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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E05D
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  E05D
管理番号 1176151
審判番号 無効2005-80081  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-03-16 
確定日 2008-03-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3471743号「折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体」の特許無効審判事件についてされた平成17年 8月31日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成17年行(ケ)第10731号・平成17年12月 5日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
平成11年 5月31日 原出願(特願平11-151708号)
平成12年11月16日 本件分割出願(特願2000-350147号)
平成15年 3月20日 拒絶査定
平成15年 6月 5日 拒絶査定不服審判請求(不服2003-10158号)
平成15年 7月 7日 手続補正書
平成15年 8月 4日 前置移管
平成15年 9月12日 特許登録
平成15年12月10日 特許異議の申立(異議2003-73144号)
平成16年11月 9日 異議決定(特許を維持する)
平成17年 3月16日 本件無効審判(無効2005-80081号)請求
平成17年 6月13日 答弁書
平成17年 8月31日 審決(特許を無効とする)
平成17年10月11日 審決取消訴訟(平成17年(行ケ)第10731号)
平成17年11月17日 訂正審判(訂正2005-39210号)請求
平成17年12月 5日 取消決定(審決を取消し、審判官に差し戻す)
平成18年 2月 6日 訂正審判(訂正2005-39210号)の取下
平成18年 2月 6日 訂正請求(特許法第134条の3の規定に基づき上記訂正審判の請求書に添付された明細書等を援用して、本件無効審判の訂正請求とみなす)
平成18年 3月17日 第一弁駁書
平成18年 3月17日 口頭審理申立書
平成18年 6月 2日 第二弁駁書
平成18年 8月21日 被請求人・口頭審理陳述要領書
平成18年 9月 7日 請求人・口頭審理陳述要領書(8月24日差出)
平成18年 9月 7日 第1回口頭審理
平成18年11月 8日 上申書(被請求人)
平成19年 1月22日 上申書(請求人)

2.訂正の適否
(2-1)訂正の内容
平成18年2月6日の訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、本件の特許明細書を、訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものであって、その訂正内容は、次のとおりのものである。

(イ)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「嵌め込むためのもので」(本件特許公報1欄11行)の次に「第1ヒンジ筒に内嵌して」を挿入し、「切り欠き形成された」(本件特許公報1欄13行)の次に「径方向に相対する2つの」を挿入し、「両突き合わせ端面のうちのいずれか一方」(本件特許公報2欄7?8行)とあるのを「第2突き合わせ端面」と訂正し、「その他方」(本件特許公報2欄9行)とあるのを「第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分」と訂正し、また「第2ヒンジ筒に対して回り止め装着される」(本件特許公報2欄11?12行)とあるのを「第2ヒンジ筒に内嵌して第2ヒンジ筒に対して回り止め装着され第1ディスクに相対している」と訂正する。

(ロ)訂正事項2
発明の詳細な説明の「嵌め込むためのもので」(本件特許公報6欄14行)の次に「1ヒンジ筒に内嵌して」を挿入し、「切り欠き形成された」(本件特許公報6欄16行)の次に「径方向に相対する2つの」を挿入し、「両突き合わせ端面・のうちのいずれか一方」(本件特許公報6欄25?26行)とあるのを「第2突き合わせ端面」と訂正し、「その他方」(本件特許公報6欄27?28行)とあるのを「第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切り込み溝内に嵌り込んだ部分」と訂正し、また「第2ヒンジ筒に対して回り止め装着される」(本件特許公報6欄29?30行)とあるのを「第2ヒンジ筒に内嵌して第2ヒンジ筒に対して回り止め装着され第1ディスクに相対している」と訂正する。

(ハ)訂正事項3
発明の詳細な説明の「第1ディスク12の第1突き合わせ端面12aと、第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aの何れかー方」(本件特許公報7欄28?30行)とあるのを「第2ディスク13の第2突き合わせ端面13a」と訂正し、「他方」(本件特許公報7欄32行)とあるのを「第1ディスク12の第1突き合わせ端面12a」と訂正する。

(ニ)訂正事項4
発明の詳細な説明の「当該摺動ディスク12Bには図示の如く前記の係嵌凸部12bか、図示されていない係嵌凹所13b」(本件特許公報7欄42?44行)とあるのを「当該摺動ディスク12Bのスライド用切込み溝12dに嵌り込んだ部分には図示の如く係嵌凸部12b」に訂正する。

(ホ)訂正事項5
発明の詳細な説明の「または係嵌凸部12b」(本件特許公報8欄36行)を削除する。

(2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項1は、訂正前の請求項1に限定事項を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、上記訂正事項2?5は、上記訂正事項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるということができる。
そして、上記訂正事項1?5は、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

なお、審判請求人は、平成18年3月17日付け弁駁書(第1)の「弁駁理由の詳細」の項において、本件訂正が認められないものであるとして、下記(イ)?(ハ)の理由を主張するので、この点につき付言すると、以下のとおりである。
(イ)訂正前の特許請求の範囲の請求項1には、
摺動ディスクの第1突き合わせ端面には係嵌凸部が形成されるもの(甲態様)、
摺動ディスクの第1突き合わせ端面には係嵌凹所が形成されるもの(乙態様)とがあり、各態様には、それぞれ、
摺動ディスクの第1突き合わせ端面の係嵌凸部が、スライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分に形成されるもの(本件特許公報【図3】、上記弁駁添付の「参考図2-1」参照)(甲-1態様)、
摺動ディスクの第1突き合わせ端面の係嵌凸部が、筒状本体の内径を越えない位置における端面に形成されるもの(甲-2態様)、
摺動ディスクの第1突き合わせ端面の係嵌凹所が、スライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分に形成されるもの(上記弁駁添付の参考図1-1等参照)(乙-1態様)、
摺動ディスクの第1突き合わせ端面の係嵌凹所が、筒状本体の内径を越えない位置における端面に形成されるもの(乙-2態様)
が考えられるが、本件特許明細書の(発明の詳細な説明の)記載によれば、訂正前の本件発明は、上記甲-2及び乙-2の態様に限られるから、本件発明を、訂正後のように、甲-1の態様に限定するのは、特許請求の範囲を変更するものである(同弁駁書7?16頁)。
(ロ)「このように、訂正前の「複数の係嵌凸部」においては、個数及びその位置が特定されていなかった「複数の」が、訂正後の「複数の係嵌凸部」においては、「径方向に相対する2つの係嵌凸部」の意味内容を有することになるものである。従って、「複数の係薮凸部」という同一文言を用いていながら、「複数の」の意味内容が、…単に「数」である性状の言葉に、位置的な内容の意味をも包摂せしめることとなるのは、特許請求の範囲を実質上、拡張乃至変更するものである。」(同弁駁書17頁15?23行)。
(ハ)「この「複数の係嵌凹所」の場合は、図9にあるような従来例のものも含ませる趣旨で『周方向に間隔をおいて』と記載されていたが、訂正後は、「径方向に相対する2つの係嵌凹所」であるから、全く意味内容が異なるものである。従って、「複数の係嵌凹所」「周方向に間隔をおいて」の場合も、同一文言を用いていながら、これらの意味内容が、訂正の前後において異なるものであり、よって、特許請求の範囲を実質上、拡張乃至変更するものである」(同弁駁書17頁最下行?18頁7行)。

上記(イ)につき検討すると、訂正前の本件発明は、請求人が主張するとおり、上記甲-1?乙-2の4種類の態様が含まれているといえるところ、当該4種類の態様の内から、訂正後の本件発明は、本件の特許明細書及び図面の【図3】に実施例として明確に記載されているところの上記甲-1態様に限定するものであるから、本件訂正の訂正事項1が、特許明細書に記載された事項の範囲内で特許請求の範囲を減縮する訂正であることが明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもないということができる。
なお、請求人の「本件特許明細書の(発明の詳細な説明の)記載によれば、訂正前の本件発明は、上記甲-2及び乙-2の態様に限られる」と主張する点は、訂正前の本件発明を、敢えて特許明細書及び図面に実施例として明記されていない態様のみに解釈すべき特段の事情もないといえるから、これを採用できない。

上記(ロ)につき検討すると、同様に、個数及びその位置が特定されていなかった「複数の係嵌凸部」という特許請求の範囲の記載事項につき、その「個数」や「配置態様」を限定する事項を加えることは、特許請求の範囲を減縮する訂正であることが明らかであり、請求人の主張は採用できない。

上記(ハ)につき検討すると、訂正後の本件発明は、本件発明の実施例【図3】のように、第1部材と第2部材との開成位置が1つであれば、係嵌凸部と係嵌凹所とがそれぞれ2つで足りるが、例えば、第1部材と第2部材との開成位置が2つ以上あれば、係嵌凸部が2つであっても、それに対応する係嵌凹所は4つ以上の偶数となり、このように係嵌凹所は、必ずしも「2つの」ものに限られる必要はないところ、訂正後の本件発明も、訂正前の特許請求に範囲の記載の文言どおり「複数の係嵌凹所」が「周方向に間隔をおいて形成されている」ものである点で、訂正前のものと相違がないことが明らかである。
したがって、訂正後の本件発明が「径方向に相対する2つの係嵌凹所」であるから、訂正前と全く意味内容が異なるものである旨の請求人の主張は採用できない。

(2-3)むすび
以上のとおり、本件訂正における上記訂正事項1?5は、いずれも、特許法第134条の2第1項ただし書きに適合し、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するといえるから、本件訂正を認める。

3.本件発明
本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、本件訂正が認められることから、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のものと認める。

(本件発明)
「第1ヒンジ筒を有する第1部材と第2ヒンジ筒を有する第2部材とを開閉自在に連結するための係嵌組成体であって、同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されるものであること、および、係嵌組成体の構成要素として第1ディスクと第2ディスクとコイルスプリングと軸杆とを備えていてそのうちの第1ディスクが筒状本体と摺動ディスクとからなること、および、筒状本体と摺動ディスクとコイルスプリングとの相対関係において、摺動ディスクやコイルスプリングを嵌め込むためのもので第1ヒンジ筒に内嵌して第1ヒンジ筒に対して回り止め装着される筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有すること、かつ、筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌まり込んで筒状本体の軸線方向沿いにスライドする摺動ディスクが筒状本体の内径や切込み溝形状に対応した周面形状を有すること、かつ、コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込むことのできる外径を有していて筒状本体内で摺動ディスクに押し当てられるものであること、および、片面を第1突き合わせ端面とする摺動ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において、第2突き合わせ端面には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともに第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分には該各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成されていること、および、第2ヒンジ筒に内嵌して第2ヒンジ筒に対して回り止め装着され第1ディスクに相対している第2ディスクで第2突き合わせ端面の反対端面には、第2ヒンジ筒に装着されて抜け止め状態になる抜け止め弾性爪が設けられていること、および、軸杆と第1ディスク・第2ディスク・コイルスプリングとの相対関係において、第1ディスク軸心部・第2ディスク軸心部・コイルスプリング軸心部のそれぞれを軸杆が貫通するものであること、および、上記各構成要素の組み立てについて、コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込まれていること、かつ、第1突き合わせ端面を外面にした摺動ディスクがコイルスプリングに抗して筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌め込まれていること、かつ、第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面して摺動ディスクと第2ディスクとが互いに突き合わされていること、かつ、この集合した各構成要素の軸心部を軸杆が貫通しているとともに軸杆の両端部が筒状本体や第2ディスクに対して抜け止め固定されていること、および、この組み立て構造において、摺動ディスクの一部であってスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分がそこから露呈されていること、かつ、摺動ディスクと、筒状本体に存在するスライド用切込み溝の奥端縁12eとが、これらの間に係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所Sを介在させていること、かつ、コイルスプリングが摺動ディスクを第2ディスク側へ押しつけていること、かつ、摺動ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸部に切り替わることを特徴とする折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体。」

4.請求人の主張
審判請求人は、本件発明に係る特許を無効とするとの審決を求め、その理由として、本件発明は本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張し、その証拠方法として次の証拠(甲第1号証ないし甲第6号証等)を提出している。

(審判請求書添付)
甲第1号証:特開平10-306645号公報(異議申立の甲第1号証)
甲第2号証:特開平9-130462号公報(異議申立の甲第2号証)
甲第3号証:米国特許第4645905号明細書(異議申立の甲第3号証)
(弁駁書添付)
甲第4号証:実願昭61-14603号(実開昭62-126478号)のマイクロフィルム
甲第5号証:実願昭46-113031号(実開昭48-65953号)のマイクロフィルム
甲第6号証:特開平11-41328号公報
(第二弁駁書添付)
参考甲第一号証:特開平8-317025号公報(平成14年12月3日付け拒絶理由通知の引用文献1)
参考甲第二号証:特開平10-311327号公報(同拒絶理由通知の引用文献2)
参考甲第三号証:特開平10-65778号公報(同拒絶理由通知の先行技術文献)

5.被請求人の主張
一方、被請求人は、訂正請求するとともに、本件審判請求は成り立たないとの審決を求め、訂正後の発明は、審判請求人が提出した証拠に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないと主張する。

6.各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証 (特開平10-306645号公報)
甲第1号証には、図面の図示とともに、以下の記載がある。
「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は、ヒンジ装置に関し、特に、携帯電話、電子手帳、化粧用コンパクト等の携帯用品に用いられるヒンジ装置に関するものである。」、
「【0023】本実施形態に係るヒンジ装置1は、図1および図3に示されるように、携帯電話本体2(第1の部材)と送話部3(第2の部材)とを相対揺動可能に連結するヒンジ装置1であって、…」、
「【0037】次に、この発明に係るヒンジ装置の第2の実施形態について、図5?図14を参照して説明する。本実施形態に係るヒンジ装置は、上記第1の実施形態に係るヒンジ装置1を、送話部3の軸線の一端側に設けるとともに、図5?図14に示されるヒンジ装置20を送話部3の軸線の他端側に設けることにより構成されている。
【0038】この図5?図14に示されるヒンジ装置20は、固定側カム21と、該固定側カム21に一端をピン22によって固定される直棒状の連結軸23と、該連結軸23に軸方向に移動自在に挿入される可動側カム24と、前記連結軸23の他端にCリング25によって固定されるフランジ26と、該フランジ26と前記可動側カム24との間に配置され、該可動側カム24を固定側カム21の方向に向けて常時付勢するコイルスプリング27とから構成されている。
【0039】前記固定側カム21および可動側カム24は、相互に軸方向に対向するカム面21a,24aを有する側面カムであり…
【0041】また、前記固定側カム21には、その側面が平行に切り欠かれた二面部21b(回転係止手段)が設けられている。この二面部21bは、後述するように、固定側カム21の携帯電話本体(第1の部材)2に対する周方向の回転を係止するために設けられているものである…
【0043】また、可動側カム24の側面にも前記固定側カム21の二面部21bと同様の二面部24b(回転係止手段)が設けられている。」、
「【0066】また、上記ヒンジ装置20を図15および図16に示すヒンジ装置39に置き換えてもよい。すなわち、このヒンジ装置39は、一端にフランジ部40を設けた棒状の連結軸41と、該連結軸41の他端にはめ込まれピン42によって連結されるキャップ43と、該キャップ43と前記フランジ部40との間の連結軸41に摺動可能にはめ込まれ相互のカム面44a,45aを対向配置されたリング状の固定側カム44および可動側カム45と、該可動側カム45と前記キャップ43との間に挿入されたコイルスプリング46とを具備している。
【0067】前記キャップ43は、鍔状部43aを有し、後述する送話部3の挿入孔47を閉鎖して、該送話部3の外面の一部を形成するように構成されている。また、前記固定側カム44および可動側カム45は、側面カムであり、それらのカム面44a,45aには、上記第1の実施形態に係るヒンジ装置と同様に凸部48、凹部49,傾斜面49aおよび摩擦部50が形成されている。
【0068】また、固定側カム44および連結軸41のフランジ部40には、携帯電話本体2の挿入孔51の断面形状に一致させ、該固定側カム44およびフランジ部40を携帯電話本体2に対して回転不可に配する二面部44b,40aが形成されている。また、可動側カム45には、送話部3に設けた挿入孔47に軸方向に摺動自在かつ回転不可に配する二面部45bが形成されている。
【0069】このように構成されたヒンジ装置39は、図16に示されるように、携帯電話本体2および送話部3の挿入孔47,51(当審注:51,47の誤記)を同軸に配した状態で、送話部3側から一方向に挿入すると、先端のフランジ部40および固定側カム44が携帯電話本体2の挿入孔47(当審注:51の誤記)に挿入されて回転を拘束される一方、可動側カム45は、送話部3の挿入孔50(当審注:47の誤記)内に挿入状態に配される。キャップ43は、例えば、接着により、または圧入によって送話部3に固定される。
【0070】このように構成されたヒンジ装置39の作用について、以下に説明する。使用者が送話部3を携帯電話本体2に対して揺動させると、送話部3の挿入孔51(当審注:47の誤記)内に挿入状態に配されている可動側カム45が、送話部3とともに連結軸41回りに回転させられ、携帯電話本体2の挿入孔47(当審注:51の誤記)内に回転を拘束されている固定側カム44に対して相対的に回転させられる。
【0071】可動側カム45はキャップ43との間に配されたコイルスプリング46によって固定側カム44の方向に向けて付勢されているが、両カム44,45の間に相対回転が生じると、固定側カム45(当審注:44の誤記)のカム面45a(当審注:44aの誤記)の形状に応じ、送話部3の挿入孔51(当審注:47の誤記)内をコイルスプリング46の付勢力に抗して軸方向に移動させられることになる。その他の作用については、第1実施例と同様である。
【0072】このように構成されたヒンジ装置39によれば、上記ヒンジ装置20の効果に加えて、相互の挿入孔47,51を一致させて配した送話部3と携帯電話本体2に対して、いずれか一の挿入孔47,51側から、このヒンジ装置39を差し込んで固定するだけで済み、携帯電話等の携帯用品の組立をきわめて容易なものとすることができるという効果がある。」。

これらの記載事項及び図面(特に、図15,16)に示された内容を総合すると、甲第1号証には、
「挿入孔47を有する送話部3と挿入孔51を有する携帯電話本体2とを開閉自在に連結するためのヒンジ装置39であって、
同一軸線上で隣接する両挿入孔47,51とにわたり装着されるものであり、
ヒンジ装置39の構成要素として固定側カム44、可動側カム45とコイルスプリング46と連結軸41とを備えていて、
カム面45aを有する可動側カム45とカム面44aを有する固定側カム44との相対関係において、突き合わせカム面44aには複数の凹部49が周方向に間隔をおいて形成されているとともにカム面45aには該各凹部49と係合離脱自在に対応する凸部48が形成されていて、
連結軸41にピン42で連結されるキャップ43が送話部3に圧入されるようになっており、
連結軸41と可動側カム45、固定側カム44、コイルスプリング46との相対関係において、可動側カム45、固定側カム44、コイルスプリング46軸心部のそれぞれを連結軸41が貫通するものであり、
上記各構成要素の組み立てについて、可動側カム45のカム面45aと固定側カム44のカム面44aとが対面して可動側カム45と固定側カム44とが互いに突き合わされていること、かつ、この集合した各構成要素の軸心部を連結軸41が貫通しているとともに連結軸41の両端部が可動側カム45や固定側カム44に対して抜け止め固定されていて、
この組み立て構造において、コイルスプリング46が可動側カム45を固定側カム44側へ押し付けていて、かつ、可動側カム45と固定側カム44とが相対回転したときに係合状態にある凸部48が他の凹部49との係合状態に切り替わるように構成された折り畳み式携帯電話のヒンジ装置。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)甲第2号証(特開平9-130462号公報)
甲第2号証には、図面の図示とともに、以下の記載がある。
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は携帯用電話機に関し、特に、電話機本体に対し開閉可能にヒンジ接続されるカバー(フリップカバー)の開閉機構に関するものである。」、
「【0013】図4?図9を参照してフリップモジュールの構成及び装着過程を説明する。
【0014】電話機本体(本体ハウジング)80の収納空間に装着される本発明のカバー開閉機構をなすフリップモジュールM1,M2は、ヒンジハウジング30と、軸41の一端に山形突部42をもち、ヒンジハウジング30内に挿入されるヒンジ軸40と、谷形部51a及び山形部51bが端部に形成されて前記山形突部42と当接するカムヒンジ50と、係止突起72によりヒンジハウジング30に係止するヒンジカバー70と、カムヒンジ50とヒンジカバー70との間に設置される圧縮コイルバネ60と、から構成される。
【0015】ヒンジハウジング30は、一方の側部を半円形の曲面とし且つ他方の側部を平坦面としてあり、コスト面から左右共通部品とすると共に、組立の容易性を考慮して左右異なる組み付け状態となるようにしている。ヒンジハウジング30の平坦面には案内溝31が長さ方向に形成され、その両側面部に係止溝33が形成され、そして一端面にヒンジ孔32が形成される。
【0016】ヒンジハウジング30に挿入されるヒンジ軸40は、軸41の一端に山形突部42をもつ。この軸41の他端部44には、切欠平面43を2つ平行に形成してある。ヒンジ軸40の切欠平面43の形成方向と山形突部42の形成方向は、通話角度を考慮して設定する。また、他端部44の端面には分解凹部を中心に形成し、フリップモジュール分解時に細いピンを容易に固定可能にしてある。更に、切欠平面43の長さ方向の長さは、ヒンジ軸40の他端部44がフリップカバー90の嵌合口92に挿入されたときの嵌合量を考慮することにより決定される。即ち、ヒンジ軸40の他端部44がフリップカバー90の嵌合口92にかかる嵌合量を 1?2.5mmとすると、本体80にフリップカバー90を組立てたときに容易には外れず且つ強制的に外すときにフリップカバー90のネックに亀裂が発生しない点を考慮する。
【0017】カムヒンジ50は、山形突部42とかみ合ってスライド接触が可能なように谷形部51a及び山形部51bを端部にもつ。また、ヒンジハウジング30の案内溝31に案内されて回転を防止し、該案内溝31に沿ってカムヒンジ50が摺動できるようにカムヒンジ突起52が突設されており、ヒンジカバー70側端面にはバネ固定突起53が形成される。
【0018】ヒンジカバー70は、ヒンジハウジング30の係止溝33に係止する係止突起72を2つ備えており、また、ヒンジハウジング30の案内溝31に挿入されるヒンジカバー突起71が突設されている。更に、ヒンジハウジング30から露出する側の端面に、本体80の収納空間に確実に装着可能なように固定突起73が形成される。そして、このヒンジカバー70とカムヒンジ50との間に圧縮コイルバネ60が設置され、ヒンジハウジング30に組み付けたときにカムヒンジ50に対し押接力が加えられる。
【0019】図7、図8A、図8Bに示すように、本体80には、フリップモジュールM1,M2を確実に固定するために、左右の支持壁82と、この支持壁82と直角にした固定壁83とが形成され、固定壁83に、ヒンジカバー70の固定突起73を挿入する挿入孔81bをそれぞれ形成してある。また、図9A及び図9Bに示すように、フリップカバー90を本体80に組付けるために、ヒンジ軸40の他端部44を嵌合させる嵌合口92をフリップカバーのネック93に形成する。
【0020】図5及び図6を参照してフリップモジュールM1,M2の組立過程を説明する。
【0021】ヒンジハウジング30のヒンジ孔32にまずヒンジ軸40の軸41を挿通させ、そして、谷形部51aとヒンジ軸40の山形突部42とを合わせるようにしてカムヒンジ50をヒンジハウジング30内に挿入すると、ヒンジ軸40がヒンジハウジング30に組み付けられる。次いで圧縮コイルバネ60をバネ固定突起53に固定した後、ヒンジカバー70の突起(図示せず)に圧縮コイルバネ60の他端を固定し、ヒンジカバー70の係止突起72をヒンジハウジング30の係止溝33へ係止させると、フリップモジュールM1,M2の組立が完了する。」、
「【0022】このようにして組立てられたフリップモジュールM1,M2は、まず、フリップモジュールM1,M2を斜めにして固定突起73を固定壁83の挿入孔81bに挿入し、そして、フリップモジュールM1,M2から突出している軸41を内側へ押し込みながらフリップモジュールM1,M2を収納空間へ収め、挿入孔81aへ軸41を挿入することにより、本体80に装着される。このとき、組み付けた一方のフリップモジュールM1は案内溝31が上に向くように装着し、他方のフリップモジュールM2は、フリップカバー90の開閉角度のために案内溝31が横を向くように装着する。」、
「【0032】フリップモジュールM1,M2のヒンジハウジング30には案内溝31が形成され、これにカムヒンジ50のカムヒンジ突起52が案内されるので、カムヒンジ50はカバーの回動時に長さ方向へ摺動するのみである。」、
「【0034】【発明の効果】本発明によるカバー開閉機構は、独立的に組立てられたフリップモジュールを本体ハウジングの収納空間に装着するようにしたので、組立・分解が非常に容易になり、しかも部品紛失の可能性が格段に少ない。…」。

(3)甲第3号証 (米国特許第4645905号明細書)
甲第3号証には、審判請求書に添付された翻訳文を援用すると、図面(図1?6,10?13,16)とともに、以下の記載がある。
「スタンドに支持された高い本体と安全ヒンジを持つ小型折りたたみ家庭用器具であって、安全ヒンジによって、器具は開かれた動作位置にロックされることができ、器具のそれぞれの側にある小ボタンを押し込むことによって収容のために折りたたむことができる。」(フロント頁アブストラクト)、
「1.技術分野
本発明は調理カウンターや収納戸棚用のインスタントコーヒーメーカーや缶オープナーなどの小型の家庭用器具に関する。特に、支持部とそれに回転可能に繋がれた本体とを有する家庭用器具、保管のために折りたたまれ、使用のために広げられてロックされる器具に関する。」(1欄5?12行)、
「第一のヒンジ部材11と第二のヒンジ部材12を回転位置で互いに係止することができるように、連結手段が備えられている。連結手段は係止部材22の突起部38と、第二ヒンジ部材12の第一平面壁25の凹部42を有する表面40を含んでなる。突起部38は凹部42にはめ込まれて表面40に連結するように形成されている。突起部38は係止部材22に一体化されて形成された延長部であって、係止部材22の外周43に近接して穿孔軸16と平行に延びているのが好ましい。また、凹部42は第一平面壁25の開口として形成されるのが都合がよい。第二ヒンジ部材12と係止部材22がある回転位置で互いに結合したとき、第二ヒンジ部材12と係止部材22の付随して起こる回転を防ぐために、凹部42は突起部38をはめ込むように位置合わせをされている。係止部材22と第二ヒンジ部材12が互いに第二の回転位置で連結した場合、突起部38は凹部42に対して位置がずれる。その回転位置では、突起部38は第二ヒンジ部材の平面壁25と連結し、第二ヒンジ部材12の係止部材22に対する回転を可能にする。
ばね45は第二ヒンジ部材12に対して係止部材22を押圧する。ばね45は穿孔15の中のコイルばねであることが好ましい。ばね45の一端は第一ヒンジ部材の背壁14と結合している。ばね45のもう片方の端は側壁48により形成されたへこみ47にはめ込まれて、後壁49に結合する。」(4欄40行?5欄3行)、
「この好ましい実施例においては、軸30は穿孔軸16に沿って突出し、第一ヒンジ部材11の後壁14の通し穴72を貫通するシャフト70を有している。シャフト70の片端の拡大部75は、第一ヒンジ部材11と第二ヒンジ部材12が係止したとき、軸30の動きを制限するため背壁14の外部表面76を支える。
拡大部75はヒンジの組立てを容易にするためと、組立て後の偶然の軸30の外れを防ぐために割りピンを含むことが好ましい。この好ましい実施例では、第一ヒンジ部材11、第二ヒンジ部材12、係止部材22、そして軸30は成形プラスチックで作製されている。また、この好ましい実施例では、突起部38と凹部42は、器具1が開放位置のときのみ係止がはずされ得るよう配置されている。突起部38は、器具1が折りたたまれる位置のときは表面40の凹部42に結合しないので、器具1をすばやく簡単に開くことができる。」(5欄43?60行)。

(4)甲第4号証(実願昭61-14603号(実開昭62-126478号)のマイクロフィルム)
甲第4号証には、図面とともに、以下の記載がある。
「[産業上の利用分野]
この考案は扉用蝶番に関するものである。」(明細書1頁13?14行)、
「[実施例]
第1図乃至第3図において6a,6bは直列に結合した筒軸3a,3bの衝合面であり、この衝合面には閉扉位と90?180°開扉位で嵌合する凹部7と凸部8からなっており、且つこれらの凹部並びに凸部は、筒軸の回動方向の強制外力で嵌合状態から乗り上げて嵌合が外れ得る形状となっており、図示の凹凸は断面半円形にしてあるが台形や円錐台形等とすることもできる。
この蝶番を扉部に用いると、閉扉位置と90?180°の開扉位置で衝合面6a,6bに形成した凹部7と凸部8が嵌合して自由回動が阻止され、又強制的に開扉又は閉扉しようとすると前記嵌合した凹凸が互いに乗り上げて嵌合が解除する。」(同3頁6行?19行)、
「更に又、第7図のように、可動側衝合面6aの凸部8aのように別体のものとして衝合面6aに嵌合させることもできる。20は凸部8aの軸部、21は衝合面6aに形成した、軸部20を嵌合して凸部の回動を阻止する溝である。」(同5頁11?15行)。」

(5)甲第5号証(実願昭46-113031号(実開昭48-65953号)のマイクロフィルム)
甲第5号証には、図面とともに、以下の記載がある。
「本考案は蝶番の改良に関するものである。」(明細書1頁下から4行)、
「図において附号1A、1Bは蝶番の取付け片を示し、此れ等取付け片は互いに隣接する縁部で対称的に形成された筒状部2A、2Bを介して軸3、3により回動自在に連結されている。而して此の実施例では下方の軸3の先端は筒状部2Aの中間で終つており、そして此の筒状部2Aの空白部分にはスプリング4を介して係止盤5が上下方向に摺動自在に装着されている。此の係止盤5は第2図に示す様にその上面に上方に突出した突条部6を有し、そして此の突条部6の両側部分は前記筒状部2Aの開口縁部に形成した一対の長溝7に係入されており、此れにより係止盤の回動が阻止されている。又前記筒状部2Aの端面に相対する他方の係止片の筒状部2Bの開端面には前記突条部6の先端が係入する比較的浅い一対の凹陥部8が形成されている。此の両者の係合は設定された力の範囲内で筒状部2A、2Bの相関的な回動を阻止しそして設定以上の回動力が加えられると前記両者の係合がはずれその回動制限が解除される様な形状及び寸法に形成されている。従って前記突条部の先端は丸味をもたす事が要求され又此れに係合する凹陥部8は浅い円弧に形成する事が好ましい。
本考案では以上の様に構成されているので取付け片1、1の相対的な回動運動中において、係止盤5の突条部6が筒状部2Bの凹陥部8に係入すると此の係止盤を押し上げるスプリングの圧力及び此れ等係合部分の形態によって定められた範囲内で両取付け片1A、1Bの相対的な回動が制限され、此れにより此の蝶番を使用せる扉等の回動を所定の位置でーたん停止させる事が出来るものである。此の様に本考案に依る時は従来の蝶番の形態を何ら損う事なく極めて簡単な機構によって蝶番の自由な回動を制限する事が出来る機能を内蔵した有効な蝶番を提供する事が出来るものである」(同第2頁2行?3頁17行)。

(6)甲第6号証(特開平11-41328号公報)
甲第6号証には、図面とともに、以下の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は折り畳み構造の折り畳み型携帯電話機に関する。・・・」、
「【0018】図1、図2、及び図3に示すように、折り畳み型携帯電話機10は、大略、操作キー及びマイクが配してある操作キー側筐体11の基部側(図2中X2方向端側)11aと液晶パネル及びスピーカが配してある表示部側筐体12の基部側(図2中X1方向端側)12aとがヒンジ13で連結された構成を有する。ヒンジ13は、径d1を有し、ヒンジモジュール14及びワンタッチオープン釦組立体15等よりなる構成を有する。」、
「【0024】次に、前記のヒンジモジュール14について、図7、図8、及び図9を参照して説明する。ヒンジモジュール14は、ロータリオイルダンパ部71と、開き・水平開き許容機構部72とが、係合されて結合された略円柱形状のモジュール化された構造を有する。
【0025】ロータリオイルダンパ部71は、図9に示すように、ケーシング75内に、ギヤ形状の回転体76が組込まれ、シリコーンオイル77が充填された構造を有する。開き・水平開き許容機構部72は、開き機構部80と、水平開き許容機構部81とを有する。
【0026】開き機構部80は、略筒状のケーシング82と、ケーシング82内に収容された第1の軸84と、同じくケーシング82内に収容されている左巻きの第1のねじりコイルばね83とよりなる。この第1のねじりコイルばね83が、特許請求の範囲の欄記載のばねを構成する。ケーシング82は、Y2方向の端面に円弧状スリット82aを有し、外周面に位置決め用凸部82bを有する。
【0027】第1の軸84のY2端側の突部84aが円弧状スリット82aに嵌合している。第1の軸84は、第2の軸86と連結してある。第1のねじりコイルばね83は、一端がケーシング82に係止され、他端が第1の軸84に係止してあり、第1の軸84に対してケーシング82をA1方向に回動付勢している。よって、ケーシング82と第1の軸84とは、第1のねじりコイルばね83のばね力によって、突部84aが円弧状スリット82aの端に当たった状態で一体化されている。
【0028】水平開き許容機構部81は、第1の軸84(図8参照)と、右巻きの第2のねじりコイルばね85と、第2の軸86とよりなる。第1の軸84と第2の軸86とは嵌合しており、第2のねじりコイルばね85と共に、ケーシング82内に収容されている。第2のねじりコイルばね85の一端が第1の軸84に係止され、他端が第2の軸86に係止してあり、第2の軸86に対して第1の軸84をA2方向に回動付勢している。第1の軸84と第2の軸86とは第2のねじりコイルばね85のばね力で一体化してある。
【0029】第2のねじりコイルばね85のばね定数K2は、第1のねじりコイルばね83のばね定数K1より大きい。ケーシング82のY1方向の端にキャップ87が取り付けてある。Y1方向の端より、角柱軸86aが突き出ている。ヒンジモジュール14は、第2の軸86が固定で、ケーシング82が回動するように動作する。
【0030】第2の軸86の角柱軸86aを基準にみたとき、ケーシング82はA1方向に回動付勢されており、第1の軸84はA2方向に回動付勢されている。」、
「【0030】・・・次に、ワンタッチオープン釦組立体15について説明する。ワンタッチオープン釦組立体15は、図10に示すように、本体40と、押し釦41と、爪部材42と、圧縮コイルばね43とよりなる構造を有する。・・・」、
「【0031】本体40は、筒部40aとY1方向端側の底板部40bとよりなる略有底筒形状を有し、内側に、断面が略楕円形状の空間40cを有し、筒部40aの外周面のうちY2端側に位置決め用の凸部40dを有する。また、底板部40bの中心に孔40eを有し、且つ、底板部40bのうち上記の凸部40dに対応する部位に、ロック用の矩形状の凹部40eを有する。また、筒部40aの上端にねじ孔40gを有する。押し釦41は、略楕円形状を有し、軸部41aと、軸部41aより先に突き出ており軸部41aより細い軸部41bとを有する。爪部材42は、中心貫通孔42aと4つのリブ42bとよりなる十字羽根車形状を有し、且つ、1つのリブ42bのY2端側にY2方向に突き出た爪部42cを有する。爪部42cは、爪部材42の外周側から見たときに、半円形をなす形状を有し、曲面42dを有する。」、
「【0032】押し釦41が本体40の空間40c内に嵌合している。軸部41bが、孔40eを通ってY1方向に突き出ている。爪部材42が、その中心貫通孔42aを軸部41bに嵌合させて取り付けてある。爪部材42は、軸部41aと軸部41bとの間の段部41cと、軸部41aの端に嵌合してあるEワッシャ44とによって押し釦41に対するY1、Y2方向の移動を制限されて軸部41aから外れないようになっている。圧縮コイルばね43は、圧縮された状態で、軸部41aに嵌合して、押し釦41と底板部40bとの間に配してある。圧縮コイルばね43のばね力によって、押し釦41及び爪部材42はY2方向に付勢されている。爪部材42は、爪部42cが凹部40fに嵌合しており、押し釦41は、本体40から、小さい寸法aだけY2方向に突き出ている。」、
「【0035】・・・上記のように組み立てられたヒンジ13は、図1(B),図4、図5に示すように、以下に説明する構造を有する。・・・
【0037】ヒンジモジュール14は、筒部30c内に挿入されて固定してあり、位置決め用凸部82bが溝30c-1に嵌合して、軸線CL13周りの位置を決められ、且つ、回り止めされている。角柱軸86aが矩形孔20b-1と嵌合している。ワンタッチオープン釦組立体15が、筒部20d内に挿入されており、位置決め用凸部40dが溝20d-1と嵌合して、軸線CL13周りの位置を決められ、且つ、回り止めされている。また、ねじ25によって、本体40が固定してある。爪部材42は、筒部20dを通り抜けて筒部30f内に入って、リブ42bがガイド溝30f-1と嵌合している。よって、爪部材42と筒部30fとは、爪部材42が筒部30fに対してY1,Y2方向に移動可能であり、軸線CL13周りの回動については、一体的に回動する関係にある。押し釦41は、ヒンジ13のY2側の端面13aより少し突き出ている。」、
「【0039】次に、上記構成のヒンジ13の動作について説明する。折り畳み型携帯電話機10が、図1(A),図3(A)に示すように折り畳まれているときには、ヒンジモジュール14は、ケーシング82が、第2のねじりコイルばね83を捩じって、一体化されている第1の軸84及び第2の軸86に対してA2方向に回動されている状態にある。よって、表示部側筐体12は、ヒンジモジュール14によって図1(A),図3(A)中、軸線CL13関して反時計方向(A2方向)に付勢されている。しかし、図12に示すように、爪部42cが凹部40e内に嵌合しており、表示部側筐体12はロックされて表示部側筐体12のヒンジモジュール14による回動は制限されており、表示部側筐体12と操作キー側筐体11とが折り畳まれた状態に保たれている。」、
「【0040】図3(A)に示すように、使用者が操作キー側筐体11側を手のひら側にして折り畳み型携帯電話機10を片手90で掴み、この掴んでいる手90の親指91で押し釦41を押す。この操作をすると、図12(E)に示すように、爪部材42が筒部30f内でY1方向に移動し、爪部42cが凹部40eより抜け出し、表示部側筐体12のロックが解除され、表示部側筐体12はヒンジモジュール14によってケーシング82と共に反時計方向に回動され、ロータリオイルダンパ71の作用で操作キー側筐体11からゆっくり立ち上がって開く。」。
また、【図10】には、本体40の端面には凹部40fが形成されているとともに爪部材42の端面で爪部材42のガイド溝30f-1内に嵌り込んだ部分(リブ42b)には、凹部40fと係合離脱する爪部42cが形成されることが記載されている。

(7)参考甲第一号証
参考甲第一号証には、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は一般的には折りたたみ可能な携帯用無線電話の分野に関し、かつより特定的には折りたたみ可能な携帯用無線電話のハウジングをヒンジ結合する装置に関する。」、
「【0019】本実施形態で使用されているようにかつ図3を参照すると、ヒンジ301はカバー103を本体部101に結合している。後に詳細に説明する、ヒンジ301は図3の斜視図では完全に組み立てられて示されておりかつ図4の斜視図では分解されて示されている。回転軸に沿って見た閉じられた無線電話100の断面斜視図である、図5に示されるように、組み立てられたヒンジ301はカバー103の空洞307および本体部101の空洞503内に配置されている。カバー103の一方の側に配置されたヒンジ301はカバー103を開かれたまたは閉じられた位置に保持する。アイドラシャフト505がカバー103の空洞507および本体部101の空洞509内に、カバー103の反対側に配置されている。」、
「【0024】図4に示されるように、ヒンジ301はプラスチック材料から構成された缶状部303を含む。缶状部303は概略的に円筒形状の、中空の、一端で閉じられ、かつ他端で開かれたものである。…
【0029】ばね405は金属で構成されかつらせん形状であり、外側の直径は前記缶状部303の内径より小さい。…
【0030】カム404は金属から構成されかつほぼ円筒形状でありかつ中空である。…
【0031】カム404はその外面467上に形成されたレール417を有する。…レール417はガイド部437と軸方向にスライド可能に接触しており、従って缶状部303内のカム404の軸方向の移動を案内する。…
【0032】カムホロワ403は単一片の固体または中実(solid)の金属から構成される。…
【0040】ヒンジ301は最終的には図4に示されるように単一片の金属で構成されたキャップ305を含む。…」。

(8)参考甲第二号証
参考甲第二号証には次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、本体に対して蓋を開閉可能に支持するヒンジ機構及びヒンジユニットに関する。
【0002】
【従来の技術】携帯電話の蓋、AV機器の蓋のように、使用機器の特性に応じた、開閉態様を実現するために、各種のヒンジ機構が提案されている。」、
「【0020】
【発明の実施の形態】図1?図3には、本形態に係るヒンジユニット10が用いられた携帯電話12が示されている。
【0021】この携帯電話12の本体14の端部には、略角柱状の支持体16が設けられている。この支持体16の両側及びダイヤル部18は切り下げられており、蓋20を閉じたとき、本体14の外面と蓋20とが面一となるように工夫されている。
【0022】また、支持体16の両端部を挟むように蓋20から突設された二股の略円柱状の軸体22が、支持体16に回動可能に支持されている。支持体16には、軸体22と対向する面が開口した円筒状の収納部24が形成されている。収納部24の内周壁には、軸方向に沿ってガイド溝26が形成されている。このガイド溝26には、ヒンジユニット10を構成する第2カム体28の外周面から突設されたガイド突起30がスライド可能に挿入されている。
【0023】これによって、第2カム体28は、収納部24にスライド可能に保持され、また、支持体16に対して回転不能となっている。」、
「【0024】また、図4及び図5に示すように、第2カム体28は、端部にカム面82が形成された円筒体で、シャフト34へ回転可能に挿通されている。また、シャフト34には、同じく端部にカム面32が形成された円筒状の第1カム体38が挿通されている。第1カム体38の外周面からは、突起80が突設されている。
【0025】図5及び図9(C)に示すように、カム面32、82は、蓋20の開放角度がθ=150°のとき、すなわち、シャフト34を中心としてガイド突起30と突起80が90°相対回転した位置で面接状態となり、蓋20を停止させるようになっている。また、カム面82の頂部82Aには、溝部84が形成されており、図8(C)に示すように、カム面32の頂部32Aが係合可能となっている。
【0026】一方、シャフト34の一端には、フランジ部40が形成されており、第1カム体38の抜け出しを阻止している。また、シャフト34の他端には、環状の溝42が形成されており、Eリング44が嵌め込まれる。このEリング44と第2カム体28との間には、圧縮コイルばね36が装着され、第2カム体28を第1カム体38に向かって付勢し、フリーの状態でカム面32とカム面82が面接状態となる。
【0027】また、図3に示すように、軸体22には、支持体16と対向する面が開口した円筒状の固定部46が形成されている。固定部46の内周壁には、軸方向に沿ってキー溝48が形成されている。このキー溝48には、第1カム体38の突起80が係合しており、シャフト34回りに、第1カム体38が蓋20と一体となって回転するようになっている。」。

(9)参考甲第三号証
参考甲第三号証には次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、二つ折りに折り畳まれた携帯用電話器の受話部と送話部のような開閉体を、相対的に開閉する際に用いて好適な開閉装置とこの開閉装置を用いた携帯用電話器に関する。」、
「【0020】11は回転シャフトであり、この回転シャフト11は、両側を削り取ることによって形成された変形取付部12と、この変形取付部12に続いて設けられた大径部13と、この大径部13に続いて設けられた変形中径部14と、この変形中径部14に続いて設けられた変形小径部15から成り、変形取付部12を送話部5の取付部5cに設けた変形取付穴5dに挿入係止させると共に、変形中径部14の一側部側を軸受部9の軸受孔9aへ軸受させている。変形中径部14には、中心部に設けた変形孔16aへ挿通させて、摺動カム16が回転シャフト11と共に回転するように、かつ摺動自在に軸挿されており、この摺動カム16と回転シャフト11の大径部13との間には、変形中径部14の回りに環巻きされつつコンプレッションスプリング17が弾設され、摺動カム16を固定カム10側へ押圧させている。・・・
【0022】軸受体8の平坦な左側面側には、変形中径部14をその中心部に設けた変形孔18aに挿通させつつ、例えば燐青銅製のフリクションプレート18が設けられており、このフリクションプレート18は回転シャフト11の変形小径部15にその変形孔20aを挿通させつつ、該変形小径部15の端部をかしめることによって、該変形小径部15に固着された押えワッシャー20を介して、軸受体8に対し面接触している。」。

7.対比・判断
(7-1)対比
ところで、訂正明細書の段落【0013】には、本件発明の「第1部材」及び「第2部材」につき、「本発明に係る係嵌組成体Cにつき図1?図6によって以下詳記すると、図1の(A)によって理解される通り、折り畳み式機器の第1部材Aにおける一端縁部にあって突設された第1ヒンジ筒10と、第2部材Bの一端縁部にあって突設された第2ヒンジ筒11とに嵌入係止されるよう構成されている。ここで図示例では第1部材Aが機器本体であり、第2部材Bは機器本体に対して開閉自在であるカバーを選定しているが、もちろん、これとは逆に第1部材Aをカバーとし、第2部材Bを機器本体として特定するようにしてもよい。」との記載があるから、本件発明の「第1部材」及び「第2部材」は、上記「機器本体」又は「カバー」のいずれかに相当するものを、それぞれ、意味するものと解することができる。
そこで、本件発明と上記引用発明とを対比すると、その機能ないし構造から見て、引用発明の「折り畳み式携帯電話」が本件発明の「折り畳み式機器」に、引用発明の「携帯電話本体2」が本件発明の「第2部材」に、引用発明の「送話部3」が本件発明の「第1部材」に、それぞれ相当するといえるから、
引用発明の「ヒンジ装置」が本件発明の「(ヒンジ装置の)係嵌組成体」に、
引用発明の「可動側カム45」が本件発明の「第1ディスク」に、
引用発明の「固定側カム44」が本件発明の「第2ディスク」に、
引用発明の「連結軸41」が本件発明の「軸杆」に、
引用発明の「凹部49」が本件発明の「係嵌凹所」に、
引用発明の「凸部48」が本件発明の「係嵌凸部」に、
引用発明の「コイルスプリング46」が本件発明の「コイルスプリング」に、
それぞれ相当するといえる。
また、引用発明の(送話部3側の)「挿入孔47」を設けた部分は、略筒状のものとして形成されていることが明らかである(例えば、甲第1号証の【図14】を参照)から、引用発明の当該部分は、本件発明の(「第1部材」の)「第1ヒンジ筒」に相当する。
してみると、両者は、
「第1ヒンジ筒を有する第1部材と第2部材とを開閉自在に連結するための係嵌組成体であって、係嵌組成体の構成要素として、第1ディスクと第2ディスクとコイルスプリングと軸杆とを備え、および、片面を第1突き合わせ端面とする第1ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において、第2突き合わせ端面には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともに、第1突き合わせ端面には該各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成されていること、および、軸杆と第1ディスク・第2ディスク・コイルスプリングとの相対関係において、第1ディスク軸心部・第2ディスク軸心部・コイルスプリング軸心部のそれぞれを軸杆が貫通するものであり、および、上記各構成要素の組み立てについて、第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面して第1ディスクと第2ディスクとが互いに突き合わされており、かつ、この集合した各構成要素の軸心部を軸杆が貫通しているとともに軸杆の両端部が第2ディスクに対して抜け止め固定されており、および、この組み立て構造において、コイルスプリングが第1ディスクを第2ディスク側へ押しつけており、かつ、第1ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸部に切り替わる構成を備えた折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体。」である点で一致し、次の相違点1?3で相違する。

(相違点1)
「ヒンジ筒」の構成に関して、本件発明は、「第2部材が第2ヒンジ筒を有し」ているものであって、(ヒンジ装置の)「係嵌組成体」が「同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されるものである」のに対して、引用発明は、このような第2部材が第2ヒンジ筒を備えるものではない点。

(相違点2)
「第1ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸部に切り替わる構成」に関して、本件発明が「第1ディスク」を「筒状本体と摺動ディスクと」から構成し、当該「筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有する」という構成と「第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分に複数の係嵌凸部が形成されている」という構成とを採用しているのに対して、引用発明は、このようなスライド用切込み溝を周壁に有する筒状本体等を用いた構成を備えていない点で主に相違するということができ、これをより詳細に記載すると次のとおりである。
本件発明は、
「第1ディスクが、筒状本体と摺動ディスクとからなり、および、筒状本体と摺動ディスクとコイルスプリングとの相対関係において、摺動ディスクやコイルスプリングを嵌め込むためのもので第1ヒンジ筒に内嵌して第1ヒンジ筒に対して回り止め装着される筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有すること、かつ、筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌まり込んで筒状本体の軸線方向沿いにスライドする摺動ディスクが筒状本体の内径や切込み溝形状に対応した周面形状を有すること、かつ、コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込むことのできる外径を有していて筒状本体内で摺動ディスクに押し当てられるものであることおよび、第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分に複数の係嵌凸部が形成されていること、上記各構成要素の組み立てについて、コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込まれていること、かつ、第1突き合わせ端面を外面にした摺動ディスクがコイルスプリングに抗して筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌め込まれていること、かつ、第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面して摺動ディスクと第2ディスクとが互いに突き合わされていること、かつ、軸杆の両端部が筒状本体や第2ディスクに対して抜け止め固定されていること、および、この組み立て構造において、摺動ディスクの一部であってスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分がそこから露呈されていること、かつ、摺動ディスクと、筒状本体に存在するスライド用切込み溝の奥端縁12eとが、これらの間に係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所Sを介在させている」という構成を採用しているのに対し、
引用発明は、このような第1ディスクが筒状本体を備えるという構成らを採用していないものである点。

(相違点3)
本件発明が、「第2ヒンジ筒に内嵌して第2ヒンジ筒に対して回り止め装着され第1ディスクに相対している第2ディスクで第2突き合わせ端面の反対端面には、第2ヒンジ筒に装着されて抜け止め状態になる抜け止め弾性爪が設けられている」のに対し、引用発明は、このような抜け止め弾性爪が設けられていない点。

そこで、上記の各相違点につき、以下検討する。
(7-2)各相違点の検討
(相違点1について)
ところで、訂正明細書の段落【0002】?【0003】には、従来技術に関して、「【従来の技術】前掲携帯電話機などにあって、その機器本体を閉成しているカバーが不本意に開成したり、開成時のカバーが使用中に閉成してしまったりすることを防止するのに、係止爪やマグネットなどを用いる旧来のロック手段によるときは、デザイン、実装上の制約、コスト高や操作性などの諸点で満足すべき結果が得られていない。そこで当該欠陥を解消するため、既に特開平7-11831号公報に記載の提案がなされている。
上記提案のものは、図7ないし図10によって以下説示するような構成を有している。すなわち図7と図8により理解される通り、機器本体1とカバー2とが、ヒンジ3によって任意の開成角度α゜だけ開閉自在に枢着され、当該ヒンジ3は機器本体1に固設の本体ヒンジ筒1aと、カバー2に固設のカバーヒンジ筒2aとを具備し、図8の如く本体ヒンジ筒1aの本体当接端面1bとカバーヒンジ筒2aのカバー当接端面2bとは、カバー2の開閉に際し摺接自在となっている。」(注;下線は当審が付記した。)との記載があるように、折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置を装着するに際して、本体側とカバー側の双方にヒンジ筒を設けるように構成することは、従来より周知の技術であったということができる。
してみると、相違点1に係る本件発明の構成は、引用発明に当該周知の技術を適用することにより当業者が適宜採用し得た設計的事項であるといえる。

(相違点2について)
次に、上記相違点2につき検討する。
ところで、相違点2に係る本件発明の構成は、上記「(相違点2)」で説示したように、「第1ディスク」を「筒状本体と摺動ディスクと」から構成し、当該「筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有する」という構成と「第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分に複数の係嵌凸部が形成されている」という構成とを採用したことが主たる特徴点であるということができる。
これに対して、甲第2号証には、ヒンジ装置の摺動ディスク(カムヒンジ50)を筒状本体(ヒンジハウジング30)の軸線方向沿いにスライドする態様で収納した構成が記載されているが、当該筒状本体(ヒンジハウジング30)は、当該摺動ディスクのみならず、これと協働する「カムヒンジ50」や「圧縮コイルバネ60」等を含めたヒンジ装置の主たる構成要素を全て収納するハウジングとして構成されたものであって、このハウジング全体を電話機本体80の支持壁82と固定壁83とに囲まれた1つの収納空間にヒンジ軸と直交する方向からはめ込むように構成したものが記載されているに止まり、本件発明のように、「摺動ディスクやコイルスプリングを嵌め込むためのもの」であるが、当該摺動ディスクと互いに突き合わされる(協働する)第2ディスクを収納することなく、第1ヒンジ筒に内嵌して第1ヒンジ筒に対して回り止め装着される「筒状本体」は記載されていない。また、同甲第2号証の摺動ディスク(カムヒンジ50)には、スライド用切込み溝(案内溝31)内に嵌り込んだ部分(カムヒンジ突起52)が該溝から露呈させることは記載されているものの、摺動ディスク(カムヒンジ50)の係嵌凸部(山形部51b)の外周面を、上記スライド用切込み溝(案内溝31)溝から露呈させるものではない。
そうすると、このような構成を開示するに止まるところの甲第2号証記載の発明を引用発明に適用しても、本件発明の相違点2に係る構成が得られないことが明らかである。
甲第3号証には、第1部材と第2部材とを開閉自在に連結するヒンジ装置において、軸杆に抜け止め弾性爪を設けたものが記載されているに止まり、本件発明の、第1ディスクの摺動ディスクの一部であって、筒状本体のスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分がそこから露呈されている構成が記載されていないことが明らかである。
同様に、甲第4号証には、例えば、その第7図に、筒軸3a(第1ヒンジ筒)に内嵌して当該筒軸3aに対して回り止め装着された凸部8を有する部材(第1ディスクに対応する)、及び、筒軸3b(第2ヒンジ筒)に内嵌して当該筒軸3bに対して回り止め装着された凹部7を有する部材(第2ディスク)を備えた構成が記載されているが、凸部8を有する部材(第1ディスクに対応する)が筒軸3a(第1ヒンジ筒)内に内嵌する筒状本体を有しておらず、本件発明のように、第1ディスクの摺動ディスクの一部であって、筒状本体のスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分がそこから露呈されている構成は記載されていない。
また同様に、甲第5号証には、係止盤5(摺動ディスク)の突条部6を筒状部2Aの一対の長溝7に摺動する構成が記載されているが、該筒状部2Aは、本件発明の「第1部材の第1ヒンジ筒」に相当するものであって、本件発明の「筒状本体」とはいえないから、本件発明の「第1ディスクが、筒状本体と摺動ディスクとからなる」構成を開示しているということができない。
そうすると、引用発明に甲第5号証記載の発明を適用しても、(第2部材(送話部3)の第2ヒンジ筒(挿入孔47を設けた部分)の外周に露呈するスライド用切込み溝が設けられた構成が得られるに止まり、本件発明の筒状本体を用いた相違点2に係る構成を得ることができないことも明らかである。
さらに、甲第6号証には、その【図4】及び【図10】を参照すると、ヒンジ機能を兼ね備えた「ワンタッチオープン釦組立体15」に関して、筒状の本体40の端面(第2突き合わせ端面)にロック用の凹部40f(係嵌凹所)が形成されていると共に、当該凹部40f(係嵌凹所)に係合離脱自在に嵌り込む爪部材42の端面(第1突き合わせ端面)の爪部42c(係嵌凸部)とリブ42bとを有する爪部材42を備えた構成が記載されているが、当該リブ42bがスライド自在に嵌合されるガイド溝30f-1(スライド用切り込み溝)を備えた本体30側の筒体30fは、本件発明にいう「第1ヒンジ筒」に相当するものであって、本件発明の「筒状本体」とはいえないから、本件発明の「第1ディスクが、筒状本体と摺動ディスクとからなる」とともに、当該第1ディスクの「摺動ディスクの一部であってスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分がそこから露呈されている」構成が記載されているということができない。

参考甲第一号証には、第1ディスクに相当するものが、筒状本体(缶状部303)と摺動ディスク(カム404)とからなり、筒状本体(缶状部303)がその側端縁から軸線方向沿いに径方向に相対する2つのスライド用切込み溝(ガイド部437)を有することが記載されているが、該スライド用切込み溝(ガイド部437)は、筒状本体(缶状部303)の外周方向に露呈していない構成が記載されているに止まる。
また、参考甲第二号証及び参考甲第三号証には、ヒンジ装置において第1ディスク、第2ディスク、コイルスプリングを軸杆にて抜け止め固定したものであって、第1ヒンジ筒内に内嵌する筒状本体を有していない構成が記載されているに止まる。

以上検討したとおり、審判請求人が提出した甲第1号証ないし甲第6号証及び参考甲第一号証ないし参考甲第三号証らの証拠によっては、相違点2に係る本件発明の構成が、当業者により容易に想到することができたものということができない。

(7-3)まとめ
そして、上記したように、相違点2に係る本件発明の構成は、「第1ディスク」を「筒状本体と摺動ディスクと」から構成し、当該「筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有する」という構成と「第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分に複数の係嵌凸部が形成されている」という構成とを採用したことが主たる特徴点であるということができるところ、本件発明は、当該相違点2に係る構成を採用したことにより、筒状本体に摺動ディスクを嵌め込んで第1ディスクを第1ヒンジ筒内に回り止め状態に嵌合でき、当該筒状本体部分が介在することによって、係嵌組成体を折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置における同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたる(極めて小さな径で構成される箇所への)装着であっても、これを容易に行うことができるのみならず、さらに、(このような極めて小さな外径に合わせて構成される)折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置に要求されるところの第1ディスクと第2ディスクとの係合力をより確実なものとすることが実現できるという格別の効果を奏するものということができる。
したがって、本件発明は、少なくとも、上記相違点2に係る本件発明の構成が、審判請求人が提出した証拠らによっては、当業者が容易に想到することができたものとはいえないから、本件発明は、これら証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

なお、審判請求人は、平成19年1月22日付けの上申書において、(訂正後の)本件発明は、「筒状本体12Aが第1ヒンジ筒10に内嵌してこれに回り止め装着されるものであるため、本件発明の明細書及び記載からは、基本的に、係嵌組成体Cを第1ヒンジ筒10に挿通させることができ」ない旨を、また、甲第1号証の図16に記載のものは、(被請求人が主張するような)ヒンジ装置39の固定状態にガタツキを生じるものではない旨を主張する。
しかしながら、訂正明細書の段落【0016】には「ここで上記の構成説明中にあって、前記の第1ヒンジ筒10に対する筒状本体12Aの回転止め状態による嵌合のため、図示例では第1ヒンジ筒10の内周面に軸線方向へ対設したガイドリブ10bに対して、筒状本体12Aの外周面に軸線方向へ対設したガイド溝12fを係嵌するようにしてある。」との記載があり、特許明細書の図面の図2及び図3を参酌すれば、当該「ガイドリブ10b」と「ガイド溝12f」によって、係嵌組成体Cを第1ヒンジ筒10に挿通させることができることが明らかである(ちなみに、これと同様な構成(ガイド溝等)を用いれば本件発明の「第2ディスク」を「第1ヒンジ筒」に挿通させることができることも自明な事項であるといえる)。
また、甲第1号証の図16に記載のものが、請求人が主張するように、ヒンジ装置39の固定状態にガタツキを生じるものではないとしても、このことが上記「(相違点2について)」において本件発明の相違点2に係る構成が容易に想到できないものと説示した判断を左右するものでないことも明らかである。

8.むすび
以上のとおり、本件発明は、審判請求人が提出した甲第1号証ないし甲第6号証及び参考甲第一号証ないし参考甲第三号証らの証拠に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができないから、本件発明に係る特許を、無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】第1ヒンジ筒を有する第1部材と第2ヒンジ筒を有する第2部材とを開閉自在に連結するための係嵌組成体であって、同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されるものであること、および、係嵌組成体の構成要素として第1ディスクと第2ディスクとコイルスプリングと軸杆とを備えていてそのうちの第1ディスクが筒状本体と摺動ディスクとからなること、および、筒状本体と摺動ディスクとコイルスプリングとの相対関係において、摺動ディスクやコイルスプリングを嵌め込むためのもので第1ヒンジ筒に内嵌して第1ヒンジ筒に対して回り止め装着される筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有すること、かつ、筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌まり込んで筒状本体の軸線方向沿いにスライドする摺動ディスクが筒状本体の内径や切込み溝形状に対応した周面形状を有すること、かつ、コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込むことのできる外径を有していて筒状本体内で摺動ディスクに押し当てられるものであること、および、片面を第1突き合わせ端面とする摺動ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において、第2突き合わせ端面には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともに第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分には該各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成されていること、および、第2ヒンジ筒に内嵌して第2ヒンジ筒に対して回り止め装着され第1ディスクに相対している第2ディスクで第2突き合わせ端面の反対端面には、第2ヒンジ筒に装着されて抜け止め状態になる抜け止め弾性爪が設けられていること、および、軸杆と第1ディスク・第2ディスク・コイルスプリングとの相対関係において、第1ディスク軸心部・第2ディスク軸心部・コイルスプリング軸心部のそれぞれを軸杆が貫通するものであること、および、上記各構成要素の組み立てについて、コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込まれていること、かつ、第1突き合わせ端面を外面にした摺動ディスクがコイルスプリングに抗して筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌め込まれていること、かつ、第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面して摺動ディスクと第2ディスクとが互いに突き合わされていること、かつ、この集合した各構成要素の軸心部を軸杆が貫通しているとともに軸杆の両端部が筒状本体や第2ディスクに対して抜け止め固定されていること、および、この組み立て構造において、摺動ディスクの一部であってスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分がそこから露呈されていること、かつ、摺動ディスクと、筒状本体に存在するスライド用切込み溝の奥端縁12eとが、これらの間に係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所Sを介在させていること、かつ、コイルスプリングが摺動ディスクを第2ディスク側へ押しつけていること、かつ、摺動ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸部に切り替わることを特徴とする折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は折り畳み式計算機、パーソナルコンピュータ、携帯電話機、ワードプロセッサーなどの折り畳み機器にあって、その機器本体に開閉自在なるよう枢着されたカバーを、閉成時と任意の開成角度とにあって夫々の状態を保持でき、しかも適度の力で当該保持状態を解除することにより、カバーの開閉操作を円滑に行い得るようにした折り畳み式機器のカバーに係る広角度開閉保持可能なヒンジ装置に用い得る係嵌組成体に関する。
【0002】
【従来の技術】前掲携帯電話機などにあって、その機器本体を閉成しているカバーが不本意に開成したり、開成時のカバーが使用中に閉成してしまったりすることを防止するのに、係止爪やマグネットなどを用いる旧来のロック手段によるときは、デザイン、実装上の制約、コスト高や操作性などの諸点で満足すべき結果が得られていない。そこで当該欠陥を解消するため、既に特開平7-11831号公報に記載の提案がなされている。
【0003】上記提案のものは、図7ないし図10によって以下説示するような構成を有している。すなわち図7と図8により理解される通り、機器本体1とカバー2とが、ヒンジ3によって任意の開成角度α°だけ開閉自在に枢着され、当該ヒンジ3は機器本体1に固設の本体ヒンジ筒1aと、カバー2に固設のカバーヒンジ筒2aとを具備し、図8の如く本体ヒンジ筒1aの本体当接端面1bとカバーヒンジ筒2aのカバー当接端面2bとは、カバー2の開閉に際し摺接自在となっている。
【0004】そして、本体ヒンジ筒1aには、回転止め状態にして軸線方向へはスライド自在なるよう固定ディスク4が内嵌され、このために本体ヒンジ筒1aの内周面に設けたガイドリブ1cに、固定ディスク4のガイド溝4aが係合されている。一方カバーヒンジ筒2aには、これまた回転止め状態で可動ディスク5が内嵌され、このために図示例ではカバーヒンジ筒2aの奥行内面における溝2cに、可動ディスク5の端面に形成したリブ5aが係合されている。
【0005】さらに、当該従来例では上記固定ディスク4の固定突き合せ端面4bと、可動ディスク5の可動突き合せ端面5bの何れか一方、図示例では固定突き合せ端面4bに、図9(A)(C)および図10により理解される通り、係嵌凹所6が複数個(3個)、所定の周角度位置N1、N2、N3(カバー2の開成角度α°によって決定される位置)にあって設けられており、他方すなわち図示例では図9(B)(D)と図10に開示の如く、上記の係嵌凹所6に対して図10ではコイルスプリング7に基づく弾力により係合することになる複数個(2個)の係嵌凸部8が、所定の周角度位置P1、P2にあって可動突き合せ端面5bから突出されている。
【0006】ここで上記のコイルスプリング7は図10に示されている通り、固定ディスク4の固定突き合せ端面4bとは反対側にあって、外向きに開口された収納空洞4cに収納されていると共に、本体ヒンジ筒1aの外側から挿入した螺杆9を、コイルスプリング7から固定ディスク4そして可動ディスク5を貫通して、その螺部先端9aをカバーヒンジ筒2aの底部2dに刻設した螺止孔2eに螺着させるようにしている。ここで図中9bは螺杆9の頭部を示している。このため、コイルスプリング7は、その弾力により固定ディスク4を可動ディスク5側へ弾圧して、これにより係嵌凹所6に係嵌凸部8が係合することで、固定突き合せ端面4bが可動突き合せ端面5bに対して圧接することになる。
【0007】従って、図10から理解されるように、カバー2を開動させることで、カバーヒンジ筒2aと共に可動ディスク5が回動すると、その可動突き合せ端面5bから突設されている係嵌凸部8が、図9(E)に示す如く係嵌凹所6から円周方向へ脱出し、この際、コイルスプリング7の弾力に抗して固定ディスク4が、図10の左側へ移動することとなり、係嵌凸部8の先端部が、固定突き合せ端面4b上を摺動して円周方向へ回動することになる。
【0008】このため、図9にあって可動ディスク5の前記周角度位置P1、P2における係嵌凸部8が、カバー2の閉止状態では、固定ディスクの周角度位置N1、N2における係嵌凹所6に係嵌されているが、当該カバー2を開成角度α°だけ開成した際には、上記一対の係嵌凸部8が、夫々周角度位置N3、N1の周角度位置における係嵌凹所6に、その係嵌を切り替え得ることになる。
【0009】以上の如く構成することで、当該従来例によるときは、係止爪やマグネットによるロックに比し、カバー2が機器本体1に対し閉時および開時にあって、不本意に回動してしまうことがないようにすることができ、またカバー2を必要に応じ簡易に開閉操作でき前掲旧来例の欠陥を大幅に改善することができる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】このように上記従来のヒンジ装置によるときは、望ましい効果を発揮し得ることになるが、前掲図8等によって理解される通り、これを組み付けるためにはカバー2のカバーヒンジ筒2aに可動ディスク5を係合して、夫々の溝2cとリブ5aとを係嵌し、一方機器本体1の本体ヒンジ筒1aには固定ディスク4を嵌合して、夫々のガイドリブ1cとガイド溝4aとを係嵌する。さらにコイルスプリング7を固定ディスク4に嵌装した後、螺杆9をコイルスプリング7に挿通して当該螺杆9の螺部9aを、カバーヒンジ筒2aの底部2dに刻設した螺止孔2eに螺着することで、当該螺杆9の頭部9bによってコイルスプリング7の押縮による弾発力により固定ディスク4を押圧し、これによりその固定突き合わせ端面4bを、可動ディスク5の可動突き合わせ端面5bに圧接するといった組み付け作業を行わねばならない。
【0011】本発明は上記の如き欠陥を解消し得る係嵌組成体を提供しようとするもので、順次連装の第2ディスクと、第1ディスクの一部材である摺動ディスクと筒状本体との間に介装したコイルスプリングを同一軸線上に列装配設し、これらの構成部材には軸杆を挿通して抜け止め状態で一体に固装してしまうことで、コイルスプリングの弾力によって摺動ディスクを第2ディスクに弾接させ、摺動ディスクと第1ディスクの筒状本体におけるスライド用切込み溝の奥端縁との間に離間貫通空所を形成する。かくして前記折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置における第2部材(カバー)の開閉動に際し、筒状本体の側端縁から軸線方向へ欠設された上記スライド用切込み溝には、第1ディスクの摺動ディスクが露呈状態で軸線方向へ、上記の離間貫通空所内にて移動可能となるように一体化するのである。このようにすることで、本発明によるときは当該係嵌組成体を簡易な操作で第1、第2ヒンジ筒に嵌合しさえすれば、それだけで第1、第2ヒンジ筒に対して係嵌状態を確保することができ、かくして第1、第2部材の開閉自在なる枢着状態が確保され、折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジにつき、その組立てのための作業を飛躍的に迅速かつ容易に実施し得るようにし、かつ第2ディスクに抜け止め弾性爪を設けておくことで、係嵌組成体の抜け止め状態を確保しようとするのが、その目的である。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明に係る折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体は所期の目的を達成するために下記の課題解決手段を特徴とする。すなわち本発明の係嵌組成体は、第1ヒンジ筒を有する第1部材と第2ヒンジ筒を有する第2部材とを開閉自在に連結するための係嵌組成体であって、同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されるものであること、および、係嵌組成体の構成要素として第1ディスクと第2ディスクとコイルスプリングと軸杆とを備えていてそのうちの第1ディスクが筒状本体と摺動ディスクとからなること、および、筒状本体と摺動ディスクとコイルスプリングとの相対関係において、摺動ディスクやコイルスプリングを嵌め込むためのもので第1ヒンジ筒に内嵌され第1ヒンジ筒に対して回り止め装着される筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有すること、かつ、筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌まり込んで筒状本体の軸線方向沿いにスライドする摺動ディスクが筒状本体の内径や切込み溝形状に対応した周面形状を有すること、かつ、コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込むことのできる外径を有していて筒状本体内で摺動ディスクに押し当てられるものであること、および、片面を第1突き合わせ端面とする摺動ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において、第2突き合わせ端面には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともに第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切り込み溝内に嵌り込んだ部分には該各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成されていること、および、第2ヒンジ筒に内嵌して第2ヒシジ筒に対して回り止め装着され第1ディスクに相対している第2突き合わせ端面の反対端面には、第2ヒンジ筒に装着されて抜け止め状態になる抜け止め弾性爪が設けられていること、および、軸杆と第1ディスク・第2ディスク・コイルスプリングとの相対関係において、第1ディスク軸心部・第2ディスク軸心部・コイルスプリング軸心部のそれぞれを軸杆が貫通するものであること、および、上記各構成要素の組み立てについて、コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込まれていること、かつ、第1突き合わせ端面を外面にした摺動ディスクがコイルスプリングに抗して筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌め込まれていること、かつ、第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面して摺動ディスクと第2ディスクとが互いに突き合わされていること、かつ、この集合した各構成要素の軸心部を軸杆が貫通しているとともに軸杆の両端部が筒状本体や第2ディスクに対して抜け止め固定されていること、および、この組み立て構造において、摺動ディスクの一部であってスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分がそこから露呈されていること、かつ、摺動ディスクと、筒状本体に存在するスライド用切込み溝の奥端縁12eとが、これらの間に係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所Sを介在させていること、かつ、コイルスプリングが摺動ディスクを第2ディスク側へ押しつけていること、かつ、摺動ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸部に切り替わることを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明に係る係嵌組成体Cにつき図1?図6によって以下詳記すると、図1の(A)によって理解される通り、折り畳み式機器の第1部材Aにおける一端縁部にあって突設された第1ヒンジ筒10と、第2部材Bの一端縁部にあって突設された第2ヒンジ筒11とに嵌入係止されるよう構成されている。ここで図示例では第1部材Aが機器本体であり、第2部材Bは機器本体に対して開閉自在であるカバーを選定しているが、もちろん、これとは逆に第1部材Aをカバーとし、第2部材Bを機器本体として特定するようにしてもよい。
【0014】上記の第1ヒンジ筒10と第2ヒンジ筒11とは、既知の通り同一軸線上にあって、第1ヒンジ筒10の第1当接端周縁10aと、第2ヒンジ筒11の第2当接端周縁11aとが対向しており、これまた前記従来の如く上記の第1ヒンジ筒10には、図1(B)(C)、図2そして図3で理解される通り、回転止め状態で係嵌組成体Cの第1ディスク12が内嵌され、第2ヒンジ筒11には、これまた回転止め状態で同上係嵌組成体Cの第2ディスク13が夫々内嵌され得るように形成されている。さらに、これまた従来例と同じく第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aに、係嵌凹所13bを所定の周角度位置にあって複数個だけ設け、第1ディスク12の第1突き合わせ端面12aには上記係嵌凹所13bに対して、コイルスプリング14による弾力により係合する複数の係嵌凸部12bが設けられ、第1、第2部材A、Bの閉時と開時にあって、上記係嵌凸部12bの係嵌凹所13bへの係嵌を、他の係嵌凹所13bへ切り替えるように構成されている。
【0015】そして上記した第1ディスク12は筒状本体12Aと、その側端縁12cから軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝12dに露呈状態となるよう内嵌して、軸線方向へスライド自在に嵌装した摺動ディスク12Bとからなり、当該摺動ディスク12Bのスライド用切込み溝12dに嵌り込んだ部分には図示の如く係嵌凸部12bを設け、さらに前記第2ディスク13には抜け止め弾性爪13cを設けるようにしている。また上説の順次連装した第2ディスク13、第1ディスク12における摺動ディスク12Bそしてコイルスプリング14、そして第1ディスク12における筒状本体12Aに装入された軸杆15を、抜け止め状態にて固定することにより、上記のコイルスプリング14の弾力によって、前記の摺動ディスク12Bにおける第1突き合わせ端面12aを第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aに弾接させるのである。
【0016】上記の弾接により、摺動ディスク12Bと前記したスライド用切込み溝12dにおける奥端縁12eとの間にあって、係嵌凸部12bと同等長以上の離間貫通空所Sが、図1(B)において明示の如く形成されることで、これまで説示して来た係嵌組成体Cが構成されている。ここで上記の構成説明中にあって、前記の第1ヒンジ筒10に対する筒状本体12Aの回転止め状態による嵌合のため、図示例では第1ヒンジ筒10の内周面に軸線方向へ対設したガイドリブ10bに対して、筒状本体12Aの外周面に軸線方向へ対設したガイド溝12fを係嵌するようにしてある。
【0017】すなわち、ここで図示例における細部につき説示すると、前記軸杆15は第2ディスク13、摺動ディスク12B、コイルスプリング14そして第1ディスク12の筒状本体12Aを一体に軸装することになるが、その構成は頭部15aから連設された回り止め基端部15bと、さらに連設の棒状部15c、そして当該棒状部15cに連設の細成先端部15dとからなり、これにより棒状部15cには先端受承縁15eが形成されている。そして上記の回り止め基端部15bは、前記第2ディスク13に貫設された回り止め軸孔13dに嵌合されることで、第2部材Bを開閉動させれば第2ヒンジ筒11と共に第2ディスク13も回動することになり、この際図示例では回り止め基端部15bと回り止め軸孔13dとは四角形に形成されている。
【0018】さらに上記軸杆15の細成先端部15dには、第1ディスク12の筒状本体12Aにおける端縁に当接してワッシャー16が被嵌されており、当該細成先端部15dの端末を、かしめることにより、当該ワッシャー16を棒状部15cの前記した先端受承縁15eに押当固定するようにしてある。
【0019】また第2ディスク13としては図1ないし図3の如く、係嵌凹所13bを設けた基板部13Aと、これから突設されている弾性爪部13Bとから構成されており、この弾性爪部13Bには、一対の可変腕13eが先細りのテーパ面13fを備えて突設されていると共に、当該先細りのテーパ面13fの基端側に前記の抜け止め弾性爪13cが形成されている。そして図6に示されている第2ディスク13にあっては4箇の可変腕13eが突設され、上記の弾性爪部13Bが角形に形成されているのに対し、割筒状に構成されている。
【0020】また図示例では前記の第2ヒンジ筒11に、角形とした回り止め筒軸口11bが側壁11cに開口されており、第2ディスク13がヒンジ筒11に対して前記の如き係嵌組成体cの嵌装操作により内装されることで、第2ディスク13の先細りのテーパ面13fをもった可変腕13eが縮径状態となって、上記の回り止め筒軸口11bに嵌入して行き貫通状態となって縮径状態が復原することにより、抜け止め弾性爪13cが、上記の側壁11cにおける外壁面に係止されることになる。従って図示例によるときは上記の基板部13Aと弾性爪部13Bにおける抜け止め弾性爪13cとの間にあって、第2ヒンジ筒11の側壁11cから軸心側へ突設されて、前記回り止め筒軸口11bの開口されている抜け止め周縁部11dが挟持されるようになっており、このことで係嵌組成体cは、連装された第1ヒンジ筒10と第2ヒンジ筒11とにわたって脱落することなく確実に内装されることになる。
【0021】従って図示例では第2部材Aを第1部材Bに対して開閉動させることで、前記の従来例と同様にして第2ヒンジ筒11の回動と共に第2ディスク13を回動させ、これによりコイルスプリング14の弾力に抗して、係嵌状態にあった係嵌凹所13bと係嵌凸部12bとの係合を解き、係嵌凸部12bが第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aと摺動することになり、この際摺動ディスク12Bは図1(B)の右方へ移動するが、離間貫通空所Sの設定により支障なく当該移動が行われ、第2部材Bは閉成状態の保持から開成状態の保持位置に切り替えられることになる。
【0022】また、ここで図示例では当該係嵌組成体Cにあって、その第1ディスク12における筒状本体12Aの側端部を閉止キャップ17によって閉成することにより、外観をよくすると共に、係嵌組成体Cへの塵埃侵入を阻止するようにしている。上記閉止キャップ17として例示のものは、図3によって理解される通り、外観板部17aと内側係止板部17bとの間にあって、側方へ係嵌口17cを開成するようにした係嵌空所17dが離間形成されている。そして係嵌組成体Cにおける前説したワッシャー16に対し、これを前記の係嵌口17eから係嵌空所17dに収納し、この状態から閉止キャップ17を開動操作することにより、当該ワッシャ16に内側係止板部17bを抜け止め状態にて係嵌被装するのである。
【0023】
【発明の効果】本発明に係る係嵌組成体は以上のようにして構成されていることから、多数の構成部品を夫々一個宛折り畳み機器に組み込んで行く作業を要せず、しかも係嵌組成体の組み付けも各種部品に軸杆を挿通して抜け止め状態に固定するだけの作業により簡易にして迅速に構成することができる。しかも第1ディスクを筒状本体と、そのスライド用切込み溝に係嵌した摺動ディスクにより構成し、かつ離間貫通空所を設定するようにしたから、この種折り畳み機器の開閉保持用ヒンジ装置としての必要かつ充分な機能性を満足させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は本発明に係る係嵌組成体を折り畳み式機器に組み込んで、開閉保持用ヒンジ装置を組み立てる状況を示した分解略示斜視説明図、(B)はその組立完成時における縦断正面図で、(C)は同上組立完成時の第2ヒンジ筒を示した端面図である。
【図2】図1(B)に係る組立完成時における横断平面図である。
【図3】本発明に係る係嵌組立体を示した分解斜視図である。
【図4】本発明に係る係嵌組成体の一部品である第2ディスクを示し、(A)はその正面図、(B)はその右側面図、(C)はその背面図で(D)はその上面図である。
【図5】本発明に係る係嵌組成体の一部品である摺動ディスクを示し、(A)はその正面図、(B)はその右側面図、(C)はその背面図で(D)はその上面図である。
【図6】本発明に係る第2ディスクの他実施例を示した斜視図である。
【図7】従来の折り畳み式機器の開成状態を示した斜視図である。
【図8】同上図7の要部を示す分解斜視図である。
【図9】(A)は図8の構成部材である固定ディスクの固定突き合わせ端面図、(B)は可動ディスクを示す可動突き合わせ端面図、(C)は(A)のC-C線断面図、(D)は(B)のD-D線断面図、(E)は(C)の固定ディスクと(D)の可動ディスクの係嵌離脱途上を示す縦断面図である。
【図10】図9の構成部材による従来のヒンジ装置を示した縦断正面図である。
【符号の説明】
10 第1ヒンジ筒
11 第2ヒンジ筒
12 第1ディスク
12A 筒状本体
12B 摺動ディスク
12a 第1突き合わせ端面
12b 係嵌凸部
12c 側端縁
12d スライド用切込み溝
12e 奥端縁
13 第2ディスク
13a 第2突き合わせ端面
13b 係嵌凹所
13c 抜け止め弾性爪
14 コイルスプリング
15 軸杆
A 第1部材
B 第2部材
C 係嵌組成体
S 離間貫通空所
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-08-16 
結審通知日 2005-08-19 
審決日 2005-08-31 
出願番号 特願2000-350147(P2000-350147)
審決分類 P 1 113・ 832- YA (E05D)
P 1 113・ 121- YA (E05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 多田 春奈  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 西田 秀彦
柴田 和雄
登録日 2003-09-12 
登録番号 特許第3471743号(P3471743)
発明の名称 折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体  
代理人 菊池 新一  
代理人 菊池 徹  
代理人 森 正澄  
代理人 森田 政明  
代理人 菊池 新一  

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