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審決分類 審判 全部無効 発明同一  C08L
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部無効 2項進歩性  C08L
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1178040
審判番号 無効2005-80316  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-11-04 
確定日 2008-04-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3280374号「カレンダリング用ポリエステル樹脂組成物」の特許無効審判事件についてされた平成19年 1月 5日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成19年(行ヶ)第10173号 平成19年 9月27日決定言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
・本件特許第3280374号の発明は、平成11年3月3日に特許出願(優先権主張 1998年3月17日 米国、1999年2月26日 米国)され、平成14年2月22日に特許権の設定登録がなされたものであり、その後、東洋紡績株式会社より本件特許の請求項1?25に係る発明に対し特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年11月17日に特許異議意見書とともに訂正請求書が提出され、平成16年11月4日付けで「訂正を認める。特許第3280374号の請求項1?25に係る特許を維持する。」との特許異議の決定がなされた。 ・平成17年11月4日に、本件無効審判の請求人である東洋紡績株式会社より、本件請求項1?25に係る発明の特許についての無効審判の請求がなされ、平成18年3月7日に被請求人 イーストマン ケミカル カンパニーより答弁書及び訂正請求書が提出され、請求人より、同年4月13日に弁駁書が提出され、当事者双方より、同年6月2日に口頭審理陳述要領書が提出され、同年6月16日に請求人より上申書が提出され、同年6月16日に特許庁審判廷において口頭審理が行なわれ、口頭審理の終了後に書面審理への移行が告げられ、その後同年6月20日付けで被請求人に対して審尋がなされ、同年7月21日に被請求人から回答書が提出され、同年3月7日にされた訂正請求に対して同年8月31日付けで被請求人に訂正拒絶理由が通知されると共に請求人に対してその訂正拒絶理由の内容が同年9月26日付けで職権審理結果通知書として通知され、さらに、訂正拒絶理由通知の指定期間内である同年10月24日に被請求人より意見書が提出されたところ、平成19年1月5日付けで、「特許第3280374号の請求項1ないし25に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決(同年5月22日付で更正決定)がなされた。
・これに対して、被請求人が、平成19年5月15日に当該審決の取消を求める訴えを知的財産高等裁判所に提起(平成19年(行ヶ)第10173号)した後、同年8月13日に本件特許の特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審判を請求したところ、同年9月27日付けで「1 特許庁が無効2005-80316号事件について平成19年1月5日にした審決を取り消す。2 訴訟費用は原告の負担とする。」との決定がなされた。
・そして、この審決取消の決定の確定後、特許法第181条第5項の規定により審理が開始され、平成19年10月19日に被請求人より訂正請求書が提出され、同年10月29日付けでその副本を請求人に送付したところ、請求人からは指定期間内に何らの応答もなされなかったものである。

2.訂正の可否の判断
(1)訂正事項
被請求人が平成19年10月19日付けの訂正請求書により、特許異議の申立てに対して平成15年11月17日付けで提出された全文訂正明細書(甲第3号証、以下「基準特許明細書」という。)について求める訂正事項は、次のとおりである。

訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1に係る記載
「(a)溶融状態からの結晶化半時間が少なくとも5分のポリエステル」を、
「(a)溶融状態からの結晶化半時間が無限のポリエステル」に訂正する 訂正事項b
特許請求の範囲の請求項1に係る記載
「(ii)80?100モル%の、炭素数2?10のジオール及びこれらの混合物」を、
「(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物」に訂正する。
訂正事項c
特許請求の範囲の請求項1に係る記載
「0?20モル%の、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール,1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、プロピレングリコール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールから選択された変性ジオール」を、
「0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール」に訂正する。
訂正事項d
特許請求の範囲の請求項1に係る記載
「(b)カレンダリングロールへのポリエステルの粘着を防止するのに十分な量の添加剤であって、添加剤が内部滑剤、スリップ剤又はこれらの混合物であり、有機酸の金属塩、脂肪酸及びエステル、炭化水素ワックス、化学的に変性したポリオレフィンワックス、エステルワックス、グリセロールモノ-及びジステアレート、タルク並びにアクリルコポリマーから選択される、添加剤、を含んでなり、樹脂組成物に添加される添加剤の量が、樹脂組成物の合計重量%基準で0.01?10重量%の間で選択され、添加剤が、カレンダリングする工程に於いてカレンダリングロールへのポリエステル樹脂組成物の粘着を防止し」を、
「(b)カレンダリングロールへのポリエステルの粘着を防止する添加剤であって、
(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに
(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート
から選択される、添加剤、を含んでなり」に訂正する。
訂正事項e
特許請求の範囲の請求項1に係る記載
「(A)樹脂のポリエステル成分として、無定形ポリエステル、または溶融状態からの結晶化半時間が少なくとも5分の半結晶性ポリエステルを選択する工程」を、
「(A)樹脂のポリエステル成分として、溶融状態からの結晶化半時間が無限の無定形ポリエステルを選択する工程」に訂正する。
訂正事項f
特許請求の範囲の請求項2、3、5、6、7及び10を削除し、請求項4、8、9及び11をそれぞれ、請求項2、3、4及び5に訂正する。
訂正事項g
特許請求の範囲の訂正後の請求項5(訂正前の請求項11)に係る記載
「(A)樹脂のポリエステル成分として、無定形ポリエステル、または溶融状態からの結晶化半時間が少なくとも5分の半結晶性ポリエステルを選択する工程」を、
「(A)樹脂のポリエステル成分として、溶融状態からの結晶化半時間が無限の無定形ポリエステルを選択する工程」に訂正する。
訂正事項h
特許請求の範囲の訂正後の請求項5(訂正前の請求項11)に係る記載
「(ii)80?100モル%の、炭素数2?10のジオール及びこれらの混合物」を、
「(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物」に訂正する。
訂正事項i
特許請求の範囲の訂正後の請求項5(訂正前の請求項11)に係る記載
「0?20モル%の、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、プロピレングリコール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールから選択された変性ジオール」を、
「0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール、」に訂正する。
訂正事項j
特許請求の範囲の訂正後の請求項5(訂正前の請求項11)に係る記載
「該樹脂組成物が、内部滑剤、スリップ剤又はこれらの混合物である添加剤を含み、添加剤が、有機酸の金属塩、脂肪酸及びエステル、炭化水素ワックス、化学的に変性したポリオレフィンワックス、エステルワックス、グリセロールモノ-及びジステアレート、タルク並びにアクリルコポリマーから選択され、樹脂組成物に添加される添加剤の量が、樹脂組成物の合計重量%基準で0.01?10重量%の間で選択され」を、
「該樹脂組成物が、添加剤を含み、該添加剤が、
(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに
(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート
から選択され」に訂正する。
訂正事項k
特許請求の範囲の請求項12を削除し、請求項13を請求項6に訂正する。
訂正事項l
特許請求の範囲の訂正後の請求項6(訂正前の請求項13)に係る記載
「(A)樹脂のポリエステル成分として、無定形ポリエステル、または溶融状態からの結晶化半時間が少なくとも5分の半結晶性ポリエステルを選択する工程」を、
「(A)樹脂のポリエステル成分として、溶融状態からの結晶化半時間が無限の無定形ポリエステルを選択する工程」に訂正する。
訂正事項m
特許請求の範囲の請求項6(訂正前の請求項13)に係る記載
「(ii)80?100モル%の、炭素数2?10のジオール及びこれらの混合物」を、
「(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物」に訂正する。
訂正事項n
特許請求の範囲の訂正後の請求項6(訂正前の請求項13)に係る記載
「0?20モル%の、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、プロピレングリコール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールから選択された変性ジオール」を、
「0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール」に訂正する。
訂正事項o
特許請求の範囲の訂正後の請求項6(訂正前の請求項13)に係る記載
「該樹脂組成物が、内部滑剤、スリップ剤又はこれらの混合物である添加剤を含み、添加剤が、有機酸の金属塩、脂肪酸及びエステル、炭化水素ワックス、化学的に変性したポリオレフィンワックス、エステルワックス、グリセロールモノ-及びジステアレート、タルク並びにアクリルコポリマーから選択され、樹脂組成物に添加される添加剤の量が、樹脂組成物の合計重量%基準で0.01?10重量%の間で選択され」を、
「該樹脂組成物が、添加剤を含み、該添加剤が、
(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに
(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート
から選択され」に訂正する。
訂正事項p
特許請求の範囲の請求項14?16及び18を削除し、請求項17及び19をそれぞれ請求項7及び8に訂正する。
訂正事項q
特許請求の範囲の訂正後の請求項7(訂正前の請求項17)に係る記載
「請求項13に記載の」を、「請求項6に記載の」に訂正する。
訂正事項r
特許請求の範囲の訂正後の請求項8(訂正前の請求項19)に係る記載
「(A)樹脂のポリエステル成分として、無定形ポリエステル、または溶融状態からの結晶化半時間が少なくとも5分の半結晶性ポリエステルを選択する工程」を、
「(A)樹脂のポリエステル成分として、溶融状態からの結晶化半時間が無限の無定形ポリエステルを選択する工程」に訂正する。
訂正事項s
特許請求の範囲の訂正後の請求項8(訂正前の請求項19)に係る記載
「(ii)80?100モル%の、炭素数2?10のジオール及びこれらの混合物」を、
「(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物」に訂正する。
訂正事項t
特許請求の範囲の訂正後の請求項8(訂正前の請求項19)に係る記載
「0?20モル%の、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、プロピレングリコール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールから選択された変性ジオール」を、
「0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール」に訂正する。
訂正事項u
特許請求の範囲の訂正後の請求項8(訂正前の請求項19)に係る記載
「(b)脂肪酸エステルを含み、樹脂組成物に添加される脂肪酸エステルの量が、樹脂組成物の合計重量%基準で0.01?10重量%の間で選択され、脂肪酸エステルが、カレンダリングする工程に於いてカレンダリングロールへのポリエステル樹脂組成物の粘着を防止する」を、
「(b)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレートを含み、該アクリル加工添加剤およびグリセロールモノステアレートが、カレンダリングする工程に於いてカレンダリングロールへのポリエステル樹脂組成物の粘着を防止する」に訂正する。
訂正事項v
特許請求の範囲の請求項20及び22を削除し、請求項21、23、24及び25をそれぞれ請求項9、10、11及び12に訂正する。
訂正事項w
特許請求の範囲の訂正後の請求項9(訂正前の請求項21)に係る記載
「請求項20に記載の」を、「請求項8に記載の」に訂正する。
訂正事項x
特許請求の範囲の訂正後の請求項10(訂正前の請求項19(当審註:訂正請求書に記載された「請求項19」は、訂正事項vからみて「請求項23」の誤記と認める。))に係る記載
「請求項19?22のいずれか1項に記載の」を、「請求項8?9のいずれか1項に記載の」に訂正する。
訂正事項y
特許請求の範囲の訂正後の請求項11(訂正前の請求項24)に係る記載
「(a)少なくとも5分の溶融状態からの結晶化半時間を有するポリエステル」を、
「(a)無限の溶融状態からの結晶化半時間を有するポリエステル」に訂正する。
訂正事項z
特許請求の範囲の訂正後の請求項11(訂正前の請求項24)に係る記載
「(ii)80?100モル%の、炭素数2?10のジオール及びこれらの混合物」を、
「(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物」に訂正する。
訂正事項aa
特許請求の範囲の訂正後の請求項11(訂正前の請求項24)に係る記載
「0?20モル%の、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、プロピレングリコール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールから選択された変性ジオール」を、
「0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール、」に訂正する。
訂正事項ab
特許請求の範囲の訂正後の請求項11(訂正前の請求項24)に係る記載
「(b)カレンダリングロールへのポリエステルの粘着を防止するのに十分な量の添加剤であって、添加剤が内部滑剤、スリップ剤又はこれらの混合物であり、有機酸の金属塩、脂肪酸及びエステル、炭化水素ワックス、化学的に変性したポリオレフィンワックス、エステルワックス、グリセロールモノ-及びジステアレート、タルク並びにアクリルコポリマーから選択される、添加剤、を含み、樹脂組成物に添加される添加剤の量が、樹脂組成物の合計重量%基準で0.01?10重量%の間で選択され」を、
「(b)添加剤であって、
(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに
(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート
から選択される、添加剤、を含み」に訂正する。
訂正事項ac
特許請求の範囲の訂正後の請求項12(訂正前の請求項25)に係る記載
「請求項24に記載の」を、「請求項11に記載の」に訂正する。

(2)訂正要件の判断
(2-1)訂正事項a、e、g、l、r及びyは、訂正前の請求項3の「ポリエステルが無限の結晶化半時間を有する無定形である」との記載に基いて、請求項1、請求項5(訂正前の請求項11)、請求項6(訂正前の請求項13)、請求項8(訂正前の請求項19)及び請求項11(訂正前の請求項24)に記載された、「溶融状態からの結晶化半時間が少なくとも5分のポリエステル」を、「溶融状態からの結晶化半時間が無限のポリエステル」に訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2-2)訂正事項b、h、m、s及びzは、訂正前の請求項5の「ジオール残基成分がエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物から選択される」との記載に基いて、請求項1、請求項5(訂正前の請求項11)、請求項6(訂正前の請求項13)、請求項8(訂正前の請求項19)及び請求項11(訂正前の請求項24)に記載された、「80?100モル%の、炭素数2?10のジオール及びこれらの混合物」を、「80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物」に訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2-3)訂正事項c、i、n、t及びaaは、請求項1、請求項5(訂正前の請求項11)、請求項6(訂正前の請求項13)、請求項8(訂正前の請求項19)及び請求項11(訂正前の請求項24)に記載された、「0?20モル%の、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール,1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、プロピレングリコール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールから選択された変性ジオール」を、選択肢を減少させた「0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール」に訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2-4)訂正事項d、j、o及びabは、請求項1、請求項5(訂正前の請求項11)、請求項6(訂正前の請求項13)及び請求項11(訂正前の請求項24)の「カレンダリングロールへのポリエステルの粘着を防止するのに十分な量の添加剤であって、添加剤が内部滑剤、スリップ剤又はこれらの混合物であり、有機酸の金属塩、脂肪酸及びエステル、炭化水素ワックス、化学的に変性したポリオレフィンワックス、エステルワックス、グリセロールモノ-及びジステアレート、タルク並びにアクリルコポリマーから選択される、添加剤、を含んでなり、樹脂組成物に添加される添加剤の量が、樹脂組成物の合計重量%基準で0.01?10重量%の間で選択され」との添加剤についての記載を、「(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート から選択される」と訂正するものである。
訂正前の明細書の発明の詳細な説明には、添加剤について以下のような記載が認められる。
「本発明で使用するのに適切な添加剤は、カレンダリング技術分野で公知であり、これには内部滑剤、スリップ剤又はこれらの混合物が含まれる。このような添加剤の例には、・・・ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛のような有機酸の金属塩・・・グリセロールモノ-及びジステアレート;タルク並びにアクリルコポリマー(例えば、ローム・アンド・ハース社(Rohm & Haas) から入手できるパラロイド(PARALOID)K175)を含む」(段落【0019】)、

(段落【0031】【表1】)、
「3)パラロイドK175は、ローム・アンド・ハース社から入手できるアクリル加工添加剤である。-中略- 5)マイベロール(MYVEROL) 1806は、テネシー州キングスポート(Kingsport, TN) のイーストマン・ケミカル社(Eastman Chemical Company)から入手できるグリセロールモノステアレートであり、内部滑剤として使用する。」(段落【0032】)及び

(段落【0034】【表2】)
このように表2には、カレンダリング性が「可」となるのは例2、5及び6のみであることが示されており、これらの例においては、添加剤(内部滑剤、スリップ剤)としては、「パラロイドK175」2.5%と「マイベロール1806」1.0%(例2、5)又はステアリン酸亜鉛0.5%(例6)が用いられており、「パラロイドK175」及び「マイベロール1806」はそれぞれアクリル加工添加剤及びグリセロールモノステアレートであるから、訂正前の明細書には、添加剤として「0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート から選択される」ものを用いることが記載されていたものということができる。
そうすると、訂正事項d、j、o及びabは、このような訂正前の記載に基いて請求項1、請求項5(訂正前の請求項11)、請求項6(訂正前の請求項13)及び請求項11(訂正前の請求項24)の添加剤及びその配合量を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2-5)訂正事項f、k、p、q、v、w、x及びacは、請求項の削除、それに伴う請求項の項番の繰り上げ、又は、引用する請求項の項番の整理、のいずれかに係るものであるから、特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(2-6)訂正事項uは、上記(2-4)で指摘した訂正前の明細書の記載に基いて、請求項8における「脂肪酸エステルを含み」との記載を「2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレートを含み」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項a?acはいずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)まとめ
したがって、平成19年10月19日付けの訂正請求書による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項の規定により準用する同法第126条第3、4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件特許発明に対する判断
(1)本件発明
本件請求項1?12に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明12」という。)は、基準特許明細書について上記のとおり訂正された明細書(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?12に記載された以下の事項により特定されるとおりのものと認める。
「【請求項1】ポリエステル樹脂組成物からフィルムまたはシートを製造する方法において使用するための、カレンダリング用ポリエステル樹脂組成物であって、
(a)溶融状態からの結晶化半時間が無限のポリエステルであって、樹脂のポリエステル成分が、(i)少なくとも80モル%の、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらの混合物から選択された二酸残基成分並びに(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物、並びに0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール、から選択されたジオール残基成分、からなるポリエステルから選択され、二酸残基成分が100モル%基準であり、ジオール残基成分が100モル%基準である、ポリエステル、並びに
(b)カレンダリングロールへのポリエステルの粘着を防止する添加剤であって、
(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに
(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート
から選択される、添加剤、を含んでなり、
該方法は、以下の工程:
(A)樹脂のポリエステル成分として、溶融状態からの結晶化半時間が無限の無定形ポリエステルを選択する工程、及び
(B)ペレット、粉末又は溶融形態でポリエステル樹脂組成物を導入して、140℃?190℃の温度で、少なくとも2個の隣接する加熱カレンダリングロールの間の圧縮ニップに通すことによりポリエステル樹脂組成物をカレンダリングして、シートまたはフィルムを形成する工程、
を含む、カレンダリング用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】二酸残基成分が、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらの混合物、並びに0?20モル%の炭素数4?40の変性二酸から選択される、請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】(c)酸化安定剤を更に含んでなる請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】(d)溶融強度増強剤を含んでなる請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】ポリエステル樹脂組成物から、フィルム又はシートを製造する方法であって、以下の工程:
(A)樹脂のポリエステル成分として、溶融状態からの結晶化半時間が無限の無定形ポリエステルを選択する工程、及び
(B)ペレット、粉末又は溶融形態でポリエステル樹脂組成物を導入して、140℃?190℃の温度で、少なくとも2個の隣接する加熱カレンダリングロールの間の圧縮ニップに通すことによりポリエステル樹脂組成物をカレンダリングして、シートまたはフィルムを形成する工程、を含み、
樹脂のポリエステル成分が、(i)少なくとも80モル%の、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらの混合物から選択された二酸残基成分、並びに(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物、並びに0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール、から選択されたジオール残基成分、からなるポリエステルから選択され、二酸残基成分が100モル%基準であり、ジオール残基成分が100モル%基準であり、
該樹脂組成物が、添加剤を含み、該添加剤が、
(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに
(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート
から選択され、添加剤が、カレンダリングする工程に於いてカレンダリングロールへのポリエステル樹脂組成物の粘着を防止する、方法。
【請求項6】 以下の工程:
(A)樹脂のポリエステル成分として、溶融状態からの結晶化半時間が無限の無定形ポリエステルを選択する工程、及び
(B)ペレット、粉末又は溶融形態でポリエステル樹脂組成物を導入して、140℃?190℃の温度で、少なくとも2個の隣接する加熱カレンダリングロールの間の圧縮ニップに通すことによりポリエステル樹脂組成物をカレンダリングして、シートまたはフィルムを形成する工程、を含む方法によってポリエステル樹脂組成物から製造されたカレンダーフィルム又はシートであって、
樹脂のポリエステル成分が、(i)少なくとも80モル%の、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらの混合物から選択された二酸残基成分、並びに(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物、並びに0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール、から選択されたジオール残基成分、からなるポリエステルから選択され、二酸残基成分が100モル%基準であり、ジオール残基成分が100モル%基準であり、
該樹脂組成物が、添加剤を含み、該添加剤が、
(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに
(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート
から選択され、添加剤が、カレンダリングする工程に於いてカレンダリングロールへのポリエステル樹脂組成物の粘着を防止する、カレンダーフイルム又はシート。
【請求項7】二酸残基成分が、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらの混合物、並びに0?20モル%の炭素数4?40の変性二酸から選択される請求項6に記載のフィルム又はシート。
【請求項8】以下の工程:
(A)樹脂のポリエステル成分として、溶融状態からの結晶化半時間が無限の無定形ポリエステルを選択する工程、及び
(B)ペレット、粉末又は溶融形態でポリエステル樹脂組成物を導入して、140℃?190℃の温度で、少なくとも2個の隣接する加熱カレンダリングロールの間の圧縮ニップに通すことによりポリエステル樹脂組成物をカレンダリングして、シートまたはフィルムを形成する工程、を含んでなる方法によってポリエステル樹脂組成物から製造されるカレンダーシートであって、
樹脂のポリエステル成分が、(i)少なくとも80モル%のテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらの混合物から選択された二酸残基成分、並びに(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物、並びに0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール、から選択されたジオール残基成分、からなるポリエステルから選択され、二酸残基成分が100モル%基準であり、ジオール残基成分が100モル%基準であり、
そしてここで、該樹脂組成物は(a)(i)テレフタル酸残基成分及び(ii)エチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールからなるジオール残基成分を含むポリエステル及び(b)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレートを含み、該アクリル加工添加剤およびグリセロールモノステアレートが、カレンダリングする工程に於いてカレンダリングロールへのポリエステル樹脂組成物の粘着を防止する、カレンダーシート。
【請求項9】前記ポリエステル樹脂組成物がグリセロールモノステアレートを含み、ポリエステルが無限の結晶化半時間を有する無定形である請求項8に記載のカレンダーシート。
【請求項10】請求項8?9のいずれか1項に記載のカレンダーシートから形成されるトランサクションカード又はセキュリティカード。
【請求項11】カレンダーポリエステル樹脂組成物を含んでなる物品であって、該ポリエステル樹脂組成物が(a)無限の溶融状態からの結晶化半時間を有するポリエステルであって、樹脂ポリエステル成分が、(i)少なくとも80モル%の、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらの混合物から選択された二酸残基成分並びに(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物、並びに0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール、から選択されたジオール残基成分、からなるポリエステルから選択され、二酸残基成分が100モル%基準であり、ジオール残基成分が100モル%基準である、ポリエステル、及び(b)添加剤であって、
(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに
(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート
から選択される、添加剤、を含み、添加剤が、カレンダリングする工程に於いてカレンダリングロールへのポリエステル樹脂組成物の粘着を防止する、物品。
【請求項12】前記物品がシート又はフィルムである請求項11に記載の物品。」

(2)当事者の主張
(2-1)請求人の主張
請求人は、以下(ア)?(エ)の理由(以下、「無効理由(ア)」?「無効理由(エ)」という。)により、基準特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?25に係る特許を無効とすべき旨、主張している。

(ア)<特許法第29条の2違反>
本件特許出願は、米国でされた2件の出願に基く優先権を主張するものであるが、これらの優先権基礎出願の内、米国仮出願US60/078,290(平成10年3月17日出願:甲第4号証)(以下、「第1の優先権」という。)に基く優先権の利益を享受できず、米国出願US09/258,365(平成11年2月26日出願:甲第5号証)(以下、「第2の優先権」という。)に基く優先権の利益を享受できるに止まるので、本件特許出願の優先日は、平成11年2月26日である。
そして、本件の請求項1?25に係る発明は、本件特許出願の前の出願であって、その出願後に出願公開されたPCT/JP99/00511号(国際公開第99/40154号パンフレット(甲第6号証)参照)、特願平11-85411号(特開平11-343353号公報(甲第7号証の1)参照)、特願平10-310206号(特開2000-136294号公報(甲第8号証)参照),特願平10-363908号(特開2000-186191号公報(甲第9号証)参照)の出願(以下、「甲6先願」等という。)の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、この出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもない。
(イ)<特許法第36条第4項違反>
本件の請求項1?20、23?25に係る発明に関して、本件基準特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(ウ)<特許法第36条第6項第1号違反>
本件請求項1?20、23?25に係る発明は、本件基準特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(エ)<特許法第29条第2項違反>
本件請求項1?25に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第15号証(特開平9-66590号公報)及び甲第16号証(特開平4-276411号公報)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-2)被請求人の主張
請求人が主張する無効理由(ア)?(エ)に対して、被請求人は次のように反論している。
(ア)について
本件特許出願は、「第1の優先権」及び「第2の優先権」のいずれの利益も享受できるものであり、本件特許出願の優先日は、平成10年3月17日及び平成11年2月6日である。
甲6先願の国際公開パンフレット(甲第6号証)に記載された例18?例75(22頁22行?39頁末行)は、最先の優先権基礎出願(特願平10-25690号)の明細書には記載されていないので本件発明の先行技術とはならず、また、甲第6号証には、ポリエステル樹脂のカレンダロールへの粘着を防止するために内部滑剤を用いることが記載されていない。
また、甲7の1先願、甲8先願及び甲9先願は、いずれも本件特許出願の第1の優先権の優先日以降の出願である。
したがって、これらの出願に基いて、本件が特許法第29条の2の規定に違反するとすることはできない。
(イ)について
本件請求項1?20、23?25に係る発明に関して、本件基準特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
(ウ)について
本件請求項1?20、23?25に係る発明は、本件基準特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。
(エ)について
本件請求項1?25に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第15号証及び甲第16号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)合議体の判断
(4-1)本件出願の優先日について
請求人は、本件基準特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の「樹脂組成物に添加される添加剤の量が、樹脂組成物の合計重量%基準で0.01?10重量%の間で選択され」との記載における「0.01?10重量%」という数値範囲について、第1の優先権基礎出願の明細書には記載されておらず、第2の優先権基礎出願の明細書で初めて加わったものであり、これは請求項11、13、19及び24における「0.01?10重量%」についても同様であるから、請求項1、11、13、19及び24とこれらを引用する請求項2?10、12、14?18、20?23及び25は第1の優先権を享受できず、第2の優先権を享受できるにとどまる、と主張している。
しかしながら、上記のとおり、平成19年10月19日付けの訂正により、請求項1の添加剤に関する記載が「(b)カレンダリングロールへのポリエステルの粘着を防止する添加剤であって、(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート から選択される、添加剤」と訂正され、請求項11、13、19及び24(訂正後の請求項5、6、8及び11)についても同様の訂正が行われた。
そして、第1の優先権基礎出願の明細書(甲第4号証)には、実施例の結果を表す「Table 1」及び「Table 2」に、ポリエステルに添加剤として「Paraloid K175」2.5%と「Myverol 1806」1.0%を用いた例2及び5、並びに、「Zn Stearate」0.5%を用いた例6が良好なカレンダリング性を示すことが記載されており、「Paraloid K175」及び「Myverol 1806」がそれぞれ、アクリル加工添加剤及びグリセロールモノステアレートであることは、第2の優先権基礎出願の明細書(甲第5号証)における同様の実施例の表に付された脚注(第11頁)の記載から明らかであるから、訂正後の明細書の請求項1等に記載された「(b)カレンダリングロールへのポリエステルの粘着を防止する添加剤であって、(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート から選択される、添加剤」は、第1の優先権基礎出願の明細書に記載されていたものと認められる。
そして、訂正後の請求項1?12における他の記載事項も全て第1の優先権基礎出願の明細書に記載されていたものと認められるから、もはや本件特許出願が第1の優先権を享受できない、とすることはできず、本件特許出願の優先日は平成10年3月17日及び平成11年2月26日であると認められる。

(4-2)無効理由(ア)について:
(4-2-1)甲6先願の明細書に記載された発明との対比
甲6先願の国際公開パンフレットである甲第6号証には、その特許請求の範囲の請求項1に、「(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂50?99重量%、および共役ジエン系ゴム粒子に(メタ)アクリル酸エステルおよびビニル芳香族をグラフト重合して得られる(B)グラフト共重合体1?50重量%からなる樹脂組成物。」が記載されており、発明の詳細な説明には、該樹脂組成物に加工性の向上を目的として滑剤を配合することが好ましく、滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪族アルコール系、脂肪族アマイド系、脂肪族エステル系、脂肪族金属石鹸系族等を用い得ること(甲第6号証14頁15行?28行)、該樹脂組成物をカレンダー製造機を用いてシートに成形すること(同号証15頁2?3行、16頁25?26行)及び「完全非晶性ポリエステル系樹脂」としてイーストマン・ケミル社製の「KODAR PETG 6763(PET-G)」を用いること(17頁11?13行)が記載されている。
これらのことから、甲第6号証には、カレンダー製造機を用いたシートの成形に用いる樹脂組成物であって、「KODAR PETG 6763(PET-G)」等の完全非晶性ポリエステル系樹脂及び滑材を含むポリエステル樹脂組成物、の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているものということができる。
この「KODAR PETG 6763(PET-G)」は、本件の審査段階において平成13年11月29日に出願人(本件被請求人)が提出した意見書(甲第10号証)中で、「ご指摘の本願実施例において使用しているポリエステルはいずれも本願出願時点において市販されていた以下の商品であります。ポリエステルA・・・EASTAR^(TM) PETG Copolyester 6763(Eastman Chemical Company)」と記載された製品と同一であると認められ、本件明細書の実施例で用いられている「ポリエステルA」が、その請求項1に記載された「溶融状態からの結晶化半時間が無限のポリエステル」にあたるものであることは明らかであり、その組成は、本件明細書の段落【0032】の記載からみて「100モル%のテレフタル酸の酸成分並びに31モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール及び69モル%のエチレングリコール成分を含む」ものであると解される。
そうすると、本件発明1と甲6発明とは、ともに、「ポリエステル樹脂組成物からフィルムまたはシートを製造する方法において使用するための、カレンダリング用ポリエステル樹脂組成物であって、(a)溶融状態からの結晶化半時間が無限のポリエステルであって、樹脂のポリエステル成分が、(i)少なくとも80モル%のテレフタル酸残基成分並びに(ii)100モル%の、エチレングリコールと1,4-シクロヘキサンジメタノールの混合物からなるジオール残基成分からなるポリエステルから選択され、二酸残基成分が100モル%基準であり、ジオール残基成分が100モル%基準である、ポリエステル、並びに 添加剤、を含んでなり、該方法は、樹脂のポリエステル成分として、溶融状態からの結晶化半時間が無限の無定形ポリエステルを選択する工程を含む、カレンダリング用ポリエステル樹脂組成物」である点で一致しているが、甲6発明は、本件発明1の発明特定事項である以下の点を備えていない点で、本件発明1との間に相違が認められる。
(あ)添加剤が「(b)カレンダリングロールへのポリエステルの粘着を防止する添加剤であって、(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに (b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート から選択される」点、及び、
(い)フィルムまたはシートを製造する方法が「(B)ペレット、粉末又は溶融形態でポリエステル樹脂組成物を導入して、140℃?190℃の温度で、少なくとも2個の隣接する加熱カレンダリングロールの間の圧縮ニップに通すことによりポリエステル樹脂組成物をカレンダリングして、シートまたはフィルムを形成する工程、を含む」点

これらの相違点について検討すると、本件明細書の実施例の記載からみて、本件発明1は、溶融状態からの結晶化半時間が無限のポリエステルに、(あ)に規定された特定量の特定添加剤を配合することにより、はじめて「カレンダリング性可」というカレンダロールへの粘着防止効果を生ずるものと認められるので、(あ)の点は十分な技術的意味を有する発明特定事項であり、本件の出願時において自明なことでもないから、(い)の点について検討するまでもなく、本件発明1が甲第6号証に記載された発明と同一であるとすることはできない。
そして、甲第6号証は甲6先願の国際公開パンフレットであるから、本件発明1が甲第6号証に記載された発明と同一でない以上、本件発明1が甲6先願の願書に最初に添付した明細書に記載した発明と同一でないことは明らかであり、同様に、本件発明1を引用する本件発明2?4も、甲6先願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。
また、本件発明5、6及び11はいずれも本件発明1の(あ)と同様の発明特定事項を有するものであり、更に、本件発明8は(あ)の内の「2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート」を用いることを発明特定事項とするものであるから、上記と同様の理由により、いずれも甲第6号証に記載された発明と同一であるとすることはできず、本件発明5、6、8及び11とこれらを引用する本件発明7、9?10及び12は、甲6先願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。

(4-2-2)甲7の1先願、甲8先願及び甲9先願について
甲7の1先願、甲8先願及び甲9先願は、いずれもその出願日又は優先権主張日が本件の第1の優先権主張日より後であり、上記のとおり、本件発明1?12は第1の優先権基礎出願の明細書に記載されたものであるから、これらの各先願が、本件発明に対して、特許法第29条の2に規定された「当該特許出願の日前の他の特許出願」にあたるものとすることはできない。

(4-2-3)小括り
したがって、本件発明1?12が特許法第29条の2の規定に違反するとすることはできない。

(4-2)無効理由(イ)について:
請求人は、基準特許明細書の特許請求の範囲の請求項1には、添加剤について「カレンダリングロールへのポリエステルの粘着を防止するのに十分な量の添加剤であって、添加剤が内部滑剤、スリップ剤又はこれらの混合物であり、有機酸の金属塩、脂肪酸及びエステル、炭化水素ワックス、化学的に変性したポリオレフィンワックス、エステルワックス、グリセロールモノ-及びジステアレート、タルク並びにアクリルコポリマーから選択される、添加剤」と記載されており、その量については「樹脂組成物の合計重量%基準で0.01?10重量%の間で選択され」と記載されており、請求項11、13、19及び24にも同様の記載があるが、実施例には、カレンダリング性が「可」であるものとしては、わずかにパラロイドK157(アクリル加工添加剤)、マイベロール1805(グリセロールモノステアレート)及びステアリン酸亜鉛を用いる例2、5、6及び8が記載されているのみであり、しかも、同じくパラロイドK157を2.5%用いてもマイベロール1805を1.0%を併用する例5はカレンダリング性が「可」であるのに対して併用しない例4は「不可」である等の点で特許請求の範囲と対応しておらず、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基いて請求項1等に係る発明を実施することができない旨主張している。

しかしながら、上記のとおり平成19年10月19日付けの訂正請求書による訂正により、請求項1の添加剤に関する記載が「(b)カレンダリングロールへのポリエステルの粘着を防止する添加剤であって、(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに (b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート から選択される、添加剤」と訂正され、請求項11、13、19及び24(訂正後の請求項5、6、8及び11)についても同様の訂正がなされたので、添加剤及びその使用量は実施例の記載に対応するものとなった。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が特許請求の範囲に記載された発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものということはできず、本件が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないものとすることはできない。

(4-3)無効理由(ウ)について:
請求人は、基準特許明細書について、特許請求の範囲の請求項1、11、13、19及び24に記載された添加剤に関して、明細書に具体的に実施可能に記載されているのはグリセロールステアレート、アクリル加工添加剤及びステアリン酸亜鉛の3種のみであってそれ以外のものについては作用効果が裏付けられていないから、特許請求の範囲の請求項1、11、13、19及び24及びこれらを引用する請求項を含めた請求項1?20、23?25に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張している。

しかしながら、上記のとおり平成19年10月19日付けの訂正請求書による訂正により、請求項1の添加剤に関する記載が「(b)カレンダリングロールへのポリエステルの粘着を防止する添加剤であって、(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに (b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート から選択される、添加剤」と訂正され、請求項11、13、19及び24(訂正後の請求項5、6、8及び11)についても同様の訂正がなされたので、添加剤は実施例に具体的に記載されたものとなった。
したがって、本件明細書の特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載したものではないということはできず、本件が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものとすることはできない。

(4-4)無効理由(エ)について:
請求人は、本件発明1?25が、甲第15号証及び甲第16号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。
そこで検討すると、甲第15号証には、ポリエチレンテレフタレート樹脂のエチレングリコール成分の10?70%をシクロヘキサンジメタノールに置換してなる共重合ポリエステル樹脂組成物からなるICカード用シート(特許請求の範囲の請求項1)の発明が記載されており、「この共重合樹脂をシート状に加工するには、カレンダリング法、押し出し法、プレス法などがあるが、ここでは特に限定するものではない。」(段落【0008】)と記載され、さらに実施例1では、「ポリエチレンテレフタレート樹脂のエチレングリコール成分の30%をシクロへキサンジメタノールに置換した共重合ポリエステル樹脂をカレンダーによりシート状に圧延製膜し厚さ0.1mmのオーバーシートを得た。」と記載されている。このように、カレンダリングに供することが可能なポリエステル樹脂は「カレンダリング用ポリエステル樹脂」と称し得るものである。
これらのことから、甲第15号証には、カレンダリング法を用いたシートの成形に用いる樹脂組成物であって、ポリエチレンテレフタレート樹脂のエチレングリコール成分の30%をシクロへキサンジメタノールに置換したカレンダリング用ポリエステル樹脂組成物、の発明(以下、「甲15発明」という。)が記載されているものということができる。
そして、本件特許に対する異議申立事件において特許異議申立人が提出した平成16年7月7日付けの回答書に添付した実験報告書(甲第12号証)の実験報告書からみて、甲第15号証の実施例1におけるエチレングリコール成分の30%をシクロへキサンジメタノールに置換したポリエステルは、無限の結晶化半時間を有するものと認められる。また、1,4-シクロへキサンジメタノールはシクロへキサンジメタノールの典型例であり、甲15発明においても当然用いられるものというべきである。
そうすると本件発明1と甲15発明とは、ともに、「ポリエステル樹脂からフィルムまたはシートを製造する方法において使用するための、カレンダリング用ポリエステル樹脂であって、(a)溶融状態からの結晶化半時間が無限のポリエステルであって、樹脂のポリエステル成分が、(i)少なくとも80モル%の、テレフタル酸残基成分並びに(ii)100モル%の、エチレングリコールと1,4-シクロヘキサンジメタノールの混合物からなるジオール残基成分、からなるポリエステルから選択され、二酸残基成分が100モル%基準であり、ジオール残基成分が100モル%基準である、ポリエステルを含んでなり、該方法は、以下の工程:(A)樹脂のポリエステル成分として、溶融状態からの結晶化半時間が無限の無定形ポリエステルを選択する工程を含む、カレンダリング用ポリエステル樹脂」である点で一致しているが、甲第15号証には、本件発明1の発明特定事項である以下の点を備えていない点で、本件発明1との間に相違が認められる。

(う)ポリエステルが「(b)カレンダリングロールへのポリエステルの粘着を防止する添加剤であって、(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに (b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート から選択される、添加剤」を含む点、及び、
(え)フィルムまたはシートを製造する方法が「(B)ペレット、粉末又は溶融形態でポリエステル樹脂組成物を導入して、140℃?190℃の温度で、少なくとも2個の隣接する加熱カレンダリングロールの間の圧縮ニップに通すことによりポリエステル樹脂組成物をカレンダリングして、シートまたはフィルムを形成する工程、を含む」点

そこで、これらの相違点の内、まず(う)の点について検討する。
請求人が提出した甲第19号証(「プラスチックエージ 11」、1974年、第138?141頁)には、本件特許出願前にプラスチック(PVC)のカレンダー加工に用いられた公知の滑剤添加剤が記載されており、また、甲第20号証(「プラスチックおよびゴム用添加剤実用便覧」、昭和45年8月10日、第945?951頁)には、プラスチックの成形加工における滑剤添加剤の役割が説明され、カレンダー(カレンダリング)加工において「ポリマーストックのロール面への粘着防止」等の効果について記載(第947頁の表11.1)されている。
しかしながら、本件明細書の実施例の記載からみて、本件発明1は、溶融状態からの結晶化半時間が無限のポリエステルに、(う)に規定された特定量の特定添加剤を配合することにより、はじめて「カレンダリング性可」というカレンダロールへの粘着防止効果を生ずるものと認められるので、甲第19、20号証に記載された周知技術の存否にかかわらず、(う)の点を当業者が容易になし得たものとすることはできない。
ゆえに、本件発明1の(え)の点について、仮に非晶質の熱可塑性樹脂のカレンダー加工に係る甲第16号証の記載を参酌することにより当業者が容易に想到し得たものとしても、(う)の点により、本件発明1が甲第15、16号証に記載された発明、及び、甲第19、20号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
また、本件発明1を引用する本件発明2?4も、同様の理由により、甲第15、16号証に記載された発明、及び、甲第19、20号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
更に、本件発明5、6及び11はいずれも本件発明1の(う)と同様の発明特定事項を有するものであり、更に、本件発明8は(う)の内の「2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート」を用いることを発明特定事項とするものであるから、上記と同様の理由により、いずれも甲第15、16号証に記載された発明、及び、甲第19、20号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。また、これらを引用する本件発明7、9?10及び12も同様の理由により、甲第15、16号証に記載された発明、及び、甲第19、20号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

したがって、本件発明1?12が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1?12の特許を無効とすることはできない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
カレンダリング用ポリエステル樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリエステル樹脂組成物からフィルムまたはシートを製造する方法において使用するための、カレンダリング用ポリエステル樹脂組成物であって、
(a)溶融状態からの結晶化半時間が無限のポリエステルであって、樹脂のポリエステル成分が、(i)少なくとも80モル%の、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらの混合物から選択された二酸残基成分並びに(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物、並びに0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール、から選択されたジオール残基成分、からなるポリエステルから選択され、二酸残基成分が100モル%基準であり、ジオール残基成分が100モル%基準である、ポリエステル、並びに
(b)カレンダリングロールへのポリエステルの粘着を防止する添加剤であって、
(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに
(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート
から選択される、添加剤、を含んでなり、
該方法は、以下の工程:
(A)樹脂のポリエステル成分として、溶融状態からの結晶化半時間が無限の無定形ポリエステルを選択する工程、及び
(B)ペレット、粉末又は溶融形態でポリエステル樹脂組成物を導入して、140℃?190℃の温度で、少なくとも2個の隣接する加熱カレンダリングロールの間の圧縮ニップに通すことによりポリエステル樹脂組成物をカレンダリングして、シートまたはフィルムを形成する工程、
を含む、カレンダリング用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】二酸残基成分が、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらの混合物、並びに0?20モル%の炭素数4?40の変性二酸から選択される、請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】(c)酸化安定剤を更に含んでなる請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】(d)溶融強度増強剤を含んでなる請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】ポリエステル樹脂組成物から、フィルム又はシートを製造する方法であって、以下の工程:
(A)樹脂のポリエステル成分として、溶融状態からの結晶化半時間が無限の無定形ポリエステルを選択する工程、及び
(B)ペレット、粉末又は溶融形態でポリエステル樹脂組成物を導入して、140℃?190℃の温度で、少なくとも2個の隣接する加熱カレンダリングロールの間の圧縮ニップに通すことによりポリエステル樹脂組成物をカレンダリングして、シートまたはフィルムを形成する工程、
を含み、
樹脂のポリエステル成分が、(i)少なくとも80モル%の、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらの混合物から選択された二酸残基成分、並びに(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物、並びに0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール、から選択されたジオール残基成分、からなるポリエステルから選択され、二酸残基成分が100モル%基準であり、ジオール残基成分が100モル%基準であり、
該樹脂組成物が、添加剤を含み、該添加剤が、
(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに
(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート
から選択され、添加剤が、カレンダリングする工程に於いてカレンダリングロールへのポリエステル樹脂組成物の粘着を防止する、方法。
【請求項6】以下の工程:
(A)樹脂のポリエステル成分として、溶融状態からの結晶化半時間が無限の無定形ポリエステルを選択する工程、及び
(B)ペレット、粉末又は溶融形態でポリエステル樹脂組成物を導入して、140℃?190℃の温度で、少なくとも2個の隣接する加熱カレンダリングロールの間の圧縮ニップに通すことによりポリエステル樹脂組成物をカレンダリングして、シートまたはフィルムを形成する工程、
を含む方法によってポリエステル樹脂組成物から製造されたカレンダーフィルム又はシートであって、
樹脂のポリエステル成分が、(i)少なくとも80モル%の、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらの混合物から選択された二酸残基成分、並びに(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物、並びに0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール、から選択されたジオール残基成分、からなるポリエステルから選択され、二酸残基成分が100モル%基準であり、ジオール残基成分が100モル%基準であり、
該樹脂組成物が、添加剤を含み、該添加剤が、
(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに
(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート
から選択され、添加剤が、カレンダリングする工程に於いてカレンダリングロールへのポリエステル樹脂組成物の粘着を防止する、カレンダーフィルム又はシート。
【請求項7】二酸残基成分が、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらの混合物、並びに0?20モル%の炭素数4?40の変性二酸から選択される請求項6に記載のフィルム又はシート。
【請求項8】以下の工程:
(A)樹脂のポリエステル成分として、溶融状態からの結晶化半時間が無限の無定形ポリエステルを選択する工程、及び
(B)ペレット、粉末又は溶融形態でポリエステル樹脂組成物を導入して、140℃?190℃の温度で、少なくとも2個の隣接する加熱カレンダリングロールの間の圧縮ニップに通すことによりポリエステル樹脂組成物をカレンダリングして、シートまたはフィルムを形成する工程、を含んでなる方法によってポリエステル樹脂組成物から製造されるカレンダーシートであって、
樹脂のポリエステル成分が、(i)少なくとも80モル%のテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらの混合物から選択された二酸残基成分、並びに(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物、並びに0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール、から選択されたジオール残基成分、からなるポリエステルから選択され、二酸残基成分が100モル%基準であり、ジオール残基成分が100モル%基準であり、
そしてここで、該樹脂組成物は(a)(i)テレフタル酸残基成分及び(ii)エチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールからなるジオール残基成分を含むポリエステル及び(b)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレートを含み、該アクリル加工添加剤およびグリセロールモノステアレートが、カレンダリングする工程に於いてカレンダリングロールへのポリエステル樹脂組成物の粘着を防止する、カレンダーシート。
【請求項9】前記ポリエステル樹脂組成物がグリセロールモノステアレートを含み、ポリエステルが無限の結晶化半時間を有する無定形である請求項8に記載のカレンダーシート。
【請求項10】請求項8?9のいずれか1項に記載のカレンダーシートから形成されるトランサクションカード又はセキュリティカード。
【請求項11】カレンダーポリエステル樹脂組成物を含んでなる物品であって、該ポリエステル樹脂組成物が(a)無限の溶融状態からの結晶化半時間を有するポリエステルであって、樹脂のポリエステル成分が、(i)少なくとも80モル%の、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらの混合物から選択された二酸残基成分並びに(ii)80?100モル%の、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物、並びに0?20モル%の、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、及びプロピレングリコールから選択された変性ジオール、から選択されたジオール残基成分、からなるポリエステルから選択され、二酸残基成分が100モル%基準であり、ジオール残基成分が100モル%基準である、ポリエステル、及び(b)添加剤であって、
(b1)0.5重量%のステアリン酸亜鉛;ならびに
(b2)2.5重量%のアクリル加工添加剤および1.0重量%のグリセロールモノステアレート
から選択される、添加剤、を含み、添加剤が、カレンダリングする工程に於いてカレンダリングロールへのポリエステル樹脂組成物の粘着を防止する、物品。
【請求項12】前記物品がシート又はフィルムである請求項11に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連特許出願に対するクロス・リファレンス
本件特許出願は、1998年3月17日出願の米国仮特許第60/078,290号の利益を請求する。
【0002】
発明の技術的分野
本発明は、カレンダリング方法を使用するフィルム及びシートの製造に関し、そして更に詳しくは、このようなカレンダリング方法に於けるポリエステルの使用に関する。
【0003】
発明の背景
カレンダリングは、可塑化した硬質のポリ(塩化ビニル)(PVC)組成物のようなプラスチックからフィルム及びシートを製造する経済的且つ非常に効率的な手段である。このフィルム及びシートは、通常は、約2ミル(0.05mm)?約45ミル(1.14mm)の厚さを有する。これらは、種々の形状に容易に熱形成され、広範囲の種々の包装応用のために使用される。カレンダリングしたPVCフィルム又はシートはプールライナー、グラフィックアーツ、トランザクションカード、セキュリティーカード、化粧板、壁張り材、製本材、ホルダー、床タイル及び二次操作で印刷又は装飾又は積層された製品を含む広範囲の応用に使用されている。
【0004】
E.Nishimuraらの特願平7-197213号(1995年)及びY.Azumaらのヨーロッパ特許出願公開第0 744 439 A1号(1996年)には、カレンダリング方法で使用されるポリプロピレン樹脂組成物に関する技術水準が開示されている。
【0005】
典型的なカレンダリング方法ラインに於いて、プラスチック樹脂は、熱劣化を防止する安定剤;透明性、熱安定性又は不透明性特性のための変性剤;顔料;滑剤及び加工助剤;帯電防止剤;UV防止剤並びに難燃剤のような具体的成分と共にブレンドされる。この混合された成分は、混練機又は押出機内で可塑化される。熱、剪断及び圧力によって、乾燥粉末は溶融して均一な溶融材料を形成する。押出機は、この溶融材料を連続工程で、第1の加熱カレンダーロールと第2の加熱カレンダーロールとの間のカレンダリングラインのカレンダリング部分の頂部に供給する。典型的に、4個のロールを使用して、3個のニップ又はギャップが形成される。ロールは、「L」形状又は逆「L」形状で配置されている。ロールは異なったフィルム幅に適応するようにサイズが変化している。ロールは別々の温度及び速度制御を有する。材料は供給ニップと呼ばれる、最初の2個のロールの間のニップを通過して進行する。ロールは反対方向に回転して、ロールの幅の端から端まで材料を拡げる助けをする。材料は、第1のロールと第2のロールとの間、第2のロールと第3のロールとの間、第3のロールと第4のロールとの間等を曲がりくねって進む。ロールの間のギャップは、材料が進行するとき、材料がロールの組の間で薄くなるように、ロールのそれぞれの間で厚さが減少している。カレンダリング部分を通過した後、材料は他の一連のロールを通って移動し、そこで、材料は延伸され、徐々に冷却されて、フィルム又はシートを形成する。次いで、冷却された材料はマスターロールに巻き付けられる。カレンダリング方法の一般的な説明は、Jim Butschi、Packaging World、第26?28頁、1997年6月及びW.V.Titow著、PVC Technology、第4版、第803?848頁(1984年)、Elsevier Publishing Co.刊(両方を、参照して本明細書に含める)に開示されている。
【0006】
PVC組成物はカレンダリングされたフィルム及びシート業界での断然最大の部分であるが、少量の熱可塑性ゴム、ある種のポリウレタン、タルク充填ポリプロピレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンターポリマー(ABS樹脂)及び塩素化ポリエチレンのような他の熱可塑性ポリマーを、カレンダリング方法によって加工する場合がある。ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)又はポリ(1,4-ブチレンテレフタレート)(PBT)のようなポリエステルポリマーをカレンダリングする試みは成功しなかった。例えば、約0.6dL/gのインヘレント粘度を有するPETポリマーは、カレンダリングロール上で適切に実施するためには不十分な溶融強度を有している。また、ポリエステルを160℃?180℃の典型的な加工温度でロールに供給するとき、PETポリマーは結晶化して、更なる加工に適していない不均一な塊を生じる。不均一な塊は、カレンダー軸受上に望ましくない高い力を生じる。環境条件に開放されているロール上で溶融又は半溶融状態で加工する間に、ポリエステルポリマーが加水分解する傾向も問題である。プロセス滑剤又は内部離型添加剤を含有しない典型的なPETポリマーはまた、典型的な加工温度でカレンダリングロールに粘着する傾向を有する。
【0007】
フィルム又はシートへのポリエステルの従来の加工には、フラットダイのマニホールドを通して溶融ポリエステルを押出すことが含まれる。材料のウエブの端から端までの厚さを制御するのに、手動又は自動のダイリップ調節が使用される。溶融ウエブを急冷し、平滑な表面仕上げを与えるために、水冷チルロールが使用される。典型的なダイ押出方法を、図2A及び2Bに示す。優れた品質のフィルム及びシートを製造する押出方法は、カレンダリング方法により与えられる押出量及び経済的利点を有しない。
【0008】
従って、押出方法に代わるものとして、ポリエステルフィルム及びシートを製造する効率的で且つ経済的な方法について、当業界にニーズが存在する。従って、それを提供することが本発明の主たる目的である。
【0009】
発明の要約
カレンダリング用ポリエステル樹脂組成物は、溶融状態からの結晶化半時間(crystallization half time)が少なくとも5分のポリエステル及びカレンダリングロールへのポリエステルの粘着を防止する添加剤を含む。本発明の他の態様に於いて、フィルム又はシートの製造方法は、このようなポリエステル樹脂組成物をカレンダリングする工程を含む。
【0010】
発明の詳細な説明
ある種の無定形又は半結晶性ポリエステル樹脂組成物は、意外にも、従来のカレンダリング方法を使用してカレンダリングして、均一なフィルム及びシートを製造することが可能である。このポリエステル樹脂組成物は、溶融状態からの結晶化半時間が少なくとも約5分のポリエステル及びカレンダリングロールへの粘着を防止する添加剤を含む。このフィルム及びシートは典型的に、約2ミル(0.05mm)?約80ミル(2mm)の厚さを有する。
【0011】
本発明の実施に有用なポリエステルには、溶融状態からの結晶化半時間が少なくとも約5分、好ましくは約12分のポリエステルが含まれる。本明細書で使用する用語「ポリエステル」はコポリエステルも含むものとする。無限の結晶化半時間を有するため、無定形ポリエステルが好ましい。溶融物からの望ましい結晶化動力学は、ポリマー添加剤を添加することにより又はポリマーの分子量特性を変化させることにより達成できる。特に有用な技術は、無定形の又は非常にゆっくり結晶化するポリエステルをベースポリエステルとブレンドすることである。
【0012】
本発明で定義された結晶化半時間は、パーキン・エルマー(Perkin-Elmer)モデルDSC-2示差走査熱量計を使用して測定する。15.0mgの各サンプルをアルミニウムパンの中に密封し、約320℃/分の速度で290℃で2分間加熱する。次いで、サンプルを、所定の等温結晶化温度まで約320℃/分の速度で、ヘリウムの存在下に、直ちに冷却する。結晶化半時間は、等温結晶化温度に達してからDSC曲線上の結晶化ピークの点までの時間間隔として決定する。
【0013】
好ましいポリエステルは、(i)少なくとも80モル%の、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸又はこれらの混合物から選択された二酸残基成分並びに(ii)少なくとも80モル%の、炭素数2?約10のジオール及びこれらの混合物から選択されたジオール残基成分を含む。二酸残基成分は100モル%基準であり、ジオール残基成分は100モル%基準である。
【0014】
二酸残基成分について、ナフタレンジカルボン酸の種々の異性体のうちの任意の異性体又は異性体の混合物を使用することができるが、1,4-、1,5-、2,6-及び2,7-異性体が好ましい。また、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のシス、トランス又はシス/トランス異性体混合物を使用することができる。スルホイソフタル酸を使用することもできる。二酸残基成分は、約20モル%以下の少量の炭素数約4?約40の他の二酸で変性することができ、他の二酸には、コハク酸、グルタル酸、アゼライン酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸等が含まれる。
【0015】
ジオール残基成分について、好ましいジオールには、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びこれらの混合物が含まれる。更に好ましくは、ジオール残基成分は、約10?100モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール及び約90?0モル%のエチレングリコールである。また、ジオール残基成分は、約20モル%以下の他のジオールで変性することができる。適切な変性ジオールには、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、プロピレングリコール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール等が含まれる。
【0016】
有用なポリエステルのインヘレント粘度(I.V.)は一般に、約0.4?約1.5dL/g、好ましくは約0.6?約1.2dL/gの範囲である。本明細書で使用するI.V.は、60重量%のフェノール及び40重量%のテトラクロロエタンからなる溶媒100mL当たり0.25gのポリマーを使用して25℃で測定したインヘレント粘度を指す。
【0017】
無定形ポリエステルは、当該技術分野で公知の溶融相技術によって製造される。半結晶性ポリエステルは、これも当該技術分野で公知の溶融相及び固相重縮合方法の組み合わせによって製造することができる。
【0018】
ポリエステルに加えて、カレンダリング用ポリエステル樹脂組成物には、ポリエステルがカレンダリングロールに粘着することを防止する添加剤が含まれる。ポリエステル樹脂組成物中に使用される添加剤の量は、典型的に、ポリエステル樹脂組成物の合計重量%基準で約0.01?10重量%である。使用する添加剤の最適量は、当該技術分野で公知の要因によって求め、装置、材料、方法条件及び材料フィルム厚さに於ける変動を考慮する。
【0019】
本発明で使用するのに適切な添加剤は、カレンダリング技術分野で公知であり、これには内部滑剤、スリップ剤又はこれらの混合物が含まれる。このような添加剤の例には、エルシルアミド(erucylamide)及びステアラミドのような脂肪酸アミド;ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛のような有機酸の金属塩;ステアリン酸、オレイン酸及びパルミチン酸のような脂肪酸及びエステル;パラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスのような炭化水素ワックス;化学的に変性したポリオレフィンワックス;カルナウバのようなエステルワックス;グリセロールモノ-及びジステアレート;タルク並びにアクリルコポリマー(例えば、ローム・アンド・ハース社(Rohm & Haas)から入手できるパラロイド(PARALOID)K175)を含む。微結晶性シリカ及びエルシルアミドのような粘着防止及び嵌め外し助剤も、しばしば使用される。
【0020】
従来の酸化安定剤も、ロール上での溶融又は半溶融材料の加工の間の酸化分解を防止するために、本発明のポリエステルと共に使用することができる。適切な安定剤には、チオジプロピオン酸ジステアリル又はチオジプロピオン酸ジラウリルのようなエステル;チバガイギー社(Ciba-Geigy AG)から入手できるイルガノックス(IRGANOX)1010;エチル社(Ethyl Corporation)から入手できるエタノックス(ETHANOX)330;及びブチル化ヒドロキシトルエンのようなフェノール性安定剤並びにチバガイギー社から入手できるイルガフォス(IRGAFOS)及びジーイー・スペシャルティ・ケミカルス社(GE Specialty Chemicals)から入手できるウエストン(WESTON)安定剤のようなリン含有安定剤が含まれる。これらの安定剤は、単独又は組み合わせて使用することができる。
【0021】
ポリエステルの溶融粘度及び溶融強度が、カレンダリング装置での適切な加工に不十分な場合がある。これらの場合に、例えば、カレンダリング装置に到達する前に、それらの最初の製造の間又は次のブレンド若しくは供給工程の間に少量(約0.1?約2.0モル%)の分枝剤をポリエステルに添加することにより、溶融強度増強剤を使用することが望ましい。適切な分枝剤にはトリメリット酸、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸二無水物、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリトリトール、クエン酸、酒石酸、3-ヒドロキシグルタル酸等のような多官能性酸又はグリコールが含まれる。これらの分枝剤は、ポリエステルに直接添加するか又は米国特許第5,654,347号及び同第5,696,176号に記載のようなコンセントレートの形でポリエステルとブレンドすることができる。ポリエステルの溶融強度を所望のレベルまで増加させるのに、スルホイソフタル酸のような試薬を使用することも可能である。
【0022】
上記の添加剤に加えて、ポリマーと共に典型的に使用される他の添加剤を、所望により使用することができる。これらには、可塑剤、染料、着色剤、顔料、充填剤、艶消し剤、粘着防止剤、帯電防止剤、チョップド繊維、ガラス、耐衝撃性改良剤、難燃剤、カーボンブラック、タルク、TiO_(2)等が含まれる。
【0023】
本発明の他の態様に於いて、フィルム又はシートの製造方法は、前記ポリエステル樹脂組成物をカレンダリングする工程を含む。このポリエステル樹脂組成物のカレンダリングには、従来のカレンダリング方法及び装置を使用することができる。少なくとも2個の隣接する加熱ロールを有するカレンダーが、このポリエステル樹脂組成物を加工するのに適しており、ポリエステル樹脂組成物は、ペレット、粉末又は溶融形態で2個のロールの間に導入される。ロールは、列になっているか又は「L」配置、逆「L」配置又は「Z」配置を有していてよい。ロールのための典型的な加工温度は、一般的に約130℃?約250℃、好ましくは約140℃?約190℃の範囲である。加水分解によるポリマー分解を防止するために、ポリエステル樹脂組成物を予備乾燥するか又は加工の間に過剰の水分を排出することが好ましい。
【0024】
図1を参照して、4個の加熱ロール10、12,14及び16に逆「L」配置を使用する。4個のロールは、3個の圧縮ニップ又はギャップを形成する。供給ニップ18が、第1のロール10と第2のロール12との間に形成される。計量ニップ20が、第2のロール12と第3のロール14との間に形成される。仕上ニップ22が、第3のロール14と第4のロール16との間に形成される。溶融ポリエステル樹脂組成物のホットストリップ又はロッド24は、ピボット装着供給デバイス26によって、供給ニップ18の中に均一に供給する。溶融組成物は、それが配合又は押出操作(図示せず)から出るとき均一な材料のが好ましい。溶融組成物は更に、供給ニップ18に形成される循環溶融物バンクによって混合し、加熱する。溶融組成物は、ロールの回転作用によって第1のロール10と第2のロール12との間で均等に力が掛けられ、次いで、その最終の所望の厚さまで減少するために、計量ニップ20を通して力が掛けられ、最後に、特定の規格のフィルム又はシート28を形成するように仕上げニップ22を通して力が掛けられる。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂組成物から製造した得られたフィルム又はシート28は、加熱ロールの間の圧縮ニップを通してポリエステル樹脂組成物を通過させることによって製造された均一な厚さを有する。事実上、ポリエステル樹脂組成物は、ロールを分離するニップの間で絞り出す。カレンダリングロールの間のそれぞれの連続するニップは、最終フィルム又はシート規格を得るように、開口サイズが減少している。
【0026】
図2A及び2Bを参照して、ポリエステルフィルム又はシートを製造するダイ押出の先行技術では、加熱したフラットダイ30を使用する。スクリュー押出機(図示せず)から供給されたポリエステル溶融物は、溶融物入口32でダイ30に入る。溶融物は、内部分布マニホールド34によって、ダイ30の幅の端から端まで均一に流れるように力が掛けられる。この均一な流れは、ダイランド36及び出口平面38を通して連続していなくてはならない。熱ポリマーの押し出されたウエブ40は、水冷ロール42上で急冷される。最終規格制御は、ダイリップを調節することによって行うことができる。
【0027】
ポリエステル樹脂組成物をカレンダリングする本発明は、フィルム又はシート製造方法として、ポリエステルの押出を越えた幾つかの顕著な利点を有している。一つの顕著な利点は、カレンダリングする前に比較したときのカレンダリングした後のインヘレント粘度の保持である。表2のデータによって明らかなように、ポリエステル樹脂組成物のインヘレント粘度は、90%より大きく、更に好ましくは95%より大きい率で保持される。
【0028】
他の利点には、高い生産速度、良好な厚さ制御及び長い連続的製造運転のための適合性が含まれる。例えば、本発明のポリエステルカレンダリング方法に類似している最近のPVCカレンダリング方法は、3000kg/時を越える生産量及び0.25mm厚さのシートで±2%の厚さ許容差を有するシートをもたらす。このシートは、2500mmより広い幅を有することができる。このことは、ポリエステルフィルム又はシートを製造する典型的なシート押出機に比べて非常にすぐれている。典型的な押出方法は、500?750kg/時の生産量を有し、0.25mm厚さのシートで±5%の厚さ許容差を有し、1000mmのシート幅を与える。このカレンダリング方法を使用して製造されたフィルム又はシートの改良されたコンシステンシーによって、二次成形操作の間のより短いセットアップ時間及びより少ない加熱及びサイクルプロセス調節が可能になる。また、経済的利点が、押出方法を越えた高生産量カレンダー方法によって達成されるシートの1kg当たりの加工費用の項目で明らかである。
【0029】
従って、本発明は、優れた外観を有し、広範囲の装飾応用及び包装応用で使用することができる、ポリエステル樹脂組成物をカレンダリングして製造されたフィルム及びシートを提供する。このフィルム及びシートは、食品製品及び非食品製品の両方のための具体的な包装応用に種々の形状に容易に熱形成する。これらは広範囲の種々のインキで印刷することができ、インライン又はオフラインで、布帛又は他のプラスチックフィルム若しくはシートと共に積層することができる。幾つかの具体的な最終用途に、グラフィックアーツ、トランザクションカード、セキュリティーカード、化粧板、壁張り材、製本材、ホルダー等が含まれる。
【0030】
本発明の好ましい態様を以下の実施例によって更に示すが、これらの実施例は、単に例示の目的のためのもので、他に特に示さない限り、本発明の範囲を限定するものでないことはいうまでもない。
例1?7
ポリエステル組成物A及びBを、除湿した乾燥器内で65℃で12時間予備乾燥し、30mmヴェルネル・プフライデレル(Werner Pfleiderer)40:1L/D共回転二軸スクリュー配合押出機を使用して、表1に記載したような種々の添加剤と配合した。
【0031】
【表1】

【0032】
1)ポリエステルA:100モル%のテレフタル酸の酸成分並びに31モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール及び69モル%エチレングリコールのグリコール成分を含むポリエステル。
2)ポリエステルB:100モル%のテレフタル酸の酸成分並びに3.5モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール及び96.5モル%エチレングリコールのグリコール成分を含むポリエステル。
3)パラロイドK175は、ローム・アンド・ハース社から入手できるアクリル加工添加剤である。
4)これは、チバガイギー社から入手できるフェノール安定剤であるイルガノックス1010及び工業界で一般的に入手できるチオジプロピオン酸ジステアリルであるDSTDPの混合物である。この混合物は、前者0.3%及び後者0.2%である。
5)マイベロール(MYVEROL)1806は、テネシー州キングスポート(Kingsport,TN)のイーストマン・ケミカル社(Eastman Chemical Company)から入手できるグリセロールモノステアレートであり、内部滑剤として使用する。
6)ステアリン酸Znは、スリップ添加剤として使用する。
7)ケンアミド(KENAMIDE)Sは、ウィットコ社(Witco Corporation)から入手できる脂肪酸アミドであり、スリップ添加剤として使用する。
【0033】
次いで、押出された組成物を、65℃で8時間再乾燥させ、水分吸収を防止するために金属内張りした袋の中に密封する。次いで、この組成物を、ドイツ国エベルスベルク(Ebersberg)のドクトル・コリン社(Dr.Collin Gmbh)から入手できる自動測定ロールミルを使用して、165℃の設定ロール温度で0.2mmの厚さを有するフィルムにカレンダリングする。ロールに加えられる軸受力、ロールトルク、カレンダリング性、重量平均分子量及びポリマー結晶化度を測定し、表2及び図3?5に要約する。
【0034】
【表2】

【0035】
図3は、例2及び3についての時間当たりのロール軸受力を示す。例2の組成物は、時間の経過に亘る安定なロール軸受力によって証明される良好なカレンダリング性を示した。例2は、無限の結晶化半時間を有していた。例3の組成物は、加熱ロールの間で容易に結晶化し、ロール軸受に加えられる高い力になり、従ってカレンダリングに適していない。例3は5分より短い結晶化半時間を有していた。
【0036】
図4は、例2及び3についての時間当たりのロールギャップを示す。例2は設定ロールギャップでカレンダリングした。しかしながら、例3は、結晶化に付随して形態的変化を起こし、これはロールを分離させる力を作った。
【0037】
図5は、例2及び3についての時間当たりのロールトルクを示す。例2は一定のロールトルク及び均一なカレンダー挙動を有していた。例3は、ロールから排出される前に一定でないトルクを有していた。
【0038】
例1?7は、ポリエステルをカレンダリングする実施可能性を示した。ポリエステルAは無限の結晶化半時間を有する無定形ポリエステルであった。ポリエステルBは、5分より短い結晶化半時間を有し、カレンダリングが容易でなかった。
【0039】
例8
例1の配合方法を使用して、100モル%のテレフタル酸の酸成分並びに12モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール及び88モル%エチレングリコールのグリコール成分を含むポリエステル(I.V.0.74)を、1.0重量%のステアリン酸Zn及び1.0重量%のマイベロール1806と配合した。この材料を、260℃のその溶融状態まで加熱し、次いでホットロールミルカレンダーに移した。このコポリエステルを、カレンダーロール上の圧縮ニップを通して、0.65mmの最終シート厚さまでカレンダリングした。この例は、結晶化半時間が12分のポリエステルをカレンダリングする実施可能性を示した。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明のポリエステルカレンダリング方法の略図である。
【図2A】
ポリエステルフィルムのための先行技術の押出方法に於いて使用されるフラットダイのマニホールド内のポリマー流の略図である。
【図2B】
ポリエステルフィルム用の先行技術の押出方法の一部の略図である。
【図3】
例2及び3についての時間当たりのロール軸受力を示すグラフである。
【図4】
例2及び3についての時間当たりのロールギャップを示すグラフである。
【図5】
例2及び3についての時間当たりのロールトルクを示すグラフである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-12-14 
結審通知日 2006-12-19 
審決日 2007-01-05 
出願番号 特願2000-536792(P2000-536792)
審決分類 P 1 113・ 537- YA (C08L)
P 1 113・ 161- YA (C08L)
P 1 113・ 536- YA (C08L)
P 1 113・ 121- YA (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 一色 由美子
高原 慎太郎
登録日 2002-02-22 
登録番号 特許第3280374号(P3280374)
発明の名称 カレンダリング用ポリエステル樹脂組成物  
代理人 林 雅仁  
代理人 小原 健志  
代理人 山本 秀策  
代理人 藤井 淳  
代理人 三枝 英二  
代理人 山本 秀策  

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