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審決分類 審判 判定 審理一般(別表) 属さない(申立て不成立) H01M
管理番号 1167384
判定請求番号 判定2007-600053  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2007-12-28 
種別 判定 
判定請求日 2007-08-03 
確定日 2007-11-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第3731142号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件の説明書及びその図面に示す「試験用非水系電池セル」は、特許第3731142号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号物件の説明書及びその図面に示す試験用非水系電池セルは、特許第3731142号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものと認める。

2.本件に係る特許発明

2-1.本件に係る特許発明
特許第3731142号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、判定請求書に添付された特許第3731142号公報(以下、「本件特許公報」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものであると認める。
なお、本件特許発明については、その構成をAからFに分説して記載している。(以下、「構成要件A」などという。)

A 正極とセパレータと負極からなる平板状の積層体の電池要素を収容する凹部を有し且つ該凹部の底部に前記電池要素の一方の極に接続し外部に導通する第一の導体を有し平面状の接合面を有する第一の容器と、
B 前記電池要素を仮押さえし前記第一の容器とゴム状の気密封止部を介して接合されてなる平面状の接合面を有する第二の容器と、
C 前記第二の容器とゴム状の気密封止部を介して接合されてなり前記電池要素を密閉する平面状の接合面を有する第三の容器とからなり、
D 前記電池要素の他の一方の極に接続し前記第二の容器または第三の容器を通って外部に導通し且つ前記第一の容器に設けられた前記第一の導体とは絶縁されてなる第二の導体を有し、
E 且つ前記電池要素と前記第二の導体との間に介在する導電性のピンとばね要素を有するとともに、
F 第一の容器側と第三の容器側とは電解液注入用の穴により連通してなることを特徴とする試験用非水系電池セル。

2-2.本件特許発明の「第一の導体」及び「第二の導体」
構成要件Aの「第一の導体を有し平面状の接合面を有する第一の容器」における「第一の容器」、及び構成要件Dの「前記第二の容器または第三の容器を通って外部に導通し且つ前記第一の容器に設けられた前記第一の導体とは絶縁されてなる第二の導体」における「第二の容器」及び「第三の容器」とは、本件特許公報の「本発明において、第一または第二の導体は、第一乃至第三の容器が金属等の導体である場合は導体と容器とを兼ねることができる。」(段落【0005】)の記載によれば、それら容器自体が「導体」である場合を包含していると認められる。

3.イ号物件

1)判定請求書に添付された「イ号物件の説明書及びその図面並びに補足説明」(以下、「本件説明書」という。)の「イ号物件」、「構成の説明」には、以下のとおりに、記載されていると認める。

「正極とセパレータと負極からなる平板状の積層体の電池要素2を収容する凹部を有し且つ該凹部の底部が前記電池要素の一方の極に接続し外部に導通するものであって、平面状の接合面を有する、導体である金属の第一の容器1と、前記第一の容器1に取り付けた状態において、ばね要素17により絶縁リング3を前記第一の容器1の方向に付勢させ、これにより前記電池要素2を支持して押さえ、前記第一の容器1とゴム状の気密封止部7を介して接合されてなる、平面状の接合面を有する第二の容器8と、前記第二の容器8とゴム状の気密封止部14を介して接合されてなり、ばね要素13とピン11と上面が凹部形状の導電性部材18とを介して前記電池要素2を押圧し、前記気密封止部14、前記第二の容器8、前記気密封止部7及び前記第一の容器1とともに前記電池要素2を密封する、平面状の接合面を有する、導体である金属の第三の容器15とからなり、前記電池要素2の他の一方の極に導電性部材18とピン11とを介して接続し、前記第二の容器8及び前記第三の容器15を通って外部に導通し、且つ前記第一の容器1とは、つば付き絶縁リング9及び絶縁シート16により絶縁されてなる、導体である金属の前記第二の容器8及び前記第三の容器15を有し、且つ前記電池要素2と前記第三の容器15との間に介在する導電性のピン11とばね要素13とを有するとともに、第一の容器1側と第三の容器15側とは、電解液を注入すると絶縁リング3に設けられた貫通穴3aを介して当該電解液が電池要素2に到達するように設けられた小孔12により連通してなる試験用非水系電池セル。」

2)ここで、この試験用非水系電池セルについて、詳しく検討していくことにする。
本件説明書の図1?3によれば、小孔12は、第二の容器8に設けられ、該第二の容器8には、更に、ピン11が挿通される孔(以下、「ピン挿通孔」という。)が設けられていると認められる。そして、このピン挿通孔は、本件説明書の図6を併せ見れば、その横断面が円形であって、更に、ピン11の横断面も円形であり、ピン挿入孔の径及びピン11の径は、ピン11がピン挿通孔を形作る壁に対して、実質的に、隙間のない態様で挿通されるように設計されているものと認められる。
また、本件説明書の図2及び3によれば、絶縁リング3及び導電性部材18は、電池要素2と同様に、第一の容器1の凹部に収容され、該第一の容器1は、第二の容器8との間で上記凹部に相当する空間(以下、「凹部空間」という。)を形成しており、更に、ピン11は、この凹部空間内に突入するようにピン挿通孔に挿通されるものと認められる。
そして、電池要素2、絶縁リング3及び導電性部材18は、上記凹部に収容されているのではあるが、更に、本件説明書の「図5を参照して、イ号物件の絶縁リング3は、上端に環状の溝3cが切られており、その溝3cから軸方向に延伸する8つの貫通穴3aが設けられている。」(3頁3?4行)及び「図3を参照して、小孔12から電解液を絶縁リング3の溝3cに注入すると、電解液は、貫通穴3aに流れ込み、更に、貫通穴3a及びスリット3bを介して電池要素2に到達する。」(3頁18?20行)の記載、並びに図3及び5によれば、電池要素2が凹部上方に向けて開放されていない状態でも、絶縁リング3の上端に形成された溝3cに電解液を注入すると、該絶縁リング3に設けられた貫通穴3aを介して当該電解液が電池要素2に到達するように構成されていると認められる。

3)以上の検討を踏まえると、イ号物件は、次のとおりのものであると認める。
なお、イ号物件については、その構成をaからgに分説して記載している。(以下、「構成a」などという。)

a 正極とセパレータと負極からなる平板状の積層体の電池要素2を収容する凹部を有し且つ該凹部の底部が前記電池要素の一方の極に接続し外部に導通するものであって、平面状の接合面を有する、導体である金属の第一の容器1と、
b 前記第一の容器1に取り付けた状態において、ばね要素17により絶縁リング3を前記第一の容器1の方向に付勢させ、これにより前記電池要素2を支持して押さえ、前記第一の容器1とゴム状の気密封止部7を介して接合されてなる、平面状の接合面を有する第二の容器8と、
c 前記第二の容器8とゴム状の気密封止部14を介して接合されてなり、ばね要素13とピン11と上面が凹部形状の導電性部材18とを介して前記電池要素2を押圧し、前記気密封止部14、前記第二の容器8、前記気密封止部7及び前記第一の容器1とともに前記電池要素2を密封する、平面状の接合面を有する、導体である金属の第三の容器15とからなり、
d 前記電池要素2の他の一方の極に導電性部材18とピン11とを介して接続し、前記第二の容器8及び前記第三の容器15を通って外部に導通し、且つ前記第一の容器1とは、つば付き絶縁リング9及び絶縁シート16により絶縁されてなる、導体である金属の前記第二の容器8及び前記第三の容器15を有し、
e 且つ前記電池要素2と前記第三の容器15との間に介在する導電性のピン11とばね要素13とを有するとともに、
f 第一の容器1側と第三の容器15側とは、電解液を注入すると絶縁リング3に設けられた貫通穴3aを介して当該電解液が電池要素2に到達するように設けられた小孔12により連通してなる試験用非水系電池セルにおいて、
g 小孔12は、第二の容器8に設けられ、該第二の容器8には、更に、横断面が円形のピン挿通孔が形成され、ピン11も、その横断面が円形であり、ピン挿入孔の径及びピン11の径は、ピン11がピン挿通孔を形作る壁に対して、実質的に、隙間のない態様でピン挿通孔に挿通されるように設計され、
また、絶縁リング3及び導電性部材18は、電池要素2と同様に、第一の容器1の凹部に収容され、第一の容器1は、第二の容器8との間で凹部空間を形成しており、更に、ピン11は、凹部空間内に突入するようにピン挿通孔に挿通され、
更に、電池要素2が凹部上方に向けて開放されていない状態でも、絶縁リング3の上端に形成された溝3cに電解液を注入すると、該絶縁リング3に設けられた貫通穴3aを介して当該電解液が電池要素2に到達するように構成されている、上記試験用非水系電池セル。

4.イ号物件の構成と本件特許発明の構成要件の対比・判断
イ号物件の構成fが、本件特許発明の構成要件Fに対応することは明らかで、構成fが構成要件Fを充足するかについて検討すると、以下に詳述するように、充足しているということはできない。
そして、構成fが構成要件Fを充足するといえない以上、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属するということはできない。

1)構成要件Fの穴は、電解液注入用という用途の特定された穴、即ち、該用途に供される穴である。
これに対し、この穴に対応することに争いのない、構成fの小孔12は、これから電解液を注入すると絶縁リング3に設けられた貫通穴3aを介して電解液が電池要素2に到達するように設けられているものの、電解液注入用という用途に供されるものかは、分からないのである。

2)そこで、構成fの小孔12が、電解液注入用という用途に実質的に供されるものといえるかについて検討する。
まず、イ号物件の使用、即ち、これを用いた試験においては、電解液が電池要素2に付与された状態で為されることは明らかであると認める。
次に、この電解液の付与の仕方について考察すると、イ号物件は、電池要素2を含め、これを構成する各種部材を組立てて試験に供するものであり、この組立の工程のいずれかにおいて、電池要素2に電解液を付与することは明らかである。そこで、この組立の工程について、更に、考察すると、第一の容器1に第二の容器8を取り付ける前に、第一の容器1の凹部に電池要素2、絶縁リング3及び導電性部材18、それぞれを収容する工程があることは明らかで、この工程中における、例えば、電池要素2が凹部上方に向けて開放されている状態であれば、この時に電池要素2に電解液を付与することが可能であるし、また、その凹部上方が開放されていない状態の時でも、絶縁リング3は、その上端に形成された溝3cに電解液を注入すると、貫通穴3aを介して電池要素2に到達するよう構成されているのであるから、絶縁リング3の貫通穴3aを介して、電解液を電池要素2に付与することも可能であって、必ずしも、小孔12から電解液を注入しなければならないという必然性は見当たらない。
してみると、構成fの小孔12は、電解液注入用という用途に実質的に供されるものということはできない。

3)請求人は、これに関連して、本件請求書の「(F)イ号物件の構成F’について」(11頁11行?13頁15行)において、要するに、構成fの小孔12が設けられている技術的意義、更には、絶縁リング3に貫通穴3aが設けられている技術的意義が不明である点を主張するので検討する。

3-1)まず、絶縁リング3に貫通穴3aが設けられている技術的意義について検討する。
イ号物件の使用においては、電解液が電池要素2に付与された状態で為されることは明らかであり、第一の容器1に第二の容器8を取り付ける前の、第一の容器1の凹部に電池要素2、絶縁リング3及び導電性部材18、それぞれを収容する工程における、電池要素2が凹部上方に向けて開放されていない状態の時でも、絶縁リング3の貫通穴3aを介して、電解液を電池要素2に付与することが可能であることは、先に、「2)」で述べたとおりであって、このように、電池要素2が凹部上方に向けて開放されていない状態で凹部に収容されている状態でも、貫通穴3aには、これを介して電解液を電池要素2に付与できるという技術的意義があることを、少なくとも、認めることができる。

3-2)次に、構成fの小孔12が設けられている技術的意義について検討する。
イ号物件は、これを構成する各種部材を組立てて試験に供するものであることは、先に「2)」で述べたとおりであって、この組立の工程として、第一の容器1の凹部に電池要素2等を収容した上で、第一の容器1に第二の容器8を取り付け、その後、ピン11を第二の容器8に設けられたピン挿通孔に挿通する工程が、普通に想定できる。
その挿通の際、ピン11は、ピン挿通孔を形作る壁に対して、実質的に、隙間のない態様で挿通され、凹部空間内に突入するのであるから、凹部空間への突入量に応じた気体が凹部空間から排出される必要があるが、小孔12には、これを通じて、この排出を行うことができ、このことに技術的意義があることを、少なくとも、認めることができる。

3-3)以上のとおりであって、構成fの小孔12が設けられていることや、絶縁リング3に貫通穴3aが設けられていることに、全く、技術的意義が見出せないという訳ではない。

4)したがって、構成fが構成要件Fを充足しているということはできない。

5.むすび
イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属するということはできない。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2007-11-12 
出願番号 特願平8-143384
審決分類 P 1 2・ 0- ZB (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高木 正博  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 坂本 薫昭
吉水 純子
登録日 2005-10-21 
登録番号 特許第3731142号(P3731142)
発明の名称 試験用非水系電池セル  
代理人 福田 賢三  
代理人 福田 伸一  
代理人 福田 武通  
代理人 工藤 実  
代理人 吉岡 誠  
代理人 中尾 圭策  
代理人 加藤 恭介  

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