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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
管理番号 1176140
審判番号 無効2004-80246  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-12-02 
確定日 2008-03-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3339283号「エアーフィルター用不織布およびそれを用いてなるエアーフィルター装置」の特許無効審判事件についてされた平成17年 9月27日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成17年行ケ第10774号 平成18年1月30日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3339283号の請求項1?7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3339283号の請求項1?7に係る発明は、平成8年1月19日に特許出願され、平成14年8月16日に特許権の設定の登録がされたものである。
これに対し、ユニチカ株式会社から、平成16年12月2日付けで請求項1?7に係る発明の特許について無効審判の請求がなされたところ、その手続きの経緯は次のとおりである。
無効審判請求書 平成16年12月2日
答弁書 平成17年2月21日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成17年6月13日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成17年6月13日
口頭審理 平成17年6月13日
上申書(被請求人) 平成17年6月20日
審決(請求項1?7に係る発明の特許を無効) 平成17年9月27日
被請求人出訴(「平成17年行ケ第10774号」)平成17年11月1日
訂正審判請求(「訂正20006-39005」) 平成18年1月16日
審決取消判決(差戻し) 平成18年1月30日
弁駁書(請求人) 平成18年3月29日
訂正拒絶理由通知 平成18年5月31日

なお、差戻し後、特許法第134条の3第2項の規定に基づいて、被請求人に対し「訂正の請求」をするための相当の期間を指定して通知したが、その期間内に「訂正の請求」がなされなかったので、特許法第134条の3第5項の規定により、訂正審判の請求書(訂正20006-39005)に添付された特許請求の範囲、明細書、図面を援用する、本件無効審判(無効2004-80246)の「訂正の請求」がなされたものとみなすこととした。
また、訂正拒絶理由通知については、請求がされている請求項に係る独立特許要件違反の拒絶の理由は、平成15年改正法(特許法第134条の2第5項で読み替えて準用する特許法第126条第5項)に適合しないものであった(ただ、被請求人には何らかの意見を述べる機会ではあったが、被請求人からは何ら応答はなされなかった)。而して、請求がされている請求項についての特許要件違反は、上記平成5年改正法の趣旨に従い、無効理由の存否の問題として取り扱うこととする。

なおまた、本件無効事件の審理が終結した旨の結審通知の後に、被請求人より平成18年8月4日付けで上申書が提出された。

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
本件無効審判の「訂正の請求」がなされたものとみなされた訂正審判の請求書(以下、「本件訂正請求書」という)は、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として特許請求の範囲の請求項1及び発明の詳細な説明を以下のとおり訂正しようとするものである。

訂正事項a
特許明細書の【特許請求の範囲】【請求項1】を次のとおりに訂正する。
「【請求項1】鞘成分が芯成分に対し20℃以上低い融点を有する共重合ポリエステルからなるポリエステル系芯鞘型複合フィラメントのみで構成され、かつ、部分的にくぼみを有する不織布であって、該くぼみが、該低融点共重合ポリエステルが融着されて形成されたものであって、その圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、その個数が25?35/cm^(2)の範囲であり、かつ、JIS B0601に基づいて求められる該くぼみの平均深さ(カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))が60μm以下であることを特徴とするエアーフィルター用不織布。」

訂正事項b
特許明細書の段落【0010】を次のとおりに訂正する。
「〔課題を解決するための手段〕本発明は、かかる課題を解決すべく、次のような手段を採用する。すなわち、本発明のエアーフィルター用不織布は、鞘成分が芯成分に対し20℃以上低い融点を有する共重合ポリエステルからなるポリエステル系芯鞘型複合フィラメントのみで構成され、かつ、部分的にくぼみを有する不織布であって、該くぼみが、該低融点共重合ポリエステルが融着されて形成されたものであって、その圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、その個数が25?35/cm^(2)の範囲であり、かつ、JIS B0601に基づいて求められる該くぼみの平均深さ(カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))が60μm以下であることを特徴とするものである。」

訂正事項c
特許明細書の段落【0016】を次のとおりに訂正する。
「本発明で言う部分的にくぼみを有する不織布とは、不織布を構成しているポリエステル系芯鞘型複合フィラメントのみからなる連続フィラメント間が熱と圧力によって融着(熱圧着)し、部分的にくぼみが形成されていること、すなわち、フィラメント密度が高くなった部分が点在するものである。このように、部分的なくぼみを形成するためには、通常、加熱した一対のエンボスロールが使用されるが、本発明においては、エンボスロールの形態、組合わせ等について特に規制するものでないが、より少ない方が好ましく、たとえば、好ましくは10?30%、さらに好ましくは15?20%の範囲で占めるのがよい。具体的には、圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、その個数が25?35/cm^(2)の範囲がよい。」

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、「くぼみ」に関し「その圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、その個数が25?35/cm^(2)の範囲であ」ることを限定し、「JIS B0601に基づいて求められる該くぼみの平均深さ」について「(カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。また、訂正事項b及びcは、上記訂正事項aと整合を図るとともに特許請求の範囲の記載と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。そして、訂正事項a?cは、特許明細書の段落【0013】、【0016】及び【0020】に記載されるのであるから、訂正事項a?cは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
なお、請求人は、この訂正請求について、平成18年3月29日付けの弁駁書(第2頁19?24行、第3頁17行?第6頁8行)において、甲第19号証(本件当初明細書:特開平9-192426号公報)を提示し、概ね「当初明細書には、粗さとうねりを区別するとの前提は全く記載されておらず、粗さとうねりを区別したくぼみ深さ(Ra)は当初明細書に記載されたものでないから、この訂正は、当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものでないか、または、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものである」旨主張するので、この点をみておくと、当初明細書の段落【0019】には実施例として「カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで測定」することが記載されており、通常、算術平均粗さを求めるに際しては「粗さとうねりの区別」を認識して、カットオフ値や評価長さを設定するものであるので、上記記載からみて、当初明細書に「粗さとうねりの区別」する前提が全くなかったとまではいえないから、請求人の主張を認めることはできない。

2-3.むすび
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第2項ただし書き、及び、同条第5項において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するので適法な訂正と認める

3.本件特許発明
上記2.のとおり、訂正は認められるので、訂正後の請求項1?7に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件訂正発明1」?「本件訂正発明7」という。)。
【請求項1】鞘成分が芯成分に対し20℃以上低い融点を有する共重合ポリエステルからなるポリエステル系芯鞘型複合フィラメントのみで構成され、かつ、部分的にくぼみを有する不織布であって、該くぼみが、該低融点共重合ポリエステルが融着されて形成されたものであって、その圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、その個数が25?35/cm^(2)の範囲であり、かつ、JIS B0601に基づいて求められる該くぼみの平均深さ(カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))が60μm以下であることを特徴とするエアーフィルター用不織布。
【請求項2】 該鞘成分が、該複合フィラメントの5?30重量%を占めるものである請求項1記載のエアーフィルター用不織布。
【請求項3】 該不織布の目付が、100g/m2以上である請求項1または2記載のエアーフィルター用不織布。
【請求項4】 該不織布の剛軟度が、500mg以上である請求項1?3のいずれかに記載のエアーフィルター用不織布。
【請求項5】 該エアーフィルター用不織布が、パルスジェット式集塵装置用である請求項1?4のいずれかに記載のエアーフィルター用不織布。
【請求項6】 請求項1?5のいずれかに記載のエアーフィルター用不織布を、エアーフィルター装置のフィルター部材として使用したことを特徴とするエアーフィルター装置。
【請求項7】 該エアーフィルター装置が、パルスジェット式集塵装置である請求項6記載のエアーフィルター装置。」

4.当事者の主張
4-1.請求人の主張
請求人は、本件訂正発明1?7についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として下記の甲第1?21号証を提出し、審判請求書、口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)及び弁駁書において、請求人は次のとおりの無効理由1及び2を主張している。

甲第1号証:JIS B0601^(-1994)「表面粗さ-定義及び表示」(日本工業規格)p.1?5
甲第2号証:「実験報告書」(平成16年10月8日、ユニチカ株式会社 スパンボンド事業本部スパンボンド技術部主任 湯浅伸二報告)
甲第3号証:「試験証明書」(平成16年8月27日、財団法人日本化学繊維協会大阪事業所作成 NO.S04-9132-1(CK-34547))
甲第4号証:「試験証明書」(平成16年8月27日、財団法人日本化学繊維協会大阪事業所作成 NO.S04-9132-2(CK-34547))
甲第5号証:「試験証明書」(平成16年10月1日、財団法人日本化学繊維協会大阪事業所作成 NO.S04-9152-2(CK-46858))
甲第6号証:「試験証明書」(平成16年9月30日、財団法人日本化学繊維協会大阪事業所作成 No.CK-47482)
甲第7号証:「目で見る今日の不織布(第4集)」第79?80頁、平成4年10月20日、株式会社不織布情報発行
甲第8号証:「実験報告書」(平成11年5月8日、ユニチカ株式会社スパンボンド事業本部スパンボンド技術部部長 高橋正道、平成11年5月7日付け財団法人日本化学繊維協会大阪事業所作成の「試験証明書」(No.CK-67935-7)を含む)
甲第9号証:「不織布情報」第244号 NOV.10(平成5年11月10日、株式会社不織布情報発行)p.20?21
甲第10号証:「不織布情報」第240号 JUL.10(平成5年7月10日、株式会社不織布情報発行)p.11?12
甲第11号証:特公昭42-21318号公報
甲第12号証:特開平2-182960号公報
甲第13号証:特開平5-186951号公報
甲第14号証:JIS B0651^(-1976)「触針式表面粗さ測定器」(日本工業規格)p.1?7
甲第15号証:特開平2-234965号公報
甲第16号証:特開昭50-12377号公報
甲第17号証:特開昭56-148954号公報
甲第18号証:特開2002-161466号公報
甲第19号証:本件の当初明細書(特開平9-192426号公報)
甲第20号証:WO97/37071国際公開公報(平成9年10月9日公開)
甲第21号証:平成18年1月17日付け準備書面(被請求人が本件訴訟において提出した準備書面)

(1)無効理由1
本件訂正後の特許明細書(以下、「本件訂正明細書」という)の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、また、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく、又は、特許を受けようとする発明が明確ではないので、本件特許は特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。よって、本件特許は特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とされるべきである。なお、審判請求書では、請求人は特許法第36条第4項又は第5項違反を主張しているが、平成17年6月13日期日の口頭審理において、上記「特許法第36条第4項又は第5項」は「特許法第36条第4項又は第6項」であると訂正された(第1回口頭審理調書)。

(2)無効理由2
本件訂正発明1?7は、本件特許の出願前に公然知られ又は公然実施された発明及び本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。

4-2.被請求人の反論
被請求人は、請求人の上記主張に対して、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として下記の乙第1?3号証乃至参考資料1を提出して、答弁書、口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)、上申書及び本件訂正請求書において、次のとおり反論している。

乙第1号証:「実験報告書」(平成17年2月17日、東レ株式会社不織布技術部長 木立恵治夫)?不織布のくぼみと平均深さと毛羽立ち特性について
乙第2号証:「不織布の算術平均粗さ測定結果-粗さ曲線チャート」
乙第3号証:JIS B0601^(-1994)「表面粗さ-定義及び表示」「付属書」及び「表面粗さ-定義及び表示 解説」(日本工業規格)p.1?26(本件訂正請求書に添付された「甲第1号証」、請求人の甲第1号証及び下記参考資料1の内容を含むもの)
参考資料1:JIS B0601^(-1994)「表面粗さ-定義及び表示 解説」(日本工業規格)p.17?26

(1)無効理由1に対して
請求人の主張に対して、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、かつ、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、また、特許を受けようとする発明が明確であるので、本件特許は特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。

(2)無効理由2に対して
本件訂正発明1?7は、甲第7号証に添付された商品見本の不織布及び甲第11号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

5.当審の判断
5-1.無効理由1について
(一)本件訂正明細書の特許請求に範囲請求項1には、「該くぼみが、・・・、その圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、その個数が25?35/cm^(2)の範囲であり、かつ、JIS B0601に基づいて求められる該くぼみの平均深さ(カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))が60μm以下である」と記載されている。
まず、この記載中の「JIS B0601に基づいて求められる該くぼみの平均深さ(カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))」(以下、「構成x」という。)が何を意味するものか、についてみておくと、この構成xに関して、本件訂正明細書には次のとおり記載されている。
(ア)「【課題を解決するための手段】本発明は、かかる課題を解決すべく、次のような手段を採用する。すなわち、本発明のエアーフィルター用不織布は、・・・、該くぼみが、該低融点共重合ポリエステルが融着されて形成されたものであって、その圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、その個数が25?35/cm^(2)の範囲であり、かつ、JIS B0601に基づいて求められる該くぼみの平均深さ(カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))が60μm以下であることを特徴とするものである。」(段落【0010】)
(イ)「かかる不織布の該融着部のくぼみの深さと、フィルター基材の毛羽立ちとの関係を検討したところ、該くぼみの平均深さがフィルター基材の毛羽立ちと関係が深いことを究明し、さらには、JIS B0601表面粗さ規格に基づいて求められる算術平均粗さ(Ra)、たとえば、一般に、金属等の表面粗さを確認するために使用される株式会社小坂研究所製の表面粗さ計SE-40C(JIS B0651触針式表面粗さ測定器の規格に基づく)を用いて測定することができる該くぼみの平均深さが、密接に関係することを究明した。すなわち、不織布のかかる該融着部のくぼみの平均深さが60μm以下とすることで、従来の不織布に比べ大幅にフィルター基材の毛羽立ちを抑制することができることを見出だした。」(段落【0013】)
(ウ)「【実施例】次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。なお、実施例における各種特性は次の方法により測定した。
くぼみの平均深さ:
くぼみの平均深さは、表面粗さ測定器(株式会社小坂研究所製の表面粗さ計SEー40C:JIS B0651触針式表面粗さ測定器の規格に基づく)を使用して、JISーB0601表面粗さ規格に基づいて求められる算術平均粗さ(Ra)を表す。算術平均粗さは、カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで測定した。」(段落【0020】)

上記記載(イ)、(ウ)によれば、請求項1に記載された「JIS B0601に基づいて求められる該くぼみの平均深さ」とは、表面粗さ測定器(株式会社小坂研究所製の表面粗さ計SEー40C:JIS B0651触針式表面粗さ測定器の規格に基づく)を使用して「JISーB0601表面粗さ規格に基づいて求められる算術平均粗さ(Ra)」であるとみれる。また、この点に当事者間に争いはない。
なお、請求人は、算術平均粗さ(Ra)は不織布表面の凹凸状態を直接的に定義したものではないと主張しているが、この主張するところが必ずしも明らかとはいえないものの、これは「くぼみの平均深さ」を「算術平均粗さ(Ra)」とみなすことに根本的な問題があることを指摘しようとするものであるともとれる。しかしながら、そういえる根拠が明らかでなく、これまでに提出された書類及び口頭審理の調書に基づいては、直ちに、その主張を認めることはできない。

(ニ) そこで、この算術平均粗さ(Ra)がJIS B0601^(-1994)規格(以下、単に「JIS B0601規格」という。甲第1号証、乙第3号証)ではどのように規定されているかをみると、そこには、以下のことが記載されている。
(あ)「2.用語の定義・記号 この規格で用いる主な用語の定義は、次による。また、記号を、それぞれの用語の後の括弧内に示す。
(1)表面粗さ 対象物の表面(以下、対象面という。)からランダムに抜き取った各部分における、表面粗さを表すパラメータである算術平均粗さ(Ra)、最大高さ(Ry)、十点平均粗さ(Rz)、凹凸の平均間隔(Sm)、局部山頂の平均間隔(S)及び負荷長さ率(tp)の、それぞれの算術平均値。
備考1.一般に対象面では、個々の位置における表面粗さは一様ではなく、相当に大きなばらつきを示すのが普通である。したがって、対象面の表面粗さを求めるには、その母平均が効果的に推定できるように測定位置及びその個数を定める必要がある。
2.測定目的によっては、対象面の1か所で求めた値で表面全体の表面粗さを代表させることができる。
(2)断面曲線 対象面に直角な平面で対象面を切断したときに、その切り口に現れる輪郭。
備考 この切断は、一般に方向性がある対象面ではその方向に直角に切る。
(3)粗さ曲線 断面曲線から、所定の波長より長い表面うねり成分を位相補償形高域フィルタで除去した曲線。
(4)粗さ曲線のカットオフ値(λc) 位相補償形高域フィルタの利得が50%になる周波数に対応する波長(以下、カットオフ値という。)。
(5)粗さ曲線の基準長さ(l) 粗さ曲線からカットオフ値の長さを抜き取った部分の長さ(以下、基準長さという。)。
(6)粗さ曲線の評価長さ(ln) 表面粗さの評価に用いる基準長さを一つ以上含む長さ(以下、評価長さという。)。評価長さの標準値は、基準長さの5倍とする。
(7)…(略)…。」(第1頁「2.用語の定義・記号」の項目)

(い)「3.1 Raの定義
3.1.1 Raの求め方 Raは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、次の式によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
l
Ra=1/l∫ |f(x)|dx 式(1)
0
ここに、l:基準長さ」(「3.算術平均粗さ(Ra)の定義及び表示」の項目)

3.1.2 カットオフ値 Raを求める場合のカットオフ値は、一般に次の6種類から選ぶ。0.08 0.25 0.8 2.5 8 25 単位mm

3.1.3 カットオフ値の標準値 Raを求める場合の、Raの範囲に対応するカットオフ値及び評価長さの標準値は、一般に表1の区分による。

表1 Raを求めるときのカットオフ値及び評価長さの標準値
────────────┬────────┬───────────
Raの範囲 |カットオフ値 |評価長さ
(μm) | λc | ln
──────┬─────┤ (mm) |(mm)
を越え | 以下 | |
──────┼─────┼────────┼───────────
(0.006)|0.02 | 0.08 | 0.4
0.02 |0.1 | 0.25 | 1.25
0.1 |2.0 | 0.8 | 4
2.0 |10.0 | 2.5 | 12.5
10.0 |80.0 | 8 | 40
──────┴─────┴────────┴───────────
( )内は、参考値である。

備考 Raは、まずカットオフ値を設定した上で求める。表面粗さの表示・指示を行う場合に、その都度これを指定するのは不便であるので、一般に表1に示すカットオフ値及び評価長さの標準値を用いる。」(第4頁「3.1 Raの定義」の項目)

(う)「3.2 Raの表示
3.2.1 Raの呼び方 Raの呼び方は、次による。
算術平均粗さ__μm、カットオフ値__mm、評価長さ__mm
又は
__μmRa、λc__mm、ln__mm
備考1. 表1に示すカットオフ値の標準値を用いて求めたRaの値が、表1に示す範囲にある場合には、カットオフ値の表示を省略することができる。
2. 評価長さがカットオフ値の5倍、すなわち、表1に示す評価長さの標準値を用いた場合には、評価長さの表示を省略することができる。

3.2.2.…(略)…

3.2.3. Raの区間表示 Raをある区間で表示する必要があるときには、その区間の上限(表示値の大きい方)及び下限(表示値の小さい方)に相当する数値を、表2から選んで併記する。
例1. 上限及び下限のカットオフ値の標準値が等しい場合 上限が6.3μmRa、下限が3.2μmRaのときの区間表示は、(6.3?3.2)μmRaとする。この場合には、カットオフ値として2.5mmを用いる。
例2. 上限及び下限のカットオフ値の標準値が異なる場合 上限が12.5μmRa、下限が3.2μmRaのときの区間表示は、(12.5?3.2)μmRaとする。この場合には、カットオフ値として8mmで測定したRaの値が12.5μmRa以下であり、かつ、カットオフ値2.5mmで測定したRaの値が、3.2μmRa以上であることを意味する。
備考1. 上限及び下限に対応するカットオフ値を同一にする必要がある場合、又は表1の標準値以外のカットオフ値を用いる場合には、カットオフ値を併記する。例2.において、上限及び下限に対応するカットオフ値を8mmとするときには、(12.5?3.2)μmRa、λc8mmと表示する。
2. ここでいう上限及び下限のRaとは、指定された表面からランダムに抜き取った数箇所のRaの算術平均値であって、個々のRaの最大値ではない。」(第4?5頁「3.2 Raの表示」の項目)

(え)「この解説は、本体及び附属書に規定した事柄、並びにこれらに関連した事柄を説明するものであって、規格の一部ではない。」(第17(解1)頁第3?4行)

(お)「4.1 表面粗さ この規格の適用範囲でいう表面粗さは、…(略)…工業製品の表面における表面うねり及び幾何偏差を除く微細な凹凸を対象としている。表面粗さは、表面の一つの性質を定める量であるが、何を“表面粗さ”というかという定義もはっきりしていない。常に問題とされるのは、いわゆる、“粗さ”と“うねり”の区別である。粗さとうねりをその性質の上から区別するとき、前者は表面がつるつるしているとか、ざらざらしているとかいう感覚の基になる量で、後者は粗さより大きい範囲での表面の周期的な凹凸であるとされている。旧JIS B0601^(-1952)では、この立場に立って表面粗さを定義していた。しかし、広い範囲の表面を考えると、うねりは上記のような定義で、粗さと区別できないものが多い。具体的に測定規格としては粗さをうねりと区別するため、うねりのピッチに相当する長さを決めなければならないが、これは上の定義だけでは不可能である。実際には粗さやうねりの定義と無関係に基準長さを指定し、その中の山は、すべて粗さとせざるを得ない。この規格では、何を粗さとするか、という定義を避けて適用範囲に示した6種類の表面粗さを定義し、測定のときに選んだ一定のカットオフ値又は基準長さの中に含まれている凹凸は、すべて“表面粗さ”と考えるという立場をとっている。…(略)…したがって、表面粗さを指定し、又は測定する場合“カットオフ値又は基準長さ”が最も重要な要素となるが、カットオフ値又は基準長さは、測定の目的によって異なるべきであるという考え方をとっている。例えば、旋削加工において送りマークが問題となる場合は、その送りのピッチより大きいカットオフ値又は基準長さをとるべきであり、一つの切刃の中での凹凸の高さが問題であるならば、送りのピッチ以下のカットオフ値又は基準長さをとるべきである。一般にカットオフ値又は基準長さが長いと、表面粗さの値は大きく出る。…(略)…。」(第19(解3)頁「4.1 表面粗さ」の項目)

(か)「4.2 表面うねり この規格と関連したうねりは、JIS B0610^(-1976)(表面うねりの定義と表示)に制定されているが、粗さとの関係について簡単に触れておく。…(略)…したがって、この規格では上述のように粗さとうねりの性格的な区分を行うことを避け、ある周期より長い波形成分で作られる波形は、“表面うねり”であるという考え方をとり、カットオフ値又は基準長さの選び方によって、粗さとうねりを区別することにした。この規格ではカットオフ値又は基準長さが表面粗さの数値と独立に決定できる方式としたので、カットオフ値又は基準長さの採り方によって、うねりの成分が粗さの測定値に及ぼす影響を大きくも小さくもできるようになっている。したがって、カットオフ値又は基準長さをそれぞれ大小二つ選んで、それぞれの表面粗さの数値を求めれば、表面うねりに対する情報を得ることができる。」(第20(解4)頁「4.2 表面うねり」の項目)

(き)「5.1 断面曲線 触針が測定面上をたどったとき、触針の先端が作るはずの曲線を断面曲線という。表面の真の断面の形状は、無限に小さい曲率半径の先端をもつ触針をゆっくり動かしたときの上下動の形である。実際の触針の動きは、厳密には表面の凹凸の断面形状ではない。特に小さな凹凸をもつ面を測定する場合には、この違いが著しいと思われる。しかし、真の断面の形状は測定できないので、実際の測定の上では一定の基準に従った方法で得た触針の上下動の記録を断面曲線として取り扱う。(以下略)」(第21(解5)頁「5.1 断面曲線」の項目)

(く)「5.2 ろ波うねり曲線、粗さ曲線及び平均線 ディジタル形の触針電気式表面粗さ測定器は、アナログ波形である測定した断面曲線を、A/D変換器によって適切なサンプリング間隔の離散数列に変換する。次にこの数列の任意の範囲内の各点に対し、解説図1に示す重み関数で重みを付け、その加重平均値を次々に求め、ろ波うねり曲線を得る。この操作は、断面曲線を解説図2の振幅伝達率の利得が50%になる波長で示すカットオフ値λcの低域フィルタで、波形変形のないろ波うねり曲線を求めることに相当する。求めたろ波うねり曲線を平均線とし、各点における平均線から断面曲線までの偏差を次々に求めることによって、波形変形のない粗さ曲線が得られる。こうして求めた粗さ曲線からすべてのパラメータRa、Ry、Rz、Sm、S,tpを求める。…(略)…。」(第21(解5)頁「5.2 ろ波うねり曲線、粗さ曲線及び平均線」の項目)

(け)「5.3 カットオフ値 電気的に表面粗さのパラメータを直読する計器では、表面の凹凸の低周波成分を除くために、基準長さを用いないで断面曲線をフーリェ解析した周波数成分のうち、長波長成分を除去したものを考える。この長波長成分を除去する限界の波長がカットオフ値である。…(略)…実際の多くの表面では、はっきりした表面うねりの周波数成分と表面粗さの周波数成分とを明確に区別できない場合が多く、多くの場合、凹凸の周波数成分は、周波数に対して連続に分布している。したがって、特定の周波数成分以上を人為的にカットオフする場合には、フィルタの減衰特性の採り方によって、同じ凹凸を測定しても測定値が異なる。…(略)…カットオフ値は、その効果の上からは基準長さとは異なるが、その主目的は基準長さの場合と同じく、うねりの成分を除去することにある。この意味で両者の関係を見やすくするため、カットオフ値と基準長さの数値は等しくとってある。カットオフ値を選択する基準は、Ryなどの場合の基準長さの選択と同様に考えてよい。」(第23(解7)頁「5.3 カットオフ値」の項目)

(こ)「5.4 基準長さ及び評価長さ
基準長さ 一定のピッチで凹凸が並んでいるような規則的な表面では、基準長さの採り方に注意しなくても粗さの値はほぼ一定に定まる。一方、研削やラップ仕上げのような加工面では、不規則な凹凸の並んだ表面や大きなピッチのうねりのある表面では基準長さを大きくすれば、得られた表面粗さの値が大きくなる。このことが生産現場での粗さの測定の大きな問題点となっている。そこでこの規格では、粗さ曲線から粗さを求める場合、まず、基準長さを定めるべきであるとしているのは前述の理由からである。…(略)…しかし、今までのところ、各種加工面に対し、どのような基準長さを採ればよいのかということについては定説がないので、この規格では単に基準長さの種類だけを規定している。また、実際の測定では、基準長さを厳密に考える必要のない場合が多いので、従来の規格と算術平均粗さの場合のカットオフ値を考え、標準値を定めた。さらに、基準長さを厳密に定めても、理論上はその基準長さより長い周期性のうねりの影響が完全に除かれるとは限らないからである。
評価長さ ある粗さ曲線を周波数分析するとき、測定長さが短いために生じる誤差が大きく現れる。正しい周波数分析を行うためには、無限に長い粗さ曲線の記録を用いなければならないが、旧JIS(1982)では実用上の配慮からカットオフ値の3倍以上の長さからRaを求めるように規定した。…(略)…旧JIS(1982)では、これらより短いが、周波数分析の誤差という意味からは、3倍で十分であると判断したからである。表面粗さのパラメータを求める粗さ曲線の長さは、基本的には、基準長さであるが、平均的な値を得る一方法として、評価長さを採用した。旧JIS(1982)では、上で述べたように、測定長さの名称で基準長さの3倍以上としていたが、今回ISO規格に従ってその長さを、基準長さの5倍にした。…(略)…。」(第23?24(解7?8)頁「5.4 基準長さ及び評価長さ」の項目)

(さ)「5.5 各パラメータについて
算術平均粗さRa 指定されたカットオフ値をもつ位相補償形高域フィルタによって断面曲線から粗さ曲線f(x)を求める。f(x)を平均線の方向に基準長さlに相当する長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線の下側に現れるf(x)の部分を平均線で折り返す。折り返すことによって得られる斜線を施した部分の面積を基準長さlで除した値が、この抜き取り部分の算術平均粗さRaである。」(第24(解8)頁「5.5 各パラメータについて」の項目)

(し)「5.7 表面粗さの表示
最大値表示について…(略)…。
区間表示について 表面粗さを指示するときに用いる区間表示、例えば、算術平均粗さの区間表示(6.3?3.2)μmRaの意味は、カットオフ値の標準値2.5mmで測定した算術平均粗さの値が、3.2μmRa以上で6.3μmRa以下であることを指示している。また、(12.5?3.2)μmRaの場合には、12.5μmRaに対するカットオフ値の標準値は8mmであり3.2μmRaに対するカットオフ値の標準値は2.5mmであるから、加工面内の多数の箇所でカットオフ値8mmで測定した値の算術平均値が12.5μmRa以下で、カットオフ値2.5mmで測定した値が3.2μm以上であることを意味している。もし(12.5?3.2)μmRaの場合に、同一のカットオフ値を使用したい場合には、カットオフ値を指定する必要がある。すなわち、(12.5?3.2)μmRaλc2.5mmのように使用するカットオフ値を記入する。…(略)…。」(第25?26(解9?10)頁「5.7 表面粗さの表示」の項目)

(三) 以上の記載に基づいて、算術平均粗さ(Ra)がどのように求められ、表示されるかをみてみると、
JIS B0601規格の上記(い)(さ)によれば、算術平均粗さ(Ra)は、上記(い)の「3.1.1 Raの求め方」に記載された粗さ曲線(JIS B0601規格の「2.用語の定義・記号の(3)」:断面曲線から所定の波長より長いうねり成分を除去した曲線)f(x)の平均線を折り返すことによって得られた面積をl(長さ)で除した値である。そして、「3.1.3」には「Raを求める場合のカットオフ値は、一般に次の6種類から選ぶ。0.08 0.25 0.8 2.5 8 25 単位mm」とあり、「3.1.3」の備考には「Raは、まずカットオフ値を設定した上で求める。」とある。なお、上記(う)によれば、カットオフ値の標準値を用いて求めた算術平均粗さ(Ra)の値が、「3.1.3 表1」に示す範囲にある場合にあり、また、評価長さの標準値を用いた場合には、カットオフ値、評価長さの表示を省略できるともある。
そこで、本件訂正明細書の請求項1の構成xをみると、「JIS B0601に基づいて求められる該くぼみの平均深さ(カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))」は、カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで設定された上で求められた算術平均粗さ(Ra)である(評価長さの標準値を採用するものでないことは明らかである)といえ、上記したとおりJIS B0601規格の「3.1.1 Raの求め方」に記載された、粗さ曲線(JIS B0601規格の「2.用語の定義・記号の(3)」:断面曲線から所定の波長より長いうねり成分を除去した曲線)f(x)の平均線を折り返すことによって得られた面積をlで除した値といえる。

(四)カットオフ値及び評価長さに関し、上記(お)に「カットオフ値又は基準長さは、測定の目的によって異なるべきであるという考え方をとっている。例えば、旋削加工において送りマークが問題となる場合は、その送りのピッチより大きいカットオフ値又は基準長さをとるべきであり、一つの切刃の中での凹凸の高さが問題であるならば、送りのピッチ以下のカットオフ値又は基準長さをとるべきである。」及び「一般にカットオフ値又は基準長さが長いと、表面粗さの値は大きく出る」、並びに、上記(か)に「カットオフ値又は基準長さの採り方によって、うねりの成分が粗さの測定値に及ぼす影響を大きくも小さくもできるようになっている」と記載され、これらの記載を参酌すると、切削加工における送りマークとはどんな場合でも同じ送りのピッチとなるわけではないのと同様に、不織布についても、すべての不織布が同じくぼみの模様(くぼみのピッチ)をもつわけではないといえ、ある特定のくぼみの模様(くぼみのピッチ)を持つ不織布、更には、同一の不織布であっても方向によってくぼみの模様(くぼみのピッチ)が変わり得る不織布もあることを考えれば、不織布のくぼみのピッチが2.5mmという数値とは無関係である場合には、2.5mmのカットオフ値で測定することがすべての不織布に対して適切であるとはいえないといえる。
しかしながら、請求項1には「該くぼみが、・・・、その圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、その個数が25?35/cm^(2)の範囲」の限定が付されているので、この場合に、2.5mmのカットオフ値で測定することが適切であるのか否か、について、以下に検討する。

(a)訂正後の請求項1では、くぼみの規則性や形状について特に限定されるものでないから、正方形や円形の場合では、被請求人が本件訂正請求書の第4頁2?12行で述べているとおり、圧着部面積が最大の1.5mm^(2)でもカットオフ値2.5mmの中に少なくとも1個のくぼみが入るとはみれるが、細長い長方形や菱形(ダイヤ柄)などの場合、例えば、縦3mm×横0.5mm、面積1.5mm^(2)の長方形など、圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、必ずしもカットオフ値2.5mmの中に少なくとも1個のくぼみが入るとは限らないものが存在し得る。してみると、くぼみが、その圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、その個数が25?35/cm^(2)の範囲であるとしても、2.5mmのカットオフ値で測定することが、その範囲内のすべての不織布に対して適切であるとはいえない。
然るに、乙第1号証は、エンボスロールを用いて規則正しい正方形のくぼみを形成したもの(写真1での縮尺からみればくぼみの圧着部面積は0.5?1.5mm^(2)で範囲内とみれる)であるから、被請求人が答弁書(第6頁8?24行)において「乙第1号証を提示する。乙第1号証によれば、不織布の表面において、針の測定方向を縦、横、斜めと変えた場合でも、その平均値をみれば37.8μm、39.0μm、39.5μmとなっており、針の走行方向によって(Ra)の値が大きく変化するものでない」旨主張しているとおり、算術平均粗さの測定結果の平均値は、縦、横、斜めの方向による変動は少ないとみれるが、上記したとおり訂正後の請求項1では規則性も形状も特定されない。そうすると、上記した長方形やダイヤ柄のものでは、測定されるRaは、断面の取り方、方向性によって、くぼみとうねりが区別できないことがあり得るのであるから、どのように測定するかによって、Raは変動するとみれる。仮に、特定の規則的なものであっても、甲第3号証の試料(1)及び(2)(以下、例えば、試料の「(1)」、「(2)」とは、原文で数字を○囲みした記述の代用としたものである)のダイヤ柄の模様では、これが、本件訂正後の請求項1の「圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)」であるか不明であるとしても、カットオフ値2.5mmで試験しても、対角線短と対角線長と解析方向によってRaの試験結果は解析方向-1(対角線短)と解析方向-2(対角線長)でそれぞれ、80.94、41.60と異なっているのであり、測定されるRaは、断面の取り方、方向性によって変動する。ましてや、不規則なものでは、どのように測定するか不明といわざるを得ない。

(b)また、上記被請求人の主張からみると、Raは、測定結果の平均値であるとも受け止められなくもないが、この平均値をとることについて本件明細書には特に記載されていない(本件明細書には「測定結果の平均値」という文言もない。)。ただ、JIS B0601規格の上記(あ)によれば、JIS B0601規格でいう算術平均粗さ(Ra)とは、対象面の表面粗さを表す6つのパラメータのうちの一つであり、そして、表面粗さの表示の際は、それらのパラメータの算術平均値で表示されるとあることからすると、平均値をとり得るという考え方は直ちに否定されるものではないが、本件明細書記載の構成xである算術平均粗さ(Ra)では、その記載ぶりから測定結果とみる方が妥当であって、それが必ず測定結果の平均値を意味するという根拠は本件明細書をみても明らかではない。仮に被請求人のいうように「JIS B0601表面粗さ規格に基づいて求められる算術平均粗さ(Ra)」が、測定結果の平均値であると解されると想定した場合について、甲第3号証及び甲第5号証をみると、試料(1)、(2)、(5)で提示されるような、ある特定の規則性を有する模様の不織布に関しては、本件明細書にも、また、JIS B0601規格にも、どのようにして算術平均粗さ(Ra)の測定結果の算術平均値を算出するかの規定がない。
すなわち、上記(あ)には、「対象面の表面粗さを求めるには、その母平均が効果的に推定できるように測定位置及びその個数を定める必要がある」、算術平均粗さ(Ra)を算出するもととなる断面曲線の定義について「一般に方向性がある対象面ではその方向に直角に切る」とあり、上記(え)?(さ)には、算術平均粗さ(Ra)を求める際の解説があるものの、いずれにも測定方向について上記(あ)以上の詳細な解説はないから、これらの記載事項だけでは甲第3号証や甲第5号証に示されたような特定の規則性を有する模様の不織布について、どの方向で測定する必要があるのかはわからず、結局、次に述べるとおり具体的な測定条件が十分に示されていることにはならない。
例えば、甲第3号証の試料(1)及び(2)のダイヤ柄の模様は、上下に2つ略正三角形が結合した図形の輪郭を有する菱形をした凹みの模様が規則的に現れるものであって、いずれの凹みもほぼ同じ深さであり、かつ、凹みと凹みとの間は平坦に形成されており、これらの試料(1)、(2)におけるくぼみの模様の規則性は、一つの菱形の中心からどの方向に線を引いても、規則的にくぼみが繰り返し一様に現れるのであり、また、同様のことが甲第5号証の試料(4)にもいえるのであり、これらの試料(1)、(2)、(4)については、どの方向を測定方向として何とおり採用し、平均値とするかは、JIS B0601規格には規定もなく、また、このことは自明でもない。
すると、JIS B0601規格を参酌しても、甲第3号証及び甲第5号証の試料(1)、(2)、(4)の算術平均粗さ(Ra)の測定結果の平均値は定まらない。更に、これらの試料(1)、(2)、(4)が裏表で60μmを跨ぐときも同様に算術平均粗さ(Ra)の測定結果の平均値は定まらない。
また一方で、被請求人は、訴訟の「準備書面」(甲第21号証、第6頁下から1行?第7頁6行)で「平均深さは、・・・算術平均深さ(Ra)を複数回測定した結果の平均をとるものでない」旨主張している。このときは、くぼみの平均深さは、複数回測定した結果の平均ではなく、ましてや、縦、横、斜めの平均とみることはできないから、乙第1号証で測定された、それぞれの測定結果そのものがRaの値ということになるが、乙第1号証の測定結果をみると、測定方向が縦の場合で測定結果が最小で「30μm」、最大で「44μm」の差を生じ、縦、横、斜めでは「30μm」と「48μm」の差になる。そうすると、Raが60μm近傍の不織布では、測定によって60μmの範囲内のものとなったり、範囲外のものになる。
してみれば、被請求人の主張は必ずしも一貫しているとはいえないものであるが、いずれにせよ、本件訂正明細書の請求項1において、構成xの算術平均粗さ(Ra)が算術平均粗さ(Ra)の測定結果の平均値であるとし、JIS B0601規格を参酌しても、本件訂正明細書の記載からは、算術平均粗さ(Ra)の測定結果の平均値をどのように求めるかが十分に把握できないし、また、それぞれの測定結果そのものが算術平均粗さ(Ra)の値としても、測定によって60μmの範囲内のものとなったり、範囲外のものになる。

(c) 以上のことからみれば、本件訂正明細書の記載からは、JIS B0601規格を参酌しても、算術平均粗さ(Ra)をどのように求めるかが十分に把握できなく、2.5mmのカットオフ値、評価長さ8mmで測定することが、圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、その個数が25?35/cm^(2)の範囲内すべての不織布に対して適切であるとはいえないから、構成xは明確ではなく、更に、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるともいえない。
また、発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
なお、訂正後の請求項1の「圧着部面積」は、段落【0016】に「フィラメント間が熱と圧力によって融着(熱圧着)し、部分的にくぼみが形成」からみると、融着した部分の面積とみれるが、正確にフィラメント間が融着した面積をどのように計測されるのか、についても本件明細書には何等記載されていないことを付言する。

(五)また、くぼみの圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、その個数が25?35/cm^(2)の範囲で、JIS B0601に基づいて求められる該くぼみの平均深さ(カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))が60μm以下であることによる、毛羽立ちの効果についてもみておくと、
甲第15号証?甲第18号証には、毛羽立ちは不織布表面の構成繊維間の融着の程度に関係することが技術常識であることが窺える。本件訂正発明1のように「部分的にくぼみが融着されて形成された」ものの場合に、融着の程度と融着されていないくぼみ以外の箇所での毛羽立ちとの関係が上記した技術常識から直ちに云々できるとはいえないが、甲第3号証の試験において、ロール表面温度と線圧を変えた場合に算術平均Raは僅かに変わり、共に60μm以上でありながら毛羽立ちがB級とC級となっている。この違いは、ロール表面温度と線圧、すなわち融着の度合いに影響されるものともみれることから、たとえ、くぼみの圧着面積や個数が限定されたとしても、くぼみ密度が高い場合にくぼみの融着がくぼみ以外の融着されていない箇所の毛羽立ちに全く関係しないという根拠も見当たらないことから、被請求人の主張する、融着の程度でなくRaに依存するということが妥当なものと認めることはできない。
この点について、被請求人は、上記準備書面(第7頁7?24行)で「今回の訂正によって、くぼみの圧着面積および個数を特定の範囲に規定したことから、・・・疑義が解消できた」と主張している。確かに、訂正による圧着面積や個数の限定は、圧着度合いの関係する要因であるとはいえるが、融着の度合いが、圧着面積や個数のみで決まるという根拠はなく、上記したロール表面温度や線圧、あるいは間隔などにもよるものともみれるし、また、請求人が弁駁書で提示した甲第20号証(WO97/37071国際公開公報)は、本件発明に関連する被請求人の国際出願であって、そこには、実施例1、比較例1として「圧着部面積が0.6mm^(2)でその個数が25個/cm^(2)のフィルター用不織布が16種類」記載され(第8頁24行?第9頁17行)、その16種類の各不織布のくぼみの平均深さ(Ra)と毛羽立ち特性を測定した結果が「表1」(第12頁)に記載されている。この「表1」の結果をみると、比較例1-(1)、1-(2)、1-(3)などRaが60μm以下の値であっても、毛羽立ち特性が3級(実施例の4、5に比べて毛羽立ち特性がよくない)というものであることから、一概にRaのみで毛羽立ち特性が判断できないことが窺える。以上のことから、この主張は認めることはできない。

(六)まとめ
以上のことから、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること及び特許を受けようとする発明が明確であることに適合しない。そして、本件訂正明細書の特許請求の範囲請求項2?7は直接に或いは間接的に本件訂正明細書の特許請求の範囲請求項1を引用するものである。よって、本件訂正発明1?7についての本件特許は特許法第36条第4項又は第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とされるべきである。

なお、上述(「1.手続きの経緯」)したとおり、結審通知後に被請求人より上申書(訂正拒絶理由に対する意見を内容とする)が提出された。そこで当審において審理の完全を期すために上申書を検討したが、審理の結論に影響を及ぼす事由を見出すことはできない。付言すれば、上申書において「2.5mm以下の短辺が必ず存在するから、すべての不織布に対して適切にくぼみの平均深さ(・・)を測定できる」(第6頁18?20行)との主張については、「くぼみの形状(くぼみ深さ)が縦、横および斜めという方向において均一に形成されているものである限り」という前提に基づくものであり、また、例えば長方形が縦長・横長交互に形成される細長くぼみであれば、短辺が存在するからといって、必ずしもすべての不織布に対して適切にくぼみ深さを測定できるとも云えない。また、手羽立ちの効果についても「甲第2号証において、・・・これらの試料は、・・・具体的にどのようなエンボス凸部を有するロールを用いて、どのような走行速度(ウエブ搬送速度)で熱圧着した不織布なのか等の製造条件が不明であるため、くぼみ深さと毛羽立ちの効果を議論することができない」(第9頁3?14行)、「これらの不織布は、接着圧力が低いために熱圧着が十分に行われておらず、・・・・毛羽立ちとくぼみの平均深さ(・・)との関係は議論できない」(第10頁18?21行)と主張しているが、この主張からも明らかなように、製造条件や熱圧着の程度によって毛羽立ちに影響を受けるものであることから、毛羽立ちの効果がくぼみの接着面積、個数、算術平均粗さ(Ra)にのみに依存するということにならない。

6.むすび
以上のとおり無効理由1には理由があるから、本件訂正明細書の記載に不備がある本件訂正発明1?7に対する無効理由2については検討するまでもなく、本件訂正発明1?7についての特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定を適用して、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エアーフィルター用不織布およびそれを用いてなるエアーフィルター装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】鞘成分が芯成分に対し20℃以上低い融点を有する共重合ポリエステルからなるポリエステル系芯鞘型複合フィラメントのみで構成され、かつ、部分的にくぼみを有する不織布であって、該くぼみが、該低融点共重合ポリエステルが融着されて形成されたものであって、その圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、その個数が25?35個/cm^(2)の範囲であり、かつ、JIS B0601に基づいて求められる該くぼみの平均深さ(カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))が60μm以下であることを特徴とするエアーフィルター用不織布。
【請求項2】該鞘成分が、該複合フィラメントの5?30重量%を占めるものである請求項1記載のエアーフィルター用不織布。
【請求項3】該不織布の目付が、100g/m^(2)以上である請求項1または2記載のエアーフィルター用不織布。
【請求項4】該不織布の剛軟度が、500mg以上である請求項1?3のいずれかに記載のエアーフィルター用不織布。
【請求項5】該エアーフィルター用不織布が、パルスジェット式集塵装置用である請求項1?4のいずれかに記載のエアーフィルター用不織布。
【請求項6】請求項1?5のいずれかに記載のエアーフィルター用不織布を、エアーフィルター装置のフィルター部材として使用したことを特徴とするエアーフィルター装置。
【請求項7】該エアーフィルター装置が、パルスジェット式集塵装置である請求項6記載のエアーフィルター装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エアーフィルター、たとえば集塵機用フィルター等において粉塵との衝突、あるいはフィルター内部支持体である金網等により擦過して発生するフィルター基材の毛羽立ちを抑制し、かつパルスジェット後の粉塵離脱性の優れたエアーフィルター用不織布およびそれからなるエアーフィルター装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
エアーフィルター、たとえば集塵機用フィルター等は、金属の研削工場や粉塵が多く発生する工場での労働環境の改善に、比較的高価な有価物の回収にと幅広く用いられている。
【0003】
これらの用途において、大部分がフィルター基材に織物、ニードルパンチした不織布を用いたバッグフィルターが使用されているが、近年、集塵機の高速化・低負荷化および小型化への動きに伴い、フィルターのタイプも、取替えや取付けが容易で、かつコンパクトなカートリッジフィルターへ転向されつつある。
【0004】
該カートリッジフィルターに使用されるフィルター基材は、一般にプリーツ加工を施し、フィルターユニット中での表面積を大きくして濾過機能を高めたものが使用される。
【0005】
かかるフィルター基材には、プリーツ加工が可能で、そのために不織布を部分的に圧着し、ある程度の硬さや強力を持たせたり、濾過性能を満足させるために、不織布の見掛密度を高めたり、目付の高い不織布が使用されている。かかるエアーフィルター用不織布として、一部共重合ポリエステル成分を含むポリエステル連続フィラメントからなる部分的に圧着した不織布を使用することが知られている。
【0006】
この不織布は通常紡糸口金から、溶融紡出された連続フィラメントをエアーサッカー等の手段により吸引延伸し、移動する網状体の上に開繊堆積させ連続フィラメントウェブとし、次いで同ウェブを部分的に熱圧着するという方法で得られている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、このような従来のエアーフィルター用不織布では、集塵機用フィルター等において、粉塵粒径大、高濃度、高流速等の厳しい濾過条件下で使用された場合、粉塵がフィルター基材と衝突し、毛羽立ちが発生することがあった。また、該カートリッジフィルターの内部にはフィルター基材を支持するための円筒状の金網の型枠が使用されているが、この金網とフィルター基材の擦過によって、毛羽立ちがしばしば発生することがあった。
【0008】
また、一般にこのような集塵機用フィルター用途においては、フィルター基材の表面上に捕集された粉塵を逆流エアーにより間欠的に払い落としながら使用するパルスジェット方式が、フィルター寿命の延長を図るために採用されているが、その場合、前記該毛羽立ち部分に粉塵が絡み付き、パルスジェット後の粉塵離脱性が悪化し、さらにはフィルターの寿命が低下してしまうという問題が発生していた。
【0009】
本発明は、かかる問題を解決し、エアー濾過時のフィルター基材の毛羽立ちが少なく、かつパルスジェット後の粉塵離脱性に優れた、集塵機用フィルターとしても十分な性能を持った、高寿命のエアーフィルター用不織布およびそれからなるエアーフィルター装置を提供しようとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる課題を解決すべく、次のような手段を採用する。すなわち、本発明のエアーフィルター用不織布は、鞘成分が芯成分に対し20℃以上低い融点を有する共重合ポリエステルからなるポリエステル系芯鞘型複合フィラメントのみで構成され、かつ、部分的にくぼみを有する不織布であって、該くぼみが、該低融点共重合ポリエステルが融着されて形成されたものであって、その圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、その個数が25?35個/cm^(2)の範囲であり、かつ、JIS B0601に基づいて求められる該くぼみの平均深さ(カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))が60μm以下であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のエアーフィルター装置は、かかるエアーフィルター用不織布を、エアーフィルター装置のフィルター部材として使用したことを特徴とするものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は、エアーフィルターとして使用するポリエステル系芯鞘型複合フィラメントのみで構成されてなる不織布の表面の圧着部の深さが、エアー濾過の際の粉塵との衝突、あるいはフィルター内部支持体である金網等により擦過して発生するフィルター基材の毛羽立ちに大きく影響を与えることを究明したものである。具体的には該不織布の融着部の形状、構造を特定なものにすると、粉塵、あるいはフィルター内部支持体である金網等と、フィルター基材との摩擦抵抗が大きく低減し、それによって毛羽立ちが抑制され、かつ粉塵離脱性を向上させることができることを究明したものである。
【0013】
すなわち、かかる不織布の該融着部のくぼみの深さと、フィルター基材の毛羽立ちとの関係を検討したところ、該くぼみの平均深さがフィルター基材の毛羽立ちと関係が深いことを究明し、さらには、JIS B0601表面粗さ規格に基づいて求められる算術平均粗さ(Ra)、たとえば、一般に、金属等の表面粗さを確認するために使用される株式会社小坂研究所製の表面粗さ計SE-40C(JIS B0651触針式表面粗さ測定器の規格に基づく)を用いて測定することができる該くぼみの平均深さが、密接に関係することを究明した。すなわち、不織布のかかる該融着部のくぼみの平均深さが60μm以下とすることで、従来の不織布に比べ大幅にフィルター基材の毛羽立ちを抑制することができることを見出だした。
【0014】
該融着部のくぼみの平均深さが60μmを越すと、フィルター基材の毛羽立ちが幾何級数的に大きくなっていき、エアーフィルターとして適さなくなる。また、該くぼみの平均深さを小さくすることは、不織布表面の凹凸が小さくなることであり、粉塵あるいはフィルター支持体である金網等と、フィルター基材との摩擦抵抗が大きく低減されることを意味する。また、フィルター基材の毛羽立ちが抑制されることから、該毛羽立ちへの粉塵の絡み付きも低減され、パルスジェット後の粉塵離脱性が向上し、更には寿命性能を向上させることができるのである。
【0015】
本発明の基本思想は、エアーフィルターとして使用する不織布表面の該融着部のくぼみの深さを浅くし、粉塵との衝突あるいはフィルター支持体である金網等との擦過により発生するフィルター基材の毛羽立ちを抑制し、かつパルスジェット後の粉塵離脱性を向上させることにある。
【0016】
本発明で言う部分的にくぼみを有する不織布とは、不織布を構成しているポリエステル系芯鞘型複合フィラメントのみからなる連続フィラメント間が熱と圧力によって融着(熱圧着)し、部分的にくぼみが形成されていること、すなわち、フィラメント密度が高くなった部分が点在するものである。このように、部分的なくぼみを形成するためには、通常、加熱した一対のエンボスロールが使用されるが、本発明においては、エンボスロールの形態、組合わせ等について特に規制するものではない。また、圧着部の不織布全体の面積に占める割合も、特に規制するものではないが、より少ない方が好ましく、たとえば、好ましくは10?30%、さらに好ましくは15?20%の範囲で占めるのがよい。具体的には、圧着部面積が0.5?1.5mm^(2)で、25?35個/cm^(2)の範囲がよい。
【0017】
ところで本発明のフィルター用不織布は、目付100g/m^(2)以上であり、また、剛軟度が500mg以上であるものを使用するのが好ましく、さらにこれらの両方の要件を満足するものが特に好ましい。これは、該フィルター用不織布がプリーツ加工を施し使用されることから、ある程度の硬さや強力を持たすのが好ましく、目付および剛軟度のいずれかが外れた場合には、プリーツ加工が困難であるばかりか、プリーツ形態を保持することも困難なものとなるのである。また、フィルター性能においても満足できるものが得られにくくなる傾向がでてくる。
【0018】
本発明のフィルター用不織布は、ポリエステル系複合フィラメント、それも芯鞘構造を有する複合フィラメントのみで構成されているものが使用される。かかる複合フィラメントとしては、鞘成分が芯成分に対し20℃以上低い融点を持つ共重合ポリエステルから成ることが、目付の高い不織布を得る上で重要である。更に、芯鞘構造とは、一般的な同心円が最も好ましいが、偏芯円形、異型断面型としてもよい。また、かかるポリエステル系フィラメントに酸化チタン、カーボンブラック等の添加剤を含んでもよいことは言うまでもない。本発明の共重合ポリエステル成分とは、アジピン酸、イソフタル酸、等を共重合したポリエステルであり、酸化チタン、カーボンブラック等の添加剤を含んでもよいことは言うまでもない。
【0019】
本発明のかかるエアーフィルター用不織布を、たとえば、集塵機用フィルター装置に使用すると、粉塵との衝突、あるいはフィルター内部支持体である金網等との擦過により発生するフィルター基材の毛羽立ちを抑制し、かつパルスジェット後の粉塵離脱性を向上させることにより、高寿命のエアーフィルター装置を提供することができるものである。
【0020】
【実施例】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。なお、実施例における各種特性は次の方法により測定した。
くぼみの平均深さ:
くぼみの平均深さは、表面粗さ測定器(株式会社小坂研究所製の表面粗さ計SEー40C:JIS B0651触針式表面粗さ測定器の規格に基づく)を使用して、JISーB0601表面粗さ規格に基づいて求められる算術平均粗さ(Ra)を表す。算術平均粗さは、カットオフ値2.5mm、評価長さ8mmで測定した。
毛羽立ち特性:
テーバ形磨耗試験機により、JIS L1096に基づいて、摩耗輪、荷重条件で100回磨耗後、外観を観察した。
【0021】
外観変化は以下の様に定義し、判定を行った。
【0022】
A級:まったく毛羽立ちがない。
【0023】
B級:少し毛羽立ちはあるが目立たない。
【0024】
C級:毛羽立ちが目立つ
目付:
JIS L1096に基づいて求めた。
剛軟度:
JIS L1096ガーレ法に基づいて求めた。
【0025】
すなわち、幅方向×長さ方向=1インチ×1.5インチの大きさに裁断した試料を2個採取し、この試料を用いて測定し、2個の平均値で示した。
エアーフィルター性能:
粉塵捕集-粉塵払落(パルスジェット)の繰返しテストを、エアーフィルターモデル装置を用いて、下記条件にて評価を行った。
【0026】
測定条件 ダスト種:JIS11種
風速 :3m/min
粉体濃度:4.7g/m^(3)
濾過面積:0.01m^(2)
払落条件 圧力 :3kg/cm^(2)
時間 :0.1sec
実施例1、2
融点が260℃のポリエチレンテレフタレートを芯成分、融点が230℃のイソフタル酸共重合ポリエステルを鞘成分とし、芯成分と鞘成分の重量比をそれぞれ、85:15、70:30とした複合連続フィラメントを単糸繊度2dで溶融紡出し、空気圧により開繊した後、移動するネット上に堆積させ、一対の加熱エンボスロールを使用し、表面温度210℃、線圧を60kg/cmで圧着し、目付260g/m^(2)、厚さ0.6mmの不織布を得た。これら不織布の表面のくぼみの平均深さは、それぞれ表/裏=25/20μm、45/40μmであった。
【0027】
毛羽立ち特性は両水準ともA級と良好で、表を濾過面として評価したエアーフィルター性能においても、払落200回後もさらに使用可能、満足いく寿命性能が得られた。結果を図1、表1に示す。
【0028】
比較例1
融点が260℃のポリエチレンテレフタレートを芯成分、融点が230℃のイソフタル酸共重合ポリエステルを鞘成分とし、芯成分と鞘成分の重量比を50:50とした複合連続フィラメントを単糸繊度2dで溶融紡出し、空気圧により開繊した後、移動するネット上に体積させ、一対の加熱エンボスロールを使用し、表面温度を210℃、線圧を60kg/cmで圧着し、目付260g/m^(2)、厚さ0.6mmの不織布を得た。この不織布表面のくぼみの平均深さは表/裏=70/65μmであった。
【0029】
毛羽立ち特性は、C級と実施例に比べ悪く、また表を濾過面として評価したエアーフィルター性能においても払落約150回で使用限界に達し、満足いくエアーフィルター寿命が得られなかった。結果を図1、表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【発明の効果】
本発明のエアーフィルター用不織布は、たとえば、集塵機用フィルター等において、粉塵との衝突、あるいはフィルター内部支持体である金網等により擦過して発生するフィルター基材の毛羽立ちを抑制し、かつパルスジェット後の粉塵離脱性を向上させることで、高寿命のエアーフィルターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この図は、実施例、比較例の粉塵負荷量と払落回数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】なし
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-08-01 
結審通知日 2005-09-14 
審決日 2006-08-28 
出願番号 特願平8-7282
審決分類 P 1 113・ 536- ZA (B01D)
P 1 113・ 537- ZA (B01D)
最終処分 成立  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 増田 亮子
板橋 一隆
松本 貢
斉藤 信人
登録日 2002-08-16 
登録番号 特許第3339283号(P3339283)
発明の名称 エアーフィルター用不織布およびそれを用いてなるエアーフィルター装置  
代理人 吉澤 浩明  
代理人 岩見 知典  
代理人 岩見 知典  
代理人 奥村 茂樹  
代理人 吉澤 浩明  
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