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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) E04G
管理番号 1177522
判定請求番号 判定2007-600093  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2008-06-27 
種別 判定 
判定請求日 2007-11-27 
確定日 2008-05-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第3932094号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号説明書に示す「複合構造物である沈砂池ポンプ棟の補強方法」は,特許第3932094号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求は,イ号説明書に示す「複合構造物である沈砂池ポンプ棟の補強方法」(以下,「イ号工法」という。)が特許第3932094号発明(以下,「本件発明」という。)の技術的範囲に属しない,との判定を求めたものである。

第2 本件発明
本件特許第3932094号は,平成13年10月4日の出願に係り,平成19年3月23日に設定登録されたものであって,本件発明は,その特許請求の範囲に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
カルバート構造物の内壁面側から壁内部に向けて有底の剪断補強材挿入用長穴を形成し、この剪断補強材挿入用長穴の内部に前記剪断補強材挿入用長穴よりも短尺の剪断補強材を挿入して残部空隙を充填材で充填固化することを特徴とするカルバート構造物の補強方法。」(以下,「本件発明1」という。)

「【請求項2】
前記充填材が、被補強構造物の補強面と同色系に着色されている請求項1に記載のカルバート構造物の補強方法。」(以下,「本件発明2」という。)

そして,本件発明1は,分説すると以下の構成要件を備えるものである。

A カルバート構造物の内壁面側から
B 壁内部に向けて有底の剪断補強材挿入用長穴を形成し,この剪断補強材挿入用長穴の内部に前記剪断補強材挿入用長穴よりも短尺の剪断補強材を挿入して残部空隙を充填材で充填固化する
C ことを特徴とするカルバート構造物の補強方法

(以下,上記A?Cを構成要件A?Cという。)

また,本件発明2は,構成要件A?Cに加え,以下の構成要件Dを備えるものである。

E 前記充填材が、被補強構造物の補強面と同色系に着色されている

第3 イ号工法
請求人は,判定請求書5頁の表によれば,イ号方法を次のとおり特定している。

a 複合構造物である沈砂池ポンプ棟の内壁面から、ダイヤモンドコアマシーンにより、有底の躯体の穿孔を形成し,
b この穿孔の長穴の内部に接着無機系カプセルアンカーを挿入し、その後専用パイプアンカー筋を入れてその先にあるせん断補強筋をハンマードリル、チッパーにより打ち込み,打ち込み完了後、せん断補強筋の先端で接着無機系カプセルアンカーを破り、接着無機系のものがせん断補強筋の周囲で硬化養生する
c 複合構造物である沈砂池ポンプ棟の補強方法。

しかしながら,「複合構造物である沈砂池ポンプ棟」では,本件発明と対比するには「沈砂池ポンプ棟」が構造物として具体的に特定されておらず,また,「沈砂池ポンプ棟」の補強箇所も不明である。そこで,請求人が平成20年4月18日に提出した回答書(甲第7号証の1?6を含む。)および,被請求人の主張をも参酌し,次のとおり特定する。

a 地上1階,地下1階の鉄筋コンクリート構造(ラーメン構造)の複合構造物であって,地下1階は沈砂池機械室であり,その下に沈砂池,水路およびポンプ井からなる水路部を備えた沈砂池ポンプ棟において,該沈砂池機械室およびポンプ井の内壁面から,
b ダイヤモンドコアマシーンにより,有底の躯体の穿孔を形成し,この穿孔の長穴の内部に接着無機系カプセルアンカーを挿入し,その後専用パイプアンカー筋を入れてその先にあるせん断補強筋をハンマードリル,チッパーにより打ち込み,打ち込み完了後、せん断補強筋の先端で接着無機系カプセルアンカーを破り,接着無機系のものがせん断補強筋の周囲で硬化養生する
c 複合構造物である沈砂池ポンプ棟の補強方法。

(以下,上記a?cを構成a?cという。)

なお,請求人の提出したイ号説明書は,「角田ポンプ場」と「丸森ポンプ場」とをイ号工法の対象としているが,その図面等からみて,両者は構成を異にしており,また,「丸森ポンプ場」については,その補強箇所を示す図面が提出されていないことから,「角田ポンプ場」のみを対象として,イ号工法を上記のとおり特定する。

第4 当事者の主張
1 請求人
(1)「イ号方法における『沈砂池ポンプ棟等』は『人が入って作業をする等の居住空間を有することが必須条件である複合構造物の一つの補強方法』であり、この複合構造物ではない『単に水等を通すだけの構造物であるカルバートの補強方法』とは、上記した甲第1号証乃至甲第4号証の刊行物にもあるように、別異のものである。」(請求書9頁16?20行)

2 被請求人
(1)「c-3.以上のとおり、判定請求書、及び、説明書には、沈砂池ポンプ棟における 補強対象箇所は記載されていない。
d.そして、判定請求書、及び、説明書には、当然ながら、補強対象箇所がカルバート 構造物ではない理由も説明されていない。
e.以上のとおりであるから、判定請求書、及び、説明書には、沈砂池ポンプ棟における補強対象箇所は記載されていない。
d.そして、判定請求書、及び、説明書には、当然ながら、補強対象箇所がカルバート 構造物ではない理由も説明されていない。本件判定請求は、イ号方法が明確でなく、また、イ号方法が本件発明の技術的範囲に属しない理由を説明していないから不適法であり、却下されるべきである。」(答弁書3頁17?23行)

(2)「沈砂池を補強対象箇所としたイ号方法は、本件発明の技術的範囲に属する。・・・・・『沈砂池とポンプ井を結ぶ水路』、『ポンプ井』、『沈砂池に汚水を導く水路』を補強対象箇所としたイ号方法も、それぞれが本件発明の技術的範囲に属する。・・・・・沈砂池ポンプ棟を全体としてみた場合にカルバート構造物に該当しないとしても、そのことは、イ号方法が本件発明の技術的範囲に属しないことの根拠とはならない。」(答弁書4頁15行?5頁4行)

第5 当審の判断
1 本件発明の技術的意義について
本件発明の技術的意義を把握するために,本件特許明細書を参照すると,次のような「課題」,「目的」,「解決手段」及び「効果」が記載されている。

(1)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記した補強方法は、いずれも、補強面に厚みができ、特に型枠内にコンクリートを流し込んで固める場合には、補強面の厚みがより大きくなるという難点があり、特に埋設されたカルバート構造物においては、内部空間が狭くなるという重大な欠点を有している。
【0005】
また、前記いずれの補強方法も、補強面に、コンクリートを積層し、繊維や鋼板を貼り付けるだけでは剪断の補強効果が得られない。
さらに、炭素繊維等を貼付け固着する場合には、溶剤の使用や紫外線照射等の設備も必要となり、特にカルバート構造物の補強に際しては、溶剤の使用に対し、工事現場の換気に十分な配慮をしなければならないという難点もある。
また、前記した従来の補強方法は、いずれも工事が大掛かりなものとなって、工事期間が長くなり、工事期間中における工事現場の通行等の利用が制約される上に、費用が嵩むという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、上記の点に着目し、施工が容易で、しかも施工後に剪断耐力の大幅な向上が図れ、かつ工期が短く、また、工区を小分けして断続的に施工することができ、さらに費用の削減が図れるカルバート構造物の補強方法を提供することにある。」

(2)「【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のカルバート構造物の補強方法は、地中に埋設されたカルバート構造物の内壁面側から壁内部に向けて有底の剪断補強材挿入用長穴を形成し、この剪断補強材挿入用長穴の内部に前記剪断補強材挿入用長穴よりも短尺の剪断補強材を挿入して残部空隙を充填材で充填固化する。
この場合において、前記充填材が、被補強構造物の補強面と同色系に着色されていることが好ましい。」

(3)「【0021】
【発明の効果】
本発明の補強方法によれば、その補強面側から、穿孔して剪断補強材を入れ、充填材を注入するだけの施工で十分な補強が行えるため、工期が短くて済み、しかも補強面に厚みが出ず、工事中の構造物内の使用に対する制約も、従来の工法に比べて大幅に減少できる。
さらに、充填材を剪断補強材挿入用長穴の周囲の補強面と同系色にすることにより、補強面が目立たず美観を損なうことがないので、施工面を覆う化粧板の設置等の後処置が不要となるので、大幅なコストダウンが実現できる。」

上記本件特許明細書の記載から明確に把握できるとおり,「地中に埋設されたカルバート構造物の内壁面側から壁内部に向けて有底の剪断補強材挿入用長穴を形成し,この剪断補強材挿入用長穴の内部に前記剪断補強材挿入用長穴よりも短尺の剪断補強材を挿入して残部空隙を充填材で充填固化するすることにより,内部空間を狭くすることなく十分な補強が行え,工期が短くて済み,しかも補強面に厚みが出ず,工事中の構造物内の使用に対する制約も,従来の工法に比べて大幅に減少できる。」ことが,本件発明1の技術意義であると認められる。

2 構成aが構成要件Aを充足するか否かについて
(1)構成要件Aについて
まず,本件特許明細書には,「カルバート構造物」に関して,その段落【0001】には「【発明の属する技術分野】本発明は、地中に埋設されたカルバート構造物の補強方法に関する。」と記載され,その段落【0003】には「また、特に埋設された鉄道用や車道用の地下トンネル、地下通路あるいは暗渠等に広く採用されているカルバート構造物の補強は、外壁面側から行うには周囲を掘り起こさなければならず大掛かりな工事となってしまうため、専ら内壁面側から行っているが、その施工は、内壁の補強面に、配筋を施した型枠を組み、この型枠内にコンクリートを流し込んで固める等、前記同様な方法で行われている。」と記載され,その段落【0008】には「【発明の実施の形態】本発明のカルバート構造物の補強方法について、その一実施の形態をそれぞれ添付図面に基づいて説明する。図1は、本発明の補強方法の対象となるボックス型カルバート構造物の一例を示す模式的な部分断面図であり、図2は、本発明による補強方法の対象となった図1のAで示す領域を拡大して示す部分断面図である。・・・・・」と記載されている。
また,本件特許の出願審査過程における平成18年11月30日に提出された意見書において,被請求人は,「本件発明を、“地中に『埋設され』、地盤・地中を染み通る地下水等に常時さらされる”『鉄道用や車道用の地下トンネル、地下通路あるいは暗渠等に広く採用されているカルバート構造物の補強』(同第1欄第26?28行)に特定」と述べている。
一方,「ボックス型カルバート構造物」,すなわち,「ボックスカルバート」とは,「鉄道技術用語辞典,財団法人 鉄道総合技術研究所著,丸善株式会社,平成9年12月25日発行,666頁」によれば,「地盤または盛土中につくられる鉄筋コンクリート箱形ラーメン構造物で,上載荷重および土圧に抗して内部空間を利用するために構築される.内部空間は道路,人道,水路,共同溝,地下鉄軌道部,地下鉄駅舎部などに利用される.盛土の直下に構築されるような土被りの浅いものから,地下鉄軌道部のように比較的土被りの大きいものまである.また,その構造は単ボックスから地下鉄駅舎のような多層多径間のものまで,内部空間の利用目的に合わせて変化する.ボックスカルバートは,一般に排除した土の重量より軽く,支持地盤に対して増加荷重がないかあっても少ないことが多いため,支持力に対して問題となることは少ない.しかし,逆に地下水位の上昇に伴う浮上りが問題となることがある.また,地震時には地盤の動きに追随していくと考えられ,地盤が大きくせん断変形を起こした場合,それらに伴う強制変形を受けることとなり,応答変位法などの耐震設計方法が用いられる.」と説明され,「土木用語大辞典,社団法人 土木学会 編,技報堂出版株式会社,1999年2月15日発行,1180頁」によれば,「断面形状が箱形のカルバート.鉄筋コンクリートあるいはプレストレストコンクリート製の剛性カルバートで,地下横断歩道,盛土部分の横断用通路や水路,都市内共同溝,工場等の地下施設等として用いられる.」と説明され,「図解 一般土木用語事典,山村和也編,株式会社 山海堂,1993年6月30日第15刷発行,54頁」によれば,「ボックスカルバートといわれるもので,函形の鉄筋コンクリート製で一般に場所打ちされる.内空断面は1.0m×1.0m?5.0×6.5m程度までであり道路横断用水路,通路,共同溝の一般的な構造形式として用いられる.通常一連ボックスが用いられ,高さ制限がある水路などで幅が高さの2倍以上となるような場合には二連ボックスとされる.設計に当たっては,自重,車両による荷重,土圧等を考慮するが,建設省において土木構造物標準設計として標準図集が制定されており,条件に応じたタイプを選定できるようになっている.施工に当たっては道路の平坦性に及ぼす影響に留意する必要があり,工期短縮のためプレキャストボックスカルバートも使用される(図-5).」と説明されている。
また,「カルバート」とは,「道路土工要綱,社団法人 日本道路協会,平成2年8月,184頁」(乙第1号証)によれば「用・排水のための水路や人あるいは車の通路として、道路などの下に設けられる構造物」のことであり,また,「最新・建築英和辞典,松村貞次郎翻訳監修,日本ビジネスレポート株式会社発行,昭和51年8月1日,115頁」(乙第2号証)には「道路や線路,築堤,運河の下を通る水路,構造的には開渠であったり暗渠であったりする。材木やアーチ式の組積造り,金属,コンクリート製の管でつくられる。」と,「図解 土木用語辞典,土木用語辞典編集委員会編,日刊工業新聞社,昭和51年9月30日11版発行,21頁」(甲第4号証の1)には「用水や排水のための水路が,道路,鉄道,堤防などの下に埋設されたとき,とくに暗渠という.陶管や鉄筋コンクリート管の管きょと,ボックスカルバートやアーチカルバートのような石造りや鉄筋コンクリートのものがある.ボックスカルバートは断面が長方形のもので,アーチカルバートは上部にアーチを用いたものである。」と説明されている。

そうすると,本件特許明細書に例示された鉄道用や車道用の地下トンネル,地下通路あるいは暗渠は,一定の断面形状が長く連続する構造物である点にて共通するといえ,上記の本件特許明細書の記載および技術的意義ならびに技術常識を考慮すると,構成要件Aの「カルバート構造物」とは,「その内部空間が利用される地中に埋設された地上部を有さない地下構造物であって,壁体のラーメン構造であり,一定の断面形状が連続する構造物」であると解するのが相当である。

なお,「ボックスカルバート」から構成される「地下室」および「遊水池」が,実公平3-46030号公報および特許第2545198号公報等多数の特許文献に記載されているものの,前述したように,本件特許明細書には「鉄道用や車道用の地下トンネル,地下通路あるいは暗渠等」と例示されているのみであって,他の構造物を示唆する記載もないことから,本件発明における「カルバート構造物」は,「地下室」あるいは「遊水池」までを含むものではないといえる。
また,本件特許明細書の段落【0020】には,「本発明の補強方法は、実施例で挙げたカルバート構造物本体の内壁面の補強に限らず、橋梁、橋台、土留擁壁、防波堤等、コンクリート構造物であれば如何なるものにも適用できる。」と記載されているが,前述したように,本件特許の出願審査過程において,本件発明の対象が「コンクリート構造物」から「カルバート構造物」に限定されたことからみて,上記解釈に影響しないことは,明らかである。

(2)構成aについて
一方,構成aの「沈砂池ポンプ棟」は,「地上1階,地下1階の鉄筋コンクリート構造(ラーメン構造)の複合構造物であって,地下1階は沈砂池機械室であり,その下に沈砂池,水路およびポンプ井からなる水路部を備えた」構造物であり,その「沈砂池,水路およびポンプ井からなる水路部」は「沈砂池機械室」の下方に一体構築されるとともに,その「沈砂池機械室」の上方には「地上1階」が一体構築されているといえる。
そして,「地上1階」が一体構築されていることからみて,「地上1階」と「沈砂池機械室」とは一体の構造物であって,別々の構造物であるといえないから,「沈砂池機械室」は,地下に位置するものの,「地中に埋設された地上部を有さない地下構造物」であるとはいえない。また,「沈砂池,水路およびポンプ井からなる水路部」も,「沈砂池機械室」の一部であるというのが相当であり,「沈砂池機械室」とは別の構造物であるとは到底いえないから,「地中に埋設された地上部を有さない地下構造物」であるとはいえない。
さらに,イ号説明書の「1階平面図」,「地下1階 平面図」,「水路部 平面図」,「標準横断面図」および「標準縦断面図」によれば,「地上1階」では「柱」,「梁」あるいは「壁」の区別があり,「柱梁構造ラーメン構造」であるのに対し,「沈砂池機械室」および「ポンプ井」には「柱」と「壁」の区別はなく,「壁体のラーメン構造」であるといえる。そして,「沈砂池機械室」ではその断面形状が略一様に連続しているものの,長く連続していると迄はいえず,また,「ポンプ井」ではその断面形状が大きく変化しているから,一様に長く連続しているとはいえない。

(3)対比
そこで,構成aと構成要件Aと対比すると,構成aの「沈砂池機械室」および「ポンプ井」は,地下に位置する「壁体のラーメン構造」であり,その内壁面が補強の対象である点にて,構成要件Aの「カルバート構造物」と一致しているものの,前述したように,「沈砂池機械室」および「ポンプ井」は,「地上1階」が一体構築されている「沈砂池ポンプ棟」の一部であって,各々が独立した「地中に埋設された地上部を有さない地下構造物」であるとはいえないから,この点において構成要件Aの「カルバート構造物」と相違する。また,前述したように,構成aの「沈砂池機械室」および「ポンプ井」は,一様に長く連続しているともいえないから,この点においても構成要件Aの「カルバート構造物」と相違する。
してみると,構成aは,構成要件Aを充足しないというべきである。

3 構成bが構成要件Bを充足するか否かについて
構成要件B「壁内部に向けて有底の剪断補強材挿入用長穴を形成し,この剪断補強材挿入用長穴の内部に前記剪断補強材挿入用長穴よりも短尺の剪断補強材を挿入して残部空隙を充填材で充填固化する」の規定では,最初に「有底の剪断補強材挿入用長穴を形成」するのであるが,その後,「剪断補強材」および「充填材」のうち,どちらを先に該「長穴」に入れるのか特定されていないといえる。
そして,本件特許明細書の段落【0013】には,「剪断補強材を、剪断補強材挿入用長穴に挿入し、この長穴中に生じた残部空隙を充填固化させる充填材としては、無機系モルタルもしくは流動状硬化性樹脂が挙げられる。これらの充填は、例えば、剪断補強材挿入用長穴に剪断補強材を挿入した後に、この長穴の残部空隙に前記モルタル等を圧入して充填するか、あるいは流動状硬化性樹脂を内包した管状のカプセルを、剪断補強材挿入用長穴の最深部に配置し、棒状の剪断補強材の鋭角先端部で突き破って残部空隙を充填するか、若しくは併用して行われる。」と記載されており,「長穴」への「充填材」は,「剪断補強材」の挿入の前でも,後でもよいとされており,本件発明が両場合を含むことは明らかである。

そこで,構成bと構成要件Bと対比すると,構成bの「有底の躯体の穿孔」,「せん断補強筋」および「接着無機系のもの」が,それぞれ,構成要件Bの「有底の剪断補強材挿入用長穴」,「剪断補強材」および「充填材」に相当することは明らかであるとともに,構成bの「接着無機系カプセルアンカー」が,本件発明の上記実施例の「流動状硬化性樹脂を内包した管状のカプセル」に相当するといえる。
そうすると,構成bの「ダイヤモンドコアマシーンにより,有底の躯体の穿孔を形成し」は,構成要件Bの「壁内部に向けて有底の剪断補強材挿入用長穴を形成し」を充足し,構成bの「この穿孔の長穴の内部に・・・・・専用パイプアンカー筋を入れてその先にあるせん断補強筋をハンマードリル,チッパーにより打ち込み」が構成要件Bの「この剪断補強材挿入用長穴の内部に前記剪断補強材挿入用長穴よりも短尺の剪断補強材を挿入し」を充足し,構成bの「せん断補強筋の先端で接着無機系カプセルアンカーを破り,接着無機系のものがせん断補強筋の周囲で硬化養生する」を充足することとなる。
してみると,構成bは構成要件Bを充足するというべきである。

4 構成cが構成要件Cを充足するか否かについて
前述したように,イ号工法の「沈砂池機械室」および「ポンプ井」は,「地中に埋設された地上部を有さない地下構造物」であるとはいえないから,この点において本件発明の「カルバート構造物」と相違する。
したがって,構成cは,構成要件Cを充足しないというべきである。

5 まとめ
そうすると,イ号工法は,構成要件Bを充足するものの,本件発明1の構成要件AおよびCを充足しないものである。

また,本件発明2が,本件発明1において更に「前記充填材が、被補強構造物の補強面と同色系に着色されている」ことを限定したものであるから,イ号工法は,本件発明1と同様に,本件発明2をも充足しないものである。

第6 被請求人の主張について
1 被請求人は,「本件判定請求は、イ号方法が明確でなく、また、イ号方法が本件発明の技術的範囲に属しない理由を説明していないから不適法であり、却下されるべきである。」と主張している。
しかし,前述したとおり,イ号説明書および甲第7号証の1?6に基づいてイ号工法を特定することが可能であり,本件発明と対比できるのであるから,前記被請求人の主張は採用できない。

2 また,被請求人は,「沈砂池ポンプ棟を全体としてみた場合にカルバート構造物に該当しないとしても、そのことは、イ号方法が本件発明の技術的範囲に属しないことの根拠とはならない。」と主張している。
しかし,前述したように,「沈砂池機械室」および「ポンプ井」は,「地上1階」が一体構築されている「沈砂池ポンプ棟」の一部であって,「沈砂池機械室」および「ポンプ井」を各々が独立した「地中に埋設された地上部を有さない地下構造物」といえないことは明らかであり,前記被請求人の主張は採用できない。
さらに,イ号工法の「沈砂池機械室」および「ポンプ井」は,その構造および機能からみて,本件特許明細書に例示された「鉄道用や車道用の地下トンネル,地下通路あるいは暗渠」の均等物でないことは明らかである。

第7 むすび
以上のとおりであるから,イ号工法は,本件発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論のとおり,判定する。
 
別掲 イ号説明書

 
判定日 2008-05-14 
出願番号 特願2001-308615(P2001-308615)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (E04G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 新井 夕起子  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 岡田 孝博
砂川 充
登録日 2007-03-23 
登録番号 特許第3932094号(P3932094)
発明の名称 カルバート構造物の補強方法  
代理人 酒井 一  
代理人 蔵合 正博  
代理人 石井 あき子  
代理人 石井 あき子  

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