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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B41K
管理番号 1171360
審判番号 不服2005-17825  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-15 
確定日 2008-01-15 
事件の表示 平成 8年特許願第103430号「熱可塑性樹脂の印面製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月 7日出願公開、特開平 9-263030〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成8年3月28日に出願したものであって、平成17年8月16日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年9月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年10月11日付で明細書についての手続補正がなされたものである。

第2.平成17年10月11日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年10月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、特許請求の範囲の請求項1は「赤外線照射により発熱する発熱インキ(6)を用いて所望する像を白黒反転で描画したネガ原稿(1)の発熱インキ(6)側に、連続多孔質を有する熱可塑性樹脂(3)を積層させ、ネガ原稿(1)と熱可塑性樹脂(3)との間に厚さ10ミクロン以上70ミクロン未満の透明なフィルム(2)を介在させ、ネガ原稿(1)側から赤外線を照射し発熱インキ(6)を発熱させて熱可塑性樹脂(3)の表面を溶融し、インキの滲み出し部(4)と非滲み出し部(5)からなる印面を作成することを特徴とする熱可塑性樹脂の印面製造方法。」から、
「赤外線照射により発熱する発熱インキを用いて所望する像を白黒反転で描画したネガ原稿の発熱インキ側に、連続多孔質を有する熱可塑性樹脂を、相互間に厚さ10?50ミクロンのポリ塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレンのいずれかよりなる透明フィルムを介在させて積層させ、ネガ原稿側から赤外線を照射し発熱インキを発熱させることにより、熱可塑性樹脂の表面を、連続多孔質のまま残されたインキ滲み出し部と、発熱インキの発熱により連続多孔質部分が部分的に溶融して潰された30ミクロン以上の厚みの非滲み出し部とよりなる印面に形成することを特徴とする熱可塑性樹脂の印面製造方法。」と補正された。

上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「フィルム」について「厚さ10ミクロン以上70ミクロン未満の透明な」との特定を、「厚さ10?50ミクロンのポリ塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレンのいずれかよりなる透明」と限定し、同じく「インキの滲み出し部と非滲み出し部」について「連続多孔質のまま残されたインキ滲み出し部と、発熱インキの発熱により連続多孔質部分が部分的に溶融して潰された30ミクロン以上の厚みの非滲み出し部」と限定したものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)独立特許要件
明細書の記載要件について検討する。
補正後の請求項1には
a.「厚さ10?50ミクロンのポリ塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレンのいずれかよりなる」及び
b.「発熱インキの発熱により連続多孔質部分が部分的に溶融して潰された30ミクロン以上の厚みの非滲み出し部」という特定事項がある。
上記特定事項a.は、フィルムの材質と、厚みを数値限定したものであり、上記特定事項b.は、非滲み出し部の厚みを数値限定したものである。
数値限定を伴った発明では、数値範囲を満たすもの全てが満たさないものに比べ、又、材質を限定する場合は、限定されたものがそれ以外のものに比べて、有利な効果を奏することが当業者が認識できる程度に、発明の詳細な説明に記載されていなければ、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」、「特許を受けようとする発明が明確であること」(特許法第36条第6項1号、2号)の要件に適合するということが出来ないから、以下に「厚さ10?50ミクロンのポリ塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレンのいずれかよりなる」、「30ミクロン以上の厚みの非滲み出し部」と限定したことにより、限定されないものに比して有利な効果を奏することが発明の詳細な説明で裏付けられているか検討する。

上記特定事項a.に関して、本願明細書の発明の詳細な説明の項には以下の記載がある。
「2は、透明のポリ塩化ビニ-ル、またはポリエチレン、ポリプロピレンフィルムであり、最も適切な厚さは10ミクロン?50ミクロンである。
フィルミ2が厚ければ熱伝達が悪くなり、薄いと熱可塑性樹脂3の方に張りつき熱可塑性樹脂3から剥がすのに手間を要する。...実施例1は、ポリプロピレンフィルム15ミクロン。実施例2は、ポリエチレンフィルム30ミクロン。実施例3は、ポリプロピレンフィルム45ミクロン。比較例1は、ポリプロピレンフィルム70ミクロン。比較例2は、フィルム2は無し。」(【0006】)



」(表1)

上記特定事項b.の「30ミクロン以上の厚みの非滲み出し部」に関しては、上記表1の記載があるが、それ以外には、本願明細書に、この点に関する記載はない。
上記表1の三つの実施例は、ネガ原稿と熱可塑性樹脂の間に、膜厚15μのポリプロピレンフィルム、膜厚30μのポリエチレンフィルム、膜厚45μのポリプロピレンフィルムを介在させた例であり、二つの比較例は膜厚70μのポリプロピレンフィルムを介在させた例、フィルムを介在させない例である。
上記実施例及び比較例から、膜厚15?45ミクロンの範囲のポリプロピレンフィルムを介在させると、印面外観、捺印印影共に良好であり、非滲み出し部厚は30?45ミクロンの範囲であろうということが推定でき、膜厚30ミクロンのポリエチレンフィルムを介在させると、印面外観、捺印印影共に良好であり、非滲み出し部厚が40ミクロンであるということ、膜厚70ミクロンのポリプロピレンフィルムを介在させると、印面外観、捺印印影共不良で熱可塑性樹脂が溶融しないこと、フィルムを介在させないと、印面外観、捺印印影共不良で、印面に発熱インキが付着することが窺える。しかしながら、これら実施例のうち膜厚が最も薄い実施例1の15ミクロンは、特定事項aで規定された透明フィルムの厚みの下限の10ミクロンを相当上回っており、実施例のうち膜厚が最も厚い実施例3の45ミクロンは、特定事項aで規定された透明フィルムの厚みの上限の50ミクロンを相当下回っており、フィルムを介在させた唯一の比較例1の膜厚70ミクロンは、上限の50ミクロンをはるかに上回っており、10ミクロン≦膜厚<15ミクロン、45ミクロン<膜厚≦50ミクロンのフィルムを介在させた場合、下限の10ミクロンを僅かに下回る膜厚や、上限の50ミクロンから70ミクロンまでの膜厚のフィルムを介在させた場合について例が無く、数値範囲の上下限を裏付ける実施例が示されていない。
したがって、フィルムの厚み10?50ミクロンが何を根拠に導き出されたものか理解できない。
又、ポリエチレンフィルムについては膜厚が30ミクロンのものが1例のみ記載されているが、ポリ塩化ビニールフィルムを介在させた場合については実施例が皆無であり、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリ塩化ビニールフィルムが、他のフィルムと比較してなぜ好ましいかも記載されておらず、何を根拠に、透明フィルムの材質をポリ塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレンのいずれかと限定したのか不明である。
非滲み出し部厚の数値を30ミクロン以上とした点は、上記表1の実施例1乃至3のみが根拠であるが、実施例1乃至3から、膜厚が45ミクロン以下のポリプロピレンフィルムを介在させた場合、膜厚が30ミクロン以下のポリエチレンフィルムを介在させた場合には、30ミクロン以上の厚みの非滲み出し部が形成されることが推定できるが、熱伝達が異なるポリ塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレンのいずれを介在させても、フィルムの膜厚が10?50ミクロンの範囲にあれば、非滲み出し部の厚みを左右する要因と認められる発熱インキの種類、赤外線の波長や照射エネルギー等を度外視して、常に、30ミクロン以上の厚みの非滲み出し部が形成されるとは考えられない。
本願発明が奏する効果について、本願明細書の段落【0010】に、「容易に印面を製造出来、細かい鮮明な印影が得られる熱可塑性樹脂3の印面製造方法である。特に、凹凸金型を使用することなく、赤外線により安定した印面を容易に製造できる。」の全般的な記載があるが、フィルムの厚みを10?50ミクロンとした効果については、段落【0006】に「最も適切な厚さは10ミクロン?50ミクロンである。フィルミ2が厚ければ熱伝達が悪くなり、薄いと熱可塑性樹脂3の方に張りつき熱可塑性樹脂3から剥がすのに手間を要する。」の記載があり、この点により得ようとする効果は一応理解できるが、フィルムの材質をポリ塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレンのいずれかに限定した点、非滲み出し部の厚みを30ミクロン以上と限定した点による個々の効果については、本願明細書には記載がない。審判請求書の手続補正書の「フィルムの材質と厚みの限定は、赤外線の透過性、熱伝達性、熱可塑性樹脂に対する剥離性に経済性を加味して実験上得られた最適の条件に基づいている。...非滲み出し部厚の数値を30ミクロン以上とする理由は、30ミクロン未満であるとインキの滲みだしを完全に阻止できなくなるので、被捺印面にインキが滲んで文字などが細かいときには鮮明な印影をえることができなくなるおそれがある。今般の補正により前記した2点を構成要件に加えたことによりはじめて、0003に発明が解決しようとする課題として記載され、且つ、0010に発明の効果として記載されているような「細かい鮮明な印影が得られる」こととなります。」(第2頁10?26行)の記載を参照すれば「フィルムの材質をポリ塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレンのいずれかとした点」、「非滲み出し部厚の数値を30ミクロン以上とした点」は、最終的に「細かい鮮明な印影が得られる」という効果を狙ったものと解されるが、上記の如く限定することによって、細かい鮮明な印影が得られると、認識できるように発明の詳細な説明に記載されていない。

以上のとおり、発明の詳細な説明には、請求項に記載された「膜厚10?50ミクロン」及び「30ミクロン以上の厚みの非滲み出し部」の数値範囲全体にわたる十分な数の実施例がなく、しかも、発明の詳細な説明の他所の記載をみても、また、出願時の技術常識に照らしても、実施例からは請求項に記載された数値範囲全体にまで拡張乃至一般化出来るとは認められず、同じく請求項に記載された「ポリ塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレンのいずれか」と特定することが、どのような技術的意義を有するのか、発明の詳細な説明の記載から、理解できないから、補正後の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項1号及び2号に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)補正却下のむすび
本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
(1)本願発明
平成17年10月11日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年6月14日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「赤外線照射により発熱する発熱インキ(6)を用いて所望する像を白黒反転で描画したネガ原稿(1)の発熱インキ(6)側に、連続多孔質を有する熱可塑性樹脂(3)を積層させ、ネガ原稿(1)と熱可塑性樹脂(3)との間に厚さ10ミクロン以上70ミクロン未満の透明なフィルム(2)を介在させ、ネガ原稿(1)側から赤外線を照射し発熱インキ(6)を発熱させて熱可塑性樹脂(3)の表面を溶融し、インキの滲み出し部(4)と非滲み出し部(5)からなる印面を作成することを特徴とする熱可塑性樹脂の印面製造方法。」

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-072376号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。
ア.特許請求の範囲「【請求項15】連続気泡を有してスタンプインキを含浸可能な弾性樹脂製のスタンプ材に、光を当てることにより温度上昇する発熱材を記録材とし用いられた原稿を重ね合わせ、その原稿に光を照射して、原稿における発熱材存在箇所の温度を上昇させ、この温度上昇箇所と対応するスタンプ材表面をその熱で溶かして気泡を閉塞させる熔融部を形成することによりスタンプインキ非滲出部を設けると共に、原稿において光が透過して温度が上昇しない発熱材不在箇所と対応するスタンプ材表面は気泡が表面に開通した状態を維持する非熔融部を形成してスタンプインキ滲出部とすることを特徴とするスタンプ用印版の製法。
【請求項16】光を当てることにより温度上昇する発熱材を記録材として用いられた原稿は、カーボンもしくは高分子物質を含むインキまたはトナーを発熱材として、この発熱材により文字、図形等存在部分を作成したものであることからなる請求項15記載のスタンプ用印版の製法。
【請求項17】光を当てることにより温度上昇する発熱材を記録材とし用いられた原稿は、カーボンもしくは高分子物質を含むインキまたはトナーを発熱材として、この発熱材により文字、図形等不存在部分を作成したものであることからなる請求項15記載のスタンプ用印版の製法。...
【請求項20】連続気泡を有してスタンプインキを含浸可能な弾性樹脂製のスタンプ材が立体網目構造の平均気泡径2?10ミクロンの微細連続気泡を有し気孔率30?80%の熔融温度が50?100℃であることからなるポリオレフィン系フォームの0.5?10mm厚のシートである請求項15記載のスタンプ用印版の製法。...
【請求項23】光は少なくとも赤外線を含むクセノン閃光器、フォトストロボフラッシュやフラッシュバルブを光源とする閃光であることからなる請求項15記載のスタンプ用印版の製法。」
イ.段落【0030】?【0031】「原稿における発熱材存在箇所が文字、図形等不在部分の場合〔たとえば、透明なシート等に発熱材を筆記材として白黒反転の正像(該シート等の生地が正像となる)を描いたもの(以下、発熱原稿シートという)〕を説明する。連続気泡を有してスタンプインキ含浸可能な弾性樹脂製のスタンプ材の表面に、所望の印影が描かれた発熱原稿シート発熱材面を接して重ね、該発熱原稿シートに赤外線を含む光を照射することにより該スタンプ材の表面に溶融部と非溶融部を形成し、該溶融部がスタンプインキ非滲出部、該非溶融部がスタンプインキ滲出部となる印面とするものである。この製法におけるスタンプ材表面の印面の形成は、連続気泡を有してスタンプインキ含浸可能なスタンプ材の表面に、所望の印影の白黒反転像が描かれた発熱原稿シートを発熱材面を接して重ね、その上方より赤外線を含む閃光を照射する。該発熱原稿シートの印影像以外の部分(すなわち、光による発熱が起こる記録材のある部分)では赤外線を直接吸収して該発熱原稿シートの記録材の発熱によりスタンプ材の表面が溶融される。この溶融部はスタンプ材の表面の気泡が閉塞されて、スタンプ材に吸蔵しているスタンプインキが流通しない部分となる。一方、該原稿シートの印影鏡像の部分(すなわち、記録材のない部分)は、赤外線が直接透過するだけでスタンプ材の溶融は発生しない。この非溶融部はスタンプ材に吸蔵されたインキが滲出する部分となる。これらの溶融部と非溶融部とで印面が形成され、捺印時にこの部分から所望の印影が得られる。
この例における発熱原稿シートとは、透明シートにレーザープリンタで白黒反転正像を印刷することで容易に得られる。」
ウ.段落【0039】「実施例4
発熱原稿シートの作製:赤外線透過可能なシートに赤外線により発熱するトナーからなる発熱材を筆記材としたレーザープリンタで白黒反転正像を印刷し、該シートの印刷面に記録材不在部分で所要文字の正像を形成した印影原稿8を有する発熱原稿シートMTを得た。
印版の製作:赤外線を含む閃光の発光器1の透明ガラス2上に発熱原稿シートMTの発熱材5’面が上面となるように重ね、この上に立体網目構造の見掛密度0.3g/cm^(3)の微細連続気孔をもつ発泡ポリエチレンシートのスタンプ材S7を重ねて置く〔図4(a)参照〕。このスタンプ材に厚さ方向の弾性変形を5?50%程度与えるように圧力をかけた状態で閃光を照射した。図4(b)に示すようにスタンプ材S7の表面は、発熱原稿シートMTの印影原稿像8の部分は光を透過して変化がなくスタンプインキ滲出部Iとなり鏡像として残り、その他の表面は記録材が発熱しスタンプ材表層の気泡を溶融密着して閉塞しスタンプインキ非滲出部Hとなる。印面のスタンプインキ滲出部Iと非滲出部Hの段差は0.05mmのスタンプ用印版が得られた〔図7(a)参照〕。」
エ.図4(b)より、発熱原稿シートMTの発熱材5’側に発泡ポリエチレンシートS7を積層させ、発熱原稿シートMTの側から閃光が照射されることが看取できる。
上記記載及び図面を含む引用例1全体の記載から、引用例1には、以下の発明が開示されていると認められる。
「赤外線照射により発熱する発熱材5’により所望の印影の白黒反転正像を印刷した、発熱原稿シートMTの発熱材5’側に、連続気孔をもつ発泡ポリエチレンシートのスタンプ材S7を積層し、発熱原稿シートMTの側から赤外線を照射し発熱材5’を発熱させてスタンプ材S7の表面を溶融し、スタンプ材S7にスタンプインキ滲出部Iとスタンプインキ非滲み出し部Hからなる印面を作成するポリエチレンシートのスタンプ材S7の印面の製法。」(以下、「引用発明1」という。)

同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-293855号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある。
あ.公報第2頁左上欄8行?右上欄17行「本発明の目的は、原稿としてトナー画像を有する複写物が使用できる孔版の作成方法を提供することにある。本発明の他の目的は、複写原稿用として特殊な処理を施した感熱孔版印刷用原紙を使用することなく、簡便な方法で融着トナーによる孔の塞損を防止することができる孔版の作成方法を提供することにある。
(発明の概要)
本発明によれば、感熱孔版印刷用原紙と原稿を重ね合わせ、該原紙側から赤外線を含む電磁波を照射することにより、原稿の画像図に対応する原紙の部分に穿孔を形成する孔版の製造方法において、原紙と原稿とをフッ素樹脂フィルムを介して重ね合わせ孔版の作成を行うことを特徴とする方法が提供される。
(発明の具体的態様)
本発明の方法の実施は、従来から感熱孔版印刷用原紙を用いて行われていた方法において、原紙と原稿との間に特定の厚さを有するフッ素樹脂フィルムを挾むことで容易に行うことができる。即ち本発明は、赤外線を含む電磁波を照射した際のトナー画像に蓄積された熱による溶融トナーから、孔版を防御するためにフッ素樹脂フィルムを使用する点に最大の特徴を有する。
従来から、原稿上の溶融トナーの孔版への溶融着を防止する手段として原稿と孔版との間に特定の層を形成することは公知の技術に属する。」
い.公報第2頁右下欄3?8行「本発明に使用するフッ素樹脂フィルムは、熱伝達性並びに取り扱いの容易性或いは耐久性の観点からその厚さは10乃至100μmのものを使用することが重要であり、この範囲の中でも特に12乃至50μmのものを使用することが望ましい。」

(2)対比・判断
本願発明と引用発明とを比較する。
引用発明1において、カーボンもしくは高分子物質を含むインキまたはトナーを発熱材としている(記載ア.【請求項17】)から、引用発明1の「発熱材」は、本願発明の「発熱インキ」を含んでいる。
引用発明1の「所望の印影の白黒反転正像を印刷した、発熱原稿シートMT」及び「連続気孔をもつ発泡ポリエチレンのスタンプ材S7」は、本願発明の「所望する像を白黒反転で描画したネガ原稿」及び「連続多孔質を有する熱可塑性樹脂」といえる。
引用発明1の「スタンプインキ滲出部I」及び「スタンプインキ非滲み出し部H」は、それぞれ本願発明の「インキの滲み出し部」及び「非滲み出し部」に相当する。
よって、両者は
「赤外線照射により発熱する発熱インキを用いて所望する像を白黒反転で描画したネガ原稿の発熱インキ側に、連続多孔質を有する熱可塑性樹脂を積層させ、ネガ原稿側から赤外線を照射し発熱インキを発熱させて熱可塑性樹脂の表面を溶融し、インキの滲み出し部と非滲み出し部からなる印面を作成する熱可塑性樹脂の印面製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]ネガ原稿と熱可塑性樹脂との間に、本願発明は、厚さ10ミクロン以上70ミクロン未満の透明なフィルムを介在させているのに対し、引用発明1では、フィルムを介在させていない点。

[相違点]について検討する。
引用例2には、原稿と孔版を重ね合わせて製版をなす際に、赤外線を照射した際の融着トナーから孔版を防御するためにフッ素樹脂フィルムを介在させる点、及び、熱伝達性等の観点から、フィルムの厚さは10乃至100μmのもの(好適には12乃至50μmのもの)を使用することが重要である点が記載されている。また、上記フッ素樹脂フィルムが透明であることは、赤外線を含む電磁波を透過するものであることから明らかである。
引用発明1、引用例2はともに、トナー等の発熱材を用いて描画した原稿の原稿側から赤外線を照射し発熱材を発熱させて発熱材側に積層させた版(引用発明1におけるスタンプ材、引用例2における孔版)を溶融して製版し、その後、原稿と版を剥離する点で、同一の技術分野に属するものである。
引用発明1においても、原稿の発熱材とスタンプ材が直接接触しているため、原稿の発熱材がスタンプ材に融着して原稿とスタンプ材がくっついてしまい、両者の剥離の妨げになることは明らかである。
引用例2には、原稿の発熱材を版に融着させないことを目的として、原稿の発熱材と版の間に透明フィルムを介在させる技術が記載されているから、引用発明1に引用例2記載の上記技術を採用して、原稿の発熱材とスタンプ材の間に透明フィルムを介在させて、原稿の発熱材がスタンプ材に融着しないようにし、原稿とスタンプ材の剥離が容易にできるようにすることは、当業者が容易になし得ることであって、その際、厚さを10ミクロン以上70ミクロン未満とした点は、フィルムの熱伝達等を考慮して当業者が普通に採用する範囲の厚さである(引用例2におけるフィルムの厚み参照)から、この点は、単なる設計事項にすぎない。
そして、上記相違点にかかる構成を採用したことによる本願発明の効果も引用発明1及び引用例2から当業者が予測できる範囲内のものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に頒布された引用例1、2記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-16 
結審通知日 2007-11-20 
審決日 2007-12-04 
出願番号 特願平8-103430
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41K)
P 1 8・ 537- Z (B41K)
P 1 8・ 575- Z (B41K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 一  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 藤井 靖子
七字 ひろみ
発明の名称 熱可塑性樹脂の印面製造方法  
代理人 山本 文夫  
代理人 綿貫 達雄  

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