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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G01C
審判 全部無効 発明同一  G01C
管理番号 1174067
審判番号 無効2007-800038  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-02-23 
確定日 2008-03-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第3666816号発明「レーザーマーキング方法及び装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第3666816号についての手続の経緯の概要は以下のとおりである。

1 出願 平成16年5月26日
2 特許査定 平成17年3月25日(発送日:平成17年3月29日)
3 特許権の設定登録 平成17年4月15日
4 特許掲載公報発行 平成17年6月29日
5 特許無効審判の請求 平成19年2月23日
6 答弁書(被請求人)の提出 平成19年5月14日
7 弁駁書(請求人)の提出 平成19年7月11日
8 書面審理通知 平成19年8月 3日(発送日:平成19年8月8日)

第2 本件発明
本件の特許第3666816号の請求項1ないし10に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認められる(以下、請求項1ないし請求項10に係る発明を、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明10」という。)。

「【請求項1】
1-A.測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部を備えた測量機と、該測量機の望遠鏡部に取り付けられたレーザー光投射装置と、各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置とからなるレーザーマーキング装置を用いたレーザーマーキング方法であって、
1-B. 所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する望遠鏡部の視準手順と、前記視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測するレーザー光の視準手順とを行い、これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき、
1-C.レーザーマーキングに当たり、取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させることを特徴とするレーザーマーキング方法。

【請求項2】
2-A.前記マーキング位置までの距離データの取得は、視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準した際に、前記測量機の測距機能による計測によって行う請求項1記載のレーザーマーキング方法。

【請求項3】
3-A.前記マーキング位置までの距離データの取得は、距離データが事前に既知或いは推定可能とされる場合は、当該距離データを前記演算制御装置への入力によって行う請求項1記載のレーザーマーキング方法。

【請求項4】
4-A.前記レーザーマーキング装置において、前記望遠鏡部の視準方向と前記レーザー光投射装置のレーザー光投射方向との初期設定は、両者を平行としてある請求項1?3いずれかに記載のレーザーマーキング方法。

【請求項5】
5-A.前記レーザーマーキング装置において、前記望遠鏡部の視準方向と前記レーザー光投射装置のレーザー光投射方向との初期設定は、両者間に相対角度を持たせてある請求項1?3いずれかに記載のレーザーマーキング方法。

【請求項6】
6-A.前記測量機を任意点に設置し、予め座標が既知とされる少なくとも2点の基準点を視準し、これら基準点を視準した測距・測角データから後方交会法により、当該測量機の設置点座標を求めるようにする請求項1?5いずれかに記載のレーザーマーキング法。

【請求項7】
7-A.レーザーマーキングの対象が、トンネル施工時のマーキングである請求項1?6いずれかに記載のレーザーマーキング方法。

【請求項8】
8-A.測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部を備えた測量機と、該測量機の望遠鏡部に取り付けられたレーザー光投射装置と、各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置とからなり、初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無いレーザーマーキング装置を用いたレーザーマーキング方法であって、
8-B. 所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度を計測する望遠鏡部の視準手順と、前記視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測するレーザー光の視準手順とを行い、これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき、
8-C.レーザーマーキングに当たり、前記相対角度データに基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させることを特徴とするレーザーマーキング方法。

【請求項9】
9-A.測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部を備えた測量機と、該測量機の望遠鏡部に取り付けられたレーザー光投射装置と、各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置とからなるレーザーマーキング装置であって、
9-B.前記演算制御装置は、所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する望遠鏡部の視準手順と、前記視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測するレーザー光の視準手順とを行って得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求め、
9-C.レーザーマーキングに当たり、取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させることを特徴とするレーザーマーキング装置。

【請求項10】
10-A.測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部を備えた測量機と、該測量機の望遠鏡部に取り付けられたレーザー光投射装置と、各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置とからなり、初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無いレーザーマーキング装置であって、
10-B.前記演算制御装置は、所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度を計測する望遠鏡部の視準手順と、前記視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測するレーザー光の視準手順とを行って得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求め、
10-C.レーザーマーキングに当たり、前記相対角度データに基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させることを特徴とするレーザーマーキング装置。」

なお、「1-A.」から「10-C.」までの符号は、請求人が付したものである。

第3 請求人の主張について
1 請求人の主張する無効理由
(1)無効理由1
本件発明1ないし10は、甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とするべきである(以下、「無効理由1」という。)。

(2)無効理由2
本件発明1ないし10は、甲第10号証(先願明細書等)に記載された発明と同一であるから、本件発明1ないし10に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とするべきである(以下、「無効理由2」という。)。

2 証拠方法
請求人は、証拠方法として甲第1号証ないし甲第10号証を提出している。

甲第1号証 特公平7-103770号公報
甲第2号証 特開2003-181657号公報
甲第3号証 OMRON TECHNICS(登録商標)145,Vol.43 No.1、2003年、第12?16ページ
甲第4号証 「TPS1100 Professional Series,ユーザーマニュアル,バージョン2.1,日本語版、ライカジオシステムズ株式会社」及び頒布の証明書
甲第5号証 特許第2955784号公報
甲第6号証 特許第2912497号公報
甲第7号証 特開2001-289635号公報
甲第8号証 特開2000-275042号公報
甲第9号証 特開平9-304055号公報
甲第10号証 先願(特願2003-126919号)に係る特開2004-333216号公報

また、請求人は、平成19年7月11日付けの弁駁書において、以下の甲第11ないし14号証を追加している。

甲第11号証 ライカジオシステム株式会社の広告、トンネルと地下、vol.35,no.4、平成16年4月1日発行、株式会社土木工学社
甲第12号証 TPS1100レーザーガイドGUS74の製品カタログ,ライカジオシステムズ株式会社
甲第13号証 「大本組・矢作建設工事共同企業体、近畿自動車道青垣内山トンネル殿向け、レーザー光線・光波による切羽断面プロットシステム完成図」及び頒布の証明書
甲第14号証 「佐藤・前田・荒井特定建設工事JV、旭川紋別自動車道愛別トンネル工事殿向け、レーザー光線・光波による切羽断面プロットシステム完成図」及び頒布の証明書

なお、請求人は、審判請求書の「8 証拠方法」の欄において、甲第4号証について、「ライカジオシステムズ社ユーザーマニュアルバージョン2.1日本語版」と記載し、弁駁書の「7 証拠方法(追加)」の欄において、甲第13号証について、「(請求人であるマック株式会社が販売代理店である古川ロックドリル株式会社を通じて、大本組・矢作建設工事共同企業体の近畿自動車道青垣内山トンネル工事の作業所に配布した、レーザーマーキング用トータルステーションのためのユーザマニュアル)と、その証明書」と、甲第14号証について、「(請求人であるマック株式会社が、佐藤工業株式会社を主幹とした共同企業体の旭川紋別自動車道愛別トンネル工事作業所に配布した、レーザーマーキング用トータルステーションのためのユーザマニュアル)と、その証明書」と記載しているが、甲第4号証、甲第13号証及び甲第14号証については、それぞれ請求人の提出した書証の表紙に記載された表題名で表示した。

3 平成19年2月23日付けの審判請求書における請求人主張の概要
(1)無効理由1
ア 本件発明1について
請求人は、審判請求書の「(4)の4 本件特許発明と先行技術発明との対比」の項において、
「1-B及び1-Cの構成要件を要約すると、
1-B’. 所定位置の視準ターゲットを視準して計測した際の水平角度、鉛直角度と、同視準ターゲットにレーザー光を投射して計測した際の水平角度、鉛直角度とから、望遠鏡の視準軸に対するレーザー光投射装置のレーザー光軸の相対角度データを求め、
1-C’.この相対角度データとマーキング位置までの距離データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算し、
1-C”.その演算結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように駆動部を駆動させる
ことにあると認められる。」(審判請求書50ページ13行?24行)
と記載して、「1-B」及び「1-C」の構成要件を「1-B’」,「1-C’」及び「1-C”」と要約し、本件発明1についての無効理由1として、次のように主張している。

「1-Aの基本構成を備えたレーザーマーキング装置及びこれを用いて行うレーザーマーキング方法は、甲1号証及び甲第5号証で公知である・・・。
そのトータルステーションでは、甲4号証に記載されているように、ATR(自動追尾機構)のコリメーション誤差のキャリブレーションとして、自動視準するための反射光を受光するCCDカメラの中心と、視準光学系(望遠鏡)の光軸である視準軸との光軸誤差(ATRのコリメーション誤差)を、ターゲットを自動視準したときの水平・垂直両方向の値(自動視準角度)と、同じターゲットを手動で視準したときの水平・垂直両方向の値(手動視準角度)との差(水平角及び鉛直角)から求める機能、その水平・垂直両方向の誤差を表示する機能、その誤差が全ての測定値に反映されるように演算する補正機能が具備されていた。そして、トータルステーションの操作者は、このようなキャリブレーションを初期設定として行うのが常態であった。
このキャリブレーションは、望遠鏡の視準軸(仮にXとする)と、自動視準するカメラの光軸(仮にYとする)との差に対する補正機能であって、望遠鏡の視準軸(X)とレーザマーキング用のレーザ投射器のレーザレーザー光軸(仮にZとする)との差に対するキャリブレーションではないが、望遠鏡にレーザ投光器を付設した場合、トータルステーションにおいて校正が必要な軸は、XとYとの他にZが加わることになるから、XとYとの間で行っていたことは、XとZとの間でも同様に行えるということを、容易に着想できる。
すなわち、XとYとの間の差(水平角および鉛直角)を求める場合に、X及びYの双方について同じ視準ターゲットを対象として計測していたのを、YをZに置き換えてX及びZの双方について同じ視準ターゲットを対象として計測することで、XとZとの間の差(水平角および鉛直角)を同様に求めることが可能であるので、本件の請求項1に係る特許発明における上記1-B’の構成は、その程度の置き換えに過ぎない。
また、甲第1号証には、「切羽断面に向かってレーザー光と光波の各光軸とが平行でなく両者の間に角度が与えられると、レーザー光投射装置と切羽断面の距離に応じて視準点と、レーザ照射されるポイントとの距離間が拡大あるいは縮小する。」
と、XとZの間で差が生じているときの問題が示されているので、そのような場合には、上記のような置き換えを行うことで対応できることは、当業者ならば容易に想到できる。
・・・上記1-B’の構成を採用してXとZの差を取り出せば、必然的に上記1-C’及び上記1-C”の構成を採用するに至ることは、甲第1号証及び甲第4号証の記載から容易に理解できる。
・・・さらに甲第2号証の発明を加味すれば、その容易性が一層明らかである。
・・・甲2号証の発明は、レーザマーキングという同じ技術分野のもので、・・・しかも、甲2号証には、上記1-B’、1-C’、1-C”に対応する技術も全て開示されている。
・・・このような第1?第3の技術背景において、上記1-B’、1-C’、1-C”に対応する技術がある甲2号証の発明を、トータルステーションを用いたマーキング方法に採用して本件の請求項1に係る特許発明のようにすることは、当業者であれば容易に想到できる。
さらに、・・・本件の請求項1に係る特許発明にような効果を得るために、2つの光軸を意図的にずらしておくことは、甲第3号証からも推考できる。
また、甲第7号証には、レーザー光による誤差角度を算出し、・・・角度補正を行う技術が開示されている。
甲第8号証には、追尾光学系のずれを検出して記憶し、これを以後の測量に反映させる技術が開示されている。
甲第9号証には、・・・カメラの視準軸とレーザ距離計の光軸の変位角を求め、・・・マークがモニタに表示されるようにした技術が開示されている。
従って、これらの技術も参酌すれば、本件の請求項1に係る特許発明の推考は一層容易であると認められる。」(審判請求書50ページ26行?55ページ4行)

イ 本件発明2について
請求人は、審判請求書において、本件発明2についての無効理由1として、「甲1号証の発明でも、切羽面上に設置した光波プリズム8をターゲットとして・・・測角測距データを得るようになっており、また、甲第5号証の発明でも、切羽面に設置したプリズムをターゲットとして視準し、測距・測角をおこない、その設置位置の座標を測定するようになっており、トータルステーションを用いたマーキング方法では当然に採用する周知技術であるので、上記2-Aの構成には発明の新規性進歩性が全くない。」(審判請求書58ページ2行?8行)と主張している。

ウ 本件発明3について
請求人は、審判請求書において、本件発明3についての無効理由1として、「甲第1号証には、第3ページ26?30行に、・・・との記載があり、これは、a点を既知点として入力して次のマーキングを行うことであるので、上記3-Aと同じである。また、ある座標位置までの距離データが事前に既知である場合には、測量を省略して既知の距離データを入力することは、当然に行う技術常識である。」(審判請求書59ページ2行?10行)と主張している。

エ 本件発明4について
請求人は、審判請求書において、本件発明4についての無効理由1として、「甲第1号証の請求項1には、「・・・レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になるように一体としたレーザー光投射装置」との記載があり、また、第3頁第30?33行に・・・と記載されている。さらに、甲第5号証にも、段落0005に、・・・と、また、段落0011に・・・との記載がある。しかも、・・・平行とすることは、甲4号証の・・・トータルステーションでは、・・・当然に行う周知の初期設定であった。従って、上記4-Aの構成には発明の新規性進歩性が全くない。」(審判請求書59ページ末行?60ページ21行)と主張している。

オ 本件発明5について
請求人は、審判請求書において、本件発明5についての無効理由1として、「甲第2号証には、段落0019に、「ガイド用レーザ光源30は印字用レーザ光L1の光軸上からXガルバノミラー21Xの回動軸に垂直な方向にずらして配置されており、・・・Xガルバノミラー21Xに対して、・・・角度θだけずれた角度で入射する。」と記載されている。
・・・甲2号証の発明を、トータルステーションを用いてマーキングする場合に採用して上記5-Aの構成のようにすることは、当業者であれば容易に想到できる。
さらに、既述のように、甲第3号証には、・・・2つのカメラを意図的にずらしておいて・・・することが開示されており、また甲第9号証には、・・・カメラの視準軸とレーザ距離計の変位角を求め、・・・した技術が開示されており、これらの技術を参酌しても上記5-Aの構成のようにすることは、当業者であれば容易に想到できる。」(審判請求書61ページ7行?62ページ4行)と主張し、また、明細書に記載の請求項5による効果も、その理由が不明であること(審判請求書62ページ5行?14行)を主張している。

カ 本件発明6について
請求人は、審判請求書において、本件発明6についての無効理由1として、「甲第5号証には、・・・段落0014に、・・・後方交会法により求める手法が記載され、また、図1にその詳細が図示されている。
さらに、測量器の設置点座標を後方交会法により求めることは、甲第6号証の特許請求の範囲の請求項1の記載及び段落0020の記載から分かるように、・・・慣用手法である。
従って、上記6-Aの構成には発明の新規性進歩性が全くない。」(審判請求書63ページ7行?24行)と主張している。

キ 本件発明7について
請求人は、審判請求書において、本件発明7についての無効理由1として、「甲第1号証の発明及び甲第5号証の発明のいずれも、トンネル施工時のレーザーマーキングを対象とした発明であり、また、トンネル切羽面の発破孔などの位置をレーザ光によってマーキングすることは周知であって、上記7-Aの構成には発明の新規性進歩性が全くない。」(審判請求書64ページ12行?15行)と主張している。

ク 本件発明8について
請求人は、審判請求書において、本件発明8についての無効理由1として、「本件の請求項8に係る特許発明は、これを請求項1に係る特許発明と比較とすると、請求項8の8-Aの構成は、請求項1の1-Aの構成に対して、「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」という条件限定が加わっている。
ここで、「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」ということは、・・・レーザーマーキング装置の望遠鏡部の視準軸とレーザー光投射装置のレーザー光軸とが初期設定において平行である、ということであると認められる。
・・・初期設定において平行にすることは、・・・通常の初期設定であったもので、8-Aの構成は1-Aの構成と、別発明になるほどの実質的な差異は無い。
請求項8の8-Bの構成は請求項1の1-Bの構成と同じである。
・・・請求項8の8-Cの構成では、単に、相対角度データに基づいて駆動部を駆動するようになっており、8-Cは1-Cよりも上位概念である。
従って、本件の請求項8に係る特許発明は、請求項1に係る発明の場合と同じ理由で容易に想到できる。」(審判請求書64ページ25行?66ページ8行)と主張している。

ケ 本件発明9について
請求人は、審判請求書において、本件発明9についての無効理由1として、「本件の請求項9に係る特許発明は、・・・請求項1に係る特許発明と比較とすると、9-Aの構成は1-Aの構成、9-Bの構成は1-Bの構成、9-Cの構成は1-Cの構成とそれぞれ実質的に同一である。従って、本件の請求項9に係る特許発明も、請求項1に係る発明の場合と同じ理由で容易に想到できる。」(審判請求書66ページ11行?16行)と主張している。

コ 本件発明10について
請求人は、審判請求書において、本件発明10についての無効理由1として、「本件の請求項10に係る特許発明も、・・・請求項1(当審注:「請求項8」の誤記である。)に係る特許発明と比較とすると、10-Aの構成は8-Aの構成、10-Bの構成は8-Bの構成、10-Cの構成は8-Cの構成とそれぞれ実質的に同一である。請求項10に係る特許発明も、請求項8に係る特許発明と同様に、請求項1に係る発明の場合と同じ理由で容易に想到できる。」(審判請求書66ページ19行?24行)と主張している。

(2)無効理由2
ア 本件発明1について
請求人は、審判請求書において、本件発明1についての無効理由2として、「甲第10号証は、本件特許の出願・・・前の他の特許出願・・・であって、本件特許の出願後に出願公開・・・されたものである。
(1-Aの構成について)この甲第10号証の発明は、・・・上記1-Aの基本構成を有している。
(1-B’の構成について)甲第10号証におけるレーザ光照射軸O1は、レーザマーキングするレーザポインタ87のレーザ光照射軸であり、甲第10号証の発明は、これと望遠鏡46の視準軸Oとがズレていることを前提としている。・・・
また、レーザ光照射モードを選択したときは、
「CPU202は、レーザ光照射軸O1を 掘削断面上の指定の位置(x_(1),y_(1))に一致させるための鉛直角(θ’a)と水平角(θ’b)とを演算する。」
と記載されているように、視準軸モード時と同じ指定位置(x_(1),y_(1))をターゲットとして、鉛直角(θ’a)と水平角(θ’b)とを演算するようになっている。
この鉛直角(θ’a)と水平角(θ’b)は、上記鉛直角(θa)と水平角(θb)に対して、レーザ光照射軸O1と望遠鏡46の視準軸Oとのズレ量に相当することは、甲第10号証の段落0047の・・・との記述から明白である。
従って、甲第10号証の発明でも、所定位置の視準ターゲットである計画掘削断面上の指定位置(x_(1),y_(1))を視準して計測した際の水平角度、鉛直角度と、同指定位置(x_(1),y_(1))にレーザー光を投射して計測した際の水平角度、鉛直角度とから、望遠鏡の視準軸に対するレーザー光投射装置のレーザー光軸の相対角度データを求めており、本件特許発明の上記1-B’の構成と同一である。
(1-C’の構成について)また、甲第10号証には、同じく段落0047において、・・・と記載されており、ここで求められる補正量は、計画掘削断面上の指定位置までの距離成分と、レーザ光照射軸O1と望遠鏡46の視準軸Oとのズレ成分とを含んだものであることは明白である。
・・・甲第10号証の発明でも、上記の補正量から、レーザー光をマーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算していることになるので、本件の請求項1に係る特許発明の上記1-C’の構成と同一である。
(1-C”の構成について)また、甲第10号証の段落0049における上記の、・・・との記載から、甲第10号証の発明でも、上記の演算結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように駆動部を駆動させるので、本件の請求項1に係る特許発明の上記1-C”の構成と同一である。
このように、甲第10号証の発明は、本件の請求項1に係る特許発明の構成要件である1-A、1-B’、1-C’、1-C”の全てについて同一の構成を有しており、本件の請求項1に係る特許発明は甲第10号証の発明と同一である。」(審判請求書55ページ6行?57ページ23行)と主張している。

イ 本件発明2について
請求人は、審判請求書において、本件発明2についての無効理由2として、「甲第10号証の段落0025に、「・・・自動視準型トータルステーションとして構成されている。」との記載があり、自動視準型トータルステーションは、甲第4号証からも分かるように、ターゲットを自動追尾して測距・測角を行う測量機のことであるから、・・・上述した周知技術に鑑み自明である。
したがって、甲第10号証は上記2-Aと同じ構成を有しており、本件の請求項2に係る特許発明は甲第10号証の発明と同一である。」(審判請求書58ページ10行?22行)と主張している。

ウ 本件発明3について
請求人は、審判請求書において、本件発明3についての無効理由2として、「甲第10号証の段落0013に、「・・・概略距離を入力するための操作と、・・・」と記載されており、これは、マーキング位置までの既知な距離データを入力することも意味していると認められる。
従って、甲第10号証の発明は上記3-Aと同じ構成を有しており、本件の請求項3に係る特許発明は甲第10号証の発明と同一である。」(審判請求書59ページ12行?20行)と主張している。

エ 本件発明4について
請求人は、審判請求書において、本件発明4についての無効理由2として、「甲第10号証の請求項2に、「・・・平行に設けられる」との記載があり、従って、甲第10号証の発明は上記4-Aと同じ構成を有しており、本件の請求項4に係る特許発明は甲第10号証の発明と同一である。」(審判請求書60ページ23行?末行)と主張している。

オ 本件発明5について
請求人は、審判請求書において、本件発明5についての無効理由2として、「甲第10号証の発明は、上述のように、レーザ光照射軸と望遠鏡の視準軸とがズレていることを前提としており、しかも、甲第10号証の段落0047に、「・・・路線距離Lzにおける視準軸とレーザ光照射手段間のズレは、水平方向にδx/Lz、鉛直方向にθy/Lzであるから、・・・水平方向にδx/Lz、鉛直方向にθy/Lzだけ補正してやればよい。」と記載されている。
従って、甲第10号証の発明は上記5-Aと同じ構成を有しており、本件の請求項5に係る特許発明は甲第10号証の発明と同一である。」(審判請求書62ページ16行?26行)と主張している。

カ 本件発明6について
請求人は、審判請求書において、本件発明6についての無効理由2として、「甲第10号証の段落0041に、「・・・後方の基準点から後方交会法により求め、・・・」と記載されている。
従って、甲第10号証の発明は上記6-Aと同じ構成を有しており、本件の請求項6に係る特許発明は甲第10号証の発明と同一である。」(審判請求書63ページ26行?64ページ6行)と主張している。

キ 本件発明7について
請求人は、審判請求書において、本件発明7についての無効理由2として、「甲第10号証の段落0001の発明の属する技術分野に「・・・トンネルなどを掘削する際の・・・トータルマーキングステーションに関する。」と記載されているように、・・・本件の請求項7に係る特許発明は甲第10号証の発明と同一である。」(審判請求書64ページ17行?23行)と主張している。

ク 本件発明8について
請求人は、審判請求書において、本件発明8についての無効理由2として、「請求項1に係る発明の場合と同じ理由で、甲第10号証の発明と同一である。」(審判請求書66ページ8行?9行)と主張している。

ケ 本件発明9について
請求人は、審判請求書において、本件発明9についての無効理由2として、「請求項1に係る発明の場合と同じ理由で、甲第10号証の発明と同一である。」(審判請求書66ページ16行?17行)と主張している。

コ 本件発明10について
請求人は、審判請求書において、本件発明10についての無効理由2として、「請求項1に係る発明の場合と同じ理由で、甲第10号証の発明と同一である。」(審判請求書66ページ24行?25行)と主張している。

4 平成19年7月11日付けの審判事件弁駁書における請求人主張の概要
(1)無効理由1
ア 甲第4号証について
請求人は、弁駁書において、甲第4号証について、「本件特許の特許請求の範囲の記載を見ると、請求項4に「・・・両者を平行としてある」、請求項5に「・・・両者間に相対角度を持たせてある」、請求項8に「・・・オフセット量が無い」、請求項10に同じく「・・・オフセット量が無い」とあるとおり、本件特許発明も、X(望遠鏡の視準軸)とZ(レーザー光の光軸)との器械誤差の概念を考慮したものであり、技術的に無関係であるとは言えない。
・・・構成要件1-Bとして・・・という構成を採っているが、これは、つまるところ、X(望遠鏡の視準軸)とZ(レーザー光の光軸)とのズレ量を同じターゲットを視準して求めていることである。そして、本件特許発明はそのズレ量だけ補正を行っているもので、甲第4号証に記載の発明と本件特許発明との間には、Y(カメラの光軸)とZ(レーザー光の光軸)という光軸の違いはあるが、2つの光軸のズレ量を同じターゲットを視準して求めている点、そのズレ量だけ補正を行うという点で明らかに共通性があり、X(望遠鏡の視準軸)とY(カメラの光軸)にZ(レーザー光の光軸)が加わった場合への転用は容易である。」(弁駁書5ページ23行?6ページ末行)、
「請求人は、甲第4号証に記載されているような自動視準・自動追尾型トータルステーションに、オプション製品であるレーザーマーキング用レーザ光投光器(レーザーガイド)を搭載したものを使用して、トンネル切り切羽面にレーザーマーキングを行うことが周知であったことを立証するために、甲第11号証及び甲第12号証を提出する。」(弁駁書7ページ11行?15行)、及び、
「このような・・・トータルステーションを使用して、トンネル切り切羽面にレーザーマーキングを行う場合、・・・レーザー光の光軸(Z)の調整を行うことが、現場での必須作業として慣用的に行われていたことを立証するため、甲第13号証及び甲第14号証を提出する。
・・・従って、・・・トータルステーションでは、X(望遠鏡の視準軸)とY(カメラの光軸)との経時的な変化によるズレに対処するために、甲第4号証に記載されているように、そのズレ量を測って以降の測量に反映させる、すなわち、そのズレ量に見合う補正を行うという機能が本来的に備わっていたほか、X(望遠鏡の視準軸)とZ(レーザー光の光軸)との経時的な変化によるズレにも対処するために、そのズレ量を随時測定してレーザー光の光軸(Z)の調整を行うことも、作業員が行わなければならない一つの手順として、慣用的に行われていたものであり、X(望遠鏡の視準軸)とY(カメラの光軸)との間で行っていたことを、X(望遠鏡の視準軸)とZ(レーザー光の光軸)との間に置き換えることの転用は、このような周知技術のみでも容易に動機付けられる。」(弁駁書8ページ10行?9ページ28行)と主張している。

イ 甲第2号証について
請求人は、弁駁書において、甲第2号証について、「甲第2号証記載の発明は、・・・の多くの点で本件特許発明と共通性がある。
この甲第2号証記載の発明では、一方の光軸の投射点を他方の光軸の投射点に一致させるためにミラー21X・21Yが介在しているものの、それは付加的な事項であって、これが存在するからと言って本件特許発明が容易に想到できないとする阻害理由にはならない。
・・・本件特許発明の容易性は甲第2号証記載の発明により一層顕著である。」(弁駁書11ページ9行?12ページ5行)と主張している。

(2)無効理由2
請求人は、弁駁書において、無効理由2について、
「甲第10号証には、段落0047に・・・と記載されており、視準軸Oとレーザ光照射軸O1間の水平方向のズレ量であるδxと鉛直方向のズレ量であるδyとが固定値だとは、記載されておらず、またそのように解される示唆もない。
もし、これら水平方向及び鉛直方向のズレが固定値であるならば、その固定値をそのまま使って(代入して)補正すれば済むことであるが、甲第10号証の発明では、自動視準モード(視準軸モード)時に、計画掘削断面上の指定位置(x_(1),y_(1))をターゲットとして、望遠鏡46の視準軸Oをこの指定位置(x_(1),y_(1))に一致させて鉛直角(θa)と水平角(θb)を演算した後、レーザー光の視準手順モードであるレーザ光照射モードに切り換えて、視準軸モード時と同じ指定位置(x_(1),y_(1))をターゲットとして、鉛直角(θ’a)と水平角(θ’b)とを演算している。この鉛直角(θ’a)と水平角(θ’b)は、上記鉛直角(θa)と水平角(θb)に対して、レーザ光照射軸O1と望遠鏡46の視準軸Oとのズレ量に相当しており、このズレ量を求めること自体、そのズレ量が変量であることを前提としているので、甲第10号証の上記の記載(段落0047)は、むしろ、このズレ量が変化することを想定して、相対角度データであるこのズレ量を、2つの手順の測定結果から求める必要があることを示唆している。」(弁駁書14ページ2?22行)、及び、
「また、甲第10号証の段落0009に次のように記載されている。・・・
さらに、甲第10号証の段落0046に次のように記載されている。・・・
これらの記載は、換言すると、トンネル切羽面A上にマーキングをする前に、望遠鏡の視準手順とレーザー光の視準手順との2つの視準手順から得られた測量結果から、レーザー光照射軸O1と望遠鏡46の視準軸Oとのズレ量を求め、このズレ量が0になるようにトータルステーションの水平軸43Bおよび鉛直軸43Aを回転駆動させて、トンネル切羽面A上のマーキング点にレーザ光を合わせるということを意味している。」(弁駁書15ページ4行?末行)と主張している。

第4 被請求人の主張について
1 証拠方法
被請求人は、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第4号証を提出している。

乙1号証 TPS Newsletter-TPS1100, A one page weekly newsletter on Leica TPS1100, 11/2000, March 20th、及びその翻訳文
乙2号証 TPS Newsletter-TPS1100, A one page weekly newsletter on Leica TPS1100, 45/2000, November 13th、及びその翻訳文
乙3号証 TPS Newsletter-TPS1100, A one page weekly newsletter on Leica TPS1100, 49/2000, December 11th、及びその翻訳文
乙4号証 ATRの動作と表示、記録についてのまとめ

なお、被請求人は、審判事件答弁書の「8 証拠方法」の欄において、乙1号証ないし乙3号証について、それぞれ「(TPSニュースレター (2000-11:2000-03-20))(原文及び翻訳文)」、「(TPSニュースレター (2000-45:2000-11-13))(原文及び翻訳文)」及び「(TPSニュースレター (2000-12:2000-12-11))(原文及び翻訳文)」と記載しているが、乙1号証ないし乙3号証は、被請求人の提出した書証の第1頁に記載された表題名で表示した。

2 平成19年5月14日付けの審判事件答弁書における被請求人の主張の概要
(1)無効理由1
ア 本件発明について
被請求人は、答弁書において、「本件特許発明では、望遠鏡の視準軸と、レーザー光の光軸との相対的関係は、経時的に変化するものであるとの前提に立ち、・・・このズレを完全に吸収しえるマーキング方法及び装置を提供するものである。
そのための構成として、本件特許では、構成要件1-Bとして・・・という、従来のマーキング方法では採用されていない、本件特許独自の特徴的構成手順を有するものである。
・・・このような視点から、請求人から提示された甲第1号証?甲第9号証を検討すれば、これらの証拠の組合わせによっても、当業者が容易に想到し得たものでないことは明らかであると思料する。」(答弁書11ページ末行?12ページ16行)と主張している。

イ 甲第1号証?甲第9号証についての被請求人の主張
(ア)甲第1号証及び甲第5号証について
被請求人は、答弁書において、「構成要件1-Aは、前記甲第1号証及び甲第5号証に開示されているものと認められ」(答弁書13ページ2行?4行)と、構成要件の1-Aが甲第1号証及び甲第5号証に記載されていることを認めている。

(イ)甲第1号証について
被請求人は、答弁書において、甲第1号証について、「前記甲第1号証記載の発明と、本件特許発明とを対比したとき、甲第1号証記載の発明では、望遠鏡部の光軸と、レーザー光の光軸とが常に平行で、これらの関係が固定的であると考えているのに対して、本件特許発明では、望遠鏡の視準軸と、レーザー光の光軸との相対的関係は、経時的に変化するものであるとの前提に立っている点で両者は、技術的思想の基本部分において、大きく相違するものである。その結果、本件特許発明は、構成要件1-Bとして「 所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する望遠鏡部の視準手順と、前記視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測するレーザー光の視準手順とを行い、これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき、」という、従来のマーキング方法では採用されていない、本件特許の特徴的構成手順を採るのに対して、甲第1号証記載の発明では、上記1-Bの構成を示唆ないし開示するものではない。」(答弁書19ページ15行?28行)と主張している。

(ウ)甲第2号証について
被請求人は、答弁書において、甲第2号証について、「甲第2号証記載の発明で開示された、2つの光軸の投射点を一致させるための手段と、本件特許発明で採用している、2つの光軸の投射点を一致させるための手段は全く異なるものである。すなわち、甲第2号証記載の発明では、被印字対象物に対するガイド用レーザー光の投射点と、印字用レーザー光の投射点を一致させるために、
(1)・・・前記ガルバノミラーに対する入射位置が・・・一致するように配置する構成。
(2)・・・前記ガルバノミラーに対する入射角の角度差に基づいて前記座標データを補正した補正後の座標データを前記ガルバノ駆動手段に与える構成。
を採用しているのに対して、本件特許発明では、予め「・・・」(構成要件1-B)手順を備え、・・・距離データと、前記相対角度データとから、・・・水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算する手順を踏むのであって、甲第2号証記載の発明と本件特許発明とでは、一方の光軸の投射点を他方の光軸の投射点に一致させるために採用している手段が全く異なるというべきである。」(答弁書21ページ15行?22頁9行)と主張している。

(エ)甲第3号証について
被請求人は、答弁書において、甲第3号証について、「本件特許発明の技術とは全く異なるものであるとともに、具体的に本件特許発明のどの構成要件に対して当てたのかも不明である。」(答弁書22ページ19?20行)と主張している。

(オ)甲第4号証について
被請求人は、答弁書において、甲第4号証について、「ATRのコリメーション誤差の補正は、単に器械誤差の問題である。本来視準軸を表す十字線は、CCDカメラの中心に完全に一致させておくことも可能であるが、生産性の理由により、このズレを許容した状態とし、器械内部の補正機能(演算)により修正を行うようにしたものである(後述の乙1?4号証参照)。
・・・X(望遠鏡の視準軸)とY(カメラの光軸)との器械誤差の関係を、器械誤差の概念からは技術的に無関係であるX(望遠鏡の視準軸)とZ(レーザー光の光軸)との関係で置き換える着想が容易であるとする請求人の主張は、論理の大きな飛躍ないし論理のすり替えであるとともに、そこには転用の動機付けが存在するものではないため、置き換えが容易とする論拠に欠けるとともに、到底、本件特許発明の当該構成要件が開示されているとすることはできないものである。
・・・請求人は、X(望遠鏡の視準軸)とY(カメラの光軸)とのズレ校正が具体的にどのようにしてなされるのかについて、具体的に明らかにしていないが、仮に望遠鏡部を水平方向及び伏仰方向に回転させて調整していると主張しているのであれば、その点は技術的に間違いである。被請求人は、ライカジオシステムズ株式会社(以下、ライカ社)の技術者との面会を申し込み、・・・ライカ本社(スイス)が定期的に発行しているTPSニュースレターの内、ATR技術に関するもの(乙1号証?3号証)及びライカ社より「ATRの動作と表示、記録についてのまとめ」(乙4号証)を入手したので、証拠として提出する。
・・・以上から明らかなように、X(望遠鏡の視準軸)とY(カメラの光軸)とのズレ校正は、本来、ATR機能によって、十字線が本来、測量したい点からずれてしまうが、その「本来測量したい点」の値を表示、記録するための修正を器械内部の演算処理で行っているものであり、本件特許発明のように、Z(レーザー光の光軸)の投射点をX(望遠鏡の視準軸)の視準点に合わせるべく、望遠鏡部を水平方向及び伏仰方向に駆動させているわけではなく、甲第4号証で用いている技術と、本件特許発明で採用している技術とは全くの別のものである。」(答弁書15ページ5行?17ページ4行)と主張している。

(カ)甲第6号証について
被請求人は、答弁書において、甲第6号証について、「後方交会法は同号証に開示されているものと認められる。」(答弁書22ページ25行)と認めている。

(キ)甲第7号証について
被請求人は、答弁書において、甲第7号証について、「本件特許発明の技術とは全く異なるものであるとともに、具体的に本件特許発明のどの構成要件に対して当てたのかも不明である。」(答弁書23ページ6行?8行)と主張している。

(ク)甲第8号証について
被請求人は、答弁書において、甲第8号証について、「本件特許発明は望遠鏡部の光学系のズレを修正する技術とは無関係である。」(答弁書23ページ11行?12行)と主張している。

(ケ)甲第9号証について
被請求人は、答弁書において、甲第9号証について、「本件特許発明の技術とは全く異なるものであるとともに、具体的に本件特許発明のどの構成要件に対して当てたのかも不明である。」(答弁書23ページ19行?20行)と主張している。

(2)無効理由2
被請求人は、答弁書において、無効理由2について、「甲第10号証記載の発明の場合は、・・・このオフセット量(δx、δy)は経時的に変化することのない固定値とし、・・・補正したマーキング位置とレーザー光照射軸のズレ量・・・を伏仰方向回転量、水平方向回転量として求めている点で大きく相違するものである。
・・・上記相違点によって、本件特許発明の場合は、経時的に使用する間に、ズレが生じたとしても、このズレを吸収し、両者間のズレを問題視しないマーキング方法を実現できるのに対して、甲第10号証記載の発明の場合は、・・・オフセット量(δx,δy)を固定値として演算するもの出るから、経時的使用によって光軸ズレが生じた場合には、再調整や修理などを行う必要が生じるものである。」(答弁書28ページ5?22行)と主張している。

第5 甲第1号証ないし甲第10号証
1 甲第1号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特公平7-103770号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】レーザー光を投射するレーザー発振器と光波によって距離を測定する光波測角測距儀とを、レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になるように一体としたレーザー光投射装置と;
このレーザー光投射装置を支持して、鉛直方向および水平方向に駆動する駆動装置と;
前記光波測角測距儀からの測角測距データとトンネル形状情報に基づいて前記駆動装置を作動させてレーザー光投射装置を鉛直方向および水平方向に移動させる演算制御装置と;を有し、
前記レーザー光投射装置および前記駆動装置を切羽断面手前の位置に設置するとともに、予めその設置座標を知っておき、
座標が既知の別の基準点を前記光波測角測距儀により視準し、この視準による前記設置座標からの測角測距データを得て、
他方で、前記演算制御装置に与えられた計画トンネル線形および計画トンネル断面形状に基づいて、前記切羽断面上における作業基準点を設定し、
前記演算処理装置で前記測角測距データに基づいて前記作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度および水平角度を演算し、その鉛直角度および水平角度で前記駆動装置を作動させてレーザー光投射装置を振って、前記作業基準点にレーザー光を投射させ、
順次切羽断面上に作業基準点をレーザー光の照射によるマーキングを行うことを特徴とするトンネル断面のマーキング方法。」

(2)「本発明は、トンネルを掘削する際、ある切羽断面において発破孔などの多数の作業基準点をマーキングする方法に関する。」(2ページ左欄1行?3行)

(3)「第1図において、1はレーザー光投射装置であり、レーザー光を投射するレーザ発振器5と光波によって距離を測定する光波測角測距儀6とを、レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になるように一体としたものである。
このレーザー光投射装置1は、鉛直方向および水平方向に駆動する高度微動駆動装置7により支持されている。さらに、光波測角測距儀6からの測角測距データとトンネル形状情報に基づいて、前記駆動装置7を作動させてレーザー光投射装置1を鉛直方向および水平方向に移動させるコントローラー12およびコンピューター16とを有する演算制御装置とが設備されている。
さて、レーザー光投射装置1および駆動装置7は、図面に示すように、切羽断面18手前の位置に設置され、この設置座票P(X_(0),Y_(0),Z_(0))は、予め他の測量機器による測量により既知である。また、トンネル内には、別の基準点O(X_(1),Y_(1),Z_(1))が測量により既知とされる。したがって、トンネルの曲率中心Eからの距離L_(1),L_(2)は既知である。この基準点Oとしては、たとえばダボステーションを用いることができる。
かかる状態において、まず、座標が既知の基準点Oを光波測角測距儀7(当審注:「光波測角測距儀6」の誤記である。)により視準し、この視準による前記設置座標Pからの測角測距データ(L_(3),仰角ζ)を得る。
そして、トンネルの切羽断面18までの距離を知るために、光波プリズム8を切羽断面2上の適宜の位置に設置し、これに光波を当てる。このとき、前記基準点Oを光波測角測距儀7(当審注:「光波測角測距儀6」の誤記である。)により視準したときの設置座標Pからの、基準点O基準の測角測距データ(δ,γ,L_(4))が得られる。したがって、逆に、切羽断面18は、光波プリズム8を設置した断面内にあることが判り、その切羽断面18内において、曲率中心Eからの法線lに沿う面上に作業点を設定する必要があることが判る。
そこで、演算制御装置を構成するコンピューター16には、予め計画トンネル線形および計画トンネル断面形状が与えられ、切羽断面18上において作業基準点a?b?c?…の座標(X,Y,Z)を設定する。
かくして、演算処理装置で前記基準点Oを光波測角測距儀7(当審注:「光波測角測距儀6」の誤記である。)により視準したときの設置座標Pからの測角測距データに基づいて、作業基準点に向けての、すなわち、まず第1作業点aに向けての設置座標Pからの鉛直角度βおよび水平角度αを演算する。これとともに、その鉛直角度βおよび水平角度αで、駆動装置7をコントローラー12により作動させてレーザー光投射装置1を振って、作業基準点aにレーザー光を投射させ、その投射点を作業基準点のマーキングとする。この場合、光波プリズム8の設置座標は測定したので、これを基準として、第1作業点aにレーザー光を照射することもできる。
その後、順次切羽断面18上に作業基準点b?c?…をレーザー光の照射によりマーキングを行うものである。
この場合、b点を照射する場合には、a点を既知の基準点とすることにより、再度基準点Oを視準することなく、能率的に順次作業基準点b?c?…を照射できる。
本発明のレーザー光投射装置においては、レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行となるように設定されている。これに対して、たとえば、切羽断面に向かってレーザー光と光波の各光軸とが平行でなく両者の間に角度が与えられると、レーザー光投射装置と切羽断面間の距離に応じて視準点とレーザ照射されるポイントとの距離間が拡大あるいは縮小する。これはコンピューター上での演算を複雑化するだけでなく、演算精度、したがってマーキング精度を低下させる。特に、トンネルの曲線部にてマーキングを行う場合には、切羽断面に対して斜めからのマーキングが行われることになるので、視準方向とレーザー光との間で例えば水平方向の角度にわずかなずれでもあると、視準点とレーザー照射されるポイントとの拡き(離間する距離)が顕著に現れる。
さらに、切羽断面上の凹凸が加味すると、視準点と照射のポイントとを合致させるために、コンピューターでの演算はより複雑化して、精度面での低下を招くことになる。
そこで、本発明によれば、レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になり、視準方向に常時レーザー発振器の投射方向が向けられるので、測距時の視準方向をレーザー光を投射する方向として扱うことができる。レーザー光の光軸と測距時の光軸との間に角度を与えずに平行することは、視準点とレーザー照射されるポイントとの距離を、レーザー光投射装置と切羽断面との距離に関係なく、ほぼ一定にさせることが可能である。
また、本発明では、前記の設置点Pと基準点Oを設定し、その位置を知るのみで、他の測量手段が必要なく、レーザー光照射装置で測角・測距することにより、各作業点をレーザー光照射できるので、照射精度が高くかつ測量などに要する作業時間が大幅に短縮できる。」(2ページ右欄30行?3ページ右欄11行)

(4)図面の第1図には、高度微動駆動装置7の上に光波測角測距儀6が取り付けられ、光波測角測距儀6の上にレーザー発振器5が取り付けられるように描かれている。

(5)上記摘記事項(1)ないし(4)から、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(甲1発明)
「測角測距を行う光波測角測距儀6及び前記光波測角測距儀6に取り付けられたレーザ発振器5とからなるレーザー光投射装置1と、前記光波測角測距儀6を鉛直方向及び水平方向に駆動する高度微動駆動装置7と、前記光波測角測距儀6からの測角測距データとトンネル形状情報に基づいて前記高度微動駆動装置7を作動させる演算制御装置を用いたレーザーマーキング方法であって、
レーザー光を投射するレーザ発振器5と光波によって距離を測定する光波測角測距儀6とは、レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になるように一体としてあり、
基準点Oに設けたダボステーションを前記光波測角測距儀6で視準し、測角測距データ(L_(3),仰角ζ)を得る光波測角測距儀6の視準手順、及び、トンネルの切羽断面2上の適宜の位置に設置した光波プリズム8を前記光波測角測距儀6で視準し、基準点O基準の測角測距データ(δ,γ,L_(4))を得る光波測角測距儀6の視準手順を行い、
レーザーマーキングに当たり、光波プリズム8を設置した断面内にある切羽断面18上に作業基準点a?b?c?…の座標(X,Y,Z)を設定し、第1作業点aに向けての鉛直角度βおよび水平角度αを演算し、その鉛直角度βおよび水平角度αで、前記高度微動駆動装置7を作動させて、第1作業点aにレーザー光を投射させるレーザーマーキング方法。」

2 甲第2号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開2003-181657号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0001】・・・本発明は、可視光のガイド用レーザ光によりマーキング情報に応じた投影像を被印字対象物上に投射する機能を備えたレーザマーキング装置に関する。
【0002】・・・レーザマーキング装置は、例えば印字用レーザ光を出射する印字用レーザ光源と、その印字用レーザ光の方向を変えて印字エリア上に配された被印字対象物上に印字用レーザ光を照射する一対のガルバノミラーと、制御装置とを備えてなる。この制御装置によって印字すべき文字、記号、図形等(以下、「文字等」という)に関するマーキング情報に基づいて前記印字エリア上の位置に対応する複数の座標データが生成され、これらがガルバノミラーに順次与えられ駆動制御される。これにより、被印字対象物上で印字用レーザ光の照射点が二次元的に走査されることになり、もって前記文字等が被印字対象物上に印字されるのである。
【0003】このようなレーザマーキング装置では、印字開始前に、被印字対象物上における印字位置等を調整する必要がある。従来は、サンプル用の被印字対象物に実際に印字してみて、その出来具合と所望の印字位置との誤差を確認しつつ印字位置の調整作業を行っていた。しかし、これでは印字用レーザ光源及びサンプル用被印字対象物等を無駄に消耗又は消費するだけでなく、印字位置の調整作業に多くの時間や労力がかかるという問題があった。
【0004】そこで、レーザマーキング装置のなかには、印字開始前に可視光のガイド用レーザ光を用いて印字すべき文字等の投影像を被印字対象物上に投射する投影像投射機能を備えたものがあり、その一例が特開平9-216087号に開示されている。」

(2)「【0006】【発明が解決しようとする課題】ところで、上記投影像投射機能によって印字位置の調整を行うに当たっては、印字エリア上において、印字用レーザ光による前記文字等の印字位置とガイド用レーザ光による文字等の投影像の投射位置とを一致させておく必要がある。この点について、上述した従来のレーザマーキング装置では、印字用レーザ光とガイド用レーザ光とが交差する位置にハーフミラーを配して、ガイド用レーザ光の方向を変えて印字用レーザ光の光軸に一致させる構成とした。ところが、このような構成では、ハーフミラー等の光学部品が余分に必要になり部品点数の増加、ひいては装置の大型化を招くといった問題があった。また、ガイド用レーザ光だけでなく、印字用レーザ光もハーフミラーを通過させることになるから、その通過の際にレーザ強度が減衰し印字用レーザ光源から出射されたレーザ光を効率良くマーキングに使用できないといった問題もあった。
【0007】本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、ハーフミラー等の光学部品を用いることなく投影像を正確な位置に投射することが可能なレーザマーキング装置を提供するところにある。」

(3)「【0015】さて、本実施形態のレーザマーキング装置には、可視光のガイド用レーザ光L2 を出射するガイド用レーザ光源30を用いて印字したい文字等に対応した投影像を被印字対象物W上に投射させる投影像投射機能を備えている。この構成について以下説明する。ガイド用レーザ光源30は、図1に示すように、印字用レーザ光源10からの印字用レーザ光L1 の光軸上からXガルバノミラー21Xの回動軸に垂直な方向(図1でXY平面に平行な方向)にずらして配置されている。本実施形態では、印字用レーザ光源10の配置位置からXY平面に平行な面に沿って移動させた位置に配置されている。」

(4)「【0019】上述したようにガイド用レーザ光源30は印字用レーザ光L1 の光軸上からXガルバノミラー21Xの回動軸に垂直な方向にずらして配置されており、所定の回動位置にあるXガルバノミラー21Xに対して、ガイド用レーザ光L2 は、印字用レーザ光L1 の入射方向からXY平面に平行な面に沿って角度θだけずれた角度で入射する。従って、投影動作の際、印字動作時と同じ座標データ(x,y)に基づいてガルバノミラー21X,21Yを駆動させると、印字エリア上において、文字等の投影像が印字動作時での文字等の印字位置からx正方向にずれた位置に投射されることになり、既述したように印字位置の正確な調整が行えなくなる。
【0020】そこで、このずれを解消するには、Xガルバノミラー21Xの回動角を印字動作時よりも図3において反時計周りに角度θ分多く回動させれば良い(同図において点線で示されたXガルバノミラー21X)。即ち印字用座標データ(x,y)を(x+α,y)に修正すれば良い。なお、補正値αは前記入射角度の角度差θに基づいて計算的に求めても良く、またガイド用レーザ光源30からの可視光のガイド用レーザ光L2 の印字エリア上における照射点Mの位置を確認しつつガルバノミラーの回動調整をすることで実験的に求めても良い。
【0021】次に、ステップS3で印字動作開始信号を受けているか否かを判断し、受けているときは(ステップS3で「Y」)、印字用レーザ光源10にオンオフ信号を与えると共に、前記座標データをそのままD/A変換して駆動モータ23X,23Yに与える。これにより与えられる印字用座標データ(x,y)に基づいてXガルバノミラー21X及びYガルバノミラー21Yが回動し印字用レーザ光L1の照射点Mが被印字対象物W上で走査され、もって所望の文字等が被印字対象物W上の所定の位置に印字されることになる。
【0022】一方、投影動作開始信号を受けているとき(ステップS3で「N」、ステップS5で「Y」)は、ステップS6において、ガイド用レーザ光源30にオンオフ信号を与えると共に、上記ガイド用座標データ(x+α,y)をD/A変換して駆動モータ23X,23Yに与える。これによりガイド用座標データ(x+α,y)に応じてXガルバノミラー21X及びYガルバノミラー21Yが回動し、Xガルバノミラー21Xで反射されたガイド用レーザ光L2 は、印字動作時の印字用レーザ光L1 と同じ光路を通過してYガルバノミラー21Yに向うことになる。従って、ガイド用レーザ光L2 の印字エリアにおける照射点Mの位置が印字動作時における照射点Mの位置に一致させることができ、もって被印字対象物W上において印字動作時と同じ位置に前記文字等に応じた投影像を投射させることができる。」

3 甲第3号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(OMRON TECHNICS(登録商標) 145,Vol.43 No.1、2003年、第12?16ページ)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「ステレオカメラの光軸フリーキャリブレーション技術」(12ページ表題)

(2)「われわれが開発したSVSは人間の視覚と同じ三角測距の原理に基づくステレオ法を用いた画像型交通流センサである。1枚の画像では判らない対象の奥行き情報を2枚の画像から計測し、車両のかたちを認識する。」(12ページ左下欄14?17行)

4 甲第4号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(「TPS1100 Professional Series,ユーザーマニュアル,バージョン2.1,日本語版、ライカジオシステムズ株式会社」及び頒布の証明書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「TPS1100はトータルステーション・ポジショニング・システムです。」(8ページ左欄1?2行)

(2)「ATRモード
TCAモデルは、通常のプリズムを正確かつ自動的に視準する機能を有していますので、照星により器械をおおよそプリズム方向へ向けて測定するだけです。測距を始めると、モーター駆動により器械が自動的に回転しプリズムの中心を視準します。プリズムの中心に対して鉛直角と水平角が測定され、距離の測定が完了します。
その他すべての器械誤差と同様に、ATR(自動視準・自動追尾)機構のコリメーション誤差を、定期的に決定する必要があります(「点検と調整」の章参照)。」(13ページ左欄6行?中央欄5行)
(3)「ATRのコリメーション誤差とは、CCDカメラの中心と視準軸の(水平方向と鉛直方向の)差をいいます。・・・ATRのコリメーション誤差の決定では、約100m離れたプリズムを望遠鏡で視準します。」(38ページ左欄2行?中央欄3行)

(4)「F5 キャリブレーション処理を起動します(28ページの「表示画面」参照)。
ATRの自動視準機能が、自動的にオンになります。・・・
F1 誤差の決定作業を始めます。
ATRのコリメーション誤差を決めるとき、2軸の自動補正装置は自動的に「オフ」になります。・・・
十字線でプリズムを正確に視準します。
F1 測定作業を始めます。・・・
最初の測定を終了すると、自動的に反転します。・・・
十字線でプリズムを正確に視準します。
F1 2回目測定を行います。・・・
2回目の測定を行うとき、誤差を決める測定でのATRの精度を表示します。」(38ページ中央欄7行?39ページ右欄10行)

(5)38ページ左欄の図には、「水平方向の誤差」と「鉛直方向の誤差」が、「プリズムの中心」と「十字線」との間の水平方向と鉛直方向の位置の誤差であるごとく描かれている。

(6)40ページ中央欄の図には、「ATRコリメーションゴサ」が角度で表示されるものとして描かれている。

5 甲第5号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特許第2955784号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0011】・・・図3に示すように、測量機本体1は、トンネル5内のP0点に設置され、トンネル坑口側の、位置が既知のP1点及びP2点に設置されたプリズム6及び7と、切羽面2と測量機本体1間のP4点及びP5点に設置されたプリズム8及び9と、切羽面2の前のP3点に設置したプリズム4とをそれぞれ視準し、測距、測角を行なう。測量機本体1は、図4に示すように、レーザ装置10を搭載しており、レーザ光源11からプリズム12,13及び対物レンズ14を経てレーザ光が望遠鏡部15の光軸15aと同軸(平行にしてもよい)に出射するようになっており、望遠鏡部15の水平軸16及び垂直軸17を360度回転する鉛直角及び水平角用モータ18及び19と、このモータ18及び19を駆動、制御するコントロールユニット20と、測角処理ユニット21と、水平角用エンコーダ22及び鉛直角用エンコーダ23と、キーボートと、表示部と、測距部(以上図5に示す)と、測距部の光路とレーザ装置10の光路との切り換え装置(図示しない)とを具備している。
【0012】測量機本体1は図3に示すように、データ入出力ケーブル24によりパーソナルコンピュータ25に接続され、パーソナルコンピュータ25はハンディターミナル26でも遠隔操作できる。パーソナルコンピュータ25に無線モデムを接続し、ハンディターミナル26を無線ハンディターミナルに置き換えると無線操作が可能となる。かくして前記望遠鏡部15は、パーソナルコンピュータ25から送信した水平角及び鉛直角信号が測量機本体1のコントロールユニット20を介してモータ18及び19に入力すると、送信した水平角及び鉛直角になるまで回転制御される。水平角用エンコーダ22及び鉛直角用エンコーダ23は望遠鏡部15の水平角及び鉛直角を検出し、図5に示すようにこれを測角処理ユニット21を介して表示器27に表示する。測距部28及び測角処理ユニット21から出力した測距、測角データはコントロールユニット20を介してパーソナルコンピュータ25に送信される。パーソナルコンピュータ25には予め設計・計画トンネルのトンネル線形及び断面形状のデータが入力されている。」

(2)「【0014】次に図6に示すフロー図により本発明方法を説明すると、先ず、前述のように設計・計画トンネルのトンネル線形、トンネル断面形状のデータをコンピュータ25に順次入力する(ステップ101,102)。次に、予め測量されたP1点及びP2点の座標値を入力する(ステップ103)。ステップ104で測量機本体1をトンネル5内のP0点に設置する。そして測量機本体1の測角原点をセットし(ステップ105)、P1点及びP2点に設置したプリズム6及び7を視準し、測距、測角を行ない、コンピュータ25により測量機本体1の位置の座標を確定する(ステップ106)。ステップ107において、P4点及びP5点を設定し、そこに設置したプリズム8及び9を視準し、測距、測角を行なって位置の座標を確定し、次いで切羽面2の前のP3点に設置したプリズム4を視準し、測距、測角を行ない(ステップ108)、その位置の座標を確定するとともに得られた切羽面2の座標から設計・計画トンネルのトンネル中心点P6及び発破点a,b,c…の座標を、予め記憶されたトンネル線形及びトンネル断面形状のデータから算出し、次いでトンネル中心点P6及び発破点a,b,c…の水平角及び鉛直角を算出する(ステップ109)。そしてこの水平角及び鉛直角で測量機本体1を振り、レーザ装置10から出射するレーザ光を先ず設計・計画トンネルのトンネル中心点P6に照射する(ステップ110)。次いでレーザ光を発破点a,b,c…位置を照射する(ステップ112)。発破点a,b,c…位置をマークした後、発破作業を行ない(ステップ115)、切羽面2が掘削により進行し、測量機1の設置位置が適当でなくなったとき(ステップ116)は測量機本体1を移動し、ステップ104に戻る。」

(3)図面の図4には、望遠鏡部15が水平軸16を中心に鉛直角モータ18により垂直方向に回転し、望遠鏡部15を支持する水平軸16を含む装置部分が垂直軸17を中心にして水平角用モータ19により水平方向に回転するように描かれ、また、レーザ装置10が望遠鏡部15に取り付けられるように描かれている。

(4)甲5発明
上記摘記事項(1)ないし(3)から、甲第5号証には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているものと認められる。

(甲5発明)
「望遠鏡部15を備え、かつ前記望遠鏡部15を支持する装置部分を水平方向に回転させるとともに、前記望遠鏡部15を垂直方向に回転させる鉛直角及び水平角用モータ18及び19を備えた測量機本体1と、測量機本体1の望遠鏡部15に取り付けられたレーザ装置10と、測距、測角を行なうことにより算出された発破点a,b,c...の座標に基づいて前記鉛直角及び水平角用モータ18及び19を制御するパーソナルコンピュータ25を用いたレーザーマーキング方法であって、
レーザ光源11からのレーザ光が望遠鏡部15の光軸15aと同軸または平行に出射するようになっており、
P1ないしP5の各点に設置したプリズム6,7,4,8及び9を視準し、測距、測角を行うステップ106ないし108と、
レーザーマーキングに当たり、切羽面2の座標から発破点a,b,c…の座標を算出し、発破点a,b,c…の水平角及び鉛直角を算出するステップ109と、この水平角及び垂直角で測量機本体を振り、レーザ光で発破点a,b,c…位置を照射するステップ112を有するレーザーマーキング方法。」

6 甲第6号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第6号証(特許第2912497号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】 シールド掘進抗内において、シールド掘進機の掘進とともに測距測角儀を進行させ、測距測角儀と立抗側に位置する複数の基準点からトンネル線形に応じて、ワイズバッハトライアングルメソッドおよび/または後方交会法により測距測角儀の位置を自動的に求めた後、その既知点の位置からシールド掘進機の位置を自動測量することを特徴とするシールド測量方法。」

(2)「【0020】また、図5はこの発明の測量方法においてシールド計画線の曲線部に後方交会法を用いた場合の平面図である。図において基準点(5a),(5b)を基に、後方交会法を用いて後方台車(2)の求点(測距測角儀の位置)(6)を求める。そして、次にこの例においては、測距測角儀(3a)の位置からシールド掘進機(1)までは、測距測角儀(3a)から直接シールド掘進機(1)に位置する反射プリズム(8)を照射して、シールド掘進機(1)の位置を出す。」

7 甲第7号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第7号証(特開2001-289635号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【解決手段】立坑A内の基準点D(トータルステーション20の中心点)に設置されたトータルステーション20と埋設管40内に配置されたトータルステーション50の中心点Eとの間で角度を測定する際に、埋設管40の内部空間Bと立坑A内の温度差により生じるレーザ光の屈折による誤差角度を算出して、この誤差角度をトータルステーション20及びトータルステーション50の実測角度にそれぞれ分配することにより角度補正を行うものである。」(1ページ左下欄8?16行)

8 甲第8号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第8号証(特開2000-275042号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0003】前記望遠鏡部4は視準光学系の他に測距光、追尾光を含む測定光を照射し、更に目標対象物からの反射を受光する測距光学系、追尾光学系を有しており、受光した反射光に基づき目標対象物を視準する視準手段、目標対象物を検出し追尾する追尾手段、及び目標対象物迄の距離を測定する測距手段を具備している。」

(2)「【0041】初期設定として、前記リファレンス板42での反射光は前記受光素子40の基準位置に合致する様調整しておく。従って、所定時間経過後、前記リファレンス板42を挿入し、前記受光素子40に投影された反射光の位置が基準位置とずれていた場合は、追尾光学系31に経時的な光軸のずれが発生したことになる。ずれることにより、目標対象物が視準中心より常に外れた追尾となり、正確な視準が行えない。
【0042】前記受光素子40で検出された光軸のずれは、図示しない測量機の制御部に入力記憶され、以後の目標対象物からの反射光の位置が補正されることになる。補正により、目標対象物は視準中心となることができる。」

9 甲第9号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第9号証(特開平9-304055号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0027】従って、変位角計算回路15では、離隔距離dを記憶しているメモリ回路16と基準メモリ回路13からそれぞれ距離dとROのデータを読み出して、またメモリ回路14から測定距離Rを読み出して、上記(1)式の計算を行い、変位角αを導出する。
【0028】変位角αが求められると、ビデオ信号合成回路5に出力し、テレビカメラ1のビデオ信号に変位角αに対応する位置にマーク信号を重畳する。重畳信号がモニタ6に出力されて、レーザ反射点の位置が表示される。」

(2)「【0035】・・・本実施の形態によれば、基準とする距離ROにある対象物に対して、撮像カメラの視野中心とレーザ照射点とが一致するように、カメラとレーザ距離計を取り付け固定するが、取り付けにおいては撮像カメラの視野中心(通常は光学系の光軸中心)と距離計の送光軸とは間隔があるため、この離間距離dと前記基準距離ROは、予めROM等に記憶した後、実際の測定における対象物までの測定距離Rと、前記離隔距離d及び基準距離ROとの3つの値に成り立つ関係式から、カメラの視野中心からのレーザ反射点の位置を角度で求め、求められた変位角に対応する画像上の位置にレーザ反射点を示すマークをビデオ信号合成回路で重畳することにより、測定者はモニタに表示されたマークからレーザの照射点を確認でき、このため視認だけによる照射点の確認方法と比較して、予めモニタ画面に位置マークが施されているため、確認作業で見誤ることなく、迅速に行える利点がある。」

(3)図面の図5には、テレビカメラ1の視野中心軸29と、テレビカメラ1の中心から照射点31へ向かう軸の間の角度が、「変位角α」として描かれている。

10 甲第10号証(甲10号証に係る先願明細書等)
甲第10号証(特開2004-333216号公報)には、本件出願の日前の他の出願であって本件出願後に公開された先願である特願2003-126919号の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「甲10号証に係る先願明細書等」という。)が掲載され、甲10号証に係る先願明細書等には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】視準用望遠鏡から視準点に向けて出射した測距光とその戻り光により器械点から視準点までの距離を測距する測距手段と、視準用望遠鏡の視準軸に対する前記視準点の水平角と鉛直角を測角する測角手段と、制御信号にしたがって視準用望遠鏡の水平軸および鉛直軸を回転駆動制御する回転制御手段と、前記望遠鏡の視準軸と同軸または平行のレーザ光照射軸に沿ってレーザ光を照射するレーザ光照射手段とを備えたトータルステーションにおいて、
路線に沿った工事計画物に関する計画情報(工事計画物の線形データと路線位置に対応する工事計画物の鉛直断面データ)を記憶した記憶手段と、前記器械点から路線上の任意の位置までの距離を入力する路線距離入力手段と、前記記憶手段の工事計画物に関する計画情報に基づいて、前記入力された路線上任意位置における工事計画物の鉛直断面に関する画像を画面上に表示する表示手段と、前記画面上の工事計画物の鉛直断面画像内で視準点またはレーザ光照射点が指定されたときに、前記工事計画物の鉛直断面上における指定点の座標と前記望遠鏡の視準軸またはレーザ光照射軸とのずれ量として鉛直角と水平角を演算し、この演算結果を基に前記ずれ量を0にするための制御信号を前記回転制御手段に出力する演算手段とを備えたことを特徴とするトータルステーション。
【請求項2】請求項1に記載のトータルステーションにおいて、前記視準軸とレーザ光照射軸は平行に設けられるとともに、前記表示手段には、視準点指定モードとレーザ光照射点指定モードとを切り替えるための切り替えスイッチが設けられたことを特徴とするトータルステーション。」

(2)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、測距・測角手段を備えた測距・測角儀であるモータドライブ駆動のトータルステーションに係り、特に、掘削機によりトンネルなどを掘削する際の掘削領域を示す基準となるマーキングを施すために使用されるレーザ光照射手段を備えたトータルステーションに関する。」

(3)「【0013】このように、作業員は、計測したい位置やレーザ光を照射したい位置の器械点からの概略距離を入力するための操作と、画面上において視準点またはレーザ光照射点を指定するための操作を行うだけで、望遠鏡の視準軸またはレーザ光照射軸を指定の方向に即座に向けることができる。
【0014】請求項2においては、請求項1に記載のトータルステーションにおいて、前記視準軸とレーザ光照射軸を平行に設けるとともに、前記表示手段に、視準点指定モードとレーザ光照射点指定モードとを切り替えるための切り替えスイッチを設けるように構成した。
【0015】(作用)視準軸とレーザ光照射軸がδx、δyだけオフセットしているとすると、路線距離Lzにおける視準軸とレーザ光照射軸間のズレは、水平方向にδx/Lz、鉛直方向にθy/Lz(当審注:「δy/Lz」の誤記であると認められる。)であるから、指定位置とレーザ光照射軸のズレ量(鉛直角θ’a,水平角θ’b)は、指定位置と視準軸のズレ量(鉛直角θa,水平角θb)に対し、水平方向にδx/Lz、鉛直方向にθy/Lz(当審注:「δy/Lz」の誤記であると認められる。)だけ補正してやればよい。即ち、指定位置とレーザ光照射軸のズレ量(鉛直角θ’a,水平角θ’b)は、θ’a=θa+θy/Lz(当審注:「θ’a=θa+δy/Lz」の誤記であると認められる。)、θ’b=θb+δx/Lzとして求める(補正する)ことができ、演算手段は、この補正式に基づいて指定位置とレーザ光照射軸のズレ量(鉛直角θ’a,水平角θ’b)を演算する。」

(4)「【0023】・・・トータルステーション110に備わっている視準用望遠鏡46は、図3(a)に示したように、望遠鏡46の光学系の中心に視準軸Oが設定されており、この視準軸Oからオフセットした位置(δx,δy)には、レーザ光照射手段であるレーザポインタのレーザ光照射軸O1が視準軸Oと平行に設定されている。また図3(a),(b)に示したように、整準台40上に水平回転可能に水平回転軸(鉛直軸)43Aを取り付け、この水平回転軸(鉛直軸)43Aに一体化したトータルステーション本体部(以下、本体部という)42の一対の柱部44間に、鉛直回転軸(水平軸)43Bにより望遠鏡46が鉛直回転可能に取り付けられている。即ち、望遠鏡46は、整準台40に対し、水平回転軸(鉛直軸)43Aにより水平回転でき、鉛直回転軸(水平軸)43Bにより鉛直回転できる。」

(5)「【0025】本実施例のトータルステーション110は、視準望遠鏡46で捕らえた測定対象、例えば、トンネルの切羽面に設置した反射ターゲット90に向けて照明光を照射する照明装置を有する自動視準型トータルステーションとして構成されている。具体的には、図1に示したように、望遠鏡46を介しての視準により、器械点から測定点までの距離を測定する測距手段としての測距部(光波距離計)48と、望遠鏡46(の視準軸)の水平角を測定する水平測角部(水平エンコーダ)50と、望遠鏡46(の視準軸)の垂直角を測定する垂直測角部(垂直エンコーダ)52と、望遠鏡46の水平角を制御する水平制御部(水平サーボモータ)54と、望遠鏡46の垂直角を制御する垂直制御部(垂直サーボモータ)56と、これら各部を制御するとともに、測定結果を算定するためのCPU(演算制御部)58とを備えている。」

(6)「【0036】また、本実施例の望遠鏡46には、視準軸Oと平行なレーザ光視準軸O1をもち、レンズ88と赤色レーザ光源89で構成されレーザ光照射手段であるレーザポインタ87が内蔵されており、レーザ光視準軸O1に沿って赤色レーザ光を照射できるように構成されている。」

(7)「【0041】そして、所定長さにわたる掘削が終了すると、再び、トータルステーション110を新たな切羽面と正対する所定位置に設置するとともに、トータルステーション110の器械点位置を後方の基準点から後方交会法により求め、計測制御機200にこの器械点位置をセットした後、再び計測制御機200の駆動プログラムに基づいてトータルステーション110の駆動を制御する。前記したと同様、切羽面上では、レーザ照射光がトンネル掘削断面の外形に沿って所定間隔でスポット的に順次移動するので、作業員がレーザ照射光のスポット照射位置にマーキングを施した上で、ペイントマークを基準として切羽面の掘削を継続する。このような作業を繰り返すことで、工事計画物であるトンネルが完成する。」

(8)「【0045】・・・視準軸モードを選択すると、CPU202は、演算手段として、画面上のx’y’座標と計画掘削断面(鉛直断面)のxy座標との対応づけを行うとともに、画面上の指定点座標(x’1,y’1)に対するトンネルの計画掘削断面上の座標(x1,y1)と、望遠鏡46の視準軸Oとのずれ量として鉛直角(θa)と水平角(θb)とを演算し、計画掘削断面上の座標値(x1,y1)を座標表示エリア235a、235bにおいて表示する。すなわち、CPU202は、視準軸Oを計画掘削断面上の指定位置(x1,y1)に一致させるための鉛直角(θa)と水平角(θb)を演算する。
【0046】一方、作業員が画面上のモード切替エリアキー234をクリックしてレーザ光照射モードを選択したときには、画面上の指定点座標(x’1,y’1)に対するトンネルの計画掘削断面上の座標(x1,y1)と、望遠鏡46のレーザ光照射軸O1とのずれ量として鉛直角(θ’a)と水平角(θ’b)とを演算し、その座標値(x1,y1)を座標表示エリア235a、235bにおいて表示する。すなわち、CPU202は、レーザ光照射軸O1を掘削断面上の指定の位置(x1,y1)に一致させるための鉛直角(θ’a)と水平角(θ’b)とを演算する。
【0047】なお、視準軸Oとレーザ光照射軸O1は水平方向にδx,鉛直方向にδyだけオフセットしているため、路線距離Lzにおける視準軸Oとレーザ光照射軸O1間のズレは、水平方向にδx/Lz、鉛直方向にθy/Lz(当審注:「δy/Lz」の誤記であると認められる。)であるから、計画掘削断面上の指定位置(x1,y1)とレーザ光照射軸O1のズレ量(鉛直角θ’a,水平角θ’b)は、計画掘削断面上の指定位置(x1,y1)と視準軸Oのズレ量(鉛直角θa,水平角θb)に対し、水平方向にδx/Lz、鉛直方向にθy/Lz(当審注:「δy/Lz」の誤記であると認められる。)だけ補正してやればよい。即ち、計画掘削断面上の指定位置とレーザ光照射軸O1のズレ量(鉛直角θ’a,水平角θ’b)は、θ’a=θa+θy/Lz(当審注:「θ’a=θa+δy/Lz」の誤記であると認められる。)、θ’b=θb+δx/Lzとして求める(補正する)ことができ、レーザ光照射モードが選択されたときには、演算手段であるCPU202は、この補正式に基づいて、指定位置とレーザ光照射軸O1のズレ量(鉛直角θ’a,水平角θ’b)を演算する。
【0048】また、作業員がディスプレイパネル210の画面上で視準点(またはレーザ光照射点)233aをタッチペンなどを用いて指定したあと、指定位置調整エリアキー236a、236bをそれぞれ操作することで、視準点(またはレーザ光照射点)233aの位置を1m,0.1m,0.01mの所定単位に切替設定して増減(調整)でx,y方向にその位置を修正することができる。
【0049】このあと、CPU202は、演算結果を無線でトータルステーション110の入出力装置66に送信する。計測制御機200のCP202の演算結果がトータルステーション110のCPU58に転送されると、計測制御機200のCPU202とともに演算手段を構成するCPU58により水平軸43Bと鉛直軸43Aを回転駆動するための制御信号(制御指令)が生成される。すなわち、CPU58は、指定された点の座標(x1,y1)と望遠鏡46の視準軸O(またはレーザ光照射軸O1)とのずれ量である鉛直角θa,水平角θb(または鉛直角θ’a,水平角θ’b)を0にするための制御信号を生成して、垂直制御部56および水平制御部54に出力する。垂直制御部56および水平制御部54は回転制御手段として、CPU58からの制御信号にしたがって水平軸43Bと鉛直軸43Aを回転駆動する。」

(9)「【0052】・・・トータルステーション110における自動視準装置69を作動させると、光源80からの照射光がトンネルTの切羽面Aの反射ターゲット90に向けて照射され、その反射光の受光スポット130の中心131と十字型ラインセンサ122の中心125との水平方向偏差h1および垂直方向偏差v1が0になるように水平軸43Bおよび鉛直軸43Aが回転駆動され、望遠鏡46の視準軸OをトンネルTの切羽面Aにおける反射ターゲット90の中心位置に正確に向けることができる。そこで、ディスプレイパネル210の計測エリアキー238をクリックして、トータルステーション110における測距・測角手段を作動させて、反射ターゲット90までの距離および角度(水平角及び鉛直角)を求める。
【0053】また、トンネル掘削現場において、発破を仕掛けるためにトンネル切羽面A上の所定点233b1にマーキングしたい場合は、計測制御機200において、トータルステーション110からトンネルの切羽面Aまでの概略目視距離(例えば80メートル)を入力し、画面上のエリア230に表示されたトンネル計画掘削断面画像232におけるトンネル切羽面A上の所定点233b1(x2,y2)に概略相当する位置をレーザ光照射点233b2(x’2,y’2)として指定し、さらにレーザ光照射モードを選択することで、路線距離80メートルのトンネル計画掘削断面上の指定点233b1(x2,y2)とレーザ光照射軸O1とのずれ量(鉛直角θcと水平角θd)が求まる。ついで、計測制御機200からトータルステーション110に、このずれ量(鉛直角θcと水平角θd)を送信することで、トータルステーション110では、このずれ量(鉛直角θcと水平角θd)を0にするように水平軸43Bおよび鉛直軸43Aが回転駆動し、レーザ光照射軸O1が指定点位置233b1(x2,y2)の方を向く。次に、ディスプレイパネル210のレーザ光照射エリアキー239をクリックして、トータルステーション110におけるレーザ光照射手段(レーザポインタ)87を作動させると、目的とするトンネル切羽面A上の所定位置233b1(x2,y2)にレーザ光が照射されるので、ここにペイントでマーキングを施す。」

(10)「【0057】また、前記実施例では、視準軸Oとレーザ光照射軸O1が(δx、δy)だけオフセットするものについて述べたが、視準軸Oからマーキング用の赤色レーザ光を照射する構成にすることも可能である。」

(11)図面の図3(a)には、オフセットδx及びδyが、トータルステーション110の、視準軸Oとレーザ光照射軸O1との間の、x、yのそれぞれの方向についての間隔として描かれている。

(12)上記摘記事項(1)ないし(11)から、甲10号証に係る先願明細書等には、次の発明(以下、「甲10先願発明」という。)が記載されているものと認められる。

(甲10先願発明)
「測距、測角を行うための視準用望遠鏡46と、水平回転軸(鉛直軸)43Bを回転駆動する水平制御部54と、鉛直回転軸(水平軸)43Bを回転駆動する垂直制御部56と、視準用望遠鏡46に取り付けられたレーザ光照射手段87と、指定位置(X_(1),Y_(1))のデータ等に基づいて前記水平制御部54及び垂直制御部56を制御するCPU58及びCPU202からなるトータルステーション110及び計測演算機200を用いたレーザーマーキング方法であって、
トンネルの切羽面に設けた反射ターゲット90を視準用望遠鏡46で視準し、反射ターゲット90までの距離および角度(水平角及び鉛直角)を求める視準用望遠鏡46の視準手順を行い、
路線距離Lzにおける視準軸Oとレーザ光照射軸O1間のズレδx/Lz,δy/Lzを求めて、
レーザーマーキングに当たり、ズレδx/Lz,δy/Lzから、前記レーザー光照射手段87からのレーザー光を前記指定位置(X_(1),Y_(1))に投射させるためのズレ量(鉛直角θ’a,水平角θ’b)を演算した結果に基づき、前記指定位置(X_(1),Y_(1))にレーザー光を投射させるように前記水平制御部54及び垂直制御部56を制御するレーザーマーキング方法。」

第6 当審の判断
1 無効理由1について
(1)本件発明1について
ア 甲第1号証及び甲第5号証
請求人は、「1-Aの基本構成を備えたレーザーマーキング装置及びこれを用いて行うレーザーマーキング方法は、甲1号証及び甲第5号証で公知である」(審判請求書第50ページ26行?27行)と主張し、被請求人もこれを認めているから、先ず、本件発明1と甲1発明及び甲5発明とを対比する。

イ 対比
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「測角測距を行う光波測角測距儀6」は、本件発明1の「測距、測角のための視準を行う望遠鏡部」に相当し、測距、測角のための構成要素を駆動する駆動装置について、当該構成要素を支持する装置部分を水平方向に回転駆動するとともに、当該構成要素を伏仰方向に揺動駆動させるように構成することは、測量機器の技術分野における、ごく一般的な駆動装置の構造であるから、甲1発明の「前記光波測角測距儀6を鉛直方向及び水平方向に駆動する高度微動駆動装置7」は、本件発明の「前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部」に相当し、甲1発明の「光波測角測距儀6」と「高度微動駆動装置7」とが、本件発明1の「測量機」に相当する。
b 甲1発明の「レーザ発振器5」が、本件発明1の「レーザー光投射装置」に相当し、甲1発明も、測角測距データを用いて適宜演算を行い、演算されたレーザーマーキングの位置に向けて高度微動駆動装置7を作動させるのであるから、甲1発明の「前記光波測角測距儀6からの測角測距データとトンネル形状情報に基づいて前記高度微動駆動装置7を作動させる演算制御装置」が、本件発明1の「各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置」に相当し、甲1発明の「光波測角測距儀6」,「高度微動駆動装置7」及び「演算制御装置」が、本件発明1の「レーザーマーキング装置」に相当する。
c 甲1発明の「ダボステーション」と「光波プリズム8」が、本件発明1の「所定位置に設けられた視準ターゲット」に相当し、甲1発明において、これらを視準する「光波測角測距儀6の視準手順」が、本件発明1の「望遠鏡部の視準手順」に相当する。
d 一方、本件発明1の「取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算」する点について、本件明細書の段落【0054】には、「該マーキング位置修正は、マーキング位置(i=1)を望遠鏡部2で視準した際にマーキング位置(i=1)までの距離Lを測量機3の測距機能により計測しておく。前記望遠鏡部2の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データ(鉛直角α、水平角β)は既知であるから、前記マーキング位置(i=1)までの測距データLから、レーザー投射面での水平方向修正量Δx、鉛直方向修正量Δyが求まり、かつこれからレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量Δθ1、伏仰方向回転量Δγ1が演算される。図4に前記伏仰方向回転量Δγ1の算出要領を示す。測量機3から切羽Sまでの距離がHであるとすると、鉛直方向修正量Δy=Ltanα+h(hは望遠鏡部2とレーザー光投射装置4とのオフセット量)となる。従って、前記鉛直方向修正量Δyから望遠鏡部2における伏仰方向回転量Δγ_(1)が求まる。」との記載がある。
本件明細書の上記記載及び図面の図4によると、「伏仰方向回転量Δγ_(1)」の演算に用いられる「鉛直方向修正量Δy」が、距離Lに応じて変化するLtanαの成分と距離によらない一定のオフセット量hの成分を有しているのであるから、「伏仰方向回転量Δγ_(1)」を演算するときには、相対角度データαの成分と、距離に応じて変化する成分を考慮する必要があることが明らかであり、本件発明1の「水平方向回転量及び伏仰方向回転量」についても、距離に応じて変化するものであり、その演算にあたっては相対角度データと距離を用いる必要があるものであることが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から明らかである。
そうすると、本件発明1の「取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算」することは、「水平方向回転量及び伏仰方向回転量」を演算するにあたり、「マーキング位置までの距離データ」と「前記相対角度データ」が必要となることを発明特定事項として記載したものであって、本件発明1の「水平方向回転量及び伏仰方向回転量」は、「マーキング位置までの距離データ」と「相対角度データ」に応じて変化するものであることが明らかである。
これに対し、甲第1号証には、「切羽断面に向かってレーザー光と光波の各光軸とが平行でなく両者の間に角度が与えられると、レーザー光投射装置と切羽断面間の距離に応じて視準点とレーザ照射されるポイントとの距離間が拡大あるいは縮小する。これはコンピューター上での演算を複雑化するだけでなく、演算精度、したがってマーキング精度を低下させる。特に、トンネルの曲線部にてマーキングを行う場合には、切羽断面に対して斜めからのマーキングが行われることになるので、視準方向とレーザー光との間で例えば水平方向の角度にわずかなずれでもあると、視準点とレーザー照射されるポイントとの拡き(離間する距離)が顕著に現れる。さらに、切羽断面上の凹凸が加味すると、視準点と照射のポイントとを合致させるために、コンピューターでの演算はより複雑化して、精度面での低下を招くことになる。」(上記「第5 1」の上記摘記事項(3)参照。)という技術課題の記載があるが、その課題解決手段としては、「レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になるように一体としたものである」と記載され、「レーザー光の光軸と測距時の光軸との間に角度を与えずに平行することは、視準点とレーザー照射されるポイントとの距離を、レーザー光投射装置と切羽断面との距離に関係なく、ほぼ一定にさせることが可能である。」(ともに上記摘記事項(3)参照。)と記載されるように、視準方向とレーザー光の光軸とを平行にすることが記載されているのみであり、甲1発明の「鉛直角度βおよび水平角度α」は、「作業基準点a?b?c?…の座標(X,Y,Z)」に基づいて演算されるものとして記載され、「マーキング位置までの距離データ」と「相対角度データ」により演算するものとしては記載されていない。
そうすると、本件発明1の「取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させる」ことと、甲1発明の「光波プリズム8を設置した断面内にある切羽断面18上に作業基準点a?b?c?…の座標(X,Y,Z)を設定し、第1作業点aに向けての鉛直角度βおよび水平角度αを演算し、どの鉛直角度βおよび水平角度αで、前記高度微動駆動装置7を作動させて、第1作業点aにレーザー光を投射させる」ことは、ともに、「前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させる」点で共通するが、「水平方向回転量及び伏仰方向回転量」の演算手法は異なるものである。

上記aないしdの対比関係から、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点1で一致し、以下の相違点1で相違する。

(一致点1)
「測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部を備えた測量機と、該測量機の望遠鏡部に取り付けられたレーザー光投射装置と、各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置とからなるレーザーマーキング装置を用いたレーザーマーキング方法であって、
所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する望遠鏡部の視準手順を行い、
レーザーマーキングに当たり、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させるレーザーマーキング方法。」

(相違点1)
本件発明1が、望遠鏡部の視準手順における視準ターゲットと同じ視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測する「レーザー光の視準手順」を行い、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき」、「取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、」水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算するに対し、甲1発明には、そのような記載がない点。

(イ)本件発明1と甲5発明との対比
本件発明1と甲5発明とを対比する。
a 甲5発明の「望遠鏡部15」は、測距、測角のための視準を行うための構成要素であるから、本件発明1の「測距、測角のための視準を行う望遠鏡部」に相当する。
b 甲5発明の「垂直方向」,「鉛直角及び水平角用モータ18及び19」,「測量機本体1」及び「レーザ装置10」は、それぞれ、本件発明1の「伏仰方向」,「駆動部」,「測量機」及び「レーザー光投射装置」に相当する。
c 甲5発明も、測量機本体1からの測距測角データに基づき各種演算がなされて、発破点a,b,c...の座標が算出されていると認められ、また、甲5発明の「発破点a,b,c...の座標」は、本件発明1の「マーキング位置データ」に相当するものであるから、甲5第1発明の「測距、測角を行なうことにより算出された発破点a,b,c...の座標に基づいて前記鉛直角及び水平角用モータ18及び19を制御するパーソナルコンピュータ25」は、本件発明1の「各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置」に相当し、甲5発明の「測量機本体1」,「レーザ装置10」及び「パーソナルコンピュータ25」が、本件発明1の「レーザーマーキング装置」に相当する。
d 甲5発明の「P1ないしP5の各点に設置したプリズム6,7,4,8及び9」が、本件発明1の「所定位置に設けた視準ターゲット」に相当し、甲5発明の「ステップ106ないし108」が、本件発明1の「望遠鏡部の視準手順」に相当する。
e 甲第5号証にも、「レーザ光源11からのレーザ光が望遠鏡部15の光軸15aと同軸または平行に出射するようになって」いることが記載されているのみであり、甲5発明の「水平角及び鉛直角」も、上記(ア)で検討した甲1発明の場合と同じく、「マーキング位置までの距離データ」と「相対角度データ」に応じて変化するものとして記載されたものではなく、「取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、」演算することの記載がないことから、甲5発明の「切羽面2の座標から発破点a,b,c…の座標を算出し、発破点a,b,c…の水平角及び鉛直角を算出するステップ109と、この水平角及び垂直角で測量機本体を振り、レーザ光で発破点a,b,c…位置を照射するステップ112」と、本件発明1の「取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させる」とは、「前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させる」点で共通し、「水平方向回転量及び伏仰方向回転量」の演算手法が異なるものである。

上記aないしeの対比関係から、本件発明1と甲5発明についても、上記(ア)で検討した本件発明と甲1発明の場合と同じく、上記一致点1で一致し、上記相違点1で相違する。

なお、請求人は、審判請求書の「(4)の4 本件特許発明と先行技術発明との対比」の項において、「1-B及び1-Cの構成要件を要約すると、
1-B’. 所定位置の視準ターゲットを視準して計測した際の水平角度、鉛直角度と、同視準ターゲットにレーザー光を投射して計測した際の水平角度、鉛直角度とから、望遠鏡の視準軸に対するレーザー光投射装置のレーザー光軸の相対角度データを求め、
1-C’.この相対角度データとマーキング位置までの距離データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算し、
1-C”.その演算結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように駆動部を駆動させる
ことにあると認められる。」(50ページ13行?24行)として、1-B及び1-Cについての構成要件を要約した後に対比を行っており、要約後の構成要件では、「望遠鏡部の視準手順」における「距離を計測する」という、発明を特定するために必要と認める事項が省かれているが、「相対角度データ」を求めるにあたっても、上記「(ア) e」で検討したのと同様にして、「距離」のデータが必要になることが明らかであるから、本件発明1の「望遠鏡部の視準手順」について、発明を特定するために必要と認める事項として記載されている「距離を計測する」点を省くことは、誤りがあるというべきである。

ウ 相違点1についての判断
上記相違点1について検討する。
(ア)甲第1号証及び甲第5号証
甲第1号証及び甲第5号証には、レーザー光の光軸と望遠鏡部の光軸とを平行または同軸とすることが記載されているのみであって、望遠鏡部の視準手順とレーザー光の視準手順を行うことにより相対角度データを求めることも、マーキング位置までの距離データと前記相対角度データを用いて水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算することも記載されていないから、上記相違点1について、記載も示唆もされていない。

(イ)甲第2号証
甲第2号証には、ガイド用レーザ光源30と印字用レーザ光源10とXガルバノミラー21XとYガルバノミラー21Yとを備えたレーザマーキング装置を用いたレーザーマーキング方法において、ガイド用レーザ光L2の光軸と印字用レーザ光L1の光軸が、Xガルバノミラー21Xに対してずらして配置され、投影動作の際、ガイド用座標データ(x+α,y)に応じてXガルバノミラー21X及びYガルバノミラー21Yを回動し、可視光のガイド用レーザ光を照射して印字位置の調整を行い、印字動作時には印字用座標データ(x,y)に基づいてXガルバノミラー21X及びYガルバノミラー21Yを回動し、印字用レーザー光L1を走査して印字を行うレーザーマーキング方法であって、上記ガイド用座標データ(x+α,y)の上記印字用座標データ(x,y)に対する補正量αは、ガイド用レーザ光源30からの可視光のガイド用レーザ光L2 の印字エリア上における照射点Mの位置を確認しつつガルバノミラーの回動調整をすることで実験的に求めることが記載されている(上記「第5 2」の摘記事項(1)ないし(4)参照。)。
しかしながら、
a 甲1発明及び甲5第1発明における「駆動部」は、望遠鏡部とレーザー光投射装置とを一体的に駆動させる駆動部であるのに対し、甲第2号証において駆動されるのは、二つの光軸を一致させるための「ガルバノミラー」であることから、駆動部についての構成要素が相違している。
b 甲第2号証の「ガイド用レーザー光」が、「可視光の」と敢えて記載されていることからすると、「印字用レーザ光L1」は、可視光であるかが不明であり、そもそも甲2号証の「印字用レーザ光L1」を用いて、本願発明1における「レーザー光の視準手順」と同様の視準手順が行えるのであれば、「ガイド用レーザ光」を用いて位置を印字位置を調整する必要がなくなると考えられるところ、甲2号証には「印字用レーザー光L1」の視準手順に対応する手順についての記載はなく、本件発明1の「視準ターゲット」に対応する構成も記載されていない。
c 甲第2号証に係る発明は、ハーフミラー等の光学部品を用いることなくレーザー光を正確な位置に投射することが可能なレーザーマーキング装置を提供することを目的として(「第5 2」の摘記事項(2)参照。)、ガルバノミラーを必須の構成要件として記載するものであり、ガルバノミラー以外の光学部品を有するものに適用すること、及び、測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備えたレーザーマーキング装置に適用することは、記載も示唆もされていない。
d 甲第2号証は、Xガルバノミラー21X及びYガルバノミラー21Yから被印字対象物Wまでの距離が変化するものとして記載されたものではなく、「補正値α」は、距離を考慮して記載されておらず、印字用レーザ光L2でマーキングを行うときに、距離データによる演算を行うことも記載がない。
以上aないしdの理由により、甲第2号証に係る発明を、上記甲1発明または甲5発明に適用することが容易であるとも、適用した結果、上記相違点1に係る構成を想到することが容易であるともいえない。
請求人は、審判請求書において、甲第2号証について、「上記1-B’、1-C’、1-C”に対応する技術も全て開示されている。」及び「上記1-B’、1-C’、1-C”に対応する技術がある甲2号証の発明を、トータルステーションを用いたマーキング方法に採用して本件の請求項1に係る特許発明のようにすることは、当業者であれば容易に想到できる。」と主張しているが、上記したように、甲第2号証には上記相違点1についての記載がなく、また、その適用が容易であるともいえないのであるから、請求人の当該主張は採用することができない。

(ウ)甲第3号証
甲第3号証は、ステレオカメラに関するものであって(上記「第5 3」の摘記事項(1)及び(2)参照。)、本件発明1のレーザーマーキング装置と技術的な関連はなく、また、上記相違点1についての記載もない。
請求人は、審判請求書において、甲第3号証について、「本件の請求項1に係る特許発明にような効果を得るために、2つの光軸を意図的にずらしておくことは、甲第3号証からも推考できる。」と主張しているが、「2つの光軸を意図的にずらしておくこと」は、請求項1には記載がなく、請求項1の記載に基づく主張ではないから採用できない。

(エ)甲第4号証
甲第4号証には、トータルステーションにおいて、CCDカメラの中心と視準軸の差であるATRのコリメーション誤差を補正するために、F5キーによりキャリブレーション処理を起動し、ATRの自動視準機能が、自動的にオンになり、F1キーにより誤差の決定作業を始め、2軸の自動補正装置は自動的にオフになり、十字線でプリズムを正確に視準して、F1キーで測定作業を行い、ATRコリメーション誤差の角度データを記憶するATRのコリメーション技術が記載されている(上記「第5 4」の摘記事項(1)ないし(6)参照。)。
そこで、甲第4号証に係る発明を、甲1発明または甲5第1発明に適用して、上記相違点1に係る構成を想到することが容易であるかどうかについて検討する。
a 甲第4号証では、「ATRのコリメーション誤差とは、CCDカメラの中心と視準軸の(水平方向と鉛直方向の)差をいいます。」と記載され、視準軸に対応する十字線がプリズムの中心に対する位置の誤差として図面に描かれていることから(「第5 4」の摘記事項(3)及び(5)参照。)、甲第4号証において「ATRのコリメーション誤差」は、CCDカメラの中心と十字線の中心(視準軸)の位置の誤差を補正する技術として、すなわち、装置内部の構成要素の位置のずれを補正する記載されており、装置の外部に向かう2つの光軸のずれを補正する技術としては記載されていない。
b 甲第4号証における「ATRの自動視準」と「十字線による視準」とは、ともに、もともと視準を行うものであり、視準を行うことを目的としないレーザー光に対して、視準ターゲットにレーザー光を投射したときの水平角度及び鉛直角度を計測するという視準手順を行うことは、甲第4号証に記載も示唆もされていない。
c 甲第4号証に記載の「ATRコリメーション誤差」は、「距離データ」により演算されたものではなく、甲第4号証には、マーキング位置までの距離データと、相対角度データとから、レーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算することが、記載も示唆もされていない。
上記aないしcの理由により、甲第4号証には、レーザー光に対して上記視準手順を行うことを示唆する記載がなく、マーキング位置までの距離データと、相対角度データとから、レーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算することについても記載も示唆もされておらず、甲第4号証に記載の発明を甲1発明に適用しようとしても、上記aの理由により、その対応関係を甲第4号証から読み取ることができないのであるから、甲第4号証に記載の発明を甲1発明又は甲5発明に適用することにより、上記相違点1に係る構成を想到することが容易であるとすることができない。
請求人は審判請求書において、「望遠鏡にレーザ投光器を付設した場合、トータルステーションにおいて校正が必要な軸は、XとYとの他にZが加わることになるから、XとYとの間で行っていたことは、XとZとの間でも同様に行えるということを、容易に着想できる。すなわち、XとYとの間の差(水平角および鉛直角)を求める場合に、X及びYの双方について同じ視準ターゲットを対象として計測していたのを、YをZに置き換えてX及びZの双方について同じ視準ターゲットを対象として計測することで、XとZとの間の差(水平角および鉛直角)を同様に求めることが可能であるので、本件の請求項1に係る特許発明における上記1-B’の構成は、その程度の置き換えに過ぎない。」と主張しているが、甲1発明及び甲5発明におけるレーザー光の光軸は、視準軸に平行または同軸となるように調整されたものとして記載されているのみであり、マーキング位置までの距離データ及び相対角度データによる校正が必要な軸であることを示唆する記載もなく、また、甲第4号証には、レーザー光についての視準手順を行うことも、距離データにより校正を行うことも記載も示唆もされていないのであるから、XとYとの間で行っていたことは、XとZとの間でも同様に行えるものであるとも、置き換えた結果、本願発明1の上記相違点1に係る構成を想到することができることも認められないから、請求人の上記主張は採用できない。

(オ)甲第6号証
甲第6号証には、後方交会法を用いた測量方法が記載されている(上記「第5 6」の摘記事項(1)及び(2)参照。)が、上記相違点1に係る構成は、記載も示唆もされていない。

(カ)甲第7号証
甲第7号証には、複数のトータルステーションにより角度を測定する際に、温度差により生じるレーザ光の屈折による誤差角度を算出して、角度補正を行う方法が記載されている(上記「第5 7」の摘記事項(1)参照。)が、上記相違点1に係る構成は、記載も示唆もされていない。

(キ)甲第8号証
甲第8号証には、視準光学系、測距光学系及び追尾光学系を有する自動測量機おいて、リファレンス板42を挿入し、追尾光学系31の経時的な光軸のずれを検出し、以降の測定において、目標対象物からの位置を補正する技術が記載されている(上記「第5 8」の摘記事項(1)及び(2)参照。)が、上記相違点1に係る構成は、記載も示唆もされていない。

(ク)甲第9号証
甲第9号証には、テレビカメラ1の視野中心軸29と、テレビカメラ1から見たレーザ照射点31の位置する方向との間の「変位角α」を求めて、ビデオカメラ1のビデオ信号に変位角αに対応する位置にマーク信号を重畳してモニタに表示する技術が記載されている(上記「第5 9」の摘記事項(1)ないし(3)参照。)が、2つの視準手順により相対角度データを求めること、及び、レーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算することは、記載も示唆もされていない。
したがって、上記相違点1に係る構成は、甲第9号証にも記載も示唆もされていない。

請求人は、甲第7号証ないし甲第9号証について、「これらの技術も参酌すれば、本件の請求項1に係る特許発明の推考は一層容易であると認められる。」と主張しているが、具体的な理由の記載はなく、また、上記のとおり、上記相違点1に係る構成は、何れの刊行物にも記載も示唆もされていないから、請求人の当該上記主張は採用できない。

(ケ)甲第11号証ないし甲第14号証
請求人は、平成19年7月11日付けの弁駁書において、甲第11号証ないし甲第14号証を追加しているから、これらについても検討する。

a 甲第11号証
甲第11号証は、ライカジオシステムズ株式会社の「トンネル計量システム」の広告であって、トンネル計測システムの例として、「断面計測」及び「切羽断面マーキング」が図面とともに記載されているが、上記相違点1に係る構成については、記載も示唆もされていない。

b 甲第12号証
甲第12号証は、出願人の提出した証拠方法によっては、頒布された時期を特定することができないが、例え、本件の出願前に頒布されたものであったとしても、甲第12号証には、トータルステーションTPS1100Plusシリーズのオプションとしての「レーザーガイドGUS74」が記載されているのみであって、上記相違点1に係る構成については、甲第12号証には記載も示唆もされていない。

c 甲第13号証及び甲第14号証
甲第13号証及び甲第14号証は請求人が弁駁書に「これら甲第13号証及び第14号証はタイトルの頒布先名が異なるだけで、記載内容は全く同じである」(8ページ22行?23行)と記載しているように、記載内容が同一である。そして、これらの刊行物の4ページの8?9行に、「レーザー光軸調整確認」として、「50?100m離れた所へスタッフを立て、視準点の上100mmへレーザー光が当たるように調整する。」ことが図面とともに記載されているが、レーザー光の軸を機械的に調整することが記載されているのであって、「レーザー光の視準手順」及び「相対角度データ」についての記載はない。
よって、上記相違点1に係る構成については、甲第13号証及び甲第14号証の何れの刊行物にも記載も示唆もされていない。

(ケ)甲第1号証ないし甲第9号証,甲第11号証ないし甲第14号証記載の発明を組み合わせた場合について
上記相違点1に係る構成は、甲第1号証ないし甲第9号証,甲第11号証ないし甲第14号証の何れ刊行物にも記載も示唆もされていないのであるから、甲第1号証ないし甲第9号証,甲第11号証ないし甲第14号証記載の発明を組み合わせたとしても、上記相違点に係る構成を容易に想到することができたものとすることができないことは明らかである。
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第9号証,甲第11号証ないし甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件発明2ないし7について
本件発明2ないし7は、本件発明1の発明特定事項をすべて有するとともに、さらに、限定事項を付加したものである。
したがって、本件発明1が甲第1号証ないし甲第9号証,甲第11号証ないし甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない以上、本件発明2ないし7も同様の理由により、甲第1号証ないし甲第9号証,甲第11号証ないし甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
なお、請求人の本件発明2ないし7についての主張も、本件発明1が甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるという前提においてなされたものであるから、採用することができない。

(3)本件発明8について
ア 本件発明8の「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」について、本件発明8における「オフセット」とは、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると、「上記特許文献1,2では、前記測量機の視準方向とレーザー装置のレーザー投射方向とは平行とされ、マーキング位置をレーザー光で照射するとされるが、実際には視準点とレーザー投射点とには鉛直方向に数十mmのオフセットが生じている。そのため、トンネル断面にレーザーマーキングを行う場合には、レーザー投射点からオフセット分だけ、下方向へのシフト量をメジャーで測り、ペンキ等でマーキングすることになり、レーザー投射点に直接マーキングできない点で手間が余計に掛かっていた。」(段落【0009】)及び「Δy=Ltanα+h(hは望遠鏡部2とレーザー光投射装置4とのオフセット量)」(段落【0054】)と記載され、また、図面の図4(A)には、符号「h」が、望遠鏡部2及びレーザー光投射装置4の位置での望遠鏡部2とレーザー光投射装置4の光軸の間隔として図示されていることからみて、レーザーマーキング装置における、望遠鏡部2とレーザー光投射装置4の光軸の間隔であると認められるから、本件発明8の「前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」は、望遠鏡部とレーザー光投射装置とが同軸であることを意味していると認められる。

ウ 対比
甲5発明には、レーザ光源11からのレーザ光が望遠鏡部15の光軸15aと同軸に出射するようになっていることが記載されているから、本件発明8と甲5発明とを対比する。

甲5発明の「レーザ光源11からのレーザ光が望遠鏡部15の光軸と同軸に出射するようになっている」ことは、本件発明8の「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」ことに相当し、また、上記「第6 1 (1) イ (イ) 本件発明1と甲5発明との対比」において、本件発明1と甲5発明とを対比したのと同様の対比関係が認められるから、本件発明8と甲5発明とは、以下の一致点2で一致し、以下の相違点2で相違する。

(一致点2)
「測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部を備えた測量機と、該測量機の望遠鏡部に取り付けられたレーザー光投射装置と、各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置とからなり、初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無いレーザーマーキング装置を用いたレーザーマーキング方法であって、
所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度を計測する望遠鏡部の視準手順を行い、
レーザーマーキングに当たり、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させることを特徴とするレーザーマーキング方法。」

(相違点2)
本件発明8が、望遠鏡部の視準手順における視準ターゲットと同じ視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測する「レーザー光の視準手順」を行い、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき」、「前記相対角度データに基づき、」前記マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させるのに対し、甲5発明には、そのような記載がない点。

エ 相違点2についての判断
上記相違点2について検討する。
上記相違点2は、上記「第6 1 (1) ア」における上記相違点1から、「取得したマーキング位置までの距離データ」から「前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算」する部分が省かれ、「相対角度データ」が、距離データを考慮しないものとなっている点において、上記相違点1とは異なっているが、上記「第6 1 (1) ウ」において上記相違点1について検討したのと同様の理由により、望遠鏡部の視準手順における視準ターゲットと同じ視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測する「レーザー光の視準手順」及び「2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求め」る点は、甲第1号証ないし甲第9号証ならびに甲第11号証ないし甲第14号証の何れにも記載も示唆もなく、本願発明8における上記相違点2に係る構成を、甲第1号証ないし甲第9号証ならびに甲第11号証ないし甲第14号証の記載から当業者が容易に想到できたものとすることができない。
したがって、本件発明8についても、甲第1号証ないし甲第9号証ならびに甲第11号証ないし甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

なお、請求人は審判請求書において、「ここで、「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」ということは、・・・レーザーマーキング装置の望遠鏡部の視準軸とレーザー光投射装置のレーザー光軸とが初期設定において平行である、ということであると認められる。」と主張しているが、上記「(3) ア」で記載したように、「オフセット量が無い」とは、レーザーマーキング装置の位置において、望遠鏡部2とレーザー光投射装置4の光軸が同軸であることを意味していると認められるから、請求人の本件発明8についての主張は、採用することができない。

(4)本件発明9について
本件発明9は、本件発明1の方法を装置として記載したものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証ないし甲第9号証ならびに甲第11号証ないし甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
また、「本件の請求項9に係る特許発明も、請求項1に係る発明の場合と同じ理由で容易に想到できる。」という請求人の主張も採用できない。

(5)本件発明10について
本件発明10は、本件発明8の方法を装置として記載したものであるから、本件発明8と同様の理由により、甲第1号証ないし甲第9号証ならびに甲第11号証ないし甲第14号に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
また、「請求項10に係る特許発明も、請求項8に係る特許発明と同様に、請求項1に係る発明の場合と同じ理由で容易に想到できる。」という請求人の主張も採用できない。

2 無効理由2について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲10先願発明との対比
本件発明1と甲10先願発明とを対比する。
(ア)甲10先願発明の「視準用望遠鏡46」、「水平回転軸(鉛直軸)43Bを回転駆動する水平制御部54と、鉛直回転軸(水平軸)43Bを回転駆動する垂直制御部56」、「レーザ光照射手段87」は、本件発明1の「望遠鏡部」、「前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部」、「レーザー光投射装置」に相当する。
(イ)甲10先願発明の「指定位置(X_(1),Y_(1))のデータ」は、本件発明1の「マーキング位置データ」に相当し、レーザーマーキングを行うときに、視準により得られた測距測角データを用いて各種演算を行った結果に基づき駆動部を制御することは通常の設計事項であるから、甲10先願発明の「指定位置(X_(1),Y_(1))のデータ等に基づいて前記水平制御部54及び垂直制御部56を制御するCPU58及びCPU202」は、本件発明1の「各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置」に相当し、さらに、甲10先願発明の「トータルステーション110及び計測演算機200」が、本件発明1の「レーザーマーキング装置」に相当する。
(ウ)甲10先願発明の「トンネルの切羽面に設けた反射ターゲット90」が、本件発明1の「所定位置に設けた視準ターゲット」に相当し、甲10先願発明の「視準用望遠鏡46の視準手順」が、本件発明1の「望遠鏡部の視準手順」に相当する。
(エ)甲10先願発明の「路線距離Lzにおける視準軸Oとレーザ光照射軸O1間のズレδx/Lz,δy/Lz」は、「路線距離Lz」による除算を行うことにより、近似的に角度を演算していると認められるから、本件発明1の「記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データ」に相当する。
(オ)甲10先願発明の「ズレδx/Lz,δy/Lz」における「Lz」はまた、本件発明1の「取得したマーキング位置までの距離データ」に相当する。
(カ)甲10先願発明の「前記レーザー光照射手段87からのレーザー光を前記指定位置(X_(1),Y_(1))に投射させるためのズレ量(鉛直角θ’a,水平角θ’b)」が、本件発明1の「前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量」に相当する。

以上(ア)ないし(カ)の相当関係から、本件発明1と甲10先願発明とは、以下の一致点3で一致し、以下の相違点3で相違する。

(一致点3)
「測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部を備えた測量機と、該測量機の望遠鏡部に取り付けられたレーザー光投射装置と、各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置とからなるレーザーマーキング装置を用いたレーザーマーキング方法であって、
所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する望遠鏡部の視準手順を行い、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めて、
レーザーマーキングに当たり、取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させることを特徴とするレーザーマーキング方法。」

(相違点3)
本件発明1が、望遠鏡部の視準手順と同じ視準ターゲットにレーザー光を投射し、その際の水平角度、鉛直角度を計測する「レーザー光の視準手順」を行い、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求め」ておくのに対し、先願発明には、そのような事項の記載がない点。

イ 相違点3についての判断
上記相違点3について検討する。
甲10先願発明の「ズレδx/Lz,δy/Lz」の演算に用いられている「オフセット量(δx,δy)」は、甲10号証に係る先願明細書等に、「トータルステーション110に備わっている視準用望遠鏡46は、図3(a)に示したように、望遠鏡46の光学系の中心に視準軸Oが設定されており、この視準軸Oからオフセットした位置(δx,δy)には、レーザ光照射手段であるレーザポインタのレーザ光照射軸O1が視準軸Oと平行に設定されている。」(段落【0023】)と記載され、図面の図3(a)にも、2つの軸の間隔として描かれているごとく、視準軸Oとレーザ光照射軸O1の間の間隔として記載されている(上記「第5 10」の摘記事項(4)及び(11)参照。)。
また、甲10号証に係る先願明細書等の「前記望遠鏡の視準軸と同軸または平行のレーザ光照射軸」(【請求項1】),「レーザ光照射手段であるレーザポインタのレーザ光照射軸O1が視準軸Oと平行に設定されている。」(段落【0023】)及び「視準軸Oと平行なレーザ光視準軸O1をもち」(段落【0036】)等の記載によると(上記「第5 10」の摘記事項(1),(4)及び(6)参照。)、甲10号証に係る先願明細書等は、望遠鏡の視準軸Oとレーザ光照射軸O1を、同軸または平行に設定することを技術的前提として記載されていることから、上記視準軸Oとレーザ光照射軸O1の間の間隔は、一定の間隔であるものとして記載されていると認められる。
すなわち、甲10号証に係る先願明細書等には、望遠鏡の視準軸Oとレーザ光照射軸O1とが、同軸または平行からずれてしまうという技術課題の記載もなく、2つの軸の間の相対的な角度を測量結果から求めることの記載もないことから、甲10先願発明の「ズレδx/Lz,δy/Lz」の演算に用いられる「オフセット量(δx,δy)」は、一定の値をとるものとして記載されているものと認められる。
ところで、甲10号証に係る先願明細書等の段落【0048】には、「視準点(またはレーザ光照射点)233aの位置を1m,0.1m,0.01mの所定単位に切替設定して増減(調整)でx,y方向にその位置を修正することができる。」と記載されているが、上記したように、甲10号証に係る先願明細書等では、望遠鏡の視準軸Oとレーザ光照射軸O1を、同軸または平行に設定することを技術的前提として記載されているのであるから、視準点またはレーザ光照射点の位置を修正することが記載されていたとしても、もともと、2つの軸が同軸または平行に設定されていれば、両者の関係についてまで修正する必要はないのであるから、2つの光軸の相対的角度を修正することまで、記載されてるとは読み取ることができない。
そうすると、甲10号証に係る先願明細書等には、望遠鏡部の視準手順と同じ視準ターゲットにレーザー光を投射し、その際の水平角度、鉛直角度を計測する「レーザー光の視準手順」を行うことも、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求め」ることも、記載も示唆もされていないのであって、上記相違点3に係る構成は、甲10号証に係る先願明細書等に記載されているとも、甲10号証に係る先願明細書等に記載されているに等しい事項であるとも、さらに課題解決のための具体化手段における微差であるとも認められない。
したがって、本件発明1は、甲10先願発明と同一であるとすることはできない。

請求人は、審判請求書において、「また、レーザ光照射モードを選択したときは、「CPU202は、レーザ光照射軸O1を 掘削断面上の指定の位置(x_(1),y_(1))に一致させるための鉛直角(θ’a)と水平角(θ’b)とを演算する。」と記載されているように、視準軸モード時と同じ指定位置(x_(1),y_(1))をターゲットとして、鉛直角(θ’a)と水平角(θ’b)とを演算するようになっている。」と主張しているが、指定位置(x_(1),y_(1))をターゲットとすることは甲10号証に係る先願明細書等に記載がない。また、同審判請求書における、「従って、甲第10号証の発明でも、所定位置の視準ターゲットである計画掘削断面上の指定位置(x_(1),y_(1))を視準して計測した際の水平角度、鉛直角度と、同指定位置(x_(1),y_(1))にレーザー光を投射して計測した際の水平角度、鉛直角度とから、望遠鏡の視準軸に対するレーザー光投射装置のレーザー光軸の相対角度データを求めており、本件特許発明の上記1-B’の構成と同一である。」との主張についても、指定位置(x_(1),y_(1))にレーザー光を投射して計測することが甲10号証に係る先願明細書等には記載されていない。
よって、請求人の審判請求書における上記主張は、採用できない。

さらに、請求人が、弁駁書において「視準軸Oとレーザ光照射軸O1間の水平方向のズレ量であるδxと鉛直方向のズレ量であるδyとが固定値だとは、記載されておらず、またそのように解される示唆もない。もし、これら水平方向及び鉛直方向のズレが固定値であるならば、その固定値をそのまま使って(代入して)補正すれば済むことであるが、甲第10号証の発明では、自動視準モード(視準軸モード)時に、計画掘削断面上の指定位置(x_(1),y_(1))をターゲットとして、望遠鏡46の視準軸Oをこの指定位置(x_(1),y_(1))に一致させて鉛直角(θa)と水平角(θb)を演算した後、レーザー光の視準手順モードであるレーザ光照射モードに切り換えて、視準軸モード時と同じ指定位置(x_(1),y_(1))をターゲットとして、鉛直角(θ’a)と水平角(θ’b)とを演算している。この鉛直角(θ’a)と水平角(θ’b)は、上記鉛直角(θa)と水平角(θb)に対して、レーザ光照射軸O1と望遠鏡46の視準軸Oとのズレ量に相当しており、このズレ量を求めること自体、そのズレ量が変量であることを前提としている」と主張している点について、甲10号証に係る先願明細書等には、「オフセット量(δx,δy)」が固定値であることの明記はないが、「オフセット量(δx,δy)」は、上記したように視準軸Oとレーザ光照射軸O1との間のx方向とy方向の間隔として記載されているのであって、これらの間隔が変化すること、及び、これらの間隔が変化することを前提として測定を行うことについては、記載も示唆もされていない。そして、甲10号証に係る先願明細書等に記載された「θ’a=θa+δy/Lz」及び「θ’b=θb+δx/Lz」との演算式における「ズレδy/Lz及びδx/Lz」も、「オフセット量(δx,δy)」を「路線距離Lz」でそれぞれ割ることにより、オフセット量を近似的に角度に変換して、垂直角θa及び水平角θbのそれぞれに補正値として加算しているのであって、ズレ量を求めているからといって、ズレ量が変化することを前提としているということはできないのであり、さらには、上記したように甲10先願発明の「ズレδx/Lz,δy/Lz」の演算に用いられる「オフセット量(δx,δy)」は、一定の値をとるものとして記載されているものと認められるのであるから、請求人の弁駁書による上記主張も採用できない。
また、同弁駁書における甲第10号証の段落【0009】及び【0046】の記載に基づく主張についても、これらの段落の記載からは、「望遠鏡の視準手順とレーザー光の視準手順との2つの視準手順から得られた測量結果から、レーザ光照射軸O1と望遠鏡46の視準軸Oとのズレ量を求め」ることを読み取ることができないから、請求人の段落【0009】及び【0046】の記載に基づく主張も採用することができない。

(2)本件発明2ないし7について
本件発明2ないし7は、本件発明1の発明特定事項をすべて有するとともに、さらに、限定事項を付加したものである。
したがって、本件発明1が甲10先願発明と同一であるとすることができない以上、本件発明2ないし7も同様の理由から、甲10先願発明と同一であるとすることはできない。
本件発明2ないし7についての請求人の主張も、本件発明1が甲第10号証に係る先願発明と同一であるという前提に基づくものであるから、採用できない。

(3)本件発明8について
ア 本件発明8
本件発明8の「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」は、上記したように、望遠鏡部とレーザー光投射装置とが同軸であることを意味していると認められる(上記「第6 1 (3) ア」を参照。)。

イ 本件発明8と甲10先願発明との対比
先願明細書等には、段落【0057】に「また、前記実施例では、視準軸Oとレーザ光照射軸O1が(δx、δy)だけオフセットするものについて述べたが、視準軸Oからマーキング用の赤色レーザ光を照射する構成にすることも可能である。」と記載されており(上記摘記事項(9)参照。)、視準軸Oからマーキング用の赤色レーザ光を照射することは、本件発明8の「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」に相当する。
また、先願発明においては、視準軸Oからマーキング用の赤色レーザ光を照射するときには、オフセット量(δx、δy)が、共に「0」となるのであるから、上記「(1)ア」の本件発明1との対比において「相対角度データ」に相当するとした「ズレδx/Lz,δy/Lz」についても、共に「0」となる。すると、視準軸Oからマーキング用の赤色レーザ光を照射して、オフセット量が無いときの相対角度データは、先願発明には記載されていない。

そうすると、本件発明8と甲10先願発明とは、以下の一致点4で一致し、以下の相違点4で相違する。

(一致点4)
「測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部を備えた測量機と、該測量機の望遠鏡部に取り付けられたレーザー光投射装置と、各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置とからなり、初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無いレーザーマーキング装置を用いたレーザーマーキング方法であって、
所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度を計測する望遠鏡部の視準手順を行い、
レーザーマーキングに当たり、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させることを特徴とするレーザーマーキング方法。」

(相違点4)
本件発明8が、望遠鏡部の視準手順と同じ視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測する「レーザー光の視準手順」を行い、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求め」て、前記相対角度データに基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させるのに対し、甲10先願発明には、そのような事項の記載がない点。

ウ 相違点4についての判断
上記相違点4について検討する。
上記「第6 2 (1) イ 相違点3についての判断」で検討したのと同様に、甲10号証に係る先願明細書等には、望遠鏡部の視準手順と同じ視準ターゲットにレーザー光を投射し、その際の水平角度、鉛直角度を計測する「レーザー光の視準手順」を行うことも、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求め」ることも、記載も示唆もされてず、上記したように、オフセット量が無いときの「相対角度データ」についても記載されていないこととなるのであるから、上記相違点4に係る構成は、甲10号証に係る先願明細書等に記載されているとも、甲10号証に係る先願明細書等に記載されているに等しい事項であるとも、さらに課題解決のための具体化手段における微差であるとも認められない。
したがって、本件発明8は、甲10先願発明と同一であるとすることはできない。
また、請求人の審判請求書における、「請求項1に係る発明の場合と同じ理由で、甲第10号証の発明と同一である。」との主張も、具体的な理由の記載はなく、上記したように本件発明1が甲10先願発明と同一であるとすることもできないのであるから採用できない。

(4)本件発明9について
本件発明9は、本件発明1の方法を装置として記載したものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲10先願発明と同一であるとすることができない。
また、請求人の審判請求書における、「請求項1に係る発明の場合と同じ理由で、甲第10号証の発明と同一である。」との主張も、具体的な理由の記載はなく、上記したように本件発明1が甲10先願発明と同一であるとすることもできないのであるから採用できない。

(5)本件発明10について
本件発明10は、本件発明8の方法を装置として記載したものであるから、本件発明8と同様の理由により、甲10先願発明と同一であるとすることができない。
また、請求人の審判請求書における、「請求項1に係る発明の場合と同じ理由で、甲第10号証の発明と同一である。」との主張も、具体的な理由の記載はなく、上記したように本件発明1が甲10先願発明と同一であるとすることもできないのであるから採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1ないし10の特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-28 
結審通知日 2008-01-07 
審決日 2008-01-21 
出願番号 特願2004-155428(P2004-155428)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (G01C)
P 1 113・ 161- Y (G01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関根 洋之  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 岡田 卓弥
堀部 修平
登録日 2005-04-15 
登録番号 特許第3666816号(P3666816)
発明の名称 レーザーマーキング方法及び装置  
代理人 和泉 久志  
代理人 原田 敬志  
代理人 原田 信市  

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