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審判番号(事件番号) データベース 権利
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不服20058936 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1169268
審判番号 不服2003-6668  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-18 
確定日 2007-12-05 
事件の表示 平成11年特許願第 99449号「ヒト免疫不全レトロウイルス(ウイルスHIV)に対して誘導された抗体により認識できるペプチド、及び前記ウイルスの或る種に起因する感染の診断、場合によってはエイズに対するワクチン接種における該ペプチドの使用。」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月24日出願公開、特開平11-322792〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、昭和63年1月15日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1987年1月16日、米国、1987年2月11日、フランス、1987年4月15日、フランス)とする特願昭63-501472号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成11年4月6日に新たな特許出願としたものであって、平成15年5月19日付手続補正書により補正された特許請求の範囲第1項及び第4項には、以下のとおり記載されている。
「【請求項1】HIV-2のエンベロープまたはgagタンパク質と共通な免疫学的特性を有し、40個以下のアミノ酸残基を有するペプチドであって、
(1)XELGDYKLVEITPIG-APT--KR-----Z 又は
XYKLVEITPIG-APT-KRZ
[式中、X及びZはOH基もしくはNH2基を表すか又は、X及びZは1?5個のアミノ酸残基を含む基を表し、各ダッシュは前述のごときペプチドが下記の配列
ELGDYKLVEITPIGFAPTKEKRYSSAH
YKLVEITPIGFAPTKEK
ELGDYKLVEITPIGLAPTNVKRYTTG-
YKLVEITPIGLAPTNVK
のうちの1つの免疫学的特性を保持できるようにするアミノアシル残基の中から選択したアミノアシル残基に対応する]
(2)XL---S-KPCVKL-PLC----Z 又は
XKPCVKLTPLCVZ 又は
XS-KPCVKLTPLCVZ
[式中、X及びZはOH基もしくはNH2基を表すか又は、X及びZは1?5個のアミノ酸残基を含む基を表し、各ダッシュは前述のごときペプチドが下記の配列
LFETSIKPCVKLTPLCVAMK
LFETSIKPCVKLSPLCITMR
LWDQSLKPCVKLTPLCVSLK
KPCVKLTPLCV
KPCVKLSPLCI
SLKPCVKLTPLCV
のうちの1つの免疫学的特性を保持できるようにするアミノアシル残基の中から選択したアミノアシル残基に対応する]
(3)XYC-P-G-A-L-C-N-TZ
[式中、X及びZはOH基もしくはNH2基を表すか又は、X及びZは1?5個のアミノ酸残基を含む基を表し、各ダッシュは前述のごときペプチドが下記の配列
YCAPPGYALLRC-NDT
YCAPAGFAILKCNNKT
のうちの1つの免疫学的特性を保持できるようにするアミノアシル残基の中から選択したアミノアシル残基に対応する]
(4)X-----C-I-Q-I------G---YZ 又は
XC-I-Q-IZ
[式中、X及びZはOH基もしくはNH2基を表すか又は、X及びZは1?5個のアミノ酸残基を含む基を表し、各ダッシュは前述のごときペプチドが下記の配列
RNYAPCHIKQIINTWHKVGRNVY
CHIKQII
RNYVPCHIRQIINTWHKVGKNVY
CHIRQII
TITLPCRIKQFINMWQEVGKAMY
CRIKQFI
のうちの1つの免疫学的特性を保持できるようにするアミノアシル残基の中から選択したアミノアシル残基に対応する]
(5)XDCKLVLKGLGMNPTLEEMLTAZ 又は
XDCKLVLKGLGTNPTLEEMLTAZ
[式中、X及びZはOH基もしくはNH2基を表すか又は、X及びZは1?5個のアミノ酸残基を含む基を表し、各ダッシュは前述のごときペプチドが下記の配列
DCKLVLKGLGMNPTLEEMLTA
DCKLVLKGLGTNPTLEEMLTA
のうちの1つの免疫学的特性を保持できるようにするアミノアシル残基の中から選択したアミノアシル残基に対応する]
から成る群より選択される前記ペプチド。」(以下、「本願発明1」という。)
「【請求項4】請求項1の(2)?(4)に記載の少なくとも1つのペプチド、又はこのペプチドとキャリヤ分子との結合体をワクチン製造で許容し得る薬剤ビヒクルと組み合わせて含む免疫原組成物。」(以下、「本願発明4」という。)
2.原査定の理由
原査定における拒絶の理由の1つは、本願発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていないというものであり、以下この点について検討する。
(なお、本願は昭和63年1月15日を国際出願日とする国際出願の分割出願であるから、昭和62年改正特許法が適用されるところ、原審での拒絶理由通知で特許法第36条第4項と記載されているのは、特許法第36条第3項の誤記と認められる。)
3.当審の判断
本願発明1は、本願明細書中でそれぞれ、env3、env6、env8、env11、gag1と名付けられている上記(1)?(5)から選択されるペプチドグループのいずれかに属する、40個以下の特定の配列のアミノ酸残基を有するペプチドに係るものである。このように、本願発明は化学物質に係る発明であって、その化学構造からは、どのように使用するかを予測することは困難であるから、該発明が当業者が容易にその実施ができるよう発明の詳細な説明にその目的、構成、効果が記載されている(即ち、特許法第36条第3項の要件を満たす)というためには、その化学物質が製造可能なように記載されているだけでなく、その技術的に意味のある特定の用途が明らかであり、使用できるように記載されていることが必要である。
(3-1)本願明細書の記載
そこで、本願発明の詳細な説明をみると、本願発明1に係るペプチドについては、以下のとおり記載されている。
(i)「本発明のペプチドはHIV-2の抗原と共通の免疫学的特性を有し、これらペプチドのうちのあるものはHIV-1もしくはその変異体の抗原とも共通の免疫学的特性を有する。これら本発明のペプチドの特徴は、SIVの抗原と共通のペプチド構造も有することにある。これらのペプチドは通常40個以下のアミノ酸残基を含むと有利である。
以下に好ましいペプチドを挙げる。
env1
XRV-AIEKYL-DQA-LN-WGCAFRQVCZ
env2
X-LE-AQI-QQEKNMYELQKLNZ
env3
XELGDYKLVEITPIG-APT--KR-----Z
env4
X----VTV-YGVP-WK-AT--LFCA-Z
…「中間は省略」…
env10
X-G-DPE------NC-GEF-YC------NZ
env11
X-----C-I-Q-I------G---YZ
前記ペプチドに対応する有利なペプチドは下記の構造を有する。
env1
XRVTAIEKYLQDQARLNSWGCAFRQVCZ、又は
XRVTAIEKYLKDQAQLNAWGCAFRQVCZ
env2
XSLEQAQIQQEKNMYELQKLNSWZ、又は
XLLEEAQIQQEKNMYELQKLNSWZ
env3
XELGDYKLVEITPIGFAPTKEKRYSSAHZ、又は
XELGDYKLVEITPIGLAPTNVKRYTTG-Z
(これから明らかなように、ペプチドenv1、env2、env3はHIV-2とSIV-1との間の極めて大きい免疫学的関係を証明している。実際、第1番目のペプチドはHIV-2ゲノムに含まれ、第2番目のペプチドはSIV-1に含まれる)。」(明細書段落番号0049?0050)、
(ii)「本発明のペプチドは抗原性を有する。従ってこれらのペプチドはウイルスHIV-2による感染の診断に使用できる。
前述のごとく、ウイルスHIV-2に対する抗体をヒトの生物学的流体、特に血清又は髄液中で検出する方法に使用できるペプチドは研究の結果2つのグループに分けられた。第1のグループ(I)はペプチドgag1を含む。これらのペプチドは抗HIV-2抗体を識別し、従ってHIV-2による感染を検出することができる。これらのペプチドは抗HIV-1抗体も或る程度認識し得る。
第2のグループ(II)は、より特定的にはトランスメンブラン部分及びエンベロープタンパク質の外側部分の末端に存在するペプチドに対応するペプチドを含む。これらのペプチドは先にenv1、env2及びenv3と称したペプチドである。これらのペプチドを用いればHIV-2に対する抗体の存在を特異的に識別することができ、従ってヒト体内でHIVに起因する過去又は現在の感染、より特定的にはHIV-2によって生じた感染とHIV-1によって生じた感染とを区別することができる。」(明細書段落番号0081?0083)、
(iii)「本発明の好ましい実施態様の1つでは、ワクチンの有効成分を構成するのに適した免疫原ペプチド(又はこれらペプチドのフラグメント)を、HIV-2、SIV及びHIV-1のエンベロープ糖タンパク質中で50%を越えるアミノ酸相同性を示し、ウイルスのエンベロープの外側部分に属し、欠失が全くもしくは殆ど無く、且つ結合の安定化と結合ループの構成とに有利なシステイン残基を含む配列に対応する式で示されるものの中から選択する。 下記のペプチドはこの好ましいペプチドの部類に属する。
env4
XVTV-YGVP-W--ATZ
env5
XL-NVTE-FZ
env6
XKPCVKL-PLC-Z
env7
XN-S-I-Z
env10
XNC-GEF-YC-Z
env11
XC-I-Q-IZ
有利な薬剤組成物は、本発明の少なくとも1種類の生成物を有効量含む溶液、懸濁液又は注射用のリポソームからなる。これらの溶液、懸濁液又はリポソームは滅菌等張水相、好ましくは食塩水又はグルコース含有水相で構成する。」(段落番号0097?0098)

(3-2)本願発明1に係るペプチドまたは本願発明4に係る組成物の有用性
上記(i)から(iii)の明細書記載事項からみて、本願発明に係るペプチドの有用性は、少なくともHIV患者の血清中の抗体と反応できる抗原性を有することであるといえる。
しかしながら、本願明細書には、本願発明1に係るペプチドについて、その抗原性あるいは免疫原性を実際に試験し、確認した実施例は1つも記載されていない。また、これらのペプチドが抗原性を有することの合理的説明も存在しない。そして、本願の出願時において、あるポリペプチドの部分断片でありさえすれば、該ポリペプチドに対する血清中の抗体と反応するという技術常識が存在したということはできない。
したがって、本願発明1に係るペプチドの各々について、その抗原性及び免疫原性の確認がなされていない本願明細書の記載からは、本願発明1に係るペプチドに有用性があるとは認められない。
また、本願発明4に係る免疫原組成物についても、その有効成分は本願発明1に係るペプチドであるから、そのペプチドの何れにも免疫原性の確認がなされていない本願明細書の記載からは、本願発明4に係る免疫原組成物を当業者が容易に実施できるよう、その目的、構成、効果が記載されているものとは認められない。
(3-3)請求人の主張
請求人は、平成14年12月10日付け意見書中で、本願発明1のペプチドが抗原性を有することを証明するために、O’Connor等の文献(以下、「参考文献1」という。)を提出した。同文献は、SIVmacレトロウィルスのタンパク質に由来するCTL(Cytotoxic T-lymphocyte) SIVのエピトープの総説であって、本願発明のペプチドグループ(1)?(5)は全て、同文献に記載のCTLエピトープを含んでいるから、これらのデータは、本願発明1のペプチドが抗原性を有し、抗原または免疫原組成物の調製又は本願発明の検出方法に使用可能であることを証明する有力な証拠であること、及びCTLエピトープはSIVmacに対する抗体によって認識されるので、アミノ酸配列がSIVとHIV-2の配列に共通性を有するアミノ酸配列である本願発明1の(1)から(5)のペプチドは、対応するHIV-2タンパク質中のCTLエピトープを含み、本願発明のペプチドはHIV-2に対する抗体によっても認識される旨、主張している。
しかしながら、CTLエピトープは細胞性免疫を司るCTLを誘導するものであって、体液性免疫を司る抗体を誘導するエピトープと同じものとはいえず、CTLエピトープであるからといって、抗体を誘導するエピトープであるとはいえないということは技術常識(必要があれば、Annales de l’Institut Pasteur,Virologie(1986)Vol.137,p.518-528の特に518-519頁参照。)であるから、上記参考文献1は、抗体と結合する抗原性を本願発明1に係るペプチドが有する根拠にはならない。
しかも、上記参考文献1は、本願優先日から14年以上経過した2001年の12月に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであり、出願からそれ程の長期間を経て公衆に公開された事項により、本願明細書に、本願発明1に係るペプチドの有用性が記載されていたとは、到底いうことはできない。
さらに請求人は、平成15年6月23日付けで提出した審判請求書及び平成18年10月11日付けで提出した回答書において、それぞれ「本願発明は、ワクチンとして使用し得るペプチドおよび抗原組成物を提供するものである。したがって、抗体産生を誘導し得るペプチド、例えばBエピトープのみならず、HIV-2に対するワクチンとして使用し得る免疫特性を有するより一般的なペプチドも本願発明の範囲に包含される。したがって、CTLエピトープも当然に本願発明の範囲に含まれ得る。本主張は本願明細書段落【0002】および【0045】の記載に基づくものである。平成14年12月10日付けで提出した意見書に添付した資料1は、請求項にかかるエピトープがサルにおいてCTL応答を誘導し得ることを示すものである。また、CTLエピトープがワクチンの製造に使用し得ることは、当業界において周知である(上記資料1の「introduction」参照)。これらSIVのCTLエピトープに対応するエピトープがHIV-2に存在すること、即ち対応するHIV-2タンパク質中に同一の配列が存在することから、このようなエピトープがヒトにおいても免疫学的特性を示すことはいたって合理的であり、従って、HIV-2に対するワクチンとして当然の候補と成りえる。」及び「本願発明のペプチドは『ヒトの体内で後天的免疫不全症候群(AIDS)に変性し得るリンパ節障害を誘発し得るウイルスから精製状態で得ることのできる抗原と共通の免疫学的性質、場合によって免疫原性を有するペプチド』であり(段落番号0001)、このような免疫学的性質にはB細胞による抗体産生誘導のみならずCTLの活性化など多岐にわたる免疫反応誘導が含まれることは当業者にとって明らかなことであります。」 と主張している。
しかし、この主張の根拠となる段落【0002】及び【0045】をみても抗体の誘導についての記載はあるものの、CTL誘導についての記載は全くないばかりか、本願発明1の配列で特定される各ペプチドについては、明細書中においては、CTL誘導とは無関係の、抗体産生を誘導し、HIV-2患者の血清中の抗体により認識されることに基づく有用性について記載されているのであるから、たとえ、本願発明1に係るペプチドの幾つかが、明細書に全く開示のないCTL誘導を生ぜしめたとしても、それは、明細書に裏付けがない有用性であるといわざるを得ない。しかも、本願発明1は、複数種類のペプチドを選択肢として包含する発明であり、そのうちの一部のペプチドに有用性があるとした場合であっても、その発明全体が有用性を有するということにはならない。
結局、本願明細書をみた当業者は、本願発明1に含まれる各種ペプチドの各々について、しかも、明細書には記載されていないCTL誘導についての確認をしなければ、本願発明1の有用性を認識できないということになる。したがって、十分な技術開示の代償として保護を与えるという特許制度の趣旨からみて、本願発明1が、発明の詳細な説明において、容易にその実施ができる程度にその発明の目的、構成及び効果が記載されているものということができない。また、免疫原組成物に係る本願発明4についても同様である。

(3-4)小括
したがって、本願発明1に係るペプチドは、その用途が不明であって使用できるように記載されておらず、しかも技術常識を参酌しても記載されているに等しいといえないものであり、本願発明の詳細な説明中に本願発明1及び本願発明4を当業者が容易にその実施ができるようにその目的、構成、効果が記載されているものとは認められない。

4.付記
請求人は、上記2.及び3.の記載と同様の内容の当審からの平成18年11月29日付け審尋書に対して、平成19年6月5日付けで回答書を提出し、補正案を示している。
しかしながら、該回答書で「当該審尋書においては、特許請求の範囲に記載されたペプチドについて抗原性を確認したことは記載されておらず、また、本件発明に包含される20種類の配列で特定されたペプチドの全てが有用性を有する蓋然性は、非常に低いものであるといえる、とのご指摘を受けております。 出願人は、請求項1に係る発明を、HIV-1、HIV-2およびSIV糖タンパク質との間で50%以上の相同性を有する配列に対応する、エンベロープ糖タンパク質の表面部分由来のペプチドに改めるよう補正することを希望しております。」と述べるにとどまり、当審からの審尋の内容についての反論はなされていない。
そして、補正案の請求項をみても、それは、現在の請求項1を限定するものでもなく、また、なぜこれらの配列のペプチドであれば、有用性を有することが明らかであるのかについて何の説明もないので、上記3.と同じ理由で特許法第36条第3項の規定する要件を満たしていないことは明らかである。
5.結論
したがって、本願は特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-27 
結審通知日 2007-07-03 
審決日 2007-07-24 
出願番号 特願平11-99449
審決分類 P 1 8・ 531- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高堀 栄二  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 鈴木 恵理子
阪野 誠司
発明の名称 ヒト免疫不全レトロウイルス(ウイルスHIV)に対して誘導された抗体により認識できるペプチド、及び前記ウイルスの或る種に起因する感染の診断、場合によってはエイズに対するワクチン接種における該ペプチドの使用。  
代理人 川口 義雄  

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