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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) E01C
管理番号 1170635
判定請求番号 判定2007-600063  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2008-02-29 
種別 判定 
判定請求日 2007-08-24 
確定日 2008-01-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第2623491号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びイ号説明書に示す「切削オーバーレイ工法」は、特許第2623491号特許の技術的範囲に属さない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求人である株式会社ハネックス・ロードは、判定請求書のイ号図面及びイ号説明書に示す「切削オーバーレイ工法」(以下「イ号工法」という)が、特許第2623491号の発明の技術的範囲に属するとの判定を求めるものである。

第2 本件特許発明
本件特許第2623491号の発明(以下、「本件特許発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、これを構成要件に分説すると次のとおりである。
A マンホール枠を含む舗装の切削オーバーレイ工法において、
B(a)マンホール枠周囲の舗装が筒状に切断されると共に切断舗装版及びマンホール枠が撤去される工程、
C(b)マンホール基壁上に支持蓋が仮設されると共に支持蓋の周囲の空胴部に舗装材が打設される工程、
D(c)舗装表面がマンホール基壁上の舗装材表面も含めて切削されると共に切削面にオーバーレイが施工される工程、
E(d)マンホール枠の設置予定域周囲の舗装がオーバーレイ上から筒状に切断されると共に切断舗装版及び支持蓋が撤去される工程、
F(e)マンホール基壁上にマンホール枠の据え付け基礎が構築されると共に据え付け基礎上にマンホール枠がその上面をオーバーレイ表面の高さに合わせて設置される工程、及び
G(f)マンホール枠周囲の空洞部に舗装材がオーバーレイ表面の高さまで打設される工程からなる
H 切削オーバーレイ工法。

第3 イ号工法
請求人が提出した判定請求書中の「イ号工法の技術的構成」、判定請求書に添付して提出したイ号図面及びイ号説明書(別添参照)によれば、イ号工法は、次のとおり特定される。
【イ号工法】
(A)マンホール枠(1a)を含む道路舗装の切削オーバーレイ工法であり、
(B-1)カッター(13)により、マンホール枠の周囲で舗装(2)の表面から所定深さの円環状の切削溝(14)を切削する工程(図1)、
(B-2)第1のマンホールリムーバ(5a)により、前記切削溝(14)で囲まれた舗装版(4)とマンホール枠(1a)を引き上げ撤去する工程(図3)、
(B-3)前記第1のマンホールリムーバ(5a)は、前記切削溝(14)の外周に合わせて舗装(2)の表面に接地されるリング状の押さえ枠(15)と、マンホール枠(1a)の内部に挿入された状態で求心遠心方向に移動する係合爪(16)と、該係合爪(16)をリフト用ロッド(17)を介して昇降させる油圧シリンダ(18)を備えており、(マル1)マンホール基壁(3)の上の調整ブロック(11a)とマンホール枠(1a)と舗装版(4)を一挙に引き上げ撤去する場合と、(マル2)マンホール枠(1a)と舗装版(4)を引き上げ撤去した後に調整ブロック(11a)を引き上げ撤去する場合と2方法がある。
前記(マル1)の場合、係合爪(16)を遠心方向に移動させてマンホール基壁(3)と調整ブロック(11a)との間に挿入し(図2)、その状態で油圧シリンダ(18)によりリフト用ロッド(17)を介して係合爪(16)を上昇させ、その反力で押さえ枠(15)を舗装(2)の表面に押し付け、切削溝(14)を外周輪郭とするように舗装版(4)を剪断し、調整ブロック(11a)とマンホール枠(1a)と舗装版(4)を一挙に引き上げ撤去する(図3)。
前記(マル2)の場合、係合爪(16)を遠心方向に移動させて調整ブロック(11a)とマンホール枠(1a)の間に挿入した状態で、油圧シリンダ(18)によりリフト用ロッド(17)を介して係合爪(16)を上昇させ、その反力で押さえ枠(15)を舗装(2)の表面に押し付け、切削溝(14)を外周輪郭とするように舗装版(4)を剪断し、マンホール枠(1a)と舗装版(4)を一挙に引き上げ撤去した後、再び下降させた係合爪(16)を遠心方向に移動させてマンホール基壁(3)と調整ブロック(11a)との間に挿入した状態で、油圧シリンダ(18)によりリフト用ロッド(17)を介して係合爪(16)を上昇させ、調整ブロック(11a)を引き上げ撤去する。
(C-1)前記引き上げ撤去により形成された空洞部(S1)の底部に位置するマンホール基壁(3)の上に、中心部に連結手段(19a)を有する仮蓋(6)を仮設することにより、マンホール基壁(3)の開口を塞ぐ工程(図4)、
(C-2)仮蓋(6)の周囲の空胴部(S1)に仮復旧材(7)を打設することにより道路を仮復旧する工程(図5)、
(D)舗装(2)の表面を前記仮復旧材(7)も含めて切削し、切削面(8)にオーバーレイ(9)を施工する工程(図6)、
(E-1)カッター(13)により、仮蓋(6)の周囲でオーバーレイ(9)の表面から所定深さの円環状の切削溝(20)を切削形成する工程(図7)、
(E-2)オーバーレイ(9)の表面から仮蓋(6)の中心部に至る穴(21)を穿孔し、連結手段(19a)を露出させる工程(図7)、
(E-3)第2のマンホールリムーバ(5b)により、前記切削溝(20)で囲まれた舗装版(10)と仮蓋(6)を引き上げ撤去する工程(図8)、
(E-4)前記第2のマンホールリムーバ(5b)は、前記切削溝(20)の外周に合わせてオーバーレイ(9)の表面に接地されるリング状の押さえ枠(22)と、穴(21)に挿入された状態で仮蓋(6)の連結手段(19a)に連結される連結手段(19b)と、該連結手段(19b)をリフト用ロッド(23)を介して昇降させる油圧シリンダ(24)を備えており、前記連結手段(19a)(19b)を連結した状態で、油圧シリンダ(24)によりリフト用ロッド(23)を介して仮蓋(6)を引き上げ、その反力で押さえ枠(22)をオーバーレイ(9)の表面に押し付け、切削溝(20)を外周輪郭とするように舗装版(10)を剪断し、仮蓋(6)と舗装版(10)を一挙に引き上げ撤去する(図8)。
(F-1)前記引き上げ撤去により形成された空洞部(S2)の底部に位置するマンホール基壁(3)の上に、調整ブロック(11b)を設置する工程(図9)、
(F-2)調整ブロック(11b)の上にマンホール枠(1a)の上面がオーバーレイ(9)の表面に合わせられるように設置し、マンホール枠(1a)を固定ボルト(図示省略)で固定する工程(図9)、
(G)マンホール枠(1a)の周囲の空洞部(S2)にモルタル(12a)を打設し、該モルタル(12a)の上方に復旧材(12b)をオーバーレイ(9)の表面の高さまで舗装施工する工程から成る
(H)切削オーバーレイ工法。

第4 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、判定請求書において、概略次の理由によりイ号工法は、本件特許発明の技術的範囲に属する旨主張している。
(1)イ号工法の構成(A)は、本件特許発明の構成要件Aを充足する。
(2)イ号工法の構成(B-1)の「カッター(13)により、マンホール枠の周囲で舗装(2)の表面から所定深さの円環状の切削溝(14)を切削する」は、本件特許発明の構成要件Bのうち、「マンホール枠周囲の舗装が筒状に切断される」に該当し、構成(B-2)の「切削溝(14)で囲まれた舗装版(4)とマンホール枠(1a)を引き上げ撤去する」は、構成要件Bのうち「切断舗装版及びマンホール枠が撤去される」に該当するから、イ号工法の構成(B-1)及び(B-2)は、本件特許発明の構成要件Bを充足する。
(3)イ号工法の構成(C-1)は、本件特許発明の構成要件Cのうち「マンホール基壁上に支持蓋が仮設される」に該当し、構成(C-2)の「仮復旧材(7)」は、本件特許発明の「舗装材」に該当し、構成(C-2)の「仮蓋(6)の周囲の空胴部(S1)に仮復旧材(7)を打設する」は、本件特許発明の構成要件Cのうち「仮蓋(6)の周囲の空胴部(S1)に仮復旧材(7)を打設する」に該当するから、イ号工法の構成(C-1)、(C-2)は、本件特許発明の構成要件Cを充足する。
(4)イ号工法の構成(D)は、本件特許発明の構成要件Dを充足する。
(5)イ号工法の構成(E-1)は、本件特許発明の構成要件Eのうち「マンホール枠の設置予定域周囲の舗装がオーバーレイ上から筒状に切断される」に該当し、構成(E-3)は、本件特許発明の構成要件Eのうち「切断舗装版及び支持蓋が撤去される」に該当するから、イ号工法の構成(E-1)、(E-3)は、本件特許発明の構成要件Eを充足する。
(6)イ号工法の構成(F-1)は、本件特許発明の構成要件Fのうち「マンホール基壁上にマンホール枠の据え付け基礎が構築される」に該当し、構成(F-2)は、本件特許発明の構成要件Fのうち「据え付け基礎上にマンホール枠がその上面をオーバーレイ表面の高さに合わせて設置される」に該当するから、イ号工法の構成(F-1)、(F-2)は、本件特許発明の構成要件Fを充足する。
(7)イ号工法の構成(G)の「モルタル(12a)と復旧材(12b)」は、本件特許発明の「舗装材」に該当するから、イ号工法の構成(G)は、本件特許発明の構成要件Gを充足する。
(8)したがって、イ号工法は本件特許発明の技術的範囲に属する。

2.被請求人の主張
被請求人は、判定請求答弁書において、イ号工法は、本件特許発明の構成要件B、C、Eを充足していない旨主張し、その理由を次のように主張している。
(1)イ号工法の構成(B-1)ないし(B-4)では、カッター(13)により、マンホール枠の周囲で舗装(2)の表面から所定深さの円環状の切削溝(14)を切削し、切削溝(20)の外周に合わせて舗装(2)の表面をリング状の押さえ枠(15)で押さえ、マンホールリムーバ(5a)により、前記切削溝(14)で囲まれた舗装版(4)とマンホール枠(1a)を引き上げることにより、切削溝(14)を外周輪郭とするように舗装版(4)を剪断し、マンホール枠(1a)と舗装版(4)を一挙に引き上げ撤去する」ようになっている。
本件特許発明の構成要件Bでは、「切断」の深さが少なくともマンホール枠に達する深さであることを要することは明らかであり、イ号工法の構成(B-1)ないし(B-4)は、本件特許発明の構成要件Bを充足していない。
(2)イ号工法の構成(C-1)の「仮蓋」は、舗装版(10)の剪断に必要な強度を備えているが、本件特許発明の構成要件Cの「支持蓋」はこのような強度は要求されないから、イ号工法の構成(C)は、本件特許発明の構成要件Cを充足していない。
(3)イ号工法の構成(E-1)ないし(E-4)は、イ号工法の構成(B-1)ないし(B-4)についてと同様の理由で、本件特許発明の構成要件Eを充足していない。

第5 対比・判断
請求人は、イ号工法を被請求人が現実に実施しているかどうか不知であるとしているところ、被請求人も、イ号工法を実施ないし実施を予定していることについて実証していないが、判定制度の趣旨に鑑み、イ号工法が実施された場合を仮定して、以下判断する。

本件特許発明とイ号工法とを対比する。
(1)イ号工法の構成(A)は、本件特許発明の構成要件Aを充足している。
(2)イ号工法の構成(B-1)ないし(B-4)と、本件特許発明の構成要件Bを対比する。
本件特許発明の構成要件Bは、「マンホール枠周囲の舗装がオーバーレイ上から筒状に切断される工程」と「切断舗装版及びマンホール枠が撤去される工程」からなる。
本件特許明細書には、構成要件Bの「筒状に切断」について次のように記載されている。
「前記工程(a)において、マンホール枠周囲の舗装を四角形に切断する旧来の舗装工法、或は特公昭61-25844号公報や特公昭61-33938号公報に開示されるように、マンホール枠周囲の舗装を円形状に切断する改良された舗装工法等における前段の工程に従って、マンホール枠周囲の舗装の筒状切断及び切断舗装版及びマンホール枠の撤去が行われる。」(段落【0005】)、
「マンホール枠周囲或はマンホール枠の設置予定域周囲の舗装の切断等に際して、切断手段に特別の制限はない。円筒状切断の場合に、例えば特公昭61-52283号公報に開示されるような円筒状ビットを備えた路面円形切断機を好適に利用でき、またオーバーレイ上から切断中心を特定するために金属探知機等の公知の探知手段を使用して内部の支持蓋の位置を確認してもよい。マンホール枠周囲の切断舗装版は、ブレーカーを使用する破砕により撤去されてもよいが、作業性の向上や騒音振動の防止等の観点から特公昭61-33938号公報に開示されるようにマンホール枠に付着したままで撤去されることが好ましい。切断舗装版及びマンホール枠を一体的に撤去するために、例えば実開昭59-156942号公報や実開昭59-193679号公報に開示されるように、マンホール枠とマンホール基壁との間にマンホール枠内部から放射状に拡縮するくさび体やアームを挿入するようにしたマンホール枠引き上げ機やマンホール枠剥離機等を必要に応じて利用できる。」(段落【0006】)。
これらの記載によれば、本件特許発明は、マンホール周囲の舗装版を切断し、この切断された舗装版とマンホール枠とを撤去しようとするものであるから、構成要件Bの「筒状に切断」とは、その深さは限定されていないものの、少なくともマンホール枠が撤去できる深さまで切断されることは明らかである。
一方、イ号工法の構成(B-1)ないし(B-4)では、舗装版の表面に円環状の切削溝が設けられるにすぎず、切削溝の底部からマンホール枠に至る舗装版は切断されておらず、マンホールリムーバ(5a)によるマンホール枠引き上げに伴って剪断され、撤去されるものである。
したがって、イ号工法の構成(B-1)ないし(B-4)は本件特許発明の構成要件を充足していない。
(3)イ号工法の構成(C-1)の「仮蓋」は、マンホール基壁上に仮置きされる蓋であるから、本件特許発明の「支持蓋」に相当し、イ号工法の構成(C-2)の「仮復旧材(7)」は、本件特許発明の「舗装材」に該当するから、構成(C-1)、(C-2)は、本件特許発明の構成要件Cを充足している。
なお、被請求人は、イ号工法の構成(C-1)の「仮蓋」と本件特許発明の構成要件Cの「支持蓋」とは強度が異なる旨主張しているが、本件特許発明の「支持蓋」の強度は限定されておらず構成が異なるとはいえない。
(4)イ号工法の構成(D)は、本件特許発明の構成要件Dを充足している。
(5)イ号工法の構成(E-1)ないし(E-4)と、本件特許発明の構成要件Eを対比する。
本件特許明細書には、構成要件Eの「筒状に切断」について、「工程(d)において、マンホール枠の設置予定域周囲の舗装が前記工程(a)と同様の手段でオーバーレイ上から筒状に切断されると共に切断舗装版及び支持蓋が撤去される。」(段落【0005】)と記載されているから、構成要件Bと同様に、舗装版は、支持蓋が撤去できる深さまで切断されることは明らかである。
一方、イ号工法の構成(E-1)ないし(E-4)においては、構成(B-1)ないし(B-4)と同様に、円環状の切削溝は表面に設けられるにすぎず、舗装版は切断されておらず、マンホールリムーバ(5a)によるマンホール枠引き上げに伴って剪断され、撤去されるものであるから、イ号工法の構成(E-1)ないし(E-4)、本件特許発明の構成要件Eを充足していない。
(6)イ号工法の構成(F-1)及び(F-2)は、本件特許発明の構成要件Fを充足している。
(7)イ号工法の構成(G)、(H)は、本件特許発明の構成要件G、Hを充足している。
(8)したがって、イ号工法は、本件特許発明の構成要件B、Eを充足していないから、本件特許発明の技術的範囲に属するとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり、イ号工法は、本件特許発明の技術的範囲に属さない。
 
別掲
 
判定日 2007-12-26 
出願番号 特願平3-359362
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (E01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 恒明  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 峰 祐治
砂川 充
登録日 1997-04-11 
登録番号 特許第2623491号(P2623491)
発明の名称 切削オーバーレイ工法  
代理人 大塚 明博  
代理人 中野 収二  

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