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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない B66B
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正しない B66B
管理番号 1169776
審判番号 訂正2006-39060  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2006-04-26 
確定日 2007-12-13 
事件の表示 特許第3489578号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続きの経緯
本件特許第3489578号に係わる発明についての出願は、1999年12月6日を国際出願日とする出願であって、平成15年11月7日に設定登録がなされ、その後、本件特許に対して、平成16年11月12日付けで訂正審判第2004-39258号が請求され、平成17年2月8日付け審決で平成16年11月12日付け審判請求書に添付した訂正明細書(以下、「特許明細書」という。)の記載のとおりの訂正が認められた。その後、本件特許に対して、平成18年3月1日付けで訂正審判第2006-39031号が請求されたが、平成18年4月26日に取り下げられた。
そして、平成18年4月26日付けで本件審判の請求がなされ、当審において平成18年7月12日付けで訂正拒絶の理由を通知したところ、平成18年8月8日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、「特許第3489578号の明細書を本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを認める、との審決を求める。」(以下、本件審判請求書に添付した訂正明細書を「訂正明細書」という。)というもので、次の1.ないし2.のとおり訂正することを求めるものである。(なお、第5.以下、「訂正明細書」は、平成18年8月8日付け手続補正書により補正された訂正明細書を指すものとする。)

1.訂正事項1
特許明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された
「昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、
前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され、吊り車が設けられたカウンターウェイトと、
前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、
前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、
前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウェイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと、
前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車とを有するエレベーター装置において、
前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置され、前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつ最上階停止時のかご天井より下方に位置し、
前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記巻上機の少なくとも一部と重なるよう配置され、
前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜していることを特徴とするエレベーター装置。」を、

「昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、
前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され、吊り車が設けられたカウンターウェイトと、
前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、
前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、
前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウエイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと、
前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、 前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記カウンターウェイトの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車とを有するエレベーター装置において、
前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向して、該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し、
前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように、前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間へ向けて前記モータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され、
前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜し、
前記第2の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において、近接する前記昇降路の壁面に対して、前記ロープが前記カウンターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記かごに近づく方向に傾斜し、前記巻上機の綱車は、前記カウンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置していることを特徴とするエレベーター装置。」と訂正する。

2.訂正事項2
特許明細書(5頁10行から6頁5行)の「また、この発明のエレベーター装置では、昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され、吊り車が設けられたカウンターウェイトと、前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウェイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと、前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車とを有するエレベーター装置において、前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置され、前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつ最上階停止時のかご天井より下方に位置し、前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記巻上機の少なくとも一部と重なるよう配置され、前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜している。」を、

「また、この発明のエレベーター装置では、昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され、吊り車が設けられたカウンターウェイトと、前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウェイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと、前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記カウンターウェイトの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車とを有するエレベーター装置において、前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向して、該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し、前記平断面において、前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように、前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間へ向けて前記モータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され、前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜し、前記第2の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において、近接する前記昇降路の壁面に対して、前記ロープが前記カウンターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記かごに近づく方向に傾斜し、前記巻上機の綱車は、前記カウンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置している。」と訂正する。

第3.訂正拒絶の理由の概要
平成18年7月12日付けで通知した訂正の拒絶の理由の理由1ないし2の概要は、以下のようなものである。

1.理由1
本件訂正に含まれる訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するが、訂正事項1に係わる請求項2に係る発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物である特開平11-130365号公報、ドイツ国特許出願公開第19752232号明細書、特開平9-165172号公報、特開平11-301950号公報、特開平11-310372号公報に記載された発明、技術思想・事項、並びに、特開平8-81154号公報、特開平8-277081号公報に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであって、訂正事項1は特許法第126条第5項の規定に適合しないので、訂正事項1を含む本件訂正は認められない。

2.理由2
訂正事項1の「前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向して、該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し、」なる記載は、実質上特許請求の範囲を変更するものであるから、特許法第126条第4項の規定に適合しないので、訂正事項1を含む本件訂正は認められない。

第4.訂正拒絶の理由に対する意見書での主張概要と手続補正
1.訂正拒絶の理由に対する意見書での主張概要
請求人は、平成18年8月8日付け意見書において、概ね以下の(1)、(3)のように主張し、(2)、(4)のように記載している。
(1)「刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明とは、それぞれ異なった発明の課題及び目的に基づき創作されているものです。従って、刊行物1記載の発明を基礎に刊行物2における技術思想1を組み合わせて考えること自体、例え当業者といえども容易に推考できないものであります。いわんや、訂正発明と刊行物1記載の発明との相違点2ないし相違点4について、訂正発明を構成するように、刊行物2における技術思想1を刊行物1記載の発明に組み合わせて考えることは、刊行物2における技術思想1と刊行物1記載の発明とが発明の課題及び目的が相違するため、組み合わせる動機付けが全くないものであります。」(平成18年8月8日付け意見書8頁18から27行)

(2)『相違点4に関し、「第1の返し車の回転面を、ロープがかごのかご用吊車へ至る側が綱車から巻き掛けられる側より乗降口から遠ざかる方向に位置して、近接する昇降路の壁面に傾斜させた」ことは刊行物2に記載されておりますが、刊行物1記載の発明に適用する場合には非常な困難性を伴うものであります。・・・つまり、この刊行物1においては、巻上機とかごがすれ違う間の空間にかごの吊り車へ至るロープが通るという構成は全く存在せず、かごと巻上機の隙間にロープを通すという課題が生じないことになります。』(意見書13頁1から13行。以下同様に下線は当審で付した。)

(3)「刊行物4は流体圧エレベーターを対象としているものであり、トラクションマシン1を用いる刊行物1記載のエレベータ装置とは駆動方式が異なり、全く対象を異にしているものであります。したがって、このように全く方式の違うエレベータ装置を組み合わせること自体、たとえ当業者といえども容易に推考できるものではありません。」(意見書14頁6から10行)

(4)『訂正発明においては、該巻上機の下端は「前記昇降路の最下階停止時のかご床面よりも上方」であるのみならず、「かご天井面より下方」に限定されていますから、かごが最下階付近にある場合にのみ、かごの吊り車すなわちロープの支点に近いロープが巻上機とかごの間を通ることになります。このように構成したことにより、結果として、対向した位置でのロープの振れ幅が小さくなり、上記阻害事由が部分的に解決されています。この点については、ご指摘の通り、本件特許明細書には記載されておりませんが、客観的な事実であり、訂正発明を見た当業者はこの効果を容易に理解できるものであります。』(意見書17頁4から13行)

2.手続補正の内容とその適否
平成18年8月8日付け手続補正書による補正は、平成18年4月26日付け審判請求書に添付した訂正明細書の上記訂正事項2に係わる「該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し、前記平断面において、」なる記載を、「該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し、前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、」なる記載に補正するものである。
そして、平成18年4月26日付け審判請求書の6頁19から21行の記載からみて、この補正は極めて明らかな誤記の補正であるから、平成18年8月8日付け手続補正書による補正を認める。

第5.独立要件について
上記訂正事項1は、
(a1)「前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車とを有するエレベーター装置」を、「前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記カウンターウェイトの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車とを有するエレベーター装置」に限定し、

(b1)「前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置され、前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつ最上階停止時のかご天井より下方に位置し、」を、「前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向して、該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し、」に限定し、

(c1)「前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記巻上機の少なくとも一部と重なるよう配置され、」を、「前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように、前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間へ向けて前記モータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され、」に限定し、

(d1)「前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜している」を、「前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜し、前記第2の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において、近接する前記昇降路の壁面に対して、前記ロープが前記カウンターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記かごに近づく方向に傾斜し、前記巻上機の綱車は、前記カウンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置している」に限定するものであるから、上記訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

次に、上記訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、訂正明細書の請求項2に係わる発明について独立特許要件の検討を行う。

1.訂正発明
訂正明細書の請求項2に係わる発明(以下、「訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、
前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され、吊り車が設けられたカウンターウェイトと、
前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、
前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、
前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウエイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと、
前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記カウンターウェイトの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車とを有するエレベーター装置において、
前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向して、該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し、
前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように、前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間へ向けて前記モータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され、
前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜し、
前記第2の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において、近接する前記昇降路の壁面に対して、前記ロープが前記カウンターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記かごに近づく方向に傾斜し、前記巻上機の綱車は、前記カウンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置していることを特徴とするエレベーター装置。」

2.刊行物1記載の発明
(1)本件特許に係わる出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平11-130365号公報(平成11年5月18日公開。以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

ア.「【請求項1】昇降路内の定位置に設置されたトラクションマシンと、このトラクションマシンにより駆動されるロープによって昇降路内を昇降するカウンタウェイトと乗かごとを備えたエレベータ装置において、前記トラクションマシンは、ラジアルギャップ方式の永久磁石型同期モータと、この同期モータの回転子に直結されたブレーキ装置のディスクと、このディスクと直結され前記ロープを巻掛けるシーブと、前記ディスクと対向して配置され固定部分に支持されるブレーキ装置の制動機構とを有することを特徴とするエレベータ装置。
【請求項2】前記トラクションマシンは、前記昇降路の下部に位置し、前記乗かごとカウンタウェイトの垂直方向に投影した断面積の外に配置されることを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項3】前記トラクションマシンは、前記昇降路の下部に位置し、前記シーブに巻掛けられたロープが前記乗かごとカウンタウェイトの間を通過するように配置したことを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置。
・・・
【請求項13】前記トラクションマシンとカウンタウェイトは、前記乗かごのドアの位置する側に直列に配置され、前記ロープは、一端が昇降路頂部に固定され他端が前記カウンタウェイト上部のプーリを介して頂部に設けられた第1の頂部プーリを経て前記シーブに巻掛けられ、更に頂部に設けられた第2の頂部プーリを経て前記乗かごの下に設けた第1及び第2の下部プーリを経て前記昇降路頂部に固定されていることを特徴とする請求項2記載のエレベータ装置。」(特許請求の範囲)

イ.「【0009】【発明の実施の形態】本発明によるエレベータ装置の一実施の形態を図1乃至図3に沿って説明する。
【0010】ブレーキ装置は、ディスクブレーキであり、そのディスク2の外周をフレーム3で覆い、ディスク2の下方の両脇に制動機構4が設けられている。制動機構4は、その最外部がトラクションマシン1のフレーム3の最外幅よりはみ出ないように、支持軸10の中心よりも下方に配置されている。
【0011】シーブ5、ディスク2、同期モータ7の順に軸方向に配置されている。ディスク2は、軸受8を介して回転自在で、軸方向には動かないようにボルト9で支持軸10に支持されている。」(段落0009から0011)

ウ.「【0020】シーブ5の中にモータを組み込まないので、同期モータ7の径を大きくすることができ、モータ軸長を短くても必要なトルクを得られるので、トラクションマシン1全体の軸長を短くでき、昇降路内への配置が容易になる。」(段落0020)

エ.「【0026】次に、本発明によるトラクションマシン1を用いたエレベータ装置について図4にもとづいて説明する。
【0027】トラクションマシン1を昇降路25のピットに固定し、トラクションマシン1のシーブ5にロープ26を巻掛ける。このロープ26の一端は昇降路頂部に軸支された頂部プーリ27Aに巻掛けられ、そこから乗かご28の下部に軸支された第1及び第2の下部プーリ29A、29Bを介して昇降路頂部のロープ止め30Aに固定される。また、ロープ26の他端は同様に昇降路頂部に軸支された他の頂部プーリ27Bに巻掛けられ、そこからカウンタウェイト31上に軸支されたプーリ32を介して昇降路頂部のもう一つのロープ止め30Bに固定される。乗かご28は昇降路25内に平行で垂直に固定された一対のかごレール33A、33Bで水平方向にずれないよう上下方向に案内され、カウンタウェイト31は同様に固定されたカウンタウェイトレール34A、34Bで水平方向にずれないように上下方向に案内される。
【0028】トラクションマシン1の同期モータ7、ブレーキ装置は、図示しない制御盤により電源を供給されてその動作を制御される。同期モータ7はシーブ5を回転させ、ロープ26を駆動することにより乗かご28を目的階に昇降させる。ブレーキ装置は、乗かご28の停止時にシーブ5の回転を停止させ、乗かご28を所定階に確実に停止させる。
【0029】上記エレベータ装置によれば、トラクションマシン1は同期モータ7、ブレーキ装置、シーブ5を一体化しても、ブレーキ装置の動作が同期モータ7に影響しないので、不用な振動、騒音を発生することなく、エレベータ利用者やエレベータ装置の設置された建物の居住者に不快感を与えることがないという効果がある。
【0030】図5は、図4に示すエレベータ装置の平面図で、乗かご28のドア35とは反対側に面してカウンタウェイト31を配置し、乗かご28のドア35の隣接する側に面してトラクションマシン1を配置し、乗かご28の下部の左右方向にロープ26が渡るように第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bを設ける。更に、カウンタウェイト31とトラクションマシン1との間には頂部プーリ27Bが、トラクションマシン1と第1のかご下プーリ29Aとの間にはもう1つの頂部プーリ27Aが配置される。
【0031】上記構成によれば、乗かご28の下側を通るロープ26は乗かご28の中心を通るように、両かご下プーリ29A、29Bは配置されている。これにより、乗かご28の吊り中心と重心が概略一致するので、吊りにより乗かご28に発生するモーメントは小さく、安定した乗かご昇降が実現できるという効果がある。
【0032】図6は、昇降路内機器配置の別の例を示すもので、乗かご28のドア35とは反対側に面してカウンタウェイト31とトラクションマシン1を夫々平行に配置し、その間に頂部プーリ27Bをほぼ直角に配置する。また、乗かご28の下部のかご下プーリ29A、29Bをかご奥からドア35側へほぼ対角にロープ26が通るように配置し、トラクションマシン1と乗かご奥側のかご下プーリ29Aの間に頂部プーリ27Aを配置する。このように配置することにより、カウンタウェイト31とトラクションマシン1のトータルの奥行き及び幅をコンパクトに配置できるので、昇降路面積を有効に利用できるという効果がある。例えば、この図では、昇降路25のカウンタウェイト31の右側に大きなスペースが生まれるので、そのスペースを利用してガバナ等の昇降路内配置機器を容易に設置できるという効果がある。また、本実施例は、図5に示す配置よりも、昇降路幅が小さくなるので、幅に制約のある昇降路に有効な実施例である。
【0033】図7は、さらに別の昇降路内機器配置を示すもので、トラクションマシン1をカウンタウェイト31の横に配置して、カウンタウェイト31と頂部プーリ27Bとトラクションマシン1のロープ26が同一方向に渡っていくようにしたものである。このようにすることにより、乗かご28の奥のスペースの奥行きが小さくでき、昇降路全体を小さくすることができる。
【0034】図8は、他の昇降路内機器配置を示すもので、乗かご28のドア35に隣接する側にトラクションマシン1とカウンタウェイト31を縦に配置したものである。したがって、昇降路25の奥行きが小さく、横幅が大きくなるので、昇降路25の横幅が余裕あり奥行きが厳しい用途に適している。また、乗かご28の背後に構造物がないので、通り抜け型の2方向で入り口を設ける場合にも適している。」(段落0026から0034)

オ.「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態を示すトラクションマシンの正面図。
【図2】図1のA-B線に沿う断面図。
【図3】図1のA-C線に沿う断面図。
【図4】本発明の一実施例の形態によるトラクションマシンを用いたエレベータ装置の概略斜視図。
【図5】図4の拡大平面図。
【図6】本発明による昇降路内機器配置を示す図5相当図。
【図7】本発明による昇降路内機器配置の別の例を示す図5相当図。
【図8】本発明による昇降路内機器配置の他の例を示す図5相当図。
【符号の説明】
1…トラクションマシン、2…ディスク、4…制動機構、5…シーブ、7…同期モータ、28…かご、31…カウンタウェイト。」(図面の簡単な説明、符号の説明)

カ.図8において、25と表示された長方形枠内に、28と表示された長方形枠が表示され、その一辺に35と表示された部材が描かれている。(図8において、「図8」の表示に近い部分を上部とする。この上部をもとに、以下、図8上で、上下、左右という。)25と表示された長方形枠と28と表示された長方形枠のそれぞれの左側の一辺の間に、25と表示された長方形枠の左側の一辺と平行状にかつそれに沿って、1と表示された部材と31と表示された部材が並んで配置されている。1と表示された部材は、全体として25と表示された長方形枠の左側の一辺の方向に横長であり、大小の横長長方形が連結した状態で凸状形の断面として描かれている。これら大小の横長長方形のうち、小の横長長方形は、25と表示された長方形枠の左側の一辺と対面しており、小の横長長方形には、26と表示された黒丸と同じ黒丸が2個表示されていることが看てとれる。
25と表示された長方形枠の左側の一辺に沿って、上記小の横長長方形と黒丸で接して、27Bと表示された一点鎖線の横長長方形が連結し、さらに、27Bと表示された横長長方形と黒丸で接して32と表示された横長長方形が連結して、これら三者が一直線上に表示されている。
また、27Aと表示された一点鎖線の横長長方形は、1と表示された部材と重なっており、27Aと表示された長方形の両短辺には26と表示された黒丸と同じ黒丸がそれぞれ表示されている。そのうち29と表示された二点鎖線の長方形側の黒丸の方が、35と表示された部材が描かれているところの、28と表示された長方形枠の下側の一辺に近づく方向に位置している。25と表示された長方形枠の左側の一辺に対して、27Aと表示された一点鎖線の横長長方形は傾斜している。29と表示された二点鎖線の長方形と、29Bと表示された二点鎖線の長方形は、28と表示された長方形枠の対角線端部にそれぞれ位置している。(図8)

(2)ここで、上記記載事項(1)ア.ないしカ.、及び図1ないし8から、次のことがわかる。

ア.上記記載事項(1)イ.、エ.より、次のことがわかる。
トラクションマシン1を用いたエレベータ装置の一実施の形態について図4にもとづいて説明する。トラクションマシン1を昇降路25のピットに固定し、トラクションマシン1のシーブ5にロープ26を巻掛ける。このロープ26の一端は昇降路頂部に軸支された頂部プーリ27Aに巻掛けられ、そこから乗かご28の下部に軸支された第1及び第2の下部プーリ29A、29Bを介して昇降路頂部のロープ止め30Aに固定される。また、ロープ26の他端は同様に昇降路頂部に軸支された他の頂部プーリ27Bに巻掛けられ、そこからカウンタウェイト31上に軸支されたプーリ32を介して昇降路頂部のもう一つのロープ止め30Bに固定される。乗かご28は昇降路25内に平行で垂直に固定された一対のかごレール33A、33Bで水平方向にずれないよう上下方向に案内され、カウンタウェイト31は同様に固定されたカウンタウェイトレール34A、34Bで水平方向にずれないように上下方向に案内される。トラクションマシン1の同期モータ7、ブレーキ装置は、図示しない制御盤により電源を供給されてその動作を制御される。同期モータ7はシーブ5を回転させ、ロープ26を駆動することにより乗かご28を目的階に昇降させる。
図5は、図4に示すエレベータ装置の平面図で、乗かご28のドア35とは反対側に面してカウンタウェイト31を配置し、乗かご28のドア35の隣接する側に面してトラクションマシン1を配置し、乗かご28の下部の左右方向にロープ26が渡るように第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bを設ける。更に、カウンタウェイト31とトラクションマシン1との間には頂部プーリ27Bが、トラクションマシン1と第1のかご下プーリ29Aとの間にはもう1つの頂部プーリ27Aが配置される。図8は、他の昇降路内機器配置を示すもので、乗かご28のドア35に隣接する側にトラクションマシン1とカウンタウェイト31を縦に配置したものである。

上記記載事項(1)カ.、図8から、乗かご28は、ドア35の両側方にそれぞれ位置する2面の乗かご壁(以下、乗かご28の外部からドア35に対し左側の乗かご壁を、「左側乗かご壁」という。この左側乗かご壁に対向する昇降路壁を、以下「左側昇降路壁」という。)を有している。また、トラクションマシン1は、図8上で左側昇降路壁に平行にかつカウンタウェイト31と左側昇降路壁に沿って並んで配置されているといえる。
上記記載事項(1)ア.より、トラクションマシン1は、昇降路25の下部に位置し、乗かご28とカウンタウェイト31の垂直方向に投影した断面積の外に配置されたことがわかる。また、昇降路内の定位置に設置されたトラクションマシンとも記載されている。上記記載事項(1)オ.より、図4は本発明の一実施例の形態によるトラクションマシンを用いたエレベータ装置の概略斜視図であり、図5は図4の拡大平面図であり、図7、8は本発明による昇降路内機器配置の別の例、他の例を示す図5相当図であるから、図7の別の昇降路内機器配置のもの、図8の他の昇降路内機器配置のものも、図4のものと配置以外は同じ構成となっている。
カウンタウェイト31は、当然乗かご28と反対方向に昇降路25内を昇降する。

したがって、これらの記載と上記記載事項(1)カ.から、次のことがわかる。
昇降路25内を昇降し、ドア35を有するとともに第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bが設けられた乗かご28と、乗かご28と反対方向に昇降路25内を昇降し、昇降路25の平断面においてドア35に対して乗かご28の側方に配置され、プーリ32が設けられたカウンターウェイト31と、乗かご28の水平方向の移動を規制するかごレール33A、33Bと、カウンターウェイト31の水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレール34A、34Bと、乗かご28を乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bを介して懸架するとともにカウンターウェイト31をカウンターウェイト31のプーリ32を介して懸架するロープ26と、昇降路25内に配置され、ロープ26が巻き掛けられたシーブ5及びシーブ5を駆動する同期モータ7を有し、シーブ5を回転させることでロープ26を介して乗かご28およびカウンターウェイト31を昇降させるトラクションマシン1と、昇降路25内に配置され、トラクションマシン1のシーブ5から乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bに至るロープ26が巻き掛けられてロープ26の方向を転換する頂部プーリ27Aと、昇降路25内に配置され、トラクションマシン1のシーブ5からカウンターウェイト31のプーリ32に至るロープ26が巻き掛けられてロープ26の方向を転換する頂部プーリ27Bとを有するエレベーター装置において、トラクションマシン1は、昇降路25の平断面においてカウンターウェイト31及び乗かご28とは離れてカウンターウェイト31が配置された乗かご28の側方に位置する左側昇降路壁面に平行にかつカウンターウェイト31と左側昇降路壁面に沿って並んで配置されるとともにシーブ5が乗かご28の側方に位置する左側昇降路壁面に対向し、同期モータ7が左側乗かご壁に対向して、前記昇降路の下部に位置し、頂部プーリ27Aは、トラクションマシン1より上方に位置し、昇降路25の平断面において、乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bに至るロープ26が乗かご28の対角線端部近傍を通るように、トラクションマシン1のシーブ5から乗かご28の対角線端部近傍へ向けて同期モータ7と一部重なるように配置され、頂部プーリ27Aの回転面は、昇降路25の平断面においてロープ26が乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bへ至る側がトラクションマシン1のシーブ5から巻き掛けられる側よりドア35に近づく方向に位置して近接する左側昇降路壁面に対して傾斜している。
また、上記記載事項(1)カ.から、頂部プーリ27Bの回転面は、左側昇降路壁面に平行となっている。

イ.上記記載事項(1)ウ.には「トラクションマシン1全体の軸長を短く」と記載され、上記記載事項(1)カ.、図1ないし図8より、トラクションマシン1は、シーブ5の回転軸方向の外形寸法が上記回転軸方向に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さいことがわかる。

ウ.上記記載事項(1)エ.の段落0030ないし0034から、次のことがわかる。
図5は、4図に示すエレベータ装置の平面図で、乗かご28のドア35とは反対側に面してカウンタウェイト31を配置し、乗かご28のドア35の隣接する側に面してトラクションマシン1を配置したものである。
図6は、昇降路内機器配置の別の例を示すもので、乗かご28のドア35とは反対側に面してカウンタウェイト31とトラクションマシン1を夫々平行に配置し、その間に頂部プーリ27Bをほぼ直角に配置する。図6の実施例は、図5に示す配置よりも、昇降路幅が小さくなるので、幅に制約のある昇降路に有効な実施例である。
図7は、別の昇降路内機器配置を示すもので、乗かご28の奥のスペースの奥行きが小さくでき、昇降路全体を小さくすることができる。すなわち、図6に示す配置より、乗かご28の奥のスペースの奥行きが小さくでき、図6と同様に、昇降路幅が小さくなるので、幅に制約のある昇降路に有効な実施例であり、昇降路全体が小さくなっている。
図8は、他の昇降路内機器配置を示すもので、昇降路25の奥行きが小さく、横幅が大きくなるので、昇降路25の横幅が余裕あり奥行きが厳しい用途に適している。

したがって、刊行物1には、「平断面での幅方向、奥行き方向のそれぞれについて、不使用空間を縮減するとともに、昇降路全体を小さくする」という技術事項(以下、これを「刊行物1記載の技術事項」という。)が示されている。

エ.図8の昇降路内機器配置を、図5の昇降路内機器配置と比較すれば、カウンタウェイト31の配置には選択肢がある中で図8の昇降路内機器配置としたもので、昇降路25の奥行き方向にカウンタウェイト31が占めるスペース分が、平断面において縮減されており、図8の昇降路内機器配置自体に奥行きに対する縮減効果を有することがわかる。

(3)刊行物1記載の発明
上記記載事項(2)より、刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。
「昇降路25内を昇降し、ドア35を有するとともに第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bが設けられた乗かご28と、
乗かご28と反対方向に昇降路25内を昇降し、昇降路25の平断面においてドア35に対して乗かご28の側方に配置され、プーリ32が設けられたカウンターウェイト31と、
乗かご28の水平方向の移動を規制するかごレール33A、33Bと、
カウンターウェイト31の水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレール34A、34Bと、
乗かご28を乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bを介して懸架するとともにカウンターウェイト31をカウンターウェイト31のプーリ32を介して懸架するロープ26と、
昇降路25内に配置され、ロープ26が巻き掛けられたシーブ5及びシーブ5を駆動する同期モータ7を有し、シーブ5を回転させることでロープ26を介して乗かご28およびカウンターウェイト31を昇降させるトラクションマシン1と、
昇降路25内に配置され、トラクションマシン1のシーブ5から乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bに至るロープ26が巻き掛けられてロープ26の方向を転換する頂部プーリ27Aと、
昇降路25内に配置され、トラクションマシン1のシーブ5からカウンターウェイト31のプーリ32に至るロープ26が巻き掛けられてロープ26の方向を転換する頂部プーリ27Bとを有するエレベーター装置において、
トラクションマシン1は、トラクションマシン1全体の軸長を短くし、昇降路25の平断面においてカウンターウェイト31及び乗かご28とは離れてカウンターウェイト31が配置された乗かご28の側方に位置する左側昇降路壁面に平行にかつカウンターウェイト31と左側昇降路壁面に沿って並んで配置されるとともにシーブ5が乗かご28の側方に位置する左側昇降路壁面に対向し、同期モータ7が左側乗かご壁に対向して、昇降路25の下部に位置し、
頂部プーリ27Aは、トラクションマシン1より上方に位置し、昇降路25の平断面において、乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bに至るロープ26が乗かご28の対角線端部近傍を通るように、トラクションマシン1のシーブ5から乗かご28の対角線端部近傍へ向けて同期モータ7と一部重なるように配置され、
頂部プーリ27Aの回転面は、昇降路25の平断面においてロープ26が乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bへ至る側がトラクションマシン1のシーブ5から巻き掛けられる側よりドア35に近づく方向に位置して近接する左側昇降路壁面に対して傾斜し、
頂部プーリ27Bの回転面は、左側昇降路壁面に平行となっているエレベーター装置。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

3.刊行物2記載の発明
(1)本件特許に係わる出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるドイツ国特許出願公開第19752232号明細書(1999年5月27日公開。以下、「刊行物2」という。)には、次の記載事項ア.ないしキ.が図面とともに記載されている。

ア.「かご(1)とカウンタウエイト(6)と駆動ユニット(11)を備えたロープ式エレベーターにおいて、駆動ユニット(11)は、フロア(10)と同じ高さで昇降路(3)内に突き出たコンクリート支持台(9)に設置されている。駆動ユニット(11)用のコンクリート支持台(9)は昇降路の幅の一部のみを拡張し、コンクリート支持台(9)の脇にフリースペース(8)が構成されてカウンタウエイト(6)がコンクリート支持台(9)の脇を通過できるようになっている。このような配置にすることにより、駆動ユニット(11)を建物の任意の階に設置できる。」(1頁丸囲み57の翻訳文)

イ.「ロープ式エレベーターは油圧式エレベーターに比べ、オイル温度、周囲の汚染、昇降特性に関して問題がないという利点があり、昇降速度も速く、各階に正確に停止する。従来のロープ式エレベーターには別個の機械室が必要で、通常は昇降路の上部に設置されている。1955年発行の「運搬・リフト(Foerdern und Heben)」誌10号、835ページの図12に、昇降路内で突き出た台座に設置した駆動ユニットが示されている。しかし、それでも別個の機械室が必要で、台座はフロアと同じ高さではなく鋼構造となっている。
最近では、駆動ユニットをそれが別個の機械室を必要としないように形成しようとする試みが行われてきている。
例えば、EP0680920A2は、機械室がなく駆動ユニットを昇降路の壁の窪みに設置したロープ式エレベーターを示している。この方式では、薄形に形成された駆動電動機を使用しなければならない。本発明でもロープ式エレベーターに関しているが、この実施形態には欠点がある。第一に巻上げロープの点検が困難である。第二に、非常時に最寄の停止階まで手動で可動させることができず、第三にブレーキを手動で解除できない。したがってバッテリによる非常電力供給設備が必要となり、それが故障すると可動できなくなる。
EP0749930A2およびEP0749931にも同様のロープ式エレベーターが示されている。」(2頁1欄15から46行の翻訳文。EP0680920A2、EP0749930A2、EP0749931は、それぞれ、欧州特許出願公開第680920号明細書、欧州特許出願公開第749930号明細書、欧州特許出願公開第749931号明細書であり、それらのパテントファミリーは、それぞれ、特開平8-40675号公報、特開平9-165172号公報(以下に示す刊行物3)、特開平9-165163号公報である。)

ウ.「主特許によると、ロープ式エレベーターの駆動ユニットは容易に接近し得るようにして昇降路内に配置され、その結果、巻上げロープの点検とエレベーターの可動は非常時でも問題はない。駆動ユニットは既述のようにフロアと同じ高さとなるようにコンクリート支持台に設置されているが、それはエレベーターの最上部の停止位置に備えられ、比較的重いエレベーターの場合は最上部の位置が安全間隔をとってコンクリート支持台の下部で終わっている。カウンタウエイトの巻上げロープは穴を通してコンクリート支持台まで延ばしている。
本発明は、主特許の巻上げロープにおけるそのような状態を改善するという課題に基づき、建物の任意の階にコンクリート支持台と駆動ユニットを配置し、カウンタウエイトの巻上げロープをコンクリート支持台に設けられた穴に通す必要がないようにするものである。
この課題を本発明では、駆動ユニット用コンクリート支持台を昇降路幅の一部のみ拡張し、コンクリート支持台の脇にフリースペースを用意し、カウンタウエイトがコンクリート支持台の脇を通過できるようにして解決している。
本発明の好適な一形態では、入口ドアの内側で電気制御装置を回転できるようにしており、人(エレベーター管理者)が感電するような危険性は除外されている。」(2頁1欄47行から2欄8行の翻訳文。)

エ.『次に概要図をもとに発明の実施例を説明するが、主特許と同じ部品にはできるだけ同じ符号を使用している。
概要図で示したロープ式エレベーターは、昇降路3のガイドレール2に沿って昇降するかご1を有している。かご1は、通例の方法で、平行に延びている巻上げロープ4で吊られており、この巻上げロープ4は、図面は簡略化しているので一点鎖線で表され、ガイドプーリ5ないし5aまで延びている。
ガイドプーリ5aは、「下側滑車」として、図示したように、かごの下に配置され、巻上げロープ4は、かご1の壁に対して傾斜してかご1の重心を垂直投射した箇所を通って延びている。巻上げロープ4のこのような配置によりかご1にはほとんど回転モーメントが作用せず、ガイドレールとの摩擦を最小限にしている。このロープ式エレベーターにおいて、ガイドプーリ5も、5aもまたかご1の上方に設置されていてもよい。
同様にカウンタウエイト6は、巻上げロープ4に吊られ、昇降路3のガイドレール7に沿って上下し、フロア10と同じ高さになるコンクリート支持台9の脇のフリースペース8にあり、コンクリート支持台はフリースペース8が構成されているので昇降路の全幅を占めてはいない。
ギヤレス駆動装置の駆動ユニット11は、巻上げロープ4を可動させるトラクションシーブ13とともに昇降路3内のコンクリート支持台9にあって、概略図のように昇降路3の境界壁14に対して直角とはなっていない。』(2頁2欄36から65行の翻訳文)

オ.『以上の説明から、「機械室」を昇降路3内に統合(融合)することにより、公知の同様のエレベーターに比較して、保守、点検、非常時の操作が本質的に簡略化され容易化された。カウンタウエイト6のフリースペース8を設けることによって、カウンタウエイト6がコンクリート支持台9の脇を通過できるため、駆動ユニット11を任意の階に設置することができる。』(3頁3欄19から28行の翻訳文)

カ.「【符号の説明】
1 かご
2 1のガイドレール
3 昇降路
4 巻上げロープ
5、5a 4のガイドプーリ
6 カウンタウエイト
7 6のガイドレール
8 9の脇のフリースペース
9 コンクリート支持台
10 フロア
11 駆動ユニット
12 -
13 4用の11のトラクションシーブ
14 3の壁
15 -
16 -
17 -
18 入口ドア
19 制御装置
20 -
21 1のスライドドア
22 昇降路ドア」(3頁3欄32から55行の翻訳文)

キ.明細書添付の図面(以下、紙面上で「-10-」の表示を上として、上下、左右とする。)において、14と表示された斜線の施されたコの字枠の右側に22と表示された太線が上下方向に2本表示されており、それらを含んで上下方向に長い長方形(以下、これを「長方形A」という。)で囲まれている。
14と表示された斜線の施されたコの字枠の内部には、この内部下方に1と表示された長方形が表示され、上方左に6と表示された長方形、それと並んで9と表示された略長方形が配置されている。この9と表示された略長方形とほぼ重なるようにして右上上がりに、11と表示された長方形が表示され、その11と表示された長方形の下方辺中央に接して13と表示された長方形が表示され1点鎖線の中心線が描かれている。13と表示された長方形とV字状をなして5と表示された長方形が表示され、そこには短辺方向の1点鎖線と長辺方向の1点鎖線が表示されている。この長辺方向の1点鎖線は左下下がりに4と表示された1点鎖線で延長されており、その延長線上に、1と表示された長方形の上辺と交わるように5aと表示された長方形が主に点線で描かれ、1と表示された長方形の下辺と交わるように5aと表示された長方形が主に点線で描かれている。4と表示された1点鎖線は、1と表示された長方形中央の交差する一点鎖線の中心を通っている。
5と表示された長方形は実線で描かれ、5aと表示された長方形は主に点線で描かれ、5aと表示された長方形が1と表示された長方形と重ならない部分は実線で描かれている。
1と表示された長方形の右側に21と表示された太線が上下方向に2本表示されており、それらを含んで上下方向に長い長方形(以下、これを「長方形B」という。)で囲まれている。長方形A、Bは、何れも1と表示された長方形の上方に短辺端部が突き出しており、11と表示された長方形の右短辺部を上に押し出すようにして描かれている。

ク.上記記載事項(1)ア.、エ.、オ.、キ.より、次のことがわかる。
ロープ式エレベーターは、昇降路3のガイドレール2に沿って昇降するかご1を有している。かご1は、通例の方法で、平行に延びている巻上げロープ4で吊られており、この巻上げロープ4は、図面は簡略化しているので一点鎖線で表され、ガイドプーリ5ないし5aまで延びている。ガイドプーリ5aは、「下側滑車」として、図示したように、かごの下に配置され、巻上げロープ4は、かご1の壁に対して傾斜してかご1の重心を垂直投射した箇所を通って延びている。このロープ式エレベーターにおいて、ガイドプーリ5は、かご1の上方に設置されていてもよい。カウンタウエイト6は、巻上げロープ4に吊られ、昇降路3のガイドレール7に沿って上下し、フロア10と同じ高さになるコンクリート支持台9の脇のフリースペース8にあり、コンクリート支持台はフリースペース8が構成されているので昇降路の全幅を占めてはいない。ギヤレス駆動装置の駆動ユニット11は、巻上げロープ4を可動させるトラクションシーブ13とともに昇降路3内のコンクリート支持台9にある。駆動ユニット(11)を建物の任意の階に設置できる。

また、上記記載事項(1)ア.、エ.、カ.、キ.より、巻上げロープ4は、かご1の下側滑車である2個のガイドプーリ5aを、かご1の壁に対して傾斜してかご1の重心を垂直投射した箇所を通って延びており、さらにかご1と、駆動ユニット11を支持するコンクリート支持台9との間を通るように、トラクションシーブ13より上方に位置するガイドプーリ5を経てトラクションシーブ13に至っていることがわかる。
さらに、平面図において、スライドドア21、昇降路ドア22に対して、かご1の側方にカウンタウエイト6と駆動ユニット11は並んで配置され、ガイドプーリ5は、ガイドプーリ5aに至る巻上げロープ4がかご1と、駆動ユニット11を支持するコンクリート支持台9との間を通るように配置され、ガイドプーリ5の回転面は、巻上げロープ4がかご1のガイドプーリ5aへ至る側がトラクションシーブ13から巻き掛けられる側よりドア21、22から遠ざかる方向に位置して、近接する昇降路3の壁面に対して傾斜していることがわかる。駆動ユニット11は、ギヤレス駆動装置であって図面でも薄い長方形で表示されており、薄形に形成されたものといえる。

(2)刊行物2記載の発明
上記記載事項(1)より、刊行物2には次の発明が記載されていると認められる。
「かご1と、カウンタウエイト6と、駆動ユニット11と、ガイドレール2、7と、かご1をガイドプーリ5aを介して懸架するとともにカウンタウエイト6を懸架する巻上げロープ4とを備え、平面図において、スライドドア21、昇降路ドア22に対してかご1の側方にカウンタウエイト6と駆動ユニット11は並んで配置されたロープ式エレベーターにおいて、駆動ユニット11を昇降路3内のコンクリート支持台9上に配置し、駆動ユニット11を建物の任意の階層に設置し、ガイドプーリ5は、駆動ユニット11より上方に位置し、かご1の下方に配置されたガイドプーリ5aに至る巻上げロープ4が、かご1と、駆動ユニット11を支持するコンクリート支持台9との間を通るように配置され、ガイドプーリ5の回転面は、巻上げロープ4がかご1のガイドプーリ5aへ至る側が、トラクションシーブ13から巻き掛けられる側よりスライドドア21及び昇降路ドア22から遠ざかる方向に位置して、近接する昇降路3の壁面に対して傾斜したロープ式エレベーター。」(以下、「刊行物2記載の発明」という。)

4.刊行物3記載の技術事項
本件特許に係わる出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平9-165172号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

ア.「【請求項1】 トラクションシーブ付きの駆動機械装置がエレベータシャフト内に配設され、巻上ロープが該トラクションシーブから上方へ進むトラクションシーブエレベータにおいて、該エレベータは、前記エレベータシャフトの断面において、前記エレベータカー、カウンタウエートおよび前記駆動機械装置のトラクションシーブの各垂直投影が互いに離れていることを特徴とするトラクションシーブエレベータ。
【請求項2】 請求項1に記載のトラクションシーブエレベータにおいて、該エレベータは、前記エレベータシャフトの断面における前記エレベータカー、カウンタウエート、および前記駆動機械装置の各垂直投影が互いに離れていることを特徴とするトラクションシーブエレベータ。
【請求項3】 請求項1または2に記載のトラクションシーブエレベータにおいて、前記トラクションシーブ付きの駆動機械装置は該トラクションシーブの回転軸の方向において平坦な構造であり、該トラクションシーブは前記駆動機械装置の構成部分であることを特徴とするトラクションシーブエレベータ。」(特許請求の範囲)

イ.「【0002】
【従来の技術】エレベータの開発における目的の1つは建物の空間の効率的かつ経済的利用にあった。従来のトラクションシーブエレベータにおいては、エレベータの駆動機械装置を収容するために設計される機械室もしくは他の空間は、建物のエレベータに要する空間のかなりの部分をとっている。」(段落0002)

ウ.「トラクションシーブ7および巻上機械装置6自体は、エレベータカー1およびカウンタウエート2の両方の経路から少し離れて配置して、これらがエレベータシャフト内で方向転換プーリ4、5より低いほとんどどのような高さにも容易に配設できるようにしている。」(3頁3列46から50行)

5.刊行物4記載の発明
(1)本件特許に係わる出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平11-301950号公報(平成11年11月2日公開。以下、「刊行物4」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

ア.「【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記従来技術では、つり合おもりを設けることにより、つり合おもりを設けない場合より、昇降路平面のサイズが増える場合が生ずる。換言すれば、昇降路平面のサイズに規制が生じ、昇降路平面のサイズによっては、乗かご平面のサイズを縮小しないと、昇降路内の機器を配置できない場合が生じる。この解決手段として、つり合おもりや乗かごのつり心をずらすという方法があるが、つり合おもりのガイド装置に偏荷重が生じる、ロープがプーリからはずれやすくなるという不具合が発生する。
【0004】本発明は、つり合おもりを設けても、このような不具合を防ぎ、乗かご平面および昇降路平面のサイズをつり合おもりのない場合と同等にできる流体圧エレベーターの構造を提供することにある。」(段落0003、0004)

イ.「【0005】
【課題を解決するための手段】流体圧シリンダへ供給、あるいは流体圧シリンダから排出する作動流体の流量を制御し、乗かごの速度を制御する方式の流体圧エレベーターにおいて、つり合おもりを備え、つり合おもりをつるロープをかけるプーリを昇降路平面の軸線に対して傾けて配置したことにより達成される。
【0006】
【発明の実施の形態】図1は本発明の一実施例である片持式の流体圧エレベーターの概略構成を説明する図、図2は図1の昇降路平面を説明する図である。図1、図2により請求項1、2の実施の形態を説明する。
【0007】図1、図2において、1は乗かご、2はプランジャ、3はシリンダ、4はプランジャ2、シリンダ3よりなる流体圧シリンダである。5は乗かご1をつるロープ(以下、乗かご用ロープ)で、一端は、乗かご支持板1Aに止着され、他端は、プランジャ2の頂部に設けられた可動プーリ6を介して、流体圧シリンダ4側の部材7に止着されている。
【0008】また、8はつり合おもりをつるロープ(以下、つり合おもり用ロープ)で、一端は乗かご支持板1Aに止着され、他端は、昇降路100上部のビーム101に設けられた固定プーリ9を介して、つり合おもり10に止着されている。
・・・
【0012】つり合おもり10は、つり合おもり枠体207を備え、つり合おもり枠体207はレールブラケット204B、204Cに固定されたつり合おもり用ガイドレール208にガイド装置209を介して案内されている。」(段落0005から0012)

ウ.「【0014】つり合おもり用ロープ8をつる固定プーリ9を昇降路平面の軸線Xに対して傾けて配置している。図2では、つり合おもり10を設けない流体圧エレベーターの乗かごおよび昇降路平面のサイズを示している。したがって、昇降路平面のサイズを広げることなく昇降路内に乗かご1、ガイドレール201、205、208、流体圧シリンダ4、つり合おもり10等の機器を配置できることを示している。
【0015】仮に、固定プーリ9にかけるつり合おもり用ロープ8の乗かご側つり心C1を変えずに、固定プーリ9を昇降路平面の軸線Xと平行に配置すると、以下のような不具合が発生する。
【0016】(1)つり合おもり10を図示の位置のままとすると、つり合おもり10のつり心を図中左側にずらさなければならない。この場合、つり合おもり枠体207のガイド装置209に偏荷重が生じる。なお、つり合おもり10のつり心を変えないと、つり合おもり用ロープ8が固定プーリ9からはずれやすくなるという不具合が発生する。
【0017】(2)(1)を防ぐために、つり合おもり10を図中左側にずらすと、この方向に昇降路平面のサイズを広げるか、乗かご1の奥行きサイズを縮小せざるを得ない。」
(段落0014から0017。「つり合おもり10のつり心」とは、つり合おもり10とつり合おもり用ロープ8の端部との接合部を指している。段落0016の(1)の場合は、つり合おもり10から延びる図中左方向ブラケット等を介して、つり合おもり10とつり合おもり用ロープ8の端部とを接合したような場合である。)

(2)刊行物4記載の発明
上記記載事項(1)より、刊行物4には次の発明が記載されていると認められる。
「流体圧エレベーターにおいて、つり合おもりを備え、つり合おもりをつるロープをかけるプーリを昇降路平面の軸線に対して傾けて配置したエレベーター。」(以下、「刊行物4記載の発明」という。)

5.対比
そこで、訂正発明と刊行物1記載の発明を対比するに、刊行物1記載の発明における「ドア35」、「第1及び第2のかご下プーリ29A、29B」、「乗かご28」、「プーリ32」、「かごレール33A、33B」、「カウンターウェイト用ガイドレール34A、34B」、「シーブ5」、「同期モータ7」、「トラクションマシン1」、「頂部プーリ27A」、「頂部プーリ27B」、「左側昇降路壁面」、「同期モータ7が左側乗かご壁に対向して」、「近接する左側昇降路壁面」は、訂正発明における「乗降口」、かごに設けられた「吊り車」、「かご」、カウンターウェイトに設けられた「吊り車」、「かご用ガイドレール」、「カウンターウェイト用ガイドレール」、「綱車」、「モータ部」、「巻上機」、「第1の返し車」、「第2の返し車」、「前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面」、「前記モータ部が前記かご側に対向して」、「近接する前記昇降路の壁面」にそれぞれ相当する。

したがって、訂正発明と、刊行物1記載の発明は、
「昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、
前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され、吊り車が設けられたカウンターウェイトと、
前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、
前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、
前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウェイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと、
前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記カウンターウェイトの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車とを有するエレベーター装置において、
前記巻上機は、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向し、
前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記モータ部と一部重なるよう配置され、
前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜しているエレベーター装置。」である点で一致し、次の相違点で相違している。

(1)相違点1
訂正発明においては「前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さ」い巻上機であるのに対し、刊行物1記載の発明では、「トラクションマシン1全体の軸長を短くしたトラクションマシン1」である点。
(2)相違点2
訂正発明においては、巻上機は、「該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し」ているのに対し、刊行物1記載の発明では、トラクションマシン1は、「昇降路25の下部に位置して」いる点。
(3)相違点3
訂正発明においては、「前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように、前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間へ向けて前記モータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され」ているのに対し、刊行物1記載の発明では、「頂部プーリ27Aは、トラクションマシン1より上方に位置し、昇降路25の平断面において、乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bに至るロープ26が乗かご28の対角線端部近傍を通るように、トラクションマシン1のシーブ5から乗かご28の対角線端部近傍へ向けて同期モータ7と一部重なるように配置され」ている点。
(4)相違点4
訂正発明では、「前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜している」のに対して、刊行物1記載の発明では、「頂部プーリ27Aの回転面は、昇降路25の平断面においてロープ26が乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bへ至る側がトラクションマシン1のシーブ5から巻き掛けられる側よりドア35に近づく方向に位置して近接する左側昇降路壁面に対して傾斜している」点。
(5)相違点5
訂正発明では、「前記第2の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において、近接する前記昇降路の壁面に対して、前記ロープが前記カウンターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記かごに近づく方向に傾斜し、前記巻上機の綱車は、前記カウンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置している」のに対して、刊行物1記載の発明では、「頂部プーリ27Bの回転面は、左側昇降路壁面に平行となっている」点。

6.判断
上記相違点について検討する。
6-1.相違点1
刊行物1記載の発明のトラクションマシン1も、上記第5.2.(2)イ.から、シーブ5の回転軸方向の外形寸法が上記回転軸方向に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さい巻上機といえるから、上記相違点1は相違点とは認められない。
また、仮にそうでないとしても、シーブの回転軸方向の外形寸法が上記回転軸方向に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さい巻上機は、刊行物3の上記第5.4.ア.の請求項3に記載されており、この刊行物3記載の技術事項から、上記相違点1に係る訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。

6-2.相違点2ないし4
(1)まず、相違点2から検討する。
刊行物2記載の発明における「かご1」、「駆動ユニット11」、「ガイドレール2」、「ガイドレール7」、「平面図」、「スライドドア21、昇降路ドア22」、「ロープ式エレベーター」、「ガイドプーリ5」、「ガイドプーリ5a」、「巻上げロープ4」、「トラクションシーブ13」は、訂正発明の「かご」、「巻上機」、「かご用ガイドレール」、「カウンターウェイト用ガイドレール」、「昇降路の平断面」、「乗降口」、「エレベーター装置」、「第1の返し車」、「かごの吊り車」、「ロープ」、「綱車」に相当する。
よって、刊行物2記載の発明には、「かごと、カウンタウェイトと、巻上機と、かご用ガイドレール及びカウンターウェイト用ガイドレールと、かごをかごの吊り車を介して懸架するとともにカウンターウエイトを懸架するロープとを備え、昇降路の平断面において、乗降口に対してかごの側方にカウンタウェイトと巻上機は並んで配置されたエレベーター装置において、巻上機を昇降路内の任意の階層の支持台上に配置し、第1の返し車は、巻上機より上方に位置し、かごの下方に配置されたかご用吊車に至るロープが、かごと支持台との間を通るように配置され、第1の返し車の回転面は、ロープがかごのかご用吊車へ至る側が綱車から巻き掛けられる側より乗降口から遠ざかる方向に位置して、近接する昇降路の壁面に対して傾斜しているエレベーター装置」なる技術思想(以下、「技術思想1」という。)が示されている。

ところで、訂正発明において、巻上機は、「該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し」た効果としては、以下のア.ないしエ.のように記載されているだけであり、それ以外は何ら記載されていない。(上記第4.1.(4)参照。)
ア.「巻上機4の下端および制御盤15の下端はかご最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井面より下方にあるので、ピットが冠水しても巻上機4および制御盤15は損傷を受けることは無い。」(かご天井面より下方にあるのは巻上機4の下端である。)
イ.「この種の機械室の無い方式のエレベーター装置では、ピットの深さは1.2mから1..5m程度であり、この位置に巻上機および制御盤が配置されていると、作業者がピット床に立った時に手が届く範囲、例えば1.2mから1.7m高さの範囲(かご最下階停止時のかご床面?ピット床から1.7m高さ)にあることになり、点検作業が容易である。」(「1..5m」は「1.5m」の誤記)
ウ.「なお、巻上機4の下端をかご1階停止時のかご床面より上方でかつ上端をかご天井面より下方にし、制御盤15をほぼ同じ高さに配置した場合には、ピットのみならず地下階全体が冠水しても巻上機4および制御盤15が損傷を受けることは無い。」(かご天井面より下方にあるのは巻上機4の上端である。)
エ.「また、巻上機4の下端をかご基準階停止時のかご床面より上方でかつ上端をかご天井面より下方にし制御盤15をほぼ同じ高さに配置した場合、エレベーターの運行管理に即した点検が最もやり易くなる。」(「基準階停止時」の巻上機4の下端、上端の位置。以上、特許第3489578号公報の6頁11欄11行目から30行目。以下同様に、訂正明細書と同じ記載は同公報で示す。)

このような観点から考察すれば、エレベーター装置において、ピットが冠水した場合の被害防止のために電子機器等を最下階の床面より上方に設置することは周知技術にすぎない。(特開平8-81154号公報の段落0015等。特開平8-277081号公報の電源部11。)さらに、エレベーター装置において、保守点検のために駆動装置を昇降路の一階(最下階)付近に設けることは、特開平11-310372号公報(平成11年11月9日公開。段落0076)により、既に知られている技術事項(以下、「技術事項A」という。)である。そして、「前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方」とは、ほぼ最下階付近を指しており、巻上機の下端を、「該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方で」、「かご天井より下方に位置」すると限定することは、当業者が容易になしうる設計的事項にすぎない。
よって、刊行物1記載の発明、技術思想1、上記周知技術、技術事項Aはいずれもエレベーター装置に関するものであって同一の技術分野に属しており、刊行物1記載の発明において、技術思想1、上記周知技術、技術事項Aから、巻上機を昇降路の下部に位置する代わりに、上記相違点2に係る訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。

(2)次に、相違点3、4を検討する。
昇降路内の不使用空間の発生を極力押さえるというのは、刊行物1記載の技術事項や、刊行物3の上記第5.4.イ.の技術事項、本件特許公報2頁4欄8から10行における記載をみるまでもなくエレベーター装置において技術常識であり、第1の返し車の回転面を近接する昇降路の壁面に対してどのような角度に位置させるかは、そもそも、昇降路の形状・寸法、かごのドアの出っ張り等のかごの形状・寸法、返し車やカウンターウェイトや巻上機等の機器の諸寸法・配置等の諸条件を比較考慮して当業者が適宜決定すべき事項にすぎない。

また、刊行物1記載の発明、及び技術思想1の両者ともエレベーター装置の昇降路内機器配置に関するものであるから、同一の技術分野に属しており、刊行物1記載の発明は、上記記載事項第5.2.(1)エ.の段落0034にみられるように、奥行き方向の最小化を課題としており、刊行物1記載の発明に技術思想1を適用して、刊行物1記載の発明において、第1の返し車の回転面を、ロープがかごのかご用吊車へ至る側が綱車から巻き掛けられる側より乗降口から遠ざかる方向に位置して、近接する昇降路の壁面に対して傾斜させることは、技術思想1に基づいて当業者が容易に想到しうる程度のものである。
よって、上記相違点4に係る訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められ、このように刊行物1記載の発明を構成すれば、上記相違点3に係る訂正発明のように構成されることとなり、上記相違点3に係る訂正発明のように構成することも、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。

請求人は、上記第4.1.(1)のように、「刊行物2における技術思想1を刊行物1記載の発明に組み合わせて考えることは、刊行物2における技術思想1と刊行物1記載の発明とが発明の課題及び目的が相違するため、組み合わせる動機付けが全くない」と主張するが、刊行物1記載の発明、及び技術思想1の両者ともエレベーター装置の昇降路内機器配置に関するものであるから、同一の技術分野に属するものであって、その組み合わせないし置換を妨げる理由はない。
また、近年のエレベータ装置においては、エレベーター占有空間の最小化を狙いとしているのは当然であり、刊行物2記載の発明においてもエレベーター占有空間の最小化の狙いは明示するまでもなく前提とするものである。エレベーター占有空間の最小化とは、高さ方向、平断面での幅方向、奥行き方向において最小化すべきもので、高さ方向のみを指すものではない。このことは、刊行物1記載の発明においても同様である。
さらに、刊行物2記載の発明は、上記記載事項第5.3.(1)イ.にみられるような従来技術に対するものであって、別個の機械室(参考例として特開平2-261788号公報)を設けず巻上機を昇降路内に内蔵する方式であり、エレベーター占有空間の最小化を狙いとするものである。しかも、上記第5.2.(2)エ.で論じたように、刊行物2記載の発明の昇降路内機器配置自体にも、平断面での奥行き方向において最小化するという技術思想が、程度の問題は別として、把握できるものである。刊行物1記載の発明においても同様である。
よって、刊行物1記載の発明及び技術思想1の両者ともエレベーター占有空間の最小化を狙いとするものである。
そして、刊行物1記載の技術事項を考慮すれば、刊行物1記載の発明に、技術思想1、上記周知技術、技術事項Aを適用して、上記相違点2ないし4に係る訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。
したがって、請求人の主張は採用できない。

次に、請求人は、平成18年4月26日付け審判請求書15頁21行から16頁1行において、「巻上機は、単に、最下階停止時の床面より上方でかつ最上階停止時のかごの天井より下方に位置するのみではなく、最下階停止時のかご天井より下方に位置しています。したがって、かごが最下階付近にある場合にのみ、かごの吊り車すなわちロープの支点に近いロープが巻上機とかごの間を通ることになるにすぎません。この位置では、必然的に対向した位置でのロープの振れ幅が小さくなるため、巻上機のモータ部とかごの間隔を最低限に小さくできます。」と主張(以下、これを「効果A」という。)している。
一方、訂正明細書の記載(特許第3489578号公報の6頁11欄11行目から30行目)、上記第4.1.(4)の下線部の記載からすれば、最下階停止時の床面より上方でかつかご天井より下方に位置するようした点に基づく効果Aはどこにも示されていない。
このように、巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご天井より下方に位置すると限定したことにより、訂正明細書に記載がなく自明でもない作用効果を主張して、特許性の根拠とすることは許されず、請求人の効果Aについての主張は採用できない。
仮に、効果Aのような効果が、上記第4.1.(4)に主張するように容易に理解できるものなら、技術思想1において、駆動装置11は建物の任意の階層に設置できるものであり、技術事項Aにみられるような一般的技術事項を考慮すれば、任意の階層のうちで駆動装置11を最下階の床面位置に設置したものにも当然認められる効果といえることとなる。

6-3.相違点5
刊行物4記載の発明には、エレベーター装置において返し車の回転面を昇降路の壁面に対して傾斜させて昇降路平断面の縮減を図る技術思想(以下、「技術思想2」という。)が示されている。
よって、刊行物1記載の発明、技術思想2ともエレベーター装置の昇降路内機器配置に関するものであるから、同一の技術分野に属しており、刊行物1記載の発明において、技術思想2を適用して、上記相違点5に係る訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。

6-4.むすび
以上のように、訂正発明は、刊行物1記載の発明、技術思想1ないし2、刊行物1、3記載の技術事項、技術事項A、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、しかも、訂正発明は、全体としてみても、刊行物1記載の発明、技術思想1ないし2、刊行物1、3記載の技術事項、技術事項A、及び上記周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。
よって、訂正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

第6.特許請求の範囲の実質的変更について
上記訂正事項1の「前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向して、該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し、」なる事項により奏されるとする効果Aは、上記第4.1.(4)で認めているように、本件特許明細書には記載されていない。また、本件特許明細書から自明でもない。
そして、審判請求書15頁12行から20行において、「第1の返し車は、かごの吊り車に至るローブがかごと巻上機との間を通るように、巻上機の綱車からかごと巻上機との間へ向けてモータ部を横切ってモータ部と重なる構成のため、本件発明では、静止物である巻上機とかごとの間にローブを通す最低限の空間を確保することとなります。このような課題が生じるのは、巻上機とかごの間をロープが通る構成、すなわち、巻上機が最下階停止時の床面より上方でかつかごの天井より下方に位置することによって生じるものです。本件発明は、この問題に対して、充分な技術的考察を加えた上で、昇降路の平断面の縮減を図るものであります。」と請求人自らも主張している。
そうであれば、訂正事項1に係わる請求項2の発明は、「前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように」に限定した場合に生じる課題、すなわち、特許明細書において全く予定されていなかった新たな課題を、訂正前の発明には特定されていなかった「該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し」たことにより解決している。
したがって、上記訂正事項1の「前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように」して、「該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し」た点は、実質上特許請求の範囲を変更するものである。

第7.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法第126条第4項、第5項の規定に適合しないので、上記訂正事項1を含む本件訂正は認められない。
 
審理終結日 2006-09-20 
結審通知日 2006-09-21 
審決日 2006-10-05 
出願番号 特願2001-543429(P2001-543429)
審決分類 P 1 41・ 855- Z (B66B)
P 1 41・ 856- Z (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 志水 裕司  
特許庁審判長 大橋 康史
特許庁審判官 関 義彦
深澤 幹朗
登録日 2003-11-07 
登録番号 特許第3489578号(P3489578)
発明の名称 エレベーター装置  
代理人 高橋 省吾  
代理人 丸山 隆  
代理人 伊達 研郎  
代理人 近藤 惠嗣  

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