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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1170462
審判番号 不服2004-6147  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-25 
確定日 2008-01-09 
事件の表示 特願2001-390348「虚像、実映像重畳表示装置及び映像表示制御方法、ならびに映像表示制御用プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月 8日出願公開、特開2003-190367〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成13年12月21日の出願であって、平成16年2月16日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年3月25日付けで本件審判請求がされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年3月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正内容
本件補正前の請求項数が6であるのに対し、本件補正後の請求項数は3であって、実質的には、本件補正前の請求項1,3,5が削除され(請求項2,4,6が独立形式に変更されるとともに、項番が1,3,5に変更される。)、さらに補正後の請求項1,3,5について、「映像表示部」を「フラットパネルディスプレイ」と補正することや「ゲーム開始時の内部抽選処理」を「前記メカニカルリール始動時の内部抽選」と補正すること等の補正が加えられている。
そして、本件補正前請求項1,2記載の「映像表示部」を「フラットパネルディスプレイ」と補正することが特許請求の範囲の減縮(平成18年改正前特許法17条の2第4項2号該当)に該当することは明らかである(本件補正後の請求項3については、「映像表示制御用プログラム」の発明であるから、同補正がされても減縮にはならないことを指摘しておく。)から、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)については、特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうかの検討も行う。

2.新規事項追加又は補正目的違反
願書に最初に添付した図面の【図6】には、「成立役に対応した演出用画像データの情報とその表示開始の設定値を獲得」がステップ2として示され、メカニカルリールの制御処理実施がステップ3-1として示されている。成立役は内部抽選により決定されるのだから、内部抽選がステップ2以前であることは明らかである。他方、メカニカルリールはステップ3-1に達しないと始動しないから、メカニカルリール始動時期は内部抽選の後である。
そうすると、「前記メカニカルリール始動時の内部抽選」との事項が、願書に最初に添付した明細書(以下、添付図面を含めて「当初明細書」という。)に記載されておらず、自明でないことは明らかであるから、本件補正は特許法17条の2第3項の規定に違反している。
請求人は、補正の根拠を当初明細書の段落【0087】に求めており、同段落に「1回のゲーム中(リールの始動から全リール停止間)」との文言記載があることは事実であるが、その直前記載を含めると「メカリールと映像の重畳表示は、図6のフローチャートに示したような1回のゲーム中(リールの始動から全リール停止間)」との記載になっているから、ここでいうゲームは、内部抽選により成立役が決定した後の、メカリールと映像の重畳表示だけを対象としたものと解すべきであり、この記載は上記補正を正当化するものではない。したがって、本件補正は特許法17条の2第3項の規定に違反している。
仮に、「メカニカルリール始動時の内部抽選」との文言を、文言どおりではなく、「メカニカルリール始動に際しての内部抽選」などと解釈するのだとすると、「ゲーム開始時の内部抽選処理」を「前記メカニカルリール始動時の内部抽選」と補正することは、特許請求の範囲の減縮(平成18年改正前特許法17条の2第4項2号)、誤記の訂正(同項3号)又は明りようでない記載の釈明(同項4号)の何れにも該当しないから、本件補正は平成18年改正前特許法17条の2第4項の規定に違反している。

3.補正発明の認定
補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「操作テーブルが外設されたスロットゲームマシンの筐体前面側と、該筐体前面側に対向する該筐体奥部に内設されたフラットパネルディスプレイとを結ぶ第1の仮想ラインに交差する第2の仮想ライン上に配設され、周面に所定の図柄が描かれてステッピングモータにて回動制御される複数のメカニカルリールと、
前記第1および第2の仮想ラインが交差する一点を含み前記フラットパネルディスプレイまたは前記操作テーブル側に傾斜する面内に設けられたハーフミラーと、
前記複数のメカニカルリールの回転位置を個別に検出する複数の位置センサと
を具備し、
前記ハーフミラーを透過する前記フラットパネルディスプレイに出力された演出用画像の実像と、前記ハーフミラーにより反射される前記図柄の虚像とを合成して表示するゲームマシンにおける虚像、実像重畳表示装置であって、
前記メカニカルリール始動時の内部抽選により所定の確率にて決定される前記図柄の所定の組み合わせで前記各メカニカルリールの停止制御を行う際、前記複数の位置センサの検出出力に基づいて算定される前記ステッピングモータを駆動すべく発信されるパルス信号の出力回数に換算された前記メカニカルリールの残り回動角度の値と、前記内部抽選にて決定した前記図柄の組み合わせに設定された前記演出用画像の作成および出力開始時期を示す残りパルス信号の出力回数とが一致したときに、前記演出用画像を作成して前記フラットパネルディスプレイに表示する表示制御手段を具備する
ことを特徴とする虚像、実映像重畳表示装置。」
ただし、「メカニカルリール始動時の内部抽選」については、これを文言どおり解すると明らかに新規事項追加となるから、ここでは「メカニカルリール始動に際しての内部抽選」の意味に解釈しておく。

4.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特許第2971903号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?オの記載が図示とともにある。
ア.「遊技に関連した図柄情報を表示することができる表示装置を備えたパチンコ機であって、
前記表示装置は、少なくとも表示原理の異なる2種類の図柄表示部材と、一方の図柄表示部材に表示される図柄情報を透過し且つ他方の図柄表示部材に表示される図柄情報を反射する少なくとも1つのハーフミラーとを有し、
前記表示原理の異なる2種類の図柄表示部材に図柄情報をいずれも動的な態様で表示制御する表示駆動制御手段がそれぞれに対応して個別に設けられ、
前記表示原理の異なる2種類の図柄表示部材にそれそれ表示される2つの図柄を合成して1つの図柄情報として表示し得ることを特徴とするパチンコ機。」(1欄2?14行)
イ.「[発明が解決しようとする課題]・・・2つの表示部材が同一の表示原理を用いた図柄表示器(実施例では、LED表示器)で構成され、・・・2つ設けた表示部材が同一の表示原理を用いた種類のものに限定されるという問題があった。
本発明は、上記した問題点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、装飾性及び変化性に富むと共に、いろいろな種類の表示部材が使用可能な表示装置を備えたパチンコ機を提供することにある。」(2欄14行?3欄19行)
ウ.「遊技盤9は、ほぼ正方形状をなし、その表面には、誘導レール10によって区画された遊技領域11が形成されている。遊技領域11のほぼ中央には、この実施例の要部を構成する遊技に関連した図柄情報を表示することができる表示装置30が設けられ、該表示装置30の下方に開閉部材を有する変動入賞装置13が配設されている。・・・始動入賞口12、14a,14bに打球が入賞することによって図示しない始動入賞検出スイッチ22(ただし、第3図のブロック図に表示)がONし、後述する第1表示器39又は第2表示器41によって表示される図柄情報を変化させ、一定時間経過後、あるいは図示しない変動時間短縮ボタン27(ただし、第3図のブロック図に表示)を遊技客が押圧したときに表示を停止するようになっている。」(4欄12?26行)
エ.「遊技領域11のほぼ中央に設けられる表示装置30は、第2図に示すように、遊技盤9の表面に取り付けられる取付基板31を有し、その取付基板31の後方に凹室33を形成する立方体形状の後方囲枠32が突設成形されている。そして、凹室33には、その前方開口に透明板34が装着されると共に、その内部に前方下端から後方上端にほぼ45度程度傾斜するようにハーフミラー35が設けられている。このハーフミラー35は、光の一部を透過し且つ一部を反射する機能を有するものである。また、後方囲枠32の後面壁及び上面壁には、開口36、37が開設され、その開口36、37に第1表示器39と第2表示器41とが臨むように配置されている。第1表示器39は、後方囲枠32の後面壁の裏面に螺着されるプリント基板38の前面に設けられ、例えば、ドット・マトリックス・ディスプレイによって構成されている。また、第2表示器41は、後方囲枠32の上面壁の上面に螺着されるプリント基板40の前面に設けられ、例えば、7セグメントLEDで構成されている。すなわち、第1表示器39と第2表示器41とは、表示原理の異なる種類の表示器によって構成されている。また、本実施例においては、第1表示器39と第2表示器41とに、それぞれ3列の図柄情報(例えば、0?9までの数字)が可変表示可能なようになっている。なお、3列の図柄情報は、第2表示器41だけで表示し、第1表示器39には、文字情報や図形情報だけを表示するようにしてもよい。」(5欄15?39行)
エ.「パチンコ機1の前面から表示装置30を見ると、第1表示器39だけが表示駆動されているときには、第1表示器39に表示される図柄情報がハーフミラー35及び透明板34を透過して視認することができ、第2表示器41だけが表示駆動されているときには、第2表示器に表示される図柄情報がハーフミラー35を反射し且つ透明板34を透過して視認することができ、両方の表示器39、41が表示駆動されているときには、両表示器39、41に表示される図柄情報がハーフミラー35によって合成された態様で透明板34を透過して視認することができる。」(5欄41?50行)
オ.「表示装置30に設けられる2つの第1表示器39と第2表示器41とが独立した別々の表示器駆動回路55、56によって表示駆動制御されるように構成されているので、表示原理の種類の異なる第1表示器39と第2表示器41とで表示駆動される図柄情報を単独で、あるいは合成して表示することができる。例えば、・・・表示装置30が駆動される初期の段階では、ドット・マトリックス・ディスプレイで構成される第1表示器39だけによる3列の図柄情報を可変表示(中抜き数字を可変表示)する動作が行われ、2列の図柄情報の可変表示が停止したときに、その表示情報が同一で大当りとなる可能性があるときには、未だ可変表示している1列の図柄情報の可変表示態様において、第1表示器39の可変表示に同期させて7セグメントLEDで構成される第2表示器41による図柄情報の可変表示する動作を合成して表示する。これにより、最後まで可変表示する図柄情報が7セグメントLEDで表示される数字を中抜き数字で囲んだ状態で明確に表示しながら可変表示し、最終的に大当りとなったときに、第1表示器39で大当りである旨のメッセージを表示する。・・・遊技者の選択に基づいていずれか一方の表示器39又は41によって可変表示動作を行わせ、その表示結果に基づいて大当り状態を判定するようにしてもよい。」(6欄24行?7欄1行)

5.引用例1記載の発明の認定
記載ウのように、「3列の図柄情報は、第2表示器41だけで表示」を実現するには、第2表示器41を7セグメントLEDで構成した場合、3つの7セグメントLEDが必要なことは自明である。
引用例1は「パチンコ機」について記載した文献であるが、引用例1からはパチンコ機の一部である「表示装置30」の発明も認定することができ、それは次のようなものである。
「パチンコ機に設けられた表示装置であって、
遊技盤表面に取り付けられる取付基板、及び前記取付基板の後方に凹室を形成するように突設成形された立方体形状の後方囲枠を有し、
前記凹室には、その前方開口に透明板が装着されると共に、その内部に前方下端から後方上端にほぼ45度程度傾斜するようにハーフミラーが設けられており、
前記後方囲枠の後面壁及び上面壁に、第1表示器及び第2表示器が配置されており、
前記第1表示器はドット・マトリックス・ディスプレイによって構成され、前記第2表示器は3つの7セグメントLEDで構成されている表示装置。」(以下「引用発明1」という。)

6.補正発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
引用発明1の「パチンコ機」と補正発明の「スロットゲームマシン」は、「ゲームマシン」の限度で一致する。引用発明1の「第1表示器」は、取付基板の後方の後方囲枠の後面壁に配置されているから、「ゲームマシンの筐体前面側に対向する該筐体奥部に内設された」と表現することができ、後面壁に配置されていること及び引用例1【第2図】を参酌すれば「フラットパネルディスプレイ」であることは明らかである。
引用発明1の「第2表示器」は、取付基板の後方の後方囲枠の上面壁に配置されており、この配置を「パチンコ機の筐体前面側」及び「第1表示器」の配置位置との関係で見ると、パチンコ機の筐体前面側と第1表示器とを結ぶ第1の仮想ラインに交差する第2の仮想ライン上に配設されていると表現できるから、引用発明1の「第2表示器」と補正発明の「複数のメカニカルリール」の配置位置に相違はなく、引用発明1の「ハーフミラー」も補正発明同様「前記第1および第2の仮想ラインが交差する一点を含み前記フラットパネルディスプレイ側に傾斜する面内に設けられた」ということができる。さらに、引用発明1の「第2表示器」と補正発明の「複数のメカニカルリール」が、複数の図柄を表示する点で一致することも明らかであるから、以下ではこれらを「図柄表示部」と称する。
ハーフミラーとの配置関係から見て、引用発明1において、ハーフミラーを透過する第1表示器に出力された画像の実像と、ハーフミラーにより反射される図柄(第2表示器に表示されるもの)の虚像とを合成して表示することも明らかであるから、引用発明1を「虚像、実像重畳表示装置」又は「虚像、実映像重畳表示装置」と称することができる。
したがって、補正発明と引用発明1とは、
「ゲームマシンの筐体前面側と、該筐体前面側に対向する該筐体奥部に内設されたフラットパネルディスプレイとを結ぶ第1の仮想ラインに交差する第2の仮想ライン上に配設され、複数の図柄表示部と、
前記第1および第2の仮想ラインが交差する一点を含み前記フラットパネルディスプレイ側に傾斜する面内に設けられたハーフミラーと、
を具備し、
前記ハーフミラーを透過する前記フラットパネルディスプレイに出力された演出用画像の実像と、前記ハーフミラーにより反射される前記図柄の虚像とを合成して表示するゲームマシンにおける虚像、実映像重畳表示装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明の「ゲームマシン」は「操作テーブルが外設されたスロットゲームマシン」であるのに対し、引用発明1の「ゲームマシン」は「パチンコ機」であり、操作部材が存することは当然のこととして認められるものの、操作テーブルが設けられているとまでは認定できない点。
〈相違点2〉補正発明の「図柄表示部」が「周面に所定の図柄が描かれてステッピングモータにて回動制御されるメカニカルリール」であるのに対し、引用発明1のそれは「7セグメントLED」である点。
〈相違点3〉補正発明が「複数のメカニカルリールの回転位置を個別に検出する複数の位置センサとを具備」するのに対し、引用発明1はメカニカルリールを採用していないため、当然同構成を有さない点。
〈相違点4〉補正発明が「メカニカルリール始動時の内部抽選により所定の確率にて決定される前記図柄の所定の組み合わせで前記各メカニカルリールの停止制御を行う際、前記複数の位置センサの検出出力に基づいて算定される前記ステッピングモータを駆動すべく発信されるパルス信号の出力回数に換算された前記メカニカルリールの残り回動角度の値と、前記内部抽選にて決定した前記図柄の組み合わせに設定された前記演出用画像の作成および出力開始時期を示す残りパルス信号の出力回数とが一致したときに、前記演出用画像を作成して前記フラットパネルディスプレイに表示する表示制御手段を具備する」のに対し、引用発明1がかかる表示制御手段を具備するとはいえない点。

7.相違点の判断及び補正発明の独立特許要件の判断
(1)相違点1について
遊技に関連した図柄情報を表示するゲームマシンとして、パチンコ機のほかにスロットマシンが周知であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-269535号公報(以下「引用例2」という。)【図1】に見られるように、操作テーブルと称しうるものを外設(「外設」とは、筐体前面の外に設ける趣旨に解しており、この解釈以外であれば「外設」の意味が著しく不明確となり、特許法36条6項2号に規定する要件を満たさないとの理由により、どのみち補正発明は独立特許要件を欠くことになる。)することは格別珍しいことではない。
そうである以上、相違点1に係る補正発明の構成を採用することは設計事項というべきである。

(2)相違点2について
遊技に関連した図柄情報を表示するために、「周面に所定の図柄が描かれてステッピングモータにて回動制御されるメカニカルリール」を用いることは、引用例2に見られるように周知である。
ところで、引用発明1は「装飾性及び変化性に富むと共に、いろいろな種類の表示部材が使用可能な表示装置」(記載イ)を提供するために、あえて第1表示器と第2表示器を異なる構成としたものである。
そして、「周面に所定の図柄が描かれてステッピングモータにて回動制御されるメカニカルリール」は「7セグメントLED」同様、図柄を表示できるものであって、「7セグメントLED」では表示できないような図柄までも表示できるのだから、装飾性及び変化性という点において、「周面に所定の図柄が描かれてステッピングモータにて回動制御されるメカニカルリール」が「7セグメントLED」に優る点はあっても劣る点はない。
そうである以上、相違点2に係る補正発明の構成を採用することも設計事項というべきである。

(3)相違点3について
引用例1には、3列の図柄情報を可変表示することの記載はあるが、停止図柄をどのように定めるかについての明確な記載はない。
しかし、パチンコ機を含むゲームマシンにおいては、何らかの契機(引用例1記載ウの始動入賞検出スイッチ22ONがこれに相当し、補正発明の「メカニカルリール始動時」もそれ以上の意味を有するとは認めることができない。)により、内部抽選処理を行い、その段階で停止すべき図柄を決定することが広く採用されており、引用発明1においても同手法を採用すると解すべきであり、仮にその解釈ができないとしても同手法を採用することは設計事項というべきである。
他方、引用発明1の「第2表示器」を「周面に所定の図柄が描かれて回転駆動される複数のメカニカルリール」ことが設計事項であることは前示のとおりである。
そして、原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-104311号公報(以下「引用例3」という。本願明細書の段落【0002】に従来技術として紹介されている文献である。)に、「回転ドラム機構40は、図2に示すように、各可変表示部30a?30cを構成する左・中・右の回転ドラム41?43(審決注;機能上補正発明の「メカニカルリール」に対応するものと認める。)と、該回転ドラム41?43を個々に取り付けるドラム取付基板44a?44c・・・を備えている。回転ドラム41?43の外周面には、それぞれ所定配列で複数の特別図柄が描かれており、そのうちの3つの図柄が窓開口32から視認できるようになっている。また、ドラム取付基板44a?44cには、・・・回転ドラム41?43の回転位置を検出するためのドラムセンサ48(図3参照)、がそれぞれ設けられている。」(段落【0017】)とあるように、メカニカルリール又は回転ドラムのような機械式可変表示装置を採用した場合には、回転位置を検出するためのセンサをリール又はドラムごとに設けることが周知である。
そうであれば、相違点2に係る補正発明の構成を採用するに当たり、同時に相違点3に係る補正発明の構成を採用することも設計事項というべきである。

(4)相違点4について
メカニカルリールを採用すること、及びメカニカルリール始動時の内部抽選にて確定した成立役に対応する図柄の組み合わせで図柄停止を行うことが設計事項であることは既に述べたとおりであるから、「メカニカルリール始動時の内部抽選により所定の確率にて決定される前記図柄の所定の組み合わせで前記各メカニカルリールの停止制御を行う」ことも設計事項である。
引用例1には、第1表示器だけで3列の図柄情報を可変表示する場合に、2列の図柄情報の可変表示が停止した後、第1表示器の可変表示に同期させて第2表示器による図柄情報の可変表示する動作を合成して表示することが記載されている。引用例1には、第2表示器だけで3列の図柄情報を可変表示する場合(記載エ)に、第1表示器をいかに表示するか直接的な記載はないものの、第2表示器で2列の図柄情報の可変表示が停止した後に、第2表示器の可変表示に同期させて第1表示器による図柄情報の可変表示する動作を合成することや、最終的に大当りとなったときに、第1表示器で大当りである旨のメッセージを表示する(これらにおいて、第1表示器での表示画像が補正発明の「演出用画像」に相当する。)ことは、十分示唆されているといえる。
そればかりか、引用例3には、「識別情報(特別図柄)を機械式に可変表示すると共にその識別情報の表示結果が予め定めた特定表示結果(大当り図柄)となったときに特定遊技状態を発生し得る機械式可変表示装置(可変表示装置30・30′・80・90・100)を備えた遊技機において、・・・前記識別情報を視認可能に透過する透過表示部材(ハーフミラー59)と、該透過表示部材に投射像を投影表示し得る投影表示手段(投影表示機構50)と、を備え、前記投影表示手段は、キャラクタ像(キャラクタ図柄)を前記投射像として前記透過表示部材に投影表示することを特徴とする。」(段落【0004】)、「図11、図13、図17、及び図18に示すように、前記投影表示手段は、前記識別情報の特定表示態様(スーパーリーチ、リーチ予告、大当り予告、再変動予告)に応じて前記キャラクタ像を投影表示する構成とした場合、キャラクタ像の表示装飾によって大当りやリーチの予告あるいはスーパーリーチ等の特定表示態様を盛り上げることができる。」(段落【0006】)、「投影表示機構50が投影表示するキャラクタ図柄は、後で詳述するリーチ予告用及び大当り予告用の予告図柄と、スーパーリーチ用の図柄A・Bと、大当り確定報知用の図柄C、から構成されている。」(段落【0019】)及び「図11(A)に示すようにスーパーリーチが実行される場合は(図11中では、左右に「7」図柄が揃ったリーチ図柄を例示)、右図柄の停止後であり且つ中図柄の変動中に、図柄Aのセット及びベルトランプ56の点灯が所定時間行われる。これにより、左右の「7」図柄には、図11(B)に示すように、それぞれキャラクタ像からなる図柄Aが特別図柄に重畳表示される。その後、ベルトランプ56を消灯し、図柄Aを解除した後に、図柄Bのセット及びベルトランプ56の点灯が所定時間行われることで、図11(C)に示すように、図柄Bが歩み寄ったキャラクタ像として特別図柄に重畳表示される。そして、大当りが確定した場合には、図11(D)に示すように、ベルトランプ56が消灯されることにより、図柄Bの重畳表示が解除され、所定時間特別図柄の揃った大当り状態のみが表示される。その後、図12に示すように、特別図柄の表示が解除される一方、図柄Cのセット及びベルトランプ56の点灯が行われることで、「大当たり」の文字とキャラクタ像からなる図柄Cが表示画面全体に表示される。」(段落【0029】)との各記載があるところ、引用例3記載の「機械式可変表示装置」及び「投影表示手段」は、機能上引用発明1の「第2表示器」及び「第1表示器」に相当し(ただし、ハーフミラーを透過するのか反射するのかは逆であり、それに伴い実像・虚像の関係も逆になる。)、引用例3には識別情報の表示態様(スーパーリーチの場合には、一部の図柄は停止している。)に応じてキャラクタ像の表示装飾(補正発明の「演出用画像」に相当。)をすることが記載されているのだから、引用発明1においても、「第2表示器」の表示内容(一部の図柄が停止した状態)に応じて、「第1表示器」にて表示を行うことに困難性はなく、「特定表示態様を盛り上げる」には「第1表示器」の表示時期を、第2表示器の表示内容との関係で定める必要があることは明らかである。より具体的には、引用例3記載の「スーパーリーチ」の際の図柄A・Bは、2つの図柄が停止し最後の図柄が停止していない状態で表示されるのであるが、図柄Aは2つの図柄停止後遅滞なく表示されることが好ましいことは明らかといえるから、図柄の停止時期を知った上で、その時期と同期して演出用画像を表示すべきことは自明である。なお、引用例3には、大当り確定報知用の図柄Cは、特別図柄の表示を解除した上で表示する旨記載されているが、特別図柄の表示と重畳して表示しても差し支えないことは明らかであり、その場合にはすべての図柄が停止することに同期して、図柄Cを表示することが好ましいことも明らかである。
ところで、相違点2,3に係る補正発明の構成を採用した場合には、リール停止によって図柄も停止するから、演出用画像を表示するためには、リール停止時期を知る必要があるところ、「複数の位置センサの検出出力に基づいて」各メカニカルリールの現在位置及び停止位置までの残り回動角度が算定されることはいうまでもない。そして、残り回動角度が0になったときにリールが停止することは明らかであるから、停止位置までの残り回動角度の情報に基づいて演出用画像を作成して第1表示器(フラットパネルディスプレイ)に表示することは、演出タイミングを図る上で、当業者が容易に想到できる事項といわなければならない。
また、ステッピングモータにて回動制御されるメカニカルリールにおいては、「メカニカルリールの残り回動角度の値」と「ステッピングモータを駆動すべく発信されるパルス信号の出力回数」は等価であり、所定数のパルス信号分ステッピングモータを駆動することにより、所定位置で停止することは当然であるから、リール停止までにステッピングモータを駆動すべく発信されるパルス信号数が0となる時点で、図柄停止(リール停止)が行われる。
そうであれば、停止位置までの残り回動角度の情報に基づいて演出用画像を作成して第1表示器に表示するに当たり、残り回動角度を「ステッピングモータを駆動すべく発信されるパルス信号の出力回数に換算」した数値として求め、同数値が所定値に達した際に停止するように、該所定値を「前記内部抽選にて決定した前記図柄の組み合わせ」の際に設定しておき(その設定値が補正発明の「前記内部抽選にて決定した前記図柄の組み合わせに設定された前記演出用画像の作成および出力開始時期を示す残りパルス信号の出力回数」に相当する。)、同数値と所定値とが「一致したときに、前記演出用画像を作成して前記フラットパネルディスプレイに表示する表示制御手段を具備する」ことは当業者にとって想到容易である。
なお、請求人は「第1引用例1(審決注;審決の引用例3)の構成は、特別図柄と、キャラクタ像の重畳制御は、ベルトランプ57の点燈/消灯制御と、ベルトモータ54の制御によって、回転ドラム41?43の特別図柄にキャラクタ像を重畳表示する構成である。・・・リールの画像に他の画像を重畳させる際、リールに重畳させる画像の生成方法およびその出力制御の構成は、第1引用例1のものと明らかに異なると考える。」(審判請求書10頁1?11行)と主張しており、この主張に誤りがあるわけではないが、引用例3が「投影表示手段」として「所定部分にキャラクタ図柄を付した透明フィルム状の回転ベルト55が巻回して設けられると共に、その回転ベルト55内からハーフミラー59に光を照射するベルトランプ56がランプカバー57に取り付けられた状態で設けられている。」(段落【0018】)との構成を採用したことに起因する相違であり、引用発明1の第1表示器であれば、かかる相違にはならない。
以上のとおりであるから、相違点4に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(5)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1?4に係る本補正発明の構成を採用することは、設計事項であるか又は当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明1、引用例2,3記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおり、本件補正は特許法17条の2第3項の規定又は平成18年改正前の同法17条の2第4項の規定に違反しており、仮に同条4項2号に該当するとしても、同条5項で準用する同法126条5項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年10月10日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「操作テーブルが設けられたゲームマシンの前面側と該ゲームマシンの筐体奥部に設けられた映像表示部とを結ぶ第1の仮想ラインに交差する第2の仮想ライン上に配設され、周面に所定の図柄が描かれて回転駆動される複数のメカニカルリールと、
前記第1および第2の仮想ラインが交差する一点を含み前記映像表示部または前記ゲームマシンの前面側に傾斜する面内に設けられたハーフミラーと、
前記複数のメカニカルリールの回転位置を個別に検出する複数の位置センサとを具備し、
前記ハーフミラーを透過する前記映像表示部に出力された演出用画像の実像と、前記ハーフミラーにより反射される前記図柄の虚像とを合成して表示するゲームマシンにおける虚像、実像重畳表示装置であって、
ゲーム開始時の内部抽選処理にて確定した成立役に対応する前記図柄の組み合わせで前記各メカニカルリールの停止制御を行う際に、前記複数の位置センサの検出出力に基づいて算定される前記各メカニカルリールの残り回動角度の情報に基づいて前記演出用画像を作成して前記映像表示部に表示する表示制御手段を具備する
ことを特徴とする虚像、実映像重畳表示装置。」

2.本願発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
「第2[理由]6」で述べたことを踏まえると、本願発明と引用発明1とは、
「ゲームマシンの前面側と該ゲームマシンの筐体奥部に設けられた映像表示部とを結ぶ第1の仮想ラインに交差する第2の仮想ライン上に配設され、周面に所定の図柄が描かれて回転駆動される複数の図柄表示部と、
前記第1および第2の仮想ラインが交差する一点を含み前記映像表示部または前記ゲームマシンの前面側に傾斜する面内に設けられたハーフミラーと、
前記ハーフミラーを透過する前記映像表示部に出力された画像の実像と、前記ハーフミラーにより反射される前記図柄の虚像とを合成して表示するゲームマシンにおける虚像、実像重畳表示装置。」である点で一致し、「第2[理由]6」であげた相違点3及び以下の各点で相違する(相違点3については「補正発明」を[本願発明」と読み替える。)。
〈相違点1’〉本願発明の「ゲームマシン」には操作テーブルが設けられているのに対し、引用発明1の「パチンコ機」に操作部材が存することは当然のこととして認められるものの、操作テーブルが設けられているとまでは認定できない点。
〈相違点2’〉本願発明の「図柄表示部」が「周面に所定の図柄が描かれて回転駆動されるメカニカルリール」であるのに対し、引用発明1のそれは「7セグメントLED」である点。
〈相違点4’〉本願発明が「ゲーム開始時の内部抽選処理にて確定した成立役に対応する前記図柄の組み合わせで前記各メカニカルリールの停止制御を行う際に、前記複数の位置センサの検出出力に基づいて算定される前記各メカニカルリールの残り回動角度の情報に基づいて前記演出用画像を作成して前記映像表示部に表示する表示制御手段を具備する」のに対し、引用発明1がかかる表示制御手段を具備するとはいえない点。

3.相違点の判断及び本願発明の進歩性の判断
相違点3については、「第2[理由]7(3)」で述べたとおりであり、相違点1’,相違点2’及び相違点4’については、第2[理由]7(1),(2)及び(4)で述べたと同様の理由により当業者にとって想到容易である(ただし、相違点2についての「ステッピングモータにて回動制御される」点、並びに相違点4について、メカニカルリールの残り回動角度の値をステッピングモータを駆動すべく発信されるパルス信号の出力回数に換算する点、及び同換算値と「前記内部抽選にて決定した前記図柄の組み合わせに設定された前記演出用画像の作成および出力開始時期を示す残りパルス信号の出力回数とが一致したときに」演出用画像を作成・表示する点の検討は不要。)。
そして、これら相違点に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明1、引用例2,3記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-09 
結審通知日 2007-08-14 
審決日 2007-08-28 
出願番号 特願2001-390348(P2001-390348)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
P 1 8・ 575- Z (A63F)
P 1 8・ 572- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤田 真治  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 榎本 吉孝
太田 恒明
発明の名称 虚像、実映像重畳表示装置及び映像表示制御方法、ならびに映像表示制御用プログラム  
代理人 木村 高久  

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