• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1176178
審判番号 不服2005-1197  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-20 
確定日 2008-04-09 
事件の表示 平成 7年特許願第264942号「遍在的な新規カリウムチャネル蛋白質とその遺伝子」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 3月25日出願公開、特開平 9- 77795〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成7年9月18日に、特許法第30条新規性喪失の例外規定の適用を主張して出願されたものであり、平成16年12月9日付で拒絶査定がなされ、平成17年1月20日にこれを不服とする審判請求がなされるとともに、同年2月17日付で願書に添付した明細書について手続補正がなされたものである。

第2 平成17年2月17日付の手続補正の適否について
1.補正後の請求項に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項2は、次のとおりに補正された。

【請求項2】請求項1に記載された哺乳動物に遍在的なATP感受性カリウムチャネル蛋白質を有効成分とするカリウムチャネル疾患の治療剤。

2.補正後の請求項2に係る発明は、「カリウムチャネル疾患の治療剤」の発明であるが、補正前の特許請求の範囲には「治療剤」の発明は記載されておらず、かかる請求項を追加する補正は、特許法第17条の2第4項で規定する、「請求項の削除」(1号)、「特許請求の範囲の限定的減縮」(2号)、「誤記の訂正」(3号)、「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」(4号)の何れにも該当しない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものである。
したがって、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、本件補正を却下する。

第3 本願発明について
1.平成17年2月17日付の手続補正は上述のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、当該補正前の平成16年11月1日付の手続補正書により補正された請求項1?15に記載されたとおりのものであるところ、請求項1及び8の記載は以下のとおりである(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明8」という。)。
「【請求項1】下記のアミノ酸配列よりなるヒト由来の遍在的なATP感受性カリウムチャネル蛋白質。
【図1】:略
【請求項8】ヒト及びラットの遍在的なATP感受性カリウムチャネルと同じファミリーに属している他の哺乳動物由来のATP感受性カリウムチャネル蛋白質とそれをコードしているデオキシリボヌクレオチド。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に記載された「The Journal of Biological Chemistry, Vol.270, No.11, p.5691-5694, 1995」(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「ATP感受性カリウム(K_(ATP))チャネルは、代謝エネルギーを細胞の膜電位にカップリングする際に非常に重要な役割を果たす。我々は、ラット膵島のcDNAライブラリーから、内向き整流性K^(+)チャネルファミリーの新しいメンバー(uK_(ATP-1))をコードするcDNAを単離した。ラットuK_(ATP-1)は424アミノ残基の蛋白質である(Mr=47,960)。キセノパス卵母細胞に発現されたuK_(ATP-1)の電気生理学的研究は、uK_(ATP-1)は弱い整流を示し、Ba^(2+)イオンによりブロックされる。uK_(ATP-1)のcDNAでトランスフェクトされた、クローナルなヒト腎上皮細胞(HEK293)の単一チャネルパッチクランプについての研究は、uK_(ATP-1)は、1mMのATPに反応して閉鎖し、70±2ピコシーメンスの単一チャネルコンダクタンスを有することを明らかにし、uK_(ATP-1)はATP感受性内向き整流性K^(+)チャネルであることを示した。加えて、uK_(ATP-1)は、K_(ATP)チャネルオープナーである、ジアゾキシドにより活性化される。RNAブロット解析は、uK_(ATP-1)mRNAは、膵島、下垂体、骨格筋、心臓を含むラット組織に遍在的に発現され、uK_(ATP-1)が、ほとんど全ての正常組織において、代謝状態と細胞の膜K^(+)透過性を結びつける生理学的役割を果たすことを示唆する。uK_(ATP-1)は、ROMK1、IRK1、GIRK1及びcK_(ATP-1)を含む、既に報告された内向き整流性K+チャネルサブファミリーと、わずか43?46%のアミノ酸同一性を有するものであり、uK_(ATP-1)は、これらのサブファミリーのアイソフォームではなく、それゆえ、2つの膜貫通領域を有する内向き整流性K^(+)チャネルファミリーの新しいサブファミリーである。」(アブストラクト)
(1-2)「FIG.1. 内向き整流K^(+)チャネルファミリーの5つのメンバーのアミノ酸配列の比較。」(第5692頁、FIG.1.)

原査定の拒絶の理由に引用された「Nature, Vol.364, No.26, p.802-806, 1993」(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「副交感神経の刺激は、ムスカリンレセプターの活性化と、それに引き続いて、洞房結節と心房におけるムスカリン性K^(+)チャネルの開放によって、心拍数を低下させる。この内向き整流性K^(+)チャネルは、G蛋白と直接カップリングしている。クローニングされた、内向き整流性K^(+)チャネルである、ROMK1及びIRK1との配列のホモロジーに基づき、我々は、G蛋白質調節型内向き整流性K^(+)チャネル(GIRK1)のcDNAをラット心臓から単離した。・・・ムスカリン性K^(+)チャネルは心臓に発現され、ROMK1及びIRK1に類似する内向き整流特性を示すため、我々は、これらのK^(+)チャネルのcDNAに類似する配列を有するクローンをラット心臓cDNAライブラリーで検索した。4.2キロベースのcDNAクローンである、GIRK1が単離され、2つの膜貫通領域(M1及びM2)と、推定コア領域(H5)を有するROMK1及びIRK1と、構造的に類似する蛋白質をコードすることがわかった。GIRK1は、全アミノ酸配列において、IRK1と43%の同一性を有し、ROMK1と39%の同一性を有した。GIRK1のcRNAは、キセノパス卵母細胞に注入されると、G蛋白調節型ムスカリン性K^(+)チャネルと非常に類似する電気生理学的特性を有する、機能的なK^(+)チャネルを発現した。」(第802頁左欄第1?27行)
(2-2)「FIG.1a. GIRK1のヌクレオチド及び推定アミノ酸配列」(第803頁、FIG.1a.)

原査定の拒絶の理由に引用された「FEBS Letters, Vol.353, p.37-42, 1994」(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(3-1)「脳由来の新しい内向き整流性K^(+)チャネルのcDNAを単離するために、GIRK1及びIRK1チャネルのコーディング配列を、ラット心臓及びマウス筋肉から、それぞれRT-PCRで増幅し、これを用いて、マウス脳cDNAを低いストリンジェンシー条件下で検索した。IRK1プローブによる検索で、mbIRK2と命名された、445アミノ酸からなるポリペプチドをコードする3キロベースのcDNAを単離した。このタンパク質は、モリシゲらにより最近特徴付けされたK+チャネルと殆ど同一であった。・・・・GIRK1プローブによるスクリーニングによって、制限解析により特徴づけられる、2つのクラスのcDNAが単離された。一つめのグループから、我々は、2.7kbのcDNAを配列決定した。予想される産物は、414のアミノ酸からなるポリペプチドで、mbGIRK2と命名され、47,400ダルトンの分子量を有し、この値は、インビトロの翻訳産物のSDS-PAGE解析により得られた48,000Daという分子量と良く合致する。我々は、次の、2.7kbcDNAを単離し、これは、5’側の配列が、mbGIRK2と同一であるが、3’側のコード配列で相違している。予想される産物のC末端は、mbGIRK2より11アミノ酸長い。GIRK1スクリーニングにより単離されたcDNAの2つめのグループにおいて、1.5,2.6,2.65及び3.1kbという4つの異なるcDNAが特徴付けされた。これらの配列はmbGIRK3と命名される376のアミノ酸からなる蛋白質をコードする同一のオープンリーディングフレームを共有している。」(第38頁左欄第4行?右欄第18行)
(3-2)「脳由来の新しい内向き整流性K^(+)チャネルを単離し、特徴付けするために、マウスの脳cDNAライブラリーを、IRK1及びGIRK1プローブで低いストリンジェンシーで検索した。その結果、3つの新しい配列を単離することができた。これらがコードする蛋白質は、最近、モリシゲらによりクローニングされたチャネルと同一であり、mbIRK3と名付けられた。この蛋白質は、マウスのマクロファージのIRK1及びラット脳IRK2と60?70%のアミノ酸の同一性を有し、ROMK1及びGIRK1チャネルと50%未満の同一性を有するものであった。mbIRK3は、内向き整流性チャネルの機能的IRKサブクラスに属すると期待される。キセノパス卵母細胞において、mbIRK3cRNAは、これまでに発現されたIRK1及びrbIRK2イソフォームに典型的な特性、即ち、強い整流(チャネルはEkよりネガティブな電位で開く)及びCs^(+)及びBa^(2+)でブロックされるという特性を有し、K^(+)選択的電流を伝えるものを効果的に発現した。」(第41頁左欄第11?25行)

原査定の拒絶の理由に引用された「Nature, Vol.362, No.4, p.31-38, 1993」(以下、「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。
(4-1)「ATP感受性カリウムチャネルをコードしているcDNAは、ラット腎から発現クローニングにより単離した。予想される45Kのタンパク質は、2つの膜貫通へリックスの可能性のある部位と、ATP結合ドメインであるとされる部位を特徴として有するものであるが、これは、電位依存性イオンチャネルあるいはセカンドメッセンジャー依存性イオンチャネルの基本構造と大きく相違する。しかし、イオン伝導経路を形成すると考えられるH5領域の存在は、この蛋白質が、電位依存性カリウムチャネル蛋白質と同じ起源であることを示唆するものである。」(アブストラクト)
(4-2)「我々はここに、哺乳類の腎からクローニングされたcDNAによりコードされる、ROMK1という新規なK^(+)チャネルポリペプチドの推定アミノ酸配列を報告する。RMOK1蛋白質のキセノパス卵母細胞における発現は、内向き整流性ATP依存K^(+)チャネルをもたらす。」(第31頁右欄第9?13行)
(4-3)「Fig.3 a.ROMK1チャネルcDNAの核酸及び推定アミノ酸配列」(第34頁 Fig.3)

原査定の拒絶の理由に引用された「Nature, Vol.370, No.11, p.456-459, 1994」(以下、「引用例5」という。)には、以下の事項が記載されている。
(5-1)「ATP依存性のカリウムチャネル(K_(ATP))は、膜電位と細胞の代謝状態をカップリングする。K_(ATP)チャネルは、細胞内ATPにより阻害され、そして、細胞内ヌクレオチド二リン酸により刺激される。K_(ATP)チャネルは、分泌プロセス及び筋緊張の重要な制御因子であり、スルフォニルウレア阻害能による、II型糖尿病の治療や、ピナシジルのような活性化剤による高血圧の治療のターゲットである。心臓組織においては、K_(ATP)チャネルは虚血後心筋保護のための主要な制御因子である。電気生理学的、及び薬理学的特徴は、多様な組織による分子生物学的不均一性が示唆されることが報告されるように、K_(ATP)チャネルにより相違する。PCRを用いて、ラット心臓よりK_(ATP)チャネルをコードするcDNAが単離された。我々は、ここに、発現されたチャネルが、細胞内ヌクレオチドに対する感受性を含む、ネイティブの心臓K_(ATP)チャネルの本質的特徴のすべてを有することを報告する。加えて、クローニングされたチャネルは、カリウムチャネル開放剤であるピナシジルにより活性化され、しかしながら、スルフォニルウレア剤であるグリベンクラミドによっては阻害されないことを報告する。」(アブストラクト)
(5-2)「チャネルポア領域のコンセンサス配列に向けられた変性オリゴヌクレオチドの二つの重複部位が、ラット心臓メッセンジャーRNAを基質として合成されたcDNAを用いたPCRにおいて用いられた。反応産物が、サブクローニングされ、ヌクレオチド及び推定アミノ酸配列が確かめられたとき、1つのクローンが新しいカリウムチャネルをコードすることが判明した。この配列を基にして、rcK_(ATP-1)が得られた。rcK_(ATP-1)の417アミノ酸配列(Fig.1a)は、内向き整流ファミリーの顕著な特徴を有した。N及びC末端は、細胞内に存在し、2つの疎水性の、おそらくは隣接する2つの膜貫通セグメントにより連結すると予想され、他のカリウムチャネルのポア配列と強いホモロジーを有した。」(第456頁左欄第19?32行、第457頁Fig.1a)

3.特許法第29条第2項について(その1)
3-1 対比
引用例1には、上記摘記事項(1-1)に示されるように、ラット由来の遍在的なATP感受性カリウムチャネル蛋白質であるuK_(ATP-1)が記載されており、上記摘記事項(1-2)に示されるように、当該蛋白質のアミノ酸配列についても記載されている。
本願発明1と、引用例1に記載の発明とを対比すると、両者は、「遍在的なATP感受性カリウムチャネル蛋白質」である点で一致し、本願発明1は、ヒト由来であって、そのアミノ酸配列が【図1】に示される配列であるのに対し、引用例1に記載の発明は、マウス由来である点で相違する。

3-2 判断
上記相違点について検討する。
引用例1には、上記摘記事項(1-1)に示されるように、uK_(ATP-1)は、ROMK1、IRK1、GIRK1及びcK_(ATP-1)等の、既に報告された内向き整流性K^(+)チャネルサブファミリーのアイソフォームではなく、内向き整流性K^(+)チャネルファミリーの新しいサブファミリーであることが記載されている。
そして、内向き整流性K^(+)チャネル蛋白質といった、哺乳動物の生命活動に重要な作用を奏する蛋白質のファミリーについて、ラットにおいて新規なサブファミリーが発見された場合に、種を超えて異種であるヒトにも同様なサブファミリーが存在することを期待して、遺伝子工学の分野における周知の技術を用いて、ヒト由来のものを得ることは、当業者が容易に想到し得たものである。
そして、その効果についても、格別なものとは認められない。
特に、拒絶査定において、「本願のヒト由来uK_(ATP-1)蛋白質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を得ることは、本願以前に引用文献1で公知のラット由来uK_(ATP-1)蛋白質をのアミノ酸配列をコードする塩基配列を基に当該分野の常套手段を用いて当業者が容易なし得るものである」旨指摘されている点について、審判請求人は、審判請求書において、「上記の御意見はヒト由来のuK_(ATP-1)蛋白質の実在を眼前に据えてなされたものであり、そのような蛋白質が存在するかどうかも判らない本願以前の技術水準では考えようもないことである。
ヒト由来uK_(ATP-1)の発見に用いた手段が常套的であったとしても発見された蛋白質は容易に考えられるものではない。
ラット由来のuK_(ATP-1)蛋白質はヒトに対しては異種蛋白質であるためヒトへの適用には種々の問題があるが、本願のヒト由来のuK_(ATP-1)蛋白質ではそのような問題はなく、その点において従来のATP感受性カリウムチャネルに比べて技術的にも優れていると考える。」旨主張する。
しかしながら、上述のとおり、内向き整流性K^(+)チャネル蛋白質のような、哺乳動物の生命活動に重要な作用を奏する蛋白質のファミリーについて、ラットにおいて新規なサブファミリーが発見された場合に、種を超えて異種であるヒトにも同様なサブファミリーが存在することは当然想定できることであり、また、ヒトへの適用の際に、ラットのような異種由来のものではなく、ヒト由来のものの方が適していることも当業者にとって技術常識である。
さらに、得られた遍在的なATP感受性カリウムチャネル蛋白質が、従来より知られているATP感受性カリウムチャネルに比べて、技術的に意味のある作用効果を奏すると認めるに足る実験結果も示されておらず、格別顕著な効果を奏するものであるとすることはできない。

3-3 特許法第30条(新規性喪失の例外規定)の適用について
本願は、本願に係る発明について、上記「2.」に記載の引用例1に基いて、特許法第30条に規定される、発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けようとするものである。
しかしながら、本願に係る発明の発明者の氏名と、発明の新規性喪失の事由となった刊行物に発表した公開者、即ち、引用例1の著者の氏名が、一部一致しておらず、また、前記発明者と前記公開者との関係について納得できる説明をした書面も提出されていない。
この点につき、審査段階において、「発明者と公開者との関係について納得できる説明をした書面」の提出を求めたが、現在に至るまで、そのような書類は提出されていない。
したがって、本願に係る発明は、特許を受ける権利を有する者が、刊行物に発表したものであるということはできず、特許法第30条の規定の適用を受けることができないので、上記「2.」のとおり、引用例1に記載の発明を、引用発明として扱った。
なお、本願は、平成11年改正前の特許法第30条が適用される出願であり、平成11年改正前の旧法下では、特許法第30条第1項の規定が適用されるのは、「特許を受ける権利を有する者が発表した発明について特許出願をしたとき」、即ち、発表した発明と出願された発明が同一である場合のみである。
そこで、本願についてみると、本願に係る発明は、発表した発明と同一ではないので、この点でも、特許法第30条新規性喪失の例外規定は適用できない。

4.特許法第29条第2項について(その2)
4-1 対比
引用例3には、上記摘記事項(3-1)及び(3-2)に示されるように、脳由来の新しい内向き整流性K^(+)チャネルを単離し、特徴付けするために、マウスの脳cDNAライブラリーを、GIRK1及びIRK1チャネルのコーディング配列を用いたIRK1及びGIRK1プローブで、低いストリンジェンシーで検索し、その結果、新規なcDNAと、これによりコードされるmbIRK3という内向き整流カリウムチャネル蛋白質を得たことが記載されている。
本願発明1と、引用例3に記載の上記事項とを対比すると、両者は、「カリウムチャネル蛋白質」である点で一致し、本願発明1は、 ヒト由来の遍在的なATP感受性カリウムチャネル蛋白質であって、【図1】に示されるアミノ酸配列を有するものであるのに対し、引用例3に記載のカリウムチャネルは、遍在的なATP感受性のものではなく、また、マウス由来であり、その配列も本願の【図1】に示されたものではない点で相違する。

4-2 判断
本願発明1のヒト由来の偏在的なATP感受性カリウムチャネル蛋白質は、本願明細書の実施例1及び実施例5の記載によれば、ラットのG蛋白質調節型内向き整流性KチャネルであるGIRKcDNAのDNA断片をプローブに用いて、ラットのランゲルハンス島から作製したcDNAライブラリーを検索することによってruK_(ATP-1)cDNAを得、当該ruK_(ATP-1)cDNAをプローブに用いて、ヒト肺cDNAライブラリーを検索することにより得たものである。
一方、引用例4には、上記摘記事項(4-1)?(4-3)に示されるように、内向き整流性ATP感受性カリウムチャネルであるROMK1蛋白質が記載され、さらに、引用例5には、上記摘記事項(5-1)に示されるように、ATP依存性のカリウムチャネル(K_(ATP))は、分泌プロセス及び筋緊張の重要な制御因子であり、スルフォニルウレア阻害能によるII型糖尿病の治療や、ピナシジルのような活性化剤による高血圧の治療のターゲットであって、ラット心臓から、新しいカリウムチャネルであるrcK_(ATP-1)の遺伝子を得たこと、また、当該rcK_(ATP-1)の417アミノ酸配列は、内向き整流性カリウムチャネルファミリーの顕著な特徴を有することが記載されている。
引用例3に記載のカリウムチャネル蛋白質も、引用例2、4?5にそれぞれ記載のカリウムチャネルも、ともに内向き整流性カリウムチャネルファミリーに属し、特に、引用例5には、ATP依存性カリウムチャネルであるK_(ATP)が分泌プロセスの重要な制御因子であり、II型糖尿病の治療のターゲットであることが記載されているから、内向き整流性カリウムチャネルファミリーに属するATP依存性カリウムチャネルが、ラット膵島にも存在するのではないかと検索する強い動機付けが存在するといえる。
してみれば、引用例3に記載の事項において、引用例2に記載されるように公知のGIRKcDNA配列を基にしたDNA断片をプローブとして用い、低いストリンジェンシー条件でcDNAライブラリーを検索するに際し、引用例4及び5の記載から、内向き整流性カリウムファミリーに属する新たなATP依存性カリウムチャネルを得ようとして、ラット膵島cDNAラブラリーを検索すること、及び、これに対応するヒト由来のものを適宜なヒトcDNAライブラリーから検索することは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、その効果も格別なものとは認められない。
特に、得られた遍在的なATP感受性カリウムチャネル蛋白質が、従来より知られているATP感受性カリウムチャネルに比べて、技術的に意味のある作用効果を奏すると認めるに足る実験結果も何ら示されておらず、格別顕著な効果を奏するものであるとすることは到底できない。

5.特許法第36条第6項1号について
本願発明8は、本願の請求項8に記載のとおりの「ヒト及びラットの遍在的なATP感受性カリウムチャネルと同じファミリーに属している他の哺乳動物由来のATP感受性カリウムチャネル蛋白質とそれをコードしているデオキシリボヌクレオチド。」に係る発明である。
一方、本願の発明の詳細な説明には、段落番号【0009】に「電気生理学的解析の結果、uK_(ATP-1)は内向き整流性を示すATP感受性カリウムチャネルであることが証明された。ヒト及びラットなどの哺乳動物の組織に広く発現しているuK_(ATP-1)チャネルは基本的なエネルギー代謝による膜電位の維持に関与していると推察される。」と記載され、また段落番号【0010】に「ヒト由来のhuK_(ATP-1)アミノ酸の424残基(図1)で分子量(47,965)で、ラット由来の物も同じく424残基のアミノ酸配列(図)4)から構成され分子量(47,960)である。これらはアミノ酸配列に98%の同一性を示し、この顕著なホモロジーは、uK_(ATP-1)が哺乳動物の細胞で構造的にも機能的にも共通した働きを行っていると推察される。」と記載されるように、ヒト及びラット以外の哺乳動物にも同様のuK_(ATP-1)が存在することが推定されているにとどまり、実際にその存在が確認されているのは、ヒト及びラットについてのみである。
そして、ヒト及びラット以外の他の哺乳動物のuK_(ATP-1)蛋白質及びその遺伝子については、何ら実施例も記載されておらず、ラットについてuK_(ATP-1)遺伝子のクローニング及び蛋白質の発現に成功し、またヒトについてuK_(ATP-1)遺伝子のクローニングに成功したことの開示があっても、そのことのみによって、他のあらゆる哺乳類動物のuK_(ATP-1)の遺伝子について解明したも同然であるとは認められない。
さらに、哺乳動物の中には様々な種が存在することから、そのあらゆる種について、同様のuK_(ATP-1)が存在し、それをコードしているデオキシリボヌクレオチドが、ヒト及びラットのものと顕著なホモロジーを有しているとは、本願出願時の技術常識からみても、直ちには認められない。
してみれば、ヒト及びラット以外の他の哺乳動物由来のuK_(ATP-1)に係る発明である、請求項8に係る発明について、発明の詳細な説明に十分な裏付けをもって記載されているとは認められない。
したがって、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用例1の記載の発明に基いて、あるいは、引用例2?5に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-31 
結審通知日 2008-02-05 
審決日 2008-02-19 
出願番号 特願平7-264942
審決分類 P 1 8・ 572- Z (C07K)
P 1 8・ 121- Z (C07K)
P 1 8・ 537- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阪野 誠司西 剛志  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 松波 由美子
平田 和男
発明の名称 遍在的な新規カリウムチャネル蛋白質とその遺伝子  
代理人 竹内 卓  
代理人 竹内 卓  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ