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審決分類 審判 全部無効 発明同一  G05D
管理番号 1175385
審判番号 無効2007-800224  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-10-15 
確定日 2008-03-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第3887652号発明「恒温槽」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3887652号の請求項1乃至2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3887652号の請求項1乃至2に係る発明についての出願は、平成17年4月27日に出願され、平成18年12月8日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。
これに対して、平成19年10月15日に審判請求人SMC株式会社より無効審判の請求がなされ、被請求人千代田電機工業株式会社及び株式会社ラスコに、審判請求書副本を送達し、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人からは何らの応答もなかったものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1乃至2に係る発明(以下「本件発明1」乃至「本件発明2」という。)は、願書に添付された明細書(以下「本件特許明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
対象となる液体を所定の温度に維持する恒温槽において、
内部の温度分布が均一となるように円筒状に形成された内タンクと、該内タンクを内部に収納するようにして内タンクの外壁面から所定の距離を置いて配置され、多角筒状に形成された外タンクとから成る二重壁構造のタンクが設けられ、
前記内タンクと前記外タンクとの間は、前記液体が流通する流路として設けられ、
前記内タンクの上部および底面には、内タンクの内部と前記流路とを連通させる上部連通孔および底部連通孔が設けられ、
前記内タンク内の液体を、前記内タンクの底部連通孔から前記流路内を上昇して前記内タンクの上部連通孔から再度前記内タンク内に流入するように循環させる、回転軸の軸線方向と直交する方向に液体を移動させるような形状に羽根が設けられた羽根車を有する循環手段が、内タンクの底部連通孔の下方の外タンクの底面に設けられ、
前記外タンクの外壁面に取り付けられ、前記流路を流通する液体を所定の温度となるように維持するサーモモジュールが前記外タンクの外壁面の平面部分に設けられていることを特徴とする恒温槽。
【請求項2】
前記外タンクは、八角形筒状であることを特徴とする請求項1記載の恒温槽。」

第3 請求人の主張の概要
請求人は、下記甲第1号証を提出し、本件特許の請求項1乃至2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効とすべきものであると主張している。
[甲号証]
甲第1号証:特開2005-127608号公報(特願2003-363223号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明)

第4 甲第1号証の記載内容及び先願発明
1 甲第1号証の記載内容
甲第1号証には、以下の技術的事項が記載されている。
(1)段落【0001】
「本発明は、ペルチェ効果により温調するサーモ・モジュールで槽内の液の加熱・冷却を行う恒温液槽に関し、更に詳しくは、薬液を収容した容器(ビン)を浸漬してそれを一定温度に温調するのに適した恒温液槽に関する。」

(2)段落【0009】
「以下に、本発明の恒温液槽を、図に示す実施例に基づいて詳細に説明する。
この実施例は、MO-CVD(有機金属気相成長法)装置の薬液を容器(ビン)に収容してその温調を行うなど、槽内に液の流れを阻害する対象物を浸漬させる場合に適したもので、図1及び図2に示すように、その全体を符号1Aで示す恒温液槽は、ケーシング2内に、液を貯留する外槽3と、外槽3の内部に設置された内槽5とを備え、更に、外槽3と内槽5の間の底部中央に配置された回転翼11をもつ攪拌機7、及び外槽3の外側面にサーモ・モジュール31を装着して、内外槽3,5間を流れる液を設定された温度に制御する熱供給装置9を備えている。」

(3)段落【0010】?【0011】
「上記外槽3及び内槽5は、図2から分かるように、同心円状の有底円筒体であり、その外槽3及び内槽5の底部8,23間には、上記撹拌機7の回転翼11を収容する回転翼室12が形成され、外回転翼11が外槽3の底部の貫通孔を通してモータ13に接続されている。また、内槽5の底部23の中央には、上記回転翼室12に内槽内の液を流入させる開孔25を設けている。それにより、該開孔25から回転翼11が設けられた内外槽の底部8,23間の回転翼室12に流入した液が、回転翼11の作用により円周方向に撹拌されると同時に、外槽3の側壁15と内槽5の側壁19間の間隙17を通して、その上方に導かれる。上記回転翼11は、液を遠心方向へ流出させる遠心ブレードを有し、図1に矢印で示すように、その回転により液を間隙17方向に流すものである。
上記内槽5の側壁19は、上記外槽3の側壁15の内面との間にほぼ一定の間隙17を介して対面させ、該側壁19には、その高さ方向の複数段(図では2段)に、全周に亘って多数の通孔21が形成されており、間隙17を上昇してきた液がこれらの通孔21を通して外槽3から内槽5に流入する流路を形成している。上記内槽5の側壁19の通孔21は、該側壁19の周囲に均等に設けることもできるが、上記サーモ・モジュール31に対面する部分またはその上部に偏寄させて形成することもでき、それにより液がサーモ・モジュール31の部分を流れる機会を高め、温調効果を高めることができる。
また、前述したように、内槽5の底部23には、上記回転翼室12を通して外槽3に液を流入させる開孔25を形成している。」

(4)段落【0012】
「熱供給装置9は、ペルチェ効果により温調するサーモ・モジュール31と、外槽3の側壁15を通して熱を供給する吸熱板33と、該吸熱板33側と反対の側に設けられた放熱部35とを積層して構成され、また、内槽5に槽内の液温を検知する温度センサ36を設け、サーモ・モジュール31及び該温度センサ36が、該温度センサ36の出力に基づいて槽内の液温を所定の設定温度に制御する制御装置に接続されている。内槽5に設けた上記温度センサ36に代えて、図1に示すように、外槽3に温度センサ37を設けることもできる。
上記熱供給装置9におけるサーモ・モジュール31は、この第1実施例では、外槽3の側壁15の外面に90度の間隔で4個装着され、また、該側壁の上下方向のほぼ全体に亘って装着しているが、この装着態様は、温調条件に応じて適宜設定することができるものである。」

(5)段落【0013】
「上記構成を有する恒温液槽1Aは、MO-CVD装置において使用する場合には、恒温化する薬液として、通常、フッ素系の液が用いられ、その液が外槽3に充填される。
熱供給装置9を動作させ、サーモ・モジュール31において温度制御しながら、モータ13により回転翼11を回転させると、その回転に伴って内槽5の底部23に設けた開孔25から内槽内の液が回転翼室12に吸入され、一方、該回転翼室12から出る液が円周方向に撹拌されると同時に、間隙17を通じて上昇する流れが生成される。そして、この水流は比較的速いものとなるため、液が上昇を行う間にサーモ・モジュール31との間で効率的な熱交換が行われ、その後、内槽5の側壁19に設けた多数の通孔21を通して内槽5内に流入し、内槽内を流下する。そして、内槽5の底板の開孔25を通して再び回転翼室12内に流入し、このようにして図1に矢印で示すように、外槽3及び内槽5を循環する水流が形成される。そして、上記循環する水流により上記熱交換を絶えず行うことにより外槽3及び内槽5を含めた槽内の液温が恒温化される。」

(6)段落【0015】
「図3は、本発明の第2実施例を示している。この第2実施例の恒温液槽1Bは、第1実施例の恒温液槽1Aと比較して外槽の構造を異にしている。即ち、この第2実施例における外槽43は正八角柱状の角筒状をなし、八面の外壁の一面おきの四面にそれぞれ熱供給装置49が設けられている。その他の構造は第1実施例と同様であり作用・効果も同様であるため、それらについての説明は省略する。」

(7)【図3】の記載によれば、外槽43が、内槽5を内部に収納するようにして内槽5の外壁面から所定の距離を置いて配置され、正八角柱状の角筒状に形成されており、内槽5と外槽43とから二重壁構造のタンクが構成されることが看取できる。
また、【図3】の記載によれば、サーモ・モジュール31が外槽43の外壁面の平面部分に設けられている。

(8)【図1】の記載によれば、回転翼11は、液を回転軸の軸線方向と直交する遠心方向へ流出させる遠心ブレードを有することが看取できる。

2 先願発明
上記摘記事項(1)及び技術常識から、甲第1号証に記載された「恒温液槽」が、対象となる液を所定の温度に維持するものであることは明らかである。
そして、摘記事項(6)によれば、正八角柱状の角筒状をなしている「外槽43」を有する第2実施例では、その他の構造は第1実施例と同様であるとされている。
そこで、上記摘記事項乃至認定事項を、技術常識を勘案しながら本件発明1に照らして整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「対象となる液を所定の温度に維持する恒温液槽において、
円筒状に形成された内槽5と、該内槽5を内部に収納するようにして内槽5の外壁面から所定の距離を置いて配置され、正八角柱状の角筒状に形成された外槽43とから成る二重壁構造のタンクが設けられ、
前記内槽5と前記外槽43との間は、液がそこを通して上方へ導かれる間隙17が設けられ、
前記内槽5の側壁には、前記間隙17を上昇してきた液を外槽43から内槽5に流入させる多数の通孔21が設けられ、内槽5の底部23には、内槽5内の液を回転翼室12に流入させる開孔25が設けられ、
回転翼11が、内外槽の底部8,23間の回転翼室12に設けられ、
前記回転翼11により、内槽5内の液を、前記内槽5の開孔25から回転翼室12に吸入し、前記間隙17を上昇して前記内槽5の通孔21から前記内槽5内に流入させ、
前記回転翼11には、回転軸の軸線方向と直交する遠心方向へ流出させる遠心ブレードが設けられ、
前記外槽43の側壁15の外面に取り付けられ、槽内の液温を所定の設定温度に制御する制御装置に接続されているサーモ・モジュール31が前記外槽43の外壁面の平面部分に設けられている恒温液槽。」

第5 対比・判断
1 本件発明1について
本件発明1と先願発明とを対比すると、先願発明における「恒温液槽」は、本件発明1における「恒温槽」に相当し、以下同様に、「内槽5」は「内タンク」に、「液」は「液体」に、「正八角柱状の角筒状」は「多角筒状」に、「外槽43」は「外タンク」に、「開孔25」は「底部連通孔」に、「遠心ブレード」は「羽根」に、「回転翼11」は「羽根車」に、「サーモ・モジュール31」は「サーモモジュール」に、それぞれ相当している。
本件特許明細書には、内タンクが円筒状であることについて、「内タンク36は円筒状に形成されているので、液体の流通がスムーズに行え液体が滞留等してしまうことがなく、特に均一な温度分布に設定することができる。」(段落【0019】)と記載されている。
甲第1号証には、先願発明の「内槽5」が円筒状に形成される理由は明記されていないが、先願発明の「内槽5」も、本件発明1と同様に円筒状に形成されていることから、同様に内部の温度分布が均一となるようにされることは自明である。
また、先願発明における「内槽5と外槽43との間」は、液がそこを通して上方へ導かれる間隙17が設けられ、内槽5内の液が内外槽の底部8,23間の回転翼室12にも流入されるから、前記「内槽5と外槽43との間」は、液体が流通する流路として設けられるということができる。
先願発明における「通孔21」は、内タンクの側壁に設けられ、内タンクの内部と流路とを連通させる連通孔という限りで、本件発明1における「上部連通孔」に相当しており、先願発明の「開孔25」は、内タンクの内部と流路とを連通させるものである。
そして、先願発明における「回転翼11」は、内槽5内の液を、前記内槽5の開孔25から前記間隙17を上昇して前記内槽5の通孔21から内槽5内に流入させるから、内タンク内の液体を、再度前記内タンク内に流入するように循環させる循環手段を構成しているということができる。
また、前記「回転翼11」には、液を回転軸の軸線方向と直交する遠心方向へ流出させる遠心ブレードが設けられているから、「回転軸の軸線方向と直交する方向に液体を移動させるような形状に羽根が設けられている」ということができる。
さらに、前記「回転翼11」は、内外槽の底部8,23間の回転翼室12に設けられており、甲第1号証の図1の記載からみても、先願発明において前記循環手段は内タンクの底部連通孔の下方の外タンクの底面に設けられるということができる。
さらにまた、先願発明における「サーモ・モジュール31」は、槽内の液温を所定の設定温度に制御する制御装置に接続されていることから、前記「サーモ・モジュール31」は、流路を流通する液を所定の温度となるように維持することが明らかである。
したがって、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
[一致点]
「対象となる液体を所定の温度に維持する恒温槽において、
内部の温度分布が均一となるように円筒状に形成された内タンクと、該内タンクを内部に収納するようにして内タンクの外壁面から所定の距離を置いて配置され、多角筒状に形成された外タンクとから成る二重壁構造のタンクが設けられ、
前記内タンクと前記外タンクとの間は、前記液体が流通する流路として設けられ、
前記内タンクの側壁および底面には、内タンクの内部と前記流路とを連通させる連通孔および底部連通孔が設けられ、
前記内タンク内の液体を、前記内タンクの底部連通孔から前記流路内を上昇して前記内タンクの連通孔から再度前記内タンク内に流入するように循環させる、回転軸の軸線方向と直交する方向に液体を移動させるような形状に羽根が設けられた羽根車を有する循環手段が、内タンクの底部連通孔の下方の外タンクの底面に設けられ、
前記外タンクの外壁面に取り付けられ、前記流路を流通する液体を所定の温度となるように維持するサーモモジュールが前記外タンクの外壁面の平面部分に設けられている恒温槽。」である点。
[相違点]
連通孔が、本件発明1では、内タンクの上部に設けられる上部連通孔であるのに対し、先願発明では、そのように特定されていない点。

上記相違点について検討する。
甲第1号証の図1において、2段に形成された通孔21のうち上段側の通孔は内槽5の上部に形成されているということができる。
また、甲第1号証には、「上記内槽5の側壁19の通孔21は、該側壁19の周囲に均等に設けることもできるが、上記サーモ・モジュール31に対面する部分またはその上部に偏寄させて形成することもでき、それにより液がサーモ・モジュール31の部分を流れる機会を高め、温調効果を高めることができる。」(摘記事項(2)参照)及び「上記熱供給装置9におけるサーモ・モジュール31は、この第1実施例では、外槽3の側壁15の外面に90度の間隔で4個装着され、また、該側壁の上下方向のほぼ全体に亘って装着している」(摘記事項(4)参照)との記載もある。
これらの記載からみて、甲第1号証には、「通孔21」を内槽5の上部に設けることが実質的に記載されているとすることができる。
してみると、上記相違点は実質的な相違点ではない。

したがって、本件発明1は、先願発明と実質的に同一である。

2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において「前記外タンクは、八角形筒状であること」を特定したものである。
そこで、本件発明2と先願発明とを対比すると、先願発明における「外槽46」は正八角柱状の角筒状に形成されている。
してみると、両者は上記1に記載した相違点にて相違し、その余の点では一致する。
上記相違点についての判断は1で検討したとおりである。
したがって、本件発明2は、先願発明と実質的に同一である。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1乃至2は、当該特許出願の日前の他の特許出願であって、当該特許出願後に出願公開されたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明である甲第1号証に記載された発明と同一であり、しかも、他の特許出願に係る発明の発明者は当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者ではなく、また、当該特許出願の時にその出願の出願人と当該他の特許出願の出願人とは同一の者でもないから、本件発明1乃至2についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1乃至2についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当するので、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-30 
結審通知日 2008-02-04 
審決日 2008-02-15 
出願番号 特願2005-129752(P2005-129752)
審決分類 P 1 113・ 161- Z (G05D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐々木 一浩  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 鈴木 孝幸
福島 和幸
登録日 2006-12-08 
登録番号 特許第3887652号(P3887652)
発明の名称 恒温槽  
代理人 綿貫 隆夫  
代理人 林 直生樹  
代理人 林 宏  
代理人 綿貫 隆夫  

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