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審決分類 審判 全部無効 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否  G02F
審判 全部無効 4項(134条6項)独立特許用件  G02F
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  G02F
管理番号 1171281
審判番号 無効2006-80091  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-05-16 
確定日 2007-04-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2047880号発明「液晶セル」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 本件の経緯の概要

本件特許第2047880号についての手続きの経緯の概要は以下のとおりである。

昭和62年 2月28日 特許出願(優先権主張1986年2月28日、仏国)
平成 8年 4月25日 特許権設定登録
平成17年 6月20日 訂正審判請求(訂正2005-39104)
平成17年 7月20日 訂正審決(認容)
平成18年 5月16日 本件無効審判請求(無効2006-80091)
平成18年 9月 1日 答弁書並びに訂正請求書提出
平成18年12月21日 口頭審理(無効2006-80067と併合して審理。口頭審理終了後併合を解除。)

なお、口頭審理に当り、請求人は口頭審理陳述要領書、同(2)、同(3)を、被請求人は口頭審理陳述要領書、同(2)を同日付で提出した。

第2 請求人の請求の趣旨及び理由の概要

請求人(有限会社 Trigence Semiconductor)は、「特許第2047880号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の甲第1号証ないし甲第15号証(甲第1号証ないし甲第12号証については審判請求書に、甲第13号証ないし甲第15号証については口頭審理陳述要領書に添付したものである。)を提示し、以下の理由により、本件発明に係る特許は、無効にすべきものであると主張している。

無効理由1:
平成17年7月20日付訂正審決で認容された訂正は、“実質上特許請求の範囲を拡張または変更する”訂正に該当するから、平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合しないので、その特許は特許法第123条第1項第8号の規定に該当し、無効とされるべきである(なお、下線は当審が付した。以下同じ。)。

無効理由2:
平成17年7月20日付訂正審決で認容された訂正後の特許請求の範囲に記載された発明は、甲第9号証および同甲第10号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、“独立して特許を受けることができない”ものであるから、平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に適合しないので、その特許は特許法第123条第1項第8号の規定に該当し、無効とされるべきである。


甲第 1号証:特公平7-69536号公報
甲第 2号証:訂正2004-39228審判請求書
甲第 3号証:訂正2004-39228訂正拒絶理由通知書
甲第 4号証:訂正2004-39228面接記録(平成17年1月6日)
甲第 5号証:訂正2004-39228請求取下書
甲第 6号証:訂正2005-39104審判請求書
甲第 7号証:訂正2005-39104審決
甲第 8号証:SEMIカラーTFT液晶ディスプレイ改訂版編集委員会編,「カラーTFT液晶ディスプレイ」,改訂版,共立出版株式会社,2005年10月30日,31?35,57?59,214?217頁
甲第 9号証:特開昭60-256121号公報
甲第10号証:特開昭50-92756号公報
甲第11号証:特願昭62-46621号明細書
甲第12号証:特願昭62-46621号拒絶理由通知書(平成5年3月16日付)
甲第13号証:訂正2004-39228意見書(平成17年2月10日)
甲第14号証:佐藤進著,「液晶の世界」,産業図書株式会社,平成6年4月15日,64?69頁
甲第15号証:松村明編,「大辞林」,第三版,株式会社三省堂,2006年10月27日,857頁

第3 被請求人の主張

被請求人(コミサリア ア レネルジ アトミック)は、証拠方法として下記の乙第1号証および乙第2号証を提示して、本件審判の請求は成り立たない旨主張している。


乙第1号証: Shin-Tson Wu, et al., "Mylar-film-compensated π and parallel-aligned liquid crystal cells for direct-view and projection displays", Appl. Phys. Lett. 64 (16), 18 April 1994
乙第2号証: J.C. Martinez-Anton, "Measurement of spectral refractive indices and thickness for biaxial weakly absorbing films. Application to stretched poly(ethylene terephthalate)(PET) sheets in the IR", Optical Materials 19 (2002), 335-341

第4 訂正の適否に対する判断(無効理由1および2についての当審の判断)

請求人が、平成17年7月20日付訂正審決(認容)に対し、無効理由1および2を主張したところ、被請求人は、訂正請求を行った。そこで、当審は、本件無効審判における訂正請求の可否についての検討をするにあたり、無効理由1および2についても併せて検討することとする。

1.請求の要旨(平成18年8月11日付訂正請求)

本件訂正請求の要旨は、平成17年7月20日付訂正審決により訂正された特許第2047880号の特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものである。
被請求人(コミサリア ア レネルジ アトミック)が求める訂正の内容は、以下のとおりである。

【訂正事項】
訂正前の請求項1である
「【請求項1】電気制御複屈折効果を利用し、一方の側が入射光に面していると共に等間隔に配置された両側を有する1つの液晶セル組立体を備える液晶セルにおいて、前記液晶セル組立体は、正光学異方性のネマチック液晶層と、少なくとも2つの電極と、入射光を偏光するための少なくとも1つの偏光手段と、前記ネマチック液晶層の複屈折を補償するための少なくとも1つの補償媒体層とを備え、前記少なくとも2つの電極のそれぞれは前記ネマチック液晶層の両側に配置され、入射光に面した前記一方の側に配置された電極は透明であり、前記電極間に電圧が印加されていない時は前記ネマチック液晶層の分子が略ホメオトロピック方向に向いており、前記少なくとも1つの偏光手段は前記入射光に面した側に配置されており、前記少なくとも1つの補償媒体層は、斜めからの観察を向上させるための補償媒体層であり、該補償媒体層は、ホメオトロピック方向に対して平行な対称軸と、この対称軸に対して平行な異常軸とを有する負光学異方性の一軸媒体、または最小主屈折率の軸はホメオトロピック方向に対して平行である二軸媒体であり、前記少なくとも1つの補償媒体層は3つの主屈折率を有し、それぞれの主屈折率はそれぞれに対応した軸を有し、前記主屈折率の1つは他の2つの主屈折率よりも小さく、この最小主屈折率に対応した軸は前記ホメオトロピック方向と平行になっていることを特徴とする液晶セル。」
を、
「【請求項1】電気制御複屈折効果を利用し、一方の側が入射光に面していると共に等間隔に配置された両側を有する1つの液晶セル組立体を備える液晶セルにおいて、前記液晶セル組立体は、正光学異方性のネマチック液晶層と、少なくとも2つの電極と、入射光を偏光するための少なくとも1つの偏光手段と、前記ネマチック液晶層の複屈折を補償するための少なくとも1つの補償媒体層とを備え、前記少なくとも2つの電極のそれぞれは前記ネマチック液晶層の両側に配置され、入射光に面した前記一方の側に配置された電極は透明であり、前記電極間に電圧が印加されていない時は前記ネマチック液晶層の分子が略ホメオトロピック方向に向いており、前記少なくとも1つの偏光手段は前記入射光に面した側に配置されており、前記少なくとも1つの補償媒体層は、斜めからの観察を向上させるための補償媒体層であり、該補償媒体層は、ホメオトロピック方向に対して平行な対称軸とこの対称軸に対して平行な異常軸とを有する負光学異方性の一軸媒体であり、前記少なくとも1つの補償媒体層は3つの主屈折率を有し、それぞれの主屈折率はそれぞれに対応した軸を有し、前記主屈折率の1つは他の2つの主屈折率よりも小さく、この最小主屈折率に対応した軸は前記ホメオトロピック方向と平行になっていることを特徴とする液晶セル。」
と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否(無効理由1)

2-1.請求人の無効理由1についての主張
上記訂正に対し、請求人は次のように無効理由を主張している。
(1)「本件訂正の前後で『補償媒体層』が『ホメオトロピック構造体』でなくてもよくなったこと、一方で、『該補償媒体層は、ホメオトロピック方向に対して平行な対称軸とこの対称軸に対して平行な異常軸とを有する負光学異方性の一軸媒体、または最小主屈折率の軸はホメオトロピック方向に対して平行な二軸媒体』であるという限定が付されていることは、特許請求の範囲を対比すれば明らかである。
そして、本件訂正の結果、『補償媒体層』として、『ホメオトロピック構造』ではないが『最小主屈折率の軸はホメオトロピック方向に対して平行な二軸媒体』であるところの、現在広汎に利用されているディスコティック構造の視野拡大フィルムまで該当するにいたっている。」(審判請求書10頁7?16行)

(2)「審決は、『該補償媒体層は、ホメオトロピック方向に対して平行な対称軸と、この対称軸に対して平行な異常軸とを有する負光学異方性の一軸媒体、または最小主屈折率の軸はホメオトロピック方向に対して平行である二軸媒体』が『ホメオトロピック構造』であることを前提に、あたかもこれを明確に記載したものであるとしている。この点は必ずしも正しくない。なぜなら、『該補償媒体層は、ホメオトロピック方向に対して・・・二軸媒体』という限定は、必ずしもホメオトロピック構造を前提としないからである。現に、現在広汎に使用されているディスコティック構造体を有する視野拡大フィルムは、『ホメオトロピック構造』ではないが『該補償媒体層は、ホメオトロピック方向に対して・・・二軸媒体』という限定要件は満たす。・・・したがって、審決の『よって、本件訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり』という点は誤りであり、」(審判請求書13頁1?13行)

2-2.訂正の目的の適否について
請求項1についての「または最小主屈折率の軸はホメオトロピック方向に対して平行である二軸媒体であり、」なる事項を削除する訂正は、訂正前の請求項1の補償媒体層が、「ホメオトロピック方向に対して平行な対称軸と、この対称軸に対して平行な異常軸とを有する負光学異方性の一軸媒体、または最小主屈折率の軸はホメオトロピック方向に対して平行である二軸媒体」、すなわち、「負光学異方性の一軸媒体」と、「二軸媒体」との両者を含むものであったのを、「二軸媒体」を削除して「負光学異方性の一軸媒体」のみとする訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。

2-3.新規事項の有無、及び拡張・変更の存否について
本件訂正請求は、請求人の上記2-1.(1)の主張において(本件特許査定時には)、
a)「ホメオトロピック構造体であり」
であったものを、平成17年7月20日付訂正審決(訂正2005-39104)で、
b)「補償媒体層であり、該補償媒体層は、ホメオトロピック方向に対して平行な対称軸と、この対称軸に対して平行な異常軸とを有する負光学異方性の一軸媒体、または最小主屈折率の軸はホメオトロピック方向に対して平行である二軸媒体であり、」
と訂正したとしているものを、さらに
c)「補償媒体層であり、該補償媒体層は、ホメオトロピック方向に対して平行な対称軸とこの対称軸に対して平行な異常軸とを有する負光学異方性の一軸媒体であり、」
と訂正することを求めるものである。
そして、上記2-2.で検討したように、上記c)は上記b)から「または最小主屈折率の軸はホメオトロピック方向に対して平行である二軸媒体」を削除することにより限定的に減縮した訂正であって、その他の部分については何ら変わりがないから、以下では便宜上、上記a)から上記c)に至る訂正が、新規事項を追加するものであるか、また、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更する訂正に該当するか、について検討する。

(1)上記c)は、「一実施態様においては、2つの偏光手段は、直交直線偏光体であり、補償媒体層は、ホメオトロピック方向に対して平行な対称軸と、この対称軸に対して平行な異常軸とを有する負光学異方性の一軸媒体である。
・・・・・・中略・・・・・・
他の実施態様によれば、2つの偏光手段は、直交直線偏光体であり、補償媒体層は、二軸媒体であり、最小主屈折率の軸は、ホメオトロピック方向に対して平行である。」(特許公告公報3頁左欄29?47行)との記載から明らかなように本件特許明細書に記載された範囲内の事項である。
また、補償媒体層に関し上記a)の特定事項を含む本件特許査定時の請求項1と、同じく上記a)に代えて上記c)の特定事項を含む本件訂正請求の請求項1とは、補償媒体層に関し、両者に共通する
d)「前記少なくとも1つの補償媒体層は3つの主屈折率を有し、それぞれの主屈折率はそれぞれに対応した軸を有し、前記主屈折率の1つは他の2つの主屈折率よりも小さく、この最小主屈折率に対応した軸は前記ホメオトロピック方向と平行になっていること」なる特定事項をさらに有する。
上記d)は、補償媒体層が、ホメオトロピック方向と平行な最小屈折率に対応した軸を有し、他の二軸についてはそれら方向の屈折率が上記ホメオトロピック方向の屈折率よりも大きな屈折率であることを規定しているから、上記d)には、上記他の二軸の方向の屈折率が、それぞれ異なる屈折率である場合と、同じ屈折率である場合の双方が含まれるものと解される。そして、上記「異なる屈折率である場合」および「同じ屈折率である場合」が、それぞれ「二軸媒体」および「負光学異方性の一軸媒体」に相当することは当業者に明らかである。
それゆえ、上記c)は、上記d)に含まれる事項ということができるから、少なくとも上記c)の事項が、訂正前においては、技術的範囲外であったものが、訂正後には包含されることになってしまうものでないことは明らかである。

(2)次に、a)「ホメオトロピック構造体」について検討する。
本件特許公告公報には、補償媒体層が「ホメオトロピック構造体」であることに関し、いかなる意味においても技術的説明が記載されているとはいえない。
すなわち、本件特許公告公報には、その2頁右欄46?48行に「少なくとも1つの補償媒体層は、斜めからの観察を向上させるためのホメオトロピック構造体であり、・・・」との記載があるが、当該記載は、(発明の概要)の項の中で請求項1をそのまま繰り返す記述にすぎず、補償媒体層が「ホメオトロピック構造体」であることを技術的に説明したものではない。
その他、補償媒体層のものの構造・材料等に関連すると思われる本件特許公告公報の記載を列挙すると、
「前記補償媒体層はポリマー材料から作製されている・・・」(請求項4,8)
「前記ポリマー材料は熱可塑性である・・・」(請求項5,9)
「補償媒体層はポリマー材料から作製され、また、ポリマー材料は熱可塑性であることが好ましい。」(3頁左欄33?35行)
「補償板16はDupont de NemoursからSURLYNの商品名で発売されている熱可塑性ポリマーを素材とする・・・」(3頁右欄45?47行)
「プレート20および22は、Rhone Poulencから発売され、約3.5?4μmの厚みを有し、屈折率がN1o=1.660、N2o=1.6425、N3e=1.500のセロハンシートとする。」(4頁左欄45?48行)
などが記載されているのみであり、これらの記載からは、それら補償媒体層を構成する材料が「ホメオトロピック構造体」を構成すると解すべき理由は見出せない。
一方で、「ホメオトロピック構造体」に類似する用語である「ホメオトロピック構造」「ホメオトロピック方向」ないしは「ホメオトロピー方向」が本件特許公告公報に頻出するが、それらはすべて液晶層の配向構造ないしは配向方向を示す用語として用いられていることが明らかであり、補償媒体層の構造を表す用語として用いられているものではない。
しかも、本件特許の出願当時(優先権主張1986年2月28日)「ホメオトロピック構造体」なる用語が、一般的な技術用語であったということもできない。それゆえ、「補償媒体層は、・・・ホメオトロピック構造体であり」とは、それ自体が意味不明な記載であるというほかない。

(3)そして、本件訂正請求は、特許請求の範囲中のそれ自体意味の不明りょうな「ホメオトロピック構造体」を削除し、上記d)の事項をさらに具体的に限定する上記c)の事項を追加したものと解されるから、全体として意味不明りょうであった補償媒体層の記載の不備を訂正し、その本来の意を明らかにするものである。
この場合、形式的には、補償媒体層を技術的に限定する事項の一つであるとみなされる上記a)を削除する訂正が、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであるというのが請求人の主張であると思われる。しかしながら、上述したように「補償媒体層は、・・・ホメオトロピック構造体であり」とは、それ自体が意味不明な記載であって、技術的に解釈のしようのない、いわば、実体の伴わない事項なのであるから、これを削除する訂正が実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは明らかである。

したがって、本件訂正請求に係る訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

2-4.口頭審理陳述要領書における請求人の主張についての検討
請求人は、口頭審理陳述要領書(平成18年12月21日付)において、無効理由1について縷々主張しているので、これらについても一応検討しておく。

(1)「このように、『ホメオトロピック』配列とは、分子が境界面に対して垂直方向に配列している状態を意味する。
一方、『構造体』には『自重や外力などの荷重に抵抗できるように、各種部材を組み合わせた物体』(甲15)、すなわち、一定の構造を有する物体という意味がある。
よって、『ホメオトロピック構造体』は、『ホメオトロピック』配列した『構造体』であることから、分子が境界面に対して垂直方向に配列している構造を有する物体を意味することは明確である(これは、被請求人が述べるところの『分子が境界面に対して垂直方向に配列している構造を有する媒体』と大差ないところの明確な内容である。)。そうだとすると、『ホメオトロピック構造体』が指すものは、当業者であれば、容易に理解できると判断すべきである。
以上のとおり、『ホメオトロピック構造体』の用語が、それ自体として不明りょうではないことは、被請求人も審判官らも認めるところであり、本件訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当しないことは明らかである。」(口頭審理陳述要領書5頁14行?6頁7行)

請求人は、液晶分子の配列において「ホメオトロピック」の意味するところを理解するとともに、「構造体」の一般的な意味と組み合わせて「ホメオトロピック構造体」を解釈し、その意味するところは明りょうである旨主張している。
しかしながら、「2-3.新規事項の有無、及び拡張・変更の存否について(2)」で検討したように、補償媒体層を構成する材料が「ホメオトロピック構造体」を構成すると解すべき理由は本件明細書からは見出せず、また、本件特許の出願当時(優先権主張1986年2月28日)、「ホメオトロピック構造体」なる用語が、一般的な技術用語であったということもできないのであるから、「補償媒体層は、・・・ホメオトロピック構造体であり」とは、それ自体が意味不明な記載であるというほかない。
したがって、本件発明の補償媒体層について、液晶分子の配列に倣って「ホメオトロピック」を理解し、「構造体」の一般的な意味と組み合わせて「ホメオトロピック構造体」を解釈することにより、「『ホメオトロピック構造体』の用語が、それ自体として不明りょうではない」とする請求人の上記主張に合理的理由があるとはいえない。

(2)「このように、『ホメオトロピック構造体』の用語は、少なくとも補償媒体層中の分子の配列(組織)を限定するものであったのにもかかわらず、本件訂正後は、そのこととはまったく別次元の補償媒体層の物性(屈折率特性)を限定するものになっている。
・・・したがって、本件訂正が、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し、その範囲内でされたものであるとしても、『ホメオトロピック構造体』の用語の語義の外延の外にあることは明らかである。
したがって、本件特許発明にかかる本件訂正審判請求にかかる特許請求の範囲の訂正は実質上特許請求の範囲を拡張することは明らかである。」(口頭審理陳述要領書8頁30行?9頁6行)

請求人の上記主張は、「ホメオトロピック構造体」の用語が明りょうであることを前提とした論理展開であるといえるが、「2-3.新規事項の有無、及び拡張・変更の存否について(2)」ないしは上記(1)で、述べたように、「ホメオトロピック構造体」の用語が明りょうであるとはいえず、「補償媒体層は、・・・ホメオトロピック構造体であり」とは、それ自体が意味不明な記載である。
したがって、請求人の上記主張は前提において誤っており採用できない。

(3)「しかしながら、特許請求の範囲に記載された発明は、あくまで出願が発明を特定するための事項を自らの意思で記載したものであり、そのような記載に技術的に矛盾があろうがなかろうが、それはあくまで、出願人の自己責任の問題である。したがって、出願人自らの意思で記載した事項に技術的な矛盾があったとしてもそれ自体別の無効理由を含む可能性があるにすぎない。
したがって、出願人のミスによって技術的な矛盾が生じたような場合は、リパーゼ事件判決にいう、『特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないという場合』には該当しない。」(口頭審理陳述要領書10頁8?15行)

被請求人が主張するところの技術的矛盾とは、請求項1における「補償媒体層は、・・・ホメオトロピック構造体であり」との個所を、請求人が主張するように解釈した場合に生じる技術的な矛盾であるところ、「2-3.新規事項の有無、及び拡張・変更の存否について(2)」ないしは上記(1)で述べたように、そもそも請求人の主張する解釈自体が誤りなのであるから、これを前提として、本件訂正を「出願人のミスによって技術的な矛盾が生じたような場合」に当てはめることはできない。
したがって、請求人の上記主張は失当である。

3.独立特許要件(無効理由2)

独立特許要件の審理については、請求人は、当初、本件発明は甲第9号証および甲第10号証に記載された発明に基づき容易に発明することができたものである旨主張していた(審判請求書23頁20行?24頁6行)ところ、その後の口頭審理において、甲第10号証に基づく進歩性欠如の主張を撤回し(口頭審理陳述要領書(2)5頁14行)、被請求人もこれに同意した(第一回口頭審理調書)経緯がある。
したがって、以下では、本件発明は甲第9号証に記載された発明に基づき容易に発明することができたものであるか、について検討することとする。

なお、当審は、甲第10号証に記載された事項についても検討したが、開示内容が本件発明とは直接関係のない事項であったため、職権で審理するには及ばないと判断した。

(1)甲号証に記載された技術的事項
本件の出願日の前に頒布された刊行物である、甲第9号証(特開昭60-256121号公報)に記載された技術的事項について記載する。

甲第9号証(以下、「刊行物1」という。)
刊行物1には、
(a)「本発明はホメオトロピック(擬似走行性)構造を有しかつ、その構造に対し複屈折を補償するタイプの液晶セルに関するものである。」(2頁右下欄2?4行)、

(b)「第2図A、第2図Bは2枚のガラスプレート10,11間にネマチック液晶層9を備えた“電気的に制御される複屈折タイプ”の液晶セルを概説したものであり、このプレートは図示されていない電極とともに、層とプレートで構成された集成体の各側にとりつけた2個の偏光子12と13とを有している。」(3頁左上欄11?17行)、

(c)「セルがはたらかない場合、液晶はホメオトロピック構造を有し、このセルを構成する分子群14がこの場合2枚のプレート11と12に垂直な同一方向15に平行となるいわゆる“ホメオトロピック方向”(第2図A)を持つようになる。セルが刺激を受けると、分子群はすべて同一方向に傾き上記ホメオトロピック方向に対しαの角度を形成する。」(3頁右上欄2?8行)、

(d)「この発明の目的とするものは、一種の液晶セル集成体であって、この集成体はホメオトロピック構造を持った液晶層とその層の各側に設けた電極とから成り、少なくともその電極の一つは透明体で、この集成体にはそのホメオトロピック構造内で液晶層の複屈折を補償する手段を備え、一定の観測面内で斜方向からの測定を行う場合、上記構造に対しセルがすぐれたコントラストを有する特徴を備えている。」(3頁右上欄16?同頁左下欄4行)、

(e)「一定観測面に対しそのホメオトロピック構造内での液晶層の複屈折を補償することにより、上記観測面中の斜方向測定の場合でも高いコントラストを得ることが可能となり、たとえば電気的に制御した複屈折タイプのセルの場合70°までの大きな測定角度に対しても、この制御が可能である。」(3頁左下欄11?16行)、

(f)「第4図はこの発明セルの分解図であり、第3図と参照してみるとよく分かる。このセルには2枚のガラスプレート19と20間に伸長するネマチック液晶層18が設けられ、このガラスプレートの屈折率はほぼ1.5であり、この種のプレートは面上公知の挙動をし、直接にこれが液晶層と透明電極19aと20aとに対向し、このプレートの間に適当な電圧が加わると、セルスクリーンにある種のシンボル(図形、文字、点等)があらわれる。この両プレートはまた相互に平行で、液晶層はこの間に挿入されているため、電極間に電圧が加えられないと、一種のホメオトロピック構造となり、このホメオトロピック方向は上記2枚のプレート19,20に垂直で液晶層の分子群はすべて、電極間に適正な電圧が加わる限り、ホメオトロピック方向と同一方向を示す。」(4頁右下欄10行?5頁左上欄5行)、

(g)「第4図のセルには、液晶層とガラスプレートとで構成したアセンブリ(集成体)の近傍、およびその各側に一次リニア偏光子21と二次リニア偏光子22とを設け、両者とも板状を呈し、一次リニア偏光子はガラスプレート19の側に設けてこのプレートで入射光を受けいれる。セルにはまた一次遅延プレート23をプレート19と一次リニア偏光子21間に設けるとともに、二次遅延プレート24をガラスプレート20と二次リニア偏光子22間にとりつける。偏光子21,22と遅延プレート23,24とはプレート19と20とに平行である。」(5頁左上欄8?18行)、

(h)「遅延プレート23または24はその2本の中性線がそれぞれおくれ軸L_(1)またはL_(2)に対応し、進み軸R_(1)またはR_(2)の一つに相応したものであるが、直線Δに直角となり、かつ、この中性線群の形成する二等分線の一方が、直線Δに平行に突出し、実質上対応するリニア偏光子21もしくは22の最大吸収軸P_(1)またはP_(2)上にあるごとく位置構成されている。他の進み軸R_(1)´またはR_(2)´はこの場合直線Δに平行である。おくれ面はまた、そのそれぞれのおくれ軸L_(1)とL_(2)とを面Mの一方側に位置させるように構成される。」(5頁右上欄4?14行)、

(i)「遅延プレートを発現するには単軸媒体に比し、二軸媒体の方が好適である。このことは液晶層の高い光学厚みを補償する場合に実証される。進み軸R_(1)´とR_(2)´とはこの場合それぞれ軸R_(1)とR_(2)よりも早目に選定する。」(6頁左上欄19行?同頁右上欄3行)、

(j)「液晶はシッフ(Schiff)系の材料から選定可能であり、液晶層は約5μm厚さで製作し、その光学的重屈折率を0.2に等しくとることができる。なおまた、フェニルシクロヘキサン族から液晶を選定してもよく、厚さ約10μm、光重屈折率0.1の液晶層も取得可能である。」(6頁右上欄8?13行)、
が記載されている。

刊行物1発明
上記(a)ないし(j)の記載事項からみて、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「1)光学的重屈折率が0.2あるいは0.1であるネマチック液晶層を備えた“電気的に制御される複屈折タイプ”の液晶セル集成体において、液晶層の各側に設けられた電極と、電極間に電圧が加えられないときにホメオトロピック構造を持った液晶層とから成り、少なくともその電極の一つは透明体で、このセルにはそのホメオトロピック構造内で液晶層の複屈折を補償する手段を備え、一定の観測面内で斜方向からの測定を行う場合、上記構造に対しセルがすぐれたコントラストを有する特徴を備えている。
2)液晶層とガラスプレート19,20とで構成した液晶セルの各側にそれぞれリニア偏光子21とリニア偏光子22とを設け、セルにはまた遅延プレート23をプレート19とリニア偏光子21間に設けるとともに、遅延プレート24をガラスプレート20とリニア偏光子22間に取りつける。
3)遅延プレート23は、おくれ軸L_(1)、進み軸R_(1)を、遅延プレート24は、おくれ軸L_(2)、進み軸R_(2)をそれぞれ面上に有するとともに、それらL_(1),R_(1)、およびL_(2),R_(2)がはさむ角の二等分線が実質上対応するリニア偏光子21もしくは22の最大吸収軸P_(1)またはP_(2)上にあるように配置されている。また、遅延プレート23,24の他の進み軸R_(1)´およびR_(2)´はホメオトロピック方向に平行である。
4)遅延プレートを発現するには単軸媒体に比し、二軸媒体の方が好適である。このことは液晶層の高い光学厚みを補償する場合に実証される。進み軸R_(1)´,R_(2)´とはこの場合それぞれ進み軸R_(1),R_(2)よりも進むように選定する。」

(2)本件発明と刊行物1発明との対比
本件発明と刊行物1発明とを対比する。
(ア)刊行物1発明の「“電気的に制御される複屈折タイプ”」、「液晶セル集成体」、「液晶層の各側に設けられた電極」、「リニア偏光子21とリニア偏光子22」は、本件発明の「電気制御複屈折効果を利用し」、「液晶セル組立体」、「少なくとも2つの電極」、「少なくとも1つの偏光手段」に各々相当する。

(イ)刊行物1発明のネマチック液晶層は、「光学的重屈折率が0.2あるいは0.1であるネマチック液晶層」であって、この場合「光学的重屈折率が0.2あるいは0.1」であることが、本件発明の「正光学異方性」に相当することは当業者に明らかであるから、刊行物1発明は、本件発明の「正光学異方性のネマチック液晶層」を有する。

(ウ)刊行物1発明の電極は、「少なくともその電極の一つは透明体で」あり、透明体でなる電極が光の入射側に配置されることは自明であるから、刊行物1発明は、本件発明の「入射光に面した前記一方の側に配置された電極は透明であり」なる事項を有する。

(エ)刊行物1発明の「電極間に電圧が加えられないときにホメオトロピック構造を持った液晶層」は、本件発明の「前記電極間に電圧が印加されていない時は前記ネマチック液晶層の分子が略ホメオトロピック方向に向いており」に相当する。

(オ)刊行物1発明は、「液晶層とガラスプレート19,20とで構成した液晶セルの各側にそれぞれリニア偏光子21とリニア偏光子22とを設け」たものであるから、リニア偏光子の少なくとも一方は光の入射側に配置されていることは明らかであり、本件発明の「前記少なくとも1つの偏光手段は前記入射光に面した側に配置されており」を有する。

(カ)また、刊行物1発明の「遅延プレート23、24」は、上記(3)および(4)の構成からみて、ホメオトロピック方向に平行な軸の屈折率が最も小さな光学異方性媒体であると解されるから、本件発明の「補償媒体層」とは「3つの主屈折率を有し、それぞれの主屈折率はそれぞれに対応した軸を有し、前記主屈折率の1つは他の2つの主屈折率よりも小さく、この最小主屈折率に対応した軸は前記ホメオトロピック方向と平行になっている」光学異方性媒体である点で一致する。

以上の(ア)ないし(カ)の対比および検討結果を踏まえると、本件発明と刊行物1発明とは、
「電気制御複屈折効果を利用し、一方の側が入射光に面していると共に等間隔に配置された両側を有する1つの液晶セル組立体を備える液晶セルにおいて、前記液晶セル組立体は、正光学異方性のネマチック液晶層と、少なくとも2つの電極と、入射光を偏光するための少なくとも1つの偏光手段と、少なくとも1つの光学異方性媒体とを備え、前記少なくとも2つの電極のそれぞれは前記ネマチック液晶層の両側に配置され、入射光に面した前記一方の側に配置された電極は透明であり、前記電極間に電圧が印加されていない時は前記ネマチック液晶層の分子が略ホメオトロピック方向に向いており、前記少なくとも1つの偏光手段は前記入射光に面した側に配置されており、前記少なくとも1つの光学異方性媒体は3つの主屈折率を有し、それぞれの主屈折率はそれぞれに対応した軸を有し、前記主屈折率の1つは他の2つの主屈折率よりも小さく、この最小主屈折率に対応した軸は前記ホメオトロピック方向と平行になっていることを特徴とする液晶セル。」
である点で一致しており、以下の点で相違している。

[相違点1]
本件発明の光学異方性媒体は、「ネマチック液晶層の複屈折を補償するための少なくとも1つの補償媒体層」であって、「前記少なくとも1つの補償媒体層は、斜めからの観察を向上させるための補償媒体層」であるのに対し、刊行物1発明が「このセルにはそのホメオトロピック構造内で液晶層の複屈折を補償する手段を備え、一定の観測面内で斜方向からの測定を行う場合、上記構造に対しセルがすぐれたコントラストを有する特徴を備えている」ものであるにしても、光学異方性媒体に相当する刊行物1発明の「遅延プレート23、24」が、ネマチック液晶層の複屈折を補償し、斜めからの観察を向上させるための補償媒体層であるか明らかではない点。

[相違点2]
本件発明の「該補償媒体層は、ホメオトロピック方向に対して平行な対称軸とこの対称軸に対して平行な異常軸とを有する負光学異方性の一軸媒体」であるのに対して、刊行物1発明の「遅延プレート23、24」は、刊行物1発明についての上記3)、4)の記載からみて、二軸媒体ないしは光学異方性の正負が不明な一軸媒体である点。

(3)相違点についての判断
[相違点1]についての検討
刊行物1発明の「遅延プレート23、24」が、ネマチック液晶層の複屈折を補償し、斜めからの観察を向上させるための補償媒体層であるか否かについて検討する。

上記「遅延プレート23、24」に関連する刊行物1(特開昭60-256121号公報)の記載事項を摘記すれば、以下のとおりである。
(k)「(1)一種のホメオトロピック(類似走向性)構造と液晶層の各側に設けた電極群とを備えた液晶層を有する集成体から成り、前記電極の一つが少なくとも透明体であり、上記集成体の側面の一つを入射光に曝し、いわゆるこのセルがまた、少なくとも上記側面に入射光を偏光させる手段を備えかつその層厚と偏光手段とにより、ホメオトロピック構造内の液晶層の複屈折を補償する結果、ある一定の観測面内で斜方向からの測定を行う場合、このセルが上記構造に対し鮮明な対比を有することを特徴とする電気的に制御された複屈折タイプの液晶セル。」(特許請求の範囲第(1)項)

(l)「(2)セルが電気的に制御される複屈折伝達タイプのものであり、電極が透明体であって、セルには上記集成体の各側に第1ならびに第2偏光手段とほぼ円形状の偏光子相当装置が備わり、ホメオトロピック方向に伝搬される入射面光波に対し相互に補足性を保ち、観測面は上記方向に平行であって、前記第1、第2偏光手段のそれぞれがまたこの観測面に適応して上方から斜方向に入射する面光波に対し、一種の楕円偏光を形成させることができ、この偏光楕円の長軸が観測面にある角度を与え、液晶層の厚みが対象全厚を斜方向から入射する波が透過する際、上記角度を抹消し切るに必要な厚さの2倍相当であることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項記載の液晶セル。」(特許請求の範囲第(2)項)

(m)「(3)第1および第2の偏光手段にはそれぞれ一次リニア偏光子と、この偏光子-上記集成体間の一次遅延プレートとから成る第1対と、同じく二次リニア偏光子と、このものと上記集成体間の二次遅延プレートとから成る第2対を含み、それぞれのリニア偏光子の最大吸収軸は層のホメオトロピック方向に平行な観測面に直交する同一面に平行でありかつ、上記ホメオトロピック方向には直角方向であり、各遅延プレートは、2本の中性線がホメオトロピック方向に対し直角をなし、かつ、この中性線の形成角の二等分線の一つが突出するような位置構成であり、しかもホメオトロピック方向には平行であって、実質上相当リニア偏光子の最大吸収軸の上方に位置し、この結果遅延プレートは同時に、それぞれの相当遅延軸が同一面の一方側に位置する状態を示し、また、この遅延プレートを、第1、第2対が円形に近い偏光子と同一挙動を示すように選定し、この偏光子は相互に上記ホメオトロピック方向に適応して伝搬される入射面光波に対し補足関係を保つように構成することを特徴とする特許請求の範囲第(2)項記載の液晶セル。」(特許請求の範囲第(3)項)

(n)「(4)2枚の遅延プレートを単一プレートに組み込みかつ、上記単一プレートの中性線の形成角を二分する線が実質上リニア偏光子の一つの最大吸収軸上にあって、ホメオトロピック方向に平行に突出する構成とすることを特徴とする特許請求の範囲第(3)項記載の液晶セル。」(特許請求の範囲第(4)項)

(o)「(7)各遅延プレートを二軸材料から製作して最も速度の高い中性軸をホメオトロピック方向と整合させることを特徴とする特許請求の範囲第(3)項記載の液晶セル。」(特許請求の範囲第(7)項)

(p)「さらに、遅延プレート23と24とは、一次リニア偏光子-一次遅延プレート形成の対と、二次リニア偏光子-二次遅延プレート形成の対とが円形に近い偏光子として挙動し、この種偏光子は相互に、直線Δの方向に伝搬する入射平面波に対し相互に補足性を示すよう両プレートを選定する。」(5頁右上欄14?20行)

(q)「ここで、座標xy’中の方向Dの光波の偏光の発現について述べることとする。先ず入射が0である特殊ケースを想定する。つまり角度iが0で、ホメオトロピック方向に面光波が伝搬する場合である。一次遅延プレート23の入口で一次リニア偏光子21を透過したのち、面光波は第6図Aのごとく軸yに沿って一つのリニア偏光を保有する。また図中、混合ライン形として、軸l_(1)とr_(1)とが示されており、これら軸はN面上への投影を示し両者とも遅れ軸L_(1)と進み軸R_(1)の直線Δに平行である。一次遅延プレート23からの出口では波動は円偏光に近く、偏光は楕円であるがこれはきわめて円に近似し、第6図Bでは矩形R_(P)であらわされる。かつその側長は実質上同長で、両側はそれぞれ軸xとyにより中心部直交となっている。」(5頁左下欄15行?同頁右下欄9行)

(r)「つぎに角度iが0(第3図と第5図中方向D波の場合)の場合を考える。一次リニア偏光子21を通過後、ちょうど一次遅延プレート23に入る直前、この波動はリニア偏光を有し、これに対応する光振動はy’に平行に生じ、その対角面の一つに対応する矩形R_(P)’内に導入され、軸l_(1),r_(1)はそれぞれ矩形R_(P)’の短辺と長辺の中心を通過する構成となり、軸l_(1)は軸y’と角度uを形成する(第7図A)。
一次遅延プレート23を離れる際、斜方向に導入される角度は楕円偏光を受け、この偏光楕円は矩形R_(P)’内に導入され、楕円の長軸は軸l_(1)に沿って伸長し、一方楕円の短軸は軸r_(1)に沿って伸長する(第7図B参照)。波が液晶層18のある深さに伝搬搬入されると、偏光楕円の短軸、長軸は何れもそれぞれx軸とy’軸とに接近し、楕円の長軸とy’軸間の角度uより小さいu’値を取るようになる(第7図C)。
この結果、液晶層には特殊厚みe_(0)が得られ、この液晶層に対し偏光楕円の長軸と短軸とはそれぞれ軸y’とx上に乗り、その結果楕円の長軸とy’間角は第7図Dのごとく0となる。本発明によれば、液晶層18の厚さは上記特殊厚みe_(0)の2倍取ることができ、このことは専門家により決定し得る(たとえばデータ処理シミュレーション、または実験により)。このように、入射角iが0であってもなくても、二次リニア偏光子22を離れる光波は総合的に滅光され、その結果斜方向観測に対してコントラストが保持される。」(5頁右下欄10行?6頁左上欄18行)

(s)「ここで特に限定されることのない参考例として、遅延プレート23と24とを200μm厚みの二酢酸セルロースストリップから調整し、このストリップを入射角0状態で約150nmの光学行程遅れを取るように抽出する。」(6頁右上欄4?8行)

これら(k)?(s)の記載事項によれば、
1)遅延プレート23,24は、それぞれリニア偏光21,22と組み合わされて円偏光ないしは円偏光に極めて近い楕円偏光を形成する偏向手段を構成すること、
2)遅延プレート23,24は、遅延が補償されるように液晶セルに対し位置決めされること、
3)偏向手段に特定の斜め方向から入射した光は、偏向手段のリニア偏光子から出射する直線偏光の偏光軸に対し長軸が傾斜した楕円偏光となるが、液晶層を進むうち長軸が前記偏光軸に一致する楕円偏光となり、その偏光状態における液晶層の厚みをe_(0)とすると、その2倍の2e_(0)の厚みを有する液晶層であれば、偏向手段によって生じる複屈折が液晶層の複屈折によって補償され、特定方向から観察したコントラストが向上すること、
4)上記1)からみて、遅延プレートのリタデーションはλを入射光の波長とするとλ/4程度と推察され、また、上記(s)にはリタデーションが約150nmの遅延プレート(約600nmの波長に対しλ/4の波長板に相当)が例示されていること、
が理解できる。

しかしながら、これにより刊行物1発明の「遅延プレート23、24」が、ネマチック液晶層の複屈折を補償し、斜めからの観察を向上させるための補償媒体層であるとまではいえない。
すなわち、刊行物1においては、「遅延プレート23、24」がリニア偏光子と組み合わされて円偏光子相当の偏光手段として用いられていることは明らかであり、他方、ネマチック液晶層の複屈折を補償する補償媒体層であるとの記載は刊行物1には見いだせない。
刊行物1に記載のものは、これら偏光手段と液晶層との複屈折による特定の斜め方向から観察した際のコントラストの低下を、専ら液晶層の層厚を調整することにより防止せんとする発明であって、積極的に遅延プレートの層厚を調整することによりネマチック液晶層の複屈折を補償する技術思想については開示も示唆もないというべきである。
しかも、刊行物1に記載のものは、その特許請求の範囲第(1)項に「ある一定の観測面内で斜方向からの測定を行う場合、このセルが上記構造に対し鮮明な対比を有する」(上記(1l))とあるように、特定方向の観測面内においてコントラストの向上を図るものであり、本件発明の観測方位についての特定がない「斜めからの観察を向上させるための補償媒体層」とは、作用・効果においても異なるものである。
したがって、刊行物1発明の「遅延プレート23、24」は、ネマチック液晶層の複屈折を補償し、斜めからの観察を向上させるための補償媒体層であるとはいえない。

[相違点2]についての検討
「遅延プレート23、24」に関する上記(h)、(i)、(k)?(s)を詳細に検討しても、「遅延プレート23、24」が光学異方性が負の一軸媒体である点は記載がない。
また、上記「[相違点1]についての検討」で明らかなように、刊行物1では、「遅延プレート23、24」がリニア偏光子と組み合わされて円偏光子相当の偏光手段として用いられているのであるから、その面内屈折率には当然差がなければならず、それゆえ、面内屈折率が実質的に均一である光学異方性が負の一軸媒体は刊行物1における開示の想定外であるというほかない。したがって、上記事項が刊行物1の記載から自明であるともいえない。

以上のとおりであるから、刊行物1には、相違点2に係る本件発明の事項についての記載はなく、また、相違点1に係る本件発明の事項についても明示の記載は見当たらず、さらに、当該事項が、刊行物1の開示から自明のことともいえないから、本件発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項に規定する発明には該当せず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

4.むすび
以上のとおり、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第5 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張および証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
液晶セル
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気制御複屈折効果を利用し、一方の側が入射光に面していると共に等間隔に配置された両側を有する1つの液晶セル組立体を備える液晶セルにおいて、前記液晶セル組立体は、正光学異方性のネマチック液晶層と、少なくとも2つの電極と、入射光を偏光するための少なくとも1つの偏光手段と、前記ネマチック液晶層の複屈折を補償するための少なくとも1つの補償媒体層とを備え、前記少なくとも2つの電極のそれぞれは前記ネマチック液晶層の両側に配置され、入射光に面した前記一方の側に配置された電極は透明であり、前記電極間に電圧が印加されていない時は前記ネマチック液晶層の分子が略ホメオトロピック方向に向いており、前記少なくとも1つの偏光手段は前記入射光に面した側に配置されており、前記少なくとも1つの補償媒体層は、斜めからの観察を向上させるための補償媒体層であり、該補償媒体層は、ホメオトロピック方向に対して平行な対称軸とこの対称軸に対して平行な異常軸とを有する負光学異方性の一軸媒体であり、前記少なくとも1つの補償媒体層は3つの主屈折率を有し、それぞれの主屈折率はそれぞれに対応した軸を有し、前記主屈折率の1つは他の2つの主屈折率よりも小さく、この最小主屈折率に対応した軸は前記ホメオトロピック方向と平行になっていることを特徴とする液晶セル。
【請求項2】
前記2つの電極は透明であり、前記電極の両方の側に配置された2つの相補型偏光手段を有し、前記補償媒体層は前記偏光手段の少なくとも1つと前記偏光手段に隣接した前記電極との間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液晶セル。
【請求項3】
前記2つの偏光手段は、直交直線偏光体であり、前記補償媒体層は、ホメオトロピック方向に対して平行な対称軸と、この対称軸に対して平行な異常軸とを有する負光学異方性の一軸媒体であることを特徴とする請求項2に記載の液晶セル。
【請求項4】
前記補償媒体層はポリマー材料から作製されていることを特徴とする請求項3に記載の液晶セル。
【請求項5】
前記ポリマー材料は熱可塑性であることを特徴とする請求項4に記載の液晶セル。
【請求項6】
前記ポリマー材料は、さらに少なくとも1つの色フィルタを備えた基板を有し、この基板は、熱可塑性ポリマー層によって固定されていることを特徴とする請求項5に記載の液晶セル。
【請求項7】
前記2つの偏光手段は、相補型円形偏光体であり、前記補償媒体層は、ホメオトロピック方向に対して平行な対称軸と、この対称軸に対して平行な異常軸とを有する負光学異方性の一軸媒体であることを特徴とする請求項2に記載の液晶セル。
【請求項8】
前記補償媒体層はポリマー材料から形成されていることを特徴とする請求項7に記載の液晶セル。
【請求項9】
前記ポリマー材料は熱可塑性であることを特徴とする請求項8に記載の液晶セル。
【請求項10】
前記ポリマー材料は、さらに少なくとも1つの色フィルタを備えた基板を有し、この基板は、熱可塑性ポリマー層によって固定されていることを特徴とする請求項9に記載の液晶セル。
【請求項11】
前記2つの偏光手段は、直交直線偏光体であり、前記補償媒体層は、二軸媒体であり、前記最小主屈折率の軸は、ホメオトロピック方向に対して平行であることを特徴とする請求項2に記載の液晶セル。
【請求項12】
前記補償媒体層の各層の厚みと前記補償媒体層の他の2つの主屈折率の差の絶対値との積が約0.125μmであることを特徴とする請求項11に記載の液晶セル。
【請求項13】
前記補償媒体層は、さらに光学反射層を有し、この光学反射層は、入射光に面した側とは反対のセルの側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液晶セル。
【発明の詳細な説明】
(技術分野)
本発明は、電気制御複屈折効果を利用した液晶セルに関するものであり、特にマトリクススクリーン等のデータディスプレイ装置の製造に適用し、より具体的にはカラーディスプレイ用複合スクリーンの作製を目的とするものである。
(従来技術)
電気制御複屈折効果を利用した液晶セルは、既に周知である。この効果は、既に液晶マトリクススクリーンの開発を可能にし、IEEE Transaction on Electron Device,vol.Ed26,No.8,August1979に掲載されたJ.ROBERTの技術論文“T.V.image with L.C.D.”並びに雑誌Display’s,October1981に掲載されたJ.F.Clercの論文“Electrooptical limits of the E.C.B.effect in nematic liquid crystals”に紹介されている。
電気制御複屈折効果を利用した液晶セルは、従来技術によれば、例えば透明電極が設けられた2枚のガラス板の間にネマチック液晶を入れている。このようにして得られた組立体の両側に、それぞれ1つの偏光手段、例えば直交直線偏光体がそれぞれ配置される。電極間に電圧が印加されていないときは、液晶の分子は“ホメオトロピー方向”と呼ばれる方向に対して略平行で、ガラス板に対して垂直になっており、入射光はセルを通過することができない。電極間に適切な電圧が印加されると、液晶の分子はホメオトロピー方向に対してある角度をなす方向に略向き、その角度は印加電圧又は励起電圧によって決まる。そして少なくとも一部の入射光がセルを通過でき、従ってセルを通過する光の強度を電気的に制御することができ、この光強度は印加電圧の関数である。
電気制御複屈折効果を利用した液晶セルは、斜めから見たときにセルのコントラストが悪くなり、観察角度が大きくなるにつれて更に悪くなり、観察角度によってはコントラストが逆転することさえあるという欠点を持っている。
フランス特許出願第8407767号(1984年5月18日)には、この欠点を解消しようとする電気制御複屈折効果を利用した液晶セルが開示されている。しかし、このセルにもいくつかの難点がある。即ち、一定の厚みの液晶層を必要とし、光の2つの入射面とその近傍の液晶層の複屈折しか有効に補償することができず、また色度欠陥があり、特定の光波長では他の光波長に比べて消光が十分に行なわれない。
(発明の概要)
本発明は、前記の諸難点を解消することを目的とする。
従って、本発明は、電気制御復屈折効果を利用し、一方の側が入射光に面していると共に等間隔に配置された両側を有する1つの液晶セル組立体を備える液晶セルにおいて、液晶セル組立体は、正光学異方性のネマチック液晶層と、少なくとも2つの電極と、入射光を偏光するための少なくとも1つの偏光手段と、ネマチック液晶層の複屈折を補償するための少なくとも1つの補償媒体層とを備え、少なくとも2つの電極のそれぞれはネマチック液晶層の両側に配置され、入射光に面した一方の側に配置された電極は透明であり、電極間に電圧が印加されていない時はネマチック液晶層の分子が略ホメオトロピック方向に向いており、少なくとも1つの偏光手段は入射光に面した側に配置されており、少なくとも1つの補償媒体層は、斜めからの観察を向上させるためのホメオトロピック構造体であり、少なくとも1つの補償媒体層は3つの主屈折率を有し、それぞれの主屈折率はそれぞれに対応した軸を有し、主屈折率の1つは他の2つの主屈折率よりも小さく、この最小主屈折率に対応した軸はホメオトロピック方向と平行になっている液晶セルに関するものである。
セルの斜め観察用のホメオトロピック構造のネマチック液晶層の複屈折を補償するために、この媒体層を用いれば、最高70度という大きい角度での観察でも高いコントラストを確保することができる。更に、本発明によるセルは、前述の色度欠陥がなく、いかなる光入射面においても複屈折を効果的に補償し、複合スクリーンの製造に要求される非常に大きい厚みを含めて任意の液晶厚みのセルとすることができる(補償媒体層の厚みは、液晶層の厚みの関数として最適補償が確保できるように調節される)。更に、本発明のセルは、任意の偏光手段(直線、円又は楕円偏光)と適合する利点がある。
本発明は、液晶の厚みが相当に厚く、従って多重度が高く、かつ色収差がなく、従って斜めに見たときの表示された色の純粋性と安定性を維持することのできるディスプレイ装置を作製することができる。
本発明の一実施態様としてのセルにおいては、2つの電極は透明であり、電極の両方の側に配置された2つの相補型偏光手段を有し、補償媒体層は偏光手段の少なくとも1つと偏光手段に隣接した電極との間に配置されている。
“相補型偏光手段”なる語は、例えば2つの直交直線偏光体、又は2つの相補型楕円偏光体、円偏光体を意味し、それはホメオトロピー方向における入射平面光波に関して互いに、あるいは前記光波の左右に関してそれぞれ相補的である。
一実施態様においては、2つの偏光手段は、直交直線偏光体であり、補償媒体層は、ホメオトロピック方向に対して平行な対称軸と、この対称軸に対して平行な異常軸とを有する負光学異方性の一軸媒体である。
本発明の他の実施態様においては、補償媒体層はポリマー材料から作製され、また、ポリマー材料は熱可塑性であることが好ましい。以下に述べるように、このポリマーにより、複屈折を補償することが出きるだけでなく、それが配置された両側のセル構成要素を互いに接着する層を比較的簡単な方法で形成することができる。
本発明のセルをカラーディスプレイ用に用いる場合、ポリマー材料は、さらに少なくとも1つの色フィルタを備えた基板を有し、この基板は、熱可塑性ポリマー層によって固定されている場合、その基板は前記熱可塑性ポリマーの層によって効果的に固定、保持され得る。
他の実施態様によれば、2つの偏光手段は、直交直線偏光体であり、補償媒体層は、二軸媒体であり、最小主屈折率の軸は、ホメオトロピック方向に対して平行である。
好ましくは、補償媒体層の各層の厚みと補償媒体層の他の2つの主屈折率の差の絶対値との積が約0.125μmとし、その結果、可視領域において前記層を四分の一波長遅延板に類似のものとして構成することができる。
電極を透明にした本発明の一実施態様においては、補償媒体層は、さらに光学反射層を有し、この光学反射層は、入射光に面した側とは反対のセルの側に配置されている。
(実施例)
以下、図面を参照して本発明を詳しく説明する。
第1図は、本発明の第1の実施態様に対応する液晶セルの分解図である。このセルは、下プレート4と上プレート6との間に液晶層2を有し、その上下プレートは平行でかつ透明であり、例えばガラスからできている。プレート4,6の互いに対向する面にそれぞれ透明電極8及び10が設けられている。
第1及び第2の直交直線偏光体12,14が、液晶層2及び2つのプレート4,6によって構成された組立体の両側に配置されている。第1の偏光体12はプレート6側に、また第2の偏光体14はプレート4側にある。セルは、第1の偏光体12から光が入射し、第2の偏光体14を通して観察するように意図されている。これらの2つの偏光体は、プレート4及び6に平行な板状をしている。
セルは又、下プレート4と第2の偏光体14との間に位置しこれらと平行な補償媒体の板又はシート16を有する。これについては後述する。
以上述べたセルは、透過モードで使用する。第2の偏光体14に関して補償板16とは反対側に、それらと平行に光学反射層18を付加し、第1の偏光体12を通して観察すれば、反射モードで使用することもできる。
使用する液晶層は、負誘電異方性のネマチック液晶層であり、その分子は、電極間に電圧が印加されていないときは、本質的に、ホメオトロピー方向と呼ばれるプレート4,6に垂直な方向Dに向いている。このネマチック液晶層は又、正の光学異方性一軸媒体であり、その媒体の異常屈折率NeClは常屈折率NoClより大きい。この媒体の屈折率の楕円面は対称軸を持っており、この対称軸は強屈折率軸(この場合はNeCl)で、電極間に電圧が印加されていないときの液晶分子の主軸及びホメオトロピー方向に対して平行である。
補償板16は、負光学異方性一軸媒体であり、その異常屈折率はNe1は常屈折率No1より小さい。この媒体の屈折率の楕円面は対称軸を持っており、この対称軸は弱屈折率軸(この場合はNe1)でホメオトロピー方向に対して平行である。
一例として、液晶層2は、MERCKからZLI1936(NeCl-NoCl=0.19)の商品名で発売されている材料を素材とする厚み5μmの液晶層とし、一方、補償板16は、Dupont de NemoursからSURLYNの商品名で発売されている熱可塑性ポリマーを素材とする15の積層とし、それぞれのシートの厚さは、50μmである。補償板16の最適厚みは、実際には液晶層の厚みに左右され(正比例)、液晶層の厚みを設定し、それに従って特定の観察角度で最適なコントラストが得られるように補償板16の厚みを探して実験的に決定される。なお、補償板16は、プレート4と偏光体14の間ではなく、プレート6と偏光体12の間に入れることもできる。
より一般的には、補償板16を複数層とし、そのいくつかをプレート6と偏光体12の間に入れ、残余をプレート4と偏光体14の間に入れて、それらの層のトータルの厚みを補償板16の厚みと等しくすることができる。
第2図は、本発明の第2の実施態様の分解図である。このセルは、透明電極8,10を備えた2枚のガラス板4,6間に液晶層2を有し、又2つの直行直線偏光体12,14と、必要に応じて光学反射層18(反射モードでは、偏光体12に光が入射し、その偏光体12を通して観察する)を、第1図に示したと同様の位置に備えている。
第2図に示すセルは又、プレート6と偏光体12の間にプレート20を、プレート4と偏光体14の間にプレート22をそれぞれ有し、それらのプレート20及び22はプレート4,6に平行である。ネマチック液晶層2の光学特性は第1図の場合と同じである。
各プレート20,22はそれぞれ略同じ値の2つの主要屈折率N1o,N2oと、N1o,N2oより小さい第3の屈折率N3eとを有する二軸媒体であり、弱屈折率軸N3eはホメオトロピック方向に対して平行である。
好ましくは、プレート20及び22の厚みが略等しく、(N1o-N2o)の絶対値とプレートの何れか一方の厚みとの積が0.125μmに非常に近くなるように選び(条件1)、これを可視領域における準四分の一波遅延板として構成する。0.125μmという値は、第2図のセルの励起電圧印加時に対応する“白”状態での最高輝度に相当する。
各プレート20,22の最適厚み(特定の観察角度と特定の液晶セルで最適コントラストを確保するための)は、設定された液晶層の厚みの関数として実験的に決定することができる。プレート6と偏光体12との間か又はプレート4と偏光体14との間に位置させた1つの補償板のみを使用することもでき、その場合の単一のプレートには、液晶層の厚みの関数として決定されたプレート20と22の厚みの和に等しい厚みを持たせる。
しかし、上に示した実施態様においては、プレート20及び22の厚みが条件1によって既に固定されているため、液晶層の複屈折の最適補償は、その補償に対する最適異常屈折率N3eを有するプレート20及び22の構成材料を選択することにより決定される。
一例として、液晶層は、MERCKよりZLI1936(NeCl-NoCl=0.19)の商品名で発売されている材料を素材とする4?6μmの厚みの層とし、一方、プレート20及び22は、Rhone Poulencから発売され、約3.5?4μmの厚みを有し、屈折率がN1o=1.660、N2o=1.6425、N3e=1.5000のセロハンシートとする。
第3図は、本発明の第3の実施態様を示したものであり、透明電極8及び10をそれぞれ備えたガラス板4,6の間に液晶層2を有する。これらの要素の配置は第1図のものと同一である。また、液晶層2の光学的特性も第1図のセルの場合と同じである。
第3図に示すセルは又、プレート4,6及び液晶層2で構成される組立体の両側に第1の円偏光体24と第2の円偏光体26とを有し、第1の偏光体24はプレート6側にあって入射光を受け、他方、第2の偏光体26はプレート4側にある。偏光体24,26はプレート4及び6に平行で、セルは偏光体26を通して観察される。偏光体24,26はまた互いに相補型で、即ち入射光に対して偏光体の一方が左方向、他方が右方向である。
前述のように、反射モードとして使用するときは、光学反射層18を偏光体26に関してプレート4とは反対側に設けることができ、この場合、セルは偏光体24を通して観察される。
偏光体24は、四分の一波板30が組み合わされた直線偏光体28で構成されている。四分の一波板30は正の光学異方性一軸媒体で、その主軸は偏光体28の面内(即ちホメオトロピー方向に対して垂直方向)にあり、偏光体28の偏光方向と45度の角度をなしている。第2の円偏光体26は第1の偏光体24と同一で、偏光体24及び26の四分の一波板30はそれぞれプレート6及び4に対面している。
第3図に示すセルは又、負光学異方性を持つ一軸材料からなる少なくとも1つのプレートを備えており、その光学的特性は、第1図で述べたプレート16のそれと同じである。そのプレートは、プレート4と6に平行で、プレート4,6の1つと円偏光体の1つとの間に配置される。
第3図の場合のセルは、そのようなプレート32及び34を2つ持っており、プレート32はプレート6と偏光体24との間に、プレート34はプレート4と偏光体26との間にそれぞれ位置している。
単一のプレート32又は34の(特性観察角度における最適コントラストを得るための)最適厚み、又はプレート32及び34の最適トータル厚みは、液晶層2の厚みの関数として決定される。第3図のセルに1つ又は複数の負光学異方性一軸材料のプレートを使用すると、液晶層を通過する光波の可視領域全体の略円形楕円率(almost circular ellipticity;これはセルの白状態での発光効率を向上させる)と、前記負光学異方性一軸材料のプレートと2つの円偏光体とで構成されるシステムの補償挙動(この補償は前記プレートの製作状態に依存する)とをそれぞれ別個に制御することができる。
第3図のセルで用いられる各補償板は、第1図のセルで用いられるものと同様な方法で作製され、(第1図のセルの各プレートと同様に)後述するように、セルの封止工程と一体化することができる。
液晶層の厚みが同じ場合、第3図のセルを作製するに必要な負光学異方性一軸材料の厚みは、ここでは四分の一波遅延板を使用するため、第1図に示すセルを作製するに必要な材料厚みより小さい。
一例として、第3図のセルは、MERCKからZLI1936(NeCl-NoCl=0.19)の商品名で発売されている材料を素材とする厚み5μmの液晶層を有し、各円偏光体は、POLAROIDからHCP37の商品名で発売されている偏光体とし、また各プレート32及び34は、Dupont de NemoursからSURLYNの商品名で発売されているシート(1枚の厚み80μm)5枚重ねの積層体によって構成されている。第4図は、層に対して垂直な対称軸を有する負光学異方性の一軸材料からなる層の製造工程を示したもので、その層の弱屈折率軸は前記対称軸に平行である。このような層は第1図、第3図に示すセルの作製に使用することができる。
この工程によれば、硬く、平坦で透明な2枚の基板間に、1又は複数の熱可塑性材料からなるシート40、例えばDupont de NemoursからSURLYNの商品名で発売されているシートを入れる。その材料は、常温ではガラス質状であるが、その履歴に依存する複屈折性を有する。この材料は、適切な温度に加熱すると、ガラス質状から等方性状になり、複屈折性がなくなる。
基板36及び38は、例えば第1図のセルに使用されたプレート4,6と同様な2枚のガラス板である。
1又は複数のシートを基板間に入れた状態で、各基板に均一な圧力をかける。この方法として、シートと基板からなる組立体をプラスチックバッグ42に入れる。このバッグは、後述する理由でオーブンにも入れることができるものである。バッグ内を真空にし、加熱封止した後大気圧に等しい均一な圧力を各基板にかける。続いて、組立体を含むバッグを例えばオーブン内で加熱し、熱可塑性材料をガラス質状態から等方性状態に変化させ、その後バッグをオーブンから取り出して開ける。
次に、材料を冷まして収縮させる。2つの基板に対して垂直な一方向にしか収縮しない。このようにして、ガラス質状態に戻ると複屈折状態を回復する前記材料に、前記方向に対して垂直な対称軸Sが生じる。かくして、層に対して垂直な対称軸を有し、媒体の異常屈折率を含んでいる負光学異方性の一軸材料の層が得られる。
第4図を参照して上に述べた工程は、本発明による液晶セルの製造工程、特にセルの封止工程と効果的な方法で直接結合することができる。封止は、セルに液晶を導入する前に加熱、低圧で行なう。
第5図は、この結合を示したものである。図示しない透明電極と封止手段44とを備え、後でその間に液晶を導入する2枚のガラス板4,6を考えて、ガラス板4,6の一方と透明基板48との間に1又は複数の熱可塑性ポリマーシート46を入れる。透明基板48は、セルの偏光体の1つ又はセルをカラーディスプレイとして考える場合は色フィルタになるガラス板にすることができる。そこでガラス板6と基板48は、第4図における基板36,38と同様に作用する。
具体的には、基板4,6及び48と1又は複数の層46からなる組立体をオーブンに入れることのできるバッグに入れた後、バッグ内を真空にしてそれをオーブンに入れる。熱可塑性材料が遷移温度(その材料の遷移温度は既知とする)に達した後、バッグをオーブンから取り出し、開ける。前述のように、後工程の冷却の間に、シート又は熱処理によって互いに積層されたシートのグループが垂直な対称軸と媒体又は材料の異常軸をもつ負光学異方性の一軸材料の1つの層となる。さらに、熱と圧力によって、得られた層がプレート6と基板48とを互いに接着することになる。
なお、SURLYNタイプの材料の場合は、約10^(5)Pa?2・10^(5)Paの均一

このようにして、1又は複数層の負光学異方性一軸材料層の形成工程と、その材料層を使用する本発明によるセルの製造工程とを明らかに一体化することができるものである。
第6図も又この一体化の可能性を示したものである。例えば、カラーディスプレイ装置に適用する本発明のセルの製造を考えてみる。この目的のために、下プレート4と偏光体14の間に、それに平行な3色フィルタ50を備えた、第1図に示すタイプのセルを製造することができる。液晶層の両側の電極の数や形態は、当然フィルタに合せる。
第3図に示すセルの場合は、第1図に示した熱可塑性ポリマー板(補償板)16及びその設定された最適厚みが、補償板16と同性質の3つの層52に置き換えられている。しかしそのトータルの厚みは補償板16の厚みに等しい。
第5図の場合と同一工程(偏光体12及び14に均一な圧力をかけ、その加圧状態で熱可塑性ポリマーの遷移温度になるまで加熱し、遷移温度に達した後、熱及び圧力を除く)によって、プレート4,6間に液晶層が入れられるセルの組立体を得ることができる。
本発明によるセルの実施態様はこの他にも可能であり、例えば、入射光が当る側から順に円偏光体、負光学異方性一軸材料板、第1のガラス板、ネマチック液晶層及び第2のガラス板を備え、第1ガラス板には液晶層に対面している透明電極が設けられており、第2のガラス板には液晶層に対面している光学反射層が設けられているものなどである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-02-13 
結審通知日 2007-02-16 
審決日 2007-03-08 
出願番号 特願昭62-46621
審決分類 P 1 113・ 853- YA (G02F)
P 1 113・ 856- YA (G02F)
P 1 113・ 831- YA (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小橋 立昌藤岡 善行寺山 啓進河原 正  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 稲積 義登
鈴木 俊光
登録日 1996-04-25 
登録番号 特許第2047880号(P2047880)
発明の名称 液晶セル  
代理人 林 佳輔  
代理人 林 佳輔  
代理人 望月 尚子  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 園田 吉隆  
代理人 高橋 淳  
代理人 園田 吉隆  
代理人 小林 義教  
代理人 望月 尚子  
代理人 大場 正成  
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