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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61B
管理番号 1171562
審判番号 不服2005-12029  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-27 
確定日 2008-01-16 
事件の表示 平成8年特許願第96905号「逆解析手法による多関節筋力特性の測定法」拒絶査定不服審判事件〔平成9年10月28日出願公開、特開平9-276255〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 本願は、平成8年4月18日の出願であって、その請求項1-5に係る発明は、平成17年7月27日付手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
これに対して、当審に於いて平成19年7月31日付けで拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、請求人からは何らの応答もない。

ここで、上記拒絶理由の内容は以下のとおりである。


I.平成17年7月27日付でした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

当該手続補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に、該補正前の記載事項に対し、以下の各点を加入することを含むものである。

(1)請求項1には、次の下線部の事項が加入された。
(1-1)「ギアを介して複数のアームを屈曲自在に連結し、このアーム間のギアと前記一方のアームの端部に設けたギアにベルトを設けて、一方のアームにより回動する前記ギアの回動によって前記ベルトを介して前記アーム間の前記ギアを伝達回動して前記他方のアームを所定方向に回動し得るように構成し、このギアを介して屈曲回動自在な複数のアームに沿うように被験者の多関節運動する測定対象に固定する」
(1-2)「前記部位の作用力を測定するようにして、前記一方のアームを所定方向に回動した際の前記アーム間の前記ギアの伝達回動による他方のアームの回動方向が正逆異なる少なくとも二種類の異なる測定条件のもとで夫々前記作用力を測定し、この各・・・」
(2)請求項2には、次の下線部の事項が加入された。
(2-1)「ギアを介して複数のアームを屈曲自在に連結し、このアーム間のギアと前記一方のアームの端部に設けたギアにベルトを設けて、一方のアームにより回動する前記ギアの回動によって前記ベルトを介して前記アーム間の前記ギアを伝達回動して前記他方のアームを所定方向に回動し得るように構成し、このギアを介して屈曲回動自在な複数のアームに沿うように被験者の多関節運動する測定対象に固定する」
(2-2)「総合的運動速度が発生する部位に速度計を取り付けて、被験者が最大努力で駆動した時の前記部位の速度を測定するようにして、前記一方のアームを所定方向に回動した際の前記アーム間の前記ギアの伝達回動による他方のアームの回動方向が正逆異なる少なくとも二種類の異なる測定条件のもとで夫々前記速度を測定し、この各・・・」
(3)請求項3には、次の下線部の事項が加入された。
(3-1)「ギアを介して複数のアームを屈曲自在に連結し、このアーム間のギアと前記一方のアームの端部に設けたギアにベルトを設けて、一方のアームにより回動する前記ギアの回動によって前記ベルトを介して前記アーム間の前記ギアを伝達回動して前記他方のアームを所定方向に回動し得るように構成し、このギアを介して屈曲回動自在な複数のアームに沿うように被験者の多関節運動する測定対象に固定する」
(3-2)「被験者が最大努力で駆動した時の前記部位の作用力および速度を測定するようにして、前記一方のアームを所定方向に回動した際の前記アーム間の前記ギアの伝達回動による他方のアームの回動方向が正逆異なる少なくとも二種類の異なる測定条件のもとで夫々前記作用力及び速度を測定し、この各・・・」
(4)請求項4には、次の下線部の事項が加入された。
「被験者が最大努力で測定装置を駆動した時の作用力および作用速度を測定するようにして、前記円運動機構の円運動回転方向が正逆異なる少なくとも二種類の異なる測定条件のもとで夫々、前記作用力及び作用速度を測定し、この各・・・」
(5)請求項5には、次の下線部の事項が加入された。
「被験者が最大努力で測定装置を駆動した時の作用力および作用速度を測定するようにして、前記直線運動機構の直線運動方向が正逆異なる少なくとも二種類の異なる測定条件のもとで夫々、前記作用力及び作用速度を測定し、この各・・・」
(6)明細書段落【0009】乃至【0013】にも、特許請求の範囲に係る上記(1)乃至(5)の加入事項に対応した事項がそれぞれ加入されている。
(7)明細書の【図面の簡単な説明】欄末尾には、次の事項が加入された。
「【符号の説明】
1 アーム(アームI)
2 アーム(アームII)
a ギア
b ギア」

上記のうち、(1),(2),(3),(6),(7)の点は、「ギア」なる構成要素、及び該「ギア」の動作やこれと他の構成要素との関連に係る事項を加入事項に含むものであるが、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、単に「当初明細書等」という。)には、そもそも「ギア」について記載も示唆もなく、よって、該「ギア」の動作やこれと他の構成要素との関連についても、当然、当初明細書等に記載も示唆もない。
また、上記(1),(2),(3),(6)には「ベルト」に関する事項も加入されているが、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)には「ベルト」なる構成要素も、その動作についても記載がない。願書に最初に添付した図面(以下、「当初図面」という。)には、図1にベルトらしき部材が記載されているものの、腕、アーム、そして前記ベルト様の部材の三次元的な位置関係すら曖昧なスケッチ程度の精度で描かれた該図1のみから、上記(1)乃至(3)及び(6)記載の如く該「ベルト」様部材の動力伝達動作までを知ることはできない。
また、上記(1-2),(2-2),(3-2),(4),(5),(6)には、アームの動作条件に関する加入事項が含まれているが、当初明細書等に於いて、アームの動作条件に係る記載は、明細書【0020】の
「実験条件としては、2本のアーム回転角速度の値や正転反転の組み合わせを種々選ぶ。実験条件の数は求める筋力特性パラメータ数を同定するに必要な数だけ異なった条件について測定を行う。」
なる記載があるのみで、前記加入された「正逆異なる少なくとも二種類の異なる測定条件」なる条件については記載も示唆もない。

なお、当該補正が為された明細書又は図面における請求項1乃至5に記載した事項は願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内にないことが明らかであるから、当該発明については新規性進歩性等の特許要件についての充分な審査を行っていない。

なお、原審に於いて為された平成17年5月2日付手続補正に於いても、当初明細書等の記載に対し、上記と同様の新規事項が加入されているので、合わせて検討されたい。


II.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


(1)請求項1記載の「測定対象の運動時に動作する被験者の各関節部位毎に角速度を一定に制御する装置」が具体的に如何なる機構により実現されるものであるのかについて発明の詳細な説明に記載がない。

(2)請求項1記載の「各関節部位毎の角速度を漸増的または漸減的に制御するように構成した装置」が具体的に如何なる機構により実現されるものであるのかについて発明の詳細な説明に記載がない。

(3)請求項1,3,4,5記載の「作用力」及び「作用力計」が明細書【0013】以下の実施例の記載に於ける何れの力や測定器に対応するのかが不明確である。
なお、少なくとも、実施例の記載中には、「作用力」及び「作用力計」なる記載はない。

(4)明細書【0016】に「固定装置6に取り付けられた荷重計で測定」なる記載があり、これは請求項1の「作用力計」を用いた作用力の測定と関連がある記載とも考えられるが、該荷重計が如何なる原理・構造のもので、如何なる方向の荷重を測定するものであるか、該荷重計や前記固定装置がアームや上腕・下腕との相互関係に於いて何処に如何に取り付けられるもので、何れの部位の何れの方向の「力」を測定するものであるのかが、該段落を含め明細書中で具体的に説明されていない。

(5)請求項1,3記載の「総合的発揮力が作用する部位」、及び請求項2記載の「総合的運動速度が発生する部位」とは、それらが特定の部位を指すとすればそれぞれ何処であるのか、あるいは、条件によりその部位が異なるのであれば、如何なる基準により決定される部位であるのか、さらには、取り付け部位がそもそも測定対象(腕など)の一部であるのか、アームなど測定装置の一部であるのかさえ、発明の詳細な説明に記載されていない。

(6)請求項1乃至5には、
「この各測定条件の運動をコンピュータにより運動解析し、解析結果の作用力特性が測定結果に良く一致する筋力パラメータ(特性変数)値を逆解析手法により求めて測定筋力特性値とする方法を基本とし、コンピュータの運動解析にあたっては、運動時に関わる筋群・骨格の筋骨格系力学モデルおよび各筋の筋力発生モデルを定め、筋群は単関節筋および多関節筋の組み合わせでモデル化し、もし複数の筋力が協調あるいは相殺する場合はそれらの筋を一つの等価な筋モデルで表し、それらモデルのパラメータを変数とする運動力学モデルを構築し、それに基づく運動解析用プログラムソフトを作成し、この変数のうち実験時の測定結果により得られる既知パラメータを運動解析に入力して逆解析することにより、残りの未知パラメータの筋力特性パラメータが得られ、この逆解析にあたり創発的方法(人工生命,遺伝的アルゴリズムなど),学習的方法(ニューロネットワーク,ファジイ推論,知識推論など),数理計画法(線形計画法,非線形計画法,多目的計画法など)などのうち、問題に適するものを選ぶようにした」
なる記載がある。このうち、「モデル」及び「モデル化」については、発明の詳細な説明に、肩関節と肘関節とに関する運動特性測定についての実施例として、関係する関節が【0018】に列挙され、【0019】及び図3に多数の筋肉を数個ずつまとめて単純化したモデルについての記述があるものの、
「それらモデルのパラメータを変数とする運動力学モデルを構築」すること、「それに基づく運動解析用プログラムソフトを作成」すること、「この変数のうち実験時の測定結果により得られる既知パラメータを運動解析に入力して逆解析すること」、「逆解析にあたり創発的方法(・・・),学習的方法(・・・),数理計画法(・・・)などのうち、問題に適するものを選ぶ」ことについては、運動力学モデルが如何なるもので、如何なる式から構成され、如何にして逆解析がなされるのか、逆解析のための前記列挙された各方法を選ぶ根拠、該各方法を前記運動力学モデルに適用する手順について、明細書及び図面に全く具体的な記載がない。

(7)請求項1,4,5に係る発明は、上腕・下腕或いは各関節はアームに固定されることで「一定回転速度」,「角速度一定」及び「直線運動を一定速度に制御」で駆動されるものであるが、このような構成のもとでは、前記固定が不充分なものであったり、装置の駆動機構に遊びがあったりしない限り、該装置の作動によって上腕・下腕の運動は決定されてしまうこととなる。上腕・下腕が自発的な運動が実質的に不可能であるそのような状況下で、「被験者が最大努力で測定装置を駆動」するとは、測定装置をどのように駆動、すなわち動かすことであるのか、不明である。
(8)請求項2に記載された「被験者の各関節部位毎にトルクを一定に制御する装置、或いは各関節毎のトルクを漸増的または漸減的に制御するように構成した装置」が、如何なる構造の如何なる装置で実現され、それは複数のアームやモーターに対し何れの部位に、何れの部材と如何に接続して取り付けられるのかについて発明の詳細な説明に具体的な記載がない。

(9)請求項2に記載された「速度計」は、上記(5)で指摘したとおり、その設置部位について明確な開示が無く不明確である上に、何に対する如何なる方向の速度を如何なる原理で測定する装置であるのかについても、発明の詳細な説明には記載が無く、不明である。

(10)請求項3の「測定対象の運動時に動作する被験者の各関節部位毎に慣性負荷を負荷する構成の装置」について発明の詳細な説明に具体的な説明の記載がない。

(11)請求項4に記載された「円運動機構」とは如何なるものであるのかについて発明の詳細な説明に具体的な説明の記載がない。

(12)請求項4に記載された「円運動を一定角速度に制御する方法,一定トルクに制御する方法,一定慣性負荷とする方法」が具体的に如何なる手段により実現されうるものであるのかについて発明の詳細な説明に開示がない。

(13)請求項5に記載された「直線運動機構」とは如何なるものであるのかについて発明の詳細な説明に具体的な説明の記載がない。

(14)請求項5に記載された「直線運動を一定速度に制御する方法,一定作用力を加える方法,一定慣性負荷とする方法」が具体的に如何なる手段により実現されうるものであるのかについて発明の詳細な説明に開示がない。

(15)請求項1乃至3に記載された「速度」及び請求項4,5に記載された「作用速度」が如何なる手段により測定可能な如何なる量であるのか、発明の詳細な説明に具体的な開示が無い。

(16)請求項1乃至5記載の発明について、実際に逆解析を行って各筋力特性値を求めた例が一例も示されておらず、本願発明の作用効果の開示が為されていない。

よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1乃至5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、請求項1乃至5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。


III. この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)請求項1乃至5には、「逆解析にあたり創発的方法(・・・),学習的方法(・・・),数理計画法(・・・)などのうち、問題に適するものを選ぶ」なる記載があるが、
(1-1)何を以て「問題に適する」と判断するのかさえ規定されておらず、不明であり、
(1-2)ここに列挙された各「方法」を、具体的形態が不明な「運動力学モデル」に如何に適用するのかも不明であり、
(1-3)該各「方法」、及び該各「方法」中の具体的な推論やアルゴリズムの名称は「など」を用いて列挙されており、他に如何なる方法や推論,アルゴリズムが含まれるのかが不明である。

(2)請求項4,5に記載された「作用速度」と請求項2,3に記載された「速度」との異同が不明である。

(3)請求項1乃至3に記載された「速度」及び請求項4,5に記載された「作用速度」が如何なる手段により測定可能な、何次元の如何なる量であるのか不明である。

(4)請求項1に記載された「作用力」が、何れの部材・部位の間に働く、何次元の如何なる量であり、如何なる手段により測定可能な量であるのか不明である。

(5)請求項1,3記載の「総合的発揮力が作用する部位」、及び請求項2記載の「総合的運動速度が発生する部位」は何れも部位を特定する記載として不明確である。

(6)請求項3の「測定対象の運動時に動作する被験者の各関節部位毎に慣性負荷を負荷する構成の装置」なる記載は、装置の構成を機能的にのみ特定したもので、該装置としての構成が不明である。

(7)請求項4に記載された「円運動を一定角速度に制御する方法,一定トルクに制御する方法,一定慣性負荷とする方法」は何れもどのような装置により実現される方法を想定したものか不明である。

(8)請求項5に記載された「直線運動を一定速度に制御する方法,一定作用力を加える方法,一定慣性負荷とする方法」は何れもどのような装置により実現される方法を想定したものか不明である。

(9)前記(1)に関連し、請求項1乃至5に列挙された各逆解析のための「創発的方法」などの各「方法」を本願発明の「運動力学モデル」に如何にして適用するのか、運動力学モデルと逆解析方法との関係が記載されておらず、不明である。

(10)請求項1,4,5に関し、上腕・下腕或いは各関節はアームに固定されることで「一定回転速度」,「角速度一定」及び「直線運動を一定速度に制御」で駆動されるものであるが、前記固定が不充分なものであったり、装置の駆動機構に遊びがあったりしない限り、該装置の作動によって上腕・下腕の運動は決定されてしまうこととなる。そのような状況下で、「被験者が最大努力で測定装置を駆動」するとは、測定装置をどのように駆動、すなわち動かすことであるのか、構成に矛盾があり、不明である。

よって、請求項1乃至5に係る発明は明確でない。


IV.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
(1)補正により加入された新規事項、及びサポート要件について
請求項1乃至5には、上記拒絶理由I.で述べたとおり、補正により加入された新規事項が含まれている。よって、下記(3)に述べる進歩性に関する拒絶の理由は、請求項1乃至5に係る発明のうち、上記I.で指摘した新規事項以外の構成部分であって、出願当初明細書等に於いて充分な説明が為されている事項について、一応の検討を行ったものである。

(2)特許法第30条第1項適用申請について
下記の理由(2-1),(2-2)により、当該申請は認められない。
(2-1)文書の発行日について
請求人が平成8年5月14日付で提出した新規性の喪失の例外証明書提出書には、
文献1:(社)日本機械学会,「第73期通常総会講演会講演論文集(I)」,(1996.4.1発行),p540-541
文献2:(社)日本機械学会,「ジョイント・シンポジウム1995 スポーツ工学シンポジウム シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス 講演論文集」,(1995.10.16発行),p158-161
の2文献が示され、文献1には、1996年4月2?4日に該文献1を以て「(社)日本機械学会第73期通常総会講演会」に於いて発表したことを(社)日本機械学会が証明した証明書が、また、文献2には、平成7年10月19?21日に該文献2を以て「(社)日本機械学会 機械力学・計測機械部門 ジョイント・シンポジウム1995 スポーツ工学シンポジウム シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス」に於いて発表したことを(社)日本機械学会が証明した証明書が、それぞれ添えられている。
しかし、上記のうち文献2については、「文書をもって発表」した日付(平成7年10月19?21日)からみた場合、本願に係る特許出願の日はその6月以内であるものの、該文献2たる刊行物に発表したのは、その発行日である平成8年10月16日であって、該発行日を基準とした場合、本願に係る特許出願はその6月以内に為されたものではないから、該刊行物に発表した行為については、特許法第30条第1項に基づく新規性の喪失の例外の適用は認められない。

(2-2)特許法第29条第1項各号の一に該当するに至った発明であるか
文献1,2に記載された発明(以下、それぞれ「文献1発明」及び「文献2発明」という。)と請求項1乃至5に記載された各発明(以下、それぞれ「本願発明1」乃至「本願発明5」という。また、これらを総称して「本願発明」という。)は、本願発明から上記(1)で述べた新規事項に係る構成を除外しても、以下の点で構成が明確に相違している。
よって、文献1発明及び文献2発明は、特許法第30条第1項に規定する「特許法第29条第1項各号の一に該当するに至った発明」ではない。
(2-2-1)文献1について
(a)本願発明1乃至5に共通する構成について
(a-1)本願発明が備える、「もし複数の筋力が協調あるいは相殺する場合はそれらの筋を一つの等価な筋モデルで表し」、「それに基づく運動解析用プログラムソフトを作成し」、「逆解析にあたり創発的方法(・・・),学習的方法(・・・),数理計画法(・・・)などのうち、問題に適するものを選ぶ」なる各工程を文献1発明は含まない。
(a-2)文献1発明は、筋力特性モデルを解析して「手首の作用力」をFig.3乃至5のように出力するものであり、本願発明のような、何らかの測定値に基づく逆解析工程をあらわには備えていない。逆解析については、「1.はじめに」欄に、従来例としての遺伝的アルゴリズムによる単関節の筋力特性の同定法に関する記載があるのみである。
(b)本願発明1について
本願発明1が備える「各関節部位毎の角速度を漸増的または漸減的に制御するように構成した装置を取り付け」、「総合的発揮力が作用する部位に作用力計を取り付け」、「被験者が最大努力で駆動した時の前記部位の作用力を測定する」なる各工程を文献1発明は備えていない。

(c)本願発明2について
本願発明2が備える「測定対象の運動時に動作する被験者の各関節部位毎にトルクを一定に制御する装置、或いは各関節毎のトルクを漸増的または漸減的に制御するように構成した装置を取り付け」、「総合的運動速度が発生する部位に速度計を取り付け」、「被験者が最大努力で駆動した時の前記部位の速度を測定する」なる各工程を文献1発明は備えていない。

(d)本願発明3について
本願発明3が備える「測定対象の運動時に動作する被験者の各関節部位毎に慣性負荷を負荷する構成の装置を取り付け、測定対象の運動時に動作する被験者の各関節毎に総合的発揮力が作用する部位に作用力計および速度計を取り付けて、被験者が最大努力で駆動した時の
前記部位の作用力および速度を測定する」なる各工程を文献1発明は備えていない。

(e)本願発明4について
本願発明4が備える「運動時に動作する被験者の連鎖関節の一端を固定し他端を円運動機構に固定させその円運動を一定角速度に制御する方法,一定トルクに制御する方法,一定慣性負荷とする方法が選べるように構成し、被験者が最大努力で測定装置を駆動した時の作用力および作用速度を測定する」なる各工程を文献1発明は備えていない。

(f)本願発明5について
本願発明5が備える「運動時に動作する被験者の連鎖する関節の一端を固定し他端を直線運動機構に取り付けその直線運動を一定速度に制御する方法,一定作用力を加える方法,一定慣性負荷とする方法が選べるように構成し、直線運動部位に作用力計と速度計を取り付けて、被験者が最大努力で測定装置を駆動した時の作用力および作用速度を測定する」なる各工程を文献1発明は備えていない。

(2-2-2)文献2について
上記(2-2-1)の(a-1),及び(b)乃至(f)に挙げた点と同様の点で、本願発明と文献2発明とはその構成が相違している。

(3)本願発明の進歩性について
(a)請求項1について/引用例1乃至4/
引用例1には、
「単関節の筋骨格系による運動を対象とし、総合的発揮力が作用する部位に、慣性車輪を引っ張るワイヤロープの張力及び慣性車輪の回転速度の時間変化を測定する運動計測用センサを取り付けて、この各測定条件の運動をコンピュータにより運動解析し、解析結果の作用力特性が測定結果に良く一致する筋力パラメータ(特性変数)値を逆解析手法により求めて測定筋力特性値とする方法を基本とし、コンピュータの運動解析にあたっては、運動時に関わる筋群・骨格の筋骨格系力学モデルおよび各筋の筋力発生モデルを定め、それらモデルのパラメータを変数とする運動力学モデルを構築し、それに基づく運動解析用プログラムソフトを作成し、この変数のうち実験時の測定結果により得られる既知パラメータを運動解析に入力して逆解析することにより、残りの未知パラメータの筋力特性パラメータが得られ、この逆解析にあたり創発的方法である遺伝的アルゴリズムを選択した逆解析手法による多関節筋力特性の測定法。」
の発明が記載されている(以下、「引用発明1」という。)。
ここで、引用発明1の「張力」及び「運動計測用センサー」は、それぞれ本願発明1の「作用力」及び「作用力計」に相当することが明らかである。
一方、筋骨格系の運動解析に於いて、多関節系を対象とし、筋群は単関節筋および多関節筋の組み合わせでモデル化し、この測定対象の運動時に動作する被験者の各関節部位毎に角速度を一定に制御する装置を取り付けることは、引用例2,3に記載されている。このうち、特に引用例2には、屈曲回動自在な複数のアームに沿うように被験者の多関節運動する測定対象に固定することで、測定対象の多関節運動に伴って複数のアームが多関節運動するようにすることも記載されている。
また、引用例3の「4.解析」及び「5.考察」の項には、手首での作用力と作用速度とについて動作モデルの解析を行った結果に対し実験によって同定を行って筋力特性の同定を行う旨の記載があることから、該実験による同定、即ち逆解析にあたり、手首での作用力と作用速度とについて測定を行う必要があることは自明である。
また、筋力特性の測定を行う際に、最大努力で測定装置を駆動して行うことは、引用例4にも記載されたとおり周知技術に過ぎない。
よって、本願発明1は引用例1乃至4から当業者が容易に想到し得るものである。

(b)請求項2について/引用例1乃至5/
筋力測定に於いて、測定装置のトルクを一定に制御して測定を行うことは、引用例5に記載されている。
その他の点については、上記(a)参照。

(c)請求項3について/引用例1乃至4/
引用例3には、p161のFig.8(Fig.9の誤記と思われる)及び同ページの「6.機構の提案」の項に、フライホイール(慣性車輪)を肩関節部に設け、これと肘関節部の滑車とをベルトで連動させる機構が示されており、これが本願発明3の、「各関節部位毎に慣性負荷を負荷する構成」に相当する。
その他の点については、上記(a)参照。

(d)請求項4,5について/引用例1乃至4/
引用例3のp161のFig.8(Fig.9の誤記と思われる)及び同ページの「6.機構の提案」の項には、「Type2」として慣性車輪を手で回転させる機構、即ち手を円運動させる機構が、「Type3」として、手首を直線的運動に固定する機構が、それぞれ記載されている。
その他の点については、上記(a)参照。

引 用 文 献 等 一 覧
引用例1.特開平7-313495号公報
引用例2.(社)日本機械学会,「第73期通常総会講演会講演論文集(I)」,(1996.4.1発行),p540-541(上記文献1)
引用例3.(社)日本機械学会,「ジョイント・シンポジウム1995 スポーツ工学シンポジウム シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス 講演論文集」,(1995.10.16発行),p158-161(上記文献2)
引用例4.実願平5-61979号(実開平7-31069号)のCD-ROM
引用例5.特開昭61-187874号公報


そして、上記の拒絶理由は妥当なものと認められるので、本願は、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-30 
結審通知日 2007-11-06 
審決日 2007-12-04 
出願番号 特願平8-96905
審決分類 P 1 8・ 536- WZF (A61B)
P 1 8・ 121- WZF (A61B)
P 1 8・ 537- WZF (A61B)
P 1 8・ 561- WZF (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上田 正樹  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 樋口 宗彦
門田 宏
発明の名称 逆解析手法による多関節筋力特性の測定法  
代理人 吉井 剛  
代理人 吉井 雅栄  
代理人 吉井 雅栄  
代理人 吉井 剛  
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