• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C10L
管理番号 1170248
審判番号 無効2005-80074  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-03-10 
確定日 2008-01-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第3161256号発明「ガソリンエンジン用燃料油」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3161256号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由
I 手続の経緯
本件特許第3161256号発明は、平成6年11月29日(優先権主張平成5年11月30日)の出願であって、平成13年2月23日に特許権の設定登録され、その後、特許異議申立て(異議2001年第72969号)の手続中、平成14年3月11日付けで訂正請求がされ、平成14年5月22日付けで「訂正を認める。特許第3161256号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定がなされた。
その後、東京高等裁判所に出訴され(平成14年(行ケ)第363号)、平成16年5月31日付けで「特許庁が異議2001-72969号事件について平成14年5月22日にした決定を取り消す。」との判決がなされた。その後、同異議事件について、平成16年6月30日付けで「訂正を認める。特許第3161256号の請求項1に係る特許を維持する。」との決定がなされた。
これに対し、請求人から本件無効審判の請求がなされた。審判における手続の経緯は以下のとおりである。
審判請求 平成17年 3月10日
答弁書 平成17年 6月10日
弁駁書 平成17年 8月26日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成17年10月 6日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成17年10月 6日
口頭審理 平成17年10月 6日
上申書(請求人) 平成17年10月13日
上申書(請求人) 平成17年11月 7日
上申書(被請求人) 平成17年11月14日
上申書(被請求人) 平成17年12月19日
上申書(請求人) 平成17年12月19日

II 本件発明
本件発明は、明細書の請求項1に記載された以下のとおりのものと認められる。

「(1)沸点25℃未満の留分が3?10容量%、沸点25℃以上75℃未満の留分が35?50容量%,沸点75℃以上125℃未満の留分が25?40容量%,沸点125℃以上175℃未満の留分が10?30容量%及び沸点175℃以上の留分が5容量%以下であること、(2)上記各留分のリサーチ法オクタン価が70以上であること、(3)式(I)
Y=1.07BZ+0.12TO+0.11EB+0.05XY+
0.03C_(9)^(+)A+0.005[100-(BZ+TO+EB+XY+C_(9)^(+)A)] ・・・(I)
〔式中、BZはベンゼン含有量、TOはトルエン含有量、EBはエチルべンゼン含有量、XYはキシレン含有量、C_(9)^(+)Aは炭素数9以上の芳香族分含有量(いずれも燃料油中の含有量で容量%)を示す。〕
で表される排気ガス指数Yが5以下であること、(4)ベンゼン含有量が1容量%以下で、硫黄分が40ppm以下、かつ含酸素化合物含有量が0容量%であること、及び(5)リサーチ法オクタン価が89?92であることを特徴とするガソリンエンジン用燃料油。」(以下、「本件発明」という。また、本件発明の(1)ないし(5)の構成要件をそれぞれ「要件(1)」?「要件(5)」ということがある。)

III 審判請求人の主張
(1)審判請求人は、本件特許第3161256号についての特許を無効にする、審判費用は、被請求人の負担とする旨の審決を求めて、証拠方法として甲第1号証?甲第39号証を提出して、大略以下のような無効理由を主張している。

ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、請求項1に係る発明を当業者が容易に実施できる程度にその発明の目的、構成及び効果が記載されていないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
イ 本件特許の特許請求の範囲は、発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではないから、特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
ウ 本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証、第3号証乃至第5号証、第9号証、第10号証、第12号証、第15号証乃至第20号証、第22号証、第23号証、及び、第25号証乃至第27号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)請求人の提出した証拠方法
甲第1号証 石原健二、山下忠孝、「自動車ガソリンの性状と組成」、東洋大学工学部研究報告、第25号、1990年7月31日、第103?114頁
甲第2号証 JPI-5S-33-90「非オレフィン系ナフサ留分の全炭化水素組成分析法(キャピラリーカラムガスクロマトグラフ法)」、社団法人石油学会、平成2年4月27日制定、平成2年6月22日発行
甲第3号証 「新石油事典」、石油学会編、朝倉書店、1982年11月20日、第536頁
甲第4号証 JIS K 2202-1991「日本工業規格 自動車ガソリン」、平成3年8月1日、第1?2頁
甲第5号証 立木清廣、「自動車ガソリンの性状とその製造技術(2)」、PETROTECH、第5巻、第8号、石油学会、1982年、第48?53頁
甲第6号証 新村出 編、「広辞苑第四版」、株式会社岩波書店、1991年11月15日、第2256頁、第2695頁
甲第7号証 鎌田悠紀雄、他、「ガソリンの揮発性と車の運転性能」、石油学会誌、第20巻、第11号、1997年、第1005?1010頁
甲第8号証 鎌田悠紀雄、他、「ガソリンの蒸留性状と蒸気圧」、自動車技術講習会、1976年、第11?22頁
甲第9号証 William F. Marshall and M. Daniel Gurney, 「Effect of Gasoline Composition on Emissions of Aromatic Hydrocarbons」, SAE Technica1 Paper Series 892076, 1989年9月25-28日、第1?10頁
甲第10号証 「医学大辞典」、南山堂、1990年2月1日、第1795?1796頁
甲第11号証 労働安全衛生法
甲第12号証 「昭和61年度自工会受託研究報告書 市販自動車用燃料の性状調査試験」、昭和62年9月、財団法人日本自動車研究所
甲第13号証 飯塚正、「ガソリン品質動向」、出光技報、37巻、5号、1994年10月15日、第573?580頁
甲第14号証 「ガソリン性状と車両運転性の関係研究」、学術講演会前刷集 892、社団法人自動車技術会、1989年10月、第85?88頁
甲第15号証 「MTBEの自動車ガソリンへの混入について」、通商産業省通達 3資油部第46号、平成3年8月12日
甲第16号証 岡村文治、「最近のガソリン製造プロセス」、配管技術、1992年8月、第61?66頁
甲第17号証 「Exposure and Risk Assessment for Benzene」,Little (Arthur D.), Inc., Cambridge, MA ,1982年1月、第3-18頁、第3-28頁
甲第18号証 陣内学、「芳香族の製造(1)芳香族製造プロセスの概要」、PETROTECH、第9巻、第4号、石油学会、1986年、第57?62頁
甲第19号証 松本英之、「石油精製関連触媒 接触改質触媒」、PETROTECH、第8巻、第5号、石油学会、1985年、第86?88頁
甲第20号証 G.P.HULING、他,「Feed-sulfur distribution in FCC product」, THE OIL AND GAS JOURNAL, 1975年5月19日、第73?79頁
甲第21号証 A1ternative Fuels for Vehicles Fleet Demonstration Program, [online], NEW YORK STATE ENERGY RESEARCH AND DEVELOPMENT AUTHORITY (NYSERDA),1997年10月、第2-40頁、[平成16年8月25日検索]、インターネットhttp://www.nyserda.org/vo13sc22.pdf
甲第22号証 「新燃料油研究開発調査(新燃料油技術開発成果の利用に関する調査)」、平成2年度資源エネルギー庁委託調査報告書、新燃料油開発技術研究組合、平成3年3月、第205頁、第222頁、第248?249頁、第277?278頁
甲第23号証 松原三千郎、「自動車ガソリンの品質動向」三菱石油株式会社、三菱石油技術資料No.77、平成3年、第9?18頁
甲第24号証 「芳香族炭化水素 大規模新増設が一段落」、化学経済、8月臨時増刊号、1993年、第29?31頁
甲第25号証 「平成元年石油資料 附平成元?5年度石油供給計画」、通商産業省資源エネルギー庁石油部監修、平成元年7月20日、第156?161頁
甲第26号証 「平成5年石油資料附平成5?9年度石油供給計画」、通商産業省資源エネルギー庁石油部監修、平成5年7月26日、第162?167頁
甲第27号証 「ベンゼン取扱いの手引き」、社団法人日本芳香族工業会、平成4年12月、まえがき、第25頁
甲第28号証 Jack D. Benson、他, 「Effects of Gasoline Sulfur Level on Mass Exhaust Emissions‐Auto/oi1 Air Quality Improvement Research Program」, SAE Technical Paper Series 912323,1991年10月7-10日、第1?14頁
甲第29号証の1 「危険物製造所変更許可申請書(副本)」、昭和四日市石油株式会社、平成3年1月31日
甲第29号証の2 「3.プロセス概要 1.芳香族抽出装置プロセス概要 危険物製造所変更許可申請書(副本)添付書類」、昭和四日市石油株式会社、平成3年1月31日
甲第30号証の1 「泗友 平成3年3月号」、第2頁、昭和四日市石油株式会社四日市製油所
甲第30号証の2 「泗友 平成4年2月号」、第5頁、昭和四日市石油株式会社四日市製油所
甲第30号証の3 「泗友 平成4年3月号」、第3頁、昭和四日市石油株式会社四日市製油所
甲第31号証 A1an R.Goe1zer、他,「Refiners have several options for reducing gaso1ine benzene」, Oi1 Gas Journal, 1993年9月13日、第63頁?第69頁
甲第32号証 「クリーン燃料製造技術の動向に関する調査報告書」、財団法人石油産業活性化センター、平成7年3月、第5頁?第6頁、第101頁
甲第33号証 P.C.Anderson、他,「Calculation of the Research Octane Number of Motor Gasolines from Gas Chromatographic Data and a New Approach to Motor Gasoline Qua1ity Control」, Journa1 of the Institute of petro1eum ,Vo1ume 58, Number 560, 1972年3月、第83頁?第94頁
甲第34号証 化学工業日報、第11面、平成5年4月16日
甲第35号証「石油製品の品質と規格」、石油連盟、昭和59年12月改訂、第6、7、29?48頁
甲第36号証 「上申書」、東洋大学工学部研究報告編集委員長 教授 秋山哲一、平成17年9月26日作成
甲第37号証 JPI-5S-32-99「ガソリン-全組成分析法-キャピラリーガスクロマトグラフ法」、社団法人石油学会、平成11年2月16日制定、1?37頁
甲第38号証 「東洋大学工学部研究報告」、東洋大学工学部研究報告編集委員会、第40号、平成17年10月1日、第193頁
甲第39号証 「国内プロジェクト一覧(1992)」、PETROTECH、VOL.15、NO.12、社団法人石油学会、1992年12月1日、第1180頁?第1182頁
参考資料1 「甲第1号証記載の市販レギュラーガソリンの各特性の計算手法」
参考資料2 「重回帰分析による解析手法」
参考資料3 「甲第3号証記載のガソリン基材中のベンゼン含有量の単位換算手法」

V 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする旨の審決を求め、証拠方法として乙第1号証?乙第13号証を提出して、請求人の主張する本件特許の無効理由のいずれにも理由がない旨の主張をしている。

被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。
乙第1号証 平成14年(行ケ)第363号の判決(平成16年5月31日言渡)
乙第2号証 異議2001-72969号異議決定書(平成16年6月30日)
乙第3号証 新石油精製プロセス、石油学会編、株式会社幸書房、昭和59年12月25日発行、第1‐3頁
乙第4号証 石油のおはなし、財団法人日本規格協会、1999年5月28日発行、第85-91頁
乙第5号証 石油製品討論会、社団法人石油学会、平成3年11月25日、26日開催、94?97頁
乙第6号証 石油製品討論会、社団法人石油学会、平成4年10月7日、8日開催、71?75頁
乙第7号証 石油製品の品質と規格、石油連盟、昭和59年改訂新版発行、第38頁
乙第8号証の1 JIS K 2202(1996)、第36、37頁
乙第8号証の2 JIS K 2254(1980)、第382-394頁
乙第9号証 本件特許に対する昭和シェル株式会社の特許異議申立書、第1、3、8、9頁
乙第10号証 本件特許に対する株式会社ジョモテクニカルリサーチセンターの特許異議申立書、第1、8、9、10頁
乙第11号証 本件特許に対するコスモ石油株式会社の特許異議申立書、第1、5-7頁
乙第12号証 化学大辞典2、共立出版株式会社、1987年2月15日発行、第729頁
乙第13号証 ISO/TC28/SC N1784(1994年9月26日発行)

V 当審の判断

1.甲号証の記載事項
本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証、第3号証、第9号証、第12号証、第15号証、第16号証、第19号証、第20号証、第28号証、第31号証及び第33号証、及び平成17年9月26日付けで甲第36号証として東洋大学工学部研究報告編集委員長の秋山哲一教授により提出のあった上申書には、下記の記載がある。

甲第1号証
(摘記1-1)「われわれは過去十数年にわたって市販自動車ガソリンの性状と炭化水素成分の分析を行い、これらの変遷について調べた.またガスクロマトグラフィーによるオクタン価(わが国ではリサーチオクタン価を採用しているためここで述べるオクタン価は全てリサーチオクタン価である)の推定値について検討した結果を報告する.」(103頁下から2行?104頁2行)
(摘記1-2)「試料ガソリンは市販の自動車ガソリンで,日石,出光,三菱,モービル,昭石,ゼネラル,コスモ,共石の8種類の銘柄の中,毎年ガソリンスタンドより購入した.
試験は蒸留性状,比重,アニリン点,鉛分析,FIA分析でJIS規格による石油製品試験法に準じて行った。」(104頁5行?8行)
(摘記1-3)「OV-1 bonded,50mガラスキャピラリーカラム,スピリット比100:1,カラム温度は30℃,20分保持後 5℃/minで240℃まで昇温した.」(104頁10行?12行)
(摘記1-4)「平成元年9月に購入した市販ガソリンの性状試験結果を表-1に示す.
ガソリンに重要な性質は揮発性とアンチノック性であり,揮発性は蒸留性状,引火点などで知ることができる.」(104頁18行?20行)
(摘記1-5)表-1に、「市販ガソリンの性状」として、1-1Rを含むレギュラーガソリン及びプレミアムガソリンの蒸留性状、比重、アニリン点、引火点及びvol%で表された炭化水素組成(芳香族分、オレフィン分、飽和分)が記載されている。(105頁)
(摘記1-6)図-4に「市販ガソリンの炭化水素組成の推移」として、有鉛ガソリン、プレミアムガソリン及びレギュラーガソリンそれぞれの芳香族分及びオレフィン分の年ごとの推移がグラフに容量%で記載されている。(107頁)
(摘記1-7)表-3に、「市販ガソリンのガスクロマトグラフィーによる炭化水素成分とオクタン価」として、1-1Rを含むレギュラーガソリン及びプレミアムガソリンの各炭化水素成分が「%」で、また、オクタン価(リサーチ法)の推定値及び実測値が記載されている。(108頁?109頁)
(摘記1-8)表-4に、「ガソリン炭化水素成分グループ分けとオクタン価係数」として、31にグループ分けした各炭化水素成分について、炭化水素組成とオクタン価係数が記載されている。(111頁)
(摘記1-9)「表-1のガソリンを用いたガスクロマトグラフィーによる炭化水素成分分析結果と,これより計算したオクタン価推定値と実測値を表-3に示す.」(113頁4行?5行)
(摘記1-10)「Andersonらは、スクワランを液相としたキャピラリーカラムを用いガスクロマトグラフより分離した各炭化水素成分を,表-4に示したような31グループに分け,次式によりオクタン価推定値を計算する方法を提唱した.



われわれはスクワランよりさらに持続性のよいOV-1 Bondedのガラスキャピラリーカラムを用いて,Andersonらの方法で推定オクタン価を算出した。」(113頁30行?38行)

甲第3号証
(摘記3-1)表6.2.17に各種石油留分の芳香族炭化水素濃度と組成(wt%)が記載されている。(536頁19?32行)
接触改質ナフサに含まれる各油種については、ベンゼン5.35%、トルエン28.9%、o-キシレン7.62%、m-キシレン16.1%、p-キシレン7.49%、エチルベンゼン6.54%、C_(9)成分23.3%及びC_(10)成分4.7%であり、全留分のC_(6)?C_(10)芳香族の濃度は60.1%(wt%)であり、接触分解ガソリンについては、ベンゼン5.72%、トルエン10.0%、o-キシレン5.91%、m-キシレン12.5%、p-キシレン5.43%、エチルベンゼン3.64%、C_(9)成分33.4%及びC_(10)成分23.4%であり、全留分のC_(6)?C_(10)芳香族の濃度は20.4%(wt%)である。

甲第9号証
(摘記9-1)「ベンゼンは、有害大気汚染物質として分類されており、健康・安全規則の第39650条(カリフォルニア州)(以下参照)に則って規制される。大気汚染物質であるベンゼンの最も良く知られている発生源は、ガソリン自動車からの蒸発ガスおよび排気ガスである。」(1頁左欄下から6行?右上欄2行、訳文1頁21?23行)

甲第12号証
(摘記12-1)市販自動車用燃料の性状調査試験の報告書、表2.2に、昭和62年2月における市販のガソリン性状の種類別全国統計が示されており、無鉛レギュラーガソリンの硫黄分は、最小0.001wt%、最大0.008wt%、平均0.003wt%であったことが示されている。

甲第15号証
(摘記15-1)「近年、欧米を始めとする諸外国においては、オクタン価向上のための自動車ガソリン基材として、MTBE(メチルターシャリィブチルエーテル)の導入が進展しており、世界的な動向となりつつあります。・・・なお、今後、貴団体加盟会社がMTBEを混入した自動車ガソリンを販売しようとする場合には、当省としても、当該自動車ガソリンの品質管理等に関する計画を把握するとともに、試買検査等の体制整備を図る必要がありますので、上記計画について事前に当省に報告するとともに、出荷開始日を本年11月1日以降とするよう加盟各社に対する周知徹底を併せてお願いいたします。」(1頁7行?2頁5行)

甲第16号証
(摘記16-1)「日本のガソリンの主な基材の混合割合は、概略次の通りと予想される。
ブタン 0-5%
軽質ナフサ+異性化ガソリン 10-15%
リフォーメイト 30-60%
FCCガソリン 20-50%
アルキレート 0-10%
MTBE 0-5%」(61頁左欄下から9行?下から2行)

甲第19号証
(摘記19-1)「接触改質にかけられる原料は、原油から蒸留された80?200℃の沸点範囲をもつナフサ留分が用いられる。・・・Ptという高価な触媒にかけるために,触媒にとって好ましくないS,N,Metalなどは十分に除去しておかないといけない。通常S,Nは1?0.5ppm以下,Metalにいたっては20?10ppb以下でなければならない。」(88頁右欄6?14行)

甲第20号証
(摘記20-1)第79頁の表6に接触分解装置の原料及び分解ガソリンの硫黄濃度について記載されており、過酷にガルフィニングしたクウェートG.O.について、原料硫黄含量が0.11%のものについて、製造された分解ガソリン(FCC)の硫黄濃度が51,57及び67ppmであることが記載されている。

甲第28号証
(摘記28-1)「自動車/オイル 大気保全改良研究プログラムの本節では、硫黄分の異なる2種の燃料を用いて、1989年式の車両10台について試験を行った。これらの試験を行い、長期の耐久性への影響ではなく、排気ガス中の排出成分に与える短期的な影響を検討した。高硫黄分燃料及び低硫黄分燃料は、それぞれ、466ppm及び49ppmの硫黄分を含有していた。
燃料中の硫黄分が低いと、全車両について排気ガス中の排出成分の量は減少した。燃料中の硫黄分が低い場合は、概して、HC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)及びNOx(窒素酸化物)はそれぞれ16%、13%及び9%減少した。」(1頁左欄1?16行、抄訳1頁1?8行)

甲第31号証
(摘記31-1)「ガソリン中のベンゼン含有量と空気中への蒸発分、走行時の排気管からの排出量との関連性は未だに明らかにされていないが、米国の1990年改正大気汚染防止法では、リフォーミュレーテッドガソリン中のベンゼン含有量を1.0vol%未満に定めた。同様に、カリフォルニア州大気資源委員会(CARB)は、ベンゼンを約0.8vol%未満に規制する予定である。」(63頁2欄2?14行、訳文1頁下から11行?下から8行)
(摘記31-2)「米国では、FCCガソリン、アルキレートおよびエーテルで希釈することがベンゼン濃度に好ましい影響を及ぼしている。FCCガソリンのベンゼン含量はわずか0.5-0.8vol%であり、アルキレートとエーテルにはまったく含まれていない。」(63頁3欄8?14行、訳文1頁下から1行?2頁2行)
(摘記31-3) ベンゼン抽出法の図、図2


(63頁、訳文3頁)
(摘記31-4)「自動車ガソリン基材中のベンゼンの70-80%が、環状C6先駆物質の大半を処理する接触改質装置に由来する。リフォーメート中のベンゼン含有量は、一般に、約2.5wt%から8wt%の範囲になる。これは改質装置のフィード中の環状C6先駆物質の量と改質装置の運転の過酷度によって変動する。」(63頁4欄下から2行?64頁1欄10行、訳文2頁14?17行)
(摘記31-5)「図2に示すベンゼン抽出法は、いくつかの利点を有する:
・リフォーメートベンゼンの90%以上が自動車ガソリン基材から除去できる。
・基材全体の芳香族分が1.0-1.5vol%分低減する。
・接触改質装置からの水素発生量を最大化することができる。
・ケミカルグレードのベンゼンが生産される。」(65頁1欄19?31行、訳文4頁2?6行)

甲第33号証
(摘記33-1)表10において、Chromatographic group 5のRegression coefficient(br)は「198.2」と記載されている(89頁中段右欄、TABLE X、訳文16頁)。

甲第36号証
(摘記36-1)東洋大学工学部研究報告編集委員長で教授の秋山哲一氏の上申書であり、「東洋大学工学部研究報告(合併号)・第25頁・平成元年度」(平成2年7月31日発行)記載の専門課程報告「自動車ガソリンの性状と組成」について、「第111頁に記載の表-4『ガソリン炭化水素成分グループ分けとオクタン価係数』のうち、グループ5『イソペンタンとペンタンの間の成分』についてはオクタン価係数は『108.2』と記載されていますが、これは正しくは『198.2』です。・・・当該報告(『自動車ガソリンの性状と組成』の第108頁?第109頁に掲載の表-3『市販ガソリンのガスクロマトグラフィーによる炭化水素成分とオクタン価』の『オクタン価(リサーチ法)推定値の欄(第109頁)を検討しますと、当該報告の報告者(石原健二)らは、引用したアンダーソン文献第89頁のTABLEX中のgroup5のRegression coefficient(br)『198.2』によって『オクタン価(リサーチ法)推定値』を算定しております。」との記載がある(第1頁14?第2頁6行)。

2.対比・判断

(1)甲第1号証に記載された事項について

ア.甲第1号証には、表-3に市販ガソリンのガスクロマトグラフィーによる炭化水素成分とオクタン価が、表-4にガソリン炭化水素成分グループ分けとオクタン価係数が記載されている(摘記1-7,摘記1-8)。

審判請求人は、当該表-3及び表-4について、甲第1号証の表-3には、「市販ガソリンのガスクロマトグラフィーによる炭化水素成分とオクタン価」が記載されており、その炭化水素成分として、「trans-2-ブテン」及び「cis-2-ブテン」が重複して記載されているが、「ペンタン」と「2-メチル-2-ブテン」の間の「trans-2-ブテン」及び「cis-2-ブテン」は、「trans-2-ペンテン」及び「cis-2-ペンテン」の誤りであり、「2-メチル-2-ブテン」と「未詳3成分」の間の、「2,2-ジメチルブテン」は「2,2-ジメチルブタン」の誤りである旨主張している。
そこで検討するに、審判請求人の提出した添付資料5のAPPENDIX C記載の表(第9頁右欄、表15)には、ガスクロマトグラフィー分析用カラム液相としてメチルシリコンを使用していることが記載されており、甲第1号証の表-3の炭化水素成分分析に使用したOV-1カラム液相もメチルシリコンであるから、各炭化水素成分の溶出する順は同じであると認められる。APPENDIX C記載の表からみて、「未詳3成分」は、シクロペンタン、4-メチルペンテン-1、3-メチルペンテン-1であり、同表において溶出順がペンタン、trans-2-ペンテン、cis-2-ペンテン、2-メチル-2-ブテン、2,2-ジメチルブタン、シクロペンタンであることからみて、甲第1号証の「表-3」の「ペンタン」と「2-メチル-2-ブテン」との間に記載されている「trans-2-ブテン」及び「cis-2-ブテン」はそれぞれ「trans-2-ペンテン」及び「cis-2-ペンテン」の誤記であり、また、同様に「2-メチル-2-ブテン」と「未詳3成分」の間の、「2,2-ジメチルブテン」は「2,2-ジメチルブタン」の誤記であると認められ、そして、trans-2-ブテン、cis-2-ブテンについては、重複記載があること、2,2-ジメチルブテンについては、そのような化学物質が存在しないことから、当業者であれば誤記であると判断でき、表の記載順序からそれぞれtrans-2-ペンテン、cis-2-ペンテン、2,2-ジメチルブタンの誤記であることが理解可能であると認められる。

イ.次に、甲第1号証の表-4について、表-4に記載されているガソリン炭化水素成分グループのオクタン価係数のうち、グループ5のオクタン価係数は「108.2」と記載されているが、この値は、「198.2」の誤りである旨主張している。
そこで検討するに、甲第1号証で引用する「Andersonらの方法」が記載されたAndersonらの文献には、TABLE X(第89頁)において甲第1号証の表-4に記載されたグループ5のオクタン価係数に対応するgroup5のRegression coefficient(br)は「198.2」と記載されていること(摘記33-1)及び秋山哲一氏の上申書における、表-4のうち、・・・グループ5「イソペンタンとペンタンの間の成分」について、オクタン係数は「108.2」ではなく、正しくは「198.2」である旨の記載からみて(摘記36-1)、甲第1号証、表-4のグループ5のオクタン価係数「108.2」の記載は転記ミスであり、同表のグループ5のオクタン価係数「198.2」と認められ、それは、当事者が引用文献を参照することにより確認可能なものである。

ウ.次に、甲第1号証の表-3に記載された各炭化水素成分量の単位「%」が「重量%」であるか、「容量%」であるかについて検討する。
a)表-3の各炭化水素成分量の単位として示される「%」を「容量%」とするなら、リサーチオクタン価(RON)を算出するときに(摘記1-10)、表-3の各炭化水素成分量から表-4においてグループ分けした各グループの重量%(Wr)を算出する必要があるところ、表-3に記載された未詳成分の密度が不明であるから、未詳成分が含まれるグループの重量%を算出することができないこと、及び、b)グループ5のオクタン価係数を「198.2」として、表-3に記載された1-1R?1-5Rのオクタン価推定値を計算すると、単位を容量%とした計算値よりも重量%とした計算値の方が一致性が高いことからみて、甲第1号証の表-3において、各炭化水素成分量の単位「%」は「重量%」であると認められる。
なお、甲第1号証の表-1の市販ガソリンの性状における炭化水素組成及び図-4の市販ガソリンの炭化水素組成の推移における芳香族分、オレフィン分が容量%で示されているが、表-1の値は、FIA分析(蛍光指示薬吸着法)に基づいたものであり、表-3の成分の分析方法とは異なるものと認められ、図-4についても芳香族分、オレフィン分に関してのものであって、表-3に記載された個々の炭化水素成分の含有量とは直接関連しておらず、表-3における各炭化水素成分の含有量を重量%であるとしても矛盾はない。

エ.そこで、甲第1号証の表-3に記載された1-1Rガソリンについて、その用途、蒸留性状、各留分のオクタン価、排気ガス指数Y、ベンゼン含有量及びオクタン価を検討する。

(ア)1-1Rガソリンの用途について
甲第1号証には、市販自動車ガソリンの性状と炭化水素成分の分析及びガスクロマトグラフィーによるリサーチオクタン価の推定値について検討した旨記載されており(摘記1-1)、表-1及び表-4には、市販ガソリンの性状及び市販ガソリンのガスクロマトグラフィーによる炭化水素成分とオクタン価が記載されている(摘記1-7,摘記1-8)。そして、これらの表に市販ガソリンとしての1-1Rガソリンの分析結果が示されている。このことからみて、1-1Rガソリンはガソリンエンジン用燃料油であると認められる。

(イ)1-1Rガソリンの各留分の容量%について
請求人の提出した審判請求書の参考資料1には、別紙1に「レギュラーガソリン(1-1R)にかかる変換ファクターと炭化水素成分のRON」が表aとして記載されており、同表には、各炭化水素成分について、沸点区分、沸点、密度、RON、含有量及び変換ファクター量(含有量(重量%)/密度)が記載されている。
そして、各炭化水素成分、各炭化水素成分群及び各未詳成分群の変換ファクター量に基づいて各留分における留分量が最小となる組合せ及び最大となる組合せを求め、各留分量(容量%)の範囲を算出している。
その算出結果による1-1Rのガソリンの各留分の量は(容量%)は、以下のとおりである(請求人の提出した参考資料1、1頁7行?13行参照)。
沸点25℃未満(A1) 6.7?6.8容量%
沸点25℃以上75℃未満の留分(A2) 40.3?42.8容量%
沸点75℃以上125℃未満の留分(A3) 30.5?33.2容量%
沸点125℃以上175℃未満の留分(A4)16.4?16.7容量%
沸点175℃以上の留分(A5) 3.1?3.3容量%

(ウ)1-1Rガソリンの各留分のオクタン価について
同参考資料では、各留分における留分の量(容量%)が最小値となる場合と最大値となる場合において、各炭化水素成分、各炭化水素成分群及び各未詳成分群の量(容量%)及びRONとこれら成分又は成分群の量(容量%)との積を求め、それらを積算し、RONと量(容量%)との積の積算値を量(容量%)の積算値で除して、各留分のRONを算出している。各留分のRONは、留分の量(容量%)が最小値となる場合と最大値なる場合における算出されたRON値の低い方の値以上になる。
その算出結果による1-1Rのガソリンの各留分のオクタン価(RON)は、以下のとおりである(請求人の提出した参考資料1、2頁下から7行?最下行参照)。
沸点25℃未満(A1) 97.0以上
沸点25℃以上75℃未満の留分(A2) 76.9以上
沸点75℃以上125℃未満の留分(A3) 76.5以上
沸点125℃以上175℃未満の留分(A4) 92.2以上
沸点175℃以上の留分(A5) 88.7以上

(エ)1-1Rガソリンの排気ガス指数Yについて
同参考資料では、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン及びC9以上の炭化水素成分の各成分ついて、それらの成分が最小値となる量(容量%)及び最大値となる量(容量%)を算出し、それらの値を本件発明の式(I)に代入し、排気ガス指数Yを求めている。
その算出結果による1-1Rガソリンの各留分の排気ガス指数Yは、5.2?5.3である(請求人の提出した参考資料1、4頁10?12行参照)。

(オ)1-1Rガソリンのベンゼン含有量(容量%)について
同参考資料では、レギュラーガソリン中の各炭化水素成分、各炭化水素成分群及び各未詳成分群の量(重量%)をそれらの密度(g/cm^(3))で除して各成分にかかる変換ファクターを算出し、ベンゼン含有量(重量%)をベンゼンの密度(g/cm^(3))で除したベンゼンにかかる変換ファクターを、算出したすべて成分の変換ファクターの総和で除して算出している。
その算出結果による1-1Rガソリンのベンゼン含有量は、2.51?2.54容量%である(請求人の提出した参考資料1、5頁1行?3行参照)。

(カ)1-1Rガソリンのリサーチ法オクタン価について
1-1Rガソリンのリサーチ法オクタン価については、甲第1号証の表-3に記載されており、その値は、91.9である。

これらの結果をまとめると、甲第1号証には、1-1Rのガソリンとして、
「(1)沸点25℃未満の留分が6.7?6.8容量%、沸点25℃以上75℃未満の留分が40.3?42.8容量%,沸点75℃以上125℃未満の留分が30.5?33.2容量%,沸点125℃以上175℃未満の留分が16.4?16.7容量%及び沸点175℃以上の留分が3.1?3.3容量%であり、
(2)上記各留分のリサーチ法オクタン価が76.5以上であり、
(3)式(I)
Y=1.07BZ+0.12TO+0.11EB+0.05XY+
0.03C_(9)^(+)A+0.005〔100-(BZ+TO+EB+XY+C_(9)^(+)A)〕 ・・・(I)
〔式中、BZはベンゼン含有量、TOはトルエン含有量、EBはエチルべンゼン含有量、XYはキシレン含有量、C_(9)^(+)Aは炭素数9以上の芳香族分含有量(いずれも燃料油中の含有量で容量%)を示す。〕で表される排気ガス指数Yが5.2?5.3であり、
(4)ベンゼン含有量が2.51?2.54容量%であり、
及び(5)リサーチ法オクタン価が91.9であるガソリンエンジン用燃料油。」が記載されているものと認められる(以下、「引用発明」という。)。

(2)本件発明と引用発明との相違点及び相違点についての判断

ア.本件発明と引用発明とを対比すると、いずれも、
(1)沸点25℃未満の留分が6.7?6.8容量%、沸点25℃以上75℃未満の留分が40.3?42.8容量%,沸点75℃以上125℃未満の留分が30.5?33.2容量%,沸点125℃以上175℃未満の留分が16.4?16.7容量%及び沸点175℃以上の留分が3.1?3.3容量%であり(要件(1))、
(2)上記各留分のリサーチ法オクタン価が76.5以上であり(要件(2))、及び
(5)リサーチ法オクタン価が91.9である(要件(5))、
ガソリンエンジン用燃料油である点で一致し、
(A)本件発明では、燃料油中の含酸素化合物含有量が0容量%であるのに対して、引用発明では、含酸素化合物の含有量について記載がない点、
(B)本件発明では、燃料油中の硫黄分が40ppm以下であるのに対して、引用発明では、硫黄分の含有量について記載がない点、
(C)本件発明では、燃料油中のベンゼン含有量が1.0容量%以下であるのに対して、引用発明では、ベンゼン含有量が2.51?2.54容量%である点、
(D)次式(I)
Y=1.07BZ+0.12TO+0.11EB+0.05XY+
0.03C_(9)^(+)A+0.005〔100-(BZ+TO+EB+XY+C_(9)^(+)A)〕 ・・・(I)
〔式中、BZはベンゼン含有量、TOはトルエン含有量、EBはエチルべンゼン含有量、XYはキシレン含有量、C_(9)^(+)Aは炭素数9以上の芳香族分含有量(いずれも燃料油中の含有量で容量%)を示す。〕で表される排気ガス指数Yが、本件発明では5以下であるのに対して、引用発明では5.2?5.3である点、
で相違するものと認められる。

イ.上記相違点について検討する。

甲号各証に記載された、「vol%」及び「wt%」は、「容量%」及び「重量%」と同義であり、また、「改質ナフサ」及び「接触改質ナフサ」は、「リフォーメイト」と同義なので、以下、それぞれ、統一して「容量%」、「重量%」及び「リフォーメイト」という。

(ア)相違点(A)について
甲第15号証には、MTBE(メチルターシャリィブチルエーテル)を混入した自動車ガソリンの販売は平成3年11月1日以降とする旨の通達がある(摘記15-1)。してみれば、平成元年9月に購入された市販のガソリンには、MTBEは含まれておらず、また、甲第1号証には、1-1Rガソリンについて、含酸素化合物が含有されているという記載もなく、含酸素化合物については実質的に含有されていないものと認められ、この点については、相違しないものである。

(イ)相違点(B)について
甲第1号証には、1-1Rガソリンについて、配合前の各ガソリン基材の硫黄分について記載はなく、また、ガソリン基材をどのような割合で配合したかについて記載もない。
そこで、製品ガソリンを構成する各ガソリン基材に含有される硫黄含有量及び製品ガソリンに含有される硫黄含有量について、以下検討し、それに基づいて、1-1Rガソリンの硫黄含有量を40ppm以下とすることが容易に想到するものであるかどうか検討する。
甲第16号証には、製品ガソリンを製造するためのガソリン基材の配合割合として、リフォーメイトが30-60%、FCCガソリンが20-50%が含まれており、その他の成分としては、ブタンが0-5%、軽質ナフサ+異性化ガソリンが10-15%、アルキレートが0-10%及びMTBEが0-5%であることが記載されている(摘記16-1)。
次に、各ガソリン基材が含有する硫黄分についてみると、甲第19号証には、接触改質にかけられる原料について、「Ptという高価な触媒にかけるために,触媒にとって好ましくないS,Nは1?0.5ppm以下・・・でなければならない。」と記載されており(摘記19-1)、ガソリン基材であるリフォーメイト中の硫黄分は1?0.5ppm以下であると認められる。また、甲第20号証には、FCC(分解)ガソリンの硫黄濃度が記載されており、脱硫装置を用いて、FCC(分解)ガソリンの硫黄濃度を51?67ppmとすることができることが記載されている(摘記20-1)。その他の成分であるブタン、軽質ナフサ、異性化ガソリン及びアルキレートについても、硫黄化合物はほとんど含まれていないか又は脱硫することによって含有する硫黄分を低減できるものである。
FCCガソリンは、ガソリン基材としては、製品ガソリンに最大50%程度配合されるものであって(摘記16-1)、FCCガソリン以外のガソリン基材については、硫黄分をほとんど含ませないことができるから、1-1Rガソリンに配合するガソリン基材として硫黄分を51?67ppm程度に脱硫したFCCガソリンを用いることによって、製品ガソリン中の硫黄分を40ppm以下とすることができるものである。
そして、甲第12号証に記載された如く、製品ガソリン中の硫黄分が平均30ppmのものは知られており(摘記12-1)、また、甲第28号証に記載された如く、燃料中の硫黄分が低い場合には、炭化水素、一酸化炭素及び窒素酸化物が減少する等、大気汚染防止の観点から燃料中の硫黄分は少ない方が望ましいことが知られており(摘記28-1)、そのように設定しても、それが実現可能な設定であることが知られていたのであるから、製品ガソリンである1-1Rガソリンについて、これに含まれる硫黄分を40ppm以下とすることに格別の困難性は見いだせない。

(ウ)相違点(C)及び相違点(D)について
まず、相違点(C)について検討する。
甲第1号証には、1-1Rガソリンについて、配合前の各ガソリン基材に含まれるベンゼンの含有量についての記載はなく、また、前記のとおり、ガソリン基材をどのような割合で配合したかについても記載はない。
そこで、製品ガソリンを構成する各ガソリン基材に含有されるベンゼン含有量について検討し、次に、1-1Rガソリンに基づいてそのベンゼン含有量を1.0容量%以下のものと低減した燃料油が容易想到のものであるかどうかについて検討する。

(a)リフォーメイトのベンゼン含有量について
甲第31号証には、図2にベンゼン抽出法が記載されており(摘記31-3)、その記載内容からみて、同図には、次の事項が記載されているものと認められる。
「水素化処理ナフサを蒸留して、i-C5からn-C6留分を分離し、158+°F留分をリフォーマー(接触改質装置)にかける。スプリッターでC5留分、BT留分(ベンゼン・トルエン留分)及びリフォーメイト留分に分離する。このうちBT留分は、ベンゼン抽出装置へ導入し、ベンゼン、トルエン及びラフィネートに分離する。ベンゼンはケミカルグレードとして利用し、リフォーメイト高沸点留分はそのままC5留分、トルエン及びラフィネートと混合して混合リフォーメイトにする。」
そして、同号証には、リフォーメート中のベンゼン含有量は、一般に、約2.5重量%から8重量%の範囲にあること(摘記31-4)、図2に記載されたベンゼン抽出法により、リフォーメイトベンゼンの90%以上が自動車ガソリン基材から除去できることが記載されている(摘記31-5)。
すなわち、甲第31号証には、ベンゼン抽出装置でケミカルグレードのベンゼンを除去し、残部をリフォーメイトに混合させ混合リフォーメイトとすること、いいかえれば、原料のリフォーメイトから他の成分は除去せずに、ベンゼンの90%以上を除去することが記載され、また、原料リフォーメイト中のベンゼン含有量は約2.5重量%から8重量%とされているから、同号証には、リフォーメイトからベンゼン含有量が約0.25重量%から0.8重量%以下の混合リフォーメイトが製造できることが記載されているものと認められる。
次に、当該リフォーメイトの容量基準によるベンゼン含有量について検討する。
リフォーメイトの組成(重量%)は、甲第3号証に記載されており、ベンゼン5.35%、トルエン28.9%、o-キシレン7.62%、m-キシレン16.1%、p-キシレン7.49%、エチルベンゼン6.54%、C_(9)成分23.3%及びC_(10)成分4.7%である。これらを合計すると100%(芳香族分)であり、全留分の芳香族分の濃度は60.1%(重量%)である(摘記3-1)。
一方、参考資料1によれば、ベンゼンの密度(g/ml。以下同じ。)は0.8842g/mlであり、上記リフォーメイトの中で、ベンゼンより密度が大であるC_(10)成分は、4.7%と含有量が少なく、o-キシレン(0.8844g/ml)、C_(9)成分である2-エチルトルエン(0.8847g/ml)及び1,2,3-トリメチルベンゼン(0.8982g/ml)はベンゼンより密度は大きいもののその差はわずかであり、その他の芳香族成分及び全留分の39.9重量%を占める非芳香族分成分はベンゼンの密度より小さいから、上記混合リフォーメイトは、容量基準では、0.25%?0.8%より小さい数値になるものと認められる。

(b)FCCガソリンのベンゼン含有量について
FCCガソリンに含まれるベンゼンについては、刊行物により、いくつかの異なる含有量が記載されており、甲第31号証には、0.5-0.8容量%であること(摘記31-2)、甲第3号証には、1.17重量%(全留分中の芳香族が20.4重量%で、その内、ベンゼンは5.72重量%)であることが記載されている(摘記9-1)。当該FCCガソリンについても約80重量%がベンゼンより低密度の非芳香族分であるから、容量基準(容量%)では、重量基準(重量%)より小さい数値になるものと認められる。
したがって、FCCガソリンのベンゼン含有量は、0.5?1.17容量%以下であると認められる。

(c)その他のガソリン基材のベンゼン含有量について
ベンゼンは、軽質ナフサ及び異性化ガソリンにはほとんど含まれておらず(請求人の提出した審判請求書の参考資料3、第4頁下から6行?下から3行)、アルキレートにはまったく含まれていないものと認められる(摘記31-2)。

(d)1-1Rガソリンのベンゼン含有量の低減について
甲第16号証によれば、製品ガソリン中のFCCガソリンの含有量は、多くとも50%であり(摘記16-1)、上記で検討したように、FCCガソリンに含まれるベンゼン含有量は多くとも1.17容量%である。
したがって、1-1Rガソリンの基油として、ベンゼン含有量が1.17容量%のFCCガソリンを使用したとしても、混合リフォーメイトとして、リフォーメイトにベンゼン抽出法を適用し、原料となるリフォーメイトからベンゼンのみを除去し、ベンゼン含有量を0.8容量%以下のものとし、さらに、他の基油として、ほとんどベンゼンが含まれていない、軽質ナフサ、異性化ガソリン及びアルキレートを用いることによって、1-1Rガソリンにおいてベンゼン含有量が1.0容量%以下の製品ガソリンを製造することは可能である。
なお、本件明細書においては、軽質FCCガソリンのベンゼン含有量は1.2容量%である旨記載されているが(本件特許明細書、段落【0022】の第1表-1)、このようなFCCガソリンを用いても、上記と同様の理由で、ベンゼン含有量が1.0容量%以下の製品ガソリンを製造することは可能である。
甲第9号証には、「ベンゼンは、有害大気汚染物質として分類されており、健康・安全規則の第39650条(カリフォルニア州)(以下参照)に則って規制される。大気汚染物質であるベンゼンの最も良く知られている発生源は、ガソリン自動車からの蒸発ガスおよび排気ガスである。」(摘記9-1)との記載があり、また、甲第31号証には、「ガソリン中のベンゼン含有量と空気中への蒸発分、走行時の排気管からの排出量との関連性は未だに明らかにされていないが、米国の1990年改正大気汚染防止法では、リフォーミュレーテッドガソリン中のベンゼン含有量を1.0容量%未満に定めた。同様に、カリフォルニア州大気資源委員会(CARB)は、ベンゼンを約0.8容量%未満に規制する予定である。」(摘記31-1)との記載がある。
してみれば、ベンゼンが有害大気汚染物質であり、その発生源が、ガソリン自動車からの蒸発ガスおよび排気ガスであること、及び米国の1990年改正大気汚染防止法では、リフォーミュレーテッドガソリン中のベンゼン含有量を1.0容量%未満に定めたこと等に基づき、製品ガソリンのベンゼン含有量を1.0%以下に設定することは、本件出願時に求められていたものであり、そのような設定を可能とする技術的な裏付けはあったものと認められるから、そのような設定は、当業者が容易に想到し得ることである。
次に、相違点(D)について検討する。
製品ガソリンの排気ガス指数Yは、ベンゼン含有量と独立ではなく、ベンゼン含有量の増減に従って増減する。1-1Rガソリンの排気ガス指数Yは、5.2?5.3であるが、ガソリン用燃料油中のベンゼン含有量を減少させることによって排気ガス指数Yは減少し、ベンゼン含有量を1.0容量%に減少させた場合における排気ガス指数Yは、3.64?3.68である(請求人の提出した参考資料1、7頁11行?13行参照)。
したがって、1-1Rガソリンのベンゼン含有量を1.0容量%に減少させることによって、そのガソリンの排気ガス指数Yは5以下となり、本件発明で規定する数値を満たすものとなるから、相違点(D)は、相違点(C)に付随するものであって、実質的なものではない。

ウ.相違点(C)の検討に関連して、燃料油中のベンゼン含有量を1-1Rガソリンから変更すれば、そのガソリン用燃料油の蒸留性状、各留分のリサーチ法オクタン価及びガソリン用燃料油のリサーチ法オクタン価が変動するので、以下、それぞれについて検討する。

(ア)特定の沸点範囲における留分の割合(要件(1))について
本件発明では、特定の沸点範囲における留分については、全組成ガスクロマトグラフ法により、燃料油中の各炭化水素含有量を求めている(段落【0019】)。ベンゼンの沸点は80.1℃であるから、ベンゼン含有量が減少した場合、沸点75℃以上125℃未満の留分(A3)の割合が減少し、他の留分の割合が増加する。1-1Rガソリンの各留分の容量%を算出した方法と同様の方法により、ベンゼン含有量を1.0容量%に減少させた場合について算出すると、各留分は下記の値になる(請求人の提出した参考資料1、6頁5行?13行参照)。数値範囲については、誤差範囲を含めた最小値と最大値である。
沸点25℃未満(A1) 6.8?6.9容量%
沸点25℃以上75℃未満の留分(A2) 40.9?41.4容量%
沸点75℃以上125℃未満の留分(A3) 31.5?32.1容量%
沸点125℃以上175℃未満の留分(A4)16.7?17.1容量%
沸点175℃以上の留分(A5) 3.2?3.3容量%
上記の値から見て、ベンゼン含有量を1.0容量%に減少させた場合においても、それぞれの留分は本件発明で規定する各留分の量の範囲内である。したがって、要件(1)については、ベンゼン含有量を1.0容量%に減少させたことによる影響はない。

(イ)各留分のリサーチ法オクタン価(要件(2))について
上記(ア)に示した如く、ベンゼン含有量が減少した場合、沸点75℃以上125℃未満の留分(A3)の割合が減少し、他の留分の割合が増加する。ベンゼンのオクタン価係数は105.2であり、沸点75℃以上125℃未満の留分(A3)のRONは76.5である。したがって、ベンゼン含有量を1.0%に減少させた場合、当該留分のRONは、低下し、他の区分のRONは増加する。その結果、各区分のRONは下記の値になる(請求人の提出した参考資料1、6頁下から8行?最下行参照)。数値範囲については、誤差範囲を含めた最小値である。
沸点25℃未満(A1) 98.7以上
沸点25℃以上75℃未満の留分(A2) 78.1以上
沸点75℃以上125℃未満の留分(A3) 72.7以上
沸点125℃以上175℃未満の留分(A4) 93.7以上
沸点175℃以上の留分(A5) 89.9以上
上記の値から見て、ベンゼン含有量を1.0容量%に減少させた場合においても、各留分は本件発明で規定するリサーチ法オクタン価の下限以上のものとなる。したがって、要件(2)については、ベンゼン含有量を1.0容量%に減少させたことによる影響はない。

(ウ)ガソリン用燃料油のリサーチ法オクタン価(要件(5))について
1-1Rガソリンにおいて、ベンゼン含有量3.03重量%(2.51?2.54容量%)を1.0容量%としたとき、重量基準では、ベンゼン含有量は、1.21重量%になる。
算出根拠は下記のとおりである。
1-1Rガソリン100gの容量は136.40mlであり、ベンゼン含有量を1.0容量%とするためには、
(3.427-136.40×0.01)/(1-0.01)=2.084
ベンゼンを2.084ml減少させることになる。
ベンゼン2.084mlは、
2.084ml×0.8842g/ml=1.8425g
であり、これを重量基準とすると
(3.03g-1.8425g)/(100g-1.8425g)=0.0121
となる。
ベンゼン含有量を1.0容量%(Bz1.21重量%)、2.51?2.54容量%(Bz3.03重量%)としたときのガソリン用燃料油のリサーチ法オクタン価をそれぞれ、RON(Bz1.21重量%)、RON(Bz3.03重量%)とすると、ベンゼンのオクタン価指数は105.2であり、これを重量基準で1.82重量%(3.03重量%-1.21重量%)減少させることになるから、
(1-0.0182)×RON(Bz1.21重量%)+0.0182×105.2=RON(Bz3.03重量%)
となり、RON(Bz3.03重量%)は91.9であるから、この式から、RON(Bz1.21重量%)を求めると、この値は、91.7と算出され、ほとんど減少しない。

(エ)したがって、燃料油中のベンゼン含有量を変更すれば、ガソリン用燃料油の蒸留性状、各留分のリサーチ法オクタン価及び燃料油のリサーチ法オクタン価が変動するものの、その変動は少なく、ベンゼン含有量を1.0容量%としてもこれらの各値について、本件発明で特定する範囲を逸脱するものにはならない。

エ.本件特許明細書には、発明の効果として、「本発明のガソリンエンジン用燃料油は、高速耐ノック性,加速性,燃焼性,始動性,運転性などの自動車の運転性能に優れるとともに、排気ガス中のベンゼン分や、NO_(X)、SO_(X)などの少ない低公害性で、かつ無鉛高オクタン価のガソリンである。」と記載されている(段落【0026】)。
しかしながら、それら効果に関し、高速耐ノック性,加速性,燃焼性,始動性,運転性などの自動車の運転性能については、ウ.で検討した如く、引用発明に係るガソリンエンジン用燃料油のベンゼンを1.0容量%以下とした場合には、排気ガス指数Yもまた5以下となり、また、ベンゼンをこの含有量に低減しても、ガソリン用燃料油の蒸留性状、各留分のリサーチ法オクタン価及びリサーチ法オクタン価の変動はわずかであって、それは本件発明で特定する値と大きな相違はないのであるから、それが、格別のものであるとは認められない。また、排気ガス中のベンゼン分が少ないという効果については、甲第31号証に記載されているベンゼンの低減による効果から、また、NO_(X)、SO_(X)などの少ないという効果については、甲第28号証に記載されている燃料中の硫黄分を低減させることによる効果から予測される範囲のものであって、それが、格別のものであるとは認められない。

VII むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証、第3号証、第9号証、第12号証、第15号証、第16号証、第19号証、第20号証、第28号証及び第31号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-11 
結審通知日 2006-05-16 
審決日 2006-05-29 
出願番号 特願平6-294153
審決分類 P 1 113・ 121- Z (C10L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 守安 智  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 井上 彌一
脇村 善一
登録日 2001-02-23 
登録番号 特許第3161256号(P3161256)
発明の名称 ガソリンエンジン用燃料油  
代理人 小林 浩  
代理人 野矢 宏彰  
代理人 平山 晃二  
代理人 島田 康男  
代理人 大谷 保  
代理人 平澤 賢一  
代理人 松本 謙  
代理人 牧野 利秋  
代理人 友松 英爾  
代理人 林 康司  
代理人 東平 正道  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ