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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01T
管理番号 1177361
審判番号 不服2007-11926  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-25 
確定日 2008-05-08 
事件の表示 特願2002-362795「ガンマ線検出器」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 8日出願公開、特開2004-191327〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、特許法第30条第1項の適用の申請を伴う、平成14年12月13日の出願であって、平成19年3月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成19年4月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項5に係る発明は、平成18年8月4日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)
「直径に対する長さの比が1.5から2.5の範囲である2種類の高密度で発光強度の異なるシンチレータを直列に接合し、その後方に光電変換素子を結合した検出部によりガンマ線を検出すること;得られる出力信号からスペクトルを生成させること;このスペクトルから光電ピークを計数すること;それぞれのシンチレータに起因するピークの計数値の比率を求め、予め用意されたデータを参照して入射方向を出力すること;ならびに前記スペクトルから線量を求めることを特徴とする方向性ガンマ線の検出方法。」

3 引用刊行物に記載された発明
原査定の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、「タンデム検出器によるγ線の飛来方向とエネルギーの同時計測に関する基礎的検討」,白川芳幸著,Radioisotopes,日本,社団法人日本アイソトープ協会,2001年 4月15日,Vol.50,No.4,P.117-122(以下「引用刊行物」という。)には、「タンデム検出器によるγ線の計測」の発明に関して、以下の事項が記載されている。

<記載事項1>
「飛来するγ線に対して積極的に方向依存性を高めて,γ線の飛来方向とエネルギーを同時に計測するためのタンデム検出器を試作した。この検出器の内部では直径50mm,長さ25mmのNal(Tl)シンチレータ,同じ形状のBGOシンチレータと対応した光電子増倍管がこの順序で光学的に結合されている。γ線の飛来方向によりて各シンチレータを横切る長さが変わるので,Nal(Tl)シンチレータとBGOシンチレータによって生じた光電ピ-クを計数し,その計数比を求めることによって飛来方向が認識される。
タンデム検出器を用いて,(1)計測原理の確認,(2)性能の検証のための実験を行った(丸数字1及び丸数字2は、標記上括弧付き数字として記載した。)。まず3.7MBqの137Csを検出器の前方20cmのところに置き,飛来したγ線を60秒計数し,スペクトルから計数比を求めた。線源を検出器の側方に向かって10度ずつ90度まで動かし,同様な実験を繰り返した。つぎに線源と検出器間の距離を30cm,100cm,200cmとして実験を続けた。実験結果より,飛来方向が0度から90度まで変わると,計数比は1.7から3.0まで変化することがわかった。すなわち,これは計数比を知ることにより飛来方向が決定できるということを意味している。タンデム検出器のエネルギー特性は単独のNal(Tl)検出器,BGO板出器と同等であることも確認された。
この結果より,タンデム検出器でγ線の飛来方向とエネルギーを同時に計測できることが示された。」(第117ページ第7?20行)

<記載事項2>
「1. はじめに
(略)
本論文ではホウスイッチ型検出器を応用展開した,γ線の飛来する方向とエネルギーを同時に求めるタンデム検出器について述べる。」(第117ページ左欄第1行?同右欄第1行)

<記載事項3>
「2. 計測原理
シンチレーション検出器を対象に考える。シンチレーンョン検出器では,入射したγ線のエネルギーと発光強度が比例関係にあるので光電ピークに着目すればエネルギーがわかり,結果として核種も知ることが可能である。シンチレータが球形であると,方向依存性がなくなるが,一般的には円柱形で後述するように多少の方向依存性が存在する。2個の特性の異なる円柱形シンチレータを組み合わせて,積極的に強い方向依存性を生み出すのが提案するタンデム検出器である。この検出器は,複数の異なる種類のシンチレータを光学的に結合させ,1本の光電子増倍管と組み合わせたホウスイッチ型検出器とを構造的には同じである。」(第117ページ右欄下から6行目?第118ページ左欄第9行)

<記載事項4>
「タンデム検出器はFig.1に示すように前方A,後方Bのどちらのシンチレータで光電効果が生じたかを知り,入射したγ線の飛来方法とエネルギーを調べることを目的にしている。
A.Bシンチレータに求められる性質は,
(1) 統計的誤差を低減し短時間で測定を終えるためにγ線の検出効率が高いこと,
(2) スペクトル上で,どちらの検出器で光電効果が生じたかを識別するために発光強度に十分な差があること,
の2点である。これらの性質を満たすものは,AとしてNal(Tl)シンチレータ,BとしてはBGOシンチレータが考えられる。両者の特性をTable1にまとめる^(6))。」(第118ページ左欄第13?27行)

<記載事項5>
「ここでFig.2に示すようにγ線が検出器の正面(θ=0)と真横(θ=90)の方向から入射した場合を考える。正面から662keVの一次γ線が入射した場合,Nal(Tl) シンチレータで光電効果を生じる確率,および一次γ線がシンチレータ内でコンプトン散乱して生じた散乱γ線が同シンチレータ内で光電効果を生じ,この過程で一次γ線の全エネルギーが付与される確率の合計Pf0は、
P_(f0)=1-exp(?μ_(pf0)l_(0)) (1)
となる。BGOシンチレータで光電効果を生じる確率Pboは,Nal(Tl)シンチレータ内で相互作用を生じない確率とBGOシンチレータ内で上述と同様な光電効果を生じる確率の積となり,
P_(b0)=exp(?μ_(tf0)l_(0))〔1-exp(?μ_(pb0)l_(0))〕(2)
と表すことができる。ここでμ_(pf0),μ_(tf0),μ_(pb0)は,それぞれNal(T1) シンチレータの多重相互作用を含めた実効的な光電効果による線減衰係数,全減衰係数,BGOシンチレータの同様な光電効果による線減衰係数である。l0はシンチレータを横切る経路長である。つぎに真横の方向から入射した場合では,
P_(f90)=1-exp(?μ_(pf90)l_(90)) (3)
Pf_(90)=1-exp(?μ_(pb0)l_(90)) (4)
となる。添え字の使い方は前述のとおりである。
ここで具体的な数値を与えて計算する。γ線源として^(137)Csを対象として,662keVのγ線が入射したとする。するとμ_(pf0),μ_(tf0),μ_(pb0は)、それぞれ0.043cm^(?1),0.275cm^(?1),0.182cm^(?1)となる^(7)?9))。またl_(0)は2.5cm,l_(90)は0?5.0cmとする。計算によると確率の比P(0)=P_(b0)/P_(f0)=1.80,P(90)=P_(b90)/P_(f90)=3.29が得られる。飛来方向がθのときP(θ)は上記の中間値をとると予想される。θとP(θ)の関係を理論的あるいは実験的に事前に求めておけば,P(θ)を測定することによってθを知ることができる。」(第118ページ左欄下から2行目?第119ページ左欄下から4行目)

<記載事項6>
「3. 実験方法
直径50mm×長さ25mmのNal(Tl)シンチレータを前方に置き,その後ろに直径50mm×長さ25mmのBGOシンチレータをオプティカルコンパウンドで接着し,その後面に光電子増倍管を接続したタンデム検出器を試作した。(略)法規制外の微弱な137Cs密封線源からのγ線(662keV)を代表例として用いることにした。Fig.3に示すような実験系を組み,角度θを0-90度まで10度刻みで変化させ,また線源と検出器中心までの距離を10,20,100,200cmとし60秒間測定してスペクトルを得た。Nal(Tl),BGOシンチレータによって生じた光電ピークの計数は5回測定した平均値を用いた。」(第119ページ右欄第4?20行)

<記載事項7>
「4-2 タンデム検出器の方向特性
タンデム検出器で観測されるスペクトルの例をFig.5に示す。スペクトルの横軸は1024chに設定されている。同じエネルギーのγ線に対して発光強度がBGOシンチレータに対してNal(Tl)シンチレータは10倍以上あるので,1台のリニアアンプで,そのゲインを固定すれば両者の光電ピークは明瞭に分離できる。左縦軸近傍,50ch付近のピークはBGOシンチレータ,600‐700chにあるピークがNal(Tl)シンチレータによるものである。これらの光電ピークの方向依存性をFig.6に示す。
つぎに計測原理で導出したP(θ)= P_(bθ)/P_(fθ)を考える。いまの場合は個々のγ線ではなく多数のγ線を扱うので,計数の比の関係に直すと、
N(θ)=(NP_(bθ))/(NP_(fθ))=P(θ) (5)

が得られる。ここでNは入射したγ線の総数である。N(θ)を縦軸に,方向θを横軸にしたものがFig.7で,この指標でγ線の飛来方向が表現できる。」(第120ページ左欄第4行?同右欄第2行)

<記載事項8>
「今回の実験では直径50mm×長さ25mmの形状をしたNal(Tl)、BGOシンチレータを組み合わせた。現在直径50mm×長さ50mmのシンチレータを製作中であり,シンチレータの大きさの異なる組合せによる実験を進め,N(θ)の変化率の向上を検討していく。」(第120ページ左欄下から5行目?同右欄第1行)

<記載事項9>
「 5. まとめ
試作したNal(Tl),BGOシンチレータを光学的に結合したタンデム検出器を用いて飛来するγ線の方向とエネルギーが同時に計測できることを示した。」(第121ページ右欄第12?16行)

そして、第118ページの「Table 1」には、タンデム検出器におけるNal(Tl)及びBGOのシンチレータの密度が、それぞれ3.67g/cm^(3)及び7.13g/cm^(3)であると記載されている。
第120ページ右上欄のFiG.5の説明個所には、「タンデム検出器によって得られたスペクトル」と記載されている。

してみると、引用刊行物には、以下の事項が記載されている。
(1)直径50mm×長さ25mmのNal(Tl)シンチレータを前方に置き,その後ろに直径50mm×長さ25mmのBGOシンチレータをオプティカルコンパウンドで接着し,その後面に光電子増倍管を接続したタンデム検出器(記載事項6)

(2)BGOシンチレータの発光強度は、Nal(Tl)シンチレータの発光強度の10分の1以下である(記載事項7)

(3)タンデム検出器は、γ線の飛来する方向とエネルギーを同時に求める
(記載事項2)

(4)タンデム検出器によってスペクトルを得る(FIG.5の説明個所)

(5)タンデム検出器によって得られたスペクトルからNal(Tl)シンチレータとBGOシンチレータによって生じた光電ピ-クを分離する(記載事項1,7)

(6)Nal(Tl)シンチレータとBGOシンチレータによって生じた光電ピ-クを計数し,その計数比を求める(記載事項1)

(7)記載事項5から以下のことがいえる。

(ア) P_(f0)は、正面から662keVのγ線が入射した場合,Nal(Tl) シンチレータで光電効果を生じる確率,およびγ線がシンチレータ内でコンプトン散乱して生じた散乱γ線が同シンチレータ内で光電効果を生じ,この過程でγ線の全エネルギーが付与される確率の合計である。
(イ) P_(b0)は、正面から662keVのγ線が入射した場合,BGOシンチレータで光電効果を生じる確率であり、Nal(Tl)シンチレータ内で相互作用を生じない確率とBGOシンチレータ内で上述と同様な光電効果を生じる確率の積となる。
(ウ) 上記(ア)及(イ)から明白なように、P_(f0)及びP_(b0)は、γ線によりNal(Tl) シンチレータ内及びBGOシンチレータ内で光電効果を生じる確率である。
(エ) そして、「計算によると確率の比P(0)=P_(b0)/P_(f0)=1.80,P(90)=P_(b90)/P_(f90)=3.29が得られる。飛来方向がθのときP(θ)は上記の中間値をとると予想される。」との記載及び、上記(ウ)の点からみて、
a θは、Nal(Tl) シンチレータ及びBGOシンチレータに入射するγ線の入射方向である。
b P(θ)は、γ線がNal(Tl) シンチレータ及びBGOシンチレータに入射する方向がθのとき、それぞれのシンチレータ内で光電効果を生じる確率の比である。

(8) θとP(θ)の関係を理論的あるいは実験的に事前に求め,P(θ)を測定することによってθを計測する(記載事項5、9)

(9)「計測原理で導出したP(θ)= P_(bθ)/P_(fθ)を考える。いまの場合は個々のγ線ではなく多数のγ線を扱うので,計数の比の関係に直すと、
N(θ)=(NP_(bθ))/(NP_(fθ))=P(θ) (5)
が得られる。」(記載事項7)
(10)してみると、上記(7)ないし(9)の事項からみて、引用刊行物には、Nal(Tl) シンチレータ及びBGOシンチレータに入射するγ線の入射方向θと、Nal(Tl) シンチレータによる計数と、BGOシンチレータによる計数との比の関係を理論的あるいは実験的に事前に求め、上記計数の比を測定することによって上記γ線の入射方向θを計測するγ線の計測方法が記載されている。

したがって、上記記載事項1?9、及び図面に基づけば、引用刊行物には、
「直径50mm×長さ25mmで密度が3.67g/cm^(3)であるNal(Tl)シンチレータを前方に置き,その後ろに直径50mm×長さ25mmで密度が7.13g/cm^(3)であり、Nal(Tl)シンチレータの発光強度の10分の1以下であるBGOシンチレータをオプティカルコンパウンドで接着し,その後面に光電子増倍管を接続したタンデム検出器によりγ線の飛来する方向とエネルギーを同時に求めること;タンデム検出器によってスペクトルを得ること;上記スペクトルからNal(Tl)シンチレータとBGOシンチレータによって生じた光電ピ-クを分離し、前記両シンチレータによって生じた光電ピ-クを計数し,その計数比を求めること;Nal(Tl) シンチレータ及びBGOシンチレータに入射する一次γ線の入射方向θと、Nal(Tl) シンチレータによる計数と、BGOシンチレータによる計数との比の関係を理論的あるいは実験的に事前に求め、上記計数の比を測定することによって上記γ線の入射方向θを計測するγ線の計測方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

4 対比
本願発明と引用発明とを比較する。
(1)
ア 本願明細書において高密度のシンチレータとは、プラスチックシンチレータと比較して高密度なシンチレータと説明されているから(段落【0009】、引用発明の密度が3.67g/cm^(3)であるNal(Tl)シンチレータ,及び密度が7.13g/cm^(3)であるBGOシンチレータは、本願発明の「高密度」のシンチレータに相当する。
イ 引用発明の「Nal(Tl)シンチレータの発光強度の10分の1以下であるBGOシンチレータ」は、本願発明の「発光強度が異なるシンチレータ」に相当する。
ウ 引用発明の「前方に置き,その後ろに・・・オプティカルコンパウンドで接着し」は本願発明の「直列に接合し」に相当する。
したがって、引用発明の「密度が3.67g/cm^(3)であるNal(Tl)シンチレータを前方に置き,その後ろに直径50mm×長さ25mmで密度が7.13g/cm^(3)であり、Nal(Tl)シンチレータの発光強度の10分の1以下であるBGOシンチレータをオプティカルコンパウンドで接着し」と本願発明の「直径に対する長さの比が1.5から2.5の範囲である2種類の高密度で発光強度の異なるシンチレータを直列に接合し」とは、2種類の高密度で発光強度の異なるシンチレータを直列に接合しの点で一致する。

(2)引用発明の「光電子増培倍管」、「接続した」は、本願発明の「光電変換素子」、「結合した」に相当するから、引用発明の「その後面に光電子増倍管を接続したタンデム検出器」は、本願発明の「その後方に光電変換素子を結合した検出部」に相当する。

(3)引用発明の「γ線の飛来する方向とエネルギーを同時に求めること」は、本願発明の「ガンマ線を検出すること」に相当する。

(4)引用発明の「上記スペクトルからNal(Tl)シンチレータとBGOシンチレータによって生じた光電ピ-クを分離し、前記両シンチレータによって生じた光電ピ-クを計数し,その計数比を求めること」は、本願発明の「このスペクトルから光電ピークを計数すること;それぞれのシンチレータに起因するピークの計数値の比率を求め」に相当する。

(5)引用発明の「Nal(Tl) シンチレータ及びBGOシンチレータに入射するγ線の入射方向θと、Nal(Tl) シンチレータによる計数と、BGOシンチレータによる計数との比の関係を理論的あるいは実験的に事前に求め、上記計数の比を測定することによって上記γ線の入射方向θを計測する」は、本願発明の「予め用意されたデータを参照して入射方向を出力する」に相当する。

(6)引用発明の対象である「γ線の計測方法」はγ線の入射方向θを計測するので、本願発明の対象である「方向性ガンマ線の検出方法」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明の両者は、
「2種類の高密度で発光強度の異なるシンチレータを直列に接合し、その後方に光電変換素子を結合した検出部によりガンマ線を検出すること;得られる出力信号からスペクトルを生成させること;このスペクトルから光電ピークを計数すること;それぞれのシンチレータに起因するピークの計数値の比率を求め、予め用意されたデータを参照して入射方向を出力する方向性ガンマ線の検出方法。」の点で一致するが、以下の点で相違する。

[相違点1]
2種類の高密度で発光強度の異なるシンチレータの直径と長さとの関係が、本願発明は、直径に対する長さの比が1.5から2.5の範囲であるのに対して、引用発明は、直径50mm×長さ25mmである点。
[相違点2]
本願発明は、スペクトルから線量を求めるのに対して、引用発明は、その点が限定されていない点。

5 当審の判断
(1)相違点1
ア シンチレータの直径に対する長さの比を所定範囲に限定した点
引用刊行物には、以下の記載がされている。
「今回の実験では直径50mm×長さ25mmの形状をしたNal(Tl)、BGOシンチレータを組み合わせた。現在直径50mm×長さ50mmのシンチレータを製作中であり,シンチレータの大きさの異なる組合せによる実験を進め,N(θ)の変化率の向上を検討していく。」(記載事項8)
この記載からみて、
(ア)今回の実験で用いたものと製作中のシンチレータについて、それぞれの直径に対する半径の比は、前者は0.5(25mm/50mm)であり、後者は1(50mm/50mm)である。また、両者の直径はいずれも50mmである。
(イ) その記載事項8中の「シンチレータの大きさの異なる組合せによる実験を進め,N(θ)の変化率の向上を検討していく。」という記載は、直径が50mmのシンチレータにおいて、直径に対する長さの比を0.5から1に増加させると、N(θ)の変化率が向上するか検討すると解釈できる。また、上記直径に対する長さの比は、N(θ)の変化率が向上するための重要なパラメータであるといえる。

してみると、当業者が引用刊行物の上記記載に接した場合、2種類の高密度で発光強度の異なるシンチレータについて、直径に対する長さの比が1(引用刊行物に記載されたもの)より大きくし、本願発明の1.5から2.5の範囲も含む種々の値のシンチレータを用いて、ガンマ線検出器のN(θ)の変化率が向上するか(ガンマ線の入射角度θの変化に対する、両シンチレータによる計数の比の変化がいままでの実験結果よりも急峻となるか)試みることは当然の事項であるといえる。

イ シンチレータの直径に対する長さの比を1.5から2.5の範囲と限定する点
本願明細書には、シンチレータの直径に対しての長さの比について以下の記載がされている。
「【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の方向性ガンマ線検出器においては、直径に対する長さの比が1から3の範囲である2種類の発光強度が異なる高密度のシンチレータを光学的結合して1本の光電変換素子と組み合わせて検出部を構成する。上記の直径に対する長さの比は、検出効率の点から好適には1.5?2.5である。(略)」
「【0009】
例えば前方に密度が3.67g/cm^(3)で発光強度を100のNal(Tl)シンチレータ、後方に密度が7.13g/cm^(3)で発光強度が8のBGOシンチレータ、あるいは密度が4.51g/cm^(3)で発光強度が49のCsI(Tl)シンチレータを接合する。(略)」
「【0010】
本発明の方向性ガンマ線検出法は、上記のように、直径に対する長さの比が1から3の範囲である2種類の高密度で発光強度の異なるシンチレータを直列に接合し(略)」
「【0011】
以下、本発明の好適な実施態様について図面を参照して説明する。図1において、直径25mmで長さ50mm、直径に対しての長さの比が2であるNaI(T1)シンチレータ1の後ろに同寸法のBGOシンチレータ2を光学的に接合し(略)」

本願明細書の上記記載によれば、シンチレータの直径が25mmの場合についてのみ、その直径に対する長さの比を1から3の範囲とする点、及び上記比の値は検出効率の点から好適には1.5?2.5である点は記載されている。
しかしながら、本願明細書には、その直径を25mmとは異なる値のシンチレータを用いることは記載されておらず、また、前方のシンチレータとしてNaI(T1)シンチレータしか記載されていない。
さらに、本願明細書には、シンチレータとして、その直径およびその構成材料が上記以外のものを用いて場合において、本願発明で用いられるシンチレータの直径に対する長さの比を1.5?2.5に限定したことにより生じる効果が載されていない。

なお、請求人は、審判請求書の6ページで「上記1.5?2.5における感度向上も明細書に記載、または明細書の記載から当業者が推論できる程度に記載、されているといえる。」と主張する。

この主張を検討する。上述したように、本願明細書には、シンチレータの直径に対する長さの比について「検出効率の点から好適には1.5?2.5である。」と記載され、さらに、図3、表1には、直径が25mmで長さが50mm、直径に対して長さがの比が2であるNaI(Tl)シンチレータ、それと同寸法のBGOシンチレータを用いた場合の、ガンマ線の入射方向0?90°に対する比率R(BGO計数値/NaI計数値)のグラフ(図3)ないしその数値のテーブル(表1)が示されているに過ぎない。

つまり、本願明細書には、感度向上がシンチレータの直径に対する長さの比がどの値と比較して、1.5ないし2.5の方が向上しているかを評価できるに足る記載がされていない。
また、本願明細書には、前方と後方の両シンチレータの直径が25mmで、前方のもの材料がNaI(Tl)であり、後方のものの材料がBGOの実験結果しか記載されていない。

してみると、本願発明で用いられるシンチレータが、その直径、具体的材料の限定がされていないことから、シンチレータの直径に対する長さの比の「1.5?2.5における感度向上」という請求人の主張する効果は、本願明細書に記載されておらず、また、格別顕著なものともいえない。

よって、請求人の上記主張は採用できない。

ウ 以上のア及びイで検討したことを総合すると、相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、引用刊行物の記載に基づいて当業者が容易に想到しえたものである。

(2)相違点2
「放射線計測概論」(関口晃著、東京大学出版会、1979年初版発行、第134?137)には、γ線スペクトル測定について、シンチレーション検出器が有用である点、出力波高分布(スペクトル)より入射単色γ線の強度を求めるには、光電ピークの位置とその面積から算出するのがふつうである点が記載されている。
してみると、相違点2にかかる本願発明の発明特定事項である、スペクトルから線量を求めることは周知事項にすぎなく、格別なものではない。

そして、本願発明の効果は、引用刊行物の記載及び周知事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって、本願発明は、引用刊行物に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-04 
結審通知日 2008-03-11 
審決日 2008-03-25 
出願番号 特願2002-362795(P2002-362795)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 洋平  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 辻 徹二
安田 明央
発明の名称 ガンマ線検出器  
代理人 西山 雅也  
代理人 石田 敬  
代理人 田崎 豪治  
代理人 鶴田 準一  
代理人 樋口 外治  

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