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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B05C
審判 全部無効 2項進歩性  B05C
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B05C
管理番号 1176145
審判番号 無効2006-80275  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-12-27 
確定日 2008-03-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3086446号発明「回転式塗布装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3086446号の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3086446号(以下、「本件特許」という。)の出願は、平成5年5月27日に特許出願された特願平5-151567号(以下、このもとの特許出願を、「原出願」という。)の一部を分割して、新たな特許出願として平成11年2月3日に出願した特願平11-25635号(以下、「本件分割特許出願」という。)であって、その請求項1ないし請求項4に係る発明について平成12年7月7日に設定登録され、その後、本件無効審判請求人の株式会社エイブル(以下、「請求人」という。)により上記本件特許の請求項1ないし請求項4に係る発明の特許に対して平成18年12月27日に本件無効審判〔無効2006-80275〕が請求されたものであり、無効審判被請求人の大日本スクリーン製造株式会社(以下、「被請求人」という。)により指定期間内の平成19年4月2日付けの審判事件答弁書及び同日付けの訂正請求書が提出され、前記審判事件答弁書副本及び訂正請求書副本を前記請求人に送付したところ、前記請求人により指定期間内の平成19年5月29日付けの審判事件弁駁書が提出され、請求人の主張する無効理由に新たな証拠方法として甲第8号証〔平成17年(行ケ)第10796号審決取消請求事件に関する平成18年11月30日判決言渡の判決文〕及び甲第9号証〔平成17年(行ケ)第10271号審決取消請求事件に関する平成18年2月14日判決言渡の判決文〕が追加されたものである。
その後、当審は、平成19年10月26日に口頭審理を開廷すべく、前記審判事件弁駁書副本を請求人に送付し、さらに、当審の職権による審理結果としての、本件分割特許出願に関する分割要件違反を前提として、訂正請求後の本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に係る各発明(以下、請求項順に「本件発明1」及び「本件発明2」という。)についての甲第1号証及び甲第2号証、並びに、甲第3ないし5号証の各刊行物に記載の各発明に基づく進歩性要件の欠如(特許法第29条第2項違反)と、本件訂正明細書における発明の明確性の要件、サポート要件及び実施可能要件の各要件の欠如(特許法第36条第4項及び同条第6項第1号及び第2号違反)を内容とする無効理由通知〔後記の「第3 当審の審理」欄の「3」及び「4」を参照。〕を、請求人及び被請求人の両当事者双方に対して平成19年8月14日にファクシミリにより送信した上で、前記口頭審理の期日の2週間前までに、前記審判事件弁駁書及び当審の職権による無効理由通知に関する請求人及び被請求人からの意見等を纏めた口頭審理陳述要領書の提出を求めたところ、被請求人から平成19年10月12日付けの口頭審理陳述要領書が提出され、また請求人から平成19年10月26日付けの口頭審理陳述要領書が提出されたものである。
そして、当審により平成19年10月26日の期日に口頭審理が公開で開廷され、請求人は平成18年12月27日付け審判請求書、平成19年5月29日付け審判事件弁駁書及び平成19年10月26日付け口頭審理陳述要領書に基づいて陳述し、また、被請求人は、平成19年4月2日付け審判事件答弁書、平成19年4月2日付け訂正請求書及び平成19年10月12日付け口頭審理陳述要領書に基づいて陳述をした。
なお、平成19年10月26日期日の口頭審理における、審判事件弁駁書における請求人の主張に対する被請求人の意見、並びに、当審の職権による無効理由通知に関する請求人及び被請求人の意見を含む両当事者の陳述は、第1回口頭審理調書に記載のとおりである。

第2 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、「特許第3086446号発明の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張し、下記の甲第1号証ないし甲第5号証を提出して、以下の無効理由を主張する。その無効理由の要点は、次のとおりである。
〔無効理由1〕:本件分割特許出願は、分割要件を満たしていないことにより、本件分割特許出願の出願日が実際の出願日である平成11年2月3日に繰り下がることを前提に、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許発明の出願前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当して特許を受けることができないか、あるいは、甲第1号証に記載された発明に基づいて、出願前当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

甲第1号証:特開平6-338447号公報〔原出願である特願平5-151567号の公開特許公報〕

〔無効理由2〕:本件分割特許出願は、分割要件を満たしていないことにより、本件分割特許出願の出願日が実際の出願日である平成11年2月3日に繰り下がることを前提に、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許発明の出願前に日本国内において頒布された甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当して特許を受けることができないか、あるいは、甲第2号証に記載された発明に基づいて、出願前当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

甲第2号証:特開平7-66108号公報

〔無効理由3〕:本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許発明の出願前に日本国内において頒布された甲第3号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて、出願前当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

甲第3号証:特開平4-341367号公報
甲第4号証:特開平3-293056号公報
甲第5号証:特開平4-146615号公報

〔無効理由4〕:本件特許の明細書及び図面の記載と特許請求の範囲の記載は、それぞれ特許法第36条第4項第1号と同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであり、その特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

2 被請求人の主張
被請求人は、請求人の前記主張に対し、平成19年4月2日付けの訂正請求書を提出するとともに、乙第1号証ないし乙第19号証を提出し、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張し、「本件特許に係る分割出願は適法であって、本件請求項1及び請求項2に係る発明は特許法第123条第1項第2号に該当せず、また、本件特許は全ての請求項1及び請求項2について特許法第123条第1項第4号に該当しない。よって、答弁の趣旨のとおりの審決を求める。」旨を主張した。

第3 当審の審理
1 訂正請求の訂正の適否についての判断
(1)訂正請求の内容
被請求人は、請求人の無効審判請求書副本の送付を受けて、平成19年4月2日付の訂正請求書を提出し、その訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は、訂正請求書に添付された全文訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)に記載された次のとおりのものである。
ア 〔訂正事項1〕 本件分割特許出願の特許査定時の明細書又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の特許請求の範囲の請求項2及び請求項3を削除する。

イ 〔訂正事項2〕 本件特許明細書等の特許請求の範囲の請求項4を請求項2に繰り上げて、
「【請求項4】 基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置において、
上部が開口し、前記回転台の周辺を囲むケースと、
前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材と、
前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板と、
を備え、
前記上部板の上側中央部には取付部材が立設され、取付部材には水平方向に延在する第1の部材が設けられ、
前記閉じる部材には、前記上部板の前記第1の部材の下方に位置する第2の部材が設けられ、
前記上部板と前記回転台との結合時には、前記第2の部材に対して前記取付部材および前記第1の部材が相対回転自在となるように設けられている
ことを特徴とする回転式塗布装置。」
の記載を、
「【請求項2】 基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置において、
上部が開口し、前記回転台の周辺を囲むケースと、
前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材と、
前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板と、
を備え、
前記上部板の上側中央部には取付部材が立設され、取付部材には水平方向に延在する第1の部材が設けられ、
前記閉じる部材には、前記上部板の前記第1の部材の下方に位置する第2の部材が設けられ、
前記上部板と前記回転台との結合時には、前記第2の部材に対して前記取付部材および前記第1の部材が相対回転自在となるように設けられている
ことを特徴とする回転式塗布装置。」
と訂正する。

ウ 〔訂正事項3〕 本件特許明細書等の発明の名称の欄の、
「回転式塗布装置および回転式塗布方法」
の記載を、
「回転式塗布装置」
と訂正する。

エ 〔訂正事項4〕 本件特許明細書等の発明の詳細な説明欄の段落【0001】の、
「【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は、液晶表示パネル用のガラス基板、半導体ウエハ、半導体製造装置用のマスク基板などの基板の表面に、遠心力を利用してフォトレジスト液などの塗布液を薄膜状に塗布するために、基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置と、回転式塗布方法に関する。」
の記載を、
「【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は、液晶表示パネル用のガラス基板、半導体ウエハ、半導体製造装置用のマスク基板などの基板の表面に、遠心力を利用してフォトレジスト液などの塗布液を薄膜状に塗布するために、基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置に関する。」
と訂正する。

オ 〔訂正事項5〕 本件特許明細書等の発明の詳細な説明欄の段落【0005】の、
「【0005】 本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであつて、ケース上部の開口を閉じる部材がケースに、回転台と結合する上部板が回転台に、それぞれ確実に結合でき、パーティクルなどによる基板の処理品質の低下などの問題がない回転式塗布装置および回転式塗布方法を提供するものである。」
の記載を、
「【0005】 本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであつて、ケース上部の開口を閉じる部材がケースに、回転台と結合する上部板が回転台に、それぞれ確実に結合でき、パーティクルなどによる基板の処理品質の低下などの問題がない回転式塗布装置を提供するものである。」
と訂正する。

カ 〔訂正事項6〕 本件特許明細書等の発明の詳細な説明欄の段落【0045】の、
「【0045】【発明の効果】 以上の説明から明らかなように、本発明に係る回転式塗布装置および回転式塗布方法によれば、ケース上部の開口を閉じる部材がケースに、回転台と結合する上部板が回転台に、それぞれ確実に結合でき、基板の処理品質の低下などの問題が生じることがない。」
の記載を、
「【0045】【発明の効果】 以上の説明から明らかなように、本発明に係る回転式塗布装置によれば、ケース上部の開口を閉じる部材がケースに、回転台と結合する上部板が回転台に、それぞれ確実に結合でき、基板の処理品質の低下などの問題が生じることがない。」
と訂正する。

(2)本件訂正請求の訂正の目的の適否について
ア 上記〔訂正事項1〕の訂正は、本件特許明細書等の請求項2及び請求項3を削除する訂正であるから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法第1条の規定による改正前の特許法(以下、「平成6年改正前特許法」という。)第134条第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。

イ 上記〔訂正事項2〕の訂正は、〔訂正事項1〕の訂正に伴い、本件特許明細書等の特許請求の範囲の記載を、本件訂正請求の訂正後の特許請求の範囲に整合させるための訂正であるから、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。

ウ 上記〔訂正事項3〕、〔訂正事項4〕、〔訂正事項5〕及び〔訂正事項6〕の訂正は、〔訂正事項1〕の訂正に伴い、本件特許明細書等の発明の名称の欄、並びに、発明の詳細な説明欄の段落【0001】、【0005】及び【0045】の各記載を、本件訂正請求の訂正後の請求項1及び請求項2に係る発明の構成に整合させるための訂正であるから、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。

エ したがって、本件訂正請求における上記〔訂正事項1〕ないし〔訂正事項6〕の訂正は、いずれも平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とする訂正に該当する。

(3)新規事項の有無及び実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
ア 本件訂正請求により、本件特許明細書等の特許請求の範囲の請求項2及び請求項3を削除する上記〔訂正事項1〕の訂正、並びに、その他の〔訂正事項2〕ないし〔訂正事項6〕の明りようでない記載を釈明する訂正は、いずれも本件特許明細書等、すなわち本件分割特許出願の願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であると認める。
したがって、本件訂正請求における上記〔訂正事項1〕ないし〔訂正事項6〕の訂正は、いずれも平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書の規定に適合する。

イ また、本件訂正請求の上記〔訂正事項1〕ないし〔訂正事項6〕の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、本件訂正請求における上記〔訂正事項1〕ないし〔訂正事項6〕の訂正は、いずれも特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合する。

(4)本件訂正請求に対する独立特許要件の有無について
本件の特許無効審判の請求の趣旨に係る特許発明は、請求項1ないし請求項4に係る発明であり、また、特許無効審判の請求がされている請求項2及び請求項3に係る発明についての訂正が、上記「(2)本件訂正請求の訂正の目的の適否について」欄の「ア」に前述したとおり、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当しているところ、特許法第134条の2第5項において読み替えて準用する平成6年改正前特許法第126条第3項の「特許無効審判の請求がされていない請求項に係る第1項ただし書第1号又は第2号の場合は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。」の規定に該当する、本件の特許無効審判の請求の趣旨から除外されている請求項が、訂正請求に係る特許請求の範囲に存在していないから、当審は、訂正請求の訂正後の請求項に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かの、いわゆる独立特許要件の有無について、検討をする必要を認めない。

(5)むすび
当審が本件無効審判事件における本件訂正請求について審理をした結果は、以上のとおりであり、本件特許明細書等についての本件訂正請求による訂正は、特許請求の範囲の請求項2及び請求項3を削除することによる特許請求の範囲の減縮及び請求項2及び請求項3の削除に伴う本件特許明細書等の中の明りようでない記載の釈明を目的とする訂正であるので、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書第1号及び第3号に該当し、さらに、前記訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した範囲内においてした訂正であるので、平成6年改正前特許法第134条ただし書に適合する。また、前記訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合する。
よって、本件訂正請求の訂正を認める。

2 審判事件弁駁書の要旨の変更についての判断
請求人が審判事件弁駁書において提出した新たな証拠方法としての甲第8号証〔平成17年(行ケ)第10796号審決取消請求事件に関する平成18年11月30日判決言渡の判決文〕及び甲第9号証〔平成17年(行ケ)第10271号審決取消請求事件に関する平成18年2月14日判決言渡の判決文〕を含む、請求人が主張する新たな無効理由は、請求の理由の要旨を変更するものではあるが、当審の審理を不当に遅延させるおそれはなく、また前記新たな無効理由の主張が、被請求人の訂正請求により補正の必要が生じたものであるので、請求人が主張する新たな無効理由は、許可できるものである。

3 当審の職権による無効理由通知
しかして、当審が本件無効審判事件を審理した結果、請求人が主張していない技術事項〔「第3 当審の審理」欄に後記する「4」を参照。〕について、本件分割特許出願は分割要件を満たしていないとした上で、前記分割要件の欠如を前提に、さらに、本件訂正請求後の本件発明1及び本件発明2に関して職権により審理をした結果として、請求人が提出した甲第1号証ないし甲第5号証の各刊行物の証拠方法を以て、本件訂正請求後の本件発明1及び本件発明2は、前記証拠方法に記載の各発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の進歩性要件の欠如(特許法第29条第2項違反)を内容とする無効理由通知、及び、本件分割特許出願が分割要件の欠如を惹起する要因である特許請求の範囲の中の技術事項について、本件訂正明細書における発明の明確性の要件、サポート要件及び実施可能要件の各要件の欠如(特許法第36条第4項及び同条第6項第1号及び第2号違反)を内容とする無効理由通知〔「第3 当審の審理」欄に後記する「4」を参照。〕を、請求人及び被請求人の両当事者双方に対してファクシミリの送信により通知した。

4 当審の職権による無効理由通知の内容の要点
前記当審の職権による無効理由通知の内容の要点は、請求人及び被請求人の両当事者双方に対して平成19年8月14日に送信した下記に示すファクシミリにおける「第1 被請求人に対する事項」欄の「2.」ないし「4.」項の部分に示すとおりである。

『無効審判事件(2006-80275)に関し、当審が口頭審理において審理する予定の下記の事項について、当事者は、意見等をあらかじめ「口頭審理陳述要領書」にまとめて、口頭審理期日の少なくとも2週間前までに提出してください。

第1 被請求人に対する事項
1. 請求人が提出した弁駁書の副本を被請求人に送付しますので、その弁駁書における請求人の主張に対する被請求人の意見。
2. 請求人が審判請求書及び弁駁書において主張する無効理由1(特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項違反)及び無効理由2(特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項違反)に関連して、当審が職権により、本件分割特許出願の分割要件の有無について審理する場合において、本件分割特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4及び訂正請求後の請求項1及び請求項2に記載の
ア.「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」、
イ.「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」
の各技術事項について、原出願(特願平5-151567号)の願書に最初に添付した明細書及び図面におけるそれらの記載の根拠又はそれらの明細書の記載からの自明性についての説明。
3. 本件分割特許出願の分割要件の有無について、上記2.のア.及びイ.に記載した各技術事項に関する当審の審理結果を踏まえて、本件分割特許出願が特許法第44条に規定する分割要件を満たしていないと当審が判断する場合において、本件第3086446号特許の訂正請求後の請求項1及び請求項2に係る特許発明は、本件分割特許出願の現実の特許出願日前に頒布された甲第1号証及び甲第2号証、並びに、甲第3ないし5号証の各刊行物に記載の各発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるという、当審の職権による無効理由通知(特許法第29条第2項違反)に対する、被請求人の意見。
4. 請求人が審判請求書及び弁駁書においてにおいて主張する無効理由4(特許法第36条第4項及び同条第6項第2号違反)に関連して、当審が職権により、本件分割特許出願の記載要件の有無について審理する場合において、上記2.のア.及びイ.に記載した各技術事項について、本件分割特許出願は、訂正明細書の特許請求の範囲の各請求項に係る発明の明確性の要件、訂正明細書の発明の詳細な説明における記載のサポート要件及び実施可能要件の各要件を満たしていないという、当審の職権による無効理由通知(特許法第36条第4項及び同条第6項第1号及び第2号違反)に対する、被請求人の意見。

第2 請求人に対する事項
1. 請求人が審判請求書及び弁駁書において主張する無効理由1(特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項違反)に関して、本件第3086446号特許の訂正請求後の請求項1及び請求項2に係る特許発明の各構成要素と、甲第1号証刊行物に記載の発明の各構成要素との個々の具体的な対応関係についての説明。
2. 請求人が審判請求書及び弁駁書において主張する無効理由2(特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項違反)に関して、本件第3086446号特許の訂正請求後の請求項1及び請求項2に係る特許発明の各構成要素と、甲第2号証刊行物に記載の発明の各構成要素との個々の具体的な対応関係についての説明。
3. 請求人が審判請求書及び弁駁書において主張する無効理由3(特許法第29条第2項違反)に関して、本件第3086446号特許の訂正請求後の請求項1及び請求項2に係る特許発明の各構成要素と、甲第3ないし5号証の各刊行物に記載の各発明の引用すべき各構成要素との個々の具体的な対応関係についての説明。
4. 上記「第1 被請求人に対する事項」欄の3.において指摘した当審の職権による無効理由通知(特許法第29条第2項違反)に対する、請求人の意見。
5. 上記「第1 被請求人に対する事項」欄の4.において指摘した当審の職権による無効理由通知(特許法第36条第4項及び同条第6項第1号及び第2号違反)に対する、請求人の意見。』

第4 当審の職権による無効理由の前提となる分割要件の有無についての検討
1 本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明
上記のとおり、本件訂正請求の訂正が認められたので、本件特許の請求項1に係る発明(本件発明1)及び請求項2に係る発明(本件発明2)は、訂正請求書に添付された本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置において、
上部が開口し、前記回転台の周辺を囲むケースと、
前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材と、
前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板と、
を備え、
前記開口を閉じた状態の前記部材を上昇させて前記上部板を上昇させる際には、前記上部板の上昇に先立って前記閉じ部材が上昇するよう構成されていることを特徴とする回転式塗布装置。
【請求項2】 基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置において、
上部が開口し、前記回転台の周辺を囲むケースと、
前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材と、
前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板と、
を備え、
前記上部板の上側中央部には取付部材が立設され、取付部材には水平方向に延在する第1の部材が設けられ、
前記閉じる部材には、前記上部板の前記第1の部材の下方に位置する第2の部材が設けられ、
前記上部板と前記回転台との結合時には、前記第2の部材に対して前記取付部材および前記第1の部材が相対回転自在となるように設けられていることを特徴とする回転式塗布装置。」

2 分割要件の有無についての検討
(1)本件発明1及び本件発明2の技術事項についての分割の根拠についての検討
本件発明1及び本件発明2は、上記「1 本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明」欄に前掲したとおりのものであるが、上記「第3 当審の審理」欄の「4 当審の職権による無効理由通知の内容の要点」に示した「第1 被請求人に対する事項」の「2.」に指摘してあるとおり、本件発明1及び本件発明2には、
「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」及び
「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」
の技術事項が記載されている。
しかして、特許法第44条には、
第44条(特許出願の分割)
特許出願人は、願書に添附した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
2 前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。ただし、新たな特許出願が第二十9条の2に規定する他の特許出願又は実用新案法第3条の2に規定する特許出願に該当する場合におけるこれらの規定の適用並びに第三十条第四項、第四十1条第4項並びに前条第一項及び第二項の規定の適用については、この限りでない。』
と規定されている。
そこで、前記の技術事項を有する発明が本件分割特許出願のもとの出願である原出願(特願平5-151567号)に包含されていたか否かについて、換言すれば、前記の技術事項が、前記原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「原出願の当初明細書等」という。)に包含されていた発明の技術事項として記載されていたか否か、あるいは、原出願の当初明細書等における記載から自明であるか否かについて、次に検討する。

(2)原出願の当初明細書等における記載事項
ア 「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」の技術事項についての検討
(ア)まず、原出願の当初明細書等が記載されている甲第1号証〔特開平6-338447号公報〕の記載を精査すると、前記甲第1号証の明細書及び図面には、本件発明1及び本件発明2の構成要件である前記「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」の文言が記載されておらず、また、それを示唆する記載も前記甲第1号証の中に認めることができない。

(イ)そこで、前記「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」に対応する部材であると被請求人が審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書において主張する「固定支持部材16」に関する技術事項の記載について精査すると、甲第1号証の中に、次のa?mの事項が記載されている。
a 「【請求項2】 請求項1に記載の回転台洗浄手段が、
中央に開口を有し、かつ、回転台上に支持された基板の上面と所定の間隔をもって平行に設けられるとともに前記回転台と一体に回転される上部回転板と、
前記開口を開閉する蓋と、
前記蓋を開き位置に変位した状態の前記開口を通じて前記上部回転板の下方に変位し、前記回転台の上面に向けて洗浄液を噴射するように固定支持部材に設けた洗浄ノズルと、
から構成されたものである回転式塗布装置。」
b 「【請求項3】 請求項2に記載の蓋を、固定支持部材に取り付けた駆動開閉機構によって閉じ位置と開き位置とに変位可能に設け、かつ、洗浄ノズルを、固定支持部材に取り付けた駆動機構によって洗浄位置と非洗浄位置とに変位可能に設けたものである回転式塗布装置。」
c 「【0006】 また、請求項2に係る発明の回転式塗布装置は、上述のような目的を達成するために、請求項1に係る発明の回転式塗布装置における回転台洗浄手段を、中央に開口を有し、かつ、回転台上に支持された基板の上面と所定の間隔をもって平行に設けられるとともに前記回転台と一体に回転される上部回転板と、開口を開閉する蓋と、その蓋を開き位置に変位した状態の開口を通じて上部回転板の下方に変位し、回転台の上面に向けて洗浄液を噴射するように固定支持部材に設けた洗浄ノズルとから構成する。」
d 「【0007】 また、請求項3に係る発明の回転式塗布装置は、上述のような目的を達成するために、請求項2に係る発明の回転式塗布装置における蓋を、固定支持部材に取り付けた駆動開閉機構によって閉じ位置と開き位置とに変位可能に設け、かつ、洗浄ノズルを、固定支持部材に取り付けた駆動機構によって洗浄位置と非洗浄位置とに変位可能に設けて構成する。」
e 「【0014】 図1は本発明に係る回転式塗布装置の第1実施例の全体の概略構成を示す縦断正面図であり、角型基板1を載置する回転台2が鉛直方向の軸心P周りに水平回転可能に設けられ、その回転台2の上方に、回転台2と平行に上部回転板3が設けられるとともに、その上部回転板3が回転台2に上部支持板4を介して一体的に回転可能に取り付けられ、これら回転部材の下方及び周辺部を外から囲むように廃液回収ケース5が設けられ、前記回転台2に、縦向き回転軸としての出力軸6を介して電動モータ7が連結されている。」
f 「【0018】 前記廃液回収ケース5の上部に筒状カバー15が取り付けられ、その筒状カバー15に固定支持部材16が着脱可能に取り付けられている。」
g 「【0019】 図2の要部の一部切欠拡大正面図、図3および図4の要部の平面図、図5の要部の側面図に示すように、上部回転板3の中央には開口19が形成され、この開口19の鉛直方向上方位置において、固定支持部材16の上方側支持プレート16aに駆動開閉機構としての第1のエアシリンダ20が取り付けられ、その第1のエアシリンダ20のシリンダロッド20aの先端にブロック21が取り付けられるとともに、ブロック21に相対昇降および相対回転可能に有底筒状の前記蓋17が吊り下げ保持されている。」
h 「【0022】 上方側支持プレート16aの第1のエアシリンダ20の横側方に、鉛直方向の軸芯周りで90°の範囲で回転可能な第2のエアシリンダ24が設けられるとともに、その第2のエアシリンダ24のシリンダロッド24aにスプライン軸25が連結されている。スプライン軸25に昇降のみ可能にスプライン筒26が取り付けられるとともに、スプライン筒26に回転のみ可能に回転筒27が取り付けられている。回転筒27に洗浄ノズル18が一体的に取り付けられるとともに、上方側支持プレート16aの第2のエアシリンダ24の横側方下側に設けられた第3のエアシリンダ28のシリンダロッド28aに回転筒27が連結されている。図示しないが、洗浄ノズル18には、洗浄液圧送機構に接続された配管が接続されている。上述の構成により、回転台2の上面に向けて洗浄液を噴出する回転台洗浄手段が構成されている。」
i 「【0024】 固定支持部材16の下方側支持プレート16bは環状に形成され、その内周面側に寄った上面の周方向所定の4箇所それぞれに、山形状の係合突起29が設けられ、一方、下方側支持プレート16bよりも上方に位置するように、上部支持板4に取付部材30…を介して環状プレート31が取り付けられるとともに、その環状プレート31の周方向所定の4箇所それぞれに、係合突起29を嵌入する筒体32が設けられ、前記上部回転板3を着脱する際に、係合突起29…を筒体32…に嵌入することにより、固定支持部材16で吊り下げることができるように構成されている。」
j 「【0025】 以上の構成により、先ず、塗布処理に際しては、固定支持部材16を筒状カバー15から取り外すとともに上部支持板4を回転台2から取り外し、固定支持部材16で吊り下げて上部回転板3を上方に外して角型基板1を回転台2の基板支持ピン8…上に所定の姿勢で載置する。」
k 「【0026】 次に、図示しない塗布液供給手段としての塗布液供給ノズルを角型基板1の中央上方に移動させ、所定量の塗布液を滴下供給する。その後、固定支持部材16で吊り下げて上部支持板4を搬入し、上部支持板4をリングプレート10上に、そして、固定支持部材16を筒状カバー15上にそれぞれ取り付け、図6の要部の正面図に示すように、第1のエアシリンダ20を伸長して蓋17を駆動変位し、上部回転板3の開口19を閉じておくとともに洗浄ノズル18を非洗浄位置に変位しておく。」
l 「【0029】 所定回数の回転塗布処理が行われると、固定支持部材16を筒状カバー15から取り外すとともに上部支持板4を回転台2から取り外し、固定支持部材16で吊り下げて上部回転板3を上方に外して角型基板1を取り出してから、上部支持板4をリングプレート10上に、そして、固定支持部材16を筒状カバー15上にそれぞれ取り付け、その後に、第1のエアシリンダ20を短縮して蓋17を開き位置に駆動変位する。」
m 甲第1号証の回転式塗布装置のそれぞれ第1実施例及び第2実施例の全体の概略構成を示す縦断正面図である【図1】及び【図7】に、固定支持部材16の左右両翼に延びた水平部分が、廃液回収ケース5の上部に取り付けられた筒状カバー15の上面に掛け渡された状態で載置されている状態が図示されている。

(ウ)しかして、かかる甲第1号証の上記a?mの技術事項から、甲第1号証には、「鉛直方向の軸心P周りに水平回転可能に角型基板1を載置する回転台2が設けられ、前記回転台2の上方に、回転台2と平行に上部回転板3が設けられるとともに、前記回転台2に縦向き回転軸としての出力軸6を介して電動モータ7が連結されていて、前記上部回転板3が回転台2に上部支持板4を介して一体的に回転可能に取り付けられ、これら回転部材の下方及び周辺部を外から囲むように廃液回収ケース5設けられ、さらに前記廃液回収ケース5の上部に筒状カバー15が取り付けられていて、前記筒状カバー15の上面に掛け渡された状態で、固定支持部材16の左右両翼に延びた水平部分が、筒状カバー15に着脱可能に取り付けられている回転式塗布装置」の実施例の記載を認めることができる。

(エ)しかしながら、(カ)に後述する理由により、甲第1号証の記載からは、前記「固定支持部材16の左右両翼に延びた水平部分」が「ケースの開口を閉じる部材」である、とはいえない。

(オ)したがって、被請求人の主張するところの「固定支持部材16」が「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」であることの根拠となる記載を、甲第1号証の中に認めることができない。また、「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」の技術事項が、甲第1号証の記載から自明であるということもできない。

(カ)ここで、被請求人の主張について検討する。
a 被請求人は、口頭審理陳述要領書の9頁9?20行において、「そして、甲第1号証(特に上記各箇所の記載)に記載されている技術内容を出願時において当業者が客観的に判断すれば、『前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材』自体が記載してあったことに相当すると認められる。なぜなら、原出願の出願時における当業者は、『断面図において基板を処理する容器に形成された『開口』の両側縁部に当接する『部材』が明示されている場合は、その『部材」が容器の『開口』を閉じることを意味する』という技術常識を通常の知識として有するからである。よって、『前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材』は、当業者が原出願の当初明細書等の記載からみて自明な事項である。したがって、技術事項アは、原出願(特願平5-151567号)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内である。」と主張し、「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」の技術事項は、甲第1号証に記載されていた事項から自明である旨を主張する。

b しかして、前記甲第1号証には、「鉛直方向の軸心P周りに水平回転可能に角型基板1を載置する回転台2が設けられ、前記回転台2の上方に、回転台2と平行に上部回転板3が設けられるとともに、前記回転台2に縦向き回転軸としての出力軸6を介して電動モータ7が連結されていて、前記上部回転板3が回転台2に上部支持板4を介して一体的に回転可能に取り付けられ、これら回転部材の下方及び周辺部を外から囲むように廃液回収ケース5設けられ、さらに前記廃液回収ケース5の上部に筒状カバー15が取り付けられていて、前記筒状カバー15の上面に掛け渡された状態で、固定支持部材16の左右両翼に延びた水平部分が、筒状カバー15に着脱可能に取り付けられている回転式塗布装置」が記載されていることは、上記「(2)原出願の当初明細書等における記載事項」欄の「ア」の「(ウ)」に前述したとおりであり、前記甲第1号証の図1及び図7に図示されている前記「固定支持部材16の左右両翼に延びた水平部分」を、被請求人は、断面図において基板を処理する容器に形成された「開口」の両側縁部に当接する「部材」であると主張する。

c しかしながら、甲第1号証の図1及び図7は、それぞれ回転式塗布装置の第1実施例及び第2実施例の全体の概略構成を示す「縦断正面図」であって、前記図1及び図7が、被請求人が主張する「縦断図」であるということについては、甲第1号証に明示の記載がない。
しかして、甲第1号証の図1及び図7に表示されている「固定支持部材16の左右両翼に延びた水平部分」としての「断面図において基板を処理する容器に形成された『開口』の両側縁部に当接する『部材』」は、正面図、平面図、側面図等において、目で見える部材の表面の表示に用いられる「実線」で表記されていることが明らかである。

d 仮に、甲第1号証の図1及び図7が、被請求人の主張する「断面図」であるとするとした場合には、断面図における紙面に平行な破断面により破断されて表れる部材の断面のすべては、部材ごとに線間隔及び線方向の違える約45°の平行斜線のハッチングが施されて表記されるという、当業者の技術常識である「断面図の表記ルール」に従えば、甲第1号証の図1及び図7に図示されている「固定支持部材16の左右両翼に延びた水平部分」としての「断面図において基板を処理する容器に形成された『開口』の両側縁部に当接する『部材』」は、線間隔及び線方向の違える約45°の平行斜線のハッチングが施されて表記されてしかるべきであるのに、前述のとおり、正面図、平面図、側面図等において、目で見える部材の表面の表示に用いられる「実線」で表記されている。
そして、前記「断面図の表記ルール」が、当業者の技術常識であることは、被請求人が提出した乙第1ないし19号証に図示されている諸々の断面図の表記を参照すれば、断面図における部材の断面は、ことごとく部材ごとに線間隔及び線方向の違える約45°の平行斜線のハッチングが施されて表記されている事実からみても、明らかなことである。

e したがって、甲第1号証の図1及び図7は、やはり被請求人が主張する純粋な「縦断図(縦断面図)」ではなく、甲第1号証の図面の簡単な説明欄に説明されているとおり、甲第1号証の図1及び図7は、正面図と断面図とを混合して、正面図の一部を断面で表した「縦断正面図」であると考えるのが相当である。
そうすると、被請求人の「原出願の出願時における当業者は、『断面図において基板を処理する容器に形成された『開口』の両側縁部に当接する『部材』が明示されている場合は、その『部材』が容器の『開口』を閉じることを意味する』という技術常識を通常の知識として有するからである。」という主張は、甲第1号証の図1及び図7が「断面図」であるという前提を欠いているといえる。

f そして、甲第1号証の図1及び図7が、正面図の一部を断面で表した「縦断正面図」であるとすると、甲第1号証の図1及び図7に図示されている「固定支持部材16の左右両翼に延びた水平部分」が、廃液回収ケース5の上部に取り付けられた筒状カバー15に着脱可能に取り付けられていることから、甲第1号証の図1及び図7は、前記「固定支持部材16の左右両翼に延びた水平部分」が、廃液回収ケース5の上部に取り付けられた筒状カバー15の開口の全面を塞いでいる(閉じている)のではなく、甲第1号証の図1及び図7の「縦断正面図」における紙面に平行な破断面よりも手前側の筒状カバー15の開口に、前記「固定支持部材16の左右両翼に延びた水平部分」が存在していない状態、すなわち、筒状カバー15の開口の一部が塞がれていない(閉じていない)状態を、図示したものといえる。

g ところで、本件発明1及び本件発明2の構成要件である「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」の中の「ケース」の文言は、甲第1号証の発明の詳細な説明にしたがえば、「廃液回収ケース5」を意味すると考えるのが自然であるところ、甲第1号証には、「【0018】 前記廃液回収ケース5の上部に筒状カバー15が取り付けられ、その筒状カバー15に固定支持部材16が着脱可能に取り付けられている。」と明記されていて、「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」に相当する部材であると被請求人が主張する「固定支持部材16」は、「ケース(廃液回収ケース5)」に着脱可能に設けられているのではなく、廃液回収ケース5の上部に取り付けられた「筒状カバー15」に着脱可能に取り付けられるものとして、甲第1号証に記載されている。
しかしながら、前記「ケース」の定義として、「筒状カバー15」が本件発明1及び本件発明2の前記構成要件の「ケース」であるという説明が、甲第1号証に何らも記載されていないことから、本件発明1及び本件発明2の構成要件である「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」は、甲第1号証の発明の詳細な説明に記載されてなく、また甲第1号証の図面に図示されてもいないことが明らかである。

h 以上のとおりであり、甲第1号証の図1及び図7の回転式塗布装置の第1実施例及び第2実施例の全体の概略構成を示す「縦断正面図」に図示されている「基板を処理する容器に形成された『開口』の両側縁部に当接する『部材』」は、被請求人が主張する「容器の『開口』を閉じることを意味する」ということができない。

i そうすると、被請求人が甲第1号証に示唆されていると主張する「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」の技術事項は、甲第1号証に示唆されてもいないことが明らかである。
したがって、「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」の技術事項は、甲第1号証に記載されていた事項から自明である旨の被請求人の主張は、根拠がなく到底採用することができないものである。

(キ)そうしてみると、本件分割特許出願のもとの出願である原出願の当初明細書等である上記甲第1号証には、本件発明1及び本件発明2における上記「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」の技術事項が記載されていたということができない。
そして、本件発明1及び本件発明2の前記「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」の技術事項が、本件分割特許出願のもとの出願である原出願の当初明細書等である前記甲第1号証に記載されていた事項から自明であるということもできない。
したがって、本件分割特許出願のもとの出願である原出願には、「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」の技術事項をその構成要件とする本件発明1及び本件発明2が包含されていたということができない。

イ 「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」の技術事項についての検討
(ア)まず、原出願の当初明細書等が記載されている甲第1号証〔特開平6-338447号公報〕の記載を精査すると、前記甲第1号証の明細書及び図面には、本件発明1及び本件発明2の構成要件である前記「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」の文言が記載されておらず、また、それを示唆する記載も前記甲第1号証の中に認めることができない。

(イ)被請求人は、口頭審理において、甲第1号証の「上部回転板3と上部支持板4」が、前記「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」に対応する旨を陳述した。
そこで、前記甲第1号証の「上部回転板3と上部支持板4」に関する技術事項の記載について精査すると、甲第1号証の中に、次のn?zの事項が記載されている。
n 「【0006】 また、請求項2に係る発明の回転式塗布装置は、上述のような目的を達成するために、請求項1に係る発明の回転式塗布装置における回転台洗浄手段を、中央に開口を有し、かつ、回転台上に支持された基板の上面と所定の間隔をもって平行に設けられるとともに前記回転台と一体に回転される上部回転板と、開口を開閉する蓋と、その蓋を開き位置に変位した状態の開口を通じて上部回転板の下方に変位し、回転台の上面に向けて洗浄液を噴射するように固定支持部材に設けた洗浄ノズルとから構成する。」
o 「【0010】 また、請求項2に係る発明の回転式塗布装置の構成によれば、通常の、基板を回転しながら行う塗布液の塗布は、蓋を閉じ位置に変位させて、従来同様に基板上部での空気層の乱れを生じさせることなく行うことができる。そして、所定の回転塗布を行った後には、蓋を開き位置に変位し、開口を通じて洗浄ノズルを上部回転板の下方に変位させ、洗浄ノズルに洗浄液を噴出しながら上部回転板を回転台と共に回転駆動することにより、洗浄ノズルから回転台の上面に噴出した洗浄液を回転台の上面に沿って遠心流動させ、先の回転塗布処理中に回転台の上面に付着した塗布液を洗浄し、その後の回転塗布処理を均一に、かつ汚染のない状態で行うことができる。」
p 「【0014】 図1は本発明に係る回転式塗布装置の第1実施例の全体の概略構成を示す縦断正面図であり、角型基板1を載置する回転台2が鉛直方向の軸心P周りに水平回転可能に設けられ、その回転台2の上方に、回転台2と平行に上部回転板3が設けられるとともに、その上部回転板3が回転台2に上部支持板4を介して一体的に回転可能に取り付けられ、これら回転部材の下方及び周辺部を外から囲むように廃液回収ケース5が設けられ、前記回転台2に、縦向き回転軸としての出力軸6を介して電動モータ7が連結されている。」
q 「【0016】 また、回転台2の外周上面には、回転台2と同外径のスペーサリング9およびリングプレート10が同心円線上の場所に複数箇所で連結されるとともに、このリングプレート10に上部支持板4がノブボルト11を介して着脱自在に取り付けられ、上部支持板4を取り外すことで、リングプレート10の中央開口から基板1を出し入れすることができるようになっている。」
r 「【0017】 前記上部回転板3は基板1の外形形状より大径の円板に構成され、上部支持板4の下面にカラー12を介してボルト連結されている。廃液回収ケース5の底部は絞り込まれ、その下端に廃液排出口13が形成されるとともに、周方向の複数箇所には塗布液から蒸発した溶剤ガスや塗布液ミストを排出する排気口14が形成されている。」
s 「【0024】 固定支持部材16の下方側支持プレート16bは環状に形成され、その内周面側に寄った上面の周方向所定の4箇所それぞれに、山形状の係合突起29が設けられ、一方、下方側支持プレート16bよりも上方に位置するように、上部支持板4に取付部材30…を介して環状プレート31が取り付けられるとともに、その環状プレート31の周方向所定の4箇所それぞれに、係合突起29を嵌入する筒体32が設けられ、前記上部回転板3を着脱する際に、係合突起29…を筒体32…に嵌入することにより、固定支持部材16で吊り下げることができるように構成されている。」
t 「【0025】 以上の構成により、先ず、塗布処理に際しては、固定支持部材16を筒状カバー15から取り外すとともに上部支持板4を回転台2から取り外し、固定支持部材16で吊り下げて上部回転板3を上方に外して角型基板1を回転台2の基板支持ピン8…上に所定の姿勢で載置する。」
u 「【0026】 次に、図示しない塗布液供給手段としての塗布液供給ノズルを角型基板1の中央上方に移動させ、所定量の塗布液を滴下供給する。その後、固定支持部材16で吊り下げて上部支持板4を搬入し、上部支持板4をリングプレート10上に、そして、固定支持部材16を筒状カバー15上にそれぞれ取り付け、図6の要部の正面図に示すように、第1のエアシリンダ20を伸長して蓋17を駆動変位し、上部回転板3の開口19を閉じておくとともに洗浄ノズル18を非洗浄位置に変位しておく。」
v 「【0027】 その後、電動モータ7を起動して回転台2、上部支持板4、上部回転板3および角型基板1を一体に水平回転させる。この回転によって角型基板1上の塗布液は遠心力によって外方に拡散流動して角型基板1上面に薄く塗布される。この場合、回転台2と上部回転板3との間に形成された偏平な塗布処理空間Sの空気層も一体に回転し、角型基板1上に気流が発生しない状態で塗布液の拡散流動が行われる。」
w 「【0028】 角型基板1上を流動して外周に到達した余剰塗布液は角型基板1の周縁から流出し、塗布処理空間Sの外周全域から飛散してゆく。そして、飛散した塗布液はスペーサリング9の上下に形成されている間隙を通って廃液回収ケース5内に流出して回収される。」
x 「【0030】 しかる後、第2のエアシリンダ24を作動して洗浄ノズル18を開口19の上方位置まで回転変位し、その状態から第3のエアシリンダ28を伸長して洗浄ノズル18を下降させ、開口19を通じて、図5に示すように、上部回転板3の下方の洗浄位置まで変位する。その状態で、電動モータ7を起動して回転台2、上部支持板4、上部回転板3を一体に水平回転させながら、洗浄ノズル18から回転台2の上面に洗浄液を噴出供給し、遠心力を利用して、回転台2の上面に付着した塗布液のミストを洗浄除去する。」
y 「【0035】 また、請求項2に係る発明の回転式塗布装置によれば、上部回転板に設けた開口を通じて洗浄ノズルを上部回転板の下方に変位させ、洗浄ノズルから回転台の上面に洗浄液を噴出することにより、回転台の上面に付着した塗布液を洗浄するから、回転台の上面に対する洗浄を、上部回転板を取り外しての洗浄をせずに短時間で簡単容易に行うことができ、基板に対して、均一な膜厚で、かつ汚染のない塗布処理を効率的に行うことができる。」
z 甲第1号証の図1には、「鉛直方向の軸心P周りに水平回転可能に角型基板1を載置する回転台2が設けられ、前記回転台2の上方に、回転台2と平行に上部回転板3が設けられるとともに、前記回転台2に縦向き回転軸としての出力軸6を介して電動モータ7が連結されていて、前記上部回転板3が回転台2に上部支持板4を介して一体的に回転可能に取り付けられ、これら回転部材の下方及び周辺部を外から囲むように廃液回収ケース5が設けられ、さらに前記廃液回収ケース5の上部に筒状カバー15が取り付けられていて、前記筒状カバー15の上面に掛け渡された状態で、固定支持部材16の左右両翼に延びた水平部分が、筒状カバー15に着脱可能に取り付けられ、回転台2の外周上面には、回転台2と同外径のスペーサリング9およびリングプレート10が連結されるとともに、このリングプレート10に上部支持板4がノブボルト11を介して取り付けられ、前記上部回転板3は前記上部支持板4の下面にカラー12を介してボルト連結されており、固定支持部材16の下方側支持プレート16b上面に設けられた係合突起29を、上部支持板4に取付部材30を介して取り付けられる環状プレート31に設けられた筒体32に嵌入することにより、固定支持部材16の下方側支持プレート16bで前記上部支持板4を吊り下げることができるように構成されている回転式塗布装置」が図示されている。

(ウ)しかして、かかる甲第1号証の上記n?zの技術事項から、次の実施例の記載を、甲第1号証に認めることができる。
「角型基板1を水平支持した状態で回転させる回転台2と、前記回転台2上に支持された角型基板1の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置において、
鉛直方向の軸心P周りに水平回転可能に角型基板1を載置する回転台2が設けられ、前記回転台2の上方に、回転台2と平行に上部回転板3が設けられるとともに、前記回転台2に縦向き回転軸としての出力軸6を介して電動モータ7が連結されていて、前記上部回転板3が回転台2に上部支持板4を介して一体的に回転可能に取り付けられて、回転台2と上部回転板3との間に形成された偏平な塗布処理空間Sの空気層も一体に回転し、これら回転部材の下方及び周辺部を外から囲むように廃液回収ケース5が設けられ、さらに前記廃液回収ケース5の上部に筒状カバー15が取り付けられていて、前記筒状カバー15の上面に掛け渡された状態で、固定支持部材16の左右両翼に延びた水平部分が、筒状カバー15に着脱可能に取り付けられ、
回転台2の外周上面には、回転台2と同外径のスペーサリング9およびリングプレート10が同心円線上の場所に複数箇所で連結されるとともに、このリングプレート10に上部支持板4がノブボルト11を介して着脱自在に取り付けられ、上部支持板4を取り外すことで、リングプレート10の中央開口から基板1を出し入れすることができるようになっており、
前記上部回転板3は基板1の外形形状より大径の円板に構成され、前記上部支持板4の下面にカラー12を介してボルト連結されており、
固定支持部材16の下方側支持プレート16bは環状に形成され、その内周面側に寄った上面の周方向所定の4箇所それぞれに、山形状の係合突起29が設けられ、一方、下方側支持プレート16bよりも上方に位置するように、上部支持板4に取付部材30…を介して環状プレート31が取り付けられるとともに、その環状プレート31の周方向所定の4箇所それぞれに、係合突起29を嵌入する筒体32が設けられ、前記上部回転板3を着脱する際に、係合突起29…を筒体32…に嵌入することにより、固定支持部材16の下方側支持プレート16bで前記上部支持板4を吊り下げることができるように構成されていて、
塗布処理に際しては、固定支持部材16を筒状カバー15から取り外すとともに上部支持板4を回転台2から取り外し、固定支持部材16で吊り下げて上部回転板3を上方に外して角型基板1を回転台2の基板支持ピン8…上に所定の姿勢で載置するようにした回転式塗布装置」

(エ)しかしながら、(カ)に後述する理由により、甲第1号証の記載からは、甲第1号証の「上部回転板3と上部支持板4」が、前記「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」である、とはいえない。

(オ)したがって、被請求人の主張するところの甲第1号証の「上部回転板3と上部支持板4」が「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」であることの根拠となる記載を、甲第1号証の中に認めることができない。また、前記「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」の技術事項が、甲第1号証の記載から自明であるということもできない。

(カ)ここで、被請求人の主張について検討する。
a 被請求人は、口頭審理陳述要領書の12頁20行?12頁24行において、「以上のとおり、『前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板』は当初明細書等に明示的に記載されている。したがって、技術事項イは、原出願(特願平5-151567号)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内である。」と主張し、「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」の技術事項は、甲第1号証に明示的に記載されているので、甲第1号証に記載した事項の範囲内である旨を主張する。

b しかして、前記甲第1号証には、上記「(2)原出願の当初明細書等における記載事項」欄の「イ」の「(ウ)」に前述したとおりの「回転式塗布装置」の実施例が記載されているところ、前記甲第1号証の図1に図示されている前記回転式塗布装置の「上部回転板3と上部支持板4」を、被請求人は、「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」であると主張する。

c しかしながら、甲第1号証の段落【0027】には、「その後、電動モータ7を起動して回転台2、上部支持板4、上部回転板3および角型基板1を一体に水平回転させる。この回転によって角型基板1上の塗布液は遠心力によって外方に拡散流動して角型基板1上面に薄く塗布される。この場合、回転台2と上部回転板3との間に形成された偏平な塗布処理空間Sの空気層も一体に回転し、角型基板1上に気流が発生しない状態で塗布液の拡散流動が行われる。」と明記されているのであり、甲第1号証の前記段落【0027】の記載によれば、「偏平な塗布処理空間S」は、回転台2と上部回転板3との間に形成されるものとして記載されていることが明らかである。そして、回転台2とで偏平な塗布処理空間Sを形成する「上部回転板3」は、甲第1号証の段落【0017】の記載によれば、上部支持板4の下面にカラー12を介してボルト連結されるものとされている。
そして、甲第1号証の図5及び図7の図示では、「偏平な塗布処理空間S」は、回転台2と上部回転板3との間に形成されており、被請求人が「上部回転板3」とともに「上部板」であると主張する「上部支持板4」は、「偏平な塗布処理空間S」の形成には全く寄与していないことが明らかである。

d さらに、甲第1号証の段落【0016】には、「また、回転台2の外周上面には、回転台2と同外径のスペーサリング9およびリングプレート10が同心円線上の場所に複数箇所で連結されるとともに、このリングプレート10に上部支持板4がノブボルト11を介して着脱自在に取り付けられ、上部支持板4を取り外すことで、リングプレート10の中央開口から基板1を出し入れすることができるようになっている。」と記載されていて、これによれば、「上部支持板4」は、回転台2の外周上面に、回転台2と同外径のスペーサリング9を介してリングプレート10にノブボルト11を介して着脱自在に取り付けられるものとされている。
一方、段落【0024】の記載から、前記「上部支持板4」は、固定支持部材16の環状の下方側支持プレート16b上面の周方向所定の4箇所に設けられた係合突起29を、上部支持板4に取付部材30を介して取り付けられる環状プレート31の周方向所定の4箇所に設けられた筒体32に嵌入することにより、固定支持部材16の下方側支持プレート16bで吊り下げることができるものとして、甲第1号証に記載されている。
そうすると、かかる甲第1号証の記載によれば、係合突起29の筒体32への嵌入により、固定支持部材16に吊り下げ可能に構成されているのは、「上部支持板4」であることが明らかである。

e しかしながら、甲第1号証には、固定支持部材16に吊り下げ可能に構成されている「上部支持板4」が、回転台2と結合して前記回転台2とで塗布処理空間Sを形成することについては、一切記載がない。他方、回転台2と結合して前記回転台2とで塗布処理空間Sを形成する「上部回転板3」が、固定支持部材16に上下方向への相対移動可能に結合されることについても、一切記載がない。

f したがって、固定支持部材16に吊り下げ可能に構成されている「上部支持板4」と、回転台2と結合して前記回転台2とで塗布処理空間Sを形成する「上部回転板3」とについては、甲第1号証に個々に記載されているが、「上部支持板4」が、回転台2と結合して前記回転台2とで塗布処理空間Sを形成すること、及び「上部回転板3」が、固定支持部材16に上下方向への相対移動可能に結合されることについては、甲第1号証に一切記載がない。

g しかるに、本件発明1及び本件発明2の構成要件である前記「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」の構成によれば、「上部板」が前記部材(閉じる部材)に上下方向への相対移動可能に結合されると同時に、該「上部板」が回転台2と結合して前記回転台2との間に塗布処理空間を形成するものとして記載されている。

h しかしながら、甲第1号証に、前述した「前記部材(閉じる部材)16に上下方向への相対移動可能に結合されると同時に、回転台2と結合して回転台2と上部板との間に塗布処理空間を形成する上部板」については、全くその記載を認めることができない。
したがって、甲第1号証に、本件発明1及び本件発明2の構成要件である「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」が記載されているということができない。

i そうすると、被請求人が主張する「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」の技術事項は、甲第1号証に記載されていないことが明らかである。
また、甲第1号証には、「上部回転板3」を「上部支持板4」と兼用して「上部板」とすることができるとか、あるいは、「上部回転板3」か「上部支持板4」かのいずれかを省略できるとも記載されていないから、前記「上部回転板3」及び「上部支持板4」のそれぞれの機能を併せ持った「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」を含む発明が、甲第1号証に記載されているとすることはできず、また、明示の記載はなくとも実質的に記載されているとみることもできない。
そして、前記「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」の技術事項が、甲第1号証に記載されていた事項から自明であるということもできない。
したがって、前記「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」は、原出願の当初明細書等が記載されている甲第1号証に記載されている事項を超える意味内容の記載であるといえる。

(キ)そうしてみると、本件分割特許出願のもとの出願である原出願の当初明細書等である上記甲第1号証には、本件発明1及び本件発明2における上記「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」の技術事項が記載されていたということができない。
そして、本件発明1及び本件発明2の前記「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」の技術事項が、本件分割特許出願のもとの出願である原出願の当初明細書等である前記甲第1号証に記載されていた事項から自明であるということもできない。
したがって、本件分割特許出願のもとの出願である原出願には、「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」の技術事項をその構成要件とする本件発明1及び本件発明2が包含されていたということができない。

3 分割要件の有無についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件分割特許出願は、特許法第44条に規定されているところの、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願としたものということができない。
したがって、本件分割特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなすことができないから、本件分割特許出願の出願日は、実際に特許出願された平成11年2月3日である。
そして、上述した理由により、本件分割特許出願を、以下においては、「本件特許出願」という。

第5 当審の職権による無効理由1(特許法第29条第2項違反)についての検討
1 甲号各証の記載事項
(1)甲第1号証〔特開平6-338447号公報〕の記載事項
本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、「回転式塗布装置」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「【請求項1】 基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置において、
前記回転台の上面に向けて洗浄液を噴射する回転台洗浄手段を備えたことを特徴とする回転式塗布装置。
【請求項2】 請求項1に記載の回転台洗浄手段が、
中央に開口を有し、かつ、回転台上に支持された基板の上面と所定の間隔をもって平行に設けられるとともに前記回転台と一体に回転される上部回転板と、
前記開口を開閉する蓋と、
前記蓋を開き位置に変位した状態の前記開口を通じて前記上部回転板の下方に変位し、前記回転台の上面に向けて洗浄液を噴射するように固定支持部材に設けた洗浄ノズルと、
から構成されたものである回転式塗布装置。
【請求項3】 請求項2に記載の蓋を、固定支持部材に取り付けた駆動開閉機構によって閉じ位置と開き位置とに変位可能に設け、かつ、洗浄ノズルを、固定支持部材に取り付けた駆動機構によって洗浄位置と非洗浄位置とに変位可能に設けたものである回転式塗布装置。
【請求項4】 請求項1に記載の回転台洗浄手段が、
回転台の回転軸を貫通して前記回転台の上方に位置するように固定状態で洗浄ノズルを設け、その洗浄ノズルにより前記回転台の上面に向けて洗浄液を噴出するものである回転式塗布装置。」
「【0001】【産業上の利用分野】 本発明は、液晶表示パネル用のガラス基板、半導体ウエハ、半導体製造装置用のマスク基板などの基板の表面に、遠心力を利用してフォトレジスト液などの塗布液を薄膜状に塗布するために、基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置に関する。
【0002】【従来の技術】 この種の回転式塗布装置としては、従来、特開平2-219213号公報および特開平4-61955号公報に開示されているものが知られている。
これらの従来例によれば、基板を水平に支持して回転させる回転台と、この回転台に支持された基板の上面と小間隔をもって平行に配置されて回転台と一体に回転する上部回転板とを有し、基板を回転台および上部回転板とともに回転させながら基板の上面の中央部に塗布液を供給し、基板の回転による遠心力を利用して塗布液を基板全面に拡散させて薄膜を形成するように構成されている。
【0003】【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、上述のような従来例の場合に、その回転塗布時に、回転台の上面に塗布液の一部が飛散し、それがミストとなって付着し、多数枚の基板に対して回転塗布動作を繰り返すうちに、回転台の上面に付着した塗布液がパーティクル発生の原因となってしまう。このような回転台の上面への塗布液付着に起因するパーティクル発生についての対策は、従来何等講じられていず、品質の低下を招く欠点があった。更に、回転台の上面に付着した塗布液のミストが固化しないうちに次の基板に対する回転塗布が行われた際に、付着したミストが再び飛散して基板を汚染する欠点があった。
【0004】 本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、請求項1に係る発明の回転式塗布装置は、回転台の上面への塗布液付着に起因するパーティクルの発生を防止できるようにすることを目的とし、また、請求項2に係る発明の回転式塗布装置は、回転台の上面の洗浄を行うに際して、上部回転板を取り外しての洗浄をせずに短時間で簡単容易に行えるようにするとともに、その洗浄ための構成に起因する慣性増加を回避できるようにすることを目的とし、また、請求項3に係る発明の回転式塗布装置は、回転台の上面の洗浄をより一層簡単容易に行えるようにすることを目的とし、更に、請求項4に係る発明の回転式塗布装置は、回転台の上面の洗浄を簡単な構成で行うことができるようにすることを目的とする。
【0005】【課題を解決するための手段】 請求項1に係る発明の回転式塗布装置は、上述のような目的を達成するために、基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置において、回転台の上面に向けて洗浄液を噴射する回転台洗浄手段を備えて構成する。
【0006】 また、請求項2に係る発明の回転式塗布装置は、上述のような目的を達成するために、請求項1に係る発明の回転式塗布装置における回転台洗浄手段を、中央に開口を有し、かつ、回転台上に支持された基板の上面と所定の間隔をもって平行に設けられるとともに前記回転台と一体に回転される上部回転板と、開口を開閉する蓋と、その蓋を開き位置に変位した状態の開口を通じて上部回転板の下方に変位し、回転台の上面に向けて洗浄液を噴射するように固定支持部材に設けた洗浄ノズルとから構成する。
【0007】 また、請求項3に係る発明の回転式塗布装置は、上述のような目的を達成するために、請求項2に係る発明の回転式塗布装置における蓋を、固定支持部材に取り付けた駆動開閉機構によって閉じ位置と開き位置とに変位可能に設け、かつ、洗浄ノズルを、固定支持部材に取り付けた駆動機構によって洗浄位置と非洗浄位置とに変位可能に設けて構成する。
【0008】 また、請求項4に係る発明の回転式塗布装置は、上述のような目的を達成するために、請求項1に係る発明の回転式塗布装置における回転台洗浄手段を、回転台の回転軸を貫通して前記回転台の上方に位置するように固定状態で洗浄ノズルを設け、その洗浄ノズルにより前記回転台の上面に向けて洗浄液を噴出するように構成する。
【0009】【作用】 請求項1に係る発明の回転式塗布装置の構成によれば、基板に対する所定の回転塗布を行った後、基板の無い状態にしてから洗浄液を回転台の上面に向けて噴射し、回転台の上面に飛散して付着した塗布液を洗浄除去することができる。
【0010】 また、請求項2に係る発明の回転式塗布装置の構成によれば、通常の、基板を回転しながら行う塗布液の塗布は、蓋を閉じ位置に変位させて、従来同様に基板上部での空気層の乱れを生じさせることなく行うことができる。そして、所定の回転塗布を行った後には、蓋を開き位置に変位し、開口を通じて洗浄ノズルを上部回転板の下方に変位させ、洗浄ノズルに洗浄液を噴出しながら上部回転板を回転台と共に回転駆動することにより、洗浄ノズルから回転台の上面に噴出した洗浄液を回転台の上面に沿って遠心流動させ、先の回転塗布処理中に回転台の上面に付着した塗布液を洗浄し、その後の回転塗布処理を均一に、かつ汚染のない状態で行うことができる。
【0011】 また、請求項3に係る発明の回転式塗布装置の構成によれば、蓋を駆動開閉機構により、そして、洗浄ノズルを駆動機構によってそれぞれ駆動変位させ、回転台の上面に対する洗浄を行うことができる。
【0012】 また、請求項4に係る発明の回転式塗布装置の構成によれば、回転台の下方側から延ばして固定状態で設けた洗浄ノズルにより、回転状態の回転台の上面に洗浄液を噴出し、洗浄液を回転台の上面に沿って遠心流動させ、回転台の上面を洗浄することができる。
【0013】【実施例】 次に、本発明の実施例を図面を用いて詳細に説明する。
【0014】 図1は本発明に係る回転式塗布装置の第1実施例の全体の概略構成を示す縦断正面図であり、角型基板1を載置する回転台2が鉛直方向の軸心P周りに水平回転可能に設けられ、その回転台2の上方に、回転台2と平行に上部回転板3が設けられるとともに、その上部回転板3が回転台2に上部支持板4を介して一体的に回転可能に取り付けられ、これら回転部材の下方及び周辺部を外から囲むように廃液回収ケース5が設けられ、前記回転台2に、縦向き回転軸としての出力軸6を介して電動モータ7が連結されている。
【0015】 回転台2は、角型基板1の外形形状より充分大きい外形円板として構成されていて、その上面に立設した多数の基板支持ピン8…上に角型基板1が水平に載置支持されるようになっている。また、図示しないが、回転台2上には角型基板1の四隅それぞれに一対づつの位置決めピンが設けられていて、これら位置決めピンによって角型基板1が回転台2と一体に水平回転されるようになっている。
【0016】 また、回転台2の外周上面には、回転台2と同外径のスペーサリング9およびリングプレート10が同心円線上の場所に複数箇所で連結されるとともに、このリングプレート10に上部支持板4がノブボルト11を介して着脱自在に取り付けられ、上部支持板4を取り外すことで、リングプレート10の中央開口から基板1を出し入れすることができるようになっている。
【0017】 前記上部回転板3は基板1の外形形状より大径の円板に構成され、上部支持板4の下面にカラー12を介してボルト連結されている。廃液回収ケース5の底部は絞り込まれ、その下端に廃液排出口13が形成されるとともに、周方向の複数箇所には塗布液から蒸発した溶剤ガスや塗布液ミストを排出する排気口14が形成されている。
【0018】 前記廃液回収ケース5の上部に筒状カバー15が取り付けられ、その筒状カバー15に固定支持部材16が着脱可能に取り付けられている。
【0019】 図2の要部の一部切欠拡大正面図、図3および図4の要部の平面図、図5の要部の側面図に示すように、上部回転板3の中央には開口19が形成され、この開口19の鉛直方向上方位置において、固定支持部材16の上方側支持プレート16aに駆動開閉機構としての第1のエアシリンダ20が取り付けられ、その第1のエアシリンダ20のシリンダロッド20aの先端にブロック21が取り付けられるとともに、ブロック21に相対昇降および相対回転可能に有底筒状の前記蓋17が吊り下げ保持されている。
【0020】 また、ブロック21の下面に第1の磁石22が付設され、一方、蓋17の底面に、前記第1の磁石22と同極の第2の磁石23が付設され、蓋17を閉じ位置に変位した状態で、ブロック21を蓋17と非接触状態にしたときに、反発力によって蓋17を閉じ位置に維持できるようになっている。
【0021】 したがって、第1のエアシリンダ20の短縮により、蓋17を開口19の上方の開き位置に上昇変位させ、一方、第1のエアシリンダ20の伸長により、蓋17を下降して開口19に嵌入する閉じ位置に変位し、開口19を閉じながら蓋17のみを上部回転板3と一体回転できるようになっている。
【0022】 上方側支持プレート16aの第1のエアシリンダ20の横側方に、鉛直方向の軸芯周りで90°の範囲で回転可能な第2のエアシリンダ24が設けられるとともに、その第2のエアシリンダ24のシリンダロッド24aにスプライン軸25が連結されている。スプライン軸25に昇降のみ可能にスプライン筒26が取り付けられるとともに、スプライン筒26に回転のみ可能に回転筒27が取り付けられている。回転筒27に洗浄ノズル18が一体的に取り付けられるとともに、上方側支持プレート16aの第2のエアシリンダ24の横側方下側に設けられた第3のエアシリンダ28のシリンダロッド28aに回転筒27が連結されている。図示しないが、洗浄ノズル18には、洗浄液圧送機構に接続された配管が接続されている。上述の構成により、回転台2の上面に向けて洗浄液を噴出する回転台洗浄手段が構成されている。
【0023】 上記構成により、蓋17が閉じ位置にある非洗浄状態では、洗浄ノズル18を開口19の上方よりも外れた非洗浄位置に位置させておき、そして、蓋17が開き位置にある洗浄状態では、第2のエアシリンダ24により回転して洗浄ノズル18を開口19の上方箇所に位置させた後に、第3のエアシリンダ28を伸長して洗浄ノズル18を下降させ、その吹き出し口18aから回転台2の上面に向けて洗浄液を噴出する洗浄位置に変位できるようになっている。
上記洗浄ノズル18を洗浄位置と非洗浄位置とに駆動変位させるための第2および第3のエアシリンダ24,28から成る構成をして駆動機構と総称する。
【0024】 固定支持部材16の下方側支持プレート16bは環状に形成され、その内周面側に寄った上面の周方向所定の4箇所それぞれに、山形状の係合突起29が設けられ、一方、下方側支持プレート16bよりも上方に位置するように、上部支持板4に取付部材30…を介して環状プレート31が取り付けられるとともに、その環状プレート31の周方向所定の4箇所それぞれに、係合突起29を嵌入する筒体32が設けられ、前記上部回転板3を着脱する際に、係合突起29…を筒体32…に嵌入することにより、固定支持部材16で吊り下げることができるように構成されている。
【0025】 以上の構成により、先ず、塗布処理に際しては、固定支持部材16を筒状カバー15から取り外すとともに上部支持板4を回転台2から取り外し、固定支持部材16で吊り下げて上部回転板3を上方に外して角型基板1を回転台2の基板支持ピン8…上に所定の姿勢で載置する。
【0026】 次に、図示しない塗布液供給手段としての塗布液供給ノズルを角型基板1の中央上方に移動させ、所定量の塗布液を滴下供給する。その後、固定支持部材16で吊り下げて上部支持板4を搬入し、上部支持板4をリングプレート10上に、そして、固定支持部材16を筒状カバー15上にそれぞれ取り付け、図6の要部の正面図に示すように、第1のエアシリンダ20を伸長して蓋17を駆動変位し、上部回転板3の開口19を閉じておくとともに洗浄ノズル18を非洗浄位置に変位しておく。
【0027】 その後、電動モータ7を起動して回転台2、上部支持板4、上部回転板3および角型基板1を一体に水平回転させる。この回転によって角型基板1上の塗布液は遠心力によって外方に拡散流動して角型基板1上面に薄く塗布される。この場合、回転台2と上部回転板3との間に形成された偏平な塗布処理空間Sの空気層も一体に回転し、角型基板1上に気流が発生しない状態で塗布液の拡散流動が行われる。
【0028】 角型基板1上を流動して外周に到達した余剰塗布液は角型基板1の周縁から流出し、塗布処理空間Sの外周全域から飛散してゆく。そして、飛散した塗布液はスペーサリング9の上下に形成されている間隙を通って廃液回収ケース5内に流出して回収される。
【0029】 所定回数の回転塗布処理が行われると、固定支持部材16を筒状カバー15から取り外すとともに上部支持板4を回転台2から取り外し、固定支持部材16で吊り下げて上部回転板3を上方に外して角型基板1を取り出してから、上部支持板4をリングプレート10上に、そして、固定支持部材16を筒状カバー15上にそれぞれ取り付け、その後に、第1のエアシリンダ20を短縮して蓋17を開き位置に駆動変位する。
【0030】 しかる後、第2のエアシリンダ24を作動して洗浄ノズル18を開口19の上方位置まで回転変位し、その状態から第3のエアシリンダ28を伸長して洗浄ノズル18を下降させ、開口19を通じて、図5に示すように、上部回転板3の下方の洗浄位置まで変位する。その状態で、電動モータ7を起動して回転台2、上部支持板4、上部回転板3を一体に水平回転させながら、洗浄ノズル18から回転台2の上面に洗浄液を噴出供給し、遠心力を利用して、回転台2の上面に付着した塗布液のミストを洗浄除去する。
【0031】 図7は、本発明に係る回転式塗布装置の第2実施例を示す全体概略正面図であり、第1実施例と異なるところは次の通りである。
回転台2の回転軸2aの下端と電動モータ33の駆動軸33aの上端とがベルト式伝動機構34を介して連動連結されるとともに、回転台2の回転軸2aに、その回転軸芯を通る貫通孔35が形成され、その貫通孔35内に、上端に洗浄ノズル36を取り付けた洗浄液パイプ37が挿入されるとともに、洗浄ノズル36が回転台2の上方に位置されて固定状態で設けられ、回転台2の上面に向けて洗浄液を噴出するように回転台洗浄手段が構成されている。他の構成は第1実施例と同様であり、同一図番を付すことにより、その説明を省略する。
【0032】 図8は、本発明に係る回転式塗布装置の第3実施例を示す全体概略正面図であり、第1実施例と異なるところは次の通りである。
回転台2の周囲の固定フレーム15a上の所定箇所に、支持ブラケット38を介して洗浄ノズル39が取り付けられ、上部回転板3を取り外した状態で回転台2の上面に向けて洗浄液を噴出するように回転台洗浄手段が構成されている。他の構成は第1実施例と同様であり、同一図番を付すことにより、その説明を省略する。
【0033】 本発明としては、角型基板1に限らず円形基板の回転式塗布装置にも適用できる。
【0034】【発明の効果】 以上の説明から明らかなように、請求項1に係る発明の回転式塗布装置によれば、基板に対する所定の回転塗布に起因して回転台の上面に付着した塗布液を洗浄除去するから、回転台の上面への塗布液付着に起因するパーティクルの発生、ならびに、付着ミストの再飛散による基板の汚染を防止でき、基板の処理品質の低下を回避できる。
【0035】 また、請求項2に係る発明の回転式塗布装置によれば、上部回転板に設けた開口を通じて洗浄ノズルを上部回転板の下方に変位させ、洗浄ノズルから回転台の上面に洗浄液を噴出することにより、回転台の上面に付着した塗布液を洗浄するから、回転台の上面に対する洗浄を、上部回転板を取り外しての洗浄をせずに短時間で簡単容易に行うことができ、基板に対して、均一な膜厚で、かつ汚染のない塗布処理を効率的に行うことができる。
【0036】 しかも、洗浄ノズルを固定支持部材に設け、基板に対して塗布液を塗布するときに洗浄ノズルを上部回転板と一体回転させないから、回転台の上面に対する洗浄構成に起因して重量が大になって回転慣性を増加してしまうといったことを回避でき、基板に対して塗布液を塗布するときに早期に高速回転状態に立ち上げることができ、塗布処理に支障をきたすことが無い。
【0037】 また、請求項3に係る発明の回転式塗布装置によれば、蓋および洗浄ノズルのいずれをも駆動変位させて回転台の上面に対する洗浄を行うから、人為的な操作でもって蓋や洗浄ノズルを変位させる場合に比べ、回転台の洗浄をより一層簡単容易に行うことができる。
【0038】 また、請求項4に係る発明の回転式塗布装置によれば、回転台の回転軸を貫通させて回転台の下方側から延ばして設けた洗浄ノズルにより、回転台の上面に洗浄液を噴出して洗浄するから、上部回転板の上方に設ける場合に比べ、洗浄液の漏れによる基板の汚染などを考慮せずに済み、構成的に簡単にできる利点がある。」

そして、甲第1号証に縦断正面図として添付された、回転式塗布装置の第1実施例の全体の概略構成を示す図1には、「鉛直方向の軸心P周りに水平回転可能に角型基板1を載置する回転台2が設けられ、前記回転台2の上方に、回転台2と平行に上部回転板3が設けられるとともに、前記回転台2に縦向き回転軸としての出力軸6を介して電動モータ7が連結されていて、前記上部回転板3が回転台2に上部支持板4を介して一体的に回転可能に取り付けられ、これら回転部材の下方及び周辺部を外から囲むように廃液回収ケース5が設けられ、さらに前記廃液回収ケース5の上部に筒状カバー15が取り付けられていて、前記筒状カバー15の上面に掛け渡された状態で、固定支持部材16の左右両翼に延びた水平部分が、筒状カバー15に着脱可能に取り付けられ、回転台2の外周上面には、回転台2と同外径のスペーサリング9およびリングプレート10が連結されるとともに、このリングプレート10に上部支持板4がノブボルト11を介して取り付けられ、前記上部回転板3は前記上部支持板4の下面にカラー12を介してボルト連結されており、固定支持部材16の下方側支持プレート16b上面に設けられた係合突起29を、上部支持板4に取付部材30を介して取り付けられる環状プレート31に設けられた筒体32に嵌入することにより、固定支持部材16の下方側支持プレート16bで前記上部支持板4を吊り下げることができるように構成されている回転式塗布装置」が図示されている。

そうしてみると、上記甲第1号証の摘記事項及び添付図面に図示された技術事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、これを、「引用発明1」という。)の記載が認められる。
「角型基板1を水平支持した状態で回転させる回転台2と、前記回転台2上に支持された角型基板1の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段としての塗布液供給ノズルとを備えた回転式塗布装置において、
鉛直方向の軸心P周りに水平回転可能に角型基板1を載置する回転台2が設けられ、前記回転台2の上方に、回転台2と平行に上部回転板3が設けられるとともに、前記回転台2に縦向き回転軸としての出力軸6を介して電動モータ7が連結されていて、前記上部回転板3が回転台2に上部支持板4を介して一体的に回転可能に取り付けられて、回転台2と上部回転板3との間に形成された偏平な塗布処理空間Sの空気層も一体に回転し、これら回転部材の下方及び周辺部を外から囲むように廃液回収ケース5が設けられ、さらに前記廃液回収ケース5の上部に筒状カバー15が取り付けられていて、前記筒状カバー15の上面に掛け渡された状態で、固定支持部材16の左右両翼に延びた水平部分が、筒状カバー15に着脱可能に取り付けられ、
回転台2の外周上面には、回転台2と同外径のスペーサリング9およびリングプレート10が同心円線上の場所に複数箇所で連結されるとともに、このリングプレート10に上部支持板4がノブボルト11を介して着脱自在に取り付けられ、上部支持板4を取り外すことで、リングプレート10の中央開口から基板1を出し入れすることができるようになっており、
前記上部回転板3は基板1の外形形状より大径の円板に構成され、前記上部支持板4の下面にカラー12を介してボルト連結されており、
固定支持部材16の下方側支持プレート16bは環状に形成され、その内周面側に寄った上面の周方向所定の4箇所それぞれに、山形状の係合突起29が設けられ、一方、下方側支持プレート16bよりも上方に位置するように、上部支持板4の取付部材30…を介して環状プレート31が取り付けられるとともに、その環状プレート31の周方向所定の4箇所それぞれに、係合突起29を嵌入する筒体32が設けられ、前記上部回転板3を着脱する際に、係合突起29…を筒体32…に嵌入することにより、固定支持部材16の下方側支持プレート16bで前記上部支持板4を吊り下げることができるように構成されていて、
塗布処理に際しては、固定支持部材16を筒状カバー15から取り外すとともに上部支持板4を回転台2から取り外し、固定支持部材16で吊り下げて上部回転板3を上方に外して角型基板1を回転台2の基板支持ピン8…上に所定の姿勢で載置し、次に、塗布液を滴下供給した後、固定支持部材16で吊り下げて上部支持板4を搬入し、上部支持板4をリングプレート10上に、そして、固定支持部材16を筒状カバー15上にそれぞれ取り付け、所定回数の回転塗布処理が行われると、固定支持部材16を筒状カバー15から取り外すとともに上部支持板4を回転台2から取り外し、固定支持部材16で吊り下げて上部回転板3を上方に外して角型基板1を取り出してから、上部支持板4をリングプレート10上に、そして、固定支持部材16を筒状カバー15上にそれぞれ取り付けるようにした回転式塗布装置」

(2)甲第2号証〔特開平7-66108号公報〕の記載事項
本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、「処理液塗布装置」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「【0001】【産業上の利用分野】 本発明は、塗布装置、特に、基板の主面に処理液を塗布する処理液塗布装置に関する。」
「【0009】【実施例】 図1において、本発明の一実施例による処理液塗布装置1は、角型基板(以下基板と記す)Wにフォトレジスト液(処理液の一例)を塗布するものである。処理液塗布装置1は、角型基板Wを保持して回転させる基板保持部2と、基板保持部2の上方に基板保持部2と平行に配置された上部回転板3と、基板保持部2及び上部回転板3を囲むように配置された下部ケース4及び上部ケース5と、基板保持部2に保持された基板Wにフォトレジスト液を供給するための処理液供給部6と、基板保持部2の上面を洗浄するための上面洗浄部7と、上部回転板3の下面を洗浄するための下面洗浄部8とを主に有している。
【0010】 基板保持部2は、基板Wの対角線長さより長い直径を有する円形状であり、中央部に配置された基板吸着部10と、基板吸着部10の周囲に配置されたリング状の周端部11とから構成されている。基板吸着部10の上面には、同心円上に複数の吸着溝12が形成されている。また、放射状に複数の吸着溝13も形成されている。さらに、基板吸着部10の中心には、負圧経路20の先端が開口している。」
「【0012】 筒状回転軸18は上部にフランジ部を有しており、このフランジ部には、基板吸着部10の下方に平行に配置された下部回転板24が固定されている。下部回転板24上には、周端部11と、周端部11の外周側に配置されたリング部材25とが固定されている。周端部11の上面は、基板吸着部10の上面より僅かに低い位置に配置されている。この結果、基板吸着部10は、周端部11と一体回転し、かつ周端部11に対して上下動可能となっている。リング部材25の下部回転板24の端面に対向する内周面には、図4に示すように、液溜め空間26が形成されている。液溜め空間26は、僅かな隙間で下部回転板24の上面に連通しており、かつ下方に開口している。液溜め空間26には、処理液塗布時に基板Wから流出した余剰の処理液が貯溜され、貯溜された処理液は下方に排出される。
【0013】 筒状回転軸18の下端は、図2に示すように、連結部材31を介してプーリ30に連結されている。プーリ30は、軸受により装置フレーム23に回転自在に支持されている。プーリ30と、駆動モータ32の出力軸に取り付けられたプーリ33とにはベルト34が掛け渡されている。この結果、駆動モータ32の駆動力は、プーリ33、ベルト34、プーリ30、連結部材31を介して筒状回転軸18に伝達される。そして、ポールスプライン軸受16,17を介して中心軸15に伝達される。」
「【0015】 回転継手部35は、L字状の昇降ブラケット40の先端(上端)に取り付けられている。昇降ブラケット40の基端には、ロッド固定型の昇降シリンダ41のシリンダ本体41aが取り付けられている。昇降シリンダ41のロッド41bの上下端は、装置フレーム23の下部に取り付けられたコ字状の支持フレーム27に固定されている。この昇降シリンダ41により、中心軸15が上下駆動される。この結果、中心軸15の上端に固定された基板吸着部10が昇降し、基板Wを図2に2点鎖線で示す搬入・搬出位置に配置することが可能となる。
【0016】 上部回転板3は、図2に示すように、リング部材25上に着脱可能かつ係止可能に配置され得るものであり、装着時に下部回転板24と一体回転可能である。この上部回転板3と下部回転板24とリング部材25とによって半密閉の空間を形成することより、回転時における空気の流れが少なくなり、処理液の飛散を防止できる。上部回転板3の中心部には、図5に示すように、開口60が形成されている。」
「【0018】 上部ケース5は、下部ケース4の側部材4b上に着脱可能に配置される。上部ケース5の中心部には、図5及び図6に示すように、下面洗浄部8を支持するための1対の固定支持部材61が配置されている。両固定支持部材61は上方側支持プレート61a及び下方側支持プレート61bで連結されている。上方側支持プレート61a上面には、エアシリンダ62とエアロータリーアクチュエータ63とが、下面にはエアシリンダ71(図6)がそれぞれ取り付けられている。エアシリンダ62のシリンダロッド62aの先端には、ブロック64が取り付けられているとともに、ブロック64に昇降及び回転自在に有底筒状の蓋65が吊り下げ保持されている。蓋65は、エアシリンダ62の進退動作により上部回転板3の中心に形成された開口60を開閉可能である。」
「【0022】 固定支持部材61の下方側支持プレート61bは環状に形成され、その内周部上面の周方向4か所それぞれには係合突起72が設けられている。また、下方側支持プレート61bよりも上方に位置するように、上部回転板3に取付部材73を介して環状プレート74が取り付けられている。環状プレート74の外周部には、4つの係合突起72のそれぞれに係合する筒体75が設けられている。この結果、図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げると、係合突起72が筒体75に係合し、上部回転板3をリング部材25に対して着脱できる構成となっている。」
「【0025】 基板処理時には、まず昇降シリンダ41により、基板吸着部10を上昇させ、搬入・搬出位置に配置する。そして図示しない搬送機構から基板Wが搬送されると、真空弁39を開き、基板吸着部10を負圧にする。この結果、基板Wが吸着保持される。そして昇降シリンダ41により基板吸着部10を周端部11と対向する位置に下降させる。続いて処理液供給部6のアーム80を旋回し、処理液ノズル81を基板Wの中心位置の上方に配置する。続いて、基板Wに対して処理液(たとえばフォトレジスト液)を所定量供給する。処理液の供給が終了すると、処理液アーム80を退避させ、続いて上部ケース5を下部ケース4に装着する。これにより、上部回転板3はリング部材25上に係合され、下部回転板24と一体回転可能となる。続いてモータ32を回転駆動し、下部回転板24、基板吸着部10及び上部回転板3を一体回転させる。そして基板Wに滴下されたフォトレジスト液を径方向外周に拡散させ、基板W上に処理液を均一に塗布する。基板Wからの余剰の処理液は、リング部材25に形成された液溜め空間26に徐々に溜まり、液溜め空間26から液溜め部42に滴下されて廃液配管43から排出される。
【0026】 フォトレジスト液の塗布が終了すると、モータ32の駆動を停止し、図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げ、下部ケース4から離脱させる。すると、上部ケース5によって、上部回転板3もリング部材25から離脱される。そして昇降シリンダ41により基板Wを上昇させ、図示しない搬送機構により次の工程に基板Wを搬送する。」

そして甲第2号証に添付された図面には、「水平回転可能に角型基板Wを保持する基板保持部2が設けられ、前記基板保持部2の上方に、基板保持部2と平行に上部回転板3が配置されるとともに、前記基板保持部2に電動モータ32が連結されていて、前記上部回転板3が基板保持部2に一体的に回転可能に取り付けられ、前記基板保持部2と上部回転板3を囲むように下部ケース4が設けられ、さらに前記下部ケース4の開口を覆うように設けられる上部ケース5が、前記下部ケース4の上部に着脱可能に取り付けられていて、前記上部ケース5の中心部に配置された一対の固定支持部材61の環状の下方側支持プレート61b上面に設けられた固定支持部材61側の係合突起72を、上部回転板3に取付部材73を介して取り付けられる環状プレート74に設けられた上部回転板3側の筒体75に係合することにより、固定支持部材61の下方側支持プレート61bで前記上部回転板3を吊り下げ支持することができるように構成された処理液塗布装置」が図示されている。

そうしてみると、上記甲第2号証の摘記事項及び添付図面に図示された技術事項を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下、これを、「引用発明2」という。)の記載が認められる。
「角型基板Wを水平回転可能に保持して回転させる基板保持部2と、前記基板保持部2の上方に基板保持部2と平行に配置された上部回転板3と、基板保持部2及び上部回転板3を囲むように配置された上部が開口する下部ケース4と、該下部ケース4の開口を覆うように着脱可能に取り付けられる上部ケース5と、基板保持部2に保持された角型基板Wにフォトレジスト液を供給するための処理液供給部6と、基板保持部2の上面を洗浄するための上面洗浄部7と、上部回転板3の下面を洗浄するための下面洗浄部8とからなる角型基板Wにフォトレジスト液を塗布する処理液塗布装置1において、
前記基板保持部2は、基板Wの対角線長さより長い直径を有する円形状であり、中央部に配置された基板吸着部10と、基板吸着部10の周囲に配置されたリング状の周端部11とから構成され、
筒状回転軸18の上部のフランジ部に、基板吸着部10の下方に平行に配置された下部回転板24が固定され、前記下部回転板24上に、周端部11と、周端部11の外周側に配置されたリング部材25とが固定されていて、前記周端部11の上面は、基板吸着部10の上面より僅かに低い位置に配置されていて、前記基板吸着部10は、周端部11と一体回転し、かつ周端部11に対して上下動可能となっており、
昇降シリンダ41により、中心軸15が上下駆動される結果、中心軸15の上端に固定された基板吸着部10が昇降し、角型基板Wを搬入・搬出位置に配置することが可能となり、
前記上部回転板3は、基板保持部2の上方に前記基板保持部2と平行に着脱可能かつ係止可能に配置され、電動モータ32により基板保持部2に一体的に回転可能に取り付けられていて、下部回転板24とリング部材25とによって半密閉の空間を形成するものとされ、
前記上部ケース5は、下部ケース4の側部材4b上に着脱可能に配置され、前記上部ケース5の中心部に、下面洗浄部8を支持するための1対の固定支持部材61が配置されていて、両固定支持部材61は上方側支持プレート61a及び下方側支持プレート61bで連結されているとともに、
前記固定支持部材61の下方側支持プレート61bは環状に形成され、その内周部上面の周方向4か所それぞれには係合突起72が設けられ、下方側支持プレート61bよりも上方に位置するように、上部回転板3に取付部材73を介して環状プレート74が取り付けられていて、環状プレート74の外周部には、4つの係合突起72のそれぞれに係合する筒体75が設けられていて、この結果、図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げると、固定支持部材61側の係合突起72が上部回転板3側の筒体75に係合し、上部回転板3をリング部材25に対して着脱できる構成となっていて、
基板処理時には、まず昇降シリンダ41により、基板吸着部10を上昇させ、搬入・搬出位置に配置し、そして搬送機構から角型基板Wが搬送されると、真空弁39を開き、基板吸着部10を負圧にする結果、角型基板Wが吸着保持されて、昇降シリンダ41により基板吸着部10を周端部11と対向する位置に下降させ、続いて処理液供給部6のアーム80を旋回し、処理液ノズル81を角型基板Wの中心位置の上方に配置し、続いて、角型基板Wに対してフォトレジスト液を所定量供給し、処理液の供給が終了すると、処理液アーム80を退避させ、続いて上部ケース5を下部ケース4に装着すると、上部回転板3はリング部材25上に係合されて下部回転板24と一体回転可能となり、続いてモータ32を回転駆動し、下部回転板24、基板吸着部10及び上部回転板3を一体回転させて、角型基板Wに滴下されたフォトレジスト液を径方向外周に拡散させ、角型基板W上に処理液を均一に塗布し、フォトレジスト液の塗布が終了すると、モータ32の駆動を停止し、図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げ、下部ケース4から離脱させると、上部ケース5によって、上部回転板3もリング部材25から離脱され、そして昇降シリンダ41により角型基板Wを上昇させ、搬送機構により次の工程に角型基板Wを搬送するようにした処理液塗布装置」

2 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 対比
ここで、本件発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「角型基板W」、「角型基板Wを水平回転可能に保持して回転させる基板保持部2」、「フォトレジスト液」、「角型基板Wにフォトレジスト液を供給するための処理液供給部6」及び「処理液塗布装置1」のそれぞれが、本件発明1の「基板」、「基板を水平支持した状態で回転させる回転台」、「塗布液」、「基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段」及び「回転式塗布装置」のそれぞれに相当することは、明らかである。
そして、引用発明2の「基板保持部2及び上部回転板3を囲むように配置された上部が開口する下部ケース4」が、本件発明1の「上部が開口し、前記回転台の周辺を囲むケース」に相当するから、引用発明2の「該下部ケース4の開口を覆うように着脱可能に取り付けられる上部ケース5」は、本件発明1の「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」に相当する。
また、引用発明2の「上部回転板3は、基板保持部2の上方に前記基板保持部2と平行に着脱可能かつ係止可能に配置され、電動モータ32により基板保持部2に一体的に回転可能に取り付けられていて、下部回転板24とリング部材25とによって半密閉の空間を形成するもの」とされる「上部回転板3」と、本件発明1の「前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」とでは、引用発明2の前記「上部回転板3」が「塗布処理空間を形成」することにおいて前記「上部板」と違いがなく、また、引用発明2の前記上部ケース5は、下部ケース4の開口を覆うように着脱可能に取り付けられるものであり、そして図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げると、固定支持部材61側の係合突起72が上部回転板3側の筒体75に係合し、上部回転板3をリング部材25に対して着脱できる構成となっていて、前記上部ケース5が前記下部ケース4に装着される時の上部回転板3は、リング部材25上に係合されることから、引用発明2の「上部回転板3は、基板保持部2の上方に前記基板保持部2と平行に着脱可能かつ係止可能に配置され、電動モータ32により基板保持部2に一体的に回転可能に取り付けられていて、下部回転板24とリング部材25とによって半密閉の空間を形成するもの」とされる前記「上部回転板3」が、本件発明1の「前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」に相当する。

そうすると、本件発明1と引用発明2とは、
「基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置において、
上部が開口し、前記回転台の周辺を囲むケースと、
前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材と、
前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板と、
を備える回転式塗布装置」
である点で一致し、次の点で両者の構成が相違する。
[相違点1]:本件発明1の上部板が「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され」るのに対し、引用発明2の「回転台2に上部支持板4を介して一体的に回転可能に取り付けられて、回転台2との間に偏平な塗布処理空間Sを形成する上部回転板3」は、固定支持部材16に上下方向への相対移動可能に結合されない点。
[相違点2]:本件発明1が「前記開口を閉じた状態の前記部材を上昇させ」るのに対し、引用発明2は、前記構成であるか否か明確でない点。
[相違点3]:本件発明1が「前記部材を上昇させて前記上部板を上昇させる際には、前記上部板の上昇に先立って前記閉じ部材が上昇するよう構成されている」のに対し、引用発明2は、前記構成であるか否か明確でない点。

イ 相違点についての検討
(ア)相違点1について
a 引用発明2の処理液塗布装置1は、次の技術事項(a)?(h)からなる構成を有するものである。すなわち、
(a)「角型基板Wを水平回転可能に保持して回転させる基板保持部2と、前記基板保持部2の上方に基板保持部2と平行に配置された上部回転板3と、基板保持部2及び上部回転板3を囲むように配置された上部が開口する下部ケース4と、該下部ケース4の開口を覆うように着脱可能に取り付けられる上部ケース5とからなる」点、
(b)「筒状回転軸18の上部のフランジ部に、基板吸着部10の下方に平行に配置された下部回転板24が固定され、前記下部回転板24上に、周端部11と、周端部11の外周側に配置されたリング部材25とが固定されている」点、
(c)「前記上部回転板3は、基板保持部2の上方に前記基板保持部2と平行に着脱可能かつ係止可能に配置され、電動モータ32により基板保持部2に一体的に回転可能に取り付けられていて、下部回転板24とリング部材25とによって半密閉の空間を形成するものとされ」ている点、
(d)「前記上部ケース5は、下部ケース4の側部材4b上に着脱可能に配置され、前記上部ケース5の中心部に、下面洗浄部8を支持するための1対の固定支持部材61が配置されていて、両固定支持部材61は上方側支持プレート61a及び下方側支持プレート61bで連結されている」点、
(e)「前記固定支持部材61の下方側支持プレート61bは環状に形成され、その内周部上面の周方向4か所それぞれには係合突起72が設けられ、下方側支持プレート61bよりも上方に位置するように、上部回転板3に取付部材73を介して環状プレート74が取り付けられていて、環状プレート74の外周部には、4つの係合突起72のそれぞれに係合する筒体75が設けられてい」る点、
(f)「図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げると、固定支持部材61側の係合突起72が上部回転板3側の筒体75に係合し、上部回転板3をリング部材25に対して着脱できる構成となってい」る点、
(g)「上部ケース5を下部ケース4に装着すると、上部回転板3はリング部材25上に係合されて下部回転板24と一体回転可能となり、続いてモータ32を回転駆動し、下部回転板24、基板吸着部10及び上部回転板3を一体回転させ」る点、
(h)「図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げ、下部ケース4から離脱させると、上部ケース5によって、上部回転板3もリング部材25から離脱され」る点。

b そうすると、上記の技術事項(a)?(h)からなる構成を有する引用発明2は、「吊り上げ手段で上部ケース5を吊り上げることにより、固定支持部材61の環状に形成された下方側支持プレート61bの内周部上面の周方向4か所に設けられている係合突起72を、上部回転板3に取付部材73を介して取り付けられている環状プレート74の外周部に設けられている4つの筒体75に係合させて、上部ケース5とともに基板保持部2及び上部回転板3を囲むように配置されている下部ケース4から前記上部ケース5を離脱させ、あるいは、前記下部ケース4に前記上部ケース5を装着させて、上部回転板3をリング部材25に対して離脱又は係合できる技術手段」を具備していることが明らかである。
すなわち、引用発明2は、「吊り上げ手段により上部ケース5(本件発明1の「ケースの開口を閉じる部材」に相当する。)を吊り上げて上部回転板3側の筒体75に前記上部ケース5側の係合突起72を係合させる(本件発明1の「上下方向への相対移動に結合される」に相当する。)ことにより、前記上部ケース5に吊り上げられた上部回転板3をリング部材25に対して離脱又は係合できる技術手段」を有しているといえる。

c しかも、引用発明2の前記技術手段における上記「上部回転板3」は、上記「ア 対比」欄に前述したとおり、本件発明1の「上部板」に相当するものであるところ、引用発明2の前記「上部回転板3」は、リング部材25上に着脱可能かつ係止可能に配置され得るものであり、装着時に下部回転板24と一体回転可能であり、また、この上部回転板3と下部回転板24とリング部材25とによって半密閉の空間を形成することにより、回転時における空気の流れが少なくなり、処理液の飛散を防止できるという役割を担っているものでもある。
そうすると、引用発明2は、「上部板(上部回転板3)が閉じる部材(上部ケース5)に上下方向への相対移動可能に結合される」構成を有しているといえる。

d したがって、引用発明2の「上部回転板3」は、本件発明1の相違点1に係る前記「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され」る構成を具備しているといえるから、本件発明1の相違点1は実質的な構成上の差異ではなく、当業者が引用発明2に基づいて容易に想到することができたものである。

(イ)相違点2について
a 引用発明2は、前掲の技術事項(a)?(h)からなる構成を有するものであり、そして、前述のとおり、引用発明2の前記「上部ケース5」が、本件発明1の「前記部材(閉じる部材)」に相当する。

b そうすると、前記技術事項(a)?(h)からなる構成を備える引用発明2は、「閉じる部材(上部ケース5)を上昇又は下降させる技術手段」を具備していることは明らかである。

c しかして、かかる「閉じる部材(上部ケース5)を上昇又は下降させる技術手段」を具備する引用発明2においては、図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げて、上部ケース5を下部ケース4から離脱させようとする直前においては、上部ケース5が下部ケース4に結合された状態にあることからみて、引用発明2の上部ケース5は、下部ケース4の開口を閉じる状態にしている蓋然性を有しているいえる。

d そうすると、引用発明2の「上部ケース5」は、本件発明1の相違点2に係る前記「前記開口を閉じた状態の前記部材を上昇させ」る蓋然性を有する構成を具備しているといえるから、本件発明1の相違点2は実質的な構成上の差異ではなく、当業者が引用発明2に基づいて容易に想到することができる程度のことにすぎない。

(ウ)相違点3について
a 甲第1号証に、引用発明1が記載されていることは、上記「1 甲号各証の記載事項」欄の「(1)甲第1号証〔特開平6-338447号公報〕の記載事項」において前述したとおりである。

b しかして、上記引用発明1の「塗布処理に際しては、固定支持部材16を筒状カバー15から取り外すとともに上部支持板4を回転台2から取り外し、固定支持部材16で吊り下げて上部回転板3を上方に外して角型基板1を回転台2の基板支持ピン8…上に所定の姿勢で載置し、次に、塗布液を滴下供給した後、固定支持部材16で吊り下げて上部支持板4を搬入し、上部支持板4をリングプレート10上に、そして、固定支持部材16を筒状カバー15上にそれぞれ取り付け、所定回数の回転塗布処理が行われると、固定支持部材16を筒状カバー15から取り外すとともに上部支持板4を回転台2から取り外し、固定支持部材16で吊り下げて上部回転板3を上方に外して角型基板1を取り出してから、上部支持板4をリングプレート10上に、そして、固定支持部材16を筒状カバー15上にそれぞれ取り付けるようにした」構成における、角型基板1を回転台2に載置する場合と、角型基板1を回転台2から取り出す場合との「固定支持部材16を筒状カバー15から取り外すとともに上部支持板4を回転台2から取り外し、固定支持部材16で吊り下げて上部回転板3を上方に外して」の処理操作を担保する構成であるところの引用発明1の「固定支持部材16の下方側支持プレート16bは環状に形成され、その内周面側に寄った上面の周方向所定の4箇所それぞれに、山形状の係合突起29が設けられ、一方、下方側支持プレート16bよりも上方に位置するように、上部支持板4に取付部材30…を介して環状プレート31が取り付けられるとともに、その環状プレート31の周方向所定の4箇所それぞれに、係合突起29を嵌入する筒体32が設けられ、前記上部回転板3を着脱する際に、係合突起29…を筒体32…に嵌入することにより、固定支持部材16の下方側支持プレート16bで前記上部支持板4を吊り下げることができるように構成されていて」の構成は、とりもなおさず、引用発明1の「上部支持板4」を本件発明1の「上部板」に置き換えれば、本件発明1の「前記部材を上昇させて前記上部板を上昇させる際には、前記上部板の上昇に先立って前記閉じ部材が上昇するよう構成されている」に他ならない。

c そうしてみると、本件発明1の「上部板」に相当する引用発明2の「上部回転板3」として引用発明1の「上部支持板4」を採用して、引用発明2に、前記引用発明1の前記「固定支持部材16の下方側支持プレート16bは環状に形成され、その内周面側に寄った上面の周方向所定の4箇所それぞれに、山形状の係合突起29が設けられ、一方、下方側支持プレート16bよりも上方に位置するように、上部支持板4に取付部材30…を介して環状プレート31が取り付けられるとともに、その環状プレート31の周方向所定の4箇所それぞれに、係合突起29を嵌入する筒体32が設けられ、前記上部回転板3を着脱する際に、係合突起29…を筒体32…に嵌入することにより、固定支持部材16の下方側支持プレート16bで前記上部支持板4を吊り下げることができるように構成されていて」の構成を適用することにより、本件発明1の相違点3に係る前記「前記部材を上昇させて前記上部板を上昇させる際には、前記上部板の上昇に先立って前記閉じ部材が上昇するよう構成されている」の構成を得ることは、当業者が容易に想到することができたものである。

そして、本件発明1の奏する作用効果は、引用発明2及び甲第1号証に記載された引用発明1から予測できる範囲内のものであり、格別のものということができない。

ウ まとめ
以上のとおりであり、本件発明1は、引用発明2及び甲第1号証に記載された引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2)本件発明2について
ア 対比
a 本件発明2と引用発明2とを対比する前に、請求項1に係る本件発明1と請求項2に係る本件発明2とを比較すると、本件発明1と本件発明2とは、請求項1及び請求項2に共に記載されている「基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置において、上部が開口し、前記回転台の周辺を囲むケースと、前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材と、前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板と、を備えることを特徴とする回転式塗布装置。」の点で構成が共通し、その余の点で構成が相違している。
そして、本件発明2の本件発明1と共通する構成については、すでに上記「(1)本件発明1について」欄の「(ア)相違点1について」において前述したとおりである。

b そうすると、ここで、本件発明2と引用発明2とを対比した場合の両者の構成上の相違は、上記「(1)本件発明1について」欄において前述した本件発明1と引用発明2との構成上の相違である相違点1を含み、かつ、本件発明1と本件発明2と構成が共通していない「前記上部板の上側中央部には取付部材が立設され、取付部材には水平方向に延在する第1の部材が設けられ、前記閉じる部材には、前記上部板の前記第1の部材の下方に位置する第2の部材が設けられ、前記上部板と前記回転台との結合時には、前記第2の部材に対して前記取付部材および前記第1の部材が相対回転自在となるように設けられている」の構成であることは明らかである。

c しかして、引用発明2は、上記「1 甲号各証の記載事項」欄の「(2)」に前掲したとおりのものである。

d そして、本件発明2と引用発明2とでは、引用発明2の「上部回転板3」、「取付部材73」、「環状プレート74」、「固定支持部材61」及び「下方側支持プレート61b」のそれぞれが、本件発明2の「上部板」、「取付部材」、「第1の部材」、「閉じる部材」及び「第2の部材」のそれぞれに対応する関係にある。

e したがって、本件発明2と引用発明2とは、
「基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置において、
上部が開口し、前記回転台の周辺を囲むケースと、
前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材と、
前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板と、
を備える回転式塗布装置」
である点で一致し、上記「(1)本件発明1について」欄において前述した上記相違点1の他に、次の点で両者の構成が相違する。
[相違点4]:本件発明2が「前記上部板の上側中央部には取付部材が立設され、取付部材には水平方向に延在する第1の部材が設けられ」及び「前記閉じる部材には、前記上部板の前記第1の部材の下方に位置する第2の部材が設けられ」るのに対して、引用発明2は、前記構成を有するか否か明確でない点。
[相違点5]:本件発明2が「前記上部板と前記回転台との結合時には、前記第2の部材に対して前記取付部材および前記第1の部材が相対回転自在となるように設けられている」のに対して、引用発明2は、前記構成を有するか否か明確でない点。

イ 相違点についての検討
(ア)相違点1について
本件発明2と引用発明2との構成上の相違である相違点1は、本件発明1と引用発明2との構成上の相違である相違点1と共通しており、前記相違点1については、上記「(1)本件発明1について」欄の「イ 相違点についての検討」の「(ア)相違点1について」において、すでに前述したとおりであるので、重複を避けるために、ここでは繰り返さない。

(イ)相違点4について
a 甲第2号証に、引用発明2が記載されていることは、上記「1 甲号各証の記載事項」欄の「(2)甲第2号証〔特開平7-66108号公報〕の記載事項」において前述したとおりである。

b かかる引用発明2の「上部回転板3」が、リング部材25上に着脱可能かつ係止可能に配置され得るものであり、装着時に下部回転板24と一体回転可能であり、また、この上部回転板3と下部回転板24とリング部材25とによって半密閉の空間を形成することにより、回転時における空気の流れが少なくなり、処理液の飛散を防止できるという役割を担っているものであることから、上記「(1)本件発明1について」欄の「ア 対比」において前述したところの、引用発明2の前記「上部回転板3」が本件発明1の「上部板」に相当するものであることと同様に、本件発明2においても、引用発明2の前記「上部回転板3」が本件発明2の「上部板」に相当するといえる。

c そしてまた、かかる引用発明2の「基板処理時には、まず昇降シリンダ41により、基板吸着部10を上昇させ、搬入・搬出位置に配置し、そして搬送機構から角型基板Wが搬送されると、真空弁39を開き、基板吸着部10を負圧にする結果、角型基板Wが吸着保持されて、昇降シリンダ41により基板吸着部10を周端部11と対向する位置に下降させ、続いて処理液供給部6のアーム80を旋回し、処理液ノズル81を角型基板Wの中心位置の上方に配置し、続いて、角型基板Wに対してフォトレジスト液を所定量供給し、処理液の供給が終了すると、処理液アーム80を退避させ、続いて上部ケース5を下部ケース4に装着すると、上部回転板3はリング部材25上に係合されて下部回転板24と一体回転可能となり、続いてモータ32を回転駆動し、下部回転板24、基板吸着部10及び上部回転板3を一体回転させて、角型基板Wに滴下されたフォトレジスト液を径方向外周に拡散させ、角型基板W上に処理液を均一に塗布し、フォトレジスト液の塗布が終了すると、モータ32の駆動を停止し、図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げ、下部ケース4から離脱させると、上部ケース5によって、上部回転板3もリング部材25から離脱され、そして昇降シリンダ41により角型基板Wを上昇させ、搬送機構により次の工程に角型基板Wを搬送する」の一連の処理工程における前記「上部ケース5を下部ケース4に装着すると、上部回転板3はリング部材25上に係合されて下部回転板24と一体回転可能となり、」及び前記「図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げ、下部ケース4から離脱させると、上部ケース5によって、上部回転板3もリング部材25から離脱され、」という「上部ケース5の下部ケース4への装着」及び「上部ケース5の下部ケース4からの離脱」の両操作工程を担保する構成であるところの引用発明2の「前記上部ケース5は、下部ケース4の側部材4b上に着脱可能に配置され、前記上部ケース5の中心部に、下面洗浄部8を支持するための1対の固定支持部材61が配置されていて、両固定支持部材61は上方側支持プレート61a及び下方側支持プレート61bで連結されているとともに、前記固定支持部材61の下方側支持プレート61bは環状に形成され、その内周部上面の周方向4か所それぞれには係合突起72が設けられ、下方側支持プレート61bよりも上方に位置するように、上部回転板3に取付部材73を介して環状プレート74が取り付けられていて、環状プレート74の外周部には、4つの係合突起72のそれぞれに係合する筒体75が設けられていて、この結果、図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げると、固定支持部材61側の係合突起72が上部回転板3側の筒体75に係合し、上部回転板3をリング部材25に対して着脱できる構成」においては、引用発明2の「下面洗浄部8を支持するための1対の固定支持部材61」、「取付部材73」、「環状プレート74」、「環状に形成された下方側支持プレート61b」のそれぞれが、本件発明2の「閉じる部材」、「取付部材」、「第1の部材」、「第2の部材」のそれぞれに相当する。

d そうすると、引用発明2は、本件発明2の「前記上部板の上側中央部には取付部材が立設され、取付部材には水平方向に延在する第1の部材が設けられ」及び「前記閉じる部材には、前記上部板の前記第1の部材の下方に位置する第2の部材が設けられ」に相当する構成を具備しているといえる。

e したがって、本件発明2の相違点4に係る前記「前記上部板の上側中央部には取付部材が立設され」及び「取付部材には水平方向に延在する第1の部材が設けられ、前記閉じる部材には、前記上部板の前記第1の部材の下方に位置する第2の部材が設けられ」る構成とすることは、引用発明2に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。

(ウ)相違点5について
a 甲第2号証に、引用発明2が記載されていることは、上記「1 甲号各証の記載事項」欄の「(2)甲第2号証〔特開平6-338447号公報〕の記載事項」において前述したとおりである。

b また、前記引用発明2が、前記「上部ケース5を下部ケース4に装着すると、上部回転板3はリング部材25上に係合されて下部回転板24と一体回転可能となり、」及び前記「図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げ、下部ケース4から離脱させると、上部ケース5によって、上部回転板3もリング部材25から離脱され、」という「上部ケース5の下部ケース4への装着」及び「上部ケース5の下部ケース4からの離脱」の両操作工程を担保する構成であるところの引用発明2の「前記上部ケース5は、下部ケース4の側部材4b上に着脱可能に配置され、前記上部ケース5の中心部に、下面洗浄部8を支持するための1対の固定支持部材61が配置されていて、両固定支持部材61は上方側支持プレート61a及び下方側支持プレート61bで連結されているとともに、前記固定支持部材61の下方側支持プレート61bは環状に形成され、その内周部上面の周方向4か所それぞれには係合突起72が設けられ、下方側支持プレート61bよりも上方に位置するように、上部回転板3に取付部材73を介して環状プレート74が取り付けられていて、環状プレート74の外周部には、4つの係合突起72のそれぞれに係合する筒体75が設けられていて、この結果、図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げると、固定支持部材61側の係合突起72が上部回転板3側の筒体75に係合し、上部回転板3をリング部材25に対して着脱できる構成」を有するものであることについては、上記「(イ)相違点4について」欄に前述のとおりである。

c そして、前記引用発明2における「上部回転板3」、「取付部材73」、「環状プレート74」、「上部ケース5の中心部に配置されている1対の固定支持部材61」、「下方側支持プレート61b」及び「下部回転板24」のそれぞれが、本件発明2の「上部板」、「取付部材」、「第1の部材」、「閉じる部材」、「第2の部材」及び「回転台」に相当することは明らかである。

d さらに、前記引用発明2においては、上部回転板3の上側中央部に取付部材73が立設され、該取付部材73に水平方向に延在する環状プレート74が設けられ、上部ケース5の中心部に配置されている1対の固定支持部材61に、前記上部回転板3の前記環状プレート74の下方に位置する下方側支持プレート61bが設けられていること、及び、引用発明2が、「閉じる部材(上部ケース5)を上昇又は下降させる技術手段」を具備していることも前述のとおりである。

e しかして、かかる「閉じる部材(上部ケース5)を上昇又は下降させる技術手段」を具備する引用発明2においては、図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げて、上部回転板3を基板保持部2に結合させようとする場合においては、上部ケース5が下部ケース4から離隔している状態から、上部ケース5が下部ケース4に結合された状態に移行するまでの間は、引用発明2の上部ケース5は、下部ケース4の係合から解放された自由状態にあると推認される。

f そして、引用発明2は、前述のとおり、「前記固定支持部材61の下方側支持プレート61bは環状に形成され、その内周部上面の周方向4か所それぞれには係合突起72が設けられ、下方側支持プレート61bよりも上方に位置するように、上部回転板3に取付部材73を介して環状プレート74が取り付けられていて、環状プレート74の外周部には、4つの係合突起72のそれぞれに係合する筒体75が設けられていて、この結果、図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げると、固定支持部材61側の係合突起72が上部回転板3側の筒体75に係合し、上部回転板3をリング部材25に対して着脱できる構成」を有しているから、上部回転板3を基板保持部24に結合しようとする場合には、図示しない吊り上げ手段により上部ケース5を吊り上げると、下方側支持プレート61b側の係合突起72が上部回転板3側の筒体75に係合することにより、1対の固定支持部材61の下方側支持プレート61bの下降とともに上部回転板3も下降させられることとなり、そして、上部回転板3を吊り下げた状態の固定支持部材61の下方側支持プレート61bを有する上部ケース5が下部ケース4に当接した状態に移行し、さらに固定支持部材61の下方側支持プレート61bが下降して、下方側支持プレート61b側の係合突起72が上部回転板3側の筒体75との係合が解除されると、このときの引用発明2の「取付部材73」及び「環状プレート74」は、「固定支持部材61の下方側支持プレート61b」に対して自由状態にあると推認される。

g この場合において、引用発明2における上部ケース5を吊り上げる図示しない吊り上げ手段を、何らかの手段により下部ケース4に対して相対的に回転自在の構成とすることにより、本件発明2の相違点5に係る「前記上部板と前記回転台との結合時には、前記第2の部材に対して前記取付部材および前記第1の部材が相対回転自在となるように設けられている」の構成となるように変更することは、当業者が必要に応じて容易になし得る設計事項にすぎない。

そして、本件発明2の奏する作用効果は、引用発明2及び甲第1号証に記載された引用発明1から予測できる範囲内のものであり、格別のものということができない。

ウ まとめ
以上のとおりであり、本件発明2は、引用発明2及び甲第1号証に記載された引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 当審の職権による無効理由2(特許法第36条第4項、同条第6項第1号及び第2号違反)についての検討
1 本件発明1及び本件発明2の「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」について
(1)被請求人が原出願の当初明細書等が記載されている甲第1号証〔特開平6-338447号公報〕の記載から自明であると主張する本件発明1及び本件発明2の「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」について、甲第1号証の記載からは、甲第1号証に記載の「固定支持部材16」が、本件発明1及び本件発明2の「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」であるといえないことは、上記「第4 当審の職権による無効理由の前提となる分割要件の有無についての検討」欄の「2(2)ア」に前述したとおりである。
そして、本件特許出願が、上記甲第1号証に係る特願平5-123538号を原出願とする分割出願であるとされていたことから、「固定支持部材16」についての本件訂正明細書における記載は、上記甲第1号証に記載されている技術事項の範囲内にとどまり、甲第1号証と同様に、本件訂正明細書の記載からは、前記「固定支持部材16」が、本件発明1及び本件発明2の「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」であるとはいえない。

(2)したがって、「固定支持部材16」が「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」であることの根拠となる記載を、本件訂正明細書の中に認めることができない。また、「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」の技術事項が、本件訂正明細書の記載から自明であるということもできない。

(3)そうすると、本件発明1及び本件発明2の前記「前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材」の構成要件が、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されてなく、また、前記構成要件について、当業者が実施できる程度に本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されているということができないばかりでなく、前記構成要件を含む本件発明1及び本件発明2の構成が、明確でないものとなっている。

2 本件発明1及び本件発明2の「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」について
(1)被請求人が原出願の当初明細書等が記載されている甲第1号証〔特開平6-338447号公報〕に記載されていると主張する本件発明1及び本件発明2の「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」について、甲第1号証の記載からは、甲第1号証に記載の「上部回転板3と上部支持板4」が、本件発明1及び本件発明2の「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」であるとはいえないことは、上記「第4 当審の職権による無効理由の前提となる分割要件の有無についての検討」欄の「2(2)イ」に前述したとおりである。
そして、本件特許出願が、上記甲第1号証に係る特願平5-123538号を原出願とする分割出願であるとされていたことから、「上部回転板3と上部支持板4」についての本件訂正明細書における記載は、上記甲第1号証に記載されている技術事項の範囲内にとどまり、甲第1号証と同様に、本件訂正明細書の記載からは、前記「上部回転板3と上部支持板4」が、本件発明1及び本件発明2の「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」であるとはいえない。

(2)したがって、「上部回転板3と上部支持板4」が「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」であることの根拠となる記載を、本件訂正明細書の中に認めることができない。また、「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」の技術事項が、本件訂正明細書の記載から自明であるということもできない。

(3)しかも、前記「上部板」という文言は、「上部回転板3」又は「上部支持板4」という具体的構成の上位概念であり、前記「上部回転板3」又は「上部支持板4」の具体的構成だけではなく、他の構成の「上部板」としての概念をも包含する拡張された一般的な概念であるから、「上部板」の文言が、必ずしも前記「上部回転板3」又は「上部支持板4」のみを一義的に意味するものでないことは明らかである。
したがって、前記「上部回転板3」又は「上部支持板4」が「上部板」に該当するということはいえるが、逆に、「上部板」の文言が前記「上部回転板3」又は「上部支持板4」を意味することにはならないので、前記「上部回転板3」又は「上部支持板4」を離れた本件発明1及び本件発明2の「上部板」は、前記「上部回転板3」又は「上部支持板4」を超える意味内容の構成であって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に明示の記載がなく、また示唆する記載もないので、明確でないものとなっている。

(4)そうすると、本件発明1及び本件発明2の前記「前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板」の構成要件が、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されてなく、また、前記構成要件について、当業者が実施できる程度に本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されているということができないばかりでなく、前記構成要件を含む本件発明1及び本件発明2の構成が、明確でないものとなっている。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1及び本件発明2の特許は、特許法第36条第4項、同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明1及び本件発明2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、当審の職権による無効理由1により無効とすべきものである。
また、本件発明1及び本件発明2の特許は、特許法第36条第4項、同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定に該当し、当審の職権による無効理由2により無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
回転式塗布装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置において、
上部が開口し、前記回転台の周辺を囲むケースと、
前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材と、
前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板と、
を備え、
前記開口を閉じた状態の前記部材を上昇させて前記上部板を上昇させる際には、前記上部板の上昇に先立って前記閉じ部材が上昇するよう構成されていることを特徴とする回転式塗布装置。
【請求項2】基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置において、
上部が開口し、前記回転台の周辺を囲むケースと、
前記ケースに着脱可能に設けられ、前記ケースへの装着時に前記ケースの前記開口を閉じる部材と、
前記部材に上下方向への相対移動可能に結合され、前記部材の前記ケースへの装着時に前記回転台と結合して前記回転台とで塗布処理空間を形成する上部板と、
を備え、
前記上部板の上側中央部には取付部材が立設され、取付部材には水平方向に延在する第1の部材が設けられ、
前記閉じる部材には、前記上部板の前記第1の部材の下方に位置する第2の部材が設けられ、
前記上部板と前記回転台との結合時には、前記第2の部材に対して前記取付部材および前記第1の部材が相対回転自在となるように設けられていることを特徴とする回転式塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示パネル用のガラス基板、半導体ウエハ、半導体製造装置用のマスク基板などの基板の表面に、遠心力を利用してフォトレジスト液などの塗布液を薄膜状に塗布するために、基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置に関する。
【0002】
【0003】
【従来の技術】
【従来の技術】
この種の回転式塗布装置では、基板を水平に支持して回転させる回転台と、この回転台を閉じる蓋と、回転台の周囲を囲むケースと、ケースの上面を閉じる蓋とを備え、ケースを閉じる蓋を回転しないように固定支持するとともに、回転台を閉じる蓋をベアリングにより回転可能に支持している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述の従来例の場合には、ケースを閉じる蓋は、回転台を閉じる蓋に対して、上下方向に移動しないようにベアリングにより支持されている。しかしながら、回転台とケースとの上下位置関係は固定されており、このような上下位置の固定された2つの蓋で回転台とケースとを閉じようとすれば、2つの蓋の位置関係も回転台とケースとの位置関係に厳密に一致させる必要がある。そして、それらの部材の寸法精度や組み立て精度、温度変化や経時変化など各種要因による寸法ずれが生じた場合には、回転台とケースのどちらかの閉じ状態が不完全となってしまい、不完全な結合による遊びなどに起因する基板処理品質の低下など種々の問題が生じる。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであつて、ケース上部の開口を閉じる部材がケースに、回転台と結合する上部板が回転台に、それぞれ確実に結合でき、パーティクルなどによる基板の処理品質の低下などの問題がない回転式塗布装置を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の構成と効果を、後に詳述する実施形態に基づき図面の符号を参照して説明する。
[非接触構造]
実施形態に記載のように、塗布処理に際しては、電動モータ7を起動して回転台2、上部支持板4、上部回転板3および角型基板1を一体に水平回転させる。このとき、図5、図6等の図面から明らかなように、回転台2、上部支持板4、上部回転板3、取付部材30、環状プレート31は、固定支持部材16とは非接触状態となっており、回転台2、上部支持板4、上部回転板3は固定支持部材16にかかわらず自由に回転できる。
[非接触構造による効果]
角形基板1よりも大きな上部支持板4、上部回転板3などをベアリングを用いて回転自在に支持する場合と比べ、摺動部分が少なくなるため装置の寿命やパーティクル発生量において有利であり、また大型かつ高精度なベアリングが不要となりコストにおいて有利である。また、ベアリングにより回転自在に支持する場合では、それら上部支持板4と上部回転板3を支持するベアリングの回転中心を回転台2の回転軸心Pに対して厳密に一致させなければ円滑な回転は得られなかったが、本構成ではそのような厳密さは不要であり、回転台2等の円滑な回転による回転塗布を低コストで実現できる。
[相対昇降構造]
固定支持部材16の下方側支持プレート16bは、取付部材30で互いに結合されているところの上部支持板4と環状プレート31との間の高さに位置し、かつ取付部材30に対して接触しない状態となっている。そして、廃液回収ケース5の上部に取り付けられた筒状カバー15上部の基板出し入れ用の開口を閉じる固定支持部材16と、上部支持板4とは、非接触で上下方向に相対移動可能な状態で結合されている。これにより、固定支持部材16で上部支持板4、上部回転板3を吊り下げて上方に外す際には、固定支持部材16が上昇をはじめてから固定支持部材16の下方側支持プレート16bが上部支持板4の環状プレート31の下面を持ち上げるまで、上部支持板4及び上部回転板3は回転台2と結合した状態である。そして、下方側支持プレート16bが上部支持板4の環状プレート31の下面に当接して持ち上げることで、上部支持板4及び上部回転板3は回転台2から取り外される。逆に、固定支持部材16で筒状カバー15を閉じ、上部支持板4、上部回転板3を回転台2に結合するためにそれらを下降させる際には、上部支持板4及び上部回転板3を吊り下げた状態の固定支持部材16が下降することで、まず、上部支持板4及び上部回転板3がその自重により回転台2と結合する。そしてその後も固定支持部材16は下降を続け、最終的に下方側支持プレート16bが上部支持板4にぶつかる手前で図1に示す状態となり、固定支持部材16が筒状カバー15の上面に乗ってその開口を閉じ、固定支持部材16は停止する。そしてこのとき、上部支持板4や取付部材30、環状プレート31は、下方側支持プレート16bとは非接触状態で回転可能となる。
[相対昇降構造による効果]
固定支持部材16と、上部支持板4及び上部回転板3とを上下方向に相対移動可能とすることにより、一方(以上の実施形態では上部支持板4及び上部回転板3)が最も下方の位置(すなわち回転台2と結合した状態)に至った後も他方(以上の実施形態では固定支持部材16)は下降を続けることができて、上部支持板4及び上部回転板3が回転台2に対して、固定支持部材16が筒状カバー15に対して、それぞれ確実に結合装着される。公知技術のように、上部支持板4及び上部回転板と固定支持部材16との上下位置が固定されてしまっていれば、それら上部支持板4及び上部回転板と固定支持部材16の距離や回転台2、廃液回収ケース5、筒状カバー15などの部材の寸法精度や組み立て精度をきわめて高くする必要があり、コストが非常に高くなってしまい、かつ、温度変化や経時変化など各種要因によって寸法が少しでもずれてしまった場合には、回転台2と廃液回収ケース5の筒状カバー15とのどちらかの閉じ状態が不完全となってしまい、不完全な結合による遊びなどに起因する気密性の低下、振動やパーティクルの発生などの問題が生じる。本構成では、上部支持板4及び上部回転板3と固定支持部材16の距離や回転台2、廃液回収ケース5、筒状カバー15などの寸法精度をさほど高くしなくても、回転台2と廃液回収ケース5の筒状カバー15との両方を確実に閉塞でき、しかも簡単な構造であるからコストも安く、しかも温度変化や経時変化など各種要因による多少の寸法変化が起きても回転台2と廃液回収ケース5の筒状カバー15との閉塞状態には全く悪影響が生じない。このことは、上述したように、上部支持板4が回転台2に結合した状態では上部支持板4、上部回転板3、取付部材30、環状プレート31が固定支持部材16と非接触状態になることと相俟って、装置の円滑でかつ確実な作動を低コストで実現する。
[回転方向位置決め構造]
また、角型基板1を回転台2へ載置する際には、固定支持部材16で吊り下げて上部回転板3を上方に外す。図3、図5、図6等の図面から明らかなように、上部回転板3が連結されている上部支持板4は、その上部支持板4から上方に延びるように結合された取付部材30を介して水平方向に延在する環状プレート31に結合されている。環状プレート31には筒体32が設けられる。一方、固定支持部材16には、環状プレート31の下方に位置するように下方側支持プレート16bが設けられ、下方側支持プレート16bの内周面側部16cの上面には、係合突起29が設けられている。係合突起29は筒体32と係合可能になっている。これら、取付部材30、環状プレート31、筒体32、下方側支持プレート16b、内周面側部16c、係合突起29により係合部が構成される。上部回転板3を上方に外す際には、固定支持部材16が上昇することにより下方側支持プレート16bの内周面側部16cによって環状プレート31が下方から支持される。またこのとき、環状プレート31に設けられた筒体32に固定支持部材16の下方側支持プレート16bの内周面側部16cに設けられた係合突起29が嵌入することにより両者が結合して環状プレート31は下方から支持される。これにより、上部回転板3および上部支持板4は固定支持部材16に対して回転しないように周方向に所定位置に位置決めされて回転不能に吊り下げ支持されて上昇する。
[回転方向位置決め構造による効果]
公知技術のように、上部支持板4や上部回転板3などをベアリングを用いて回転自在に支持するだけでは、角型基板1を回転台2に対して出し入れするために上部回転板3などを上昇させて回転台2との結合を解除した際に、上部支持板4などが不所望に回転してしまい、次に上部支持板4などを回転台2に対して結合しようとする際に、一定の位置に結合させることができず、確実に結合することができないおそれがある。しかし本構成では、上部回転板3および上部支持板4は上昇されて回転台2との結合が解かれた際には、周方向に位置決めされて回転不能に支持されるので、回転台2に対して常に一定位置関係を保つことができ、常に一定の位置に結合させることができ、確実に結合させることができる。これにより本構成では、回転台2のリングプレート10と上部支持板4との着脱自在な取り付けを常に一定位置関係で確実に行うことができる。
[回転台洗浄構造]
各実施形態では、基板を水平支持した状態で回転させる回転台と、この回転台上に支持された基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給手段とを備えた回転式塗布装置において、回転台の上面に向けて洗浄液を噴射する回転台洗浄手段を備えて構成した。
[回転台洗浄構造による効果]
基板に対する所定の回転塗布を行った後、基板の無い状態にしてから洗浄液を回転台の上面に向けて噴射し、回転台の上面に飛散して付着した塗布液を洗浄除去することができるようにすることで、基板に対する所定の回転塗布に起因して回転台の上面に付着した塗布液を洗浄除去するから、回転台の上面への塗布液付着に起因するパーティクルの発生、ならびに、付着ミストの再飛散による基板の汚染を防止でき、基板の処理品質の低下を回避できる。
【0007】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。
【0008】
図1は本発明に係る回転式塗布装置の第1実施形態の全体の概略構成を示す縦断正面図であり、角型基板1を載置する回転台2が鉛直方向の軸心P周りに水平回転可能に設けられ、その回転台2の上方に、回転台2と平行に上部回転板3が設けられるとともに、その上部回転板3が回転台2に上部支持板4を介して一体的に回転可能に取り付けられ、これら回転部材の下方及び周辺部を外から囲むように廃液回収ケース5が設けられ、前記回転台2に、縦向き回転軸としての出力軸6を介して駆動源である電動モータ7が連結されている。
【0009】
回転台2は、角型基板1の外形形状より充分大きい外形円板として構成されていて、その上面に立設した多数の基板支持ピン8・・・上に角型基板1が水平に載置支持されるようになっている。また、図示しないが、回転台2上には角型基板1の四隅それぞれに一対づつの位置決めピンが設けられていて、これら位置決めピンによつて角型基板1が回転台2と一体に水平回転されるようになっている。
【0010】
また、回転台2の外周上面には、回転台2と同外径のスペーサリング9およびリングプレート10が同心円線上の場所に複数箇所で連結されるとともに、このリングプレート10に上部支持板4がノブボルト11を介して着脱自在に取り付けられ、上部支持板4を取り外すことで、リングプレート10の中央開口から基板1を出し入れすることができるようになっている。
【0011】
前記上部回転板3は基板1の外形形状より大径の円板に構成され、上部支持板4の下面にカラー12を介してボルト連結されている。廃液回収ケース5の底部は絞り込まれ、その下端に廃液排出口13が形成されるとともに、周方向の複数箇所には塗布液から蒸発した溶剤ガスや塗布液ミストを排出する排気口14が形成されている。
【0012】
前記廃液回収ケース5の上部に筒状カバー15が取り付けられ、その筒状カバー15に固定支持部材16が着脱可能に取り付けられている.
【0013】
図2の要部の一部切欠拡大正面図、図3および図4の要部の平面図、図5の要部の側面図に示すように、上部回転板3の中央には開口19が形成され、この開口19の鉛直方向上方位置において、固定支持部材16の上方側支持プレート16aに駆動開閉機構としての第1のエアシリンダ20が取り付けられ、その第1のエアシリンダ20のシリンダロツド20aの先端にブロック21が取り付けられるとともに、ブロック21に相対昇降および相対回転可能に有底筒状の蓋17が吊り下げ保持されている。
【0014】
また、ブロック21の下面に第1の磁石22が付設され、一方、蓋17の底面に、前記第1の磁石22と同極の第2の磁石23が付設され、蓋17を閉じ位置に変位した状態で、ブロック21を蓋17と非接触状態にしたときに、反発力によって蓋17を閉じ位置に維持できるようになっている。
【0015】
したがって、第1のエアシリンダ20の短縮により、蓋17を開口19の上方の開き位置に上昇変位させ、一方、第1のエアシリンダ20の伸長により、蓋17を下降して開口19に嵌入する閉じ位置に変位し、開口19を閉じながら蓋17のみを上部回転板3と一体回転できるようになっている。
【0016】
上方側支持プレート16aの第1のエアシリンダ20の横側方に、鉛直方向の軸芯周りで90°の範囲で回転可能な第2のエアシリンダ24が設けられるとともに、その第2のエアシリンダ24のシリンダロツド24aにスプライン軸25が連結されている。スプライン軸25に昇降のみ可能にスプライン筒26が取り付けられるとともに、スプライン筒26に回転のみ可能に回転筒27が取り付けられている。スプライン筒26に洗浄ノズル18が一体的に取り付けられるとともに、上方側支持プレート16aの第2のエアシリンダ24の横側方下側に設けられた第3のエアシリンダ28のシリンダロツド28aに回転筒27が連結されている。図示しないが、洗浄ノズル18には、洗浄液圧送機構に接続された配管が接続されている。上述の構成により、回転台2の上面に向けて洗浄液を噴出する回転台洗浄手段が構成されている。
【0017】
上記構成により、蓋17が閉じ位置にある非洗浄状態では、洗浄ノズル18を開口19の上方よりも外れた非洗浄位置に位置きせておき、そして、蓋17が開き位置にある洗浄状態では、第2のエアシリンダ24により回転して洗浄ノズル18を開口19の上方箇所に位置させた後に、第3のエアシリンダ28を伸長して洗浄ノズル18を下降させ、その吹き出し口18aから回転台2の上面に向けて洗浄液を噴出する洗浄位置に変位できるようになっている。上記洗浄ノズル18を洗浄位置と非洗浄位置とに駆動変位させるための第2および第3のエアシリンダ24、28から成る構成をして駆動機構と総称する。
【0018】
固定支持部材16の下方側支持プレート16bは環状に形成され、その内周面側に寄った上面の周方向所定の4箇所それぞれに、山形状の係合突起29が設けられ、一方、下方側支持プレート18bよりも上方に位置するように、上部支持板4に取付部材30・・・を介して環状プレート31が取り付けられるとともに、その環状プレート31の周方向所定の4箇所それぞれに、係合突起29を嵌入する筒体32が設けられ、前記上部回転板3を着脱する際に、係合突起29・・・を筒体32・・・に嵌入することにより、固定支持部材16で吊り下げることができるように構成されている。
【0019】
以上の構成により、先ず、塗布処理に際しては、固定支持部材16を筒状カバー15から取り外すとともに上部支持板4を回転台2から取り外し、固定支持部材16で吊り下げて上部回転板3を上方に外して角型基板1を回転台2の基板支持ピン8・・・上に所定の姿勢で載置する。
【0020】
次に、図示しない塗布液供給手段としての塗布液供給ノズルを角型基板1の中央上方に移動させ、所定量の塗布液を滴下供給する。その後、固定支持部材16で吊り下げて上部支持板4を搬入し、上部支持板4をリングプレート10上に、そして、固定支持部材16を筒状カバー15上にそれぞれ取り付け、図6の要部の正面図に示すように、第1のエアシリンダ20を伸長して蓋17を駆動変位し、上部回転板aの開口19を閉じておくとともに洗浄ノズル18を非洗浄位置に変位しておく。
【0021】
その後、電動モータ7を起動して回転台2、上部支持板4、上部回転板3および角型基板1を一体に水平回転させる。この回転によって角型基板1上の塗布液は遠心力によって外方に拡散流動して角型基板1上面に薄く塗布される。この場合、回転台2と上部回転板3との間に形成された偏平な塗布処理空間Sの空気層も一体に回転し、角型基板1上に気流が発生しない状態で塗布液の拡散流動が行われる。
【0022】
角型基板1上を流動して外周に到達した余剰塗布液は角型基板1の周縁から流出し、塗布処理空間Sの外周全域から飛散してゆく。そして、飛散した塗布液はスペーサリング9の上下に形成されている間隙を通って廃液回収ケース5内に流出して回収される。
【0023】
所定回数の回転塗布処理が行われると、固定支持部材16を筒状カバー15から取り外すとともに上部支持板4を回転台2から取り外し、固定支持部材16で吊り下げて上部回転板3を上方に外して角型基板1を取り出してから、上部支持板4をリングプレート10上に、そして、固定支持部材16を筒状カバー15上にそれぞれ取り付け、その後に、第1のエアシリンダ20を短縮して蓋17を開き位置に駆動変位する。
【0024】
しかる後、第2のエアシリンダ24を作動して洗浄ノズル18を開口19の上方位置まで回転変位し、その状態から第3のエアシリンダ28を伸長して洗浄ノズル18を下降させ、開ロ19を通じて、図5に示すように、上部回転板3の下方の洗浄位置まで変位する。その状態で、電動モータ7を起動して回転台2、上部支持板4、上部回転板3を一体に水平回転させながら、洗浄ノズル18から回転台2の上面に洗浄液を噴出供給し、遠心力を利用して、回転台2の上面に付着した塗布液のミストを洗浄除去する。
【0025】
図7は、本発明に係る回転式塗布装置の第2実施形態を示す全体概略正面図であり、第1実施例と異なるところは次の通りである。
【0026】
回転台2の回転軸2aの下端と電動モータ33の駆動軸33aの上端とがベルト式伝動機構34を介して連動連結されるとともに、回転台2の回転軸2aに、その回転軸芯を通る貫通孔35が形成され、その貫通孔35内に、上端に洗浄ノズル36を取り付けた洗浄液パイプ37が挿入されるとともに、洗浄ノズル36が回転台2の上方に位置されて固定状態で設けられ、回転台2の上面に向けて洗浄液を噴出するように回転台洗浄手段が構成されている。他の構成は第1実施形態と同様であり、同一図番を付すことにより、その説明を省略する。
【0027】
図8は、本発明に係る回転式塗布装置の第3実施形態を示す全体概略正面図であり、第1実施形態と異なるところは次の通りである。
【0028】
回転台2の周囲の固定フレーム15a上の所定箇所に、支持ブラケット38を介して洗浄ノズル39が取り付けられ、上部回転板3を取り外した状態で回転台2の上面に向けて洗浄液を噴出するように回転台洗浄手段が構成されている。他の構成は第1実施形態と同様であり、同一図番を付すことにより、その説明を省略する。
【0029】
本発明としては、角型基板1に限らず円形基板の回転式塗布装置にも適用できる。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明に係る回転式塗布装置によれば、ケース上部の開口を閉じる部材がケースに、回転台と結合する上部板が回転台に、それぞれ確実に結合でき、基板の処理品質の低下などの問題が生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係る回転式塗布装置の第1実施形態の全体の概略構成を示す縦断正面図である。
【図2】
要部の拡大正面図である。
【図3】
要部の平面図である。
【図4】
要部の平面図である。
【図5】
要部の側面図である。
【図6】
回転塗布状態を示す要部の正面図である。
【図7】
本発明に係る回転式塗布装置の第2実施形態を示す全体概略正面図である。
【図8】
本発明に係る回転式塗布装置の第3実施形態を示す全体概略正面図である。
【符号の税明】
1・・・角型基板
2・・・回転台
3・・・上部回転板
4・・・上部支持板
5・・・廃液回収ケース
15・・・筒状カバー
16・・・固定支持部材
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-01-22 
結審通知日 2008-01-25 
審決日 2008-02-05 
出願番号 特願平11-25635
審決分類 P 1 113・ 537- ZA (B05C)
P 1 113・ 121- ZA (B05C)
P 1 113・ 536- ZA (B05C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩本 勉  
特許庁審判長 佐藤 昭喜
特許庁審判官 森内 正明
末政 清滋
登録日 2000-07-07 
登録番号 特許第3086446号(P3086446)
発明の名称 回転式塗布装置  
代理人 戸高 弘幸  
代理人 杉谷 勉  
代理人 片寄 武彦  
代理人 戸高 弘幸  
代理人 杉谷 勉  
代理人 田中 貞嗣  
代理人 小山 卓志  
代理人 森川 聡  
代理人 青木 健二  
代理人 米澤 明  
代理人 阿部 龍吉  

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