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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04C
管理番号 1170232
審判番号 不服2005-17477  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-12 
確定日 2007-12-05 
事件の表示 平成7年特許願第525514号「二重壁体複合パネルの改良」拒絶査定不服審判事件〔平成7年10月12日国際公開,WO95/27109,平成9年11月4日国内公表,特表平9-511038〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は,平成7年3月31日(パリ条約による優先権主張1994年3月31日,英国)を国際出願日とする出願であって,平成17年6月6日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月12日に審判請求がなされたものであり,その請求項1に係る発明は,平成17年4月12日付けの手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「既製二重壁体パネルにおいて、
2枚の鋼製の面板を備え、
このパネルの使用に際して、前記2つの面板は、セメント質の材料からなる層の両側に位置し、かつ前記2つの面板が、これら面板に対してほぼ垂直に延びるとともに各々の両端がこれら面板に固着されるパネル横断方向に延びる複数の金属製の横材によって前記セメント質の材料からなる層に結合され、これにより、使用に際して、各横材の全側面が前記セメント質の材料により囲まれるとともに前記2つの面板の間の全ての空間が前記セメント質の材料により充填された、鋼およびセメント質の材料を備えてなる二重壁体複合パネルが形成され、
前記面板は約2mm乃至32mmの範囲内の厚さを有し、互いに隣接する横材は前記面板の厚さの15乃至50倍の範囲内の間隔で離間され、前記面板の相互間隔が100mm乃至800mmの範囲内にあることを特徴とする既製二重壁体パネル。」(以下「本願発明」という。)

2.引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先日前に頒布された刊行物である,実公昭45-28775号公報(以下,「引用文献1」という。)には,以下の事項が記載されている。
(イ)「左右同厚なる木材、金属等の固形側材1,2の夫々の両側に一方又は双方がベニヤ合板パーチクルボード、厚紙、合成樹脂板、石綿スレート板、鉄板等の表板3と裏板4との夫々の端辺を固着し、要すれば表板3と裏板4との間に固形側材1,2の夫々と同厚なる補強材5…を該表板3と裏板4との夫々の内面に数ヶ所固着して枠体Aを構成し、発泡剤の添加により予め発泡せるも未だ可塑状の発泡セメント6を該枠体A内に充填して固化せしめてなる発泡セメントパネル。」(実用新案登録請求の範囲)
(ロ)「枠体A内の発泡セメントも内部に無数の独立気孔を保存せる儘にて固化するものである。尚この際要すれば表板3と裏板4との間に固形側材1,2の夫々と同厚なる補強材5…が表板3と裏板4との夫々の内面に数個所固着してあると表板と裏板とが外部に膨れたり或いは内方に凹んだりすることがない。」(1頁2欄6?12行)
(ハ)「発泡セメント板を積み上げて壁構造を形成するとき」(1頁2欄22,23行)
(ニ)第1図をみると,複数の補強材5…は,いずれも,表板3,裏板4に対してほぼ垂直に延びるとともにパネル横断方向に延びていることが,明らかである。
明記はされていないが,上記(イ),(ハ)の記載事項を参照すると,形成後の発泡セメントパネルは,各補強材5…の全側面が発泡セメント6により囲まれるとともに表板3と裏板4の間の全ての空間が発泡セメント6により充填されていることは明らかであるから,これら(イ)?(ニ)の記載事項等を含む引用文献1全体の記載及び図面並びに当業者の技術常識によれば,引用文献1には次の発明が記載されていると認めることができる。
「左右同厚なる金属の固形側材1,2の夫々の両側に双方が鉄板の表板3と裏板4との夫々の端辺を固着し、表板3と裏板4との間に固形側材1,2の夫々と同厚なる補強材5…を該表板3と裏板4との夫々の内面に数ヶ所固着して枠体Aを構成し、発泡剤の添加により予め発泡せるも未だ可塑状の発泡セメント6を該枠体A内に充填して固化せしめてなる発泡セメントパネル。」(以下,「引用発明」という。)

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、その機能・構造からみて,引用発明の「表板3と裏板4(これら板)」,「発泡セメント6」,「補強材5」は,それぞれ,本願発明の「2枚(2つ)の面板(これら面板)」,「セメント質の材料」,「横材」に相当し,引用発明の「鉄板」と本願発明の「鋼製の面板」とは,「金属製の面板」で共通し,引用発明の「鉄および発泡セメント6」と本願発明の「鋼およびセメント質の材料」とは,「金属およびセメント質の材料」で共通している。また,引用発明の「発泡セメントパネル」が本願発明と同様の「二重壁体パネル」であることも明らかである。

してみると,両者は,
「二重壁体パネルにおいて,
2枚の金属製の面板を備え,
このパネルの使用に際して,前記2つの面板は,セメント質の材料からなる層の両側に位置し,かつ前記2つの面板が,これら面板に対してほぼ垂直に延びるとともに各々の両端がこれら面板に固着されるパネル横断方向に延びる複数の横材によって前記セメント質の材料からなる層に結合され,これにより,使用に際して,各横材の全側面が前記セメント質の材料により囲まれるとともに前記2つの面板の間の全ての空間が前記セメント質の材料により充填された,金属およびセメント質の材料を備えてなる二重壁体複合パネルが形成された,二重壁体パネル。」
の点で一致し,下記の点で相違している。

〈相違点1〉
二重壁体パネルが,本願発明においては既製であるのに対し,引用発明においては不明な点

〈相違点2〉
横材が,本願発明においては金属製であるのに対し,引用発明においては不明な点。

〈相違点3〉
本願発明においては鋼製の面板であって,約2mm乃至32mmの範囲内の厚さを有し,互いに隣接する横材は前記面板の厚さの15乃至50倍の範囲内の間隔で離間され,前記面板の相互間隔が100mm乃至800mmの範囲内にあるのに対し,引用発明においては鉄板であって,その厚さ,横材の間隔および面板の相互間隔の各寸法が不明である点。

そこで,上記の各相違点につき検討する。
〈相違点1について〉
そもそも,例えば,特公昭45ー3495号公報(特に,3頁5欄31行?同頁6欄7行),特公昭62-15427号公報(特に,2頁3欄30?41行)あるいは特公昭63-32949号公報(特に,2頁3欄28行?同頁4欄31行)に記載されているように,鋼製の面板とコンクリート(セメント質の材料)とから構成されるパネルを予め工場にて製作する,すなわち,既製とすることは技術常識であるといえる。
してみると,該技術常識を適用して引用発明の「発泡セメントパネル」を既製とすることは,当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎないといえる。

〈相違点2について〉
引用発明においては,表板3と裏板4が鉄板であるとともに固形側材1,2が金属製であることからみて,表板3と裏板4に固着する補強材5を金属製とすることは,当業者とって何ら格別の困難性のない自然な選択であるといえ,相違点2における本願発明の構成を採用することは単なる設計的事項に過ぎない。

〈相違点3について〉
本願明細書中に従来技術として開示されている,GA-A-2136032,GA-A-2136033,GA-A-2258669に記載されている,公知の二重壁体複合パネルの面材がいずれも鋼製であるように,壁体の面材を鋼製とすることは従来から行われていることであり,引用発明の面材を鋼製とすることは,設計的事項にすぎない。
また,本願発明においてはその用途が特に限定されておらず,面材の厚さ約2mm乃至32mm,および,面板の相互間隔100mm乃至800mmの数値範囲は,請求人が審判請求書(平成17年11月17日付け手続補正書)において述べているように,「構造用パネルとしての実施に際しての実用上の限界」を示す数値にすぎず,従来のものと異なる特別な数値とはいえない。
さらに,隣接する横材の離間間隔を,面板の厚さの15乃至50倍とした限定に関して,請求人は,審判請求書において「セメント質の材料の充填時の面板応力に係わるバックリング対策である」旨主張しているが,引用発明においても,記載事項(ロ)にあるように,「補強材5」は,発泡セメント固化する際に,表板と裏板とが外部に膨れたり或いは内方に凹んだりすることがないように働くものであって,本願発明の「横材」と目的を同じくしている。そして,上記バックリングが面板の厚さと離間間隔に関係することは,すなわち,厚さが小さい程,離間間隔が大きい程,バックリングし易いことは,当業者ならば十分予測し得る事項であり,当業者がその数値範囲を実験によって適正化することは通常の創作活動の範囲を超えるものとはいえない。また,本願発明においてバックリング対策の点において進歩性を見出すためには,その数値限定に,当業者の予測し得ない臨界的意義が存在することを要するというべきであるが,上記数値範囲の上限・下限の数値に臨界的意義がないことも明らかである。(数値範囲についての判決例として,例えば,東京高裁平成14年(行ケ)第41号(平成15年3月31日判決言渡し), 東京高裁平成14年(行ケ)第361号(平成15年12月25日判決言渡し),東京高裁平成15年(行ケ)第468号(平成16年11月8日判決言渡し)あるいは知財高裁平成17年(行ケ)第10758号(平成18年11月7日判決言渡し)参照のこと。)
してみると,相違点3における本願発明の構成とすることは,当業者ならば適宜選択し得る設計的事項に過ぎないといわざるを得ない。
なお,審判請求書における,下限15の根拠の説明「隣接する横材の間隔sと面板厚さtとの比(s/t)の下限15は、構造用パネルに所望のパネル強度を与えることができる摩擦溶接法によりパネルを製造することが可能なs/tの下限です。」は,特許請求の範囲に限定されていない構成(面板と横材の固着を摩擦溶接法によって行う)に基づいての主張であり,採用することができない。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-09 
結審通知日 2007-07-10 
審決日 2007-07-25 
出願番号 特願平7-525514
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五十幡 直子  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 小山 清二
砂川 充
発明の名称 二重壁体複合パネルの改良  
代理人 永井 浩之  
代理人 吉武 賢次  
代理人 岡田 淳平  
代理人 森 秀行  
代理人 勝沼 宏仁  

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