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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680074 審決 特許
無効200480040 審決 特許
無効200580144 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G03G
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  G03G
管理番号 1169183
審判番号 無効2006-80263  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-12-15 
確定日 2007-11-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3662815号発明「熱定着用シリコーンゴムロール」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3662815号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第3662815号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成12年5月26日(優先権主張 平成11年5月28日)に出願され、平成17年4月1日に特許の設定登録がされたものである。
これに対して、平成18年12月15日に請求人 東レ・ダウコーニング株式会社より請求項1及び2に係る発明について特許無効の審判が請求され、これに対して、被請求人 信越化学工業株式会社より平成19年3月20日付けで答弁書及び訂正請求書が提出され、請求人より平成19年5月1日付けの弁駁書が提出され、平成19年7月12日に特許庁において口頭審理が行われ、その後、請求人、被請求人より、それぞれ2通の上申書が提出されている。

第2 請求人の主張
請求人は、本件の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第17号証を提出し、以下の主張をしている。
(1)本件の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証ないし甲第5号証の各々に記載された発明であるか、甲第6号証ないし甲第11号証並びに甲第15号証及び甲第16号証に記載された技術常識を有する当業者が、甲第12号証ないし甲第14号証の記載を参酌することにより、甲第1号証ないし甲第5号証の各々に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本件明細書には、記載の不備があるから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
[証拠方法等]
甲第1号証:特開平11-60955号公報
甲第2号証:特開平11-80669号公報
甲第3号証:特開平9-77980号公報
甲第4号証:特開平6-167900号公報
甲第5号証:特開平8-11243号公報
甲第6号証:特開昭63-44681号公報
甲第7号証:特開平6-83225号公報
甲第8号証:特公平8-22920号公報
甲第9号証:特開平5-170910号公報
甲第10号証:伊藤邦雄編「シリコーンハンドブック」日刊工業新聞社、1990年8月31日発行、目次、第96?101頁、第112?119頁、第384?389頁、奥付
甲第11号証:東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社編集・発行「シリコーン材料ハンドブック」1995年8月発行、目次、第20?23頁、奥付
甲第12号証:特許第2533767号公報
甲第13号証:特許第2835447号公報
甲第14号証:特開平5-98580号公報
甲第15号証:JIS K 6249:1997「未硬化及び硬化シリコーンゴムの試験方法」第1、2、8、19頁、奥付
甲第16号証:社団法人日本ゴム協会 試験機・試験法規格分科会編「新JISへの手引き ゴム物理試験方法 新JISガイド -解説/Q&A/旧JIS及びISO対比表付-」株式会社 大成社、平成8年8月31日発行 第26?31頁、奥付
甲第17号証:東レ・ダウコーニング株式会社 研究開発部エンジニアードエラストマー開発グループ 主任研究員 辻裕一により報告された平成18年12月5日付け実験結果報告書
請求人は、さらに、参考資料1?12を提出している。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として乙第1号証ないし乙第7号証を提出して、訂正後の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証ないし甲第5号証の各々に記載された発明ではなく、甲第6号証ないし甲第11号証さらには甲第15号証及び甲第16号証に記載された技術常識を有する当業者が、甲第12号証ないし甲第14号証の記載を参酌しても、甲第1号証ないし甲第5号証の各々に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものでもなく、請求人の主張する明細書の記載不備もないから、請求人の主張は失当であると主張している。
[証拠方法等]
乙第1号証:信越化学工業株式会社 シリコーン電子材料技術研究所 第二部 主任研究員 首藤重揮による平成16年8月6日付け実験成績証明書
乙第2号証:信越化学工業株式会社 シリコーン電子材料技術研究所 第二部 主任研究員 首藤重揮による平成19年3月15日付け実験成績証明書
乙第3号証:米国特許第3445426号明細書
乙第4号証:特開昭54-146850号公報
乙第5号証:特公昭64-9346号公報
乙第6号証:信越化学工業株式会社 シリコーン電子材料技術研究所 第二部 主任研究員 首藤重揮による平成19年6月27日付け実験成績証明書
乙第7号証:特開平11-45022号公報

第4 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成19年3月20日付けの訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」という)は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。
特許請求の範囲の請求項2冒頭に「前記(A)成分のオルガノポリシロキサンの分散度が1.0?2.0であり、」との文言を付加し、請求項2を
「【請求項2】
前記(A)成分のオルガノポリシロキサンの分散度が1.0?2.0であり、該シリコーンゴム層のゴム硬度(JIS K 6249)が20以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱定着用シリコーンゴムロール。」
と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記訂正事項は、特許明細書の段落【0014】の「また、この(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンの分子量の分散度、即ち、前記の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は1.0から3.0、好ましくは1.0から2.0、より好ましくは1.0から1.7の範囲であることが望ましい。」との記載に基づくものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第134条の2第1項ただし書きに適合し、同法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。
よって、本件訂正請求のとおりの訂正を認める。

第5 本件発明
上記第4に示したとおり、本件訂正請求は認められたから、本件の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、上記訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ロール軸と、該ロール軸の外周に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周に設けられたフッ素樹脂層及び/又はフッ素ゴム層とを有し、該シリコーンゴム層が、
(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有し、分散度が1.0?3.0であり、平均分子量が30,000?100,000のオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン;(A)成分中のアルケニル基1個に対し該ケイ素原子結合水素原子の量が0.1?3.0当量となる量、及び
(C)白金族金属系触媒
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物からなることを特徴とする熱定着用シリコーンゴムロール。
【請求項2】
前記(A)成分のオルガノポリシロキサンの分散度が1.0?2.0であり、該シリコーンゴム層のゴム硬度(JIS K 6249)が20以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱定着用シリコーンゴムロール。」

第6 無効理由に対する当審の判断
1.甲号各証に記載された事項
1-1.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】 ロール軸の外周面にシリコーンゴム層が形成され、該シリコーンゴム層表面にフッ素樹脂又はフッ素ラテックスがコーティングされてなるフッ素樹脂又はフッ素ラテックスコーティングシリコーンゴム定着ロールにおいて、前記シリコーンゴム層が
(A)一分子中の側鎖のみに珪素原子と結合する脂肪族不飽和炭化水素基を2個以上含有し、該脂肪族不飽和炭化水素基含有シロキサン単位の含有量が0.05?5モル%であるオルガノポリシロキサン 100重量部
(B)一分子中に少なくとも2個の珪素原子に直結した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(A)成分のオルガノポリシロキサン中の脂肪族不飽和炭化水素基に対して(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中の珪素原子直結水素原子のモル比が0.1?3となる量
(C)白金又は白金系化合物 触媒量
(D)充填剤 5?300重量部
(E)カーボンブラック、酸化セリウム、水酸化セリウム及び酸化鉄から選ばれる耐熱性向上剤 0.1?30重量部
を含有してなり、かつ硬化後のゴム硬度(JIS K6301におけるJIS-A硬度)が15以下であるシリコーンゴム組成物の硬化物で形成されてなることを特徴とするフッ素樹脂又はフッ素ラテックスコーティングシリコーンゴム定着ロール。」(特許請求の範囲 請求項1)
(1b)「本発明に使用される(A)成分は、一分子中に珪素原子と結合する脂肪族不飽和炭化水素基を分子の側鎖のみ(即ち、ジオルガノシロキサン単位の珪素原子に結合した置換基としてのみ)に2個以上含有する、基本的に直鎖状のジオルガノポリシロキサンであり、本発明の主剤となる成分である。
ここで、上記オルガノポリシロキサンとしては、下記平均分子式(I)で示されるものを好適に使用することができる。

(但し、R^(1)は、脂肪族不飽和炭化水素基以外の置換又は非置換の一価炭化水素基、R^(2)は一価の脂肪族不飽和炭化水素基であり、m、nはそれぞれm≧38、n≧2、40≦m+n≦20,000、好ましくは100≦m+n≦10,000、0.05≦〔n/(m+n)〕×100≦5、好ましくは0.1≦〔n/(m+n)〕×100≦3を満たす整数である。)
上記式(I)において、R^(1)は好ましくは炭素数1?12のもの、より好ましくは1?8のものであり、例えばメチル基・・・等のアルキル基、フェニル基・・・等のアラルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部を塩素・・・などのハロゲン原子やシアノ基で置換したクロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフロロプロピル基、シアノエチル基などが挙げられるが、特にメチル基、フェニル基、3,3,3-トリフロロプロピル基が好ましい。R^(2)はビニル基・・・等の炭素数2?6、特に2?4のアルケニル基などの脂肪族不飽和炭化水素基であり、特にビニル基が好ましい。
上記式(I)において、各置換基は異なっていても同一であってもよいが、本発明の(A)成分のオルガノポリシロキサンは、分子中の側鎖のみ(即ち、R^(1)R^(2)SiO2/2で示されるジオルガノシロキサン単位の珪素原子に結合した置換基R^(2)としてのみ)に2個以上の脂肪族不飽和炭化水素基を含有し、かつ脂肪族不飽和炭化水素基を含有するシロキサン単位の量が0.05?5モル%、好ましくは0.1?3モル%であることが必要である。・・・。
なお、このオルガノポリシロキサンは、一般的には主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位(・・・)の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基(・・・)で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンであるが、部分的に・・・分岐状や環状であってもよい。
また、上記式(I)のオルガノポリシロキサンの重合度(あるいは分子中の珪素原子の数)は50?20,000、特に100?15,000、とりわけ500?10,000程度が好適である。」(【0012】?【0018】)
(1c)「【発明の効果】本発明のフッ素樹脂又はフッ素ラテックスコーティングシリコーンゴム定着ロールは、定着ロールとしての寿命が非常に高い上、フッ素樹脂をシリコーンゴムロール表面にコーティングする際のフッ素樹脂を溶融温度以上でコーティングする工程や、フッ素ラテックスをシリコーンゴムロール表面にコーティング後、高温焼成させる工程で300?350℃で15分?1時間という高温状態にしても、この高温状態の前後でゴム硬度がほとんど変化せず、シリコーンゴム層が低硬度で、製造時の歩留まりも良い。」(【0044】)
(1d)「【実施例】・・・。なお、以下の例において部はいずれも重量部である。」(【0045】)
(1e)「〔調製例1〕分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700、以下、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサンメチルビニルシロキサン共重合体と称する)100部、比表面積が300m^(2)/gである煙霧質シリカ40部、ヘキサメチルジシラザン8部、水1部をニーダーに仕込み、常温で1時間攪拌混合を行った後、150℃に昇温し、2時間保温混合を行った。その後、混合物を常温まで冷却し、分子鎖両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖された25℃での粘度が10,000センチポイズであるジメチルシロキサンポリマーを更に20部及び下記式(1)で示される常温での粘度が約10センチポイズであるメチルハイドロジェンポリシロキサンを3部、珪素原子に直結したビニル基〔-Si(CH_(3))(CH=CH_(2))O-単位)を5モル%含有する常温での粘度が1,000センチポイズであるビニルメチルポリシロキサンを4部、白金ビニルシロキサン錯体を白金原子として50ppm添加し、均一になるまでよく混合し、液状組成物1を得た。」(【0046】)
(1f)「〔調製例2〕調製例1で使用した両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサンメチルビニルシロキサン共重合体100部、結晶性シリカ(平均粒径5μm)35部、下記式(2)で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン3.1部、白金触媒(Pt濃度1%)0.2部、反応制御剤として1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.1部を混合し、液状組成物2を得た。

」(【0048】、【0049】)
(1g)「〔実施例2及び3〕液状組成物2を138部に酸化鉄Fe_(2)O_(3)を3部と酸化セリウム1部を混合し、150℃で30分加熱硬化し、更に200℃で4時間ポストキュアーした。この硬化物の硬度をゴム硬度計A型(JIS K6301)で測定したところ、2であった。・・・。
次に、直径24mm×長さ300mmのアルミニウムシャフト2本の上に付加硬化型液状シリコーンゴム用プライマーNO.101A/B(信越化学工業社製)を塗布した。更に、この2本のアルミニウムシャフト上に液状組成物2を138部に酸化鉄Fe_(2)O_(3)3部と酸化セリウム1部を混合した液状組成物(実施例2)・・・を充填し、150℃で30分間加熱硬化し、更に200℃で4時間ポストキュアーした。この硬化物表面にそれぞれダイエルラテックスとシリコーンゴム用プライマーGLP-103SR(ダイキン社製)を均一に塗布し、80℃で10分加熱し、更にダイエルラテックスGLS-213を均一にスプレー塗布し、350℃で1時間加熱焼成して、外径26mm×長さ250mmのダイエルラテックスコーティング低硬度シリコーンゴムロールが2本得られた。
更に、上記2本のダイエルラテックスコーティング低硬度シリコーンゴムロールをそれぞれPPC複写機の定着ロールとして組み込み、10万枚複写を行ったところ、いずれも良好な複写物が得られた。また、2本のロールのいずれにおいてもシリコーンゴム層とダイエルラテックスコーティング層は強固に接着しており、全く剥離は認められなかった。」(【0061】?【0066】)

1-2.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】 ロール芯上に、JIS A 硬度が0?30の範囲内であり、230℃、72時間空気中および密封状態下(空気遮断状態下)で加熱老化試験した後の硬度変化が±5の範囲内であり、かつ180℃、22時間、25%圧縮試験による圧縮永久歪み10%以下であるシリコーンゴム層が形成されているシリコーンゴム被覆ロールであって、該シリコーンゴム層は下記液状シリコーンゴム組成物を硬化させてなるものであることを特徴とするシリコーンゴム被覆ロール。
(A) 1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン;100 重量部、
(B) 無機質充填剤;5?300 重量部、
(C) 一般式:

(式中、R はアルケニル基を除く一価炭化水素基であり、m とn の合計は40?200 の整数であり、n は2?30の整数である。)で表され、一分子中に2?30個のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノポリシロキサン;(A) 成分中のアルケニル基に対する(C) 成分中のケイ素原子結合水素原子のモル比が 0.5?5となる量、
(D) 塩化白金酸とアルケニル基を有する化合物との錯化合物からなる白金系触媒;(A) 成分に対して白金原子として1?100ppmとなる量、
(E) アセチレンアルコール系化合物からなる硬化反応抑制剤;0.01?1重量部を含有する液状シリコーンゴム組成物。
【請求項2】 シリコーンゴム被覆ロールが電子写真複写機の定着ロールである請求項1記載のシリコーンゴム被覆ロール。
【請求項3】 シリコーンゴム被覆ロールのシリコーンゴム層の上に、フッ素樹脂又はフッ素ゴムをコーティングあるいはフッ素樹脂製チューブを被覆した外層を設けたことを特徴とする請求項2記載のシリコーンゴム被覆ロール。」(特許請求の範囲 請求項1?3)
(2b)「【発明の目的】本発明は、このような問題点を解決して、低硬度で紙送り性に優れ、耐久性のあるシリコーンゴム被覆ロールを提供すること、特に電子写真機の定着ロールとして使用した場合に複写紙に鮮明な画像を与え得るシリコーンゴム被覆ロールを提供することを目的とする。」(【0003】)
(2c)「(A) 成分のオルガノポリシロキサンは本組成物の主剤であり、この(A) 成分は1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有することを特徴とする。これは、得られる組成物を十分に硬化させるためである。アルケニル基としてはビニル基・・・等の低級アルケニル基が例示され、特にビニル基であることが好ましい。またこのようなアルケニル基は分子のどこに存在してもよいが、少なくとも分子の末端に存在することが好ましい。さらに、本成分の分子構造は直鎖状、分枝を含む直鎖状、環状、網目状のいずれであってもよいが、好ましくはわずかの分枝状を含むか含まない直鎖状である。本成分の分子量は特に限定はなく、粘度の低い液状から非常に高い生ゴム状まで包含し特に限定されないが、硬化物が低硬度でかつ低圧縮永久歪みのゴム状弾性体となるには、25℃の粘度が 500センチポイズ以上であることが好ましく、特に 500?500,000 センチポイズの範囲内であることが好ましく、さらには、1,000?100,000 センチポイズの範囲であることが好ましい。このような(A) 成分のオルガノポリシロキサンとしては、ビニルポリシロキサン、メチルビニルシロキサンとジメチルシロキサンの共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖のジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖のジメチルシロキサン-メチルフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖のジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサン-メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖のジメチルシロキサン-メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖のジメチルシロキサン-メチルフェニルシロキサン-メチルビニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖のメチル(3,3,3 -トリフロロプロピル)ポリシロキサン、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖のジメチルシロキサン-メチル(3,3,3 -トリフロロプロピル)シロキサン共重合体、・・・等が例示される。本発明においては上記オルガノポリシロキサンを組合せて使用してもよい。」(【0007】)
(2d)「【実施例】以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明する。以下において部とあるのは重量部を示し、粘度は25℃における値であり、Meはメチル基を示す。また、シリコーンゴムの評価は次のようにして行った。
〔シリコーンゴムの硬度〕シリコーンゴム組成物を 150℃の加熱プレス機により10分間で硬化させた。得られたシリコーンゴムを、さらに 200℃のオーブン中で4時間熱処理した。このようにして得られたシリコーンゴムの硬度をJIS K 6301に規定のJIS A 硬度計により測定した。・・・。
〔シリコーンゴムの実装試験〕直径8mm×長さ300mm のアルミニウムシャフト上に付加反応型液状シリコーンゴム用プライマーME151(商品名、東芝シリコーン(株)製)を塗布し、その外周にシリコーンゴム組成物をロール外径18mm×長さ 250mmの円筒状に被覆し、150℃で20分間加熱硬化させた後、その外層に四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体の熱収縮チューブを40μmの厚さで被覆した。このロールの実装試験を行うために、このものをPPC複写機の定着ロールとして組み込み、ロール間圧力3kgf/cm^(2 )で10万枚の複写を行ったのち、このロールの外観および複写物の画像の確認を行った。使用した構成材料は、以下の通りである。
・(A) 成分
ポリマー(1) :平均組成式

l =500 (ビニル基の含有量=0.145重量%)、粘度5000cP
ポリマー(2):上記式、l =700 (ビニル基の含有量=0.104 重量%)、粘度10,000cP
ポリマー(3):上記式、l =900 (ビニル基の含有量=0.081 重量%)、粘度30,000cP
・・・
・(C) 成分・・・

」(【0017】?【0020】)
(2e)「実施例1
(A) 成分として、ポリマー(1) を 100部、(B) 成分として、平均粒子径が5μmである粉砕石英微粉末40部、ジメチルジクロロシランで表面処理した比表面積200m^(2)/gの乾式シリカ5部、酸化鉄3部を均一に配合し、さらに(C) 成分の平均組成式MD'_(15)D_(85)M (ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.204 重量%)4.48部{(A) 成分のビニル基に対する、(C) 成分のケイ素原子結合水素原子のモル比は、1.7 である。}、(E) 成分の3-メチル-1-ブチン-3-オール0.05部を十分混合後、(D) 成分の塩化白金酸とビニルダイマーとの錯化合物(白金金属含有量=1重量%)0.3 部を加えてシリコーンゴム組成物を調製した。このシリコーンゴム組成物を硬化させて得られたシリコーンゴムの特性評価〔シリコーンゴムの硬度、加熱老化試験後の硬度変化、圧縮永久歪み率、実装試験〕を行った。結果を表1に示す。」(【0021】)として、段落【0031】の【表1】には、実施例1について、硬度(JIS A)が9であり、実装試験後のロールの外観に異常がなく、複写枚数(コピー寿命)は10万枚後も鮮明OKであったことが記載されている。

1-3.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。
(3a)「【請求項1】 (A)分子鎖側鎖に平均0.5個以上のケイ素原子結合アルケニル基を含有し、かつ、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン100重量部、(B)無機質充填剤5?500重量部、(C)一般式:

(式中、R^(1)はアルケニル基を除く一価炭化水素基であり、R^(2)はアルケニル基を除く一価炭化水素基または水素原子であり、mは正の整数であり、nは0以上の整数である。)で表され、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノポリシロキサン{(A)成分中のアルケニル基に対する(C)成分中のケイ素原子結合水素原子のモル比が0.4?10となる量}、(D)一般式:

(式中、R^(1)はアルケニル基を除く一価炭化水素基であり、R^(2)はアルケニル基を除く一価炭化水素基または水素原子であり、xは正の整数である。)で表され、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノポリシロキサン{(A)成分中のアルケニル基に対する(D)成分中のケイ素原子結合水素原子のモル比が0.01?0.5となる量}、および(E)白金系触媒 触媒量からなり、ロール軸の外周面にシリコーンゴム層を介してフッ素樹脂層を設けてなるフッ素樹脂被覆定着ロールにおいて、このシリコーンゴム層を形成するためのフッ素樹脂被覆定着ロール用シリコーンゴム組成物。
【請求項2】 ロール軸の外周面にシリコーンゴム層を介してフッ素樹脂層を設けてなるフッ素樹脂被覆定着ロールにおいて、このシリコーンゴム層が請求項1記載のシリコーンゴム組成物を硬化させて形成されたことを特徴とするフッ素樹脂被覆定着ロール。」(特許請求の範囲 請求項1、2)
(3b)「【発明が解決しようとする課題】・・・。すなわち、本発明の目的は、フッ素樹脂被覆定着ロールの表面にしわが生じないような比較的低温で硬化させても、圧縮永久ひずみ率が小さく、ロール軸に対する接着性が良好な比較的低硬度のシリコーンゴムを形成できるフッ素樹脂被覆定着ロール用シリコーンゴム組成物を提供することにあり、ひいては、信頼性が優れるフッ素樹脂被覆定着ロールを提供することにある。」(【0005】)
(3c)「(A)成分のジオルガノポリシロキサンは本組成物の主剤であり、分子鎖側鎖に平均0.5個以上のケイ素原子結合アルケニル基を含有し、かつ、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を含有することを特徴とする。(A)成分は分子鎖側鎖に平均0.5個以上のケイ素原子結合アルケニル基を含有しなければならないが、これは、得られるシリコーンゴムの圧縮永久ひずみ率を小さくするためである。また、(A)成分は一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を含有しなければならないが、これは、得られる組成物を十分に硬化させるためである。(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基としては、ビニル基、・・・が例示され、特に、ビニル基であることが好ましい。また、(A)成分中のアルケニル基以外のケイ素原子に結合する基としては、メチル基・・・等のアルキル基;フェニル基・・・等のアリール基;ベンジル基・・・等のアラルキル基;3-クロロプロピル基・・・等のハロゲン化アルキル基;メトキシ基・・・等のアルコキシ基、水酸基が例示され、特に、メチル基であることが好ましい。また、(A)成分の25℃における粘度は1,000センチポイズ以上であることが好ましく、特に、1,000?1,000,000センチポイズの範囲内であることが好ましく、さらには、10,000?500,000センチポイズの範囲内であることが好ましい。
このような(A)成分のジオルガノポリシロキサンとしては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、・・・、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、・・・、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、・・・が例示され、これらのジオルガノポリシロキサンを単独もしくは2種以上配合してもよい。また、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチル(3,3,3-トリフロロプロピル)シロキサン共重合体等の分子鎖側鎖にケイ素原子結合アルケニル基を含有しないジオルガノポリシロキサンを一部配合してもよい。」(【0007】、【0008】)
(3d)「[実施例1]ロスミキサーにより、粘度が40,000センチポイズであり、式:

で表される分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体(ビニル基の含有量=0.12重量%)100重量部および平均粒子径が5μmである粉砕石英微粉末30重量部を均一に混合した後、これに粘度が38センチポイズであり、式:

で表される分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.065重量%)6重量部(上記のメチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体中のビニル基に対する、このジメチルポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子のモル比は0.9である。)、粘度が20センチポイズであり、式:

で表される分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子の含有量=1.47重量%)0.06重量部(上記のメチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体中のビニル基に対する、このメチルハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子のモル比は0.2である。)、および塩化白金酸のイソプロピルアルコール溶液(白金金属含有量=1重量%)0.5重量部を均一に混合してシリコーンゴム組成物を調製した。このシリコーンゴム組成物を硬化させて得られたシリコーンゴムの硬度(JIS A)は7であり、・・・。
直径10mmの円筒状鉄製ロール軸の外周面に市販のプライマーを均一に塗布した後、150℃のオーブン中で30分間放置してプライマーを十分に乾燥させた。また、内面がアルカリ処理された、膜厚が50μmであるテトラフロロエチレン・パーフロロアルキルパーフロロビニルエーテル共重合体チューブの内面に市販のプライマーを均一に塗布した後、室温で1時間放置してプライマーを十分に乾燥させた。次いで、ロール成形用金型の内部にこのロール軸を、また、この金型の内壁にこのチューブをそれぞれ載置して、次いで、このロール軸とチューブとのキャビティーに上記のシリコーンゴム組成物を圧入した後、これを100℃において30分間で硬化させて、肉厚が10mmであるフッ素樹脂被覆定着ロールを作成した。この定着ロールの表面を観察したが、しわが生じていなかった。また、このロール軸とシリコーンゴム層の接着性を観察したところ、接着性は良好であった。次いで、この定着ロールを200℃のオーブン中で4時間熱処理したが、この定着ロールの表面にはしわが生じていなかった。この定着ロールを電子写真複写機に装着して、A4サイズの複写用紙を15万枚連続複写したが、紙しわや紙づまりなどはなく、また、画像が鮮明に複写されていた。」(【0023】、【0024】)

1-4.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている。
(4a)「【請求項1】 芯金表面にシリコーンゴム層を有しさらに最外層にフッ素樹脂被覆層を有する定着ロールにおいて、該シリコーンゴム層の硬さが8ないし20°(JIS A) 、25℃における周波数10Hzでの弾性率が2.0×10^(7) dyn/cm^(2) 未満、かつ、誘電正接(tanδ)が5.0×10^(-2)以下であることを特徴とする定着ロール。
【請求項2】 該シリコーンゴム層が、一分子中に、少なくとも平均3個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン(a) 、一分子中に、珪素原子に直接結合した水素原子を2ないし4個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(b) 、無機充填剤(c) の混合物から得られたものである請求項1記載の定着ロール。」(特許請求の範囲 請求項1、2)
(4b)「本発明の定着ロールにおいて用いられるシリコーンゴム層は、(a) 一分子中に少なくとも平均3個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(b) 一分子中に、珪素原子に直接結合した水素原子を2ないし4個有するハイドロジェンポリシロキサン、(c) 無機充填剤の混合物を触媒の存在下に反応させることにより調製されるシリコーンゴムから構成される。」(【0010】)
(4c)「前記特定のオルガノポリシロキサンは、公知のものであって、一分子中に平均少なくとも3個のアルケニル基を有し、SiO結合からなる主鎖とアルケニル基を含む有機基とからなる化合物が使用される。前記、アルケニル基としては、ビニル基・・・等が挙げられるが、特にビニル基が好ましい。また、前記アルケニル基以外の有機基としては、メチル基・・・等の置換又は非置換の1価の炭化水素基が挙げられる。
前記オルガノポリシロキサンは常温で100ないし10万CS、好ましくは、500ないし1×10^(5 )CSの粘度を有するものである。これらのオルガノポリシロキサンとしては具体的に下記のものを例示できる。

(ただし、上記式中、a、bおよびcは正の整数、dは3以上の正の整数である。)前記オルガノポリシロキサンは、単独でもよいが2種以上の混合物であってもよいことは当然である。また、一部が分岐した構造であっても、本発明の目的効果を損なわない限り使用することができる。」(【0011】)
(4d)「前記ハイドロジェンポリシロキサンの使用量は(a) 成分の珪素原子に結合したアルケニル基1個に対して、珪素原子に直接結合した水素原子の0.5ないし3.5個、好ましくは1ないし2.0個となる量である。」(【0012】)
(4e)「前記触媒としては、前記オルガノポリシロキサンと前記ハイドロジェンポリシロキサンとの反応に関与する公知の触媒であれば、どのようなものでも使用可能である。好適な触媒として、白金又は白金族化合物を例示することができる。」(【0013】)
(4f)「【発明の効果】本発明の定着ロールは、表面にフッ素系樹脂被覆層が形成されているので、フッ素系樹脂被覆層が有する特性を十分発揮できるうえに、シリコーンゴム層が有する硬度の低さが反映されたロールであるので、優れた特性を有する定着ロールを提供することを可能としたものである。すなわち、ニップ巾を十分に確保することができたうえに、圧縮永久歪みも小さく、耐熱性、耐久性や離型性にも優れているので、複写機定着部の高温化や高速化にも十分対応でき、しかも寿命の長い定着ロールを提供することができた。」(【0019】)
(4g)「実施例1
(a) 成分として、下式にて示される粘度が15000 CSのシリコーンオイル

100重量部に、ジメチルシリル基で表面処理された表面積130 m^(2)/gのヒュームドシリカ(商品名R-972:テグッサ社製)4重量部、石英粉(平均粒径2μ)を15重量部、酸化鉄2重量部を加え、ゲートミキサーで均質に混練りし、次いで塩化白金酸の2-エチルヘキサノール2%溶液を0.3重量部、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.2重量部を加え、最後に下式にて表される

メチルハイドロジェンポリシロキサンを10重量部加え、均質混合して、常法により、コンパウンドを作成した。この試料を用いて、2mmの厚さのシートを、120℃/10分の成形条件にてプレス成形法によって作成し、その後200℃で4時間二次加硫を行った。次ぎにこの硬化物を用いて、JIS K6301に準じて硬度を測定した。また、レオロジー社製のDVEスペクトラーを用い、弾性率および誘電正接(tanδ)を測定した。また、一方、脱脂処理およびプライマーを塗布した芯金を同筒状の金型に挿入し、金型内面には金型内径にあった、厚さ50μmのPFAフッ素樹脂チューブを装着させ、この金型内に前述した組成物を注入し、100℃で30分間放置しで硬化させた。その後、金型から抜き取り、200℃で4時間二次加硫を行い、外径40mm、ゴム厚さ5mmのPFAチューブを最外層としたシリコーンゴムローラを製造した。このゴムローラの表面硬度をアスカ-Cの硬度計を用いて測定した。測定結果を表1に示す。」(【0020】)として、【0024】の表1には、実施例1について、シート状物の硬度(JIS A)が13、定着画像品質が優れていることが記載されている。

1-5.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の事項が記載されている。
(5a)「【請求項1】 筒状金型の筒壁の内壁部に、ケイ素原子結合水素原子含有オルガノポリシロキサン油が内面に塗工された筒状フッ素樹脂フィルムを挿入固定し、該筒状金型の中心部にロール用芯金を挿入固定し、しかる後に、該筒状フィルム内面と該ロール用芯金との間に液状シリコーンゴム組成物を充填し加熱硬化させることを特徴とする、芯金上にシリコーンゴム層があり、該シリコーンゴム層上にフッ素樹脂フィルム層が積層されてなる定着ロールの製造方法。
【請求項2】 液状シリコーンゴム組成物が(A)25℃における粘度が100?50,000センチポイズであり、1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン 100重量部、
(B)1分子中に2個以上のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
本成分の配合量は本成分中のケイ素原子結合水素原子のモル数と(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基のモル数の比が(0.1:1)?(1:1)となる量、
(C)無機質充填剤 0?150重量部、
(D)白金系触媒
(A)成分100万重量部に対して白金金属として0.1?1,000重量部
からなるものである請求項1記載の定着ロールの製造方法。」(特許請求の範囲 請求項1、2)
(5b)「(A)成分のジオルガノポリシロキサンは、1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有することが必要である。このようなアルケニル基としてはビニル基・・・が例示される。また、アルケニル基以外のケイ素原子結合有機基としてはメチル基・・・で例示されるアルキル基;フェニル基・・・で例示されるアリール基;3,3,3-トリフロロプロピル基・・・で例示される置換アルキル基などが挙げられる。このようなジオルガノポリシロキサンとしては、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖のジメチルポリシロキサン、・・・、両末端トリメチルシロキシ基封鎖のジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、・・・、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖のメチル(3,3,3-トリフロロプロピル)ポリシロキサン、・・・等が例示される。かかるジオルガノポリシロキサンの分子構造は直鎖状であるが、少量の分岐を含む直鎖状のジオルガノポリシロキサンであってもよい。かかるジオルガノポリシロキサンは、25℃における粘度が100?50,000センチポイズの範囲のものであることが必要である。」(【0008】)
(5c)「以上のような本発明の製造方法により得られた定着ロールは、フッ素樹脂フィルム内面とシリコーンゴムが接触している外層部は内層部に対して相対的に架橋密度が高く硬度が高いシリコーン硬化物を形成しており、フッ素樹脂フィルムとシリコーンゴム間に強固な接着を発現させている部分層である。その硬度の値はロールの低硬度化を損なわない程度であれば良い。そしてこの層の厚さは液状シリコーンゴム組成物の硬化温度条件によって異なるが通常は1,000ミクロン以下である。一方、低硬度の内層部は、表層部に対して相対的に架橋密度が低く硬度が低いシリコーン硬化物からなるものであり、その硬度はJIS A硬度で20以下であることが好ましい。また定着ロール自体の表面硬度はJIS A硬度で35以下であることが好ましい。」(【0014】)
(5d)「【実施例】次に本発明を実施例によって説明する。実施例中、部とあるのは重量部のことであり、また粘度は25℃における値である。尚、実施例中、液状シリコーンゴム組成物の各種特性の評価は次の方法に従って行った。
○定着ロール表面の硬度
定着ロール表面にJIS K6301に規定するスプリング式A型硬度計を施し、その硬度目盛りを読み取った。・・・。
【実施例1】粘度15,000センチポイズの分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(ビニル基含有量0.23重量%)100部、比表面積200m^(2)/gのヒュームドシリカ15部、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子含有量0.9重量%)0.5部、硬化抑制剤として1-エチニール-1-シクロヘキサン0.5部、白金系触媒として塩化白金酸と1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体触媒(白金含有量0.6重量%)0.6部とを加えて均一に混合して500,000センチポイズの粘度を有する液状シリコーンゴム組成物を得た。次に、ナトリウムナフタレン処理した厚さ50μmの4フッ化エチレン樹脂フィルムを準備し、その内面に両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子含有量0.16重量%)を0.2g/m^(2)の量となるように塗布した。この筒状フィルム2を長さ400mm,内径20mmの円筒状金型1の筒側の内壁部に挿入固定した。次いで、直径10mmの鉄製ロール芯金3を挿入した後、上記液状シリコーンゴム組成物の注入口5から上記液状シリコーンゴム組成物を注入圧力2kg/cm^(2)において圧入し、150℃にて、10分間保ってシリコーンゴム組成物を加熱硬化させた。冷却後、金型の内容物である定着ロールを取り出した。得られたフッ素樹脂被覆シリコーンゴムロールの特性を測定した。これらの測定結果を後記する表1に示した。」(【0015】、【0016】)として、【0019】の【表1】には、実施例1について、フッ素樹脂フィルムとの接着性が良好であること、ロールの表面硬度(JIS A)が15度であることが記載されている。

1-6.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の事項が記載されている。
(6a)「本発明は複写機、ファクシミリ、プリンター等の乾式電子写真のトナー粉末像を加熱及び/又は加圧によりコピー紙などに複写する際に使用する定着ロールに関し、更に詳述すれば、低分子シロキサンを含有しないシリコーンゴムからなる定着ロールに関する。」(第2頁右上欄14?19行)
(6b)〔製造例1〕として、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンと、オクタメチルシクロテトラシロキサンとをK-シラノレート触媒を用いて重合した後、中和することにより、両末端にビニル基を有するジメチルポリシロキサン(I)を得たこと。
このジメチルポリシロキサン(I)を圧力30mmHg、温度180℃の条件下で3時間ストリップ処理を行ない、低分子シロキサンを除去して粘度10,050センチストークスのジメチルポリシロキサン(II)を得、更に、ジメチルポリシロキサン(II)を0.5mmHgの減圧下で200℃、12時間加熱ストリップを行ない、低分子ポリシロキサンを除去し、10量体(D_(10))までの低分子ポリシロキサンの含有量が0.06重量%のジメチルポリシロキサン(III)を得たこと(第9頁右上欄1行?同頁左下欄12行)
(6c)〔製造例3〕として、

で示されるメチルポリシロキサンと、オクタメチルシクロテトラシロキサンと、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンとをK-シラノレート触媒を用いて重合し、ジメチルポリシロキサン単位98モル%及びメチルビニルシロキサン単位2モル%よりなる粘度26,500センチストークスのメチルビニルポリシロキサン(VI)を得たこと
このメチルビニルポリシロキサン(VI)を30mmHgの減圧下、温度180℃の条件下で3時間ストリップ処理し、低分子シロキサンを減少させた粘度30,000センチストークスのメチルビニルポリシロキサン(VII)を得、更にこのメチルビニルポリシロキサン(VII)をアセトンを用いて洗浄し、残存する低分子シロキサンを除去し、洗浄終了後、メチルビニルポリシロキサン(VII)に含まれるアセトンを30mmHgの減圧下で150℃、1時間ストリップ処理して除去し、10量体(D_(10))までの低分子シロキサンの含有量が0.045重量%である低分子シロキサン含有量の低いメチルビニルポリシロキサン(VIII)を得たこと(第9頁右下欄末行?第10頁右上欄11行)
(6d)「〔実施例1〕
製造例1で製造した両末端にビニル基を有するジメチルポリシロキサン(III)100部、比表面積300m^(2)/gのフユームドシリカ5部、平均粒径2μの結晶性シリカ40部、ベンガラ5部、製造例2で製造したメチルハイドロジエンポリシロキサン(V)1.8部、変性塩化白金酸のオクタノール変性触媒(白金濃度2.0重量%)を白金として10ppmを均一に混合して付加型シリコーンゴム組成物を得た。このシリコーンゴム組成物を用いてprimer No.101(信越化学(株)製)で処理したアルミニウム芯金に170℃で80秒間の射出成型を行ない、得られた成型品を200℃で4時間ポストキュアーし、ゴム厚8mmで表面が鏡面状の加圧定着ロール(AO)(実施例1)を得た。」(第10頁左下欄17行?同頁右下欄11行)

1-7.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、次の事項が記載されている。
(7a)「【産業上の利用分野】本発明は複写機、ファクシミリ、プリンター等の乾式電子写真のトナー粉末像を加熱及び/又は加圧によりコピー紙等に複写する際に使用する定着ロールに関し、更に詳述すれば、低分子シロキサンを含有しない付加型シリコーンゴムからなる定着ロールに関する。」(【0001】)
(7b)[製造例1]として、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンと、オクタメチルシクロテトラシロキサンとをK-シラノレート触媒を用いて重合した後、中和することにより、両末端にビニル基を有するジメチルポリシロキサン(I)を得たこと
このジメチルポリシロキサン(I)を圧力30mmHg、温度180℃の条件下で3時間ストリップ処理を行ない。低分子シロキサンを除去して粘度10,050センチストークスのジメチルポリシロキサン(II)を得、更に、ジメチルポリシロキサン(II)を0.5mmHgの減圧下で200℃,12時間加熱ストリップを行ない、低分子ポリシロキサンを除去し、10量体(D10)までの低分子ポリシロキサンの含有量が0.06重量%のジメチルポリシロキサン(III)を得たこと(【0047】?【0051】)
(7c)「[実施例]製造例1で製造した両末端ビニル基を有するジメチルビニルポリシロキサン(III)100部、比表面積が300m^(2)/gのフュームドシリカ5部、平均粒径2μの結晶性シリカ40部、ベンガラ5部、製造例2で製造したメチルハイドロジェンポリシロキサン(V)1.8部、変性塩化白金酸のオクタノール変性触媒(白金濃度2.0重量%)を白金として10ppmを均一に混合して付加型シリコーンゴム組成物を得た。このシリコーンゴム組成物を用い、primerNo.101(信越化学(株)製)で処理したアルミニウム芯金に170℃で80秒間の射出成型を行ない、得られた成型品を200℃で4時間ポストキュアーし、ゴム厚8mmで表面が鏡面状の加圧定着ロール(A0)(実施例1)を得た。」(【0056】)

1-8.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、次の事項が記載されている。
(8a)「本発明はポリジオルガノシロキサンの重合に使用するアルカリ性触媒を中和する方法に関する。」(第1頁右欄11、12行)
(8b)「シリコーン・エラストマーの調製法においては、高分子量の重合体を調製する必要がある。好適な出発材料はオクタメチルシクロテトラシロキサンである。・・・。
適当な環状シロサキサンは一般式(R_(2)SiO)x〔式中のxは4が望ましく。・・・〕を有するものである。Rは置換または不飽和アルキルまたはアルケニル炭化水素基である。そしてRはメチル、エチル、フエニル、ビニルおよび3,3,3-トリフルオロプロピル基から成る群から選ぶことが望しい。
最終の重合体の鎖長は連鎖停止剤の添加によつて調節される。連鎖停止剤は、式R^(4)_(3)Si-(式中のR^(4)は置換または不飽和アルキルまたはアルケニル炭化水素基であり、メチルまたはビニル基が望ましい)の末端基を有するシロキサンである。所望の平均分子量に重合を平衡させるのに利用できる適当量の末端封鎖が存在するように、十分な連鎖停止剤を添加する。
適当な塩基性重合触媒を使用して、重合工程に触媒作用を与える。・・・カリウム・シラノレートが望ましい。・・・。
ジオルガノシクロシロキサンの重合は、ジオルガノシクロシロキサンと連鎖停止剤及び触媒とを混合し、次にその混合物を平衡させ、普通は加熱によつてその平衡を加速させることによつて行われる。・・・重合は反応混合体から全ての水分を除去するために100℃以上の温度で行う。重合を開始する前に、・・・、成分を乾燥することが望ましい。重合はバツチ法または連続法にすることができる。重合は、普通、連続法の数分からバツチ法の数時間の期間に及ぶ。温度は通常100℃?200℃であるが、150℃?180℃が望ましい。重合中に混合物から揮発性生成物を除去するために、バツチ法では時々混合装置の内容物へ窒素を掃引する。
重合混合物が平衡を保つた後、触媒を中和する。」(第2頁左欄40行?同頁右欄36行)
(8c)「実施例
一連の重合は、重合後に触媒中和のために使用する組成物がそれぞれの場合に異なつたことを除いて、同様に行つた。
加熱および冷却用ジヤケツトを有する高せん断ミキサーは、混合室を密封できるように軟質金属ガスケツトを備えた。該ミキサーは、成分をミキサーを開けることなく添加できる密封自在のポートを備えた。該ミキサーはガスを添加できるポートおよび混合室からガスおよび揮発性物質を取り出す排気口も備えた。この排気口は、混合室を排出するガスの露点を連続的に監視するために露点計に接続した。
そのミキサーは密封し、100℃に加熱して、乾燥窒素を露点が-50℃になるまで混合室に吹き込んだ。工業的(純度のあまりよくない)ジメチルシクロテトラシロキサン242gと、1分子当り約5つのジメチルシロキサン単位を有するジメチルビニルシロキシ末端封鎖ポリジメチルシロキサン0.27gの混合物が調製された、そしてこの混合物をミキサー室に注入した。成分に存在する水分は30分かけて徐々に一掃した、そしてその時点で約3.36%のカリウム(ジメチルシクロテトラシロキサンの重量を基準にして50ppmのカリウム)を有するカリウム・シラノレートから成る触媒0.36gを注入して、蒸気圧を482kPa(70psig)に上げた。その混合体を2時間重合させ、室温に冷却した。触媒は、所定量の粉砕乾燥アイスをミキサー中の塊に添加して、十分に混合することによつて中和した。中和した材料は、ミキサーを1206kPaの蒸気で加熱し、混合する塊の表面へ空気・水蒸気を吹き込むことによつて中和した。」(第3頁左欄21行?同頁右欄13行)

1-9.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、次の事項が記載されている。
(9a)「【産業上の利用分野】本発明はシリコーンオイルの製造方法、特には低沸分除去工程で取り出された低分子シロキサン回収物の再利用によりシリコーンオイルを製造する方法に関するものである。(【0001】)
(9b)実施例3として、ビニル基含有シリコーンオイルの製造工程で発生した低分子量シロキサン回収物を用いて

で示されるビニル基含有シリコーンオイルを製造するには、下記の配合物
低分子量シロキサン回収物 1,820g
テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン 38g
オクタメチルシクロテトラシロキサン 1,756g
を始発剤とすればよいことが判ったので、この配合物に KOHを4g 入れ、140?150℃で5時間平衡化反応を行った後、エチレンクロルヒドリン 28gで触媒を中和したところ、無色透明のオイルが得られ、このオイルの粘度は 480cs、ビニル価は 0.013モル/100gであったこと
低分子シロキサン回収物を使用せずに、
オクタメチルシクロテトラシロキサン 3,552g
テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン 43g
ヘキサメチルジシロキサン 16.2g
というように配合してオイルを製造したところ、粘度 496cs、ビニル価0.013mol/100gというオイルが得られ、このものは上記のようにして製造したオイルとほとんど差がなかったこと(【0031】?【0035】)

1-10.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、第384頁中段?第389頁末尾に付加型液状シリコーンゴムについて記載されており、特に、以下の事項が記載されている。
(10a)主成分である官能基含有オルガノポリシロキサンと架橋剤であるハイドロジェンオルガノポリシロキサンが白金化合物触媒の存在下で架橋反応をすることにより硬化すること(「10.2.1 硬化機構」の欄)
(10b)主成分である官能基含有シリコーンオイルの官能基としては、ビニル基が多用されていること、及び、ビニル基は末端や側鎖に導入されること(第385頁下から11行?下から7行)
(10c)主成分オイルの合成は、オクタメチルテトラシロキサンなどのオルガノポリシロキサン環状体を、KOHなどのアルカリ触媒の存在下加熱による平衡化反応によって得るのが常法であり、この平衡化の際、末端基(例えば1,3ジビニル1,1,3,3テトラメチルジシロキサン)の種類、量により末端官能基の種類や重合度を調節することができること(第385頁下から4行?第386頁2行)

1-11.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第11号証には、シリコーンポリマーの重合について、次の事項が記載されている。
(11a)水酸化カリウムを触媒とした環状ジメチルシロキサンの重合では、開始反応は環状体の開環によるカリウムシラノレートの生成であり、生成したカリウムシラノレートは環状体を開環しながら分子量を増大すること(成長反応)、カリウムシラノレートは環状体の開環と同時に成長したポリジメチルシロキサンからの環状体生成(解重合/分子内転移)や、シロキサン間の転移も引き起こすこと、塩基中でこの反応を続けると、シロキサンの分子量分布は熱力学的な平衡状態に到達すること(第20頁2行?第21頁5行)
(11b)平衡状態での環状体の比率と分子量は、温度、触媒濃度、シロキサン濃度、水分量、側鎖の種類、1官能性シロキサン単位濃度などに依存すること、分子量は1官能性シロキサン単位(末端基)の添加量で調整できること(第21頁6?11行)
(11c)重合は触媒を中和することによって停止させ、その後、副生した環状体はストリッピングで除去し、目的のポリジメチルシロキサンの製造は完了すること(図2-11)(第21頁下から2行?同頁末行)、図2-11には高分子量ポリジオルガノシロキサンの分子量分布が図示されている。
(11d)末端にビニル基を有するポリシロキサンならば1官能性基として-SiMe_(2)Viを使用すること、側鎖ビニル基を有するポリシロキサンならば、ジメチルシロキサン環状体とメチルビニルシロキサン環状体を共重合すること(第22頁1行?下から5行)

1-12.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第12号証は、電線被覆材などに広く使用されるシリコーンゴムを与える加熱硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関するものであり、白金系化合物触媒と1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンで加熱硬化される分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン生ゴムとして、実施例1では、重量平均分子量150万で分散指数2.0のものを用いることが、実施例2では、重量平均分子量90万で分散指数1.8のものを用いることが記載されている。

1-13.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第13号証は、電線被覆材などに広く使用されるシリコーンゴムを与える加熱硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関するものであり、白金系化合物触媒と1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子含有オルガノハイドロジェンポリシロキサンで加熱硬化させる分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン生ゴムとして、実施例1、2、4に、重量平均分子量85万で分散指数1.8のものを用いることが記載されている。

1-14.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第14号証は、エアバッグ用コーティング剤に関するものであり、有機過酸化物で硬化させるものではあるが、分子鎖両末端がビニルメチルシリルで封鎖されたオルガノポリシロキサンとして、実施例1には、平均重合度がn=4,000、かつMw/Mn=3のものが、実施例2には、平均重合度がn=1,000、かつMw/Mn=3のものが、実施例3には、平均重合度がn=10,000、かつMw/Mn=3のものが記載されている。

1-15.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第15号証はJIS K 6249:1997「未硬化及び硬化シリコーンゴムの試験方法」の抜粋であり、第8頁の「13.硬さ試験」の項に「13.2 試験方法 JIS K 6253の5.(デューロメータ硬さ試験)によって行う。」との記載があり、解説を記載した19頁の「5.6 硬さ試験(本体の13.)」の項には、JIS K 6253では複数の硬さ試験が規定されているが、シリコーンゴムの硬さの範囲を考慮して、国内で広く使用されているデューロメータ硬さ試験を用いることにした旨、記載されている。

1-16.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第16号証には、JIS K6301-1975のスプリング式硬さJISA形とJIS K6253-1993のタイプAデューロメータとの差について記載されており、JISK6253タイプAデューロメータといわゆるショアー(A)の硬さ計は試験機の仕様としては同じものであり、その測定値はコンパチブルであること(第29頁右欄)、JIS K6253タイプAデューロメータの測定値は、JISK6301 A形の測定値に比べ30?90の範囲で1?2高くなるものの、30以下の範囲では同じ値を示すこと(第30頁右欄、第31頁左欄の参考図2)が記載されている。

1-17.甲第17号証は、本件特許発明における(A)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンに相当する、両末端にビニル基を有するジメチルポリシロキサン及び両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体を、公知の方法であるオルガノシクロポリシロキサンとヘキサオルガノジシロキサンとをアルカリ触媒の存在下に平衡化反応を行うという方法によって調製すると、分散度が1.0?3.0になることを明らかにすることを目的とする実験結果報告書であって、次の事項が記載されている。
1 両末端にビニル基を有するジメチルポリシロキサン(ポリシロキサン1)の調製条件
甲第6号証の製造例1及び甲第7号証の製造例1に準じて調製した。なお、K-シラノレート触媒の仕様、各原料の量、重合温度、重合時間及び中和条件は甲第8号証及び甲第9号証の実施例3に準じたとして、
具体的には、撹拌棒と温度計と投入口付き4口ガラスフラスコに1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン3.9gとオクタメチルシクロテトラシロキサン996gを投入して加熱し、K-シラノレート触媒(カリウム・シラノレート触媒、カリウムを3重量%含有)0.3gを投入し、撹拌しながら140?150℃で5時間平衡化重合反応を行った後、重合触媒をトリメチルクロロシランで中和した。中和した重合生成物を180℃で3時間30mmHgの減圧状態にして低沸点物を除去した。

2 両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体(ポリシロキサン2)の調製条件
甲第6号証の製造例3に準じて調製した。なお、K-シラノレート触媒の仕様、各原料の量、重合温度、重合時間および中和条件を甲第8号証及び甲第9号証の実施例3に準じたとして、
具体的には、撹拌棒と温度計と乾燥窒素ガス管と投入口付き4口ガラスフラスコに、ヘキサメチルジシロキサン2.3gとオクタメチルシクロテトラシロキサン994gとテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン3.6gを投入して加熱し、K-シラノレート触媒(カリウム・シラノレート触媒、カリウムを3重量%含有)0.3gを投入し、撹拌しながら140?150℃で5時間平衡化重合反応を行った後、重合触媒をトリメチルクロロシランで中和した。中和した重合生成物を180℃で3時間30mmHgの減圧状態にして低沸点物を除去した。

3 ポリシロキサン1、2について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにてポリスチレン換算で重量平均分子量と数平均分子量を測定し、分散度を求め、さらに25℃における粘度を回転粘度計により測定したところ、以下のとおりであった。
ポリシロキサン1 ポリシロキサン2
重量平均分子量 65,055 98,119
数平均分子量 42,587 59,735
分散度 1.53 1.64
粘度[mPa・s] 9,050 36,200

2.乙号各証に記載された事項
2-1.乙第1号証は、本件出願の審査における意見書提出期間に提出された手続補足書に添付されたものと同じ実験成績証明書であって、本願発明における(A)成分において、分散度が1.0?3.0の範囲にあることは、本願発明に係るシリコーンゴムロールが優れた接着性及び複写性を示す上で不可欠の条件であることを実証することを目的とするものであり、次の事項が記載されている。
<比較実験1>
本件明細書に記載の調整例1で使用した直鎖状ジメチルポリシロキサン(1)と(4)とを各々等重量ずつ均一に混合して、分散度3.5、平均分子量50,000のものを調整し、これを用いた以外は調整例1と同じにして液状組成物Aを調整したこと
<比較実験2>
本件明細書に記載の調整例2で使用した直鎖状ジメチルポリシロキサン(1)と(4)と各々等重量ずつ均一にを混合して、分散度3.6、平均分子量50,000のものを調整し、これを用いた以外は調整例2と同じにして液状組成物Bを調整したこと
<試験方法>
液状組成物A、Bについて、本件明細書【0034】、【0035】及び【0037】に記載の方法で、シート状硬化物のゴム硬度、該シート状硬化物とその上に形成されたフッ素ゴムコーティング層との接着性、及び定着ロールの複写性を試験したこと
<実験結果>
液状組成物A、Bを用いたところ硬化物のゴム強度は15、13であったものの、硬化物とフッ素ゴムコーティング層との接着性はいずれも△(界面は一部剥離するが、大部分はシリコーンゴム層が凝集破壊した)であり、複写枚数はいずれも3万枚であったこと

2-2.乙第2号証の実験成績証明書は、本件明細書の記載の調製例1及び2においてシリコーンゴム組成物の調製に使用された「分子鎖途中のケイ素原子に結合したビニル基〔-SiCH=CH_(2)(CH_(3))O-〕単位を5モル%含有する粘度1,000cPのビニルメチルポリシロキサン」の平均分子量及び分散度を明らかにすることを目的とするものであって、次の事項が記載されている。
上記の低分子量ビニルメチルポリシロキサンのゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の平均分子量及び分散度は以下のとおりであること
重量平均分子量(Mw) :25,683
数平均分子量(Mn) :16,493
分散度(Mw/Mn) :1.557

2-3.本件特許の優先権主張日前に米国において頒布された刊行物である乙第3号証は、ケイ素五配位化合物を重合触媒としてジオルガノシクロトリシロキサン等を重合し、分散度1.1?1.3の単分散のポリジオルガノシロキサンを製造する方法について記載されたものであり、以下の趣旨の事項が記載されている。
(3A)通常の多分散ポリシロキサンとこの発明の単分散ポリマーの分子量分布の比較が第1図に図示されている。この図において点線はKOHで重合されたポリシロキサンの分子サイズのランダムな分布を示す。実線はこの発明の単分散の分子量分布を示す(第6欄3?11行)として、Fig.1には、点線と実線で2つの分子量分布が示されている。
(3B)例8でヘキサメチルシクロトリシロキサンを原料として製造されたポリマーについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによると、本ポリシロキサン生成物は数平均分子量が40,000であった。環状ポリシロキサン又は低分子量ポリシロキサンは全く生成しなかった。生成物の非均質比(重量平均分子量/数平均分子量)は、市販の同粘度を有するジメチルポリシロキサンの非均質比が約4であるのに対して約1.1であった。即ち、該生成物は非常に狭い分子量分布を有するものであった。(第11欄46?57行)
(3c)例26において、本実施例では、室温硬化性シロキサンゴム組成物に単分散ポリマーを使用すると、より低い粘度が得られることが示されている。多分散のKOHで重合したオイルと比較する。(第15欄36?41行)

2-4.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である乙第4号証には、白金触媒と1分子当たり少なくとも平均三つの珪素結合水素原子を有する流体有機水素シロキサンで硬化される、(A)トリオルガノシロキシ末端封鎖ポリジメチルシロキサン流体で、然も該トリオルガノシロキシ単位がジメチルビニルシロキシ及びメチルフェニルビニルシロキシからなる群から選択されているトリオルガノシロキシ末端封鎖ポリジメチルシロキサン流体について、下記の記載がある。
(4A)該流体は種々の分子量の重合体の混合物であり、各種類の重合体は全体として一つの分子量分布を与えるのに充分な量で存在しており、その分布は少なくとも一種類の重合体類(I)が隣りの一層低い分子量及び高い分子量の重合体類の濃度よりも大きな濃度で存在するような分布であり、然もその重合体類(I)はゲル透過グロマトグラフィー分析で決定して極大分子量をもつものとして同定されるものであり、それらの重合体類の極大分子量は大きな濃度で68,000?135,000の範囲にあり、前記流体中、最低分子量の重合体類の分子量は854?3146の範囲にあり、最高分子量の重合体類の分子量は174,000?370,000の範囲にあり、前記重合体類の混合物は分散指数が3.8より大きな値を有するような分子量分布をもっていること(特許請求の範囲 第1項)
(4B)「従来のよく知られたポリジメチルシロキサン製造用重合法では、自動的に流体(A)を与えることはできなかった。流体(A)は適切なDI、PM及び分子量限界を得るように種々の流体ポリジメチルシロキサンを混合することによって得ることができる。」(第5頁右下欄1?6行)
(4C)DIは、数平均分子量で重量平均分子量を割ったものであること(第5頁右上欄4?6行)

2-5.本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である乙第5号証には、プラチナ触媒と1分子当たり少なくとも3個のシリコン結合した水素原子を有するポリオルガノシロキサンで硬化される、(A)液状トリオルガノシロキシ末端ブロックされたポリジメチルシロキサンについて、上記2-3の(4A)、(4B)と同様の事項が記載されており(第4頁第7欄24行?同頁第8欄23行、第4頁第8欄29?37行)、また、2つのPMW(ピーク分子量)を有する液体の製造方法として、重合を開始し、一定時間続けた後に、幾つかの成分が添加され、さらに、大と小のPMW種をもった(A)が生成するまで、重合が続けられることが記載されている(第5頁第9欄5?9行)。

3.特許法第29条違反についての当審の判断
(1)甲第1号証に記載された発明との対比、判断
(1-1)本件発明1について
甲第1号証の記載事項1a?1g、特に記載事項1f、1gに記載された実施例2からみて、甲第1号証には下記の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると云える。
「ロール軸の外周面にシリコーンゴム層が形成され、該シリコーンゴム層表面にフッ素ラテックスがコーティングされてなるフッ素ラテックスコーティングシリコーンゴム定着ロールにおいて、前記シリコーンゴム層が
分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700) 100重量部
下記式(2)で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン
3.1重量部

白金触媒(Pt濃度1%) 0.2重量部
結晶性シリカ 35重量部
水酸化セリウム 約1重量部
酸化鉄 約3重量部
を含有してなり、かつ硬化後のゴム硬度(JIS K6301におけるJIS-A硬度)が2であるシリコーンゴム組成物の硬化物で形成されてなるフッ素ラテックスコーティングシリコーンゴム定着ロール。」
本件発明1と甲1発明を対比すると、後者における「フッ素ラテックスコーティング」による層、「白金触媒(Pt濃度1%)」は、それぞれ、前者における「フッ素ゴム層」、「(C)白金族金属系触媒」に相当する。
後者における「分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)」は、その分子構造が、前者における「(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン」に含まれるものであり、その平均分子量は、分子構造及び重合度からみて前者で特定する30,000?100,000の範囲に含まれるものである。
後者における「下記式(2)で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン」は、前者における「(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン」に含まれるものであり、後者におけるメチルハイドロジェンポリシロキサンの含有量は、分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー中のビニル基1個に対しケイ素原子結合水素原子の量が0.1?3.0当量となる量に含まれる量であることは計算により明らかである。
そして、後者の「定着ロール」は熱定着に用いられるものであることは当該技術分野において明らかな事項である。
してみると、両者は、
「ロール軸と、該ロール軸の外周に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周に設けられたフッ素樹脂層及び/又はフッ素ゴム層とを有し、該シリコーンゴム層が、
(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有し、平均分子量が30,000?100,000のオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン;(A)成分中のアルケニル基1個に対し該ケイ素原子結合水素原子の量が0.1?3.0当量となる量、及び
(C)白金族金属系触媒
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物からなる熱定着用シリコーンゴムロール。」
で一致し、口頭審理において確認したとおり、下記の点でのみ一応相違する。
[1-i]本件発明1は、(A)成分の分散度が1.0?3.0であるのに対し、甲1発明は、「分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)」の分散度に何等特定がない点。

そこで、この相違点[1-i]について検討する。
甲第1号証には、甲1発明における「分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)」の分散度について記載はなく、製造方法についても記載されていない。そして、甲1発明における「分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)」は、甲第1号証の請求項1に記載された「(A)一分子中の側鎖のみに珪素原子と結合する脂肪族不飽和炭化水素基を2個以上含有し、該脂肪族不飽和炭化水素基含有シロキサン単位の含有量が0.05?5モル%であるオルガノポリシロキサン」として実施例2で使用する液状組成物2に配合されたものであり、甲第1号証にはこの(A)成分について記載事項1bがあるが、記載事項1bを検討しても(A)成分の製造方法、さらには、分散度について何等の記載もない。

そこでまず、甲1発明における「分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)」の製造方法について検討する。
甲第10号証には、白金化合物触媒の存在下でハイドロジェンオルガノポリシロキサンを架橋剤として架橋硬化する付加型液状シリコーンゴムの主成分オイルとして、末端や側鎖に2個以上のビニル基が導入されたビニル基含有シリコーンオイルが記載されており(10a、10b)、この主成分オイルは、オルガノポリシロキサン環状体を、KOHなどのアルカリ触媒の存在下、加熱による平衡化反応によって製造するのが常法であり、この平衡化の際、末端基(例えば1,3ジビニル1,1,3,3テトラメチルジシロキサン)の種類、量により末端官能基の種類や重合度を調節することが記載されている(10c)。
また、甲第11号証には、水酸化カリウムを触媒とした環状ジメチルシロキサンの重合の機構が記載されており、塩基中でこの反応を続けると、シロキサンの分子量分布は熱力学的な平衡状態に到達すること(11a)、平衡状態での環状体の比率と分子量は、温度、触媒濃度、シロキサン濃度、水分量、側鎖の種類、1官能性シロキサン単位濃度などに依存するが、分子量は1官能性シロキサン単位(末端基)の添加量で調整できること(11b)、重合は触媒を中和することによって停止させ、その後、副生した環状体はストリッピングで除去し、目的のポリジメチルシロキサンの製造は完了すること(11c)、末端にビニル基を有するポリシロキサンならば1官能性基として-SiMe_(2)Viを使用し、側鎖ビニル基を有するポリシロキサンならば、ジメチルシロキサン環状体とメチルビニルシロキサン環状体を共重合すること(11d)が記載されている。
さらに、甲第8号証には、ビニル基含有オルガノポリシロキサンの製造を、ジオルガノシクロシロキサンと塩基性重合触媒と連鎖封止剤の混合物を平衡させて行うこと、所望の平均分子量に重合を平衡させるのに利用できる適当量の末端封鎖が存在するように、十分な連鎖停止剤を添加することが記載されている(8b)。

これらの記載からみて、ビニル基含有オルガノシロキサンポリマーは、アルカリ触媒を用いた平衡化反応により、オルガノポリシロキサン環状体を重合させることにより製造するのが常法であり、その際、末端基を構成する1官能性シロキサン単位の添加量でビニル基含有オルガノポリシロキサンの分子量を制御することが、本件の優先権主張日前周知の技術事項であったと認められる。

してみれば、甲第1号証に、「分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)」、さらには、(A)成分の製造方法について何等記載が無い以上、甲1発明における「分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)」は、当該技術分野において常法として認識されていたアルカリ触媒を用いた平衡化反応により、重合度が700になるよう末端基を構成する1官能性シロキサン単位の添加量を調整しながら、ジメチルシロキサン環状体とメチルビニルシロキサン環状体を共重合させることにより製造されたものであると解するのが自然である。

そこでさらに、このアルカリ触媒を用いた平衡化反応により、重合度が700になるよう末端基を構成する1官能性シロキサン単位の添加量を調整して製造されたと解される、甲1発明における「分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)」の分散度について検討する。
上述の甲第8号証、甲第10号証、甲第11号証には、このアルカリ触媒を用いた平衡化反応により製造されるビニル基含有オルガノポリシロキサンの分散度について記載がない。甲第11号証の図2-11には、高分子量ポリジオルガノシロキサンの分子量分布が図示されているが(11c)、この図から生成した高分子量ポリジオルガノシロキサンの分散度を直ちに読み取ることもできない。

しかし、提出された甲号証、乙号証から、以下の事項が読み取れる。
第1に、甲第17号証の実験結果報告書には、K-シラノレート触媒の仕様、各原料の量、重合温度、重合時間および中和条件については甲第8号証及び甲第9号証の実施例3に準じ、甲第6号証の製造例1及び甲第7号証の製造例1に準じて調製したとして、K-シラノレート触媒の存在下、平衡化反応により、重量平均分子量65,055の両末端にビニル基を有するジメチルポリシロキサン(ポリシロキサン1)を調製したことが具体的に記載され、調製されたポリシロキサン1の分散度は1.53であることが記載されている。また、K-シラノレート触媒の仕様、各原料の量、重合温度、重合時間および中和条件については甲第8号証及び甲第9号証の実施例3に準じ、甲第6号証の製造例3に準じて調製したとして、K-シラノレート触媒の存在下、平衡化反応により、重量平均分子量98,119の両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体(ポリシロキサン2)を調製したことが具体的に記載され、調製されたポリシロキサン2の分散度は1.64であることが記載されている。
勿論、甲1発明における「分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)」は、甲第6号証の製造例3で製造されたものではなく、甲第6号証の製造例3の各種製造条件が甲第8号証及び甲第9号証に記載された条件であるというものではないから、甲第17号証に記載された上記ポリシロキサン2の分散度は、甲1発明における「分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)」の分散度ではない。
しかし、甲第17号証の実験結果報告書には、K-シラノレート触媒の存在下、平衡化反応により製造された、両末端にビニル基を有するジメチルポリシロキサン(ポリシロキサン1)の分散度が1.53であり、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体(ポリシロキサン2)の分散度が1.64であったという実験結果が示されているとは云える。
第2に、甲第12号証及び甲第13号証には、白金系化合物触媒と1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンで加熱硬化される分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン生ゴムとして、甲第12号証の実施例1、2には重量平均分子量150万で分散指数2.0のもの、重量平均分子量90万で分散指数1.8のものを用いたことが記載されており、甲第13号証の実施例1、2、4には重量平均分子量85万で分散指数1.8のものを用いたことが記載されている。また、甲第14号証の実施例には、有機過酸化物で硬化させるものではあるが、同じく両末端がビニルメチルシリルで封鎖されたオルガノポリシロキサンとして、平均重合度がn=4,000でMw/Mn=3、平均重合度がn=1,000でMw/Mn=3、平均重合度がn=10,000でMw/Mn=3のものが記載されている。そして、甲第12号証ないし甲第14号証にはこれらのビニル基含有ポリシロキサンの製造方法について何等の記載もないから、これらのビニル基含有ポリシロキサンは、アルカリ触媒を用いた平衡化反応で、所定の分子量あるいは重合度になるよう末端基を構成する1官能性シロキサン単位の添加量を調整して製造されたものであると認められる。
第3に、乙第4号証及び乙第5号証には、白金触媒の存在下、1分子当たり少なくとも平均三つの珪素結合水素原子を有する流体有機水素シロキサンで硬化されるトリオルガノシロキシ末端封鎖ビニル基含有ポリジメチルシロキサン流体について、所定の分子量分布を有し、分散指数が3.8より大きいものであることが記載され、さらに、従来のよく知られたポリジメチルシロキサン製造用重合法では、自動的に上記流体を与えることはできなかったこと、該流体は適切な分散指数等を得るように異なる分子量の2又はそれ以上のポリジメチルシロキサンを混合することによって(4A、4B、乙第5号証の第4頁第7欄24行?同頁第8欄23行、第4頁第8欄29?37行)、又は、特別な製法により製造できること(乙第5号証の第5頁第9欄5?9行)が記載されており、これらの記載は、従来のよく知られたポリジメチルシロキサン製造用重合法では、自動的には分散指数が3.8以下のものしか得られなかったことを示唆している。

そもそも、本件発明1は、(A)成分の分散度を1.0?3.0と特定するものであるから、かかる分散度が(A)成分の分散度として通常の範囲になく、特別なものであれば、かかる分散度を有する(A)成分の製造方法を本件明細書中に記載する必要があるところ、本件明細書には、かかる(A)成分について、段落【0008】に「(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、通常、付加硬化型シリコーンゴム組成物のベースポリマーとして使用されている公知のオルガノポリシロキサンである。」、段落【0011】に「(A)成分のオルガノポリシロキサンは公知の方法によって製造でき、例えば、オルガノシクロポリシロキサンとヘキサオルガノジシロキサンとをアルカリ又は酸触媒の存在下に平衡化反応を行うことによって得ることができる。」との記載があり、かかる(A)成分を製造するために特別な方法を採用したとの記載はなく、実施例においても(A)成分の製造方法について何等の記載もない。よって、本件発明1における(A)成分は、当該技術分野において常法として認識されていたアルカリ触媒を用いた平衡化反応により製造されたものであると認められる。
そして、本件明細書の実施例には、(A)成分として、「両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個含有する直鎖状ジメチルポリシロキサンで、平均分子量が30,000で分散度1.5のもの (1)、平均分子量50,000で分散度1.5のもの (2)、平均分子量80,000で分散度1.6のもの (3)、又は平均分子量100,000で分散度1.6のもの (4)」(段落【0030】)と、「両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖直鎖状ジメチルポリシロキサンで、平均分子量が30,000で分散度1.6のもの (1)、平均分子量50,000で分散度1.6のもの (2)、平均分子量80,000で分散度1.7のもの (3)、又は平均分子量100,000で分散度1.7のもの (4)」(段落【0032】)を用いたことが記載されている。本件明細書には(A)成分について、段落【0013】に「以上のようなアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、1種単独でも或いは2種以上の混合物としても使用できる」との記載があるものの、上記実施例において格別な記載もないことからみて、上記実施例において(A)成分として用いられたジメチルポリシロキサンは、いずれも、2種以上の混合物ではなく、各々の平均分子量になるように公知の平衡化反応により製造された1種単独のものであると認められる。
してみると、本件明細書の上記実施例に記載されたオルガノポリシロキサンの分散度1.5、1.6及び1.7は、当該技術分野において常法として認識されていたアルカリ触媒を用いた平衡化反応により、各々の平均分子量になるように末端基を構成する1官能性シロキサン単位の添加量を調整して製造された(A)成分が示す分散度の値であると解される。

これらのことを勘案すると、当該技術分野において常法として認識されていたアルカリ触媒を用いた平衡化反応により製造されたビニル基含有オルガノポリシロキサンの分散度は3.0より小さいものと認められる。

なお、乙第3号証には、ケイ素五配位化合物を重合触媒としてジオルガノシクロトリシロキサン等を重合して製造された分散度1.1?1.3の単分散のポリジオルガノシロキサンの製造方法について記載されており、この方法で製造された単分散のポリシロキサンと通常の多分散ポリシロキサン、即ち、KOHで重合されたポリシロキサンの分子量分布の比較が第1図に示され(3A)、さらに、KOHで重合されたポリシロキサンが多分散であること(3C)が記載されている。しかし、第1図からは、KOHで重合されたポリシロキサンの分散度が乙第3号証に記載された方法により製造されたポリシロキサンの分散度より高いことは読み取れるものの、KOHで重合されたポリシロキサンの分散度の値までは読み取ることはできない。また、乙第3号証には、市販の同粘度を有するジメチルポリシロキサンの非均質比(重量平均分子量/数平均分子量)が約4であることが記載されているものの(3B)、「市販の同粘度を有するジメチルポリシロキサン」の具体的内容が不明であり、この記載から直ちにKOHで重合されたポリシロキサンの分散度が4であるとすることはできない。
よって、乙第3号証の記載からは、KOHで重合されたポリシロキサンの分散度が3より大きいと断定することはできない。

してみると、このアルカリ触媒を用いた平衡化反応により、重合度が700になるよう末端基を構成する1官能性シロキサン単位の添加量を調整して製造されたと解される、甲1発明における「分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)」の分散度は、1.0?3.0の範囲にあるものと認められる。

上記のとおりであるから、上記相違点[1-i]は実質的な相違点であるとは認められない。
よって、本件発明1は、甲第1号証に実質的に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

(1-2)本件発明2について
本件発明2と甲1発明を対比すると、後者における「ゴム硬度(JIS K6301におけるJIS-A硬度)」と前者における「ゴム硬度(JIS K 6249)」が30以下の範囲で同じ値を示すことは、甲第15号証、甲第16号証に記載されているとおり本件の優先権主張日前広く知られていることであり、後者におけるシリコーンゴム層のゴム硬度は前者におけるシリコーンゴム層のゴム硬度の範囲に含まれるから、両者は、
「ロール軸と、該ロール軸の外周に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周に設けられたフッ素樹脂層及び/又はフッ素ゴム層とを有し、該シリコーンゴム層が、
(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有し、平均分子量が30,000?100,000のオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン;(A)成分中のアルケニル基1個に対し該ケイ素原子結合水素原子の量が0.1?3.0当量となる量、及び
(C)白金族金属系触媒
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物からなり、該シリコーンゴム層のゴム硬度(JIS K 6249)が20以下である熱定着用シリコーンゴムロール。」
で一致し、口頭審理において確認したとおり、下記の点でのみ一応相違する。
[1-ii]本件発明2は、(A)成分の分散度が1.0?2.0であるのに対し、甲1発明は、「分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)」の分散度に何等特定がない点。

そこで、相違点[1-ii]について検討する。
上記(1-2)で検討したとおり、甲1発明における「分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)」は、当該技術分野において常法として認識されていたアルカリ触媒を用いた平衡化反応により、重合度が700になるよう末端基を構成する1官能性シロキサン単位の添加量を調整して製造されたものであると解するのが自然である。
そして、その分散度についても、甲第14号証に、ビニル基含有オルガノポリシロキサンの分散度が3.0である旨、記載されているものの、甲第17号証に示される実験結果、甲第12、13号証に記載されたビニル基含有オルガノポリシロキサンの分散度の値、並びに、本件明細書の記載、特に、分散度が1.0?2.0の(A)成分の製造方法について本件明細書に何等の記載もないこと、及び、実施例において用いられた(A)成分の分散度の値からみて、公知のアルカリ触媒を用いた平衡化反応により製造されたビニル基含有オルガノポリシロキサンの分散度は2.0より小さいと解することに無理はない。
してみれば、甲1発明における「分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)」の分散度は、1.0?2.0の範囲にあるものと認められから、上記相違点[1-ii]は実質的な相違点であるとは認められない。
よって、本件発明2は、甲第1号証に実質的に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

(2)甲第2号証に記載された発明との対比、判断
(2-1)本件発明1について
甲第2号証の記載事項2a?2e、特に記載事項2d、2eに記載された実施例1からみて、甲第2号証には下記の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると云える。
「ロール芯上に、JIS K 6301に規定のJIS A硬度が9であるシリコーンゴム層が形成されているシリコーンゴム被覆ロールの上にフッ素樹脂製チューブを被覆した外層を設けた電子写真複写機の定着ロールであるシリコーンゴム被覆ロールであって、該シリコーンゴム層は下記液状シリコーンゴム組成物を硬化させてなるものであるシリコーンゴム被覆ロール。
下記式で表されるポリマー(1)

(式中、lは500である。) 100重量部
粉砕石英微粉末 40重量部
ジメチルジクロロシランで表面処理した乾式シリカ 5重量部
酸化鉄 3重量部
下記式で表されるケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノポリシロキサン

(式中、R はメチル基であり、mは85、nは15である。) 4.48重量部
{ポリマー(1)のビニル基に対するケイ素原子結合水素原子のモル比は、1.7 である。}
塩化白金酸とビニルダイマーとの錯化合物 0.3重量部
3-メチル-1-ブチン-3-オール 0.05重量部
を含有するシリコーンゴム組成物。」

本件発明1と甲2発明を対比すると、後者における「ロール芯」、「フッ素樹脂製チューブを被覆した外層」、「塩化白金酸とビニルダイマーとの錯化合物」は、それぞれ、前者における「ロール軸」、「フッ素樹脂層」、「(C)白金族金属系触媒」に相当する。
後者における「ポリマー(1)」は、その分子構造が、前者における「(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン」に含まれるものであり、その平均分子量は、一般式及び重合度からみて、前者で特定する30,000?100,000の範囲に含まれるものである。
後者における「ケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノポリシロキサン」は、前者における「(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン」に含まれるものであり、その「ポリマー(1)」のビニル基に対するケイ素原子結合水素原子の量も前者で特定する範囲に含まれるものである。
そして、後者の「シリコーンゴム被覆ロール」は、電子写真複写機の定着ロールであり、かかる定着ロールが熱定着に用いられるものであることは当該技術分野において明らかな事項である。
してみると、両者は、
「ロール軸と、該ロール軸の外周に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周に設けられたフッ素樹脂層とを有し、該シリコーンゴム層が、
(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有し、平均分子量が30,000?100,000のオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン;(A)成分中のアルケニル基1個に対し該ケイ素原子結合水素原子の量が0.1?3.0当量となる量、及び
(C)白金族金属系触媒
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物からなる熱定着用シリコーンゴムロール。」
で一致し、口頭審理において確認したとおり、下記の点でのみ一応相違する。
[2-i]本件発明1は、(A)成分の分散度が1.0?3.0と特定されているのに対し、甲2発明は、「ポリマー(1)」の分散度について何等特定がない点。

そこで、この相違点[2-i]について検討する。
甲第2号証には、かかるポリマー(1)の分散度について記載がなく、製造方法についても記載がない。そして、ポリマー(1)は甲第2号証の請求項1に記載の(A)成分のオルガノポリシロキサンとして液状シリコーンゴム組成物に配合されたものであるところ、甲第2号証における(A)成分についての記載である記載事項2cを検討しても、(A)成分のオルガノポリシロキサンの分散度の範囲は勿論、製造方法についての記載もない。

そこでまず、甲2発明におけるポリマー(1)の製造方法について検討する。
上記(1-1)で述べたとおり、甲第10号証、甲第11号証、及び、甲第8号証の記載からみて、ビニル基含有オルガノシロキサンポリマーは、アルカリ触媒を用いた平衡化反応によりオルガノポリシロキサン環状体を重合させることにより製造するのが常法であり、その際、末端基を構成する1官能性シロキサン単位の添加量でビニル基含有オルガノポリシロキサンの分子量を制御することが、本件の優先権主張日前周知の技術事項であったと認められる。
そして、甲第2号証に、ポリマー(1)、さらには、(A)成分の製造方法について何等記載が無い以上、甲2発明におけるポリマー(1)は、当該技術分野において常法として認識されていたアルカリ触媒を用いた平衡化反応により、重合度が500になるよう両末端基となる1,3ジビニル1,1,3,3テトラメチルジシロキサン等の化合物の添加量を調整しながら、ジメチルシロキサン環状体を重合させることにより製造されたものであると解するのが自然である。

そして、勿論、甲2発明におけるポリマー(1)は、甲第6号証の製造例1及び甲第7号証の製造例1で製造されたものではなく、甲第6号証の製造例1及び甲第7号証の製造例1の各種製造条件が甲第8号証及び甲第9号証に記載された条件であるというものではないから、甲第17号証に記載された両末端にビニル基を有するジメチルポリシロキサン(ポリシロキサン1)の分散度は甲2発明におけるポリマー(1)の分散度ではない。
しかし、上記(1-1)で述べたとおり、甲第17号証の実験結果、甲第12号証乃至甲第14号証の記載、乙第4号証、乙第5号証の記載、さらには、本件明細書の記載からみて、アルカリ触媒を用いた平衡化反応により製造されたビニル基含有オルガノポリシロキサンの分散度は3.0より小さいものと認められる。
してみれば、上述のとおり、アルカリ触媒を用いた平衡化反応により製造されたと解される甲第2号証におけるポリマー(1)の分散度も1.0?3.0の範囲にあるものと認められる。

上記のとおりであるから、上記相違点[2-i]は実質的な相違点であるとは認められない。
よって、本件発明1は、甲第2号証に実質的に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

(2-2)本件発明2について
本件発明2と甲2発明を対比すると、後者における「JIS K 6301に規定のJIS A硬度」と前者における「ゴム硬度(JIS K 6249)」が30以下の範囲で同じ値を示すことは、甲第15号証、甲第16号証に記載されているとおり本件の優先権主張日前広く知られていることであり、後者におけるシリコーンゴム層のゴム硬度は前者におけるシリコーンゴム層のゴム硬度の範囲に含まれるから、両者は、
「ロール軸と、該ロール軸の外周に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周に設けられたフッ素樹脂層及び/又はフッ素ゴム層とを有し、該シリコーンゴム層が、
(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有し、平均分子量が30,000?100,000のオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン;(A)成分中のアルケニル基1個に対し該ケイ素原子結合水素原子の量が0.1?3.0当量となる量、及び
(C)白金族金属系触媒
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物からなり、該シリコーンゴム層のゴム硬度(JIS K 6249)が20以下である熱定着用シリコーンゴムロール。」
で一致し、口頭審理において確認したとおり、下記の点でのみ一応相違する。
[2-ii]本件発明2は、(A)成分の分散度が1.0?2.0であるのに対し、甲1発明は、「ポリマー(1)」の分散度に何等特定がない点。

そこで、相違点[2-ii]について検討する。
上記(2-1)で相違点[2-i]についての判断を示していることを考慮すると、この相違点[2-ii]は、上記(1-2)で検討した相違点[1-ii]と実質的に同じものである。
よって、相違点[2-ii]は、上記(1-2)で検討した相違点[1-ii]と実質的に同じ理由で、実質的な相違点であるとは認められない。
よって、本件発明2は、甲第2号証に実質的に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

(3)甲第3号証に記載された発明との対比、判断
(3-1)本件発明1について
甲第3号証の記載事項3a?3d、特に記載事項3dに記載された実施例1からみて、甲第3号証には下記の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると云える。
「ロール軸の外周面にシリコーンゴム層を介してフッ素樹脂層を設けてなるフッ素樹脂被覆定着ロールにおいて、このシリコーンゴム層が、硬度(JIS A)が7であり、
式:

で表される分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体 100重量部
粉砕石英微粉末 30重量部
式:

で表される分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン 6重量部
(上記のメチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体中のビニル基に対する、このジメチルポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子のモル比は0.9である。)
式:

で表される分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン 0.06重量部
(上記のメチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体中のビニル基に対する、このメチルハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子のモル比は0.2である。)
塩化白金酸のイソプロピルアルコール溶液 0.5重量部
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物であるフッ素樹脂被覆定着ロール。」

本件発明1と甲3発明とを対比すると、後者における「塩化白金酸」は、前者における「(C)白金族金属系触媒」に相当する。
後者における「分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体」は、その分子構造が、前者における「(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン」に含まれるものであり、その平均分子量は、分子式からみて、前者で特定する30,000?100,000の範囲に含まれるものである。
後者における「分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン」及び「分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン」は、いずれも、前者における「(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン」に含まれるものであり、それらの「分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体」のビニル基に対するケイ素原子結合水素原子の量の合算値も前者で特定する範囲に含まれるものである。
そして、後者の「フッ素樹脂被覆定着ロール」は、熱定着に用いられるものであることは当該技術分野において明らかな事項である。
してみると、両者は、
「ロール軸と、該ロール軸の外周に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周に設けられたフッ素樹脂層とを有し、該シリコーンゴム層が、
(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有し、平均分子量が30,000?100,000のオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン;(A)成分中のアルケニル基1個に対し該ケイ素原子結合水素原子の量が0.1?3.0当量となる量、及び
(C)白金族金属系触媒
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物からなる熱定着用シリコーンゴムロール。」
で一致し、口頭審理において確認したとおり、下記の点でのみ一応相違する。
[3-i]本件発明1は、(A)成分の分散度が1.0?3.0と特定されているのに対し、甲3発明は、「分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン」の分散度について何等特定がない点。

そこで、この相違点[3-i]について検討する。
甲第3号証には、かかる「分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体」の分散度について記載がなく、製造方法についても記載がない。そして、この「分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体」は甲第3号証の請求項1に記載の「(A)分子鎖側鎖に平均0.5個以上のケイ素原子結合アルケニル基を含有し、かつ、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン」としてシリコーンゴム組成物に配合されたものであるところ、甲第3号証におけるかかる(A)成分についての記載である記載事項3cを検討しても、かかる(A)成分のジオルガノポリシロキサンの分散度の範囲は勿論、製造方法についての記載もない。

そこでまず、甲3発明における「分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体」の製造方法について検討する。
上記(1-1)で述べたとおり、甲第10号証、甲第11号証、及び、甲第8号証の記載からみて、ビニル基含有オルガノシロキサンポリマーは、アルカリ触媒を用いた平衡化反応により、オルガノポリシロキサン環状体を重合させることにより製造するのが常法であり、その際、末端基を構成する1官能性シロキサン単位の添加量でビニル基含有オルガノポリシロキサンの分子量を制御することが、本件の優先権主張日前周知の技術事項であったと認められる。
そして、甲第3号証に、「分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体」、さらには、(A)成分の製造方法について何等記載が無い以上、甲3発明における「分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体」は、当該技術分野において常法として認識されていたアルカリ触媒を用いた平衡化反応により、上記の分子式になるよう末端基を構成する1官能性シロキサン単位の添加量を調整しながら、ジメチルシロキサン環状体とメチルビニルシロキサン環状体を共重合させることにより製造されたものであると解するのが自然である。

そして、勿論、甲3発明における「分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体」は、甲第6号証の製造例3で製造されたものではなく、甲第6号証の製造例3の各種製造条件が甲第8号証及び甲第9号証に記載された条件であるというものではないから、甲第17号証に記載された両末端にトリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体(ポリシロキサン2)の分散度は、甲3発明における「分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体」の分散度ではない。

しかし、上記(1-1)で述べたとおり、甲第17号証の実験結果、甲第12号証乃至甲第14号証の記載、乙第4号証、乙第5号証の記載、さらには、本件明細書の記載からみて、アルカリ触媒を用いた平衡化反応により製造されたビニル基含有オルガノポリシロキサンの分散度は3.0より小さいものと認められる。
してみれば、甲第3号証におけるアルカリ触媒を用いた平衡化反応により製造されたと解される「分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体」の分散度も1.0?3.0の範囲内にあるものと認められる。

上記のとおりであるから、上記相違点[3-i]は実質的な相違点であるとは認められない。
よって、本件発明1は、甲第3号証に実質的に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

(3-2)本件発明2について
本件発明2と甲3発明を対比すると、後者における「硬度(JIS A)」と前者における「ゴム硬度(JIS K 6249)」が、30以下の範囲で同じ値を示すことは、甲第15号証、甲第16号証に記載されているとおり本件の優先権主張日前広く知られていることであり、後者におけるシリコーンゴム層の硬度は前者におけるシリコーンゴム層のゴム硬度の範囲に含まれるから、両者は、
「ロール軸と、該ロール軸の外周に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周に設けられたフッ素樹脂層及び/又はフッ素ゴム層とを有し、該シリコーンゴム層が、
(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有し、平均分子量が30,000?100,000のオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン;(A)成分中のアルケニル基1個に対し該ケイ素原子結合水素原子の量が0.1?3.0当量となる量、及び
(C)白金族金属系触媒
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物からなり、該シリコーンゴム層のゴム硬度(JIS K 6249)が20以下である熱定着用シリコーンゴムロール。」
で一致し、口頭審理において確認したとおり、下記の点でのみ一応相違する。
[3-ii]本件発明3は、(A)成分の分散度が1.0?2.0であるのに対し、甲1発明は、「分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体」の分散度に何等特定がない点。

そこで、相違点[3-ii]について検討する。
上記(3-1)で相違点[3-i]についての判断を示していることを考慮すると、この相違点[3-ii]は、上記(1-2)で検討した相違点[1-ii]と実質的に同じものである。
よって、相違点[3-ii]は、上記(1-2)で検討した相違点[1-ii]と実質的に同じ理由で、実質的な相違点であるとは認められない。
よって、本件発明2は、甲第3号証に実質的に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

(4)甲第4号証に記載された発明との対比、判断
(4-1)本件発明1について
甲第4号証の記載事項4a?4g、特に記載事項4gに記載された実施例1からみて、甲第4号証には下記の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると云える。
「芯金表面にシリコーンゴム層を有しさらに最外層にフッ素樹脂被覆層を有する定着ロールにおいて、該シリコーンゴム層の硬さが(JIS A)で13であり、該シリコーンゴム層が、
下式にて示されるシリコーンオイル 100重量部

ジメチルシリル基で表面処理されたヒュームドシリカ 4重量部
石英粉 15重量部
酸化鉄 2重量部
塩化白金酸の2-エチルヘキサノール2%溶液 0.3重量部
下式にて表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン 10重量部

の混合物から得られたものである定着ロール。」

本件発明1と甲4発明を対比すると、後者における「芯金」、「フッ素樹脂被覆層」、「塩化白金酸」は、それぞれ、前者における「ロール軸」、「フッ素樹脂層」、「(C)白金族金属系触媒」に相当する。
後者における「シリコーンオイル」は、その分子構造が、前者における「(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン」に含まれるものであり、その平均分子量は、分子式からみて、前者で特定する30,000?100,000の範囲に含まれるものである。
後者における「メチルハイドロジェンポリシロキサン」は、前者における「(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン」に含まれるものであり、その上記「シリコーンオイル」のビニル基に対するケイ素原子結合水素原子の量は、前者で特定する範囲に含まれるものである。
そして、後者の「定着ロール」は、熱定着に用いられるものであることは当該技術分野において明らかな事項である。
してみると、両者は、
「ロール軸と、該ロール軸の外周に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周に設けられたフッ素樹脂層とを有し、該シリコーンゴム層が、
(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有し、平均分子量が30,000?100,000のオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン;(A)成分中のアルケニル基1個に対し該ケイ素原子結合水素原子の量が0.1?3.0当量となる量、及び
(C)白金族金属系触媒
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物からなる熱定着用シリコーンゴムロール。」
で一致し、口頭審理において確認したとおり、下記の点でのみ一応相違する。
[4-i]本件発明1は、(A)成分の分散度が1.0?3.0と特定されているのに対し、甲4発明は、「シリコーンオイル」の分散度について何等特定がない点。

そこで、この相違点[1-i]について検討する。
甲第4号証には、かかる「シリコーンオイル」の分散度について記載がなく、製造方法についても記載がない。そして、この「シリコーンオイル」は甲第4号証の請求項2に記載の「一分子中に、少なくとも平均3個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン(a)」として混合物に配合されたものであるところ、甲第4号証における(a)成分についての記載である記載事項4cを検討しても、(a)成分のオルガノポリシロキサンの分散度の範囲は勿論、製造方法についての記載もない。

そこでまず、甲4発明における「シリコーンオイル」の製造方法について検討する。
上記(1-1)で述べたとおり、甲第10号証、甲第11号証、及び、甲第8号証の記載からみて、ビニル基含有オルガノシロキサンポリマーは、アルカリ触媒を用いた平衡化反応により、オルガノポリシロキサン環状体を重合させることにより製造するのが常法であり、その際、末端基を構成する1官能性シロキサン単位の添加量でビニル基含有オルガノポリシロキサンの分子量を制御することが、本件の優先権主張日前周知の技術事項であったと認められる。
そして、甲第4号証に、「シリコーンオイル」、さらには、(a)成分の製造方法について何等記載が無い以上、甲4発明における「シリコーンオイル」は、当該技術分野において常法として認識されていたアルカリ触媒を用いた平衡化反応により、上記の分子式になるよう両末端基となる1,3ジビニル1,1,3,3テトラメチルジシロキサン等の化合物の添加量を調整しながら、ジメチルシロキサン環状体とメチルビニルシロキサン環状体を共重合させることにより製造されたものであると解するのが自然である。

そして、勿論、甲4発明における「シリコーンオイル」は、甲第17号証に記載のポリシロキサン1、ポリシロキサン2とは分子構造が異なり、甲第17号証に記載されたポリシロキサン1、ポリシロキサン2の分散度は甲4発明における「シリコーンオイル」の分散度ではない。
しかし、上記(1-1)で述べたとおり、甲第17号証の実験結果、甲第12号証乃至甲第14号証の記載、乙第4号証、乙第5号証の記載、さらには、本件明細書の記載からみて、アルカリ触媒を用いた平衡化反応により製造されたビニル基含有オルガノポリシロキサンの分散度は3.0より小さいものと認められる。
してみれば、甲第4号証におけるアルカリ触媒を用いた平衡化反応により製造されたと解される「シリコーンオイル」の分散度も1.0?3.0の範囲内にあるものと認められる。

上記のとおりであるから、上記相違点[4-i]は実質的な相違点であるとは認められない。
よって、本件発明1は、甲第4号証に実質的に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

(4-2)本件発明2について
本件発明2と甲4発明を対比すると、後者における「(JIS A)」によるゴムの硬度の値と前者における「ゴム硬度(JIS K 6249)」の値が、30以下の範囲において同じ値を示すことは、甲第15号証、甲第16号証に記載されているとおり本件の優先権主張日前広く知られていることであり、後者におけるシリコーンゴム層の硬度は前者におけるシリコーンゴム層のゴム硬度の範囲に含まれる。
よって、両者は、
「ロール軸と、該ロール軸の外周に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周に設けられたフッ素樹脂層及び/又はフッ素ゴム層とを有し、該シリコーンゴム層が、
(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有し、平均分子量が30,000?100,000のオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン;(A)成分中のアルケニル基1個に対し該ケイ素原子結合水素原子の量が0.1?3.0当量となる量、及び
(C)白金族金属系触媒
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物からなり、該シリコーンゴム層のゴム硬度(JIS K 6249)が20以下である熱定着用シリコーンゴムロール。」
で一致し、口頭審理において確認したとおり、下記の点でのみ一応相違する。
[4-ii]本件発明2は、(A)成分の分散度が1.0?2.0であるのに対し、甲4発明は、「シリコーンオイル」の分散度について何等特定がない点。

そこで、相違点[4-ii]について検討する。
上記(4-1)で相違点[4-i]についての判断を示していることを考慮すると、この相違点[4-ii]は、上記(1-2)で検討した相違点[1-ii]と実質的に同じものである。
よって、相違点[4-ii]は、上記(1-2)で検討した相違点[1-ii]と実質的に同じ理由で、実質的な相違点であるとは認められない。
よって、本件発明2は、甲第4号証に実質的に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

(5)甲第5号証に記載された発明との対比、判断
(5-1)本件発明1について
甲第5号証の記載事項5a?5d、特に記載事項5dに記載された実施例1からみて、甲第5号証には下記の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると云える。
「芯金上にシリコーンゴム層があり、該シリコーンゴム層上にフッ素樹脂フィルム層が積層されてなる定着ロールであって、該シリコーンゴム層が、
粘度15,000センチポイズの分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(ビニル基含有量0.23重量%)
100重量部
ヒュームドシリカ 15重量部
両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子含有量0.9重量%)
0.5重量部
塩化白金酸と1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体触媒(白金含有量0.6重量%) 0.6重量部
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物からなり、該シリコーンゴム層のゴム硬度は、JIS A硬度による定着ロールの表面硬度である15より低い値である定着ロール。」

本件発明1と甲5発明を対比すると、後者における「芯金」、「フッ素樹脂フィルム層」、「塩化白金酸と1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体触媒(白金含有量0.6重量%)」は、それぞれ、前者における「ロール軸」、「フッ素樹脂層」、「(C)白金族金属系触媒」に相当する。
後者における「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン」は、その分子構造が、前者における「(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン」に含まれるものであり、甲第2号証に記載の「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン」の粘度と重合度の関係(2d)からみて、粘度が15,000がセンチポイズであることは、その平均分子量が前者で特定する30,000?100,000の範囲に含まれることを意味するものである。
後者における「両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体」は、前者における「(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン」に含まれるものであり、その上記「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン」のビニル基に対するケイ素原子結合水素原子の量を計算すると、前者で特定する範囲に含まれる。
そして、後者の「定着ロール」は、熱定着に用いられるものであることは当該技術分野において明らかな事項である。
してみると、両者は、
「ロール軸と、該ロール軸の外周に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周に設けられたフッ素樹脂層とを有し、該シリコーンゴム層が、
(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有し、平均分子量が30,000?100,000のオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン;(A)成分中のアルケニル基1個に対し該ケイ素原子結合水素原子の量が0.1?3.0当量となる量、及び
(C)白金族金属系触媒
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物からなる熱定着用シリコーンゴムロール。」
で一致し、口頭審理において確認したとおり、下記の点でのみ一応相違する。
[5-i]本件発明1は、(A)成分の分散度が1.0?3.0と特定されているのに対し、甲5発明は、「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン」の分散度について何等特定がない点。

そこで、この相違点[5-i]について検討する。
甲第5号証には、かかる「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン」の分散度について記載がなく、製造方法についても記載がない。そして、甲第5号証の実施例1において「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン」は甲第5号証の請求項2に記載の(A)成分のオルガノポリシロキサンとして液状シリコーンゴム組成物に配合されたものであるところ、甲第5号証における(A)成分についての記載である記載事項5bを検討しても、(A)成分のオルガノポリシロキサンの分散度の範囲は勿論、製造方法についての記載もない。

そこでまず、甲5発明における「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン」の製造方法について検討する。
上記(1-1)で述べたとおり、甲第10号証、甲第11号証、及び、甲第8号証の記載からみて、ビニル基含有オルガノシロキサンポリマーは、アルカリ触媒を用いた平衡化反応により、オルガノポリシロキサン環状体を重合させることにより製造するのが常法であり、その際、末端基を構成する1官能性シロキサン単位の添加量でビニル基含有オルガノポリシロキサンの分子量を制御することが、本件の優先権主張日前周知の技術事項であったと認められる。
そして、甲第5号証に、「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン」、さらには、(A)成分の製造方法について何等記載が無い以上、甲5発明における「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン」は、当該技術分野において常法として認識されていたアルカリ触媒を用いた平衡化反応により、粘度15,000センチポイズを示す平均分子量になるよう両末端基となる1,3ジビニル1,1,3,3テトラメチルジシロキサン等の化合物の添加量を調整しながら、ジメチルシロキサン環状体を重合させることにより製造されたものであると解するのが自然である。

そして、勿論、甲5発明における「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン」は、甲第6号証の製造例1及び甲第7号用の製造例1で製造されたものではなく、甲第6号証の製造例1及び甲第7号証の製造例1の各種製造条件が甲第8号証及び甲第9号証に記載された条件であるというものではないから、甲第17号証に記載された両末端にビニル基を有するジメチルポリシロキサン(ポリシロキサン1)の分散度は甲5発明におけるポリマー(1)の分散度ではない。
しかし、上記(1-1)で述べたとおり、甲第17号証の実験結果、甲第12号証乃至甲第14号証の記載、乙第4号証、乙第5号証の記載、さらには、本件明細書の記載からみて、アルカリ触媒を用いた平衡化反応により製造されたビニル基含有オルガノポリシロキサンの分散度は3.0より小さいものと認められる。
してみれば、アルカリ触媒を用いた平衡化反応により製造されたと解される甲第5号証におけるポリマー(1)の分散度も1.0?3.0の範囲にあるものと認められる。

上記のとおりであるから、上記相違点[5-i]は実質的な相違点であるとは認められない。
よって、本件発明1は、甲第5号証に実質的に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

(2-2)本件発明2について
本件発明2と甲5発明を対比すると、後者における「JIS A硬度」と前者における「ゴム硬度(JIS K 6249)」が、30以下の範囲において同じ値を示すことは、甲第15号証、甲第16号証に記載されているとおり本件の優先権主張日前広く知られていることであり、後者におけるシリコーンゴム層のゴム硬度は、15より低いものであるから、前者におけるシリコーンゴム層のゴム硬度の範囲に含まれる。
よって、両者は、
「ロール軸と、該ロール軸の外周に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周に設けられたフッ素樹脂層及び/又はフッ素ゴム層とを有し、該シリコーンゴム層が、
(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有し、平均分子量が30,000?100,000のオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン;(A)成分中のアルケニル基1個に対し該ケイ素原子結合水素原子の量が0.1?3.0当量となる量、及び
(C)白金族金属系触媒
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物からなり、該シリコーンゴム層のゴム硬度(JIS K 6249)が20以下である熱定着用シリコーンゴムロール。」
で一致し、口頭審理において確認したとおり、下記の点でのみ一応相違する。
[5-ii]本件発明2は、(A)成分の分散度が1.0?2.0であるのに対し、甲5発明は、「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン」の分散度に何等特定がない点。

そこで、相違点[5-ii]について検討する。
上記(5-1)で相違点[5-i]についての判断を示していることを考慮すると、この相違点[5-ii]は、上記(1-2)で検討した相違点[1-ii]と実質的に同じものである。
よって、相違点[5-ii]は、上記(1-2)で検討した相違点[1-ii]と実質的に同じ理由で、実質的な相違点であるとは認められない。
よって、本件発明2は、甲第5号証に実質的に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

4.特許法第36条違反に対する当審の判断
請求人の主張の根拠は、大略、以下のとおりである。
本件明細書には実施例として「分子鎖途中のケイ素原子に結合したビニル基[-Si(CH=CH_(2))(CH_(3))O-単位]を5モル%含有する粘度1,OOOcPのビニルメチルポリシロキサン」(以下、「低分子量ビニルメチルポリシロキサン」という。)を含有するシリコーンゴム組成物を用いた例しか記載されておらず、かかる低分子量ビニルメチルポリシロキサンは、分子構造上(A)成分と同種であるので、本件明細書に記載のシリコーンゴム組成物の(A)成分の平均分子量、分散度は正確なものではなく、また、低分子量ビニルメチルポリシロキサンは(A)成分として配合されたものより1分子あたりのビニル基の数が多いので、硬化後のシリコーンゴムの物理特性は低分子量ビニルメチルポリシロキサンの配合の有無により異なったものとなる。
よって、本件明細書には本件発明1及び2を裏付ける実施例の記載がないため、当業者が実施し得る程度に本件発明1及び2が記載されていない。

そこで、本件明細書の記載を検討すると、発明の詳細な説明の項には、【実施例】として、シリコーンゴム組成物の調製例1、調製例2が記載されているが、いずれも、上記低分子量ビニルメチルポリシロキサンを含有したものである。
本件発明1における(A)成分は、請求項1に記載のとおり「(A) ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有し、分散度が1.0?3.0であり、平均分子量が30,000?100,000のオルガノポリシロキサン」であり、本件発明2における(A)成分は、本件発明1における(A)成分のうち分散度が1.0?2.0のものである。
そして、これら(A)成分についての本件明細書の記載を検討すると、段落【0008】に「(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、・・・、一般組成式(I) R_(a)SiO_((4-a)/2)(但し、Rは各々、ケイ素原子に結合した置換又は非置換の一価炭化水素基を表し、aは1.9?2.4、好ましくは1.95?2.05の数を表す。)で示されるものである。」との記載があり、段落【0009】に上記Rの具体例が記載されている。また、段落【0012】には、(A)成分のオルガノポリシロキサンの具体例が記載されている。さらに、段落【0013】には、「以上のようなアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、1種単独でも或いは2種以上の混合物としても使用できるが、その平均分子量(混合物の場合は、混合物の平均分子量)は、GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量として、30,000?100,000、好ましくは30,000?80,000の範囲であることが必要である。」との記載があり、段落【0014】には、「また、この(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンの分子量の分散度、即ち、前記の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は1.0から3.0、好ましくは1.0から2.0、より好ましくは1.0から1.7の範囲であることが望ましい。」との記載がある。

これらの記載からみて、本件明細書の【実施例】に記載されたシリコーンゴム調製例において、上記低分子量オルガノポリシロキサンは、分子構造上(A)成分に含まれるものであるから、段落【0030】、【0031】に記載された「調製例1」においては、「両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個含有する直鎖状ジメチルポリシロキサンで、平均分子量が30,000で分散度1.5のもの (1)、平均分子量50,000で分散度1.5のもの (2)、平均分子量80,000で分散度1.6のもの (3)、又は平均分子量100,000で分散度1.6のもの (4) 」の100重量部と上記低分子量オルガノポリシロキサン4重量部の混合物が、本件発明1及び2における(A)成分であると認められ、段落【0032】、【0033】に記載された「調製例2」においては、「両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖直鎖状ジメチルポリシロキサンで、平均分子量が30,000で分散度1.6のもの (1)、平均分子量50,000で分散度1.6のもの (2)、平均分子量80,000で分散度1.7のもの (3)、又は平均分子量100,000で分散度1.7のもの (4)」の100重量部と上記低分子量オルガノポリシロキサン4重量部の混合物が、本件発明1及び2における(A)成分であると認められる。
してみると、本件明細書の段落【0036】、【0038】の【表1】、【表2】に記載された液状組成物1-(1)?(4)の(A)成分の分子量、及び、段落【0041】、【0042】の【表4】、【表5】に記載された液状組成物2-(1)?(4)の(A)成分の分子量の値は正確なものではなく、【実施例】には液状組成物1-(1)?(4)及び液状組成物2-(1)?(4)の(A)成分の分散度も正確に記載されていない。
そして、乙第2号証により、低分子量オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が25,683であることが示されたことを参酌すると、少なくとも、液状組成物1-(1)及び2-(1)の(A)成分の平均分子量は、本件発明1及び2で特定された範囲外のものである。

しかし、本件明細書には、(A)成分について、上記の記載の他、段落【0008】には、「(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、通常、付加硬化型シリコーンゴム組成物のベースポリマーとして使用されている公知のオルガノポリシロキサンである。」との記載があり、段落【0011】には、「(A)成分のオルガノポリシロキサンは公知の方法によって製造でき、例えば、オルガノシクロポリシロキサンとヘキサオルガノジシロキサンとをアルカリ又は酸触媒の存在下に平衡化反応を行うことによって得ることができる。」との記載があるとおり、上記(A)成分及びその製造方法は本件の優先権主張日前周知の事項であり、また、(A)成分の平均分子量及び分散度の測定方法も本件の優先権主張日前周知の事項であるから、(A)成分が1種単独の物の場合でも、2種以上の混合物の場合でも、本件発明1及び2で特定された範囲の平均分子量及び分散度の(A)成分を得ることは、当業者にとって格別困難なこととは認められない。
さらに、本件明細書には、シリコーンゴム組成物を構成する他の必須成分である(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン及び(C)白金族金属系触媒について、その製造方法、シリコーンゴム組成物への配合量を含め具体的に記載されており、任意成分である充填剤、耐熱向上剤、反応制御剤等の種類や配合量、フッ素樹脂及び/又はフッ素ゴムの被覆層の材質や形成方法についても具体的に記載されている。
そして、【実施例】には、(A)成分の平均分子量及び分散度が正確に記載されていないとは云え、具体的なシリコーンゴム組成物の調製例1、2が記載され、これらのシリコーンゴム組成物を用いたフッ素ゴムコーティング層を形成したシリコーンゴムロール、フッ素樹脂チューブを被覆したシリコーンゴムロールの製造法が記載されているところである。
この【実施例】の(A)成分について詳述すると、上記のとおり、液状組成物1-(1)及び2-(1)の(A)成分の平均分子量は、本件発明1及び2で特定された範囲外のものと認められるが、他の液状組成物の(A)成分の平均分子量は、その正確な値は不明であるものの、本件発明1及び2で特定された範囲内のものと認められる。また、乙第1号証には、調整例1で使用した直鎖状ジメチルポリシロキサン(1)と(4)、即ち分散度1.5で平均分子量が30,000のものと分散度1.6で平均分子量が100,000のもの、を等重量ずつ混合して調整した液状組成物Aでも、分散度は3.5であったこと、及び、本件明細書に記載の調整例2で使用した直鎖状ジメチルポリシロキサン(1)と(4)、即ち分散度1.6で平均分子量が30,000のものと分散度1.7で平均分子量が100,000のもの、を等重量ずつ混合して調整した液状組成物Bでも、分散度は3.6であったことが示されていることからみて、上記低分子量オルガノポリシロキサン4重量部を含む各液状組成物の(A)成分の分散度は、低分子量オルガノポリシロキサンの配合量が少ないことからみて、その正確な値は不明であるものの、1.0?2.0の範囲に入るものと認められる。
してみれば、かかる【実施例】の記載により、当業者が本件発明1及び2の効果を確認できないというものでもない。

以上のことからみて、確かに、本件明細書の発明の詳細な説明は正確でない記載を含むものであるが、もともと、ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサンを架橋剤とする付加硬化型シリコーンゴム及びその製造方法自体、本件の優先権主張日前周知のものであることを参酌すると、当業者であれば、本件明細書の記載に基づき本件発明1及び2を格別の困難性なく実施し得るものと認められる。

したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度には本件発明1及び2を明確且つ十分に記載したものであると認められる。
よって、本件は、明細書の記載が、平成14年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとまでいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1及び2に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
熱定着用シリコーンゴムロール
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール軸と、該ロール軸の外周に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周に設けられたフッ素樹脂層及び/又はフッ素ゴム層とを有し、該シリコーンゴム層が、
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有し、分散度が1.0?3.0であり、平均分子量が30,000?100,000のオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン;(A)成分中のアルケニル基1個に対し該ケイ素原子結合水素原子の量が0.1?3.0当量となる量、及び
(C)白金族金属系触媒
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物からなることを特徴とする熱定着用シリコーンゴムロール。
【請求項2】
前記(A)成分のオルガノポリシロキサンの分散度が1.0?2.0であり、該シリコーンゴム層のゴム硬度(JIS K 6249)が20以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱定着用シリコーンゴムロール。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリなどに使用する熱定着用シリコーンゴムロールに関する。更に詳しくは、シリコーンゴム層の外周にフッ素樹脂層及び/又はフッ素ゴム層を設けてなるシリコーンゴム定着ロールに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリなどに使用する定着ロールとしては、ロール軸(芯金)の外周にシリコーンゴムの表層を設けたシリコーンゴムロールが使用されている。これは、シリコーンゴムのトナー離型性、耐熱性、圧縮永久歪などが他のゴム材料に比較して優れているからである。
近年この種の機器の高速化に伴い、トナー離型性を向上させる目的で、定着ロール表面にシリコーンオイルを供給するオイルフューズが行われている。更に、高速定着の際、定着幅(ニップ幅)を確保して定着に要する時間を増加させる目的でゴム材料の低硬度化が進んでいる。
【0003】
しかしながら、シリコーンゴムは元々シリコーンオイルと材質が同じであり、しかも低硬度化されたため、フューズされるシリコーンオイルで膨潤するという問題が生じている。これを解決する方法として、表層が低硬度のシリコーンゴム又はシリコーンゴム発泡体で作製されたシリコーンゴムロールの表面に、更にフッ素樹脂及び/又はフッ素ゴムをコーティングするか、上記シリコーンゴム層にフッ素樹脂チューブを被覆することによって、上記シリコーンゴム層の外周にフッ素樹脂層及び/又はフッ素ゴム層を設けることが行われている。
【0004】
この方法により定着ロールとしての寿命は著しく向上するが、フッ素樹脂のコーティングには、フッ素樹脂の溶融温度以上の高温が必要であり、またフッ素ゴムのコーティングには、コーティング後、300?350℃で15分?1時間の高温での焼成が必要である。しかし、上記のような高温状態では、シリコーンゴム層が一部劣化し、フッ素樹脂層或いはフッ素ゴム層とシリコーンゴム層との接着性が損なわれる上、得られる定着ロールの耐久性にも問題があった。また、フッ素樹脂チューブを被覆して最外層にフッ素樹脂層を設けたシリコーンゴムロールにおいても、紙送り枚数の増加に伴い、フッ素樹脂層(チューブ)とシリコーンゴム層が剥離するという問題があった。特に、低硬度のシリコーンゴム層を有するものでは、これらの問題の影響が大きく、層間接着性、耐久性共に優れた、フッ素樹脂及び/又はフッ素ゴムの被覆層を有するシリコーンゴム定着ロールの開発が急務であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、フッ素樹脂層或いはフッ素ゴム層とシリコーンゴム層との層間接着性、定着ロールの耐久性共に優れた、シリコーンゴム層の外周にフッ素樹脂層及び/又はフッ素ゴム層を設けてなるシリコーンゴム定着ロールを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、ロール軸と、該ロール軸の外周に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周に設けられたフッ素樹脂層及び/又はフッ素ゴム層とを有し、該シリコーンゴム層が、
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有する平均分子量30,000?100,000のオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン;(A)成分中のアルケニル基1個に対し該ケイ素原子結合水素原子の量が0.1?3.0当量となる量、及び
(C)白金族金属系触媒
を含有するシリコーンゴム組成物の硬化物からなることを特徴とする熱定着用シリコーンゴムロールを提供する。
上記シリコーンゴム層のゴム硬度(JIS K 6249)は20以下であることが好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の定着ロールの主要部について説明する。
シリコーンゴム層:
シリコーンゴム層はロール軸の外周に設けたものである。このシリコーンゴム層を形成するには、定着ロールの芯金として通常使用されている、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属製ロール軸の外周に、(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個含有する平均分子量30,000?100,000のオルガノポリシロキサン、(B)ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン;(A)成分中のアルケニル基1個に対しSiH基の量が0.1?3.0当量(即ち、0.1?3.0個)となる量、及び(C)白金族金属系触媒を含有する液状の付加硬化型シリコーンゴム組成物を塗布し、加熱硬化させればよい。この場合、ロール軸とシリコーンゴム層との密着性(接着性)を向上するために、ロール軸表面は予め公知のプライマー、特にシリコーンゴム用プライマーでプライマー処理しておくことが好ましい。
こうして得られるシリコーンゴム層(即ち、上記シリコーンゴム組成物の硬化物からなる層)のゴム硬度(JIS K 6249)は20以下であることが好ましい。
【0008】
以下、このシリコーンゴム組成物を構成する成分について説明する。
<(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン>
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、通常、付加硬化型シリコーンゴム組成物のベースポリマーとして使用されている公知のオルガノポリシロキサンである。このオルガノポリシロキサンは25℃で5,000?300,000cP(センチポイズ)の粘度を有し、一般組成式(I)R_(a)SiO_((4-a)/2)(但し、Rは各々、ケイ素原子に結合した置換又は非置換の一価炭化水素基を表し、aは1.9?2.4、好ましくは1.95?2.05の数を表す。)で示されるものである。
【0009】
一般組成式(I)において、置換又は非置換の一価炭化水素基Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基;及びクロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等のハロゲン置換又はシアノ基置換炭化水素基等が挙げられる。これらの置換又は非置換の一価炭化水素基Rは炭素数1?12個、特に炭素数1?8個のものが好ましく、同一でも異なっていてもよいが、一分子中にアルケニル基を少なくとも2個含有することが必要である。このアルケニル基は分子鎖末端のケイ素原子又は分子鎖途中のケイ素原子のいずれに結合したものであってもよく、またこの両方に結合したものであってもよいが、少なくとも分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するものであることが好ましい。
上記例示したアルケニル基の中ではビニル基が好ましい。またアルケニル基以外の一価炭化水素基Rの中ではメチル基、フェニル基及び、3,3,3-トリフルオロプロピル基が好ましい。
【0010】
このオルガノポリシロキサンは直鎖状であっても、RSiO_(3/2)単位〔Rは一般組成式(I)に同じ〕或いはSiO_(4/2)単位を含んだ分岐状であってもよいが、通常は分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖され、分子主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位(即ち、R_(2)SiO_(2/2)単位、Rは一般組成式(I)に同じ)の繰り返しからなる、直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0011】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは公知の方法によって製造でき、例えば、オルガノシクロポリシロキサンとヘキサオルガノジシロキサンとをアルカリ又は酸触媒の存在下に平衡化反応を行うことによって得ることができる。
(A)成分の具体例としては、
【0012】
【化1】

(上式中、Rは一般組成式(I)のRにおけるアルケニル基以外の基と同じであり、nは300?1,500、好ましくは400?1,300の整数、mは1?200、好ましくは2?100の整数であり、aは1,2又は3である。)
等が挙げられる。
【0013】
以上のようなアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、1種単独でも或いは2種以上の混合物としても使用できるが、その平均分子量(混合物の場合は、混合物の平均分子量)は、GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量として、30,000?100,000、好ましくは30,000?80,000の範囲であることが必要である。この平均分子量が30,000より少ない場合は、300℃以上の高温状態でこのオルガノポリシロキサンが著しく劣化し、フッ素樹脂或いはフッ素ゴムのコーティング層とシリコーンゴム層との接着性が損なわれ、その結果、得られる定着ロールの耐久性が低下する。また、フッ素樹脂チューブを被覆して最外層にフッ素樹脂層を設けたシリコーンゴムロールの場合も、上記と同じ現象が生じ、フッ素樹脂層(チューブ)とシリコーンゴム層との接着性が損なわれ、定着ロールの耐久性が低下する。一方、平均分子量が100,000より多い場合は、オルガノポリシロキサンの離型効果が高くなって上記の層間接着性が低下する結果、得られる定着ロールのシリコーンゴム層に伸びが生じ、定着が不安定になる。
【0014】
また、この(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンの分子量の分散度、即ち、前記の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は1.0から3.0、好ましくは1.0から2.0、より好ましくは1.0から1.7の範囲であることが望ましい。この分散度が3.0より大きい場合にはフッ素樹脂又はフッ素ゴムのコーティング層とシリコーンゴム層との接着性が低下し、その結果得られる定着ロールの耐久性が低下する場合がある。
【0015】
<(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン>
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン中のアルケニル基と(B)成分中のケイ素原子結合水素原子(SiH基)との付加(ヒドロシリル化)反応において、架橋剤として作用する。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、分子構造に特に制限はなく、従来製造されている、例えば線状、環状、分岐状、三次元網状構造等各種のものが使用可能であるが、ケイ素原子に結合した水素原子、即ちSiH基を一分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上含有することが必要である。(B)成分のSiH基以外のケイ素原子に結合した基は、前記一般組成式(I)のRと同様の置換又は非置換の一価炭化水素基であるが、アルケニル基等の脂肪族不飽和結合を含有しないものが好ましく、特にメチル基及びフェニル基が好ましい。
【0016】
この(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記一般組成式(II)で示されるものが好適に使用される。
R^(1)_(b)H_(C)SiO_((4-b-c)/2) (II)
[R^(1)は、脂肪族不飽和結合を含まない、非置換又はハロゲン置換の、好ましくはC_(1?10)の、1価炭化水素基、bは、0.7?2.1、好ましくは1.0?2.0の数、cは、0.002?1.0、好ましくは0.01?1.0の数、b+cは、0.8?3.0、好ましくは1.0?2.7の数]
この(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子量は特に制限はないが、常温(25℃)で液状であることが好ましく、25℃で0.1?5,000cP(センチポイズ)、特に0.5?1,000cP程度のものが望ましい。尚、一般式(II)のR^(1)としては前記した式(I)のRにおいて例示したもののうち、アルケニル基以外のものと同じものを挙げることができ、特にメチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基が好ましい。
【0017】
(B)成分の添加量は、(A)成分に含まれるアルケニル基1個に対して(B)成分中のSiH基が0.1?3.0当量(即ち、0.1?3.0個)、好ましくは0.5?2.0当量の範囲となる量である。0.1当量より少ない場合は、架橋密度が低くなりすぎて、硬化したシリコーンゴムの耐熱性に悪影響を与える。また3.0当量より多い場合は、脱水素反応による発泡の問題が生じる上、同様に耐熱性に悪影響を与える恐れがある。(B)成分のオルガノポリシロキサンは公知の製造方法によって得ることができ、例えば最も一般的な製造方法として、オクタメチルシクロテトラシロキサン及び/又はテトラメチルシクロテトラシロキサンと、末端基となるヘキサメチルジシロキサン単位又は1,1’-ジヒドロ-2,2’,3,3’-テトラメチルジシロキサン単位を含む化合物とを硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸等の触媒の存在下に-10?+40℃程度の温度で平衡化反応させることによって容易に得ることができる。こうして得られる(B)成分は、1種単独でも或いは2種以上の混合物としても使用できる。
【0018】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7,8-ペンタメチルシクロペンタシロキサン等のシロキサンオリゴマー;分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等;R^(1)_(2)(H)SiO_(1/2)単位とSiO_(4/2)単位からなり、任意にR^(1)_(3)SiO_(1/2)単位、R^(1)_(2)SiO_(2/2)単位、R^(1)(H)SiO_(2/2)単位、(H)SiO_(3/2)単位又はR^(1)SiO_(3/2)単位〔上記式中、R^(1)は一般組成式(II)のR^(1)に同じ〕を含み得るシリコーンレジン等を例示することができる。
【0019】
<(C)白金族金属系触媒>
(C)成分の白金族金属系触媒は、前記した(A)成分と(B)成分との付加反応(ヒドロシリル化反応)による硬化を促進する触媒として使用される。この白金族金属系触媒は公知のものでよく、例えば白金ブラック;塩化白金酸;塩化白金酸のアルコール変性物;塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニルシロキサン又はアセチレンアルコール類等との錯体等の白金系触媒;テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等のパラジウム系触媒;ロジウム-オレフィンコンプレックス、クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム等のロジウム系触媒等が例示される。その添加量はいわゆる触媒量でよく、所望の硬化速度に応じて適宜増減すればよい。具体的には、(A)成分に対して白金族金属量で通常0.1?1000ppm、好ましくは1?200ppmの範囲である。
【0020】
<任意成分>
上記シリコーンゴム組成物には、他の任意成分として充填剤、耐熱向上剤、反応制御剤等を添加することができる。
充填剤、特にシリカ系無機質充填剤は液状付加硬化型シリコーンゴム組成物に所定の硬度及び引張り強さなどの物理的強度を付与するもので、従来シリコーンゴム組成物に通常使用されるものでよい。具体的には、例えばヒュームドシリカ、沈降性シリカ等の親水性シリカ;これらの親水性シリカを疎水化処理した疎水性シリカ;結晶性シリカ(又は石英粉末)などが挙げられる。これらは1種単独でも或いは2種以上の混合物としても使用できる。親水性シリカの市販品としては、Aerosil 130,200,300(日本アエロジル社製、Degussa社製);Cabosil MS-5,MS-7(Cabot社製);Rheorosi1 QS-102,103(徳山曹達社製);Nipsi1 LP(日本シリカ社製)等が挙げられる。また疎水性シリカの市販品としては、Aerosil R-812,R-812S,R-972,R-974(Degussa社製);Rheorosi1 MT-10(徳山曹達社製);Nipsi1 SSシリーズ(日本シリカ社製)等が挙げられる。また結晶性シリカの市販品としてはクリスタライト[(株)龍森製];Minusi1,Imisi1(Illinois Mineral社製)等が挙げられる。充填剤の添加量は(A)成分100重量部に対して0?300重量部、好ましくは5?300重量部、より好ましくは20?200重量部である。
【0021】
耐熱性向上剤としては、例えばカーボンブラック、酸化セリウム、水酸化セリウム、酸化鉄(ベンガラ)などが挙げられる。これらは1種単独でも或いは2種以上の混合物としても使用できる。
【0022】
カーボンブラックは、通常その製造方法によって、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等に類別し得るが、硫黄やアミンの含有量が多いと、組成物の付加硬化反応を阻害するので、特に、硫黄やアミンの少ないアセチレンブラックが好適に使用される。カーボンブラックの添加量は(A)成分100重量部に対して0?15重量部、好ましくは0.2?15重量部、より好ましくは2?10重量部である。
【0023】
ベンガラとしては、黒色ベンガラ(Fe_(3)O_(4))及び赤色ベンガラ(Fe_(2)O_(3))が好ましい。ベンガラの添加量は(A)成分100重量部に対して0?30重量部、好ましくは0.2?30重量部、より好ましくは2?20重量部である。
【0024】
酸化セリウム及び/又は水酸化セリウムは、カーボン及び酸化鉄と共に添加すると、相乗的に作用し、組成物の硬度変化を押さえることができる。酸化セリウム及び/又は水酸化セリウムの添加量は(A)成分100重量部に対して0?5重量部、好ましくは0.1?5重量部、より好ましくは0.2?2重量部である。
以上の任意成分は、1種単独で或いは2種以上の混合物として使用してもよい。
【0025】
更に上記(A)?(C)成分及び任意成分を実用に供するため、硬化時間の調整を行う必要がある場合には、反応制御剤として、ビニルシクロテトラシロキサンのようなビニル基含有オルガノポリシロキサン;トリアリルイソシアヌレート;アルキルマレエート;アセチレンアルコール類及びそれらのシラン又はシロキサン変性物;ハイドロパーオキサイド;テトラメチルエチレンジアミン;ベンゾトリアゾール;及びそれらの混合物などを使用してもよい。
【0026】
フッ素樹脂及び/又はフッ素ゴムの被覆層:
フッ素樹脂層及び/又はフッ素ゴム層は、上記シリコーンゴム層の外周に設けたものである。このフッ素樹脂及び/又はフッ素ゴムの被覆層を形成するには、シリコーンゴム層の外周に、従来と同様、フッ素樹脂又はフッ素ゴム(例えばラテックス状のもの)をコーティングすればよい。即ち、フッ素樹脂を用いる場合は、該樹脂をその溶融温度以上に加熱した溶融状態でコーティングし、またフッ素ゴムを用いる場合は、フッ素ゴムをコーティング後、従来と同様の高温状態(例えばフッ素ゴムとしてダイキン工業社製ダイエルラテックスを使用した場合、280?320℃で15分?1時間)で焼成する。またフッ素樹脂及びフッ素ゴムの両方を用いて、上記のようにフッ素樹脂を溶融状態でコーティングした後、その上にフッ素ゴムをコーティングし、高温焼成するか、或いはその逆にフッ素ゴムをコーティングし、高温焼成後、その上にフッ素樹脂を溶融状態でコーティングしてもよい。また、フッ素樹脂製チューブを被覆して、シリコーンゴム層の外周にフッ素樹脂層を設ける場合には、ロール軸(芯金)とフッ素樹脂チューブを金型内に設置し、ロール軸とフッ素樹脂チューブとの間にシリコーンゴム組成物を注入し、硬化することにより得ることができる。この場合、フッ素樹脂チューブの内面をナトリウム・ナフタレン法、スパッタエッチング法、コロナ放電処理法などで処理することによってフッ素樹脂層(チューブ)とシリコーンゴム層との接着性をより強固にすることができる。
【0027】
ここで使用されるフッ素樹脂又はフッ素樹脂チューブとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられ、またフッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、プロピレン/テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系フッ素ゴム、熱可塑性フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴムなどが挙げられ、これらは、熱収縮チューブ、フィルム、水性塗料、有機溶剤塗料、粉体塗料等の形態で入手できる。
【0028】
以上のようにしてシリコーンゴム層よりも高硬度のフッ素樹脂及び/又はフッ素ゴムの被覆層が形成されるが、本発明では、シリコーンゴム層との接着性を向上するために、フッ素樹脂及び/又はフッ素ゴムのコーティングの前に、シリコーンゴム層表面は予めプライマー処理しておくことが好ましい。このプライマー処理には公知のプライマー、好ましくはシリコーンゴム用プライマーを単独で使用してもよいし、該プライマーとフッ素ゴムとを混合して使用してもよい。また、フッ素樹脂チューブを被覆する場合には、該フッ素樹脂チューブの内面にプライマー処理を施した後、シリコーンゴム組成物を注入し、硬化、成形して接着させてもよい。
【0029】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、粘度は25℃での粘度を表し、また式中のMeはメチル基を表す。”平均分子量”はGPC測定によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)であり、”分散度”は重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)を意味する。
【0030】
シリコーンゴム組成物の調製例1:
両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個含有する直鎖状ジメチルポリシロキサンで、平均分子量が30,000で分散度1.5のもの(1)、平均分子量50,000で分散度1.5のもの(2)、平均分子量80,000で分散度1.6のもの(3)、又は平均分子量100,000で分散度1.6のもの(4)
100重量部、
下記式(II):
【0031】
【化2】

で表される粘度が約10cPのメチルハイドロジェンポリシロキサン
3重量部、
分子鎖途中のケイ素原子に結合したビニル基[-Si(CH=CH_(2))(CH_(3))O-単位]を5モル%含有する粘度1,000cPのビニルメチルポリシロキサン
4重量部、
白金・ビニルシロキサン錯体 白金原子として50ppm、
結晶性シリカ(平均粒径4μm) 10重量部、
反応制御剤として1-エチニル-1-シクロヘキサノール 0.1重量部、
酸化鉄 2重量部
を均一になるまで良く混合し、それぞれ液状組成物1-(1)、1-(2)、1-(3)、又は1-(4)を調製した。
【0032】
シリコーンゴム組成物の調製例2:
両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖直鎖状ジメチルポリシロキサンで、平均分子量が30,000で分散度1.6のもの(1)、平均分子量50,000で分散度1.6のもの(2)、平均分子量80,000で分散度1.7のもの(3)、又は平均分子量100,000で分散度1.7のもの(4)
100重量部、
下記式(III):
【0033】
【化3】

で表される粘度が約10Cpのメチルハイドロジェンポリシロキサン
3重量部、
分子鎖途中のケイ素原子に結合したビニル基[-Si(CH=CH_(2))(CH_(3))O-単位]を5モル%含有する粘度1,000cPのビニルメチルポリシロキサン
4重量部、
白金・ビニルシロキサン錯体 白金原子として50ppm、
結晶性シリカ(平均粒径4μm) 10重量部、
反応制御剤として1-エチニル-1-シクロヘキサノール 0.1重量部、
酸化鉄 2重量部
を均一になるまで良く混合し、それぞれ液状組成物2-(1)、2-(2)、2-(3)又は2-(4)を調製した。
【0034】
実施例1
<ゴム硬度・接着性試験>
液状組成物1-(1)、1-(2)、1-(3)又は1-(4)を150℃で30分プレキュアーし、更に200℃で4時間ポストキュアーして厚さ2mmのシート状硬化物を作製した。得られた硬化物の硬度をゴム硬度計(JIS 6249に規定されたデュロメータA型)で測定し、表1に示した。次に、この硬化物表面にシリコーンゴム用プライマーGLP-103SR(ダイキン工業社製)を均一に塗布し、80℃で10分加熱してプライマー処理した後、その上にダイエルラテックスGLS-213(ダイキン工業社製)を均一にスプレー塗布し、300℃で1時間加熱焼成し、厚さ20μmのフッ素ゴムコーティング層を形成した。次に、上記シリコーンゴム組成物の硬化物とコーティング層との接着性を評価し、表1に示した。
【0035】
接着性の評価:
シリコーンゴムシートからフッ素ゴムコーティング層を垂直方向に引き剥がした時の状態を下記基準で評価した。
○‥‥シリコーンゴム層とフッ素ゴムコーティング層の界面は強固に接着したままで、シリコーンゴム層が凝集破壊した。
△‥‥シリコーンゴム層とフッ素ゴムコーティング層の界面は一部剥離するが、大部分はシリコーンゴム層が凝集破壊した。
×‥‥シリコーンゴム層とフッ素ゴムコーティング層が容易に剥離した。
【0036】
【表1】

【0037】
<定着ロールの作製>
直径24mm×長さ300mmのアルミニウムシャフト上に付加硬化型液状シリコーンゴム用プライマーNo.101A/B(信越化学工業(株)製)を塗布し、150℃で30分加熱してプライマー処理した後、その上に液状組成物1-(1)、1-(2)、1-(3)又は1-(4)を塗布し、150℃で30分加熱硬化し、更に200℃で4時間ポストキュアーし、厚さ2mmのシリコーンゴム層を形成した。このシリコーンゴム層の表面に、フッ素ゴム用プライマーGLP-103SR(ダイキン工業社製)を均一に塗布し、80℃で10分加熱してプライマー処理した後、更にダイエルラテックスGLS-213を均一にスプレー塗布し、300℃で1時間焼成して厚さ10μmのフッ素ゴムコーティング層を形成し、外径28mm×長さ250mmのフッ素ゴムコーティング低硬度シリコーンゴムロールを作製した。
次にこのシリコーンゴムロールをプリンターの定着ロールとして組み込み、複写ライフを評価したところ、表2の結果が得られた。
【0038】
【表2】

【0039】
比較例1
両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖直鎖状ジメチルシロキサンポリマーとして平均分子量が27,000で分散度が1.5のもの又は平均分子量が120,000で分散度が1.6のものを用いた他は、調整例1と同様にして液状シリコーンゴム組成物を調製し、実施例1と同様にゴム硬度・接着性試験を行ない、更に定着ロールを作製し、複写ライフの評価を行ったところ、表3の結果が得られた。
【0040】
【表3】

【0041】
実施例2
<ゴム硬度及び接着性試験>
液状組成物として上記2-(1)、2-(2)、2-(3)又は2-(4)を用いた他は実施例1と同様にして接着性試験を行った。その結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
<定着ロールの作製>
液状組成物として上記2-(1)、2-(2)、2-(3)又は2-(4)を用いた他は実施例1と同様にして外径28mm×長さ250mmのフッ素ゴムコーティング低硬度シリコーンゴムロールを作製した。
次にこのシリコーンゴムロールをプリンターの定着ロールとして組み込み、複写ライフを評価したところ、表5の結果が得られた。
【0044】
【表5】

【0045】
比較例2
両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖直鎖状ジメチルシロキサンポリマーとして平均分子量が27,000で分散度が1.6のもの又は平均分子量が120,000で分散度が1.7のものを用いた他は調整例2と同様にして液状シリコーンゴム組成物を調製し、実施例1と同様にゴム硬度・接着性試験を行い、更に定着ロールを作製し、複写ライフの評価を行ったところ、表6の結果が得られた。
【0046】
【表6】

【0047】
実施例3
直径24mm×長さ300mmのアルミニウムシャフト上に付加硬化型液状シリコーンゴム用プライマーNo.101A/B(信越化学工業(株)製)を塗布し、150℃で30分加熱してプライマー処理した。このアルミニウムシャフトと、内面をナトリウム・ナフタレン法により表面処理した厚さ25μmのPFA樹脂製チューブを金型内に設置し、アルミニウムシャフトとPFAチューブとの間に液状組成物1-(1)、1-(2)、1-(3)又は1-(4)を注入、充填し、150℃で30分加熱硬化し、更に200℃で4時間ポストキュアーして、厚さ2mmのシリコーンゴム硬化物層を形成することにより、表面に25μmのPFA樹脂層(チューブ)を被覆した、外径28mm×長さ250mmのPFA樹脂被覆低硬度シリコーンゴムロールを作製した。
次にこのシリコーンゴムロールをプリンターの定着ロールとして組み込み、複写ライフを評価したところ、表7の結果が得られた。
【0048】
【表7】

【0049】
比較例3
両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖直鎖状ジメチルシロキサンポリマーとして平均分子量が27,000のもの又は120,000のものを用いた他は、調整例1と同様にして液状シリコーンゴム組成物を調製し、更に実施例3と同様にして定着ロールを作製し、複写ライフの評価を行ったところ、表8の結果が得られた。
【0050】
【表8】

【0051】
【発明の効果】
本発明のフッ素樹脂及び/又はフッ素ゴムの被覆層を設けたシリコーンゴム定着ロールは、フッ素樹脂層及び/又はフッ素ゴム層とシリコーンゴム層との接着性に優れ、またロールの耐久性にも優れている。従って、複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリなどに使用する定着ロールとして極めて有用である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-09-12 
結審通知日 2007-09-14 
審決日 2007-09-26 
出願番号 特願2000-156104(P2000-156104)
審決分類 P 1 113・ 113- ZA (G03G)
P 1 113・ 536- ZA (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 荒井 誠  
特許庁審判長 岡田 和加子
特許庁審判官 中澤 俊彦
山口 由木
登録日 2005-04-01 
登録番号 特許第3662815号(P3662815)
発明の名称 熱定着用シリコーンゴムロール  
代理人 岩見谷 周志  
代理人 久保田 芳譽  
代理人 岩見谷 周志  

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