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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1168245
審判番号 不服2006-3742  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-02 
確定日 2007-11-22 
事件の表示 特願2004- 9532「加熱プレスロール」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月28日出願公開、特開2005-201393〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯の概要

本願は、平成16年1月16日の出願であって、平成17年4月7日(起案日)付けで拒絶理由通知がなされ、同年6月10日付けで意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書を補正する手続補正がなされたが、平成18年1月23日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年3月31日付けで特許請求の範囲及び明細書を補正する手続補正がなされたものである。

2.平成18年3月31日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成18年3月31日付けの手続補正を却下する。

[理由]

(1)補正後の本願発明

平成18年3月31日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の
「【請求項1】 窒素ガス雰囲気内に設置され、中心軸を水平にして上下に配置された少なくとも片方のプレスロールが油圧式またはギヤ式のギャップ調整機構で他方のプレスロールへ突き出されて両者のギャップを狭め圧着される構成とされ、これら一対の加熱プレスロールにはプレスロールの表面付近に埋め込まれたヒートパイプによる表面温度均一化手段とプレスロールの中央帯域部及びその両側帯域部に異なる熱膨張を生じさせるロール内部からの加熱制御手段を備え、且つロール表面にセラミック皮膜が溶射されて、その平均表面粗さ(Ra)が0.01?5μmに粗面化処理されていることを特徴とする加熱プレスロール。」から、
「【請求項1】 窒素ガス雰囲気内に設置され、中心軸を水平にして上下に配置された少なくとも片方のプレスロールが油圧式またはギヤ式のギャップ調整機構で他方のプレスロールへ突き出されて両者のギャップを狭め圧着される構成とされ、これら一対の加熱プレスロールにはプレスロールの表面付近に埋め込まれたヒートパイプによる表面温度均一化手段とプレスロールの中央帯域部及びその両側帯域部に異なる熱膨張を生じさせるロール内部からの加熱制御手段を備え、且つロール表面にセラミック皮膜が溶射されて、その平均表面粗さ(Ra)が0.05?5μmに粗面化処理されていることを特徴とする加熱プレスロール。」
に補正された。(なお、下線部は、補正箇所を示すために審判請求人が付したものである。)

上記の本件補正は、願書に最初に添付した明細書に、「上下一対の加熱プレスロールの表面粗さRa」に関し、「表面粗さRaを0.05?5μmに変更後ではトラレやピットの発生がないことも確認できた。」と記載されていた(【0028】段落)ことに基づくものであり、新規事項を追加するものではないから、平成18年改正前特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。そして、当該補正は、発明を特定するために必要な事項である平均表面粗さについて、補正前の「0.01?5μm」という数値限定範囲を、「0.05?5μm」に、さらに限定するものであるから、同条第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、以下、本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、検討することとする。

(2)刊行物に記載の事項及び発明

(2-1)刊行物1

本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭60-264078号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「誘導発熱ローラ装置」に関し、図面とともに、次の(a)ないし(h)の事項が記載されている。

(a)「回転するローラの周壁内に、気液二相の熱媒体を封入したジヤケツト室を設けるとともに、前記ローラの内部に鉄心及び電磁線輪からなる磁束発生機構を設置し、前記ローラの軸心方向に沿う内周面を部分的に他の部分とは発熱量を異ならせて熱膨張差を発生させるように、前記電磁線輪のアンペアターンを局部的に制御自在としてなる誘導発熱ローラ装置。」(第1頁左下欄第5行-同第12行;特許請求の範囲)
(b)「この発明は誘導発熱ローラ装置に関する。
たとえばプラスチツク,紙,布,不織布,金属箔等のシート材,あるいはウエブ材の連続熱圧延工程において、ホツトカレンダロール,エンボスロール,サーマルボンデイングロール等のロール類が使用されることはよく知られている。通常この種ロールは、第1図に示すようにその2本A,Bを1組とするか、1本のロールとこれに対向する弾性ロールとをもつて1組とするなどして組み合わされる。いずれにしても、両ロール間にウエブ又はシートをニツプして、ホツトロールによつて加熱することに変りはない。」(第1頁左下欄第14行-同頁右下欄第5行)
(c)「ロールの表面温度の均温化が可能となつても、なお前記したニツプ圧の均等化は十分でない。これは被処理製品の加圧のためにロールに荷重をかけるとき、その荷重によりロールにたわみが生ずることに基因する。この種のたわみにより、ロールの軸心方向に沿う中央部附近において、対をなすロール間に隙間が生ずるようになる。このような傾向は、ロールA,Bの回転軸C,Dを互いに接近させるように各回転軸に荷重をかけるとき顕著に現われる。」(第1頁右下欄第20行-第2頁左上欄第9行)
(d)「この発明はローラの表面温度分布を均一化しつつ、ロールのたわみ量に応じてロール形状を変更可能とすることを目的とする。」(第2頁右上欄第6行-同欄第8行)
(e)「この発明の実施例を第3図以降の各図によつて説明する。第3図において、1は磁性材料からなるローラで、その両端は回転軸2,3に連なるフランジ4,5に連結されてあり、一方の回転軸が回転駆動源によつて回転されるとき、ローラ1は回転するようになつている。6はローラ1の周壁の肉厚部に形成されたジヤケツト室で、これはローラ1の円周方向に沿つて互いに独立又は端部で連通するように複数並設されてある。そして内部に気液二相の熱媒体が封入されている。
熱媒体はローラ1の発熱によつて蒸発気化し、これがローラ1内の温度の低い部分(ローラ1の表面側のジヤケツト室内壁面)に触れたときに凝縮して潜熱を発生する。この潜熱によつて前記温度の低い部分を加熱する。これによつてローラ1の表面温度は均一化されるようになる。」(第2頁左下欄第15行-同頁右下欄第10行)
(f)「7は回転軸2,3内を通る固定された軸、8は軸7に支持され、ローラ1内に配置された磁束発生機構で、軸7に支持された鉄心(たとえば巻鉄心)9及び鉄心9に巻装された複数の電磁線輪10,11,12によつて構成されてある。ここでは中央の電磁線輪10はその両端附近で、両側の電磁線輪11,12の端部と重なるように巻回してある。各電磁線輪は互いに独立してそのアンペアターンが制御自在となるようにしてある。具体例としては各電磁線輪の附勢電流をたとえば可飽和リアクトルによつて調整自在としている。」(第2頁右下欄第20行-第3頁左上欄第10行)
(g)「この構成ではローラ1の表面温度を均一に保ち、ローラ1の中央部における発熱量を端部の発熱量より大きくして、ローラ1の中央部を端部よりも熱膨張差によつて径を大きくすることを意図しており、そのために・・・(中略)・・・すればよい。」(第3頁左上欄第17行-同頁右上欄第8行)
(h)「以上詳述したようにこの発明によれば、ローラへの荷重によるたわみに基くニツプ圧の不均一性を、ローラのクラウン加工を必要とせずに、熱膨張差による外周形状によつて解決することができ、したがつてローラ加工の煩雑さが解消できるとともに、ローラのたわみ量に応じた補正も可能となるといつた効果を奏する。」(第4頁右上欄第1行-同欄第7行)

さらに、上記摘記事項に加えて図面の記載も参酌することにより、次の(i)及び(j)の事項も該刊行物1の記載事項として認めることができる。

(i)ローラ装置の正面図である第1図ないし第3図を参照すると、ロール(A,B)ないしローラ(1)をその回転軸(C,Dないし2,3)が図中左右に延在する形で配置することが図示されていることにかんがみれば、ロール(A,B)ないしローラ(1)を中心軸である回転軸(C,Dないし2,3)を水平にして上下に配置することは、当業者にとり、刊行物1に記載されているのも同然といいうる事項であると認められる。
(j)上記の「被処理製品の加圧のためにロールに荷重をかける」との記載あるいは「ロールA,Bの回転軸C,Dを互いに接近させるように各回転軸に荷重をかける」との記載(上記摘記事項(c)を参照)、並びに第1図ないし第3図の記載にかんがみれば、ロール(A,B)ないしローラ(1)間の間隙ないしギャップを狭め圧着を行うギャップ調整機構を設けることは、当業者にとり、刊行物1に記載されているのも同然といいうる事項であると認められる。

そうすると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「中心軸を水平にして上下に配置された少なくとも片方のローラ(1)がギャップ調整機構で他方のローラへ突き出されて両者のギャップを狭め圧着される構成とされ、これら一対の加熱ローラ(1)にはローラ(1)の表面付近に埋め込まれた熱媒体を封入したジヤケツト室(6)とローラ(1)の中央部及びその両側部に異なる熱膨張を生じさせる中央の電磁線輪(10)及び両側の電磁線輪(11,12)からなる磁束発生機構(8)を備えている加熱ローラ(1)。」

(2-2)刊行物2

また、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-1193号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「フレキシブルプリント基板の製造法」に関し、図面とともに、下記の事項(k)ないし(o)が記載されている。

(k)「金属導体上にポリイミド前駆体溶液を塗布し、乾燥及び硬化させて得られた片面金属基板のポリイミド樹脂面に新たな金属導体箔をロール表面がセラミック被覆されたロールプレス機を用いて加熱圧着することを特徴とするフレキシブルプリント基板の製造法。」(第2頁第1欄第2行-同欄第6行;特許請求の範囲の請求項1)
(l)「【産業上の利用分野】本発明は接着性、寸法安定性、耐熱性及び電気特性に優れた金属箔/ポリイミド/金属箔からなるフレキシブルプリント基板の製造法に関するものである。」(第2頁第1欄第23行-同欄第26行;【0001】段落参照)
(m)「【発明が解決しようとする課題】 ・・・(中略)・・・ 通常のロールプレスで製造する場合、加熱圧着温度が350℃から400℃以上と高く、かなりの圧力下で行われるため、金属箔がロール表面に密着しロール表面に金属箔の一部が取られ、ロール表面に凹凸傷が付きやすく、製造上の問題のみならず、製品の品質(外観)不良の問題があった。」(第2頁第2欄第9行-同欄第16行;【0003】段落参照)
(n)「本発明に用いられるロールプレス機のロールは、前述したように加熱圧着時の異物混入またはトラレによるロール傷の発生を防止するために、硬度はHs:73以上、好ましくはHs:80以上のロール母材の表面にセラミック溶射被覆層を施した構造である。 ・・・(中略)・・・ セラミック溶射被覆層の表面粗度は、研磨処理により0.2S?0.8Sが好ましい。更に好ましくは0.3S?0.5Sが良い。正面粗度が0.2S未満の場合、ロールと金属導体箔との密着性が増し、剥離性はかえって悪くなる。また0.8Sを越える場合も剥離性は悪化し、しかも圧着後の製品の光沢がなく外観上問題となる。」(第3頁第3欄第32行-同頁第4欄第6行;【0007】段落参照)
(o)「ロールの加熱方式については、電熱ヒーター、赤外線輻射、マイクロ波、誘電加熱、誘導加熱等が挙げられるが、ビール強度のバラツキをなくするために、均一な温度分布が得られる誘導加熱方式が好ましい。また、加熱圧着部は金属導体箔の酸化を防止するためにラビリンス等を用いてN2シール下で行う必要がある。」(第3頁第4欄第7行-同欄第13行;【0008】段落参照)

上記摘記事項(o)によれば、ロールによる加熱圧着は、「金属導体箔の酸化を防止するためにラビリンス等を用いてN2シール下で行う必要がある」としているから、これによれば、ロールプレス機のロールを窒素ガス雰囲気内に設置することが当該刊行物2に開示されていることになる。

そうすると、刊行物2には、次の発明(以下、「刊行物2の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「窒素ガス雰囲気内に設置され、フレキシブルプリント基板を加熱圧着により製造する加熱ロールプレス機のロールにおいて、誘導加熱等の加熱手段を備え、且つロール表面にセラミック被覆層が溶射されて、その表面粗度が0.2S?0.8Sに研磨処理されている加熱ロールプレス機のロール。」

(2-3)刊行物3

また、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-52614号公報(以下、「刊行物3」という。)には、「積層板の製造方法」に関し、図面とともに、下記の事項(p)ないし(r)が記載されている。

(p)「本発明は、加圧加熱成形装置で製造される積層板の製造方法に関する。特には、電子電気機器等に用いられるフレキシブル積層板の製造方法に関するものである。」(第2頁第1欄第39行-同欄第42行;【0001】段落参照)
(q)「金属-金属ロールから構成される熱ロールラミネート機、もしくは、エンドレススチールベルトから構成されるダブルベルトプレス機を用いることによって、金属材料の表面あらさの ・・・(中略)・・・ 以下である金属材料と熱融着性被積層材料とを積層する」(第3頁第3欄第17行-同欄第24行;【0010】段落参照)
(r)「加圧方式についても所定の圧力を加えることができるものであれば特にこだわらず、油圧方式、空気圧方式、ギャップ間圧力方式等が挙げられ、圧力は特に限定されない。」(第4頁第5欄第50行-同頁第6欄第3行;【0020】段落参照)

(3)対比・判断

本願補正発明と刊行物1の発明とを対比すると、刊行物1の発明における「熱媒体を封入したジヤケツト室(6)」は、当該刊行物1における「6はローラ1の周壁の肉厚部に形成されたジヤケツト室で、これはローラ1の円周方向に沿つて互いに独立又は端部で連通するように複数並設されてある。」(上記摘記事項(e)を参照)との記載にも照らせば、「ヒートパイプ」を構成するものであるといえるから、封入された熱媒体により「ローラ1の表面温度は均一化される」(同)という機能からみて、本願補正発明における「ヒートパイプによる表面温度均一化手段」に相当する。また、刊行物1の発明における「中央の電磁線輪(10)及び両側の電磁線輪(11,12)からなる磁束発生機構(8)」は、当該刊行物1における「ローラの内部に鉄心及び電磁線輪からなる磁束発生機構を設置し」(上記摘記事項(a)を参照)との記載にも照らせば、ローラ(1)の内部に設置されるものであるから、その機能からみて、本願補正発明における「ロール内部からの加熱制御手段」に相当する。そして、刊行物1の発明における「ローラ(1)」並びに「ローラ(1)の中央部及びその両側部」は、本願補正発明における「プレスロール」並びに「プレスロールの中央帯域部及びその両側帯域部」にそれぞれ相当する。そうすると、本願補正発明と刊行物1の発明とは、本願補正発明の用語に従えば、
「中心軸を水平にして上下に配置された少なくとも片方のプレスロールがギャップ調整機構で他方のプレスロールへ突き出されて両者のギャップを狭め圧着される構成とされ、これら一対の加熱プレスロールにはプレスロールの表面付近に埋め込まれたヒートパイプによる表面温度均一化手段とプレスロールの中央帯域部及びその両側帯域部に異なる熱膨張を生じさせるロール内部からの加熱制御手段を備えている加熱プレスロール。」
である点で一致し、以下の相違点1ないし3で相違している。

相違点1: 本願補正発明では、プレスロールが窒素ガス雰囲気内に設置されているのに対して、刊行物1の発明では、ローラ(1)が窒素ガス雰囲気内に設置されているか否かが不明である点。

相違点2: 本願補正発明では、ギャップ調整機構が油圧式またはギヤ式のものであるのに対して、刊行物1の発明では、ギャップ調整機構がいかなるものであるかが不明である点。

相違点3: 本願補正発明では、ロール表面にセラミック皮膜が溶射されて、その平均表面粗さ(Ra)が0.05?5μmに粗面化処理されているのに対して、刊行物1の発明では、ローラ(1)表面にかかる粗面化処理がなされているか否かが不明である点。

そこで、以下、上記各相違点について検討する。

〈相違点1について〉
最初に、上記相違点1について検討する。
刊行物1の発明と刊行物2の発明とは、被加工物を圧着加工するローラという共通の技術分野に属し、ローラを加熱する加熱手段を備えるという共通の構成を有している。そして、被加工物の酸化を防止すること(上記摘記事項(o)を参照)は、当業者が通常認識する課題であると認められるから、刊行物1の発明において、被加工物の酸化防止のために、刊行物2の発明の、ロールを「窒素ガス雰囲気内に設置」する点を適用し、ローラ(1)を窒素ガス雰囲気内に設置するようにして、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば、容易に想到し得たことであると認められる。

〈相違点2について〉
次に、上記相違点2について検討する。
刊行物3に、「金属-金属ロール」から構成される熱ロールラミネート機等の加圧加熱成形装置に関し、その加圧方式として、「油圧方式、空気圧方式、ギャップ間圧力方式等が挙げられ」ると記載されている(上記摘記事項(p)ないし(r)を参照)ことからも理解されるように、ロールないしローラを用いた圧着加工のための装置において、ギャップ調整機構を油圧式またはギヤ式のものとすることは、本願出願前に既に当業者に知られていた技術的事項にすぎない。してみれば、刊行物1の発明において、ギャップ調整機構を油圧式またはギヤ式のものとして、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。

〈相違点3について〉
進んで、上記相違点3について検討する。
上記相違点1に関して既に説示したとおり、刊行物1の発明と刊行物2の発明とは、共通の技術分野に属し、共通の構成を有している。そして、圧着加工を行うローラないしロールと被加工物との剥離性を適当なものとするとともに、圧着後の製品の外観を向上させること(上記摘記事項(n)を参照)は、当業者が通常認識する課題であると認められるから、刊行物1及び2に接した当業者であれば、刊行物1の発明におけるローラ(1)の表面に刊行物2の発明のロール表面処理を適用することは、容易に発想し得たことである。ここで、刊行物2の発明においては、かかるロール表面処理は、ロールの「表面粗度が0.2S?0.8Sに研磨処理されている」ものであるが、この点の教示を得た当業者にとって、ロールないしローラの平均表面粗さ(Ra)が0.05?5μmの範囲となるように表面処理することは、何らの困難性なく想到し得たことである。
これについて、念のために付言すれば、社団法人日本機械学会 著作兼発行,「機械工学便覧 改訂第4版」,1964年(昭和39年)10月20日(同版6刷発行),第17-151頁において「5・8・1 表面あらさ」の項に記載されている事項から理解されるように、「表面あらさ」ないし表面粗さの表示として「平均あらさ」(同頁左欄のHCLAの式を参照; 本願補正発明における「平均表面粗さ(Ra)」に相当)は、本願出願前(かつ刊行物2に係る特許出願の出願前)既に広く用いられていたものであり(「最近 ・・・(中略)・・・ HCLAが主として用いられるようになった.」(同欄下から14行目-同12行目)との記載等を参照)、また、数値と「S」記号とを組み合わせることにより「表面あらさ」をμm単位で表示することもまた、本願出願前(かつ刊行物2に係る特許出願の出願前)既に広く行われていたものと認められる(同頁右欄の第159表(a)を参照)。してみれば、ロールの「表面粗度が0.2S?0.8Sに研磨処理されている」という、刊行物2の発明の教示に接した当業者が、ロールないしローラの平均表面粗さ(Ra)について、0.2?0.8μmの範囲よりもはるかに広い範囲である0.05?5μmの範囲に収まるようにすることに何らの困難性なく到達し得たことは、明らかである。
以上検討したとおり、刊行物1の発明におけるローラ(1)の表面に刊行物2の発明のロール表面処理を適用して、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことであると認められる。

そして、本願補正発明の作用効果について検討しても、刊行物1の発明、刊行物2の発明、並びに刊行物1ないし3に記載された事項から、当業者であれば予測することができる範囲のものであって、格別のものということはできない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)審判請求人の主張について

審判請求人は、平成18年5月11日付けの手続補正により補正された審判請求書において、本願補正発明は原査定で引用された各刊行物に記載された発明から容易に発明をすることができたものではない旨、主張している。かかる審判請求人の主張は、すべて精査したが、上記(3)に記した判断の結論を覆すものではない。
審判請求人は、なかんずく、上記相違点3に関連する、次のような主張を行っている。すなわち、審判請求人は、確かに刊行物2(原査定の拒絶の理由における引用文献3)にはロール表面をセラミック溶射被覆するとともに表面粗さを研磨処理により0.2S?0.8Sの範囲にすることが好ましいことが記載されていると認めつつ、本願発明(本願補正発明)の最も特徴とするところは、プレスロールに、「ロール温度制御手段」と、「ロール表面のセラミック皮膜により処理された特定表面粗さのロールとすること」を「同時に適用する」点にあり、それを充足してこそ発明の効果が得られる旨の主張を展開している(当該審判請求書の【請求の理由】の「3.本願発明が特許されるべき理由」における「(3)本願発明と引用文献との対比」の項の5)を参照)。そして、「誘電発熱ローラ」を記載した刊行物1(原査定の拒絶の理由における引用文献1)及び「ロール表面粗度」を開示した刊行物2のそれぞれには、個々の構成要件の開示はあるが、その両者を組み合わせる動機付けはないとしている(当該審判請求書の同箇所を参照)。

そこで、本願の明細書において、本願補正発明の効果を記載している箇所であると認められる【0011】段落を参照すると、次の記載がなされている。
「かかる本発明の加熱プレスロールによれば、表面付近にヒートパイプによる熱媒体素子を配置していることにより表面温度精度が高く、軸方向の温度差やばらつきが殆ど生じない。またプレスロールの中央帯域部を高温度に保持することで中央部がクラウン状態に熱膨張させることで、プレスロールが少し傾くことによる圧力不均一を自動的に修正しつつ基材との接触面での隙間のない理想的な接触状態が保持されることから、加熱圧着時の積層体の表面への縦すじ等の外観不良が防止される。また加熱プレスロールの表面粗さを特定条件に保持することで基材とロール面との密着度が減少することで走行中に巻き付きによる複雑なシワ(以下、トラレと称する)やピット(製品表面に数十ミクロンの打痕)等の発生も防止される。」
これをみると、上記審判請求人の主張にいう「ロール温度制御手段」による効果、すなわち、「加熱圧着時の積層体の表面への縦すじ等の外観不良が防止される」点と、「ロール表面のセラミック皮膜により処理された特定表面粗さのロールとすること」による効果、すなわち、「基材とロール面との密着度が減少することで走行中に巻き付きによる複雑なシワ(・・・ トラレ ・・・ )やピット(・・・)等の発生も防止される」点とは、並列的に記載されていることが認められるのであって、上記の両構成を「同時に適用する」ことによりはじめて得られる、いわば相乗的な効果がある旨の記載は、認めることができない。そして、本願明細書の他の箇所を参照しても、かかる相乗的な効果についての記載を見出すことができないばかりか、上記「特定表面粗さ」、すなわち、プレスロール表面の平均表面粗さ(Ra)についての「0.05?5μm」との数値限定についても、「平均表面粗さ(Ra)を0.05?5μmに変更後ではトラレやピットの発生がないことも確認できた。」との記載(【0028】段落)は認められるものの、当該数値範囲に臨界的意義が存することを示す具体的な実験データ等は、これも見出すことができないのである。
してみれば、審判請求人が行っている、発明の効果に係る主張に基づいて、本願補正発明における進歩性(非容易想到性)の存在を肯認することは、できない。

他方、上記(3)において相違点1及び3に関し説示したとおり、(ア)刊行物1の発明と刊行物2の発明とは、被加工物を圧着加工するローラという共通の技術分野に属し、ローラを加熱する加熱手段を備えるという共通の構成を有しており、しかも、(イ)刊行物2に記載された事項である、圧着加工を行うローラないしロールと被加工物との剥離性を適当なものとするとともに、圧着後の製品の外観を向上させること(上記摘記事項(n)を参照)は、当業者が通常認識する課題であると認められるところであって、それらの点に照らせば、刊行物1及び2に接した当業者にとっては、刊行物1の発明に刊行物2の発明を適用する動機付けは、存在することが認められるのである。

よって、上記の審判請求人の主張は、採用の限りではない。

(5)むすび

以上検討したとおり、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について

本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年6月10日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「窒素ガス雰囲気内に設置され、中心軸を水平にして上下に配置された少なくとも片方のプレスロールが油圧式またはギヤ式のギャップ調整機構で他方のプレスロールへ突き出されて両者のギャップを狭め圧着される構成とされ、これら一対の加熱プレスロールにはプレスロールの表面付近に埋め込まれたヒートパイプによる表面温度均一化手段とプレスロールの中央帯域部及びその両側帯域部に異なる熱膨張を生じさせるロール内部からの加熱制御手段を備え、且つロール表面にセラミック皮膜が溶射されて、その平均表面粗さ(Ra)が0.01?5μmに粗面化処理されていることを特徴とする加熱プレスロール。」

(1)刊行物に記載の事項及び発明

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1ないし3に記載された事項並びに刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された発明は、前記2.の(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断

本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明における、「平均表面粗さ」についての数値限定範囲である「0.05?5μm」を、「0.01?5μm」という数値範囲に拡張したものに該当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、その中の数値限定範囲をより限定したものに相当する本願補正発明が、前記2.に記載したとおり、刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび

叙上のとおり、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-18 
結審通知日 2007-09-25 
審決日 2007-10-09 
出願番号 特願2004-9532(P2004-9532)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 溝渕 良一
特許庁審判官 町田 隆志
大町 真義
発明の名称 加熱プレスロール  
代理人 神田 正義  
代理人 宮尾 明茂  
代理人 藤本 英介  

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