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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680060 審決 特許
無効200580340 審決 特許
無効200680050 審決 特許
無効200680042 審決 特許
無効200680210 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特29条の2  B29C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B29C
管理番号 1168499
審判番号 無効2006-80216  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-10-26 
確定日 2007-11-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第3521643号発明「チューブの成形体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3521643号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3521643号は、平成 8年 9月11日に出願されたものであって、平成16年 2月20日にその特許権の設定登録がされたものである。
これに対し、無効審判(請求人 三井・デュポンフロロケミカル株式会社(以下、「請求人」という。))が請求され、平成19年 1月12日付けで答弁書及び訂正請求書(被請求人 旭硝子株式会社(以下、「被請求人」という。))が提出されたものである。
以下に、審判請求以後の経緯を整理して示す。

平成18年10月26日 審判請求書の提出
平成19年 1月12日付け 審判事件答弁書及び訂正請求書の提出
平成19年 4月27日 口頭審理陳述要領書(1)の提出(請求人から)
平成19年 4月27日 口頭審理陳述要領書(2)の提出(請求人から)
平成19年 4月27日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人から)
平成19年 4月27日 口頭審理の実施(特許庁審判廷(JTビル内16階)
平成19年 4月27日 書面審理通知
平成19年 5月18日付け 上申書の提出(請求人から)
平成19年 6月 5日付け 上申書の提出(被請求人から)

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
訂正事項1:訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[ただし、パーフルオロアルキル基の炭素数は1?7]との共重合体で、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく重合単位の含有量が2.5?10モル%であり、容量流速が0.5?100mm3/秒である共重合体を成形して得られるチューブ。ただし、容量流速は、高化式フローテスターを使用して、温度380℃、荷重7kgで、直径2.1mm、長さ8mmのノズルから共重合体を溶融流出させ、単位時間(秒)に流出する共重合体の容量(mm3)である。」記載を、
下記のとおり訂正する。
「テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[ただし、パーフルオロアルキル基の炭素数は1?7]との共重合体で、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく重合単位の含有量が3.2?5モル%であり、容量流速が0.5?100mm3/秒である共重合体を成形して得られるチューブ。ただし、容量流速は、高化式フローテスターを使用して、温度380℃、荷重7kgで、直径2.1mm、長さ8mmのノズルから共重合体を溶融流出させ、単位時間(秒)に流出する共重合体の容量(mm3)である。」
訂正事項2:段落【0012】を、下記のとおり訂正する。
【課題を解決するための手段】
本発明は、テトラフルオロエチレン(以下、TFEという)とパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[ただし、パーフルオロアルキル基の炭素数は1?7]との共重合体で、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく重合単位の含有量が3.2?5モル%であり、容量流速が0.5?100mm3/秒である共重合体を成形して得られるチューブを提供する。」
訂正事項3:段落【0017】を、下記のとおり訂正する。
「PFA中のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく重合単位の含有量は2.5モル%未満では球晶サイズが大きく表面平滑性が得られない。また、10モル%超ではPFAの融点が低下して、高温での物性が低下する。本発明では、3.2?5モル%である。」
訂正事項4:段落【0028】を、下記のとおり訂正する。
「【発明の効果】
パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく重合単位の含有量が3.2?5モル%で、容量流速が0.5?100mm3/秒のPFAは、球晶サイズの小さい結晶化特性を有し、成形加工性、機械的強度に優れ、また、比較的遅い冷却速度でも微細な球晶を生成しやすい結晶化特性を有する。このPFAを溶融押出成形して得られるチューブは、内面平滑性に優れ、また、内面平滑性に優れた厚肉チューブが円滑有利に得られる。」

2-2.訂正の目的の適否・新規事項の追加の有無について
上記訂正事項1は、含有量が「2.5?10モル%」との記載を、「3.2?5モル%」と訂正するもので、当該訂正事項1は、特許請求の範囲の数値範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、含有量の下限値を3.2モル%とする数値の根拠は、願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0017】及び段落【0025】には、それぞれ、「【0017】 PFA中のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく重合単位の含有量は2.5?10モル%である。2.5モル%未満では球晶サイズが大きく表面平滑性が得られない。また、10モル%超ではPFAの融点が低下して、高温での物性が低下する。特に、3?5モル%であることが好ましい。」、「【0025】 反応圧力を13.5kg/cm2に保持し、反応中に消費されたTFEに見合う量のTFEを反応器に連続的に導入した。TFE120重量部を導入した時点で反応を止め、125重量部のポリマーを得た。このポリマーの融点は275℃、容量流速は1.5mm3/秒、パーフルオロ(n-プロピルビニルエーテル)に基づく重合単位の含有量は3.2モル%であった。このポリマーを単軸の押出機で、シリンダの3区部(C1、C2、C3)およびダイ部Hの温度C1/C2/C3/H=300℃/350℃/380℃/380℃、フィード量20kg/時間、スクリュ回転数50rpmの条件でペレットを得た。」と記載されていることから、段落【0017】において特に好ましいとされた範囲の下限値3モル%をさらに、段落【0025】記載の実施例に基づいて、3.2モル%としたものであり、訂正事項1は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項2ないし4に係る訂正は、訂正事項1により特許請求の範囲の記載を訂正したことに伴って本件特許明細書の記載を整合させるための訂正であり、明りょうでない記載の釈明を目的としたものと認められる。
ところで、請求項1に係る発明における共重合体は、「パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく重合単位の含有量が3.2?5モル%であり、容量流速が0.5?100mm3/秒である共重合体」との記載から、「パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、「PAVE」ということもある。)に基づく重合体の含有量」と「容量流速」とにより特定されるものであり、PAVEの含有量の範囲が狭まるように変われば、容量流速もそれに応じて変化するものとの考え方もあると思われるが、この点について、本件特許明細書段落【0015】に「PFAの容量流速は分子量が小さくなると大きくなることから、PFAの分子量を制御することにより調整できる」との記載のとおり、容量流速は、主として、分子量に依存するものと言ってよいものであるから、PAVEの含有量と容量流速とは相互に関連するものではなく、両者、独立して制御できるものといえるので、PAVEの含有量の範囲が「3.2?5モル%」であり、かつ、「容量流速」が「0.5?100mm3/秒」である共重合体は、本件特許明細書に記載されたものといえる。
したがって、本件訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。

2-3.まとめ
したがって、上記訂正事項1ないし4に係る訂正は、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項並びに、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号及び第3号の規定に適合するから、当該訂正は認められる。

3.本件特許第3521643号の発明(以下、「本件特許発明」という。)
本件特許発明は、上記したとおり訂正は認められるから、その訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。

「テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[ただし、パーフルオロアルキル基の炭素数は1?7]との共重合体で、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく重合単位の含有量が3.2?5モル%であり、容量流速が0.5?100mm3/秒である共重合体を成形して得られるチューブ。ただし、容量流速は、高化式フローテスターを使用して、温度380℃、荷重7kgで、直径2.1mm、長さ8mmのノズルから共重合体を溶融流出させ、単位時間(秒)に流出する共重合体の容量(mm3)である。」

4.当事者の主張
4-1.請求人の主張
(1)請求人は、無効審判請求書及び口頭審理陳述要領書並びに口頭審理によれば、「本件特許の、請求項1に係る発明の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めている。
そして、その無効理由の概要は、本件特許は、特許法第29条第1項第3号に違反してされたもの、特許法第29条第2項の規定に違反してされたもの、又は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する、というものであって、以下の甲第1ないし第3号証、甲第3号証の1、2、甲第4ないし第8号証を証拠方法として提出している。また、請求人は、以下の参考資料1ないし4も併せ、提出している。

甲第1号証:特開平3-247609号公報
甲第2号証:「パーフルオロカーボン樹脂 テフロン▲R▼実用ハンドブック」、17頁、25頁、1992年(平成4年)8月増刊、三井・デュポンフロロケミカル株式会社発行、審決注:▲R▼は、Rの丸囲みを意味する。
甲第3号証:国際公開第97/07147号のパンフレット
甲第3号証の1:PCT/US96/13357明細書の全文翻訳
甲第3号証の2:特表2002-509557号公報(平成8年8月16日出願、平成14年3月26日公表)
甲第4号証:米国特許第4,380,618号明細書、1983年4月19日発行
甲第5号証:商品カタログ 「TEFLON▲R▼/TEFZEL▲R▼」、表紙、1?38頁、奥付け(11/91) 198113B Printed in USA、DUPONT
甲第6号証:2006年4月27日作成の「実験報告書1」、三井・デュポンフロロケミカル株式会社 テクニカルセンター 研究開発グループ 岩崎 孝彦作成
甲第7号証:「第26回 超LSIウルトラクリーンテクノロジーシンポジウム」配布資料 主催:UCS半導体基盤技術研究会、1995年(平成7年)12月1日発行、第143?147頁及び第159?160頁
甲第8号証:2007年4月4日作成の「実験報告書2」、三井・デュポンフロロケミカル株式会社 テクニカルセンター 研究開発グループ 西尾 孝夫作成
参考資料1:ASTM D 1238-95「Standard Test Method for Flow Rates of Thermoplastics by Extrusion Plastometer1」
参考資料2:ASTM D 3307-93「Standard Specification for PFA-Fluorocarbon Molding and Extrusion Materials1」
参考資料3:ASTM D 2116-97「Standard Specification for FEP-Fluorocarbon Molding and Extrusion Materials1」
参考資料4:PFAのMFRの温度依存性についての測定の結果を、横軸を温度、縦軸を対数目盛で表したMFRとしたグラフ

(2)無効理由
そして、請求人の無効理由を詳しく見ると、以下の無効の理由1?4を主張しているものと認める。
無効の理由1;本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
無効の理由2;本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
無効の理由3;本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
無効の理由4;本件特許発明は、甲第3号証の明細書に記載された発明と同一であるので、本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

4-2.被請求人の主張
被請求人は、答弁書及び口頭審理陳述要領書によれば、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めている。
そして、請求人の主張する無効の理由1ないし4には理由はない、と主張し、以下の乙第1ないし第4号証を証拠方法として提出している。

乙第1号証:旭硝子株式会社 化学品カンパニー品質保証室千葉 永井 政澄作成の2006年12月26日付け「実験報告書」
乙第2号証:里川孝臣 編「ふつ素樹脂ハンドブック」、表紙、総目次、285?287、303?315、332?335頁、奥付、1990年11月30日、日刊工業新聞社発行
乙第3号証:特開平7-126329号公報
乙第4号証:旭硝子株式会社 化学品カンパニー開発部 西 栄一作成の2007年5月23日付け「実験報告書2」

5.当審の判断
5-1.無効の理由1について
本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。以下に、詳述する。

(1)甲各号証の記載事項
a.甲第1号証:
甲第1号証には、以下の記載a1?a8が認められる。

a1.「特許請求の範囲
1.60?99重量%の式-CF2CF2-で表わされる反復単位及び1?10重量%の式
-CF(ORf)-CF2-
[式中、Rfは炭素数1?8のパーフルオルアルキル基である]
で表わされる少なくとも1種の反復単位から本質的に成り、反応又は分会でHFを発生しうる末端基を実質的に含まず、372℃における溶融粘度が107ポイズ以下である溶融加工可能な非弾性テトラフルオルエチレン共重合体であって、末端基の実質的にすべてが-CF3であることを特徴とする該テトラフルオルエチレン共重合体。」(特許請求の範囲 第1項)
a2.「本発明は改良されたパー弗素化樹脂、特に安定な重合体末端基を有する溶融加工可能なテトラフルオルエチレン(TFE)/パーフルオル(アルキルビニル)エーテル(PAVE)共重合体に関する。
テトラフルオルエチレン/パーフルオル(アルキルビニル)エーテル(TFE/PAVE)の溶融加工可能な共重合体は、工業的な射出成形製品及び電線絶縁用に広く使用されている。その化学安定性と高温特性の独特な組合せのために、それ広範囲の射出成形部品、押出しパイプ、及びチューブ、そして容器の上塗り材(liner)に対する好適な材料となる。」(第1頁下右欄6?17行)
a3.「 これらの不安定な末端基は、・・・HFを放出することが発見された。この不安定な末端基から発生するHFは同様に金属も腐食し、弗化金属腐食生成物を与えることが発見された。
腐食源の発見の結果として、上述の腐食潜在性を有する不安定な末端基を含有しない改良されたTFE/PAVE樹脂が開発された。改良された樹脂は腐食性の抽出しうる弗化物イオンを、溶解したHF又はCOF2の形で極く定量でしか有さず、また酸化、加水分解及び/又は熱分解で更なるHFを発生しうる末端基を殆んど定量的に含まない。
すなわち、本発明によれば、90?99重量%の式-CF2CF2-で表わされる反復単位及び1?10重量%の式
-CF(ORf)-CF2-
[式中、Rfは炭素数1?8のパーフルオルアルキル基である]
で表わされる少なくとも1種の反復単位から本質的に成り、反応又は分解でHFを発生しうる末端基を実質的に含まず、372℃における溶融粘度が107ポイズ以下である溶融加工可能な非弾性テトラフルオルエチレン共重合体であって、末端基の実質的にすべてが-CF3である、ことを特徴とする該テトラフルオルエチレン共重合体が提供される。
このような改良された本発明の共重合体は不安定な末端基を有するTFE/PAVE樹脂を、殆んどすべての不安定な末端基を除去するのに十分な条件下に弗素ガスと接触させ、更に抽出しうる弗化物イオン含量を必要な低量まで減ずることによって製造される。」(第2頁上右欄末行?同頁下右欄12行)
a4.「弗素化しうるテトラフルオルエチレン/パーフルオル(アルキルビニル)エーテル共重合体は、・・・常法のいずれかによって作られたものである。共重合体は、ビニルエーテルに由来する反復単位を1?10重量%、好ましくは2?4重量%で含有する。
共重合体のこの含量は、共重合体が弾性体よりもむしろプラスチックとなる、即ち部分的に結晶化し且つ室温で2倍の延伸状態からその元の長さへ急速に収縮しないぐらいの十分に低量である。しかし共単量体含量は共重合体が溶融加工が可能でないほど低量ではない。
ここに「溶融加工可能な」とは、共重合体が通常の溶融加工装置で加工できる(即ち成形品例えば射出成形品、フイルム、繊維、チューブ、電線コーテイングなどへ加工できる)ことを意味する。このためには、共重合体の加工温度における溶融粘度が372℃で高々107ポイズであることが必要である。好ましくは、それは372℃において104?106ポイズの範囲である。」(第2頁下右欄13行?第3頁上左欄13行)
a5.「溶融加工可能な重合体の溶融粘度は、次のように改変したASTM法D-1238号に従って測定した・・・。試料5.0gを372±1℃に保った内径9.53mmのシリンダーに仕込んだ。・・・これを直径2.10mm、長さ方形端のオリフイス8mmから5000gの負荷(ピストン+重さ)下に押出した。これは変形応力44.8kPaに相当した。ポイズ単位の溶融粘度は53170を観察されたg/分単位の押出し速度で割った値として計算される。」(第3頁上左欄14行?同3頁上右欄7行)
a6.「共重合体は式Rf-O-CF=CF2(式中、Rfは炭素数11?8のパーフルオルアルキル)を有する。好適な種類はn-パーフルオルアルキルである。特別な共重合しうる共重合体はパーフルオル(メチルビニルエーテル)、パーフルオル(n-プロピルビニルエーテル)、パーフルオル(n-ヘプチルビニルエーテル)を含む。これらの共単量体の混合物も使用しうる。」(第3頁上右欄8?15行)
a7.「共重合体は少なくとも一つの第三共単量体の少量を、即ち5重量%までを、含有することができる。」(第3頁下左欄8?9行)
a8.「実施例1
押出したペレット・・・のテトラフルオルエチレン/パーフルオル(プロピルビニル)エーテル(PPVE)共重合体(溶融粘度4.1×106ポイズ及びPPVE含量3.4重量%)・・・弗素化装置中へ仕込んだ。」(第5頁下左欄3?9行)
b.甲第2号証:
b1.「3)テフロン▲R▼PFA
表6:銘柄の項;340-J,345-J,350-J、メルトフローレイト(g/10分)の項;13,5,2、代表的用途の項;ウェハーキャリア、・・・電線被覆、チューブ等,厚肉電線、チューブ、フィルム,各種ライニング製品、チューブ、・・・熱収縮チューブ等
表6の枠外にメルトフローレイトは、温度372℃、荷重5kgの値である。」(第17頁)
b2.「1)溶融流動性
テフロン・・・では、各々銘柄により溶融時の樹脂の流動性が異なる。また、流動性は温度によっても変る。
各銘柄の温度と流動性の関係を図1に示す。流動性はメルトフローレイト(MFR)で示す。
図1 『テフロン▲R▼FEP,PFAの温度と流動性(メルトフローレイト)の関係』との表題 片対数グラフ:縦軸 メルトフローレイト(g/10分) 0.2?50、横軸 温度(℃) 290?450、グラフ中には、『MFRの測定標準温度は372℃ 測定法 FEP:ASTM D2116、PFA:ASTM D3307』の記載あり。PFA340-J、PFA345-J、PFA350-Jについて、右肩上がりの直線状に変化するグラフ」(第25頁)
c.甲第4号証:
「Melt viscosities of the melt-processible polymers were measured of according to American Society for Testing and Materials test D-1238-52T, modified as follows: ・・・The 5.0 g sample is charged to the 9.53 mm (中略) at 372 ℃.±1℃.Five minites after the sample is charged to the cylinder, it is extruded through a 2.10 mm (0.0825 inch) diameter, 8.00 mm (0.315 inch) long square-edge orifice under a load (piston puls weight) of 5000 grams. This corresponds to a shear stress of 44.8 KPa (6.5 pounds per square inch). The melt viscosity in poises is calculated as 53170 divided by the observed extrusion rate in grams per minute.」(第3頁3欄38?52行)( 溶融加工可能な重合体の溶融粘度は、次のように改変したASTM法D-1238-52Tに従って測定した・・・。試料5.0gを372℃±1℃に保った内径9.53mmのシリンダーに仕込んだ。試料をシリンダーに仕込んでから5分後に、直径2.10mm、長い方形端のオリフイス8mmから5000gの負荷(ピストン+重さ)下に押出した。これは変形応力44.8kPaに相当する。ポイズ単位の溶融粘度は、53170を観察されたg/分単位の押出し速度で割った値として計算される。)
(2)甲第1号証に記載の発明
摘記a1、a3、a4及びa7の記載によれば、甲第1号証には、「90?99重量%の式-CF2CF2-で表わされる反復単位及び1?10重量%の式
-CF(ORf)-CF2-
[式中、Rfは炭素数1?8のパーフルオルアルキル基である]
で表わされる少なくとも1種の反復単位から本質的に成り、反応又は分解でHFを発生しうる末端基を実質的に含まず、372℃における溶融粘度が107ポイズ以下である溶融加工可能な非弾性テトラフルオルエチレン共重合体」が記載されている。
そして、該共重合体は従来からあるテトラフルオルエチレン(以下、「TFE」ということもある。)/パーフルオル(アルキルビニルエーテル)共重合体において安定な末端基を有するものとする改良を加えるものであり、溶融加工可能なTFE/PAVE共重合体は知られていることを前提とするもので、しかも、摘記a2、a4、a6によれば、該テトラフルオルエチレン共重合体は、溶融加工可能とするためにPAVEと共重合したものである。また、甲第1号証に記載の共重合体におけるPAVEの含有量1?10重量%を規定しているのは、摘記a4の「共重合体のこの含量は、共重合体が弾性体よりもむしろプラスチックとなる、即ち部分的に結晶化し且つ室温で2倍の延伸状態からその元の長さへ急速に収縮しないぐらいの十分に低量である。しかし共単量体含量は共重合体が溶融加工が可能でないほど低量ではない。」との記載によれば、従来から知られている「溶融加工可能な」TFE/PAVE共重合体材料にあって、甲第1号証における溶融加工を可能とするところの含有量の範囲を規定するものであるといえる。
また、摘記a4の「「溶融加工可能な」とは、共重合体が通常の溶融加工装置で加工できる(即ち成形品例えば射出成形品、フイルム、繊維、チューブ、電線コーテイングなどへ加工できる)ことを意味する」との記載によれば、甲第1号証に記載のPAVEの含有量を規定したTFE/PAVE共重合体が、溶融加工装置で成形体を成形し、成形体を得ることができるということを前提とするものであることを明らかにしていることから、甲第1号証に記載の、溶融加工装置で成形できるTFE/PAVE共重合体材料は、当然、甲第1号証に記載の従来例や溶融加工可能なものとして例示されている、射出部品、押出パイプ、チューブに成形できるものといえるし、さらにいうなら、成形できることが記載されているといえるものである。
すなわち、共重合体材料の末端基を安定なものにしたPAVEの含有量を規定されたTFE/PAVE共重合体材料により、例示されている一般的な成形品が実質的に成形されたことが記載されているものであって、少なくとも例示されている押出パイプ、チューブなどの成形品は該TFE/PAVE共重合体材料を用いて成形体として成形されているということができるものである。
その上、該共重合体の溶融押出成形品として管状の口金から押出して得られるチューブ、シート状に押し出して得られるフィルムは押出成形において先ず成形される代表的な成形品であり、用途としても周知のものであるから、甲第1号証には、溶融押出成形加工により、甲第1号証に記載のTFE/PAVE共重合体材料を用いて成形加工されたチューブが記載されているに等しいということができる。
さらに、摘記a4の「このためには、共重合体の加工温度における溶融粘度が372℃で高々107ポイズであることが必要である。好ましくは、それは372℃において104?106ポイズの範囲である」との記載によれば、溶融加工成形装置で成形加工できるチューブ等を成形品として成形できるためには、溶融粘度についても考慮する必要があって、その溶融粘度として104?106ポイズのものが明確に成形品として成形できる溶融粘度であると記載しているものと解することができ、この範囲の溶融粘度で成形品を成形しているものと解することができる。
よって、甲第1号証には、「90?99重量%の式-CF2CF2-で表わされる反復単位及び1?10重量%の式
-CF(ORf)-CF2-
[式中、Rfは炭素数1?8のパーフルオルアルキル基である]
で表わされる少なくとも1種の反復単位から本質的に成り、反応又は分解でHFを発生しうる末端基を実質的に含まず、372℃における溶融粘度が104?106ポイズである溶融加工可能な非弾性TFE/PAVE共重合体を成形して得られるチューブ」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比・判断
ここで、本件特許発明と引用例1発明と対比すると、両者は、
「TFEとPAVE[ただし、パーフルオロアルキル基の炭素数は1?7]との共重合体を成形して得られるチューブ。」
で一致し、以下の点で一応、相違している。
相違点1:TFE/PAVE共重合体について、本件特許発明では、特に、規定されていないのに対し、引用例1発明では、反応又は分解でHFを発生しうる末端基を実質的に含まないものである点
相違点2:PAVEに基づく重合単位の含有量が、本件特許発明では、3.2?5モル%であるのに対し、引用例1発明では、1?10重量%である点
相違点3:TFE/PAVE共重合体の容量流速が、本件特許発明では、0.5?100mm3/秒;ただし、容量流速は、高化式フローテスターを使用して、温度380℃、荷重7kgで、直径2.1mm、長さ8mmのノズルから共重合体を溶融流出させ、単位時間(秒)に流出する共重合体の容量(mm3)であるのに対し、引用例1発明では、372℃における溶融粘度が104?106ポイズ以下である点
そこで、以下に、上記相違点1?3について検討する。

(3.1)相違点1について
甲第1号証に記載のとおり、TFE/PAVE共重合体の末端基が活性があり、HFを発生し、腐食源となることから避けるべきものであることは、本件特許に係る出願前に周知の事項である。してみると、本件特許発明において規定されているTFE/PAVE共重合体において、末端基について規定するところはなく、また、成形体を成形する際に安定なTFE/PAVE共重合体を用いることは当然のことであり、しかも、甲第1号証に記載のTFE/PAVE共重合体の使用を阻害する特段の事情も認められないことから、本件特許発明のTFE/PAVE共重合体は、HFを発生しないTFE/PAVE共重合体を包含するものと解される。
したがって、本件特許発明のTFE/PAVE共重合体は、甲第1号証に記載のTFE/PAVE共重合体を包含するものといえるから、相違点1は、実質的に相違するものとはいえない。

(3.2)相違点2について
引用例1発明において、摘記a6、a8によれば、-CF(ORf)-CF2-のパーフルオロアルキル基の炭素数が1?7として、PAVEの具体的な例としてパールフルオルプロピルビニルエーテル(以下、「PPVE」ということもある。)が記載されていることから、該共重合体の中のPAVEの含有量は、PPVEが1?10重量%であるとしてモル%に換算すると、0.4?4.0モル%となる。また、炭素数2のパーフルオルエチルビニルエーテル(以下、「PEVE」ということもある。)であるとすると、0.5?4.9モル%となる。してみると、引用例1発明は本件特許発明の3.2?5モル%と重複する共重合体を用いているものであるから、相違点2は実質的に相違するものとはいえない。
これに対し、被請求人は、答弁書及び平成19年 4月27日付け口頭審理陳述要領書をみると、要するに、「甲第1号証には、実施例として「1.1?1.3モル%」のものしか記載されていないし、好ましい範囲としても、PPVE、PEVEそれぞれ「0.8?1.5モル%」、{0.9?1.9モル%」とされ、下限値を3.2モル%とすること、及び3.2モル%以上である共重合体は記載されていない」旨主張するのでさらに検討する。
甲第1号証には、PAVEの含有量として1?10重量%までのTFE/PAVE共重合体が記載されている。また、上で述べたように、引用例1発明のPAVEの含有量の範囲では、溶融加工可能なもので、各種成形品を成形できる材料であることから、被請求人が主張するように好ましい範囲に限定されものではない。さらに、含有量が多くなると溶融加工はしやすくなるものであることは周知のところで、その上限を規定するのは成形材料として成形した時の保形性や、要求される強度等の物性に規定されて決められることである。してみると、甲第1号証に実施例として3.2モル%以上含有する例がないからといって、甲第1号証のPAVEの含有量の上限値として現に記載のある10重量%のものが、記載されていないとは、いうことができない。
被請求人は、甲第1号証において3.2モル%以上とすることの阻害要因として、PAVEが高価だから、含有量として成形性を確保できる範囲で極力抑えようとすること(理由ア)を挙げている。
しかしながら、溶融加工し、目的とするものが成形品ができることのみではなく、成形された成形品に要求される品質、また成形品の製造効率などその他の因子も当然に考慮し、含有量は設定されるものであるから、被請求人の主張は、阻害要因といえるものではない。
また、別の理由として、耐熱性を低下させる方向に働くPAVEの含有量を増やすことは考えにくいこと(理由イ)を挙げている。
この点、被請求人が口頭審理陳述要領書第6頁において構成単位をある範囲で変化させた時、結晶性に関係する特性の変化が見られるのであれば、その特性の変化は、構成単位を変化させるにつれ、PAVEの含有量が多い範囲でも同じ傾向で変化するというのが技術常識である旨主張しているように、3.2モル%以上とすると極端に耐熱性が低下するというものでもないし、要求される品質とバランスをとって設定されるものであり、PAVEの含有量の上限値として現に記載のある10重量%(PPVEで4.0モル%、PEVEで4.9モル%に相当)、すなわち、3.2モル%以上のTFE/PAVE共重合体は記載がないとは、いうことができないことであって、被請求人の主張に理由がないのは明らかである。

(3.3)相違点3について
(i)容量流速、溶融粘度及びメルトフローレートの関係及び換算の可能性について
本件特許発明では容量流速、引用例1発明では溶融粘度で共重合体が規定されていることから、容量流速と溶融粘度の関係についてみると、本件特許発明の容量流速の定義は、摘記a5に記載の溶融粘度と比較して、計測条件が380℃、荷重7kgであって、計測量は、単位時間(秒)に流出する共重合体の容量(mm3)であるのに対し、引用例1発明ではASTM法の溶融粘度で、その測定法では、計測条件が372℃、5kgであって、計測量は、単位時間(10分間)に押し出される量(g数又はcm3)である。しかしながら、両者共に、樹脂を寸法が同じノズルから共重合体を溶融流出させるもので、樹脂の溶融流動性を測定する点で同じものであることから、容量流速と溶融粘度とは換算可能であると推認できる。
また、請求人の提出した甲第5号証及び参考資料4の実験報告書及び追試の結果は私人が作成したものであるが、試料の調製、測定条件の設定及びデータの採取は、ASTMとして標準的な測定法として規定されている方法に準拠したもので慣用されたものであるから、その内容・データには十分に信憑性があるものと認められる。
してみれば、請求人の提出した甲第2号証、及び参考資料4として提出された実験結果によれば、溶融時の樹脂の流動性は温度によって変わるものの、同じ樹脂において片対数表記でほぼ直線関係にあり、一定の関係が認められること、さらに、流動性が、アルキルビニルの種類、例えば、エチルビニル、プロピルビニルによって大きくは変わらないことがわかる。また、それぞれの共重合体についてのMFRと温度との関係図によると、両者がほぼ同じような直線関係と分散状態にあって、荷重がかかることで押出量が比例して変わることなどが明らかである。以上のことからも、容量流速と溶融粘度が換算可能であることは、推認できる。
そして、メルトフローレートにおいてその変動要因として樹脂の分子量が主要因子であるとの技術常識があり、容量流速と溶融粘度、溶融粘度とメルトフローレートとの上記のような関連性からみて、容量流速、溶融粘度及びメルトフローレートは、主として樹脂の分子量により変動するものであるといえる。

(ii)溶融粘度とメルトフローレートとの換算
まず、溶融粘度とメルトフローレートとは、摘記a5及び摘記cに同じように記載されているところによれば、溶融粘度(単位;ポイズ)は、押出速度(g/分)で表すと、53170/押出速度として換算できるものであるから、相互に換算できるものであることは明らかである。
そこで、引用例1発明の成形体を溶融加工可能な好適な溶融粘度は、104?106ポイズであるから、押出速度は、0.053?5.3(g/分)であることとなり、メルトフローレート(g/10分)で表すと、0.53?53(g/10分)となる。

(iii)測定結果とその結果を用いた換算係数の算出
次に、容量流速の測定温度、荷重についての換算を行なうための換算係数を求めるため、当事者双方から提出された実験報告書の実験結果をさらに詳細に検討する。
実験結果は下記のとおりであり、容量流速の測定条件である380℃、7kgにおけるMFRの実験結果の値は、請求人が提出した甲第6号証及び参考資料4、被請求人が提出した乙第4号証に提示された、図及び実験結果の値を参考にしてみると、上記(i)に記載したとおり、372℃、5kgの測定温度、荷重における温度依存性と類似した傾向、すなわち、ほぼ並行移動した位置関係にあることが理解される。また、先に、述べたとおり、容量流速は主として樹脂の分子量に依存することから、同じ試料において試料として用いた共重合体のアルキルビニルの種類、共重合単量体の含有量の多少にかかわらず、同じ温度であれば大きく異なることはないものと推認できる。以上のことから、容量流速の温度380℃,荷重7kgと温度372℃、荷重5kgとの間の換算係数は、当事者双方が提出した実験結果から算出すると、以下のとおりまとめることができる。

PEVEの含有量(mol%) 1.5 3.4 3.5
372℃,5kgMFR(g/10分) 2.1 2.08 15.2
380℃,7kgMFR(g/10分) 3.6 3.54 25.2
換算係数 1.7 1.70 1.67

PPVEの含有量(mol%) 1.3 1.5 2.0 3.4 4.5
372℃,5kgMFR(g/10分) 2.2 16.07 2.2 2.4 1.04
380℃,7kgMFR(g/10分) - 23.68 - 3.3 1.69
換算係数 - 1.47 - 1.4 1.63

(iv)換算係数の設定
換算係数として、本件特許発明におけるPAVEの含有量の範囲内で取り得る値が正確に求められることが、より的確な温度、荷重による影響を加味することとなることは言うまでもないことであるが、上記当事者双方が提示する実験結果によれば、PAVEの含有量は、PEVEでは1.5?3.5mol%、PPVEでは、1.3?4.5mol%の範囲の試料について実験が行われているもので、本件特許発明のPAVEの含有量3.2?5mol%における正確な換算係数は得られない。
しかしながら、当事者双方の結果からPAVEの種類及び含有量の多少により振れが見られるものの、引用例1発明における換算係数として、PAVEの種類及び含有量による変動分を加味しても、当事者双方の実験結果からみて、本件特許発明の数値範囲内にある下限値に近い3.4mol%での換算係数と上限値に近い4.5mol%の換算係数を参考にして、換算係数の全体の変動を考慮して換算係数を定めてみるに、1.4?1.7の値の範囲の換算係数を用いて、引用例1発明の372℃、5kgにおける容量流速を380℃、7kgにおける容量流速に換算すれば、PAVEの種類及び含有量における換算上の誤差等を十分に見込んだ値が得られるものと推認できる。

(v)換算結果
引用例1発明の溶融粘度の表記を本件特許発明の容量流速の表記に換算してみる。
本件特許発明において容量流速は、「高化式フローテスターを使用して、温度380℃、荷重7kgで、直径2.1mm、長さ8mmのノズルから共重合体を溶融流出させ、単位時間(秒)に流出する共重合体の容量(mm3)」である。溶融粘度の単位が重量表記であるから、容量に換算する必要があるので、PFAの密度については、甲第5号証のAPPENDIX Aによると、380?390℃における密度は、銘柄の違いを考慮しても、樹脂密度はほぼ一定の値(1495kg/m3)であり、372℃から380℃における密度として該値を用いることができるといえる。
そこで、引用例1発明のメルトフローレートの値を容量流速の単位に換算するための単位換算としては、メルトフローレートの単位;1g/10分を容量として「mm3」、時間として「秒」に変換すると、1g/10分=1g/1.495×10-3×10×60(g・秒/mm3)=1mm3/0.897秒となるから、重量の容量への単位換算係数を1mm3/秒=0.9(g/10分)であるとして0.53?53(g/10分)のメルトフローレートの下限値、上限値を、本件特許発明における容量流速の単位に換算すると、0.59?58.9(mm3/秒)、次いで、(iv)で設定した換算係数1.4?1.7の幅のある値を用いて、引用例1発明の溶融粘度で表記された共重合体を380℃、7kgにおける容量流速で表現すると、下限値は0.82?1.00(mm3/秒)の範囲、上限値は、82?100(mm3/秒)の範囲で振れる容量流速の範囲を取るものと算出される。
してみると、引用例1発明の共重合体は、本件特許発明の0.5?100mm3/秒との条件を満たす蓋然性が高いことは明らかであるから、本件特許発明における容量流速の数値範囲は、引用例1発明における、溶融加工成形により製造される成形品において通常に使用されているTFE/PAVE共重合体のメルトフローレートと重複するものであり、本件特許発明における容量流速の数値範囲は、その重複する範囲のメルトフローレートを常に満たす範囲の容量流速を規定しているにすぎないもので、表現上の差異は認められるものの、相違点3は実質的に相違するものとはいえない。

これに対し、被請求人は、答弁書及び平成19年 4月27日付け口頭審理陳述要領書をみると、当初、換算係数1.7とする点及びその換算すること自体については争わない旨主張していたところ、口頭審理後の平成19年 6月 5日付け上申書において、要するに、「被請求人自身が行った実験結果では1.47とか1.63の値となり、また、PAVEの比率により「直線」の傾きが相違することから、1.7で一律に換算するのは不適当である旨主張する。
しかしながら、被請求人の上記主張は、上記したとおり、換算係数に振れがあったとしても、引用例1発明のTFE/PAVE共重合体は、溶融加工の好適とされる溶融粘度に相当する樹脂を溶融加工しているものである蓋然性が高く、その容量流速への換算結果も本件特許発明における容量流速の範囲に包含される蓋然性が高いものといえるのであるから、被請求人が主張する換算係数に振れがあるというだけでは、1.7が適当かどうかはともかくとして、換算することの妥当性を否定したことにはならない。そして、上記したとおり換算すること自体は妥当なものと認められる。
したがって、被請求人の主張には理由がない。

(4)まとめ
本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件特許発明に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであって、無効の理由1は妥当である。


5-2.無効の理由4について
本件特許発明は、甲第3号証の明細書に記載された発明と同一であるので、本件特許は、特許法第184条の13の規定で読み替えて準用する特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、本件特許は無効とすべきものである。以下に、詳述する。

(1)甲第3号証の記載事項
国際出願を先願として主張する場合、特許法第29条の2に規定された願書に最初に添付した明細書又は図面は、特許法第184条の13の規定にあるとおり、無効審判請求人が無効の理由4の証拠方法として提出した甲第3号証の2の特表2002-509557号公報ではなく、甲第3号証として提出された国際公開第97/07147号のパンフレットであることについては、口頭審理調書において明らかなとおり、当事者間に争いがなく、認めるところであり、その記載事項として、以下の記載b1?b4が認められる。
b.甲第3号証:国際公開第97/07147号のパンフレット
b1.「1.A copolymer consisting essentially of tetrafluoroethylene and at least 3% by weight of perfluoro(ethyl vinyl ether) and having a melt viscosity of no greater than 25 x 103 Pa・s at 372℃,with the proviso that said melt viscosity can exceed 25 x103 Pa・s when the perfluoro(ethyl vinyl ether ) cntent of said copolymer exceed 10 wt%.」(請求の範囲 請求項1)(テトラフルオロエチレンと少なくとも3重量%のパーフルオロ(エチルビニルエーテル)から本質的に作られていて372℃で25×103Pa.s以下の溶融粘度を示すコポリマー(但しPEVEが10重量%を越える時には上記溶融粘度が25×103Pa.sを越えてもよい)共重合体;甲第3号証の1として提出された翻訳文による。以下、同様)
b2.「Melt viscoities of the fluoropolymers were determined by ASTM method D1238-52T modified as described in U.S.Patent 4,380,618. 」(第9頁6?7行)(フルオロポリマー類が示す溶融粘度の測定を、ASTM1238-52Tを米国特許第4380618号に記述されている如く修飾した方法を用いて行った。)
b3.「Table1. Conditions and Results for Examples 2-5
Example 2 3 4 5
Resin properties:
MV (103Pa・s) 8.9 7.7 5.4 3.7
PEVE content (wt%) 9.4 10.1 14.1 17.4
」(第11頁 表1)(表1 「実施例2?5の条件と結果」との表題、実施例として、2?5の欄 樹脂特性:の項、MV(103Pa・s)、PEVE 含有量 (wt%)は、それぞれ、8.9,9.4; 7.7,10.1; 5.4,14.1; 3.7,17.4)
b4.「This illustrates that the The TFE/PEVE copolymer of this invention can be melt processed such as by extrusion, including injection molding, at high shear rate.」(第13頁29?31行)(このことは、本発明のTFE/PAVEコポリマーは高いせん断速度で溶融加工可能であり、例えば押出し加工(射出成形を包含)可能であることを示している。)

(2)甲第3号証の明細書に記載の発明
摘記b1の記載によれば、甲第3号証には、「テトラフルオロエチレンと少なくとも3重量%のパーフルオロ(エチルビニルエーテル)から本質的に作られていて372℃で25×103Pa.s以下の溶融粘度を示すコポリマー(但しPEVEが10重量%を越える時には上記溶融粘度が25×103Pa.sを越えてもよい)共重合体」が記載され、摘記b3、b4によれば、共重合体は、溶融加工、すなわち押出し加工可能であり、PAVEとして、PEVEを9.4?17.4重量%含有したTFE/PEVE共重合体であって、MV、すなわち、溶融粘度が8.9?3.7×103Pa・sのものが記載されている。
「溶融加工可能な」TFE/PEVE共重合体材料自体は、本件特許発明の出願前から周知のことであり、また、その共重合体におけるPEVEの含有量は、溶融加工を可能とするために必要とする含有量を規定するものであることがよく知られていることである。
また、摘記b4の「本発明のTFE/PAVEコポリマーは高いせん断速度で溶融加工可能であり、例えば押出し加工(射出成形を包含)可能であることを示している。」との記載によれば、甲第3号証に記載のTFE/PEVE共重合体が射出成形、押出成形で成形体を成形し、成形体を得ることができるということが明記されているといえる。
ところで、TFE/PAVE共重合体材料の押出成形を用いて製造する代表的な用途として、チューブ、フィルム、電線被覆を先ず挙げることができ(甲第2号証第17頁表6、乙第2号証第305頁3.3.3押出成形の項参照)、しかも、押出加工で成形することが可能であるとの記載があれば、押出加工の代表的なものとして管状に押し出すことで形成されるチューブ、電線被覆、シート状に押し出し形成されるフィルムといった一般的な用途、成形体が成形できることが記載されているといい得ることである。
そして、TFE/PAVE共重合体の溶融押出成形品として、チューブは代表的な成形体であり、用途として周知のものであるので、甲第3号証には、溶融押出成形加工により、実施例を含めた甲第3号証に記載のTFE/PEVE共重合体材料を用いて成形加工されたチューブと明記されていないとしても、TFE/PEVE共重合体の溶融押出成形品としてのチューブは記載されているに等しいものということができる。
よって、甲第3号証には、「TFEと少なくとも3重量%のPEVEから本質的に作られていて372℃で25×103Pa.s以下の溶融粘度を示すTFE/PAVE共重合体(但しPEVEが10重量%を越える時には上記溶融粘度が25×103Pa.sを越えてもよい)を成形して得られるチューブ」の発明(以下、「引用明細書発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比・判断
ここで、本件特許発明と引用明細書発明と対比すると、両者は、
「TFEとPEVEとの共重合体を成形して得られるチューブ。」で一致し、以下の点で一応、相違している。
相違点1:PEVEに基づく重合単位の含有量が、本件特許発明1では、3.2?5モル%であるのに対し、引用明細書発明では、少なくとも3重量%、具体的な例として9.4重量%以上である点
相違点2:TFE/PEVE共重合体の容量流速が、本件特許発明では、0.5?100mm3/秒;ただし、容量流速は、高化式フローテスターを使用して、温度380℃、荷重7kgで、直径2.1mm、長さ8mmのノズルから共重合体を溶融流出させ、単位時間(秒)に流出する共重合体の容量(mm3)であるのに対し、引用明細書発明では、372℃、荷重5kgにおける溶融粘度が25×103Pa・s以下である点
そこで、以下に、上記相違点1、2について検討する。

(3.1)相違点1について
引用明細書発明における、少なくとも3重量%との規定は、モル%に換算すると、1.4モル%以上に相当し、実施例2にTFE/PEVE共重合体の中のPEVEの含有量が9.4重量%、モル%に換算すると、4.9モル%に相当するものが包含されていることから、引用明細書発明は、本件特許発明1の3.2?5モル%と明らかに重複する共重合体を用いるものであるから、相違点1は実質的に相違するものとはいえない。

(3.2)相違点2について
本件特許発明では容量流速、引用明細書発明では溶融粘度で共重合体が規定されていることから、容量流速と溶融粘度の関係についてみると、上記「5-1.(3.3)相違点3について」で詳述した理由により、容量流速と溶融粘度、溶融粘度とメルトフローレートとも相互に換算できると推認できるものである。
とすると、引用明細書発明に記載の、成形体を溶融加工可能とする溶融粘度は、PEVE含有量が10重量%を越える時には溶融粘度が25×103Pa・sを越えてもよいことを条件とするものであるので、少なくとも3重量%の場合、25×103Pa・s以下であるから、0.21(g/分)以上の押出速度に相当することとなり、メルトフローレート(g/10分)で表すと、2.1(g/10分)となり、また、実施例2のTFE/PEVE共重合体(PEVE;9.4重量%、すなわち4.9モル%含有)の溶融粘度は、8.9×103Pa・sであるから、メルトフローレートは6.0(g/分)となる。
そして、上記「5-1.(3.3)相違点3について」で詳述したとおり、測定温度、荷重についての換算は可能であり、上記換算係数についても適用可能であると認められることから、引用明細書発明の溶融粘度の表記を、本件特許発明の容量流速の表記に、以下、換算する。
1mm3/秒=0.9(g/10分)であるから、メルトフローレートが2.1(g/10分)以上の値とは、容量流速にすると、380℃、7kgで、3.3?4.0(mm3/秒)以上の範囲、また、実施例2のPEVEの含有量が4.9mol%のものは、9.3?11.3の範囲で振れる程度であって、本件特許発明の0.5?100mm3/秒との条件を常に満たす蓋然性が高いことは明らかであるから、本件特許発明における容量流速の数値範囲は、引用明細書発明における、溶融加工成形により成形可能とされる成形品において使用されるTFE/PEVE共重合体のメルトフローレートと重複するものであり、その重複する範囲のメルトフローレートを常に満たす範囲の容量流速を規定しているにすぎないもので、表現上の差異は認められるものの、相違点2は実質的に相違するものとはいえない。

なお、被請求人は、答弁書及び平成19年 4月27日付け口頭審理陳述要領書をみると、要するに、「甲第3号証には、本件訂正発明の構成要件A?Cを満たすと推定されるコポリマーが記載されていると認めて、しかしながら、チューブとすることは甲第3号証に記載されていないし、記載されているに等しい事項でもない」旨主張する。
しかしながら、上記「5-2.(2)甲第3号証に記載の発明」で詳述したように、甲第3号証には、PEVEの含有量として9.4重量%のTFE/PEVE共重合体が記載され、そのような共重合体は溶融加工可能な材料であることが明記され、押出し加工(射出成形を含む)と記載のとおり、各種成形品を成形できる材料であり、押出し加工できることは明らかな材料であるといえるのである。そして、押出し加工できることが明らかである以上、チューブ状に押し出すことで成形できるチューブ、電線被覆、押し出して成形するシート状に押出成形されるフィルムは当然に成形されている成形品であるといえるものである。
してみると、甲第3号証の明細書においてPEVEの含有量として現に記載のある9.4重量%(PEVEで4.9モル%に相当)、すなわち、3.2モル%以上5.0モル%以下の範囲にあるTFE/PAVE共重合体は、溶融押出し加工可能である材料であるとの記載がある以上、その共重合体を成形して得られるチューブが記載されていないとは、いうことができないことであって、被請求人の主張には理由がない。
したがって、本件特許発明は、特許出願前に甲第3号証に記載された引用明細書発明と同一であり、本願特許発明は、特許法第29条の2の規定に違反するものである。

(4)まとめ
したがって、本件特許発明は、本件特許出願の日前に優先権主張された国際特許出願であって、本件特許出願の出願後に国際公開された国際出願の明細書、請求の範囲又は図面である甲第3号証記載の発明と同一であり、しかも、本件特許発明の発明者が上記甲第3号証記載の発明の発明者と同一であるとも、また、本件特許出願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件特許発明は、特許法第184条の13の規定で読み替えて準用する特許法第29条の2の規定に違反するものであるから、本件特許発明についての特許は、特許法第184条の13の規定で読み替えて準用する特許法第29条の2の規定に違反してされたものであって、無効の理由4は妥当である。

6.むすび
以上のとおりであるから、無効の理由1及び無効の理由4に理由があり、他の無効の理由について検討するまでもなく、本件特許発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当するので、本件特許は、無効とすべきものである。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-26 
結審通知日 2007-10-01 
審決日 2007-10-17 
出願番号 特願平8-240815
審決分類 P 1 113・ 113- Z (B29C)
P 1 113・ 16- Z (B29C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 保倉 行雄井上 能宏  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 野村 康秀
井上 彌一
登録日 2004-02-20 
登録番号 特許第3521643号(P3521643)
発明の名称 チューブの成形体  
代理人 柳井 則子  
代理人 勝俣 智夫  
代理人 高橋 詔男  
代理人 中嶋 重光  
代理人 山口 和  
代理人 志賀 正武  

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