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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  B29C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1167381
異議申立番号 異議2002-71331  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2007-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-05-22 
確定日 2007-11-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第3233576号「釣り・スポーツ用具用部材」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3233576号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
(1) 本件特許
・特許権者 :ダイワ精工株式会社
・出願日 :平成8年6月24日
・発明の名称 :「釣り・スポーツ用具用部材」
・出願番号 :特願平8-163112号
・手続補正書 :平成13年7月16日
・設定登録日 :平成13年9月21日
・特許番号 :特許第3233576号
(2) 本件手続及び訂正審判の手続等
・特許異議申立日:平成14年5月22日(異議2002-71331号)
・訂正請求日 :平成15年9月16日
・決定日 :平成17年6月10日(「訂正を認める。特許第3233576号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。」との決定。以下「1次決定」という。)
・1次決定謄本送達日:平成17年7月1日(ダイワ精工株式会社に対し)
・1次決定取消訴訟提起日:平成17年7月28日
・訂正審判請求日:平成17年8月8日(訂正2005-39142号)
・審決日 :平成18年3月10日(「本件審判の請求は成り立たない。」との審決。以下「1次審決」という。)
・1次審決謄本送達日:平成18年3月23日(ダイワ精工株式会社に対し)
・1次審決取消訴訟提起日:18年4月20日(平成18年(行ケ)第10177号)
・1次審決取消訴訟判決言渡日:平成18年12月20日(「特許庁が訂正2005-39142号事件について,平成18年3月10日にした審決を取り消す。」との判決)
・再度の審決日 :平成19年7月6日(「特許第3233576号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」との審決。以下「2次審決」という。)
・2次審決謄本送達日:平成19年7月19日(ダイワ精工株式会社に対し)
・1次決定取消訴訟判決言渡日:平成19年9月27日(「特許庁が異議2002-71331号事件について平成17年6月10日にした決定のうち『特許第3233576号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。』との部分を取り消す。」との判決)
なお、平成15年9月16日付け訂正請求は、平成19年10月18日に取り下げられた。

2 本件訂正発明
上記のとおり、平成17年8月8日に請求された訂正審判の2次審決は平成19年7月19日に確定したから、特許法第128条の規定により、本件特許に係る発明は、その訂正審判請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の記載の以下のとおりのものである。
「【請求項1】特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部材を有しており、前記本体部材の表面は研磨されて、前記強化繊維が露出するとともに、前記露出する強化繊維自体も研磨されて、前記研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下であることを特徴とする竿管。
【請求項2】前記本体部材の表面は、光輝性を示すことを特徴とする請求項1に記載の竿管。
【請求項3】前記本体部材の表面は、鏡面研磨されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の竿管。
【請求項4】前記本体部材の外側に、金属材料又はセラミック材料で構成されている厚さ1ミクロン以下の薄膜を形成したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの項に記載の竿管。
【請求項5】請求項1ないし4のいずれかの項に記載の竿管を用いた釣り竿。」
(以下、それぞれの請求項に係る発明を「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」などという。)

3 特許異議申立の理由について
特許異議申立人は、その出願前頒布された刊行物である、
A.特開平 7-147868号公報
B.特開昭62- 9946号公報
C.特開平 7- 79669号公報
D.特開平 6- 8240号公報
(以下、それぞれの刊行物を「刊行物A」、「刊行物B」などという。)
を提示し、
・理由1:請求項1、2、3、6に係る発明は、刊行物Aに記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
・理由2:請求項1?6に係る発明は、刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
という主張をしている。
ここで、特許異議申立時の請求項5は削除され、請求項6に係る発明は本件訂正発明5に対応するから、それぞれの理由は、
・理由1:本件訂正発明1?3、5は、刊行物Aに記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
・理由2:本件訂正発明1?5は、刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
というものであるということができる。
そこで、上記理由について検討する。
(1) 刊行物の記載事項
(1-1) 特開平7-147868号公報(刊行物A)
刊行物Aには、次の記載がある。
1a.「合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が主として竿管の軸方向に配向された強化繊維によって強化された層の外側に、合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が竿管の周方向に配向された強化繊維によって強化された外側層を形成すると共に、加圧焼成時の緊締テープの緊締によって前記外側層表面に発生する凹凸表面の凸端部を除去して平坦状か傾斜状に形成して該凹凸の高さを低く形成し、かつ該外側層の周方向強化繊維の内、断面形状の欠けた強化繊維が殆ど存在しないことを特徴とする釣竿。」(特許請求の範囲【請求項1】)
1b.「このように緊締テープの巻回方向の相違によって樹脂領域16Aや樹脂溜り15の発生に相違が生じるのは、図3の場合は緊締テープと外側層16の強化繊維16Fとがほとんど平行で交差しないが、図4の場合には交差することに基ずくと考えられる。即ち、図4の場合には各強化繊維16Fが緊締テープによって押さえつけられ、図3の場合と比較して各強化繊維が均等に押圧力を受けて強化繊維の凹凸が生じ難いが、その分合成樹脂はその流動性から外側層16の外方向に押出されて移動するためと考えられる。」(段落【0013】)
1c.「従って、この凹凸を平滑化するために凹凸の凸端部を研削や研磨によって除去するが、図3の場合にライン16Lに沿って平滑化すべくこれを実施すると、凸端部16Dに存在する強化繊維16Fも除去しなければならず、研削することになる。こうして凸端部16Dを研削除去した状態を図5に示す。その結果、周方向強化繊維16Fが減少し、また研削された平坦面16Hには部分的に削られた強化繊維が多く存在してその補強効果が著しく低減する。」(段落【0014】)
1d.「これに反して図4の場合には、凹凸の凸端部はほぼ上記の樹脂領域16Aで占められており、従ってライン16Lに沿って凸端部を除去するには、研削でなくバフ等による研磨で可能である。これは凸端部が軟らかな合成樹脂の領域であるためであり、バフ等の研磨では樹脂領域16Aが殆ど除去されて既述の傾斜面16Cが現われる。また、ライン16Lに沿う研削によれば樹脂領域16Aの一部が削られて平坦状の面が形成される。何れの方法によっても図3の場合と比較すれば強化繊維16Fは殆ど削られることが無いため、外側層16の本来の補強作用が保持できる。
また、観点を変えれば、図3の場合のように強化繊維によって樹脂マトリックスが強化された凸端部16Dを研削するには、先細の長い竿管の全長に亘って行うため手数を要するが、図4に示す場合ではバフ研磨で済むため簡便で済む。また、これを研削によって行った場合も強化繊維の無い樹脂領域を研削するだけであるため短時間で済む。更に、緊締テープの傾斜角度を他の種々の値に設定して実験した結果、本発明構造の釣竿にするには、緊締テープの傾斜角度は7度以上に設定し、好ましくは15度以上に設定するとよいことが判った。」(段落【0015】?段落【0016】)
1e.「【図5】図3の竿管の表面を研削した状態の縦断面図」(4頁左欄【図面の簡単な説明】)
(1-2) 特開昭62-9946号公報(刊行物B)
刊行物Bには、次の記載がある。
2a.「炭素繊維強化プラスチックス製基礎パイプの外表面を研削加工した後、この研削面上に、樹脂含浸無撚り炭素繊維束を巻き付けてパイプの表面層となし、この表面層を加熱硬化後仕上げ研削することから成る炭素繊維強化プラスチックス製パイプの製造方法。」(【特許請求の範囲】)
2b.「この発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、樹脂の過剰研削を減らしてパイプ外表面の面粗度を高めることにある。」(2頁左上欄3?5行)
2c.「下地を研削加工してその上に樹脂含浸無撚り繊維束を巻き重ねると、パイプの表面側では堅い炭素繊維を同一円周上に緻密かつ平坦に配列できるため、仕上げ研削時に樹脂が必要以上に削り取られる心配がない。」(2頁右上欄2?6行)
2d.「得られた複合層のCFRPパイプ表面を研削加工して外径50.0mm、長さ800mmに仕上げ、外表面の粗さを測定したところ、その面粗度は0.8sと非常に円滑な状態を呈していた。」(2頁左下欄10?13行)
2e.「表面層の繊維が同一円周上に緻密かつ平坦に並び、従って、研削時の樹脂の過剰研削を防止でき、パイプの表面粗度を0.5?1s程度に迄高めることができる。」(2頁左下欄18行?右下欄1行)
(1-3) 特開平7-79669号公報(刊行物C)
刊行物Cには、次の記載がある。
「 物品本体の外側に表面を略鏡面状に平滑形成した合成樹脂被膜層を形成し、該合成樹脂被膜層の外側に金属を物理蒸着した薄い装飾層を形成し、該装飾層の外側に透明か半透明の保護層を形成したことを特徴とする物品。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(1-4) 特開平7-79669号公報(刊行物D)
刊行物Dには、次の記載がある。
「繊維強化プラスチックであって、最外層の補強用繊維又は繊維構造物が、金属又は金属化合物皮膜により被覆されたものであることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(2) 刊行物Aに記載された発明
刊行物Aは、その「請求項1」に記載されるとおりの「合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が主として竿管の軸方向に配向された強化繊維によって強化された層の外側に、合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が竿管の周方向に配向された強化繊維によって強化された外側層を形成すると共に、加圧焼成時の緊締テープの緊締によって前記外側層表面に発生する凹凸表面の凸端部を除去して平坦状か傾斜状に形成して該凹凸の高さを低く形成し、かつ該外側層の周方向強化繊維の内、断面形状の欠けた強化繊維が殆ど存在しないことを特徴とする釣竿」(摘示1a)の発明に関し記載するものであって、そこには、その発明の従来技術として、その凸端部を「研削や研磨によって除去するが、図3の場合にライン16Lに沿って平滑化すべくこれを実施すると、凸端部16Dに存在する強化繊維16Fも除去しなければならず、研削することになる」(摘示1c)ものであって、その「凸端部16Dを研削除去し・・・研削された平坦面16Hには部分的に削られた強化繊維が多く存在」(摘示1c)するものが、「図3の竿管の表面を研削した状態の縦断面図」(摘示1e)である【図5】と共に記載されている。
この【図5】と共に示された従来技術の竿管は、刊行物Aの請求項1に記載の発明が前提とするものであるから、請求項1に記載の発明の竿管と同様に「合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が主として竿管の軸方向に配向された強化繊維によって強化された層」とその外側に「合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が竿管の周方向に配向された強化繊維によって強化された外側層」を有する竿管であると認められる。そして、その「合成樹脂をマトリックスとし・・・強化繊維によって強化された外側層」は、強化繊維に合成樹脂を含浸してなる繊維強化材ということができる。
すると、刊行物Aには、【図5】と共に示された従来技術として、
「合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が主として竿管の軸方向に配向された強化繊維によって強化された層の外側に、合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が竿管の周方向に配向された強化繊維によって強化された強化繊維に合成樹脂を含浸してなる繊維強化材である外側層を形成すると共に、加圧焼成時の緊締テープの緊締によって前記外側層表面に発生する凹凸表面の凸端部を研削によって凸端部を研削除去し、研削された平坦面には部分的に削られた強化繊維が多く存在する竿管」
の発明(以下、「刊行物A発明」という。)が記載されているということができる。
(3) 理由1(刊行物Aに記載された発明に基づく新規性違反)について
(3-1) 本件訂正発明1について
(3-1-1) 本件訂正発明1と刊行物A発明との対比
本件訂正発明1と刊行物A発明とを対比すると、刊行物A発明の「合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が主として竿管の軸方向に配向された強化繊維によって強化された層の外側に、合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が竿管の周方向に配向された強化繊維によって強化された強化繊維に合成樹脂を含浸してなる繊維強化材である外側層を形成」したものは竿管の「本体部材」ということができ、その「繊維方向が主として竿管の軸方向に配向された強化繊維」及び「繊維方向が竿管の周方向に配向された強化繊維」は「特定方向に引き揃えた強化繊維」ということができる。すると、刊行物A発明の上記「合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が主として竿管の軸方向に配向された強化繊維によって強化された層の外側に、合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が竿管の周方向に配向された強化繊維によって強化された強化繊維に合成樹脂を含浸してなる繊維強化材である外側層を形成」したものは、本件訂正発明1の「特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部材」に相当するということができる。また、刊行物A発明の「加圧焼成時の緊締テープの緊締によって前記外側層表面に発生する凹凸表面の凸端部を研削によって凸端部を研削除去し」は、本体部材の少なくとも表面の一部を研削するのであるから、本件訂正発明1の「本体部材の表面は研磨され」に対応するということができ、刊行物A発明の「研削された平坦面には部分的に削られた強化繊維が多く存在」するものは、本件訂正発明1の「強化繊維が露出するとともに、前記露出する強化繊維自体も研磨され」たものに対応するということができる。
すると、本件訂正発明1と刊行物A発明とは、
「特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部材を有しており、前記本体部材の表面は研磨乃至研削されて、前記強化繊維が露出するとともに、前記露出する強化繊維自体も研磨乃至研削された竿管」
である点で一致し、以下の点で相違するということができる。
(i) 本体部材の表面は、本件訂正発明1においては、「研磨」され、個々の強化繊維表面が、「窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下」であるのに対し、刊行物A発明は、「研削」され、個々の強化繊維表面はそのような性状であるかは明らかではない点
(以下、「相違点(i)」という。)
(3-1-2) 相違点(i)について
刊行物A発明の本体部材の少なくとも表面の一部は露出する強化繊維自体が研削されたものであるということができ、その研削された個々の強化繊維の表面は、【図5】には平坦面であるように記載されている。
しかし、【図5】にそのように記載されているとしても、その平坦面が微視的に「窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下」であることまでは記載されているということはできない。
そして、【図5】に示された平坦面は研削によって形成されるものであるが、研削手段や条件は多様であって、摘示1dから少なくともバフ研磨ではないとしても、その平坦面がどのような研削方法や条件によったものであるかは明らかではない。研削によって形成される表面の性状は、研削手段や条件によって異なると認められるところ、それらが明らかでない刊行物A発明における個々の強化繊維表面が、微視的にみて「窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下である」ものであるということはできない。
その他、刊行物Aには刊行物A発明の平坦面が微視的にも「窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下」であることを示す記載は見あたらない。また、刊行物A発明の個々の強化繊維表面がそのような表面性状のものであると認めるに足る技術常識もない。
すると、刊行物A発明の個々の強化繊維表面が「窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下である」ということはできない。
したがって、本件訂正発明1は、刊行物Aに記載された発明ということはできない。
(3-2) 本件訂正発明2?5について
本件訂正発明2、3、5、さらに加えて本件訂正発明4は、本件訂正発明1にさらなる発明特定事項を付加したものである。すると、上記のとおり本件訂正発明1が刊行物Aに記載された発明ということはできない以上、本件訂正発明2?5は、刊行物Aに記載された発明ということはできない。
(3-3) 小括
よって、本件訂正発明1?5は、刊行物Aに記載された発明ということはできない。
(4) 理由2(刊行物Aに記載された発明に基づく進歩性違反)について
(4-1) 本件訂正発明1について
(4-1-1) 相違点(i)について
相違点(i)の個々の強化繊維表面の微視的な性状に関連して、刊行物Bに、「樹脂含浸無撚り炭素繊維束を巻き付けてパイプの表面層となし、この表面層を加熱硬化後仕上げ研削する」(摘示2a)という記載がある。しかし、この「仕上げ研削」は「樹脂の過剰研削を減らしてパイプ外表面の面粗度を高める」(摘示2b)ためのものであって、「表面側では堅い炭素繊維を同一円周上に緻密かつ平坦に配列できるため、仕上げ研削時に樹脂が必要以上に削り取られる心配がない」(摘示2c)ような、また「樹脂の過剰研削を防止」(摘示2d)できるような研削であるが、「強化繊維が露出する」ような、さらに「露出する強化繊維自体も研磨され」るような研削であることまでは明らかにされていない。すると、研削の結果の表面性状について「外表面の粗さを測定したところ、その面粗度は0.8sと非常に円滑な状態」(摘示2d)のものが得られているとしてもそれが、研磨された個々の強化繊維表面の性状であるのか、樹脂表面の性状であるのかは明らかではない。
すると、刊行物Bには、相違点(i)に係る、個々の強化繊維表面が、「窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下」であることまでは記載されているということはできない。また、刊行物C、Dは、本体の外側に層を設ける点についての公知技術として提出されたものであって、これらの刊行物にも、「強化繊維が露出するとともに、前記露出する強化繊維自体も研磨され」ること、まして「研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成」されていることについて、記載も示唆もされてはいない。
したがって、刊行物B?Dには、個々の強化繊維表面が、「窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下」であることが記載されているということができない。
さらに、仮に刊行物Bの「仕上げ研削」をしたパイプがそのような表面性状であったとしても、その「仕上げ研削」の目的・効果は「樹脂の過剰研削を減らしてパイプ外表面の面粗度を高めること」にあるのであって、刊行物Bにはそのパイプが本件訂正発明1のような「優れた外観を有する」(本件訂正明細書段落【0002】など)ものであり、「装飾性が向上」(同段落【0004】)したものであり、「入射する光を効率よく反射して光輝性を示す」(同段落【0008】)ものであるなど装飾的に優れたものであることは記載も示唆もされるものではなく、さらに、刊行物A、C、Dの記載その他技術常識からも刊行物Bの「仕上げ研削」をしたパイプが装飾的に優れたものであることは示唆されるものではない。そうすると、刊行物Bの「仕上げ研削」をした表面性状を、このような装飾性の観点から、刊行物A発明に適用するという動機付けや契機はなく、さらに、その他の観点からの動機付けや契機も認められない。
そして、本件訂正発明1はこのような表面性状とすることによって、「軽量で、しかも優れた外観を有する」(本件訂正明細書【発明の効果】の欄)効果を奏するものであって、この効果は、刊行物A?D、その他技術常識から予期し得ないものである。
よって、本件訂正発明1は、刊行物Aに記載された発明及び刊行物B、C、Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(4-1-2) その他の刊行物をそれぞれ主引用例とした場合について
その他の刊行物B、C、Dの記載から発明をそれぞれ認定して本件訂正発明1と対比したとしても、少なくとも上記相違点(i)に係る「研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成」されていることは、刊行物A発明と対比したときと同様に、両者の相違点となる。そして、上記のとおり刊行物A?Dのいずれにも、この表面性状は記載も示唆もされていないし、また、その点による装飾的に優れたものである効果についても記載も示唆もされてはいない。
したがって、刊行物B、C、Dいずれを主引用例としても、本件訂正発明1は刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、ということができないことは明らかである。
(4-2) 本件訂正発明2?5について
本件訂正発明2?5は、本件訂正発明1にさらなる発明特定事項を付加したものであるから、本件訂正発明1が刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。
(4-3) 小括
よって、本件訂正発明1?5は、刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(5) まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1?5は、その出願前頒布された刊行物である刊行物Aに記載された発明ということはできず、また、その出願前頒布された刊行物である刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできないから、本件訂正発明1?5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
したがって、本件特許異議申立ての理由によっては、本件訂正発明1?5に係る特許を取り消すことができない。

4 1次決定の理由について
(1) 上記「1 手続の経緯」「(2)」で示すとおり、本件特許異議において本件特許の取消決定(1次決定)がされた。その理由の概要は、請求項1などにおける「研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」ていることは、平成13年7月16日の手続補正により補正されたものであるところ、この補正は、この出願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものと認められない、というものである。
(2) しかし、この「研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」とする補正が当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められることは、本件訂正審判の1次審決取消訴訟の判決と同旨の、以下に示すとおりである。
(2-1) 当初明細書には、次の記載がある。
「本発明の釣り・スポーツ用具用部材は、次のようにして製造することができる。例えば、部材本体1が引き揃えられたカーボン繊維にエポキシ樹脂を含浸してなる繊維強化プリプレグを巻回してなる竿管である場合、繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨する。このとき、図1に示すように、強化繊維2の表面はかなり粗い状態となる。次いで、この部材本体1の表面上にエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂4を吹き付け塗装、シゴキ塗装、印刷等の方法により被着し、強化繊維2が露出するように、この合成樹脂4を研磨する(図中ラインAまで)。このようにして、強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面とする。」(段落【0007】)
「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面は、図3に示すような概略形状を有している。すなわち、研磨された面の強化繊維2には、微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている。窪み部6の深さは、1μm程度であるが、5μm以下であれば特に限定されない。なお、窪み部6の幅は、表面の平滑性を考慮すると、平坦部7の幅よりも狭いことが好ましい。また、平坦部7においては、装飾性を考慮すると、部材本体1の表面に入射する光を効率良く反射して光輝性を示すことが好ましい。」(段落【0008】)
また、図面には、図1にその発明の釣り・スポーツ用具用部材の一実施形態が示され、図3にその発明の釣り・スポーツ用具用部材における表面状態が示されている。
(2-2) 上記(2-1)の記載によれば、図1には、繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨して、強化繊維2の表面がかなり粗い状態となった後に、部材本体1の表面上に合成樹脂4を被着した状態が示され、また、図3には、図1のラインAまで研磨して、「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面」の概略形状が示されているということができる。そして、段落【0008】の「すなわち、研磨された面の強化繊維2には、微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている。窪み部6の深さは、1μm程度であるが、5μm以下であれば特に限定されない。なお、窪み部6の幅は、表面の平滑性を考慮すると、平坦部7の幅よりも狭いことが好ましい。また、平坦部7においては、装飾性を考慮すると、部材本体1の表面に入射する光を効率良く反射して光輝性を示すことが好ましい。」との記載から、図3に記載された「平坦部7」が部材本体の表面の平坦部分を構成していると理解することができる。
そうであれば、図1のラインAまで研磨することにより、かなり粗い状態であった強化繊維2の表面が、微視的に見て窪み部6及び平坦部7が形成された状態になるのであって、図3はこの状態を示しているから、図面を参酌しつつ、明細書全体の記載をみるならば、当初明細書又は図面には、合成樹脂4の研磨の際に、ラインAよりも表面側に存在する強化繊維2自体をも研磨することが記載されているということができる。
よって、「研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」とする補正は、当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができる。
(3) そして、他に平成13年7月16日の手続補正において、その手続補正を特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとすべき補正事項は見あたらないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものであるということはできない。
したがって、1次決定の理由によっては、本件訂正発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。

5 むすび
以上のとおりであるから、上記いずれの理由によっても本件訂正発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1?5を特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2007-10-29 
出願番号 特願平8-163112
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B29C)
P 1 651・ 55- Y (B29C)
P 1 651・ 121- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 保倉 行雄  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 井上 彌一
鈴木 紀子
登録日 2001-09-21 
登録番号 特許第3233576号(P3233576)
権利者 ダイワ精工株式会社
発明の名称 釣り・スポーツ用具用部材  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 水野 浩司  
代理人 河野 哲  
代理人 青木 宏義  
代理人 幸長 保次郎  

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