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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C02F
審判 全部無効 2項進歩性  C02F
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C02F
管理番号 1172992
審判番号 無効2004-80033  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-03-29 
確定日 2008-01-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3079109号「地下水中のハロゲン化汚染物質の除去方法」の特許無効審判事件についてされた平成17年5月6日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決〔平成17年(行ケ)第10685号、平成17年12月15日判決言渡〕及び同〔平成17年(行ケ)第10686号、平成17年12月15日判決言渡〕があったので、さらに審理の併合のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3079109号の請求項1?5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3079109号は、平成2年11月28日(パリ条約の優先権主張:平成元年11月28日)を国際出願日として出願されたものであって、平成12年6月16日に特許の設定登録がなされ、本件特許に対して異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、平成13年11月30日付けで訂正請求がなされ、その異議決定において平成13年11月30日付け訂正請求が認められ、その後、当審において、以下の手続きを経たものである。
審判請求書(大成建設株式会社) 平成16年 3月29日
審判請求書(成和機工株式会社) 平成16年 4月28日
請求書(大成建設株式会社)副本の送達通知 平成16年 4月13日
請求書(成和機工株式会社)副本の送達通知 平成16年 5月24日
併合審理通知書 平成16年 6月 7日
訂正請求書 平成16年 8月23日
審判事件答弁書 平成16年 8月23日
訂正拒絶理由通知書 平成16年 9月15日
審尋(被請求人) 平成16年 9月15日
職権審理結果通知書 平成16年 9月15日
意見書 平成16年11月 8日
回答書 平成16年11月 8日
口頭審理陳述要領書(成和機工株式会社) 平成16年12月14日
口頭審理陳述要領書(大成建設株式会社) 平成16年12月15日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成17年 2月 4日
口頭審理(特許庁審判廷) 平成17年 2月 4日
上申書(大成建設株式会社) 平成17年 2月18日
上申書(成和機工株式会社) 平成17年 2月18日
上申書(被請求人) 平成17年 3月 4日
審 決 平成17年 5月 6日
〈訂正審判請求書 平成17年10月31日〉
《特許法第181条第2項の規定による審決の取消決定》
訂正請求がされたものとみなされる訂正請求書
(平成17年10月31日付け訂正審判請求書援用)
平成18年 1月23日
審判事件答弁書 平成18年 1月23日
審判事件弁駁書(成和リニューアルワークス株式会社)
平成18年 2月28日
審判事件弁駁書(成和リニューアルワークス株式会社)
平成18年 2月28日
審判事件弁駁書(大成建設株式会社) 平成18年 3月 1日
なお、平成18年2月28日付けで、請求人の名称を成和機工株式会社から成和リニューアルワークス株式会社に変更する届が提出されている。

II.訂正請求の適否
特許法第134条の3第5項の規定により平成17年10月31日付け訂正審判請求書に添付された訂正明細書等を援用して平成18年1月23日に訂正請求がされたものとみなされる(その訂正請求を「平成18年1月23日の訂正請求」といい、その訂正請求書を「平成18年1月23日の訂正請求書」という)ことにより、先にした平成16年8月23日付け訂正請求は特許法第134条の2第4項の規定により取り下げたものとみなされる。
II-1.訂正事項
平成18年1月23日の訂正請求は、本件明細書(平成13年11月30日付け訂正請求書に添付された訂正明細書、以下、同じ)の記載を、平成18年1月23日の訂正請求書に添付した訂正明細書に記載される次のとおりに訂正することを求めるものである。
〈イ〉本件明細書の特許請求の範囲の請求項1における、
「帯水層中の地下水からハロゲン化有機汚染物質を取り除く方法において、・・・」を、
「帯水層中の地下水からハロゲン化有機汚染物質を化学的分解により取り除く方法において、・・・」に訂正する。
〈ロ〉本件明細書の特許請求の範囲の請求項1における、
「・・・、諸工程を含む、上記方法。」を、
「・・・、諸工程を含み、前記金属は鉄である、上記方法。」に訂正する。
〈ハ〉本件明細書第1頁第9行における、「地下水中の、・・・、トリクロエチレン、テトラクロロエチレン、・・・」を、「地下水中の、・・・、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、・・・」に訂正する。
〈ニ〉本件明細書第3頁第11及び12行における、「ここで、金属は好ましくは鉄であり、微紛状、切片状あるいはスティールウールの形態をとることが好ましい。」を、「ここで、金属は好ましくは鉄であり、微粉状、切片状あるいはスティールウールの形態をとることが好ましい。」に訂正する。
〈ホ〉本件明細書第8頁第3行における、「・・・全ての場合において汚染物質物質が取り除かれ、・・・」を、「・・・全ての場合において汚染物質が取り除かれ、・・・」に訂正する。
〈ヘ〉本件明細書第8頁第6行における、「微紛状で金属を用いる目的は、・・・」を、「微粉状で金属を用いる目的は、・・・」に訂正する。
II-2.訂正要件の判断
II-2-1.訂正の目的の適否
上記訂正〈イ〉は、請求項1において、ハロゲン化有機汚染物質を取り除く方法につき、その方法が「化学的分解により」行われることを限定するものであり、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記訂正〈ロ〉は、請求項1において、そこで用いられる金属を、「鉄である」と限定するものであり、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記訂正〈ハ〉?〈ヘ〉は、明らかな誤記を是正するものであり、これらの訂正は誤記の訂正を目的とするものに該当する。
II-2-2.新規事項の追加の有無
上記訂正〈イ〉により付加しようとする事項は、本件明細書の「本発明の利点は、地中にある地下水中のハロゲン化汚染物質の化学的分解を例えば・・・物質を用いることにより従来法より極めて安価に効率的に行なえることにある。」(第2頁第14?16行)との記載から自明なこととして導き出すことができる。
上記訂正〈ロ〉により付加しようとする事項は、本件明細書の「ここで、金属は好ましくは鉄であり、・・・の形態をとることが好ましい。」(第3頁第11?12行)との記載から自明なこととして導き出すことができる。
上記訂正〈ハ〉?〈ヘ〉は誤記を是正するだけのものであり、そのように訂正することは、本件明細書の記載から自明なこととして導き出すことができるものである。
II-2-3.拡張・変更の存否
上記訂正〈イ〉?〈ヘ〉は、特許請求の範囲を減縮し又は発明の詳細な説明の記載の誤記を是正するだけのものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
II-3-4.訂正の結論
以上のとおり、上記訂正請求は、特許法第134条の2第1項ただし書き、同条第5項で準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件発明
本件明細書についての上記訂正請求は、上記II.で記載したとおり認められたものであり(訂正された本件明細書を、必要に応じて、「本件訂正明細書」という)、訂正後の請求項1?5に係る発明(以下、必要に応じて、「本件発明1」?「本件発明5」という)は、本件訂正明細書の特許請求の範囲に記載される次のとおりのものである。
1.帯水層の地下水からハロゲン化有機汚染物質を化学的分解により取り除く方法において、
該帯水層中の該地下水の流れが通過するのに充分である形の金属体であって粒状体、切断片、繊維状物等の形態の該金属体を、該地下水の流れの流路に与え、
該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐことができるようなやり方で該金属体を覆い、
前記の汚染されている該帯水層中の該地下水の流れを、元の帯水層から前記金属体の中へ、次いで該金属体を通過するように導き、
前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に、該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き、
次いで、
前記地下水が、前記金属体の酸素欠如部分を通過して浸透するようにし、一定の時間、その中の金属と接触するように保持する、
諸工程を含み、前記金属は鉄である、上記方法。
2.一定の時間は、地下水の酸化還元電位が-100mV以下になるのに充分長い、請求項1記載の方法。
3.汚染された地下水の流路の帯水層中にトレンチを掘り、次いで、前記トレンチ中に金属体を設置する諸工程を更に含み、しかも、
前記トレンチの大きさ及び配置、並びに前記金属体の酸素欠如部分の大きさ及び配置は、汚染された地下水が酸素欠如部分を通って通過するように設定される、請求項1記載の方法。
4.水汲み上げ井戸に入り込む実質的に全ての水が金属体の酸素欠如部分を通過し、一定の滞留時間の間、該酸素欠如部分内部に滞留するように、トレンチを設け、トレンチと前記酸素欠如部分との大きさを決定する工程を更に有する、請求項3記載の方法。
5.汚染された地下水の流路の帯水層中に一連の複数のボアホールを設け、次いで、該複数のボアホールの中に金属を注入する諸工程を更に含み、しかも、該複数のボアホールの間隔、及び注入される金属の量は、その注入された金属が充分に帯水層を貫通し、金属体本体及びその酸素欠如部分を形成するように決定する、請求項1記載の方法。
上記各請求項の記載における、
金属体とは、その記載どおり、その材質が金属であって、かたちがあるものを指すと認められ、また、金属とは、その記載どおり、その材質が金属であるものを指すと認められ、少なくとも、本件請求項に係る発明は、そのように解釈される発明の態様を含むものである。
金属体の酸素欠如部分とは、本件訂正明細書における「この酸素に接触した鉄は、いったん錆を生じるとその下部にある鉄に対する密閉作用を有する。これは鉄の酸素欠乏(anaerobic)部分と呼ばれる。」(第5頁第3?5行)の記載からみて、金属体のうち錆を有さない部分をいうものと認められ、少なくとも、本件請求項に係る発明は、そのように解釈される発明の態様を含むものである。
金属体における「粒状体、切断片、繊維状物等の形態」とは、本件明細書における「金属は好ましくは鉄であり、微粉状、切片状あるいはスチールウールの形態をとることが好ましい。」(第3頁第11?12行)、「微粉状で金属を用いる目的は、・・・。例としては、金属屑あるいはメタルウール中の金属繊維のようなものである。」(第8頁第6?9行)及び「本発明の一つの経済的な指標は、金属処理過程で出てくるような金属粉を使用することである。」(第8頁第10?11行)との記載からみて明らかなように、粒状体、切断片又は繊維状物の形態の外に、粉体又は微粉体の形態を選択した場合も含まれるものである。
金属体本体とは、被請求人の主張によれば、金属体を指すというものである。

IV.請求人の求めた審決及び主張
IV-1.大成建設株式会社(以下、必要に応じて、「請求人A」という)
審判請求人Aは、本件特許3079109号の明細書の請求項1?5に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として下記の書証をもって、以下に示す無効理由により、本件特許は無効にされるべきであると主張する。
(証拠方法)
甲第1号証:David C.MeMurtry et al.「New Approach to In-SiTu Treatment of Contaminated Groundwaters」Environmental Progress,Vol.4,No.3,August,1985,pp.168?170(全訳添付)〔以下、「引用例1」という〕
甲第2号証:Bruce M.Thomson et al.「PERMEABLE BARRIERS;A NEW ALTERNATIVE FOR TREATMENT OF CONTAMINATED GROUND WATERS」FOCUS Conference on Southwestern Ground Water Issues,March23-25,1988,National Water Well Association,pp.441?453(全訳添付)〔以下、「引用例2」という〕
甲第3号証:特開昭64-27690号公報〔以下、「引用例3」という〕
甲第4号証:特開平1-194993号公報〔以下、「引用例4」という〕
甲第5号証:米国特許第4382865号明細書(全訳添付)〔以下、「引用例5」という〕
甲第6号証:中西香爾外著「モリソンボイド有機化学(上)第4版」1985年9月11日、株式会社東京化学同人、第126、127及び270?273頁〔以下、「引用例6」という〕
甲第7号証:新版土木工法事典編集委員会編「新版土木工法事典」昭和53年2月20日、株式会社産業調査会、第212?213頁〔以下、後述する第469頁を含めたうえで、「引用例7」という〕
甲第8号証:C.W.Fetter「CONTAMINANT HYDROGEOLOGY Second Edition」1999,PRENTICE HALL,pp.285
甲第9号証:異議2001-70311における平成13年11月30日付け特許異議意見書(本件特許の特許異議意見書)
甲第10号証:異議2001-70311における平成13年11月30日付け訂正請求書(本件特許明細書)
参考資料1:下村雅則外著「鉄粉を用いた透過性地下水浄化壁のモデル化に関する研究」、地下水学会誌、第40巻、第4号、1998年、第445?454頁
参考資料2:久馬一剛外著「新土壌学」1994年9月20日、株式会社朝倉書店、第122?123頁
参考資料3:大成建設株式会社作成による「日本各地における帯水層中の地下水に含まれる溶存酸素濃度」
参考資料4:土木用語辞典編集委員会編「土木用語辞典」昭和59年4月30日、株式会社コロナ社、第747頁
参考資料5:水収支研究グループ編「地下水資源・環境論-その理論と実践」1993年7月15日、共立出版株式会社、第76、77、102及び103頁
参考資料6:国分寺市道路占用規則(平成3年3月29日規則第8号)
参考資料7:大栄町道路占有規則(昭和44年3月18日規則第1号)
参考資料8:特表昭61-502103号公報
参考資料9:H.H.ユーリック外著「腐食反応とその制御(第3版)」1994年1月31日、産業図書株式会社、第92?95頁

(無効理由)
(1)無効理由1
本件請求項1?5に係る発明(訂正後の本件請求項1?5に係る発明)の特許は、特許法第36条第3項及び第4項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
(2)無効理由2
本件請求項1?5に係る発明は、甲第1?7号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、本件請求項1?5に係る発明が特許法第29条第1項柱書きの規定に違反するとの主張は、口頭審理において取り下げられている。

IV-2.成和リニューアルワークス株式会社(以下、必要に応じて、「請求人B」という)
審判請求人Bは、本件特許3079109号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として下記の書証をもって、以下に示す無効理由により、本件特許は無効にされるべきであると主張する。
(証拠方法)
甲第1号証:先崎哲夫外著「還元処理による有機塩素化合物の除去(第2報)-鉄粉によるトリクロロエチレンの処理-」工業用水、No.369、1989年6月、社団法人日本工業用水協会、第19?25頁〔以下、「引用例8」という〕
甲第2号証:先崎哲夫外著「還元処理による有機塩素化合物の除去-鉄粉による1,1,2,2-テトラクロロエタンの処理-」工業用水、No.357、1988年6月、社団法人日本工業用水協会、第2?7頁〔以下、「引用例9」という〕
甲第3号証:特開昭64-27690号公報〔前記したとおり、引用例3という〕
甲第4号証:特開平1-194993号公報〔前記したとおり、引用例4という〕
甲第5号証:David C.MeMurtry et al.「New Approach to In-SiTu Treatment of Contaminated Groundwaters」Environmental Progress,Vol.4,No.3,August,1985,pp.168?170(全訳添付)〔前記したとおり、引用例1という〕
甲第6号証:米国特許第4382865号明細書〔前記したとおり、引用例5という〕
甲第7号証:中西香爾外著「モリソンボイド有機化学(上)第4版」1985年9月11日、株式会社東京化学同人、第126、127及び270?273頁〔前記したとおり、引用例6という〕
甲第8号証:新版土木工法事典編集委員会編「新版土木工法事典」昭和53年2月20日、株式会社産業調査会、第469頁〔前記したとおり、第212?213頁を含めたうえで、引用例7という〕
甲第9号証:平成3年特許願第500237号における平成12年5月9日付け意見書(本件出願における意見書)
甲第10号証:異議2001-70311における平成13年11月30日付け特許異議意見書(本件特許の特許異議意見書)
甲第11号証:異議2001-70311における平成13年11月30日付け訂正請求書(本件特許明細書)
甲第12号証:特許第3079109号公報(本件特許公報)
参考資料A:下村雅則外著「鉄粉を用いた透過性地下水浄化壁のモデル化に関する研究」、地下水学会誌、第40巻、第4号、1998年、第445?454頁
参考資料B:久馬一剛外著「新土壌学」1994年9月20日、株式会社朝倉書店、第122?123頁
参考資料C:水収支研究グループ編「地下水資源・環境論-その理論と実践」1993年7月15日、共立出版株式会社、第76、77、102及び103頁
参考資料D:特公昭50-27281号公報
参考資料E:H.H.ユーリック外著「腐食反応とその制御(第3版)」1994年1月31日、産業図書株式会社、第92?95頁

(無効理由)
(3)無効理由3
本件請求項1?5に係る発明(訂正後の本件請求項1?5に係る発明)の特許は、特許法第36条第3項及び第4項(第3号を除く)の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
(4)無効理由4
本件請求項1?5に係る発明は、甲第1?8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

V.被請求人の求めた審決及び主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として下記の書証をもって、本件請求項1?5に係る発明の特許は、上記無効理由1?4によっては無効とすることができないと主張する。
(証拠方法)
乙第1号証:訂正2005-39199における平成17年12月2日付け上申書
乙第1号証の2:平成17年(行ケ)第10685号及び平成17年(行ケ)10686号各審決取消請求事件における平成17年11月2日付け上申書の写し
乙第1号証の3:平成17年(行ケ)第10685号及び平成17年(行ケ)10686号各審決取消請求事件における平成17年11月30日付け原告第1回準備書面の写し
乙第1号証の4:平成17年(行ケ)第10685号及び平成17年(行ケ)10686号各審決取消請求事件における平成17年11月30日付け原告第1回証拠説明書の写し
乙第2号証:「岩波理化学辞典第4版」、1988年7月5日、株式会社岩波書店、第230頁
参考資料1:J.L.Vogan et al.「Performance evaluation of a permeable reactive barrier for remendiation of dissolved chlorinated solvents in groundwater」Journal of Hazardous Materials,68(1999),pp.97-108(全訳添付)
参考資料2:Stephanie F.O'Hannesin and Robert W.Gillham「Long-Term Performance of an In Situ“Iron Wall”for Remediation of VOCs」GROUND WATER,Vol.36,No.1,1998,pp.164-170(全訳添付)
参考資料3:被請求人作成による「本件特許発明の効果」
参考資料4:被請求人作成による「本件特許発明の効果」
参考資料5:「Technical Documentation and Figures Describing Dependent Claims2-5 of Japanese Patent No.3079109」Draft Prepared by John VOGAN,December15,2004(全訳添付)
参考資料6:特表平5-501520号公報(本件の公表公報)
参考資料7:JASON R.FORT「PHYSICAL PERFORMANCE OF GRANULAR IRON REACTIVE BARRIERS UNDER AEROBIC AND ANOXIC CONDITIONS」2000,pp.5-8
参考資料8:被請求人作成による「本件特許発明と各証拠との比較表」
参考資料9:2000年1月11日付け、ゼネラル・エレクトリック(General Electric)のシバベック博士(Dr.Sivavec)のレター
参考資料10:Dominique Sorel et al.「Performance Monitoring of the First Commercial Permeable Zero-Valent Iron Reactive Barrier-Is It Still Working?」Theis 2000 Conference,September15-18,2000,pp.57-60
参考資料11:Richard T.Wilkin et al.「Capstone Report on the Application,Monitoring,and Performance of Permeable Reactive Barriers for Ground-Water Remediation:」EPA/600/R-03/045a,August2003,pp.48
参考資料12:「Advance in Permeable Reactive Barrier Technolgies」NAVFAC Tech Data Sheet,NFESC TDS-2089-ENV,August 2002,http://handle.dtic.mil/100.2/ADA410697
(以下、平成18年1月23日の訂正請求書により、更に、補充された資料)
参考資料13:1995年8月23日付け、トロント・グローブ・アンド・メール(Toronto Globe and Mail)の記事
参考資料14:1995年10月5日発送のニュース記事(トロント・グローブ・アンド・メールより)
参考資料15:1999年12月13日付け、ゼネラル・エレクトリック(General Electric)のシバベック博士(Dr.Sivavec)からのレター、及びシバベック博士の専門の資格証明書
参考資料16:“Extending Hydraulic Lifetime of Iron Walls”,presented at the 1997 International Containment Technology Conference and Exhibition,St.Petersburgh,Florida,Feb.9-12,byP.D.Mackenzie et al.
参考資料17:“Redox-Active Media for Permeable Reactive Barriers”,presented at the 1997 International Containment Technology Conference and Exhibition,St.Petersburgh,Florida,Feb.9-12,byT.M.Sivavec et al.
参考資料18:“Regeneration and Long-Term Use of Palladized Iron”,RTDF-Summary of the Remedation Technologies Development Forum Permeable Rea.,November 1998,pp13-14,byMr.Nic Korte(http://www.rtdf.org/public/permbarr/minutes/prbl117.htm)
参考資料19:“Dechlorination of p-Chlorophenol in a Microreactor with Bimetallic Pd/Fe Catalist”,Ind.Eng.Chem.Res.,Vol.44,No.14,2005,pp5099-5106,byGoran N. Jovanovic et al.
参考資料20:“Nitrate removal in zero-valent iron packed columns”,Water Research,37(2003),pp1818-1830,byPaul Westerhoff et al.
参考資料21:“Anaerobic Corrosion of Granular Iron:Measurement and Interpretation of Hydrogen Evolution Rates”,Environ.Sci.Technol.,1995,Vol.29,pp2936-2945,byEric J.Reardon
参考資料22:“Transformations of halogenated aliphatic compounds”,Environ.Sci.Technol.,Vol.21,No.8,1987,pp722-736,byTimothy M.Vogel,Craig S.Criddle,and Perry L.McCarty
参考資料23:「地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会 第3回講演集」第273?278頁
参考資料24:「土壌環境センター技術ニュース」No5、第8?13頁、2002年9月、「VOCs汚染水の電気化学的浄化の基礎的検討」
参考資料25:興研株式会社ホームページ、『電解機能水を利用した紫外線分解式VOCガス浄化装置、「アクアフラッシュUV-G」』(http:/www.koken-ltd.co.jp/uv-g.htm)の写し
参考資料26:特開2003-285054号公報
参考資料27:米国の審査基準(MPEP 2143.02及び2143.03、2003年2月改訂)
参考資料28:EPの審査基準(PART C,CHAPTER IV,p63、2003年12月改訂)
参考資料29:特許庁ホームページ「パリ条約加盟100周年記念シンポジウム基調講演 経済発展における知的所有権制度の役割?日本の経験に照らして?」、1999年11月16日(http://www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai2/chokankityou.htm)のサイトの写し
参考資料30:本件特許発明の対応米国特許公報(US5,266,213)
参考資料31:本件特許発明の対応EP特許公報(EP0506684B1)
参考資料32:本件特許発明に関する、日本及び米国及び欧州における許可クレーム(請求項1のみ)の比較表
参考資料33:CHEMICAL ABSTRACTS,Vol.103,No.22,December2,1985,Columbus,Ohio,USA,Dombush J.N.:“Treatment of leachate-contaminated groundwater with an interception trench”,p329;right-hand column;ref.no.183202e
参考資料34:本件特許発明に関するパテントファミリーリスト(esp@cenet Family list view)
参考資料35:大成建設株式会社のホームページ(http://www.taisei.co.jp/)のサイトの写し
参考資料36:特開平5-317850号公報(大成建設株式会社出願)
参考資料37:成和機工株式会社のホームページ(http://www.seiwakiko.co.jp/)のサイトの写し
参考資料38:特開平7-204657号公報(成和機工株式会社出願)
参考資料39:パテント2005、Vol.58 No.2(2005年2月10日発行、日本弁理士会)、第71?81頁

VI.当審の判断
VI-1.証拠方法の記載
VI-1-A.引用例1(「New Approach to In-SiTu Treatment of Contaminated Groundwaters」)には、以下の事項が記載されている。
(A-1)「産業廃棄物の貯蔵、処理及び処分の過程または偶発的な漏出事故などに由来する土壌及び地下水汚染の問題は幅広く関心を集めている。現在、これらに対しては、地下水を揚水して処理及び処分するという手法が多く用いられている。この方法の欠点として、汚染物質を捕捉することが不可能であること、揚水及び処理費用がかさむこと、適正に処分しなくてはならない水が多量に発生すること、汚染地下水とともに清浄な地下水も汲み上げてしまい地下水が枯渇してしまうことなどが挙げられる。次に一般的な方法としてスラリーなどによる透水性の低い地中壁での囲い込みがあるが、これは単に汚染物質が域外に達するのを遅延する措置でしかない。
本論文で焦点としているのは、汚染地下水の原位置での処理である。ここで目標としているのは、地下水源の枯渇、処理水の処分、高価でエネルギー消費の激しい揚水井、高価な地上での処理設備などに陥らない、地下水から有害成分を除去する技術や手法を確立することである。地表面下での処理プロセスとしては、吸着、イオン交換、沈殿法、栄養塩や酸素による微生物分解などが考えられる。適当な処理媒体を含有する遮蔽トレンチ(interceptor trench)を地中に構築し、汚染地下水をそこを通過させることによって浄化することが提案できる。そのような処理媒体には、有機物を吸着する活性炭、無機イオン種を捕捉するイオン交換樹脂、溶解度をpH調整する物質、栄養塩及び/又は酸素の供給によって活発化される固定フィルム生物学反応のための媒体、又はこれらのものの組み合わせ、及び、多くの他の処理技術によるものを含む。」旨(第168頁左欄第15?34行)
(A-2)「設計概念
この原位置処理手法の設計概念には、物理化学的な処理、水力学的及び地質工学的設計の3つの段階を含んでいる。汚染地下水の化学的特性は処理方法を決定する初めの段階で充分に把握しなければならず、そして、サンプルの周辺の汚染の影響も勘案しなければならない。加えて、地表下の環境の地質化学的な影響も把握する必要がある。たいていの地下水処理においては、その環境は等温で、嫌気的で還元的である。」旨(第168頁左欄第35?45行)
(A-3)「適用可能な処理方法のメカニズムが明らかになったならば、その処理方法は原位置での適用につき評価される。現状においてこの技術の最も適した利用法は、自然の地下水の流れを用いる受動的な設計とすることであり、そして、再生したり置換する必要がなく汚染物質を捕捉あるいは処理する処理媒体とすることである。とはいえ、本システムが複雑化の経験を経ることにより、より複雑な設計及び処理形式が可能となると考えられる。」旨(第168頁左欄第45?右欄第6行)
(A-4)「2つめの設計段階に際して、地下水の流れの水力学的特性が一定の要求を満たさなければならないことを理解する必要がある。対象となるサイトの水力学的特性は、水の流れが基本的に水平でなければならないことである。つまり、垂直方向の侵水を最小限にするために、比較的浅い深度の箇所に低透水性の層が存在すべきである。汚染源からの水平方向流れ状態には、基本的に2つのタイプがある。すなわち、1)プルームの形態が形成されるような、きわだった局地的な流れがある場合と、又は2)局地的な流れが小さく汚染物質の移動が基本的に放射状である場合である。最初の場合のように幅広のプルームにより又は後者のように大きい直径によりその長さが指図されたトレンチに、処理媒体を、汚染物質を除去するに充分な層深さになるような量で用いることは、どちらの場合においても、不経済である。この問題を解決するために、低透過性スラリの止水壁からなるコレクタ-バリアシステムが設置され、汚染水を、より小さな、より効率的な、そして経済的な図1で示される処理層(beds)に導く。」旨(第168頁右欄第7?26行)
(A-5)「このようなシステムを設計するに当たって熟慮すべき事項は止水壁の水力学的なものと処理エリアについてである。水の停滞、処理層やスラリー壁のいずれかに対する越流、地表面への滲み出し、止水壁の端部を回り込む流れを生ずることなく、コレクタ-バリアで集積された流れを受けるために、処理層を通過する水の流れは、プルームの全幅を横切る自然流と等しいかより以上とすべきである。このことは、処理層とその隣り合った層との間の動水勾配を増加させることにより実現できる。」旨(第168頁右欄第27?37行)
(A-6)「最後に地質工学的な実行可能性を考察しなければならない。この分野の設計に関しては、各サイトの土質特性、必要な深度、使用可能な設備に依存する。スラリー壁の構築技術は、比較的よく知られているが、処理媒体を設置するに際して非常に複雑な問題がある。
処理媒体を設置する一つの方法として、水面以下を掘削する際に、安定性を付与するためにベントナイトスラリーを利用するスラリートレンチ構築方法と似た方法がある。」旨(第168頁右欄下から第3行?第169頁左欄第8行)
(A-7)「ケース1 表面埋め立てからの漏出
ある小さな川沿いに位置する石油化学工場では、工程排水と重質有機スラッジを貯蔵及び処置するために表面埋め立てを行った。工程排水の貯蔵池への流出は1980年以来のものは、過去の流出のものよりも著しく軽度であったが、浅い地下水汚染のプルームが貯蔵池の真下から川に向かって移動している。モニター井戸からのサンプルは、地下水が濃度1000?7000mg/Lの総有機物量(TOC)を含有し、そして、ベンゼン、トルエン、キシレン、フェノール及び他の重質有機化合物を含む特定成分を含有することを示す。
貯蔵池の直下の地層は、30フィート(9m)の砂質シルト層で、その下部には厚い粘土層が存在していた。その次の下部の帯水層は、地表では流出する泉を有し被圧状態である。その貯水池はシルト沖積層の上に造られていた。サイトの直下には低透水性の粘土層が存在していること及びその上部に実際の地下水流があったために、垂直方向の侵水により下部の帯水層が汚染されるリスクは最小となる。図2に示されるように、貯水池からの漏水が粘土層上の水面に浸透し、川の方向に横方向に移動する。」旨(第169頁右欄第4?27行)
(A-8)「粒状活性炭(GAC)の層(beds)で貫かれた低透水性スラリ壁からなる原位置処理システムが提案されている。活性炭処理層を設計するために、バッチの等温及び連続カラム試験を含む処理能力試験が実施された。カラム中の流れ速度が低く(層流、約0.5-1.0フィート/日,又は,0.1-0.3m/日)、頂部と尾部の水を大気から隔離することを除いて、標準の上向流の充填床カラム設計で用いられるものと類似する技術が使用された。この場合の活性炭処理層の深さ又は幅は、接触時間ではなく、地下水の速度が低いことから全吸着量により決定した。地下水の有機炭素全量は、プルームにおけるTOC等値線内の汚染地下水の容量を評価することにより、見出された。これらの容量は、有機炭素全量を得るために、TOC濃度が乗ぜられ、そして、その有機炭素全量を捕捉するに必要なGACの体積が決定された。水力学的分析で、炭素層の長さと高さが決定されたので、その層の深さ、又は、トレンチの幅が決定された。
地下水流モデルの違いを用いた水力学的研究により、全スラリ壁長さに対する処理層(slot)の長さの正確な比率が見出された。9フィート(2.7m)の壁背面の水位上昇の許容範囲に基づいて、処理層として全体の約15%の比率が適切であり、そして、止水-処理壁の長さは少なくとも存在するプルームの幅の2?3倍でなければならないと決定された。
この受動的な処理システムは、プルームがそこを通過することにより、有機物の95%以上を取り除くと予測できた。数年の後には、炭素は、再生、再利用又は処分のために、掘削され、除去される。このシステムは、新たな処理やポンプ設備を要せず、メンテナンスが不要で、そして、処理域から下流部で最小限のモニタリングを行えばよいであろう。」旨(第169頁右欄第48行?第170頁左欄第28行)

VI-1-B.引用例2(「PERMEABLE BARRIERS;A NEW ALTERNATIVE FOR TREATMENT OF CONTAMINATED GROUND WATERS」)には、以下の事項が記載されている。
(B-1)「本論文は、汚染物質の移動を制限して地下水を透過させるバリアの開発を含む提案方法を論議している。これらのバリアは、汚染地下水の抑制と処理という2つの目的を達成する。バリアの2つの一般的なタイプが適用可能である。第1は、浅い帯水層において、トレンチ方式バリアが汚染地下水の流路に構築される。トレンチに配置される媒体は、汚染物質の分解(degradation)を促進するための吸着剤、イオン交換物質、又は、微生物の増殖体である。・・・。本論文では、トレンチ方式バリアの開発に焦点をあてる。」旨(第441頁下から第19行?下から第7行)
(B-2)「地下水を処理するにあたり、従来工法に替わる手段としては、水は透過させ、汚染物質を移動させない、バリアを利用する方法がある。これを透過性バリアと称す。
本論文では、地下水中の汚染物質を安定化、除去、あるいは分解(degrade)させる透過性バリアが設計可能であるという仮説を検証する。さらに、透過性バリアは、従来の処理選択肢に対し経済的である必要がある。次節に、透水性バリアの概念をより詳しく、また、再生と封じ込め対策についての現在の適用例を示す。」旨(第443頁第19?27行)
(B-3)「透過性バリアの概念
水力学的なバリアとしては、その適用に応じて、透過性バリアが用いられる2つの一般的なケースが提案されている。1)トレンチング(溝掘)装置で適用可能な浅い帯水層システム(<20m)、2)井戸によってのみ適用可能な深い帯水層システムである。トレンチ方式バリアと、井戸方式バリアの概要図は、それぞれ図1及び図2に示す。」旨(第443頁下から第12行?下から第6行)
(B-4)「表-1にトレンチ方式バリアに適用可能なバリア材料のリストを示す。
表-1. トレンチ方式バリアに適用可能なバリア材料
分解性汚染物 非分解性汚染物
1.栄養分添加システム 1.収着/交換体
2.酸化剤 2.沈殿システム
3.エアレーション/脱気システム 3.エアストリッピングシステム
4.化学添加システム」旨(第445頁第5?13行)
(B-5)「実施例
本論文では、これ以降、透過性バリアの概念に関する3つの実施例を公開し、議論する。議論は、好結果の適用のために最もよい機会と思われるので、トレンチ方式のものに限定する。3つの実施例のおのおのは、図3に示すように、バリアは汚染領域の下流側に配置されていると仮定する。汚染領域の全長を100m、帯水層の間隙率を0.3、間隙孔水の流動速度を1m/日と仮定し、トレンチの深さを10m、幅1mと仮定する。計算結果は、トレンチ単位長さに基づくものである。3つのサンプルは、次のように考えられる。1)有機汚染物を除去するための粒状の活性炭を使用した受動的バリア。2)揮発性有機汚染物を除去するための気泡エアレーションを使用した能動的バリア。3)嫌気性微生物の増殖を促進するための基質を供給し、無機有害物質を沈殿させる能動的バリア。」旨(第446頁下から第16?末行)
(B-6)「有機成分の吸着
石油製品の流出により、環状化合物(ベンゼン、トルエン、キシレン)による汚染がしばしば生ずる。粒状活性炭への、これらの汚染物質の吸着は、表面処理技術として一般的に使用されている。選択すべきアプローチは、粒状活性炭で埋め戻されたトレンチ型バリアからなる、透過性バリアを構築することかもしれない。」旨(第448頁第1?7行)
(B-7)「なお。本論文にて説明する透過バリアの概念は、実規模スケールで実施されたものではないが、地下水の再生に極めて有望であるようにみえる。」旨(第452頁第10?12行)

VI-1-C.引用例3(特開昭64-27690号公報)には、以下の事項が記載されている。
(C-1)「1 難分解性有機化合物を含有する被処理水をpH6.5?9.5に調整し、かつ該水中に溶存する酸素を除去して、酸化還元電位を-190mV以下にしたのち、金属系還元剤を用いて処理することを特徴とする難分解性有機化合物含有水の処理方法。」(特許請求の範囲)
(C-2)「溶剤としてトリクロロエチレンなどの人体に有害な各種の有機性溶剤が使用されており、これら工業から排出される排水や、あるいは各種工業から排出される種々の難分解性の天然若しくは合成有機化合物を含有する排水などによる水質汚濁や、飲料水の塩素殺菌工程において、水中の溶存有機化合物と塩素との反応による人体に有害なトリハロメタン類の生成などが問題となっている。」(第1頁右下欄第1?9行)
(C-3)「従来、このような難分解性有機化合物は、(1)オゾン処理方法、(2)活性炭処理法、(3)揮散処理法、(4)凝集処理法、(5)半導体光触媒による還元処理法などによる処理が試みられ、採用されている。」(第1頁右下欄第10?13行)
(C-4)「本発明における被処理水としては、例えばトリクロロエチレンやトリハロメタンのような有機塩素化合物などの難分解性有機化合物を含有する用水や排水などが挙げられる。」(第2頁左下欄第9?12行)
(C-5)「例えば難分解性有機化合物として、有機塩素化合物を例に挙げ、これを金属単体を用いて処理する場合、次に示すように反応が進行して、該難分解性有機化合物が無害化される。
Me+H_(2)O+RX→RH+Me^(++)+OH^(-)+X^(-) ・・・(I)
ここで、Meは金属単体、RXは有機塩素化合物である。すなわち、有機塩素化合物は脱ハロゲン化され、無害な炭化水素に変換される。」(第2頁左下欄第14行?右下欄第3行)
(C-6)「本発明方法においては、前記反応式(I)で示す還元反応を促進するために、被処理水中の溶存酸素を除去して、その酸化還元電位を-190mV以下にすることが必要である。この酸化還元電位が-190mVより大きいと金属系還元剤の消費量が多くなり、経済的に不利である。」(第2頁右下欄下から第12行?下から第7行)
(C-7)「実施例
窒素ガスを通気して水中に溶存する酸素を除去して、酸化還元電位を+500mVにしたpH7.5のイオン交換水に、19mg/l濃度になるように、1,1,2,2-テトラクロロエタンを溶解した試料5mlを、窒素ガスで空気を置換したバイアルびんに入れ、さらに鉄粉1gを添加したのち、10℃、20℃、30℃、40℃、50℃に保持した恒温槽中で振とうしながら、1,1,2,2-テトラクロロエタンの還元試験を行った。
〈中 略〉
この図から分かるように、50℃の処理温度では、8時間で1,1,2,2-テトラクロロエタンの残存率は0%となり、30℃では16時間で該残存率は0%となっている。」(第3頁右下欄第3?19行)

VI-1-D.引用例4(特開平1-194993号公報)には、以下の事項が記載されている。
(D-1)「(1)有機化合物を含有する被処理水のpH値を6.5以上に調整し、かつ該水中の酸化還元電位を約-300mV以下に低下させる還元性物質を添加し、残存する溶存酸素等の酸化性物質を除去するとともに、金属系還元剤を用いて該有機化合物を無害化することを特徴とする有機化合物含有水の処理方法。」(特許請求の範囲第1項)
(D-2)「溶剤としてトリクロロエチレンなどの人体に有害な各種の有機性溶剤が使用されており、これらの工業から排出される排水の処理が問題となっている。また、各種の化学工場から排出される種々の有害な天然若しくは合成有機化合物を含有する排水などによる地下水や河川水などの汚染が問題となっており、さらに、飲料水の塩素殺菌工程において、水中の溶存有機化合物と塩素との反応によるトリハロメタン類の生成などが問題となっている。」(第1頁右下欄第7?16行)
(D-3)「従来、このような有機化合物は、(1)オゾン処理方法、(2)活性炭処理法、(3)揮散処理法、(4)半導体光触媒による還元処理法、(5)金属あるいはこれらの合金による還元処理方法(特願62-182016)などによる処理が試みられ、採用されている。」(第1頁右下欄第17行?第2頁左上欄第1行)
(D-4)「本発明における被処理水としては、例えばトリクロロエチレンやトリハロメタンのような有機塩素化合物などの難分解性有機化合物を含有する用水や排水、あるいは染料、医薬品、農薬製造工場から排出される天然および合成有機化合物を含有する排水などがあげられる。」(第2頁右下欄第4?9行)
(D-5)「通常、被処理水は空気と接触しているため数ppmの酸素が溶解している。また時には硝酸イオンなども含まれている。これらの酸化性物質と金属還元剤との反応が遅いため該水の電位を無害化反応の生じる酸化還元電位まで低下するのに長い時間を必要とする。そこで、亜硫酸ナトリウム等の還元性物質を添加し、これらの酸化性物質を(1)式で示す反応により除去すると、急速に酸化還元電位が低下し難分解性有機化合物の無害化反応が開始する。」(第2頁右下欄第10?19行)
(D-6)「例えば難分解性有機化合物として、有機塩素化合物を例に挙げ、これを金属系還元剤を用いて処理する場合について示すと、次に示す様に反応が進行して、該難分解性有機化合物が無害化される。
Me+H_(2)O+RX→RH+Me^(++)+OH^(-)+X^(-) (2)
ここで、Meは金属系還元剤、RXは有機塩素化合物である。すなわち、有機塩素化合物は脱ハロゲン化され、無害な炭化水素に変換される。」(第3頁左上欄第2?10行)
(D-7)「本発明方法においては、上述の無害化反応は、酸化還元電位が-300mV付近以下で起きることから該反応を促進するためには、該水中の酸化還元電位を迅速に約-300mV以下にする事が好ましい。」(第3頁左上欄第14?17行)
(D-8)「実施例1
ここでは電解質と還元剤の効果を示す。電解質には硫酸ナトリウムの1/100モル溶液を用い、還元剤には亜硫酸ナトリウムを用いた。それぞれ、1,1,2,2-テトラクロロエタンを約10mg/lになるように調製した検水を5mlのバイアル瓶にとり、鉄粉1gを加えた後、20℃の恒温槽中で振とうしながら無害化処理をおこなった。」(第3頁右下欄第3?10行)

VI-1-E.引用例5(米国特許第4382865号明細書)には、以下の事項が記載されている。
(E-1)「技術分野
本発明は、廃水液流の無毒化に関するもので、特に、廃水液流における還元性有機化合物を分解(degradation)して無害の分解生成物を含む流出水とすることを提供するものである。」旨(第1欄第14?19行)
(E-2)「背景
多くのハロゲン化有機化合物、例えば、農薬、除草剤、絶縁油、難燃剤等は非常に安定で、結果的には、環境に蓄積されてしまう。
〈中 略〉
そのようなハロゲン化有機化合物の製造や利用を注意深くコントロールすることにより、ハロゲン化有機化合物の環境への侵入を抑制してきた。しかしながら、一般的に、それらの放出流は、環境に対して有害レベルである1ppm又はそれ以下のハロゲン化有毒物を含んでいる。
〈中 略〉
最近になって、上に述べたより複雑型の化合物に加えて、低分子量のハロゲン化炭化水素(「軽留分」例えば、クロロホルムや類似塩素化化合物)が、河川系において痕跡量出現してきた。都市廃水又は産業廃水に由来すると思われるこれら化合物のあるものは、発ガン物質であると疑われる。」旨(第1欄第21?50行)
(E-3)「図面の簡単な説明
図1は、この発明による水処理システムの概要図である。」旨(第5欄第1?5行)
(E-4)「第1図において、排水10はポンプ12よりフィルター14を通じて送水される。フィルターは、取り扱う排水の特性に応じて、カートリッジ、砂、活性炭、その他の物を利用できる。必要ならば、このとき、油除去のような付加的な排水流の浄化を実施することができる。フィルターを通過した排水16は、スタテックミキサー26へと導かれるとき、検出要素18でpHを測定される。要素18はpH調整器20に向けられる信号19を発生することで、当該pH調整器から計量信号21が発生し、それがポンプを作動させることにより、タンク24から、要求に応じて、スタテックミキサー26へ必要量のpH調整媒体が注入される。pH調整が済んだ流れ28は、バルブ30と流量計32で計量された後、還元剤のカラム34に導かれる。通常、5-15psigという低い圧力条件下では、重力を利用した通水が適当である。流量としては、1平方フィートあたり毎分4ガロンまでが一般的に利用される。
カラム34は、還元剤粒子からなる透水性の充填層(固定層)36を含み、その還元剤粒子は、出口56を通り抜けることを防ぐ透過プレートや石のベッド38のような透過性の保持手段によってカラム内に留めさせる。」旨(第5欄第14?36行)
(E-5)「還元剤カラムは、全体として細かく分割された還元剤粒子のみで構成してよい。しかしながら、その層を通る圧力損失が過剰になり、還元剤粒子が凝集する傾向がある。そのため、還元剤粉末が、砂やガラスビーズのような固体で不活性な粒子とで親和性のある混合物を形成することが望ましい。不活性粒子の直径は、適切な充填密度と透過性ということから選ばれ、典型的には、還元剤の直径の約1-10倍である。還元剤は、通常、5-500μmの範囲の直径を持ち、典型的には、50-250μmの金属である。一般に、還元剤の5-40重量%が混合物で利用される。
還元剤と砂のような希釈物との混合物は、その混合物を通る流れが還元剤と溶液と間に充分な接触を得て、効率的な反応が生ずるように調整される。」旨(第5欄第60行?第6欄第8行)
(E-6)「還元剤金属は、少なくとも、亜鉛、アルミニウム、鉄、マグネシウム、カドニウムのような金属を単独で使用し得る。しかしながら、銅、銀、コバルト、ニッケル及びこれらに類した触媒金属を0.1?10meg/g追加することにより、より高速な反応、より完全な反応、そして、相対的に無害な生成物が増加した分解物が得られる。」旨(第6欄第15?21行)
(E-7)「pH6以上、普通には、6.5?7.5での稼働では、還元剤の消耗はかなり少なくなるうえ、分解速度はなおも効率的である。反応効率はpH値が約8を超えてから減少する。酸領域のpH1.5?4では、還元剤の消耗は過剰となり、過酸化水素ガスが発生して、空気雰囲気と混ざって爆発の潜在的な危険性をはらむことがある。」旨(第7欄第19?26行)
(E-8)「このプロセスの他の重要な適用は、発ガン性であると報じられる軽留分、例えば、クロロホルム、四塩化炭素、エチレンジクロライド、これらの物質を含む排水が含有する関連の有機ハロゲン化化合物、を含んでいる流れの処理である。」旨(第13欄第47?51行)

VI-1-F.引用例6(モリソンボイド有機化学(上)第4版)には、以下の事項が記載されている。
(F-1)「金属と酸による還元 §3・15で論ずる.
RX+Zn+H^(+)→RH+Zn^(2+)+X^(-) CH_(3)CH_(2)CH(Br)CH_(3)→^(Zn,H+)→CH_(3)CH_(2)CH(H)CH_(3) 臭化sec-ブチル n-ブタン」旨(第127頁右上段)
(F-2)「4.還元 §3・15で論ずる.
RX+M+H^(+)→RH+M^(+)+X^(-)(CH_(3))_(3)CCl→^(Mg)→(CH_(3))_(3)CMgCl→^(D2O)→(CH_(3))_(3)CD」旨(第272頁左上段)

VI-1-G.引用例7(新版土木工法事典)には、以下の事項が記載されている。
(G-1)「ジェットクラウト工法
ジェットクラウト工法は薬液注入工法のうち高圧噴射注入工法の一種で、水または薬液を空気噴射を併用しながら超高速噴射することにより、きわめて短い時間に地盤を切削し、その切削部分に土砂と置換えに、あるいはこれと混合する形で薬液を送り込み硬化させるものである。
〈中 略〉
図1は鉛直地中膜の造成を示したもので、これによって施工順序を説明すると次のとおりである。
(1)先行削孔:試錐機により注入予定深度まで垂直削孔する。削孔の間隔は通常0.8?1.5mで土質に応じた噴射可能距離により決める。これらの削孔は噴射孔ならびに誘導孔として使われる。
(2)高圧噴射管の設置と誘導噴射:先行削孔(噴射孔)の底部まで噴射管を挿入した後、隣接孔に向かって水または注入液を高圧噴射する。噴射液が隣接孔(誘導孔)に貫通到達し切削土砂とともに噴出するのを確認する。
(3)噴射管の引上げ:注入液の噴射を継続しつつ所定の速度で管を引き上げると、隣接2孔の間のパネルに鉛直地中膜が形成される。
(4)次のパネルに移動:同様な作業を繰り返す。
噴射ノズルを適当な速度で回転してやれば円盤状の固結体を形成することができる。これらを相互に連結させることにより、水平地中膜の形成が可能である。」旨(第212頁右欄第1行?第213頁左欄第2行)
(G-2)「バイブロ式サンドドレーン工法
バイブロ式サンドドレーン工法は、ドレーン工法の一種である。サンドドレーンの施工方法にはいろいろなものが考案実施されているが、ここに述べるバイブロ方式のものは最も多く利用されている施工法である。
〈中 略〉
バイブロ式サンドドレーンの一般的な施工順序は次のとおりである。
〈中 略〉
(1)ケーシングパイプをサンドドレーン施工位置に据える。
(2)振動機を駆動させ、振動機の振動力によってケーシングパイプを所定の深さまで打込む。このときケーシングパイプの先端は周囲地盤の土が入り込まないように閉じられた状態にしておく。
(3)ケーシングパイプ上部に備えられたホッパーからパイプ内に砂を投入する。
(4)ケーシングパイプ内にコンプレスドエア(圧搾空気)を満たしてパイプを引抜く。
(5)ケーシングパイプを地上まで引き抜き、サンドドレーンを仕上げる。」旨(第469頁左欄第1行?下から第9行)

VI-1-H.引用例8(「還元処理による有機塩素化合物の除去(第2報))には、以下の事項が記載されている。
(H-1)「1.はじめに
最近,地下水や上水から発ガン性の疑いのもたれている有機塩素化合物が検出され,人体への影響が心配されている。これに対処するため,現在,活性炭による吸着処理や曝気による揮散処理が実用化されている。しかし吸着処理は吸着剤の再生頻度が高いことあるいは吸着平衡のずれから処理水を汚染する可能性があることなど,また,揮散処理は揮発性の有機塩素化合物のみが対象となることなど,それぞれ,処理コストあるいは維持管理上にいくつかの問題点が指摘されている。一方,水中の有機塩素化合物の分解処理については二酸化チタンなどの半導体触媒による分解処理法,あるいは微生物による処理法,その他の方法が研究されている。しかし,これらの方法はまだ未解決の問題が残されており,実用化するまでに至っていない。」(第19頁左欄第1?17行)
(H-2)「今回,金属鉄を用いてトリクロロエチレンを還元処理することにより、トリクロロエチレンは容易に脱塩素化されてその脱塩素化物であるエタンおよびエチレンガスになることを確かめたので,ここに報告する。」(第19頁左欄第24?末行)
(H-3)「2.試料の調製および実験方法
供試水は,イオン交換水を硫酸酸性の下に過マンガン酸カリウムとともにガラス製蒸留器で1回蒸留したものを使用した。これを5℃以下に冷却したあと,その200mlを分液漏斗に採り,マイクロシリンジで1.1×10^(-4)M/l(145mg/l)になるようにトリクロロエチレンを注入し,5℃の恒温室内で振とう機を用いて30分間振とうしてトリクロロエチレンを溶解し,これを原液とした。この原液を前記の蒸留水に各種の電解質を溶解した溶液で200倍に希釈し実験に供した。
還元剤として用いた金属鉄は市販の粒度80メッシュ,または200メッシュの電解鉄粉(キシダ化学製)であり,開封後は窒素雰囲気下に保存した。
〈中 略〉
流通試験の場合には,金属鉄の粒子表面に付着している微細な鉄粒子は単に水洗したのみでは十分に除去し難いため,鉄粉表面をおおっている酸化皮膜の除去をかねて0.1N塩酸で処理したのち,水洗して微粉を除去した。
充填槽方式による試験では,反応の進行につれて,溶存酸素により酸化された鉄の酸化物の生成により充填槽下部から次第に固着し,塊状となる傾向が認められるため,試料採取後一日一回金属層を流動させ,同時に層内に付着している気泡を除去すると共に金属鉄層の混合,分散を行った。
トリクロロエチレンの処理試験は, 〈中略〉 ,流通試験の場合は内径10mmのジャケット付ガラス管を用いた。
〈中 略〉
流通方式による試験は図-1に示す装置を用い,所定の層高になるように金属鉄を反応管に充填し,原水を上向きに流す充填塔方式により処理試験を行った。供試水は恒温槽を用いて5℃以下に冷却して,出来るだけトリクロロエチレンが揮散するのを防ぐようにするとともに濃度の変化をできるだけ小さくするため,原水の貯水量は一日の使用量の4倍以上とし試料採取後容器いっぱいに補充した。試料水の送入はボアロンチューブを使用するマイクロチューブを用いたが,ポンプ部分からのトリクロロエチレンの逸散がわずかに認められることから,ポンプの出口側に試料採取口を設けて,試料を採取することにした。」(第19頁右欄第1行?第20頁左欄第33行)
(H-4)「いま,途中の複雑な反応機構は省略して,最終的には,置換反応によりトリクロロエチレンはエチレンに還元されるものと考えるとき,この反応は(1)式に示すものになる。
2CCl_(2):CHCl+6Fe+6H_(2)O=
2CH_(2):CH_(2)+6Fe^(2+)+6OH^(-)+6Cl^(-) ・・・(1)」(第21頁右欄第1?6行)

VI-1-J.引用例9(「還元処理による有機塩素化合物の除去-鉄粉による1,1,2,2-テトラクロロエタンの処理-」)には、以下の事項が記載されている。
(J-1)「1.はじめに
最近,地下水や水道水の有機塩素化合物による汚染が社会問題になっている。
〈中 略〉
従来,このような有機塩素化合物を含有する用・排水は,(1)活性炭処理法,(2)揮散処理法,(3)半導体光触媒による還元処理法,(4)凝集処理法,(5)オゾン処理法等による処理が試みられ,あるいは採用されている。」(第2頁左欄第1?15行)
(J-2)「2.試料の調製および実験方法
本実験では有機塩素化合物には1,1,2,2-テトラクロロエタンを用いた。
試料水の調製方法は,イオン交換水を,あるいはイオン交換水に各種の電解質を溶解した水溶液を300mlの分液ロートにとり、5.96×10^(-5)M(10mg/l)になるように1,1,2,2-テトラクロロエタンをマイクロシリンジで注入したあと,5℃または10℃の恒温室中で振とう器で1時間振とうし,30分静置したのちさらに1時間浸透してから試験に供した。金属還元剤には市販の粒度200メッシュの電解鉄粉をそのまま用いた。
試験は所定量の金属鉄を5mlのバイアル瓶にとり,内部に気泡が残らないように注意して試料水をバイアル瓶の上端まで注水し,密栓したのち往復動方式の振とう恒温槽を用いて反応を行った。」(第2頁右欄第14?28行)
(J-3)「還元剤である金属鉄粉は添加量の多いほど反応速度は増す」(第2頁右下欄第35?36行)
(J-4)「3.実験結果および考察
3.1 共存する電解質の少ない水溶液中の1,1,2,2-テトラクロロエタンの処理
テトラクロロエタンの濃度の減少は水素ガスの発生とほとんど同時に起こり,水素ガス発生速度の大きいほどテトラクロロエタンの減少速度も大きい。図-1にはイオン交換水にテトラクロロエタンを溶解し,5mlのバイアル瓶を用いて10?50℃の温度領域で試験を行った結果を示す。また,図-2には溶存酸素による影響を調べるため,窒素ガスを用いてイオン交換水に溶存する酸素を除去したあと,1,1,2,2-テトラクロロエタンを溶解した試料水を用いて20℃で試験を行った結果を示す。」(第3頁左欄第5?16行)
(J-5)「鉄などの金属の存在下での有機塩素化合物の脱塩素反応は還元反応と考えられる。しかし,一般に水中には酸素が数ppm溶解しているため酸化性の雰囲気にある。この溶存する酸素は金属鉄を酸化して消失していくが,イオン交換水のように電解質の溶存量の少ないときには(1),(2)あるいは(3)式で示される酸素を消費する金属の腐食反応(電極反応)が遅いため,有機塩素化合物の還元反応が開始するまでに酸化還元電位が低下するのには長時間を必要とするものと考えられる。
アノード反応 2Fe→2Fe^(2+)+4e (1)
カソード反応 O_(2)+2H_(2)O+4e→4OH^(-) (2)
(電池反応)O_(2)+2H_(2)O+2Fe→2Fe^(2+)+4OH^(-) (3)
〈中 略〉
テトラクロロエタンの還元処理には溶存酸素の除去が効果的である。」旨(第3頁右欄第2?22行)
(J-6)「3.2 電解質を含む水溶液中の1,1,2,2-テトラクロロエタンの処理
電極反応は溶存する電解質により影響を受けることから適当な電解質を添加することにより,溶存する酸素を迅速に消費し,酸化還元電位を低下させて,テトラクロロエタンの還元反応を促進し得ることが期待される。
〈中 略〉
反応過程における溶液中の酸化還元電位の変化の様子を図-5に示す。還元反応は電解質にNaClを用いた場合を除いて,いずれの場合にもほぼ-300mV付近から急速にテトラクロロエタンの濃度は減少した。」(第4頁右欄第24行?第5頁左欄第2行)
(J-7)「有機塩素化合物と金属鉄の反応は最終的には式(4)で示すように進むものと考えられる。
4Fe+4H_(2)O+CHCl_(2)・CHCl_(2)→
CH_(3)・CH_(3)+4Fe^(2+)+4OH^(-)+4Cl^(-) (4)」(第5頁左欄第11?14行)
(J-8)「2)イオン交換水のように溶存する電解質が少なく,電気伝導率が小さい場合には硫酸ナトリウム等の電解質を添加して電気伝導率を高めることにより反応を促進することができる。」(第6頁左欄第17?20行)
(J-9)「4)共存する溶存酸素や硝酸イオンなどの酸化性物質は亜硫酸ナトリウムを用いて除去することによりその影響を無視できる。」(第6頁左欄第24?26行)

VI-2.請求人Aの無効理由についての判断
VI-2-1.無効理由2〈その1〉について
VI-2-1-1.本件発明1
(本件発明1の構成)
本件発明1を、平成16年8月23日付け審判事件答弁書に記載される方法に倣って分説すると、以下のとおりとなる。
a)帯水層の地下水からハロゲン化有機汚染物質を化学的分解により取り除く方法において、
b-1)該帯水層中の該地下水の流れが通過するのに充分である形の金属体であって
b-2)粒状体、切断片、繊維状物等の形態の該金属体を、
c)該地下水の流れの流路に与え、
d)該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐことができるようなやり方で該金属体を覆い、
e)前記の汚染されている該帯水層中の該地下水の流れを、元の帯水層から前記金属体の中へ、次いで該金属体を通過するように導き、
f)前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に、該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き、次いで、
g)前記地下水が、前記金属体の酸素欠如部分を通過して浸透するようにし、一定の時間、その中の金属と接触するように保持する、
h)諸工程を含み、前記金属は鉄である、上記方法。
(引用例1の発明)
引用例1には、汚染地下水の原位置での処理に関する事項が記載されており、以下にその内容を検討する。
引用例1には、引用例1の前記摘示(A-1)によれば、処理媒体を含有する遮蔽トレンチを地中に構築すること、及び、汚染地下水をその遮蔽トレンチに通し浄化することが記載されており、かつ、前記摘示(A-4)と(A-5)及び図1の記載によれば、当該遮蔽トレンチは、処理媒体からなる処理層と止水壁とから構成され、汚染地下水の流れをその処理層中に通すことが記載されている。これらの記載から、引用例1には、処理媒体層を地中に設置し、汚染地下水を当該処理媒体層中に通し浄化する汚染地下水の処理方法が、実質上記載されているということができる。
続いて、処理媒体層の設置箇所につき、前記摘示(A-7)の記載と図2の記載とを併せてみれば、引用例1には、少なくとも、地下領域にある粘土層の上面に、汚染地下水の流れが存在し、その汚染地下水の流れが存在する層に、処理媒体の処理層(図2におけるTreatment/BarrierWall)を設置することが実質上記載されているものであるといえる。この場合、地下汚染水が存在する層は帯水層といえるものであるから、当該汚染地下水及び汚染地下水の流路(流れが存在する箇所)は帯水層中に存在するものであるといえる。(そもそも、地下水とは、流動する、ないしは、流れるものであって、普通の地形においては通常帯水層に存在するものであるといえる)
以上のことから、引用例1には、
「処理媒体層を、帯水層中の汚染地下水の流路に設置し、該帯水層の汚染地下水をその処理媒体層中に通し浄化する方法」に関する発明(以下、必要に応じて、「引用例1発明」という)が記載されているものである。
(対比・判断)
そこで、本件発明1と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明は、汚染地下水を処理媒体層中に通し浄化するものであるから、地下水から汚染物質を取り除くものであるということができるものであり、また、本件発明1のハロゲン化有機汚染物質は一種の汚染物質であるということができるものであり、よって、両者は、
「帯水層中の地下水から汚染物質を取り除く方法」である点で、一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】汚染物質を取り除く方法が、本件発明1では、「ハロゲン化有機汚染物質を化学的分解方法により」取り除くものであるのに対して、引用例1発明ではそのことが示されず、当該構成を具備しない点
【相違点2】汚染物質を取り除く方法が、本件発明1では、
「b-1)該帯水層中の該地下水の流れが通過するのに充分である形の金属体であって
b-2)粒状体、切断片、繊維状物等の形態の該金属体を、
c)該地下水の流れの流路に与え、
d)該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐことができるようなやり方で該金属体を覆い、
e)前記の汚染されている該帯水層中の該地下水の流れを、元の帯水層から前記金属体の中へ、次いで該金属体を通過するように導き、
f)前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に、該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き、
次いで、
g)前記地下水が、前記金属体の酸素欠如部分を通過して浸透するようにし、一定の時間、その中の金属と接触するように保持する、
h)諸工程を含み、前記金属は鉄である、」からなるものであるのに対して、引用例1発明では、金属体及び金属を用いることが示されず、したがって、当該構成を具備しない点
以下、上記相違点につき検討する。
【相違点1について】
帯水層中の汚染地下水から汚染物質を取り除くところの引用例1発明においては、引用例1の前記摘示(A-1)の前段によれば、「産業廃棄物の貯蔵、処理及び処分の過程または偶発的な漏出事故などに由来する土壌及び地下水汚染の問題は幅広く関心を集めている。・・・本論文で焦点としているのは、汚染地下水の原位置での処理である。」と教示されることからみても明らかなように、そこで取り除かれる汚染物質は特に限定されるものではなく、そこで例示される汚染物質を含め広範な汚染物質を対象とし得るものであり、また、引用例1の前記摘示(A-1)の後段及び(A-3)により、「そのような処理媒体には、有機物を吸着する活性炭、無機イオン種を捕捉するイオン交換樹脂、・・・生物学反応のための媒体、又はこれらのものの組み合わせ、及び、多くの他の処理技術によるものを含む」及び「適用可能な処理方法のメカニズムが明らかになったならばその処理方法は原位置での適用につき評価される」と教示されることからみても明らかなように、そこで用いられる処理媒体(又は処理媒体層)は、特定の処理媒体に限定されるものではなく、そこで例示される処理媒体を含め汚染地下水の広範な処理媒体を対象とし得るものである。
一方、人体ないしは環境への配慮から、地下水に汚染物質として含まれるハロゲン化炭化水素を除去することは、本件出願前において周知の課題〔必要ならば、特開昭57-209692号公報の第3頁左下欄第15行?右下欄第11行、引用例8の前記摘示(H-1)、引用例9の前記摘示(J-1)等を参照されたい〕となっている。この場合、通常の地形においては地下水は帯水層に存在するものである。
そして、引用例5には、その前記摘示(E-1)?(E-8)によれば、ハロゲン化炭化水素を含む排水を、還元剤粒子であって鉄粒子からなる(必要に応じて砂と混合してなる)充填層ないしは固定層を通すことにより、該ハロゲン化炭化水素を分解して、無害の分解生成物を含む流出水とすることが記載されており、また、引用例8には、その前記摘示(H-2)と(H-3)及び図1の記載によれば、トリクロロエチレンを含有する原水を、電解鉄粉の層を通過させることにより、該トリクロロエチレンを脱塩素化することが記載されており、このように、水中のハロゲン化炭化水素を化学的分解により除去することが可能であり且つ水透過性である鉄粒子又は鉄粉(以下、この項では、必要に応じて、「鉄粉粒子」という)の層を用いることによって、水中のハロゲン化炭化水素を化学的分解により除去することは、本件出願前に周知・慣用の技術となっている。
そうであれば、引用例1発明において、上記周知の課題により、帯水層中の地下水からハロゲン化炭化水素(即ち、ハロゲン化有機汚染物質)を除去しようとして、上記周知・慣用の技術に従い、地下水を通し汚染物質を浄化するところの処理媒体層として、水中のハロゲン化炭化水素を化学的分解により除去することが可能であり且つ水透過性である上記鉄粉粒子の層を採択し、そして、当該鉄粉粒子の層が設置される帯水層中の流路として、帯水層中のハロゲン化炭化水素を汚染物質として含有する地下水の流路を採択して、帯水層中の汚染地下水を浄化することは、当業者であれば、直ちに想到し得るものである。
これにより、上記相違点1に係る構成のように、帯水層中の地下水からハロゲン化炭化水素を化学的分解により取り除くことに至るものである。
したがって、引用例1発明において、上記相違点1に係る構成を具備するようにすることは、当業者であれば、直ちに想到し得るものであり、そこに何等の困難性も伴わない。

【相違点2について】
上記相違点1についての箇所で記載したとおり、引用例1発明において、上記周知の課題により、帯水層中の地下水からハロゲン化炭化水素(即ち、ハロゲン化有機汚染物質)を除去しようとして、上記周知・慣用の技術に従い、地下水を通し汚染物質を浄化するところの処理媒体層として、水中のハロゲン化炭化水素を化学的分解により除去することが可能であり且つ水透過性である上記鉄粉粒子の層を採択し、そして、当該鉄粉粒子の層が設置される帯水層中の流路として、帯水層中のハロゲン化炭化水素を汚染物質として含有する地下水の流路を採択して、帯水層中の汚染地下水を浄化することは、当業者であれば、直ちに想到し得るものである。
この場合、上記「ハロゲン化炭化水素」は本件発明1の「ハロゲン化有機汚染物質」に相当し、上記「鉄粉粒子の層」は本件発明1の「金属体」に相当し、上記「鉄粉粒子の層における鉄」は本件発明1の「金属」に相当し、更に、上記の「鉄粉粒子の層」は、鉄粉というように実質的に錆を有するものではなく、本件発明1の「金属体の酸素欠如部分」に相当する。
そして、このように、引用例1発明において、水中のハロゲン化炭化水素を化学的分解により除去することが可能であり且つ水透過性である上記鉄粉粒子の層を採択し、ハロゲン化炭化水素を汚染物質として含有する地下水の流路を採択したときには、その発明は、以下に示すとおり、本件発明の分説b-1)?h)に係る構成を自ずと、ないしは、必然的に具備することになる。

本件発明1の分説のb-1)、b-2)及びc)について
引用例1発明において、上記のように鉄粉粒子の層を採択し、且つ、ハロゲン化炭化水素を汚染物質として含有する地下水の流路を採択した場合においては、その発明では、その鉄粉粒子の層は、水透過性であるのでそこに地下水(汚染地下水及び清浄地下水であるか否かを問わず)の流れを透過させる形であるということができるものであり、また、その鉄粉粒子の層(ないしは鉄)は、粒状体、切断片、繊維状物等の形態を有するものであり、そして、いうまでもなく、鉄粉粒子の層は帯水層中のハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流れの流路に設置されるものであり、したがって、本件発明1と同じように、「該帯水層中の地下水の流れが通過するのに充分である形を有する金属体であって粒状体、切断片、繊維状物等の形態の該金属体を、該地下水の流れの流路に与え」るとの構成を自ずと具備するに至ることになる。
本件発明1の分説のd)について
引用例1発明においては、その処理媒体層は、前記摘示(A-1)の「処理媒体を含有する遮蔽トレンチを地中に構築する」等の記載からみて明らかなように、地盤の掘削を経て地中(帯水層)に配置されるものであって、その掘削に伴い掘削残土が生ずるものであるが、残土処理の問題、掘りっぱなしによる危険、帯水層を含む地下の環境破壊、等を回避する観点から、処理媒体層の配置後にはその処理媒体の表面は、上記掘削残土で、通常、埋め戻されるものである。
したがって、引用例1発明において、上記のように鉄粉粒子の層を採択し、且つ、ハロゲン化炭化水素を汚染物質として含有する地下水の流路を採択した場合においても、その発明では、この埋め戻しが実施され、これにより、鉄粉粒子の層と大気との接触が実質的に完全に断たれるものであり、本件発明1と同じように、「該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐようなやり方で金属体を覆い」という構成を自ずと具備するに至ることになる。
なお、当該構成は、埋め戻しで実現されるので、前記分説c)における鉄粉粒子の層を地下水の流れに与えた後の工程であることはいうまでもない。
本件発明1の分説のe)について
引用例1発明において、上記のように鉄粉粒子の層を採択し、且つ、ハロゲン化炭化水素を汚染物質として含有する地下水の流路を採択した場合においても、その発明では、その鉄粉粒子の層が水透過性であるので、帯水層中の汚染地下水の流れが、該帯水層から鉄粉粒子の層の中へ、次いで、鉄粉粒子の層を通過するように導かれるものであり、したがって、本件発明1と同じように、「前記の汚染されている帯水層中の地下水の流れを、元の帯水層から金属体の中へ、次いで該金属体を通過するように導き」という構成を自ずと具備するに至ることになる。
本件発明1の分説のf)について
上記d)で記載したとおり、引用例1発明においては、その処理媒体層は掘削を経て地中に配置されるものであって、その配置後においては、その処理媒体の表面は、残土処理の問題、掘りっぱなしによる危険、帯水層を含む地下の環境破壊、等を回避する観点から、通常は、埋め戻されるものであり、したがって、引用例1発明につき、その処理媒体層として鉄粉粒子の層を採択した場合においても、その発明では、この埋め戻しにより地下水と大気との接触が実質的に断たれるものである。
また、上記e)で記載したとおり、引用例1発明につき、その処理媒体層として鉄粉粒子の層を採択した場合においても、その発明では、汚染地下水の流れが該帯水層から鉄粉粒子の中へ導かれるものである。
したがって、引用例1発明において、上記のように鉄粉粒子の層を採択し、且つ、ハロゲン化炭化水素を汚染物質として含有する地下水の流路を採択した場合においても、その発明では、「前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に、該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き」という構成を自ずと具備するに至ることになる。
本件発明1の分説のg)について
引用例1発明において、上記のように鉄粉粒子の層を採択し、且つ、ハロゲン化炭化水素を汚染物質として含有する地下水の流路を採択した場合においては、その発明では、その鉄粉粒子の層は水透過性であるので帯水層中のその地下水は鉄粉粒子の層(金属の酸素欠如部分)を通過して浸透するものであり、また、地下水の流速は通常1m/日以下とその流速は極めて低い〔必要ならば、前記(A-8)、引用例2の(B-5)等を参照〕ものであるので、その地下水は、一定の時間、鉄粉粒子の層の鉄(金属)と接触することになる。
したがって、引用例1発明において、上記のように鉄粉粒子の層を採択し、且つ、ハロゲン化炭化水素を汚染物質として含有する地下水の流路を採択した場合においては、その発明では、本件発明1と同じように、「前記地下水が、前記金属体の酸素欠如部分を通過して浸透するようにし、一定の時間、その中の金属と接触するように保持する」という構成を具備することになる。
本件発明1の分説のh)について
引用例1発明において、上記のように鉄粉粒子の層を採択し、且つ、ハロゲン化炭化水素を汚染物質として含有する地下水の流路を採択した場合においては、その発明では、上記のとおり本件発明1の分説b-1?gで規定する諸工程を全て具備するものであり、かつ、その場合の金属は鉄であることは明白なことである。

以上のとおり、引用例1発明において、水中のハロゲン化炭化水素を化学的分解により除去することが可能であり且つ水透過性である上記鉄粉粒子の層を採択し、ハロゲン化炭化水素を汚染物質として含有する地下水の流路を採択したときには、その発明は、自ずと、ないしは、必然的に本件相違点2に関する構成を、悉く、具備することになる。
なお、引用例1の発明において上記相違点1及び2に係る構成を具備することにより格別予想し難い効果を奏したものであるということはできない。
したがって、本件発明1は、引用例1?7に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-2-1-2.本件発明2
本件発明2は、本件発明1の構成に、「一定の時間は、地下水の酸化還元電位が-100mV以下になるのに充分長い、」との構成を付加するものである。
引用例3の前記摘示(C-4)、(C-5)と(C-7)及び引用例4の前記摘示(D-4)、(D-6)と(D-8)によれば、金属鉄によるハロゲン化炭化水素の除去(無害化)は、処理水中において金属鉄がハロゲン化炭化水素と反応することにより実行されるものであるが、前記摘示(C-6)及び(D-7)で示されるようにその処理水の酸化還元電位が-190mV以下ないしは-300mV以下に低減しなければ、即ち、少なくとも-100mV以下に下がらなければその反応が促進されないものである。
そして、前記摘示(D-5)及び引用例9の前記摘示(J-5)によれば、鉄粉粒子によるハロゲン化炭化水素の除去は、水中に酸素が溶存又は溶解している場合には、金属鉄によってその水の酸化還元電位を低下させるのに長い時間を要するとされるものである。
以上のことは、いずれも周知な事項である。
してみれば、引用例1発明から本件発明1を導き出した場合において、水中に酸素が溶存又は溶解している場合の反応を促進させるために、帯水層中のハロゲン化炭化水素を含む地下水を、該地下水の酸化還元電位が-100mV以下(-190mV以下ないしは-300mV以下を含む)になるのに充分長い時間、鉄粉粒子の層の鉄粉粒体(金属)と接触させて、本件発明2の上記構成のようにすることは当業者が当然なし得ることであり、そのことに何らの困難性もない。
なお、そのことによって、格別予想し難い効果を奏したものであるということはできない。
したがって、本件発明2は、引用例1?7に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-2-1-3.本件発明3
本件発明3は、本件発明1の構成に、「汚染された地下水の流路の帯水層中にトレンチを掘り、次いで、前記トレンチ中に金属体を設置する諸工程を更に含み、しかも、前記トレンチの大きさ及び配置、並びに前記金属体の酸素欠如部分の大きさ及び配置は、汚染された地下水が酸素欠如部分を通って通過するように設定される」との構成を付加するものである。
引用例1発明では、前記摘示(A-1)によれば、処理媒体を含有する遮水トレンチを構築するというのであって、その処理媒体層はトレンチ方式を採用して設置されるから、トレンチを掘削して、そこに、処理媒体層を設置するといえるものである。
そうであれば、引用例1発明から本件発明1を導き出した場合においては、本件発明3のように「汚染された地下水の流路の帯水層中にトレンチを掘り、次いで、前記トレンチ中に金属体を設置する諸工程を含む」との構成を自ずと具備するものである。
また、この場合、前記VI-2-1-1.相違点2のg)で説示したとおり「汚染された地下水が酸素欠如部分を通って通過する」との構成も具備するものである。
そして、鉄粉粒子の層は処理体の役割を担うものであり、汚染された地下水が、その鉄粉粒子の層を通って通過することによって、そのハロゲン化炭化水素がはじめて取り除かれるものである。
してみれば、汚染物質(ハロゲン化炭化水素)除去の観点から、鉄粉粒子の層の大きさ及び配置は、汚染された地下水が鉄粉粒子の層を通って通過するように設計することは当業者であれば当然実施するものであり、また、その鉄粉粒子の層を収容するトレンチは、鉄粉粒子の層の場合と同様に、当業者であれば、汚染された地下水が鉄粉粒子を通って通過するように設計するものである。
そうすると、引用例1発明から本件発明1を導き出した場合においては、その発明が、本件発明3の構成を具備するようにすることに何らの困難も伴わない。
なお、そのことによって、格別予想し難い効果を奏したものであるということはできない。
したがって、本件発明3は、引用例1?7に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-2-1-4.本件発明4
本件発明4は、本件発明3の構成に、「水汲み上げ井戸に入り込む実質的に全ての水が金属体の酸素欠如部分を通過し、一定の滞留時間の間、該酸素欠如部分内部に滞留するように、トレンチを設け、トレンチと前記酸素欠如部分との大きさを決定する工程を更に有する」との構成を付加するものである。
汚染地下水の流れが存在すれば、その地下水が近隣に存在する水汲み上げ井戸に入り込む虞があることは、周知の事項である。
そして、引用例1発明は、その前記摘示(A-7)と(A-8)及び図1と図2の記載からみて明らかなように、特定地域の汚染を防止することを目的とするものである。
してみれば、引用例1発明から本件発明3を導き出した場合においては、その発明において、汚染を防止する地域として、水汲み上げ井戸の地域を選定すること、そして、その防止措置を完全なものとするために、水汲み上げ井戸に入り込む実質的に全ての水が処理体である鉄粉粒子の層(金属体の酸素欠如部分)を通過するように、トレンチを設け、トレンチと鉄粉粒子の層との大きさを決定する工程を付加することは当業者であれば直ちに想到できるものであり、また、VI-2-1-2.で説示したことからみると、水が鉄粉粒子と、長い時間、接触すれば、そこでの汚染物質(ハロゲン化炭化水素)の除去が促進するものであることから、水汲み上げ井戸に入り込む実質的に全ての水が、一定の滞留時間の間、鉄粉粒子の層の内部に滞留するように、トレンチを設け、トレンチと鉄粉粒子の層との大きさを決定する工程を付加することは当業者が困難なく適宜実施できることに過ぎない。
そうすると、引用例1発明から本件発明3を導き出した場合において、本件発明4の上記構成を具備するようにすることに何らの困難も伴わないものである。
なお、そのことによって、格別予想し難い効果を奏したものであるということはできない。
したがって、本件発明4は、引用例1?7に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-2-1-5.本件発明5
本件発明5は、本件発明1の構成に、「汚染された地下水の流路の帯水層中に一連の複数のボアホールを設け、次いで、該複数のボアホールの中に金属を注入する諸工程を更に含み、しかも、該複数のボアホールの間隔、及び注入される金属の量は、その注入された金属が充分に帯水層を貫通し、金属体(金属体本体)及びその酸素欠如部分を形成するように決定する」との構成を付加するものである。
引用例1発明においては、その処理媒体層は、前記摘示(A-1)の「処理媒体を含有する遮蔽トレンチを地中に構築する」等の記載からみて明らかなように、地盤中に配置されるものであり、更に、その図2の記載によれば、その処理媒体は地盤中の帯水層(最下層の上のDesignedWaterTableを有する層)を完全に貫通して設けられるものである。
そして、地中に材料層を配置する工法として、地盤を掘削して所定間隔に垂直孔を形成し、その孔に、材料を噴射して材料層を形成することは、本件出願前周知・慣用の事項〔必要ならば、引用例7の前記摘示(G-1)、特公昭50-27281号公報の第2欄第11?26行、等を参照されたい〕となっている。
してみれば、引用例1発明から本件発明1を導き出した場合においては、その発明において、その鉄粉粒体の層(金属体及び金属体の酸素欠如部分)を地盤中の帯水層を貫通して設けるとき、上記の周知な工法を適用することにより、そして、材料として鉄(金属)を用いることにより、本件発明5のように「汚染された地下水の流路の帯水層中に一連の複数のボアホールを設け、次いで、該複数のボアホールの中に金属を注入する諸工程」を実施することは当業者の適宜実施できるものである。この場合、鉄粉粒体の層は帯水層を完全に貫通して設けられるものであるから、「複数のボアホールの間隔、及び注入される金属の量は、その注入された金属が充分に帯水層を貫通し、金属体(金属体本体)及びその酸素欠如部分を形成するように決定」しなければならないことはいうまでもない。
なお、そのことによって、格別予想し難い効果を奏したものであるということはできない。
したがって、本件発明5は、引用例1?7に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-2-1-6.無効理由2〈その1〉についての結論
本件発明1?5は、本件出願前に頒布された刊行物に当たる引用例1?7、及び、周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

VI-2-2.無効理由2〈その2〉について
VI-2-2-1.本件発明1
(本件発明1の構成)
本件発明1を、分説すると、VI-2-1-1.で記載したとおりとなる。
(引用例2の発明)
引用例2には、汚染地下水処理の代替に関する事項が記載されており、その記載内容につき検討する。
引用例2の前記摘示(B-2)及び図1の記載によれば、「地下水を処理するにあたり、水は透過させるが、汚染物質を移動させない、バリアを利用する方法」が記載され、かつ、同前記(B-1)によれば、該バリアは、トレンチ方式バリアであり、そのトレンチ方式バリアを、浅い帯水層において、汚染地下水の流路に構築されることが記載されている。この場合、その地下水は帯水層に存在することはこの分野の技術常識からみて自明のことである。
以上のことから、引用例2には、
「水は透過させるが、汚染物質を移動させないバリアを、帯水層中の汚染地下水の流路に構築し、汚染地下水を処理する方法」に関する発明(以下、必要に応じて、「引用例2発明」という)が記載されているものである。
(対比・判断)
そこで、本件発明1と引用例2発明とを対比すると、引用例2発明は、帯水層中の汚染地下水をバリアで処理し、水は透過させるが汚染物質は移動させないものであるから、汚染物質を取り除くといえるものであり、よって、両者は、「帯水層中の地下水から汚染物質を取り除く方法」である点で、一致し、以下の点で相違する。
【相違点イ】汚染物質を取り除く方法が、本件発明1では、「ハロゲン化有機汚染物質を化学的分解により」取り除くのに対して、引用例2発明ではそのことが示されず、当該構成を具備しない点
【相違点ロ】帯水層中の地下水から汚染物質を取り除く方法において、その具体的方法が、本件発明1では、
「b-1)該帯水層中の該地下水の流れが通過するのに充分である形の金属体であって
b-2)粒状体、切断片、繊維状物等の形態の該金属体を、
c)該地下水の流れの流路に与え、
d)該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐことができるようなやり方で該金属体を覆い、
e)前記の汚染されている該帯水層中の該地下水の流れを、元の帯水層から前記金属体の中へ、次いで該金属体を通過するように導き、
f)前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に、該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き、次いで、
g)前記地下水が、前記金属体の酸素欠如部分を通過して浸透するようにし、一定の時間、その中の金属と接触するように保持する、
h)諸工程を含み、前記金属は鉄である、」からなるものであるのに対して、引用例2発明では、金属体、金属体の酸素欠如部分及び金属を用いることが示されず、したがって、一連の当該構成を具備しない点
以下、上記相違点につき検討する。
【相違点イについて】
引用例2発明は、「水は透過させるが、汚染物質を移動させないバリアを、帯水層中の汚染地下水の流路に構築し、汚染地下水を処理する方法」であるが、そのバリアの例として、前記摘示(B-4)によれば、地下水が分解性汚染物及び非分解性汚染物を含む場合に対応して栄養分添加システム、酸化剤、収着/交換体等のバリアが示され、このように、特定の汚染物質に対応して特定のバリアを用いる例が示されるものの、そこでの記載は、その時点で適用可能であると考えるバリアにつき教示するだけのものであって、それ以外の汚染物質に対応する他のバリアの使用についてまで排除するものではない。
そもそも、この種のトレンチにあっては、引用例1の前記摘示(A-1)及び(A-3)に記載されるように、広範な汚染物質を選択し得るものであり、また、それに対応した広範なバリア(処理媒体)を選択し得るものである。
一方、人体ないしは環境への配慮から、地下水に汚染物質として含まれるハロゲン化炭化水素を除去することは、本件出願前において周知の課題〔必要ならば、特開昭57-209692号公報の第3頁左下欄第15行?右下欄第11行、引用例8の前記摘示(H-1)、引用例9の前記摘示(J-1)等を参照されたい〕となっている。
そして、引用例5には、その前記摘示(E-1)?(E-8)によれば、ハロゲン化炭化水素を含む排水を、還元剤粒子であって鉄粒子からなる(必要に応じて砂と混合してなる)充填層ないしは固定層を通すことにより、該ハロゲン化炭化水素を分解して、無害の分解生成物を含む流出水とすることが記載されており、また、引用例8には、その前記摘示(H-2)と(H-3)及び図1の記載によれば、トリクロロエチレンを含有する原水を、電解鉄粉の層を通過させ、該トリクロロエチレンを脱塩素化することが記載されており、このように、水中のハロゲン化炭化水素を化学的分解により除去することが可能であり且つ水透過性である鉄粒子又は鉄粉(以下、この項では、必要に応じて、「鉄粉粒子」という)の層を用いることによって、水中のハロゲン化炭化水素を化学的分解により除去することは、本件出願前に周知・慣用の技術となっている。この場合、当該鉄粉粒子の層は、「水は透過させるが、汚染物質を移動させないバリア」の機能を有することはいうまでもない。
そうであれば、引用例2発明において、上記周知の課題により、地下水からハロゲン化炭化水素(即ち、ハロゲン化有機汚染物質)を除去しようとして、上記周知・慣用の技術に従い、水は透過させるが汚染物質を移動させないバリアとして、水中のハロゲン化炭化水素を化学的分解により除去することが可能であり且つ水透過性である上記鉄粉粒子の層を採択し、そして、汚染地下水の流路として、ハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流路を採択して、帯水層中の汚染物質を含有する地下水を処理することは当業者であれば直ちに想到し得るものである。
これにより、上記相違点イに係る構成のように、帯水層中の地下水からハロゲン化炭化水素を化学的分解により取り除くことに至るものである。
したがって、引用例2発明において、上記相違点イに係る構成を具備するようにすることは、当業者であれば、直ちに想到し得るものであり、そこに何等の困難性も伴わない。
【相違点ロについて】
上記相違点イについての箇所で記載したとおり、引用例2発明において、上記周知の課題により、地下水からハロゲン化炭化水素を除去しようとして、上記周知・慣用の技術に従い、水は透過させるが汚染物質を移動させないバリアとして、水中のハロゲン化炭化水素を化学的分解により除去することが可能であり且つ水透過性である上記鉄粉粒子の層を採択し、そして、その汚染地下水の流路として、ハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流路を採択すること、すなわち、「水中のハロゲン化炭化水素を化学的分解により除去することが可能であり且つ水透過性である上記鉄粉粒子の層を、帯水層中のハロゲン化炭化水素を汚染物質として含む地下水の流路に構築し、帯水層中の地下水からハロゲン化炭化水素を化学的分解により取り除く」ようにすることは当業者であれば直ちに想到し得るものである。
この場合、上記「ハロゲン化炭化水素」は本件発明1の「ハロゲン化有機汚染物質」に相当し、また、上記「鉄粒子の層」、「鉄粒子の層の鉄」はそれぞれ本件発明1の「金属体」及び「金属」にそれぞれ相当し、更に、上記の「鉄粒子の層」は、鉄粉というように実質的に錆を有するものではなく、本件発明1の「金属体の酸素欠如部分」に相当するということができる。
そして、上記のとおり、引用例2の発明につき、そのバリアとして鉄粒子の層を採択し、そして、汚染地下水の流路として、ハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流路を採択したときには、以下に示すとおり、本件発明1の分説のb-1)?h)の構成は自ずと具備することになり、また、当業者が容易に導き出せるものである。

本件発明1の分説のb-1)、b-2)及びc)について
引用例2発明において、そのバリアとして水透過性の鉄粒子の層を採択し且つその流路としてハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流路を採択した場合においては、そのバリアは、透水性であり、また、粒状体の形態を有するものであり、したがって、引用例2発明においてバリア及び流路を上記のように採択した場合には、本件発明1と同じように、「該帯水層中の地下水の流れが通過するのに充分である形を有する金属体であって粒状体の形態の該金属体を、該地下水の流れの流路に与え」との構成を自ずと具備することになるものである。
本件発明1の分説のd)について
引用例2発明においては、その前記摘示(B-1)及び(B-3)によれば、バリアは、地盤を掘削して形成したトレンチに配置されるものであって、その掘削に伴い掘削残土が生ずるものであるが、バリアの配置後においては、バリアの表面部は、残土処理の問題、掘りっぱなしによる危険、帯水層を含む地下の環境破壊、等を回避する観点から、通常は、埋め戻されるものである。
したがって、引用例2発明において、そのバリアとして鉄粒子の層を採択した場合においても、この埋め戻しが実施され、これにより、鉄粒子と大気の接触が実質的に完全に断たれるので、その場合においては、本件発明1と同じように、「該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐようなやり方で金属体を覆い」という構成を自ずと具備することになる。
また、当該分説d)の構成は、以下の点から、当業者が容易に導き出すことができる。
この種のハロゲン化炭化水素の分解反応においては、金属鉄(すなわち、無酸化鉄)が水中でイオン化することに伴いその反応が進行することは周知の事項〔必要ならば、引用例3の前記(C-5)及び(C-7)、引用例4の前記(D-6)及び(D-8)、引用例8の前記(H-3)の「鉄粉表面をおおっている酸化膜の除去をかねて0.1N塩酸で処理した」、引用例8の(H-4)等を参照〕であるところ、鉄は、大気中の酸素と接触すれば酸化され易く、そのような酸化が生ずれば、上記イオン化が困難となり、それだけその反応が抑制されることは自明なことである。
他方、鉄による水中のハロゲン化炭化水素の分解(無害化)反応は、水の還元性が高い場合はその反応が促進されることは周知の事項〔必要ならば、引用例3の(C-6)、引用例4の(D-7)及び引用例9の(J-5)等を参照〕となっていること、且つ、引用例1の前記摘示(A-2)によれば、たいていの地下水処理においては還元性と示され、大気が存在する地上の水とは異なり、地下水の水の還元性は高いものであることからみると、鉄により地下水中でハロゲン化炭化水素を分解(分解反応)させようとする場合には、その地下水の還元性が損なわれないようにしなければならないことは、至極、当然のことである。
したがって、引用例2発明につき、そのバリアとして鉄粒子の層を採択し、そして、その流路として、ハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流路を採択した場合においては、当該分解反応を高める観点から、鉄粒子の酸化を防止し、且つ、汚染地下水の存在する領域の還元性が損なわれないようにするために、地盤を掘削して配置した鉄粒子の層の表面部を掘削残土等により被覆して汚染地下水と鉄粒子の層とを大気から隔離しようとすることは、当業者であれば、直ちに、想到できるものであり、これにより、鉄粒子と大気との接触が実質的に完全に断たれるので、本件発明1の分説d)の構成を、より一層、確実に、具備することになる。
なお、当該構成は、埋め戻しで実現されるので、前記分説c)における鉄粉粒子の層を地下水の流れに与えた後の工程であることはいうまでもない。
そうすると、当該分説d)の構成は、引用例2発明において、バリアと流路を上記のように採択した場合においては必然的に具備するものであり、また、この分野の周知技術を参照すれば、当業者が適宜なし得るものである。
本件発明1の分説のe)について
引用例2発明において、そのバリアとして水透過性の鉄粒子の層を採択し且つその流路としてハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流路を採択した場合においては、鉄粒子の層が水透過性であるので、帯水層中のハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流れが該帯水層から鉄粒子の層の中へ、次いで、鉄粒子の層を通過するように導かれるものであり、したがって、そのようにバリアを設置、構成した場合は、本件発明1と同じように、「前記の汚染されている帯水層中の地下水の流れを元の帯水層から金属体の中へ、次いで該金属体を通過するように導き」という構成を自ずと具備することになる。
本件発明1の分説のf)について
上記分説e)の検討の箇所で記載したとおり、引用例2発明において、そのバリアとして水透過性の鉄粒子の層を採択し且つその流路として帯水層中のハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流路を採択した場合においては、「該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き」という構成を具備することになり、この場合、その金属体には酸素欠如部分が含まれるものである。
そして、上記分説d)の検討の箇所で記載したとおり、引用例2発明につき、そのバリアを鉄粒子の層で構成した場合においても、残土の処理の負担、掘りっぱなしによる危険、帯水層を含む地下の環境破壊、等を回避するために、その鉄粒子の層の配置後の掘削残土により、通常、鉄粒子の層の表面部は、埋め戻されるものであり、これにより、地下水と大気の接触が実質的に断たれるので、そのようにバリアを鉄粒子の層で構成した場合においては、本件発明1と同じように、「前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に、該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き」という構成を具備することになる。
このように、引用例2発明において、そのバリアとして水透過性の鉄粒子の層を採択し且つその流路としてハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流路を採択した場合においては自ずと本件発明1の分説f)の構成を具備するものである。
また、以下の点から分説f)の構成は当業者が容易に導き出すことができる。
上記d)で記載したとおり、ハロゲン化炭化水素の分解反応は水の還元性が高い場合はその反応が促進されることは周知の事項〔必要ならば、引用例3の(C-6)、引用例4の(D-7)及び引用例9の(J-5)等を参照〕となっており、したがって、引用例2発明において、そのバリアとして水透過性の鉄粒子の層を採択し且つその流路としてハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流路を採択しハロゲン炭化水素を取り除こうとした場合においては、地下水中の当該分解反応が促進されるように地下水の還元性が損なわれないようにしなければならないことは、至極、当然のことである。そうであれば、ハロゲン化炭化水素の分解反応を高める観点から、帯水層から金属体の中に導かれる地下水につき、それが、酸素欠如部分を含む金属体に入る前に、大気中の酸素と実質上接触しないようにすることは当業者であれば当然のこととして実施するものである。したがって、引用例2発明において、そのバリアとして水透過性の鉄粒子の層を採択し且つその流路としてハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流路を採択し、且つ、上記構成b-1?dの構成を具備した場合において、本件発明1の構成「前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に、該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き」を具備するようにすることは当業者であれば当然のこととして実施するものであり、何等の困難性も伴わない。
そうすると、当該分説f)の構成は、引用例2発明において、そのバリア及び流路を上記のように採択し、且つ、上記構成b-1?dの構成を具備した場合においては、本件発明1の分説f)の構成を必然的に具備するものであり、また、この分野の周知技術を参照すれば、分説f)の構成を具備するようにすることは当業者が適宜なし得るものである。
本件発明1の分説のg)について
帯水層中の地下水の流路に水が透過する鉄粒子の層を構築した場合には、帯水層中の地下水が鉄粒子の層を通過して浸透するものであり、また、地下水の流速は通常1m/日以下〔引用例1の前記(A-8)、前記(B-5)等を参照〕とその流速は極めて低いものであるので、地下水は、一定の時間、鉄粒子の層の鉄粒子と接触することになる。
したがって、引用例2発明において、そのバリアとして水透過性の鉄粒子の層を採択し且つその流路としてハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流路を採択し、且つ、上記構成b-1?dの構成を具備した場合には、自ずと、本件発明1と同じように、「前記地下水が、前記金属体の酸素欠如部分を通過して浸透するようにし、一定の時間、その中の金属と接触するように保持する」という構成を具備することになる。
本件発明1の分説のh)について
引用例2発明において、そのバリアとして水透過性の鉄粒子の層を採択し且つその流路としてハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流路を採択した場合においては、上記するとおり、本件発明1の分説b-1?gで規定する諸工程を具備するものであり、ないしは、その諸工程を具備するようにすることは当業者が適宜なし得るものである。
かつ、その場合の金属は鉄であることは明白なことである。

以上のとおり、引用例2発明において、そのバリアとして水透過性の鉄粒子の層を採択し且つその流路としてハロゲン化炭化水素を含有する地下水の流路を採択した場合においては、自ずと、本件発明1の相違点ロに関する構成を具備することになるものであり、また、当該構成を具備するようにすることは当業者が容易に導き出せるものである。
なお、引用例2発明において上記相違点イ及びロに係る構成を具備することにより格別予想し難い効果を奏したものであるということはできない。
よって、本件発明1は、引用例1?7に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-2-2-2.本件発明2
本件発明2は、本件発明1の構成に、「一定の時間は、地下水の酸化還元電位が-100mV以下になるのに充分長い、」との構成を付加するものである。
鉄による水中のハロゲン化炭化水素の除去は、引用例3の前記摘示(C-4)、(C-5)と(C-7)及び引用例4の前記摘示(D-4)、(D-6)と(D-8)によれば、水中において鉄がハロゲン化炭化水素と反応することにより実行されるものであるが、引用例3の前記摘示(C-6)及び引用例4の前記摘示(D-7)で示されるように、その水の酸化還元電位が-190mV以下ないしは-300mV以下に下がらなければ、即ち、少なくとも-100mV以下に下がらなければその反応が促進されないものである。
そして、鉄による水中のハロゲン化炭化水素の除去は、引用例5の前記摘示(D-5)及び引用例9の前記摘示(J-5)によれば、水中に酸素が溶存又は溶解している場合には、鉄によってその水の酸化還元電位を低下させるのに長い時間を要するとされるものである。
以上のことは、いずれも、周知な事項である。
してみれば、引用例2発明から本件発明1の構成を導き出した場合においては、水中に酸素が溶存又は溶解している場合の反応を促進させるために、ハロゲン化炭化水素を含有する地下水を、地下水の酸化還元電位が-100mV以下(-190mV以下ないしは-300mV以下を含む)になるのに充分長い時間、鉄粒子の層の中の鉄粒子(金属)と接触させて、本件発明2の上記構成のようにすることは当業者が当然実施するところであり、そのことに何らの困難性もない。
また、次のことからみても、本件発明2は当業者の容易に発明することができるものである。即ち、上記したとおり処理水の酸化還元電位が-190mV以下に低減しなければその反応が促進されないものであるところ、引用例9の前記摘示(J-6)及びその図-5の記載によれば、酸化還元電位の低減化には金属鉄と処理水とが所定時間にわたり接触する必要があることが示されるものであり、そうであれば、引用例2発明から本件発明1を導き出した場合において、その反応を促進するために、地下水の酸化還元電位が-190mV以下となるように鉄粉粒子と地下水とを充分長い時間接触させて本件発明2の上記構成のようにすることは当業者が当然のこととしてなし得るものである。
なお、そのことによって、格別予想し難い効果を奏したものであるということはできない。
したがって、本件発明2は、引用例1?7に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-2-2-3.本件発明3
本件発明3は、本件発明1の構成に、「汚染された地下水の流路の帯水層中にトレンチを掘り、次いで、前記トレンチ中に金属体を設置する諸工程を更に含み、しかも、前記トレンチの大きさ及び配置、並びに前記金属体の酸素欠如部分の大きさ及び配置は、汚染された地下水が酸素欠如部分を通って通過するように設定される」との構成を付加するものである。
引用例2の発明においては、その前記摘示(B-1)及び(B-3)によれば、そのバリアは、トレンチ方式のバリアであって、トレンチに配置されるものであるので、トレンチを掘削して、そこに、バリアを設置するものである。
そうであれば、引用例2発明から本件発明1の構成を導き出した場合においては、本件発明3のように「汚染された地下水の流路の帯水層中にトレンチを掘り、次いで、前記トレンチ中に金属体を設置する諸工程を含む」との構成が、自ずと、具備されるに至る。
また、この場合、前記VI-2-2-1.の相違点ロのg)で説示したとおり「汚染された地下水が酸素欠如部分を通って通過する」との構成も保有するものである。
そして、鉄粒子の層(金属体の酸素欠如部分)はハロゲン化炭化水素を取り除く機能を有し、汚染された地下水がその鉄粒子を通過することによって、そのハロゲン化炭化水素がはじめて取り除かれるものであり、このことは自明なことである。
してみれば、鉄粒子の層(金属体の酸素欠如部分)の大きさ及び配置は、汚染された地下水が鉄粒子の層(酸素欠如部分)を通過するように設計しなければならないことは当然のことであり、また、その鉄粒子の層(金属体)を収容する溝であるトレンチは、鉄粒子の層(金属体の酸素欠如部分)の場合と同様に、汚染された地下水が鉄粒子の層(酸素欠如部分)を通って通過するように設計すべきものである。
そうすると、引用例2発明から本件発明1の構成を導き出した場合において、本件発明3の構成を具備するようにすることに何らの困難も伴わない。
なお、そのことによって、格別予想し難い効果を奏したものであるということはできない。
したがって、本件発明3は、引用例1?7に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-2-2-4.本件発明4
本件発明4は、本件発明3の構成に、「水汲み上げ井戸に入り込む実質的に全ての水が金属体の酸素欠如部分を通過し、一定の滞留時間の間、該酸素欠如部分内部に滞留するように、トレンチを設け、トレンチと前記酸素欠如部分との大きさを決定する工程を更に有する」との構成を付加するものである。
汚染地下水の流れが存在すれば、その地下水が近隣に存在する水汲み上げ井戸に入り込む虞があることは、周知の事項である。
そして、引用例2発明は、その図1と図3の記載からみて明らかなように、汚染地下水流に対してバリアを設けることにより、それより下流の地域の汚染を防止するものである。
してみれば、引用例2発明から本件発明3の構成を導き出した場合においては、汚染を防止する地域として、水汲み上げ井戸を選定すること、そして、その防止措置を完全なものとするために、水汲み上げ井戸に入り込む実質的に全ての水を、処理体である鉄粒子の層(金属体の酸素欠如部分)を通過するように、「トレンチを設け、トレンチと前記酸素欠如部分との大きさを決定する工程」を付加することは当業者であれば直ちに想到できるものである。また、その際、VI-2-2-2.で説示したことからみると、水が鉄粒子の層(金属体の酸素欠如部分)と、長い時間、接触すれば、そこでの汚染物質(ハロゲン化炭化水素)の除去が促進するものであることから、「水が、一定の滞留時間の間、該酸素欠如部分内部に滞留するように、トレンチを設け、トレンチと前記酸素欠如部分との大きさを決定する工程」を付加することは当業者が困難なく適宜実施できることに過ぎない。
なお、そのことによって、格別予想し難い効果を奏したものであるということはできない。
したがって、本件発明4は、引用例1?7に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-2-2-5.本件発明5
本件発明5は、本件発明1の構成に、「汚染された地下水の流路の帯水層中に一連の複数のボアホールを設け、次いで、該複数のボアホールの中に金属を注入する諸工程を更に含み、しかも、該複数のボアホールの間隔、及び注入される金属の量は、その注入された金属が充分に帯水層を貫通し、金属体(金属体本体)及びその酸素欠如部分を形成するように決定する」との構成を付加するものである。
引用例2発明においては、その前記摘示(B-1)及び(B-3)によれば、バリアは、地盤を掘削して形成したトレンチに配置されるものであって、地盤の中に構築されるものである。
そして、地盤中に材料層を配置する工法として、地盤を掘削して所定間隔に垂直孔を形成し、その孔に、材料を噴射して材料層を形成することは、本件出願前周知・慣用の事項〔必要ならば、前記摘示(G-1)、特公昭50-27281号公報の第2欄第11?26行、等を参照されたい〕となっている。
してみれば、引用例2発明から本件発明1の構成を導き出した場合においては、鉄粒子の層を地盤の中に構築するとき、上記の周知な工法に従い、その材料として鉄粒子(金属)を用いることにより、「汚染された地下水の流路の帯水層中に一連の複数のボアホールを設け、次いで、該複数のボアホールの中に金属を注入する諸工程」を実施することは当業者の適宜実施できるものである。
この場合、注入された鉄粒子の層はハロゲン化炭化水素を取り除く機能を有するものである以上、ハロゲン化炭化水素を取り除く観点から、帯水層を充分に貫通し、鉄粒子の層(金属体及び金属体の酸素欠如部分)を形成する必要があり、したがって、上記の垂直孔の形成及び鉄粒子(金属)の噴射に際して、「複数のボアホールの間隔、及び注入される金属の量は、その注入された金属が充分に帯水層を貫通し、金属体(金属体本体)及びその酸素欠如部分を形成するように決定」しなければならないことはいうまでもない。
なお、そのことによって、格別予想し難い効果を奏したものであるということはできない。
したがって、本件発明5は、引用例1?7に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-2-2-6.無効理由2〈その2〉についての結論
本件発明1?5は、本件出願前に頒布された刊行物に当たる引用例1?7、及び、周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

VI-2-3.無効理由1について
ここでの、請求人Aの主張を要約すると、以下に示すとおりとなる。
(1)本件請求項1においては、「金属体の酸素欠如部分」と記載されるところ、本件明細書の発明の詳細な説明では、「この酸素に接触した鉄は、いったん錆を生じるとその下部にある鉄に対する密閉作用を有する。これは鉄の酸素欠乏(anaerobic)部分と呼ばれる。」(第5頁第3?5行)と、鉄の酸素欠乏部分と記載されており、両者の記載は整合せず、また、両者の用語が区別できず、したがって、金属体の酸素欠如部分の意味内容が不明である。
(2)本件請求項1においては、「該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐことができるようなやり方で該金属体を覆い」との構成が記載されているが、その金属体の寸法が何ら限定されていないことから、実際にどのような手段を用いて金属体を覆うことができるか明らかでなく、このことから、本件請求項1における「該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き、」との構成を実施することができない。
(3)本件請求項1において、「該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き、」との構成が記載されるが、通常は、金属体は水を通さないものであるからその記載が不明である。
(4)本件請求項1において、「該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き、」との構成が記載されるが、その構成を実現する手段が不明である。
(5)本件請求項1においては、「該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐことができるようなやり方で該金属体を覆い、」との構成が記載されているが、その「実質的に完全に防ぐ」の意味内容が不明である。
(6)本件請求項1においては、「前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に、該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き、」との構成が記載されているが、その「実質的に接触しないように」の意味内容が不明である。
(7)本件請求項1においては、「前記の汚染されている該帯水層中の該地下水の流れを、元の帯水層から前記金属体の中へ、次いで該金属体を通過するように導き、」との構成が記載されているが、その「元の帯水層」及び「導き」の意味内容が不明である。
(8)本件請求項1においては、「前記地下水が、前記金属体の酸素欠如部分を通過して浸透するようにし、一定の時間、その中の金属と接触するように保持する、」との構成が記載されているが、その「その中の金属」の意味するものが不明である。
(9)本件請求項1に係る発明は、「地下水を、嫌気的条件下で還元処理することにより、有機塩素化合物を取り除く」ことをその要部の一つとするものであるが、その地下水に溶存酸素が含まれている場合には、別途、何らかの手段を付加しなければ本件請求項1に係る発明の効果を奏することはできない。
(10)本件請求項1には、方法発明が記載されており、このうち、前記分説における(e)及び(f)のステップの構成は、トレンチ方式とは別のシステムの地表設置型のタンクあるいは貯水槽の説明を参照して理解しなければ理解不可能である。このことからみれば、本件請求項1に係る発明は、還元作用による浄化方式として、前記トレンチ方式と貯槽方式の両浄化方式を併有する方法である。そうであれば、この併有方式については、発明の詳細な説明の項には全く記載がない。
(11)本件請求項5には、ボアホールに金属を注入することが記載されているが、その構成を当業者が容易に実施できず、また、そこに規定される構成からは、本件発明5の効果を奏するうえで必要な、とぎれのない壁を構築できない。

以下に検討する。
上記(1)について
本件請求項1における金属体とは、その記載どおり、その材質が金属であって、かたちがあるものを指すと認められ、また、金属とは、その記載どおり、その材質が金属であるものを指すと認めらる。
一方、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の項においては、「鉄が酸素に接した場合、腐食され、汚染物の分解の促進が効率的でなくなる。しかしながら、この酸素に接触した鉄は、いったん錆を生じるとその下部にある鉄に対する密閉作用を有する。これは鉄の酸素欠乏(anaerobic)部分と呼ばれる。」(第5頁第2?5行)と記載され、金属の酸素欠乏部分とは、金属においては、錆の下部にある金属、即ち、錆のない金属の部分をいうことが、金属が鉄である例をもって示されるものである。
そして、酸素欠乏と酸素欠如とは、いずれも酸素が足りないことを指し、その意味するところは略同一であり、また、金属体とは、上記したように、その材料が金属であって、かたちがあるものであることをいうだけのものであるから、金属でいえることは金属体においても同じように当てはまるものである。
そうであれば、上記したように、金属の酸素欠乏部分とは錆のない金属をいうのであるから、金属体の酸素欠如部分とは、金属の場合と同様に、金属体の錆のない部分をいうことが、直ちに、導き出されるものである。
したがって、本件訂正明細書において、請求項1の記載と発明の詳細な説明の項の記載とが表現上一致していないとしても、そのことにより、金属体の酸素欠如部分の意味内容が不明であるとまでいうことはできない。
上記(2)について
本件請求項1における「該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐことができるようなやり方で該金属体を覆い」との構成につき、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の項においては、「酸素との接触が完全にないように鉄はトレンチの中に充填されなければならない。従って、鉄は、トレンチの中に埋める必要がある。・・・。しかし密閉作用に関していえば、トレンチから掘り出された土等の安価な材料を用いる方が鉄の場合好ましい。」(第5頁第1?7行)と記載され、当該金属体の覆う例として、トレンチから掘り出された土等により金属体を覆うことが実質上記載されている。
そうであれば、実際にどのような手段を用いて金属体を覆うことができるかが明らかでないということはできず、当該構成に関し、本件請求項1に係る発明を当業者が容易に実施することができないとまではいえない。
また、このように金属体をトレンチから掘り出された土等により覆うことにより、大気が地下水に接することがなくなるのであるから、当然のこととして、それにより、「該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き、」との構成が実現できるのであり、そうであれば、地下水に係る当該構成につき、本件請求項1に係る発明が当業者が容易に実施することができないとまではいえない。
上記(3)について
本件請求項1の記載によれば、金属体は、「粒状体、切断片、繊維状物等の形態」を保有するものであるから、そこでの発明は、金属体を集合体の状態で用いることを、実質上、規定しているものである。
そして、集合体としての金属体は、水を通すことは自明であり、したがって、「地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き」との構成を不明瞭であるということはできない。
上記(4)について
本件請求項1における「該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き、」との構成につき、その詳細が本件訂正明細書の発明の詳細な説明の項において具体的に記載されない。
しかし、発明の詳細な説明の項において、「本発明における主眼は、工場排水とは異なり、地下水は一般的に実質上、無酸素状態にあることである。」(第2頁第11?13行)と記載されること、及び、本件請求項1には、金属体を地下水の流れの流路に与えることが記載されていることからすると、上記当該構成は、通常の地下水の状態で、金属体を地下水の流れの流路に与えることにより実現できることが分かる。
そして、同発明の詳細な説明の項において、金属体を地下水の流れの流路に与える際、地下水を通常の状態に保持する手段ないしは措置として、上記(2)で記載したとおり、トレンチから掘り出された土等により金属体を覆うことが、別途、示されるものである。
そうであれば、本件請求項1における「該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き、」との構成につき、その詳細が本件訂正明細書の発明の詳細な説明の項において具体的に記載されないとしても、本件訂正明細書の記載を総合すると、それは、トレンチから掘り出された土等により金属体を覆うことにより実現できることが明らかとなる。
したがって、当該構成を実現する手段が不明であるとまでいうことはできない。
上記(5)について
本件請求項1においては、「該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐことができるようなやり方で該金属体を覆い、」との構成が記載されているが、金属体が、地盤の如き多孔質層に囲まれた帯水層中の地下水に設置される状態においては、上記構成の「実質的に完全に防ぐ」ことは、技術的にみて、到底、実現できるものではなく、したがって、当該構成は、本件訂正明細書に記載の範囲内において「実質的に完全に防ぐ」ことを規定したに過ぎないと認めざるを得ないものである。
そこで、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の項の記載をみると、「酸素との接触が完全にないように鉄はトレンチの中に充填されなければならない。・・・。しかし密閉作用に関していえば、トレンチから掘り出された土等の安価な材料を用いる方が鉄の場合好ましい。」(第5頁第1?7行)と記載され、鉄が酸素と完全にの接触しないようにするに際して、トレンチから掘り出された土等により金属体を覆うことが好ましいことが示されるものである。
そうであれば、上記構成の「実質的に完全に防ぐ」ことは、トレンチから掘り出された土等により金属体を覆うことであることが分かり、その意味内容が不明であるとまでいうことはできない。
上記(6)について
上記(4)で記載したとおり、本件請求項1における「該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き、」との構成は、トレンチから掘り出された土等により金属体を覆うことにより実現できることが明らかとなる。また、上記構成中、「実質的に接触しないように」との構成が、殊更、不明であるということができない。
上記(7)について
本件請求項1においては、「粒状体、切断片、繊維状物等の形態の金属体を、帯水層中の地下水の流れの流路に与える」〔本件発明の分説b-1)?c)から抽出〕ものであって、このように、金属体が微細片の集合体であることから地下水が金属体を通過するものであり、また、そこには、帯水層中に存在する地下水の流れがあるのである。
請求人Aの指摘する「前記の汚染されている該帯水層中の該地下水の流れを、元の帯水層から前記金属体の中へ、次いで該金属体を通過するように導き、」との構成は、上記「粒状体、切断片、繊維状物等の形態の金属体を、帯水層中の地下水の流れの流路に与える」ことによって、通常、進行するその後の地下水の流れを規定しただけのものであり、そして、その「元の帯水層」とは、金属体を流路に与える前の地下水の流れが存在する帯水層を規定したことに外ならず、また、その「導く」とは、結果的にそのように地下水が導かれることを規定しただけのものである。
したがって、その「元の帯水層」及び「導く」の意味内容が不明であるとまではいうことができない。
上記(8)について
上記(1)で記載したとおり、本件請求項1における金属体とは、その材質が金属であって、かたちがあるものを指し、金属体の酸素欠如部分とは、金属体の錆を有さない部分を指し、更に、金属とは、その材質が金属であるものを指すものである。
そして、上記(3)で記載したとおり、本件請求項1の記載によれば、その金属体は、集合体の状態で用いられるものであり、金属体が集合体の状態で用いられるものであるから、その錆を有さない部分である金属体の酸素欠如部分も集合体の状態で用いられるものである。
そうであれば、本件請求項1においては、「前記地下水が、前記金属体の酸素欠如部分を通過して浸透するようにし、一定の時間、その中の金属と接触するように保持する、」との構成が記載されているとしても、その構成は、地下水が金属体の酸素欠如部分を通過して浸透するようにし、その地下水を、当該酸素欠如部分中の金属と、一定の時間、接触するよう保持することを規定するだけのものであり、殊更、「その中の金属」の意味するものが不明であるといえるものではない。
上記(9)について
本件訂正明細書の記載によれば、本件発明1の発明の目的は、従来法より極めて安価に効率的に地中にある地下水中のハロゲン化有機汚染物を取り除くことであって、その請求項1の構成を備えることにより、その発明の目的を達成することができたものである。
このように、本件発明1では、地下水に含まれる溶存酸素の含有量がその構成要件として規定されるものではない。
そして、地下水に溶存酸素が含まれる場合には、その含有量を問わず、ハロゲン化汚染物質の除去効率が低減するものではなく、その含有量に応じて、かつ、その発明の目的の範囲内で適宜対応すれば足りるものである。
そうすると、本件発明1において、地下水に溶存酸素が含まれている場合の構成を別途付加しなければならないものではない。
したがって、この点につき、別途何らかの手段を付加しなければ本件請求項1に係る発明の効果を奏することはできないとする請求人の主張には根拠がなく、合理的とはいえない。
上記(10)について
本件請求項1には、「該帯水層中の該地下水の流れが通過するのに充分である形の金属体であって粒状体、切断片、繊維状物等の形態の該金属体を、該地下水の流れの流路に与え、該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐことができるようなやり方で該金属体を覆い、」と記載されるように、そこでの発明は、請求人Aがいうところのトレンチ方式を採用した方法に関する発明であることは明らかである。
そして、本件請求項1の前記分説(e)の「前記の汚染されている該帯水層中の該地下水の流れを、元の帯水層から前記金属体の中へ、次いで該金属体を通過するように導き、」という構成は、トレンチ方式で、通常、発生する地下水の流れの状態を規定しただけのものであり、また、前記分説(f)の「前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に、該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き」という構成は、トレンチ方式で、地下水が大気中の酸素と実質的に接触しない状態につき規定しただけのものである。
このように、本件発明1は、請求人Aがいうところのトレンチ方式を採用した方法に関する発明であることは明らかであって、請求人Aの指摘する分説(e)及び(f)の構成は、トレンチ方式とは別のシステムの地表設置型のタンクあるいは貯水槽の説明を参照しなければその構成が把握できないものではない。
また、そもそも、トレンチ方式と貯槽方式の両浄化方式を併有する方法は、当業者といえども俄には想定することはできず、その主張には無理がある。
したがって、本件発明1は、トレンチ方式と貯槽方式の両浄化方式を併有する方法であるということはできず、この誤った主張に基づく請求人Aの主張は採用できない。
上記(11)について
本件請求項5に記載されるとおり、そこで用いられる金属は、ボアホールに注入できるものであって、充分に帯水層を貫通し金属体本体を形成するものである。
そして、そのように一種の穴に注入できる金属として、微細金属の集合体からなるものは当業者にとっては周知のものであり、そして、その微細金属の集合体を注入すればその微細金属の集合体が穴を経て帯水層を貫通することに至ることは自明なことである。
したがって、本件請求項5には、より具体的な構成が記載されていないとしても、この分野の技術常識を基に、その金属として、微細金属の集合体等を用いれば、本件請求項5の構成が当業者が容易に実施できないとまではいえないものである。
次に、本件請求項5は、本件請求項1の構成を引用するものであるが、その請求項1には、金属体を地下水の流れの流路の与えること、地下水が金属体及び金属体の酸素欠如部分を通過ないしは浸透すること等が記載されるものの、金属又は金属体本体に関し、とぎれのない壁を構築することについてまでは規定されないものである。そして、本件発明5及び1では、その目的は、従来法より極めて安価に効率的にハロゲン化有機汚染物を取り除くことができれば足りるものであって、地下水のハロゲン化有機汚染物の全てを取り除くことまでを発明の目的としていないものである。
したがって、本件発明5の効果を奏するうえで、とぎれのない壁を構築することが必要であるということはできない。
以上のとおりであり、上記(1)?(11)についての請求人の主張は、合理的でなく採用することができず、したがって、このような誤った主張に基づきなされる、本件発明1、5及び本件発明1を引用する本件発明2?4が特許法第36条3項及び第4項第2号に規定する要件を満たしていないという請求人Aの主張を採用することができない。
よって、本件発明1?5の特許は、特許法第36条3項及び第4項第2号に規定する要件を満たしていない発明に対してなされたものであるということはできない。

VI-3.請求人Bの無効理由についての判断
VI-3-1.無効理由4について
VI-3-1-1.本件発明1
(本件発明1の構成)
本件発明1を、答弁書に記載される方法に準じて、分説すると、VI-2-1-1.で記載したとおりとなる。
(引用例8の発明)
引用例8には、還元処理による有機塩素化合物の除去に関する事項が記載されており、その記載内容につき検討する。
引用例8の(H-3)及び第19頁の図-1によれば、「図1に示す装置を用い、所定の層高になるように電解鉄粉を反応管に充填し、有機塩素化合物の一種であるトリクロロエチレンを含有する原水を、上向きに流して処理水を得た」旨記載されており、また、前記(H-2)と第22頁の表-2によれば、原水の該トリクロロエチレンが脱塩素化される旨記載される。そして、この場合、電解鉄粉は層高になるように反応管に充填されるのであるから、充填された結果、反応管には層が形成されていることは明らかであるし、また、原水は、その電解鉄粉の層を通過して処理されていることは明らかである。
以上のことから、引用例8には、
「トリクロロエチレンを含有する原水を、電解鉄粉の層を通過させ、該トリクロロエチレンを脱塩素化する方法」に関する発明(以下、必要に応じて、「引用例8発明」という)が記載されているものである。
そこで、本件発明1と引用例8発明とを対比する。
引用例8発明における「トリクロロエチレン」は本件発明1の「ハロゲン化有機汚染物質」に相当し、また、引用例8発明においてはそのトリクロロエチレンを脱塩素化するので、本件発明1と同じように、ハロゲン化有機汚染物を化学的分解により取り除いているといえるものである〔更に、必要であれば、前記摘示(H-4)等を参照〕。
そして、本件発明1の帯水層中の地下水は、化学的処理を受けるものであって、化学処理の対象となる水であるという観点からみれば、一種の原水であるということができる。
よって、両者は、「原水からハロゲン化有機汚染物質を化学的分解により取り除く方法」である点で、一致し、以下の点で相違する。
【相違点a】原水が、本件発明1では、「帯水層中の地下水」であるのに対して、引用例8発明ではそのことが示されず、当該構成を具備しない点
【相違点b】ハロゲン化有機汚染物質を取り除く方法が、本件発明1では、
「b-1)該帯水層中の該地下水の流れが通過するのに充分である形の金属体であって
b-2)粒状体、切断片、繊維状物等の形態の該金属体を、
c)該地下水の流れの流路に与え、
d)該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐことができるようなやり方で該金属体を覆い、
e)前記の汚染されている該帯水層中の該地下水の流れを、元の帯水層から前記金属体の中へ、次いで該金属体を通過するように導き、
f)前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に、該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き、次いで、
g)前記地下水が、前記金属体の酸素欠如部分を通過して浸透するようにし、一定の時間、その中の金属と接触するように保持する、
h)諸工程を含み、前記金属は鉄である、」からなるものであるのに対して、引用例8発明では、原水が帯水層中の地下水ではなく、また、電解鉄粉の層を地下水の流れの流路に与えるものでなく、したがって、一連の当該構成を具備しない点
以下、上記相違点につき検討する。
【相違点aについて】
引用例8の発明は、前記摘示(H-1)によれば、地下水に含まれるトリクロロエチレンの処理に適用することを意図するものであるが、その引用例8の発明は、その前記摘示(H-3)や第1図で示されるように、水中のトリクロロエチレンの処理を実験室段階で実施したに過ぎず、したがって、その処理方法を実用化する場合の各種条件については公知ないしは周知技術に委ねられているものである。
そして、引用例1には、その前記摘示(A-1)、(A-4)、(A-5)、(A-7)及び(A-8)によれば、「粒状活性炭、イオン交換体、pH調整物質、生物反応媒体、その他の処理技術によるものから選ばれる処理媒体を、帯水層中の汚染地下水の流路に設置し、該帯水層の汚染地下水をその処理媒体に通し浄化する方法」に関する発明(以下、必要に応じて、「引用例1´の発明」という)が記載されており、かつ、前記(A-1)によれば、該方法は汚染地下水の原位置での浄化方法に関するものであり、地上処理方法に比べて、地下水源を枯渇させず、経済的である等で有利である旨教示されるものである。なお、同様な技術は引用例2にも記載されている。
このように、地下水を処理する場合において、地下水源を枯渇させず、経済的である等で有利な方法として、帯水層中の地下水を原位置で処理することが公知となっている。
してみれば、引用例8発明において、地下水に含まれるトリクロロエチレンを処理する場合において、上記公知事実に基づいて、その地下水として、帯水層中の地下水を選択して、本件発明1のようにすることは当業者が困難なく適宜実施し得るものである。
【相違点bについて】
上記相違点aの検討の箇所に記載したとおり、引用例8発明は、その処理方法を実用化する場合の各種条件については公知ないしは周知技術に委ねられているものであるところ、帯水層中の地下水を原位置で処理する引用例1´の発明が、地下水源を枯渇させず、経済的である等で有利な方法として、公知となっている。
してみれば、引用例8発明で帯水層中の地下水を処理する場合において、その電解鉄粉の層の配置方法として引用例1´の配置方法を選択して、「電解鉄粉の層を、帯水層におけるトリクロロエチレン(以下、適宜、「ハロゲン化炭化水素」と略称することもある)を含有する地下水の流路に設置し、該帯水層中の地下水を、その電解鉄粉の層を通過させる」ようにすることは、当業者であれば、困難なく適宜なし得るものである。
この場合、上記「電解鉄粉の層」、「電解鉄粉の層の電解鉄」はそれぞれ本件発明1の「金属体」及び「金属」にそれぞれ相当し、更に、上記の「電解鉄粉の層」は電解鉄粉というように本質的に錆を有するものではなく、本件発明1でいう「金属体の酸素欠如部分」に相当するということができる。
そして、引用例8発明に対して、引用例1´の発明を上記のとおり適用したときには、その発明は、本件発明1の分説b-1)?h)の構成を自ずと具備することになり、また、その構成を具備するようにすることは当業者が適宜なし得るものである。
本件発明1の分説のb-1)、b-2)及びc)について
電解鉄粉の層(ないしは、その鉄)は、粒状体、切断片、繊維状物等の形態を有し、また、その層は透水性である。したがって、引用例8発明において、その電解鉄粉からなる層を、引用例1´の発明に従い、帯水層中の地下水の流路に設置した場合には、その発明は、本件発明1と同じように、「該帯水層中の地下水の流れが通過するのに充分である形を有する金属体であって粒状体、切断片、繊維状物等の形態の該金属体を、該地下水の流れの流路に与え」るとの構成を自ずと具備することになるものである。
本件発明1の分説のd)について
引用例1´の発明においては、その処理媒体の層は、前記摘示(A-1)の「処理媒体を含有する遮蔽トレンチを地中に構築する」等の記載からみて明らかなように、地盤の掘削を経て地中(帯水層)に配置されるものであって、その掘削に伴い掘削残土が生ずるものであるが、処理媒体の層の配置後にはその処理媒体の表面は、残土処理の問題、掘りっぱなしによる危険、帯水層を含む地下の環境破壊、等を回避する観点から、通常、埋め戻されるものである。
そうすると、引用例8の発明において、その電解鉄粉の層を、引用例1´の発明に従って設置した場合においても、電解鉄粉の層の表面部は、掘削残土により埋め戻され、これにより、電解鉄粉と大気との接触が実質的に完全に断たれるということができる。
したがって、引用例8の発明において、その電解鉄粉の層を、引用例1´の発明に従って設置した場合には、その発明は、本件発明1と同じように、「該金属体の酸素欠如部分が大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐようなやり方で金属体を覆い」という構成を自ずと具備することになる。
また、当該分説d)の構成は、以下の点から、当業者が容易に導き出すことができる。
この種のハロゲン化炭化水素の分解反応においては、金属鉄(すなわち、無酸化鉄)が水中でイオン化することに伴いその反応が進行することは周知の事項〔必要ならば、引用例3の前記(C-5)及び(C-7)、引用例4の前記(D-6)及び(D-8)、引用例8の前記(H-3)の「鉄粉表面をおおっている酸化膜の除去をかねて0.1N塩酸で処理した」、引用例8の(H-4)等を参照〕であるところ、鉄は、大気中の酸素と接触すれば酸化され易く、そのような酸化が生ずれば、上記イオン化が困難となり、それだけその反応が抑制されることは自明なことである。
他方、鉄による水中のハロゲン化炭化水素の分解(無害化)反応は、水の還元性が高い場合はその反応が促進されることは周知の事項〔必要ならば、引用例3の(C-6)、引用例4の(D-7)及び引用例9の(J-5)等を参照〕となっていること、且つ、引用例1の前記摘示(A-2)によれば、たいていの地下水処理においては還元性と示され、大気が存在する地上の水とは異なり、地下水の水の還元性は高いものであることからみると、鉄により地下水中でハロゲン化炭化水素を分解(分解反応)させようとする場合には、その地下水の還元性が損なわれないようにしなければならないことは、至極、当然のことである。
したがって、引用例8発明において、引用例1´の発明を上記のとおり適用したときには、当該ハロゲン化炭化水素の分解反応を高める観点から、鉄粒子の酸化を防止し、且つ、汚染地下水の存在する領域の還元性が損なわれないようにするために、地盤を掘削して配置された鉄粒子の層の表面部を、掘削残土等により、被覆して、汚染地下水と鉄粒子の層とを大気から隔離しようとすることは、当業者であれば、直ちに、想到できるものであり、これにより、鉄粒子と大気との接触が実質的に完全に断たれるので、本件発明1の分説d)の構成を、より一層、確実に、具備することになる。
なお、当該構成は、埋め戻しで実現されるので、前記分説c)における鉄粉粒子の層を地下水の流れに与えた後の工程であることはいうまでもない。
本件発明1の分説のe)について
電解鉄粉の層は、帯水層中のトリクロロエチレンを含有する地下水の流れが存在する箇所に設置されるものであって、その層は透水性である。したがって、引用例8の発明において、その電解鉄粉の層を引用例1´の発明に従い設置した場合は、その発明は、本件発明1と同じように、「前記の汚染されている帯水層中の地下水の流れを、元の帯水層から金属体の中へ、次いで該金属体を通過するように導き」という構成を自ずと具備することになる。
本件発明1の分説のf)について
上記d)で記載したとおり、地盤を掘削して電解鉄粉の層を設置する場合には掘削残土が生ずるが、残土の処理の負担、掘りっぱなしによる危険、帯水層を含む地下の環境破壊、等を回避するために、電解鉄粉の層の表面部は、通常は、掘削残土により埋め戻されるものであり、そして、この埋め戻しにより、通常は、地下水は大気との接触が完全に断たれるものである。したがって、引用例8発明において、電解鉄粉の層を引用例1´の発明に従い地盤を掘削して設置した場合は、その発明は、本件発明1と同じように、「前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に、該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き」という構成を具備することになる。
また、以下の点から分説f)の構成は当業者が容易に導き出すことができる。
上記d)で記載したとおり、ハロゲン化炭化水素の分解反応は水の還元性が高い場合はその反応が促進されることは周知の事項〔必要ならば、引用例3の(C-6)、引用例4の(D-7)及び引用例9の(J-5)等を参照〕となっており、したがって、引用例8の発明において、その電解鉄粉の層を引用例1´の発明に従い設置し、且つ、上記構成a、b-1?dの構成を具備した場合においては、地下水中の当該分解反応が促進されるように地下水の還元性が損なわれないようにしなければならないことは、至極、当然のことである。そうであれば、ハロゲン化炭化水素の分解反応を高める観点から、帯水層から金属体の中に導かれる地下水につき、それが、酸素欠如部分を含む金属体に入る前に、大気中の酸素と実質上接触しないようにすることは当業者であれば当然のこととして実施するものである。そうであれば、引用例8発明において、その電解鉄粉の層を引用例1´の発明に従い設置し、且つ、上記構成a、b-1?dの構成を具備した場合において、本件発明1の構成「前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に、該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き」を具備するようにすることは当業者であれば当然のこととして実施するものであり、何等の困難性も伴わない。
そうすると、当該分説f)の構成は、引用例8発明において、その電解鉄粉の層を引用例1´の発明に従い設置し、且つ、上記構成a、b-1?dの構成を具備した場合においては、本件発明1の分説f)の構成を自ずと具備するものであり、また、この分野の周知技術を参照すれば、分説f)の構成を具備するようにすることは当業者が適宜なし得るものである。
本件発明1の分説のg)について
電解鉄粉の層は透水性であり、そして、地下水の流速は通常1m/日以下〔引用例1の前記(A-8)、引用例2の前記(B-5)等を参照〕とその流速は極めて低いものであるので、電解鉄粉の層を帯水層中の地下水の流れが存在する場所に設置した場合には、地下水は、金属鉄粉の層に浸透し、一定の時間、金属鉄粉の層の金属鉄粉と接触することになる。
したがって、引用例8発明において、引用例8発明において、その電解鉄粉の層を引用例1´の発明に従い設置し、且つ、上記構成a、b-1?fの構成を具備した場合においては、その発明は、本件発明1と同じように、「前記地下水が、前記金属体の酸素欠如部分を通過して浸透するようにし、一定の時間、その中の金属と接触するように保持する」という構成を具備することになる。
本件発明1の分説のh)について
引用例8発明において、その電解鉄粉の層を引用例1´の発明に従い設置した場合においては、上記するとおり、本件発明1の分説b-1?gで規定する諸工程を具備するものであり、ないしは、その諸工程を具備するようにすることは当業者が適宜なし得るものである。
かつ、その場合の金属は鉄であることは明白なことである。

以上のとおり、引用例8発明においては、その金属鉄粉の層を引用例1´の発明に従い設置した場合においては、その発明は自ずと本件相違点bに関する構成を具備することになり、また、当該構成を具備するようにすることは当業者が容易に導き出せるものである。
なお、引用例8発明において、上記相違点a及びbに係る構成を具備するようにすることにより格別予想し難い効果を奏したものであるということはできない。
よって、本件発明1は、引用例8、1、3?6及び9に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-3-1-2.本件発明2
本件発明2は、本件発明1の構成に、「一定の時間は、地下水の酸化還元電位が-100mV以下になるのに充分長い、」との構成を付加するものである。
引用例3の前記摘示(C-4)、(C-5)と(C-7)及び引用例4の前記摘示(D-4)、(D-6)と(D-8)によれば、金属鉄によるハロゲン化炭化水素の除去(無害化)は、原水中において鉄粉がハロゲン化炭化水素と反応することにより実行されるものであるが、引用例3の前記摘示(C-6)及び引用例4の(D-7)で示されるように、その原水の酸化還元電位が-190mV以下ないしは-300mV以下に下がらなければ、即ち、少なくとも-100mV以下に下がらなければその反応が促進されないものである。
そして、引用例4の前記摘示(D-5)及び引用例9の前記摘示(J-5)によれば、鉄粉によるハロゲン化炭化水素の除去は、原水中に酸素が溶存又は溶解している場合には、金属鉄によってその水の酸化還元電位を低下させるのに長い時間を要するとされるものである。
以上のことは、いずれも、周知である。
してみれば、引用例8発明から本件発明1の構成を導き出した場合においては、その発明では、水中に酸素が溶存又は溶解している場合の反応を促進させるために、ハロゲン化炭化水素を含有する地下水を、地下水の酸化還元電位が-100mV以下(-190mV以下ないしは-300mV以下を含む)になるのに充分長い時間、電解鉄粉の層の電解鉄粉(ないしは電解鉄)と接触させて、本件発明2の上記構成を具備するようにすることは当業者が当然のこととして実施し得ることであり、そのことに何らの困難性もない。
なお、そのことにより格別予想し難い効果を奏したものであるということができない。
また、次のことからみても、本件発明2は当業者の容易に発明することができるものである。即ち、上記したとおり処理水の酸化還元電位が-190mV以下に低減しなければハロゲン化炭化水素の分解反応が促進されないものであるところ、引用例9の前記摘示(J-6)及びその図-5の記載によれば、酸化還元電位の低減化には金属鉄と処理水とが所定時間にわたり接触する必要があることが示されるものであり、そうであれば、引用例8発明から本件発明1を導き出した場合においては、その発明では、その反応を促進するために、ハロゲン化炭化水素を含有する地下水の酸化還元電位が-190mV以下となるように電解鉄粉と地下水とを充分長い時間接触させて本件発明2の上記構成を具備するようにすることは当業者が当然のこととして実施し得るものである。
したがって、本件発明2は、引用例8、1、3?6及び9に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-3-1-3.本件発明3
本件発明3は、本件発明1の構成に、「汚染された地下水の流路の帯水層中にトレンチを掘り、次いで、前記トレンチ中に金属体を設置する諸工程を更に含み、しかも、前記トレンチの大きさ及び配置、並びに前記金属体の酸素欠如部分の大きさ及び配置は、汚染された地下水が酸素欠如部分を通って通過するように設定される」との構成を付加するものである。
引用例1´の発明においては、前記摘示(A-1)の「処理媒体を含有する遮蔽トレンチを地中に構築する」等の記載からみて明らかなように、トレンチ方式を採用するものであるので、トレンチを掘削して、そこに、処理媒体を設置するものである。
そうであれば、『引用例8の発明で帯水層中の地下水を用いるときに、その電解鉄粉の層の配置方法として引用例1´の発明の配置方法を採択して本件発明1の構成を導き出した場合』においては、その発明では、本件発明3のように「汚染された地下水の流路の帯水層中にトレンチを掘り、次いで、前記トレンチ中に金属体を設置する諸工程を含む」との構成を保有するものである。
また、前記VI-3-1-1.相違点bのg)で説示したとおり「汚染された地下水が酸素欠如部分を通って通過する」との構成も保有するものである。
この場合、電解鉄粉の層(金属体の酸素欠如部分)はハロゲン化炭化水素を取り除く機能を有し、汚染された地下水がその電解鉄粉を通過することによってはじめてそのハロゲン化炭化水素が取り除かれるものであり、このことは明白なことである。
してみれば、ハロゲン化炭化水素を取り除く観点から、電解鉄粉の層(金属体の酸素欠如部分)の大きさ及び配置は、汚染された地下水が電解鉄粉の層(酸素欠如部分)を通過するように設計しなければならないことは当然のことであり、また、その金属体の酸素欠如部分を収容する溝であるトレンチは、電解鉄粉の層(金属体の酸素欠如部分)と同様に、汚染された地下水が電解鉄粉の層(酸素欠如部分)を通って通過するように設計すべきものである。
そうすると、引用例8発明から本件発明1の構成を導き出した場合においては、その発明では、本件発明3の構成を具備するようにすることに何らの困難も伴わない。
なお、そのことにより格別予想し難い効果を奏したものであるということができない。
したがって、本件発明3は、引用例8、1、3?6及び9に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-3-1-4.本件発明4
本件発明4は、本件発明3の構成に、「水汲み上げ井戸に入り込む実質的に全ての水が金属体の酸素欠如部分を通過し、一定の滞留時間の間、該酸素欠如部分内部に滞留するように、トレンチを設け、トレンチと前記酸素欠如部分との大きさを決定する工程を更に有する」との構成を付加するものである。
汚染地下水の流れが存在すれば、その地下水が近隣に存在する水汲み上げ井戸に入り込む虞があることは、周知の事項である。
そして、引用例1´の発明は、その前記摘示(A-7)と(A-8)及び図1と図2の記載からみて明らかなように、特定地域の汚染を防止することを目的とするものである。
してみれば、『引用例8発明で帯水層中の地下水を用いるときに、その電解鉄粉の層の配置方法として引用例1´の発明の配置方法を採択して本件発明3の構成を導き出した場合』においては、その発明では、汚染を防止する地域として、水汲み上げ井戸の地域を選定し、そして、その防止措置を完全なものとするために、水汲み上げ井戸に入り込む実質的に全ての水を、処理体である電解鉄粉の層(金属体の酸素欠如部分)を通過するようにすることは当業者であれば直ちに想到できるものであり、その際、VI-3-1-2.で説示したことからみると、水が電解鉄粉の層(金属体の酸素欠如部分)と、長い時間、接触すれば、そこでの汚染物質(ハロゲン化炭化水素)の除去が促進するものであることから、「水が、一定の滞留時間の間、該酸素欠如部分内部に滞留するように、トレンチを設け、トレンチと前記酸素欠如部分との大きさを決定する工程」を付加することは当業者が困難なく適宜実施できることに過ぎない。
なお、そのことにより格別予想し難い効果を奏したものであるということができない。
したがって、本件発明4は、引用例8、1、3?6及び9に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-3-1-5.本件発明5
本件発明5は、本件発明1の構成に、「汚染された地下水の流路の帯水層中に一連の複数のボアホールを設け、次いで、該複数のボアホールの中に金属を注入する諸工程を更に含み、しかも、該複数のボアホールの間隔、及び注入される金属の量は、その注入された金属が充分に帯水層を貫通し、金属体(金属体本体)及びその酸素欠如部分を形成するように決定する」との構成を付加するものである。
引用例8発明から本件発明1の構成を導き出した場合においては、その電解鉄粉の層は地盤の中に設置されるものである。
そして、地盤中に材料層を配置する工法として、地盤を掘削して所定間隔に垂直孔を形成し、その孔に、材料を噴射して材料層を形成することは、本件出願前周知・慣用の事項〔必要ならば、引用例7の前記摘示(G-1)、特公昭50-27281号公報の第2欄第11?26行、等を参照されたい〕となっている。
してみれば、引用例8発明から本件発明1の構成を具備した場合においては、その発明では、電解鉄粉の層を地盤の中に設置するとき、上記の周知な工法に従い、材料として電解鉄粉(金属)を用いることにより、「汚染された地下水の流路の帯水層中に一連の複数のボアホールを設け、次いで、該複数のボアホールの中に金属を注入する諸工程」を実施することは当業者の適宜実施できるものである。
この場合、注入された電解鉄粉はハロゲン化炭化水素を取り除く役割を担うものである以上、ハロゲン化炭化水素を取り除く観点から、帯水層を充分に貫通して電解鉄粉(金属)を設ける必要があり、したがって、垂直孔の形成及び電解鉄粉の注入に際して、「複数のボアホールの間隔、及び注入される金属の量は、その注入された金属が充分に帯水層を貫通し、金属体(金属体本体)及びその酸素欠如部分を形成するように決定」しなければならないことはいうまでもない。
なお、そのことにより格別予想し難い効果を奏したものであるということができない。
したがって、本件発明5は、引用例8、1、3?7及び9に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI-3-1-6.無効理由4についての結論
本件発明1?5は、本件出願前に頒布された刊行物に該当する引用例8、1、3?7及び9、及び、周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

VI-3-2.無効理由3について
ここでの、請求人bの主張を要約すると、以下に示すとおりとなる。
なお、これ以外のその他の主張は、口頭審理及び平成17年2月18日付け上申書において取り下げられている。
(イ)本件請求項1?5において、「金属」及び「金属体」の2つの用語が使用されているが、両者の関係が不明瞭である。
(ロ)本件請求項1?5の記載からみて、金属体は1個の金属を指すように解釈されるが、その場合、本件請求項1における「該地下水の流れが通過するのに充分である形」との構成が実現できない。
(ハ)本件請求項1?5には、「金属体」の用語が記載されているが、発明の詳細な説明の項では金属体なる用語が一切使用されておらず、かつ発明の詳細な説明の項における金属体に関する用語が不統一であり、本件請求項1?5における「金属体」なる用語は不明瞭である。
(ニ)本件請求項3における「金属体」なる用語が不明瞭であるため、金属体の酸素欠如部分も明確でない。
(ホ)本件請求項5における金属体本体が特定できず、さらに、金属体本体の酸素欠如部分の指すところが明確でない。
以下に検討する。
上記(イ)、(ハ)及び(ニ)について
VI-2-3.の上記(1)についての箇所で記載したように、本件請求項1?5における金属体とは、その記載どおり、その材質が金属であって、かたちがあるものを指すと認められれ、金属とは、その記載どおり、その材質が金属であるものを指すと認めら、また、金属体の酸素欠乏部分とは、金属体の錆のない部分を指すと認められる。そして、そのように解釈することで、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の項における記載との間で齟齬をきたすものでもない。
そうであれば、本件訂正明細書において、「金属」、「金属体」及び「金属体の酸素欠如部分」が定義されないとしても、そのことから、本件請求項1?5における、金属体、金属体及び金属体の酸素欠如部分、並びに、相互の関係が不明瞭であるとまでいうことはできない。
上記(ロ)について
本件請求項1において「粒状体、切断片、繊維状物等の形態の金属体」と記載されるように、本件請求項1及びそれを引用する請求項2?5の発明における金属体が、微細片の集合体であることが示される。
そうであれば、金属体が、「該地下水の流れが通過するのに充分である形」であるとの構成は、集合体であることにより、また、他に流れを妨げるものが存在しないことにより、直ちに実現できるものである。
したがって、以上の点で、本件請求項1?5における金属体が不明瞭であるないしは金属体に係る構成を容易に実施することができないとまでいうことはできない。
上記(ホ)について
請求項5の記載によれば、金属体本体は、ボアホール中に金属を注入することにより形成されるものであるから金属からなるものであり、また、それは帯水層を貫通して形成されるというのであるから、全体として、帯水層を貫通する程度の大きな構造を有するものである。
また、酸素欠如部分についてはVI-2-3.の上記(1)についての箇所で記載したとおりであり、金属体本体の酸素欠如部分とは金属体本体の錆を有さない部分のことをいうものである。
そうであれば、金属体本体及び金属体本体の酸素欠如部分が特定できない、又は、明確でないとまでいうことができない。
以上のとおりであり、上記(イ)?(ホ)についての請求人の主張は、合理的でなく採用することができず、したがって、このような誤った主張に基づいてなされる、本件発明1、5及び本件発明1を引用する本件発明2?4が特許法第36条3項及び第4項(第3号を除く)に規定する要件を満たしていないとの請求人Bの主張を採用することができない。
よって、本件発明1?5の特許は、特許法第36条3項及び第4項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない発明に対してなされたものであるということはできない。

VI-4.被請求人の主張についての検討(無効理由2及び4)
(1)被請求人は、「(i)引用例8では、被処理水に硫酸ナトリウムなどの電解質を添加して電気伝導率を高め、酸素還元反応を促進させることを前提としており、(ii)引用例9では、亜硫酸ナトリウムなどを予め水中に添加することにより、水中に存在する硝酸イオンや溶存酸素などの酸化性物質を予め除去してから使用することを前提としているから、そのような前処理を必要とする引用例8及び9の技術を使用して帯水層中の地下水を、その場処理、することは実用的でも実現可能でもない」旨(被請求人の口頭審理陳述要領書第19頁第8?15行)主張するので、以下に検討する。
引用例8及び9に記載される技術は、共に、鉄により有機塩素化合物(ハロゲン化有機汚染物質)の除去に関するものであって、そこで扱う反応メカニズムは同じものである。また、引用例3?5に記載される技術も上記反応メカニズムに基づくものであって、水中で鉄により有機塩素化合物を分解する点で引用例8及び9に記載される技術と同じものである。
(i)について
試供水中の有機塩素化合物を金属鉄の作用により分解するときには、硫酸ナトリウム等の電解質が添加されているが、引用例9の前記摘示(J-5)及び(J-8)によれば、それは、有機塩素化合物の分解反応を促進するために用いるものであって、当該分解において、必ずしもそのような電解質を添加しなければ反応が進まないものではない。
そして、有機塩素化合物を分解する引用例8に記載される技術を地上で実施する場合はともかく、その技術を用いて流速の極めて小さい帯水層中の地下水を処理しようとする場合には(少なくとも、引用例1及び2における地下水の流速が極めて小さい)、地下水の流速が極めて遅いことから有機塩素化合物と鉄とが長時間に亘って接触(反応)し、有機塩素化合物は最終的には、充分、分解されることになるものであり、このことは、当業者にとって自明なことである。
そもそも、引用例8においては、前記(H-3)によれば〔更に必要ならば、引用例9の前記(J-8)を参照〕、試供水として水から電解質成分を意図的に除去したイオン交換水を用いたことから、そこに、電解質成分を添加しただけのものであり、一方、通常の帯水層中の地下水では、電解質成分を所定量含むことは周知の事項(例えば鉱水)であり、これにより、当該地下水に硫酸ナトリウム等の電解質を、別途、添加しなくとも鉄と有機塩素化合物との反応が促進されるものであり、このことは明白なことである。
そうすると、引用例8に記載される技術において、硫酸ナトリウムなどの電解質を添加することが、その技術を、引用例1又は2に記載されるようなその場処理技術に適用するときの障害とはならない。
(ii)について
引用例9に記載の技術において、水中の有機塩素化合物を金属鉄の作用により分解するときに、亜硫酸ナトリウム等の還元性物質を添加するのは、引用例9の前記摘示(J-9)、引用例3の前記摘示(C-6)及び引用例4の前記摘示(D-5)によれば、水中に存在する溶存酸素、硝酸イオンなどの酸化性物質を予め除去することにより、分解反応を促進するためである。
しかし、当該分解反応においては、引用例9の前記摘示(J-5)、(J-6)及び前記(D-5)によれば、水中に含有される溶存酸素を予め除去しなくとも、すなわち、亜硫酸ナトリウムなどを予め添加しなくとも、鉄の存在により時間と共に水の酸化還元電位が低下し、鉄による有機塩素化合物の分解反応が進展するものであり、このことは周知なことである。
そして、有機塩素化合物を分解する引用例9に記載される技術を地上で実施する場合はともかく、その技術を用いて流速の極めて小さい帯水層中の地下水を処理しようとする場合には(少なくとも、引用例1及び2における地下水の流速が極めて小さい)、地下水の流速が極めて遅いことから、地下水と鉄とが長時間に亘り接触するので、それだけ水の酸化還元電位が低下し、有機塩素化合物の分解反応は最終的には、充分、促進されることになるものである。また、酸化成分である硝酸イオンが水中に含まれている場合も、同様な理由により、その有機塩素化合物の分解反応は充分促進される(なお、硝酸イオンについては本件明細書で触れられるところはない)。
このように、引用例9に記載の技術では、水中に存在する溶存酸素などの酸化性物質を予め除去しているとしても、その技術をその場処理に適用する場合の障害とはならないことは、当業者にとって自明のことである。
そもそも、帯水層中の地下水は、還元状態にあることは周知の事項(必要ならば、「化学大辞典5縮刷版」昭和54年11月10日、共立出版株式会社、第849右欄第22行?第850頁左欄第24行の「地下水」の項、等を参照)であり、そして、地下水がそのように還元状態であるので、通常は、溶存酸素などの酸化性物質をほとんど含有しないものである。そして、上記したとおり引用例9に記載の技術は、水中に存在する溶存酸素、硝酸イオンなどの酸化性物質を予め除去するために、亜硫酸ナトリウム等の還元性物質を添加するものである。そうであれば、引用例9に記載の技術を、その地下水が還元状態であるその場処理技術に適用するときには、亜硫酸ナトリウム等の還元性物質を地下水に添加することを要しないものであり、このことは、当業者にとって自明なことである。
そうすると、引用例9に記載される技術において、亜硫酸ナトリウム等の還元性物質を添加することが、その技術を、引用例1又は2に記載されるようなその場処理技術に適用するときの障害とはならない。
(2)被請求人は、「引用例8では、反応の進行につれて、鉄の酸化物が充填層下部に固着・塊状化する傾向があり、定期的に金属層を流動させ、気泡を除去して金属鉄層の混合、分散を行うことを前提とするのであり、そのような技術を使用して帯水層中の地下水をその場処理することは、実現可能でない」旨(被請求人の口頭審理陳述要領書第19頁第16?23行)主張するので、以下に検討する。
引用例8に記載される上記固着・塊状化は、その前記摘示(H-3)によれば、「溶存酸素により酸化された鉄の酸化物の生成により」発生するものであって、これは、地上において空気中の酸素が水に溶存することにより生ずるものである。
一方、帯水層中の地下水は、還元状態にあることは周知の事項であり、そして、地下水がそのように還元状態であるので、通常は、溶存酸素などの酸化性物質をほとんど含有しないものである。
そうであれば、引用例8に記載の技術を、引用例1又は2に記載されるような、その場処理技術に適用しようとするときには、その帯水層の地下水では溶存酸素などの酸化性物質がほとんど含有されないのであるから、当該固着・塊状化は、発生しないことになり、このことは、当業者にとって自明なことである。
また、層内に付着している気泡は、特段、有機塩素化合物の分解反応を阻害するものではない。
そうすると、引用例8における技術では固着・塊状化及び気泡が生じ、金属鉄層の混合、分散を行わなければならないとしても、その技術を、その場処理に適用しようとするときの障害とはならない。
なお、この種の鉄による有機塩素化合物の分解反応は、反応条件が還元性であればそれで足りるものであって、それ以上の精密な反応制御を要しないものであり、充填層下部に固着・塊状化が生じた場合であっても、また気泡が生じた場合であっても、その充填層が透過性を失わない限り、当該分解反応を継続、遂行できるものである。
(3)被請求人は、「引用例5の技術は、汚染水のpHを所定の値に調整した後に、はじめて、金属鉄などで処理するものであり、このような煩雑な前処理を必要とする技術は、汚染物質のその場処理には適用できない」旨(被請求人の口頭審理陳述要領書第24頁第26?31行)主張するので、以下に検討する。
引用例5に記載の技術は、その前記摘示(E-7)によれば、pH6以上でハロゲン化炭化水素を分解するものである。このように、この種の鉄による有機塩素化合物の分解反応は、pH値が中性域を含む幅広い領域で実施されることは、引用例3の前記摘示(C-1)、引用例4の前記摘示(D-1)等で示されるように周知なものである。
そして、帯水層中の地下水は、特別の場合を除き、そのpHが中性域ないしは弱アリカリ域の領域に含まれるもの(必要ならば、被請求人の提出した参考資料1の表4、同参考資料の表1、等を参照)である。
そうであれば、引用例5に記載の技術を引用例1又は2に記載されるような、その場処理技術に適用しようとするとき、その地下水のpHについての調整は必要がないものであり、このことは、当業者にとっては自明なことである。
したがって、引用例5に記載される技術は必要に応じてpH値の調整の前処理を伴うとしても、その技術をその場処理技術に適用するときの障害とはならない。
(4)被請求人は、その口頭審理陳述要領書において、「引用例8では、通水後ほんの2ヶ月経過しただけで、汚染物質の除去効率が40%以下に低下してしまう(第23頁左欄末行?右欄下から第2行)のであるから、引用例8に記載される技術を使用して帯水層中の地下水のその他処理することは、実現可能でない」旨(被請求人の口頭審理陳述要領書第24?30行)記載し、このことから、被請求人の提出した参考資料4の地下水を処理した数値に比べ、引用例8に記載の処理においては、トリクロロエチレンの残存率が40%以下であって高い反応率ではなく、また、効果の持続性がないので、引用例8に記載される技術を使用して帯水層中の地下水のその他処理することは、実現可能でないことを主張しているものと認められるのでこの点につき以下に検討する。
(反応率について)
引用例8に記載される技術は、前記摘示(H-3)、(C-5)、(D-6)及び(J-7)で示されるように、その主反応は、水中の有機塩素化合物を金属鉄を用いて還元し、有機塩素化合物から塩素をイオンとして遊離させることにより、水から有機塩素化合物を除去するものである。
〔いうまでもなく、本件発明1?5に係る発明も、本件明細書第2頁第18?26行及び被請求人の提出した参考資料1第100頁第10?24行(翻訳文第4頁第22行?第5頁第5行)に示されるように、水中のハロゲン化有機汚染物質を金属(鉄)を用いて還元し、ハロゲン化有機汚染物質からハロゲンをイオンとして遊離させるという主反応により、水からハロゲン化有機汚染物質を除去するものであって、その反応方法は、引用例8に記載される技術のものと同一である〕
この場合、引用例8に記載の技術は、水中の有機塩素化合物を金属鉄を用いて反応(還元)させるのであるから、有機塩素化合物を含む水と金属鉄との接触時間が長ければ、それだけ、有機塩素化合物の反応率(除去率)は高くなるものであり、このことは化学常識に照らし、自明のことである。
そして、帯水層中の地下水は、通常、その流速は1m/日以下であり、このことは周知のこと(少なくとも、引用例1及び2における地下水の流速が極めて小さい)であり、その流速は、引用例8に記載の技術のものに比べ、極めて遅いものである。
そうすると、引用例8に記載の技術を、引用例1又は2に記載される如き帯水層中の地下水に適用すれば、その地下水の流速が極めて遅いことから、当該地下水と鉄とが長時間に亘り接触することになり、これにより、有機塩素化合物の分解が進み、その結果、除去率が増大するに至ることは自明のことである。
また、引用例8に記載される技術における上記反応においては、引用例9の前記摘示(J-5)と(J-6)及び引用例4の前記摘示(D-5)と(D-7)と図-5の記載によれば、水の酸化還元電位が低いとき、すなわち、水の還元状態が高いときには、その反応速度が促進され、また、その場合、鉄は水の酸化還元電位を下げ、すなわち、その還元状態を高めるものである。一方、帯水層の地下水は、酸化性の雰囲気にある地上の水と異なり、還元状態(必要ならば、「化学大辞典5」昭和54年11月10日、共立出版株式会社、第849右欄第22行?第850頁左欄第24行の「地下水」の項、等を参照)である。してみれば、引用例8に記載される技術を、地上の水に替えて、還元状態の地下水に適用すれば、それだけ、鉄による水の酸化還元電位の低下を進めることができるものであり、これにより、分解反応が促進され、その結果、有機塩素化合物の除去率が増大するに至るものであり、このことは、当業者にとって自明のことである。
更に、引用例8に記載される技術においては、金属鉄により水中の有機塩素化合物を還元するものであるが、原水として地上の水を用いた場合には、前記摘示(H-3)によれば、溶存酸素により鉄に酸化物が生ずるものである。この場合、金属鉄に対して酸化物が生成すれば、金属鉄と水との接触面積が減少するから、それだけ、当該還元反応は抑制されることは当然のことである。そうであれば、引用例8に記載される技術において、その金属鉄に対する水を、地上のものから帯水層中の還元状態の地下水に置き換えた場合には、地下水には溶存酸素が殆ど存在しないのであるから上記酸化物の生成が抑制され、したがって、反応を継続しても、当該有機塩素化合物の還元反応率が高度に維持されることになり、このことは当業者にとって自明のことである。
このように、引用例8に記載の処理においては、通水後2ヶ月後のトリクロロエチレンの除去率が40%程度を示すとしても、この処理技術を、引用例1又は2に記載される如き帯水層中の地下水に適用すれば、有機塩素化合物を含む水と金属鉄との接触時間が長くなって分解反応が進み、また、水の酸化還元電位の低下を進めることができるものであり、更に、金属鉄に対する酸化物の生成を抑制できるので、その反応率が大きく増大するものであり、このことは、当業者にとって自明なことである。
(持続性について)
被請求人の指摘する引用例8の第24頁右上段に掲載される図-5では、通水開始から2ヶ月後における試供水からのトリクロロエチレンの除去率が略40%であることが示され、このことから、鉄を用いて水中の有機塩素化合物を除去する引用例8に記載の技術は、地上においても、長期に亘って有効な除去率を示す持続処理可能な処理方法であるということができる。
また、ここまで述べてきたとおり、帯水層中の地下水の流速は極めて遅いものであり、しかも、地下水に含まれる有機塩素化合物の濃度も、通常、極めて低い(例えば、ppmないしはppbの濃度)ものである。そうすると、引用例8に記載の技術を引用例1又は2に記載される如き帯水層中の地下水に適用した場合において、その金属鉄による処理が長期に及んだとしても、その間に、その金属鉄が処理する有機塩素化合物の処理量は、極く僅かなものに過ぎないものである。
更に、引用例8に記載の技術をそのような帯水層中の地下水に適用した場合においては、その地下水は還元状態であることから、鉄の腐食も極く限られたものとなる(必要ならば、参考資料9の第92頁第13?14行目に記載される脱気水における鉄の腐食速度を参照)。
以上のことは、当業者にとって自明なことである。
そうすると、引用例8に記載の技術をそのような帯水層中の地下水に適用した場合においては、その有機塩素化合物の除去性能は、長期に亘って持続することは当業者であれば、直ちに予測できるものである。
更に、引用例8に記載の技術を、引用例1又は2に記載されるようなその場処理技術に適用するときは、上記したとおり反応率が大きく増大し、また、上記したとおりそれが長期に亘って持続することは、当業者であれば直ちに予測できるものである。
以上のとおりであり、仮に、被請求人の参考資料4に示すハロゲン化有機汚染物の除去率及び維持率の数値が本件発明1?5の効果を表すものであるとしても、そのことは、上記ことからして容易に予測できるものである。
また、この(4)においてここまで説示してきたことは、引用例3?5及び9に記載の技術についても当てはまるものである。
(5)被請求人は、「本件特許発明により、ハロゲン化有機汚染物質により汚染された帯水層中の地下水から、100%に近い量の該ハロゲン化有機汚染物質が現場で(その場で)除去され(すなわち、除去率が100%に近い)、しかもその効果は5年もの長期間にわたって持続する(すなわち、維持率も、ほぼ100%である)ことが確認されました。」〔平成18年1月23日の訂正請求書(平成17年10月31日付け訂正審判請求書援用)第29頁第12?16行〕と、本件明細書に記載の発明は顕著な効果を奏する旨主張するので、以下に検討する。
本件訂正明細書によれば、そこには、本件発明1?5に係るトレンチ方式(ボアホール方式を含む)によるハロゲン化有機汚染物質を取り除く方法と、貯水槽方式(第2図)によるハロゲン化有機汚染物質を取り除く方法との二方式が記載されており、このうち、少なくとも、トレンチ方式(すなわち、帯水層における現場方式)によりハロゲン化有機汚染物質を取り除く方法については、本件訂正明細書にその具体的実施条件が記載されないことはもとより、その発明の奏する効果についても、「安価に効率的である」(第2頁第16行)ことを除き、具体的に示されるものはない。
いうまでもなく、本件訂正明細書には、本件発明1?5におけるハロゲン化有機汚染物質の除去率及びその反応の持続期間については、具体的に示されるものは何もないことは基より、そこでの記載からはその傾向すら窺い知ることはできない。
むしろ、本件訂正明細書には「本発明では、前述のような高い還元状態のもとで鉄自体が徐々に水に溶解することが認められている。よって、ある一定期間の使用後、トレンチあるいは貯水槽の中に新規に鉄を充填する必要がある。」(第7頁第8?10行)と記載され、このように、トレンチ方式、すなわち、訂正後の本件請求項1?5の発明の方式のものにあっては、鉄を補充する必要があることからそこでの反応は長期間にわたって持続できないことが示され、上記主張とは逆の事項が教示される。
そうすると、訂正後の本件請求項1?5に係る発明につき被請求人の主張する上記作用効果は、本件出願後に別途実施された、更には、訂正明細書で明示されない実験条件により実施された実証試験(参考資料1及び2により1991年又は1995年から開始)を通じてはじめて見い出されたものであるという外はない。
したがって、当該効果は、本件訂正明細書の記載に基づく効果であるということはできず、訂正後の本件請求項1?5に係わる発明の進歩性の判断に際して、到底、採用できるものではない。
付言すれば、本件訂正明細書に記載される訂正後の本件請求項1?5に係る発明は、その第3図の記載事項及びこの分野の技術常識を基に、専ら思索を通じて構築されたに過ぎないとさえいえるものであり、更には、「ハロゲン化有機汚染物質により汚染された帯水層中の地下水から、100%に近い量の該ハロゲン化有機汚染物質が現場で(その場で)除去され(すなわち、除去率が100%に近い)、しかもその効果は5年もの長期間にわたって持続する(すなわち、維持率も、ほぼ100%である)」と主張される本件発明1?5は、本件出願後に実験を経てはじめて完成されたものであるとさえいうことができるものである。
なお、仮に、被請求人の主張する上記作用効果が本件訂正明細書の記載に基づく作用効果であるとしても、その作用効果は容易に予測できることは、上記(4)で記載したとおりである。
(6)被請求人は、『引用例8では、自ら、「この反応初期の活性を長期にわたり維持することが出来るなら、本法の実用化に道を開くことが出来るものと考えられる。」(25頁右欄2?5)と述べ、当時の技術レベルでは、反応初期の活性を長期にわたり維持することができず現場には実用化できないことを認めている。』(平成18年1月23日の訂正請求書第12頁第9?12行)と主張するので、以下に検討する。
引用例8の上記記載は、そこでの処理条件では反応初期の活性を長期にわたり維持することができないとするものであるが、引用例8に記載する技術、引用例1及び2に記載される帯水層での汚染水の処理技術、及び関連技術を知る当業者においては、本件出願前の技術レベルであっても、引用例8に記載の技術の有用性を充分に把握できるものである。
即ち、上記(4)で記載したことと一部重複するが、引用例8に記載される技術においては、金属鉄により水中の有機塩素化合物を還元するものであって、原水として通常の水を用いた場合には、前記摘示(H-3)の「充填槽方式による試験では,反応の進行につれて,溶存酸素により酸化された鉄の酸化物の生成により・・・固着し・・・」及び引用例9の前記摘示(J-5)の「一般に水中には酸素が数ppm溶解しているため酸化性の雰囲気にある。このよう存する酸素は金属鉄を酸化して・・・」によれば、溶存酸素により鉄に酸化物が生ずるものである。そのことは、引用例8の第23頁左下欄末行?右下欄下から第2行目における「金属鉄を塩酸で処理することにより、再活性化を図ることは可能である。」との記載とも符合する。
この場合、金属鉄に対して酸化物が生成すれば、少なくとも金属鉄と水との接触面積が減少することにより、それだけ、当該ハロゲン化炭化水素の還元反応は抑制されることは当然のことである。
そして、引用例8に記載の技術は、地下水中のハロゲン化炭化水素を分解することを意図するものであり、その地下水は、前記したとおり、通常、還元性であることが当業者にとって周知の事項となっている。
そうであれば、引用例8に記載される技術において、その金属鉄に対する水を、通常の(地上の)ものから帯水層中の還元状態の地下水に置き換えた場合には、更には、引用例8に記載される技術を引用例1及び2に記載される帯水層における現場処理技術に適用した場合には、地下水には溶存酸素が殆ど存在しないのであるから上記酸化物の生成が抑制され、したがって、反応を継続しても、当該ハロゲン化炭化水素の還元反応が高度に維持されることになり、このことは当業者にとって自明のこととして把握できるものである。
してみれば、引用例8には被請求人の主張する実用化できないとする記載があるとしても、引用例8に記載の発明及び当該技術分野の技術常識を知る当業者にとっては、その技術は例えば地下水に適用すれば充分実用可能であると認識することができるものである。
したがって、被請求人の上記主張は失当という外はない。
(7)被請求人は、[本件発明1の『金属体』は、『酸素欠如部分』を有する『金属体』であり、つまり、それは『酸素欠如部分』と酸素欠如部分でない部分(以下、単に「錆を有する部分」と略称する)との両部分から成る金属体である。](乙第2号証の3第17頁第20?22行)と主張する。
しかし、訂正後の本件請求項1?5には、金属体が酸素欠如部分と錆を有する部分とから構成されることが記載されるものではない。
そのうえ、本件訂正明細書中には、酸素欠如部分につき、定義がなされているものでもなく、また、本件訂正明細書の他の記載をみても、金属体中に上記錆を有する部分がなければ、発明を実施することができないとする理由を見い出すことができない。。
そうであれば、被請求人の上記主張は、明細書の記載に基づくものではなく、不合理という外はない。
(8)被請求人は、「本件発明1における当該構成の技術的意義はその「金属」が「鉄」である『金属体の酸素欠如部分』における「大気中の酸素」からの、「金属体」自体の『密閉』と更にその上部での『トレンチから掘り出された土等の安価な材料』とによる2重の遮断作用にある」(乙第2号証の3第28頁第10?13行)と、請求項1の分説dにつき主張するので以下に検討する。
まず、訂正後の本件請求項1?5の記載をみると、そこでの記載から、金属体自体の密閉と更にその上部でのトレンチから掘り出された土等の安価な材料とによる2重の遮断が、必ず、作用することが、導き出せるものではない。
また、本件訂正明細書の発明の詳細な項の記載をみても、そこには、「酸素との接触が完全にないように鉄はトレンチの中に充填されなければならない。従って、鉄は、トレンチの中に埋める必要がある。鉄が酸素に接した場合、腐食され、汚染物の分解の促進が効率的でなくなる。しかしながら、この酸素に接触した鉄は、いったん錆を生じるとその下部にある鉄に対する密閉作用を有する。これは鉄の酸素欠乏(anaerobic)部分と呼ばれる。しかし密閉作用に関していえば、トレンチから掘り出された土等の安価な材料を用いる方が鉄の場合好ましい。」(第5頁第1?7行)と記載されており、このように、金属体を「金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐことができるやり方で該金属体を覆い」(請求項1の分説d)とする場合には、トレンチ構築時に掘り出された土等の安価な材料を埋め戻す密閉方法を採択することが好ましいことが示されるとしても、金属体自体の密閉と更にその上部でのトレンチから掘り出された土等の安価な材料とによる2重の遮断が必ず作用すること、ないしは、当該2重の遮断作用を必ず用いなければならないとすることまで開示されるものではない。
そうであれば、被請求人の上記主張は、明細書の記載に基づくものではなく、不合理という外はない。

VII.まとめ
以上のとおり、本件請求項1?5に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
地下水中のハロゲン化汚染物質の除去方法
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、溶剤あるいは殺虫剤などの塩素化あるいはハロゲン化有機物質によって汚染された帯水層を流れる地下水を浄化する方法に関する。
本発明は、地下水帯水層中に存在する地下水に関する。ここで帯水層とは広義の意味での、地中にある砂、石、砕石等からなる保水している地質学的構造を意味し、単に水を供給する構造だけに限定していない。
地下水中の、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、PCB、クロロホルム等の工業溶剤は、非常に有害かつ発ガン性がある。飲料水においては、これらの汚染物質は極めて微量、ppbの測定レベルの範囲で許容されている。
背景技術
塩素系溶剤によって汚染された地下水を浄化する従来の方法では通常、汚染物質の分解を行っておらず、単に汚染物質を地下水中から除去するのみである。例えば、水中の汚染物質が活性炭に吸着されることが知られている。これは水を浄化するのに効果的であるが汚染物質は活性炭に吸着された状態で残留する。よって、新たな廃棄物問題を生起する。
通常、汚染物質は揮発性なのでエアーストリッピング(air-stripping)によっても取り除くことが出来る。地下水に空気を送り込めば、地下水は浄化されるものの、汚染物質は依然として存在するという問題が残る。また、汚染された空気を処理せず大気中に放出することは、現在では許容され難く、例えば、活性炭に吸着させることによって汚染物質を再度除去する必要がある。
これに代わる一つの従来方法によると、塩素処理された汚染物質は分解される。この方法には、上昇した温度での触媒酸化が含まれる。なお、この方法はコストが非常に高いが、汚染物質を二酸化炭素と適当な塩化物とに分解する。これらは、低濃度では無害である。この方法は、飲料水供給のためには、コスト上の理由で、通常実施不可能である。
米国特許、US-4382865(SWEENY、1983年5月10日)ではハロゲン化殺虫剤を製造する際に生ずる汚水の処理システムが述べられている。ここでは、殺虫剤製造によって生ずる廃棄物を含有する汚水を数種の金属の組合せの中を通過せしめることにより、ハロゲン化汚染物質の分解が金属の組合せにより有効に起こることが示されている。
本発明は、Sweenyと同様にハロゲン化汚染物質を水から取り除くことに関しているが、Sweenyとは異なり、特に溶剤中のハロゲン化汚染物質を帯水層中を拡散通過している地下水から取り除くことに関する。本発明における主眼は、工場排水とは異なり、地下水は一般的に実質上、無酸素状態にあることにある。
本発明の利点は、地中にある地下水中のハロゲン化汚染物質の化学的分解を例えば金属切断の過程において生ずる廃物等から必要量だけ得られる物質を用いることにより従来法より極めて安価に効率的に行えることにある。
本発明の開示
本発明は相当な期間、高い還元状態の中におかれて残存しているハロゲン化有機汚染物質を含む地下水をある一定期間、金属と密接に接触せしめることよりなる。このような条件下で、有機物質中の塩素イオン(或いは、他のハロゲンイオンでもよい)は、水酸化物イオンで置換されることが可能であり、一方、離脱した塩素イオンは溶解したままである。塩化物は、無機塩化物の許容限度より通常十分低い濃度で水中に残存するか又は沈殿する。
このように、有機分子は、加水分解反応と考えられるものによって無害化され、また塩素は、その痕跡量では無害である無機化合物に変化される。本発明で、この好都合な反応は、高い還元状態のために生じるものと考えられる。
本発明においては、汚染地下水のEh(酸化還元)電位、即ち、Eh(酸化還元)プローブとメーターを用いて測定される値は発明を実施後、-100mV以下、望ましくは、-200mV以下とする必要がある。
本発明においては、まずはじめに酸素の供給源を地下水から除去するか、あるいは、地下水から遠ざけることが好ましい。このことによって、ほとんどEh値が0近傍まで下がった地下水を供給でき、また、金属との密接な接触によりEh値を速やかに下げることが可能となる。
金属と地下水の接触は非常に密接に、しかも長くする必要がある。よって、金属は小接片あるいは繊維状であることが好ましく、このことにより、金属と地下水との接触面積を高めることが可能となり単位質量当たりの金属を効率的に活用することとなる。接触面が大きければ大きいほど地下水のEh値が下がるのに必要な金属本体との接触時間は少なくなるのである。
ここで、金属は好ましくは鉄であり、微粉状、切片状あるいはスティールウールの形態をとることが好ましい。
帯水層中に存在する地下水の浄化についてはコスト面において地下水を常温で処理することが最も好ましい。本発明においてはハロゲン化汚染物質の分解は、前述のように加水分解反応と考えられ、前記のように常温で達成可能な高還元状態に地下水を保つことで実施可能となる。
また、本発明において水のpH値はハロゲン化汚染物質の分解速度を決定するのに重要な因子であることがわかっている。帯水層中に存在する地下水の多くは帯水層中にある限りは実質上、中性であり、本発明における汚染物質の分解はかくの極き自然界の中性の状態において可能である。
本発明の具体例及びその説明
本発明を具体的に説明するため、以下に示す図を参考として発明の具体例を示す。
図1(FIG1)は、帯水層の平面図でありハロゲン化汚染物質は本発明を具体化した方法により除去される。
図2(FIG2)は、本発明の図1とは異なる具体例の説明図である。
図3(FIG3)は、汚染物質の濃度とEh値が時間と共にどの様に変化するかを示したものである。
図に示した実施例や以下に述べることは本発明を単に具体的に説明したものであり、必ずしも以下に示される特許請求の範囲を限定するものではない。
図1には、汚染された水が2で示されている。ここで汚染物質は、例えば四塩化炭素あるいは他の工業溶剤であり、事故により帯水層3に入り地下水4を汚染しつつある。
帯水層3の透水性は汚染物質が帯水層の中を特定の方向に動く程度のものであり、これにより汚染物質の流れが形成される。
仮に汚染水が井戸5の方向に向かっており、数基の井戸がかなり離れたところにある地下水を汲み出しているとするならば、井戸5が汚染されることを防ぐための手段を講じることは経済的に価値がある。
この典型的なケースにおいて、この汚染物質の源は不明であり、手段を講じて汚染物質を浄化する理由は井戸水を汚染から守るためである。また、他の状況においては、特定の水の供給が危険となるという理由ではなく、ただ単に工業的に流出した汚染の浄化義務のために、汚染物質の浄化が要求されることがある。
布掘り(トレンチ)6は、汚染物質の進路方向にあり、トレンチ6には鉄の充填物と砂の混合物からなる本体部7が設置されている。その混合物は、トレンチの下部に充填され、一方、トレンチの上部(即ち、汚染された水流の縦広がりの上部)には、トレンチを作る際にでた土や、れき土が充填される。トレンチ6中の本体部7の水平方向の広がりと縦方向の深さの点については、十分に全ての汚染された水流が本体部7を通過出来るだけの大きさが必要である。
本体部7は、水の流れに対して障害となってはならず、よって、鉄と砂の混合物の透水性は帯水層の透水性よりも下回ってはいけない。本体部7と帯水層3の間には、しき金を入れることは避けるべきであり、少なくともトレンチの透水性を下げるようなものがあってはいけない。また、トレンチを作る際に壁を支えるために用いた支柱は本体部7が入れられた後取り除かれなければならない。
汚染された水が金属と接触する際の充填物中での滞在時間が適当に確保されるようにトレンチの大きさとその中に入れられる鉄の充填物の量が決められなければならない。本発明において水の充填物中での滞在時間は、1?2日あることが好ましい。また、トレンチの幅は以上のことを考慮して決定されなければならない。
酸素との接触が完全にないように鉄はトレンチの中に充填されなければらならない。従って鉄は、トレンチの中に埋める必要がある。鉄が酸素に接した場合、腐食され、汚染物質の分解の促進が効率的でなくなる。しかしながら、この酸素に接触した鉄は、いったん錆を生じるとその下部にある鉄に対する密閉作用を有する。これは鉄の酸素欠乏(anaerobic)部分と呼ばれる。しかし密閉作用に関していえば、トレンチから掘り出された土等の安価な材料を用いる方が鉄の場合好ましい。この鉄の酸素欠乏部分はトレンチの中にあり、実質上すべての汚染された水はトレンチの中、つまり鉄の酸素欠乏部分を通過しなければならないので、かなりの期間、鉄の酸素欠乏部分がトレンチの中に残留する。
トレンチ中には金属のみを入れる必要はなく、前述のように砂や他のかさのある充填材が鉄と混合されうる。かさのある材料がトレンチの中に含まれることにより、地下水はトレンチの中を流れる際に鉄と長時間にわたって接触することが可能となり、しかも莫大な量の金属を使用するに伴って生じる高コストを避けることが出来る。
実際上、通常のトレンチ切削機を使用するため、トレンチ幅を大きくする必要がある。よって、いくつかのケースにおいては、汚染物質を分解するのに必要な金属の量に相当するトレンチ幅よりも広い幅が用いられることがある。このような場合、かさのある充填材料として砂が用いられる。
砂が鉄と一緒に用いられた場合、鉄の充填物と砂は、トレンチ内で充分に混合、分散されていることが望ましい。
汚染物質が井戸を囲んでいる場合や汚染物質の流れが多方向から井戸に向かっている場合はトレンチは井戸を囲むように、作らなければならないと考えられる。
前述のようにトレンチは通常のトレンチ切削機によって作り得る。また、トレンチを作る代替手段としてはドリル アンド ジェット(drill-and-jet)工法によって金属本体を地中に挿入することが出来る。特にれき土などの緩い材料からなる地質学的構造の中に壁を作るためにこの工法は用いられる。
ドリル アンド ジェット工法を本発明に適応するにあたり適当な間隔をおいて一連のボアホール(試掘孔、boreholes)を作る。それぞれのボアホールに底まで届くパイプを挿入し、鉄の充填物を加圧下、パイプを通してボアホールに注入する。その後、パイプを徐々に取り除く。即ち、充填物は、れき土や他の材料を貫入して注入されるのである。要求される厚さの充填物から構成されるとぎれのない壁が形成されるように工事施工者は、ボアホールの間隔と注入する鉄の量を決定しなければならない。
図2に別のシステムを示す。タンクあるいは貯水槽8は地表に設置されている。ポンプ9によって汚染地下水は土中から汲み上げられ、貯水槽8に貯えられる。貯水槽8には鉄の充填物あるいは鉄の充填物と砂の混合物10が入れられており、その中を水が緩やかに浸潤するようになっている。
汚染地下水は、貯水槽の中に1?2日の範囲で残留することが望ましく、また、貯水槽の大きさと鉄の量は適宜に計算されなければならない。従って汚染地下水の処理量が1分当たり100リットル程度の範囲では約10平方メートルの面積と約3メートルの深さの貯水槽が必要となる。
パイプ12を通して水は貯水槽から放水され、帯水層に再び戻されるか、あるいは必要ならば他の処理のために送水される。
図2に示されているように汚染地下水は、貯水槽の底に直接供給されるべきであって、貯水槽に入る以前に大気中に被曝されてはならない。深い地点から汲み上げられた地下水は、実質的にすでに無酸素状態とみなされる。本発明において、水が大気に触れている状態よりも酸素を持っていない状態の方がEh値を-100mVあるいは-200mVに下げる過程が速やかに進行する。
図1のトレンチ方式(トレンチシステム)と比べて図2に示されている貯水槽方式(貯水槽システム)の不利な点は、維持管理に関してポンプが必要な点である。一方、トレンチシステムは、一旦設置すると、全く維持管理の必要がない。二つのシステムからどちらを選択するかを決定する要素は、一つには経済性がある。ポンプにかかる費用は深いトレンチを作る費用と相殺されなければならない。トレンチは、20もしくは30メートル程度よりも深い場合、一般的に経済的ではない。
貯水槽では、その上部には幾らか酸素が含まれており、実際上、充填された鉄の上部は酸化されると予想される。それ故、貯水槽の体積は、面積ではなく深さによって得られることが望ましい。貯水槽は、酸素を含む水が浸透してくることを防ぐために、例えば、コンクリートあるいは粘土などの不透水性材料によって内側表面を覆う必要がある。
また、可能ならば不透水性材料の覆いを貯水槽につけることが望ましい。貯水槽が大気に接している限りにおいては、貯水槽の上部、および鉄の上部では水のEh電位を下げるのに効率が悪化すると考えられる。よって、仮に貯水槽が大気に接している場合、水を適当な滞留時間、槽中の深部で保つために貯水槽を十分な大きさにする必要がある。
本発明では、前述のような高い還元状態のもとで鉄自体が徐々に水に溶解することが認められている。よって、ある一定期間の使用後、トレンチあるいは貯水槽の中に新規に鉄を充填する必要がある。
図3において、カーブCSはある一定期間における水中のハロゲン化汚染物質の濃度レベルを示している。カーブESは同一の水の同期間におけるEh電位を示している(カーブは概略的に描かれており単に傾向を示しているに過ぎない)。一旦、Eh値が下がると汚染物質の分解が急激に生ずることが認められる。このCSとESのグラフの場合、軟鉄を用いている。カーブCGとEGは、亜鉛びき鉄板を用いた場合であり、カーブCAとEAは、アルミニウムを用いた場合である。
Eh値が低下する前と汚染物質の分解開始前に遅延時間があることに注目する必要がある。この遅延は、地下水中での最終的な酸素の消耗と低いEh値が始まるために必要とされる時間に起因すると考えられる。また、これは使用される金属の種類によって異なる。金属の反応性の範囲に差があるために、遅延時間に差が起きると考えられうる。従って亜鉛が最も反応性が高く、次に鉄、アルミニウムと続く。これは、図3に示したとおりである。
Eh値を下げる効果はステンレス鋼においても存在するが、遅延時間はかなり長くなる。本発明においては短い遅延時間の金属を使うことが望ましく、それにより水の必要とされる滞留時間は、最小限に抑制することが出来る。また、金属自体、大量に粒状あるいは充填物の形で、かつ適当な価格で入手可能であるという条件のもとで金属を選択すべきである。多くの場合において鉄が最適であると考えられる。
図3に示すグラフは、完全なる代表例ではない。ある場合においては、たとえEh電位が0であっても汚染物質の濃度レベルがかなり落ち始めることが観察されている。しかしながら、全ての場合において汚染物質が取り除かれ、許容される微小量に下がるにはEh値が-100mVのレベルあるいはそれ以下になることを認めている。
微粉状で金属を用いる目的は、金属が高い比表面積を持つことを確実にするためである。選択した金属の種類によりこれと同様の高い比表面積を持つものであれば他の形を用いてもよい。例としては、金属屑あるいはメタルウール中の金属繊維のようなものである。
鉄の充填物は、本発明のため特別に調製する必要はない。本発明の一つの経済的な指標は、金属処理過程で出てくるような金属粉を使用することである。特定の例をあげれば、鉄鋳造過程において出てくるような物である。
そのような金属粉は本来、全く汚染されていない。他の種類の金属粉あるいは、切断破片は、切断のために用いた工作機械油などが残っており、これらは洗浄して取り除かれなければならない。このような不純物は、ハロゲン化汚染物質の分解反応を妨害するのみならず、それ自身かなりの毒性があり帯水層に入れることができない。
最も反応性の高い金属を用いてもEh値を-100mVあるいは-200mVにまで下げるのに必要な滞留時間は、偶然に生ずる接触時間よりもかなり長い。本発明において長期間大きな接触面にわたり、金属と水が密に接触しなければならない。従って、例えば、ただ単に、汚染した水を金属パイプ中に流したり貯めることは本発明の範囲外である。
本発明は、帯水層にある汚染地下水、即ち深い地下からの水、を浄化することに関して述べてきた。通常、そのような地下水は、本質的にほとんどが完全に無酸素状態であると想定される。しかしながら、ある場合においては、地下水はいくらかの溶存酸素を含んでいることがある。本発明はそのような地下水を取り扱う上で不利である。何故ならば、Eh電位を下げるために大量の鉄あるいは他の金属、あるいは非常に長い滞在時間が要求されるからである。
(57)【特許請求の範囲】
1.帯水層中の地下水からハロゲン化有機汚染物質を化学的分解により取り除く方法において、
該帯水層中の該地下水の流れが通過するのに充分である形の金属体であって粒状体、切断片、繊維状物等の形態の該金属体を、該地下水の流れの流路に与え、
該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防ぐことができるようなやり方で該金属体を覆い、
前記の汚染されている該帯水層中の該地下水の流れを、元の帯水層から前記金属体の中へ、次いで該金属体を通過するように導き、
前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に、該地下水が大気中の酸素と実質的に接触しないように、該地下水を前記帯水層から該金属体の中に導き、次いで
前記地下水が、前記金属体の酸素欠如部分を通過して浸透するようにし、一定の時間、その中の金属と接触するように保持する、
諸工程を含み、前記金属は鉄である、上記方法。
2.一定の時間は、地下水の酸化還元電位が-100mV以下になるのに充分長い、請求項1記載の方法。
3.汚染された地下水の流路の帯水層中にトレンチを掘り、次いで、前記トレンチ中に金属体を設置する諸工程を更に含み、しかも、
前記トレンチの大きさ及び配置、並びに前記金属体の酸素欠如部分の大きさ及び配置は、汚染された地下水が酸素欠如部分を通って通過するように設定される、請求項1記載の方法。
4.水汲み上げ井戸に入り込む実質的に全ての水が金属体の酸素欠如部分を通過し、一定の滞留時間の間、該酸素欠如部分内部に滞留するように、トレンチを設け、トレンチと前記酸素欠如部分との大きさを決定する工程を更に有する、請求項3記載の方法。
5.汚染された地下水の流路の帯水層中に一連の複数のボアホールを設け、次いで、該複数のボアホールの中に金属を注入する諸工程を更に含み、しかも、該複数のボアホールの間隔、及び注入される金属の量は、その注入された金属が充分に帯水層を貫通し、金属体本体及びその酸素欠如部分を形成するように決定する、請求項1記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-04-19 
結審通知日 2005-04-21 
審決日 2006-06-09 
出願番号 特願平3-500237
審決分類 P 1 113・ 534- ZA (C02F)
P 1 113・ 121- ZA (C02F)
P 1 113・ 531- ZA (C02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 関 美祝  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 板橋 一隆
大黒 浩之
登録日 2000-06-16 
登録番号 特許第3079109号(P3079109)
発明の名称 地下水中のハロゲン化汚染物質の除去方法  
代理人 浅村 肇  
復代理人 安藤 克則  
復代理人 生田 哲郎  
復代理人 安藤 克則  
代理人 富田 哲雄  
代理人 宮坂 徹  
代理人 浅村 肇  
復代理人 生田 哲郎  
代理人 崔 秀▲てつ▼  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 浅村 皓  
代理人 磯野 道造  
代理人 森 哲也  
代理人 池田 幸弘  
代理人 浅村 肇  
代理人 町田 能章  
代理人 安藤 克則  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 皓  

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