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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A22C
管理番号 1168319
審判番号 無効2005-80321  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-11-07 
確定日 2007-12-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第3640646号発明「白さばふぐ或いは黒さばふぐの加工方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
特許第3640646号は、平成14年4月11日付で特許出願され、平成17年1月28日にその設定登録がなされたものであり、本件は、これに対して、平成17年11月7日に、請求人下関唐戸魚市場株式会社より、無効審判の請求がなされたものである。
そして、平成18年1月16日に、無効理由を整理した口頭審理陳述要領書が請求人より提出され、平成18年2月17日に、無効理由を釈明する口頭審理陳述要領書が提出され、同日無効理由に対する予備的反論を記載した口頭審理陳述要領書及び無効審判請求人及び各証人に係る事情を説明する上申書が被請求人より提出され、第1回の口頭審理が実施されるとともに、証人加納政二及び証人馬嶋実の証人尋問が行われた後、請求人・被請求人に対して、合議体より審尋が告知された。
平成18年3月10日に請求人より回答書が提出され、平成18年3月23日付けで被請求人に対して、期間を指定して答弁指令がなされ、被請求人より平成18年5月29日に答弁書が提出された後、平成18年10月20日に双方より陳述要領書が提出され、第2回口頭審理が実施された。

1.審判請求の理由の概要
本件において、請求人が主張する無効の理由は、以下のとおりのものである。

2-1 明細書の記載不備
本件明細書の記載によっては、以下の理由1-1?4の理由により、特許明細書の発明の詳細な説明の記載では、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に発明が記載されず、しかも、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載されたものとすることができない。
また、特許請求の範囲の記載では、発明が明確とはなっていないので、本件特許は、明細書の記載が特許法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

理由1-1
特許請求の範囲に、「白さばふぐ或いは黒さばふぐを、有毒なふぐから区別できるふぐの加工方法」と記載しているが、第1?第4工程の加工を施すことによって、どのようにして有毒なふぐか否かを区別できるようになるのかが不明である。
したがって、本件発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、しかも、本件特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

理由1-2
特許請求の範囲に「首部」と記載されているが、頭部と胴部との間にくびれた部位がないふぐに関し、学術的にも使用されない「首部」なる表現では、ふぐのどの部位を指し示しているのか不明である。
そして、発明の詳細な説明の発明の実施の形態には、首部なる文言すらない。
そのため、当業者であっても、本件特許発明の第1工程において、ふぐのどの位置を切り離せばよいか不明であり、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、本件特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。

理由1-3
特許請求の範囲に「剥した際に、腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓を、取り除く第3工程」と記載され、特許請求の範囲では、「内臓」が「腹側の皮に付着する」となっているのに対して、発明の実施の形態では、「剥がした際に切り離した頭部1に着いてくる形で胴体4から外れた内臓」と記載されており、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とが一致していないため、「腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓」の意味が不明であり、また、図4を見ても、内臓と思われるものが頭部に着いている状態が図示されており、明らかに内臓が腹側の皮に付着した形とはなっていない。
そのため、本件特許発明の第3工程の「腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓」の意味は不明であり、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、しかも、本件特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。

理由1-4
特許請求の範囲に、「より完全に近い形で内臓を摘出後、外観を復元すること」と記載しているが、「より完全に近い形で内臓を摘出」の意味が不明である。
すなわち、発明の実施の形態には、「かくして内臓を完全に取り除くことができ」と記載されており、「より完全に近い形」ではなく「完全に」と記載されている。
また、「より完全に近い形」とは、どの程度の状態をいうのかが全く不明瞭である。
そのため、当業者であっても、本件特許請求の範囲に記載された発明において、「より完全に近い形で内臓を摘出」の意味が不明である。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、しかも、本件特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本件特許発明が明確とはなっていない。

2-2 進歩性に係る主張
本件特許は、以下の理由2-1?3の理由により、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、無効とされるべき旨主張している。

理由2-1 特願2000-354678号に係る「早期審査に関する事情説明書」に基づく主張
本件に係る出願の出願前に公然知られた発明・公然実施された発明を立証するために、
甲第4号証:特開2002-153204号公報(特願2000-354678号)
を提出して、特願2000-354678号の特許請求の範囲に記載される発明を特定し、同発明の実施に関して、
甲第1号証:特願2000-354678号に係る「平成13年11月20日提出の早期審査に関する事情説明書」
を提出し、加えて、特願2000-354678号の明細書に記載される発明を説明するために、
甲第6号証:写真
を提出して、次の主張をなしている。
特願2000-354678号の出願人は、本件被請求人であり、甲第1号証の第1頁の「1.事情」の欄に、「平成12年11月に特許出願を行ない、その後は本発明の方法に基きふぐの加工を実際に続行していたのであるが、最近に至り本発明と同じ加工方法を真似した製品が各所に出回りはじめその模倣業者の数は漸次増加の一途を辿っている」と、被請求人は記載している。
そして、特願2000-354678号の特許請求の範囲には、「ふぐの頭部を首部で、腹側の皮を残す形で、胴体から切り離す第1工程と、切り離した際残した腹側の皮と、背側の皮を同時に、背鰭の位置まで剥がす第2工程と、剥がした際に、腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓を、取り除く第3工程と、背鰭の位置まで剥がした皮を、元の位置に戻して再び被覆、外形復元する第4工程とから成り立つ白さばふぐ(Lagocephalus wheeleri)或は黒さばふぐ(Lagocephalus gloveri)の加工方法。」と記載されており、第2工程において文言上の相違があるが、ふぐの皮を頭側から背鰭の位置まで剥がすことは、背鰭の起部の位置まで剥がすことと格別の差異を構成しない。
さらに、甲第1号証には、「本発明と同じ加工方法を真似した」「模倣業者」と述べており、この「真似」や「模倣」は、自らの加工方法を見た他人がその方法に依拠して実施したことを示し、自らの加工方法を他人に見せたこと、すなわち公然実施したこと、公然知られたことを意味し、甲第1号証の提出日である平成13年11月20日以前に、特願2000-354678号の特許請求の範囲に記載された発明は、被請求人により公然実施または公然知られた発明である。
次に、被請求人が、甲第1号証に「平成12年11月に特許出願を行ない、その後は本発明の方法に基きふぐの加工を実際に続行していたのであるが、最近に至り本発明と同じ加工方法を真似した製品が各所に出回りはじめその模倣業者の数は漸次増加の一途を辿っている」と自白していることからも、被請求人は、本件特許の出願前に、特願2000-354678号の特許請求の範囲に記載された発明が公然実施されていた事実を把握していたことを認めており、特願2000-354678号の特許請求の範囲に記載される発明は、被請求人が把握する模倣者によって、本件に係る出願の出願前に公然実施された発明である。
したがって、本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、本件特許の特許権者によって実施されることにより公然実施された発明、同実施のより公然知られた発明、または、模倣者により公然実施された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

理由2-2 有限会社下関カノウ商事の輸入に基づく主張
有限会社下関カノウ商事(山口県下関市彦島西山町四丁目8番18号)が本件に係る出願の出願前に、白さばふぐの輸入を行った事実を立証するために、
甲第2号証の1:「船積書類送付書 FIRST MAIL」と表題される紙葉
甲第2号証の2:中国語漢字の下に「NINGBO QIULONG AQUATIC PRODUCTS CO.,LTD」と記載される紙葉
甲第2号証の3:「Shipper NINGBO QIULONG AQUATIC PRODUCTS CO., LTD」、「Consignee or order TO ORDER OF THE YAMAGUTI BANK,LTD」、「Notify address SHIMONOSEKI KANOU SHOJI CO.,LTD.」と記載される紙葉
甲第2号証の4:「PACKING LIST」と記載される紙葉
甲第2号証の5:「輸入フグ鑑別結果書」と記載される紙葉
甲第2号証の6:中国語漢字の下に「ENTRY-EXIT INSOECTION AND QUARANTINE OF THE PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA」と記載される紙葉
甲第2号証の7:「輸入許可通知書」と記載される紙葉3枚
を提出するとともに、輸入された白さばふぐの外観より、加工方法が判断できることを立証するために、
甲第5号証:写真
を提出して、有限会社下関カノウ商事は、本件に係る出願の出願日より前の平成14年2月20日に「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」を輸入しており、「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」は、まさに本件特許発明を実施することによって内臓を除去して冷凍した状態の白さばふぐを示すものである旨主張し、さらに、請求人は、
証人:加納政二
の証人尋問を申請し、有限会社下関カノウ商事が輸入した「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」は、本件特許発明と同一の発明を公然実施したものであることを立証するとしている。
そして、輸入は発明の実施行為であるので、本件発明は、有限会社下関カノウ商事が輸入したことにより、公知となった「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」の加工方法の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとするとともに、輸入された白さばふぐも、輸入の検査時点で公知となり、さらに、その後加工業者に販売されたことにより公知となっている。
それら公知の方法の発明及び公知のものの発明に基づいて、本件請求項1に係る発明は、容易に発明をすることができたものである。

理由2-3 特願2000-354678号の出願控に基づく主張
請求人は、
甲第3号証の1:「TO 株式会社松岡 馬嶋実先生 Date 23/7/2001」と記載される紙葉
甲第3号証の2:「出願控 出願番号 特願2000-354678号」と記載される書類 14頁
甲第3号証の3:「受領書」と記載される紙葉
を提出し、
証人:馬嶋 実
証人:加納政二
の証人尋問を申請するとともに、特願2000-354678号の明細書に記載される発明を説明するために、
甲第6号証:写真
を提出して、甲第3号証は、平成13年7月23日に馬嶋実氏が取引先から受信したFAXであり、本件特許権者が平成12年11月21日に特許出願した出願書類の控えが添付されている。したがって、特願2000-354678号の明細書は、この時点において、公然知られたものとなった。
そして、先に述べたように、本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特願2000-354678号の明細書に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易に想到し得る発明である。

3.被請求人の主張概要
3-1 明細書の記載に関して
ふぐの骨格を示すために、
乙第3号証:厚生省生活衛生局乳肉衛生課編「改訂 日本近海産フグ類の鑑別と毒性」(平成6年5月1日 改訂版発行)中央法規出版株式会社
を提出し、本件明細書の【0002】に、「無毒であるか否かの見分け方は、体背面の小さなとげの位置で見分ける。小さなとげが、背鰭3の終点から尾鰭7の起点の間、体背面後部6に無いのが無毒、他方、背鰭3の終点から尾鰭7の起点の間、体背面後部6に在るのが有毒種とされている。」と記載しており、第1?3工程を経て第4工程で外形を復元されたふぐの外形より、小さなとげの有無は明らかであり、当業者であれば、白さばふぐ或いは黒さばふぐを、有毒なふぐから区別することは可能である。
「首部」とは、頭部と胴部をつなぐ部位であり、乙第3号証にふぐの骨格が示されるように、白さばふぐ、黒さばふぐの「首部」は、骨格上その部位が定まるものであり、さらに、本件図1(イ)(ロ)に「首部」は明記されているとし、
乙第5号証:写真及び説明書
を提出して、特許請求の範囲に「剥した際に、腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓を、取り除く第3工程」と記載することに何らの不備はないとしている。

3-2 早期審査に関する事情説明書について
先願である特願2000-354678号に関して、事情説明書に、「平成12年11月に特許出願を行い、その後は本発明の方法に基づきふぐの加工を実際に続行していた」と記載した実施は、被請求人が代表者を務める栄水貿易株式会社が中国所在の特定加工工場に委託して加工を行わせ、これをコンテナの中に入れて日本に輸入し冷凍保管、そして、日本の特定工場に入荷させ、工場内においてふぐの皮を全て剥がす作業を行っていたことを指すものである。これは、中国の工場で加工されてから、日本の工場で皮が全て剥がされるまでの間、ふぐが第三者の目に触れることはない状態で実施したものであり、秘密状態を維持しながらの実施であって、公然実施ではない。
また、代理人が早期審査事情説明書に「最近に至り本発明と同じ加工方法を真似た製品が各所に出回りはじめてその模倣業者の数は漸次増加の一途を辿っている。」と記載しが、同記載は、被請求人の意志に基づくものではなく、代理人が作文したものであり、他社の加工方法を知ることはできないので、本件特許に係る加工方法を第3者(「模倣業者」)が実施していた事実を被請求人は、一切把握していない。
したがって、請求人の主張は、何れも失当である。

3-3 有限会社下関カノウ商事により輸入されたふぐに基づく主張について
被請求人は、
乙第1号証:平成17年4月19日付けの「特許取得の件」と表題される紙葉
乙第2号証:平成17年5月20日付けの「通知書」と表題される紙葉
を提出して、証人加納政二及び証人馬嶋実は、本件無効審判請求にあたり、請求人と協議を行い、請求に同意した同意業者の代表者及び社員である旨事情を述べ、「Gutted」の意味を立証するために、
乙第4号証:「スペースアルク:英辞郎検索結果」と左上に記載される紙葉
を提出して、甲第2号証の1?7から判断すると、2002年2月頃に、「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」が、中国の会社「NINGBO QIULONG AQUATIC PRODUCTS CO.,LTD」から有限会社下関カノウ商事に輸出されたことが認められるものの、この「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」が如何なるものであるかについて、所謂セミドレスも「gutted」と記載するので、その加工方法を特定することはできない。
また、証人加納政二氏は、「GUTTEDはいわゆる内臓、はらわたですから、これを除去したもの。頭から包丁を入れて背びれまで皮を剥いだ、そして内臓を除去してまた元の位置に戻して冷凍したという品物です」と証言しているものの、不自然であり、さらに、所謂セミドレスについても「GUTTED」と呼ばれることを知っていたかのような証言もあり、証人の証言の信憑性は低いと言わざるを得ない。
なお、仮に、証人加納政二氏が本件特許発明又はこれに近い方法を、本件特許の出願前から何らかの方法で知り、実施していたと仮定しても、それ自体で公知又は公用となるわけではなく、しかも、この点に関して、証人は、本件発明のような加工方法の優位性を認めており、優位性を有する技術を不特定の人に知られうる状態で実施するとは、通常考えがたい。
したがって、有限会社下関カノウ商事により輸入されたふぐに基づく主張は、その前提において失当である。
仮に、この甲第2号証の1?7の証拠に示すように、有限会社下関カノウ商事が輸入した「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」が、例え、公知となったとしても、公知となったものは、
A.頭部の直後に背側から腹側にかけて切れ目が入り、
B.頭部の直後から背鰭までの背側の皮が縮んでおり、
C.頭部に比べて胴部が一段落ち込んでいる
D.白さばふぐ。
でしかなく、本件発明の方法を容易に想起できるものではない。

3-4 特願2000-354678号の出願控について
次に、甲第3号証の1?3は、甲第3号証の1のカバーレターの部分に、「極秘にお願いします」という趣旨の記載があり、しかも証人馬嶋実氏は、このファックスをそのまま加納政二氏にのみ送ったと証言している。
加納政二氏も、馬嶋実氏もフグの輸入を取り扱っているプロであり、プロ同志では秘密保持が守られている。
しかも、甲第3号証の1には、「極秘にお願いします」とも記載されているので、特願2000-354678号の出願書類の内容を知ったとしても、これを不特定の者に口外することは通常あり得ない。
また、証人馬嶋実氏がふぐの取引のカバーレターで、そのファックス自体を秘密にすることは、通常ない旨証言しており、それに反して「極秘」とされるこのファックスは、香港であっても秘密扱いにされていたことが理解できる。
従って、甲第3号証の1?3を公然知られたものとする請求人の主張は失当である。

甲第3号証の2は、平成12年11月21日に出願した特許出願の図面を用いて、中国の加工業者に説明するため、中国の特定の会社に渡したものであり、これはフグの処理方法を正確に知らせるためのものである。
甲第3号証の1に示すように、これらの書類は「極秘」となっており、中国でも秘密を保持されていることがわかる。
甲第3号証の2の書類が中国においても公知でないことは、明らかである。

4.当審の判断
4-1 明細書の記載について
本件特許請求の範囲の【請求項1】には、
「白さばふぐ或いは黒さばふぐを、有毒なふぐから区別できるふぐの加工方法であって、
ふぐの頭部を首部で、腹側の皮を残す形で、胴体から切り離す第1工程と、切り離した際残した腹側の皮と、背側の皮を同時に剥がす工程を、背鰭の起部の位置で完了する第2工程と、剥した際に、腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓を、取り除く第3工程と、背鰭の起部の位置で剥がし工程を完了した皮を、元の位置に戻して再び被覆、外形復元する第4工程とから成り、より完全に近い形で内臓を摘出後、外観を復元することを特徴とする白さばふぐ或いは黒さばふぐの加工方法。」
と記載されており、請求人が指摘するとおり、特許請求の範囲には、「白さばふぐ或いは黒さばふぐを、有毒なふぐから区別できるふぐの加工方法であって、・・」、「・・ふぐの頭部を首部で、・・切り離す第1工程・・」、「・・剥した際に、腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓を、取り除く第3工程・・」、及び、「・・より完全に近い形で内臓を摘出後、・・」との記載が認められる。
以下これら記載について、明細書の記載の是非を検討する。

4-1-1 理由1-1「有毒なふぐから区別できるふぐの加工方法」について、
特許請求の範囲の「白さばふぐ或いは黒さばふぐを、有毒なふぐから区別できるふぐの加工方法であって、・・」なる記載によれば、文言上は、記載される「ふぐの加工方法」により、「区別できる」ようになることを記載するとも、記載される「ふぐの加工方法」によれば、「区別できる」状態が維持され、区別できなくなることはないとも解されるので、まず、特許請求の範囲に記載される「有毒なふぐから区別できる」なる記載が、請求人が主張するように、特許請求の範囲に記載される第1?4工程を経ることにより、有毒なふぐから区別できるようになることを記載するものであるかを検討する。
特許明細書の発明の背景に係る記載として、【0001】に、ふぐには大別して有毒のものと無毒のものに分かれることを記載し、続けて、【0002】に、「無毒であるか否かの見分け方は、体背面の小さなとげの位置で見分ける。・・」と、有毒なふぐから区別する方法が記載されている。それら前提下で、【0003】に、「ふぐの輸入に関しては、「ふぐの形態は、種類の識別を容易にするため、次のいずれかであること。」と規定され、a処理を行わないもの(マルもの)b内臓のみを除去したもの、の2通りの仕様が規定されている。(図1、2参照)・・」、【0009】に、「【発明の効果】 本発明は以上のように、ふぐの頭部と胴体を完全に切断分離しないから、原形を保持し得るので、一見して無毒ふぐであることが識別でき、・・」と記載しており、特許請求の範囲に記載される、「白さばふぐ或いは黒さばふぐを、有毒なふぐから区別できるふぐの加工方法であって、・・」とは、特許請求の範囲に記載される第1?4工程を経ても、有毒なふぐから区別できる状態に維持されていることを述べることは明らかであり、請求人の主張は、前提において失当であり、採用できない。

なお、特許請求の範囲に記載される「・・ふぐの頭部を首部で、腹側の皮を残す形で、胴体から切り離す第1工程と、切り離した際残した腹側の皮と、背側の皮を同時に剥がす工程を、背鰭の起部の位置で完了する第2工程と、剥した際に、腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓を、取り除く第3工程と、背鰭の起部の位置で剥がし工程を完了した皮を、元の位置に戻して再び被覆、外形復元する第4工程とから成り、より完全に近い形で内臓を摘出後、外観を復元すること・・」によれば、ふぐの頭部と胴体を完全には切断分離しないから、原形を保持し得ることは明らかであり、原形を保持していれば、体背面の小さなとげの位置で見分けることが維持されたままの加工であることも明らかであり、特許請求の範囲に記載される第1?4工程は、「白さばふぐ或いは黒さばふぐを、有毒なふぐから区別できるふぐの加工方法・・」であることは明らかであるので、発明の詳細な説明に当業者が実施することができる程度に、必要とする工程を明確かつ十分に記載してないとすることもできない。

4-1-2 理由1-2「首部」について
被請求人は、「首部」とは、乙第3号証に基づいて、頭部と胴部をつなぐ部位であり、脊椎骨と頭骨の境界部分に定まる旨主張している。
これは、白さばふぐ、黒さばふぐを含む脊椎動物において、特段の記載を伴わなくても、骨格上首部の部位は定められていると云うべき事項であり、その意味からは、特許請求の範囲に記載される、切り離す位置としての首部は、明確に定まった位置であり、しかも、切り離された位置から確認可能な事項である。
したがって、特許請求の範囲に記載される「首部」をその位置が不明であるとすることはできない。
次いで、「首部」で切断することが容易に実施可能に発明の詳細な説明に記載されているか、更に検討する。
【0008】には、「【発明の実施の形態】
・・そこで図3で示す通り、頭1を胴体4と腹部の皮5でつながっている状態に切り離す。
・・」と記載されており、図3には「頭1」と「胴体4」とを示す符号が付されている。これをみれば、頭と胴部をつなぐ部位としての首部の位置は、間接的に示されており、所謂、魚の頭を落とすことは、通常に行われる処理であり、その位置も頭の直後の位置であることから、「首部」なる用語で部位を特定することを直ちに実施ができないとすべきものではない。
また、当業者である証人加納政二も「頭を切る」等と証言をし、切られた部位を「首」として証言していることからしても、胴体と頭とを切り離す行為の部位に「首部」なる用語を用いることを直ちに不適切とすべきものではない。

さらに、被請求人が主張する頭骨と脊椎骨の境界部分を正確に切り離すことが、例え正確にその位置を把握できないために困難であるとしても、「ふぐの頭部を首部で、腹側の皮を残す形で、胴体から切り離す第1工程」を直ちに実施をすることができないとすることはできない。正確にその位置を把握できないとしても、それは、切り離しを行った結果、脊椎骨と頭骨の境界部分を切り離していないものが確認されることにより判別される歩留まりの問題であり、その歩留まりを向上させる更なる技術情報の開示が、本件とは別異の発明を構成するとしても、一応の実施が可能であり、その構成が明確であれば、歩留まりが悪いことを持って、直ちに発明を実施することができる程度に開示されないとすることはできない。

4-1-3 理由1-3「腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓」について
特許請求の範囲の記載によれば、第3工程の「腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓」は、前工程である第2工程を受ける記載であり、「腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓」とは、第2工程の「腹側の皮と、背側の皮を同時に剥がす」工程を経てそれらを剥がした後の状態にある「内蔵」であることが明らかである。そして、「腹側の皮を残す形で、胴体から切り離す第1工程」が更に先行して記載されることにより、頭は、腹の皮側がつながって胴体より離れるものとして記載されているから、発明の詳細な説明に「剥がした際に切り離した頭部1に着いてくる形で胴体4から外れた内臓」と記載される「頭部1」は、腹側の皮を介して接続された状態で、切り離されるものであり、「腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓」も、「内臓」はそれが頭に付いてくるとしても、腹側の皮に付着する形で胴体から外れたものであり、特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載とが一致しないとする請求人の主張は採用できない。
また、頭部に付着するにしても、同頭部は腹側の皮を介して接続された状態で、切り離されるものであるので、「腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓」なる記載を不明瞭であるとは、認められない。
しかも、図面の記載も、内臓が頭部に付着するにしても、同頭部は腹側の皮を介して接続された状態で切り離されるものであることに反するものではなく、第1,2工程を経て結果として「胴体から外れた内臓」を取り除くことを記載する第3工程を実施不能とすることはできない。

4-1-4 理由1-4「より完全」について
特許請求の範囲に、「・・より完全に近い形で内臓を摘出後、外観を復元すること・・」と記載され、【0007】に、「【課題を解決するための手段】・・輸入食品検査規定の許容範囲内で、より完全に近い形で内臓を摘出後、外観を復元することにある。」と記載され、【0008】に、「【発明の実施の形態】 図1乃至図6を参照して、本発明に係わる白さば、或いは黒さばふぐの加工方法について具体的に説明する。図1は1匹のふぐを示す(マルもの)。図2は腹部を切開して、内臓を除去する、従来の方法で処理した形態を示す、しかしこの方法では内臓の取り残しが生ずる。・・」と従来技術によっては、完全に内臓を摘出されない可能性があることを記載し、同記載に続けて、「・・そこで図3で示す通り、頭1を胴体4と腹部の皮5でつながっている状態に切り離す。図4は、図3で切り離した際残した腹部の皮5と、背側の皮と同時に、背鰭3の位置まで剥がし、剥がした際に切り離した頭部1に着いてくる形で胴体4から外れた内臓をきれいに、かつ容易に取除くことができる。図5はそのようにして、頭1と胴体4全体が皮5でつながっている状態を示す。図6は背鰭3の位置まで剥がした皮をもとの位置に戻した状態を示す。」と、「切り離した頭部1に着いてくる形で胴体4から外れた内臓をきれいに」取除くことを述べ、これらの結果として、「かくして内臓を完全に取り除くことができ、かつ背鰭3の終点から尾鰭7の間、体背面後部6のとげの有無(有毒か無毒かの識別ポイント)が容易に識別できる状態で輸入できるので好都合である。・・」と記載されている。
してみれば、「かくして内臓を完全に取り除くことができ」とは、「切り離した頭部1に着いてくる形で胴体4から外れた内臓をきれいに」取り除く工程の結果を、従来の方法に対する認識として、「この方法では内臓の取り残しが生ずる。」と評価したこととの比較において記載するものであることは明らかであり、【0008】に記載する「かくして内臓を完全に取り除くことができ」とは、「頭1を胴体4と腹部の皮5でつながっている状態に切り離す。図4は、図3で切り離した際残した腹部の皮5と、背側の皮と同時に、背鰭3の位置まで剥がし、剥がした際に切り離した頭部1に着いてくる形で胴体4から外れた内臓をきれいに、かつ容易に取除く」との工程を経たものを従来技術に比して記載するものであり、特許請求の範囲に記載される「・・より完全に近い形で内臓を摘出」も「・・ふぐの頭部を首部で、腹側の皮を残す形で、胴体から切り離す第1工程と、切り離した際残した腹側の皮と、背側の皮を同時に剥がす工程を、背鰭の起部の位置で完了する第2工程と、剥した際に、腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓を、取り除く第3工程と、」を経たものであるから、発明の詳細な説明に記載される従来の方法に比較して、完全と認識されるものである。即ち、発明の詳細な説明に、従来技術との比較において「かくして内臓を完全」と記載される工程を経たものであるから、特許請求の範囲に「より完全」と記載することが許されないとすることはできない。
また、「より完全」は、所定の工程を経た結果の評価であり、その工程が特許請求の範囲に特定される以上、発明は特定される工程を経ることにより定まり、「より」なる記載をもって、発明の外縁が不明であるとすることはできない。

4-1-5 残余の明細書の記載について
残余の明細書の記載は、処理されるふぐの形状等を示す図面が多いとしても、敢えて、明細書の記載を不備とすべき特段の事項は認められない。

4-2 本件請求項1に係る発明の進歩性について
4-2-1 本件請求項1に係る発明
本件請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「白さばふぐ或いは黒さばふぐを、有毒なふぐから区別できるふぐの加工方法であって、
ふぐの頭部を首部で、腹側の皮を残す形で、胴体から切り離す第1工程と、切り離した際残した腹側の皮と、背側の皮を同時に剥がす工程を、背鰭の起部の位置で完了する第2工程と、剥した際に、腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓を、取り除く第3工程と、背鰭の起部の位置で剥がし工程を完了した皮を、元の位置に戻して再び被覆、外形復元する第4工程とから成り、より完全に近い形で内臓を摘出後、外観を復元することを特徴とする白さばふぐ或いは黒さばふぐの加工方法。」

4-2-2 理由2-1(甲第1号証の早期審査に関する事情説明書に基づく主張)について
甲第1号証は、本件被請求人が出願した特許出願(特願2000-354678号)に係る、平成13年11月20日提出の「早期審査に関する事情説明書」であり、「その後は本発明の方法に基きふぐの加工を実際に続行していたのであるが、最近に至り本発明と同じ加工方法を真似した製品が各所に出回りはじめその模倣業者の数は漸次増加の一途を辿っている。」と記載している。
甲第1号証が、特許を早期に取得することを意図して特許庁に対し提出した書面であることから、通常、虚偽の記載を行うとは考えがたいものであり、同記載を被請求人の意に反して代理人が作成した旨の主張は、にわかには採用しがたく、甲第1号証に特定される、「a)ふぐの頭を首部で、腹側の皮を残して胴体から切り離すこと。b)切り離した際、残した腹側の皮と同時に背鰭の位置まで剥がすこと。c)剥がしたときに腹側の付着する形で胴体から外れた内臓を取り除くこと。d)背鰭の位置まで剥がした皮を、元の位置に戻して再び被覆、外形復元するこの4工程」からなるふぐの加工方法が第3者(「模倣業者」)により実施されていたか否か、被請求人が一切知らなかったとする旨の主張にも疑問が残るものの、同記載は、第3者の実施を主観的に「同じ加工方法を真似した」と認識することを示すのみであって、その加工方法を個別に特定し、発明を構成する事項を対比して、同じ加工方法の発明であることを示すものではなく、その加工方法の構成を何等立証するものではない。
しかも、それが例え、同じ加工方法であるとしても、実施の状況は何等特定されておらず、甲第1号証の記載をもって、記載される模倣業者の実施を主張する構成からなる発明の公然実施であるとすることはできない。
したがって、甲第1号証をの記載を論拠として、第3者(「模倣業者」)が、
a)ふぐの頭を首部で、腹側の皮を残して胴体から切り離すこと
b)切り離した際、残した腹側の皮と同時に背鰭の位置まで剥がすこと
c)剥がしたときに腹側の付着する形で胴体から外れた内臓を取り除くこと
d)背鰭の位置まで剥がした皮を、元の位置に戻して再び被覆、外形復元すること
からなる加工を本件に係る出願の出願前に公然と実施していた事実を前提とする請求人の主張は、提出された証拠によっては、採用できない。

次に、上記a)?d)からなる加工を本件被請求人が実施をしていたことは、甲第1号証に記載され、その作成者である被請求人も認めるところであり、請求人が主張するように、本件に係る出願の出願前である、甲第1号証の提出日前に、被請求人が上記a)?d)からなる加工を実施していたことは、明らかである。
一般には、「加工方法を真似した」とは、真正な加工方法を知り、それと同じ方法で加工することを意味することは、請求人が述べるとおりであるものの、「本発明と同じ加工方法を真似した製品が各所に出回り」との記載は、その加工方法を特定できたか否かはさておいて、特定の商品に接し、被請求人が主観的に、同じ加工方法を真似されたと認識し、その認識を記載するものと解することが相当である。
以上のとおり、その実施の状況を最もよく知る被請求人は、自身の実施は、ふぐが第三者の目に触れることはない状態で実施したものであり、公然実施に該当しない実施である旨主張しており、それを覆すべき特段の客観的事実は認められない。
さらに、証人加納政二の証言(117?119)によれば、ふぐの加工に関して、他社の加工方法をお互いに知ることは、必ずしも通常の事項とは認められないことからも、本件に係る出願の出願時において、ふぐの加工が実施されてた場合、加工方法を秘密とすることはないとは認められず、甲第1号証に係る本件被請求人の実施を公然であるとする客観的事実は何等認められない。
したがって、提出された証拠によっては、甲第1号証を論拠として、本件被請求人が公然実施した旨の主張は、採用できない。

4-2-3 理由2-2(甲第2号証に係る有限会社下関カノウ商事の輸入)について
4-2-3-1 甲第2号証に係るふぐについて
甲第2号証は、有限会社、下関カノウ商事が平成14年2月に、中華人民共和国の 「NINGBO QIULONG AQUATIC PRODUCTS CO., LTD」より、「Frozen Shirosaba-Fugu」を輸入したことを一貫して示しており、甲第2号証の5の鑑別成績の欄の記載によれば、「Frozen Shirosaba-Fugu」は、2,484Kgの白さばふぐであると認められる。また、「Frozen Shirosaba-Fugu」に関し、甲第2号証の2-4によれば、「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」と表記されている。
さらに、証人加納政二の証言も、甲第2号証に記載される事項に何等反するものではなく、これら各証拠を総合すれば、平成14年2月20日に、有限会社下関カノウ商事は、「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」と表記されるべき白さばふぐを輸入したものと認める。

請求人は、「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」は、まさに本件特許発明を実施することによって内臓を除去した後に冷凍した状態の白さばふぐを示す旨主張しているので、「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」が如何なるものであるかを検討すると、「FROZEN」及び「SHIROSABAFUGU」が、「冷凍」及び「白さばふぐ」を意味することは明らかであり、冷凍された白さばふぐであることは、明白である。
さらに、「GUTTED」なる記載に関して、証人加納政二は、「027 GUTTEDが、頭から包丁を入れて皮を剥いで内蔵を除去してまた皮を戻してというような方法で内蔵を除去するということを示しています。
028 内蔵の除去に二通りありますが、腹側を切って内蔵を除去する場合の表示については、私ははっきり申しまして、自分でお腹から開けて輸入したという経験がありません。ですから多分平成11年以前、やっていることはよく知ってますけれども、書類上どのようになっていたかはよく分からないですけども、多分FROZEN SHIROSABAFUGUで通っていたんじゃないかと思います。それから、我々が平成13年ぐらいから入れる頃になりますと、内蔵を除去したものについてはGUTTEDという表現が必ずされるようになったと思います。」と証言しており、この証言の意味するところは、「GUTTED」という記載が内蔵を除去したものを表すことを述べるものであり、その範囲においては、被請求人が乙4号証をもって主張することと同様である。しかしながら、「GUTTED」が頭から包丁を入れて皮を剥いで内蔵を除去してまた皮を戻してというような方法で内蔵を除去するもののみを意味するかは、証人は、他の方法で内蔵を除去する場合の表記方法を知らない旨証言しており、027の「 GUTTEDが、頭から包丁を入れて皮を剥いで内蔵を除去してまた皮を戻してというような方法で内蔵を除去するということを示しています。」なる証言も、証人の経験に基づいて、「GUTTED」の意味を、他の方法の表記との対比から、事実として述べるものではなく、直ちには、「GUTTED」の意味として採用することはできない。
しかしながら、証人加納政二は、甲第2号証に係る輸入品に関して、自身で加工方法を指示して輸入を行っていたことを、
「022 これは私どもが中国のニンボウというところから白さばふぐを輸入したときの一連の書類だと思います。
023 この書類の輸入というのは、ここにありますように、2002年2月20日です。
024 この書類は、ここにFROZEN GUTTED SHIROSABAFUGUとなっていますので、内蔵を除去した白さばふぐを輸入したときの書類です。
025 この書類のタイトルは衛生証書、それからインボイス、パッキングリスト、B/L及び一連の衛生証書ですか、4種類、通常の一連の書類です。」
「029 この輸入のときに内蔵の除去は、中国のニンボウチュウロン水産有限公司という会社に製造を頼みました。ここに出荷者がNINGBO QIULONG AQUATIC PRODUCTS CO,LTDと書いてますね。
030 この輸入のときにこの中国の業者に対して内蔵の除去について指示をしました。
031 どのように指示したかといいますと、必ず私は初めのうちは特に現地へ参ります。そして自分で包丁を持って、自分が自ら加工方法を指導いたします。先ほど申しましたように、包丁を持って、頭の上へ包丁を入れて背びれまで皮を剥がして内蔵を除去し、元に戻すという加工方法を指示いたしました。」
等と証言しており、加工方法を自身で指示した旨証言している。そして、ふぐの輸入検査の指針により、輸入するふぐの形態は、種類の鑑別を容易にするために、処理を行わないもの又は単に内蔵のみをすべて除去したものに限られていること、ふぐを輸入する者として、輸入時の検査等を考慮すれば、現地での加工方法は重要な関心事項であるものと考えられ、自身で直接指示した加工が施されたと解することが自然であり、証言された加工方法で加工されたもの輸入が実施されたものと認める。
なお、「GUTTED」なる記載は、腹側を切って内蔵を除去する場合(セミドレス)を排除しない旨の被請求人の主張は、是認できるものの、上記甲第2号証に係る輸入された白さばふぐを、証人が指示したとおり、頭から包丁を入れて皮を剥いで内蔵を除去してまた皮を戻す方法で内蔵を除去したと認定する何らの妨げとはならない。
そして、輸入された「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」は、証人加納政二が証言した、頭の上へ包丁を入れて背びれまで皮を剥がして内蔵を除去し、元に戻すという加工方法により加工された白さばふぐであるため、
頭部の直後に背側から腹側にかけて切れ目が入り、
頭部の直後から背鰭までの背側の皮が縮んでおり、
頭部に比べて胴部が一段落ち込んでいる
内蔵が除去された白さばふぐ
なる構成を有していたたものと認められる。

4-2-3-2 甲第2号証に係るふぐの輸入と方法の発明の公然実施
甲第2号証のふぐの加工方法は、4-2-3-1に述べたとおり、頭の上へ包丁を入れて背びれまで皮を剥がして内蔵を除去し、元に戻すという加工方法であると認められ、この加工が中国においてなされたことは、甲第2号証の記載及び証人加納政二の証言より明白であり、「011 中国で内蔵を除去するような加工を秘密にしてくれと依頼するようなことは、今はもうそんなことは無いと私は思います。」との証言はあるものの、甲第2号証の輸入に係る時期において、証人加納政二の証言によれば、他社の加工方法を知ることがない状況であり、ふぐの加工方法に係る甲第3号証のFAXに、敢えて秘密扱いの意思表示があることを勘案すると、提出された証拠によっては、日本国内又は中国において、ふぐの加工が実施された場合、直ちにその加工を公知または公然と実施したとされるべき状況にあったと認めることはできない。
また、中国において同様の方法をみた旨の証言も具体的状況を述べるものではなく、中国における技術指導に係る証言も、取引を前提とした個別指導に係る証言であり、そのことのみにより直ちに公知とすべきものではない。 その他、中国における加工を公然と実施されたとする旨の証言等は、主観的認識として述べるのみであって、公然と実施していたことを示す客観的証拠は、何等認められず、しかも、中国における加工を公然実施とする主張は、本件無効審判においては主張されていない。

請求人は、加工方法が直接日本国内で知られる事実がなくても、輸入が行われれば、輸入品の製造方法は、輸入により実施されたこととなるので、公然実施されたこととなる旨主張している。
確かに、物品の輸入がその物品を製造した方法に係る発明の実施に該当することは、請求人が主張するとおりであるものの、直ちにその実施が公然実施に該当するとされるものではない。
発明の公然実施とは、その実施により同発明に係る技術思想が第3者に伝達されること又は、伝達されうることが前提であり、輸入行為自体で製造方法に係る技術思想の伝達がなされるものでなければ、製造方法の発明により製造された物品の輸入をもって、直ちに製造方法の発明が知られたとすることも、公然実施されたとすることもできない。
そして、実施の場所は、中国であるものの、具体的な実施状況は何等特定する証拠はなく、しかも、本件における甲第2号証に係る「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」は、その発注者である有限会社下関カノウ商事が製造方法を指示していることからして、物品の納入に伴い新たな技術情報が中国の加工業者から有限会社下関カノウ商事に伝達されるものでもないので、輸入された物品から、その製造方法が公知となるかの検討は、別途行うこととし、輸入のみをもって、甲第2号証に係る「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」の加工方法が公然実施されたとする旨の主張は採用しない。

4-2-3-3 甲第2号証に係る輸入されたふぐに係る発明の公知性
まず、加工された物品から、加工方法が容易に想到し得るかを検討すると、本件においては、上述の通り、輸入されたふぐは、
頭部の直後に背側から腹側にかけて切れ目が入り、
頭部の直後から背鰭までの背側の皮が縮んでおり、
頭部に比べて胴部が一段落ち込んでいる
内蔵が除去された白さばふぐ
なる構成を有していたたものと認められる。
そして、首部が背側から切断され切れ目が入り、腹側の皮は切断されず、内蔵がない状態にあり、背側の側が縮んでいるふぐを見た当業者であれば、首部を腹側の皮が残る形で頭部と胴部とを切断し、背側の皮を剥がすことを試みることに特段の困難性はなく、本件明細書の記載によれば、同行為を試みれば、他に特段の工夫を要することなく、結果として、内蔵が胴体から外れるものと認められる。
したがって、甲第2号証に係る輸入されたふぐを見た当業者であれば、本件発明の第1,2工程を試みることに格別の困難性はなく、加工されたふぐに内蔵がないのであり、従来より内蔵を除去することは周知であることからして、内蔵を完全に近い形で取り除くことは、第1,2工程を試みた結果として、内蔵が胴体から外れる状態となった時にそれを取り除くことは、むしろ当然の行為である。
また、そのふぐの外観は、頭部の直後から背鰭までの背側の皮が縮んでおり、輸入するふぐに関して、外観上ふぐの種類を判別できることが要求されることから、再度、外形を復元することも、当業者にとって格別困難性があることとは認められないので、前提となる甲第2号証に係る輸入されたふぐの公知性について、以下、検討する。
請求人は、輸入検査の時点及び輸入品の販売の2点をもって、甲第2号証に係る輸入されたふぐは、公知である旨主張している。
まず、請求人が指摘する輸入検査を受けたことをもって公知であるとする主張について検討する。
輸入品が、「GUTTED」と表示されることから、輸入検査の実施者は、内蔵がないことを当然に把握し、外観からふぐの種類を判別する以上、頭部の直後に背側から腹側にかけて切れ目が入り、頭部の直後から背鰭までの背側の皮が縮んでいる白さばふぐを把握したものと認められるものの、このような検査自体は所謂守秘義務を前提になされるべきものであり、検査そのもので甲第2号証に係る輸入されたふぐが公知となったとすることはできない。
次に、請求人は、税関で第3者が見ることができると主張し、証人加納政二も同趣旨の証言を行っている。しかしながら、これらは、証人及び請求人の主観的認識として第3者が見うることを述べる以上のものではなく、その検査の状況について、実施の場所、第3者の位置、その場所の通行制限等の管理状況等に係る事実を示す客観的事実は何等指摘されておらず、提出された証拠によっては、甲第2号証に係る輸入されたふぐが輸入検査を受けたことを論拠として公知性を主張する主張は、採用しない。

次に、請求人は、甲第2号証に係る輸入されたふぐの量からみて、有限会社下関カノウ商事のみで加工したことはあり得ず、加工業者にそのまま販売されたことにより、本件の係る出願前に公知となった旨主張している。
請求人が指摘するように、甲第2号証に係る輸入されたふぐの量は、24,840Kgであるものと認められ、証人加納政二は、有限会社下関カノウ商事の業務について、
「001 私が代表取締役をしている有限会社下関カノウ商事は、平成9年の開業以来、主にふぐの輸入の業務に携わっており、それをいわゆる国内の加工屋さんへ販売する、というのが私どもの主たる仕事です。
002 白さばふぐ、黒さばふぐは取り扱っており、主に中国から輸入しています。」、「009 税関の許可が下りたあとは、我々が加工屋へ販売します。そしてうちの場合は若干委託加工場で商品を作っていただいて製品の販売ということもやっております。」と証言している。
しかしながら、これら証言は、有限会社下関カノウ商事の通常の業務を述べるものの、甲第2号証に係るふぐの取り扱いに係る個別事情を述べるものではなく、甲第2号証に係るふぐを加工業者にそのまま販売した事実をその時期及び販売の形態を特定して示す客観的事実は何等認められない。
しかも、甲第2号証に係るふぐの輸入が、平成14年2月20日になされ、本件に係る出願日は、平成14年4月11日であり、それぞれの日が近接していることを考慮すると、輸入を行った有限会社下関カノウ商事が通常であれば、加工業者に販売を行うべき時期であるとしても、そのことをもって、直ちに、甲第2号証に係る輸入されたふぐが、本件に係る出願の出願前に加工業者に引き渡されたとすることはできない。
また、有限会社下関カノウ商事が行ったとする委託での加工に関しても、加工の状況を具体的に特定する客観的事実は、何等認められない。
したがって、提出された証拠によっては、甲第2号証に係る輸入されたふぐが、本件に係る特許の出願前に公知である旨の主張は採用しない。

4-2-4 理由2-3(甲第3号証の出願書類の公知性)について
甲第3号証の1には、丸秘の表示と、「極秘」である旨の記載が認められる。
被請求人は、甲第3号証の2は、平成12年11月21日に出願した特許出願の図面を用いて、中国の加工業者に守秘義務を負わせてふぐの処理方法を正確に知らせるためのものであるとしており、甲第3号証の2について、中国の加工業者に渡したことを守秘義務を課するものではないとする客観的事実は認められない。なお、甲第3号証の1が所謂秘密扱いの表示をなしていることから見ても、被請求人が中国の加工業者に特許出願の控えを知らせた行為は、守秘義務を課していたと解することがより自然である。
提出された証拠によっては、これが、香港の百利貿易公司にどのような経緯で存在したかは定かではないものの、甲第3号証の1には、丸秘の表示がなされ、さらに、「極秘」である旨の記載があることから、甲第3号証の2の出願書類を香港の百利貿易公司が入手したことを持ってそれらが公知であると解するよりは、ふぐに係る何らかの取引等の経緯から、百利貿易公司は、それら書類を守秘義務を負って入手していたと解することがより自然な解釈であり、香港の百利貿易公司が守秘義務を負うことなくそれらを有していたとする客観的事実は、認められない。
次に、甲第3号証のFAXについて検討すると、甲第3号証の1に示すように、これらの書類は「極秘」となっており、FAX全体は、秘密の保持を前提とするものと考えることが通常であり、証人馬嶋実は、「036 まず極秘という書類は、通常原本が然るべき立場の人に出されるものであると理解しております。それを既に当事者外に流通されていた書類、かつファックスという通信、通常の手段で送られてきたものですから、極秘とは書いてありますけれども私はそれを自分だけの秘密にしないといけないという意味あいとはとらえませんでした。」と証言するように、証人馬嶋実の甲第3号証に対する主観的認識が秘密ではないとするものであったとしても、発信者は守秘義務を課したと解すべきである。
そして、秘密扱いとして送信されたものに関して、受信した者が第3者に公開すれば、送信者の期待に反して公知となることは当然であるものの、馬嶋実は、甲第3号証を加納政二に転送する以上に、甲第3号証の2,3を他の第3者に開示した事実は認められない。
また、証人馬嶋実、証人加納政二の甲第3号証に係る証言は、添付された特許出願に係る取り扱いの相談のためであることを一貫して述べており、甲第3号証は、証言どおりの趣旨から加納政二に転送されたものと認める。
そして、業務上の相談をするにあたり、相談事項についての秘密を守られることを期待することが通常であり、同FAXの転送には特段の意思表示がない限り守秘義務を課されていると解すべきであり、暗黙の内にも守秘義務が課されていないとする特段の事実が認められない以上、同FAXの転送を持って、直ちに、同FAXの内容である甲第3号証の2の出願書類が公然知られたとすることはできない。
したがって、甲第3号証の2の出願書類が本件特許に係る出願の出願前に公知であることを前提とする請求人の主張は採用しない。

5.むすび
以上説示の通り、提出された証拠及び請求人の主張によっては、本件特許を無効とすることはできない。
また、他に、本件特許を無効とすべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2006-11-08 
出願番号 特願2002-108897(P2002-108897)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松下 聡  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 溝渕 良一
石田 宏之
登録日 2005-01-28 
登録番号 特許第3640646号(P3640646)
発明の名称 白さばふぐ或いは黒さばふぐの加工方法  
代理人 中前 富士男  
代理人 森脇 和弘  
代理人 冨永 賢治  
代理人 内野 美洋  
代理人 平野 潤  
代理人 周々木 晴香  
代理人 石田 耕治  
代理人 高木 紀子  

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