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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1170001
審判番号 不服2005-23679  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-08 
確定日 2007-12-27 
事件の表示 平成10年特許願第108153号「高温特性に優れたアルミニウム合金」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月 2日出願公開、特開平11-302764〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 本願発明
本願は、平成10年4月17日の出願であって、特許法第30条第1項に規定する新規性喪失の例外適用(発表日:平成9年10月20日)の申請を伴うものであり、その発明は、平成19年10月3日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「【請求項1】Cu:1.5?7.0%、Mg:0.01?2.0%、Ag:0.05?0.7%、Fe:1.5%以下、V:0.05?0.15%、Mn:0.05?1.5%、Zr:0.05?0.50%を含み、残部Alおよび不純物とからなり、θ' 相およびΩ相を有するアルミニウム合金であって、θ' 相の平均サイズが120nm以下であるとともに、θ' 相の析出物間の平均間隔が100nm以下であり、Ω相の平均サイズが100nm以下であるとともに、Ω相の析出物間の平均間隔が150nm以下であることを特徴とする高温特性に優れたアルミニウム合金。
【請求項2】 前記アルミニウム合金の1000hrクリープ破断強度 (応力負荷方向:LT方向、温度204℃) が150N/mm^(2)以上である請求項1に記載の高温特性に優れたアルミニウム合金。
【請求項3】 前記アルミニウム合金の高温耐力 (保持条件:204℃で1000hr、引張方向:LT方向、引張温度:204℃、引張歪速度:8×10^(-5)s^(-1)) が200N/mm^(2)以上である請求項1または2に記載の高温特性に優れたアルミニウム合金。
【請求項4】 前記アルミニウム合金が航空・宇宙機材用である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高温特性に優れたアルミニウム合金。」

第2 当審の拒絶理由
当審において、平成19年8月3日付けで通知した拒絶理由のうち、[理由3]は、以下のとおりのものである。
「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。


1.発明の詳細な説明には、Cu、Mg、Ag以外に少なくともSi、Fe、Zn、Tiを含むアルミニウム合金であって、請求項1又は請求項2に記載の平均サイズ及び析出物間の平均間隔を有するθ'相又はΩ相を有する合金は記載されているが(【0026】?【0033】)、上記以外の、例えばCu-Mg-Al三元合金、Cu-Mg-Ag-Al四元合金、またはこれら三元又は四元合金にFeのみを添加した合金であって、請求項1又は請求項2に記載の平均サイズ及び析出物間の平均間隔を有するθ'相又はΩ相を有する合金は記載されていないし、自明でもない。
よって、請求項1?3に係る発明、及び請求項1?3を引用する請求項4?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

2.請求項1?3に記載された発明は、具体的に記載された金属元素以外の金属元素を含み得るいわゆるオープンクレーム形式の発明であるから、その外延が著しく不明確である。
よって、請求項1?3に係る発明、及び請求項1?3を引用する請求項4?6に係る発明は、明確でない。」

第3 当審の判断
[1]特許法第36条第6項第1号の要件(以下、「サポート要件」という。)について
1.発明の詳細な説明の記載事項
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(ア)「120℃、特に150℃を越える高温使用環境でのクリープ破断強度や高温耐力を改善するために、近年では、JIS 2219 Al合金にMgを0.3mass%添加したJIS 2519 Al合金(Al-6.1Cu-0.3Mn-0.15Zr-0.1V)が開発されている。また、このJIS 2519 Al合金にAgを添加した2519(Ag)Al合金も開発されている。
これらJIS 2519Al合金および2519(Ag)Al合金の高温特性が高いのは、「Metal Sience ,12(1978),478頁,J.A.Tayler 他」或いは「Metall Trans ,19A(1988),1027頁,J.Polmear他」に開示されている通り、JIS 2519Al合金では(100) 面にθ' 相、2519(Ag)Al合金では(111) 面に晶癖面をもつ六角形盤状の析出物であるΩ相が、各々析出するためである。」(【0004】、【0005】)
(イ)「【発明が解決しようとする課題】しかし、これらJIS 2519Al合金および2519(Ag)Al合金材を製造する場合、前記高い高温特性を有するAl合金を、必ずしも再現性良く作れるわけではないという問題がある。即ち、これらJIS 2519 Al合金および2519(Ag)Al合金材を製造しても、化学成分や製造工程のバラツキなどにより高温特性が劣るAl合金材が生じるという問題がある。つまり、これらAl合金材に、前記した通り高温特性改善のポイントとなるθ' 相乃至Ω相が析出していたとしても、製造したこれらAl合金の全てが高い高温特性を有するわけではない。
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、高い高温特性を再現性良く保証することが可能なAl合金を提供しようとするものである。」(【0006】、【0007】)
(ウ)「【課題を解決するための手段】この目的を達成するために、本発明の高温特性に優れたAl合金の要旨は、Cu:1.5?7.0%、Mg:0.01?2.0%、Ag:0.05?0.7%、Fe:1.5%以下、V:0.05?0.15%、Mn:0.05?1.5%、Zr:0.05?0.50%を含み、残部Alおよび不純物とからなり、θ' 相およびΩ相を有するアルミニウム合金であって、θ' 相の平均サイズが120nm以下であるとともに、θ' 相の析出物間の平均間隔が100nm以下であり、Ω相の平均サイズが100nm以下であるとともに、Ω相の析出物間の平均間隔が150nm以下であることである。」(【0008】)
(エ)「本発明者らの知見によれば、θ' 相およびΩ相の分散状態、即ち、θ' 相とΩ相との各々の大きさと析出物間の平均間隔が、JIS 2519乃至2519(Ag)Al合金の高温特性 (耐熱性) を支配している。そして、θ' 相とΩ相との各々の大きさと析出物間の平均間隔が、大きすぎる場合には、これらJIS 2519 Al 合金および2519(Ag)Al合金の高温特性が低下し、実際のAl合金製造の際に、高い高温特性を有するAl合金を再現性良く作れないことにつながる。」(【0010】)
(オ)「なお、JIS 2519系或いはJIS 2618系などのΩ相を生じないAl合金では、θ' 相の前記規定が重要となるが、Ag:0.05?0.7%を含む2519(Ag)系など、Ω相を生じるAl合金では、θ' 相を含む場合にθ' 相が前記サイズや間隔の規定を外れていても、Ω相さえ前記サイズや間隔の規定を満足していれば、高温特性が向上する。」(【0013】)
(カ)【0026】?【0033】には、この発明の具体例を説明するために、表1に示す組成のAl合金供試材について、表2に各供試材のミクロ組織(Ω相の平均サイズと平均間隔、θ' 相の平均サイズと平均間隔)と、常温引張特性(耐力)、及び高温特性(耐力、クリープ破断強度)との関連が、参考例(略号1,2)、発明例(略号3?6)、比較例(略号7?9)として記載されている。

2.発明の詳細な説明に実質的に記載された発明
上記の記載事項(ア)、(イ)には、この発明の解決しようとする課題が、θ' 相を析出する2519Al合金、及びΩ相を析出する2519(Ag)Al合金において、「高い高温特性を再現性良く保証することが可能なAl合金を提供」することであると記載され、(ウ)には、請求項1の記載と一致する記載がなされ、(エ)には、「θ' 相およびΩ相の分散状態、即ち、θ' 相とΩ相との各々の大きさと析出物間の平均間隔が、JIS 2519乃至2519(Ag)Al合金の高温特性 (耐熱性) を支配している」という知見に基づき、Al合金のθ' 相乃至Ω相の平均サイズと析出物間の平均間隔を規定する旨が記載されている。また、(オ)には、「Ag・・・を含む 2519(Ag)系など、Ω相を生じるAl合金では、θ' 相を含む場合に、θ' 相が前記サイズや間隔の規定を外れていても、Ω相さえ前記サイズや間隔の規定を満足していれば、高温特性が向上する」と記載されている。さらに、(カ)には、2519(Ag)Al合金に一定の溶体化処理及び焼入れを行った供試材3?6による発明例(略号3?6)について、θ' 相の平均サイズが120nm以下であって、θ' 相の析出物間の平均間隔が全て100nmを超えており、Ω相の平均サイズが100nm以下、析出物間の平均間隔が150nm以下であるものが記載されている。
そして、(ウ)は、請求項1の記載を形式的に繰り返しただけのものであって、実質的に請求項1に記載した発明を裏付ける記載事項ではない。
以上によると、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、「Agを含み、θ' 相及びΩ相を有するアルミニウム合金」について、「θ' 相の平均サイズが120nm以下、Ω相の平均サイズが100nm以下、Ω相の析出物間の平均間隔が150nm以下である」と規定することにより、「高温特性に優れたアルミニウム合金」が得られることを認識できるといえるから、発明の詳細な説明には、「Agを含み、θ' 相およびΩ相を有するアルミニウム合金であって、θ' 相の平均サイズが120nm以下であり、Ω相の平均サイズが100nm以下であるとともに、Ω相の析出物間の平均間隔が150nm以下である高温特性に優れたアルミニウム合金」についての発明が記載されているといえる。

3.対比・判断
請求項1に記載された発明は、「・・・Ag・・・を含み、・・・θ' 相およびΩ相を有するアルミニウム合金であって、θ' 相の平均サイズが120nm以下であるとともに、θ' 相の析出物間の平均間隔が100nm以下であり、Ω相の平均サイズが100nm以下であるとともに、Ω相の析出物間の平均間隔が150nm以下である・・・高温特性に優れたアルミニウム合金」についてのものである。
これに対して、発明の詳細な説明には、「Agを含み、θ' 相およびΩ相を有するアルミニウム合金であって、θ' 相の平均サイズが120nm以下であり、Ω相の平均サイズが100nm以下であるとともに、Ω相の析出物間の平均間隔が150nm以下である高温特性に優れたアルミニウム合金」についての発明は記載されているといえるが、上記アルミニウム合金において、さらに、「θ' 相の析出物間の平均間隔が100nm以下である」と特定する発明は、発明の詳細な説明に記載されていない。
しかも、(オ)によると、Agを含み、θ' 相とΩ相とを有するアルミニウム合金の場合に、Ω相の分散状態を規定すれば、高温特性の向上という課題を解決できるのであって、θ' 相の分散状態を規定する必要性はないというべきであるから、θ' 相の分散状態の指標の一つである「析出物間の平均間隔」に係る上記の特定は、発明の詳細な説明に記載されたに等しい事項ということもできない。
したがって、請求項1に記載された発明は、サポート要件を満たさないものである。
また、請求項2及び請求項3に記載された発明は、請求項1に記載されたアルミニウム合金のクリープ破断強度及び/又は高温耐力を数値限定する発明であるとともに、請求項4に記載された発明は、請求項1に記載されたアルミニウム合金の用途を限定する発明であるが、発明の詳細な説明には、請求項1に記載されたアルミニウム合金について記載されていないのであるから、そのアルミニウム合金に数値限定や用途限定を付加する請求項2?4に記載された発明も、当然発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
したがって、請求項2?4にされた発明も、サポート要件を満たさないものである。

[2]特許法第36条第6項第2号の要件(以下、「明確性」という。)について
特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は、「Cu:1.5?7.0%、Mg:0.01?2.0%、Ag:0.05?0.7%、Fe:1.5%以下、V:0.05?0.15%、Mn:0.05?1.5%、Zr:0.05?0.50%を含み、残部Alおよび不純物」とからなるAl合金に関するものであるが、この「不純物」は、どのような成分であって、どの程度含有されるものであるか、特許請求の範囲からは明確でない。
そこで、発明の詳細な説明の記載を参酌すると、【0032】【表1】、【0034】【表2】には、本発明例とされる供試材3?6の合金組成には、請求項1に個別に記載された成分(以下、「必須成分」という。)以外に、Si、Cr、Zn、Sc及びTiが含まれることが記載されているから、上記「不純物」には、少なくともSi、Cr、Zn、Sc及びTiが含まれることは、当業者に理解できる事項であるといえる。
ところが、発明の詳細な説明には、【0014】に「本発明のAl合金の化学成分組成は・・・以下に説明する成分組成範囲から適宜選択しうる。」と記載され、Al合金中の上記各成分について、【0019】には、Crが一定の含有範囲において必須成分であるV、Mnと同効である選択成分であることが記載され、【0020】には、Scが一定の含有範囲において必須成分のZrと同効の選択成分であることが記載されているが、【0022】には、Si、Tiが含有が好ましくない成分であることが記載されており、一方、Znについては、その技術的意義が何ら記載されていない。
そうすると、上記Si、Cr、Zn、Sc及びTiは、どのような基準に基づいて「不純物」である成分として規定され、どのような量で含有され、「必須成分」と関連してどのような作用効果を奏するものであるのか、又は奏さないものであるのか、発明の詳細な説明によっても不明であるといわざるを得ない。
したがって、特許請求の範囲の請求項1に記載された「不純物」とは何であるのか、発明の詳細な説明を参酌しても明確でないというべきであるから、請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?4に記載された発明は明確性を満たさないものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定を満たさないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-25 
結審通知日 2007-10-30 
審決日 2007-11-12 
出願番号 特願平10-108153
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 孔一  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 吉水 純子
山田 靖
発明の名称 高温特性に優れたアルミニウム合金  
代理人 梶 良之  

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