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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680240 審決 特許
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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B29C
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
管理番号 1176160
審判番号 無効2006-80151  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-08-11 
確定日 2008-04-15 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3759436号発明「ゴム芯入り組紐リング及び同リングの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
1-1. 本件特許第3759436号は、平成13年7月16日に特許出願(優先権主張 2001年1月8日、韓国)され、平成18年1月13日にその発明について特許の設定登録(請求項の数5)がされたものである。

1-2. これに対して、請求人は、
無効理由1: 本件特許時の請求項1?5に係る発明は、甲第2?9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨、及び、
無効理由2: 本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨、
を主張し、証拠方法として、甲第1?16号証を提出している。

1-3. 被請求人は、平成18年10月30日に訂正請求書を提出して訂正を求めたところ(以下、「第1訂正請求」という。)、当審において、平成19年1月18日付けで、無効理由が通知された。その理由の概要は、
第1訂正請求による訂正後の請求項1に係る発明(「ゴム芯入り組紐リング」に係る発明)は、刊行物1(特開平8-308628号公報。請求人が提出した甲第2号証に同じ。)に記載された発明であるから、本件特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、同法123条第1項第2号に該当する、というにある。

1-4. 被請求人は、平成19年2月22日に訂正請求書を提出して訂正を求めた(その後、平成19年3月2日付け及び同年5月23日付けで、訂正請求書は方式補正された。なお、被請求人が平成18年10月30日に提出した訂正請求、すなわち第1訂正請求は、特許法第134条の2第4項の規定により、取り下げられたものとみなされる。)。
当該訂正の内容は、本件特許に係る明細書及び図面を訂正請求書に添付した訂正明細書及び図面のとおりに訂正しようとするものであり、その訂正事項A?Mは、以下のとおりである。

(1) 訂正事項A: 明細書の特許請求の範囲について、
「【請求項1】
ゴム芯(2)と、同ゴム芯(2)を被覆して外皮となる組紐(3)とにより構成されるゴム芯入り組紐(10)を、所定間隔ごとに切断して短尺ゴム芯入り組紐(1)とし、同短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を接合することによりリング状に成形してなるゴム芯入り組紐リングにおいて、
ゴム芯入り組紐(10)を短尺ゴム芯入り組紐(1)に切断するためにゴム芯入り組紐(10)の切断部(5)を冷却固化剤によって一旦冷却固化して切断し、得られた短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端が非固化状態となった後、短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端にそれぞれ接着剤塗布前処理剤を塗布し、次いで、短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端に接着剤(6)を塗布することによりゴム芯(2)に沿って接着剤の一部を伸延させ、ゴム芯(2)と組紐(3)とを接着剤(6)によって一体化させながら短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を接合していることを特徴とするゴム芯入り組紐リング。
【請求項2】
ゴム芯(2)と、同ゴム芯(2)を被覆して外皮となる組紐(3)とにより構成されるゴム芯入り組紐(10)に所定間隔ごとに冷却固化剤を塗布して固化部(4)を形成し、
同固化部(4)においてゴム芯入り組紐(10)を切断することにより両端を固化させた短尺ゴム芯入り組紐(1)を形成し、
同短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を非固化状態とした後に、両端にそれぞれ接着剤塗布前処理剤を塗布し、
次いで、短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端にそれぞれ接着剤(6)を塗布し、ゴム芯(2)に沿って接着剤(6)の一部を伸延させることによりゴム芯(2)と組紐(3)とを接着剤(6)によって一体化させながら短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を接合してリング状としていることを特徴とするゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項3】 前記接着剤塗布前処理剤はアセトンとし、かつ、前記接着剤(6)はシアノアクリレート系接着剤とし、アセトンによってシアノアクリレート系接着剤の粘性及び速乾性を低下させて接合を行なうことを特徴とする請求項2記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項4】 接着剤塗布前処理剤及び接着剤(6)を塗布した短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を突き合わせることにより形成される接合部(1b)に整形作業用テープ(11)を巻回し、接着剤(6)の硬化前に整形作業用テープ(11)の外周面を押圧することにより接着剤(6)を組紐(3)に含浸させていることを特徴とする請求項2または請求項3記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項5】 組紐(3)の厚みを0.5mm以上としていることを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。」を、
「【請求項1】
ゴム芯(2)と、同ゴム芯(2)を被覆して外皮となる組紐(3)とにより構成されるゴム芯入り組紐(10)に所定間隔ごとに冷却固化剤を塗布して固化部(4)を形成し、
同固化部(4)においてゴム芯入り組紐(10)を切断することにより両端を固化させた短尺ゴム芯入り組紐(1)を形成し、
同短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を非固化状態とした後に、両端にそれぞれアセトンを塗布し、
次いで、短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布してアセトンと混合し、ゴム芯(2)に沿ってシアノアクリレート系接着剤の一部を伸延させることによりゴム芯(2)と組紐(3)とをシアノアクリレート系接着剤によって一体化させながら短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を接合してリング状としていることを特徴とするゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項2】 アセトン及びシアノアクリレート系接着剤を塗布した短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を突き合わせることにより形成される接合部(1b)に整形作業用テープ(11)を巻回し、シアノアクリレート系接着剤の硬化前に整形作業用テープ(11)の外周面を押圧することによりシアノアクリレート系接着剤を組紐(3)に含浸させていることを特徴とする請求項1記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項3】 組紐(3)の厚みを0.5mm以上としていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。」と訂正する。
(2) 訂正事項B: 明細書の発明の名称について、
「ゴム芯入り組紐リング及び同リングの製造方法」を、
「ゴム芯入り組紐リングの製造方法」と訂正する。
(3) 訂正事項C: 明細書の段落0001について、
「【発明の属する技術分野】
本発明は、ゴム芯と、同ゴム芯を被覆して外皮となる組紐とにより構成されるゴム芯入り組紐を、所定長さに切断して形成した短尺ゴム芯入り組紐の両端どうしを接合することによりリング状としたゴム芯入り組紐リング及び同リングの製造方法に関するものである。」を、
「【発明の属する技術分野】
本発明は、ゴム芯と、同ゴム芯を被覆して外皮となる組紐とにより構成されるゴム芯入り組紐を、所定長さに切断して形成した短尺ゴム芯入り組紐の両端どうしを接合することによりリング状としたゴム芯入り組紐リングの製造方法に関するものである。」と訂正する。
(4) 訂正事項D: 明細書の段落0006について、記載事項を削除する。
(5) 訂正事項E: 明細書の段落0007について、
「また、本発明のゴム芯入り組紐リングの製造方法では、ゴム芯と、同ゴム芯を被覆して外皮となる組紐とにより構成されるゴム芯入り組紐に所定間隔ごとに冷却固化剤を塗布して固化部を形成し、同固化部においてゴム芯入り組紐を切断することにより両端を固化させた短尺ゴム芯入り組紐を形成し、同短尺ゴム芯入り組紐の両端を非固化状態とした後に、両端にそれぞれ接着剤塗布前処理剤を塗布し、次いで、短尺ゴム芯入り組紐の両端にそれぞれ接着剤を塗布し、ゴム芯に沿って接着剤の一部を伸延させることによりゴム芯と組紐とを接着剤によって一体化させながら短尺ゴム芯入り組紐の両端を接合してリング状とするようにした。」を、
「【課題を解決するための手段】
そこで、本発明のゴム芯入り組紐リングの製造方法では、ゴム芯と、同ゴム芯を被覆して外皮となる組紐とにより構成されるゴム芯入り組紐に所定間隔ごとに冷却固化剤を塗布して固化部を形成し、同固化部においてゴム芯入り組紐を切断することにより両端を固化させた短尺ゴム芯入り組紐を形成し、同短尺ゴム芯入り組紐の両端を非固化状態とした後に、両端にそれぞれアセトンを塗布し、次いで、短尺ゴム芯入り組紐の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布してアセトンと混合し、ゴム芯に沿ってシアノアクリレート系接着剤の一部を伸延させることによりゴム芯と組紐とをシアノアクリレート系接着剤によって一体化させながら短尺ゴム芯入り組紐の両端を接合してリング状とするようにした。」と訂正する。
(6) 訂正事項F: 明細書の段落0008について、
「さらに、前記接着剤塗布前処理剤はアセトンとし、かつ、前記接着剤はシアノアクリレート系接着剤とし、アセトンによってシアノアクリレート系接着剤の粘性及び速乾性を低下さて接合を行なうこと、及び、接着剤塗布前処理剤及び接着剤を塗布した短尺ゴム芯入り組紐の両端を突き合わせることにより形成される接合部に整形作業用テープを巻回し、接着剤の硬化前に整形作業用テープの外周面を押圧することにより接着剤を組紐に含浸させていること、さらには、組紐の厚みを0.5mm以上としていることにも特徴を有するものである。」を、
「さらに、アセトン及びシアノアクリレート系接着剤を塗布した短尺ゴム芯入り組紐の両端を突き合わせることにより形成される接合部に整形作業用テープを巻回し、シアノアクリレート系接着剤の硬化前に整形作業用テープの外周面を押圧することによりシアノアクリレート系接着剤を組紐に含浸させていること、さらには、組紐の厚みを0.5mm以上としていることにも特徴を有するものである。」と訂正する。
(7) 訂正事項G: 明細書の段落0009について、
「【発明の実施の形態】
本発明のゴム芯入り組紐リング及び同リングの製造方法では、糸状に成形されたゴム芯を、同ゴム芯と同様に伸縮自在とした中空の組紐内に挿通させたゴム芯入り組紐を所定長さに切断して短尺ゴム芯入り組紐を形成し、同短尺ゴム芯入り組紐の両端どうしを接合することによりゴム芯入り組紐リングとしているものである。」を、
「【発明の実施の形態】
本発明のゴム芯入り組紐リングの製造方法では、糸状に成形されたゴム芯を、同ゴム芯と同様に伸縮自在とした中空の組紐内に挿通させたゴム芯入り組紐を所定長さに切断して短尺ゴム芯入り組紐を形成し、同短尺ゴム芯入り組紐の両端どうしを接合することによりゴム芯入り組紐リングとしているものである。」と訂正する。
(8) 訂正事項H: 明細書の段落0015について、
「このとき、接着剤塗布前処理剤としてアセトンを使用し、接着剤としてシアノアクリレート系接着剤を使用することにより、アセトンと混合されることになるシアノアクリレート系接着剤はジェル状に変質し、粘性を低下させることができるとともに、速乾性を低下させることができ、強固な接着を行なうのに必要な量の接着剤を短尺ゴム芯入り組紐の両端に保持させやすくすることができる。」を、
「このとき、接着剤塗布前処理剤としてアセトンを使用し、接着剤としてシアノアクリレート系接着剤を使用することにより、アセトンと混合されることになるシアノアクリレート系接着剤はジェル状に変質し、速乾性を低下させることができ、強固な接着を行なうのに必要な量の接着剤を短尺ゴム芯入り組紐の両端に保持させやすくすることができる。」と訂正する。
(9) 訂正事項I: 明細書の段落0044について、記載事項を削除する。
(10) 訂正事項J: 明細書の段落0045について、
「 請求項2記載の発明によれば、ゴム芯と、同ゴム芯を被覆して外皮となる組紐とにより構成されるゴム芯入り組紐に所定間隔ごとに冷却固化剤を塗布して固化部を形成し、同固化部においてゴム芯入り組紐を切断することにより両端を固化させた短尺ゴム芯入り組紐を形成し、同短尺ゴム芯入り組紐の両端を非固化状態とした後に、両端にそれぞれ接着剤塗布前処理剤を塗布し、次いで、短尺ゴム芯入り組紐の両端にそれぞれ接着剤を塗布し、ゴム芯に沿って接着剤の一部を伸延させることによりゴム芯と組紐とを接着剤によって一体化させるとともに、短尺ゴム芯入り組紐の両端を接合してリング状としているゴム芯入り組紐リングの製造方法とすることにより、請求項1記載の発明と同様に、低コストでゴム芯入り組紐リングを製造することができるとともに、接合部分の接合強度を向上させることができる。」を、
「【発明の効果】
請求項1記載の発明によれば、ゴム芯と、同ゴム芯を被覆して外皮となる組紐とにより構成されるゴム芯入り組紐に所定間隔ごとに冷却固化剤を塗布して固化部を形成し、同固化部においてゴム芯入り組紐を切断することにより両端を固化させた短尺ゴム芯入り組紐を形成し、同短尺ゴム芯入り組紐の両端を非固化状態とした後に、両端にそれぞれアセトンを塗布し、次いで、短尺ゴム芯入り組紐の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布してアセトンと混合し、ゴム芯に沿ってシアノアクリレート系接着剤の一部を伸延させることによりゴム芯と組紐とをシアノアクリレート系接着剤によって一体化させるとともに、短尺ゴム芯入り組紐の両端を接合してリング状としているゴム芯入り組紐リングの製造方法とすることにより、請求項1記載の発明と同様に、低コストでゴム芯入り組紐リングを製造することができるとともに、接合部分の接合強度を向上させることができる。」と訂正する。
(11) 訂正事項L: 明細書の段落0046について、記載事項を削除する。
(12) 訂正事項L: 明細書の段落0047について、
「請求項4記載の発明によれば、接着剤塗布前処理剤及び接着剤を塗布した短尺ゴム芯入り組紐の両端を突き合わせることにより形成される接合部に整形作業用テープを巻回し、接着剤の硬化前に整形作業用テープの外周面を押圧することにより接着剤を組紐に含浸させていることによって、接合部部分が膨出形状のまま硬化して外観的な美観を損ねることを防止することができるとともに、組紐への接着剤の含浸量を多くすることができ、接合強度を向上させることができる。」を、
「請求項2記載の発明によれば、アセトン及びシアノアクリレート系接着剤を塗布した短尺ゴム芯入り組紐の両端を突き合わせることにより形成される接合部に整形作業用テープを巻回し、シアノアクリレート系接着剤の硬化前に整形作業用テープの外周面を押圧することによりシアノアクリレート系接着剤を組紐に含浸させていることによって、接合部部分が膨出形状のまま硬化して外観的な美観を損ねることを防止することができるとともに、組紐へのシアノアクリレート系接着剤の含浸量を多くすることができ、接合強度を向上させることができる。」と訂正する。
(13) 訂正事項M: 明細書の段落0048について、
「請求項5記載の発明によれば、組紐の厚みを0.5mm以上としていることによって、同組紐に含浸する接着剤の量を、接合強度を向上させることができる量とすることができ、組紐とゴムひもとを接着剤を介して強固に一体化することができる。」を、
「請求項3記載の発明によれば、組紐の厚みを0.5mm以上としていることによって、同組紐に含浸する接着剤の量を、接合強度を向上させることができる量とすることができ、組紐とゴムひもとを接着剤を介して強固に一体化することができる。」と訂正する。

1-5. 請求人は、平成18年12月11日付けで、弁駁書を提出し、平成19年2月14日付けで、当審からの同年1月18日付け職権審理通知書に対する回答書を提出した。
平成19年4月18日に第1回口頭審理が行われ、請求人及び被請求人は、同日付けで口頭審理陳述要求書を提出し、これを陳述するとともに、更に、その後、請求人が同年4月27日付けで、被請求人が同年5月28日付けで、それぞれ上申書を提出している。

2.訂正の可否に対する判断
2-1.訂正事項A?Mについて、それぞれ検討する。
(1) 訂正事項Aについて:
(1-1)訂正事項Aの趣旨
訂正事項Aは、以下のとおり、特許の設定登録時の願書に添付した明細書又は図面(以下、「特許明細書等」という。)の特許請求の範囲について、請求項1及び3を削除し、請求項2、4及び5について、訂正後の願書に添付した明細書又は図面(以下、「訂正明細書等」という。)の特許請求の範囲の請求項1?3に訂正するものであると認められる。
なお、訂正明細書等における「請求項1」?「請求項3」を、それぞれ、「訂正請求項1」?「訂正請求項3」といい、特許明細書等における「請求項1」?「請求項5」を、それぞれ、「訂正前請求項1」?「訂正前請求項5」ということがある。

特許明細書等における請求項2、4及び5、
「【請求項2】
ゴム芯(2)と、同ゴム芯(2)を被覆して外皮となる組紐(3)とにより構成されるゴム芯入り組紐(10)に所定間隔ごとに冷却固化剤を塗布して固化部(4)を形成し、
同固化部(4)においてゴム芯入り組紐(10)を切断することにより両端を固化させた短尺ゴム芯入り組紐(1)を形成し、
同短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を非固化状態とした後に、両端にそれぞれ接着剤塗布前処理剤を塗布し、
次いで、短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端にそれぞれ接着剤(6)を塗布し、ゴム芯(2)に沿って接着剤(6)の一部を伸延させることによりゴム芯(2)と組紐(3)とを接着剤(6)によって一体化させながら短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を接合してリング状としていることを特徴とするゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項4】 接着剤塗布前処理剤及び接着剤(6)を塗布した短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を突き合わせることにより形成される接合部(1b)に整形作業用テープ(11)を巻回し、接着剤(6)の硬化前に整形作業用テープ(11)の外周面を押圧することにより接着剤(6)を組紐(3)に含浸させていることを特徴とする請求項2または請求項3記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項5】 組紐(3)の厚みを0.5mm以上としていることを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。」を、
訂正明細書等において、
「【請求項1】
ゴム芯(2)と、同ゴム芯(2)を被覆して外皮となる組紐(3)とにより構成されるゴム芯入り組紐(10)に所定間隔ごとに冷却固化剤を塗布して固化部(4)を形成し、
同固化部(4)においてゴム芯入り組紐(10)を切断することにより両端を固化させた短尺ゴム芯入り組紐(1)を形成し、
同短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を非固化状態とした後に、両端にそれぞれアセトンを塗布し、
次いで、短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布してアセトンと混合し、ゴム芯(2)に沿ってシアノアクリレート系接着剤の一部を伸延させることによりゴム芯(2)と組紐(3)とをシアノアクリレート系接着剤によって一体化させながら短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を接合してリング状としていることを特徴とするゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項2】 アセトン及びシアノアクリレート系接着剤を塗布した短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を突き合わせることにより形成される接合部(1b)に整形作業用テープ(11)を巻回し、シアノアクリレート系接着剤の硬化前に整形作業用テープ(11)の外周面を押圧することによりシアノアクリレート系接着剤を組紐(3)に含浸させていることを特徴とする請求項1記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項3】 組紐(3)の厚みを0.5mm以上としていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。」と訂正する。

(1-2) 訂正請求項1について
訂正請求項1は、訂正前請求項2に由来するものである。
訂正請求項1とする訂正は、訂正前請求項2において、訂正前請求項3の「前記接着剤塗布前処理剤はアセトンとし、かつ、前記接着剤(6)はシアノアクリレート系接着剤とし、」との記載、明細書の段落0033の「本実施例では接着剤6としてシアノアクリレート系接着剤、特に商品名「401Gold」(loctite社製)を使用した。同接着剤6の塗布の際には、短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1aを上方に向けて塗布を行なっており、さらにあらかじめ同両端1a,1a部分にアセトンを塗布していることによって、接着剤6はアセトンと混合してジェル状に変質し、ゴム芯2に沿ってゴム芯2と組紐3との間の空間をゆっくりと流れ広がりながら伸延するようにしている(図3(a)参照)。さらに、組紐3に含浸したアセトンが誘引作用を生起して組紐3を構成している繊維の隙間にも接着剤6が含浸していくようにしている。」との記載に基いて、接着剤塗布前処理剤及び接着剤を限定し、かつ、シアノアクリレート系接着剤とアセトンとが混合することを、請求項の記載として明確にするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(1-3) 訂正請求項2について
訂正請求項2は、訂正前請求項4に由来するものである。
訂正請求項2とする訂正は、(1-2)で述べたとおり、訂正前請求項2が、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、訂正後請求項1に訂正されるのに伴い、接着剤塗布前処理剤及び接着剤を、それぞれアセトン及びシアノアクリレート系接着剤に限定するとともに、その引用請求項を、唯一先行することとなった訂正請求項1に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(1-4) 訂正請求項3について
訂正請求項3は、訂正前請求項5に由来するものである。
訂正請求項3とする訂正は、、(1-2)、(1-3)で述べたとおり、訂正前請求項2、4が、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、それぞれ、訂正後請求項1、2に訂正されるのに伴い、その引用請求項を、訂正請求項2または3に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項Bについて:
訂正事項Bは、訂正事項Aによって、「ゴム芯入り組紐リング」に関する発明である訂正前請求項1が削除されるのに伴い、明細書の発明の名称について、「ゴム芯入り組紐リング及び同リングの製造方法」を、「ゴム芯入り組紐リングの製造方法」として、特許請求の範囲の記載と内容上の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項Cについて:
訂正事項Cは、訂正事項Aによって、「ゴム芯入り組紐リング」に関する発明である訂正前請求項1が削除されるのに伴い、【発明の属する技術分野】について、「ゴム芯入り組紐リングの製造方法」に関するものであることを記載として明確にすることにより、特許請求の範囲の記載と内容上の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4) 訂正事項Dについて:
訂正事項Dは、訂正事項Aによって、「ゴム芯入り組紐リング」に関する発明である訂正前請求項1が削除されるのに伴い、【課題を解決するための手段】の記載について、訂正前請求項1に対応する「ゴム芯入り組紐リング」に関する段落0006の記載を削除することにより、特許請求の範囲の記載と内容上の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5) 訂正事項Eについて:
訂正事項Eは、訂正事項Aによって、(1-1)で述べたとおり訂正前請求項1が削除されるとともに、(1-2)で述べたように、訂正前請求項2が、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、訂正請求項1に訂正されるのに伴い、【課題を解決するための手段】の記載について、訂正前請求項2に対応する段落0007の記載を訂正し、訂正請求項1の記載と内容上の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6) 訂正事項Fについて:
訂正事項Fは、(1)で述べたように、訂正事項Aによって、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、訂正前請求項1?5が訂正請求項1?3に訂正されるのに伴い、訂正前請求項3?5に対応する段落0008の記載を訂正し、訂正請求項2、3の記載と内容上の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7) 訂正事項Gについて:
訂正事項Fは、訂正事項Aによって、「ゴム芯入り組紐リング」に関する発明である訂正前請求項1が削除されるのに伴い、【発明の実施の形態】の記載について、訂正前請求項1に対応する「ゴム芯入り組紐リング」に関する段落0009の記載を削除することにより、特許請求の範囲の記載と内容上の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8) 訂正事項Hについて:
特許明細書等の段落0015には、通常液状であることが当業者に広く知られているシアノアクリレート系接着剤に関して、「ジェル状に変質し、粘性を低下させることができるとともに、速乾性を低下させることができ、」と記載され、液状から「ジェル状に変質」することによって、「粘性を低下させる」とともに、「速乾性を低下させる」とされている。液状から「ジェル状」に変わることによって、「速乾性」が低下することは、当業者の技術常識であるが、同時に、液状から「ジェル状」に変われば、通常、流動性が低下すると解されるので、粘度が増大又は上昇するとするのが自然な表現であるところ、「粘性を低下させる」とあるために、「ジェル状に変質し、粘性を低下させることができるとともに、速乾性を低下させることができ、」との記載の意味するところが不明確となっている。
訂正事項Hは、「ジェル状に変質し、粘性を低下させることができるとともに、速乾性を低下させることができ、」との記載において、その意味の不明確さの原因となっている、「粘性を低下させることができるとともに、」を削除して、「ジェル状に変質し、速乾性を低下させることができ、」と訂正して、通常の技術常識に合致する本来の記載とすることによって、その記載を誤解がないものとすることを目的とするものと認められるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9) 訂正事項Iについて:
訂正事項Iは、訂正事項Aによって、「ゴム芯入り組紐リング」に関する発明である訂正前請求項1が削除されるのに伴い、【発明の効果】の記載について、訂正前請求項1に対応する「ゴム芯入り組紐リング」の効果に関する段落0044の記載を削除することにより、特許請求の範囲の記載と内容上の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(10) 訂正事項Jについて:
訂正事項Jは、訂正事項Aによって、(1-1)で述べたとおり訂正前請求項1が削除されるとともに、(1-2)で述べたように、訂正前請求項2が、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、訂正請求項1に訂正されるのに伴い、【発明の効果】の記載について、訂正前請求項2に対応する段落0045の記載を訂正して、訂正請求項1の記載と内容上の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(なお、訂正後の段落0045は、「請求項1記載の発明によれば、…請求項1記載の発明と同様に、…ができる。」と記載され、「請求項1記載の発明」が重複記載されている点で、冗長又は無意味な記載箇所があるが、特段の矛盾があるものではない。)

(11) 訂正事項Kについて:
訂正事項Kは、訂正事項Aによって、(1-1)で述べたとおり訂正前請求項3が削除されるのに伴い、【発明の効果】の記載について、訂正前請求項3に対応する段落0046の記載を削除することにより、特許請求の範囲の記載と内容上の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(12) 訂正事項Lについて:
訂正事項Lは、訂正事項Aによって、(1-3)で述べたとおり、訂正前請求項4に由来して訂正請求項2に訂正されたのに伴い、【発明の効果】の記載について、訂正前請求項4に対応する段落0047の記載を訂正して、訂正請求項2の記載と内容上の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(13) 訂正事項Mについて:
訂正事項Mは、訂正事項Aによって、(1-4)で述べたとおり、訂正前請求項5に由来して訂正請求項3に訂正されたのに伴い、【発明の効果】の記載について、訂正前請求項5に対応する段落0048の記載を訂正して、訂正請求項3の記載と内容上の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-2.まとめ
したがって、被請求人が平成19年2月22日に行った訂正請求は、特許法第134条の2第1項第1及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項において準用する第126条第3及び第4項の規定に適合するので、これを認める。
なお、請求人は、訂正請求について争っていない。(第1回口頭審理調書を参照。)

3.本件特許発明
2.のとおり訂正請求が認められるので、本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明3」という。)は、それぞれ、訂正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載されるとおりの事項を、発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)とする以下のものと認める。
「【請求項1】 ゴム芯(2)と、同ゴム芯(2)を被覆して外皮となる組紐(3)とにより構成されるゴム芯入り組紐(10)に所定間隔ごとに冷却固化剤を塗布して固化部(4)を形成し、
同固化部(4)においてゴム芯入り組紐(10)を切断することにより両端を固化させた短尺ゴム芯入り組紐(1)を形成し、
同短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を非固化状態とした後に、両端にそれぞれアセトンを塗布し、
次いで、短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布してアセトンと混合し、ゴム芯(2)に沿ってシアノアクリレート系接着剤の一部を伸延させることによりゴム芯(2)と組紐(3)とをシアノアクリレート系接着剤によって一体化させながら短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を接合してリング状としていることを特徴とするゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項2】 アセトン及びシアノアクリレート系接着剤を塗布した短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を突き合わせることにより形成される接合部(1b)に整形作業用テープ(11)を巻回し、シアノアクリレート系接着剤の硬化前に整形作業用テープ(11)の外周面を押圧することによりシアノアクリレート系接着剤を組紐(3)に含浸させていることを特徴とする請求項1記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項3】 組紐(3)の厚みを0.5mm以上としていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。」
なお、本件訂正発明1?3は、いずれも、「ゴム芯入り組紐リングの製造方法」に係る発明である。

4.請求人の主張
4-1.請求の趣旨
請求人は、本件特許第3759436号を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする趣旨の無効審判を請求し、証拠方法として、以下の甲第1?16号証の書証を提出している。

甲第1号証: 特許第3759436号公報(本件に係る特許掲載公報)
甲第2号証: 特開平8-308628号公報
甲第3号証: 特開平10-291558号公報
甲第4号証: 特開2000-141289号公報
甲第5号証: 特開昭57-92847号公報
甲第6号証: 特許第2515673号公報
甲第7号証: 特開平6-124931号公報
甲第8号証: 1995年7月発行の東亞合成株式会社「瞬間接着剤アロンアルファR○」のカタログの写し
(合議体注: なお、「R○」は、○の中に文字「R」が記載された、文字記号である。)
甲第9号証: 前田勝啓著「技術ブックス 高性能を生む接着剤えらび」(平成11年7月25日初版第10刷発行、株式会社技術評論社)第36、37、96、97ページの写し
甲第10号証: 特許第3560602号公報
甲第11号証: 「試験報告書」「試06-0445号」、財団法人化学技術戦略推進機構高分子試験・評価センター大阪事業所、平成18年5月25日作成
甲第12号証: 「試験報告書」「No.442-06-A-0941」、財団法人化学物質評価研究機構、平成18年5月25日作成
甲第13号証: 「試験報告書」「試06-1898号」、財団法人化学技術戦略推進機構高分子試験・評価センター大阪事業所、平成18年12月8日作成
甲第14号証: 「証明書」「切断試験報告書」、財団法人近畿高エネルギー加工技術研究所、平成19年4月9日作成
甲第15号証: 「試験報告書」「試07-0052号」、財団法人化学技術戦略推進機構高分子試験・評価センター大阪事業所、平成19年4月9日作成
甲第16号証: 「試験報告書」「試07-0053号」、財団法人化学技術戦略推進機構高分子試験・評価センター大阪事業所、平成19年4月9日作成

なお、請求人は、この外に、参考試料1?参考試料3を提出している。

4-2.請求人が主張する無効理由1
本件訂正発明1?3に係る本件特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとする、請求人が主張する無効理由1は、要するところ、
本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明と、甲第4、5及び9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、というにあり、
本件訂正発明2、3は、甲第2?9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、というにある。

4-3.請求人が主張する無効理由2
本件訂正発明1?3に係る本件特許が、特許法第36条第4項の規定に違反してされたものであるとする、請求人が主張する無効理由2は、要するところ、
本件の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない、というにある。

5.被請求人の主張
被請求人は、結論と同旨の主張をしている。
なお、被請求人は、甲第1?16号証の成立を争っていない。(第1回口頭審理調書を参照。)

6.甲第2?16号証の記載事項
6-1.甲第2号証には、以下の記載がある。
ア: 「【請求項1】 ゴム芯と、該ゴム芯を被覆する外皮組紐とで構成されるゴム芯入り組紐をリング状に形成した伸縮自在のゴム芯入り組紐リングにおいて、外皮組紐を接着剤により硬化させて切断した切断端面を有する硬化部を備え、該硬化部の切断端面同士が互いに接着された接合部を備えることを特徴とするゴム芯入り組紐リング。

【請求項6】 ゴム芯と、該ゴム芯を被覆する外皮組紐とで構成されるゴム芯入り組紐をリング状に形成した伸縮自在のゴム芯入り組紐リングの製造方法において、ゴム芯入り組紐に、所定間隔毎に接着剤を含浸させてゴム芯と外皮組紐とを分離不能に一体に接着すると共に外皮組紐を硬化させた硬化部を形成する工程と、該ゴム芯入り組紐を前記硬化部において切断して両端に硬化部の切断端面を備えるゴム芯入り組紐を形成する工程と、前記硬化部の切断端面同士を前記硬化部の接着剤と同質の接着剤を介して接着してリング状のゴム芯入り組紐を形成する工程とを備えることを特徴とするゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項7】 前記硬化部を形成する工程において、ゴム芯入り組紐に接着剤を含浸させた後に硬化促進剤を塗布して該接着剤を硬化させることを特徴とする請求項6記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項8】 前記硬化部の切断端面同士を接着剤を介して接着してリング状のゴム芯入り組紐を形成する工程において、単一のゴム芯入り組紐の両端に形成された硬化部の切断端面同士を互いに接着してリング状に形成することを特徴とする請求項6又は7記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項9】 前記硬化部の切断端面同士を接着剤を介して接着してリング状のゴム芯入り組紐を形成する工程において、両端に硬化部の切断端面を有する複数のゴム芯入り組紐をリング状に配設し、各ゴム芯入り組紐の両端の切断端面の互いに隣合う同士を接着してリングを形成することを特徴とする請求項6又は7記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。」(特許請求の範囲)
イ: 「従来…長尺のゴム芯入り組紐を所定の長さに切断したゴム芯入り組紐を形成し、このゴム芯入り組紐の両端を互いに接着してリング状に形成したものが知られている。」(段落0002)
ウ: 「本発明のゴム芯入り組紐リングの製造方法によれば、先ず、ゴム芯入り組紐に、所定間隔毎に接着剤を含浸させて硬化させた硬化部を形成する。次いで、該ゴム芯入り組紐を前記硬化部において切断する。こうすることにより、硬化部によって、ゴム芯入り組紐の外皮組紐の両端はほぐれることがない。更に、既に硬化されている硬化部を切断するので、切断端面を平坦に形成することができる。続いて、ゴム芯入り組紐の両切断端面を接着剤を介して互いに接着してリング状に形成する。ゴム芯入り組紐の両切断端面は平坦に形成されているので、リング状とするために互いに接着する際に正確かつ迅速に突き合わせることが可能である。」(段落0018)
エ: 「硬化部4は、図2に示すように、ゴム芯入り組紐2の両端部の外皮組紐6に接着剤7を含浸されて硬化されており、その端面8は平坦に形成されている。該硬化部4においては接着剤7の含浸・硬化によって外皮組紐6とゴム芯5とが接着された状態とされている。外皮組紐6とゴム芯5とは確実に接着されていることが好ましく、本実施例においては外皮組紐6とゴム芯5との接着状態を強固とするために硬化部4が比較的広い範囲に形成されている。これは、例えば、外皮組紐6内部でのゴム芯5の端面同士の接着はその端面が平滑であると共にその接着面積が極めて狭いのでゴム芯5同士が分離しやすい。それに対して本実施例においては硬化部4に位置するゴム芯5の端面近傍の周囲が外皮組紐6に接着された状態であるので、ゴム芯5同士はその端面同士の接着のみである場合に比して強固に接着され、外皮組紐6内でゴム芯5同士が剥離して移動することがない。」(段落0023)
オ: 「前記接合部3は、前記ゴム芯入り組紐2の硬化部4の端面8が接着剤9を介して互いに接合されている。前記硬化部4を形成するための接着剤7と接合部3において硬化部4の端面8を接合する接着剤9とは共に同質のものが使用されている。これにより、両接着剤7,9の親和性が高く接合部3における硬化部4の端面8の接合状態を強固とすることができる。」(段落0024)
カ: 「また、前記硬化部4により外皮組紐6の端部にほぐれが発生することを防止でき、硬化部4の平坦な端面8同士を接合するので接合部3の盛り上がりの形成を防止することができる。これによって、ゴム芯入り組紐リング1の美観を損ねることなく、また使用時にも接合部の盛り上がりによる悪影響が防止でき、優れた使用感を得ることができる。」(段落0025)
キ: 「なお、各接着剤7,9としては、シアノアクリレート系接着剤が適しており、本実施例においては、商品名「アロンアルファ」(東亞合成化学工業(株)製)を使用した。」(段落0026)
ク: 「硬化部4は、ゴム芯入り組紐2の外皮組紐6に接着剤7が含浸して硬化される。そして、硬化剤としてアミンを用いることにより前記接着剤7を極めて迅速に硬化させることができると共に、接着剤7を透明な状態で硬化させることができ、接着剤7が目立たない外観に優れた硬化部4を形成することができる。また、このとき使用される接着剤7はその粘度によって外皮組紐6に含浸する範囲を調整することができる。本実施例においては、接着剤7の粘度を200cpsとし、ゴム芯入り組紐2の長手方向に約2mmの範囲に接着剤7を含浸させている。これにより、外皮組紐6に含浸した接着剤7により外皮組紐6とゴム芯5とを強固に短時間で接着することができる。なお、外皮組紐6に接着剤7を含浸させる範囲は、外皮組紐6とゴム芯5との強固な接着状態が形成できればよく、接着剤7の種類に応じてその粘度を適宜設定して含浸する範囲が調整される。」(段落0031)
ケ: 「製造装置10から排出されたゴム芯入り組紐2は、図5(a)に示すように、接合治具24によってその両端が接合される。接合治具24は上下に分割自在のフッ素樹脂製ブロックであり、その分割位置に貫通する位置決め穴25を備えている。接合工程は、先ず、図5(b)に示すように、ゴム芯入り組紐2の硬化部4に形成された平坦な両端面8に接着剤9を塗布し、接合治具24の位置決め穴25に硬化部4を挿入する。これにより、図5(c)に示すように、位置決め穴25内で端面8同士が正確に一致した状態で当接し接着される。この時使用する接着剤9は、前記接着剤塗布装置19において使用する接着剤7と同質のものとし両接着剤7,9の親和性を得ている。更に、該接着剤9はその粘度を100cpsとして硬化速度を多少遅延させ、硬化部4において既に硬化している接着剤7の表面を接着剤9の溶剤によって溶解して一体的な接着を実現している。」(段落0034)

6-2、甲第3号証には、以下の記載がある。
コ: 「【請求項1】1○ゴム芯とそのゴム芯を覆うカバー組紐とで構成されるゴム芯入り組紐を希望の長さに切断する。
2○当社が混合して開発した300種類以上の混合液の中から上記ゴム芯入り組紐の素材に応じて最も接合に適した混合液を1種類もしくは素材によっては数種類選ぶ。
3○
(A)ゴム芯及び周囲の繊維に含まれる接着を阻害する有機物、繊維に含まれている静電気防止剤を排除し、脱脂作用をする
(B)多孔質であるゴムの孔部に浸透して極微の溶解作用を起こす
(C)ゴム芯とそのゴム芯を覆う繊維とを固定させる
(D)ゴム芯とそのゴム芯を覆う繊維に接着剤の媒介となる物質を浸透させる
(E)繊維の変色防止、接着剤の白化現象の防止
(F)接着剤のセットタイムを速める
2○で選ばれた混合液の作用として少なくとも上記の1つを有する混合液に、1○の切断したゴム組紐の両端を浸す。数種類の混合液を選んだ場合は素材に応じて浸す順序を設定する。
4○3○のゴム組紐を乾燥させた後、そのゴム組紐の両端をゴム芯が見える程度に、まっすぐに切り落とす。
5○次いで、両端の切断面の対応するゴム芯同志、ゴム芯を覆う繊維同志を接着剤によって接合する。
上記の工程をふまえてつくられる接合部に柔軟性を持たせ、つぎめをめだたなくした多目的実用バンドの製造方法。
【請求項2】請求項1の製造方法によってつくられた多目的実用バンドにおいて、接合部を洗浄し、接合部に柔軟性を持たせ、つぎめをめだたなくした多目的実用バンドの製造方法。
【請求項3】請求項1の製造方法によってつくられる多目的実用バンドにおいて、専用機械を用いて混合液を前記ゴム芯入り組紐にまんべんなくしみ込ませ乾燥させた後、希望の長さに切断し、両端部を切り落として接合し、次いで洗浄機にかけて製造される多目的実用バンドの製造方法。
【請求項4】請求項1乃至3の方法によって製造される多目的実用バンド。」(特許請求の範囲)
(合議体注: なお、「1○」は、○の中に数字「1」が記載された、いわゆる丸数字である。「2○」等についても同様である。)
サ: 「接合部における接着剤としてはシアノアクリレート系接着剤を使用し、」(段落0027)

6-3.甲第4号証には以下の記載がある。
シ: 「【請求項1】 内部に冷媒が貫流されてなる中空切断刃を用いることを特徴とするゴム状固体の切断方法。
【請求項2】 ゴム状固体が載置された台が中空切断刃に対して昇降されることを特徴とする請求項1記載のゴム状固体の切断方法。」(特許請求の範囲)
ス: 「【従来の技術】 ゴム状固体は、粘着性や弾性を有する為、切断刃に付着し易く、弾性変形して切断面が曲がることがある。そこで、ゴム状固体に冷却気体を噴射して硬化させ、切断を容易にすることは、特開昭57-92847号公報に示されているように公知である。」(段落0002)

6-4.甲第5号証には以下の記載がある。
セ: 「一定間隔で配列された複数の半導体ペレツト間に可撓性の保護物質を充填し、半導体ペレツトを連結一体化したものを個々の半導体ペレツトに分割するに当って、上記保護物質を冷却硬化させて切断するようにしたことを特徴とする半導体ペレツトの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
ソ: 「例えばウエーハ(4’)のゴム材(3)をカツター(12)で切断する際、第11図に示すようにカツター(12)の前方にゴム材(3)に向けたノズル(13)を配置して、このノズル(13)から窒素ガスなどの冷却気体(14)をゴム材(3)に噴射してゴム材(3)を急速冷却させる。而して、ゴム材(3)をカツター(12)で切断すると、ゴム材(3)の硬度が増して柔軟性や粘着性がほとんど無くなり、ウエーハ(4’)の位置決めが確実となり、ウエーハ(4’)が動くことなく、またカツター(12)にゴム材(3)が付着することなく、切断が容易となる。」(第2ページ下左欄第12行?下右欄第2行)

6-5.甲第6号証には以下の記載がある。
タ: 「【請求項1】 所望の長さに裁断された,ゴム芯と該ゴム芯を被覆するカバー組紐とで構成されるゴム芯入り組紐において、両端に位置する前記ゴム芯の端末同志をゴム用接着剤で断面接着接合し、かつ接合部に位置する前記カバー組紐を構成する繊維同志を、相互に絡み合わて繊維用接着剤で周面接着させて、繰り返し使用において十分な接合強度を保持する、外見上シームレスのごときリング形状に形成せしめてなることを特徴とする装飾用バンド。
【請求項2】 接合部のゴム芯の破断強度が非接合部分のゴム芯の平均破断強度の65%以上であることを特徴とする請求項1の装飾用パンド。
【請求項3】 接合部が伸縮性,柔軟性を有していることを特徴とする請求項1または2の装飾用バンド。
【請求項4】 ゴム芯と該ゴム芯を被覆するカバー組紐とで構成するゴム芯入り組紐を所望の長さに裁断し、両端に位置するゴム芯の端末同志をゴム用接着剤で断面接着した後、1○ゴム芯と該ゴム芯を被覆するカバー組紐とで構成するゴム芯入り組紐を所望の長さに裁断し、2○両端に位置するゴム芯の端末同志をゴム用接着剤で断面接着して接合した後、3○接合部に位置するカバー組紐を構成する繊維上に繊維用接着剤を滴下し、4○次いで当該接合カバー組紐を、コンベアベルト上のマンドレルに挿入し、5○マンドレルの自荷重による加圧下に進行方向に対して逆方向に自転させながらコンベアベルト上を連続的に移動させることにより、6○接合部に位置するカバー組紐を構成する繊維同志が互いに絡み合わされ、周面接着されて、リング形状に形成せしめられることを特徴とする装飾用バンドの製造方法。」(特許請求の範囲)

6-6.甲第7号証には以下の記載がある。
チ: 「【請求項1】 半導体ウェハなどの基板を研磨用定盤に貼付けるために使用する基板貼付用接着剤において、主成分がシアノアクリレート系であることを特徴とする基板貼付用接着剤。
【請求項2】 シアノアクリレートを塩素系有機溶剤を除いた溶剤で希釈した請求項1記載の基板貼付用接着剤。
【請求項3】 溶剤が、アセトンである請求項2記載の基板貼付用接着剤。
【請求項4】 溶剤が、アセトンを含み、これにエタノール,メタノール,イソプロピルアルコールのうち少なくとも1種以上を含む請求項1記載の基板貼付用接着剤。
【請求項5】 常温における粘度が、50cps以下であることを特徴とする請求項3又は4記載の基板貼付用接着剤。
【請求項6】 半導体ウェハなどの基板の研磨用定盤に対する接着強度が2kgf/cm^(2)以上で、50kgf/cm^(2)以下である請求項1記載の基板貼付用接着剤。
【請求項7】 金属の不純物濃度が1×10^(17)cm^(-3)以下である請求項1記載の基板貼付用接着剤。」(特許請求の範囲)

6-7.甲第8号証には以下の記載がある。
ツ: 「アロンアロファの化学成分は、アルファシアノアクリレート単量体(液体)が主体となっております。」(第2ページ)
テ: 「1.前処理法
(1)被着剤の片面をあらかじめaa・セッターを含浸した綿棒で拭き風乾した後、他面へアロンアルファを塗付して接着する。」(第13ページ)
ト: 「姉妹品
・アロンaa・セッターDM3、DM5、DM10、DM15(アセトン溶剤)
・アロンaa・セッター5、10、15(アルコール溶剤)
溶剤の種類が異なる2系統を用意していますので、被着材の種類に応じてお使いください。」(第13ページ)

6-8.甲第9号証には以下の記載がある。
ナ: 「6●瞬間接着剤…特徴…
室温で硬化する。アルカリで接着面を清拭すると速かに接着する。」(第36?37ページ)
ニ: 「2.2 接着前の表面処理
強固に接着しようとする場合、接着面の汚れをアセトンの含まれた布で拭いたり、さびのある面をサンドペーパーで磨いたりする。」(第96ページ)

6-9.甲第10号証には以下の記載がある。
ヌ: 「【請求項1】
ゴム芯(2)を繊維糸製伸縮性カバー(3)によって覆ったゴム芯入り紐(1)の1本又は複数本の端面どうしを接合してリング状又は紐状の伸縮性バンドを製造する方法において、
水と混合して用いられゴム芯入り紐(1)を固める作用のある固化作用成分と、水と、炭酸水素ナトリウム、イーストパウダー等の膨張剤とを含む固化剤を、ゴム芯入りの材料紐(1b)のゴム芯端面を含む端部に直接に塗布し、ゴム芯(2)の端部と伸縮性カバー(3)の端部を一体に固めると共に膨張剤の作用によって固化部分を多孔質に形成する工程、
材料紐(1b)の固化部分(10)上を平坦に切断して、ゴム芯入り紐(1)を得る工程、
ゴム芯入り紐(1)の切断端面に非水溶性の接着剤(5)を介して、切断端面どうしを突き合わせ、切断端面に表出する孔に該接着剤(5)を浸透させて端面どうしを接着し、ゴム芯入り紐(1)を繋ぐ工程を含む伸縮性バンドの製法。
【請求項2】
ゴム芯(2)を繊維糸製伸縮性カバー(3)によって覆ったゴム芯入り紐(1)の1本又は複数本の端面どうしを接合してリング状又は紐状の伸縮性バンドを製造する方法において、
水と混合して用いられゴム芯入り紐(1)を固める作用のある固化作用成分と、水と、該固化作用成分に対する分解菌もしくは分解酵素を含む固化剤を、ゴム芯入りの材料紐(1b)のゴム芯端面を含む端部に直接に塗布し、ゴム芯(2)の端部と伸縮性カバー(3)の端部を一体に固めると共に、分解菌又は無分解酵素の作用によって固化部分に孔を形成する工程、
材料紐(1b)の固化部分(10)上を平坦に切断して、ゴム芯入り紐(1)を得る工程、
ゴム芯入り紐(1)の切断端面に非水溶性の接着剤(5)を介して突き合わせ、切断面に表出する孔に該接着剤(5)を浸透させて端面どうしを接着し、ゴム芯入り紐(1)を繋ぐ工程を含む伸縮性バンドの製法。
【請求項3】
ゴム芯(2)を繊維糸製伸縮性カバー(3)によって覆ったゴム芯入り紐(1)の1本又は複数本の端面どうしを接合してリング状又は紐状の伸縮性バンドを製造する方法において、
水と混合して用いられゴム芯入り紐(1)を固める作用のある固化作用成分と、水と、有機溶剤系洗浄剤を含む固化剤を、ゴム芯入りの材料紐(1b)のゴム芯端面を含む端部に直接に塗布し、ゴム芯(2)の端部と伸縮性カバー(3)の端部を一体に固めると共に、有機溶剤系洗浄剤の作用によつて固化部分に孔を形成する工程、
材料紐(1b)の固化部分(10)を平坦に切断して、ゴム芯入り紐(1)を得る工程、
ゴム芯入り紐(1)の切断端面に非水溶性の接着剤(5)を介して、切断端面どうしを突き合わせ、切断端面に表出する孔に該接着剤(5)を浸透させて端面どうしを接着し、ゴム芯入り紐(1)を繋ぐ工程を含む伸縮性バンドの製法。
【請求項4】
ゴム芯入り組紐の端面どうしの接合に際し、一方の端面にのみ非水溶性接着剤(5)を塗布してから、両端面を突合せ接合する請求項1乃至3の何れかに記載の伸縮性バンドの製法。
【請求項5】
材料紐(1b)の固化部分(10)上を平坦に切断してゴム芯入り紐(1)を得る工程の後に、突合せ接合すべきゴム芯(2)の夫々端面に所定深さの穴(20)(20)を開設する工程を含み、ゴム芯入り紐(1)の夫々端面どうしを接着する際に、両穴(20)(20)に接着剤を侵入させる請求項1乃至4の何れかに記載の伸縮性バンドの製法。
【請求項6】
突合せ接合すべきゴム芯(2)の夫々端面に穴(20)(20)を開設する工程、両穴(20)(20)に跨って接合強化用小片(6)を挿入する工程を含む、請求項1乃至5の何れかに記載の伸縮性バンドの製法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかの方法で形成され、固化剤によって固化し且つ該固化部に生じた孔に、非水溶性の接着剤(5)が浸透し固化しているリング状伸縮性バンド。
【請求項8】
請求項1乃至6の何れかの方法で形成され、固化剤で固化し且つ固化部に生じた孔に、非水溶性の接着剤(5)が浸透し固化している紐状伸縮性バンド。」(特許請求の範囲)
ネ: 「有機溶剤系洗浄剤は、ゴム芯の端面からゴム内部の微細な孔に浸透して孔を詰まらせている汚れ、油分及び固化作用成分を洗浄剤が除去すると共に、洗浄剤自体は気化して、孔を残す働きがある。
有機溶剤系洗浄剤として、アノン、メタノ-ル、メチルエチルケトン、プロピレンジクロライド、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、トルエン、n-ヘプタン、アセトン等を挙げることができる。」(段落0022)

6-10.甲第11号証には、ゴム芯入り組紐について、液体窒素に浸漬し冷却した後に切断したものと、液体窒素に浸漬しないもの、との切断試験の結果が記載されている。

6-11.甲第12号証には、栄光通商株式会社製ゴム芯入り組紐リングと、特許第3759436号明細書記載のゴム芯入り組紐リングとについて、破断までの最大荷重(N)の測定結果が記載されている。

6-12.甲第13号証には、切断したゴム組紐端面のシアノアクリレート系接着剤による接着の有無及び該ゴム紐の両端面のアセトン浸漬の有無、とによる接着の有無及び接着剤の浸透深さの測定結果が記載されている。

6-13.甲第14号証には、冷却固化させたゴム芯入り組紐をレーザ切断機で切断し、常温に戻したときの切断端面の写真撮影の結果が記載されている。

6-14.甲第15号証には、レーザーにより切断したゴム組紐の端面を、アセトンに浸した場合と浸さない場合における、シアノアクリレート系接着剤の浸透深さの測定結果が記載されている。

6-15.甲第16号証には、レーザーにより切断したゴム組紐の端面を、アセトンに浸した場合と浸さない場合における、シアノアクリレート系接着剤による接着の引張強度の測定結果が記載されている。

7.無効理由1(特許法第29条第2項違反)についての検討
7-1.本件訂正発明1についての検討
7-1-1.甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、ゴム芯入り組紐リングの製造方法に関して、摘示ア(特に、請求項8)、イ、キ、ケから、
「ゴム芯と、該ゴム芯を被覆する外皮組紐とで構成されるゴム芯入り組紐をリング状に形成した伸縮自在のゴム芯入り組紐リングの製造方法において、
ゴム芯入り組紐に、所定間隔毎にシアノアクリレート系接着剤を含浸させてゴム芯と外皮組紐とを分離不能に一体に接着すると共に外皮組紐を硬化させた硬化部を形成する工程と、
該ゴム芯入り組紐を前記硬化部において所定の長さに切断して両端に硬化部の切断端面を備えるゴム芯入り組紐を形成する工程と、
単一のゴム芯入り組紐の両端に形成された硬化部の切断端面に接着剤を塗布し、切断端面同士を前記硬化部の接着剤と同質であるシアノアクリレート系接着剤を介して接着してリング状のゴム芯入り組紐を形成する工程とを
備えることを特徴とするゴム芯入り組紐リングの製造方法。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

7-1-2.本件訂正発明1と甲2発明との対比
本件訂正発明1(以下、「前者」という。)と甲2発明(以下、「後者」という。)とを対比すると、後者における「硬化部」、及び「所定の長さに切断」した「単一のゴム芯入り組紐」は、それぞれ、前者における「固化部」、及び「短尺ゴム芯入り組紐」に相当すると認められるから、
両者は、
「ゴム芯と、同ゴム芯を被覆して外皮となる組紐とにより構成されるゴム芯入り組紐に所定間隔ごとに固化部を形成し、
同固化部においてゴム芯入り組紐を切断することにより両端を固化させた短尺ゴム芯入り組紐を形成し、
次いで、短尺ゴム芯入り組紐の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布して、短尺ゴム芯入り組紐の両端を接合してリング状とする、
ゴム芯入り組紐リングの製造方法」において一致し、
以下の相違点1?4において相違する。

相違点1: 所定間隔ごとに固化部を形成するために、前者では、「冷却固化剤を塗布」するのに対して、後者では、「シアノアクリレート系接着剤接着剤を含浸させてゴム芯と外皮組紐とを分離不能に一体に接着すると共に外皮組紐を硬化させた硬化部を形成」する点、
相違点2: 前者では、短尺ゴム芯入り組紐の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布するに先だち、「短尺ゴム芯入り組紐の両端を非固化状態」とするのに対して、後者では、短尺ゴム芯入り組紐の両端を非固化状態とするかどうかが不明である点、
相違点3: 前者では、短尺ゴム芯入り組紐の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布するに先だち、該「両端にそれぞれアセトンを塗布」するのに対して、後者では、アセトンを塗布しているかどうかが不明である点、
相違点4: 前者では、「短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布してアセトンと混合し、ゴム芯(2)に沿ってシアノアクリレート系接着剤の一部を伸延させる」のに対して、後者では、シアノアクリレート系接着剤をアセトンと混合するかどうかが不明であり、また、該シアノアクリレート系接着剤の一部がゴム芯に沿って伸延するかどうかが不明である点。

7-1-3.相違点についての検討
7-1-3-1.相違点1について
相違点1についての検討は、後者における「シアノアクリレート系接着剤接着剤を含浸させてゴム芯と外皮組紐とを分離不能に一体に接着すると共に外皮組紐を硬化させた硬化部を形成」する方法を、「冷却固化剤を塗布」する方法に転換することが、当業者にとって容易であるか否かの検討に帰着する。

まず、甲第4号証には、摘示スに、「ゴム状固体は、粘着性や弾性を有する為、切断刃に付着し易く、弾性変形して切断面が曲がることがある。そこで、ゴム状固体に冷却気体を噴射して硬化させ、切断を容易にすることは、特開昭57-92847号公報に示されているように公知である。」と記載され、甲第5号証には、摘示ソに、「例えばウエーハ(4’)のゴム材(3)をカツター(12)で切断する際、第11図に示すようにカツター(12)の前方にゴム材(3)に向けたノズル(13)を配置して、このノズル(13)から窒素ガスなどの冷却気体(14)をゴム材(3)に噴射してゴム材(3)を急速冷却させる。而して、ゴム材(3)をカツター(12)で切断すると、ゴム材(3)の硬度が増して柔軟性や粘着性がほとんど無くなり、ウエーハ(4’)の位置決めが確実となり、ウエーハ(4’)が動くことなく、またカツター(12)にゴム材(3)が付着することなく、切断が容易となる。」と記載されていることから、ゴム材料を切断する際に、切断箇所を冷却すると切断が容易となることは、当業者に知られている技術的事項であるといえる。したがって、ゴム材料における切断箇所に冷却固化剤を塗布すること自体は、技術的に困難なことではない。

しかしながら、甲第2号証には、摘示ウに、「本発明のゴム芯入り組紐リングの製造方法によれば、先ず、ゴム芯入り組紐に、所定間隔毎に接着剤を含浸させて硬化させた硬化部を形成する。次いで、該ゴム芯入り組紐を前記硬化部において切断する。こうすることにより、硬化部によって、ゴム芯入り組紐の外皮組紐の両端はほぐれることがない。更に、既に硬化されている硬化部を切断するので、切断端面を平坦に形成することができる。」と、摘示エに、「硬化部4においては接着剤7の含浸・硬化によって外皮組紐6とゴム芯5とが接着された状態とされている。外皮組紐6とゴム芯5とは確実に接着されていることが好ましく、本実施例においては外皮組紐6とゴム芯5との接着状態を強固とするために硬化部4が比較的広い範囲に形成されている。…本実施例においては硬化部4に位置するゴム芯5の端面近傍の周囲が外皮組紐6に接着された状態であるので、ゴム芯5同士はその端面同士の接着のみである場合に比して強固に接着され、外皮組紐6内でゴム芯5同士が剥離して移動することがない。」と記載されていることから、ゴム芯入り組紐の切断箇所において、ゴム芯と組紐をあらかじめ接着させてから、切断を行い、かつ、ゴム芯と組紐が接着した状態で、端面同士を接着してリングを形成することにより所期の効果を奏するという、切断箇所においてあらかじめ硬化部を形成することの技術的意義が開示されている。
しかも、甲第2号証には、摘示オに、「硬化部4を形成するための接着剤7と接合部3において硬化部4の端面8を接合する接着剤9とは共に同質のものが使用されている。これにより、両接着剤7,9の親和性が高く接合部3における硬化部4の端面8の接合状態を強固とすることができる。」と、摘示クに、「接着剤7の粘度を200cpsとし、ゴム芯入り組紐2の長手方向に約2mmの範囲に接着剤7を含浸させている。これにより、外皮組紐6に含浸した接着剤7により外皮組紐6とゴム芯5とを強固に短時間で接着することができる。」と記載され、摘示ケに、「接合工程は、…使用する接着剤9は、前記接着剤塗布装置19において使用する接着剤7と同質のものとし両接着剤7,9の親和性を得ている。更に、該接着剤9はその粘度を100cpsとして硬化速度を多少遅延させ、硬化部4において既に硬化している接着剤7の表面を接着剤9の溶剤によって溶解して一体的な接着を実現している。」と記載されていることから、ゴム芯入り組紐の切断箇所には、接着剤9、すなわち、シアノアクリレート系接着剤と同質であるシアノアクリレート系接着剤を使用することが必須であることが開示されている。

してみると、たとえ、ゴム材料において、切断箇所を冷却することが広く知られた技術的事項であるとしても、甲2発明において、あらかじめ、シアノアクリレート系接着剤により外皮組紐とゴム芯とを接着する工程を排除することは、甲2発明の課題を解決する以上、阻害要因があるというべきであるから、あらかじめ、シアノアクリレート系接着剤により外皮組紐とゴム芯とを接着する工程に換えて、冷却固化剤を塗布するという工程を採用することを、当業者が容易に思い至るとする余地はない。
更に、甲第3、6?9号証をみても、相違点1についての記載も示唆も見当たらない。

したがって、相違点1は、当業者が容易に想到しうる程度のことであるとはいえない。

7-1-3-2.相違点2について
相違点2に係る、「非固化」状態とすることについては、本件訂正発明1にあっては、「冷却固化剤を塗布」して固化部を形成するという、相違点1に係る工程に続いて、短尺ゴム芯入り組紐の両端の接合を、常温など、「冷却」温度より相当程度高い温度条件において実施しようとする場合には、通常、採用される工程であるということができる。
これに対して、甲2発明にあっては、相違点1のように、冷却固化を行うものではなく、切断箇所に形成されている「硬化部」は、シアノアクリレート系接着剤が、ゴム芯入り組紐の外皮組紐に含浸して硬化されてなるものであって、しかも、摘示エの「硬化部4においては接着剤7の含浸・硬化によって外皮組紐6とゴム芯5とが接着された状態とされている。外皮組紐6とゴム芯5とは確実に接着されていることが好ましく、本実施例においては外皮組紐6とゴム芯5との接着状態を強固とするために硬化部4が比較的広い範囲に形成されている。」との記載からみて、外皮組紐とゴム芯とが、有意の長さにわたって、硬化したシアノアクリレート系接着剤を介して、接着しているものであって、その後、シアノアクリレート系接着剤の硬化状態に変化を及ぼすような特段の処理を施しているものではないから、固化した状態から、何らかの「非固化」の状態に移行することは想定できない。
したがって、相違点2は、相違点1が、当業者が容易に想到しうる程度のことであるとはいえないことから、また、甲2発明において、「非固化」とすることについて阻害要因があることから、当業者が容易に想到しうる程度のことではない。

7-1-3-3.相違点3について
甲第3号証の摘示サ、甲第8号証の摘示テ、ト、甲第9号証の摘示ナ、ニに開示されるように、シアノアクリレート系接着剤による接着に際しても、あらかじめアセトン等の溶剤を塗布するなどの処理を施して、接着面を清浄化することは、周知慣用の技術と認められる。
してみれば、後者においても、シアノアクリレート系接着剤を塗布するに先だち、短尺ゴム芯入り組紐の両端に、単にアセトン系の溶剤を塗布することは、当業者が適宜採用しうる事項であるから、相違点3は、当業者にとって容易である。

7-1-3-4.相違点4について
アセトン等の溶剤塗布による接着面を清浄化する処理が周知慣用であることは、7-1-3-3.で述べたとおりであるが、甲第3号証の摘示コの「4○3○のゴム組紐を乾燥させた後、そのゴム組紐の両端をゴム芯が見える程度に、まっすぐに切り落とす。
5○次いで、両端の切断面の対応するゴム芯同志、ゴム芯を覆う繊維同志を接着剤によって接合する。」との記載や、甲第8号証の摘示テの「(1)被着剤の片面をあらかじめaa・セッターを含浸した綿棒で拭き風乾した後、他面へアロンアルファを塗布して接着する。」との記載にもみられるように、接着面の処理に用いたアセトン等の溶剤は、接着剤の塗布前に乾燥除去されるのが、通常採用される方法と解され、接着剤を塗布する時点まで、該アセトン等の溶剤を残しておくことが通例の態様であると認めるべき理由は見い出せないから、相違点3に係る、「シアノアクリレート系接着剤を塗布してアセトンと混合」する方法を採用することが、当業者が、容易に想到することであるということはできず、ましてや、「短尺ゴム芯入り組紐の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布してアセトンと混合し、ゴム芯に沿ってシアノアクリレート系接着剤の一部を伸延させる」ことは、当業者が容易に想到する程度のことではない。

なお、この点に関わって、請求人は、「甲第9号証に開示されている、アセトンで被着面を拭いたり、被着面を洗浄してから、シアノアクリレート系接着剤を塗布することも、アセトンとシアノアクリレート系接着剤の混合である。」(弁駁書)、と主張しているが、先に述べたように、被着面を拭いたり、被着面を洗浄するために使用したアセトンを、シアノアクリレート系接着剤を塗布する時点まで残しておくことが通例の態様とは認められないから、甲第9号証に開示されるアセトンとシアノアクリレート系接着剤の塗布が「混合」に相当するとする理由はない。また、請求人は、「甲第7号証には、アセトンを含む溶剤でシアノアクリレートを希釈する接着剤が開示されている。」(審判請求書)、とも主張しているが、本件訂正発明1が、「ゴム芯入り組紐リングの製造方法」という、「ものを製造する方法」に関する発明であるところ、アセトンを含む溶剤でシアノアクリレートを希釈した接着剤を使用することは、「シアノアクリレート系接着剤を塗布してアセトンと混合」する方法に該当しないことは文理上も明らかであるから、甲第7号証の記載をみても、相違点4が当業者にとって容易に想到することができたことであるということはできない。

7-1-4.本件訂正発明1についてのまとめ
以上のとおり、相違点1、2及び4は、当業者が容易に想到することができたものではない。
そして、本件訂正発明1は、「低コストでゴム芯入り組紐リングを製造することができるとともに、接合部分の接合強度を向上させることができる」という明細書記載の効果を奏するものと認められる。
したがって、本件訂正発明1が、甲第2号証に記載された発明と、甲第4、5及び9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできず、更に、甲第2?9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする理由も見当たらない。

7-2.本件訂正発明2、3についての検討
本件訂正発明2、3は、その発明特定事項として、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて備え、更に、整形作業用テープの使用(本件訂正発明2)、又は、組紐の厚みの特定(本件訂正発明3)を発明特定事項に備えるものであるから、本件訂正発明1について検討した結果と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

7-3.無効理由1についてのまとめ
よって、本件訂正発明1?3に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない

8.無効理由2(特許法第36条第4項違反)についての検討
8-1.請求人が不備を指摘する明細書の発明の詳細な説明の記載
請求人が、明細書の発明の詳細な説明の記載について、その記載では、当業者が発明を実施できないとして、不備を指摘している点は、以下の主張点(1)?(11)であると認められる。
なお、主張点(1)?(4)は、審判請求書において、主張点(5)?(8)は、弁駁書において、主張点(9)?(11)は、口頭審理陳述要領書において、それぞれ主張されたものである。
主張点(1) 明細書の段落0015について:
「アセトンと混合されることになるシアノアクリレート系接着剤はジェル状に変質し、粘性を低下させることができるとともに…」については、液体がジェル状に変質すれば、『粘性が高くなる』ので、記載不備である旨、
主張点(2) 明細書の段落0033について:
「シアノアクリレート系接着剤…の塗布の際には、短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1aを上方に向けて塗布を行なっており、さらにあらかじめ同両端1a,1a部分にアセトンを塗布していることによって、接着剤6はアセトンと混合してジェル状に変質し、ゴム芯2に沿ってゴム芯2と組紐3との間の空間をゆっくりと流れ広がりながら伸延するようにしている(図3(a)参照)。さらに、組紐3に含浸したアセトンが誘引作用を生起して組紐3を構成している繊維の隙間にも接着剤6が含浸していくようにしている。」は、事実ではない。ジェル状の接着剤が、ゴム芯2に沿ってゴム芯2と組紐3との間の空間をゆっくりと流れ広がることは考えられない旨、
主張点(3) 明細書の段落0011について:
「冷却固化することによって、切断にともなって組紐がほつれたり毛羽立ったりすることを防止することができ、かつ、ゴム芯部分の切断面が均質な平坦面となるように切断を行なうことができ、後述する短尺ゴム芯入り組紐の両端どうしの接合を良好に行なうことができる。」については、
一旦冷却固化して切断した後、得られた短尺ゴム芯入り組紐を非固化状態に戻すと、切断端部の布繊維が毛羽立って膨らみ、ゴム芯は少し縮んでゴム芯の端部は、布繊維の端部よりも凹み、外部からは殆んど見えなくなるから、短尺ゴム芯入り組紐の両端どうしの接合を良好に行なうことができるものではない旨、
主張点(4) 明細書の段落0036、0037について:
「…ゴム芯2と組紐3との間に接着剤6を伸延させた短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1aを互いに突き合わせて接合すると、図3(b)に示すように接合部1b部分が団子状に膨出した形状となる。
接着剤6が速乾性であれば膨出状態のまますぐに硬化してしまうが、本発明ではアセトンと混合されることにより上述したように接着剤6は遅乾性となっているので、短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1aを接合状態とした後、図3(c)に示すように、接合部1bに整形作業用テープ11を巻回し、さらに、接着剤6が硬化する前に整形作業用テープ11の外周面を押圧することにより、接合部1b部分において膨出に荷担している接着剤6をゴム芯2に沿ってさらに伸延させるとともに、一部を組紐3に含浸させながら整形し、膨出形状を解消するようにしている。」については、甲第12号証の引張強度試験の結果からみて、この工程を実施すると、接合部に対する外側の加圧によって、まだ十分に接着していないゴム芯の端部が離れて、接合部の引っ張り強度が大幅に低下し、実用に耐えない旨、
主張点(5) 第1訂正請求により訂正された請求項1に係る発明にあっては、ゴム芯入り組紐全体を冷却固化して切断することを積極的に排除していない旨、及び、仮に被請求人の主張が、ゴム芯入り組紐の切断予定部だけを冷却固化し、該冷却固化部分を切断してから非固化状態に戻す場合に限って、ゴム芯入り組紐の切断部に解れが生じず、ゴム芯の端部が組紐から凹んだ状態とならないとの趣旨であるならば、実験によってそれを立証する責任は被請求人にある旨、
主張点(6) 被請求人が主張する如く、「鋏」による切断なるが故に、本件特許に係る発明を再現実施することができないのであれば、特許請求の範囲の記載において切断手段を特定する必要がある旨、
主張点(7) 甲第13号証の試験によれば、アセトンで前処理をしても、しなくても、接着剤の浸透深さに差異は認められないから、アセトンと混合してジェル状に変質して粘度が高まったシアノアクリレート系接着剤が、ゴム芯2に沿ってゴム芯2と組紐3との間の空間をゆっくりと流れ広がりながら伸延することはない旨、
主張点(8) 甲第13号証の試験によれば、シアノアクリレート系接着剤であっても、ロックタイト製(一般用:CA-303)、東亞合成(株)製のアロンアルファ(プロ用No.1:#30145)では、試験片を接着できない旨、
主張点(9) 甲第14号証の試験結果によれば、ゴム芯入り組紐の冷却固化部をレーザ切断機で切断した場合は、凹み具合は布に隠れてしまう程には顕著ではないが、ゴム芯は布繊維の端部よりも凹む旨、
主張点(10) 甲第15号証の試験結果によれば、ゴム芯入り組紐の切断端面にアセトンを塗布すると、アセトンは組紐の繊維に浸み、該アセトンが気化し切らない内に、シアノアクリレート系接着剤を塗布すると、該接着剤はジェル状に変化するが、ジェル状となった接着剤は、アクリレート系接着剤単体をゴム芯入り組紐の切断端面に塗布した場合に較べて、接着剤の伸延性には殆んど変化は見られない旨、
主張点(11) 甲第16号証の試験によれば、ゴム芯の切断端面にアセトンを塗布してからシアノアクリレート系接着剤を塗布し、切断端面同士を突き合わせた場合、ジェル状に変化したシアノアクリレート系接着剤がゴム芯の切断端面上で形成する層の厚みは、シアノアクリレート系接着剤単体の場合に較べて厚くなり、接着強度は大幅に低下し、満足できる接着強度は得られない旨。

ところで、特許法第36条第4項第1号において、発明の詳細な説明の記載について、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と規定する、いわゆる実施可能要件の趣旨は、
その発明の属する技術分野において研究開発(文献解析、実験、分析、製造等を含む)のための通常の技術的手段を用い、通常の創作能力を発揮できる者(当業者)が、明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、請求項に係る発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならない旨を意味するものであって、
明細書及び図面に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて、当業者が発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかが理解できないとき(例えば、どのように実施するかを発見するために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるとき)には、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されていないこととなる、というものであるから、
本件明細書の発明の詳細な説明の記載では、文章が意味不明であったり、科学原理に反する内容であったりするために、どのように発明を実施するのかが理解できないものであるか否か、又は、文章としては理解できても、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を要求するものであるか否か、を中心にして、以下検討する。

8-2.主張点(1)?(4)(審判請求書における主張)についての検討
8-2-1.主張点(1)について
2.で検討したように、明細書の段落0015は、明りょうでない記載の釈明を目的として、
「このとき、接着剤塗布前処理剤としてアセトンを使用し、接着剤としてシアノアクリレート系接着剤を使用することにより、アセトンと混合されることになるシアノアクリレート系接着剤はジェル状に変質し、粘性を低下させることができるとともに、速乾性を低下させることができ、強固な接着を行なうのに必要な量の接着剤を短尺ゴム芯入り組紐の両端に保持させやすくすることができる。」から、「このとき、接着剤塗布前処理剤としてアセトンを使用し、接着剤としてシアノアクリレート系接着剤を使用することにより、アセトンと混合されることになるシアノアクリレート系接着剤はジェル状に変質し、速乾性を低下させることができ、強固な接着を行なうのに必要な量の接着剤を短尺ゴム芯入り組紐の両端に保持させやすくすることができる。」と訂正された(訂正事項H)。
この結果、主張点(1)に関わる箇所の記載は、「シアノアクリレート系接着剤はジェル状に変質し、粘性を低下させることができるとともに、速乾性を低下させることができ、」から、「シアノアクリレート系接着剤はジェル状に変質し、速乾性を低下させることができ、」に変更され、変更後の記載に特段の矛盾は見当たらない。なお、請求人は、先に2-2.で述べたように、訂正事項Hを争っていない。
そして、請求人が不備を指摘した点、すなわち、液体がジェル状に変質すれば、『粘性が高くなる』にもかかわらず、「粘性を低下させることができる」と記載していたことによる不備はもはや存在し得ない。
したがって、明細書の段落0015の記載に関わって、発明の詳細な説明の記載では、本件訂正発明1?3の実施をすることができない、とすることはできない。

8-2-2.主張点(2)について
明細書の段落0033の記載によれば、「(シアノアクリレート系)接着剤6はアセトンと混合してジェル状に変質し、ゴム芯2に沿ってゴム芯2と組紐3との間の空間をゆっくりと流れ広がりながら伸延する」とされるのであるが、まず、シアノアクリレート系接着剤は、通常、液状で流動性が高いことが当業者に知られているものであるところ、請求人も認めているように、アセトンと混合して「ジェル状」に変質すると、粘性が高くなることが当然推察されることであり、他方、一切流動不可能なほど高粘度でもないと推察されるから、その流動を定性的に「ゆっくり」と称すること自体に特段の矛盾はない。
したがって、明細書の段落0033の記載に関わって、発明の詳細な説明の記載では、本件訂正発明1?3の実施をすることができない、とすることはできない。

8-2-3.主張点(3)について
請求人の主張の論理は、要するに、一旦冷却固化して切断した後、得られた短尺ゴム芯入り組紐を非固化状態に戻すと、ゴム芯が縮んで、ゴム芯の端部が外部からは殆んど見えなくなるため、短尺ゴム芯入り組紐の切断端部の接着は、組紐の繊維どうしの接着のみで、ゴム芯の端面どうしが接着されないから、本件訂正発明1?3に係るゴム芯入り組紐リングの製造方法の発明の実施をすることができないというものである、と認められる。
しかしながら、本件明細書の段落0021、0022には、「【実施例】
図1は、ゴム芯入り組紐10を短尺ゴム芯入り組紐1に切断する切断工程を示しているものである。ゴム芯入り組紐10は、図3に示すように、糸状に成形されたゴム芯2を中空の略円筒状となっている組紐3内に挿通させて構成しており、かつ、組紐3は伸縮するゴム芯2と同様に伸縮するようにしている。
ゴム芯入り組紐10は、適宜のリール20等の巻取体に巻き取られた形態で供給され、同リール20ごと送給装置30に組み付けられ、引き出されるようにしている。」と記載されており、特に、「組紐3は伸縮するゴム芯2と同様に伸縮するようにしている」との記載にかんがみても、組紐とゴム芯とに負荷されている張力に顕著な差が与えられているものとは解されないから、冷却固化、切断、非固化の過程を経たとしても、短尺ゴム芯入り組紐の切断端部のゴム芯が縮んで、ゴム芯の端部が外部からは殆んど見えなくなることは考えられない。なお、組紐とゴム芯との間に顕著な温度差が生じて膨張率の差による長さの差が生じるようなことも予測されることではない。
したがって、明細書の段落0011の記載に関わって、発明の詳細な説明の記載では、本件訂正発明1?3の実施をすることができない、とすることはできない。

なお、この点、請求人は、参考資料1?3を提示して、主張点(3)を裏付けようとしている。
しかしながら、先に述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると、切断により得られた短尺ゴム芯入り組紐を非固化状態に戻すと、ゴム芯が縮んで、ゴム芯の端部が外部からは殆んど見えなくなり、ゴム芯の端面どうしが接着されない、と解すべきものとは認められないものである。
しかも、請求人自身、この主張(3)に関わっては、「短尺ゴム芯入り組紐に対して、普通に上記3○4○の工程を実施しても、短尺ゴム芯入り組紐の両端の毛羽立った繊維どうしが接着するだけで、ゴム芯の端面どうしが接着されることはない。」(審判請求書第27ページ第2?4行。なお、「3○」、「4○」は、それぞれ、「短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端にそれぞれ接着剤塗布前処理剤を塗布し、」、「次いで、短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端に接着剤(6)を塗布する。」ことである。)と述べるにとどまり、請求人が準備したゴム芯入り組紐を用いて実施した「普通」の方法では、ゴム芯の端面どうしが接着できなかった事実を述べているだけで、本件明細書の発明の詳細な説明の記載では、原理的に発明を実施できないと主張するものでも、過度の試行錯誤や複雑高度な実験を要するものであることを立証したものでもない。
よって、参考試料1?3を考慮してもなお、主張点(3)は、採用できない。

8-2-4.主張点(4)について
主張点(4)は、要するに、発明の詳細な説明の記載、特に段落0036、0037の記載では、整形作業用テープを使用し、該整形作業用テープの外周面を押圧する本件訂正発明3の実施をすることができない、と主張するものと認められる。
そして、請求人は、「(接合部1bに整形作業用テープ11を巻回し、さらに、接着剤6が硬化する前に整形作業用テープ11の外周面を押圧する)工程を実施すると、接合部に対する外側の加圧によって、まだ十分に接着していないゴム芯の端部が離れて、接合部の引っ張り強度が大幅に低下し、実用に耐えない。」(審判請求書第27ページ末行?第28ページ第6行)と述べている。
しかしながら、この主張は、
第1に、接着剤が硬化する前に整形作業用テープの外周面を押圧する工程による、接合部に対する外側の加圧が、接着していないゴム芯の端部が離れる程の過度のものであることを前提とした主張であって、接着剤が硬化する前の加圧であれば、接着していないゴム芯の端部が離れない程度の加圧とする必要があるという技術常識を無視した主張であり、採用することができず、
第2に、主張点(3)に関わる、短尺ゴム芯入り組紐の切断端部の接着は、組紐の繊維どうしの接着のみで、ゴム芯の端面どうしが接着されない、という主張を前提としたものであると解されるから、8-2-3.で検討したと同様の理由により、採用することができない。
したがって、明細書の段落0036、0037の記載に関わって、発明の詳細な説明の記載では、本件訂正発明1?3の実施をすることができない、とすることはできない。

なお、この点、請求人は、甲第12号証を提示して、主張点(4)を裏付けようとしているが、6-11.で述べたとおり、甲第12号証には、栄光通商株式会社製ゴム芯入り組紐リングと、特許第3759436号明細書記載のゴム芯入り組紐リングとについて、破断までの最大荷重(N)の測定結果が記載されているだけであり、整形作業用テープの外周面を押圧する工程に関わる実施可能要件の存否と何らの関係も見い出せない。

8-2-5.審判請求書における主張点(1)?(4)についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人が、審判請求書において、明細書の発明の詳細な説明の記載不備に関して主張した主張点(1)?(4)は、いずれも理由がない。

8-3.主張点(5)?(8)(弁駁書における主張)についての検討
8-3-1.主張点(5)について
主張点(5)については、1-4.で述べたとおり、第1訂正請求は取り下げられたものとみなされる結果、3.で述べたところから明らかなように、第1訂正請求により訂正された請求項1に係る発明は削除されている。
主張点(5)は、要するに、「固化部」を形成することの実施可能要件に関する主張と認められるものであるところ、本件訂正発明1?3は、ゴム芯入り組紐リングの製造方法に関する発明であって、明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されるとおり、「ゴム芯入り組紐に所定間隔ごとに冷却固化剤を塗布して固化部を形成」することを発明特定事項に備えるものであり、固化部を形成するために、冷却固化剤を、所定間隔ごとに、すなわち離散的に塗布することを必須とする発明であることは、文理上明確である。
そして、明細書の段落0010の「短尺ゴム芯入り組紐への切断を行なう際に、切断部分を冷却固化剤によって冷却固化させる」、段落0023の「引き出されたゴム芯入り組紐10には所定間隔ごとに冷却固化剤塗布装置40により冷却固化剤を塗布し、ゴム芯入り組紐10の一部を冷却固化して固化部4を形成するようにしている。本実施例では、冷却固化剤としてニトロゲン(窒素)を用い、同ニトロゲン(窒素)を冷却固化剤塗布装置40より噴霧することによってゴム芯入り組紐10を冷却固化して固化部4を形成するようにしている。」との記載からみて、冷却固化剤を、所定間隔ごとに塗布する方法も具体的に開示されているのであるから、実施可能要件に関して、特段の記載不備は存在しない。

8-3-2.主張点(6)について
主張点(6)は、要するに、ゴム芯入り組紐の切断手段を特定しなければ本発明を再現できないのであれば、特許請求の範囲の記載において切断手段を特定していない本件訂正発明1については、発明の詳細な説明の記載では実施不可能な部分がある、というにある。
しかしながら、本件の明細書の段落0025には、「本実施例では、切断はレーザーカッターを用いたレーザー切断としているが、高性能鋸や切断用カッター刃を用いて切断するようにしてもよい。」と記載され、種々の切断方法が例示されていることからも、要は速やかに正確に切断することが可能な切断方法を採用すれば所期の効果を奏するものと認められ、例えば、実施例で採用されるレーザー切断という特定の切断方法以外の切断方法によっては、発明の実施が不可能であると認めるべき理由は見い出せない。なお、「鋏」による切断についても、「鋏」による切断を採用した場合に、すべからく、本件訂正発明1の実施が原理的に不可能であると認めるべき理由はなく、また、過度の試行錯誤を求めるものでもない。
したがって、発明の詳細な説明の記載について、切断方法に関する特段の記載不備があるとはいえない。

8-3-3.主張点(7)について
主張点(7)は、主張点(2)と実質上同旨のものであるから、8-2-2.で述べたと同様の理由により、発明の詳細な説明の記載について、主張点(7)に係る不備はない。
なお、この点、請求人は、甲第13号証を提示して、主張点(7)を裏付けようとしているが、シアノアクリレート系接着剤の浸透深さの長短と、該シアノアクリレート系接着剤がゴム芯に沿ってゴム芯と組紐との間の空間をゆっくりと流れ広がりながら伸延するか否か、とは直接関係がないことであるので、甲第13号証は、何ら主張点(7)の裏付けとなるものではなく、発明の詳細な説明の記載では、「短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布してアセトンと混合し、ゴム芯(2)に沿ってシアノアクリレート系接着剤の一部を伸延させる」ことを発明特定要件に備える本件訂正発明1?3の実施をすることができないとすることはできない。

8-3-4.主張点(8)について
主張点(8)は、要するに、発明の詳細な説明の記載では、ロックタイト製(一般用:CA-303)、東亞合成(株)製のアロンアルファ(プロ用No.1:#30145)等を含むシアノアクリレート系接着剤一般については、本件訂正発明1?3の実施をすることができない、というにある。
しかしながら、少なくとも、請求人が提示した甲第13号証の試験によっても、シアノアクリレート系接着剤として、田岡化学工業(株)(シアノボンドRP-LX)を使用した場合には、試験片の接着が可能であったとされているのであるから、まず、シアノアクリレート系接着剤一般について、所期の効果を奏することができないということはできない。そして、個々のシアノアクリレート系接着剤について、例えば、塗布量や塗布条件、接着条件等の条件を試行錯誤により探索することは、当業者が当然に実施することであり、通常期待される程度を超えたものであるともいうことはできない。

8-4.主張点(9)?(11)(口頭審理陳述要領書における主張)についての検討
8-4-1.主張点(9)について
8-3-2.で述べたように、本件の明細書の段落0025に、「本実施例では、切断はレーザーカッターを用いたレーザー切断としている」と記載されているものであるところ、甲第14号証の試験結果によれば、ゴム芯入り組紐の冷却固化部をレーザ切断機で切断した場合は、ゴム芯は布に隠れてしまう程には凹まないとされているのであるから、少なくとも、レーザー切断によって冷却固化部を切断した場合には、切断端部の接着が不可能であるという主張が成り立たないこととなるのであって、本件の発明の詳細な説明の記載では、本件訂正発明1?3の実施をすることができないとする根拠は見い出せない。

8-4-2.主張点(10)について
主張点(10)は、既に検討した、主張点(2)、(7)と実質上同旨のものであるから、8-2-2.、8-3-3.で述べたと同様の理由により、発明の詳細な説明の記載について、主張点(10)に係る不備はない。

8-4-3.主張点(11)について
甲第16号証の試験報告書によれば、第2ページの「引張強度試験(破断までの最大荷重)」に、「(2)試験片作製方法:センターで作製
(3)試験片加工方法:接着剤を塗布し貼り合わせて作製
(4)試験片の種類:長さ 約20cmの紐状試験片」と記載され、更に、第1ページの「試験方法」として、試料の作製条件として、「試験条件1○」?「試験条件3○」が記載されているが、
「ゴム芯(2)と、同ゴム芯(2)を被覆して外皮となる組紐(3)とにより構成されるゴム芯入り組紐(10)に所定間隔ごとに冷却固化剤を塗布して固化部(4)を形成し、
同固化部(4)においてゴム芯入り組紐(10)を切断することにより両端を固化させた短尺ゴム芯入り組紐(1)を形成し、
同短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を非固化状態とした後に、両端にそれぞれアセトンを塗布し、
次いで、短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布してアセトンと混合し、ゴム芯(2)に沿ってシアノアクリレート系接着剤の一部を伸延させることによりゴム芯(2)と組紐(3)とをシアノアクリレート系接着剤によって一体化させながら短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を接合してリング状としている」という本件訂正発明1?3の発明特定要件を忠実に追試したものであるかどうかは不明であるから、甲第16号証をみても、本件明細書の発明の詳細な説明の記載では、本件訂正発明1?3の実施をすることができない、とする具体的な理由は見い出せない。

8-5.無効理由2についてのまとめ
以上のとおりであって、更に、本件訂正発明1?3に係る方法が、物理法則に反する等、原理的に実施不能であるとする理由も見い出すことはできない。
したがって、本件訂正発明1?3に係る特許が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとすることはできない

なお、請求人は、平成19年4月27日付けで上申書を提出し、「平成19年4月18日開催の口頭審理に際し、被請求人が実施した試験を条件を変えて再度実施することを上申する。」という趣旨を述べている。
しかしながら、第1回口頭審理調書に記載されるとおり、先の口頭審理においては、請求人は、「審判請求書、弁駁書及び口頭審理陳述要領書に記載の試験例の趣旨を、サンプルを用いて説明した。」ものであり、被請求人は、「サンプルを用いて、本件に係る発明を説明した。」ものであって、いずれも検証実験ではなく、それぞれの主張の理解を促す説明のために参考として行うものであるところ、現に、第1回口頭審理において、サンプルを用いた説明がされたのであるから、かかるサンプルを用いた説明を「条件を変えて再度実施する」必要を認めない。

9.当審が通知した無効理由について
なお、1-3.で述べた当審が通知した第1訂正請求により訂正された請求項1に係る発明(「ゴム芯入り組紐リング」に係る発明)に関する無効理由については、1-4.及び3.で述べたように、本件特許発明が、いずれも「ゴム芯入り組紐リングの製造方法」に係る発明である本件訂正発明1?3と訂正された結果、無効理由の対象となった「ゴム芯入り組紐リング」に係る発明は本件特許に係る発明としてはもはや存在しないこととなったから、該無効理由により、本件特許を無効とすることはできない。

10.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ゴム芯入り組紐リングの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム芯(2)と、同ゴム芯(2)を被覆して外皮となる組紐(3)とにより構成されるゴム芯入り組紐(10)に所定間隔ごとに冷却固化剤を塗布して固化部(4)を形成し、同固化部(4)においてゴム芯入り組紐(10)を切断することにより両端を固化させた短尺ゴム芯入り組紐(1)を形成し、
同短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を非固化状態とした後に、両端にそれぞれアセトンを塗布し、
次いで、短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布してアセトンと混合し、ゴム芯(2)に沿ってシアノアクリレート系接着剤の一部を伸延させることによりゴム芯(2)と組紐(3)とをシアノアクリレート系接着剤によって一体化させながら短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を接合してリング状としていることを特徴とするゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項2】
アセトン及びシアノアクリレート系接着剤を塗布した短尺ゴム芯入り組紐(1)の両端を突き合わせることにより形成される接合部(1b)に整形作業用テープ(11)を巻回し、シアノアクリレート系接着剤の硬化前に整形作業用テープ(11)の外周面を押圧することによりシアノアクリレート系接着剤を組紐(3)に含浸させていることを特徴とする請求項1記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【請求項3】
組紐(3)の厚みを0.5mm以上としていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴム芯入り組紐リングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゴム芯と、同ゴム芯を被覆して外皮となる組紐とにより構成されるゴム芯入り組紐を、所定長さに切断して形成した短尺ゴム芯入り組紐の両端どうしを接合することによりリング状としたゴム芯入り組紐リングの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ゴム芯と、同ゴム芯を被覆して外皮となる組紐とにより構成されるゴム芯入り組紐を所定長さに切断し、その両端を接合することによってリング状とするゴム芯入り組紐リング及び同リングの製造方法として様々な形態のものが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ゴム芯入り組紐の両端を連結してリング状とする際に、ゴム芯入り組紐の端部をそれぞれ連結部材に連結し、同連結部材を介してリング状とした場合には、連結部材が伸縮することがなく、かつ曲がらないことによって違和感を覚えるだけでなく、連結部材に毛髪が引っかかりやすくなって使い勝手が悪いという問題があった。
【0004】
また、連結金具との連結部分でゴム芯入り組紐が切れやすくなるという問題があった。
【0005】
一方、ゴム芯入り組紐の両端を単に接着剤で接合させてリング状とした場合には、ゴム芯入り組紐の両端における組紐の繊維が毛羽立ちやすく、美観を損ねるという問題があった。
【0006】
(削除)
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明のゴム芯入り組紐リングの製造方法では、ゴム芯と、同ゴム芯を被覆して外皮となる組紐とにより構成されるゴム芯入り組紐に所定間隔ごとに冷却固化剤を塗布して固化部を形成し、同固化部においてゴム芯入り組紐を切断することにより両端を固化させた短尺ゴム芯入り組紐を形成し、同短尺ゴム芯入り組紐の両端を非固化状態とした後に、両端にそれぞれアセトンを塗布し、次いで、短尺ゴム芯入り組紐の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布してアセトンと混合し、ゴム芯に沿ってシアノアクリレート系接着剤の一部を伸延させることによりゴム芯と組紐とをシアノアクリレート系接着剤によって一体化させながら短尺ゴム芯入り組紐の両端を接合してリング状とするようにした。
【0008】
さらに、アセトン及びシアノアクリレート系接着剤を塗布した短尺ゴム芯入り組紐の両端を突き合わせることにより形成される接合部に整形作業用テープを巻回し、シアノアクリレート系接着剤の硬化前に整形作業用テープの外周面を押圧することによりシアノアクリレート系接着剤を組紐に含浸させていること、さらには、組紐の厚みを0.5mm以上としていることにも特徴を有するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のゴム芯入り組紐リングの製造方法では、糸状に成形されたゴム芯を、同ゴム芯と同様に伸縮自在とした中空の組紐内に挿通させたゴム芯入り組紐を所定長さに切断して短尺ゴム芯入り組紐を形成し、同短尺ゴム芯入り組紐の両端どうしを接合することによりゴム芯入り組紐リングとしているものである。
【0010】
特に、短尺ゴム芯入り組紐への切断を行なう際に、切断部分を冷却固化剤によって冷却固化させることにより、ゴム芯と組紐とを一体化させるととも弾性変形が生じないようにし、切断を行ないやすくするようにしている。
【0011】
そのうえ、冷却固化することによって、切断にともなって組紐がほつれたり毛羽立ったりすることを防止することができ、かつ、ゴム芯部分の切断面が均質な平坦面となるように切断を行なうことができ、後述する短尺ゴム芯入り組紐の両端どうしの接合を良好に行なうことができる。
【0012】
冷却固化剤によって冷却固化された短尺ゴム芯入り組紐の両端は、解凍することによって非固化状態とし、非固化状態となったところで両端にそれぞれ接着剤塗布前処理剤を塗布し、その後、接着剤を引き続いて塗布するようにしている。
【0013】
短尺ゴム芯入り組紐の両端を非固化状態として接着剤塗布前処理剤を塗布することにより、組紐に同接着剤塗布前処理剤を含浸させることができ、その後塗布される接着剤の組紐との馴染みを向上させることができる。
【0014】
接着剤塗布前処理剤が塗布され、次いで接着剤が塗布された短尺ゴム芯入り組紐の両端は、互いに突き合わせることにより接合されてリング状となり、ゴム芯入り組紐リングを形成するようにしている。
【0015】
このとき、接着剤塗布前処理剤としてアセトンを使用し、接着剤としてシアノアクリレート系接着剤を使用することにより、アセトンと混合されることになるシアノアクリレート系接着剤はジェル状に変質し、速乾性を低下させることができ、強固な接着を行なうのに必要な量の接着剤を短尺ゴム芯入り組紐の両端に保持させやすくすることができる。
【0016】
さらに、短尺ゴム芯入り組紐の両端を互いに突き合わせることにより形成された接合部には、接着剤が硬化するよりも早く整形作業用テープを巻回し、さらに整形作業用テープの外周面を押圧して接着剤によって膨出状となっている接合部の成形を行ないながら接着剤の硬化を行なうようにしている。
【0017】
特に、整形作業用テープの外周面を押圧することによって、ゴム芯と組紐との間の部分に接着剤を伸延させやすくすることができるとともに、あらかじめ接着剤塗布前処理剤を含浸させている組紐部分に接着剤を含浸させやすくすることができ、接着剤によるゴム芯と組紐との一体化を強固に行なうことができる。
【0018】
さらに、接着剤によって短尺ゴム芯入り組紐の両端の接合も同時に行なわれることによって、全体的に均一に接着剤による接着を行なうことができるので、接合強度を著しく向上させることができる。
【0019】
接合部の成形を行ないながら接着剤を硬化させた後、整形作業用テープを除去することにより、あたかもシームレスとなっているかのような外観となったゴム芯入り組紐リングを形成することができる。
【0020】
以下において、図面に基づいて本発明の実施例をさらに詳説する。
【0021】
【実施例】
図1は、ゴム芯入り組紐10を短尺ゴム芯入り組紐1に切断する切断工程を示しているものである。ゴム芯入り組紐10は、図3に示すように、糸状に成形されたゴム芯2を中空の略円筒状となっている組紐3内に挿通させて構成しており、かつ、組紐3は伸縮するゴム芯2と同様に伸縮するようにしている。
【0022】
ゴム芯入り組紐10は、適宜のリール20等の巻取体に巻き取られた形態で供給され、同リール20ごと送給装置30に組み付けられ、引き出されるようにしている。
【0023】
引き出されたゴム芯入り組紐10には所定間隔ごとに冷却固化剤塗布装置40により冷却固化剤を塗布し、ゴム芯入り組紐10の一部を冷却固化して固化部4を形成するようにしている。本実施例では、冷却固化剤としてニトロゲン(窒素)を用い、同ニトロゲン(窒素)を冷却固化剤塗布装置40より噴霧することによってゴム芯入り組紐10を冷却固化して固化部4を形成するようにしている。
【0024】
固化部4は切断部5ともなっており、送給装置30によってゴム芯入り組紐10を引き出すように送給し、切断部5(固化部4)を送給装置30の切断装置50の部分に位置させて切断を行ない、短尺ゴム芯入り組紐1を形成するようにしている。
【0025】
本実施例では、切断はレーザーカッターを用いたレーザー切断としているが、高性能鋸や切断用カッター刃を用いて切断するようにしてもよい。
【0026】
切断部5は冷却固化されているため、切断にともなって組紐3がほつれたり毛羽立ったりすることがなく、かつ、ゴム芯2部分の切断面が均質な平坦面となるように切断を行なうことができる。
【0027】
切断によって形成された短尺ゴム芯入り組紐1は、ニトロゲン(窒素)によって両端1a,1aが冷却固化されているが、時間の経過にともなって両端1a,1a部分の温度が上昇するにつれて固化状態から非固化状態とすることができる。
【0028】
すなわち、洗浄処理等の余分な作業を行なうことなく、短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1aを非固化状態とすることができ、作業コストが高騰することを防止することができる。
【0029】
そのうえ、ニトロゲン(窒素)を噴霧することにより、固化部4(切断部5)に付着している塵やゴミなどの物理的な除去を合わせて行なうことができ、固化部4(切断部5)部分の清浄化を行なうことができる。従って、後述する接着剤6での接着状態を向上させることができ、接着強度を高めることができる。
【0030】
短尺ゴム芯入り組紐1をリング状のゴム芯入り組紐リング1′とすべく、両端1a,1aが非固化状態となった短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1aに、図2(a)に示すように、まず接着剤塗布前処理剤を塗布するようにしている。特に本実施例では接着剤塗布前処理剤としてアセトンを使用するようにしている。符号7は接着剤塗布前処理剤を塗布するためのディスペンサである。また、符号8は短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1aを挟持するチャッキング爪である。
【0031】
アセトンを塗布することによって、短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1a部分、特に、ゴム芯2の表面部分において、油分などからなる汚れを化学的に除去することができるとともに、組紐3部分にアセトンを含浸させることができる。
【0032】
次いで、図2(b)に示すように、短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1aに接着剤6の塗布を行なうようにしている。符号9は接着剤6を塗布するためのディスペンサである。ニトロゲン(窒素)及びアセトンによってゴム芯2は清浄化されているので、濡れ不良を生起することなく接着剤6をゴム芯2に塗布することができる。
【0033】
なお、本実施例では接着剤6としてシアノアクリレート系接着剤、特に商品名「401Gold」(loctite社製)を使用した。同接着剤6の塗布の際には、短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1aを上方に向けて塗布を行なっており、さらにあらかじめ同両端1a,1a部分にアセトンを塗布していることによって、接着剤6はアセトンと混合してジェル状に変質し、ゴム芯2に沿ってゴム芯2と組紐3との間の空間をゆっくりと流れ広がりながら伸延するようにしている(図3(a)参照)。さらに、組紐3に含浸したアセトンが誘引作用を生起して組紐3を構成している繊維の隙間にも接着剤6が含浸していくようにしている。
【0034】
特に、「401Gold」等のシアノアクリレート系接着剤は、通常、数秒で乾燥・硬化する速乾性の接着剤であるが、アセトンと混合されてジェル化することにより速乾性が低下し、乾燥して硬化するまでに20?30秒程度時間がかかる遅乾性となる。従って、接着剤6の塗布後、慌てて短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1aの接合を行なう必要はなく、ジェル化した接着剤6をじっくりゴム芯2と組紐3とに馴染ませることができる。
【0035】
ゴム芯2と組紐3との間に接着剤6を伸延させた後、図2(c)に示すように、短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1aを突き合わせることにより接着剤6を介しての接合を行なうようにしている。短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1aを突き合わせて接合することにより、接合部1bが形成されることとなる。
【0036】
図3(a)に示すようにゴム芯2と組紐3との間に接着剤6を伸延させた短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1aを互いに突き合わせて接合すると、図3(b)に示すように接合部1b部分が団子状に膨出した形状となる。
【0037】
接着剤6が速乾性であれば膨出状態のまますぐに硬化してしまうが、本発明ではアセトンと混合されることにより上述したように接着剤6は遅乾性となっているので、短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1aを接合状態とした後、図3(c)に示すように、接合部1bに整形作業用テープ11を巻回し、さらに、接着剤6が硬化する前に整形作業用テープ11の外周面を押圧することにより、接合部1b部分において膨出に荷担している接着剤6をゴム芯2に沿ってさらに伸延させるとともに、一部を組紐3に含浸させながら整形し、膨出形状を解消するようにしている。
【0038】
そして、膨出形状が解消された状態で接着剤を硬化させることにより、外観的にはあたかもシームレスとすることができるとともに、接着剤6によって短尺ゴム芯入り組紐1の両端1a,1a同士だけでなく、ゴム芯2と組紐3とを一体的に接合することができ、接合部1bでの接合強度を向上させることができる。また、接着剤6によって一体化されることにより、接合部1bにおいて組紐3を構成している繊維のほつれや毛羽立ちが生じることを防止することができる。
【0039】
なお、整形作業用テープ11は、接合部1bの整形後、取り外すようにしている。整形作業用テープ11はポリプロピレン製やテフロン製としておくことにより、接着剤6によって組紐3と接合されることなく作業を行なうことができるようにしている。
【0040】
上述したように、本発明のゴム芯入り組紐リング1′及びゴム芯入り組紐リング1′の製造方法では、接合部1bにおいて接着剤6の一部を組紐3に含浸させることにより、接着部の接合強度を向上させることができるようになっているが、様々な厚みの組紐3に対してテストを行なった結果、組紐3の厚みは0.5mm以上の厚みが必要であることが判明した。
【0041】
0.5mmよりも厚みが薄い場合には、組紐3に含浸した接着剤6が組紐3の外表面にまで達し、整形作業用テープ11に付着することによって接合に寄与する接着剤6の量が適量よりも減少することとなり、強度低下が引き起こされているものと考えられる。
【0042】
また、この場合、組紐3の外表面にまで達して硬化した接着剤6が乾燥にともなって白色化する場合があり、外観を損ねるという問題があった。組紐3の厚みが0.5mmに近い場合でも同様に、一部で接着剤6が組紐3の外表面にまで達するとともに白色化するという問題があった。
【0043】
そこで、接着剤6の硬化後に、接合部b1部分に対してアセトンを含浸させた布体などで拭き取り作業を行なうようにしている。拭き取り作業を行なうことにより白色化を防止することができ、外観的にも良好なゴム芯入り組紐リング1′を得ることができる。
【0044】
(削除)
【0045】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によれば、ゴム芯と、同ゴム芯を被覆して外皮となる組紐とにより構成されるゴム芯入り組紐に所定間隔ごとに冷却固化剤を塗布して固化部を形成し、同固化部においてゴム芯入り組紐を切断することにより両端を固化させた短尺ゴム芯入り組紐を形成し、同短尺ゴム芯入り組紐の両端を非固化状態とした後に、両端にそれぞれアセトンを塗布し、次いで、短尺ゴム芯入り組紐の両端にそれぞれシアノアクリレート系接着剤を塗布してアセトンと混合し、ゴム芯に沿ってシアノアクリレート系接着剤の一部を伸延させることによりゴム芯と組紐とをシアノアクリレート系接着剤によって一体化させるとともに、短尺ゴム芯入り組紐の両端を接合してリング状としているゴム芯入り組紐リングの製造方法とすることにより、請求項1記載の発明と同様に、低コストでゴム芯入り組紐リングを製造することができるとともに、接合部分の接合強度を向上させることができる。
【0046】
(削除)
【0047】
請求項2記載の発明によれば、アセトン及びシアノアクリレート系接着剤を塗布した短尺ゴム芯入り組紐の両端を突き合わせることにより形成される接合部に整形作業用テープを巻回し、シアノアクリレート系接着剤の硬化前に整形作業用テープの外周面を押圧することによりシアノアクリレート系接着剤を組紐に含浸させていることによって、接合部部分が膨出形状のまま硬化して外観的な美観を損ねることを防止することができるとともに、組紐へのシアノアクリレート系接着剤の含浸量を多くすることができ、接合強度を向上させることができる。
【0048】
請求項3記載の発明によれば、組紐の厚みを0.5mm以上としていることによって、同組紐に含浸する接着剤の量を、接合強度を向上させることができる量とすることができ、組紐とゴムひもとを接着剤を介して強固に一体化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ゴム芯入り組紐を短尺ゴム芯入り組紐とする作業工程を説明する説明図である。
【図2】短尺ゴム芯入り組紐をゴム芯入り組紐リングとする作業工程を説明する説明図である。
【図3】短尺ゴム芯入り組紐をゴム芯入り組紐リングとする作業工程を説明する説明図である。
【符号の説明】
1 短尺ゴム芯入り組紐
1′ ゴム芯入り組紐リング
1b 接合部
2 ゴム芯
3 組紐
4 固化部
5 切断部
6 接着剤
7 ディスペンサ
8 チャッキング爪
9 ディスペンサ
10 ゴム芯入り組紐
11 整形作業用テープ
20 リール
30 送給装置
40 冷却固化剤塗布装置
50 切断装置
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-06-06 
結審通知日 2007-06-07 
審決日 2007-06-20 
出願番号 特願2001-215515(P2001-215515)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (B29C)
P 1 113・ 536- YA (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 増山 剛
特許庁審判官 宮坂 初男
野村 康秀
登録日 2006-01-13 
登録番号 特許第3759436号(P3759436)
発明の名称 ゴム芯入り組紐リングの製造方法  
代理人 長塚 俊也  
代理人 北住 公一  
代理人 北住 公一  
代理人 久徳 高寛  
代理人 長塚 俊也  
代理人 久徳 高寛  
代理人 松尾 憲一郎  
代理人 丸山 敏之  
代理人 丸山 敏之  
代理人 松尾 憲一郎  
代理人 宮野 孝雄  
代理人 宮野 孝雄  

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