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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007800067 審決 特許
無効2007800058 審決 特許
無効2007800068 審決 特許
無効200680253 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B01D
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B01D
管理番号 1171284
審判番号 無効2007-800046  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-03-05 
確定日 2007-12-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3568244号発明「自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3568244号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3568244号の請求項1?5に係る発明は、平成6年8月30日に特許出願され、平成16年6月25日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し、松下電器産業株式会社から平成19年3月5日付けで請求項1?5に係る発明の特許について無効審判の請求がなされたところ、その後の手続の経緯は、次のとおりである。
答弁書: 平成19年 5月21日
訂正請求: 平成19年 5月21日
口頭審理陳述要領書(請求人): 平成19年 9月21日
口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成19年 9月21日
口頭審理: 平成19年 9月21日

なお、審理終結後、被請求人より平成19年10月25日付けで上申書が提出された。

II.訂正の適否
1.訂正の内容
訂正事項a
特許明細書の【特許請求の範囲】を次のとおりに訂正する。
「【請求項1】一酸化窒素及び二酸化窒素をともに含み、それらの合計濃度が6ppm以下であり、且つ、前記一酸化窒素が過半を占める自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法で、NO_(X)全体を除去対象とするのではなくNO_(X)中の二酸化窒素を除去対象とすることとし、炭素質吸着剤を充填した層に通じて、前記換気ガスに含まれる前記二酸化窒素を除去し、且つ、前記換気ガスに含まれる前記一酸化窒素を本質的に除去せずに二酸化窒素が除去された換気ガスを浄化ガスとして大気中に放出することを特徴とする自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法。
【請求項2】前記炭素質吸着剤での吸着及び/又は還元を終了した後、該炭素質吸着剤を100?200℃の温度まで加熱して吸着成分を脱着させ、該炭素質吸着剤の吸着及び/又は還元活性を回復させる請求項1記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法。
【請求項3】前記脱着させたガス成分を冷却した後、炭素質吸着剤を含む充填層に通じ、該ガス成分中の二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめることにより、大気中への二酸化窒素の漏洩を防止する請求項2記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法。
【請求項4】前記炭素質吸着剤を充填した層の一酸化窒素の層出口濃度をX(ppm)としたときに、二酸化窒素の層出口濃度が下記(1)式で計算されるY(ppm)以下となるように二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめる請求項1記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法。
Y=0.06-(1500×10^(-6)X^(2))/(1500×10^(-6)X+1)・・・(1)」

訂正事項b
特許明細書の段落【0012】を次のとおりに訂正する。
「〔課題を解決するための手段〕 上記した目的を達成するために、本発明に係る換気ガスの除去方法は次のような構成としている。即ち、請求項1記載の方法は、一酸化窒素及び二酸化窒素をともに含み、それらの合計濃度が6ppm以下であり、且つ、前記一酸化窒素が過半を占める自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法で、NO_(X)全体を除去対象とするのではなくNO_(X)中の二酸化窒素を除去対象とすることとし、炭素質吸着剤を充填した層に通じて、前記換気ガスに含まれる前記二酸化窒素を除去し、且つ、前記換気ガスに含まれる前記一酸化窒素を本質的に除去せずに二酸化窒素が除去された換気ガスを浄化ガスとして大気中に放出することを特徴とする自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法である。」

訂正事項c
特許明細書の段落【0013】の記載を削除し、段落【0014】を次のとおりに訂正する。
「請求項2記載の方法は、前記炭素質吸着剤での吸着及び/又は還元を終了した後、該炭素質吸着剤を100?200℃の温度まで加熱して吸着成分を脱着させ、該炭素質吸着剤の吸着及び/又は還元活性を回復させる請求項1記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法である。」

訂正事項d
特許明細書の段落【0015】を次のとおりに訂正する。
「請求項3記載の方法は、前記脱着させたガス成分を冷却した後、炭素質吸着剤を含む充填層に通じ、該ガス成分中の二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめることにより、大気中への二酸化窒素の漏洩を防止する請求項2記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法である。請求項4記載の方法は、前記炭素質吸着剤を充填した層の一酸化窒素の層出口濃度をX(ppm)としたときに、二酸化窒素の層出口濃度が下記(1)式で計算されるY(ppm)以下となるように二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめる請求項1記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法である。
Y=0.06-(1500×10^(-6)X^(2))/(1500×10^(-6)X+1)・・・(1)」

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、請求項1において、「自動車トンネル換気ガスを」を「自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法で、NO_(X)全体を除去対象とするのではなくNO_(X)中の二酸化窒素を除去対象とすることとし」に訂正し、「二酸化窒素吸着剤及び/又は還元剤」を「炭素質吸着剤」に訂正し、「浄化ガスとして」を「二酸化窒素が除去された換気ガスを浄化ガスとして」に訂正するとともに、請求項5の「二酸化窒素吸着剤及び/又は還元剤」を「炭素質吸着剤」に訂正し、請求項2を削除し、請求項3?5を順次繰り上げるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。また、訂正事項b?dは、上記訂正事項aと整合を図るとともに特許請求の範囲の記載と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。そして、訂正事項a?cは、特許明細書の【特許請求の範囲】の【請求項2】、段落【0016】及び【0019】に記載されるのであるから、訂正事項a?dは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

3.むすび
したがって、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とし、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件訂正後の特許発明
本件無効審判請求の対象となった請求項1?5に係る発明については、上記訂正を認容することができるから、本件訂正後の発明は、訂正明細書の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、それぞれ「本件訂正発明1」?「本件訂正発明4」という。)である。
【請求項1】一酸化窒素及び二酸化窒素をともに含み、それらの合計濃度が6ppm以下であり、且つ、前記一酸化窒素が過半を占める自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法で、NO_(X)全体を除去対象とするのではなくNO_(X)中の二酸化窒素を除去対象とすることとし、炭素質吸着剤を充填した層に通じて、前記換気ガスに含まれる前記二酸化窒素を除去し、且つ、前記換気ガスに含まれる前記一酸化窒素を本質的に除去せずに二酸化窒素が除去された換気ガスを浄化ガスとして大気中に放出することを特徴とする自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法。
【請求項2】前記炭素質吸着剤での吸着及び/又は還元を終了した後、該炭素質吸着剤を100?200℃の温度まで加熱して吸着成分を脱着させ、該炭素質吸着剤の吸着及び/又は還元活性を回復させる請求項1記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法。
【請求項3】前記脱着させたガス成分を冷却した後、炭素質吸着剤を含む充填層に通じ、該ガス成分中の二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめることにより、大気中への二酸化窒素の漏洩を防止する請求項2記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法。
【請求項4】前記炭素質吸着剤を充填した層の一酸化窒素の層出口濃度をX(ppm)としたときに、二酸化窒素の層出口濃度が下記(1)式で計算されるY(ppm)以下となるように二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめる請求項1記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法。
Y=0.06-(1500×10^(-6)X^(2))/(1500×10^(-6)X+1)・・・(1)

IV.請求人の主張と証拠方法
1.請求人の主張
請求人は、証拠方法として甲第1?11号証を提出して、審判請求書、口頭審理(口頭陳述要領書、第1回口頭審理調書を含む)において、これまでの主張を整理すると概ね次のとおり主張している。
(1)無効理由1:本件訂正発明1?4は、(i)訂正後の請求項1に記載される「一酸化窒素を本質的に除去せずに」の意味が不明瞭であり、また(ii)訂正後の請求項4の「二酸化窒素の層出口濃度が下記(1)式で計算されるY(ppm)以下となるように二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめる」は、何をどのように制御すればよいのか明瞭でないから、発明の構成に欠くことができない事項が記載されていない。したがって、特許法第36条第5項第2号の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきである。
(2)無効理由2:本件訂正発明1?4は、甲第1号証?甲第4号証及び甲第6号証?甲第8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これら発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

2.証拠の記載事項
無効理由1?4で引用されている甲第1号証?甲第4号証及び甲第6号証?甲第8号証には、それぞれ次の事項が記載されている。
(1)甲第1号証:国際公開WO94/17901号パンフレット(翻訳文)
(ア)「本発明は、請求項の前提部による空気から汚染気体を除去する方法に関する。本方法は、特に、自動車および他の車両の内燃機関からの排ガス放出によって汚染された空気に関する。排ガス中の汚染成分は、主として一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO_(X))、不燃性の揮発性有機化合物(VOC)、および微量の二酸化硫黄(SO_(2))からなる。道路トンネル、・・その他交通量の多い閉鎖区域では、排ガスによる大気汚染が臨界値に達することがある。」(第1頁5?16行、翻訳文第1頁3?9行)
(イ)「排ガス中の種々の汚染気体成分の濃度は車両の種類(・・)によって異なる。前記各気体の法的許容濃度は各成分の毒性に応じて様々である。通常は排ガス汚染の増加によって、最初に成分NO_(2)が空気中の有害濃度レベルに達し、続いてNOが達する。したがって、・・・・前記成分は当該区域からの排気中の汚染物質としても重要視される。特に、NO_(2)、NOの量を低減することによって排ガス汚染空気を浄化できる方法は、特に、長い道路トンネルの条件下で大きな利点を提供する。」(第1頁30行?第2頁5行、翻訳文第1頁20?27行)
(ウ)「NO_(2)およびNOなどの気体の吸着剤として、活性炭がよく知られている。これら気体は活性炭の大きな表面に結合する。また、活性炭の表面が経時的に飽和し、さらなる気体の吸収作用が終了することも知られている。吸着および飽和はともに選択的なプロセスである。活性炭は、例えばNO_(2)、NO、VOCを吸着できるが、COは吸着できない。また、活性炭は、NOで飽和し、NOが活性炭を通過するようになったときでも、NO_(2)、VOCを吸着し続け得る。」(第2頁18?26行、翻訳文第1頁末行?第2頁6行)
(エ)「本願発明者らは、活性炭の層を介して空気を濾過することにより、道路トンネル中の排ガス汚染空気からNO_(2)、NO、VOCの優れた選択的浄化効果を達成することに成功した。」(第2頁32?35行、翻訳文第2頁10?12行)
(オ)「さらに、大部分の種類の活性炭は、活性炭(・・)を高温に曝露したとき、吸着気体を脱着することによって再生され得ることがわかった(熱再生)。・・・・好適な再生方法では、不活性気体が媒体として使用され、この工程は、150?400℃の温度範囲で実施される。」(第3頁12?25行、翻訳文第2頁23?31行)
(カ)「浄化設備は適切な種類の活性炭の層1を備え、浄化すべき空気は換気装置2によってこの層を強制的に通過させられる。」(第4頁18?20行、翻訳文第3頁18?19行)
(キ)「トンネルに脱着気体が放出されることを防止するもう一つの方法に、活性炭を備えた新しいフィルタでこれら気体を吸着する方法がある。この配置は図2に開示されている。・・・冷却器の後ろにある触媒コンバータは簡易な活性炭フィルタ11へと置換されている。」(第6頁4?9行、翻訳文第4頁28?32行)
(ク)第2図には、上記(カ)の技術的事項が図示されている。(第5頁)
(ケ)「1.環境温度の排ガス汚染空気から窒素酸化物および揮発性有機化合物を吸着および浄化する方法であって、排ガス汚染空気を吸着剤としての活性炭の層(1)に通じることを特徴とする方法。」(特許請求の範囲第1項)
(コ)「4.請求項1から3に記載の方法において、加熱された気体に前記層(1)を150?400℃の温度で通過させることによって、その場で吸着剤を再生することを特徴とする方法。」(特許請求の範囲第4項)

(2)甲第2号証:特開平5-277324号公報
(ア)「図1において、道路トンネル換気排ガス等の低濃度のNO_(X)(大半はNO、残りはNO_(2))を含む排ガスは・・・吸着剤を充填した吸着槽14a、14cに通され、NO_(X)が吸着除去される。・・・・排ガス中のNO、NO_(2)の割合によって、O_(3)/NO_(X)比は異なるが、道路トンネル換気排ガス(NO_(X)3ppm前後、湿度80%前後)の場合は、O_(3)/NO_(X)比は0.8?0.9の範囲となる。・・・が設けられる。」(段落【0012】)

(3)甲第3号証:大喜多敏一著「大気保全学」初版、産業図書株式会社、昭和57年8月31日発行、第101頁?第131頁
(ア)表4.7(第120頁)には「空気中のNO_(X)の反応式および定数」として「8.反応式:2NO+O_(2)→2NO_(2)、25℃における反応定数:1.4×10^(-9)ppm^(-2)min^(-1)」が記載されている。
(イ)「NO_(X)-空気系の反応で重要なのは・・・その他に表4.7に示すような反応がみられる。表中の反応定数は解離反応・・・二分子反応、A+B→C+Dではd[C]/dt=k[A][B]^(2)三分子反応A+B+C→D+E+・・ではd[D]/dt=k[A][B][C]で表わされる。」(第120頁2?6行)
(ウ)「反応8はNO濃度が低いときには遅いので無視する。」(第120頁下から4?3行)

(4)甲第4号証:特開平5-96132号公報
(ア)「そして、NO、NO_(2)その他のNO_(X)はいずれも悪影響を及ぼす物質であるが、そのうちNO_(2)は相対的に人体の呼吸器系への悪影響が強いと言われ、且つ速効性であることが指摘されている。このため、幹線道路周辺に高濃度のNO_(2)を含む自動車排気ガスが排出され、そのまま滞留するという事態を考えると、NO_(2)による沿道住民の呼吸器系の健康問題が他種NO_(X)汚染問題よりも突出した優先解決課題としてクローズ・アップされる可能性がある。例えば、公害対策基本法(昭和42年法律第132号)第9条の規定に基づく環境庁告示の第38条ではNO_(X)のうちNO_(2)を優先的に規制対象としている。」(段落【0005】)
(イ)「幹線道路周辺地域で排出されたNOが大気中においてNO_(2)に酸化されるには一定の時間を必要とし、酸化されるまでの間に大半のNOが自然拡散や風による拡散作用により幹線道路周辺地域外へ移動する。このため、NO_(2)による沿道住民の呼吸器系の健康問題は軽減される。なお、NOによる影響はNO_(2)による場合に比べてその性質が異なり、しかもより遅効性であると考えられる。従って、幹線道路周辺地域に滞留中(拡散するまでの間)のNOによる影響はNO_(2)による場合よりも相対的に低減される。」(段落【0010】)

(5)甲第6号証:特開平4-338233号公報
(ア)「ところで、道路トンネル、シェルター付道路、・・・などにおける換気ガスもしくは大気、・・・などに含まれる窒素酸化物の濃度は、5ppm程度とボイラ排ガス中の窒素酸化物濃度に比べて極めて低く、またガス温度は常温であり、しかもガス量は莫大なものである。・・・・上記のような道路トンネルの換気ガスなど、窒素酸化物の濃度が低い、例えば約5ppm以下のガス(・・・)から窒素酸化物を効率よく除去することが望まれている。」(段落【0003】)
(イ)「本発明の他の目的は、排ガスの湿度による影響を受けることなく、排ガス中の特に低濃度の二酸化窒素の吸着能に優れた吸着剤を提供することである。本発明の他の目的は、吸着剤を用いて排ガス中の窒素酸化物、特に二酸化窒素を効率よく吸着除去する方法を提供することである。」(段落【0006】?【0007】)
(ウ)「本発明の吸着剤は、窒素酸化物のうち特に二酸化窒素の吸着除去に効果的である。このため、排ガス中の窒素酸化物を除去する際に、一酸化窒素を予め酸化して二酸化窒素に変換した後、本発明の吸着剤と接触させると排ガス中の窒素酸化物を更に効果的に除去することができる。もちろん、排ガスをそのまま本発明の吸着剤と接触させて、窒素酸化物のうち主として二酸化窒素を吸着除去してもよい。」(段落【0021】)

(6)甲第7号証:特開平5-76753号公報
(ア)「また、大気汚染が深刻化し空気清浄化の必要が高まるにつれて、自動車のトンネル排気や屋内駐車場換気あるいは一般大気中の窒素酸化物の効率的除去法について更に改良研究が進められており、たとえば「清水建設研究報告」45,95(1987)には、アルカリを添着した活性炭により低濃度窒素酸化物を吸着除去する方法も提案されている。しかしこの方法も、上記の方法と同様に一酸化窒素を予め二酸化窒素に酸化してからでなければ満足のいく除去効率を得ることができず、前述の問題を解消し得るものではない。大気中あるいは通常の排気中に含まれる窒素酸化物の大部分は一酸化窒素であるので、これを酸化することなく、・・・吸着活性が低下しない様な吸着剤の開発が望まれる。・・・欠点がある。」(段落【0005】?【0006】)

(7)甲第8号証:特開昭60-23600号公報
(ア)「従来の道路トンネルの換気制御方法においては、トンネル内において自動車の排気ガスに含まれる有害ガスや・・媒煙を対象として、それらが各々許容値以下となるように換気制御が行なわれてきた。しかし、最近トンネル内ばかりでなく、トンネル外の住民の環境も問題となり、トンネル坑口に流出する汚染物質量も制御の対象とする必要が生じてきた。」(第1頁右欄6?13行)
(イ)「本発明は上記事情に鑑みてなされ、集中排気式道路トンネルにおいて、換気設備の省動力等を考慮した上で、トンネル内の汚染物質とトンネル外へ流出するNO_(X)を許容値以下となるように換気設備を制御する、前記欠点のない集中排気式道路トンネルの換気制御方法を提供することを目的とする。」(第1頁右欄下から2行?第2頁左上欄5行)

(8)甲第10号証:特開平5-76753号公報
(ア)「【従来の技術】・・活性炭を始めとして多数の吸着剤が提供されており、比較的吸着活性の高い二酸化窒素については一応の成果を得ている。ところが公知の吸着剤は、低沸点で低活性の一酸化窒素に対する吸着性能が乏しいので、・・」(段落【0002】)

(10)甲第11号証:特開平3-275126号公報
(ア)「現在はトンネルの換気ガスは、処理をしないまま大気中に放出されている。浄化方法としては、活性炭による吸着除去法が検討されたが、活性炭のNOX吸着量が不十分であり実用化に至っていない。トンネル排ガス中のNOXは、主として一酸化窒素(NO)であり、このNOはこのままの形では、活性炭などに吸着されないし、アルカリ吸収剤にも吸収されない。」(第2頁右下欄10?18行)

V.被請求人の反論
被請求人は、請求人の上記主張に対して乙第1?6号証を提示して、答弁書及び口頭審理(口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書を含む)を整理すると、次のとおり反論している。
(1)無効理由1については、(i)訂正後の請求項1に記載される「一酸化窒素を本質的に除去せずに」とは、使用する炭素質吸着剤の種類によってはNOが除去される場合があり得ること、且つその場合を排除しないという意味であり、「NO_(X)全体を除去対象とするのではなくNO_(X)中の二酸化窒素を除去対象とすること」と一体化して判断すれば、この意味は明瞭であり、また(ii)訂正後の請求項4の「二酸化窒素の層出口濃度が下記(1)式で計算されるY(ppm)以下となるように二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめる」は、充填層出口におけるNO_(2)濃度とNO濃度の相関についての制御目標を規定するものであることは明らかであり、請求人の主張の記載不備はない。
(2)無効理由2については、本件訂正発明1?4は、、甲第1号証?甲第4号証及び甲第6号証?甲第8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

VI.乙号証について
(1)乙第1号証:「トンネル脱硝開発の歴史」乙第2号証の1、乙第2号証の2、乙第3号証の1、および乙第3号証の2を参照して本件特許権者が作成した資料
(ア)「トンネル脱硝開発の歴史」の時系列の表から「1994.8.30に特許出願、1995年からP1システム(NO_(X)除去率:80%以上 NO_(2)除去率:80%以上) 2000年からP2システム(NO濃度:増加しないこと NO_(2)除去率:90%以上)」が窺える。
(2)乙第2号証の1:「入札説明書」建設省関東地方建設局長、公告日平成7年5月2日
(3)乙第2号証の2:「低濃度脱硝実験設備」(京浜島実験設備のトンネル換気ガス脱硝技術開発)建設省関東地方建設局、日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団
(4)乙第3号証の1:「吸着式低濃度脱硝実験設備工事に係る技術資料の提出依頼について」建設省関東地方建設局長、平成12年8月1日
(5)乙第3号証の2:「道路トンネルに係る低濃度脱硝技術 第2パイロットスケール実験について」国土交通省関東地方整備局、日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団
(6)乙第4号証:「道路トンネル排ガス・地下駐車場排ガス脱硝システム」National Technical Report Vol.41 NO.3 Jun.1995,p.76-83
(ア)「本脱硝プロセスは、トンネル排気ガス中のNOXのうち約90%を占めるNOをNO_(2)に酸化し、NO_(2)吸収剤で吸収し、排気ガスの脱硝を行う方式である。」(第77頁左欄下から4?2行)
(7)乙第5号証:「二酸化窒素に係る環境基準について」(昭和53.7.11環告38)インターネット(2007年4月25日印刷)
(ア)「環境基本法(平成5年法律第91号)第16条第1項の規定による二酸化窒素に係る環境上の条件につき人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準(以下「環境基準」という。)及びその達成期間等は、次のとおりとする。
第1 環境基準
1 二酸化窒素に係る環境基準は、次のとおりとする。
1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内又はそれ以下であること。
2 ・・
3 1の環境基準は、工業専用地域、車道その他一般公衆が通常生活していない地域又は場所については、適用しない。」
(8)乙第6号証:「Panasonic 低濃度脱硝システム仕様」インターネット(2004年12月14日印刷)
(ア)「NO_(2)脱硝」について「システム/除去率/NO:10%、NO_(2):90%」と記載される。

乙第1?3号証は、我が国におけるトンネル脱硝技術の開発の歴史から「NO_(X)全体除去システムからNO_(2)重点除去システムへの変換時期が平成13?15年度(もっとも早い時期を想定しても平成11年度末以降)である」ことを説明するために、乙第4号証は、本件特許出願の後も、審判請求人がNO_(X)全体除去システム脱硝技術の柱と考え且つ採用していたことを示すために、乙第5号証は、甲第4号証の段落【0004】に記載の内容が「環境庁告示の第38条」の内容を正確に表したものでないことを指摘するために、また乙第6号証は、審判請求人による低濃度脱硝システム仕様を明らかにするために、提出する。

VII.当審の判断
1.無効理由1について
本件訂正発明1?4は、(i)訂正後の請求項1に記載される「一酸化窒素を本質的に除去せずに」の意味が不明瞭であり、また(ii)訂正後の請求項4の「二酸化窒素の層出口濃度が下記(1)式で計算されるY(ppm)以下となるように二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめる」は、何をどのように制御すればよいのか明瞭でないから、発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないか否かについて検討する。なお、本件訂正明細書において、窒素酸化物、二酸化窒素の分子式が統一して表記されていないので、以下、前者については「NO_(X)」、後者については「NO_(2)」と統一的に表記する。

1-1.訂正後の請求項1の「一酸化窒素を本質的に除去せずに」について
一般的に「本質的」とは「本質にかかわりのあるさま」(「大辞林」三省堂)、を意味するが、この意味を以てしても、「一酸化窒素を本質的に除去せずに」(以下、「構成A」という。)の技術的意義が一義的に明確に理解することができない。そこで、本件訂正明細書をみてみると、構成Aに関し【発明の詳細な説明】には次の事項が記載されている。
(a)「本発明は、自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法に関し、詳細には、比較的低濃度の窒素酸化物(以下,NO_(X))即ち一酸化窒素(以下NO)及び二酸化窒素(以下NO_(2))を含む被処理ガスから本質的に有害であるNO_(2)を除去する方法に関するものである。」(段落【0001】)
(b)「自動車トンネルからの換気ガスの如くNO_(X)濃度が低い被処理ガスについてのNO_(X)除去方法を種々検討してきたが、かかる低濃度NO_(X)ガスの場合、前述の如く、NOの酸化速度が極めて遅いのであれば、その間のガスの拡散を考慮すると、簡易法としてNO_(2)を除去の主対象とすることも有効であるとの発想に立脚し、・・・かかる低濃度NOxガスの場合には、そのNO_(X)の全量を除去対象としなくても、その中に含まれるNO_(2)を除去すれば、局所的なNO_(2)濃度の低減には有効であり、本発明の目的を達成し得ることが明らかとなり、かかる知見に基づき本発明を完成するに至った。」(段落【0016】)
(c)「このとき、NO_(2)除去(浄化処理)対象のガスがNO_(X)濃度(即ちNO及びNO_(2)の合計濃度):6ppm以下の低濃度NOxガスであれば、それを直接(事前浄化処理することなく)、上記被処理ガスとして充填層に通じればよく、本発明の処理対象のガスは低濃度NO_(X)ガスであり、特に自動車トンネルからの換気ガス(NO_(X)濃度1?3ppm程度)であるので、それを直接充填層に通じればよく、事前浄化処理の必要がない。又、本発明法は、上記の如く、NO_(X)全体を除去対象とするものでなく、NO_(X)中のNO_(2)を除去の対象とするものであり、・・・装置の大型化及び高コスト化という経済上の問題点を解消し、より簡便な装置で且つ低コストで遂行し得る。」(段落【0019】)
(d)「【実施例】炭素質吸着剤として、市販の武田薬品工業社製粒状椰子殻活性炭GX(以下、吸着剤A)と、・・・フェノール樹脂賦活粒状炭(神戸製鋼所社製)(以下、吸着剤B)とを用意した。また、住友化学工業社製粒状活性アルミナKHD(以下、吸着剤C)も用意した。そして、これら吸着剤を別々に・・・充填して・・・NO_(X)濃度:5.0ppm(NO:4.5ppm、NO_(2):0.5ppm)の空気を被処理ガスとして通じて処理した。・・」(段落【0034】)
(e)「【表1】
吸着剤A 出口NO濃度 3.0ppm ・・・・
出口NO_(2)濃度 N.D. ・・・・
吸着剤B 出口NO濃度 1.1ppm ・・・・
出口NO_(2)濃度 N.D. ・・・・
吸着剤C 出口NO濃度 3.7ppm ・・・・
出口NO_(2)濃度 0.03ppm・・・・」

これらの記載(a)?(d)をみると、本件特許明細書には、上記構成Aについて明確に記載されてはいない。しかしながら、上記記載(a)の「自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法に関し、比較的低濃度の窒素酸化物(NO_(X))を含む被処理ガスから本質的に有害であるNO_(2)を除去する方法に関するもの」との記載、記載(c)の「NO_(X)全体を除去対象とするものでなく、NO_(X)中のNO_(2)を除去の対象とするもの」との記載によれば、本件訂正発明1は、「NO_(X)を除去対象とするものでなく、NO_(X)中のNO_(2)を除去の対象とするもの」であるといえる。そして、上記記載(a)の「窒素酸化物(以下,NO_(X))即ち一酸化窒素(以下NO)及び二酸化窒素(以下NO_(2))」及び記載(c)の「NO_(X)濃度(即ちNO及びNO_(2)の合計濃度)」によると、本件訂正発明1の「NO_(X)」が「NO及びNO_(2)からなる」ものであることは明らかであり、また、記載(d)及び(e)の実施例の記載によれば、「炭素質の吸着剤A、BではNO:4.5ppmの被処理ガスが出口でNO濃度:3.0(吸着剤A)、1.1ppm(吸着剤B)と減少」しており、吸着剤によって程度に差はあれ、NOがある程度除去されるものとみれる。しかも、NOが除去される程度について本件訂正明細書に上記実施例以外に何ら記載がない。
以上のことから、更に本件訂正明細書の段落【0009】に記載の「NOをNO_(2)とともに除去対象とすることに経済上の問題があり」、或いは段落【0011】に記載の「本発明は、・・その目的は、NO_(X)全体を除去対象とする前記従来の各方式が共有して有する装置の大型化及び高コスト化という経済上の問題点を解消し」という本件訂正発明1の課題を参酌すれば、構成Aは、本件訂正明細書にNOを除去の対象とするとの記載がない上、NO_(X)中のNO_(2)を除去対象とすることによりNO_(2)以外のNOを除去対象とするものではないと類推することができるとともに、NOの除去を許容し、その程度は不明であることから、NOの除去の程度にかかわらず「NOを除去の対象とせずに」と解することが相当といえる。
してみると、本件訂正明細書を参酌すれば、訂正後の請求項1に記載される「一酸化窒素を本質的に除去せずに」の技術的意味は「NOを除去の対象とせずに」と理解できるのであるから、この構成が不明瞭であるとまではいえない。

1-2.訂正後の請求項4の「二酸化窒素の層出口濃度が下記(1)式で計算されるY(ppm)以下となるように二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめる」(以下、「構成B」という。)について
上記構成Bについて本件訂正明細書をみてみると、構成Bは、そもそも段落【0018】に記載されるとおり、「NO_(2)の除去されたNO濃度:6ppm以下のガスとはNO_(2)を全く含んではならないというわけでなく、放出初期NO濃度に対応して、ある程度まで許容できる」ことに由来して特定されたものであることは明らかであり、また、構成B中の式(1)についても、段落【0028】のNOの空気中でのNO_(2)への酸化反応速度の式に基づいて、段落【0032】に記載されるとおり、一般化して5分後の総NO_(2)濃度を0.006ppm以下(地表での許容値以下)として導き出されたものあることは明らかである。そして、段落【0033】に確かに「[0.06-(1500×10^(-6)X^(2))/(1500×10^(-6)X+1)]ppm以下となるように制御してやればよい」と記載されているが、前の段落【0031】には「・・一般的な対象に対しては、放出時のNO_(2)許容濃度が0.05ppm程度になるように除去性能を設定すればよく」とあるように、構成Bは仕様を決定する際の性能設定を行うことを念頭に置いたものとみれる。たとえ、制御を意図したとしても、全く実現可能性がないとまではいえず、NO、NO_(2)を計測し風量、活性炭層の切換え、再生時期などを制御するなど、通常の技術常識の範囲での対応が想定できないともいえない。而して、訂正後の請求項4の「二酸化窒素の層出口濃度が下記(1)式で計算されるY(ppm)以下となるように二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめる」については、発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないとまではいえない。

2.無効理由2について
2-1.本件訂正発明1について
甲第1号証の記載事項(ケ)には「環境温度の排ガス汚染空気から窒素酸化物および揮発性有機化合物を吸着および浄化する方法であって、排ガス汚染空気を吸着剤としての活性炭の層に通じることを特徴とする方法」が記載されている。この記載中の「環境温度の排ガス汚染空気」として記載事項(ア)、(エ)に「道路トンネル中の排ガス汚染空気」が記載されている。また、「窒素酸化物および揮発性有機化合物」については、記載事項(ア)、(ウ)及び(エ)からみれば「NO_(X)(NO_(2)、NO)およびVOC」であるといえ、これらの物質が排ガス汚染空気に含まれていることは自明である。
これらのことを本件訂正発明1の記載振りに整理すると、甲第1号証には「NO_(X)(NO_(2)、NO)およびVOCを含む道路トンネル中の排ガス汚染空気を浄化する方法であって、排ガス汚染空気を吸着剤としての活性炭層に通じることにより、排ガス汚染空気からNO_(X)(NO_(2)、NO)およびVOCを吸着および浄化する方法」の発明(以下、「甲第1発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、本件訂正発明1と甲第1発明を対比すると、甲第1発明の「道路トンネル中の排ガス汚染空気を浄化する方法」は、本件訂正発明1の「自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法」に相当し、また、甲第1発明の「吸着剤としての活性炭層」は、本件訂正発明1の「炭素質吸着剤を充填した層」に相当することから、両者は、「一酸化窒素及び二酸化窒素をともに含む自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法で、炭素質吸着剤を充填した層に通じて、前記換気ガスに含まれる前記二酸化窒素を除去する自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法」の点で一致し、次の点で相違している。

相違点a:本件訂正発明1は「自動車トンネル換気ガス」が「それらの合計濃度が6ppm以下であり、且つ、前記一酸化窒素が過半を占める」であるのに対し、甲第1発明は「道路トンネル中の排ガス汚染空気」ではあるが、濃度について特定されていない点
相違点b:本件訂正発明1は「NO_(X)全体を除去対象とするのではなくNO_(X)中の二酸化窒素を除去対象とすることとし、前記換気ガスに含まれる前記一酸化窒素を本質的に除去せずに二酸化窒素が除去された換気ガスを浄化ガスとして大気中に放出する」のに対し、甲第1発明では、「排ガス汚染空気からNO_(2)、NOおよびVOCを吸着および浄化」しているが、そのまま浄化ガスとして大気中に放出しているか不明である点

そこで、これらの相違点について、順次検討する。
(a)相違点aについて
「自動車トンネル換気ガス」の濃度については、甲第2号証の記載事項(ア)に「道路トンネル換気排ガス等の低濃度のNO_(X)(大半はNO、残りはNO_(2))」、「道路トンネル換気排ガス(NO_(X)3ppm前後、湿度80%前後)」と記載され、甲第6号証の記載事項(ア)に「道路トンネル、シェルター付道路、・・・などにおける換気ガスもしくは大気、・・・などに含まれる窒素酸化物の濃度は、5ppm程度」「道路トンネルの換気ガスなど、窒素酸化物の濃度の低い、例えば約5ppm以下」と記載されているように、通常「低濃度で、大半はNOで、NO_(X)3ppm前後?約5ppm」であることはよく知られていることである。そして、この点について、双方に争いはない(第1回口頭審理調書参照)。而して、甲第1発明が本件発明の「自動車トンネル換気ガス」と同じ「道路トンネル中の排ガス汚染空気」の浄化であることを勘案すると、通常「自動車トンネル換気ガス」が、上述したとおり「NO_(X)濃度が3ppm前後?約5ppmであり、NOが大半を占める」ことから、甲第1発明の「道路トンネル中の排ガス汚染空気」において、本件訂正発明1の相違点aに係る構成のごとく特定することに何ら困難性があるといえない。

(b)相違点bについて
(一)まず、本件訂正発明1の相違点bに係る「NO_(X)全体を除去対象とするのではなくNO_(X)中の二酸化窒素を除去対象とすることとし、前記換気ガスに含まれる前記一酸化窒素を本質的に除去せずに二酸化窒素が除去された換気ガスを浄化ガスとして大気中に放出する」なる構成の技術的意義について検討すると、
上記構成中の「一酸化窒素を本質的に除去せずに」については、上記「1.無効理由1について」の「1-1.」で記載したとおり、「NOは除去の対象とせずに」と解することができることから、上記本件訂正発明1の相違点bに係る構成は、「NO_(X)全体やNOを除去対象とするのではなく、NO_(X)中のNO_(2)を除去対象とすることとし、NO_(2)が除去された換気ガスを浄化ガスとして大気中に放出する」ことと解することができる。
ここで、甲第1号証をみてみると、甲第1発明は確かに「NO_(X)(NO_(2)、NO)およびVOCを吸着および浄化する」ものであるから、除去対象は「NO_(X)(NO_(2)、NO)およびVOC」といえ、除去対象に関して、上記本件訂正発明1の相違点bに係る構成と同じであるとはいえない。しかしながら、甲第1発明は「吸着剤」としての「活性炭層」を用い、吸着剤としては上記本件訂正発明1と違いがある訳ではない。そして、甲第1号証には、記載事項(ウ)に「活性炭」について「活性炭は、NOで飽和し、NOが活性炭を通過するようになったときでも、NO_(2)、VOCを吸着し続け得る」ことが記載され、甲第10号証の記載事項(ア)によれば「活性炭を始めとして多数の吸着剤は、低沸点で低活性の一酸化窒素に対する吸着性能が乏しい」こと、甲第11号証の記載事項(ア)によれば「活性炭のNO_(X)吸着量が不十分で、NOは、活性炭などに吸着されない」旨が記載されているといえ、これらの記載からみれば、活性炭がNO_(2)吸着の選択性に優れ、NO_(2)に比し、NOに対する吸着性能が乏しいことは周知であるといえる。
以上のことからすると、本件訂正発明1と甲第1発明とは、本件訂正発明1の相違点bに係る構成の「NO_(X)中のNO_(2)のみを除去対象と」することに関しては、「活性炭」を使用し、実体的な吸着性能に違いない以上、NO_(2)が除去され、NOは量に差があるにせよ除去されないで通過する点において、実質的な差異があるとはいえない。しかしながら、本件訂正発明1が上記したとおりの段落【0009】や【0011】の課題からみて、「NO_(X)中のNO_(2)のみを除去対象と」することが「NO_(2)が除去された換気ガスを浄化ガスとして大気中に放出する」との関連において有意性があり、本件訂正発明1は、NOの除去の有無にかかわらず、NO_(2)が除去された換気ガスを大気中に放出する点に技術的意義を有するものといえる。

(二)上記した本件訂正発明1の技術的意義を踏まえて、甲第1号証をさらに詳細にみてみると、記載事項(カ)に「浄化設備は適切な種類の活性炭の層1を備え、浄化すべき空気は換気装置2によってこの層を強制的に通過させられる」とあるが、通過した後については何ら記載がない。甲第1発明において活性炭層の前後の処理については、甲第1発明が「NO_(X)(NO_(2)、NO)およびVOC」を処理対象として活性炭層に通過させていることから、前後に処理を行うことは意図してないともみれなくもないが、具体的に活性炭層を通過した後の放出について明記されていない以上、活性炭層を通過した後そのまま大気中に放出すると断言できるともいえない。
しかしながら、甲第3号証には、記載事項(ア)によれば「反応式:2NO+O_(2)→2NO_(2)、25℃における反応定数」は極めて低く、反応速度が極めて遅いことが理解でき、また記載事項(ウ)には「反応8」つまり「2NO+O_(2)→2NO_(2)」は、NO濃度が低いときには遅いので無視できることが記載されている。また、甲第4号証には、記載事項(ア)に「NO_(2)は相対的に人体の呼吸器系への悪影響が強いと言われ、且つ速効性である」ことが、また記載事項(イ)によれば「排出されたNOが大気中においてNO_(2)に酸化されるには一定の時間を必要とし、酸化されるまでの間に大半のNOが自然拡散や風による拡散作用により幹線道路周辺地域外へ移動する」ことや、「NOによる影響はNO_(2)による場合に比べてその性質が異なり、しかもより遅効性である」ことが開示されている。また、甲第6号証には、道路トンネルの換気ガスなど処理に関し、記載事項(イ)に「低濃度の二酸化窒素の吸着能に優れた吸着剤を提供すること」、「吸着剤を用いて排ガス中の窒素酸化物、特に二酸化窒素を効率よく吸着除去する方法を提供すること」が記載され、記載事項(ウ)に「排ガスをそのまま本発明の吸着剤と接触させて、窒素酸化物のうち主として二酸化窒素を吸着除去してもよい」と記載されている。
これらの記載に照らせば、NOについては、NOの大気中でのNO_(2)への酸化反応は遅く、NO濃度が低い場合は無視でき、さらに自然拡散や風による拡散作用により移動されることや、NO_(2)に比べて遅効性であること、一方、NO_(2)については人体の呼吸器系への悪影響が強く、速効性であることが看取できる。さらには、道路トンネルの換気ガスなど処理で「二酸化窒素を吸着除去」することを処理の主目的としていることも窺えるのである。
以上のことに照らせば、NO_(X)が低濃度の自動車トンネル換気ガスの浄化において、NOはともかくNO_(2)を除去してそのまま大気に放出することは格別困難なく想起し得るものといえ、また、そうすることに格別の阻害要因も見当たらない。
してみると、甲第1発明において、NO_(2)を除去してそのまま大気に放出することを、除去対象という概念を用いて、相違点bに係る本件訂正発明1の構成を特定することは当業者が容易になし得たものといえる。

(三)このことについて、被請求人は、乙第1?5号証を提示して、答弁書において「本件特許出願当時のトンネル脱硝技術においては、NO_(X)全体除去システムを採用していたという技術常識(乙第2-1号証?乙第4号証)を考慮すれば、「NO_(X)中の除去対象をNO_(2)とし、NO_(2)が除去されたものをそのまま浄化ガスとして大気に放出する」という本件特許発明の浄化プロセスに到達することは極めて困難であると考える」(第36頁14?18行)旨主張している。確かに乙第2-1号証?乙第4号証をみれば、建設省等で低濃度脱硝実験設備として本件特許出願当時NO_(X)全体除去システムが検討されていたことは理解できる。しかながら、こうした背景があるとしても、本件特許発明の浄化プロセスに特段の技術的困難性はない上、上記したとおり甲第3、4号証、甲6?8号証に記載された技術事項が公知であることからすれば、上記結論に至ることを著しく妨げる要因があったとみることはできない。なお、付言すれば、乙第1号証にも記載されているように「P1システム」では「NO_(X)除去率:80%以上」とは別に「NO_(2)除去率:80%以上」と条件として、NO_(X)全体を処理対象といるものの、矢張り「NO_(2)除去」の重要性は認識されていたものとも見受けられる。
また、被請求人は、口頭陳述要領書において「本件特許発明のようなトンネル脱硝技術は、別名、「低濃度脱硝技術」と呼ばれ、甲第4号証および甲第5号証のような高濃度・高温の燃焼排ガスの脱硝技術をそのまま適用することが困難である」(第4頁下から4?2行)旨主張しているが、甲第5号証は無効理由2で引用される文献ではなく、また、甲第4号証については、確かに甲第4号証は「排気浄化用触媒システム」について記載があるが、甲第4号証で摘示した事項は、排気ガスが大気に放出された大気環境に関する事項についての記載された箇所の内容であり、内燃機関の排気系における触媒システムとは直接関するものでない以上、摘示した事項が高濃度・高温の燃焼排ガスの脱硝技術にそのまま適用できないとする事由はなく、被請求人の主張を意味あるものとすることはできない。

そして、本件訂正発明が、上記相違点a、bに係る構成を採ることによって奏する本件特許明細書に記載の効果も予想し得る範囲内のことである。
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は甲第1発明と甲第2?4号証及び甲第6?8号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

1-2.本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用し、本件訂正発明1の構成に加え、更に「前記炭素質吸着剤での吸着及び/又は還元を終了した後、該炭素質吸着剤を100?200℃の温度まで加熱して吸着成分を脱着させ、該炭素質吸着剤の吸着及び/又は還元活性を回復させる」構成を付加するものである。この付加した構成については、甲第1号証には、記載事項(オ)及び記載事項(コ)によると「吸着剤に150?400℃の温度の加熱された気体を通過させて吸着剤を再生する」ことが記載されているといえ、また、加熱温度については再生の適性や効率性をみて選定されるものであるから、150?400℃付近で最適範囲として100?200℃を選択することは設計的事項の範疇で行うことといえる。これらのことに照らせば、上記付加した事項は当業者であれば容易に想到し得るものといえる。
してみると、本件訂正発明2は、上記「1-1.」で述べた理由及び上記した理由により、甲第1発明と甲第2?4号証及び甲第6?8号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

1-3.本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明2を引用し、本件訂正発明2に、更に「前記脱着させたガス成分を冷却した後、炭素質吸着剤を含む充填層に通じ、該ガス成分中の二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめることにより、大気中への二酸化窒素の漏洩を防止する」構成を付加するものである。この付加した構成については、甲第1号証には、記載事項(キ)によれば「トンネルに脱着気体が放出されることを防止するために、冷却器の後ろにある活性炭フィルタでこれら気体を吸着する」ことが記載されているといえる。このことに照らせば、上記付加した事項は当業者であれば容易に想到し得るものといえる。
してみると、本件訂正発明3は、上記「1-1.」並びに「1-2.」で述べた理由及び上記した理由により、甲第1発明と甲第2?4号証及び甲第6?8号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

1-4.本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、本件訂正発明1を引用し、本件訂正発明1の構成に加え、更に「前記炭素質吸着剤を充填した層の一酸化窒素の層出口濃度をX(ppm)としたときに、二酸化窒素の層出口濃度が下記(1)式で計算されるY(ppm)以下となるように二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめる請求項1記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法。
Y=0.06-(1500×10^(-6)X^(2))/(1500×10^(-6)X+1)・・・(1)」の構成を付加するものである。
この付加した構成の(1)式については、甲第3号証の記載事項(ア)(イ)に基づいて、反応速度定数k:300(min^(-1))を用いて積分計算されて導かれる式に、大気放出後の経過時間:5分、環境基準値:0.06(ppm)を代入して得られるものである。
そして、上記付加した構成の「下記(1)式で計算されるY(ppm)以下」の意味するところは、大気放出から5経過後の、層出口のNO_(2)に層出口のNOの空気酸化により生じたNO_(2)が加えられたNO_(2)濃度が0.006(ppm)以下である。付言すれば、このように「NOの空気酸化で生じるNO_(2)の濃度が経時的にどのように増加してゆくかは甲第3号証に記載されているような公知の事実から見積もることができる」ことについては、被請求人も答弁書(第45頁10?12行)で認めている。
してみると、経過時間の5分についても格別な技術的意義があるともいえず、空気拡散等の自然現象下で適宜されて設定し得るものであることを鑑みれば、上記付加した構成を構築することに格別創意工夫があったともいえない。
而して、本件訂正発明4は、上記した理由及び上記「1-1.」で述べた理由により、甲第1発明と甲第2?4号証及び甲第6?8号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、被請求人は、審理終結後に提出した平成19年10月25日付け上申書において、低濃度脱硝技術の例示の証拠として乙第7号証及び乙第8号証を提示した上で、請求人の主張に対する反論を縷々述べているが、この反論をみても、上記した結論を覆すまでの事由があるとまではいえない。

VIII.結び
以上のとおりであるから、本件訂正発明1?4は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1発明と甲第2?4号証及び甲第6?8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に推考することができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化窒素及び二酸化窒素をともに含み、それらの合計濃度が6ppm以下であり、且つ、前記一酸化窒素が過半を占める自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法で、NO_(x)全体を除去対象とするのではなくNO_(x)中の二酸化窒素を除去対象とすることとし、炭素質吸着剤を充填した層に通じて、前記換気ガスに含まれる前記二酸化窒素を除去し、且つ、前記換気ガスに含まれる前記一酸化窒素を本質的に除去せずに二酸化窒素が除去された換気ガスを浄化ガスとして大気中に放出することを特徴とする自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法。
【請求項2】
前記炭素質吸着剤での吸着及び/又は還元を終了した後、該炭素質吸着剤を100?200℃の温度まで加熱して吸着成分を脱着させ、該炭素質吸着剤の吸着及び/又は還元活性を回復させる請求項1記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法。
【請求項3】
前記脱着させたガス成分を冷却した後、炭素質吸着剤を含む充填層に通じ、該ガス成分中の二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめることにより、大気中への二酸化窒素の漏洩を防止する請求項2記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法。
【請求項4】
前記炭素質吸着剤を充填した層の一酸化窒素の層出口濃度をX(ppm)としたときに、二酸化窒素の層出口濃度が下記(1)式で計算されるY(ppm)以下となるように二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめる請求項1記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法。
Y=0.06-(1500×10^(-6)X^(2))/(1500×10^(-6)X+1)‥‥‥‥‥(1)
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法に関し、詳細には、比較的低濃度の窒素酸化物(以下,NOx)即ち一酸化窒素(以下NO)及び二酸化窒素(以下NO2)を含む被処理ガスから本質的に有害であるNO2を除去する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アンモニアを還元剤としてNO_(X)を窒素に変換する選択的触媒還元法が、固定発生源からのNO_(X)削減技術として普及し、高温かつ高濃度(数100ppm)の対象には効果をあげている。
【0003】
しかし、自動車トンネルからの換気ガスの如く、NOx濃度が比較的低く(一般には1?3ppm程度)、低温(常温)である被処理ガスに対しては、前記選択的触媒還元法は直接適用することができない(即ち、反応効率が悪いこと等により有効でなく、好適に適用できない)。そのため、かかるガスに対しては、以下の如き方法が提案されている。
【0004】
▲1▼被処理ガスにオゾンを添加し、NOをNO_(2)に酸化してNO_(X)の全量をNO_(2)にしてから複合金属酸化物吸着剤を用いて該NO_(2)を吸着除去する方式が提案されている(特開平3-275126号、特開平4-176335号公報)。その際に、余剰オゾンの分解をNO_(2)吸着剤にさせる方式も提案されている(特開平6-275126号公報)。
▲2▼NOをそのまま吸着させるために、ゼオライトを用いる方式(特開平1-155934号公報)、酸化チタンにルテニウムを担持させた吸着剤を用いる方式(特開平5-123568号公報)が提案されている。
▲3▼本発明者らにより、表面酸化を抑制した炭素質吸着剤、その中でも特に、特定の直径の細孔の発達した炭素質吸着剤が高いNO吸着力を有することが見出されている(特開平5-76753号公報、特願平4-329652号)。
▲4▼又、本発明者らにより、特定の結晶形態のマンガン酸化物がNOの常温酸化活性を有することが見出され(特開平5-253474号公報)、炭素質吸着剤と併用してNO_(X)を除去する方式が提案されている(特願平4-252872号)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来の▲1▼のオゾン添加方式においては、NO_(X)濃度の変動が大きな対象(被処理ガス)に対してはオゾンの添加率の正確な制御が困難であるという問題点がある。
即ち、オゾン添加量不足を防ぐために安全をみてオゾンを過剰に添加すると、NO_(X)中のNOの全量がNO_(2)に酸化されるが、NO_(2)除去率を高く維持し続けないと規制対象であるNO_(2)の濃度がかえって高まる。又、オゾン自体が有害なオキシダントであると同時に、被処理ガス中の酸化され易い成分が酸化され、活性の高いオキシダント類を副生する恐れがある。
このとき、これらオキシダント類は適当な吸着剤や分解剤で除去できるとしても、実装置においてはオゾン注入部から該吸着剤(又は分解剤)の充填部に至る途中のダンパー等からの若干のリーク(漏洩)は定常的にも避けられず、又、その際にはNO_(2)も同時に漏洩するという不具合がある。例えば、被処理ガス中NO_(X)濃度か3ppm(自動車トンネル換気ガスではNO_(2)は0.3ppm程度、残りはNO)であり、該NO_(X)中のNOの全量をNO_(2)に酸化する場合、処理装置出口のNO_(2)濃度を環境基準値並みの0.06ppm以下に抑制するには、漏洩分を含めて98%以上の除去率を維持する必要があり、漏洩率が2%以上あれば、吸着剤等による除去率が100%であっても上記出口NO_(2)濃度:0.06ppm以下を達成できず、又、その比率でオキシダント類も漏洩するという不具合がある。
以上の不具合や危険性を回避するためにオゾンの添加を抑えると、未酸化NO濃度が増し、全体としてのNO_(X)除去率が低下するという不具合がある。
【0006】
▲2▼の方式の中、ゼオライトを用いる方式では、予め被処理ガスを脱湿しなければ高いNO吸着性能がえられず経済性に欠ける。尚、特開平5-123568号記載の方式ではNO_(2)の除去性能については述べられておらず、不明である。
【0007】
▲3▼に係る炭素質吸着剤を用いる方式においては、該吸着剤はNOの酸化活性を高めて高吸着性のNO_(2)を生成させる点に特徴があり、気相全体を酸化雰囲気にすることはないのでオキシダント類は生成せず、又、該吸着剤はNO_(2)の吸着除去性能が極めて高いので、NO_(2)はほぼ完全に除去される。しかしながら、該吸着剤は通常の活性炭に比べて高コストであるので、除去性能を損なうことなく充填量を減らすか、寿命を伸ばすことが望まれる。
【0008】
▲4▼の方式においては、特定の結晶形態のマンガン酸化物がNOの吸着力及びNO_(2)への酸化力を有するため、NO_(2)吸着活性の高い炭素質吸着剤と組合せることにより、NO_(X)吸着性能を高めることができるが、本酸化物は耐熱性が低いため高強度の粒状品を製造することが困難であり、実装置における長期的な使用に難があることがわかった。
【0009】
更に、以上の各方法に共通して、NOをNO2とともに除去対象とすることには経済上の問題がある。即ち、固定発生源から排出されるNOxは全量がNOであるが、大気中へ放出、希釈されても長時間かけてNO2へ酸化されるため、このNOの除去は地域全体の総量規制対策として有効である。これに対し、本発明の対象の被処理ガス(自動車トンネルからの換気ガス)はNOx濃度が低く総量も少ないため総量削減には役立たないものの、NO2が全NOxの10?50%も含まれ、これが原因となって環境基準を上回る測定ポイントも出現しているため、局所的な環境対策が望まれる。その対策として、NOx全体を対象とする以上の各方式が提案されているが、これら各方式では吸着性及び反応性が低く、濃度的にも過半を占めるNOも除去対象とすることによって装置が大型化し、且つ高コスト化も避けられないという問題点がある。
【0010】
そのため、より簡便にNO2のみを除去することが考えられる。その際、除去されなかったNOが大気中で酸化されてNO2になることが問題となるが、0.1ppm(汚染された大気中NO濃度レベル)?数ppm(自動車トンネルからの換気ガス中NO濃度レベル)程度の濃度のNOの酸化速度が極めて遅いのであれば、その間のガスの拡散を考慮すると、簡易法としてNO2を除去の主対象とすることも有効である。
【0011】
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、NO_(X)全体を除去対象とする前記従来の各方式が共通して有する装置の大型化及び高コスト化という経済上の問題点を解消し、より簡便な装置で且つ低コストで本質的に有害であるNO2を除去し得、本質的にNO2濃度の環境基準値:0.06ppm以下への対応を図り得る自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法を提供しようとするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明に係る換気ガスの除去方法は次のような構成としている。即ち、請求項1記載の方法は、一酸化窒素及び二酸化窒素をともに含み、それらの合計濃度が6ppm以下であり、且つ、前記一酸化窒素が過半を占める自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法で、NO_(x)全体を除去対象とするのではなくNO_(x)中の二酸化窒素を除去対象とすることとし、炭素質吸着剤を充填した層に通じて、前記換気ガスに含まれる前記二酸化窒素を除去し、且つ、前記換気ガスに含まれる前記一酸化窒素を本質的に除去せずに二酸化窒素が除去された換気ガスを浄化ガスとして大気中に放出することを特徴とする自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法である。
【0013】
【0014】
請求項2記載の方法は、前記炭素質吸着剤での吸着及び/又は還元を終了した後、該炭素質吸着剤を100?200℃の温度まで加熱して吸着成分を脱着させ、該炭素質吸着剤の吸着及び/又は還元活性を回復させる請求項1記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法である。
【0015】
請求項3記載の方法は、前記脱着させたガス成分を冷却した後、炭素質吸着剤を含む充填層に通じ、該ガス成分中の二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめることにより、大気中への二酸化窒素の漏洩を防止する請求項2記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法である。請求項4記載の方法は、前記炭素質吸着剤を充填した層の一酸化窒素の層出口濃度をX(ppm)としたときに、二酸化窒素の層出口濃度が下記(1)式で計算されるY(ppm)以下となるように二酸化窒素を吸着及び/又は還元せしめる請求項1記載の自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法である。
Y=0.06-(1500×10^(-6)X^(2))/(1500×10^(-6)X+1)‥‥‥‥‥(1)
【0016】
【作用】
自動車トンネルからの換気ガスの如くNOx濃度が低い被処理ガスについてのNOx除去方法を種々検討してきたが、かかる低濃度NOxガスの場合、前述の如く、NOの酸化速度が極めて遅いのであれば、その間のガスの拡散を考慮すると、簡易法としてNO2を除去の主対象とすることも有効であるとの発想に立脚し、その正否を確認すべく検討したところ、かかる低濃度NOxガスの場合には、そのNOxの全量を除去対象としなくても、その中に含まれるNO2を除去すれば、局所的なNO2濃度の低減には有効であり、本発明の目的を達成し得ることが明らかになり、かかる知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、自動車トンネルからの換気ガスが地表に到達する迄には3?5分程度を要する。このガスに含まれるNOx(通常の平均濃度は1?3ppm、その約10%がNO2、残りはNO)を除去するのではなく、NO2を吸着又はNOに還元して除去した後、大気中へ放出した場合、上記地表への到達時間(即ち3?5分程度)内に空気酸化されて生成するNO2濃度が、上記吸着又は還元により除去できずに放出され地表に到達するガス中のNO2の一部も含めて、環境基準値である0.06ppm以下であれば、本質的にNO2濃度の環境基準値:0.06ppm以下への対応を図り得ることになる。そこで、かかるNO2濃度が環境基準値:0.06ppm以下となるための初期条件(即ち、上記NO2除去された後大気中へ放出するガスのNO濃度〔以下、放出初期NO濃度〕)を明らかにするため、NOを空気で希釈してNO濃度(以下、初期NO濃度)が数ppmで種々異なるガス(空気)を調整し、それを透光性容器内に充填し、種々の条件下に放置し、NOの酸化生成物であるNO2の濃度の経時変化を測定し、その変化とガスの初期NO濃度との関係を調べた結果、3分でNO2濃度が0.06ppmに達する場合の初期NO濃度は8.2ppm程度、5分でNO2濃度が0.06ppmに達する場合の初期NO濃度は6.4ppm程度であると評価された。この結果は、文献(大喜多敏一著,大気保全学,産業図書(1982),表4.7)に記載されたNOの酸化反応速度定数を基にして計算した結果とほぼ一致する。これらの結果より、上記NO2濃度が環境基準値:0.06ppm以下となるための放出初期NO濃度は、前記地表への到達時間として最長の5分を採用した場合、6.4ppm程度であり、従って、放出初期NO濃度(即ちNO2除去された後のガス中NO濃度)を6ppm以下にしておけば、それを大気中へ放出した場合、前記地表への到達時間(3?5分程度)内に空気酸化されて生成するNO2濃度は環境基準値である0.06ppm以下になり、本質的にNO2濃度の環境基準値:0.06ppm以下への対応を図り得ることになる。ここで、かかる放出初期NO濃度:6ppm以下とするには、NO2除去前の元のガス中のNOx濃度(即ちNO及びNO2の合計濃度)を6ppm以下にしておけばよい。尚、上記吸着又は還元で除去されずに放出されるNO2の許容濃度(放出時NO2許容濃度)は、後述の如く、被処理ガス中のNOx(=NO+NO2)濃度、より厳密(或いは直接的)には放出初期NO濃度に依存し、かかる放出時NO2許容濃度を含めてもNO2除去前の元のガス中のNOx濃度を6ppm以下にしておけばよい。
【0018】
本発明に係るNO_(2)の除去方法は、以上の如き知見に基づき完成されたものであり、NO(一酸化窒素)及びNO_(2)(二酸化窒素)をともに含み、それらの合計濃度が6ppm以下である被処理ガスを、NO_(2)(二酸化窒素)吸着剤及び/又は還元剤を充填した層に通じるようにしている。従って、この層(充填層)において被処理ガス中のNO_(2)は吸着されるか、又はNOに還元されるか、あるいは吸着されると共にNOに還元されて除去されるので、充填層の出口でのガスはNO_(2)の除去されたNO濃度:6ppm以下のガス(即ち、放出初期NO濃度:6ppm以下のガス)となり、これを大気中へ放出しても、前記知見からわかる如く、地表への到達時間(3?5分程度)内に空気酸化されて生成するNO_(2)濃度は0.06ppm以下になり、本質的にNO_(2)濃度の環境基準値:0.06ppm以下への対応を図り得る。尚、NO_(2)の除去されたNO濃度:6ppm以下のガス(即ち、放出初期NO濃度:6ppm以下のガス)とは、NO_(2)を全く含んではならないというわけではなく、被処理ガス中のNO_(X)(NO+NO_(2))濃度、より直接的には放出初期NO濃度に対応して、ある程度まで許容できる(前記放出時NO_(2)許容濃度まで含んでもよい)ことは前述のとおりである(この詳細については後述する)。
【0019】
このとき、NO2除去(浄化処理)対象のガスがNOx濃度(即ちNO及びNO2の合計濃度):6ppm以下の低濃度NOxガスであれば、それを直接(事前浄化処理することなく)、上記被処理ガスとして充填層に通じればよく、本発明の処理対象のガスは低濃度NOxガスであり、特に自動車トンネルからの換気ガス(NOx濃度1?3ppm程度)であるので、それを直接充填層に通じればよく、事前浄化処理の必要がない。又、本発明法は、上記の如く、NOx全体を除去対象とするものではなく、NOx中のNO2を除去の対象とするものであり、かかるNOx中のNO2の割合は低く、例えば自動車トンネルからの換気ガスの場合には前記の如く約10%と低く、そのため吸着及び/又は還元による除去量が少なくてすむので、前記従来の各方式が共通して有する装置の大型化及び高コスト化という経済上の問題点を解消し、より簡便な装置で且つ低コストで遂行し得る。
【0020】
従って、本発明に係るNO2の除去方法によれば、自動車トンネルからの換気ガスの如き低濃度NOxガスに対し、前記従来の各方式に比し、より簡便な装置で且つ低コストで本質的に有害であるNO2を除去し得、本質的にNO2濃度の環境基準値:0.06ppm以下への対応を図り得るようになる。
【0021】
前記NO2吸着剤及び/又は還元剤の充填層において、被処理ガス中のNO2は、前記の如く吸着されるか、又はNOに還元されるか、或いは吸着されると共にNOに還元されて、除去される。この充填層の出口において被処理ガスは前記の如くNO2除去されたNO濃度:6ppm以下のガスとなり、これを後処理することなく、そのまま大気中へ放出してもよい。
【0022】
前記NO2吸着剤及び/又は還元剤としては、低濃度NOx中のNOをNO2にできるだけ酸化せず、同時にNO2を高効率で吸着除去できる吸着剤であることが望ましい。かかる吸着剤を探索すべく多数の吸着剤について研究を重ねた結果、炭素質吸着剤が最適であるとの結論に達した。従って、この点から、前記NO2吸着剤及び/又は還元剤として炭素質吸着剤を使用すること、即ち、炭素質吸着剤充填層を充填層として使用することが好ましい。ここで、炭素質吸着剤とは一般に活性炭を指すが、炭化のみに止め賦活を行わないもの(活性コークス等)や、他材料と活性炭との複合材料、或いは活性炭が他材料上に担持されたものであってもよい。
【0023】
上記炭素質吸着剤に代えてゼオライトや活性アルミナ等の如き極性吸着剤を用いると、該吸着剤は乾燥下ではNO_(2)をかなり吸着するものの、高湿度下では低性能であった。これに対して、疎水性の炭素質吸着剤は高湿度域でも性能低下が僅かであるか、むしろ性能が向上するものもあり、又、NO_(2)を極めて放出し難く、NOを含まないNO_(2)を通じても、吸着せずに破過したものの全量がNOであった。これは、NO_(2)が表面炭素によってNOに還元されてから破過したためであり、高い空間速度条件下でもNO_(2)に関してはほぼ完全な除去が可能である点が他の吸着剤に見られない特徴である。
【0024】
NO2と僅かにNOを吸着した炭素質吸着剤は、その性能が低下すると加熱再生することによって繰り返し使用が可能になる。即ち、前記炭素質吸着剤での吸着及び還元を終了した後、該炭素質吸着剤を100?200℃の温度まで加熱して吸着ガス成分を脱着させ、該炭素質吸着剤の吸着及び還元活性を回復させることができる。このとき、上記加熱温度(再生温度)を150?200℃とすると、脱着がより完全に起こるので好ましい。上記加熱により、NO2(或いは共存水と反応してできた硝酸)の大部分は表面炭素と反応してNOに還元されて脱着する。NO2のままで脱着するゼオライトや活性アルミナ等に比べて脱着NO2の除去を殆ど考慮しなくてよい点で有利である。
【0025】
上記脱着の際、吸着していたNO2濃度等によって、僅かではあるがNO2のままで脱着する可能性もあるが、その場合には脱着させたガス成分を冷却した後、炭素質吸着剤を含む充填層に通じ、該ガス成分中のNO2を吸着及び/又は還元せしめるとよく、それにより大気中への二酸化窒素の漏洩を防止できる。複数の充填層を設け連続的に被処理ガスを浄化する場合には、この充填層の中の吸着操作中の充填層に脱着ガスを通してもよい。
【0026】
前記の如く炭素質吸着剤充填層を使用する場合、該炭素質吸着剤充填層の上流側にゼオライトや活性アルミナ等のNO2吸着剤充填層を設けると、該炭素質吸着剤充填層のNO2負荷を下げて該炭素質吸着剤の寿命を伸ばすことができる。但し、この場合、吸着剤の加熱再生の際、ゼオライトや活性アルミナ等では前述の如くNO2のままで脱着するので、この脱着したNO2は無害化処理(前述の選択的触媒還元法等による処理)後に放出する必要がある。その反面、大風量装置等で大量の炭素質吸着剤を必要とする場合等には、その充填量を下げて取り替え頻度を減らすことが可能となる利点がある。
【0027】
前述の如く放出初期NO濃度:6ppm以下のガスは放出時NO_(2)許容濃度までNO_(2)を含んでもよく、この放出時NO_(2)許容濃度は被処理ガス中のNO_(X)(=NO+NO_(2))濃度、より直接的には放出初期NO濃度に依存する。この詳細を以下説明する。
【0028】
NOの空気中でのNO_(2)への酸化反応は2NO+O_(2)→2NO_(2)で表現され、その反応速度は、-d[NO]/dt=d[NO_(2)]/dt=k[NO]^(2)(但し、[NO],[NO_(2)]:濃度、k:反応速度定数)の式に従う。これを積分すると、c=c_(1)+(ktc_(0)^(2))/(c_(0)kt+1)の式が得られる。但し、c_(0):反応開始前のNO濃度(本発明では換気設備等から放出される時の濃度)、c_(1):反応開始前のNO_(2)濃度(本発明では換気設備等から放出される時の濃度、即ち除去できなかったNO_(2)の濃度)、k:反応速度定数、t:反応時間(本発明では、放出?地表への到達時間)、c:時間tの時点でのNO_(2)濃度である。ここで、前述の如きNO含有空気中でのNOの酸化生成物であるNO_(2)の濃度経時変化の測定実験と同様の実験を行った結果、濃度をモル分率(〔例〕3ppmの場合→3×10^(-6))、時間を分で表した場合に、常温において、k=300[min^(-1)]で表されることが分かった。
【0029】
上記式を用いて、種々のc_(0)に対して、t=3及び5[min]の場合のcを計算すると、次のようになる(下記表イ)。この計算結果のNO_(2)濃度にc_(1)を加えたものが、実際の予想NO_(2)濃度になる。
【0030】
表イ

【0031】
前述の如く地表への到達時間(3?5分)後の地表での総NO_(2)濃度が0.06ppm以下であればよい。そこで、5分後の総NO_(2)濃度の許容値を0.06ppm以下として計算すると、c_(1)即ち放出時の許容NO_(2)濃度(放出時NO_(2)許容濃度)が求められ、上記表イの最終カラムに記した濃度〔放出時NO_(2)許容濃度〕になる。従って、放出時のNO濃度(放出初期NO濃度)が1?3ppm程度の一般的な対象に対しては、放出時NO_(2)許容濃度が0.05ppm程度になるように除去性能を設定すればよく、逆に6ppm程度に達する場合には、0.01ppm程度以下まで除去する必要がある。このように、放出時NO_(2)許容濃度は放出初期NO濃度に依存し、放出初期NO濃度が小さいほど大きく、放出初期NO濃度6ppmのとき0.006ppm以下、放出初期NO濃度1ppmのとき0.058ppm以下である。これらのことからも、NO_(2)除去前の元のガス中のNO_(X)濃度としては6ppm以下にしておけば充分であることがわかる。
【0032】
上記のことを一般化すると、5分後の総NO_(2)濃度を0.006ppm以下とする(地表での総NO_(2)濃度の許容値以下とする)のに必要な、放出時NO_(2)許容濃度(モル分率)は、放出初期NO濃度(モル分率)をC_(0)とすると下記▲1▼式で表され、このとき濃度をppmで表すと下記▲2▼式で表される。
(0.06×10^(-6))-(1500C_(0)^(2))/(1500C_(0)+1)--------▲1▼式
0.06-(1500×10^(-6)C_(0)^(2))/(1500×10^(-6)C_(0)+1)----▲2▼式
【0033】
尚、上記式より、NO_(X)(NO+NO_(2))濃度:6ppm以下の被処理ガスを、NO_(2)吸着剤及び/又は還元剤の充填層に通じ、該ガス中のNO_(2)を吸着及び/又は還元せしめて除去するに際し、該充填層出口でのNO濃度をXとすると、該充填層出口でのNO_(2)濃度が〔0.06-(1500×10^(-6)X^(2))/(1500×10^(-6)X+1)〕ppm以下になるように制御してやればよいといえる。
【0034】
【実施例】
炭素質吸着剤として、市販の武田薬品工業社製粒状椰子殻活性炭GX(以下、吸着剤A)と、NOのNO_(2)への酸化触媒活性を高めるように、直径4?10Åの細孔径を発達させると共に、表面酸化を抑制するために賦活後に窒素雰囲気中で冷却したフェノール樹脂賦活粒状炭(神戸製鋼所社製)(以下、吸着剤B)とを用意した。また、住友化学工業社製粒状活性アルミナKHD(以下、吸着剤C)も用意した。そして、これら吸着剤を別々に内寸3.2cmの吸着管内に充填して充填高さ:150mmの吸着剤充填層を形成し、これら充填層に、温度:35℃、相対湿度:60%、NO_(X)濃度:5.0ppm(NO:4.5ppm,NO_(2):0.5ppm)の空気を被処理ガスとして通じて処理した。このとき、吸着温度:35℃、空間速度:12000/h、処理時間:連続60hとした。
【0035】
そして、上記処理の際、吸着剤充填層出口のNO濃度及びNO_(X)濃度を化学発光式NO_(X)分析計(最小測定範囲:0-2ppm)で測定し、両濃度の差からNO_(2)濃度を求めた。このようにして求めたNO及びNO_(2)濃度変化を表1に示す。表1からわかる如く、吸着剤充填層出口のNO濃度は1.1?4.4ppmで、いづれの場合も6ppm以下である。一方、充填層出口のNO_(2)濃度は、吸着剤A充填層の場合は処理時間60hの間N.D(:検出されず〔検出下限0.02ppm〕)のレベルであり、吸着剤B充填層の場合は処理時間24hまでの間N.Dのレベルであるので、これらは放出初期NO濃度6ppm以下のガス(即ち、NO_(2)除去されたNO濃度:6ppm以下のガス)に相当し、従って、それを直接大気中へ放出しても、地表への到達時間(3?5分程度)内に空気酸化され生成するNO_(2)濃度は0.06ppm以下になり(0.02ppm程度のNO_(2)が常時放出されていたと仮定しても地表でのNO_(2)濃度は0.06ppm以下になり)、本質的にNO_(2)濃度の環境基準値:0.06ppm以下への対応を図り得ることになる。尚、吸着剤B充填層の場合、処理時間36?60hでの充填層出口のNO_(2)濃度は0.03?0.10ppmであり、この中、処理時間48h以降では直接大気中へ放出するとNO_(2)濃度の環境基準値:0.06ppm以下への対応が図り難いが、少なくとも処理時間36h迄は直接大気中へ放出してもNO_(2)濃度の環境基準値:0.06ppm以下への対応が図れる。又、吸着剤C充填層の場合、処理時間12?60hでの充填層出口のNO_(2)濃度は0.03?0.37ppmであり、この中、処理時間24h以降では直接大気中へ放出するとNO_(2)濃度の環境基準値:0.06ppm以下への対応が図り難いが、少なくとも処理時間12h迄は直接大気中へ放出してもNO_(2)濃度の環境基準値:0.06ppm以下への対応が図れる。
【0036】
吸着剤A、B、Cの三者の性能を比較するに、吸着剤CはNO吸着能を殆ど示さず、又、当初からNO_(2)の破過が認められ、最も性能が劣っていた。これに対し、吸着剤A、Bは性能に優れ、この両者を比較すると、NOを含むNO_(X)全体の除去性能は吸着剤Bの方が優れていたが、しかしNO_(2)のみに着目すると吸着剤Aの方が優れ、実験期間(処理時間60h)中NO_(2)の破過は認められなかった。ここで、活性炭へのNOの吸着は活性炭の酸化触媒能によってNOがNO_(2)に酸化されることに起因しているため、この酸化触媒能力を強化した吸着剤Bは、同一運転(処理)時間で比較すると、より多量のNO_(2)を処理した(一部は吸着し、一部は表面炭素との反応によってNOに再還元されて再放出された)ことになる。従って、本発明法の場合のようなNO_(2)のみの除去に対しては、吸着剤Bの如くNO吸着活性を強化せしめた高価な活性炭よりも、吸着剤Aの如くNO吸着活性を強化していない安価な活性炭の方がむしろ高性能であり、従来のNO_(X)全体を処理する方法に比べて経済的である。
【0037】
【表1】

【0038】
以上の実施例からもわかる如く、本発明によれば、自動車トンネルからの換気ガスの如き低濃度NOxガスの浄化のためのNOxの除去対象をNO2に限定することによって、一般的な安価な吸着剤を用いて高い空間速度で浄化処理を行わせることができるようになる。この場合、特に、前記吸着剤A等の如き炭素質吸着剤を用いると、NO2のほぼ全量が、吸着操作時の破過ガスとして或いは再生操作時の脱着ガスとしてNOの形で脱離するため、吸着剤の再生操作によって生成するNO2の処理という問題がなく、経済的である。
【0039】
【発明の効果】
本発明に係る自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法は、自動車トンネルからの換気ガスの如き低濃度NOxガスの浄化に際し、本質的に有害であるNO2を除去対象とするものであり、NOx全体を除去対象とする従来の各方式が共通して有する装置の大型化及び高コスト化という経済上の問題点を解消し、従来の各方式に比し、より簡便な装置で且つ低コストで本質的に有害であるNO2を除去し得、本質的にNO2濃度の環境基準値:0.06ppm以下への対応を図り得るようになるという効果を奏する。又、本発明法は、オゾンを添加するものではなく、脱湿を要するものでもないから、従来のオゾン添加方式(1)及びゼオライト充填方式(2)の如き問題点はなくて解消することができるという効果を奏する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-10-18 
結審通知日 2007-10-22 
審決日 2007-11-08 
出願番号 特願平6-205053
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (B01D)
P 1 113・ 534- ZA (B01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 板橋 一隆
斎藤 克也
登録日 2004-06-25 
登録番号 特許第3568244号(P3568244)
発明の名称 自動車トンネル換気ガスの浄化処理方法  
代理人 菅河 忠志  
代理人 二口 治  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 菅河 忠志  
代理人 植木 久一  
代理人 植木 久一  
代理人 奥田 誠司  
代理人 二口 治  
代理人 伊藤 浩彰  

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