】 350?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE )が20%以上の顔料の含有量が2重量%未満である内層塗膜の厚さが10μm以下であることを特徴とする請求項4?6のいずれかに記載の太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項8】 めっき鋼板を基板とし、めっき皮膜表面の酸化膜の厚さが0.30μm以下であることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項9】 基板表面の粗さが、中心線平均粗さRaで0.05?2.0μmであることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項10】 基板に、塗装前処理皮膜として、金属クロム換算で5?200mg/m2 相当のクロメート処理皮膜または0.2?5.0g/m2 のリン酸塩処理皮膜を備えたことを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載の太陽熱反射性表面処理金属板。」

3-1-2.太陽熱反射率(RE )及び太陽熱反射率(RE/NIR )について
本件請求項1?10に係る発明は、特許請求の範囲の記載によれば、その全てにおいて、「350?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE )」(以下、単に「太陽熱反射率(RE )」という。)及び「800?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE/NIR )」(以下、単に「太陽熱反射率(RE/NIR )」という。)を、発明特定事項としているが、「特許請求の範囲、発明の詳細な説明又は図面」(以下、「本件明細書」という。)において、それらの意味が不明であるから、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であることに適合しないし、また、該発明が明確でない以上、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
以下に詳述する。

1)太陽熱反射率(RE )や太陽熱反射率(RE/NIR )について、発明の詳細な説明には、以下の記載が認められる。

「【0015】ここで、本発明のいう太陽熱反射率とは、表面の分光反射率(Rλ)より算出される当該波長領域でのスペクトルの強さを考慮した太陽熱反射率である。350?2100nmの波長領域での太陽熱反射率RE は下記式(1)により求められるものであり、800?2100nmの波長領域での顔料の太陽熱反射率RE/NIR は下記式(2)により求められるものとする。なお、これらの太陽熱反射率を求めるための分光反射率(Rλ)は、分光光度計を用いて測定することができる。
【0016】
【数1】(決定注;「式(1)」は省略。)
【0017】ただし、RE :波長が350?2100nmの領域での太陽熱反射率(%)、
Eλ:太陽熱の分光強度、
Rλ:分光反射率。
【0018】
【数2】(決定注;「式(2)」は省略。)
【0019】ただし、RE/NIR :波長が800?2100nmの領域での太陽熱反射率%)、
Eλ:太陽熱の分光強度、
Rλ:分光反射率。」

本件明細書には、この記載によれば、太陽熱反射率(RE )や太陽熱反射率(RE/NIR )については、一応の定義が記載されていると認められる。
そこで、更に、この定義について見ていくと、ここにおける「太陽熱の分光強度(Eλ)」とはどのように規定されるものであるのかが、また、分光反射率(Rλ)は、その試料作成手法をはじめとする如何なる測定手法によって測定されるかについて、本件明細書に記載がなく、また、当業者において自明のことともいえないから、この一応の定義は記載されているものの、太陽熱反射率(RE )や太陽熱反射率(RE/NIR )の意味が不明であるといわざるを得ない。

2)更に、以下に述べることからも、本件明細書において、太陽熱反射率(RE/NIR )の意味が不明である。

2-1)本件明細書には、以下の記載も認められる。

「【0066】塗膜に含有させる顔料として、800?2100nmの波長領域での分光反射率RE/NIR が45%、平均粒子径が0.4μmの不溶性モノアゾ顔料(大日本インキ化学工業(株)製、SYMULER FAST YELLOW 4192)(以下、符号「PY154」)、RE/NIR が25%、平均粒子径が0.5μmの無機顔料(菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S)(以下、符号「PY34」)、および、RE/NIR が15%、平均粒子径が0.5μmのクロム酸鉛(大日精化工業(株)製、325 クロームエロー 7G)(以下、符号「7G」)を用いた。」

この記載によれば、太陽熱反射率(RE/NIR )は、顔料である「大日本インキ化学工業(株)製、SYMULER FAST YELLOW 4192」では45%、「菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S」では25%、そして、「大日精化工業(株)製、325 クロームエロー 7G」では15%となるものとして意味づけられていることが分かる。

2-2)一方、大洋製鋼株式会社外5名の特許異議申立書に添付した甲第5号証(財団法人日本塗料検査協会西支部作成の平成15年7月15日付け試験結果報告書)は、以下の顔料につき、大凡、「分光光度計のベースライン測定に使用する白色標準板作成方法と同じ方法で硫酸バリウム(標準板)の代わりに顔料をホルダーに押し込み、測定サンプルを作成し、分光光度計(島津製作所製UV3100)により分光反射率を測定し、JIS5759(1998)に準じた計算方法により算出する測定算出手法により、太陽熱反射率(RE/NIR )を求め、以下の試験結果を得たことを示しており、そして、顔料Aは、上述した「大日本インキ化学工業(株)製、SYMULER FAST YELLOW 4192」に相当し、同様に、顔料Bは、「菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S」に、顔料Cは、「大日精化工業(株)製、325 クロームエロー 7G」に相当していると認められる。

試験結果;
顔料A「品名;SYMULER FAST YELLOW 4192、製造メーカー;大日本インキ化学工業(株)」の太陽熱反射率(RE/NIR )は、89.6%であり、同様に、顔料B「品名;ハ゜ーマエロー1650S、製造メーカー;菊池色素工業(株)」の太陽熱反射率(RE/NIR )は、92.3%で、顔料C「品名;325 クロームエロー 7G、製造メーカー;大日精化工業(株)」の太陽熱反射率(RE/NIR )は、92.4%である。

そして、甲第5号証における上記測定算出手法は、同号証の作成時期や、本件異議意見書の添付書類である特開平4-246478号公報の段落【0017】を参照すれば、この出願の出願当時や優先権主張日当時の技術常識にあったものと認められる分光光度計(島津製作所製UV3100)を使用していることなどから、これら当時の技術常識にあったものと比べ、それ程には違いがないものと解せるが、上記試験結果は、先に「2-1)」で述べた、本件明細書に記載された「大日本インキ化学工業(株)製、SYMULER FAST YELLOW 4192」、「菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S」及び「大日精化工業(株)製、325 クロームエロー 7G」、それぞれの、太陽熱反射率(RE/NIR )の値と大きく異にしていることを示している。
その一方で、本件明細書においては、先に「2-1)」で述べたように、太陽熱反射率(RE/NIR )は、「大日本インキ化学工業(株)製、SYMULER FAST YELLOW 4192」では45%、「菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S」では25%、そして、「大日精化工業(株)製、325 クロームエロー 7G」では15%となるものとして意味づけられているものであって、本件明細書に接した当業者にしてみれば、その測定手法を含め、このように意味づけられるものとして、太陽熱反射率(RE/NIR )を理解するものといえる。
しかしながら、甲第5号証における測定算出手法によって得られた、同じ顔料についての太陽熱反射率(RE/NIR )の値が、本件明細書に記載の値と大きく異なっていることと、上記測定算出手法がこの出願の出願当時や優先権主張日当時の技術常識にあったものと比べてそれ程には違いがないこととを考え合わせると、本件明細書における太陽熱反射率(RE/NIR )の測定手法は、この出願の出願当時や優先権主張日当時の技術常識にあったものとは、全く別のものであると当業者は推測せざるを得ないのであるが、本件明細書には、その測定手法が記載されていないのである。
したがって、やはり、本件明細書において、太陽熱反射率(RE/NIR )の測定手法は不明であって、太陽熱反射率(RE/NIR )の意味が不明であるといわざるを得ない。

2-3)以上の点に関連して、本件回答書に添付された「住友金属工業株式会社の高橋通泰及び迫田章人、並びに住友金属建材株式会社の壱岐島健司の平成17年10月25日付け陳述証明書」によれば、本件明細書において、「大日本インキ化学工業(株)製、SYMULER FAST YELLOW 4192」、「菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S」や「大日精化工業(株)製、325 クロームエロー 7G」と記載しているのは、別の顔料を、この出願の願書に最初に添付した明細書の作成前の錯誤を原因として誤記したものであることがうかがえる。そして、このことは、本件異議意見書や本件回答書における主張とも符合し、この誤記したものであることから、甲第5号証の上述した試験結果が本件明細書の記載と齟齬を生じているのは道理であるが、いずれにしても、本件明細書において、太陽熱反射率(RE/NIR )の測定手法が不明であることに変わりはない。

3)権利者は、本件異議意見書や本件回答書によれば、要するに、太陽熱反射率(RE )や太陽熱反射率(RE/NIR )は、分光光度計(島津製作所製UV3101)を用いて、「スリット幅:30nm、光源:ハロゲンランプ、副白板:BaSO4、入射角:7゜積分球:150φ」の条件で測定したもので、この出願の優先権主張日当時に一般的である手法により測定したものであることを根拠に、太陽熱反射率(RE )及び太陽熱反射率(RE/NIR )の意味は明確である旨を主張するが、該根拠に理由がない以上、この主張は採用できない。以下に、詳述する。

3-1)分光光度計(島津製作所製UV3101)自体についても、これが、少なくとも、この出願の優先権主張日当時に一般的であったとする理由は、本件異議意見書や本件回答書の添付書類を見ても、見当たらないし、ましてや、上記分光光度計において上で述べた条件で測定することがこの出願の優先権主張日当時に一般的である手法であったとする理由はないし、仮に、一般的な手法であったとしても、分光光度計だけについてみても、島津製作所製UV3100も、この出願の優先権主張日当時に一般的であったと認められ(本件異議意見書の添付書類である特開平4-246478号公報の段落【0017】、参照。)、権利者の主張する測定方法だけが、一般的な手法であった訳ではないし、また、一般的であった複数の測定方法によっても、同じ結果が得られるとする理由もないのであるから、やはり、太陽熱反射率(RE )及び太陽熱反射率(RE/NIR )の意味が明確であるということはできない。

3-2)また、本件回答書に添付された「住友金属工業株式会社の高橋通泰作成の平成17年10月25日付け実験成績証明書」によれば、「菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S」であることが明らかな「PY34」の、権利者が一般的な手法であったと主張する手法によるものであることが明らかな太陽熱反射率(RE/NIR )の値は98.3%であり、同様に、「大日精化工業(株)製、325 クロームエロー 7G」は99.3%であることがうかがえ、本件明細書に記載された、これら顔料の太陽熱反射率(RE/NIR )の数値と大きく異なっており、上記手法が、本件明細書の記載の太陽熱反射率(RE/NIR )の測定手法であるということができないのは明らかである。

3-3)これらの点に関連し、権利者は、本件訂正意見書において、本件異議意見書や本件回答書での主張を翻し、要するに、太陽熱反射率(RE/NIR )は、同じ商品名の顔料であっても、その製造時期等により変動があるもので、「大日本インキ化学工業(株)製、SYMULER FAST YELLOW 4192」は45%、「菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S」は25%、そして、「大日精化工業(株)製、325 クロームエロー 7G」は15%であるのは、誤記ではない旨を主張するが、先に「2-3)」で述べたように、本件回答書に添付された「住友金属工業株式会社の高橋通泰及び迫田章人、並びに住友金属建材株式会社の壱岐島健司の平成17年10月25日付け陳述証明書」によれば、本件明細書において、「大日本インキ化学工業(株)製、SYMULER FAST YELLOW 4192」、「菊池色素工業(株)製、ハ゜ーマエロー1650S」や「大日精化工業(株)製、325 クロームエロー 7G」と記載しているのは、別の顔料を、本件の願書に最初に添付した明細書の作成前の錯誤を原因として誤記したものであることがうかがえるのであるから、権利者の主張に理由はない。

3-1-3.塗装前処理皮膜を有する発明について
特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることに適合しないし、また、特許を受けようとする発明が明確であることにも適合しない。

1)特許請求の範囲の請求項1及び請求項10は、以下のとおりに記載されている。

「【請求項1】 基板として、アルミニウム-亜鉛合金めっき皮膜を備え、350?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE )が60%以上である基板表面に、800?2100nmの波長領域での太陽熱反射率(RE/NIR )が20%以上の顔料を2?70重量%含有する塗膜を備えたことを特徴とする太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項10】 基板に、塗装前処理皮膜として、金属クロム換算で5?200mg/m2 相当のクロメート処理皮膜または0.2?5.0g/m2のリン酸塩処理皮膜を備えたことを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載の太陽熱反射性表面処理金属板。」

この記載によれば、請求項1に記載されたものは、基板に塗装前処理皮膜を備えた太陽熱反射性表面処理金属板を包含するものである。このことは、請求項1を引用して記載している請求項10において、その付着量を特定するものの、「塗装前処理皮膜」を設けたものを、請求項1に記載の太陽熱反射性表面処理金属板を引用して記載していることからも明らかである。
そして、このことは、請求項1に記載された発明は、その付着量を特定しない「塗装前処理皮膜」を設けた太陽熱反射性表面処理金属板をも包含しているということである。

2)一方、発明の詳細な説明には、以下の記載が認められる。

イ.「【0043】基板には、塗装金属板の耐食性、塗膜密着性などの長期耐久性を向上させるために、内層皮膜以外に、塗布型、反応型等のクロメート処理皮膜やりん酸塩処理皮膜など、公知の塗装前処理皮膜を備えるものであっても構わない。しかしながらこれらの前処理皮膜は太陽熱反射性を損なう作用がある」
ロ.「【0082】(実施例4)基板として、実施例3に記載したのと同様の溶融亜鉛めっき鋼板(GI)と55%Al-Znめっき鋼板を使用した。一部のGIには前処理として、市販の薬液を使用した燐酸亜鉛処理を所定の付着量が得られるように施した(以下、符号「PB」)。また一部の55%Al-Znには前処理として市販の薬液を用いて塗布型クロメート処理を所定の付着量が得られるように施した(以下、符号「CR」)。」及び【表4】(【0083】)

この記載イによれば、「塗装前処理皮膜」は太陽熱を吸収し易い層要素であり、このことは、記載ロによれば、該皮膜を形成する前に、そもそも、太陽熱反射率(RE)が55%や65%であったものが、形成後に37%や43%にまで低下していることからも明らかである。
その一方で、請求項1に係る発明は、基板表面は太陽熱反射率(RE )が60%以上であることを発明特定事項としている。そして、発明の詳細な説明の記載の全趣旨によれば、ここで特許を受けようとする発明は、太陽熱反射性に優れた表面処理金属板を得ることを課題とし、上記基板表面の太陽熱反射率(RE )を所定の値以上のものとすることにより、上記の課題を解決するものであって、この所定の値以上の太陽熱反射率(RE )である基板表面を有する基板の存在理由を無にするような態様のものは、上述した特許を受けようとする発明としていないことは明らかである。

3)しかしながら、請求項1に係る発明は、その付着量を特定しない「塗装前処理皮膜」を設けた太陽熱反射性表面処理金属板をも対象にしており、「塗装前処理皮膜」は、上で述べたように、太陽熱を吸収し易い層要素であって、上記存在理由を無にするような態様のものを含むもので、発明の詳細な説明に記載された、特許を受けようとする発明ということはできない。

4)してみると、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることに適合しないし、また、同範囲に記載の発明は、上述した課題を解決するという技術的意義を有さないもので、同範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であることにも適合しない。

4.まとめ
本件請求項1?10に係る特許は、明細書又は図面の記載が不備な、特許法第36条第4項又は、第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対して、特許とされたものであって、特許法第113条第1項第4号に該当するから、結論のとおりに決定する。
 
異議決定日 2006-02-02 
出願番号 特願平11-80199
審決分類 P 1 651・ 537- ZB (B05D)
P 1 651・ 536- ZB (B05D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 村山 禎恒  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 野村 康秀
澤村 茂実
登録日 2002-12-06 
登録番号 特許第3376949号(P3376949)
権利者 住友金属工業株式会社 住友金属建材株式会社
発明の名称 太陽熱反射性表面処理金属板  
代理人 目次 誠  
代理人 安富 康男  
代理人 宮▲崎▼ 主税  
代理人 目次 誠  
代理人 安富 康男  
代理人 安富 康男  
代理人 八木 敏安  
代理人 宮▲崎▼ 主税  
代理人 宮▲崎▼ 主税  
代理人 目次 誠  
代理人 目次 誠  
代理人 目次 誠  
代理人 安富 康男  
代理人 広瀬 章一  
代理人 八木 敏安  
代理人 宮▲崎▼ 主税  
代理人 宮▲崎▼ 主税  
代理人 目次 誠  
代理人 八木 敏安  
代理人 広瀬 章一  
代理人 八木 敏安  
代理人 宮▲崎▼ 主税  

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