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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007800067 審決 特許
無効200680190 審決 特許
無効2007800024 審決 特許
無効2007800046 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B32B
管理番号 1174613
審判番号 無効2006-80253  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-11-30 
確定日 2008-02-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3367128号発明「酸素吸収能を有する包装材料」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3367128号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3367128号に係る発明についての出願は、平成 4年12月25日に特許出願されたものであって、平成14年11月 8日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。
これに対し、平成18年11月30日に請求人 日本テトラパック株式会社(以下、「請求人」という。)より無効審判の請求がされた。審判における手続の経緯は、以下のとおりである。

平成18年11月30日 審判請求
平成19年 2月19日 答弁書(被請求人凸版印刷株式会社、以下「被請求人」という。)
平成19年 5月 1日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成19年 5月 7日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成19年 5月16日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成19年 5月16日 口頭審理(特許庁第1審判廷(JTビル内))
平成19年 5月16日 第1回口頭審理調書・書面審理通知
平成19年 7月 4日 無効理由通知・職権審理結果通知
平成19年 8月 6日 訂正請求書(被請求人)
平成19年 8月 6日 意見書(被請求人)

2.訂正請求について
(1)訂正請求の内容
被請求人が請求する訂正の内容は、以下のとおりである。
訂正事項a:特許請求の範囲の請求項1中の
「酸素透過性でかつ非通気性の熱接着性樹脂からなるシール層、および酸素吸収物質を混合した接着剤層を備えたことを特徴とする、酸素吸収能を有する包装材料。」
との記載を、
「酸素透過性でかつ非通気性の熱接着性樹脂からなるシール層、および接着剤に水をトリガーとして反応を開始する酸素吸収物質を、混合量が接着剤100重量部(乾燥時)に対して酸素吸収物質3?30重量部とする接着剤層を備え、前記接着剤層のシール層と反対側に、酸素不透過性材料からなるバリアー層を設けたことを特徴とする、酸素吸収能を有する包装材料。」
と訂正する。

訂正事項b:特許請求の範囲の請求項2から請求項7を削除する。

訂正事項c:発明の詳細な説明の段落【0010】の
「すなわち本発明は、酸素透過性でかつ非通気性の熱接着性樹脂からなるシール層、および酸素吸収物質を混合した接着剤層を備えたことを特徴とする、酸素吸収能を有する包装材料である。
本発明において、酸素吸収物質は、水をトリガーとして反応を開始するものであることが好ましい。
また、酸素吸収物質を混合した接着剤層のシール層と反対側には、酸素不透過性材料からなるバリヤー層を設けることが好ましい。」
との記載を、
「すなわち本発明は、酸素透過性でかつ非通気性の熱接着性樹脂からなるシール層、および接着剤に水をトリガーとして反応を開始する酸素吸収物質を、混合量が接着剤100重量部(乾燥時)に対して酸素吸収物質3?30重量部とする接着剤層を備え、前記接着剤層のシール層と反対側に、酸素不透過性材料からなるバリアー層を設けたことを特徴とする、酸素吸収能を有する包装材料である。」
と訂正する。

(2)訂正の可否に対する判断
(2-1)訂正事項aについて
前記訂正事項aは、以下の訂正事項(a1)ないし(a3)とからなるものである。
(a1)「酸素吸収物質」との記載を、「水をトリガーとして反応を開始する酸素吸収物質」
(a2)「酸素吸収物質を混合した接着剤層」との記載を、「酸素吸収物質を、混合量が接着剤100重量部(乾燥時)に対して酸素吸収物質3?30重量部とする接着剤層」
(a3)シール層、および接着剤層を備えた包装材料であったものを、「前記接着剤層のシール層と反対側に、酸素不透過性材料からなるバリヤー層を設けた包装材料」
と訂正するものである。
前記訂正事項(a1)は、本件特許明細書段落【0017】、【0018】の記載に基づいて、酸素吸収物質が「水をトリガーとして反応を開始するものである」と、酸素吸収物質を限定するものであるから、訂正事項(a1)に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであって、又実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
前記訂正事項(a2)は、本件特許明細書段落【0020】の記載に基づいて、接着剤層に混合する酸素吸収物質の混合量を、「接着剤100重量部(乾燥時)に対して酸素吸収物質3?30重量部」と限定するものであるから、訂正事項(a2)に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであって、又実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
前記訂正事項(a3)は、本件特許明細書段落【0021】の記載に基づいて、包装材料の積層層構成を、シール層及び接着剤層を備え、前記接着剤層のシール層と反対側に、酸素不透過性材料からなるバリヤー層を設けたというように、構成する層の位置関係を明確にし、包装材料の積層構成を限定するものであるから、訂正事項(a3)に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであって、又実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、訂正事項aに係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであって、又実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、当該訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に掲げる事項を目的とするものであって、同特許法第134条第2項並びに同特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合する。
(2-2)訂正事項bについて
前記訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項2ないし7を削除するもので、当該訂正事項bに係る訂正は、請求項の削除を目的とするものであるから、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に掲げる事項を目的とするものであって、同特許法第134条第2項の規定に適合する。
(2-3)訂正事項cについて
前記訂正事項cは、前記訂正事項a及びbによる訂正に伴い、その訂正と関連する発明の詳細な説明の段落【0010】の記載を、訂正された特許請求の範囲の記載に整合させるもので、本件特許の発明の詳細な説明の記載を明りょうにしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とし、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであって、又実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、当該訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に掲げる事項を目的とするものであって、同特許法第134条第2項並びに同特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法126条第2項の規定に適合する。

(3)まとめ
したがって、平成19年 8月 6日付けの訂正請求に係る訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に掲げる事項を目的とし、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであって、又実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同特許法第134条第2項並びに同特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件特許発明
本件特許第3367128号の請求項に係る発明は、前記のとおり平成19年 8月 6日付けの訂正請求に係る訂正が認められるので、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるもので、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、以下のとおりである。

「酸素透過性でかつ非通気性の熱接着性樹脂からなるシール層、および接着剤に水をトリガーとして反応を開始する酸素吸収物質を、混合量が接着剤100重量部(乾燥時)に対して酸素吸収物質3?30重量部とする接着剤層を備え、前記接着剤層のシール層と反対側に、酸素不透過性材料からなるバリアー層を設けたことを特徴とする、酸素吸収能を有する包装材料。」

4.当事者の主張の概要
4-1.請求人の主張の概要
(1)請求人は、無効審判請求書及び口頭審理陳述要領書並びに口頭審理によれば、「本件特許の、請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めている。
そして、その無効理由の概要は、本件特許は、特許法第29条第1項第3号に違反してされたもの又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する、というものであって、以下の甲第1ないし第6号証、甲第8号証を証拠方法として提出している。また、請求人は、以下の参考資料1、1の2、参考資料2、2の差し替え分も併せ、提出している。

甲第1号証:実願昭58-101233号(実開昭60-10768号)のマイクロフィルム
甲第2号証:特開平2‐164535号公報
甲第3号証:特開平4-215842号公報
甲第4号証:特開平3-42241号公報
甲第5号証:国際公開第91/17044号パンフレット、(1991)
甲第6号証:2006年5月25日作成の「委託研究報告書」、株式会社 ラボ 茶木原 雄司作成
甲第8号証:甲第5号証において引用する摘示箇所の翻訳文(引用トないしヌを除く)
合議体注:なお、甲第7号証は第1回口頭審理調書により欠番となった。
参考資料1:甲第5号証で新たに引用する箇所(引用ト?ヌ)を示す同証写しの第1、17、18、26及び27頁
参考資料1の2:甲第5号証で新たに引用する箇所(引用ト?ヌ)の翻訳文
参考資料2:特表平6‐503367号公報
参考資料2の差し替え分:甲第5号証で新たに引用する箇所(引用ト?ヌ)に対応した参考資料2の第4、8、10及び11頁

(2)無効理由
そして、請求人の無効理由を詳細に見ると、大略、以下の無効の理由を主張しているものと認める。
本件請求項1、7に係る各特許発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効とすべきものである。
また、本件特許の請求項1、5及び7に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
本件特許の請求項2、4に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
本件特許の請求項3に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
本件特許の請求項6に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

4-2.被請求人の主張
被請求人は、答弁書及び口頭審理陳述要領書によれば、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めている。
そして、請求人の主張する無効理由には理由はない、と主張し、以下の乙第1ないし第3号証を証拠方法として提出している。

乙第1号証:甲第5号証:国際公開第91/17044号パンフレットの部分翻訳文
乙第2号証:牧廣外2名著「図解プラスチック用語辞典」、表紙、514?515頁、奥付、1989年8月30日初版8刷、日刊工業新聞社発行
乙第3号証:藤井光雄外1名著「プラスチックの実際知識」、表紙、234?235頁、奥付、昭和54年3月10日第6刷、東洋経済新報社発行

5.当審が通知した無効理由の概要について
当審が通知した無効理由通知は、以下の、概略、理由1、2を無効理由とするものである。
[理由1] 本件の訂正前の請求項1ないし7に係る特許発明は、刊行物1、3及び4(甲第1、第5及び第4号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当する。
[理由2] 本件の訂正前の請求項1ないし7に係る特許発明は、刊行物1?4(甲第1、第2、第5及び第4号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当する。

引用文献等
刊行物1: 実願昭58-101233号(実開昭60-10768号)のマイクロフィルム(甲第1号証に同じ)
刊行物2: 特開平2-164535号公報(甲第2号証に同じ)
刊行物3: 国際公開第91/17044号パンフレット、(1991)(甲第5号証に同じ)
刊行物4: 特開平3-42241号公報(甲第4号証に同じ)

そして、無効理由通知の無効の理由として記載されている、発明毎の詳細な「理由」としては、「4.当審の判断」の項に、概略、以下の事項が記載されている。
「4.当審の判断
(1)本件特許発明1について
(1-1)理由1:刊行物1、刊行物3に基づく容易性について
本件特許発明1(前者)と刊行物1(甲第1号証)に記載された発明(後者)との対比
刊行物1には、摘示a1.の記載により、基材シートにコーティングした接着剤層に粉状の脱酸素剤を散布して付着させ吸収層とし、この吸収層の表面を保護層で被覆したことを特徴とする吸収性シートが記載され、摘示a3.及びa4.の記載によれば、この吸収性シートは、容器の蓋材として用いられるときは、吸収層3の表面に透気性の大きいポリエチレン等の熱可塑性合成樹脂で、容器の内面側に位置する酸素を透過する保護層4を形成すること、保護層4を内面に向けて周囲をヒートシールして密封できるようにすること、容器内の酸素は保護層4を透過して吸収層3に吸収され、一方、外部からの酸素はアルミニウム箔等の基材シート1により遮断されることが記載されているものと認められる。
してみると、刊行物1には、「酸素を透過するポリエチレン等の熱可塑性合成樹脂のシール層、および接着剤層に脱酸素剤を散布して付着させた吸収層を備えた、外部からの酸素を遮断する性質を有する基材シートからなる酸素吸収能を有する蓋材」の発明が記載されていると認められる。
そして、後者における「ポリエチレン等の熱可塑性合成樹脂」は、包装材料分野において、一般に、本件特許発明において定義されているような非通気性といえるものであって、当該熱可塑性樹脂によりヒートシールして容器を密封するのに用いられていることので、熱接着性樹脂であるといえるから、「ポリエチレン等の熱可塑性合成樹脂のシール層」は前者における「非通気性の熱接着性樹脂からなるシール層」に相当し、後者における「蓋材」は包装容器の蓋材として用いられており、当該包装分野において、一般に、包装材料として扱われるものであって、蓋材には脱酸素剤を付着させた吸収層が形成されており、「脱酸素剤」は「酸素吸収物質」であり、蓋材は酸素吸収能を有するものであるといえ、前者における「酸素吸収能を有する包装材料」に相当することから、両者は、
「酸素透過性でかつ非通気性の熱接着性樹脂からなるシール層、および接着剤層を備えたことを特徴とする、酸素吸収能を有する包装材料」である点で一致するものの、次の点で相違しているものと認められる。
相違点:積層体の層間に配置した接着剤層が、前者においては、酸素吸収物質を混合した接着剤層であるのに対し、後者においては、脱酸素剤を散布して付着させてなる層である点。
そこで、この相違点について検討する。
刊行物3には、摘示c3.、c5.及びc7.に記載されているように本件特許発明と同じ包装積層材において、内外側層を積層接着する接着剤層に酸素除去組成物を組み入れることで、酸素の侵入を防ぎ、容器内部に存在した又は、ポリマー組成物を通過して漏れた若しくは透過した外気に含まれる酸素を除去することが記載されているものと認められる。
ところで、刊行物3の「酸素除去組成物」は、摘示c7.の記載によると、「「接着剤層」に組み入れる」と記載されているので、この点について検討するに、摘示c1ないし7の記載によれば、「酸素除去組成物」を熱可塑性樹脂中に混合してフィルム形態で用いるだけでなく、コーティング材料として適用することや酸素除去材料を乾燥状態で担体と均一に混合又はブレンドされることなどが記載されていること及び英文で「incorporated into (the material used as an adhesive)」を「組み込む」と翻訳していることを参酌すると、前記「酸素除去組成物」を接着剤層に混合又は配合して用いると記載しているものと解される。
さらに、本件特許発明において、本件特許明細書の段落【0019】や段落【0025】に記載の如く、「酸素吸収物質」とは、「酸素吸収物質」のみからなるものを意味するだけではなく、「酸素吸収物質」を樹脂粉末や他の坦持体に吸着させたものをも包含する意味で使用されているものであり、刊行物3の「酸素除去組成物」は、本件特許発明の「酸素吸収物質」に相当するものであるといえるものである。
してみると、刊行物3には、本件特許発明でいうところの酸素除去剤を接着剤に混合した接着剤層を用いて多層プラスチック包装積層材とすることが記載されてるのものといえる。
とすると、相違点は、刊行物3に記載されているように公知の技術であるから、刊行物1に記載された発明における接着剤層に酸素除去剤を散布することに代えて接着剤層に酸素吸収物質を混合した状態のものを適用することは、刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し、なし得たものと認められる。
そして、本件特許発明1は前記相違点に基づき、刊行物1、3に記載された発明から予測される以上の格別の効果を奏するものとも認められない。
したがって、本件特許発明1は、刊行物1、3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものといえる。

(1-2)理由2:刊行物1ないし3に基づく容易性について
本件特許発明1(前者)と甲第1号証に記載された発明(後者)との一致点・相違点は、前記(1-1)「本件特許発明1について」で述べたとおりである。
そこで、この相違点について検討する。
刊行物2には、摘示b1.ないしb4.の記載によれば、二枚の積層パルプ状物を積層するときに、接着剤と脱臭剤とを混合した特殊接着剤を用いることが記載され、刊行物3には、前記(1-1)において詳述したとおり、本件特許発明でいうところの酸素除去剤を接着剤に混合した接着剤層を用いて多層プラスチック包装積層材とすることが記載されているのものといえる。
積層体において、積層体全体として求める機能を積層体を構成する各層に振り分けて担わせることは基本的な考え方であり、その際に、分担する機能をを有する材料で層を構成することや分担する機能を有する材料を層に添加することで分担する機能を発現させようとすることは常套手段である。そして、接着剤層に層間の接着という機能のみではなく、付加的な機能を持たせること、及びそのような付加的な機能を発現させる手段として機能を発現する材料を接着剤中に混合、添加することは、刊行物2にあっては脱臭剤を,刊行物3にあっては酸素除去剤を、接着剤に混合した接着剤層が記載されているように、公知又は周知の技術といえるものである。
してみると、刊行物1に記載の酸素除去剤を接着剤層に散布させた層に代えて、本願発明の如く酸素除去剤を接着剤に混合した接着剤層とすることは、積層体の基本的な考え方及び刊行物2、3(甲第2、5号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たもの認める。
そして、本件特許発明1は、前記相違点に基づき、刊行物1ないし3に記載された発明から予測される以上の格別の効果を奏するものとも認められない。
したがって、本件特許発明1は、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものといえる。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の「酸素吸収物質」として、水をトリガーとして開始するものと特定するものであるが、摘示c1.、c2.及びc6.に記載されているとおり刊行物3に記載されているものであるから、前記(1-1)又は(1-2)において記載した理由と同様の理由により刊行物1及び3、又は刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものといえる。」

6.刊行物の記載事項
a.刊行物1:甲第1号証
a1.「基材シートにコーティングした接着剤層に粉状の脱酸素剤および/または吸湿剤を散布して付着させ吸収層とし、この吸収層の表面を保護層で被覆したことを特徴とする吸収性シート。」(実用新案登録請求の範囲) a2.「本考案は、包装容器中の酸素や水分を吸収して内容物の変質を防止する吸収性シートに関する。
・・・これにかえて脱酸素剤等を熱可塑性合成樹脂にブレンドしてシート状に成形した物が提案されている。・・・成形時の熱履歴等により、吸収性が不安定であり、脱酸素剤等のブレンドにより合成樹脂の成形性が悪化するという問題があった。」(明細書第1頁下11行?第2頁2行)
a3.「第1図に示すように本考案は、基材シート1にコーティングした接着剤層2に粉状の脱酸素剤・・・を散布して付着させ吸収層3とし、この吸収層3の表面を保護層4で被覆したことを特徴とする吸収性シートである。
基材シート1としては、紙、アルミニウム箔、プラスチックシート等適宜のシートが使用できる。
接着剤層2としては、・・・ウレタン系接着剤等をコーティングして得られる。この接着剤が軟化状態のうちに、粉状の脱酸素剤・・・を散布して接着剤層表面に付着させて吸収層3を形成する。脱酸素剤としては活性酸化鉄やフェノール化合物等の粉状のものが使用・・・できる。
吸収層3の表面には、ポリエチレン・・・等の熱可塑性合成樹脂を溶融コーティングしたり、紙、プラスチックフイルムをドライラミネートして保護層4を形成することができる。
基材シート1および保護層4は、・・・容器の外面側に位置する場合は、アルミニウム箔や塩化ビニリデンコートフィルムのような透気性および/または透湿性の小さいもの、容器の内面側に位置する場合は、ポリエチレン等透気性の大きいもの・・・が好ましい。」(明細書第2頁9行?第3頁18行)
a4.「本考案のシートを用いて包装を行うにはたとえば第2図に示すように、合成樹脂製成形容器5の開口部に、蓋材として保護層4を内面に向けて周囲をヒートシールして密封すれば、容器内の酸素は保護層4を透過して吸収層3に吸収され、一方外部からの酸素はアルミニウム箔等の基材シート1により遮断されるので内容物6の酸化が防止されるのである。
以上説明したように本考案の吸収性シートは、・・・吸収層を散布により形成するので熱履歴をあまり受けず、吸収能力が安定しており成形加工し易いという優れた効果を奏するものである。」(明細書第3頁19行?第4頁12行及び第1、2図参照)

b.刊行物2:甲第2号証
b1.「本発明はペーパタオルやトイレットペーパー或は包装用材料等の脱臭用途に使用できる、積層パルプ状物の製造技術に関する。」(第1頁右下欄8?10行)
b2.「本発明は、二枚の積層パルプ状物を積層する前に、・・・各パルプ状物の積層予定面の凸部の突端部のみに、接着剤と脱臭剤の混合物を塗布し、これらのパルプ状物を接着して製造する。積層パルプ状物及びその製造方法に関する。」(第2頁左上欄3?9行)
b3.「〈ハ〉接着剤
本発明では、接着性及び脱臭性を有する特殊接着剤を使用して両パルプ状物10、11を接合する。
特殊接着剤としては、次の(a)と(b)を混合したものを使用できる。
(a)接着剤の構成材例
・ポリビニールアルコール。
・変性でんぷん。
・尿素樹脂系接着剤等。
(b)脱臭剤の構成材例
・植物から抽出されたフラボノール系物質。
・第一鉄塩とアスコルビン酸の混合物等。」(第2頁右上欄15行?同頁左下欄7行)
b4.「本発明は以上説明したようになるから次の効果が得られる。
〈イ〉積層パルプ状物に脱臭機能を容易に付与することができる。
従って、脱臭性を活用できる各種用途へ広範囲に適用できる。」(第3頁右上欄1?6行)

c.刊行物3:甲第5号証 (英文と併記された翻訳文については、口頭審理陳述要領書に添付された、双方が認め合った両当事者の翻訳に依拠した翻訳文である。)
c1.「1.An oxygen scavenging composition comprising a carrier which is permeable to both oxygen and water or water vapor; an organic compound which is dispersed relatively uniformly throughout the carrier in an amount sufficient to act as an oxygen scavenger and which is capable of reacting with oxygen after activation with water or water vapor which permeates the carrier; and a catalyzing agent in an amount effective to increase the rate of reaction of the organic compound with oxygen which is present in or permeates through or into the carrier .」(請求項1)(1.酸素及び水又は水蒸気の両方に対して透過性である担体と、酸素除去剤として働くために十分な量で、その担体中に比較的均一に分散され、担体を透過してきた水又は水蒸気により活性化した後、酸素と反応できる有機化合物、及び担体を介してあるいはその中に、存在するか、透過する酸素と有機化合物との反応速度を増加するのに十分に効果のある量の触媒作用する剤とからなっている酸素除去組成物。)
c2.「20.An oxygen scavenging composition comprising a carrier which is permeable to both oxygen and water or water vapor and an oxygen scavenging material of a polycarboxylic or salicylic acid chelateor complex of a transition metal or a salt thereof, disperesd relatively uniformly throughout the carrier in an amount effective to act as an oxygen scavenger, wherein the polycarboxylic or salicylic acid transition metal chelate or complexis activated for cavenging oxyge by contact with water or water vapor which is present in or permeates through or into the carrier.
・・・・・・
23.The comlposition of claim 20 further composing a reducing agent for increasing the effectiveness of the transition metal chelate or complex.
24.The composition of claim 23 wherein the reducing agent is an ascorbate compound.」(請求項20、23、24)
(20.酸素及び水又は水蒸気の両方に対して浸透性である担体と、酸素除去剤として働くために十分な量においてこの担体にわたって比較的均一に分散されている遷移金属のポリカルボン酸もしくはサリチル酸のキレート又は 錯体あるいはその塩の酸素除去材料とを含み、このポリカルボン酸もしくはサリチル酸のキレート又は錯体が、存在しているか又はこの担体を介してもしくはその中へと浸透する水又は水蒸気との接触によって酸素の除去のために活性化される酸素除去組成物。
・・・・・・
23.この遷移金属キレート又は錯体の有効性を高めるための還元剤を更に含んで成る、請求の範囲20に記載の組成物。
24.還元剤がアスコルビン酸化合物である、請求の範囲23に記載の組成物。)
c3.「The present invention relates to a polymer composition containing oxygen scavenging compounds therein, for use in packaging beverages, foods, pharmaceuticals and the like. In particular, these polymer compositions have utility as liners or gasketing materials for crowns, closures, lids or caps of various containers such as bottles or cans to prevent oxygen ingress and to scavenge oxygen which is present inside the container, or contained in outside air leaking past or permeating through the polymer composition. These polymer compositions may also be used in the construction of the container, as the container material itself or as a barrier layer thereupon or therein, to present oxygen ingress therethough or to scavenge oxygen therein.」(第1頁4?17行)(本発明は飲料、食品、医薬品等において利用するための酸素除去化合物を含むポリマー組成物に関する。特に、これらのポリマー組成物は、種々の容器の、例えば、ボトルや缶の王冠、栓、蓋、キャップ用のライナーやガスケット材として有用であり、酸素の侵入を防ぎ、容器内部に存在した又は、ポリマー組成物を通過して漏れた若しくは透過した外気に含まれる酸素を除去する。これらのポリマー組成物は、容器の構造において、容器材料自体として、又は、その上に若しくはその中にあるバリア層として用いられ、それを通過して酸素が侵入することを防ぎ、その中の酸素を除去する。)
c4.「In addition, sprayed or dipped coatings of epoxies, polyesters or other conventional coating materials are useful as carriers for the oxygen scavenging compositions of the invention. The most preferred polymers or other materials which may be used as the carrier are those which are pervious to water vapor at room temperature, so that exposure to elevated temperatures is not necessary to activate the oxygen scavenging capabilities of the composition. The oxygen scavenging material is uniformly dispersed in and throughout the carrier by a direct mixing technique. Advantageously, the oxygen scavenging material is mixed or blended into the carrier in a dry state.」(第16頁30行?第17頁9行)(加えて、噴霧又は浸漬コーティングに用いるエポキシ、ポリエステル、その他の常用のコーティング材料が、本発明の酸素除去組成物のための担体として有用である。担体として用いられる最も好ましいポリマー又はその他の材料は、室温で水蒸気を透過させるものであり、従って、組成物の酸素除去能を上げるために高温にさらす必要がない。酸素除去材料は、直接的に混合する技術により担体中に全体に均一に分散される。酸素除去材料は乾燥状態で好都合に担体に混合又はブレンドされる。)
c5.「Another embodiment of the invention relates to a package (for, e.g., a foodstuff, beverage, or pharmaceutical product) comprising means for supporting or retaining the product, and an oxygen scavenging composition material in contact with the product (or in contact with the environment between the product and the package) for scavenging oxygen therefrom so as to avoid detrimental effects to the performance, odor or flavor properties of the product. The oxygen scavenging composition may be present on an inside surface of the product supporting or retaining means. This means can be in the form of carrier film, with the oxygen scavenging composition being dispersed relatively uniformly throughout the carrier film. If desired, one or a plurality of polymer films may be used, with at least one layer of adhesive or binder there between, with the oxygen scavenging composition being present in at least one of the polymer films or layers. Also, the oxygen scavenging composition can be applied as a coating or lining upon the inside surface of the product supporting or retaining means to function as a barrier to oxygen permeation.」(第17頁16行?第18頁3行)(本発明の他の態様は、包装(例えば、食品、飲料又は医薬製品用)に関し、その包装は、製品を支持又は保持する手段及び、製品と接触して(又は製品と包装の中間環境と接触して)そこから酸素を除去するための酸素除去組成物とからなり、製品の効力、香り又はフレーバの劣化を抑える。酸素除去組成物は、製品支持/保持手段の内側面にあってもよい。この手段は、担体フィルムの形態であることができ、酸素除去組成物が担体フィルムに比較的均一に分散されている。好ましくは、単一又は複数のポリマーフィルムを用いてもよく、その間に接着剤層又は結合層を用いて、そのポリマーフィルム若しくはその層の少なくとも一つに存在する酸素除去組成物を用いる。また、酸素除去組成物を、製品支持/保持手段の内面上にコーティング又はライニングとして適用して、酸素浸透に対するバリアとして機能させることができる。)
c6.「The inclusion of a catalyzing agent with the ascorbate compound greatly enhances the rate of oxygen scavenging after the asocorbate compound is ativated by exposure to water or water vapor. It has been found that a transition metal compound, in the form of an organic or inorganic salt, or as a complex or chelate, is useful in accelerating (i.e., catalyzing) the rate of oxygen scavenging by the ascorbate compound.」(第20頁12?19行)(水又は水蒸気にさらされることで活性化されたアスコルビン酸化合物は触媒機能剤を含むことにより酸素除去速度を非常に高められる。遷移金属化合物の有機塩又は無機塩、あるいはその錯体又はキレート体が、アスコルビン酸化合物による酸素除去速度を加速する(いわゆる、触媒作用により)のに有益である。)
c7.「For example, individual portion packages of foods are commonly packaged in plastic containers comprising one or multiple layer(s) of plastic and or adhesive (“tie layers), which layers are selected for various properties. This invention may be practiced in the construction of such a container (and the container's performance improved thereby) by the use of an oxygen scavenging material of the invention as (or as a component of) one or more layer(s) in the container (or in the raw materials of which a single-layer container is made). For example, a multi-layer package might consist of a decorative, easily-printable, high-temperature stable outer layer (which is undesirably pervious to oxygen), an all-white (for esthetic purposes) inner layer, and one or more center layer(s) which either is/are made entirely of or incorprate(s) an oxygen-scavenging composition of this invention. The layer(s) comprising the oxygen scavenger may be otherwise similar to, or to very dissimilar to, adjacent layers. The oxygen scavenging composition of the invention may also be incorporated into the materials used as an adhesive between adjacent layers of plastic or incorporated into the adhesive which holds adjacent layers together.」(第26頁20行?第27頁8行)(例えば、食品の小分けパッケージは、単層又は多層のプラスチック及び/又は接着剤(「結合層」)からなるプラスチック容器に、通常、包装され、これらの層は、種々の特性にために選択される。本発明は、容器の単層又は多層として、(若しくは層の成分として)、(若しくは単層容器を成形する原材料として)、本発明の酸素除去材料を使用してその容器を作成することで、(更に、これによって改善される容器性能を発揮することで)実施される。例えば、多層容器は、意匠的な、易印刷可能な、高温安定な(好ましくはないが酸素浸透性の)外層と、(美的目的のための)全体白色の内層と、本発明の酸素除去組成物から全体的に作られるか、それとも酸素除去組成物を組み込む-又はそれ以上の中間層とから成ってもよい。酸素除去剤を含んで成る層は、そのほかの点では、隣接層と類似していても非常に類似していなくてもよい。本発明の酸素除去組成物は、プラスチック隣接層の間の接着剤として用いる材料に組み入れるか、又は隣接層を一緒に支える接着剤の中に組み入れてよい。)
c8.「It is further well known in the plastics manufacturing art to utilize concentrates or "master batches" of various sorts in the preparation to finanl mixtures of materials for eventual use in manufacturing finished articles . For instance , prepareation and use of highly concentorated forms of oxygen control chemicals in carrior (e.g., PVC, plastisol, or epoxy can coatings, gasketing, spray, roll-on ,and dip coatings gasket and the like ) may prove convenient in the manufacture of the composition which will eventually be used as final oxygen-scavenging compositions of this invention. The present invention lends itself readily to such practices, which are fully within the scope contemplated for the invention.
In these formulations, it is preferred to use an amount of this oxygen scavenging compound ranging from about 0.1 to 20, preferably 1 to 12 parts by weight based on 100 parts by weight of the polymer (i.e., between 10 and 1000, and preferably between 50 and 600 micromoles of scavenger compound per gram of polymer for compounds having molecular weights of between 200 and 500 grams per mole).」(第28頁26行?第29頁11行)(最終製品を製造する際使用される材料の最終混合物を調製する場合に様々な種類の濃縮物又は「マスターバッチ」を利用することは、プラスチック製造技術分野においてにおいてよく知られていることである。例えば、キャリアー中(例えば、PVC、プラスチゾル、あるいはエポキシ樹脂缶噴射、ガスケット、噴霧、ロール塗布、及びガスケット及び類似物の浸漬塗布といったそのキャリアー中)の酸素制御化学物質の高濃度形態の調製及び高濃度形態での使用は、この発明の最終的な酸素除去組成物として使用されることとなる組成物の製造において便利なことを実証することになる。本発明はこのような実施に容易に役立つもので、十分に発明の属する範囲内にある。これらの処方として、この酸素除去化合物の量は、ポリマー100重量部当たり0.1?20重量部、より好ましくは、1?12重量部の範囲で使用することが好ましい(その化合物が1モル当たり200と500グラムの間の分子量を持っているものについて、ポリマー1グラム当たりの酸素除去化合物は、マイクロモル単位で、10?1000の間、好ましくは、50?600の間で使用する。)。)
c9.「By way of example, one way of distributing the oxygen scavenging material throughout a carrier is by preparing direct blend polymers, either as "master batch " concentrates or as final product. For preparation of a manufacture of the final compositions, very high weight percentages of oxygen scavenging ingredients (up to, e.g., 75-90%)may be used.」(第32頁3?10行)(例えば、担体内に酸素除去材料を分配させる一つの方法は、「マスターバッチ」濃縮物又は最終製品のいずれかとしての直接配合ポリマーを調製することによる。最終組成物の製造の調製のために、酸素除去成分の高重量%(例えば、75?90%)を用いることができる。)

7.当審の判断
7-1.理由1:刊行物1、刊行物3に基づく容易性について
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、前記摘示a1.の記載により、基材シートにコーティングした接着剤層に粉状の脱酸素剤を散布して付着させ吸収層とし、この吸収層の表面を保護層で被覆したことを特徴とする吸収性シートが記載され、前記摘示a3.及びa4.の記載によれば、この吸収性シートは、第2図の説明として、容器の蓋材として用いられるときは、吸収層3の表面に透気性の大きいポリエチレン等の熱可塑性合成樹脂で、容器の内面側に位置する酸素を透過する保護層4を形成すること、保護層4を内面に向けて周囲をヒートシールして密封できるようにすること、容器内の酸素は保護層4を透過して吸収層3に吸収され、一方、外部からの酸素はアルミニウム箔等の基材シート1により遮断されることが記載されているものと認められる。
してみると、吸収層の容器の内部側とは反対側、すなわち、接着剤層の容器内側と反対の外部側には、外部の酸素が容器内に入るのを遮断するアルミニウム箔等の「基材シート」が設けられることが明示され、「基材シート」は「酸素遮断性シート」であることが記載されているものと認められる。
したがって、刊行物1には、
「容器の内面側に位置する、酸素を透過するポリエチレン等の熱可塑性合成樹脂の保護層、および接着剤層に脱酸素剤を散布して付着させた吸収層を備え、吸収層の容器の内面側と反対側に位置する、外部の酸素を遮断する性質を有する基材シートを設けた酸素吸収能を有する蓋材」
の発明が記載されていると認められる。

(2)本件特許発明(前者)と刊行物1(甲第1号証)に記載された発明(後者)との対比
そして、後者における「吸収層」は、接着剤とその接着剤層に脱酸素剤を散布して付着した層であり、脱酸素剤はその目的から酸素を吸収する物質であるから、後者の「吸収層」は「酸素を吸収する物質を有する接着剤層」であるといえ、前者の「酸素吸収物質を混合した接着剤層」もその目的から「酸素を吸収する物質を有する接着剤層」といえるものであるから、後者の「吸収層」も前者の「酸素吸収物質を混合した接着剤層」も共に「酸素を吸収する物質を有する接着剤層」といえる。
また、後者における吸収層の表面を被覆する「保護層」は、透気性の大きいポリエチレン等の熱可塑性合成樹脂であって、容器の内側に位置し酸素を透過するもので、容器内の酸素を透過して吸収層に吸収できるようにするためのものであり、さらに、保護層と容器の周囲とはヒートシールして密封できるようにすることが記載されている。そして、「ポリエチレン等の熱可塑性合成樹脂」は、包装材料分野において、一般に、前者の特許明細書中において定義されているような「非通気性」といえるものであって、後者の当該熱可塑性樹脂により容器を密封する蓋材を容器にヒートシールしているので、熱接着性樹脂であるといえる。
よって、後者の「酸素を透過するポリエチレン等の熱可塑性合成樹脂の保護層」は、酸素透過性の非通気性の「シール層」であるといえるもので、前者における「酸素透過性でかつ非通気性の熱接着性樹脂からなるシール層」に相当する。
後者における「蓋材」は包装容器の蓋材として用いられており、当該包装分野において、一般に、包装材料として扱われるものであって、蓋材には脱酸素剤を付着させた吸収層が形成されており、「脱酸素剤」は「酸素を吸収する物質」であるから、蓋材は酸素吸収能を有するものであるといえ、前者における「酸素吸収能を有する包装材料」に相当する。
以上のことから、両者は、
「酸素透過性でかつ非通気性の熱接着性樹脂からなるシール層、および酸素を吸収する物質を有する接着剤層を備え、前記接着剤層のシール層と反対側に、酸素不透過性材料からなるバリアー層を設けたことを特徴とする、酸素吸収能を有する包装材料」
である点で一致するものの、次の点で相違しているものと認められる。
相違点1:酸素を吸収する物質が、前者においては、水をトリガーとして反応を開始するものであるのに対し、後者においては、脱酸素剤である点
相違点2:酸素を吸収する物質を有する接着剤層が、前者においては、接着剤に酸素吸収物質を混合した接着剤層であるのに対し、後者においては、接着剤に脱酸素剤を散布して付着させた接着剤層である点
相違点3:酸素を吸収する物質の混合量は、前者においては、接着剤100重量部に対して酸素吸収物質3?30重量部とするのに対し、後者においては、特に特定されていない点

(3)対比判断
そこで、この相違点1ないし3について検討する。
(イ)相違点1について
刊行物3の前記摘示c1.、c2.c6.及びc7.の記載によれば、刊行物3は、「酸素除去組成物」を酸素を吸収する物質として使用し、その「酸素除去組成物」を接着剤に組み入れた接着剤層の形態で適用することで、酸素の侵入、又は存在する酸素の除去を実現することを目的としているものであり、また、本件特許発明と同じ包装材料として用いるものである。しかも、その「酸素除去組成物」は、「酸素を吸収する物質」として、水をトリガーとして開始する酸素除去剤を使用するものであるから、刊行物1に記載された発明の「酸素を吸収する物質」として水をトリガーとして開始するものを選択することに格別の創意も困難性も認めることはできない。
そして、刊行物1には、容器の内側に位置する場合は、ポリエチレン等の透気性の大きいものあるいは紙のように透気性、透湿性とも大きいものが好ましいとの記載があるように、内側保護層が透湿性を有していてもかまわないものと解されるから、刊行物1に記載された発明において水をトリガーとして開始する酸素を吸収する物質を用いることを阻害する記載も認められない。
してみると、刊行物1に記載された発明において相違点1に係る酸素を吸収する物質として、脱酸素剤に代えて水をトリガーとして開始する酸素を吸収する物質を採用することは、刊行物3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものといえる。

(ロ)相違点2について
刊行物3には、前記摘示c3.、c5.及びc7.の記載によれば、本件特許発明と同じ包装材料である包装積層材において、内外側層を積層接着する接着剤層に酸素除去組成物を組み入れることで、酸素の侵入を防ぎ、容器内部に存在した又は、ポリマー組成物を通過して漏れた若しくは透過した外気に含まれる酸素を除去することが記載されているものと認められる。
ところで、刊行物3の「酸素除去組成物」は、前記摘示c7.の記載によると、「本発明の酸素除去組成物から全体的に作られるか、それとも酸素除去組成物を組み込む-又はそれ以上の中間層とから成ってもよい。酸素除去剤を含んで成る層は、そのほかの点では、隣接層と類似していても非常に類似していなくてもよい。本発明の酸素除去組成物は、プラスチック隣接層の間の接着剤として用いる材料に組み入れるか、又は隣接層を一緒に支える接着剤の中に組み入れてよい。」と記載されており、「「接着剤層」に組み入れる又は組み込む」と記載されているので、この点について検討するに、前記摘示c1.ないしc7.の記載によれば、「酸素除去組成物」を熱可塑性樹脂中に混合してフィルム形態で用いるだけでなく、コーティング材料とともに適用することや酸素除去材料を乾燥状態で担体と均一に混合又はブレンドされることなどの使用形態が記載されていること、及び英文で「incorporated into (the material used as an adhesive)」、「incorporated into (the adhesive)」を「組み込む」、「組み入れる」と翻訳していることを参酌すると、「『接着剤層』に組み入れる又は組み込む」とは、前記「酸素除去組成物」を接着剤層に混合又は配合して用いると記載しているものと解される。
また、本件特許発明において、本件特許明細書の段落【0019】や段落【0025】に記載の如く、「酸素吸収物質」とは、「酸素吸収物質」のみすなわち「酸素吸収剤」そのものからなるものを意味するだけではなく、「酸素吸収剤」を樹脂粉末や他の担持体に吸着させたものをも包含する広い意味で使用されているものであるから、刊行物3の担体と酸素除去剤とからなる「酸素除去組成物」は、本件特許発明の「酸素吸収物質」に相当するものであるといえるものである。
してみると、刊行物3には、本件特許発明でいうところの酸素吸収物質を接着剤に混合した接着剤層を用いて多層プラスチック包装積層材とすることが記載されているといえるから、刊行物1に記載された発明の「酸素を吸収する物質を有する接着剤層」として、「酸素吸収物質を混合した接着剤層」とすることは、刊行物3に記載されている公知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることと認められる。
したがって、刊行物1に記載された発明において、「酸素を吸収する物質を有する接着剤層」として、「接着剤に脱酸素剤を散布して付着させた接着剤層」に代えて、「酸素吸収物質を接着剤に混合した接着剤層」とすることは、刊行物3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し、なし得たものと認められる。

(ハ)相違点3について
刊行物3には、本件特許発明と同じ包装材料である包装積層材中の酸素を吸収する物質を有する酸素吸収能を発現するための層へ混合する酸素除去化合物の混合量として、ポリマー量に対する重量部として0.1?20重量部添加することが記載されている(前記摘示c8.)。また、刊行物3には、担体に酸素除去材料を分配させる一つの方法である、マスターバッチ又は濃縮物を作る場合、その濃縮物又はマスターバッチの製造に関して、酸素除去化合物の濃度として75?90%までを用いることが記載されている(前記摘示c9.)。そして、一般に、マスターバッチ又は濃縮物を利用する製造方法の場合、これら高濃度の材料と何にも入らない材料(バージン材料)とを混合して目的の濃度の材料を調製し、使用するということは技術常識である。
してみると、刊行物3の前記摘示c8.、c9.及び刊行物3のその他の記載を考慮すると、刊行物3には、酸素除去化合物を高濃度に含有する担体と酸素除去化合物の混入していない担体とを混合して使用時の酸素除去化合物の使用濃度に調製することが記載されているものといえ、刊行物3における「ポリマー100重量部に対し酸素除去化合物0.1?20重量部」との混合量は、刊行物3における最終的な酸素除去機能を有する包装積層材に適用したときの、包装積層材の使用形態における酸素除去化合物の混合量を意味しているものと解され、刊行物3において「ポリマー100重量部に対し酸素除去化合物0.1?20重量部」添加するということは、本件特許発明における「接着剤100重量部に対して酸素吸収物質3?30重量部」を混合することに相当するもので、本件特許発明の酸素吸収物質の混合量と重複するものであるといえる。
そうすると、刊行物3には、本件特許発明と同じ包装材料である包装積層材において包装積層材中の酸素を吸収する物質を有する酸素吸収能を発現するための層に、酸素吸収物質を本件特許発明の混合量と重複する範囲で使用することが記載されているといえる。
しかも、本件特許発明において、被請求人が主張するようにその酸素吸収物質3?30重量部との数値範囲を規定した理由は、「酸素吸収物質の接着剤への混合量は、目的とする酸素吸収能により異なるが、接着剤100重量部(乾燥時)に対して3?30重量部とすることが好ましい。これより少ないと、酸素吸収能が著しく低く、他方、これより多いと接着剤の接着能に支障が生じるためである。」という意味合いにすぎず、その数値範囲に格別の技術的意義もなく、当業者なら当然に考慮する事項の範囲内のことにすぎない。
したがって、刊行物1に記載された発明の包装材料において、酸素を吸収する物質を有する接着剤層における前記相違点3に係る「酸素を吸収する物質の混合量」を、「接着剤100重量部に対して酸素吸収物質3?30重量部」とすることは、刊行物3に記載された事項に基づいて当業者が必要に応じて適宜選択し、容易になし得るものと認められる。

(4)まとめ
以上のとおり、刊行物1に記載された発明に前記相違点1ないし相違点3に係る本件特許発明の構成を適用することは、刊行物3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることであり、そして、本件特許発明は前記相違点に基づき、刊行物1、3に記載された事項から予測される以上の格別の効果を奏するものとも認められない。
したがって、本件特許発明は、刊行物1、3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものといえる。

7-2.理由2:刊行物1ないし3に基づく容易性について
刊行物1に記載された発明、本件特許発明(前者)と刊行物1に記載された発明(後者)との一致点・相違点は、前記「7-1.理由1:刊行物1、刊行物3に基づく容易性について (1)及び(2)」で述べたとおりである。
そこで、各相違点1ないし3について検討する。
相違点1、3については、前記「7-1.(3)(イ)及び(ハ)」に記載したのと同様の理由により、当業者が容易に想到し得たものといえる。
相違点2について
刊行物2には、前記摘示b1.ないしb4.の記載によれば、二枚の積層パルプ状物を積層するときに、接着剤と脱臭剤とを混合した特殊接着剤を用いることが記載され、刊行物3には、前記「7-1.(3)(ロ)」において詳述したとおり、本件特許発明でいうところの「酸素を吸収する物質を接着剤に混合した接着剤層」に相当する「酸素除去組成物を接着剤に混合した接着剤層を用いて多層プラスチック包装積層材とすることが記載されているのものといえる。
積層体において、積層体全体として求める機能を積層体を構成する各層に振り分けて担わせることは基本的な考え方であり、その際に、分担する機能を有する材料で層を構成することや分担する機能を有する材料を層に添加することで分担する機能を発現させようとすることは常套手段である。
そして、接着剤層に層間の接着という機能のみではなく、付加的な機能を持たせること、及びそのような付加的な機能を発現させる手段として付加したい機能を発現する材料を接着剤中に混合、添加することは、刊行物2にあっては脱臭剤を、刊行物3にあっては酸素除去組成物を、接着剤に混合した接着剤層が記載されているように、積層体に係る技術分野において、公知又は周知の技術といえるものである。
してみると、接着剤に酸素吸収機能を付与するために酸素を吸収する物質を接着剤に混合して用いることは、刊行物2、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるから、刊行物1に記載された発明の「酸素を吸収する物質を有する接着剤層」として「接着剤に酸素吸収物質を混合した接着剤層」とすることは、積層体の基本的な考え方及び刊行物2、3(甲第2、5号証)に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たもの認める。
したがって、刊行物1に記載された発明において、「酸素を吸収する物質を有する接着剤層」として、「接着剤層に脱酸素剤を散布して付着させた接着剤層」に代えて、「酸素吸収物質を接着剤に混合した接着剤層」とすることは、刊行物2、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し、なし得たものと認められる。
以上のとおり、刊行物1に記載された発明に、前記相違点1ないし相違点3に係る本件特許発明の構成を適用することは、刊行物2、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることであり、そして、本件特許発明は、前記相違点に基づき、刊行物1ないし3に記載された事項から予測される以上の格別の効果を奏するものとも認められない。
したがって、本件特許発明は、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものといえる。

8.被請求人の主張について
被請求人は、当審が通知した無効理由に対して、平成19年 8月 6日付けの意見書において、以下の点で反論しているものと認められるので、さらに検討する。
(1)「第三 意見の内容 一 理由1について 1 本件発明の誤認」の項
(1a)本件発明は、基本的には熱を加えることなく、かなりの高温のもとに熱可塑性樹脂ポリマーに比較的均一に酸素除去剤を分散させた、刊行物3におけるような酸素除去剤組成物とは異質のものであるから、「刊行物3の酸素除去組成物は本件特許発明の「酸素吸収物質」に相当するものであるといえるものである。」との認定は本願発明の誤認による旨主張する。

(i)まず、第1に、刊行物3は、そもそも、「酸素除去組成物」を酸素を吸収する物質として使用し、その「酸素除去組成物」を、フィルムを形成する材料中に混合して形成したフイルム層、担体であるコーティング材料に混合して用いたコーティング層及び接着剤に組み入れた接着剤層の形態で適用することで、酸素の侵入、又は存在する酸素の除去を実現することを目的としていることが記載されているもので、また、本件特許発明と同じ包装積層材料に用いるものであることから、本件特許発明と同じ技術分野、同じ目的を達成するための酸素吸収物質の適用態様が記載されているといえるものである。
(ii)刊行物3のそのような記載事実に着目して、無効理由通知の理由1及び理由2においては、前記無効理由通知の「4.(1-1)」において、本件特許発明と主引例である刊行物1に記載された発明との「相違点」として記載しているように、さらには、被請求人も答弁書等で認めている相違点、すなわち、本件特許発明と主引例である刊行物1に記載された発明との、接着剤層に酸素吸収物質を「混合したもの」と、「散布し、付着たもの」という相違点が、容易想到であることの根拠として引用した副引例として、刊行物3を位置付けているものである。
(iii)そして、刊行物3には、相違点が容易想到であることの根拠となる、相違点として認定している「接着剤に酸素吸収物質を混合した」接着剤層に相当する「接着剤に酸素吸収能を有する「酸素除去組成物」を組み入れた」接着剤層、すなわち「接着剤に酸素吸収する物質を混合した」接着剤層が記載されているものと認められ、その接着剤層を包装積層材料に用いたときに、層間を接着するとともに、酸素の侵入、又は存在する酸素の除去を実現することも記載されている。
(iv)以上のとおり、刊行物3は、熱が加えられる加えられないといったことを云々するまえに、そもそも、接着剤に酸素を吸収する物質を混合した状態で適用することが積層材料において公知の技術であるのか、ないのかを明らかにするために、無効理由の中で引用されているものであるから、その意味で、刊行物3は接着剤に酸素を吸収する物質を混合するということが公知の技術であることを十分に裏付けているものである。
してみると、被請求人の主張は、刊行物3の引用例としての位置付けを誤って解釈したものか、自己の都合のよいように解釈した、恣意的な主張にすぎないので、被請求人の主張は認められない。
(1b)被請求人は、「刊行物3の酸素除去組成物は本件特許発明の「酸素吸収物質」に相当するものであるといえるものである。」との認定は本願発明の誤認による旨の主張をしている。
被請求人が主張するような「認定の誤認」もないものといえる。以下、詳述する。
被請求人の主張は、訂正後の本件特許明細書の特許請求の範囲の記載に基づかないものであり、認められない。
すなわち、特許請求の範囲の記載自体に構成が不明なところはなく、その特許請求の範囲には、「酸素吸収物質を混合」する旨記載するのみで、熱を加えた、加えないなどということを特定するところはなく、接着剤に混合するものが「酸素吸収物質」、つまり、酸素を吸収する物質であることを規定するのみで、酸素を吸収するものであれば足り、特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
特許請求の範囲の記載は、混合するものが「酸素吸収物質」であることが明りょうで、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が明確に記載されているのであり、被請求人が主張するように「酸素吸収化合物」そのものを混合するものとは記載されていないことから、仮に、「酸素吸収物質」が明らかでないとして、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌したとしても、被請求人が引用する段落【0019】に規定されているとおり、本件特許発明の「酸素吸収物質」は樹脂粉末や他の担体に酸素吸収物質を吸着させたり、マイクロカプセル化して混練、分散したものでもよいもので、酸素吸収化合物そのものでなくてもかまわないことが記載されているのであるから、刊行物3に記載された「酸素除去組成物」、すなわち、「合成樹脂の担体と酸素除去化合物とからなるもの」と同じものを包含する記載となっているところであり、刊行物3の「酸素除去組成物」は本件特許発明の「酸素吸収物質」に相当するとの認定に誤りはない。
(1c)被請求人は刊行物3の「酸素除去組成物」が「かなりの高温のもとに熱可塑性樹脂ポリマーに酸化除去剤を分散させた」ものであるから、本件特許発明の「酸素吸収物質」とは異質のものということを根拠に認定は誤認であるとの主張をしている。

確かにそのような記載のものではあるが、前記「8.(1)(ii)」で言及したように、無効理由の中での刊行物3の引用例としての位置付けを無視した主張であり、受け入れることはできない。
被請求人の主張のとおり、仮に、「酸素除去組成物」が酸素吸収能の低下をきたしたものであっても、刊行物3では、酸素吸収物質としての「酸素除去組成物」を接着剤に混入しているものであることは明らかであり、かつ「酸素除去組成物」を前記「8.(1)(iii)」で述べたように「酸素を吸収する物質」を接着剤に混合して用いている状態で積層材料に適用していると無効理由の中で認定した点に誤りはないから、無効理由の「刊行物3の酸素除去組成物は本件特許発明の「酸素吸収物質」に相当するものであるといえるものである。」との認定は妥当なものである。

(2)「2 適用阻害要因の看過」の項
(2a)「この「酸素除去組成物」は、そのままポリマーフィルムとして使用するほか、その組成物で容器を製造することも開示されており、接着剤に組み入れてもよいものである。しかし、本件発明におけるように、「酸素吸収物質」そのものをそのまま接着剤層に混合して組み入れるとの記載はなく、その示唆もない。」(「2」の「(2)刊行物3に記載の「酸素除去組成物」」の項」)と主張する。

しかしながら、前記「8.(1)」でも記載しているとおり、刊行物3を、副引例として位置付け、その記載事項を認定し、相違点との対比を行いつつ、判断しているものであるから、無効理由における本件特許発明と主引例との関係を前提としつつ、刊行物3をみることが必要であり、刊行物3の副引例としての位置付けを前提としてその妥当性を検討すべきものである。その意味で、被請求人の前記主張は、そのことを無視しての主張であり、副引例としての刊行物3の位置付けを前提としたとき、刊行物3には、「酸素吸収物質」そのものをそのまま接着剤層に混合して組み入れるとの記載はなく、その示唆もない。」などとの被請求人の主張は妥当ではない。
(2b)「(4)阻害要因」において、「本件発明や刊行物1において刊行物3におけるような、熱可塑性樹脂ポリマーから成る担体に酸素除去剤を混合又は配合した酸素除去組成物は、その効果が劣る例として記載されているものであって、当業者として、通常はこのような問題を有している刊行物におけるような発明の適用を考えないものであり、刊行物1に記載された発明に刊行物3に記載された発明を適用するに際しての阻害要因がある。」と主張する。

すでに、前記「8.(1)」で詳述したとおりであり、刊行物3は、そもそも包装積層材料等として適用したときに、包装する内容物が酸素の存在により腐敗、劣化することを解決するための手段として、酸素除去剤を積層材料中にフィルム層として、コーティング又はライニング層として、あるいは層間を接着する接着剤層として適用する形態で課題を解決する発明が記載されているのであって、その層を積層材料中に組み込む具体的な適用形態として、酸素除去剤を担体である合成樹脂、コーティング材料及び接着剤に混合、配合した状態にして適用する実施例が記載されているものである。すなわち、被請求人が主張するように酸素除去剤の機能の低下した悪い組み込み例としての発明とするものではない。
被請求人は、刊行物3の「酸素除去組成物」を酸素吸収化合物そのものでなく、熱劣化した酸素吸収化合物を含有する樹脂とのみ捉え、本件特許発明は熱劣化していない酸素吸収物質であるから差異があるとの観点からのみの比較しか行っていない。
しかしながら、無効理由では、上述したとおり、熱劣化しているしていないに関わりなく、刊行物3では「酸素除去組成物」というものは「酸素吸収物質」として捉えているものあり、そのような捉え方に誤りはないし、また、刊行物3には、その「酸素吸収物質である酸素除去組成物」をどのように利用、適用するかも記載されているものであり、無効理由で記載したとおり、その利用、適用形態として接着剤に混合して用いる形態が記載されているもので、本件特許発明と刊行物1に記載された発明との差異として認定した酸素吸収物質の適用形態の差異である接着剤に酸素吸収する物質を混合する適用形態が記載されているのである。
したがって、刊行物1に記載された発明に刊行物3に記載された発明を適用することに阻害要因はないのである。

(3)「二 理由2について」において、
「刊行物1において、脱酸素剤等を熱可塑性合成樹脂にブレンドすることによる問題点を避けるために、特に「脱酸素剤を散布」との技術的手段を採用することにより、所定の作用効果が得られるというものである。・・・又、それらの技術手段は、刊行物1において従来技術における問題点として認識されているものであり、当業者として、通常はこのような問題点を有していている技術手段の適用は考えないものであるとするのが技術常識である。したがって、混合させた際の問題点を解決するために、・・・問題点のある、酸素除去剤を接着剤に混合した接着剤層とすることは、適用するに際しての阻害要因がある。」旨主張する。

被請求人が前記記載の最後で「混合させた際の問題点を解決するために・・・問題点のある、酸素除去剤を接着剤に混合した接着剤層とすること」と記載しているが、刊行物1発明には、そのような記載はない。
すなわち、刊行物1発明では、問題点があるとしている例は、前記「6.a.」の前記摘示a2.の記載からは、飽くまでも、合成樹脂に混合してシート状にして適用する場合のことで、混合一般を問題としているのではなく「熱劣化」を問題としているのであって、「熱劣化を起こすような混合」を伴って積層体へ適用すること」を問題としているのである。被請求人が主張する「混合させた際の問題点を解決する」というような考え方は何処にもない。
また、刊行物1発明では、明らかに熱劣化をさせない手段として脱酸素剤を熱を加わえることなく、積層材料に適用するため、積層する際に利用される接着剤を用いるとの技術思想が記載されていて、具体的には、脱酸素剤を散布して「接着剤と脱酸素剤とを一体化した接着剤層」として適用することが代表的に記載されているのである。基本的に、刊行物1発明は、熱を加えないことに重心をおいた発明であって、被請求人の主張するような「混合」することが問題点であるとしているとは解することができないもので、その意味でも前記被請求人の主張は誤りである。
したがって、被請求人の「接着剤層に散布させた層に代えて、問題点のある、酸素除去剤を接着剤に混合した接着剤層とすることには、適用するに際しての阻害要因がある」との主張は妥当なものではない。

9.むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物1ないし3(甲第1、第2、及び第5号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
酸素吸収能を有する包蔵材料
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素透過性でかつ非通気性の熱接着性樹脂からなるシール層、および接着剤に水をトリガーとして反応を開始する酸素吸収物質を、混合量が接着剤100重量部(乾燥時)に対して酸素吸収物質3?30重量部とする接着剤層を備え、前記接着剤層のシール層と反対側に、酸素不透過性材料からなるバリヤー層を設けたことを特徴とする、酸素吸収能を有する包装材料。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、酸素吸収能を有する包装材料に関するもので、食品、特に水分活性の高い食品や液体の包装に好適な、酸素吸収能を有する包装材料を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、食品の包装において、包装体内部に存在する酸素、あるいは外部から透過、侵入してくる酸素により、食品が酸化劣化したり、あるいは微生物が増殖することを防止するため、包装体内部の酸素を除去する手段が講じられている。
【0003】
一つは、包装時に酸素を残さずに密封包装するもので、真空包装などがある。また、外部から包装材料を透過、侵入する酸素を防止するため、酸素バリヤー性に優れた材料を、包装材料中に存在させることが行われている。しかしながら、従来の真空包装による包装や酸素バリヤー性プラスチックを使用した容器による包装では、外部からの酸素を完全に遮断することは困難であった。また、包装材料に金属箔や金属蒸着層を存在させることは、酸素をほぼ完全に遮断できるので好ましいが、不透明であることが場合により欠点である。
【0004】
他方、包装体内に酸素吸収物質を小袋に包装した、いわゆる脱酸素剤を同封する技術がある。脱酸素剤の使用は、包装体内の酸素を完全に除去できるが、小袋の投入自体が面倒であり、また、誤食などの問題があるばかりか、液体の包装には、酸素吸収物質の溶出という問題があるため、使用することができない。
【0005】
これに対し、酸素吸収物質をプラスチックに混合し、これを包装材料の一部、特に内容物と接する面に使用して、包装体内部の酸素を除去するとともに、外部からの酸素をその層で吸収、遮断する技術が提案されている。
【0006】
例えば、実公平4-39241号公報には、L-アスコルビン酸と第一鉄イオン化合物を混練した合成樹脂を、包装材料に使用する技術が開示されている。また、実開平4-35574号公報には、酸素吸収能を有する錯体含有合成樹脂フィルム層と紙層との積層体を用いた紙製容器が開示されている。また、特公昭63-2648号公報には、酸化第1鉄よりなる脱酸素剤を熱可塑性樹脂にブレンドしたものをシート状にした包装材料が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記技術によれば、小袋の投入や誤食といった問題は解決できるが、このような包装材料を食品と接する側に設けたのでは、酸素吸収物質が容器の表面にブリードアウトして、被包装物である食品等を汚染したり、異臭が食品等に移行するという問題は依然解決されない。
【0008】
また、上記各公報に示される技術では、いずれも合成樹脂に酸素吸収物質を混合するので、混合時に、酸素吸収物質が変質してしまう恐れがある。すなわち、酸素吸収物質の混合は合成樹脂への混練であり、合成樹脂を溶融する必要があるが、このときの温度は150?300℃にもなるため、酸素吸収物質がこの熱により変質してしまうのである。従って、耐熱性のある酸素吸収物質を使用しなければならず使用可能な物質が限定されるばかりでなく、混練時の温度が高いので、酸素が存在する雰囲気で製造したのでは酸素吸収物質が酸素を吸収してしまい、得られる包装材料の酸素吸収能は低いものとなってしまうのである。また、樹脂に混合した場合は酸素吸収物質が容器の表面にブリードアウトして、被包装物である食品等を汚染したり、異臭が食品等に移行するおそれもある。
【0009】
そこで本発明は、さまざまな酸素吸収物質を使用することができ、また、酸素吸収物質が加熱されることがなく、従って優れた酸素吸収能を有し、さらに、食品の汚染等もない、酸素吸収能を有する包装材料を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、酸素透過性でかつ非通気性の熱接着性樹脂からなるシール層、および接着剤に水をトリガーとして反応を開始する酸素吸収物質を、混合量が接着剤100重量部(乾燥時)に対して酸素吸収物質3?30重量部とする接着剤層を備え、前記接着剤層のシール層と反対側に、酸素不透過性材料からなるバリヤー層を設けたことを特徴とする、酸素吸収能を有する包装材料である。
【0011】
【作用】
上述した本発明の包装材料は、シール層や他の基材フィルムを積層接着するための接着剤に酸素吸収物質を混合したので、酸素吸収物質が加熱されることがなく、性能の劣化がない。接着剤に混合された酸素吸収物質は、包装材料が袋等の容器に形成された際、容器内部の酸素を吸収するとともに、容器外部から透過、侵入してくる酸素があれば、それを吸収する。
【0012】
【実施例】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、酸素透過性でかつ非通気性の熱接着性樹脂からなるシール層、および酸素吸収物質を混合した接着剤層を備えたことを特徴とする、酸素吸収能を有する包装材料である。
【0014】
本発明のシール層としては、従来包装材料のシール層として使用される種々の材料のうち、酸素透過性でかつ非通気性の熱接着性樹脂が使用できる。具体的には、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ヒートシール性ポリエステル等が使用できる。なお、本発明の包装材料は、食品等を密封包装し、内容物の酸化劣化等を防止するためのものであり、紙単体あるいは穴あきフィルムのような、いわゆる通気性のある包装材料を意図していないものであり、上記「非通気性」なる語は、酸素や他の気体を全く透過させないという意味ではなく、紙の如き通気性を有しない、という意味である。
【0015】
本発明は、上記シール層に、後述する酸素吸収物質を混合した接着剤等を用いて他の基材フィルムを積層する。この他の基材フィルムとしては、従来包装材料として使用される種々の材料を積層して使用する。具体的には、プラスチックフィルム、金属箔、紙、不織布等が使用できる。また、金属や無機物質を真空蒸着などの方法によりプラスチックフィルム上に形成したものも、同様に使用できる。
【0016】
本発明の包装材料には、酸素吸収物質を混合した接着剤の層が存在する。この接着剤層は、前記シール層と基材フィルムを積層するための接着剤として使用することができる。使用できる接着剤は周知の任意のものであるが、例えば酸素吸収物質が水溶性のものである場合は、水性溶媒による希釈が可能な接着剤を使用することが好ましい。具体的には、周知のドライラミネート用接着剤(例えばポリエステル系、ポリウレタン系、ポリイミン系、ポリエステルポリウレタン系の1液または2液の接着剤)や、アンカーコート剤(例えばウレタン系、ポリウレタン系、ポリイミン系、ポリエステルポリウレタン系の1液または2液のアンカーコート剤)が使用できる。
【0017】
この接着剤には、酸素吸収物質を混合する。酸素吸収物質としては、鉄系あるいは酵素系酸素吸収物質も使用できるが、水をトリガー(触媒)として反応を開始するものが好適である。通常、本発明の包装材料は食品等の水分を含有するものを包装するものであり、水分は包装材料を透過して接着剤層に到達し得るが、上述のように水をトリガー(触媒)として反応を開始するものは、僅かの水分が存在すればよく、その程度の水分は十分に得られるためである。
【0018】
使用する酸素吸収物質の好ましい例としては、
(1)ポルフィリン環を有するキレート化合物
(2)酸素吸収物質が、有機化合物と反応促進剤とからなる酸素吸収物質が上げられる。また、上記(2)の酸素吸収物質としては、
(2)-1:有機化合物が、アスコルビン酸またはその誘導体、あるいは脂肪酸のいずれかからなり、反応促進剤が遷移金属化合物からなるもの
(2)-2:有機化合物が、ポリカルボン酸またはサリチル酸キレートの遷移金属錯体のいずれかからなり、反応促進剤が、還元剤としてのアスコルビン酸であるものがあげられる。これらはいずれも水分をトリガーとして反応を開始するものである。
【0019】
上記接着剤への酸素吸収物質の混合方法は、酸素吸収物質が十分に分散されるものであれば、任意の方法を採用することができる。具体的には、樹脂の粉末や他の担持体に溶液化した酸素吸収物質を吸着させたり、酸素吸収物質を、酸素および水分の透過が可能な材料を用いてマイクロカプセル化して、接着剤またはその溶液に混練するか、あるいは分散させる方法が例示できる。なお、接着剤が2液のものである場合は、主剤または硬化剤のいずれか一方または両方に、酸素吸収物質を混合してから、主剤と硬化剤を混合する方法も可能であるが、主剤と硬化剤を混合した後、酸素吸収物質を混合する方法が好ましい。この方が、接着剤の接着能を損なわないで済むからである。
【0020】
酸素吸収物質の接着剤への混合量は、目的とする酸素吸収能により異なるが、接着剤100重量部(乾燥時)に対して酸素吸収物質3?30重量部とすることが好ましい。これより少ないと、酸素吸収能が著しく低く、他方、これより多いと接着剤の接着能に支障が生じるためである。
【0021】
本発明において、金属箔など、酸素を完全に遮断できる材料をバリヤー層として設けることが好ましい。バリヤー層は、上記接着剤層の外側(内容物に遠い側)に使用することが必要であるすなわち、外部からの酸素の透過を防止する等の目的で使用することができる。逆に、接着剤層の内側(内容物に近い側)には、接着剤層が内容物側の酸素を吸収することを妨げるので、使用できない。
【0022】
本発明において、複数の基材フィルムを積層してもよい。この場合、酸素吸収物質を混合した接着剤はシール層と基材フィルム、あるいは基材同士の(接着による)積層の全てに使用してもよいが、いずれか一つのみに使用すれば、十分目的を達成できる。もっとも、前述のように酸素吸収物質を混合した接着剤の層が内容物に対して酸素透過可能な位置にあることが条件となる。
【0023】
具体的な本発明の包装材料の構成例を以下に示す。
PET/Al/CPP
PET/Al/PE
PET/Al/ヒートシール性ポリエステル
PET/Al/AN
KOP/PE
KPET/PE
KONy/PE
PET/EVOH/PE
PET/PVDC/PE
ここで、PET:ポリエチレンテレフタレート、Al:アルミニウム箔、CPP:未延伸(押し出し)ポリプロピレン、PE:ポリエチレン、AN:ポリアクリロニトリル、KOP:ポリ塩化ビニリデンコート延伸ポリプロピレン、KPET:ポリ塩化ビニリデンコートポリエチレンテレフタレート、KONy:ポリ塩化ビニリデンコートポリアミド、EVOH:エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物、PVDC:ポリ塩化ビニリデンを示し、斜線(/)は、接着剤層を示す。そして、この接着剤層の少なくとも一つには、酸素吸収物質を混合するが、好ましくは内容物に近い側(上記構成例の右側)の接着剤層に、酸素吸収物質を混合する。
【0024】
上述の本発明の包装材料は、袋状などの、密封可能な形態の容器に形成されて使用される。また、必要であれば、さらに板紙などを積層し、組み立てて、いわゆる液体紙容器の形状に形成し、内容物として液体を収納可能としてもよい。水をトリガーとする酸素吸収物質を使用した場合の本発明の包装材料は、液体、あるいは水分活性値が0.8以上の食品等を包装するのに特に好適である。トリガーとしての水をこれらの食品等から得られるようにするためである。
【0025】
<実施例1>ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ12μm)、アルミニウム箔(厚さ9μm)、ポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を、いずれも下記の酸素吸収物質を混合した接着剤にて貼り合わせ、本発明の包装材料を得た。
・接着剤;2液型ポリエステル系接着剤(商品名:タケラックA-515/A-50、武田薬品工業株式会社製)
・主剤:硬化剤=10:1部希釈溶媒;酢酸エチル(固形分比30重量%)
・酸素吸収物質;水80重量部、エタノール20重量部、L-アスコルビン酸ナトリウム50重量部、硫酸第1鉄30重量部を混合した溶液を、ポリエステル系樹脂粉末にスプレー吸着させたもの(ポリエステル系樹脂100重量部に対する吸着量100重量部)
上記酸素吸収物質を、上記接着剤に、接着剤の固形分100重量部に対して100重量部混合し、酸素吸収物質混合接着剤とした。接着剤の塗布は、120線/inchのグラビア版(版深80μm)にて行った(塗布量:約3.0g/m^(2)(乾燥時))。
【0026】
この包装材料の酸素吸収能は、約20ml/m^(2)であった。なお、接着剤に混合する前(スプレー吸着させる前の、薬剤の状態)の酸素吸収物質の酸素吸収能は、約15ml/mlであり、この結果から、包装材料にした場合の酸素吸収能の低下は、約11%であった。
【0027】
また、得られた包装材料を、ポリエチレン側を内面として、大きさ約30×20cmの4方シール袋に形成し、食パン(水分活性値=0.83)1枚を収納し、残存空気が20ml以下となるように密封して、25℃、60%RHの条件で保存したところ、1週間後の内部の酸素濃度は1%以下となった。また、黴の発生、食味の低下、その他の異常は認められなかった。なお、経時的に測定した包装体内の酸素濃度を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
同様に、食パンに代えてカステラ(水分活性値=0.88)40gを収納、密封して同様の評価を行ったところ、1週間後の内部の酸素濃度は1%以下となった。また、黴の発生、食味の低下は認められなかった。
【0030】
<実施例2>ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ12μm)、アルミニウム箔(厚さ9μm)、ヒートシール性ポリエステルフィルム(商品名:XA-0465、ユニチカ株式会社製、厚さ30μm)を、いずれも実験1と同じ酸素吸収物質混合接着剤にて貼り合わせ、本発明の包装材料を得た。得られた包装材料を用い、実験1と同様の評価を行ったところ、実験1とほぼ同様の結果を得た。
【0031】
<比較例1>実施例1と同じ酸素吸収物質を、ポリエチレン樹脂に0.5%練り込んで、酸素吸収フィルムを作成した。このフィルムを用い、実施例1と同様の構成の包装材料を作成した(ただし、接着剤には酸素吸収物資は混合しなかった)。この包装材料を用い、実施例1と同様の評価を行ったところ、酸素濃度は表2のようになった。
【0032】
【表2】

【0033】
しかし、この包装体内には異臭が認められた。異臭の原因は、酸素吸収物質が包装材料の表面から包装体内に放出されたためと考えられ、さらには酸素吸収物質が樹脂への混練時に熱分解したためと考えられる。
【0034】
【発明の効果】
以上述べた本発明の包装材料は、製造時に熱が加わらないので酸素吸収物質の酸素吸収能が低下しておらず、従来の酸素吸収シートに比べて優れた酸素吸収能を有する包装材料である。従って、従来よりも少ない酸素吸収物質の使用で、十分な酸素吸収能を示す包装材料が得られる。また、酸素吸収物質を基材フィルムの接着剤に混合したので、酸素吸収物質が内容物に接触することがなく、従って、酸素吸収物質の移行といった問題がなく、安全であり、液体の包装にも使用することかできる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-12-06 
結審通知日 2007-12-11 
審決日 2007-12-26 
出願番号 特願平4-346138
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (B32B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 細井 龍史  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 井上 彌一
西川 和子
登録日 2002-11-08 
登録番号 特許第3367128号(P3367128)
発明の名称 酸素吸収能を有する包装材料  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 中村 誠  
代理人 中村 誠  
代理人 河野 哲  
代理人 清水 正三  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 河野 哲  

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