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審決分類 |
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 G01M 審判 全部無効 発明同一 G01M 審判 全部無効 2項進歩性 G01M 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G01M |
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管理番号 | 1176912 |
審判番号 | 無効2007-800179 |
総通号数 | 102 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-06-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2007-08-27 |
確定日 | 2008-04-28 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3273034号発明「振動試験装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
I.手続の経緯・本件発明 本件特許第3273034号は、平成11年6月28日に特許出願され、平成14年1月25日に特許権の設定登録が行われた。その後、無効審判請求人IMV株式会社により請求項1に係る特許について本件無効審判の請求がなされたものである。 以下において、本件特許の請求項1に係る、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりの発明を、「本件特許発明」という。 「【請求項1】所定電力に励磁した状態で試料に加振力に応じた振動加速度を供給することにより該試料を加振する加振手段を有する振動試験装置において、 前記試料に加える加振力を検出する加振力検出手段と、 前記加振力検出手段で検出された加振力に応じて前記励磁電力を制御する励磁電力制御手段とを有することを特徴とする振動試験装置。」 II.請求人の主張 無効審判請求人(以下、「請求人」という。)は、審判請求書で、以下の無効理由を主張している。 (無効理由1) 本件特許発明は、本件特許出願の前に出願され、本件特許出願の後に公開された出願である特願平10-288257号(特開2000-121490号公報(甲第1号証))の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一の発明であるから、特許法第29条の2の規定に違反しており、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (無効理由2) 本件特許発明は、検甲第1号証および検甲第2号証に記載された発明と同一であり、あるいはこれらに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項もしくは同第2項の規定に違反しており、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (無効理由3) 本件特許の明細書は、当業者が本件特許発明を容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。 (無効理由4) 本件特許発明は明確でないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。 III.被請求人の対応 請求人の提出した審判請求書副本を送達して答弁或いは訂正請求の機会を与えたが、被請求人は、答弁書も、また訂正請求書も提出していない。 IV.無効理由3についての検討 無効理由1,2についての検討に先立ち、最初に、請求人が主張する無効理由3について検討する。 (IV-1)無効理由3の具体的主張内容 請求人は、発明の実施の形態を参酌し、本件特許発明は、「最大能力より小さい加振力で動作させる場合に消費電力を低減させる」ことを目的とし、「試料に加える加振力が小さいときには励磁電流を小さく」したものであるが、加振力を維持しつつ励磁電流を下げた場合には、励磁電力は低減される一方で駆動電力を増加させる必要があり、全体的な消費電力が低減されるとは限らないので、本件特許明細書は、当業者が発明を実施可能である程度に発明を開示したものではない旨、主張する。 (IV-2)本件特許明細書の記載内容 本件特許明細書には、以下の記載がある。 (A)「【0021】 【発明が解決しようとする課題】しかるに、従来の振動試験装置では加振手段の励磁電流を設定した加振力によらず、最大能力での加振力が可能な電力である最大励磁電流に設定されていたため、最大能力より小さい加振力で動作させる場合に必要以上に大きな励磁電力が印加され、不要な消費電力が消費されてしまう等の問題点があった。」 (B)「【0027】…… 電力制御回路105は、振動制御器3から供給される加振信号の振幅を検出することにより加振力の大小を検出する。振動制御器3から供給される加振信号の振幅が第1のレベルより大きければ、加振力が大きいと判断して、励磁電源101から励磁コイル36,38に供給する直流電流を最大の第1の電流値となるように制御する。 【0028】 また、振動制御器3から供給される加振信号の振幅が第1のレベルより小さくかつ、第2のレベルより大きければ、加振力が中程度と判断して、励磁電源101から励磁コイル36,38に供給する直流電流を第2の電流値となるように制御する。 さらに、振動制御器3から供給される加振信号の振幅が第2のレベルより小さければ、加振力が小さいと判断して、励磁電源101から励磁コイル36,38に供給する直流電流を第3の電流値となるように制御する。」 (C)「【0040】 【発明の効果】上述の如く、本発明によれば、試料に加える加振力を検出し、必要加振力に応じた量に励磁電流を設定する、例えば、試料に加える加振力が大きいときには、励磁レベルを大きくし、試料に加える加振力が小さいときには励磁電流を小さくすることにより、試料に加える加振力は小さいのに必要以上に大きな励磁レベルが印加されるようなことがなくなり、電力を必要最小限にでき、省電力化が可能となる等の特長を有する。」 (IV-3)検討・判断 上記(A)乃至(C)の摘記事項からして、本件特許発明は、試料に加える加振力の大小に関係なく最大値に設定されていた励磁電流による無駄な電力量を低減するため、試料に加える加振力に応じて励磁電流、すなわち、励磁電力を変化させ、全体としての消費電力の低減を図ったものである。 してみると、本件特許明細書には、試料に加える加振力が小さいときに必要以上に大きな励磁電流を印加することなく電力を必要最小限として省電力化を達成するための発明が、当業者が実施可能とする程度に開示されており、本件特許明細書の記載が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないと言うことはできない。 V.無効理由4についての検討 次いで、請求人が主張する無効理由4について検討する。 (V-1)無効理由4の具体的主張内容 請求人は、本件特許発明の発明特定事項である「所定電力に励磁した状態で」、「加振手段」、「加振力」、ならびに、「制御」の具体的内容が不明あるいは適切でなく、本件特許発明は明確でない旨、主張する。 (V-2)検討・判断 本件特許発明の振動試験装置は、「所定電力に励磁した状態で試料に加振力に応じた振動加速度を供給することにより該試料を加振する加振手段を有する振動試験装置において」という前提事項が記載されていることから、当該振動試験装置が磁力を用いる振動試験装置であることは明らかである。 そして、磁力を用いる振動試験装置は励磁コイルと駆動コイルから構成されるものであって、励磁コイルに所定の電流を流して励磁した状態で駆動コイルに電流を流して加振を行うものであることは当業者に自明の事項である。 そうすると、本件特許発明の「加振手段」は磁力を用いた振動試験装置であって、「所定電力に励磁した状態で」は、励磁コイルを所定電力に励磁した状態であることは明らかであるので、記載内容が不明であるとも、開示範囲との関係において記載が不適切であるともいえない。 また、「加振力」は、試料に「加える」加振力であって、「振動制御器から供給される加振信号の振幅を検出する」ことによって検出されるものであることは、発明の詳細な説明の記載(例えば【0023】、【0027】)を参酌しても明らかであり、記載内容が不明であるとはいえない。 さらに、本願特許発明は前記「(IV-3)」に記載した技術的事項を主題とする発明であることを勘案すると、励磁電力の「制御」態様には様々な態様があることは明らかであって、その制御内容が不明確であるとはいえない。 してみると、本件特許発明は明確であって、本件特許が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないと言うことはできない。 VI.無効理由1についての検討 (VI-1)本件特許発明 上記のとおり、本件特許明細書に不備はなく、また、本件特許の特許請求の範囲の記載は明確であるので、本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記「I.」で「本件特許発明」として記載したとおりのものである。 (VI-2)甲第1号証に記載された発明 本件特許出願の前に出願され、本件特許出願の後に公開された出願である特願平10-288257号(特開2000-121490号公報(甲第1号証))の願書に最初に添付された明細書又は図面には以下の記載がある。 (a)「【請求項1】励磁コイルによって直流磁界を形成された空隙中に、試験体を設置するための振動台に固定された可動コイルを挿入し、この可動コイルに交流電流を流すことによって当該可動コイルを前記振動台と一緒に振動させて、試験体に対する振動試験を行う振動試験装置において、発振器より振動数情報を取得して振動試験の振動数を検出する振動数検出手段と、この振動数検出手段によって検出された振動数に応じて、前記励磁コイルに流れる電流を連続的に可変する電流可変手段と、を備えたことを特徴とする振動試験装置。 …… 【請求項5】励磁コイルによって直流磁界を形成された空隙中に、試験体を設置するための振動台に固定された可動コイルを挿入し、この可動コイルに交流電流を流すことによって当該可動コイルを前記振動台と一緒に振動させて、試験体に対する振動試験を行う振動試験装置を制御する振動試験装置制御方法において、振動数が低振動数から高振動数に変化する過程で、前記励磁コイルに流れる電流を振動試験装置の特性によって定まる最大電流値より小さい電流値で一定とする制御と、前記励磁コイルに流れる電流を前記最大電流値に至るまで連続的に増加するように可変する制御と、前記励磁コイルに流れる電流を前記最大電流値で一定とする制御と、を振動数に応じて順次段階的に切り換えて行うことにより、前記可動コイルが、各振動数において振動試験に有効な大きさの加振力を前記励磁コイルから得るようにすることを特徴とする振動試験装置制御方法。」(特許請求の範囲) (b)「【発明の属する技術分野】本発明は、振動試験装置に係り、詳細には、励磁コイルに流す電流値を連続可変させて振動数に応じて適切な電流制御を行う振動試験装置及び振動試験装置制御方法に関する。」(段落【0001】) (c)「本発明の課題は、励磁コイルに流す電流を連続可変することによって、最大加振力を必要としない低振動数領域の変位・速度領域においては磁束密度を小さくし、最大加振力を必要とする高振動数領域においては磁束密度を大きくすることが可能な振動試験装置及び振動試験装置制御方法を提供することである。」(段落【0018】) (d)「請求項1記載の発明の振動試験装置によれば、振動数検出手段によって、振動数を検出し、電流可変手段によって、前記振動数検出手段によって検出された振動数に応じて、前記励磁コイルに流れる電流を連続的に可変する。 したがって、従来のように、振動試験を一旦停止して電流値を切り換える必要がなく、振動試験装置による振動試験を、振動数に応じて適切な条件において行うことができる。また、電流可変手段によって電流値を可変することができるため、大きな加振力を必要としない場合には、電流値を低く抑えることができ、無駄な消費電力を省いて振動試験装置の省電力化を図ることができる。また、従来、誘導式の振動試験装置においては実質的な振動試験が困難であった低振動領域においても、電流可変手段によって励磁コイルに流れる電流値を低く制御することにより大きな変位・速度を得ることができ、誘導式の振動試験装置による振動試験を幅広い振動数領域で実施することが可能となる。」(段落【0020】?【0021】) (e)「以上説明したように、本実施の形態における誘導式振動試験装置1によれば、励磁電流可変回路10によって、所定の振動数F1以下の領域では、励磁コイル4に印加する直流電圧値を低電圧に制御し、振動数F1から所定の振動数F2までの間では、励磁コイル4に印加する直流電圧を連続可変し、振動数F2以上の領域では、励磁コイル4に印加する直流電圧値を誘導式振動試験装置1が最大加振力を発揮できる電圧値に制御する。 したがって、変位・速度領域での振動数で励磁コイル4に流す電流値を低く、また、加速度領域で励磁コイル4に流す電流値を高くするように連続可変することができ、従来のように、振動試験を一旦停止して電流値を切り換える必要がなく、誘導式振動試験装置1による振動試験を、振動数に応じて適切な条件において行うことができる。 また、励磁電流可変回路10によって電流値を可変することができるため、大きな加振力を必要としない場合には、電流値を低く抑えることができるため、無駄な消費電力を省き誘導式振動試験装置1の省電力化を図ることができる。」(段落【0046】?【0048】) (f)【図3】には、発振器からの信号が制御回路103に入力され、励磁コイル4に接続された電流可変回路104に前記制御回路からの信号が入力されることが図示され、【図5】には、発振器から入力される振動数情報と励磁コイルに印可される電圧との関係が図示されている。 してみると、甲第1号証には、「励磁コイルによって直流磁界を形成された空隙中に、試験体を設置するための振動台に固定された可動コイルを挿入し、この可動コイルに交流電流を流すことによって当該可動コイルを前記振動台と一緒に振動させて、試験体に対する振動試験を行う振動試験装置において、発振器より振動数情報を取得して振動試験の振動数を検出する振動数検出手段と、この振動数検出手段によって検出された振動数に応じて、前記励磁コイルに流れる電流を連続的に可変する電流可変手段とを備え、前記可動コイルが、各振動数において振動試験に有効な大きさの加振力を前記励磁コイルから得ることができる振動試験装置。」(甲第1号証発明)が記載されていると認められる。 (VI-3)本件特許発明と甲第1号証発明の対比 本件特許発明と甲第1号証発明とを対比する。 甲第1号証発明の「励磁コイルによって直流磁界を形成された空隙中に、試験体を設置するための振動台に固定された可動コイルを挿入し、この可動コイルに交流電流を流すことによって当該可動コイルを前記振動台と一緒に振動させて、試験体に対する振動試験を行う振動試験装置」が、本件特許発明の「所定電力に励磁した状態で試料に加振力に応じた振動加速度を供給することにより該試料を加振する加振手段を有する振動試験装置」と同等の振動試験装置であることは明らかである。 また、甲第1号証発明の「励磁コイルに流れる電流を連続的に可変する電流可変手段」と、本件特許発明の「励磁電力を制御する励磁電力制御手段」とは、いずれも、「励磁コイルの励磁電力を制御する手段」である点で共通している。 してみると、両者は「所定電力に励磁した状態で試料に加振力に応じた振動加速度を供給することにより該試料を加振する加振手段を有する振動試験装置において、励磁コイルの励磁電力を制御する手段を有する振動試験装置。」である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点A) 励磁電力の制御が、本件特許発明においては、「試料に加える加振力を検出する加振力検出手段で検出された加振力に応じて」なされるのに対して、甲第1号証発明は、「発振器より振動数情報を取得して振動試験の振動数を検出する振動数検出手段によって検出された振動数に応じて」なされている点。 (VI-4)相違点Aの検討・判断 上記相違点Aについて検討する。 甲第1号証には、振動数と加振力について、「低振動数領域では最大加振力は必要とされず高振動数領域では最大加振力が必要とされる」こと、そして「励磁電流可変回路によって電流値を可変できるため、大きな加振力を必要としない場合には電流値を低く抑えることができ、無駄な消費電力を省いて振動試験装置の省電力化を図ることができる」ことは記載されているものの、励磁電流を、「試料に加える加振力に応じて」制御することは何ら記載されていない。 してみると、本件特許発明が、本件特許出願の前に出願され、本件特許出願の後に公開された出願である特願平10-288257号(特開2000-121490号公報(甲第1号証))の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一の発明であるということはできない。 よって、本件特許が特許法第29条の2の規定に違反しているとすることはできない。 VII.無効理由2についての検討 (VII-1)本件特許発明 本件特許発明は、前記「(VI-1)」に記載したとおりである。 (VII-2)検甲第1号証ならびに検甲第2号証の記載事項 (ア)検甲第1号証(SYSTEM MANUAL V830 VIBRATION TEST SYSTEMS Manual Number 805341 Edition1(LING DYNAMIC SYSTEMS)) 検甲第1号証は、本件出願前の1995年1月に発行されたことが推認される、振動試験システムV830のマニュアルであって、以下の記載がある。(邦訳は、請求人の邦訳に基づいた。) (g)「典型的な振動テストシステムとして、加振手段である振動発生機(LDS Vibrator)によって試料(Payload)に振動を与える振動試験装置が図示され、加振手段によって試料(Payload)に加えられた振動を加速度計(accelerometer)によって検出し、制御装置(Control Equipment)、アンプ(SPAK AMPLIFIER)によって振動発生機(LDS Vibrator)を制御すること」が図示されている。(図1.1) (h)「範囲 この章では、V830シリーズの電動式振動テストシステムの主要部について述べる。オプションについては、第7章に詳しく述べる。 この章は、2つのセクションに分かれている。 セクション1:V830シリーズの電動式振動発生機(もしくは振動発生機) セクション2:SPAKディジタル・スイッチング・アンプ(もしくは増幅器)」(ページ2.1) (i)「1.2 動作原理 1.2.1 概要(図2.2参照) この振動発生機は、2つの主要部を備えている:本体およびアーマチュア(armature)である。本体は、直流電流が供給されると振動動作のために必要とされる静磁場を生成する2つの励磁コイルを有する円筒状マグネット構造である。 本体は、上部板、本体リング、センターポール、下部板および2つの励磁コイル(field coils)から構成されており;これらによって振動発生機のマグネット構造が構成されている。 アーマチュア・アセンブリは、本体の中央部に浮いた状態にされている;駆動(アーマチュア)コイルに、交流電流が供給されると、アーマチュア・アセンブリが中心位置に対して駆動(振動)するように制御がなされる。テスト対象である試料負荷(payload)は、アーマチュア・アセンブリの上部に位置するテーブルに固定される。」ことが記載され、また、図2.2には、振動発生機の断面図が図示されている。(ページ2.8、及び、図2.2) (j)「励磁レベル:50%?100%の間で励磁供給電力の調整が可能 最大システムパフォーマンスが必要な場合には、常に100%の励磁レベルが用いられるべきである。しかし、低パフォーマンスのテストをするのであれば、値を小さくすることによって、かなりのエネルギー/コストの節約を図ることができる。」(ページ4.13) これらの記載から、検甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる。 「直流電流が供給されると振動動作のために必要とされる静磁場を生成する2つの励磁コイルと、本体の中央部に浮いた状態にされて交流電流が供給される駆動コイルを有するアーマチュア・アセンブリと、アーマチュア・アセンブリの上部に位置してテスト対象である試料負荷を固定するためのテーブルからなる振動試験装置であって、励磁コイルへの励磁供給電力を50%?100%の間で調整可能である装置。」(以下、「検甲第1号証発明」という。) (イ)検甲第2号証(INSTALLATION AND OPERATING MANUAL DPA ’K’ SERIES AMPLIFIERS RANGE 2 Manual Mumber 846611 Edition 1 (LING DYNAMIC SYSTEMS)) 検甲第2号証は、本件出願前の1991年10月に発行されたことが推認される、DPA ’K’ SERIES AMPLIFIERS RANGE 2のマニュアルであって、以下の記載がある。(邦訳は、主に請求人の邦訳に基づき、一部当審において行った。) (k)「安全措置 次のノートは、振動試験システムを操作する場合に、組織ならびに担当者によるメンテナンス及び正しい安全措置を奨励するために意図されたものである。」(ページ ix) (l)「3.励磁パワーのセッティング …… モード2.MASTER GAIN RESET 制御は、完全な反時計回り位置(その終止位置)にあるときを除き、100%の励磁電力。完全な反時計回り位置にある時は、励磁電力は50%(70%電圧、70%電流)にセットされる;MASTER GAIN RESET 制御を使って静止/アイドリング期間に100%から50%に変化させることにより、かなりのエネルギー/コストの節約となる。 モード3.MASTER GAIN RESET 制御の全ての位置について50%の励磁電力。このエコノミーモードは、最大システムパフォーマンスを必要としない場合にのみ選択されるべきである。50%の励磁電力が選択されると、最大システムパフォーマンスの80?90%した達成されない。しかし、低パフォーマンスのテストであれば、50%の励磁電力にセットすることによって、かなりのエネルギー/コストの節約を図ることができる。」(ページ5.6) これらの記載から、検甲第2号証には以下の発明が記載されていると認められる。 「振動試験システムであって、MASTER GAIN RESET 制御が完全な反時計回り位置にあるときを除いて100%の励磁電力で励磁され、前記制御を所定の位置とする、あるいは所定の運転モードを選択することにより、エネルギー節約のため、静止/アイドリング期間、あるいは、最大システムパフォーマンスを必要としない低パフォーマンステスト時には、励磁電力を50%にセットするモードを有するシステム。」(以下、「検甲第2号証発明」という。) (VII-3)無効理由2のうち、特許法第29条第1項についての検討 (VII-3-1)本件特許発明と検甲第1号証発明との対比 検甲第1号証発明の「直流電流が供給されると振動動作のために必要とされる静磁場を生成する2つの励磁コイルと、本体の中央部に浮いた状態にされて交流電流が供給される駆動コイルを有するアーマチュア・アセンブリと、アーマチュア・アセンブリの上部に位置してテスト対象である試料負荷を固定するためテーブルからなる振動試験装置」が、本件特許発明の「所定電力に励磁した状態で試料に加振力に応じた振動加速度を供給することにより該試料を加振する加振手段を有する振動試験装置」に相当する装置であることは当業者に明らかである。また、検甲第1号証発明が「励磁コイルへの励磁供給電力を50%?100%の間で調整可能」であることは、本件特許発明の「励磁電力を制御する」ことに相当すると認められるので、検甲第1号証記明も本件特許発明の「励磁電力制御手段」と同様の作用を行う構成を具備するものと認められる。 してみると、両者は、「所定電力に励磁した状態で試料に加振力に応じた振動加速度を供給することにより該試料を加振する加振手段を有する振動試験装置において、前記励磁電力を制御する励磁電力制御手段を有する振動試験装置。」の点で一致し、次の点で相違する。 (相違点B) 励磁電力制御手段が、本件特許発明では「試料に加える加振力を検出する加振力検出手段と、前記加振力検出手段で検出された加振力に応じて励磁電力を制御する」よう構成されているのに対し、検甲第1号証発明はそのような構成を具備していない点。 (VII-3-2)本件特許発明と検甲第2号証発明との対比 検甲第2号証発明の「振動試験システム」は、本件特許発明の「振動試験装置」に相当する装置であることは当業者に明らかであり、当該装置が「加振手段」を有することも明らかであるので、検甲第2号証発明が「加振手段」に相当する手段を具備することも明らかである。そして、検甲第2号証発明の「励磁」は加振手段に対するものであることは当業者に明らかであるので、「MASTER GAIN RESET 制御が完全な反時計回り位置にあるときを除いて100%の励磁電力で励磁され」ること、ならびに、「励磁電力を50%にセットする」ことは、本件特許発明の「所定電力に励磁した状態で試料に加振力に応じた振動加速度を供給する」、ならびに、「励磁電力を制御する」ことに相当する。 してみると、両者は上記「VII-3-1」と同様に、「所定電力に励磁した状態で試料に加振力に応じた振動加速度を供給することにより該試料を加振する加振手段を有する振動試験装置において、前記励磁電力を制御する励磁電力制御手段を有する振動試験装置。」の点で一致し、上記(相違点B)と同じ点で相違する。 (VII-3-3)特許法第29条第1項についての結論 上記のとおり、本件特許発明と検甲第1号証発明、検甲第2号証発明は、上記(相違点B)の点で相違する。したがって、検甲第1号証ならびに検甲第2号証に記載された発明と本件特許発明が同一であるとすることはできず、本件特許が特許法第29条第1項の規定に違反しているとすることはできない。 (VII-4)無効理由2のうち、特許法第29条第2項についての検討 (VII-4-1)本件特許発明と検甲第1号証発明との対比 本件特許発明と検甲第1号証発明とは、上記(VII-3-1)で述べたとおりの一致点ならびに相違点を有する。 (VII-4-2)相違点Bの検討・判断 上記相違点Bについて検討する。 検甲第2号証についての摘記(l)から、検甲第2号証には「MASTER GAIN RESET 制御を所定の位置とする、あるいは所定の運転モードを選択することにより、エネルギー節約のため、静止/アイドリング期間、あるいは、最大システムパフォーマンスを必要としない低パフォーマンステスト時には、励磁電力を50%にセットする」こと、すなわち、「省エネルギーを図るため、大きな加振力を必要としない時には、所定の設定を行って励磁電力を小さくする」との技術的事項が記載されていると認められる。 しかしながら、励磁電力は使用者の意図的操作によって変更されるものであって、加振に関する何らかの検出信号に基づいて変更されるものではない。 すなわち、検甲第2号証には、励磁電力を低く抑えることができ、無駄な消費電力を省いて振動試験装置の省電力化を図ることができることは記載されているものの、「加振力検出手段で加振力を検出し、検出された加振力に応じて励磁電力を制御すること」は記載されていないし、また、それを示唆する記載もない。 そして、本件特許発明は、そのことにより、本件特許明細書記載の「試料に加える加振力は小さいのに必要以上に大きな励磁レベルが印加されるようなことがなくなり、電力を必要最小限にでき、省電力化が可能となる」という、検甲第1号証ならびに検甲第2号証には無い作用効果を奏するものである。 (VII-4-3)特許法第29条第2項についての結論 したがって、検甲第1号証ならびに検甲第2号証に記載された事項をもって、本件特許発明が、本件出願前に当業者が容易に発明することができたものであるとすることはできず、本件特許が特許法第29条第2項の規定に違反しているとすることはできない。 VIII.むすび 以上のとおりであるから、本件特許が無効であるとする請求人の主張はいずれも採用できず、本件特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-03-03 |
結審通知日 | 2008-03-05 |
審決日 | 2008-03-18 |
出願番号 | 特願平11-182098 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(G01M)
P 1 113・ 161- Y (G01M) P 1 113・ 536- Y (G01M) P 1 113・ 537- Y (G01M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 本郷 徹 |
特許庁審判長 |
村田 尚英 |
特許庁審判官 |
秋田 将行 高橋 泰史 |
登録日 | 2002-01-25 |
登録番号 | 特許第3273034号(P3273034) |
発明の名称 | 振動試験装置 |
代理人 | 古谷 栄男 |
代理人 | 佐々木 康 |
代理人 | 鶴本 祥文 |
代理人 | 松下 正 |