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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680042 審決 特許
無効200680104 審決 特許
無効200680093 審決 特許
無効2007800032 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A63F
管理番号 1170574
審判番号 無効2006-80059  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-04-12 
確定日 2008-01-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第2136842号発明「可変表示装置付遊技機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
主立った手続を箇条書きにすると次のとおりである。
・昭和60年12月18日 本件出願
・平成6年7月6日 特公平6-51070号公報として出願公告
・平成7年6月28日 明細書についての手続補正
・平成9年1月27日 明細書についての手続補正
・平成10年6月19日 特許第2136842号として設定登録(発明の数1)
・平成18年4月12日 請求人大森幸子より本件特許に対して本件無効審判請求
・同年6月30日 被請求人より答弁書及び訂正請求書提出(この訂正請求を、以下「本件訂正」という。)
・同年8月4日 請求人より弁駁書提出
・平成19年10月29日 被請求人より意見書提出

第2 当事者の主張
1.請求人の主張
(1)本件訂正について
本件訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものであるから、特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に適合しない。
(2)訂正前の発明の進歩性
本件発明は、後記甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法29条2項の規定に反してされた特許であり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
(3)訂正後の発明に対する主張
仮に本件訂正が認められるとしても、後記甲第4号証?甲第6号証を参酌すれば、本件発明は依然として進歩性を欠如する。
(4)甲号各証
請求人の提出した証拠は次のとおりである。
甲第1号証:特開昭59-186580号公報
甲第2号証:特開昭59-200674号公報
甲第3号証:特開昭60-230242号公報
甲第4号証:特開昭60-48771号公報
甲第3号証:特開昭60-58186号公報
甲第3号証:特開昭60-119975号公報

2.被請求人の主張
本件訂正は適法であり、本件発明は進歩性を欠如するものではない。
被請求人は、訂正が適法であることの証拠として、乙第1号証として平成12年(行ケ)第275号判決(判決言渡し 平成14年2月27日)を提出している。

第3 訂正の許否の判断
1.訂正事項
本件訂正は、特許請求の範囲の訂正を訂正事項に含んでおり、訂正前後の請求項1の記載は次のとおりである。
(本件訂正前の請求項1)(平成9年1月27日付け手続補正により補正されたもの)
「複数種類の識別情報が描かれた回転体が回転することにより前記複数種類の識別情報を可変表示可能な可変表示装置を有し、該可変表示装置の可変停止時の表示結果が予め定められた特定の識別情報となった場合に所定の遊技価値が付与可能となる可変表示装置付遊技機であって、
前記回転体を回転駆動させるためのモータと、
前記可変表示装置付遊技機の制御データが記憶されるランダムアクセスメモリと、
該ランダムアクセスメモリに記憶された制御データを利用して前記可変表示装置付遊技機を制御する制御手段と、
前記ランダムアクセスメモリに記憶されている制御データの異常を検出する手段であって、前記ランダムアクセスメモリのうちの所定のアドレスに記憶されているデータを読出してその読出されたデータが狂ったデータであることにより、異常検出を行なう異常検出手段と、
該異常検出手段が前記制御データの異常を検出したことに基づいて、前記ランダムアクセスメモリに記憶されている制御データを初期化する異常制御防止手段とを含み、
前記所定のアドレスに記憶されているデータは、遊技動作の制御に用いられることのない異常判別用のデータであり、遊技動作制御用のプログラムが実行されている最中に書換動作が行なわれない状態のまま前記異常検出手段による読出検出が行なわれるものであり、
前記異常検出手段は、前記ランダムアクセスメモリの記憶データ自体の異常チェックとしては、前記読出されたデータの異常チェック動作以外は行なわず、
前記異常制御防止手段は、前記異常検出手段の異常検出に基づいて行なう異常制御防止用動作としては、前記ランダムアクセスメモリの初期化動作以外は行なわないことを特徴とする、可変表示装置付遊技機。」

(本件訂正後の請求項1)
「複数種類の識別情報が描かれた回転体が回転することにより前記複数種類の識別情報を可変表示可能な可変表示装置を有し、コインの投入を検出して遊技者のスタート操作を検出したときに前記可変表示装置を可変開始させ、該可変表示装置の可変停止時の表示結果が予め定められた特定の識別情報となった場合に所定の遊技価値が付与可能となる可変表示装置付遊技機であって、
前記回転体を回転駆動させるためのモータと、
前記可変表示装置付遊技機の制御データが記憶されるランダムアクセスメモリと、
該ランダムアクセスメモリに記憶された制御データを利用して前記可変表示装置付遊技機を制御する制御手段と、
前記ランダムアクセスメモリに記憶されている制御データの異常を検出する手段であって、前記ランダムアクセスメモリのうちの所定のアドレスに記憶されているデータを読出してその読出されたデータが狂ったデータであることにより、異常検出を行なう異常検出手段と、
該異常検出手段が前記制御データの異常を検出したことに基づいて、前記ランダムアクセスメモリに記憶されている制御データを初期化する異常制御防止手段とを含み、
前記制御手段は、前記可変表示装置の可変開始以後のコインの投入を禁止し、
前記所定のアドレスに記憶されているデータは、遊技動作の制御に用いられることのない異常判別用のデータであり、遊技動作制御用のプログラムが実行されている最中に書換動作が行なわれない状態のまま前記異常検出手段による読出検出が行なわれるものであり、
前記異常検出手段は、定期的に実行される割込みプログラムにより前記異常検出を行ない、かつ、前記ランダムアクセスメモリの記憶データ自体の異常チェックとしては、前記読出されたデータの異常チェック動作以外は行なわず、
前記異常制御防止手段は、前記異常検出手段の異常検出に基づいて行なう異常制御防止用動作としては、前記ランダムアクセスメモリの初期化動作以外は行なわないことを特徴とする、可変表示装置付遊技機。」

2.実質上特許請求の範囲を変更するか否かの検討
願書に添付した明細書(以下「特許明細書」という。)には、[発明が解決しようとする課題]として、「従来の可変表示装置付遊技機においては、回転体を回転させるべく電気的に回転駆動するモータが用いられているために、そのモータがノイズの発生源となり、前記制御用のマイクロコンピュータに設けられているランダムアムセスメモリ(RAM)内のデータが異常なデータとなり、制御が狂ってしまうというおそれがあった。特に、可変表示装置付遊技機の場合には、遊技場に設置されて遊技が行われるのが一般的であり、遊技場においては人の出入りが多く、かつ大勢の人の熱気等により、塵や湿気や雑音等が溢れている。このような状況下では、マイクロコンピュータの制御信号に、ノイズが混じりやすく、ノイズによる制御の異常がより発生しやすい環境となっている。本発明は、かかる実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、ノイズの発生しやすい環境下で遊技が行われる可変表示装置付遊技機にノイズの発生源となるモータを搭載したとしても、ノイズ等による制御の異常を防止することができるようにすることである。」(被請求人が訂正請求書に添付した公告公報の訂正公報部分1頁右欄下から10行?2頁左欄8行。実質的に同内容の記載が公告公報3欄21?38行にもある。)との記載がある。これによれば、訂正前発明の課題は、「ノイズの発生しやすい環境下で遊技が行われる可変表示装置付遊技機にノイズの発生源となるモータを搭載したとしても、ノイズ等による制御の異常を防止する」ことにあり、「異常検出手段」及び「異常制御防止手段」により同課題が達成されている。
本件訂正前の請求項1の上記記載のうち「複数種類の識別情報が描かれた回転体が回転することにより前記複数種類の識別情報を可変表示可能な可変表示装置を有し、該可変表示装置の可変停止時の表示結果が予め定められた特定の識別情報となった場合に所定の遊技価値が付与可能となる可変表示装置付遊技機であって、
前記回転体を回転駆動させるためのモータと、
前記可変表示装置付遊技機の制御データが記憶されるランダムアクセスメモリと、
該ランダムアクセスメモリに記憶された制御データを利用して前記可変表示装置付遊技機を制御する制御手段」は、「従来の可変表示装置付遊技機」が備える構成にほかならない。そうである以上、訂正前発明の特徴が「異常検出手段」及び「異常制御防止手段」を備え、請求項1に記載された「異常チェック動作」及び「異常制御防止用動作」を行うことのみにあることは明らかであり、この特徴構成はまさに、上記課題を達成するに必要な構成であって、それ以外のものではない。
本件訂正後の請求項1には、「コインの投入を検出して遊技者のスタート操作を検出したときに前記可変表示装置を可変開始させ、」及び「前記制御手段は、前記可変表示装置の可変開始以後のコインの投入を禁止し、」との各記載があり、これはコイン投入による遊技であることを前提とした上での制御手段の制御動作を限定するものであるが、上記前提や制御動作は「異常検出手段」及び「異常制御防止手段」とは何の関係もない。
この点被請求人は、訂正後の請求項1に係る発明(以下「訂正発明」という。)と甲第2号証記載の発明との相違点5として、上記訂正事項に起因する相違点をあげた上で、「可変表示部の可変開始以後すなわちモータの回転駆動後においては、コインの投入を禁止することにより制御手段が投入コインの検出信号の入力を受付ける必要をなくしたために、可変表示部の可変開始以後においても継続して投入コインの検出信号の入力を受付ける場合に比べて、モータから発生したノイズが投入コインの検出信号の入力線から制御手段内に侵入して制御手段が誤検出する不都合を極力防止できる。」(答弁書19頁11?16行)と主張している。しかし、被請求人が主張する作用効果は、訂正明細書に記載されていないし、真実「モータから発生したノイズが投入コインの検出信号の入力線から制御手段内に侵入して制御手段が誤検出する不都合」があるのかどうか疑義がある。
仮に被請求人の主張する作用効果があるとしても、訂正前発明の異常検出とは「ランダムアクセスメモリに記憶されている制御データの異常」検出であり、同じく異常制御防止用動作とは「ランダムアクセスメモリに記憶されている制御データを初期化する」ことであって、要するにランダムアクセスメモリに記憶されている制御データに関連した異常だけが対象となっている。これに対し、被請求人の主張する不都合は、ノイズに関連した不都合であるとはいえるものの、訂正前発明における異常とは意味合いが全く異なる。
かえって、上記訂正事項によれば、可変開始以後のコインの投入を禁止することにより、禁止しない場合に当然必要とされるコインの受付処理を省略するという、訂正前の発明とは無関係な新たな技術思想を追加するものであるから、本件訂正は実質上特許請求の範囲を変更するものといわざるを得ない。もとより、特許請求の範囲を減縮すれば、減縮したことにより訂正前発明の目的がより具体化される、又は同目的の達成程度が変更されることは十分にあり、そのような訂正であれば特許請求の範囲の実質変更に該当しないことは当審も認めるが、本件訂正はそのようなものとは全く性質を異にしている。
被請求人は、本件訂正により、本件特許発明の目的・効果が訂正されていないと主張するが、訂正明細書において目的・効果を訂正しなければ、実質上特許請求の範囲を変更することに該当しないのだとすると、目的・効果を訂正さえしなければ、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がすべて、実質上特許請求の範囲を変更しないものとして許容されることになり、訂正目的の制限とは別に、実質上特許請求の範囲を変更しないことを訂正要件として定めたことの趣旨が没却されることとなるから、被請求人の主張を採用することはできない。
なお、平成12年(行ケ)第275号判決は、訂正事項が訂正前発明の目的の範囲内であり、新たな技術的課題を解決する手段を追加したことに当たらないことを理由として、決定を取り消すべき判示した判決であり、本件とは事案を異にする。

3.訂正の許否の判断の結論
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に適合しない。
よって、本件訂正を認めない。

第3 本件審判請求についての判断
1.本件発明の認定
本件訂正が認められないから、請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲【請求項1】、すなわち「第2 1」において「本件訂正前の請求項1」として記したとおりのものと認める。そして、請求人はこれを次のように分説している。
「(A)複数種類の識別情報が描かれた回転体が回転することにより前記複数種類の識別情報を可変表示可能な可変表示装置を有し、該可変表示装置の可変停止時の表示結果が予め定められた特定の識別情報となった場合に所定の遊技価値が付与可能となる可変表示装置付遊技機であって、
(B)前記回転体を回転駆動させるためのモータと、
(C)前記可変表示装置付遊技機の制御データが記憶されるランダムアクセスメモリと、
(D)該ランダムアクセスメモリに記憶された制御データを利用して前記可変表示装置付遊技機を制御する制御手段と、
(E)前記ランダムアクセスメモリに記憶されている制御データの異常を検出する手段であって、前記ランダムアクセスメモリのうちの所定のアドレスに記憶されているデータを読出してその読出されたデータが狂ったデータであることにより、異常検出を行なう異常検出手段と、
(F)該異常検出手段が前記制御データの異常を検出したことに基づいて、前記ランダムアクセスメモリに記憶されている制御データを初期化する異常制御防止手段とを含み、
(G)前記所定のアドレスに記憶されているデータは、遊技動作の制御に用いられることのない異常判別用のデータであり、遊技動作制御用のプログラムが実行されている最中に書換動作が行なわれない状態のまま前記異常検出手段による読出検出が行なわれるものであり、
(H)前記異常検出手段は、前記ランダムアクセスメモリの記憶データ自体の異常チェックとしては、前記読出されたデータの異常チェック動作以外は行なわず、
(I)前記異常制御防止手段は、前記異常検出手段の異常検出に基づいて行なう異常制御防止用動作としては、前記ランダムアクセスメモリの初期化動作以外は行なわないことを特徴とする、可変表示装置付遊技機。」

2.進歩性欠如理由の概要
請求人は、本件発明を上記のとおり分説した上で、構成要件(A)?(D)は甲第1号証(以下「甲1」と略記する。甲2,甲3も同様。)に、構成要件(E)?(I)は甲2及び甲3に記載されていると主張している。

3.甲1記載の発明と本件発明の対比
甲1には、以下のア?オの記載が図示とともにある。
ア.「スタートレバーの操作により回転駆動される複数のリールと、これらのリールを停止させるリールストップ手段とを有するスロットマシンにおいて、前記リールの回転駆動後に、順次発生される乱数列から一つの乱数を特定するサンプリング手段と、前記特定された乱数が確率テーブル中のいかなる群に属するかを比較照合する手段と、前記比較照合の結果を入賞ランク別のリクエスト信号として出力するリクエスト発生手段と、前記リクエスト信号を評価し、前記リールのストップ位置を設定すると共に、前記リールストップ手段を制御するリールストップ制御手段とを備えたことを特徴とするスロットマシン。」(1頁左下欄5?18行の特許請求の範囲第1項)
イ.「前記リールがパルスモータにより回転駆動される特許請求の範囲第1?5項のいずれかに記載のスロットマシン。」(2頁左上欄3?5行の特許請求の範囲第6項)
ウ.「第2図は第1図のスロットマシンのリール観察窓部を詳細に図示したものである。このスロットマシンでは、・・・第2図において各窓21A?21Cからは各リールのシンボルマークSがそれぞれ3個づつ見える」(3頁左上欄18行?右上欄5行)
エ.「スタートレバー操作により、3つのリールが回転され、所定時間の経過後、後述するヒットリクエストの設定(入賞の有無を照合)を行なってリールストップのためのストップボタンの操作の有効化およびその表示のためのストップランプ(第1図中27に対応)を点灯させる。第4図における判断プロセスP1、P2、P3はそれぞれ、回転中の3個のリールについて、ストップボタン操作がされたか否かによって判断処理される。そしてストップボタンに対応したリールが回転中、かつストップボタンが操作された場合に、そのリールをストップさせることになる。従って、例えば3個のリールのいずれからストップ操作されてもよいことになり、P4の判断プロセスであるすべてのリールが停止した判断が得られるとゲーム終了となり、例えば第5図のフローチャートに従って入賞判定処理、入賞の場合メダル払い出し処理がなされる。」(3頁左下欄4行?右下欄1行)
オ.「RAM52にはゲーム開始後にサンプリングされる乱数値を一時的に保存するメモリ、およびヒットリクエストカウンタをストアするメモリあるいは後述するように、回転リールのコードナンバー、シンボルナンバーなどのデータを一時記憶するメモリなどが用意されている。」(4頁左上欄11?16行)

記載ウの「シンボルマークS」及び「リール」は、本件発明の「識別情報」及び「回転体」にそれぞれ相当し、「3つのリール」全体で「複数種類の識別情報を可変表示可能な可変表示装置」を構成しており、記載エの「入賞判定処理」において、「可変表示装置の可変停止時の表示結果が予め定められた特定の識別情報となった場合」に入賞と判定されることは明らかであるから、甲1記載の「スロットマシン」が構成要件(A)の「可変表示装置付遊技機」であることは請求人主張のとおりである。
記載イによれば、構成要件(B)が甲1に記載されていることも明らかである。
記載オの「RAM52」は「ランダムアクセスメモリ」であり、「可変表示装置付遊技機を制御する制御手段」が甲1記載のスロットマシンに存在することは明らかであって、同記載によれば「ゲーム開始後にサンプリングされる乱数値」、「ヒットリクエストカウンタ」、「回転リールのコードナンバー」又は「シンボルナンバー」などのデータが、構成要件(C),(D)の「制御データ」に該当するといえるから、甲1記載のスロットマシンは構成要件(C)及び(D)を備えている。
すなわち、甲1には、
「複数種類の識別情報が描かれた回転体が回転することにより前記複数種類の識別情報を可変表示可能な可変表示装置を有し、該可変表示装置の可変停止時の表示結果が予め定められた特定の識別情報となった場合に所定の遊技価値が付与可能となる可変表示装置付遊技機であって、
前記回転体を回転駆動させるためのモータと、
前記可変表示装置付遊技機の制御データが記憶されるランダムアクセスメモリと、
該ランダムアクセスメモリに記憶された制御データを利用して前記可変表示装置付遊技機を制御する制御手段とを含む可変表示装置付遊技機。」(以下「甲1発明」という。)が記載されており、本件発明と甲1発明の一致点が、請求人主張のとおり「構成要件(A)?(D)を備えた可変表示装置付遊技機。」であることは当審も認める。
また、その裏返しとして、本件発明と甲1発明の相違点は、構成要件(E)?(I)の有無の点につきることも認める。

4.相違点の判断及び本件発明の進歩性の判断
(1)構成要件(E),(G)及び(H)の有無について
構成要件(E),(G)及び(H)は、何れも異常チェック動作に関する構成要件であるから、まとめて検討する。
(1-1)甲2と構成要件(E),(G)及び(H)の関係
甲2には、以下のカ?ケの各記載がある。
カ.「読出し及び書替え可能なメモリ(以下RAMという)19は各アドレスチビツトで構成され、動作プログラムを記憶するプログラム記憶領域(000番地?70F番地)と第8図に示すように各種データを記憶するデータ記憶領域(800番地?BF1番地)とで構成されている。このデータ記憶領域はメインデータ記憶領域(800番地?81D番地)とそのメインデータが何らかの原因で壊れて間違つた内容が書込まれた場合にそれぞれメインデータと同じ内容をバツクアツプデータとして記憶する第1のバツクアツプデータ記憶領域(980番地?991番地)及び第2のバツクアツプデータ記憶領域(BE0番地?BF1番地)とから構成されている。」(2頁右下欄9行?3頁左上欄3行)
キ.「制御回路14はRAM19の800,801番地に実施例の場合「05AH」の内容のスタートデータ(RCHK1)が、又81C,81D番地に本実施例の場合「0A5H」の内容のエンドデータ(RCHK2)がそれぞれ書込まれているがどうか判定(スタートエンドデータチエツク)する。・・・制御回路14は次にBE0,BE1番地に本実施例の場合「05AH」の内容のバツクアツプ2スタートデータ(BKUPD2)が書込まれているがどうか判定(バツクアツプ2スタートデータチエツク)する。・・・制御回路14は次に980,981番地に本実施例の場合「05AH」の内容のバツクアツプスタートデータ(BKUPD)が書込まれているかどうか判定(バツクアツプスタートデータチエツク)する。そして、前記と同様に書込まれていないので、制御回路14はメインデータを初期設定するルーチン(初期設定ルーチン)に移る。」(3頁右上欄9行?左下欄8行)
ク.「初期設定ルーチンが終了すると、次に演算制御回路14はメインデータに異常があるかどうか判定(メインデータ異常チエツク)する。すなわち、制御回路14は前記各LEDデータと80A番地のフイーバーフラグ(FVRF)の内容(フイーバー中は「0FH」、それ以外は「0」の内容)が異常かどうか判断し、異常であればプログラム動作を停止し、リセツト回路16からのリセツト信号SG5の入力を待ち、反対に異常でない場合には次のチエツクサム算出及びストアルーチンを実行する。
チエツクサム算出及びストアルーチンに移ると、制御回路14はまずメイン記憶領域(802番地?80F番地)の各データ値を加算し、その加算値(チエツクサム)をRAM19の810,811番地にチエツクサムデータ(CHKSM)としてストアする。
次に制御回路14はスタート及びエンドデータセツトルーチンすなわち、前記800、801番地に「05AH」の内容のスタートデータを、又前記81C,81D番地に「0A5H」の内容のエンドデータをそれぞれ書込み処理した後、バツクアツプデータ作成ルーチンを実行する。そして、バツクアツプデータ作成ルーチンにおいて、制御回路14は980,981番地に前記800,801番地のスタートデータをバツクアツプスタートデータ(BKUPD)として、又982番地?98F番地の第1のバツクアツプデータ記憶領域に802番地?80F番地のメインデータをバツクアツプデータ(BCKUP)として、さらに982,983番地に前記81C,81D番地のチエツクサムデータをバツクアツプチエツクサムデータ(BCKUP)として書込み処理を行う。
次に制御回路14は次にバツクアツプ2データ作成ルーチンを実行し、BE0,BE1番地に前記800,801番地のスタートデータをバツクアツプ2スタートデータ(BKUPD2)として、又第2のバツクアツプデータ記憶領域のBE2番地?BEF番地に802番地?80F番地のメインデータをバツクアツプ2データ(BCKUP2)として、さらにBF0,BF1番地に81C,81D番地のチエツクサムデータをバツクアツプ2チエツクサムデータ(BCKSM2)として書込み処理した後、前記リセツト回路16からリセツト信号SG5が入力されるまで次の動作を停止する。」(3頁右下欄12行?4頁右上欄17行)
ケ.「チエツクサムチエツクはRAM19の802番地?80F番地の各データ値を加算し、その値が810、811番地のチエツクサムデータと一致するかどうかチエツクする。そして、一致する場合には後記するスタート及びエンドデータクリアルーチンに移り、反対に何らかの原因(例えばノイズ等)でRAM19のメインデータの内容が壊れて一致しない場合には前記バツクアツプ2スタートデータチエツクを行う。そして、この場合、前記したようにすでにBE0、BE1番地に「05AH」の内容のバツクアツプ2スタートデータがストアされているため、制御回路14は次に前記したバツクアツプ2データが正しいかどうかの判定(バツクアツプ2チエツクサムチエツク)を行う。」(4頁左下欄7行?右下欄1行)

これら記載によると、RAM(本件発明の「ランダムアクセスメモリ」に相当)のデータ記憶領域はメインデータ記憶領域、第1のバツクアツプデータ記憶領域及び第2のバツクアツプデータ記憶領域に分かれており、各領域の先頭部分にスタートデータ「05AH」を記憶し、各領域のそれに続く部分にデータを記憶し、さらにそれに続く部分にチエツクサムデータを記憶しており、メインデータ記憶領域の末尾部分にはエンドデータ「0A5H」を記憶している。
これらのデータは何れも、構成要件Eの「所定のアドレスに記憶されているデータ」に該当するけれども、構成要件Gの「遊技動作の制御に用いられることのないデータ」に該当するのは、スタートデータ、チエツクサムデータ及びエンドデータのみである。
そして、スタートデータ及びエンドデータについては、「読出されたデータが狂ったデータ」であるかどうかの判断はしておらず、「異常判別用のデータ」であるともいえない。
残るはチエツクサムデータであり、このデータが「異常判別用のデータ」であることは当審も認めるが、チエツクサムデータは各データ値(スタートデータ、チエツクサムデータ又はエンドデータ以外のデータであり、遊技動作の制御に用いられるデータ)の加算値であって、異常判別においては、遊技動作の制御に用いられるデータを加算し、それとチエツクサムデータを比較している。その比較結果が不一致であれば「メインデータの内容が壊れて」いると判断するのであるが、不一致の原因が遊技動作の制御に用いられるデータにあるのかそれともチエツクサムデータにあるのかはわからないから、チエツクサムデータが狂ったデータであることを判断する(構成要件(E))ことにはならない。
したがって、構成要件(E),(G)及び(H)が甲2に記載されていると認めることはできず、これに反する請求人の主張を採用することはできない。

(1-2)甲3と構成要件(E),(G)及び(H)の関係
甲3には、以下のコ?シの各記載がある。
コ.「この発明では、プロセッサが有する揮発性メモリ内に、キーワード設定用のキーワードエリアが設けられる。上記プロセッサは、当該プロセッサへのリセット信号入力時に、上記キーワードエリア内のキーワードの読出しを行ない、読出しエラー発生、または期待するキーワードと異なる場合には電源断(電源断→電源投入)によるリセットと判定し、読出しエラーがなく且つ期待するキーワードと一致する場合には電源断以外のリセットと判定する。」(2頁左上欄14行?右上欄3行)
サ.「RAM13の記憶領域には、トレースエリア14、およびワークエリア15など周知のエリアの他に、所定の(規則性のある)キーワードが設定されるキーワードエリア16が割当てられる。」(2頁右上欄12?16行)
シ.「ステップS13での判定がYES判定の場合、マイクロプロセッサ11は電源断以外の要因によるリセットであると判断し、まずRAM13のトレースエリア14に、エラー状態情報や実行情報など必要な情報を格納する(ステップS14)。次にマイクロプロセッサ11は、ワークエリア15をクリア(“0”書込み)する(ステップS15)。」(3頁左上欄11?17行)

甲3記載の「キーワードエリア内のキーワード」が、甲3記載のRAM13を遊技機に使用した場合(それが容易であることは認める。)に、「ランダムアクセスメモリのうちの所定のアドレスに記憶されているデータ」(構成要件(E))及び「遊技動作の制御に用いられることのない異常判別用のデータであり、遊技動作制御用のプログラムが実行されている最中に書換動作が行なわれない状態のまま前記異常検出手段による読出検出が行なわれるもの」(構成要件(G))に該当することは認める。しかし、甲3におけるキーワード読み出しは、リセット原因が電源断なのかそれ以外なのかを判別するために行われるのであって、期待するキーワードと一致した(読出されたデータが狂っていない)場合にも、ワークエリアをクリアするのだから、何らかのリセット原因が存することが判明していることを前提とした上で、リセット原因の判別に用いられているにすぎない。当然「前記異常検出手段は、前記ランダムアクセスメモリの記憶データ自体の異常チエックとしては、前記読出されたデータの異常チエック動作以外は行なわず」(構成要件(H))には該当しない。

(1-3)構成要件(E),(G)及び(H)の容易想到性
構成要件(E),(G)及び(H)の全体は甲2,甲3の何れにも記載されていないから、甲1発明に甲2又は甲3記載の技術を適用しても、構成要件(E),(G)及び(H)に至らないことは明らかである。
また、甲2記載のスタートデータ又はエンドデータは甲3記載のキーワード同様、遊技動作の制御に用いられることのないデータであり、遊技動作制御用のプログラムが実行されている最中に書換動作が行なわれない状態のデータであるところ、これを甲3記載の技術に従い「異常判別用のデータ」とすることは当業者にとって想到容易であろうが、その場合であっても、構成要件(H)に至ることは容易ではない。なぜなら、甲3によれば、キーワードが一致していてもワークエリアをクリアしているのだから、甲2記載のスタートデータ又はエンドデータに狂いがなくとも、それ以外のデータに狂いがないことは保証されないからである。
すなわち、構成要件(E),(G)及び(H)に至るためには、スタートデータ又はエンドデータのような「遊技動作の制御に用いられることのない異常判別用のデータであり、遊技動作制御用のプログラムが実行されている最中に書換動作が行なわれない状態のまま」のデータに狂いがあるかどうかを判別することが、それ以外のデータについて狂いがあるかどうかを予見する情報となり、それ以外のデータの狂いを判別する必要がないことが導かれなければならないが、そのようなことを甲2,3から導くことができない。
以上のとおりであるから、構成要件(E),(G)及び(H)に至ることは当業者といえども想到容易ではない。

(2)構成要件(F)の容易想到性
ランダムアクセスメモリを初期化することは甲2及び甲3に記載されており、構成要件(F)に至ることは当業者にとって想到容易である。

(3)構成要件(I)の容易想到性
甲2記載の技術では、ランダムアクセスメモリのデータ記憶領域には、メインデータ記憶領域だけでなく第1のバツクアツプデータ記憶領域及び第2のバツクアツプデータ記憶領域を設けているが、バツクアツプデータ記憶領域を設ければそれだけ多くの記憶容量を必要とする。バツクアツプデータ記憶領域をなくし記憶容量を節約することは設計事項というべきである。そして、バツクアツプデータ記憶領域がないことを前提とすれば、「前記異常検出手段の異常検出に基づいて行なう異常制御防止用動作としては、前記ランダムアクセスメモリの初期化動作以外は行なわないこと」も設計事項であるから、構成要件(F)に至ることは当業者にとって想到容易である。

(4)本件発明の進歩性の判断
以上によれば、構成要件(F)及び(I)に至ることは当業者にとって想到容易であるが、請求人の主張する理由及び提出した証拠によっては、構成要件(E),(G)及び(H)に至ることは当業者といえども想到容易ではないから、本件発明が甲1?甲3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたと認めることはできない。

第4 むすび
以上によれば、請求人の主張する理由によって、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定において準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-09 
結審通知日 2007-11-13 
審決日 2007-11-29 
出願番号 特願昭60-286472
審決分類 P 1 123・ 121- YB (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荒巻 慎哉  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 渡部 葉子
小原 博生
登録日 1998-06-19 
登録番号 特許第2136842号(P2136842)
発明の名称 可変表示装置付遊技機  
代理人 中田 雅彦  
代理人 青木 俊明  
代理人 深見 久郎  
代理人 森田 俊雄  
代理人 根本 恵司  
代理人 杉山 猛  
代理人 塚本 豊  

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