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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  G01L
管理番号 1167888
審判番号 無効2005-80224  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-07-14 
確定日 2007-10-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3145979号発明「力・加速度・磁気の検出装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3145979号の請求項1及び6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成2年10月12日にされた特許出願(特願平2-274299号)の分割出願として平成10年7月9日に特許出願(特願平10-210320号)がされ、平成13年1月5日に特許権の設定登録がされた特許第3145979号(以下「本件特許」という。)につき、平成17年7月14日にその請求項1及び6に係る特許に対してアナログデバイシーズ、インコーポレイテッドより無効審判の請求がされたものであり、同年10月20日に被請求人株式会社ワコーより訂正請求書及び答弁書が提出され、同年12月16日に請求人アナログデバイシーズ、インコーポレイテッドより弁駁書が提出され、平成18年4月25日に口頭審理が行われたものである。

第2 訂正請求について
1 訂正の内容
被請求人による訂正請求は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを請求するものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項1及び2のとおりである。
(1)訂正事項1
訂正事項1は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1を次のように訂正するものである。
ア 訂正前の請求項1
「【請求項1】 互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し、前記第1の軸方向に作用した力および前記第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をもった力検出装置であって、
装置筐体に対して変位が生じないように固定された固定要素と、
前記固定要素に可撓性部分を介して接続され、外部から作用した前記第1の軸方向の力もしくは前記第2の軸方向の力に基いて、前記可撓性部分が撓みを生じることにより、前記固定要素に対して前記第1の軸方向もしくは前記第2の軸方向に変位を生じる変位要素と、
前記変位要素の変位にかかわらず固定状態を維持するように前記固定要素上に形成された第1の固定電極、第2の固定電極、第3の固定電極、第4の固定電極と、
前記変位要素の変位とともに変位するように前記変位要素上に形成された第1の変位電極、第2の変位電極、第3の変位電極、第4の変位電極と、を備え、
前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とによって第1の容量素子が形成され、
前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とによって第2の容量素子が形成され、
前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とによって第3の容量素子が形成され、
前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とによって第4の容量素子が形成され、
かつ、前記変位要素が前記第1の軸の正方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が増加し、前記変位要素が前記第1の軸の負方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が減少し、前記変位要素が前記第2の軸の正方向に変位した場合、前記第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が増加し、前記変位要素が前記第2の軸の負方向に変位した場合、前記第3の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が減少するように、前記各固定電極および前記各変位電極が配置されており、
前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差によって、前記第1の軸方向に作用した力を検出し、前記第3の容量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との差によって、前記第2の軸方向に作用した力を検出するように構成したことを特徴とする力検出装置。」
イ 訂正後の請求項1
「【請求項1】 互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し、前記第1の軸方向に作用した力および前記第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をもった力検出装置であって、
装置筐体に対して変位が生じないように固定された固定要素と、
前記固定要素に可撓性部分を介して接続され、外部から作用した前記第1の軸方向の力もしくは前記第2の軸方向の力に基いて、前記可撓性部分が撓みを生じることにより、前記固定要素に対して前記第1の軸方向もしくは前記第2の軸方向に変位を生じる変位要素と、
前記変位要素の変位にかかわらず固定状態を維持するように前記固定要素上に形成された第1の固定電極、第2の固定電極、第3の固定電極、第4の固定電極と、
前記変位要素の変位とともに変位するように前記変位要素上に形成された第1の変位電極、第2の変位電極、第3の変位電極、第4の変位電極と、
を備え、
前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とによって第1の容量素子が形成され、
前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とによって第2の容量素子が形成され、
前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とによって第3の容量素子が形成され、
前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とによって第4の容量素子が形成され、
かつ、前記変位要素が前記第1の軸の正方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が増加し、前記変位要素が前記第1の軸の負方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が減少し、前記変位要素が前記第2の軸の正方向に変位した場合、前記第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が増加し、前記変位要素が前記第2の軸の負方向に変位した場合、前記第3の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が減少するように、前記各固定電極および前記各変位電極が配置されており、
前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差を、前記第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力し、前記第3の容量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との差を、前記第2の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力する検出回路を更に備え、
前記固定要素および前記変位要素がシリコンにより構成されていることを特徴とする力検出装置。」
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正事項1による訂正に対応して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】を次のように訂正するものである。
ア 訂正前の段落【0008】
「【0008】
【課題を解決するための手段】
(1)本発明の第1の態様は、互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し、第1の軸方向に作用した力および第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をもった力検出装置において、
装置筐体に対して変位が生じないように固定された固定要素と、
この固定要素に可撓性部分を介して接続され、外部から作用した第1の軸方向の力もしくは第2の軸方向の力に基いて、可撓性部分が撓みを生じることにより、固定要素に対して第1の軸方向もしくは第2の軸方向に変位を生じる変位要素と、
変位要素の変位にかかわらず固定状態を維持するように固定要素上に形成された第1の固定電極、第2の固定電極、第3の固定電極、第4の固定電極と、
変位要素の変位とともに変位するように変位要素上に形成された第1の変位電極、第2の変位電極、第3の変位電極、第4の変位電極と、
を設け、
第1の固定電極と第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、第1の固定電極と第1の変位電極とによって第1の容量素子が形成され、
第2の固定電極と第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、第2の固定電極と第2の変位電極とによって第2の容量素子が形成され、
第3の固定電極と第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、第3の固定電極と第3の変位電極とによって第3の容量素子が形成され、
第4の固定電極と第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、第4の固定電極と第4の変位電極とによって第4の容量素子が形成され、
かつ、変位要素が第1の軸の正方向に変位した場合、第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに第2の容量素子の電極間距離が増加し、変位要素が第1の軸の負方向に変位した場合、第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに第2の容量素子の電極間距離が減少し、変位要素が第2の軸の正方向に変位した場合、第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに第4の容量素子の電極間距離が増加し、変位要素が第2の軸の負方向に変位した場合、第3の容量素子の電極間距離が増加するとともに第4の容量素子の電極間距離が減少するように、各固定電極および各変位電極を配置するようにし、
第1の容量素子の容量値と第2の容量素子の容量値との差によって、第1の軸方向に作用した力を検出し、第3の容量素子の容量値と第4の容量素子の容量値との差によって、第2の軸方向に作用した力を検出するように構成したものである。」
イ 訂正後の段落【0008】
「【0008】
【課題を解決するための手段】
(1)本発明の第1の態様は、互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し、第1の軸方向に作用した力および第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をもった力検出装置において、
装置筐体に対して変位が生じないように固定された固定要素と、
前記固定要素に可撓性部分を介して接続され、外部から作用した第1の軸方向の力もしくは第2の軸方向の力に基いて、可撓性部分が撓みを生じることにより、固定要素に対して第1の軸方向もしくは第2の軸方向に変位を生じる変位要素と、
変位要素の変位にかかわらず固定状態を維持するように固定要素上に形成された第1の固定電極、第2の固定電極、第3の固定電極、第4の固定電極と、
変位要素の変位とともに変位するように変位要素上に形成された第1の変位電極、第2の変位電極、第3の変位電極、第4の変位電極と、
を設け、
第1の固定電極と第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、第1の固定電極と第1の変位電極とによって第1の容量素子が形成され、
第2の固定電極と第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、第2の固定電極と第2の変位電極とによって第2の容量素子が形成され、
第3の固定電極と第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、第3の固定電極と第3の変位電極とによって第3の容量素子が形成され、
第4の固定電極と第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、第4の固定電極と第4の変位電極とによって第4の容量素子が形成され、
かつ、変位要素が第1の軸の正方向に変位した場合、第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに第2の容量素子の電極間距離が増加し、変位要素が第1の軸の負方向に変位した場合、第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに第2の容量素子の電極間距離が減少し、変位要素が第2の軸の正方向に変位した場合、第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに第4の容量素子の電極間距離が増加し、変位要素が第2の軸の負方向に変位した場合、第3の容量素子の電極間距離が増加するとともに第4の容量素子の電極間距離が減少するように、各固定電極および各変位電極が配置されており、
第1の容量素子の容量値と第2の容量素子の容量値との差を、第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力し、第3の容量素子の容量値と第4の容量素子の容量値との差を、第2の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力する検出回路を更に設け、
固定要素および変位要素をシリコンにより構成したものである。」
2 訂正の可否について
訂正事項1は、請求項1の「前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差によって、前記第1の軸方向に作用した力を検出し、前記第3の容量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との差によって、前記第2の軸方向に作用した力を検出するように構成した」を「前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差を、前記第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力し、前記第3の容量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との差を、前記第2の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力する検出回路を更に備え、前記固定要素および前記変位要素がシリコンにより構成されている」と限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としており、本件特許明細書の段落【0022】、【0029】等を根拠とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項2は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とし、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求人は、この訂正につき、訂正後の請求項1は明細書の段落【0022】及び図6に記載の方法以外の方法に従って作用点Pに作用した力のZ軸方向成分を示す信号を生成し、その信号を出力するという態様をも包含することとなり、「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲を超えている」として認められず、検出の対象を「力」から「力方向成分」に変更する訂正は実質上特許請求の範囲を変更するものであり、更に、請求項1に「前記固定要素および前記変位要素がシリコンにより構成されている」という記載を追加する訂正は、訂正後の請求項1が変位基板20cの一部がシリコン以外の材料により構成されている態様をも包含することを意味し、このことは、変位基板20cの全部がシリコンにより構成されることを記載する明細書の段落【0029】に矛盾すると主張する。
しかしながら、訂正後の請求項1は、訂正前の請求項1を減縮するものであり、訂正事項1の「前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差を、前記第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力し、前記第3の容量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との差を、前記第2の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力する検出回路を更に備え」及び「前記固定要素および前記変位要素がシリコンにより構成されている」は願書に添付した明細書の段落【0022】、【0029】等に記載があり、上記訂正が願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲を超えているということはできない。また、訂正後の請求項1には「第1の軸方向に作用した力方向成分」、「第2の軸方向に作用した力方向成分」なる記載がされているが、これは訂正前の請求項1の「第1の軸方向に作用した力」、「第2の軸方向に作用した力」と変わるものではなく、実質上特許請求の範囲を変更するものではない。請求項1に「前記固定要素および前記変位要素がシリコンにより構成されている」という記載を追加する訂正については、本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明に「【0029】図9に示す実施形態は、固定基板10c、変位基板20c、作用体30c、のすべてにシリコンなどの半導体を使用した例である。」との記載がされており、この記載によれば固定基板、変位基板がシリコンにより構成され、その結果、固定要素、変位要素がシリコンにより構成されることとなるから、請求項1の「前記固定要素および前記変位要素がシリコンにより構成されている」という記載は段落【0029】の記載に矛盾するものではない。そうすると、請求人の上記訂正に関する主張は、根拠がない。
したがって、上記訂正は、特許法134条の2第5項において準用する、平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書、2項及び3項の規定に適合するので、これを認める。

第3 請求人の主張
本件特許の請求項1及び6に係る特許を無効とする、との審決を求める。
本件特許は、特許法29条1項3号の規定に違反してされたというべきであるから、特許法123条1項2号の規定により無効とされるべきである。
本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたというべきであるから、特許法123条1項2号の規定により無効とされるべきである。
証拠方法として、甲第1号証(米国特許第4941354号公報)、甲第2号証(米国特許第3270260号公報)、甲第3号証(特開昭62-123361号公報)、甲第4号証(国際公開WO89/9927号公報)、甲第5号証(米国特許第4719538号公報)、甲第6号証(米国特許第4372162号公報)及び甲第7号証(特開昭60-207066号公報)を提出する。

第4 被請求人の主張
本件審判請求は成り立たない、との審決を求める。
訂正請求により、本件特許センサは、「前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差を、前記第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力し、前記第3の容量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との差を、前記第2の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力する検出回路を更に備え」及び「前記固定要素および前記変位要素がシリコンにより構成されている」という新たな構成要件が必須となった。この新たに加えられた2つの構成要件は、甲各号証のいずれにも記載のない事項である。
訂正後の請求項1及び6に係る発明は、甲各号証に対して新規性及び進歩性を有し、特許法29条1項及び2項の規定に違反するものではない。

第5 本件特許発明
本件特許の請求項1及び6に係る発明は、その訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び6に記載された上記のとおりのものである。

第6 証拠方法
請求人の提出した証拠方法のうち、甲第1号証及び甲第7号証には以下の事項が記載されている。(なお、甲第1号証の翻訳は、原則として請求人及び被請求人の抄訳による。)
1 甲第1号証(米国特許第4941354号公報)
甲第1号証には、図面とともに、「本発明によれば、3軸の加速度計が提供される。この加速度計は、ハウジングと、加えられた力に応答して3つの測定軸に対して変位可能なようにそのハウジング内に取り付けられたマグネットと、マグネットの変位を検知し、3つの測定軸のそれぞれに沿って加えられた力の成分に比例する出力信号を提供する検知手段とを含む。」(原文1欄32?40行)、「図1を参照して、図示される加速度計1は、導電性のハウジング2を含む。ハウジング2は、下部ハウジング部分3と上部ハウジング部分4とから構成されており、ハウジング2とは電気的に絶縁されているケーシング5によって囲まれている。ケーシング5は、磁気的なスクリーニングを提供するために、ラジオメタルのような軟磁性アロイから作成されている。サマリウムコバルトの永久マグネット6は、導電性の支持部材7内の円柱状のボア50の中に受容されることによってハウジング2内に取り付けられている。支持部材7は、中央孔8を介して下部ハウジング部分3の中を延びている。支持部材7は、ネジ51によって導電性の円形の支持ダイヤフラム9の中央に接続されている。ネジ51は、ダイヤフラム9を介して支持部材7の中をネジがきられたボア52に延びている。支持部材7の軸方向のマグネット6の移動は、Z測定軸に沿っており、ダイヤフラム9の平面と垂直な方向にダイヤフラム9が変形することによって許容される。さらに、支持部材7の軸に対して横方向のマグネット6の移動は、ダイヤフラム9に平行な平面内で直交するXおよびY測定軸に沿っており、ダイヤフラム9の中心を軸として支持部材7を回転させるようにダイヤフラム9が撓むことによって許容される。」(原文2欄14?39行)、「支持部材7の上部分には、ピックオフキャパシタ14の可動プレート13を構成する環状のフランジが設けられている。キャパシタ14は、従来のプリント回路プロセスによって回路板15の下側に形成された固定された円状のプレートをさらに含み、ネジ16によってハウジング固定されている。ネジ16はまた、下部ハウジング部分3と上部ハウジング部分4とを接続する。図3に示されるように、固定プレート17は、4つのプレート部分18、19、20、21を含む。これらのプレート部分は、互いに電気的に絶縁されており、中央点22の周りにある共通のプレートに配置されている。」(原文2欄47?57行)、「図3を再び参照して、ピックオフキャパシタ14の4つのプレート部分18?21をYA、XA、YB、XBと表記し、これらのプレート部分のそれぞれと可動プレート13との間の静電容量をCYA、CXA、CYB、CXBと表記すると、X、Y、Z軸に沿ってそれぞれ△X、△Y、△Z移動することにより、その変形に比例して静電容量が変化する。
△X ∝ CXA-CXB
△Y ∝ CYA-CYB
△Z ∝ CXA+CXB+CYA+CYB
このような軸方向のマグネット6の移動は、可動プレート13と固定プレート17との間の静電容量を変化させる。横方向のマグネット6の移動は、可動プレート13とそれに対向するプレート部分19および21(もしくは、18および20)との間の差動静電容量に変化を生じさせる。」(原文3欄15?33行)、「マグネット6が、可動プレート13とプレート部分19との間の間隔が増加するように中立位置から移動すると、CXAはCREFより小さくなり、VXAは励起電圧Φに対して180゜位相がずれることになる。逆に、マグネット6が、その間隔が減少するように中立位置から移動すると、CXAはCREFより大きくなり、VXAはΦと同位相になる。出力電圧VXB、VYA、VYBは、プレート部分21、18、20にそれぞれ関連する同様のピックオフ増幅回路によって供給される。」(原文3欄54?63行)、「増幅器49は、矩形波電圧VXAとVXBとの差に応じた直流出力を発生させ、この直流出力は、X軸フォースコイル30、32および電流検出抵抗58を流れる復帰電流を生じさせる。フォースコイル30、32を流れる電流の方向は、マグネット6を中立位置に戻す方向であり、ピックオフキャパシタ14の可動プレート13がプレート部分19、21に関して左右対称に配置されるようにする方向である。」(原文4欄30?38行)等の記載がされている。
2 甲第7号証(特開昭60-207066号公報)
甲第7号証には、図面とともに、「本発明は、フラット形振子構造を用い、該構造体の面内に感応軸線がある加速度計用センサに関する。特に本発明は、前記振子構造が例えばシリコン或いは石英からなる結晶性ウエハを微細機械加工して形成され、且つ平形試験体の面内の2つの可撓性平行ブレードにより懸架された前記試験体よりなる加速度計用センサに関する。」(3頁左上欄17行?右上欄4行)、「第1図は本発明による振子構造の基本的配置を示すものである。上記のように、この構造は平面状であり、結晶性シリコン或いは石英ウエハの微細機械加工により単一片に形成され、これは更に集積電子回路の基板として用いられる。」(4頁右上欄12?16行)等の記載がされている。

第7 当審の判断
1 本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)について
本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比する。
甲第1号証に記載されたX及びY測定軸は、本件発明1の「第1の軸」及び「第2の軸」に相当する。
甲第1号証に記載された加速度計1は、加えられた力に応答し、加えられた力の成分に比例する出力信号を提供するものであるから、本件発明1の「力検出装置」に相当する。
甲第1号証に記載されたハウジング2、回路板15は、それぞれ本件発明1の「装置筐体」、「固定要素」に相当する。
甲第1号証に記載されたダイヤフラム9、環状のフランジは、それぞれ本件発明1の可撓性部分、変位要素に相当する。
甲第1号証に記載された固定プレート17のプレート部分18から21までは本件発明1の「第1の固定電極」から「第4の固定電極」に相当し、甲第1号証に記載された可動プレート13は本件発明1の「第1の変位電極」から「第4の変位電極」までに相当し、甲第1号証に記載された4つの静電容量を形成するものは本件発明1の「第1の容量素子」から「第4の容量素子」までに相当する。
甲第1号証に記載された発明では、支持部材7の軸に対して横方向のマグネット6の移動でダイヤフラム9の中心を軸として支持部材7を回転させるようにダイヤフラム9が撓み、可動プレート13とプレート部分との間の間隔が増加又は減少し、可動プレート13とそれに対向するプレート部分19と21(又は18と20)との間の差動静電容量に変化を生じさせており、このことは本件発明1において「前記変位要素が前記第1の軸の正方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が増加し、前記変位要素が前記第1の軸の負方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が減少し、前記変位要素が前記第2の軸の正方向に変位した場合、前記第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が増加し、前記変位要素が前記第2の軸の負方向に変位した場合、前記第3の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が減少するように、前記各固定電極および前記各変位電極が配置されて」いることに相当する。
甲第1号証には、矩形波電圧VXAとVXBとの差に応じた直流出力を発生して復帰電流を生じさせ電圧VXを得る回路が図5等に示され、この矩形波電圧VXA等は図4等に示されているように静電容量CXA等に対応するものであるから、これらの回路は本件発明1の「前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差を、前記第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力し、前記第3の容量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との差を、前記第2の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力する検出回路」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲第1号証に記載された発明とは以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
一致点 本件発明1と甲第1号証に記載された発明とが「互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し、前記第1の軸方向に作用した力および前記第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をもった力検出装置であって、装置筐体に対して変位が生じないように固定された固定要素と、前記固定要素に可撓性部分を介して接続され、外部から作用した前記第1の軸方向の力もしくは前記第2の軸方向の力に基いて、前記可撓性部分が撓みを生じることにより、前記固定要素に対して前記第1の軸方向もしくは前記第2の軸方向に変位を生じる変位要素と、前記変位要素の変位にかかわらず固定状態を維持するように前記固定要素上に形成された第1の固定電極、第2の固定電極、第3の固定電極、第4の固定電極と、前記変位要素の変位とともに変位するように前記変位要素上に形成された第1の変位電極、第2の変位電極、第3の変位電極、第4の変位電極と、を備え、前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とによって第1の容量素子が形成され、前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とによって第2の容量素子が形成され、前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とによって第3の容量素子が形成され、前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とによって第4の容量素子が形成され、かつ、前記変位要素が前記第1の軸の正方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が増加し、前記変位要素が前記第1の軸の負方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が減少し、前記変位要素が前記第2の軸の正方向に変位した場合、前記第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が増加し、前記変位要素が前記第2の軸の負方向に変位した場合、前記第3の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が減少するように、前記各固定電極および前記各変位電極が配置されており、前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差を、前記第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力し、前記第3の容量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との差を、前記第2の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力する検出回路を更に備え」た「力検出装置」である点。
相違点 本件発明1では「前記固定要素および前記変位要素がシリコンにより構成されている」のに対し、甲第1号証に記載された発明ではこのような構成を備えていない点。
この相違点について検討すると、センサにおいて基板にシリコンを用いることは、例えば特開昭60-207066号公報(甲第7号証)にも記載され、周知であるということができる。そうすると、甲第1号証に記載された発明においてこのような周知の技術手段を適用し、回路板15等の固定された部分、可動プレート13を構成する環状のフランジ等の変位する部分にシリコンを用い、上記相違点のようにすることは当業者が適宜に行いうることである。
本件発明1の効果についてみても、甲第1号証に記載された発明及び周知の技術手段から予測しうるものであって、格別のものではない。
なお、被請求人は、甲第1号証に記載された発明ではマグネット6を中立位置に戻すための制御に必要になった電力を所定軸方向に作用した力として検出しているのであり、本件発明1のように静電容量の差を所定軸方向に作用した力として検出しているのではないと主張する。
しかしながら、甲第1号証に記載された発明においては、増幅器49は矩形波電圧VXAとVXBとの差に応じた直流出力を発生させており、矩形波電圧VXAとVXBとはそれぞれ静電容量CXAとCXBに対応しているから、上記矩形波電圧VXAとVXBとの差に応じた直流出力は静電容量CXAとCXBとの差に応じた出力であり、そうすると、甲第1号証に記載された発明は、上記直流出力により復帰電流を生じさせているとしても、同時に、静電容量の差を所定軸方向に作用した力として検出しているということができる。
したがって、本件発明1は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び周知の技術手段に基いて容易に発明をすることができたものである。
2 本件特許の請求項6に係る発明(以下「本件発明6」という。)について
甲第1号証に記載された発明は、加えられた力に比例する出力信号を提供する検知手段を含む加速度計に関する発明である。
本件発明6と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両発明は、上記一致点で一致し、更に「変位要素に作用する加速度に基いて発生する力を検出することにより、加速度の検出を行い得るようにした」「加速度検出装置」である点でも一致し、上記相違点で相違する。
上記相違点については、既に検討したとおりである。
本件発明6の効果についてみても、甲第1号証に記載された発明及び周知の技術手段から予測しうるものであって、格別のものではない。
したがって、本件発明6は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び周知の技術手段に基いて容易に発明をすることができたものである。

第8 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1及び6に係る発明は、当業者が甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1及び6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条2項において準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
力・加速度・磁気の検出装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し、前記第1の軸方向に作用した力および前記第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をもった力検出装置であって、
装置筐体に対して変位が生じないように固定された固定要素と、
前記固定要素に可撓性部分を介して接続され、外部から作用した前記第1の軸方向の力もしくは前記第2の軸方向の力に基いて、前記可撓性部分が撓みを生じることにより、前記固定要素に対して前記第1の軸方向もしくは前記第2の軸方向に変位を生じる変位要素と、
前記変位要素の変位にかかわらず固定状態を維持するように前記固定要素上に形成された第1の固定電極、第2の固定電極、第3の固定電極、第4の固定電極と、
前記変位要素の変位とともに変位するように前記変位要素上に形成された第1の変位電極、第2の変位電極、第3の変位電極、第4の変位電極と、
を備え、
前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とによって第1の容量素子が形成され、
前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とによって第2の容量素子が形成され、
前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とによって第3の容量素子が形成され、
前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とによって第4の容量素子が形成され、
かつ、前記変位要素が前記第1の軸の正方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が増加し、前記変位要素が前記第1の軸の負方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が減少し、前記変位要素が前記第2の軸の正方向に変位した場合、前記第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が増加し、前記変位要素が前記第2の軸の負方向に変位した場合、前記第3の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が減少するように、前記各固定電極および前記各変位電極が配置されており、
前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差を、前記第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力し、前記第3の容量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との差を、前記第2の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力する検出回路を更に備え、
前記固定要素および前記変位要素がシリコンにより構成されていることを特徴とする力検出装置。
【請求項2】請求項1に記載の力検出装置において、
固定要素上に形成された第5の固定電極と変位要素上に形成された第5の変位電極とを更に設け、前記第5の固定電極と前記第5の変位電極とは互いに対向する位置に配置されるようにし、前記第5の固定電極と前記第5の変位電極とによって第5の容量素子を形成し、
第1の軸および第2の軸の双方に直交する第3の軸を定義し、外部から作用した前記第3の軸方向の力に基いて、前記変位要素が前記固定要素に対して前記第3の軸方向に変位を生じるように構成し、
前記変位要素が前記第3の軸の正方向に変位した場合、前記第5の容量素子の電極間距離が減少もしくは増加し、前記変位要素が前記第3の軸の負方向に変位した場合、前記第5の容量素子の電極間距離が増加もしくは減少するように、前記第5の固定電極および前記第5の変位電極を配置し、
前記第5の容量素子の容量値に基いて、前記第3の軸方向に作用した力を検出できるように構成したことを特徴とする力検出装置。
【請求項3】請求項1または2に記載の力検出装置において、
固定要素上の、変位電極に対向する位置に補助電極を設け、前記変位電極と前記補助電極との間に所定の電圧を印加し、両者間に作用するクーロン力によって変位要素に変位を生じさせることができるようにしたことを特徴とする力検出装置。
【請求項4】請求項1または2に記載の力検出装置において、
変位要素上の、固定電極に対向する位置に補助電極を設け、前記固定電極と前記補助電極との間に所定の電圧を印加し、両者間に作用するクーロン力によって変位要素に変位を生じさせることができるようにしたことを特徴とする力検出装置。
【請求項5】請求項1?4のいずれかに記載の力検出装置において、
複数の変位電極または複数の固定電極のいずれか一方を、物理的に単一の共通電極によって形成したことを特徴とする力検出装置。
【請求項6】請求項1?5のいずれかに記載の検出装置において、変位要素に作用する加速度に基いて発生する力を検出することにより、加速度の検出を行い得るようにしたことを特徴とする加速度検出装置。
【請求項7】請求項1?5のいずれかに記載の検出装置において、変位要素の少なくとも一部を磁性材料によって構成し、この磁性材料部分に作用する磁力に基いて発生する力を検出することにより、磁気の検出を行い得るようにしたことを特徴とする磁気検出装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は力検出装置、特に多次元の各成分ごとに力を検出するのに適し、加速度や磁気の検出にも適用しうる力検出装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車産業や機械産業などでは、力、加速度、磁気といった物理量を正確に検出できる検出装置の需要が高まっている。特に、二次元あるいは三次元の各成分ごとにこれらの物理量を検出しうる小型の装置が望まれている。
【0003】
このような需要に応えるため、シリコンなどの半導体基板にゲージ抵抗を形成し、外部から加わる力に基づいて基板に生じる機械的な歪みを、ピエゾ抵抗効果を利用して電気信号に変換する力検出装置が提案されている。この力検出装置の検出部に、重錘体を取り付ければ、重錘体に加わる加速度を力として検出する加速度検出装置が実現でき、磁性体を取り付ければ、磁性体に作用する磁気を力として検出する磁気検出装置が実現できる。
【0004】
たとえば、特許協力条約に基づく国際出願に係るPCT/JP88/00395号明細書およびPCT/JP88/00930号明細書には、上述の原理に基づく力検出装置、加速度検出装置、磁気検出装置が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、ゲージ抵抗やピエゾ抵抗係数には温度依存性があるため、上述した検出装置では、使用する環境の温度に変動が生じると検出値が誤差を含むようになる。したがって、正確な測定を行うためには、温度補償を行う必要がある。特に、自動車などの分野で用いる場合、-40℃?+120℃というかなり広い動作温度範囲について温度補償が必要になる。
【0006】
また、上述した検出装置を製造するには、半導体基板を処理する高度なプロセスが必要になり、イオン注入装置などの高価な装置も必要になる。このため、製造コストが高くなるという問題がある。
【0007】
そこで本発明は、温度補償を行うことなく、力、加速度、磁気などの物理量を検出することができ、しかも安価に供給しうる検出装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
(1)本発明の第1の態様は、互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し、第1の軸方向に作用した力および第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をもった力検出装置において、
装置筐体に対して変位が生じないように固定された固定要素と、
この固定要素に可撓性部分を介して接続され、外部から作用した第1の軸方向の力もしくは第2の軸方向の力に基いて、可撓性部分が撓みを生じることにより、固定要素に対して第1の軸方向もしくは第2の軸方向に変位を生じる変位要素と、
変位要素の変位にかかわらず固定状態を維持するように固定要素上に形成された第1の固定電極、第2の固定電極、第3の固定電極、第4の固定電極と、
変位要素の変位とともに変位するように変位要素上に形成された第1の変位電極、第2の変位電極、第3の変位電極、第4の変位電極と、
を設け、
第1の固定電極と第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、第1の固定電極と第1の変位電極とによって第1の容量素子が形成され、
第2の固定電極と第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、第2の固定電極と第2の変位電極とによって第2の容量素子が形成され、
第3の固定電極と第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、第3の固定電極と第3の変位電極とによって第3の容量素子が形成され、
第4の固定電極と第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、第4の固定電極と第4の変位電極とによって第4の容量素子が形成され、
かつ、変位要素が第1の軸の正方向に変位した場合、第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに第2の容量素子の電極間距離が増加し、変位要素が第1の軸の負方向に変位した場合、第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに第2の容量素子の電極間距離が減少し、変位要素が第2の軸の正方向に変位した場合、第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに第4の容量素子の電極間距離が増加し、変位要素が第2の軸の負方向に変位した場合、第3の容量素子の電極間距離が増加するとともに第4の容量素子の電極間距離が減少するように、各固定電極および各変位電極を配置するようにし、
第1の容量素子の容量値と第2の容量素子の容量値との差を、第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力し、第3の容量素子の容量値と第4の容量素子の容量値との差を、第2の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力する検出回路を更に設け、
固定要素および変位要素をシリコンにより構成したものである。
【0009】
(2)本発明の第2の態様は、上述の第1の態様に係る力検出装置において、
固定要素上に形成された第5の固定電極と変位要素上に形成された第5の変位電極とを更に設け、第5の固定電極と第5の変位電極とは互いに対向する位置に配置されるようにし、第5の固定電極と第5の変位電極とによって第5の容量素子を形成し、
第1の軸および第2の軸の双方に直交する第3の軸を定義し、外部から作用した第3の軸方向の力に基いて、変位要素が固定要素に対して第3の軸方向に変位を生じるように構成し、
変位要素が第3の軸の正方向に変位した場合、第5の容量素子の電極間距離が減少もしくは増加し、変位要素が第3の軸の負方向に変位した場合、第5の容量素子の電極間距離が増加もしくは減少するように、第5の固定電極および第5の変位電極を配置し、
第5の容量素子の容量値に基いて、第3の軸方向に作用した力を検出できるように構成したものである。
【0010】
(3)本発明の第3の態様は、上述の第1または第2の態様に係る力検出装置において、固定要素上の、変位電極に対向する位置に補助電極を設け、変位電極と補助電極との間に所定の電圧を印加し、両者間に作用するクーロン力によって変位要素に変位を生じさせることができるようにしたものである。
【0011】
(4)本発明の第4の態様は、上述の第1または第2の態様に係る力検出装置において、変位要素上の、固定電極に対向する位置に補助電極を設け、固定電極と補助電極との間に所定の電圧を印加し、両者間に作用するクーロン力によって変位要素に変位を生じさせることができるようにしたものである。
【0012】
(5) 本発明の第5の態様は、上述の第1?第4の態様に係る力検出装置において、複数の変位電極または複数の固定電極のいずれか一方を、物理的に単一の共通電極によって形成するようにしたものである。
【0013】
(6) 本発明の第6の態様は、上述の第1?第5の態様に係る検出装置において、変位要素に作用する加速度に基いて発生する力を検出することにより、加速度の検出を行い得るようにしたものである。
【0014】
(7) 本発明の第7の態様は、上述の第1?第5の態様に係る検出装置において、変位要素の少なくとも一部を磁性材料によって構成し、この磁性材料部分に作用する磁力に基いて発生する力を検出することにより、磁気の検出を行い得るようにしたものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図示する実施形態に基いて説明する。ここで説明する実施形態は、本発明に係る力検出装置を加速度検出装置として用いた例である。
【0016】
§1.本発明の基本的な実施形態
図1は、本発明に係る力検出装置を、加速度検出装置として用いた基本的な実施形態の構造を示す側断面図である。この装置の主たる構成要素は、固定基板10、変位基板20、作用体30、そして装置筐体40である。図2(a)に、固定基板10の下面図を示す。図2(a)の固定基板10をX軸に沿って切断した断面が図1に示されている。固定基板10は、図示のとおり円盤状の基板であり、周囲は装置筐体40に固定されている。この下面には、同じく円盤状の固定電極11が形成されている。一方、図2(b)に、変位基板20の上面図を示す。図2(b)の変位基板20をX軸に沿って切断した断面が図1に示されている。変位基板20も、図示のとおり円盤状の基板であり、周囲は装置筐体40に固定されている。この上面には、四分円盤状の変位電極21?24が形成されている。作用体30は、その上面が図2(b)に破線で示されているように、円柱状をしており、変位基板20の下面に、同軸接合されている。装置筐体40は、円筒状をしており、固定基板10および変位基板20の周囲を固着支持している。
【0017】
固定基板10および変位基板20は、互いに平行な位置に所定間隔をおいて配設されている。いずれも円盤状の基板であるが、固定基板10は剛性が高く撓みを生じにくい基板であるのに対し、変位基板20は可撓性をもち、力が加わると撓みを生じる基板となっている。結局、固定基板10は装置筐体40に固定された固定要素として機能するのに対し、変位基板20はこの固定要素に対して可撓性部分を介して接続されており、変位基板20の中央部分は作用体30とともに変位要素(固定要素に対して相対的な変位を生じる要素)として機能することになる。いま、図1に示すように、作用体30の重心に作用点Pを定義し、この作用点Pを原点とするXYZ三次元座標系を図のように定義する。すなわち、図1の右方向にX軸、上方向にZ軸、紙面に対して垂直に紙面裏側へ向かう方向にY軸、をそれぞれ定義する。すると、変位要素は、X,Y,Zの各軸方向に変位可能な状態で、固定要素に対して接続されていることになる。
【0018】
ここで、この装置全体をたとえば自動車に搭載したとすると、自動車の走行に基づき作用体30に加速度が加わることになる。この加速度により、作用点Pに外力が作用する。作用点Pに力が作用していない状態では、図1に示すように、固定電極11と変位電極21?24とは所定間隔をおいて平行な状態を保っている。ところが、たとえば、作用点PにX軸方向の力Fxが作用すると、この力Fxは変位基板20に対してモーメント力を生じさせ、図3に示すように、変位基板20に撓みが生じることになる。この撓みにより、変位電極21と固定電極11との間隔は大きくなるが、変位電極23と固定電極11との間隔は小さくなる。作用点Pに作用した力が逆向きの-Fxであったとすると、これと逆の関係の撓みが生じることになる。一方、Y方向の力Fyまたは-Fyが作用した場合は、変位電極22と固定電極11との間隔、および変位電極24と固定電極11との間隔、について同様の変化が生じる。また、Z軸方向の力Fzが作用した場合は、図4に示すように、変位電極21?24のすべてが固定電極11に接近することになり、逆向きの力-Fzが作用しした場合は、変位電極21?24のすべてが固定電極11から遠ざかるようになる。
【0019】
ここで、各電極によって構成される容量素子について考えてみる。図2(a)に示す固定基板10の下面と、図2(b)に示す変位基板20の上面とは、互いに対向する面となる。したがって、電極間の対向関係は、変位電極21?24のそれぞれか、固定電極11の各対向部分と向かい合うことになる。別言すれば、固定電極11は1枚の共通電極となるが、変位電極21?24はそれぞれ四分円の領域に局在する局在電極となる。共通電極は1枚であっても、4枚の局在電極はそれぞれ電気的に独立しているため、電気的特性に関しては、4つのグループの容量素子が形成できる。第1のグループに属する容量素子は、X軸の負方向に配された変位電極21と固定電極11との組み合わせであり、第2のグループに属する容量素子は、Y軸の正方向に配された変位電極22と固定電極11との組み合わせであり、第3のグループに属する容量素子は、X軸の正方向に配された変位電極23と固定電極11との組み合わせであり、第4のグループに属する容量素子は、Y軸の負方向に配された変位電極24と固定電極11との組み合わせである。いま、これらの各容量素子の静電容量をC1,C2,C3,C4と表わすことにする。図1に示すように、作用点Pに力が作用していない状態では、各容量素子の電極間隔はいずれも同一の寸法に保たれており、静電容量はいずれも標準値C0をとる。すなわち、C1=C2=C3=C4=C0である。ところが、図3あるいは図4に示すように、作用点Pに力が作用し、変位基板20に撓みが生じると、各容量素子の電極間隔は変化し、その静電容量も標準値C0とは異なった値となる。一般に、容量素子の静電容量Cは、電極面積をS、電極間隔をd、誘電率をεとすると、
C=εS/d
で定まる。したがって、電極間隔が接近すると静電容量Cは大きくなり、遠ざかると静電容量Cは小さくなる。
【0020】
たとえば、図3に示すように、作用点PにX軸方向の力Fxが作用すると、変位電極21と固定電極11との間隔は遠ざかるため、C1<C0となるが、変位電極23と固定電極11との間隔は接近するため、C3>C0となる。このとき、変位電極22および24と、固定電極11との間隔は、部分的に接近し、部分的に遠ざかるという状態になるため、両部分が相殺しあり、C2=C4=C0と静電容量に変化は生じない。一方、図4に示すように、作用点PにZ軸方向の力Fzが作用すると、変位電極21?24と固定電極11との間隔はいずれも接近し、(C1?C4)>C0となる。このように、作用する力の方向によって、4グループの容量素子の静電容量の変化のパターンは異なる。
【0021】
図5は、この4グループの容量素子の静電容量C1?C4の変化のパターンを示す表である。この表で、「0」は静電容量に変化がない(すなわち、標準値C0のままの値をとる)ことを示し、「+」は静電容量が大きくなることを示し、「-」は静電容量が小さくなることを示す。たとえば、図5のFxの欄は、図3に示すように、作用点PにX軸方向の力Fxが作用したときの各静電容量C1?C4の変化を示しており、前述のように、C1は小さくなり、C3は大きくなり、C2およびC4は変化しない。このように、各静電容量の変化のパターンに基づいて、作用した力の方向を認識することができる。また、変化の度合い(すなわち、静電容量がどれほど大きく、あるいは小さくなったか)をみることにより、作用した力の大きさを認識することができる。
【0022】
図6に、作用した力を各軸方向成分ごとに検出する基本回路を示す。変換器51?54は、各容量素子のもつ静電容量C1?C4を、電圧値V1?V4に変換する回路で構成される。たとえば、CR発信器などによって、静電容量値Cを周波数値fに変換し、続いて周波数/電圧変換回路により、この周波数値fを更に電圧値Vに変換するような構成をとればよい。もちろん、静電容量値を直接電圧値に変換するような手段を用いてもよい。差動増幅器55は電圧値V1とV3との差をとり、これを検出すべき力のX軸方向成分±Fxとして出力する回路である。図5のFxおよび-Fxの欄を参照すればわかるとおり、X軸方向成分±Fxは、C1とC3との差をとることによって求まる。また、差動増幅器56は電圧値V2とV4との差をとり、これを検出すべき力のY軸方向成分±Fyとして出力する回路である。図5のFyおよび-Fyの欄を参照すればわかるとおり、Y軸方向成分±Fyは、C2とC4との差をとることによって求まる。更に、加算器57は電圧値V1?V4の和をとり、これを検出すべき力のZ軸方向成分±Fzとして出力する回路である。図5のFzおよび-Fzの欄を参照すればわかるとおり、Z軸方向成分±Fzは、C1?C4の和を取ることによって求まる。
【0023】
以上のような原理により、図2(a)および図2(b)に示す各電極に所定の配線を施し、図6に示すような検出回路を構成すれば、作用点Pに作用した力を三次元の各軸方向成分ごとに電気信号として検出することが可能である。すなわち、作用体30に作用した加速度を三次元の各軸方向成分ごとに電気信号として検出できる。各軸方向成分の検出は、全く独立して行われるため、他軸への干渉が起こらず、正確な検出が可能である。また、検出値の温度依存性も無視しうる程度のものであり、温度補償のための処理は必要ない。しかも、基板に電極を形成するだけの単純な構造で実現できるため、製造コストも安価である。
【0024】
なお、図6の検出回路は一例として示したものであり、この他の回路を用いてもかまわない。たとえば、CR発振回路を用いて静電容量値を周波数値に変換し、これをマイクロプロセッサに入力し、デジタル演算によって三次元の加速度を求めるようにしてもよい。
【0025】
§2.各部の材質を示す実施形態
続いて、上述した加速度検出装置を構成する各部の材質について説明する。上述した原理による検出を行うために、材質の面では次のような条件を満たせばよい。
(1)各電極が導電性の材質からなること。
(2)各局在電極は電気的に互いに絶縁されていること。
(3)変位基板が作用体に作用した外力に基づいて変位しうること。
【0026】
このような条件を満足する限り、どのような材質を用いてもかまわないが、ここでは、実用的な材質を用いた好ましい実施形態をいくつか述べることにする。
【0027】
図7に示す実施形態は、固定基板10a、変位基板20a、作用体30a、のすべてに金属を使用した例である。変位基板20aと作用体30aとは一体に形成されている。もちろん、これらを別々に作った後、互いに接合するようにしてもよい。装置筐体40は、たとえば、金属やプラスチックなどで形成され、内面に形成された支持溝41に各基板の周囲を嵌合させて固着支持している。固定基板10a自身がそのまま固定電極11として機能するため、固定電極11を個別に形成する必要はない。変位電極21a?24aは、変位基板20aが金属であるため、その上に直接形成することはできない。そこで、ガラスやセラミックといった材質による絶縁層25aを介して、変位電極21a?24aを変位基板20a上に形成している。なお、変位基板20aに可撓性をもたせるためには、その厚みを小さくしたり、波状にして変形しやすくすればよい。
【0028】
図8に示す実施形態は、固定基板10b、変位基板20b、作用体30b、のすべてにガラスやセラミックといった絶縁体を使用した例である。変位基板20bと作用体30bとは一体に形成されている。装置筐体40は、金属またはプラスチックで形成され、内面に形成された支持溝41に各基板の周囲を嵌合させて固着支持している。固定基板10bの下面には、金属からなる固定電極11bが形成され、変位基板20bの上面には、金属からなる変位電極21b?24bに可撓性を持たせるためには、その厚みを小さくしてもよいし、ガラスやセラミックの代わりに可撓性をもった合成樹脂を用いるようにすればよい。あるいは、部分的に貫通孔を設けることにより変形しやすくしてもよい。
【0029】
図9に示す実施形態は、固定基板10c、変位基板20c、作用体30c、のすべてにシリコンなどの半導体を使用した例である。変位基板20cと作用体30cとは一体に形成されている。装置筐体40は、金属またはプラスチックで形成され、内面に形成された支持溝41に各基板の周囲を嵌合させて固着支持している。固定基板10cの下面内部に位置する固定電極11c、および変位基板20cの上面内部に位置する変位電極21c?24cは、不純物を高濃度で拡散することにより形成されたものである。変位基板20cに可撓性をもたせるためには、やはりその厚みを小さくしたり部分的に貫通孔を設ければよい。
【0030】
以上、各構成要素の材料として、金属、絶縁体、半導体を用いた例を説明したが、各構成要素にこれらの材料の組み合わせを用いてもかまわない。
【0031】
§3.三軸方向成分を独立した電極で検出する実施形態
前述した基本的な実施形態では、図6に示すような検出回路を示した。この検出回路では、±Fxあるいは±Fyを検出するための容量素子と、±Fzを検出するための容量素子と、は同一のものを兼用していた。別言すれば、1枚の局在電極を兼用して用いることにより、二軸の方向成分を検出していた。ここで述べる実施形態では、三軸方向成分を、全く独立した専用電極によって検出している。図10に、この実施形態で用いる変位基板20dの上面図を示す。図2(b)に示す基本的な実施形態における変位基板20と比べ、局在電極の形成パターンがやや複雑であり、合計で8枚の局在電極が形成されている。この8枚の局在電極は、基本的にはやはり4つのグループに分類される。第1のグループに属する局在電極は、X軸の負方向に配された電極21dと21eであり、第2のグループに属する局在電極は、Y軸の正方向に配された電極22dと22eであり、第3のグループに属する局在電極は、X軸の正方向に配された電極23dと23eであり、第4のグループに属する局在電極は、Y軸の負方向に配された電極24dと24eである。
【0032】
いま、図10でドットによるハッチングを施した4つの電極21d?24dのそれぞれと、これに対向する固定電極11との組み合わせからなる4つの容量素子の静電容量をそれぞれC1?C4とし、斜線によるハッチングを施した4つの電極21e?24eのそれぞれと、これに対向する固定電極11との組み合わせからなる4つの容量素子の静電容量をそれぞれC1′?C4′とする。そして、これら8つの容量素子について、図11に示すような検出回路を構成する。ここで、変換器51?54は。静電容量C1?C4を電圧V1?V4に変換する回路であり、差動増幅器55および56は入力した2つの電圧値の差を増幅して出力する回路である。差動増幅器55および56が、それぞれ±Fxおよび±Fyの検出値を出力するのは、前述の基本的な実施形態と同じである。この実施形態の特徴は、4つの静電容量C1′?C4′を並列接続し、変換器58によってこれらの和に相当する電圧V5を発生させ、これを±Fzの検出値として出力する点である。この検出原理を、図10に示す局在電極について考えてみると、電極21dと23dによって±Fxが検出され、電極22dと24dによって±Fyが検出され、電極21e,22,23e,24eによって±Fzが検出されることになる。このように、三軸方向成分をそれぞれ別個独立した電極で検出することができる。
【0033】
以上、説明の便宜上、電極21e?24eをそれぞれ独立した電極で構成した例を示したが、実際には図11の回路図から明らかなように、電極21e?24eで構成される容量素子は並列接続される。したがって、これら4枚の電極は可撓基盤20d上で一体形成してもよい。
【0034】
本実施形態は、各軸方向成分ごとの検出感度を調整する場合に便利である。たとえば、図10において、図の斜線によるハッチングを施した電極21e,22e,23e,24eの面積を広くすれば、Z軸方向の検出感度を高めることができる。一般に、三軸方向成分を検出することができる装置では、三軸それぞれの検出感度がほぼ等しくなるように設計するのが好ましい。この実施形態では、図10の斜線によるハッチング領域と、ドットによるハッチング領域と、の面積比を調整することにより、三軸それぞれの検出感度をほぼ等しくすることが可能である。
【0035】
§4.電極の形成パターンを変えた実施形態
前述した基本的な実施形態では、図2(a)に示すように、固定基板10に形成される固定電極11を1枚の共通電極とし、変位基板20に形成される変位電極を4枚の局在電極21?24としている。本発明は、このような構成に限定されるものではなく、これと全く逆の構成にしてもよい。すなわち、固定基板10に形成される固定電極11を、4枚の局在電極とし、変位基板20に形成される変位電極を1枚の共通電極としてもよい。あるいは、両基板に、それぞれ4枚ずつの局在電極を形成することも可能である。また、1枚の基板に形成される局在電極の数は、必ずしも4枚にする必要はない。たとえば、8枚、16枚の局在電極を形成してもよい。また、図12に示す変位基板20fのように、2枚の局在電極21fおよび23fのみを形成するようにしてもよい。この場合、Y軸方向成分についての検出はできないが、X軸方向成分とZ軸方向成分とからなる二次元についての検出は可能である。更に、一次元についての検出のみを行うのであれば、両基板ともにそまた、電極の形状も円や扇形に限らずどのような形状でもかまわない。各基板も必ずしも円盤状である必要はない。
【0036】
§5.テスト機能をもった実施形態
一般に、何らかの検出装置を量産して市場に流す場合、出荷する前のテスト工程において、正常な検出動作を確認する作業が行われる。前述した加速度検出装置でも、出荷前にテストを行うのが好ましい。加速度検出装置をテストするには、実際に加速度を加え、このときに出力される電気信号を確認するのが一般的である。しかしながら、このようなテストには、加速度を発生させるための設備が必要となり、テスト系が大掛かりとなる。
【0037】
以下に述べる実施形態では、このような大掛かりなテスト系を用いることなしに、出荷前のテストが可能になる。図13は、このテスト機能をもった実施形態に係る加速度検出装置の構造を示す側断面図である。この装置の主たる構成要素は、固定基板60、変位基板70、作用体75、補助基板80、そして装置筐体40である。図14に、固定基板60の下面図を示す。図14の固定基板60をX軸に沿って切断した断面が図13に示されている。固定基板60は、金属製の円盤状基板であり、周囲は装置筐体40に固定されている。この下面には、ガラスなどの絶縁層65を介して4枚の四分円盤状の固定電極61?64が形成されている。変位基板70は、可撓性をもった金属製の円盤であり、周囲はやはり装置筐体40に固定されている。この変位基板70の下面には、円柱状をした作用体75が同軸接合されている。変位基板70の上面は、固定電極61?64に対向する1枚の変位電極を構成している。この実施形態の特徴は、この他に、更に補助基板80を設けた点である。図15に、この補助基板80の上面図を示す。図15の補助基板80をX軸に沿って切断した断面が図13に示されている。補助基板80は、図示のとおり、中央部に円形の貫通孔が形成された金属製の円盤状基板であり、周囲は装置筐体40に固定されている。中央部の貫通孔には、図15に一点鎖線で示すように、作用体75が挿通する。補助基板80の上面には、ガラスなどの絶縁層85を介して4枚の補助電極81?84が形成されている。なお、変位基板70の下面は、この補助電極81?84に対向する1枚の補助電極を構成している。このように、変位基板70は、作用体75と一体に形成された金属塊であるが、その上面は、固定電極61?64に対向する1枚の変位電極として作用し、その下面は、補助電極81?84に対向する1枚の補助電極として作用する。
【0038】
このような構成によれば、固定電極61?64と、これに対向する変位電極(変位基板70の上面)とによって、4組の容量素子が形成でき、これらの静電容量の変化に基づいて、作用体75に加わった加速度を検出することができることは、前述のとおりである。また、補助電極81?84と変位電極(変位基板70の下面)とによって、4組の容量素子を形成し、加速度を検出することもできる。この装置の特徴は、実際に加速度を作用させることなしに、加速度が作用したのと等価な状態をつくり出すことが可能な点である。すなわち、各電極間に所定の電圧を印加すると、両者間にクーロン力が作用し、変位基板70が所定方向に撓むことになる。たとえば、図13において、変位基板70と電極63とに異なる極性の電圧を印加すれば、両者間にクーロン力に基づく引力が作用し、変位基板70と電極81とに異なる極性の電圧を印加すれば、両者間にやはりクーロン力に基づく引力が作用する。このような引力が作用すれば、作用体75に実際には何ら力が作用していなくても、図3に示すようなX軸方向の力Fxが作用したときと同じように変位基板70が撓みを生じることになる。また、変位基板70と電極81?84に同じ極性の電圧を印加すれば、両者間にクローン力に基づく斥力が作用し、作用体75に実際には何ら力が作用していなくても、図4に示すようなZ軸方向の力Fzが作用したときと同じように変位基板70が撓みを生じることになる。こうして、各電極に所定の極性の電圧を印加することにより、種々の方向の力が実際に作用したのと等価な状態をつくり出すことが可能になる。したがって、実際に加速度を加えることなしに、装置をテストすることができる。
【0039】
また、図13に示す補助基板80を付加した構造は、過度の加速度が加わった場合に、変位基板70が損傷することを防ぐことができるという二次的な効果もある。変位基板70は可撓性をもつ反面、過度の力が加わると損傷する可能性がある。ところが、図13に示す構造によれば、過度の力が加わった場合でも、変位基板70の変位は所定の範囲内に制限されるため、損傷に至るまでの過度の変位は生じない。すなわち、図13における横方向(XまたはY軸方向)に過度の加速度が加わった場合、作用体75の側面が、補助基板80の貫通孔の内面に当接するとともに、撓んだ変位基板70の上面または下面が固定電極61?64または補助電極81?84に当接し、それ以上の変位は生じない。また、図13における上下方向(Z軸方向)に過度の加速度が加わった場合、撓んだ変位基板70の上面または下面が固定電極61?64または補助電極81?84に当接し、それ以上の変位は生じない。
【0040】
図16は、図13に示す構造の加速度検出装置を、具体的な装置筐体40に収容した状態を示す側断面図である。各電極と外部端子91?93との間は、ボンディングワイヤ94?96により接続されている(実際には、電気的に独立した電極は、それぞれ専用のボンディングワイヤにより、それぞれ専用の外部端子に接続されるが、図では主要な配線のみを示してある)。固定基板60の上面は、装置筐体40の内部天面に接合されており、撓むことのないようにしっかりと保持されている。
【0041】
§6.圧電素子を利用した変形例
これまで述べてきた種々の実施形態では、加速度に基づく力は変位電極と固定電極とで構成される容量素子の静電容量値の変化として検出される。ここでは、参考のために、この容量素子を圧電素子に置き換えた変形例を示しておく。
【0042】
図17に、この変形例に係る加速度検出装置の一実施形態を示す。この実施形態の装置の基本的構成は、前述した種々の実施形態と共通している。すなわち、固定基板10fと変位基板20fとが対向して装置筐体40内に取り付けられている。この実施形態では、両基板とも絶縁体となっているが、金属や半導体で構成してもよい。作用体30fに外力が作用すると、変位基板20fが撓むことになり、この結果、固定電極11f,12fとこれに対向する変位電極21f,22fとの距離が変化する。前述の実施形態では、両電極間距離の変化を静電容量の変化として検出していたが、本実施形態ではこれを電圧値として検出できる。そのために、固定電極11f,12fと変位電極21f,22fとの間に挟むように、圧電素子101,102を形成している。両電極間距離が縮めば圧縮力が、伸びれば引張力が、それぞれ圧電素子101,102に作用するので、圧電効果によってそれぞれに応じた電圧が発生される。この電圧は、両電極からそのまま取り出すことができるので、結局、作用した外力を直接電圧値として出力することが可能になる。
【0043】
圧電素子101,102としては、例えば、PZTセラミックス(チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体)を用いることができ、これを両電極間に機械的に接続しておけばよい。図17には側断面のみが示されているが、三次元の加速度を検出するには、図2(b)に示す電極配置と同様に、4組の圧電素子を配すればよい。あるいは、図10に示す電極配置と同様に8組(実質的には、このうちZ軸方向についての力を検出する4組は1つにまとめることができる)の圧電素子を配してもよい。また、二次元の加速度を検出するには、図12に示す電極配置と同様に2組の圧電素子を配すればよい。具体的な装置筐体40に収容した場合も、図16に示す実施形態とほぼ同様の構成となるが、外部端子91?93からは直接電圧値が出力されることになる。
【0044】
図17に示す本実施形態の二次的な効果は、圧電素子101,102が変位基板20fに対する保護機能をもつ点である。すなわち、過度の力が加わった場合でも変位基板20fは圧電素子101,102の存在により所定限度までしか撓みを生じないので、損傷を受けることがない。また、前述したテスト機能をもった実施形態と同様に、両電極間にクーロン力を作用させた擬似テストを行うことも可能である。
【0045】
§7.その他の実施形態
以上、本発明をいくつかの実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではなく、この他にも種々の態様で実施可能である。特に、上述の実施形態では、作用体に加わる加速度を検出する加速度検出装置に本発明を適用した例を示したが、本発明の基本概念は、作用体に何らかの物理現象に基づいて作用する力を検出する機構にあり、加速度ではなく、力を直接検出する装置にも勿論、適用可能である。図18は、図16に示す加速度検出装置とほぼ同じ構造をもつ力検出装置の側断面図である。装置筐体40の下面に貫通孔42が形成され、この貫通孔42には、作用体75から伸びた触子76が挿通している。こうして、触子76の先端部に作用する力を直接検出することができる。また、図16に示す加速度検出装置において、作用体75を鉄、コバルト、ニッケルなどの磁性材料で形成しておけば、磁界の中に置いたときに、作用体75には磁気に基づく力が作用するため、磁気を検出することが可能になる。このように、本発明は磁気検出装置にも適用しうるものである。
【0046】
【発明の効果】
以上のとおり本発明による力検出装置によれば、検出対象となる力によって変位する4枚の変位電極とこれに対向して固定された4枚の固定電極とによって形成される4組の容量素子の静電容量値に基づいて力の検出を行うようにしたため、温度補償を行うことなく、力、加速度、磁気などの物理量を検出することができる検出装置を安価に実現しうるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の基本的な実施形態に係る加速度検出装置の構造を示す側断面図である。
【図2】
(a)は図1に示す装置における固定基板の下面図、(b)は図1に示す装置における変位基板の上面図である。
【図3】
図1に示す装置にX軸方向の力Fxが作用した状態を示す側断面図である。
【図4】
図1に示す装置にZ軸方向の力Fzが作用した状態を示す側断面図である。
【図5】
図1に示す装置における力検出原理を示す図表である。
【図6】
図1に示す装置に適用するための検出回路図である。
【図7】
図1に示す装置における各基板を金属材料によって構成した実施形態を示す図である。
【図8】
図1に示す装置における各基板を絶縁材料によって構成した実施形態を示す図である。
【図9】
図1に示す装置における各基板を半導体材料によって構成した実施形態を示す図である。
【図10】
図1に示す装置の変形例に係る加速度検出装置の変位基板の上面図である。
【図11】
図10に示す装置に適用するための検出回路図である。
【図12】
二次元についてのみの検出を行う実施形態の変位基板の上面図である。
【図13】
テスト機能をもった実施形態に係る加速度検出装置の構造を示す側断面図である。
【図14】
図13の装置における固定基板の下面図である。
【図15】
図13の装置における補助基板の上面図である。
【図16】
図13に示す構造の加速度検出装置を具体的な装置筐体40に収容した状態を示す側断面図である。
【図17】
本発明の変形例となる圧電素子を利用した加速度検出装置の一実施形態の構造を示す側断面図である。
【図18】
図16に示す加速度検出装置とほぼ同じ構造をもつ力検出装置の側断面図である。
【符号の説明】
10…固定基板
11…固定電極
20…変位基板
21?24…変位電極
25…絶縁層
30…作用体
40…装置筐体
41…支持溝
42…貫通孔
51?54…変換器
55,56…差動増幅器
57…加算器
58…変換器
60…固定基板
61?64…固定電極
65…絶縁層
70…変位基板
75…作用体
76…触子
80…補助基板
81?84…補助電極
85…絶縁層
91?93…外部端子
94?96…ボンディングワイヤ
101,102…圧電素子
P…作用点
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-06-01 
結審通知日 2006-06-06 
審決日 2006-06-19 
出願番号 特願平10-210320
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (G01L)
最終処分 成立  
特許庁審判長 瀧 廣往
特許庁審判官 山川 雅也
杉野 裕幸
登録日 2001-01-05 
登録番号 特許第3145979号(P3145979)
発明の名称 力・加速度・磁気の検出装置  
代理人 志村 浩  
代理人 山本 秀策  
代理人 志村 浩  
代理人 中原 敏雄  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 中原 敏雄  
代理人 大塩 竹志  
代理人 鮫島 正洋  

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