ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16G |
---|---|
管理番号 | 1177350 |
審判番号 | 不服2006-18977 |
総通号数 | 102 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-06-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-08-30 |
確定日 | 2008-05-08 |
事件の表示 | 特願2000-551174「ベルト用抗張体および該抗張体を用いたベルト」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月 2日国際公開、WO99/61816〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、1999年(平成11年)5月21日を国際出願日(パリ条約に基づく優先権主張1998年5月22日、日本国)とする出願であって、平成18年7月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成18年8月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 2.本願発明1 本願の請求項1-5に係る発明は、国内書面に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。 「複数本のガラス繊維が互いに接着された状態で一方向に撚られてなるガラスコードのベルト用抗張体であって、 複数本のガラス繊維は、引き揃えられてレゾルシン・ホルマリンの初期縮合物とラテックスとの混合物を主成分とする接着処理液に浸漬され引き上げられて加熱処理されることによって、そのガラス繊維間に含浸した上記混合物を主成分とする接着剤によって互いに接着されており、 上記ガラス繊維が高強力ガラスによって形成され、 上記一方向の撚り数が2.2?3.0回/inchであり、 上記コードの直径が0.65?0.90mmであることを特徴とするベルト用抗張体。」 3.刊行物 これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である特開平9-126279号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「ベルト用抗張体および該抗張体を用いたベルト」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「複数本のガラス繊維からなるベルト用抗張体であって、 複数本のガラス繊維が、引き揃えられてレゾルシン・ホルマリンの初期縮合物とラテックスとの混合物を主成分とする接着処理液に浸漬され引き上げられて加熱処理されることによって、そのガラス繊維間に含浸した上記混合物を主成分とする接着剤によって互いに接着された状態で、一方向に撚られてなることを特徴とするベルト用抗張体。」(第2頁第1欄第2-10行、【特許請求の範囲】欄参照。) ロ.「(作用)請求項1に係る発明においては、ベルト用抗張体が、ガラス繊維の複数本を引き揃え、これにRFL処理を施した後、一方向の撚りを加えてなるものであるから、下撚り糸間の剥離という問題がそもそもなく、これを伝動ベルト用抗張体として用いた場合、これまでガラスコードの弱点であるとされた耐水屈曲疲労性が改善される。」(第3頁第4欄第10-16行、段落【0019】参照。) ハ.「図2には上記抗張体2が示されている。この抗張体2は、各々200本の無アルカリガラス繊維(直径9μmのEガラス)6を集束してなる33本の繊維束を引き揃えて、濃度20重量%のVp-SBR系RFL液に浸漬し、引き上げて240℃で1分間の熱処理を行なった後、撚り回数2.0回/inchで撚りを施してなるガラスコードによって形成されている。上記Vp-SBR系RFLは、ラテックスとして、Vp-SBR(ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン三元共重合体)を用いたものである。」(第3頁第4欄第5行-第4頁第5欄第4行、段落【0025】参照。) してみると、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 「複数本のガラス繊維からなるベルト用抗張体であって、 複数本のガラス繊維が、引き揃えられてレゾルシン・ホルマリンの初期縮合物とラテックスとの混合物を主成分とする接着処理液に浸漬され引き上げられて加熱処理されることによって、そのガラス繊維間に含浸した上記混合物を主成分とする接着剤によって互いに接着された状態で、撚り回数2.0回/inchで一方向に撚られてなることを特徴とするベルト用抗張体。」 それから、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である実願昭58-156264号(実開昭59-83234号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)には、「歯付ベルト」に関し図面とともに以下の事項が記載されている。 ニ.「本考案はかかる意味において上記ロープ構成の欠点に着目し、ロープの伸び及び屈曲疲労の小さなロープ構成からなるガラス繊維ロープを抗張体として使用して伸びの小さい、且つ屈曲疲労の小さな歯付ベルトを提供することを目的とするものである。 即ち、本考案はガラス繊維のストランドを集めて下撚りを施すことなく、これを集めて上撚り係数1.6?2.5で上撚りしたガラス繊維ロープを歯付ベルトの抗張体に使用することにある。 ここで、ガラス繊維ストランドに僅かの下撚り係数で上撚りと同方向に撚りを施すことも考えられるが、ガラス繊維のストランドのまとまりより下撚りを施すことなしに上撚りのみでも充分所期の伸びの小さい、かつ屈曲疲労の小さい歯付ベルトを得ることができることが判明した。とりわけ伸びを小さくする上からは下撚りを施さない方がより得策である。」(第3頁第1-18行参照。) ホ.第7頁に記載された第1表には、上撚り数が8.5回/10cmのガラス繊維ロープ及び上撚り数が12.0回/10cmのガラス繊維ロープが、それぞれ比較例2及び3として記載されている。 そして、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である特開平4-46240号公報(以下、「刊行物3」という。)には、「歯付きベルト」に関し図面とともに以下の事項が記載されている。 ヘ.「各心線4は、高強度ガラス繊維を束ねて下撚りした後に上撚りして得られる。・・・・・・各心線4の直径は、背面部1および歯部2を構成する水素添加NBRおよび歯布と接触した状態(歯付きベルトとして成形された状態)で、0.63?0.85mm、好ましくは0.65?0.80mmの範囲とされる。このように心線4の直径を小径とすることにより、屈曲時に生じる心線4と水素添加NBRとの摩擦による内部発熱が抑制される。・・・・・・各心線4は、前述と同様のRFL処理することが好ましい。」(第4頁右下欄第14行-第5頁右上欄第17行参照。) ト.「本発明の歯付きベルトは、・・・・・・高強度ガラス繊維を用いた小径の心線を使用しているので、三者は強固に接着され、歯元強度、耐水性能、および耐屈曲疲労性が著しく同上する。」(第7頁第左上欄第13-20行) また、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である特開平9-42382号公報(以下、「刊行物4」という。)には、「ベルト用抗張体及びベルト」に関し図面とともに以下の事項が記載されている。 チ.「請求項1の発明では、ガラスコードの水分による屈曲疲労は、図4に示すように、下撚り糸b,b,…間に形成されている空隙cに外部からの水が溜まるために、下撚り糸b,b,…間の密着性を阻害してコードの構造が損なわれることにより生じるものであるとの知見に基づき、上撚り数を従来よりもできるだけ多くして上記空隙cを絞り潰すようにすることで、優れた耐水屈曲疲労性が得られるようにした。 具体的には、この発明では、各々、RFL処理液に浸漬された後に熱処理されたガラス繊維からなる複数本の繊維束を引き揃えて所定撚り数の下撚りが施されてなる所要本数の下撚り糸に、該下撚り糸が引き揃えられた状態で上記下撚りとは逆方向の所定撚り数の上撚りを施されてなるベルト用抗張体が前提である。 そして、上記下撚り糸に、該下撚り糸間の空隙が絞り潰されて略無くなるように上撚りを施すようにする。 上記構成において、下撚り糸間の空隙は、上撚りにより絞り潰されて略無くなっているので、外部から浸入した水が抗張体の内部に滞留するのを未然に防止でき、結果として、ベルトの耐水屈曲疲労性は大きく改善される。・・・・・・請求項2の発明では、上記請求項1の発明において、上撚り数を2.4回/インチ以上に設定することとする。」(第2頁第2欄第38行-第3頁第3欄第28行、段落【0008】乃至【0014】参照。) さらに、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である特開平1-213478号公報(以下、「刊行物5」という。)には、「ガラス繊維コード及びこれを用いた歯付ベルト」に関し図面とともに以下の事項が記載されている。 リ.「本発明のガラス繊維コードに用いられるストランドは直径9μもしくは9?10μの無アルカリガラスフィラメントを200?600本引揃えたもの、もしくはこれを複数本合糸したものであって第1処理剤のRFLを含浸させた状態で被覆し、更にその表面に第2処理剤のRFLを被覆した状態になっている。・・・・・・このようにして処理されたストランド又はこれを2?5本寄せ集めたストランド群を撚り数1.2?5/25mmで下撚りして子なわとする。この子なわを6?20本集めて撚り数1.0?2.5/25mmで上撚りして総デニール数10,000?13,000に構成されたコードになる。この場合、下撚り方向と上撚り方向を互いに逆にしてコードの結束力を強くし、水分のロープ内への侵入を阻止することが望まれるが、本発明では目的に応じて同方向に撚ることも可能である。 (作用)・・・・・・また、このコードを歯付ベルトの抗張体として使用すると、高温下での走行後及び注水走行後も高水準のベルト強力を保持し、耐熱性及び耐水性に優れた歯付ベルトが得られる。」(第2頁右下欄第19行-第3頁左下欄第13行参照。) 4.対比 本願発明1と刊行物1記載の発明とを本願発明1の用語に倣って対比すると、両者は、 「複数本のガラス繊維が互いに接着された状態で一方向に撚られてなるガラスコードのベルト用抗張体であって、 複数本のガラス繊維は、引き揃えられてレゾルシン・ホルマリンの初期縮合物とラテックスとの混合物を主成分とする接着処理液に浸漬され引き上げられて加熱処理されることによって、そのガラス繊維間に含浸した上記混合物を主成分とする接着剤によって互いに接着されており、 上記ガラス繊維が高強力ガラスによって形成されることを特徴とするベルト用抗張体。」 である点で一致し、次の2点で相違する。 相違点A 本願発明1は、複数本のガラス繊維の一方向の撚り数が2.2?3.0回/inchであるのに対し、刊行物1記載の複数本のガラス繊維の一方向の撚り数は2回/inchである点。 相違点B 本願発明1は、ガラスコードの直径が0.65?0.90mmであるのに対し、刊行物1記載の発明は、ガラスコードの直径についての限定はない点。 5.判断 上記相違について検討する。 相違点Aについて検討するに、刊行物2には、屈曲疲労の小さな歯付ベルトを提供するため、ガラス繊維のストランドを下撚りを施すことなく、所定の上撚り係数で上撚りしたガラス繊維ロープ、すなわち複数本のガラス繊維を所定の係数で一方向に撚られてなるガラスコードを歯付ベルトの抗張体に使用するという技術事項が記載されている。また刊行物2には、比較例ではあるが、上撚り数が8.5回/10cmつまり約2.2回/inch及び12.0回/10cmつまり約3回/inchのガラス繊維ロープが記載されている。そして、刊行物4及び刊行物5の摘記事項からみて、ガラスコードのベルト用抗張体において、RFL処理液に浸漬したガラス繊維からなるガラスコードを構成するガラス繊維の撚り数を従来より多くすること、コードの結束力を強くすることにより、ガラスコード内への水の侵入を防ぎ、耐水性を向上すること、その際の撚り数として2.2?3.0/inchの範囲内の数値をとり得ることは、従来から知られた事項であると解される。さらに、本願の明細書の発明の詳細な説明、特に「撚り数が2.2回/inch以上になっているから、コード内部でのRFLの溜まりが少なくなり、RFL溜まりが破壊の原因になることが少なくなる。但し、当該撚り数が多くなり過ぎると強力が低下するから、この撚り数の上限は3.0回/inchとすることが好ましいものである。」、「この結果から、ベルト強力1000kgf/19mmを確保しながら、注水屈曲寿命を長くするには、撚り数を2.0回/inchよりも多くし、3.6回/inchよりも少なくすること、すなわち、2.2?3.0回/inch程度にすることが好適であることがわかる。」という記載からは、撚り数の下限値を第4図乃至第6図に記載されていない2.2とする合理的な根拠を見出すことができず、上限値についても3.0より大の撚り数と3.0以下のときの注水屈曲寿命、ベルト強力の相違がこれら記載から把握することができず、上限値を3.0とした理由も明らかでないことから、撚り数の値を本願発明1で特定される範囲とすることに、格別な臨界的意義あるいは技術的意義があると解することもできない。これらのことを踏まえれば、刊行物1記載の発明のガラス繊維の撚り数に関し、刊行物2に記載された技術事項、刊行物4及び5にも記載されているような従来から知られた事項に基づいて所要の設計変更を行い、相違点Aに係る本願発明1に記載された発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得るものと認められる。 相違点Bについて検討するに、刊行物3には、径が0.63?0.85mm、好ましくは0.65?0.80mmのRFL処理がなされた高強度ガラス繊維の心線を歯付きベルトに用い、耐屈曲疲労性能を向上させること、すなわち、ガラスコードの耐屈曲疲労強度を向上させるため、その直径を特定するという技術事項が記載されている。そして、この技術事項はベルト用抗張体で用いるガラスコードの関する技術である点で本願発明1及び刊行物1記載の発明と共通するものであり、また審判請求書における審判請求人の主張を踏まえ検討しても、刊行物3に記載された技術事項を踏まえつつ刊行物1記載の発明のガラスコードの直径を特定することにつき、格別な想到困難性を見出すことはできない。また、本願の明細書の発明の詳細な説明、特に「コードの直径を0.65mm以上としているから、上記強力の確保に有利になっている。但し、この直径が大きくなり過ぎると、抗張体の屈曲性が低下するから、この直径の上限は0.90mmが好ましいものである。」をみても、本願発明1で特定されるコードの直径のに関し、当業者がガラスコードを用いたベルトを設計する際に適宜採用する事項以上に格別な技術的或いは臨界的意義があるとすることもできない。そうすれば、刊行物1記載の発明のガラスコードの直径に対し、刊行物3に記載された技術事項を踏まえつつ必要な設計変更を行い、相違点Bに係る本願発明1の構成とすることは、当業者であれば容易になし得るものである。 そして、本願発明1が奏する作用効果も、刊行物1乃至刊行物3に記載された事項から、当業者が予測できる範囲内のものである。 なお、請求人は、審判請求書において、「確かに、引用文献2には、下撚り数が0回/10cm(無撚り)で、上撚り数が8.5回/10cm(約2.2回/inch)、12.0回/10cm(約3.0回/inch)であるガラスコードのベルト用抗張体が開示されている。しかしながら、一般に、撚りは、単に単位長さ当たりの撚り数だけで構造決定されるものではなく、コードの太さとの関係で規定される。通常は、そのパラメータとして撚り係数が用いられ、コードの太さが異なっても撚り係数が同じであれば、同等の撚り構造であるということになる。撚り数と共に本願第1発明ではコード直径を0.65?0.90mmと限定し、本願第2発明ではガラス占有面積を0.22?0.26mm^(2)と限定している理由はここにある。そして、上記で説明したように、引用文献2のガラスコードは、ガラス繊維を集束してなるストランドを引き揃え、それをRFL水溶液に浸漬して加熱した後に無撚りの子縄とし、この子縄を複数本集めて上撚りすることによって製造される構造のものである。ECG-150-3/13をより詳しく説明すると、これは、直径9μmのEガラスのガラス繊維200本を3つ集めた600本のガラス繊維をRFL水溶液に浸漬して加熱した後の子縄を13本集めて上撚りしたガラスコードである。引用文献2には、本願第1及び第2発明で規定する範囲に含まれる撚り数の開示があるものの、上記構成の引用文献2のガラスコードは、コード直径がおそらくは1mm前後であり、計算したところガラス占有面積が0.4960mm^(2)程度である。従って、繊維工学的見地からすれば、当業者であれば、コード直径が0.65?0.90mmである、或いは、ガラス占有面積が0.22?0.26mm^(2)である引用文献1の細いガラスコードに、引用文献2のガラスコードの撚り数をそのまま適用するということはない。 また、引用文献2のガラスコードは、下撚り数が0/10cmであるものの、複数の子縄が上撚りされ、それらの子縄が相互に独立しており、構造的には諸撚り構造に近いものである(なお、仮に、繊維束がRFLにより複合一体化された子縄とされていなければ片撚り構造と同一である。)。上記したガラスコードの特殊性から、ガラスコードの場合、単にガラス繊維の構造だけでなく、RFLをも含めた構造によりコード構造が特定される。この点について拒絶査定謄本において技術認定の誤解がある。従って、子縄が存在せず、ガラス繊維及びRFLが複合化して単一物に構成された引用文献1のガラスコードと、相互に独立した複数の子縄で構成された引用文献2のガラスコードとでは、コード構造が全く異なり、引用文献1のガラスコードに引用文献2のガラスコードの撚り数を適用すること自体が不可能である。 そして、本願第1及び第2発明は、実施例でも明らかなように、ベルト用抗張体の強力を確保しながら、ベルトの耐水屈曲疲労性を高めることができるという作用効果を奏する。 同様の作用効果は、引用文献1にも開示されている。また、一般に、片撚り構造の撚り糸の撚り数を多くすると耐疲労性の向上を図ることができるということは本願出願当時に公知である。 しかしながら、引用文献1?4を含む如何なる先行技術にも、ガラス繊維及びRFLが複合化して単一物に構成された本願第1及び第2発明のコード構造に関し、撚り数とベルトの耐水屈曲疲労性との関係について開示も示唆も何等されていない。従って、引用文献1?4から、本願第1及び第2発明の構成により、ベルトの耐水屈曲疲労性が単なる屈曲疲労性の改善の域を超えて飛躍的に向上することについて、たとえ当業者であっても予想することはできない。 また、拒絶査定謄本には「コードの撚りが緩い場合にはRFL等の異物が混入するため、コードの内部に異物が溜まらないようにして、コードの破壊を防ぐことは当業者にとって自明の課題であり、・・・」と記載されている。しかしながら、ガラスコードが水に弱い原因はそれほど単純なものではなく、上記に説明したように、実際のところ真の原因は現在もなお不明である。そして、ガラス繊維及びRFLが複合化して単一物に構成されたガラスコードにおいて、撚り数がベルトの耐水屈曲疲労性に影響することは、本願の出願当時には不明であった。従って、本願第1及び第2発明の進歩性は、ガラスコードが水に弱いという課題に対する原因究明をも含めて判断されるべきである。 以上のように、本願第1及び第2発明は、引用文献1?4に開示も示唆も何等ない構成要素を備え、また、それによりそれらの引用文献から予想することができない顕著な作用効果を奏し、さらに、課題の原因究明課程にも困難性が認められる以上、例え当業者であっても引用文献1?4に記載された発明に基づいて容易に想到し得たものには該当しないと考える。」と主張している。 そこで、これらの主張を踏まえ改めて検討を行ったが、刊行物2の摘記事項ニ.によれば、刊行物2に記載された技術事項は、ガラス繊維ストランドに僅かの下撚り係数で上撚りと同方向に撚りを施すことも考えられるが、下撚りを施すことなしに上撚りのみでも充分所期の伸びの小さい、かつ屈曲疲労の小さい歯付ベルトを得ることができるもの、すなわち下撚りする場合の方向は上撚りと同じであり、そして、下撚りを施すことなく上撚りのみで所望の機能を発揮するというものであり、これらの記載事項からみて、刊行物2に記載されたガラス繊維ロープは本願発明1と同様に一方向に撚られたものと解せられる。そして、本願発明1のガラスコードに対し、これと同様の構造と解される刊行物2に記載された技術事項を適用することに、格別な想到困難性があるものとはいえない。 また、本願の明細書の発明の詳細な説明には、本願発明1に記載された如く撚り数を特定する理由として「上記撚り数が2.2回/inch以上になっているから、コード内部でのRFLの溜まりが少なくなり、RFL溜まりが破壊の原因になることが少なくなる。但し、当該撚り数が多くなり過ぎると強力が低下するから、この撚り数の上限は3.0回/inchとすることが好ましいものである。」とし、同じくガラスコードの直径を本願発明1に記載された如く特定する理由として「上記コードの直径を0.65mm以上としているから、上記強力の確保に有利になっている。但し、この直径が大きくなり過ぎると、抗張体の屈曲性が低下するから、この直径の上限は0.90mmが好ましいものである。」としている。そして、これらの事項から、本願発明1のガラスコードを構成するガラス繊維の撚り数が、ガラスコードの太さとの関係で規定されるものと解することはできない。また、上記事項を含む本願の明細書の発明の詳細な説明の記載全般をみても、ガラス繊維の撚り数が、ガラスコードの太さとの関係で規定されることが示唆されているともいえない。そうすると、「一般に、撚りは、単に単位長さ当たりの撚り数だけで構造決定されるものではなく、コードの太さとの関係で規定される。通常は、そのパラメータとして撚り係数が用いられ、コードの太さが異なっても撚り係数が同じであれば、同等の撚り構造であるということになる。撚り数と共に本願第1発明ではコード直径を0.65?0.90mmと限定し、本願第2発明ではガラス占有面積を0.22?0.26mm^(2)と限定している理由はここにある。」との主張は、少なくとも本願の明細書の発明の詳細な説明と異なるものであり、また本願の明細書の発明の詳細な説明と整合するものでもない。 さらに、刊行物4及び5、特に刊行物4の記載からみて、ベルトの撚り数を従来より多くしてガラスコード内の空隙をなくすことで優れた耐水屈曲性を得られるようにすることは、本願出願前に知られた事項と解するのが相当である。 そして、これらの点を踏まえ上述の如く検討を行ったものであるから、請求人の上記主張を採用することはできない。 6.むすび したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明1)は、刊行物1乃至刊行物3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2乃至5に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論の通り審決する。 |
審理終結日 | 2008-03-05 |
結審通知日 | 2008-03-11 |
審決日 | 2008-03-24 |
出願番号 | 特願2000-551174(P2000-551174) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16G)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 矢澤 周一郎、冨岡 和人 |
特許庁審判長 |
村本 佳史 |
特許庁審判官 |
亀丸 広司 水野 治彦 |
発明の名称 | ベルト用抗張体および該抗張体を用いたベルト |
代理人 | 藤田 篤史 |
代理人 | 関 啓 |
代理人 | 竹内 宏 |
代理人 | 竹内 祐二 |
代理人 | 二宮 克也 |
代理人 | 井関 勝守 |
代理人 | 杉浦 靖也 |
代理人 | 今江 克実 |
代理人 | 前田 弘 |
代理人 | 原田 智雄 |
代理人 | 嶋田 高久 |