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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C30B
管理番号 1170492
審判番号 不服2003-11135  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-06-18 
確定日 2008-01-10 
事件の表示 平成10年特許願第 74866号「結晶欠陥が少ないシリコン単結晶の製造方法、製造装置並びにこの方法、装置で製造されたシリコン単結晶とシリコンウエーハ」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 3月23日出願公開、特開平11- 79889〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成10年3月9日(優先権主張:平成9年7月9日)の出願であって、平成15年5月9日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年6月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月16日付で手続補正がなされたものである。

II.平成15年7月16日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成15年7月16日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.平成15年7月16日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1乃至13は、
「【請求項1】チョクラルスキー法によってシリコン単結晶を製造する場合において、シリコン溶融液の湯面直上にシリコン単結晶を囲繞するように固液界面断熱材を配置し、シリコン単結晶を囲繞した固液界面断熱材の下端と湯面との間の隙間を3?5cmとし、育成されるシリコン単結晶が結晶成長時に、結晶中の固液界面の形状が、周辺5mmを除いて固液界面の平均値に対し±5mm以内となるように引き上げることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】チョクラルスキー法によってシリコン単結晶を製造する場合において、シリコン溶融液の湯面直上にシリコン単結晶を囲繞するように固液界面断熱材を配置し、シリコン単結晶を囲繞した固液界面断熱材の下端と湯面との間の隙間を3?5cmとし、育成されるシリコン単結晶が結晶成長時に、結晶中の固液界面近傍の1420℃から1350℃の間の温度勾配またはシリコンの融点から1400℃の間の温度勾配G(温度変化量/結晶軸方向長さ)[℃/cm]の値を、結晶中心部分の温度勾配Gc[℃/cm]と結晶周辺部分の温度勾配Ge[℃/cm]との差△G=(Ge-Gc)で表した時、△Gが5℃/cm以内となるように炉内温度を制御することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】磁場を印加したチョクラルスキー法によってシリコン単結晶を製造する場合において、シリコン溶融液の湯面直上にシリコン単結晶を囲繞するように固液界面断熱材を配置し、シリコン単結晶を囲繞した固液界面断熱材の下端と湯面との間の隙間を3?5cmとし、育成されるシリコン単結晶が結晶成長時に、結晶中の固液界面近傍の1420℃から1350℃の間の温度勾配またはシリコンの融点から1400℃の間の温度勾配G(温度変化量/結晶軸方向長さ)[℃/cm]の値を、結晶中心部分の温度勾配Gc[℃/cm]と結晶周辺部分の温度勾配Ge[℃/cm]との差△G=(Ge-Gc)で表した時、△Gが5℃/cm以内となるように炉内温度を制御することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】前記印加される磁場を水平磁場とすることを特徴とする請求項3記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項5】印加する磁場の強度を2000G以上とすることを特徴とする請求項3又は請求項4記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項6】前記結晶中の1300℃から1000℃までの温度域の結晶の長さが8cm以下となるように制御することを特徴とする、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載したシリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】前記結晶中の1300℃から1000℃までの温度域を通過する時間が80分以下となるように制御することを特徴とする、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載したシリコン単結晶の製造方法。
【請求項8】前記結晶中の固液界面近傍の1420℃から1350℃の間の温度勾配またはシリコンの融点から1400℃の間の温度勾配Gと引上げ速度を調節して、結晶全面の引上げ状態をベイカンシー・リッチ領域とインタースティシアル・リッチ領域との境界近辺に合わせ、結晶の全面を欠陥濃度の偏りの少ないニュートラルな領域において引上げを行うようにすることを特徴とする、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載したシリコン単結晶の製造方法。
【請求項9】チョクラルスキー法によってシリコン単結晶を製造する装置において、シリコン溶融液の湯面直上にシリコン単結晶を囲繞するように固液界面断熱材を配置し、シリコン単結晶を囲繞した固液界面断熱材の下端と湯面との間の隙間を3?5cmとし、育成されるシリコン単結晶が結晶成長時に、結晶中の固液界面近傍の1420℃から1350℃の間の温度勾配またはシリコンの融点から1400℃の間の温度勾配G(温度変化量/結晶軸方向長さ)[℃/cm]の値を、結晶中心部分の温度勾配Gc[℃/cm]と結晶周辺部分の温度勾配Ge[℃/cm]との差△G=(Ge-Gc)で表した時、△Gが5℃/cm以内となるように炉内温度を形成することを特徴とする、シリコン単結晶の製造装置。
【請求項10】磁場を印加したチョクラルスキー法によってシリコン単結晶を製造する装置において、シリコン溶融液の湯面直上にシリコン単結晶を囲繞するように固液界面断熱材を配置し、シリコン単結晶を囲繞した固液界面断熱材の下端と湯面との間の隙間を3?5cmとし、育成されるシリコン単結晶が結晶成長時に、結晶中の固液界面近傍の1420℃から1350℃の間の温度勾配またはシリコンの融点から1400℃の間の温度勾配G(温度変化量/結晶軸方向長さ)[℃/cm]の値を、結晶中心部分の温度勾配Gc[℃/cm]と結晶周辺部分の温度勾配Ge[℃/cm]との差△G=(Ge-Gc)で表した時、△Gが5℃/cm以内となるように炉内温度を形成することを特徴とする、シリコン単結晶の製造装置。
【請求項11】請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載した方法によって製造されたシリコン単結晶。
【請求項12】請求項9または請求項10に記載した装置によって製造されたシリコン単結晶。
【請求項13】FPD密度が100ケ/cm^(2)以下であり、かつサイズが10μm以上のSEPD密度が10ケ/cm^(2)以下であって、酸素濃度の面内分布が、5%以下であることを特徴とするシリコンウエーハ。」のとおりに補正された。

2.本件補正に対する判断
本件補正のうち請求項1乃至3に係る補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「育成されるシリコン単結晶が結晶成長時に、結晶中の固液界面の形状が、周辺5mmを除いて固液界面の平均値に対し±5mm以内となるように引き上げる」ことを、「シリコン溶融液の湯面直上にシリコン単結晶を囲繞するように固液界面断熱材を配置し、シリコン単結晶を囲繞した固液界面断熱材の下端と湯面との間の隙間を3?5cmとし」て引き上げることに限定し、補正前の請求項2及び3に記載した発明を特定するために必要な事項である「育成されるシリコン単結晶が結晶成長時に、結晶中の固液界面近傍の1420℃から1350℃の間の温度勾配またはシリコンの融点から1400℃の間の温度勾配G(温度変化量/結晶軸方向長さ)[℃/cm]の値を、結晶中心部分の温度勾配Gc[℃/cm]と結晶周辺部分の温度勾配Ge[℃/cm]との差△G=(Ge-Gc)で表した時、△Gが5℃/cm以内となるように炉内温度を制御する」ことを、「シリコン溶融液の湯面直上にシリコン単結晶を囲繞するように固液界面断熱材を配置し、シリコン単結晶を囲繞した固液界面断熱材の下端と湯面との間の隙間を3?5cmとし」て制御することに限定するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第3号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1乃至13に記載された発明のうち、請求項2に記載された発明(以下、「本願補正発明2」という。)が特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.引用刊行物及びその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-330316号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1a)「チョクラルスキー法でシリコン単結晶を育成する際に、引き上げ速度をV(mm/min)とし、シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/mm)とするとき、V/G値を結晶中心位置と結晶外周から30mmまでの位置との間では0.20?0.22mm^(2)/℃・minとし、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では0.20?0.22mm^(2)/℃・minとするか若しくは結晶外周に向かって漸次増加させることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハ製造方法。」(【請求項2】)
(1b)「このように、CZ法によるシリコン単結晶の育成では、単結晶の径方向全域において無欠陥領域を形成し得るV/Gが存在するにもかかわらず、V/Gが右下がりの曲線であるために、ウェーハ全面を無欠陥とすることができない。
しかしながら、もし仮に、単結晶の径方向においてV/Gを径方向に一定の直線、あるいは外周部において漸増する右上りの曲線とすることができれば、径方向の全域において欠陥の発生を防止することができる。」(段落【0027】?段落【0028】)
(1c)「18”石英坩堝及びカーボン坩堝が設置された6”単結晶の育成可能なCZ炉において、坩堝の周囲に設置された円筒状のカーボンヒーターと坩堝との相対位置、育成結晶の周囲に設置されたカーボンからなる厚さ5mm、開口径200mmの半円錐形状の輻射遮蔽体の先端と融液表面との距離、ヒータ周囲の断熱材構造等の種々条件を総合伝熱計算によって種々検討し、結晶外周から30mmまでの領域を除く部分においてはV/Gがほぼ一定で、外周から30mmまでの領域においては外周に向かってV/Gが単調に増大するように、上記条件を決定した。」(段落【0038】)
(1d)「上記条件を決定した後、18”石英坩堝に高純度多結晶シリコンを65kg入れ、ボロンをドープして、多結晶シリコンを加熱溶解し、直径が150mmで結晶成長方位が〈100〉の単結晶を引き上げ速度が0.45mm/minの低速で長さ1300mmまで育成した。
育成後の結晶を結晶軸方向と平行に厚さ1.5mmで切り出し、HFおよびHNO_(3)からなる混酸溶液中で加工歪を溶解除去し、さらに希HF溶液中に浸漬し、その後超純水でリンスし乾燥させた。このサンプルを800℃/4hr+1000℃/16hr乾燥酸素中で熱処理した後、X線トポグラフによって欠陥の発生分布を調べた。欠陥の分布を図4に示すが、調べた欠陥の分布は以下のように図3の計算結果に対応するものとなった。・・・
引き上げ速度Vと融点から1300℃までの結晶軸方向温度勾配の平均値Gとの比V/Gは、結晶の径方向に中心から45mmの位置まではほぼ一定値で、45mmの位置からは外周部に向かって単調に増大している。・・・
V/Gをこのように管理した結果、結晶トップから・・・400mm近傍では結晶中心から45mmまでの領域でV/Gが0.22?0.20mm^(2)/℃・minに維持され、45mmから外側の領域でV/Gが単調に増加し、これらにより径方向全域でV/Gが無欠陥領域内に管理されたため、径方向全域でOSFリングや赤外散乱欠陥等のその他の有害なGrown-in欠陥の発生は見られなかった。」(段落【0039】?段落【0042】)
(1e)「図3」には、記載事項(1d)に関して、「横軸を結晶径方向位置とし縦軸をV/Gとしたときの両者の関係(V/G曲線)および欠陥分布を示す図表」が記載されており、引き上げ量が「400mm」の場合の外周部での「V/G(mm^(2)/℃・min)」は、「0.22?0.23の範囲内」であることが窺える。

4.対比・判断
引用文献1には、記載事項(1a)のとおり、「チョクラルスキー法でシリコン単結晶を育成する際に、引き上げ速度をV(mm/min)とし、シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/mm)とするとき、V/G値を結晶中心位置と結晶外周から30mmまでの位置との間では0.20?0.22mm^(2)/℃・minとし、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では0.20?0.22mm^(2)/℃・minとするか若しくは結晶外周に向かって漸次増加させることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハ製造方法」が記載されている。そして、記載事項(1c)によれば、この「V/G値を結晶中心位置と結晶外周から30mmまでの位置との間では0.20?0.22mm^(2)/℃・minとし、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では0.20?0.22mm^(2)/℃・minとするか若しくは結晶外周に向かって漸次増加させる」ために、「育成結晶の周囲に設置されたカーボンからなる半円錐形状の輻射遮蔽体の先端と融液表面との距離」を調節しているといえる。
これら記載事項を本願補正発明2の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には、「チョクラルスキー法でシリコン単結晶を育成する際に、育成結晶の周囲に設置されたカーボンからなる半円錐形状の輻射遮蔽体の先端と融液表面との距離を調節して、引き上げ速度をV(mm/min)とし、シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/mm)とするとき、V/G値を結晶中心位置と結晶外周から30mmまでの位置との間では0.20?0.22mm^(2)/℃・minとし、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では0.20?0.22mm^(2)/℃・minとするか若しくは結晶外周に向かって漸次増加させることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハ製造方法」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
そこで、本願補正発明2と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「育成結晶の周囲に設置されたカーボンからなる半円錐形状の輻射遮蔽体」は、育成結晶の周囲部分がシリコン溶融液の湯面直上となることは明らかであるから、本願補正発明2の「シリコン溶融液の湯面直上にシリコン単結晶を囲繞するように固液界面断熱材を配置」することに相当する。また、引用発明1の「輻射遮蔽体の先端と融液表面との距離」は、本願補正発明2の「固液界面断熱材の下端と湯面との間の隙間」に相当する。さらに、引用発明1の「引き上げ速度をV(mm/min)とし、引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/mm)とするとき、V/G値を結晶中心位置と結晶外周から30mmまでの位置との間では0.20?0.22mm^(2)/℃・minとし、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では0.20?0.22mm^(2)/℃・minとするか若しくは結晶外周に向かって漸次増加させる」ことは、記載事項(1b)によれば、「径方向の全域において欠陥の発生を防止する」ために行われているから、本願補正発明2の「結晶中の固液界面近傍の温度勾配G(温度変化量/結晶軸方向長さ)[℃/cm]の値を、結晶中心部分の温度勾配Gc[℃/cm]と結晶周辺部分の温度勾配Ge[℃/cm]との差△G=(Ge-Gc)で表した時、△Gが5℃/cm以内となるように炉内温度を制御する」ことと「結晶全面に亘って極低欠陥密度」となる条件に制御する点で共通している。
したがって、両者は、「チョクラルスキー法によってシリコン単結晶を製造する場合において、シリコン溶融液の湯面直上にシリコン単結晶を囲繞するように固液界面断熱材を配置し、シリコン単結晶を囲繞した固液界面断熱材の下端と湯面との間の隙間を調節し、育成されるシリコン単結晶が結晶成長時に、結晶全面に亘って極低欠陥密度となる条件に制御することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。」で一致し、次の点で相違している。
相違点1:本願補正発明2の「温度勾配」が「結晶中の固液界面近傍の1420℃から1350℃の間の温度勾配またはシリコンの融点から1400℃の間の温度勾配」であるのに対して、引用発明1では、「シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値」である点。
相違点2:本願補正発明2の「結晶全面に亘って極低欠陥密度となる条件に制御する」ことは、「結晶中の固液界面近傍の温度勾配G(温度変化量/結晶軸方向長さ)[℃/cm]の値を、結晶中心部分の温度勾配Gc[℃/cm]と結晶周辺部分の温度勾配Ge[℃/cm]との差△G=(Ge-Gc)で表した時、△Gが5℃/cm以内となるように炉内温度を制御する」ことであるのに対して、引用発明1では、「引き上げ速度をV(mm/min)とし、引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/mm)とするとき、V/G値を結晶中心位置と結晶外周から30mmまでの位置との間では0.20?0.22mm^(2)/℃・minとし、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では0.20?0.22mm^(2)/℃・minとするか若しくは結晶外周に向かって漸次増加させる」ことである点。
相違点3:本願補正発明2では、固液界面断熱材の下端と湯面との間の隙間を「3?5cm」としているのに対して、引用発明1では、具体的な数値は示されていない点。
そこで、上記各相違点について検討する。
相違点1について検討すると、引用発明1の「温度勾配」は、「シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値」である。ここで、計測される温度範囲にシリコン融点を含むことから、引用発明1の「温度勾配」は、固液界面近傍の結晶の温度勾配といえる。また、結晶内の温度が複雑に変化するものでなく、その温度勾配での平均値をとるか2点間の値を用いるかは当業者において任意である。そして、計測される温度範囲が固液界面近傍の温度範囲であれば、その測定範囲を狭くし、2点間の温度勾配としても、引用発明1の「径方向の全域において欠陥の発生を防止する」との効果が変化するものでもない。したがって、引用発明1の「シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値」を「シリコンの融点から1400℃の間の温度勾配」とすることは、単なる設計的事項にすぎず、当業者の格別の創意を要したものとはいえない。
つぎに、相違点2について検討する。
引用文献1には、記載事項(1b)によれば、「単結晶の径方向全域において無欠陥領域を形成し得るV/Gが存在」し、この無欠陥領域を形成し得るV/Gとなるように「V/Gを径方向に一定の直線」とすることによって、径方向全域において無欠陥の単結晶が得られることが示唆されている。そして、単結晶の引き上げ中のある時点での固液界面の中心部と外周部の引き上げ速度は概ね等しいことは明らかであるから、前記「V/Gを径方向に一定の直線」とすることは、固液界面の温度勾配Gを径方向に一定とすることといえる。してみると、引用文献1には、径方向全域において無欠陥の単結晶が得られるように、固液界面近傍の引き上げ軸方向の温度勾配Gが、中心部から外周部に亘って一定とすることが示唆されているといえる。
また、引用文献1の記載事項(1d)には、「結晶トップから・・・400mm近傍では結晶中心から45mmまでの領域でV/Gが0.22?0.20mm^(2)/℃・minに維持され、45mmから外側の領域でV/Gが単調に増加し、これらにより径方向全域でV/Gが無欠陥領域内に管理されたため、径方向全域でOSFリングや赤外散乱欠陥等のその他の有害なGrown-in欠陥の発生は見られなかった。」と記載され、さらに、記載事項(1e)によれば、引き上げ量が「400mm」の場合の外周部での「V/G(mm^(2)/℃・min)」は、「0.22?0.23の範囲内」であるといえるから、引用文献1には、「結晶トップから400mm近傍での結晶中心から外周部のV/Gは、径方向全域で無欠陥領域内に管理され、0.20?0.23mm^(2)/℃・minの範囲内である」ことが記載されているといえる。そして、記載事項(1d)に記載されているように、このときの引き上げ速度は「0.45mm/min」であるから、400mm近傍の成長時の結晶中心から外周部の固液界面の温度勾配Gは、「22.5?19.6℃/cm」の範囲内となり、結晶中心での温度勾配と外周部での温度勾配の差は「2.9℃/min」の幅に収まっている。
以上のことに照らしてみれば、引用発明1において、単結晶の径方向全域において無欠陥領域を形成し得る領域に収まるように、固液界面近傍の結晶中心部分の温度勾配と結晶周辺部分の温度勾配Gとの差を小さくなるように炉内温度を制御することは、当業者であれば容易に想到することであり、その差を5℃/cm以下とすることに格別の創意を要するものともいえない。
また、相違点3について検討すると、引用発明1において、「輻射遮蔽体の先端と融液表面との距離」は、記載事項(1b)のとおり、「坩堝の周囲に設置された円筒状のカーボンヒーターと坩堝との相対位置」、「ヒータ周囲の断熱材構造」等の種々の条件を考慮ながら、「結晶外周から30mmまでの領域を除く部分においてはV/Gがほぼ一定で、外周から30mmまでの領域においては外周に向かってV/Gが単調に増大するように」決定されるものであるから、上記相違点2で検討したような温度分布となるように、その距離を最適化することは、当業者が適宜なし得ることである。しかも、本願補正発明2において、固液界面断熱材の下端と湯面との間の隙間が「3cm」あるいは「5cm」であることに臨界的意義は認められないから、引用発明1において、「輻射遮蔽体の先端と融液表面との距離」を「3?5cm」とすることは、単なる設計的事項にすぎない。
そして、本願補正発明2の効果についてみてみると、「ウェーハ全面がほぼ無欠陥のシリコン単結晶を製造できる」との効果ついては、引用文献1にも、記載事項(1c)に「径方向の全域において欠陥の発生を防止することができる」と記載されている。また、「ウェーハ面内の酸素濃度分布が改善される」との効果についてみてみると、単結晶中の酸素濃度分布が融液の温度分布に依存することは、当該技術分野において自明な事項であるから、上記したように、結晶中の固液界面近傍の温度勾配の差を小さくすれば、それに応じて融液の温度分布が改善し、酸素濃度分布が改善することは、当業者であれば容易に予測できるものである。したがって、本願補正発明2の効果は、引用文献1から当業者が容易に予測できる範囲のものである。
以上のとおり、本願補正発明2は、引用文献1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、平成18年改正前特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

III.本願発明について
平成15年7月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、その請求項1乃至16に係る発明は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至16に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項2に記載された発明(以下、「本願発明2」という。)は次のとおりである。
「【請求項2】チョクラルスキー法によってシリコン単結晶を製造する場合において、育成されるシリコン単結晶が結晶成長時に、結晶中の固液界面近傍の1420℃から1350℃の間の温度勾配またはシリコンの融点から1400℃の間の温度勾配G(温度変化量/結晶軸方向長さ)[℃/cm]の値を、結晶中心部分の温度勾配Gc[℃/cm]と結晶周辺部分の温度勾配Ge[℃/cm]との差△G=(Ge-Gc)で表した時、△Gが5℃/cm以内となるように炉内温度を制御することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。」

IV.引用刊行物及びその記載事項
引用刊行物、並びにそれら記載事項は、前記「II.3.引用刊行物及びその記載事項」に記載したとおりである。

V.対比・判断
本願発明2は,前記「II.」で検討した本願補正発明2から「育成されるシリコン単結晶が結晶成長時に、結晶中の固液界面近傍の1420℃から1350℃の間の温度勾配またはシリコンの融点から1400℃の間の温度勾配G(温度変化量/結晶軸方向長さ)[℃/cm]の値を、結晶中心部分の温度勾配Gc[℃/cm]と結晶周辺部分の温度勾配Ge[℃/cm]との差△G=(Ge-Gc)で表した時、△Gが5℃/cm以内となるように炉内温度を制御する」ことの限定事項である「シリコン溶融液の湯面直上にシリコン単結晶を囲繞するように固液界面断熱材を配置し、シリコン単結晶を囲繞した固液界面断熱材の下端と湯面との間の隙間を3?5cmとし」で制御するとの構成を省いたものである。
そうすると、本願発明2の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明2が、前記「II.4.対比・判断」に記載したとおり、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明2も同様の理由により、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI.むすび
したがって、本願請求項2に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-07 
結審通知日 2007-11-13 
審決日 2007-11-27 
出願番号 特願平10-74866
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三崎 仁横山 敏志  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 斉藤 信人
宮澤 尚之
発明の名称 結晶欠陥が少ないシリコン単結晶の製造方法、製造装置並びにこの方法、装置で製造されたシリコン単結晶とシリコンウエーハ  
代理人 好宮 幹夫  

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