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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 B29C |
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管理番号 | 1177455 |
審判番号 | 不服2005-16687 |
総通号数 | 102 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-06-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-09-01 |
確定日 | 2008-05-07 |
事件の表示 | 平成 7年特許願第214079号「表皮張り中空成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 2月10日出願公開、特開平 9- 39079〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許出願 平成7年7月31日 拒絶理由通知 平成16年6月17日付け 意見書及び手続補正書 平成16年8月30日付け 拒絶理由通知(最後) 平成17年4月13日付け 意見書及び手続補正書 平成17年6月27日付け 補正の却下の決定 平成17年7月14日付け(平成17年6月27日付けの手続補正に対して) 拒絶査定 平成17年7月14日付け 審判請求 平成17年9月1日(同年10月3日付けで手続補正書(方式)) 手続補正書 平成17年10月3日付け 前置報告書 平成18年1月6日付け 審尋 平成19年7月23日付け 回答書 平成19年9月30日付け 2.本願に係る発明 (1)平成17年10月3日付け手続補正書でした手続補正について 平成17年10月3日付け手続補正書でした手続補正(以下、「本件補正」という。)は、審判の請求の日から30日以内にした明細書についての補正であって、その内容は、平成16年8月30日付け手続補正書によって補正された明細書を対象として補正する、以下の補正事項1ないし3から成るものである。 補正事項1: 特許請求の範囲の請求項1につき、 「中空体のブロー成形時にその表面の樹脂が表皮の裏面に接着した繊維シートの目の間に入り込んで中空体の表面に表皮が貼着された構造」とあるのを、「中空体のブロー成形時のブロー圧によりその表面の樹脂が表皮の裏面に接着した繊維シートの目の間に入り込んで中空体の表面に表皮が貼着された構造」に補正し、かつ、 「表皮が中空体との間に空気溜まりがない状態で一体に張り付けられている」とあるのを、「表皮と中空体の間の空気を繊維シートの中に分散させて表皮が中空体との間に空気溜まりがない状態で一体に張り付けられている」に補正する、 補正事項2: 【0008】の【課題を解決するための手段】について、補正事項1と同趣旨の補正を行う、 補正事項3: 【0021】について、 「表皮として。引張弾性率が」とあるのを、「表皮として、引張弾性率が」に補正する。 補正事項1、2は、本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の【0007】、【0015】及び【0021】の記載に基づいて、表皮が中空体との間に空気溜まりがない状態で一体に張り付けられている具体的な態様を、文言上、明確にするとともに、中空体のブロー成形時にその表面の樹脂が表皮の裏面に接着する作用が、ブロー成形時のブロー圧によって生じるものであるという当業者に明らかな技術的事項を、文言上、明確に記述するものであるので、いずれも当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、特許請求の範囲の補正である補正事項1については、特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものであると認められ、 補正事項3は、構文上明らかな句読点の誤記を単に正すものであるから、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められる。 したがって、補正事項1ないし3から成る本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に適合するものである。 (2)請求項1に係る発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載したとおりの以下の事項を発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)に備えるものと認められる。 「熱可塑性プラスチックをブロー成形してなる中空構造の中空体の表面に表皮を張り付けた表皮張り中空成形品において、中空体の表面に張り付ける表皮は、引張弾性率が3000?12000Kg/cm^(2)のポリプロピレンあるいはPETのフィルムからなる表皮シートで、その裏面側に編物あるいは不織布からなる繊維シートを接着剤で接着したものであり、中空体のブロー成形時のブロー圧によりその表面の樹脂が表皮の裏面に接着した繊維シートの目の間に入り込んで中空体の表面に表皮が貼着された構造をなしており、表皮シートの厚みは30μm?1mmであるとともに、繊維シートの厚みは0.2mm?1mmであり、表皮と中空体の間の空気を繊維シートの中に分散させて表皮が中空体との間に空気溜まりがない状態で一体に張り付けられていることを特徴とする表皮張り中空成形品。」 3.原査定の理由の概要 原査定の理由の概要は、平成17年4月13日付け拒絶理由通知書(以下、「最後の通知」という。)に記載のとおり、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、というにあり、より具体的には、 「発明の詳細な説明中には、繊維シートの目の大きさ及び単位面積あたりの数並びにパリソンと表皮の繊維シートの接触圧力をどの程度にすれば、表皮と中空体との間に空気溜まりをなくすことができるのかは全く記載されていない。パリソンと表皮の繊維シートの間に残る空気の繊維シートの目の中への分散度合いは、繊維シートの目の大きさ及び単位面積あたりの数並びにパリソンと表皮の繊維シートの接触圧力に依存するものと認められる。 したがって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」というものである。 4.本願明細書の発明の詳細な説明の記載の検討 明細書の発明の詳細な説明には、当業者が、明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、発明を実施することができる程度に記載しなければならないものであるところ、「表皮張り中空成形品」に係る本願発明に即していえば、明細書及び図面に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて、当業者が、発明に係る「表皮張り中空成形品」という「物」を、どのように作るのかが理解できるように記載する必要がある。 しかしながら、発明の詳細な説明の記載では、出願時の技術常識を踏まえてもなお、発明に係る「表皮張り中空成形品」という「物」を、どのように作るのかが理解できるとすることはできない。 以下、詳述する。 4-1.実施例は、追試ができない 発明の詳細な説明には、【0016】ないし【0019】に、実施例として実験1ないし12が記載されている。 しかしながら、この実施例、特に、実験1ないし12の記載をみても、その再現をすることは、当業者であっても不可能、又は、過度の試行錯誤を求めるものである。 この点、原査定において、「パリソンと表皮の繊維シートの間に残る空気の繊維シートの目の中への分散度合いは、繊維シートの目の大きさ及び単位面積あたりの数並びにパリソンと表皮の繊維シートの接触圧力に依存するものと認められる。」と述べているとおりであり、発明の詳細な説明に記載された実施例においては、繊維シートの目の大きさ及び単位面積あたりの数並びにパリソンと表皮の繊維シートの接触圧力が不明であり、更にいえば、表1に記載される「評価」又は「結果」自体も、JIS等標準化された方法によるものでないばかりか、何をもって「◎きわめて良好」と「△やや不良」とを分けたのかの説明も一切示されないものであるから、実施例の実験1ないし12は追試や再現が不可能である。 4-2.請求人の反論についての検討 これに対して、請求人は、 平成17年6月27日付け意見書において、 「本願発明においては、特に、 繊維シートの目付重量を50?250g/m^(2)(厚みを0.2mm?1mm)の不織布または編物とすることにより空気溜まりが生じないことを見いだして発明の特定事項としたものです。 また、不織布、編物にあっては「その目の大きさ、単位面積あたりの数」の範囲を特定することが非常に困難であって、当業者がこれらの範囲をもとに発明の実施をすることは難しいところから、本願発明は繊維シートの目付重量(厚み)によりその技術的範囲を特定したのであって、一般には目付重量(厚み)は空気溜まりを防止するという観点からは繊維シートの目の大きさ及び単位面積あたりの数と実質同一のものとして考えられます。 さらに、パリソンと表皮の繊維シートとの接触圧力については、ブロー成形時のブロー圧によりパリソンが膨らんでキャビティに装填されている装飾布の繊維シートに接触するときの圧力であるから、その値はブロー圧と同等の圧力であることが推測されます。ちなみに、本願発明においては好ましい態様としてブロー成形時のブロー圧を8kg/cm^(2)とすることを「実施例」として掲げております(段落「0017」)。」と主張し(以下、「原審主張」という。)、 また、平成17年10月3日付け手続補正書(方式)において、 「本件発明においては、特に、 繊維シートの厚みを0.2mm?1mmの不織布または編物とすることにより、その中で空気が分散されて空気溜まりが生じないことを見いだして発明の特定事項としたものである。 また、不織布、編物にあっては「その目の大きさ、単位面積あたりの数」の範囲を特定することが非常に困難であって、当業者がこれらの範囲をもとに発明の実施をすることは難しいところから、本件願発明は繊維シートの厚みによりその技術的範囲を特定したのであって、一般には厚みは表皮と中空体の間の空気を繊維シートの中に分散させて空気溜まりを防止するという観点からは繊維シートの目の大きさ及び単位面積あたりの数と実質的に同一のものとして考えられる。 さらに、パリソンと表皮の繊維シートとの接触圧力については、ブロー成形時のブロー圧によりパリソンが膨らんでキャビティに装填されている装飾布の繊維シートに接触するときの圧力であるから、その値はブロー圧と同等の圧力であることが推測される。ちなみに、本発明においては好ましい態様としてブロー成形時のブロー圧を8kg/cm^(2)とすることを「実施例」として掲げている(当初段落「0017」)。」と主張している(以下、「審判時主張」という。)。 4-2-1.原審主張についての検討 原審主張について検討する。 まず、請求人は、表皮と中空体との間に空気溜まりの有無は、「繊維シートの目の大きさ及び単位面積あたりの数並びにパリソンと表皮の繊維シートの接触圧力に依存する」旨の先の最後の通知の指摘そのものに対して、技術的に誤っているなど、その内容の当否自体を争っていない。 そして、「不織布、編物にあっては「その目の大きさ、単位面積あたりの数」の範囲を特定することが非常に困難であって、当業者がこれらの範囲をもとに発明の実施をすることは難しいところから、本願発明は繊維シートの目付重量(厚み)によりその技術的範囲を特定したのであって、一般には目付重量(厚み)は空気溜まりを防止するという観点からは繊維シートの目の大きさ及び単位面積あたりの数と実質同一のものとして考えられます。」(以下、「目付要件」という。)と主張しているが、本願明細書の発明の詳細な説明には、編物あるいは不織布からなる繊維シートの「目付重量」について記載はないから、発明の詳細な説明の記載をみても、実施例の追試が可能であると認めるべき理由は見い出せない。なお、請求人は、「目付重量(厚み)」と記述して、明細書の発明の詳細な説明に実施例として記載された繊維シートの「厚み」と「目付重量」が同一のものであるがのごとき主張をしているが、単に、「編物」又は「不織布」というだけでは、「厚み」の値から「目付重量」の値が一義的に定まるということはできない。 そして、実施例にあっては、「繊維シートは不織布である。」(【0016】)とのみ記載され、【表1】には、実験1ないし12において繊維シートの厚みが記載されてはいるが、目付重量を導くのに不可欠である単位面積当たりの重量が記載されているものでないばかりか、この不織布が、いかなる繊維から形成されるものか、数多くある不織布製造方法のどの方法によって製造されたものか等々を窺わせる記載はみられないから、「目付重量」の値を導くことは到底不可能である。 更にいえば、実施例の実験1ないし12のうち、繊維シートとして、「不織布」を用いているのは、実験11のみであって、この「不織布」について「目付重量」の値を導くことは到底不可能であることは先に述べたとおりであるが、実験1ないし10、12では、繊維シートとして、「トリコット」を用いることが示されている。しかしながら、経編編成物を用いて形成されたものであって、1方向又は2方向の伸縮性など多様な形態をとり得るものである「トリコット」についても、「厚み」の値から「目付重量」の値を一義的に導くことは到底不可能である。 (先に摘示したように、【0016】では、「繊維シートは不織布である。」と記載されていたので、不織布である「トリコット」がいかなるものか不明であるため、追試が不可能であるという明細書の記載不備もあるが、ここでは検討を省略する。) また、請求人は、「パリソンと表皮の繊維シートとの接触圧力については、ブロー成形時のブロー圧によりパリソンが膨らんでキャビティに装填されている装飾布の繊維シートに接触するときの圧力であるから、その値はブロー圧と同等の圧力であることが推測されます」(以下、「接触圧要件」という。)と述べているが、一般に、ブロー成形品及びその表面に貼着される表皮の形状は、単なる平面ではなく、場合によっては複雑な凹凸形状などを持つものであり、ブロー成形によるパリソンの拡径過程で、表皮の繊維シートが伸長されるものであるから、パリソンと表皮の繊維シートとの接触圧力が、ブロー圧と同等の圧力であることが推測されるとの主張は、技術的な根拠が存在しないものである。 したがって、原審主張によっては、明細書記載の実施例の追試ができないという最後の通知の指摘を撤回すべき理由は見い出せない。 4-2-2.審判時主張についての検討 次に、審判時主張について検討する。 審判時主張は、要するところ、「(繊維シートの)厚みは表皮と中空体の間の空気を繊維シートの中に分散させて空気溜まりを防止するという観点からは繊維シートの目の大きさ及び単位面積あたりの数と実質的に同一のものとして考えられる。」(以下、「厚み要件」という。)との主張、及び、それに加えて、先の「接触圧要件」の主張にある。 まず「厚み要件」の主張について検討すると、これは先の「目付要件」の主張において、「目付重量(厚み)」を、「厚み」と置き換えたものにすぎず、「(繊維シートの)厚み」と「繊維シートの目の大きさ及び単位面積あたりの数」とが実質的に同一である旨の主張に関して、技術的な根拠を新たに補充するものでもない。 そして、先にも述べたように、実施例にあっては、「繊維シートは不織布である。」(【0016】)とのみ記載され、【表1】には、実験1ないし12において繊維シートの厚みが記載されてはいるが、この不織布が、いかなる繊維から形成されるものか、数多くある不織布製造方法のどの方法によって製造されたものか等々を窺わせる記載はみられないから、厚みの開示のみでは、実験1ないし12を追試することは、当業者であっても到底不可能である。更に、実験1ないし10、12では、繊維シートとして、経編編成物を用いて形成される「トリコット」を用いることが示されているが、トリコットの「厚み」の値だけから、繊維シートの目の大きさ及び単位面積あたりの数を一義的に導くことは到底不可能である。 また、「接触圧要件」の主張については、先に検討したとおり、技術的な根拠が存在しない。 したがって、審判時主張を考慮してもなお、実施例の追試は不可能である。 4-3.PETについては、実施例すらなく、実施ができない 本願発明は、表皮シートとして、「引張弾性率が3000?12000Kg/cm^(2)のポリプロピレンあるいはPETのフィルム」という二者択一で特定されるものであるところ、発明の詳細な説明に記載された実施例において、表皮シートとして使用されるのは、「ポリプロピレンフィルム」のみであって、「PETのフィルム」については、いかなる引張弾性率のいかなる厚さのPETのフィルムを使用するのか、繊維シートとしていかなる材料のいかなる厚さのものを使用するのか、パリソンの材料としてはABS樹脂を使用するのか、いかなる厚みのパリソンを使用するのか、樹脂温度は何度にするのか、ブロー圧をいかなる値とするのか、等々については、一切記載がない。 そして、ポリプロピレンのフィルムとPETのフィルムとは、融点、ガラス転移温度など成形性に密接に関わる基本物性において差異があるから、「PETのフィルム」を採用した場合に、表皮張り中空成形品を製造するために、どのような条件の組み合わせを採用するかは、当業者であっても予測困難なことである。 してみれば、本願発明のうち、少なくとも、表皮シートが「PETのフィルム」である場合については、発明の詳細な説明の記載をみても、当業者が、本願発明を実施することはできない。 4-4.発明の詳細な説明のその他の記載をみても、発明の実施ができない 発明の詳細な説明には、【0007】、【0008】、【0021】に特許請求の範囲の記載を繰り返す記載がみられるほか、【0011】、【0012】に、「表皮5」の構成についての具体的な説明がある。 しかしながら、「表皮シート7」についても、「繊維シート8」についても、それらの製造方法について記載があるわけでもないし、商品名が例示されているものでもない。加えて、一般的には、積層体全体の剛性に影響があることが知られている「接着剤9」についても、いかなる接着剤を使用するのか、いかなる接着方法を採用するのか等について、何らこれらを示唆する記載もみられない。 また、図面の図1ないし図4を参照しても、「表皮シート7」、「繊維シート8」及び「接着剤9」についての具体的な技術情報はみられない。 したがって、発明の詳細な説明のその他の記載をみても、当業者が、本願発明の実施をすることはできない。 5.まとめ 発明の詳細な説明の記載では、本願発明に係る「表皮張り中空成形品」という「物」をどのように作るのかが理解できない。 以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものであると認めることができない。 6.むすび 本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、原査定の結論は妥当であって、拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-02-26 |
結審通知日 | 2008-03-04 |
審決日 | 2008-03-17 |
出願番号 | 特願平7-214079 |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(B29C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 斎藤 克也 |
特許庁審判長 |
一色 由美子 |
特許庁審判官 |
渡辺 陽子 野村 康秀 |
発明の名称 | 表皮張り中空成形品 |