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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1178071
審判番号 不服2003-20811  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-10-27 
確定日 2008-05-14 
事件の表示 平成 9年特許願第519928号「外国為替取引システム」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 5月29日国際公開、WO97/19427、平成14年 4月 2日国内公表、特表2002-510409〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1996年11月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1995年11月21日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成15年7月22日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月26日付で手続補正がなされたものである。

2.平成15年11月26日付の手続補正について
(1)補正の内容について
平成15年11月26日付の手続補正(以下「本件補正」という。)により、請求項1は、以下のとおり補正された。
「第1のマネーモジュールと第2のマネーモジュールを使用して外国為替決済を行う方法であって、
(a)前記第1のマネーモジュールと第2のマネーモジュールの間で暗号的セキュリティセッションを確立し、
(b)第1の加入者が、異なる通貨単位による複数の額を含む第1の交換データを前記第1のマネーモジュールに送り、
(c)前記第1のマネーモジュールが前記第1の交換データを前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第2のマネーモジュールに送り、
(d)前記第2のマネーモジュールが、第2の加入者に対して、前記第1の交換データを検証することを促し、
(e)前記第2の加入者が、異なる通貨単位による複数の額を含む第2の交換データを前記第2のマネーモジュールに送り、
(f)前記第2のマネーモジュールが前記第2の交換データを前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第1のマネーモジュールに送り、
(g)前記第1のマネーモジュールが、前記第1の加入者に対して、前記第2の交換データを検証することを促し、
(h)前記第1のマネーモジュールが、第1の移転によって、通貨単位識別子を備え前記第1の交換データにより特定された額及び通貨単位による第1のマネーの電子的象徴を、前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第2のマネーモジュールに送り、
(i)前記第2のマネーモジュールが、第2の移転によって、通貨単位識別子を備え前記第2の交換データにより特定された額及び通貨単位による第2のマネーの電子的象徴を、前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第1のマネーモジュールに送り、
(j)前記第1及び第2のマネーモジュールの各々は、取引ログを無条件で更新して前記第1の移転と前記第2の移転を別々に終了させる、
ことかなら成る方法。」

(2)補正の目的について
本件補正は、上記の補正内容からみて、補正前の請求項1の「第1のマネーモジュールと前記第2のマネーモジュールを使用して外国為替決済を行う方法であって」の記載の「前記第2のマネーモジュール」から「前記」を削除するものである。
本件補正は、平成14年9月9日付の拒絶理由通知の特許法第36条第6項第2号の規定に関する理由2の(4)で指摘された事項に対してなされたものであり、特許法第17条の2第4項第4号に掲げられた明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしている。

(3)まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしているので、適法になされたものである。

3.請求項1-4,8-10に係る発明について
以上のとおり、本件補正は適法に補正されたものであるので、請求項1に係る発明は、平成15年11月26日付の手続補正書により補正された上記請求項1に記載されたとおりのものである。
また、同様に、請求項2-4,8-10に係る発明は、平成15年11月26日付の手続補正書により補正された請求項2-4,8-10に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項2】 前記第1及び第2の移転の双方に対して、移転元のマネーモジュールは、そのログを無条件に更新して移転元のマネーモジュールの前に前記第1又は第2の移転を終了させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】 前記第1及び第2の移転に対してログを無条件に更新する命令は、ランダムであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】 前記ログにおいて無条件に更新されるべき前記移転のうちの第1の移転は、無条件に更新される前に条件付きで更新されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
(中略)
【請求項8】 請求項7に記載の方法において、前記決済プロセッシングシステムが、全体又は2極間ネッティングプロセスを行うことを特徴とする方法。
【請求項9】 請求項7に記載の方法において、前記電子マネーが、マネーモジュール請け出しを経由して得られることを特徴とする方法。
【請求項10】 請求項7に記載の方法において、前記電子マネーが、マネーモジュール支払いを経由して得られることを特徴とする方法。」

4.原査定の拒絶の理由の概要について
(A)特許法第36条第6項第2号の規定についての理由(以下「理由A」という。)について
平成14年9月9日付の拒絶理由通知の記載及び平成15年7月22日付の拒絶査定の備考の欄の記載からみて、特許法第36条第6項第2号の規定に関する理由の概要は以下のとおりである。なお、特許法第36条第4項の規定については省略する。
『2.この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



理由2(特許法第36条)について
(中略)
(5)請求項1(h)に記載の「第1の移転」とは何を指すのか明確でない。
請求項1(i)に記載の「第2の移転」も同様に明確でない。

(6)請求項2には「移転元のマネーモジュールの前に前記第1又は第2の移転を終了させる」と記載されているが、マネーモジュールの前とはどういうことなのか、意味を把握することができない。

(7)請求項3には「・・・命令は、ランダムである」と記載されているが、命令がランダムであるとはどういうことなのか、意味を把握することができない。

(8)請求項4に記載の「第1の移転」と請求項1に記載の「第1の移転」とは、同じものか否か明確でない。

(9)請求項8には「前記決済プロセッシングシステム」と記載されているが、その前段には決済プロセッシングシステムの記載がないので、「前記」が何を指すのか明確でない。

(10)請求項9に記載の「マネーモジュール請け出しを経由して」とは、どういう意味なのか不明確である。
請求項10の「マネーモジュール支払いを経由して」という記載も、意味が不明確である。』

(B)特許法第29条第2項についての理由(以下「理由B」という。)について
平成14年9月9日付の拒絶理由通知の記載及び平成15年7月22日付の拒絶査定の備考の欄の記載からみて、特許法第29条第2項の規定に関する理由の概要は以下のとおりである。
『3.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

理由3(特許法第29条第2項)について
請求項1?12
引用文献1?3

引 用 文 献 等 一 覧

1.国際公開第95/30211号パンフレット
(& 特表平9-511350号公報)
2.欧州特許出願公開第0542298号明細書
(& 特開平6-162059号公報)
3.磯部朝彦/ケブン・J・カーニー監修,
エレクトロニック決済と金融革新, 東洋経済新報社,
1993年6月3日,第105?139頁(第4章)』

4.拒絶の理由に対する審判請求人の主張の概要
(1)理由Aについて
理由Aに対する審判請求書における審判請求人の主張の概要は以下のとおりのものである。
『(4)特許請求の範囲の記載
(中略)
(b)拒絶理由2の(5)で指摘された請求項1の「第1の移転」と「第2の移転」は、特に不明瞭ではない、と本件審判請求人は考える。すなわち、請求項1の(h)項では、「前記第1のマネーモジュールが、第1の移転によって、通貨単位識別子を備え前記第1の交換データにより特定された額及び通貨単位による第1のマネーの電子的象徴を、前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第2のマネーモジュールに送り、」と記載されている。この記載は、「通貨単位識別子を備え前記第1の交換データにより特定された額及び通貨単位による第1のマネーの電子的象徴を、前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第2のマネーモジュールに送る」ことが「第1の移転」にあたると理解できる。同様に、(i)項の記載によれば、「通貨単位識別子を備え前記第2の交換データにより特定された額及び通貨単位による第2のマネーの電子的象徴を、前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第1のマネーモジュールに送る」ことが「第2の移転」にあたると理解できる。したがって、指摘されるような不明瞭さはないと考える。
(c)同(6)で指摘された請求項2の「移転元のマネーモジュールの前に前記第1又は第2の移転を終了させる」の記載は、検討の結果、「移転元」が「移転先」の誤記であることが判明した。したがって、この部分の記載は、「移転先のマネーモジュールより前に前記第1又は第2の移転を終了させる」と訂正することにより明瞭になると考える。審判請求人は、訂正の機会を与えて戴けば、このような訂正を行う所存である。
(d)同(7)で指摘された請求項3の記載は、「命令」が「順序」の誤記であることが判明した。したがって、「命令」を「順序」と訂正することにより、意味は明瞭になると考える。審判請求人は、訂正の機会を与えて戴けば、このような訂正を行う所存である。
(e)同(8)で指摘された請求項4の記載における「第1の移転」は請求項1の「第1の移転」及び「第2の移転」のうち、先に生じる移転を指す意味で用いている。したがって、請求項4における「第1の移転」の意味は、この記載を「先に生じる移転」と訂正することにより、明瞭になると考える。審判請求人は、訂正の機会を与えて戴けば、このような訂正を行う所存である。
(f)同(9)で指摘された請求項8の記載の「前記決済プロセッシングシステム」は、請求項7における「決済処理システム」のことである。したがって、請求項8におけるこの記載を{前記決済処理システム}と訂正することにより、明瞭になる。審判請求人は、訂正の機会を与えて戴けば、このような訂正を行う所存である。
(g)同(10)で指摘された請求項9の記載は、「マネーモジュールによる払い戻し」の意味である。また、請求項10の記載は、「マネーモジュールからの支払い」の意味である。審判請求人は、訂正の機会を与えて戴けば、請求項9及び請求項10にこのような訂正を行う所存である。
(以下省略)』

(2)理由Bについて
理由Bに対する審判請求書における審判請求人の主張の概要は以下のとおりのものである。
『(1)本件請求項1の発明
本件出願の特許請求の範囲中、請求項1には下記の発明が記載されている。
(中略)
ここで、上記(b)における「異なる通過単位による複数の額」は、複数の通貨単位による複数の金額という意味であり、上記(b)の構成は、第1の交換データには複数の金額が含まれており、これら複数の金額は、それぞれ異なる通貨単位による、ということを規定するものである。上記(e)における「異なる通過単位による複数の額」も同様な意味を有し、上記(b)における「異なる通過単位による複数の額」と為替交換される金額を意味する。したがって、この請求項1に記載された発明は、2つのマネーモジュールの間で、異なる通貨単位で表された複数の金額を、他の通貨単位による複数の金額と交換する為替取引を同時に行う方法を規定するものである。
(2)引用文献1及び2の記載及び請求項1との対比
引用文献1は、本件出願の出願人と同一の出願人による先の国際出願の公開公報である。この文献は、「信託エージェント」と「マネーモジュール」を使用して、互いに相手を前もって知ることなく、電子ネットワークを通して離れて安全に取引できるようにするオープン電子商業システムを開示するものである。もっと詳細に述べると、顧客の信託エージェントが第1のマネーモジュールを用いて安全な通信を行い、商人の信託エージェントが第2のマネーモジュールを用いて安全な通信を行う。商人の信託エージェントは、電子商品を顧客の信託エージェントに引き渡して暫定的に保持させ、両方の信託エージェント間の通話により取引が合意されると、第1のマネーモジュールが電子マネーを第2のマネーモジュールに伝送する。マネーモジュールの支払いが成功すると、その旨が、第1のマネーモジュールから顧客の信託エージェントに、第2のマネーモジュールから商人の信託エージェントに通報され、ここで、商人は、その販売をログし、顧客は買い取った商品を使用できるようになる。
引用文献2も、本件出願の出願人と同一の出願人による先の特許出願の公開公報である。この文献は、電子通貨システムを開示するもので、国際予備審査報告書では、通貨単位識別子を開示するものとして引用された。この文献は、外国為替取引についての記載を有する(加入者対加入者の外国為替取引については段落〔0377〕以降、銀行が関与する外国為替取引については段落〔0386〕以降の記載を参照)。これらの記載において、「通貨単位識別子」という用語或いはそれに類似する用語は特に使用されていないが、ポンド及びドルの形で送金が行われるのであるから、何らかの形で通貨単位が表示されることは認めてよい。
国際予備審査報告書は、本件請求項1の発明と引用文献1の記載とを対比して、その主たる相違点を、交換データが異なる通貨単位による複数の額を含むこと、及びマネーの電子的象徴が通貨単位識別子を含むこと、の2点にあると認定している。しかし、本件請求項1の発明は、外国為替決済を行う方法であるところ、引用文献1には、外国為替についての記載が全くなく、また、本件請求項1の発明は、外国為替決済において、複数の異なる通貨単位による複数の額を、他の複数の異なる通貨単位による複数の額と交換する外国為替決済を同時に遂行できようにしたものであるのに対して、引用文献1には、そのような思想が全く示されていない。国際予備審査報告書は、このような本件発明の要点に関する事項を看過している。そして、国際予備審査報告書は、このように誤った相違点の認定に基づき、マネーの電子的象徴が通貨単位識別子を含むことは引用文献2に示されており、「交換データが異なる通貨単位による複数の額を含むこと」は設計的事項に過ぎない、と認定している。拒絶査定における判断は、この国際予備審査報告書における判断をそのまま採用するものである。
しかし、引用文献1は、電子商品をネットワーク上で購入することができるオープン電子商業システムを開示するものであり、国際為替決済とは関係がない。そして、国際為替決済において、複数の異なる通貨単位による複数の額を同時に決済する、という思想は、引用文献1には全く示されていない。国際予備審査報告書では、この点は当業者にとって通常の設計的事項である、というが全く根拠のない恣意的な判断である。重要なことは、引用文献1の記載に引用文献2の通貨単位識別子を採用するだけでは本件請求項1の発明を得ることはできない、ということである。引用文献1には、国際為替決済についての教示がなく、まして、複数の異なる通貨単位による複数の額を同時に決済する、という思想は、引用文献1には婉曲にも示唆されていないことである。
さらに、引用文献2に記載された国際為替決済の手法は、本件請求項1の発明におけるものとは著しく異なる。したがって、引用文献2における国際為替決済についての記載に着目しても、本件発明の思想に到達することは容易ではない。
拒絶査定は、このように理由のない国際予備審査報告書の判断を無批判に採用するもので、明らかに誤っている。
(3)本件請求項1の発明の進歩性
以上の通り、本件請求項1の発明は、引用文献1及び2の記載に基づいて容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の発明には該当しない。したがって、他の請求項について検討するまでもなく、原査定は取り消されるべきである。』

5.理由Aについて
上記の原査定の拒絶の理由の概要で示した指摘に基づいて請求項1の記載について以下に検討する。
(1)上記(5)の指摘について
請求項1の「(h)記第1のマネーモジュールが、第1の移転によって、通貨単位識別子を備え前記第1の交換データにより特定された額及び通貨単位による第1のマネーの電子的象徴を、前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第2のマネーモジュールに送り」の記載では、先に「第1の移転によって」と記載されているため、「通貨単位識別子を備え前記第1の交換データにより特定された額及び通貨単位による第1のマネーの電子的象徴を、前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第2のマネーモジュールに送る」ことが「第1の移転」にあたると解することはできないので、審判請求人の当該主張を採用することができない。
上記(h)の記載は、その記載からみて、「第1の移転が行われ、その第1の移転が行われたことにより、第1のマネーモジュールが、第1の通貨単位識別子を備え前記第1の交換データにより特定された額及び通貨単位による第1のマネーの電子的象徴を、前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第2のマネーモジュールに送る」と解されるべきと認められる。
このような解釈の場合、依然として、請求項1の(h)の記載では、その「第1の移転」とは何を指すのか明確でない。
また、同様にして、依然として、請求項1の(i)の記載では、その「第2の移転」とは何を指すのか明確でない。

(2)上記(6)の指摘について
請求項2の「マネーモジュールの前」の記載については補正されておらず、依然として、当該記載の内容が不明であり、把握できない。
なお、「移転元」を「移転先」の誤記とすると根拠及び理由が審判請求書において説明されておらず、「移転元」が「移転先」の誤記であることが自明であるとは認められない。
また、「移転元」が「移転先」が誤記として補正したとしても、「マネーモジュールの前」の記載の内容が不明であり、その内容が把握できない。

(3)上記(7)の指摘について
請求項3の「命令はランダムである」の記載については補正されておらず、依然として、当該記載の内容が不明であり、意味を把握できない。
なお、「命令」を「順序」の誤記とする根拠及び理由が審判請求書において説明されておらず、「命令」が「順序」の誤記であることが自明であるとは認められない。

(4)上記(8)の指摘について
請求項1の「第1の移転」の記載と請求項4の「第1の移転」の記載について補正されておらず、また、請求項4の「第1の移転」の記載では、請求項4の「第1の移転」が請求項1の「第1の移転」及び「第2の移転」のうち先に生じる移転と解することできるとは認められないので、依然として、両者が同じものであるかどうか不明である。
なお、請求項4の「第1の移転」が請求項1の「第1の移転」及び「第2の移転」のうち先に生じる移転を意味する根拠及び理由が審判請求書において説明されておらず、請求項4の「第1の移転」が請求項1の「第1の移転」及び「第2の移転」のうち先に生じる移転を意味することが自明とは認められない。

(5)上記(9)の指摘について
請求項8の「前記決済プロセッシングシステム」の記載は補正されておらず、その前段に決済プロセッシングシステムの記載がないので、依然として、「前記決済プロセッシングシステム」が何を示すのか不明である。
なお、請求項8の「前記決済プロセッシングシステム」が請求項7の「決済処理システム」のことである根拠及び理由が審判請求書において説明されておらず、請求項8の「前記決済プロセッシングシステム」が請求項7の「決済処理システム」のことであることが自明とは認められない。

(6)上記(10)の指摘について
請求項9の「マネーモジュール請け出しを経由して」及び請求項10の「マネーモジュールからの支払いを経由して」の記載は補正されていないので、依然として、請求項9の「マネーモジュール請け出しを経由して」及び請求項10の「マネーモジュールからの支払いを経由して」の記載がどういう意味なのか不明確である。
なお、「マネーモジュール請け出しを経由して」が「マネーモジュールによる払い戻し」を意味し、「マネーモジュール支払いを経由して」が「マネーモジュールからの支払い」を意味する根拠及び理由が審判請求書において説明されておらず、「マネーモジュール請け出しを経由して」が「マネーモジュールによる払い戻し」を意味し、「マネーモジュール支払いを経由して」が「マネーモジュールからの支払い」を意味することが自明であるとは認められない。

(7)まとめ
なお、審判請求人は、審判請求書で、更なる補正の機会を設けることを要望する旨主張しているが、審判請求人に更に補正の機会を特別に設ける格段の理由はなく、さらに、審判請求人の主張する補正を認めたとしても、上記(1)及び(2)で述べたように上記の記載の不備が全て解消されるとは認められないので、審判請求人の当該主張を採用することはできない。
したがって、以上の(1)?(6)の点で請求項1-4,8-10の記載内容が不明であるため、請求項1-4,8-10に係る発明が明確であるとは認められないので、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

6.拒絶の理由Bについて
上記5.(1)で述べたとおり、請求項1の(h)の記載内容が不明であるため、請求項1に係る発明が不明確あることは明らかであるが、請求項1の記載内容が明確であるとして、拒絶の理由Bについて以下に検討する。
なお、上記(h)の記載は、審判請求人の主張のように、「前記第1のマネーモジュールが、通貨単位識別子を備え前記第1の交換データにより特定された額及び通貨単位による第1のマネーの電子的象徴を、前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第2のマネーモジュールに送る」ことが「第1の移転」にあたるとして、上記(h)の記載を、例えば「前記第1のマネーモジュールが、通貨単位識別子を備え前記第1の交換データにより特定された額及び通貨単位による第1のマネーの電子的象徴を、前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第2のマネーモジュールに送る(以下「通貨単位識別子を備え前記第1の交換データにより特定された額及び通貨単位による第1のマネーの電子的象徴を、前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第2のマネーモジュールに送ること」を「第1の移転」という。)」と解し、請求項1の(i)の記載も同様に解するものとする。

(1)引用例
(2-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第95/30211号パンフレット(以下「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(a)「The money modules contemplated herein are tamper-proof
devices capable of storing and transferring electronic money. The
electronic money is preferably in the form of electronic notes
that are representations of currency or credit. Money modules are
also capable of establishing cryptographically secure communication
sessions with other devices. The preferred embodiment of the
present invention utilizes the transaction money modules
described in PCT patent application WO 93/10503, together with
any modifications or improvements described hereafter.」(第6頁第35行-第7頁第9行)

(b)「A similar situation exists with respect to money modules 6
exchanging electronic notes. During a purchase transaction,
electronic notes are passed from money module A to money module
B, so that A provisionally decrements its electronic notes (by the
amounts transferred) while B provisionally has electronic notes
(in the transferred amount). If both A and B commit then A will
retain the notes in the decremented amounts and B's retention
of the electronic notes will no longer be provisional.」(第26頁第27行-同頁第35行)

(c)「Electronic Monetary System
An electronic monetary system (EMS) which may be used in conjunction
with the described system for open electronic commerce is found in
PCT patent application WO 93/10503. Described below are various
improvements and supplements to that EMS.」(第57頁第16行-同頁第21行)

(d)「Foreign Exchange
Figure 40 shows the protocol for a foreign exchange transaction
using dollars and pounds as exemplary monetary units. Initially,
A agrees to exchange with B dollars($) for pounds(?) at an
exchange rate of $/? (step 1602). A and B then sign on their
money modules and prompt their subscribers for the type of
transaction (steps 1604 - 1610). A chooses to buy foreign
exchange and B chooses to sell foreign exchange (steps 1612
1614). A and B establish a secure transaction session (steps
1616 - 1620).
To Subscriber A prompts the owner/holder of A for the amount by
type of note of dollars he wishes to exchange (step 1622).
Pay/Exchange A receives the amount and Note Directory A checks
if A has sufficient funds (steps 1624 - 1628). If the funds
are not sufficient, then To Subscriber A prompts for a new
amount which again is checked against existing funds (steps
1630 - 1632). If no new amount is entered, then the transaction
is aborted (step 1634).
If funds are sufficient, then Pay/Exchange A sends the dollar
amount to B (steps 1636 - 1638). To Subscriber B then prompts the
owner/holder of B to select either the amount of pounds he wishes to
exchange for the dollars or, alternatively, simply the exchange rate
for the dollars (step 1640). Note Directory B checks for sufficient
funds (steps 1642 - 1644). If funds are insufficient, then To
Subscriber B prompts for a new rate and again existing funds are
checked for sufficiency (steps 1646 - 1648). If, however, no new
rate is selected, then Pay/Exchange B informs A of its insufficient
funds (steps 1650 - 1652). A may then select a new amount for
exchange or abort the transaction (steps 1630 - 1634).
If B has sufficient funds for the transaction, then Pay/Exchange B
sends A an acknowledgement and the amount of pounds to be
exchanged (the equivalent rate is also sent) (steps 1654 - 1656).
To Subscriber A prompts to verify the amount of pounds and the
rate (steps 1658 1660). If the amount and rate are incorrect, then
Pay/Exchange A informs B that the amount and rate are incorrect
(steps 1662 - 1664). To Subscriber B then prompts for a new rate
(steps 1666 - 1668). If no new rate is chosen, then the transaction
is aborted (step 1670).
If, however, A verifies the correct amount and rate of the
transaction, then Pay/Exchange A passes the dollar amount to the
money holder (step 1672). The dollar notes are then transferred
from A to B (step 1674). Pay/Exchange B passes the pound amount
to its money holder (step 1676). The pound notes are then
transferred from B to A (step 1678).
At this point in the transaction, both A and B provisionally hold
foreign exchange notes in the correct amounts. A and B have each
participated in two transfers: A transfers: (1) A transferred
dollars to B; (2) A received pounds from B. B transfers:
(1) B transferred pounds to A; (2) B received dollars from
A. To complete the foreign exchange transaction, A must now
commit (i.e., finalize and permanently record in its transaction
log) both of its two transfers. Similarly, B must commit both
of its two transfers. Note that A may commit to the foreign
exchange transfer A→ B (dollars from A to B) and B →A
(pounds from B to A) separately. Likewise B may commit to
the foreign exchange transfers A→ B and B →A separately.
The next portion of the foreign exchange protocol is designed so
that neither party knows the order in which the transacting
money modules will commit. Such uncertainty will discourage
parties from intentionally trying to tamper with a transaction.
As background, a function S(X) is defined so that S(O) = A
and S(1) = B, where A and B refer to money modules A and B.
Thus, if X is randomly chosen as O or 1, then money module A
or B is randomly indicated.
The following routine is used to allow A and B to commonly
establish a random X. R(A) and R(B) are the random numbers
generated by A and B, respectively, during the Establish Session
subroutine. The parity of R(A) XOR R(B) is determined (by
exclusive - ORing each bit of R(A) XOR R(B). This parity is
the random number X. X is the complement of X (X = X XOR 1).
Referring again to Figure 40, Tran Log A conditionally updates its
transaction log to record the transfer S(X) to S(X) (step 1680).
IF X is calculated to be 0, then the transfer A to B (i.e., the
dollar transfer) is conditionally recorded. If X is calculated to be
1, then the transfer B to A (i.e., the pound transfer) is
conditionally recorded. Because the log is conditionally recorded,
it may be rolled-back in the event money module A aborts the
transaction. The update log becomes permanent once the log
update has been set to unconditional (either as shown explicitly
in the flow diagram or implicitly during a commit). Session
Manager A then sends a "Log Updated" message to B (steps 1682
1684). In response, Tran Log B also conditionally updates its log
to record the transfer S(X) to S(X) (step 1686).
If X = 1, then Tran Log B sets the log update to unconditional
(steps 1688 - 1690). Thus, at this point, B has committed to its
transfer of pounds to A. Next, B follows the Commit protocol
(step 1692) described subsequently with reference to Figure 41.
In this situation, A will commit to both its transfers (i.e.,
transferring dollars and receiving pounds) and B will commit to
its one outstanding (uncommitted) transfer, namely receiving
dollars.
If, however, X = O (step 1688), then Session Manager B sends
a "Start Commit" message to A (steps 1694 - 1696). Tran Log A
then sets its log update to unconditional (step 1698), thus
committing to its transfer of dollars. The Commit protocol of Figure
41 is then called (step 1700). During this protocol (described
subsequently) B commits to both its transfers (i.e., transferring
pounds and receiving dollars) and A commits to its one outstanding
transfer, receiving pounds.
The foreign exchange protocol thus ensures that neither party know
whose transfer (A's of dollars or B's of pounds) will be committed
first. This reduces the incentive of a party to tamper with the
transaction.」(第73頁第1行-第76頁第8行)

なお、上記引用例1として公開された国際出願の日本での国内段階への移行のために提出された翻訳を公表した特表平9-511350号公報(以下「公表公報」という。)には、図面とともに、上記摘記事項と対応する以下の事項が記載されている。
(ア)「本発明が意図しているマネーモジュールは、電子マネーを格納し、振替えることができる不正変更防止性の装置である。電子マネーは、通貨またはクレジットを表す電子ノートの形状であることが好ましい。マネーモジュールは、他の装置との間に暗号的安全保障された通信セッションを確立することもできる。本発明の好ましい実施例は、前記PCT特許出願第 WO 93/10503号に開示されている取引マネーモジュールを、以下に説明するように何等かの変更または改良を加えて使用する。」(公表公報第26頁第9行-同頁第15行」

(イ)「電子ノートを交換するマネーモジュール6に関しても同様な状況が存在する。購入取引中、電子ノートはマネーモジュールAからマネーモジュールBへ振替えられるので、Aはその電子ノートを暫定的に目減りさせ(振替られた金額だけ)、Bは暫定的に電子ノートを有している(振替られた金額だけ)。もしA及びBが共にコミットしていれば、Aは目減りした金額のノートを保持し、Bの電子ノートの保持は最早暫定的ではなくなる。」(公表公報第5行-同頁第10行)

(ウ)「上述したオープン電子商業システムと共に使用できる電子通貨制度(EMS)は、前記PCT特許出願第 WO 93/10503号に開示されている。以下の説明は、このEMSのさまざまな改良、及びEMSへの補足である。」(公表公報第73頁第24行-同頁第26行)

(エ)「外国為替
図40は、外国為替取引のためのプロトコルを、ドル及びポンドを通貨単位の例として示している。始めにAとBとは、ドル($)とポンド(?)を$/?の為替レートで交換することで合意する(段階1602)。そこで、A及びBはそれらのマネーモジュールにサインオンし、取引の型についてそれらの申込者に尋ねる(段階1604-1610)。Aは外国為替を買うことを選択し、Bは外国為替を売ることを選択する(段階1612-1614)。A及びBは、安全な取引セッションを確立する(段階1616-1620)。
「申込者Aへ」はAの所有者/保持者に、彼が交換することを望んでいるドルの金額をノートの型によって尋ねる(段階1622)。「支払/交換A」は金額を受け、「ノートディレクトリA」はAが十分な資金を有しているか否かを調べる(段階1624-1628)。もし資金が十分でなければ、「申込者Aへ」は新しい金額を尋ね、再び現有資金がその金額に対して十分であるか否かを調べる(段階1630-1632)。もし新しい金額が示されなければ、その取引は打切られる(段階1634)。
もし資金が十分であれば「支払/交換A」は、ドル金額をBへ送る(段階1636-1638)。「申込者Bへ」はBの所有者/保持者に、彼がドルと交換することを望んでいるポンドの金額か、または代替として、単にドルの為替レートの何れかを選択するように求める(段階1640)。「ノートディレクトリB」は資金が十分であるか否かを調べる(段階1642-1644)。もし資金が不十分であれば、「申込者Bへ」は新しいレートを尋ね、再び現有資金が十分であるか否かを調べる(段階1646-1648)。しかしながら、新しいレートが選択されなければ、「支払/交換B」は資金が不十分であることをAに通報する(段階1650-1652)。そこでAは、交換のための新しい金額を選択するか、またはその取引を打切る(段階1630-1634)。
もしBがその取引に対して十分な資金を有していれば、「支払/交換B」はAに承認及び交換すべきポンドの金額を送る(等価レートも送る)(段階1654-1656)。「申込者Aへ」は、ポンドの金額及びレートを尋ねる(段階1658-1660)。もし金額及びレートが正しくなければ、「申込者Aへ」は金額及びレートが正しくないことをBへ通報する(段階1662-1664)。そこで「申込者Bへ」は、新しいレートを尋ねる(段階1666-1668)。もし新しいレートが選択されなければその取引は打切られる(段階1670)。
しかしながら、もしAが正しい金額及び取引のレートを確かめれば、「支払/交換A」はドル金額をマネー保持者へ渡す(段階1672)。次いでドルノートがAからBへ振替えられる(段階1674)。「支払/交換B」は、ポンド金額をそのマネー保持者へ渡す(段階1676)。ポンドノートがBからAへ振替えられる(段階1678)。
取引のこの点においては、AもBも正しい金額の外国為替ノートを暫定的に保持している。A及びBはそれぞれ、2つの振替に参加している。即ち、Aの振替は(1)AがドルをBへ振替え、(2)AがポンドをBから受取ることである。Bの振替は(1)BがポンドをAへ振替え、(2)BがドルをAから受取ることである。外国為替取引を完了させるためには、ここでAがその2つの振替の両方をコミットしなければならない(即ち、最終的に承認し、その取引ログ内に恒久的に記録する)。同様に、Bもその2つの振替の両方をコミットしなければならない。Aは外国為替振替A→B(ドルをAからBへ)、及びB→A(ポンドをBからAへ)を別々にコミットできることに注目されたい。同様に、Bも外国為替振替A→B、及びB→Aを別々にコミットすることができる。
外国為替プロトコルの次の部分は、取引中のマネーモジュールがコミットする順番を何れの当事者にも知らせないように設計されている。この不確実性によって、当事者が意図的に不正取引を試みようとすることを思い留まらせる。背景として、S(0)=A及びS(1)=Bであるような関数S(X)を定義する。ここに、A及びBはマネーモジュールA及びBである。従って、もしXを無作為に0または1として選択すれば、マネーモジュールAまたはBが無作為に指示される。
以下のルーチンは、A及びBが無作為な数Xを共通に確立するのを可能にするために使用される。R(A)及びR(B)は、「セッション確立」サブルーチン中にA及びBによってそれぞれ生成される乱数である。R(A) XOR R(B)のパリティが決定される(R(A) XOR R(B)の各ビットを排他的論理和することによって)。このパリティは乱数xである。notXは、Xの補数である(notX=X XOR 1)。
図40に戻る。「取引ログA」は、S(X)からS(notX)への振替を記録するために、その取引ログを条件付きで更新する(段階1680)。もしXが0であると計算されれば、AからBへの振替(即ち、ドル振替)が条件付きで記録される。もしXが1であると計算されれば、BからAへの振替(即ち、ポンド振替)が条件付きで記録される。ログは条件付きで記録されるから、マネーモジュールAがその取引を打切った場合それをロールバックすることができる。ログ更新が無条件にセットされてしまうと(流れ図の中に明示的に示されるか、またはコミット中に暗示的に示されるの何れか)、更新ログは恒久的になる。そこで「セッションマネージャA」は、「ログ更新済」メッセージをBへ送る(段階1682-1684)。それに応答して「取引ログB」も、S(X)からS(notX)への振替を記録するようにそのログを条件付きで更新する(段階1686)。
もしX=1であれば、「取引ログB」はログ更新を無条件にセットする(段階1688-1690)。従って、この点においては、BはそのポンドのAへの振替をコミットしている。次に、Bは図41を参照して後述する「コミットプロトコル」を辿る(段階1692)。この状況では、Aはその両方の振替(即ち、ドルの振替とポンドの受取り)にコミットし、Bはその一方の未決済(未コミット)振替、即ちドルの受取りにコミットする。
しかしながら、もしX=0であれば(段階1688)、「セッションマネージャB」は「コミット開始」メッセージをAへ送る(段階1694-1696)。そこで「取引ログA」はそのログ更新を無条件にセットし(段階1698)、従ってそのドルの振替にコミットする。次いで図41の「コミット」プロトコルが呼出される(段階1700)。このプロトコル(後述)中、Bはその振替の両方(即ち、ポンドの振替とドルの受取り)にコミットし、Aはその一方の未決済(未コミット)振替、即ちポンドの受取りにコミットする。
以上のように、外国為替プロトコルは、誰の振替(Aのドルの振替、またはBのポンドの振替)が先にコミットするのかを何れの当事者にも知らせないようにする。これは、当事者に不正な取引を発想させるような刺激を減少させる。」(公表公報第89頁第9行-第92頁第11行)

また、引用例1に記載された事項において、AからBへの電子マネーの送信とBからAへの送信は別々に行われているので、それらの電子マネーの送信、すなわち、それらの電子マネーの移転は別々に終了することは明らかである。
してみれば、上記公表公報の記載を参考にすると、引用例1には、
『「マネーモジュール(A)」と「マネーモジュール(B)」を使用して外国為替決済を行う方法であって、
(a)前記「マネーモジュール(A)」と「マネーモジュール(B)」の間で暗号的安全保障された通信セッションを確立し、
(b)第1の所有者が、金額を含む第1の情報を前記第1のマネーモジュールに送り、
(c)前記「マネーモジュール(A)」が前記第1の情報を前記暗号的安全保障された通信セッションを経由して前記「マネーモジュール(B)」に送り、
(d)前記「マネーモジュール(B)」が、第2の所有者に対して、前記第1の情報が正しいかどうか確かめることを促し、
(e)前記第2の所有者が、金額を含む第2の情報を前記第2のマネーモジュールに送り、
(f)前記「マネーモジュール(B)」が前記第2の情報を前記暗号的安全保障された通信セッションを経由して前記「マネーモジュール(A)」に送り、
(g)前記「マネーモジュール(B)」が、前記第1の所有者に対して、前記第2の情報が正しいかどうか確かめることを促し、
(h)前記「マネーモジュール(A)」が、前記第1の情報により特定された金額による第1の電子マネーを、前記暗号的安全保障された通信セッションを経由して前記第2のマネーモジュールに送り(以下「前記第1の金額のデータにより特定された金額による第1の電子マネーを、前記暗号的安全保障された通信セッションを経由して前記第2のマネーモジュールに送ること」を「第1の移転」という。)、
(i)前記「マネーモジュール(B)」が、前記第2の情報により特定された金額による第2の電子マネーを、前記暗号的安全保障された通信セッションを経由して前記「マネーモジュール(A)」に送り(以下「前記第2の金額のデータにより特定された金額による第2の電子マネーを、前記暗号的安全保障された通信セッションを経由して前記「マネーモジュール(A)」に送ること」を「第2の移転」という。)、
(j)前記「マネーモジュール(A)」及び「マネーモジュール(B)」の各々は、取引ログを無条件で更新して電子マネーの前記第1の移転と電子マネーの前記第2の移転を別々に終了させる、
ことかなら成る方法。』
との発明(以下「引用例発明」という。)が記載されている。

(1-2)引用例2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された欧州特許出願公開第542298号明細書(以下「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(E)「The Pay/Exchange application 35 supervises the sending and
receiving of electronic notes 11 between Transaction money modules
4, managing the process in which the electronic notes 11 are
properly "packaged" as to amount, digital signatures, etc. This
application provides that the electronic notes 11 are transferred
in a recognized, valid format. Notably, this is the application
that allows a money module to perform payments and foreign
exchanges. Without this application in the preferred embodiment,
a Transaction money module 4 cannot make a payment to
another Transaction money module 4.
The Tran Log Mgr. application 36 provides the management and
overseeing of a log that records completed transactions undertaken
by the money module. For each completed transfer of electronic
money, an illustrative Tran Log records:
(1) the type of transfer (i.e., payment, deposit, foreign exchange,
etc.),
(2) the date of transfer,
(3) the amount of transfer,
(4) the Issuing Bank 1 identifier
(5) the note identifier,
(6) the monetary unit,
(7) the identifier of the other money module involved in the
transaction, and for deposits, withdrawals and loan payments:
(8) the bank account number,
(9) the bank identifier, and
(10) the amount of the transaction. 」(第9頁第28行-同頁第47行)

(F)「Electronic notes 11 are comprised of three collections of
data fields, namely a Body group, a Transfer group, and a
Signatures and Certificate group. The Body group of data fields
includes the following information:
(1) the type of electronic note 11, i.e., whether it is a currency
note 11 or a credit note 11;
(2) the Issuing Bank's 1 identifier;
(3) the monetary unit identifier;
(4) a Note identifier;
(5) its date-of-issue;
(6) its date-of-expiration;
(7) the subscriber's account number (used only for credit notes 11);
(8) the amount or value of the note 11; and
(9) the Money Generator module 6 identifier. 」(第15頁第50行-第16頁第3行

なお、引用例2のパテントファミリーである特開平6-162059号公報(以下「公開公報」という。)には、図面とともに、上記記載と対応する以下の事項が記載されている。
(オ)「【0079】支払/交換アプリケーション35は、金銭取引モジュール4間における電子手形11の送信及び受信を統御し、電子手形11をその金額、ディジタル署名等について正確にパッケージするプロセスを管理する。このアプリケーションは電子手形11が認識された妥当なフォーマットにおいて伝達されるようにするものである。これは金銭モジュールが支払及び外国為替取引を行うことを許すアプリケーションであることに留意すべきである。好ましい実施例においては、このアプリケーションがなければ、金銭取引モジュール4は別の金銭取引モジュール4に支払を行うことができない。
【0080】TLM(Transaction Log Mamager)アプリケーション36は、金銭モジュールによって企てられた取引の完了を記録するログ(log)の管理及び監視を行うものである。電子マネーの各完了された移転毎の、図示のレコードは次の通りである。
(1) 移転の形式(例えば、支払、預金、外国為替取引、その他)、(2) 移転の日付、(3) 移転の金額、(4) 発行銀行1の認識番号、(5) 手形認識番号、(6) 通貨単位、(7) 取引において、及び預金、引出及び貸付金支払のために関与する他の金銭モジュールの認識番号、(8) 銀行口座番号、(9) 銀行認識番号、及び(10) 取引の金額、」(公開公報第13頁右欄第14行-同頁同欄第37行)

(カ)「電子手形11はデータフィールドの3つの集まり、いわゆる本体グループと、移転グループ、並びに署名及び証明グループからなっている。データフィールド本体グループは次の情報を含んでいる。
(1) 電子手形11の型、すなわち通貨手形11、及び信用手形11のいずれであるか、(2)発行銀行1の認識番号、(3)通貨単位の認識番号、、(4)手形認識番号、(5)その発行日、(6)その満期日、(7)加入者の口座番号(信用手形11のためにのみ用いられる)、(8)手形11の金額、及び(9)金銭発生モジュール6の認識番号、である。」(公開公報第18頁右欄第13行-同頁同欄第23行)

(2)対比
引用例発明と本願発明を比較すると、引用例発明の「マネーモジュール(A)」、「マネーモジュール(B)」、「暗号的安全保障された通信セッション」、「所有者」、「情報」、「金額」、「正しいかどうか確認する」、「電子マネー」は、それぞれ、本願発明の「第1のマネーモジュール」、「第2のマネーモジュール」、「暗号的セキュリティセッション」、「加入者」、「交換データ」、「額及び通貨単位」、「検証する」、「マネーの電子的象徴」に相当するので、両者は、
「第1のマネーモジュールと第2のマネーモジュールを使用して外国為替決済を行う方法であって、
(a)前記第1のマネーモジュールと第2のマネーモジュールの間で暗号的セキュリティセッションを確立し、
(b)第1の加入者が、第1の交換データを前記第1のマネーモジュールに送り、
(c)前記第1のマネーモジュールが前記第1の交換データを前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第2のマネーモジュールに送り、
(d)前記第2のマネーモジュールが、第2の加入者に対して、前記第1の交換データを検証することを促し、
(e)前記第2の加入者が、第2の交換データを前記第2のマネーモジュールに送り、
(f)前記第2のマネーモジュールが前記第2の交換データを前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第1のマネーモジュールに送り、
(g)前記第1のマネーモジュールが、前記第1の加入者に対して、前記第2の交換データを検証することを促し、
(h)前記第1のマネーモジュールが、第1の移転によって、前記第1の交換データにより特定された額による第1のマネーの電子的象徴を、前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第2のマネーモジュールに送り、
(i)前記第2のマネーモジュールが、第2の移転によって、前記第2の交換データにより特定された額による第2のマネーの電子的象徴を、前記暗号的セキュリティセッションを経由して前記第1のマネーモジュールに送り、
(j)前記第1及び第2のマネーモジュールの各々は、取引ログを無条件で更新して前記第1の移転と前記第2の移転を別々に終了させる、
ことかなら成る方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明では、交換データが異なる通貨単位による複数の額を含み、マネーの電子的象徴が通貨単位識別子を備えるのに対し、引用例発明では、交換データが異なる通貨単位による複数に額を含み、マネーの電子的象徴が通貨単位識別子を備えるのかどうか明記されていない点。

(3)当審の判断
(相違点1について)
上記の公開公報の記載を参考にすると、引用例2には、通貨単位の認識番号を含む外国為替取引の情報が記載されており、引用例2に記載された事項の「通貨単位の認識番号」は本願発明の「通貨単位識別子」に相当し、一度に複数の異なるデータを送信することは周知技術であるので、引用例発明において、交換データが異なる通貨単位による複数の額を含み、マネーの電子的象徴が通貨単位識別子を備えるようにすることは当業者が容易に考えられる事項である。
したがって、相違点1に係る発明は、引用例発明、引用例2に記載された事項、及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到しえたものである。

また、本願発明の効果も、引用例1、引用例2、及び周知技術に基づいて当業者が容易に予測できるものである。
したがって、本願発明は、引用例発明、引用例2に記載された事項、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「引用例1には、外国為替決済についての記載が全くない」との旨の意見を述べているが、上記(1)で述べたとおり、引用例1には、外国為替決済についての記載があるので、当該意見を前提とした審判請求人の主張を採用することができない。

(4)まとめ
したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された事項、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7.むすび
上記5.(6)で述べたとおり、請求項1-4、8-10に係る発明は明確であるとは認められないので、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしていない。
また、仮に、請求項1-4、8-10に係る発明が明確であるとしても、上記6.(4)で述べたとおり、請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された事項、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-03 
結審通知日 2007-12-10 
審決日 2007-12-21 
出願番号 特願平9-519928
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G06Q)
P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 健太郎関 博文  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 田川 泰宏
▲吉▼田 耕一
発明の名称 外国為替取引システム  
代理人 大塚 文昭  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 今城 俊夫  
代理人 小川 信夫  
代理人 中村 稔  
代理人 村社 厚夫  

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