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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1173706
審判番号 不服2005-15065  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-05 
確定日 2008-02-25 
事件の表示 平成11年特許願第317303号「CCDカメラによる正反射式表面性状測定方法及びその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月13日出願公開、特開2001- 99632〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年10月1日の出願であって、平成17年4月18日付けで拒絶の理由が通知され、同年7月6日付け(発送日同月8日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月5日付けで手続補正がなされたものである。

第2 補正却下の決定
1 補正却下の決定の結論
平成17年9月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

2 理由
(1)補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲である、
「 【請求項1】
粗面物体の表面性状を測定する方法において、
正反射を起こす面を有する粗面物体の表面に基準パターンを投影して該基準パターンの反射像をCCDカメラで撮影し、該CCDカメラの映像信号から上記反射像の輝度分布を得て該輝度分布における輝度の振幅の標準偏差を算出し、
同種の粗面物体について予め求めた反射像の輝度分布における輝度の振幅の標準偏差と同種の粗面物体の表面について計測された表面粗さとの間の相関関係を用い、
上記算出した輝度の振幅の標準偏差から上記測定すべき粗面物体の表面粗さを求めるようにしたことを特徴とする粗面物体の表面性状測定方法。
【請求項2】
粗面物体の表面に、該表面と角度θで設けられた基準パターンを投影するようにした請求項1記載の粗面物体の表面性状測定方法。
【請求項3】
正反射を起こす面を有する粗面物体の表面に投影される基準パターンと、
該基準パターンを照明する光源と、
上記粗面物体表面に投影された基準パターンの反射像を撮影するCCDカメラと、
該CCDカメラの映像信号を入力とし、該映像信号から上記反射像の輝度分布を得て該輝度分布における輝度の振幅の標準偏差を算出し、同種の粗面物体について予め求めた反射像の輝度分布における輝度の振幅の標準偏差と上記同種の粗面物体の表面について計測された表面粗さとの間の相関関係を用い、上記算出した輝度の振幅の標準偏差から測定すべき粗面物体の表面粗さを求めるコンピュータと、
を備えたことを特徴とする粗面物体の表面性状測定装置。
【請求項4】
上記基準パターンが粗面物体の表面と角度θで設けられて投影されるようにした請求項3記載の粗面物体の表面性状測定装置。」
を、補正後の特許請求の範囲である
「 【請求項1】
粗面物体の表面性状を測定する方法において、
正反射を起こす面を有する粗面物体の表面にスリットを透過させない基準パターンを映して該基準パターンの反射像をCCDカメラで撮影し、該CCDカメラの映像信号から上記反射像の輝度分布を得て該輝度分布における輝度の振幅の標準偏差を算出し、
同種の粗面物体について予め求めた反射像の輝度分布における輝度の振幅の標準偏差と同種の粗面物体の表面について計測された中心線平均粗さとの間における回帰直線で示される相関関係を用い、
上記算出した輝度の振幅の標準偏差から上記測定すべき粗面物体の0.01μmより大きな中心線平均粗さの値を求めるようにしたことを特徴とする粗面物体の表面性状測定方法。
【請求項2】
粗面物体の表面に、該表面と角度θで設けられた基準パターンを投影するようにした請求項1記載の粗面物体の表面性状測定方法。
【請求項3】
正反射を起こす面を有する粗面物体の表面に投影される基準パターンと、
該基準パターンを照明する光源と、
上記粗面物体表面に映されたスリットを透過させない標準パターンの反射像を撮影するCCDカメラと、
該CCDカメラの映像信号を入力とし、該映像信号から上記反射像の輝度分布を得て該輝度分布における輝度の振幅の標準偏差を算出し、同種の粗面物体について予め求めた反射像の輝度分布における輝度の振幅の標準偏差と同種の粗面物体の表面について計測された中心線平均粗さとの間における回帰直線で示される相関関係を用い、上記算出した輝度の振幅の標準偏差から測定すべき粗面物体の0.01μmより大きな中心線平均粗さの値を求めるコンピュータと、
を備えたことを特徴とする粗面物体の表面性状測定装置。
【請求項4】
上記基準パターンが粗面物体の表面と角度θで設けられて投影されるようにした請求項3記載の粗面物体の表面性状測定装置。」
と補正するものである。(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

(2)本件補正の適否について
本件補正は、補正前の請求項1及び請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項である「基準パターン」を「スリットを透過させない基準パターン」に限定し、「表面粗さ」を「中心線平均粗さ」に限定し、「相関関係」を「回帰直線で示される相関関係」に限定し、「表面粗さを求める」を「0.01μmより大きな中心線平均粗さの値を求める」に限定し、「投影して」を「映して」に補正して、補正後の請求項1及び請求項3とするものであるから平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かを、
請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)について以下に検討する。

(3)本件補正発明
本件補正発明1は、上記本件補正後の請求項1に記載された通りのものである。

(4)引用刊行物
ア 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭61-75236号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(1-a)「(1)塗装面に対向して設け、塗装面との対向面に地の明度と異なる明度で所定幅の複数のパターン部を間隔をおいて形成したパターン板と、塗装面により反射形成された上記パターン板の反射像を結像して該反射像の各パターン部の明度に応じて出力信号を発する撮像手段と、上記出力信号の出力レベルより塗装面の仕上り度を検知する検知手段とを具備する塗装面測定装置。」(第1頁、特許請求の範囲(1))

(1-b)「(3)上記撮像手段は、結像した反射像における各パターン部の幅方向の直線上の明度変化に応じた出力信号を発する特許請求の範囲第1項記載の塗装面測定装置。」(第1頁、特許請求の範囲(3))

(1-c)「(5)上記検知手段は、上記各出力信号レベルの分散値より塗装面の仕上り度を検知するように設定されている特許請求の範囲第1項記載の塗装面測定装置。」(第1頁、特許請求の範囲(5))

(1-d)「〔産業上の利用分野〕本発明は塗装面の良否を定量的に測定する塗装面測定装置に関するものである。」(第2頁左上欄第6-8行目)

(1-e)「〔従来の技術〕車両ボデー等の塗装面の良否は従来熟練工による目視等の官能検査によつているため、その評価が主観に大きく左右される上に生産工程を自動化する場合のネツクとなつている。
ところで、塗装面の良否は光沢とゆず肌度をその因子としていることが知られており、光沢度が大きくゆず肌度が小さいほど良い塗装面と言える。そこで、光沢度とゆず肌度をそれぞれ定量的に測定する装置が提案されている。・・・これは塗装面に明暗のパターンを投影して、該パターンの暗部から明部へ移るときの光量変化度より光沢度を算出し、また投影された格子パターンのゆがみ率よりゆず肌度を算出する。」(第2頁左下欄第9行目-同頁右上欄第4行目)

(1-f)「本発明の測定装置は、第1図に示す如く、塗装面Bに対向して設けて塗装面Bとの対向面に地の明度と異なる明度で所定幅の複数のパターン部12を間隔をおいて形成したパターン板1と、塗装面Bにより反射形成された上記パターン板1の反射像1’を結像して該反射像1’の各パターン部の明度に応じて出力信号Xを発する撮像手段2と、上記出力信号Xの信号レベルより塗装面Bの仕上り度を検知する検知手段3とを具備している。」(第2頁左下欄第2-11行目)

(1-g)「〔実施例1〕第1図において、測定対象たる塗装面Bにはパターン板1が対向配設してあり、塗装面Bにより形成される上記パターン板1の反射像1’が撮像素子2のレンズ21によりこれに設けたCCDイメージセンサ22上に結像せしめられる。イメージセンサ22には上記反射像1’の中心線(第2図のA-A’線)に沿つて多数の受光画素が設けてあり、検知装置3は上記各画素からの出力信号Xを入力して塗装面の仕上り度を算出する。」(第2頁左下欄第12行目-同頁右下欄第2行目)

(1-h)「パターン板1の詳細を第2図に示す。パターン板1は例えば写真フィルムを使用して作成され、黒色の地に透明なパターン部11、12が形成してある。パターン部11はその幅d1を大きくなして基準パターン部としてあり、幅d2を小さくなしたスリットパターン部12は等間隔l2で形成してある。本実施例では、図中の各寸法l1,l2,d1,d2 はそれぞれ150mm、5mm、15mm,0.8mmとした。また、塗装面Bとレンズ21との距離は400mmとした。」(第2頁右下欄第3-12行目)

(1-i)「第3図には検知装置3の構成を示す。検知装置3は、イメージセンサ22の出力信号Xを増幅するアンプ31、増幅された出力信号Xをイメージセンサ22からのクロック信号CLに同期してデジタルデータに変換するA/D変換器32、上記クロック信号CLを入力してカウントするカウンタ33、該カウンタ33にて指示された番地に上記デジタルデータを順次記憶するRAM34を有し、かつ互いにデータバス39で接続されたCPU35、ワークエリア用RAM36、制御プログラム格納用ROM37、LED表示器38を有する。しかして、上記RAM34にはイメージセンサ22の各画素からの出力信号データが記憶される。」(第2頁右下欄第13行目-第3頁左上欄第6行目)

(1-j)「以下、測定装置の作動を説明する。
第4図は、あらかじめ官能検査により5段階に評価した塗装面試料No1?No5について、第2図のA-A’線に沿つて設けたイメージセンサ22の各画素の出力信号Xの信号レベルを示すものである。図においてパターン部12(第2図)が形成されている部分に対応する画素には1?N(本実施例ではN=600)の番号が割り当ててあり、n番目の画素の出力信号レベルをXnで表わす。また、試料はNo.1からNo.5に向けて順次仕上りの程度が良く、図より知られる如く、仕上りの良い塗装面から得られる出力信号Xはパターン板1の反射像1’の明度変化に応じてシャープな変化を示す。なお、基準パターン部11(第2図)に対応する画素より得られる出力信号のピークレベルは、試料No.1?No.5を通して一定値aである。換言すれば、基準パターン部11は、仕上り度が最低の試料に対しても上記一定レベルaを示すようにそのパターン幅d_(1)を充分大きくしておく。」(第3頁左上欄第7行目-同頁右上欄第6行目)

(1-k)「第5図にはCPU35(第3図)のデータ処理手順を示す。ステップ101にて、RAM34(第3図)にストアされた出力信号X中の最大値たる上記基準パターン部11の出力信号データaを入力し、続いて600個の各画素の出力信号データXnを入力する。(ステップ102)。ステップ103では上記データXnの平均値X(当審注:「X」の上の「-」を省略する。以下、同じ。)を次式(1)より求め、ステップ104では次式(2)より2乗平均値たる分散値Sを求める。

上記分散値Sは塗装面Bの仕上り度が良い程大きい値を示し、該分散値Sによつて仕上り度を5段階に判別して表示する(ステップ105、106)。」(第3頁左上欄第7行目-同頁左下欄第4行目)

(1-l)
「第6図は、塗装面B上に投影された像のスリットパターン幅に換算して、各パターン幅における上記試料No.1?No.5の分散値Sを調べたものである。図中y_(1)?y_(5)は試料No.1?No.5に対応する。図によれば、パターン幅を0.15mm?0.75mmの間でいずれの値に設定しても、分散値Sによって試料No.1?No.5を明確に区別することができる。」(第3頁左下欄第5-12行目)

(1-m)「上記各実施例において、塗装面Bの仕上り度は必ずしも5段階とする必要はなく、例えば10段階としても良いし、あるいは分散値Sおよび平均値P(当審注:「P」の上の「-」を省略する。以下、同じ。)を直接表示してもよい。」(第3頁右下欄下から7行目-下から4行目)

(1-n)「上記実施例において、パターン板の後方より照明すれば、地の部分とパターン部の明度差が大きくなつて測定感度が上昇する。」(第4頁左上欄第2-4行目)

i)刊行物1の「分散値S」は、上記摘記事項(1-k)に記載された式(1)及び式(2)の記載からみて、「明度に応じた出力信号」を「一定レベルa」で正規化した値についての「標準偏差」である。


イ 上記摘記事項(1-a)ないし(1-n)及びi)より、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「車両ボデー等の塗装面の仕上り度を測定する方法において、
車両ボデー等の塗装面により反射形成された地の明度と異なる明度で所定幅の複数のパターン部を間隔をおいて形成したパターン板の反射像をCCDイメージセンサを設けた撮像装置で撮影し、反射像の各パターン部の明度に応じた、該CCDイメージセンサの前記反射像の中心線に沿って設けられた多数の受光画素の各画素からの出力信号を記憶して、該出力信号を一定レベルaで正規化した値の標準偏差を求め、
あらかじめ官能検査により5段階に評価した塗装面試料No.1?No.5について求めた標準偏差と仕上り度との間において示される、上記標準偏差は塗装面の仕上り度が良い程大きい値を示すという関係を用い、上記明度に応じた出力信号を一定レベルaで正規化した値の標準偏差によって仕上がり度を5段階に判別して表示する車両ボデー等の塗装面の仕上り度測定方法。」

(5) 対比
ア 刊行物1発明の「パターン板」、「反射像」、「CCDイメージセンサを設けた撮像装置」、「該CCDイメージセンサの前記反射像の中心線に沿って設けられた多数の受光画素の各画素からの出力信号」、「反射像の各パターン部の明度」、「出力信号」は、本件補正発明1の「基準パターン」、「反射像」、「CCDカメラ」、「CCDカメラの映像信号」、「反射像の輝度分布」、「輝度の振幅」にそれぞれ相当している。
イ 本件補正発明1の「正反射を起こす面を有する粗面物体の表面」と刊行物1発明の「車両ボデー等の塗装面」とは、「面を有する物体の表面」である点で共通している。同様に、本件補正発明の「同種の粗面物体」と刊行物1発明の「あらかじめ官能検査により5段階に評価した塗装面試料No.1?No.5」とは、「同種の面を有する物体」である点で共通している。
ウ また、本件補正発明1の「0.01μmより大きな中心線平均粗さ」と、刊行物1発明の「仕上り度」とは、「表面性状を表す値」である点で共通している。
すると、本件補正発明1と刊行物1発明とは、次の点で一致する。
エ 一致点
「面を有する物体の表面性状を測定する方法において、
面を有する物体の表面に基準パターンを映して該基準パターンの反射像をCCDカメラで撮影し、該CCDカメラの映像信号から上記反射像の輝度分布を得て該輝度分布における輝度の振幅に関する標準偏差を算出し、同種の面を有する物体について予め求めた反射像の輝度分布における輝度の振幅に関する標準偏差と同種の面を有する物体の表面について計測された表面性状を表す値との間の関係を用い、上記算出した輝度の振幅に関する標準偏差から上記測定すべき面を有する物体の表面性状を表す値を求めるようにした面を有する物体の表面性状測定方法。」である点。
一方で、両者は次の相違点1-5で相違する。
オ 相違点
[相違点1]「面を有する物体の表面」が、本件補正発明1は「正反射を起こす面を有する粗面物体の表面」であるのに対して、刊行物1発明は「車両ボデー等の塗装面」である点。
[相違点2]「表面性状を表す値」が、本件補正発明1は「0.01μmより大きな中心線平均粗さ」であるのに対して、刊行物1発明は「5段階に判別」した「仕上がり度」である点。
[相違点3]「同種の面を有する物体について予め求めた反射像の輝度分布における輝度の振幅に関する標準偏差と同種の面を有する物体の表面について計測された表面性状を表す値との間の関係」が、本件補正発明1は「回帰直線で示される相関関係」であるのに対して、刊行物1発明は、「あらかじめ官能検査により5段階に評価した塗装面試料No.1?No.5について求めた標準偏差と仕上り度との間において示される、上記標準偏差は塗装面の仕上り度が良い程大きい値を示すという関係」である点。
[相違点4]「基準パターン」が、本件補正発明1は「スリットを透過させない基準パターン」であるのに対して、刊行物1発明は「地の明度と異なる明度で所定幅の複数のパターン部を間隔をおいて形成したパターン板」である点。
[相違点5]「輝度の振幅に関する標準偏差」が、本件補正発明1は「輝度の振幅の標準偏差」であるのに対して、刊行物1発明は「輝度の振幅を一定レベルaで正規化した値の標準偏差」である点。

(6) 判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
「正反射を起こす面を有する粗面物体」に関して、本願の願書に添付した明細書(以下「本願当初明細書」という。)には、次の記載がある。
「【0001】【産業上の利用分野】この発明は、主として正反射を起こす面を有する粗面物体の表面性状測定方法及びその装置に関し、さらに詳しくはステンレス鋼板仕上げ面の機能的表面性状を定量的に、かつ簡易に測定する技術に関する。」
「【0018】本発明は、・・・主として正反射を起こす面を有する粗面物体、特に商取引市場および生産・加工・組立段階にあるステンレス鋼板の多様な機能的表面性状を、・・・。 」
「【0025】【発明の実施の形態】本発明が適用できる粗面物体1としては、図14(B)に示すように、局所的に極めて滑らかで、鏡面反射(正反射)を起こす凹凸の長波長成分12の大きい面を持つもの、例えば、ステンレス鋼板、各種金属板、プラスチック成型品、セラミック製品(タイルなど)、ガラス製品、塗装製品、メッキ製品などが好適である。その他、主として正反射を起こす表面を有する物、例えば、平面、曲面、球面などを有する板、円筒、球面体などがあげられる。また、本発明は液面のゆらぎ現象への適用も可能である。」
これらの本願当初明細の段落【0001】、【0018】、【0025】の記載によれば、「正反射を起こす面を有する粗面物体の表面」は「基準パターン(図形)の反射像を映」す程度には「主として正反射を起こす面」であって、「ステンレス鋼板、各種金属板、プラスチック成型品、セラミック製品(タイルなど)、ガラス製品、塗装製品、メッキ製品」の表面を少なくとも含むものである。
一方、刊行物1発明の「車両ボデー等の塗装面」は、上記摘記事項(1-g)によれば、「基準パターンの反射像を映す程度には正反射を起こす面」という性質を有するものであることが明らかである。
してみると、本件補正発明1の「正反射を起こす面を有する粗面物体の表面」は「塗装製品」の表面をも包含するものであって、刊行物1発明の「車両ボデー等の塗装面」は「正反射を起こす面を有する粗面物体」としての性質が利用されているものであるから、「面を有する物体の表面」についての上記相違点1は実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について
刊行物1発明の「仕上り度」は、上記摘記事項(1-d)からみて「塗装面の良否を定量的に測定する」ためのパラメータであって、上記摘記事項(1-e)の「車両ボデー等の塗装面の良否は従来熟練工による目視等の官能検査によつている・・・。・・・塗装面の良否は光沢とゆず肌度をその因子としていることが知られており・・・。」、上記摘記事項(1-j)の「・・・あらかじめ官能検査により5段階に評価した塗装面試料・・・について・・・順次仕上りの程度が良く」との記載からすれば、「塗装面試料」についての官能的検査による定量的な良否の評価を基準とした、車両ボデー等の塗装面の良否の程度を定量的に評価したパラメータであることが明らかである。
そして、塗装面の良否の評価は、上記した「光沢」、「ゆず肌度」の他にも、「色」、「むら」、「傷」、「表面粗さ」等の周知な表面性状について総合的に評価されるものであることが周知(例えば、特開昭58-97608号公報には「光沢および表面粗さは物体表面の性質をきめる重要な因子であり、特に塗膜の仕上り状態の評価においては色と並んで重要な特性である。」(第2頁左上欄第11-13行目)と記載されている。また、特開昭63-117206号公報には「発明者らは、塗装面の良否を定量的に測定する上で、上記各提案の装置の如く必ずしも光沢度とゆず肌度ないし表面粗さを分離して測定する必要はなく、むしろ塗装面の良否はこれら両者の相乗効果であるから、上記両者の効果が混在した状態においても正確に塗装面の良否が測定できることに想到し、特願昭59-197705号において、塗装面にスリットパターンを投影してその反射像の明度より塗装の仕上り度を知る塗装面測定装置を提案した。」(第2頁右上欄第6-15行目)と記載されている。)である。
したがって、少なくとも「塗装面」の良否を定量的に評価するためのパラメータとして、「表面粗さ」と刊行物1発明の「仕上り度」とは、類似した性質のパラメータであることは当業者にとって明らかなことであるから、刊行物1発明の「面を有する物体」について求める「表面性状を表す値」である「仕上り度」を「表面粗さ」とすることは当業者が容易に想到できたことである。また、その際に「表面粗さ」として代表的な「中心線平均粗さ」を採用すること、及び「0.01μmより大きな中心線平均粗さ」との測定範囲の限定を行うことは当業者が適宜なし得ることであるし、その数値限定に特段の臨界的意義があるともいえない。

ウ 相違点3について
相関関係を有する2つの量を回帰直線で関係付けることは一般に行われていることであり、面を有する物体の表面性状の測定方法においても、光学的な測定量と表面性状を表すパラメータとを回帰直線で関連付けることは従来より周知の技術である。(例えば、特開昭62-278403号公報には、「・・・冷延鋼板表面でのレーザ反射光の出力電圧と触針式粗度計により表面粗度との換算曲線または直線を記憶した計算機が組み込まれており、レーザ反射光の出力電圧を表面粗度の値に換算して記憶装置16へ出力する。」(第2頁左上欄最終行-同頁右上欄第5行目)、「図12でも明らかなごとく、平均粗さと測定値とは一定の関係があり、本発明の装置は表面粗さの測定装置としても使用可能である・・・」(第5頁左上欄第3-17行目)と記載されている。また、特開平5-288671号公報には、「【0019】・・・赤外分光光度計・・・を使用し、・・・。【0020】検量線作成用の標準試料である冷延鋼板の中心線平均粗さ(Ra)とろ波中心線うねり(Wca)を・・・測定した。・・・接触型の粗度計・・・を使用した。・・・【0023】・・・図2はRaと反射率の間に・・・良好な直線関係が成り立つ事を示している。・・・従って、未知の鋼板の赤外スペクトルをs-偏光状態の赤外光を使用して測定し、3800cmの^(-1)反射率を求めれば、図2と図3を検量線とすることでRaとWcaを測定することが可能である。」(段落【0019】-【0023】)と記載されている。)
一方、刊行物1発明の「あらかじめ官能検査により5段階に評価した塗装面試料No.1?No.5について求めた標準偏差と仕上り度との間において示される、上記標準偏差は塗装面の仕上り度が良い程大きい値を示すという関係」は、「標準偏差」と「仕上り度」との相関関係を利用することを示唆するものであるといえるし、「仕上り度」と「表面粗さ」とは上記「イ 相違点2について」に示したように類似したパラメータである。
してみると、刊行物1発明の「あらかじめ官能検査により5段階に評価した塗装面試料No.1?No.5について求めた標準偏差と仕上り度との間において示される、上記標準偏差は塗装面の仕上り度が良い程大きい値を示すという関係」を、「同種の粗面物体について予め求めた反射像の輝度分布における輝度の振幅に関する値の標準偏差と同種の粗面物体の表面について計測された中心線平均粗さとの間における回帰直線で示される相関関係」とすることは、当業者が上記周知技術に基づいて容易に想到できたことである。

エ 相違点4について
出願当初明細書の段落【0026】-【0028】、【0037】には、「基準パターン」に関して、「歪みのない平滑外面を有する剛直な板材料の表面に加工、または印刷などにより製作する」、「アクリル板(厚さ3mm)の表面に図2の図案をプリントした紙を貼り付けて製作」、「基準像パターン2の代わりに液晶ディスプレイを用いることもできる。」との具体的実施例を開示し、「基準パターン2としては、その反射像4のゆらぎが確認できるものであれば」よいとしている。
これらの記載からみて、本願当初明細書又は図面には「スリットを透過させない基準パターン」との直接的記載はみられないものの、当該記載は、光源からの光を「スリットを透過させた」状態で使用する「基準パターン」を請求の範囲より除くことによって本件補正発明1における「基準パターン」を特定しようとするものと考えられる。
一方、刊行物1発明の「基準パターン」は「地の明度と異なる明度で所定幅の複数のパターン部を間隔をおいて形成したパターン板」であって、上記摘記事項(1-n)の「パターン板の後方より照明すれば、・・・測定感度が上昇する。」との記載からみて、「パターン板の後方より照明」をしない態様を排除するものでもないことは明らかである。
そして、基準パターンの反射像を利用して面を有する物体の表面性状を測定する方法において、「基準パターン」を「スリットを透過させない基準パターン」とすることは周知技術であるから(例えば、特開昭63-206604号公報には、「市販のPGD計について簡単に説明すると、第4図図示の如く、・・・試料13上に、光源14,14により照らし出されたテストパターン15を・・・視認することにより、前記テストパターン15の視認限界値をPGD値(0.1?2.0)として評価するようになっている。」(第2頁右下欄下から4行目-第3頁左上欄第4行目、第4図参照。)と記載されている。 また、特開平7-83624号公報には、「【0009】・・・図1には、・・・成形用スタンパの歪み測定装置1が示されておる。・・・測定装置1には、スタンパ3に反射させてできる像の原形である参照模様板10と、この参照模様板10の光を照射する光源であるランプ4と、・・・スタンパ3の反射像を撮影する写真機30とを備えたものである。」(段落【0009】、図1参照。)、「【0020】また、参照模様板としては、面材の表面に模様を描いたものに限らず、ピアノ線等の線状部材で格子を形成した参照模様板や、線状の発光素子で格子を形成して自ら発光する用にした参照模様板でもよい。」(段落【0020】参照。)と記載されている。)、刊行物1発明の「基準パターン」である「地の明度と異なる明度で所定幅の複数のパターン部を間隔をおいて形成したパターン板」を、「スリットを透過させない基準パターン」とすることは、当業者が上記周知技術に基づいて容易に想到できたことである。

オ 相違点5について
一般に、直接的な測定値に対して適宜の正規化を行った後に統計的処理を行うことは周知技術であって、当該正規化の採否は当業者が必要に応じて決定することである。刊行物1発明において、「一定値レベルa」は「仕上り度が最低の試料に対しても上記一定レベルaを示すようにそのパターン幅d_(1)を充分大きくしておく。」(上記摘記事項(1-i)参照。)としているように、少なくとも「塗装面試料No.1?No.5」について、「一定値レベルa」が一定であるように測定条件を整えることが記載されているから、正規化が必要とされない測定対象物あるいは測定条件下を想定した上で、刊行物1発明から上記周知技術を省略することも当業者が適宜行えたことであるから、刊行物1発明の「輝度の振幅に関する標準偏差」を、「輝度の振幅を一定レベルaで正規化した値の標準偏差」に代えて、「輝度の振幅の標準偏差」とすることは当業者が適宜なし得たことである。
なお、本願当初明細書の段落【0037】に「・・・ さらに、この映像信号をコンピュータに取り込み、画像処理として縦軸に輝度の強さを、横軸に像面上の位置を描画させて、輝度分布(図8)を得た。さらに加えて、この輝度分布の輝度値の振幅量をとり、その標準偏差を算出した。この標準偏差を縦軸に、予め計測した鋼板の表面粗さRaの値を横軸にとって、標準偏差は輝度値の平均で除して正規化し、表面粗さRa値は対数で表わし、描画し
た相関線図(点線)を回帰分析することにより対数回帰直線を得た。」と記載されていて、本願の実施例においても「正規化」の処理は使用されている。

カ 本件補正発明1が有する作用効果について
本件補正発明1が奏する作用効果についても、刊行物1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が予測可能な範囲のものである。
したがって、本件補正発明1は、刊行物1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

キ 審判請求人の主張について
請求人によって、「2.)しかし、刊行物1では基準パターンが所謂スリットパターンであり、スリットを透過させて測定対象面に投影しますと、光がスリットを透過するときに光の波として特性に起因して光の干渉及び回折が起こり、・・・。3.)これに対し、本願発明は基準パターンをスリットを透過させないパターンを採用し、基準パターンを照明して測定対象面に映すようにしています。その結果、スリットの光の透過に起因する光の干渉や回折は起こらず、測定対象面に高精度で基準パターンが映され、得られる反射像の形状精度や明度は表面粗さを直接反映したものとなり、・・・高い精度で求めることができるものであります。」(平成17年9月5日付手続き補正された、審判請求書の【請求の理由】3.本願発明が特許されるべき理由 〔請求項1について〕 3.本願発明と刊行物1との比較 2).及び3).の段落。)等の主張がなされている。
しかしながら、上記「エ 相違点4について」において検討したように、「基準パターン」として「スリットを透過させない基準パターン」を採用することは当業者が周知技術に基づいて容易に想到できたものであって、「スリットの光の透過に起因する光の干渉や回折は起こらず」という作用及びそれに起因して主張されている効果は、「基準パターン」として「スリットを透過させない基準パターン」を採用することによって必然的に得られるものであることが当業者にとって明らかである。
さらに、刊行物1発明の「地の明度と異なる明度で所定幅の複数のパターン部を間隔をおいて形成したパターン板」は、同じく上記「エ 相違点4について」において指摘したように、上記摘記事項(1-n)の記載からみて、「スリットの光の透過に起因する光の干渉や回折」が生じるような透過光による照明を使用するものに特定されるものではないから、「刊行物1では基準パターンが所謂スリットパターンであり、スリットを透過させて測定対象面に投影しますと、」ということを前提とした上記請求人の主張は、その前提自体が誤ったものであるので採用することができない。

また、測定する対象の「粗面物体」を「金属」とした場合に得られる限定的な効果の主張もなされている。この主張は、特許請求の範囲に記載された発明特定事項に基づかない主張である上に、測定する対象の変更に応じて、光源の強度、CCDカメラの感度、撮影距離、パターン自体のコントラスト等の発明を実施する際に変更が必要と当業者が当然に想起する条件について当業者の技術常識の範囲内で最適化しようとすることは、当然に行うことである。

(7)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項
おいて準用する同法126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成17年9月5日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2」の「2」の「(1)」の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。

第4 刊行物1に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及びその記載事項は、上記「第2」の「2」の「(4)」に記載したとおりのものである。

第5 本願発明と刊行物1に記載された発明との対比・判断
本願発明は、本件補正発明1の発明特定事項から発明を特定するために必要な事項の、「基準パターン」を「スリットを透過させない基準パターン」に限定し、「表面粗さ」を「中心線平均粗さ」に限定し、「相関関係」を「回帰直線で示される相関関係」に限定し、「表面粗さを求める」を「0.01μmより大きな中心線平均粗さの値を求める」に限定し、「投影して」を「映して」に補正した限定事項をすべて省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の限定事項を付加したものに相当する本件補正発明1が前記「第2」の「2」の(5)及び(6)に記載したとおり、刊行物1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明についても、同様の理由により、刊行物1発明及び周知技術に基づいて用に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
そして、請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-27 
結審通知日 2007-12-28 
審決日 2008-01-11 
出願番号 特願平11-317303
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷口 智利岡田 卓弥  
特許庁審判長 二宮 千久
特許庁審判官 山下 雅人
下中 義之
発明の名称 CCDカメラによる正反射式表面性状測定方法及びその装置  
代理人 手島 孝美  

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