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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1176467
審判番号 不服2007-7570  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-14 
確定日 2008-04-17 
事件の表示 特願2002-152333「接着部材及び半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月 5日出願公開、特開2003-347323〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年5月27日に出願したものであって、平成19年2月7日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月13日付で手続補正書が提出されたものであり、さらに、当審において、同年8月21日付で、同年4月13日提出の手続補正書による補正が却下されるとともに、同日付で拒絶の理由が通知され、その指定期間内である平成19年10月25日に手続補正がなされたものである。
そして、上記平成19年10月25日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?13のうち、その請求項1に係る発明は次のように認める。

「【請求項1】 エポキシ樹脂と、エポキシ基含有アクリール系共重合体と、を含有し、
90゜ピ-ル強度測定を265℃で行った際の半導体パッケ-ジ用基板に対する接着部材の接着力が30N/m以上であり、かつ吸湿処理(温度85℃、湿度85%及び保持時間12時間)前後の半導体パッケ-ジ用基板に対する前記接着部材の接着力の比率(吸湿処理後の接着力/吸湿処理前の接着力)が0.8以上である接着剤層を有する接着部材。」
なお、請求項1には上記下線部が「前記接着部材」と記載されているが、「前記」に対応する「接着部材」の記載がないため、下線部のように「接着部材」の誤記と認め、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)を上記のように認定した。

2.引用刊行物及びその摘記事項
当審における拒絶の理由に引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平11-21537号公報(以下、「刊行物1」という。)、及び国際公開第01/60938号(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。

(1)刊行物1(特開平11-21537号公報)
(1a)「【0003】・・・図1は、半導体装置の平面図であり、図2は、図1の一点鎖線A-A’における断面図である。
【0004】熱伝導性に優れた材料からなるベース基板10の上に、ダイボンド層14により半導体チップ16が固定されている。ベース基板10の表面の縁部領域に、多数の配線が形成された配線基板20が接着層18により接着されている。・・・
・・・
【0008】・・・図3は半導体装置の平面図であり、図4は図3の一点鎖線B-B’における断面図である。
【0009】半導体チップ41の表面上に、2列に配列したボンディング用パッド47が設けられている。ボンディングパッド47の配列方向に沿った長方形の領域に、接着層43により配線基板42が接着されている。・・・
・・・
【0012】図2の半導体装置の接着層18に用いられる接着剤、及び図4の半導体装置の接着層43に用いられる接着剤は、溶剤を添加して希釈した熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなるバインダ樹脂にフィラーを添加したものである。
【0013】バインダ樹脂には、エポキシ樹脂、マレイミド系樹脂等の熱硬化性樹脂や、・・・フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂、水添スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体等の熱可塑性樹脂が用いられる。・・・
・・・
【0016】【発明が解決しようとする課題】・・・
・・・
【0019】また、半導体装置をプリント基板に実装する際には260℃程度の高温にまで加熱する。このため、エポキシ化合物を添加して耐熱性を向上した熱可塑性樹脂を用いてバインダ樹脂を構成しても、この熱履歴によりバインダ樹脂が劣化して接着不良が生じる場合がある。また、吸湿した半導体装置を実装する際、接着層に侵入した水分が急激に膨張し、接着層にいわゆるポップコーンクラックが発生する場合がある。
・・・
【0024】本発明の目的は、熱圧着時において凹凸隙間部へバインダ樹脂を充填しやすく、かつ耐熱性、耐湿性、耐溶剤性に優れ、ポップコーンクラックが発生しにくく、半導体素子に対してα線による誤動作を発生させにくい接着剤を提供することである。
【0025】また、本発明の他の目的は、上記の接着剤を用いて半導体装置を構成することにより、放熱性に優れ、高信頼性を有する半導体装置及びその製造方法を提供することである。」

(1b)「【0026】【課題を解決するための手段】本発明の一観点によると、樹脂材料からなる主剤と、前記主剤を溶解する溶剤と、前記主剤に添加されるフィラーであって、そのウラン含有量が1.0ppb以下であるフィラーとを有する接着剤が提供される。
・・・
【0029】この主剤に、この架橋剤を混合することにより、耐熱性、応力緩和性、耐湿性、高温耐圧性に優れ、ポップコーンクラックの発生しにくい接着剤を得ることができる。
・・・
【0035】上述の接着剤を、半導体装置のベース基板と配線基板との接着、または半導体チップとその上に配置される配線基板との接着に使用することにより、放熱性、耐湿性に優れ、信頼性の高い半導体装置を得ることができる。
・・・
【0037】上述の半導体装置の接着剤の代わりに、この接着シートを用いることができる。」

(1c)「【0074】次に、実施例11?18について説明する。主剤となる水添スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体のマレイン酸変性物(シェル化学製、クレイトンG-1901X)と、可とう剤となる構造式
【0075】
・・・
で示されるエポキシ基含有反応性シリコーンと、トルエンとを三口フラスコ内に投入して還流管を取り付け、トルエン還流温度である約114℃において30分間攪拌した。その後、攪拌を続けながらタック剤(・・・)を、主剤100重量部に対して30重量部添加し、均一な混合状態が得られるまで攪拌を続けた。ワニスが均一状態となった後、直ちに室温まで冷却した。
【0076】接着剤乾燥後に、ウラン含有量が1.0ppb以下、数平均粒子径D50値が10μmの溶融シリカ粉末を、主剤100重量部に対して30重量部添加して3本ロールによる混練を行った。混練終了間際に硬化促進剤としてマイクロカプセル化イミダゾール系触媒(・・・)を、主剤100重量部に対して5重量部添加し、接着剤を得た。
【0077】なお、投入する反応性シリコーンの添加量と、そのエポキシ当量の異なる実施例11?18の8種類の接着剤、及び比較例6?10の5種類の接着剤を合成した。
・・・
【0080】このようにして得られた実施例11?18及び比較例6?11の接着剤について、接着力、耐湿性、及びこの接着剤を半導体メモリに適用した場合のソフトエラーの発生の有無を調査した。
【0081】接着力の評価方法について説明する。まず、接着剤を、20mm□の銅板の10×3mmの領域に、厚さ80μmのマスクを用いてスクリーン印刷し、塗布した接着剤を80℃で20分間乾燥させた。10×50mmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトンフィルム)を温度140℃、圧力0.2MPa、時間20秒の条件で銅板上の乾燥接着剤上に圧着し、続いて温度170℃で5時間の後硬化処理を行った。
【0082】その後、接着剤について90°ピール強度試験を行った。また、温度85℃、相対湿度85%の環境下で48時間吸湿させた後のピール強度も測定した。さらに、温度260℃まで加熱したときの接着力と、30分間キシレンに浸漬させた直後の接着力についても測定した。
・・・
【0084】評価結果を表7にまとめる。
【0085】
【表7】


(なお、【表7】中のピール強度の単位が「df/cm」となっているが、このような単位はなく、また、刊行物1の【表6】、【表8】、【表9】中のピール強度の単位が「gf/cm」であることから、【表7】中のピール強度の「df/cm」は「gf/cm」の誤記と認める。)

(2)刊行物2(国際公開第01/60938号)
(2a)「 本発明者らは、・・・半導体チップと配線基板との熱膨張差から加熱冷却時に発生する熱応力を緩和させることができ、そのため、リフロー時にクラックの発生が認められず、また温度サイクル試験後にも破壊が認められず、耐熱性に優れることを見出している。
しかし、今後、耐熱性や耐リフロークラック性に対する要求が厳しくなった場合、高温時のピール強度及び高温時の弾性率を高めるなどして、より高いレベルの耐熱性、耐湿性を付与する必要がある。・・・
本発明の目的は、半導体搭載用基板に熱膨張係数の差が大きい半導体素子を実装する場合に必要な耐熱性、耐湿性を有し、その使用時の揮発分を抑制できる接着フィルムを形成できる接着剤組成物、その製造方法、その接着剤組成物を用いた接着フィルム、半導体搭載用基板及び半導体装置を提供することである。」(第3頁第10?23行)

(2b)「発明の開示
本発明の接着剤組成物は、(a)エポキシ樹脂、(b)硬化剤、及び(c)エポキシ樹脂と非相溶性である高分子化合物からなることを特徴とするものであり、更に、必要に応じて(d)フィラー及び/又は(e)硬化促進剤を含有していてもよい。
・・・
本発明の接着フィルムは、前記の接着剤組成物をフィルム状に形成してなることを特徴とするものである。
本発明の接着フィルムは、接着剤組成物とポリイミドフィルムとの積層硬化物を、吸湿処理後、260℃で120秒間、熱処理した時に積層硬化物中に直径2mm以上の剥離が生じないものであることを特徴とするものである。」(第3頁第25行?第4頁13行)

(2c)「 本発明において使用される(c)エポキシ樹脂と非相溶性である高分子化合物としては、エポキシ樹脂と非相溶である限り、特に制限はないが、例えば、アクリル系共重合体、アクリルゴム等のゴム、シリコーン樹脂、シリコーン変性ポリアミドイミド等のシリコーン変性樹脂などが挙げられる。・・・
本発明の(c)高分子化合物は、反応性基(官能基)を有し、重量平均分子量が10万以上であるものが好ましい。本発明の反応性基としては、例えば、カルボン酸基、アミノ基、水酸基及びエポキシ基等が挙げられる。これらの中でも、官能基モノマーが、カルボン酸タイプのアクリル酸であると、橋架け反応が進行しやすく、ワニス状態でのゲル化、Bステージ状態での硬化度の上昇により接着力が低下することがある。そのため、これらを生ずることがないが、あるいは生じる場合でも期間が長いエポキシ基を有するグリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートを使用することがより好ましい。本発明の(c)高分子化合物としては、重量平均分子量が10万以上であるエポキシ基含有アクリル共重合体を使用することが更に好ましい。・・・」(第12頁第10?27行)

(2d)「 本発明においては、上記接着剤組成物とポリイミドフィルムとの積層硬化物からなり、該積層硬化物の240℃で測定したピール強度が50N/m以上である接着フィルムが提供される。本発明においては、また、該積層硬化物が、吸湿処理後の260℃、120秒間の熱処理において、該積層硬化物中に直径異2mm以上の剥離が生じないものである接着フィルムが提供される。本発明においては、更に、85℃、85%相対湿度、168時間の吸湿処理後に、260℃のリフロー炉を120秒間とおした時、接着剤層と半導体チップ間に直径1mm以上の剥離が生じないものである半導体装置が提供される。」(第24頁第1?8行)

(2e)「産業上の利用可能性
本発明の接着剤組成物は、上記構成により優れた耐吸湿特性、耐リフロークラック特性、及び耐熱特性を有する接着剤組成物である。また、無機フィラーを更に添加することにより高温弾性率が高く、かつ高温ピール強度が高くなり、リフロークラック防止効果が働き、耐リフロークラック性に優れる接着剤組成物を得ることができる。・・・本発明の接着フィルムは、吸湿後の耐熱性、耐リフロー性、吸湿後の接着性等に優れるものである。」(第53頁第18?25行)

3.当審の判断
当審にて平成19年8月21日付で通知した拒絶の理由で指摘した、<A.進歩性についての判断>と<B.明細書又は特許請求の範囲の記載要件についての判断>に分けて以下に検討する。

3-1.<A.進歩性についての判断>
3-1-1.刊行物1に記載の発明
上記摘記事項(1a)、(1b)から、刊行物1の接着層に用いられる接着剤は、半導体チップと配線基板を接続するためのものであることがわかるから、上記摘記事項(1c)段落【0081】の「接着力の評価方法について説明する。まず、接着剤を、20mm□の銅板の10×3mmの領域に、・・・スクリーン印刷し、塗布した接着剤を・・・乾燥させた。10×50mmのポリイミドフィルム(・・・)を・・・銅板上の乾燥接着剤上に圧着し、続いて温度170℃で5時間の後硬化処理を行った。」という記載におけるポリイミドフィルムは、半導体装置の配線基板として用いられることを前提にしていると理解できる。
また、該半導体装置の接着層を構成する接着剤について、上記摘記事項(1c)段落【0075】の「エポキシ基含有反応性シリコーン」という記載、及び段落【0077】の「・・・投入する反応性シリコーンの添加量と、そのエポキシ当量の異なる実施例11?18の8種類の接着剤・・・」という記載から、実施例11?18の接着剤は、エポキシ樹脂を含有した接着剤であるということができる。
それから、上記摘記事項(1c)段落【0081】、【0082】、及び【表7】から、実施例11、12、14、15、16の接着剤について、90°ピール強度試験を行って、260℃まで加熱したときの接着力が、それぞれ400gf/cm、900gf/cm、450gf/cm、500gf/cm、600gf/cmであり、また、温度85℃、相対湿度85%の環境下で48時間吸湿させた後のピール強度と、硬化後のピール強度との比率が、それぞれ、0.97、0.94、1.00、0.88、0.85であることが分かるから、結局、刊行物1には、90°ピール強度試験を行って、260℃まで加熱したときの接着力が400gf/cm以上であり、かつ、吸湿させた後のピール強度と硬化後のピール強度との比率が0.85以上であると理解できる。
更に、上記摘記事項(1c)段落【0081】の「・・・ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトンフィルム)を・・・の条件で銅板上の乾燥接着剤上に圧着し、続いて温度170℃で5時間の後硬化処理を行った。」とあることから、結局のところ、乾燥接着剤は接着層であり、段落【0082】における接着剤の接着力は、接着層の接着力ということができる。

よって、上記摘記事項(1a)?(1c)を総合すると、刊行物1には、
「エポキシ樹脂を含有し、90°ピール強度試験を行って、260℃まで加熱したときの、半導体装置の配線基板であるポリイミドフィルムに対する接着層の接着力が400gf/cm以上であり、かつ、温度85℃、相対湿度85%の環境下で48時間吸湿させた後のピール強度と、硬化後のピール強度との比率が0.85以上である接着剤を有する接着層。」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていることになる。

3-1-2.対比・判断
そこで、本願発明1と刊行物1発明とを対比する。
(i)刊行物1発明の「半導体装置の配線基板であるポリイミドフィルム」、「接着剤」及び「接着層」は、本願発明1の「半導体パッケージ用基板」、「接着剤層」及び「接着部材」にそれぞれ相当する。
(ii)刊行物1発明の「90°ピール強度試験を行って、・・・℃まで加熱したときのポリイミドフィルムに対する接着層の接着力」は、本願発明1の「90°ピール強度測定を・・・℃で行った際の半導体パッケージ用基板に対する接着部材の接着力」に相当する。
(iii)刊行物1の90°ピール強度試験の際の加熱温度である「260℃」も、本願発明1の90°ピール強度測定を行った際の温度である「265℃」も、どちらも実装技術における温度としては「高温」という点で共通である。
(iv)刊行物1発明の「温度85℃、相対湿度85%の環境下で・・・時間吸湿させた後のピール強度と硬化後のピール強度との比率」は、本願発明1の「吸湿処理(温度85℃、湿度85%及び保持時間・・・時間)前後の半導体パッケージ用基板に対する前記接着部材の接着力の比率」に対応する。
(v)刊行物1発明の「400gf/cm以上」は、「392N/m以上」に相当する。

そうすると、両者は、
「エポキシ樹脂を含有し、90°ピール強度測定を高温で行った際の半導体パッケージ用基板に対する接着部材の接着力が392N/m以上であり、かつ吸湿処理(温度85°、湿度85%)前後の半導体パッケージ用基板に対する前記接着部材の接着力の比率が0.85以上である接着剤層を有する接着部材。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:接着部材が、本願発明では、エポキシ基含有アクリール系共重合体を含有しているのに 対し、刊行物1発明では、そのような記載がない点。

相違点2:90°ピール強度測定を行う高温が、本願発明1では、265℃であるのに対し、刊行物1発明では、260℃である点。

相違点3:吸湿処理の保持時間が、本願発明1では、12時間であるのに対し、刊行物1発明では48時間である点。

相違点4:吸湿処理前後の半導体パッケージ用基板に対する「接着部材の接着力の比率」における「接着力」を測定する際の温度条件が、本願発明1では265℃であるのに対し、刊行物1発明では不明である点。

そこで、上記相違点1?4について次に検討する。
[相違点1について]
刊行物2には、上記摘記事項(2a)?(2e)を総合すると、接着力の低下を防止し、高温ピール強度が高く、吸湿後の耐熱性、耐リフロー性、吸湿後の接着性等に優れるものを得るために、「エポキシ樹脂と非相溶性である高分子化合物を、重量平均分子量が10万以上であるエポキシ基含有アクリル共重合体とした接着剤を有する接着フィルム」が記載されていることになる。
そうすると、刊行物2の「重量平均分子量が10万以上であるエポキシ基含有アクリル共重合体」、「接着剤」、及び「接着フィルム」は、本願発明1の「エポキシ基含有アクリール系共重合体」、「接着剤層」、及び「接着部材」に、それぞれ、相当するから、刊行物1発明の接着部材において、接着力低下の防止等のため、刊行物2に記載の、エポキシ基含有アクリール系共重合体を含有させようとすることは、当業者にとって容易に想到できたことである。

[相違点2について]
半導体パッケージ用基板に対する熱処理において、260℃も265℃も両者とも十分高温であり、両者の温度差は温度の高さに比べればわずかのものといえる。しかも、本願発明1において、265℃という温度に格別な効果も臨界的意義もない。
よって、刊行物1発明において、90°ピール強度測定を行う高温を、260℃から265℃に変えることは、当業者にとって、適宜調整できる範疇のことである。

[相違点3について]
そもそも、吸湿処理試験の保持時間の長さは、目的とする条件に応じて、適宜変更すべき事項である。
また、一般に吸湿処理試験の条件において、同じ温度、同じ湿度であるならば、時間が長い方が厳しい条件であり、より厳しい条件下での試験結果の方がより悪い結果となるのは技術常識である。
そうすると、刊行物1発明の吸湿処理は、保持時間が12時間よりも長い48時間であって、より厳しい条件下にあるのだから、刊行物1発明の保持時間を12時間に短縮しても、吸湿処理前後の半導体パッケージ用基板に対する接着部材の接着力の比率が、現状の0.85よりも下がらないということは、当業者ならば容易に推測できるため、刊行物1発明において、保持時間を48時間としても、接着部材の接着力の比率が0.85以上と見積もることは格別なこととは云えない。

[相違点4について]
吸湿処理後の接着力を吸湿処理前の接着力で割った比率においては、接着力の温度に依存する部分が割り算によりほぼ相殺され、実質的には吸湿処理の前後による接着力の変化が現れると考えるのが技術的には妥当と考えられる。
そうすると、刊行物1発明の接着部材の吸湿処理前後での接着部材の接着力の比率は、265℃での温度条件での比率と同傾向を示すと云えるため、刊行物1発明の接着部材の接着力の比率から、265℃の温度条件での比率を同程度とすることに、当業者ならば、格別な困難性を有するものとは認められない。

そして、上記相違点1?4に係る本願発明1の作用効果も、格別なものは見当たらない。

したがって、本願発明1は、刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである

なお、請求人は平成19年10月25日付意見書(以下、「意見書」という。)において、刊行物1(特開平11-21537号公報)について、「・・・ここで、刊行物1を参照するに、表1?表5、請求項2に記載の通り、フィラーの粒子径及び添加量を制御したことにより所定の特性を備える接着剤が得られることが開示されている。この点、本発明はフィラーが必須の成分ではないことから明らかなとおり、刊行物1は本発明の完成に特に着想を与えるものではない。」(意見書第2頁第44?47行)とし、また、刊行物2(国際公開第01/60938号)について、「・・・「240℃における貯蔵弾性率が1?20MPaである接着剤組成物」とは、0.005?0.1μmの平均粒径を有するフィラーを含有させることで所定の物性を発揮させようとするものである(20頁下から1?2行目)。フィラーを必須の成分としない本発明の完成に特に着想を与えるものではない。」(意見書第3頁第4?7行)としており、刊行物1、2ともにフィラーが必須であって、フィラーを必須の成分としない本願発明1の完成に特に着想を与えるものではない旨、主張している。
しかしながら、この主張は請求項1の記載に基づく主張ではないし、また、本願明細書の全ての実施例(本願明細書段落【0068】?【0070】)でフィラー(シリカフィラー)が必ず含まれている一方で、全ての比較例(本願明細書段落【0071】?【0072】)でフィラーが含まれていないことから、フィラーを必須の成分としないという主張は、本願明細書の記載に基づく主張ともいえないため、請求人の主張は採用しない。

3-2.<B.明細書又は特許請求の範囲の記載要件についての判断>
当審にて平成19年8月21日付で通知した拒絶理由において指摘した、明細書又は特許請求の範囲の記載の不備について検討する。

(1)本願請求項1では、90°ピール強度測定により測定される所定の接着力を有する接着部材が含有する接着剤層の樹脂成分について、「エポキシ樹脂」と「エポキシ基含有アクリール系共重合体」を含有するということのみにより、発明を特定しようとしている。
しかしながら、該所定の接着力を有していない、本願の発明の詳細な説明の比較例1、2においても、「エポキシ樹脂としてビスフェノ-ルA型エポキシ樹脂・・・を加え、攪拌混合したワニスに、エポキシ基含有アクリール系共重合体・・・加えて攪拌混合し、この接着剤の組成物ワニスを得た。」(本願明細書段落【0071】)という記載から、「エポキシ樹脂」と「エポキシ基含有アクリール系共重合体」を含有していることになり、「エポキシ樹脂」と「エポキシ基含有アクリール系共重合体」を含有することのみが、接着力に関係するとは本願明細書に記載されているとはいえない。
したがって、本願請求項1に係る発明は、接着部材が含有する接着剤層の「エポキシ樹脂」と「エポキシ基含有アクリール系共重合体」を含有するということのみをもって、発明の所定の接着力を実現する接着剤層の樹脂成分についての構成が明確に特定されているとはいえないし、また、発明の詳細な説明において、本願請求項1に記載された「エポキシ樹脂」と「エポキシ基含有アクリール系共重合体」を含有するということのみでもって接着部材の所定の接着力が実現できるとまで拡張ないし一般化できるとはいえない。

(2)本願請求項1、及び本願明細書段落【0014】、【0024】では、90°ピール強度測定を265℃で行った際の半導体パッケージ用基板に対する接着部材の接着力が「30N/m以上」であるとしている。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明の、90°ピール強度測定を265℃で行った際の半導体パッケージ用基板に対する接着部材の接着力について、
・<実施例1>では「・・・この試験用テープ基板1を・・・265℃条件下で90゜ピ-ル強度測定を行ったところ接着力は100N/mであった。また、前記試験用テープ基板1を・・・吸湿処理を行った後に265℃条件下で90゜ピ-ル強度測定を行ったときの接着力は95N/mであった。」(本願明細書段落【0068】)と記載されているように95N/m以上、100N/m以下を示しており、
・<実施例2>では「・・・この試験用テープ基板2を・・・265℃条件下で90゜ピ-ル強度測定を行ったところ接着力は120N/mであった。また。前記試験用テープ基板2を・・・吸湿処理を行った後に265℃条件下で90゜ピ-ル強度測定を行ったときの接着力は115N/mであった。」(本願明細書段落【0069】)と記載されているように115N/m以上、120N/m以下を示しており、
・<実施例3>では「・・・この試験用テープ基板3を・・・265℃条件下で90゜ピ-ル強度測定を行ったところ接着力は90N/mであった。また、前記試験用テープ基板3を・・・吸湿処理を行った後に265℃条件下で90゜ピ-ル強度測定を行ったときの接着力は90N/mであった。」(本願明細書段落【0070】)と記載されているように90N/mを示している。
つまり、実施例全体では、90N/m以上、120N/m以下の数値を示していることになるが、そうすると、本願請求項1、及び本願明細書段落【0014】、【0024】における、90°ピール強度測定を265℃で行った際の半導体パッケージ用基板に対する接着部材の接着力が「30N/m以上」という数値範囲について、30N/m以上90N/m未満、及び120N/mより大きい値の領域では十分な数の具体例が示されていないことになる。
したがって、本願請求項1に係る発明は、機能・特性等を数値限定することにより物を特定しようとする発明であるにも関わらず、発明の詳細な説明において請求項に記載された数値範囲全体にわたる十分な数の具体例が示されておらず、しかも、発明の詳細な説明の他所の記載をみても、出願時の技術常識に照らしても、当該具体例から本願請求項1に記載された数値範囲全体にまで拡張ないし一般化できるものとは、云うことはできず、該数値範囲の意義、効果も明確に示されていない。
また、上記(1)で述べたように、発明の接着剤層の構成も明確に特定されていないのであるから、発明が全体に明確でない。

なお、請求人は意見書において、90°ピール強度測定を265℃で行った際の半導体パッケージ用基板に対する接着部材の接着力が「30N/m以上」という数値限定の根拠について、「商品としての使用に耐えうる接着力の基準が「30N/m以上」である」(意見書第2頁第15?16行)ことを主張している。
しかしながら、請求人の主張は、本願明細書の記載に基づく主張ではないし、求められる接着力は半導体パッケージの種類等に応じて変化するものであって、一概に接着力の基準が90°ピール強度測定を265℃で行った際の「30N/m以上」であることが技術常識ともいえないため、請求人の主張は採用しない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1、2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願の請求項1に係る発明の構成に欠くことができない事項が特許請求の範囲に明確に記載されていないし、本願の請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載されたものともいえず、更に、当業者が容易に実施できる程度に発明の目的、構成及び効果が発明の詳細な説明に記載されているともいえないため、本願は、特許法第36条第4項または第6項に規定する要件を満たしていない。
そして、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-13 
結審通知日 2008-02-19 
審決日 2008-03-03 
出願番号 特願2002-152333(P2002-152333)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
P 1 8・ 537- WZ (H01L)
P 1 8・ 536- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 永一  
特許庁審判長 綿谷 晶廣
特許庁審判官 正山 旭
市川 裕司
発明の名称 接着部材及び半導体装置  
代理人 三好 秀和  

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