• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60J
管理番号 1169489
審判番号 不服2005-12318  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-30 
確定日 2007-12-13 
事件の表示 特願2002- 79908「サンルーフ装置のディフレクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月30日出願公開、特開2003-276447〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年3月22日の出願であって、平成17年5月26日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年6月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月19日に手続補正がなされたものである。

2.平成17年7月19日付けの手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年7月19日付けの手続補正書による補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
平成17年7月19日付けの手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 インナフレーム側に起立/倒伏自在にその一端が枢着され、且つその他端に整流板が連結されたアームと、該アームを起立方向に弾発付勢すべく前記インナフレーム側にその一端が固着された板ばねとを有するサンルーフ装置のディフレクタであって、
前記アームを支持するためのベース部材を合成樹脂材で形成すると共に、該ベース部材における前記アームの枢着部と前記インナフレームに対する接合面との間に、前記板ばねの前記一端を埋め込んで固着したことを特徴とするサンルーフ装置のディフレクタ。」
と補正された。

前記補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「板ばね」の固着構造を限定するものであって、平成18年改正前特許法(以下「旧法」という。)第17条の2第4項第2号で規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された実願昭63-12515号(実開平1-116730号)のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)には、第1?4図と共に、次の(イ)、(ロ)の事項が記載されている。

(イ)「この考案は自動車用サンルーフに用いられるデフレクターの取付構造に関するものである。」(明細書第1ページ第17行?同ページ第18行)

(ロ)「図中1はインナパネル3とアウタパネル5とから成るルーフを示しており、ルーフ1にはリッド7によって開閉されるルーフ開口9が設けられている。
ルーフ開口9には、前記リッド7を前後動自在に支持するガイドレール11が記設さると共に前端側領域にはデフレクター13が設けられている。
なお、リッド7は、ガイドレール11のレール部15,15に対して前後にスライド可能な前後の移動シュー(図示していない)によって支持されている。後方の移動シューはリッド7の後端側を上下動させるいわゆるチルトアップ,チルトダウンを図る昇降機能を備えており、レール部15のガイド孔17内を走るギヤードケーブル19によって前後動自在に制御される駆動用となっている。
一方、デフレクター13は、左右一対のデフレクターアーム21と、アーム21とアーム21とをつなぐ車巾方向に長い整流部23とから成り、デフレクターアーム21は断面下向きのコ字状の形状となっている。また、整流部23は翼状断面となっている。
デフレクターアーム21の基部は合成樹脂製の取付部材25にピン27によって枢支されており、整流部23は前記ピン27を支点として上下動し、ルーフ開ロ9の前縁9aから上方へ突出する作動姿勢<1>(第1図実線)と前縁9aより下方に臨む作動待機姿勢<2>(第2図実線)とに出没自在となっている。
即ち、デフレクターアーム21の裏面に作用する板状の付勢ばね29によって常時上方へ付勢きれている。これにより、、整流部23はリッド7が後方へスライドした開口時において上方に突出する作動姿勢<1>が確保されるようになる。また、リッド7の全閉時にリッド7の前端側の押圧面7aによってデフレクターアーム21の上面が下方へ押圧されることでルーフ開口9の前縁9aから下方に臨む作動待機姿勢<2>が確保されるようになっている。
なお、付勢ばね29の一端はデフレクターアーム21の内面に作用し、他端は前記取付部材25の上面前端側に固定ピン31によって固着されている。
取付部材25は前記デフレクター13とは別体に形成されると共に底面側のほぼ中間部位には係止部33が、また、後端側には上下に貫通した取付孔35がそれぞれ設けられている。」(明細書第4ページ第15行?第7ページ第1行)
(なお、原文では、<1>、<2>は、ローマ数字の1、2である。)

前記記載事項(ロ)の「デフレクターアーム21の基部は合成樹脂製の取付部材25にピン27によって枢支されており」との記載、「左右一対のデフレクターアーム21と、アーム21とアーム21とをつなぐ車巾方向に長い整流部23とから成り」から、デフレクターアーム21の「一端」は、枢支され、「他端」は、整流部23に「連結」されている。そして、「整流部23は前記ピン27を支点として上下動し」との記載から、整流部23は「起立/倒伏自在」であるといえる。

そうすると、前記記載事項(イ)、(ロ)及び第1?4図の記載を総合すれば、引用例には、

「ガイドレール11側に起立/倒伏自在にその一端が枢支され、且つその他端に整流部23が連結されたデフレクターアーム21と、該デフレクターアーム21を起立方向に弾発付勢すべく前記ガイドレール11側にその他端が固着された付勢ばね29とを有するサンルーフのデフレクター13であって、
前記デフレクターアーム21を支持するための取付部材25を合成樹脂材で形成すると共に、付勢ばね29の他端を取付部材25の上面前端側に固定ピン31によって固着したサンルーフのデフレクター13。」
の発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認める。

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、両者の対応関係は次のとおりである。
引用発明の「ガイドレール11」は、本願補正発明の「インナフレーム」に相当し、同様に「整流部23」は「整流板」に、「デフレクターアーム21」は「アーム」に、「付勢ばね29」は「板ばね」に、「サンルーフ」は「サンルーフ装置」に、「デフレクター13」は「ディフレクタ」に、「取付部材25」は「ベース部材」にそれぞれ相当する。
また、引用発明のデフレクターアーム21の一端が「枢支」されることは、本願補正発明のアームの一端が「枢着」されることに相当する。
また、引用発明の「ガイドレール11側にその他端が固着された付勢ばね29」における「他端」は、その位置関係から、本願補正発明の「前記インナフレーム側にその一端が固着された板ばね」における「一端」に相当する。

それゆえ、本願補正発明と引用発明とは、

[一致点]
「インナフレーム側に起立/倒伏自在にその一端が枢着され、且つその他端に整流板が連結されたアームと、該アームを起立方向に弾発付勢すべく前記インナフレーム側にその一端が固着された板ばねとを有するサンルーフ装置のディフレクタであって、
前記アームを支持するためのベース部材を合成樹脂材で形成すると共に、該ベース部材に前記板ばねの前記一端を固着したサンルーフ装置のディフレクタ。」

である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本願補正発明では、ベース部材におけるアームの枢着部とインナフレームに対する接合面との間に、板ばねの一端を埋め込んで固着したのに対し、引用発明では、付勢ばね29の他端を取付部材25の上面前端側に固定ピン31によって固着した点。

(4)判断
[相違点]について
引用例の付勢ばね29の他端は、取付部材25の上面前端側に固定ピン31によって固着されている。更に、図面から、付勢ばね29の他端の固定ピン31による固着位置は、デフレクターアーム21の枢着中心であるピン27の前方近傍に位置しており、ピン27よりも下方で固着されている。すなわち、上下方向の位置関係において、付勢ばね29の他端の固定ピン31による固着位置は、取付部材25とガイドレール11との接合面より上で、デフレクターアーム21の枢着中心であるピン27より下であり、ピン27の前方近傍に位置しているものである。
また、合成樹脂部品に部材を固着する場合、該部材の一端を埋め込んで固着することは、例示するまでもなく、技術分野を問わず行われる慣用手段である。
よって、引用例の固定ピン31は、付勢ばね29を合成樹脂部品である取付部材25に固着するためのものであって、付勢ばね29を取付部材25に固着するにあたり、前記慣用手段を適用し、埋め込み固着とすることは格別困難とはいえず、また、引用発明において、前記慣用手段の適用にあたり、付勢ばね29の他端の位置を、例えば、ピン27と接合面との間の位置として、前記相違点に係る事項のようにすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項であるといえる。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明、前記慣用技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明、前記慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、平成17年7月19日付けの審判請求書の手続補正書において、「これによれば、インナフレームに板ばねが接触することを確実に防止して両者の接合部に電食を生じさせないようにする構造を得るために、アームを弾発付勢するための板ばねの基端を、例えばインサートモールド成形によってベース部材に一体結合することができるので、引用文献1に記載の構造のような、取付部材に対して付勢ばねを組み込む工程を必要としなくなる上、取付部材に対する付勢ばねの結合強度をピンに依存する文献1の構造に比して、より一層高い結合強度が得られます。」と主張し、更に、平成19年7月2日付けの回答書において、「このように、ベース部材を合成樹脂材で形成することにより、ベース部材に取り付けられる板ばねが異種金属の接触関係よりインナフレームに対して離脱し、電食防止が行われることに併せて、板ばねをベース部材にインサート成形することが可能になり、一挙両得になります。
インサート成形による板ばねの取り付けは、第1引用例に開示のピン止めに比べて、組付工程の省略、高い結合強度(取付強度)が得られると云う効果が得られます。
インサート成形によるこの種の効果は、インサート成形一般の効果であるとしても、本願発明では、板ばねの埋め込み固着部(インサート成形部)がアームの枢着部の真下位置に位置することになるので、ベース部材を、ピン止め用取り付け代相当、小型化設計することが可能になります。このベース部材の小型化設計は、ディフレクタ機構全体の小型軽量化になり、車載装置としては、重要なファクタであります。
また、板ばねの埋め込み固着部(インサート成形部)がアームの枢着部の真下位置に位置することにより、アームの枢着部に邪魔されることなく(干渉することなく)、ベース部材に対する板ばねのインサート長さを自由に設定することができるようになります。このことにより、板ばねのベース部材に対するインサート長さを長くして、板ばねの取付強度を強くすることが可能になります。」と主張している。
しかし、主張の根拠となる本件補正の請求項1における「埋め込んで固着」について、出願当初明細書には、【0012】欄に「ベース部材9にその一端12aを固着された板ばね12」、【0015】欄に「板ばね12の一端12aをベース部材9に結合」と記載される程度に留まり、また、図3においては、一端12aはベース部材9に埋め込まれているらしい程度であって、本件補正がその補正要件として新規事項とならないとの判断の下、前記主張するところは、当初明細書及び図面(特に図3)から自明な程度のものである。
すなわち、前述したように、前記主張は、引用発明や前記慣用技術の作用効果以上のものではない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、旧法第17条の2第5項で準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成17年7月19日付けの手続補正書による補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成17年5月9日付けの手続補正書により補正がされた特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのもの(以下「本願発明」という。)にあると認められる。

「【請求項1】 インナフレーム側に起立/倒伏自在にその一端が枢着され、且つその他端に整流板が連結されたアームと、該アームを起立方向に弾発付勢すべく前記インナフレーム側にその一端が固着された板ばねとを有するサンルーフ装置のディフレクタであって、
前記アームを支持するためのベース部材を合成樹脂材で形成すると共に、該ベース部材における前記アームの枢着部と前記インナフレームに対する接合面との間に前記板ばねの前記一端を固着したことを特徴とするサンルーフ装置のディフレクタ。」

(1)引用例
原査定の理由に示された引用例、及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明から、「板ばね」の固着構造に関する発明特定事項を省き、前記本願補正発明を上位概念化したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明及び上記慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲内のものである。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2007-10-10 
結審通知日 2007-10-16 
審決日 2007-10-31 
出願番号 特願2002-79908(P2002-79908)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60J)
P 1 8・ 121- Z (B60J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒瀬 雅一  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 岸 智章
山内 康明
発明の名称 サンルーフ装置のディフレクタ  
代理人 大島 陽一  
代理人 大島 陽一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ