• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B05C
管理番号 1178570
審判番号 無効2007-800140  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-07-23 
確定日 2008-05-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第3688190号発明「塗工用ロッド、その製造方法、および塗工方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3688190号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第3688190号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)についての出願は、平成12年8月2日に出願され、平成17年6月17日にその発明について設定の登録がされたものである。

本件特許発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された事項により特定される、次の通りのものと認められる。

「【請求項1】 円柱形状の外周部に螺旋状に凸条が設けられて被塗工部材の表面に所定の塗工剤を塗布する塗工用ロッドの製造方法であって、
外周面にリードが0の成形凸部が所定のピッチで複数設けられた転造ダイスを用いて、該転造ダイスの軸心をロッド素材の軸心に対して所定の傾斜角度だけ傾斜させた状態で該ロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、該ロッド素材の外周部に前記螺旋状の凸条を転造加工するに際して、該凸条のリードがピッチの2以上の整数倍で、該凸条が多条ねじのように2条以上設けられるように前記傾斜角度を設定した
ことを特徴とする塗工用ロッドの製造方法。」

2.請求人の主張
(1)請求人は、平成19年7月23日に審判請求書を提出し、本件特許発明は甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、したがって、本件特許発明は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたと主張し、証拠方法として甲第1号証乃至甲第5号証を提出している。

甲第1号証 特開平 5- 347号公報
甲第2号証 特開平 5-293580号公報
甲第3号証 特公昭38- 23466号公報
甲第4号証 社団法人 日本塑性加工学会 編、「回転加工 -転造とス ピニング-」、初版第2刷、株式会社コロナ社、1998年7 月10日発行、P.200?209
甲第5号証 特開平 7-185712号公報

(2)平成20年2月7日の口頭審理において口頭審理陳述要領書等で、多条の螺旋状山付塗工用ロッド自体は周知のことであるとし、本件特許に係る出願の審査過程において引用された文献(特開平8-285507号公報(甲第6号証)、実開平5-3266号(実開平6-63329号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を記録したCD-ROM(甲第7号証))を提示した。

(3)平成20年2月21日付け上申書において、被請求人が主張する効果については、多条山付き塗工用ロッド自体に関するものであり、塗工用ロッドの製造方法に関する発明である本件特許発明とは、関係のないことである旨、主張している。

3.被請求人の主張
(1)一方被請求人は、平成19年10月9日付け答弁書において、本件特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比して相違点を以下の3点挙げ、当該相違点により本件特許発明は明細書記載の効果を奏するものであるから、本件特許発明は甲第1号証乃至甲第5号証の存在の下においても進歩性を有し、特許法第29条第2項に規定する要件を具備するものであり、特許法第123条第1項第2号に該当するものではない旨主張している。

(2)平成20年2月7日の口頭審理において、口頭審理陳述要領書等で、本件特許発明について答弁書記載の相違点があると共に、本件特許発明についての特徴を3点主張している。

(3)平成20年2月21日付け上申書において、本件特許発明と甲第5号証記載の発明との相違点について主張している。

4.甲第1乃至5号証記載の発明
(1)甲第1号証に記載された発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平5-347号公報)には、以下のことが記載されている。

a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 2ケの転造ダイスの間にロッド素材を強制的に押込み、転造ダイスによる回転に従動しながらロッド表面に螺旋状の連続する溝を形成する塗工装置用ロッドの製造方法において、該転造ダイスの前記ロッド出口側の転造表面の一部に凸部径と凹部径の間の径を有する平滑円筒面を用いることを特徴とする塗工装置用ロッドの製造方法。」(【特許請求の範囲】、【請求項1】)

b)「【0003】これらの塗布方法のうち、ロッド塗布法は過剰の塗布液をウエブに転移させたのち、静止もしくは回転するロッドにより過剰の塗布液を掻き落とし、所望の塗布量とするものであり、簡単な装置、操作により高速で薄層な塗布が実現し得るという特徴を有するため、広く用いられている。ロッド塗布法におけるアプリケーション系としては、任意の方法を用いることが出来るが、簡易性という特色を生かすため、ローラ塗布法、とくにキス塗布法が最も一般的に用いられている。………」(段落【0003】)

c)「【0005】ロッド塗布法に使う塗工装置用ロッドには三種類あり、(1) 平滑な表面をもったロッド素材のままのもの、(2) ロッド素材にワイヤーを巻いたもの、(3) ロッド素材に溝を掘ったもの、のいずれかが用いられるが、殆どの場合はロッド素材にワイヤーを巻いた塗工装置用ロッドを使用している。 … … また、ロッド素材に溝を掘る方法としては、いくつかあるが、その一つとして転造による溝形成がある。この場合には転造ダイスの溝形状を変えることにより、塗布量を調節することができる。(実開平1-65671号公報)そして、転造加工により塗工装置用ロッドを製造するには、第4図(a)に示すような2つのダイスを組合わせて行なう場合、2つの転造ダイス表面に、該ロッド表面の溝形状と同一で、該ロッド表面の溝の凸部(第5図中A部)と凹部(第4図中B部)が逆の溝を刻むことにより達成されていた。(特願平1-271816号)」(段落【0005】)(なお、上記「(1)」、「(2)」、及び「(3)」は、原文では丸付き数字である。)

d)「【0011】(実施例-2)転造前ロッド直径φ10mmのSUS304の丸棒2を,第1図(A)に示すような転造装置によって、まず図2(A)に示すような従来と同様な表面形状を有するダイス1(P=0.3mm,h=0.05mm)を用いて転造した結果、図3(A)に示すような、従来と同様な表面形状を有する塗工装置用ロッド2bが得られた。このように加工したロッド2bを用いて、更に図2(B)に示すように溝付転造ダイス1と少くとも1つの平滑転造ダイス7を設置した転造装置によって、転造したところ、図3(B)に示すような平滑部を有する塗工装置用ロッド2cが得られた。 … … 」(段落【0011】)

e)以上のこと、並びに図1、図2及び図4の記載からみて、甲第1号証には次の発明が記載されているといえる。

「円柱形状の外周部に螺旋状の凸部が設けられてウエブの表面に塗布液を塗布する塗工装置用ロッドの製造方法であって、
転造溝付ダイス1を用いて、該転造溝付ダイス1をロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、該ロッド素材の外周部に前記螺旋状の凸部を転造加工する、塗工装置用ロッドの製造方法。」(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)

(2)甲第2号証に記載された発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である、甲第2号証(特開平5-293580号公報)には、以下のことが記載されている。

a)「【請求項1】 2つもしくは3つの転造ダイスの間にロッド素材を強制的に押込み、転造ダイスによる回転に従動しながら、ロッド表面に螺旋状の連続する溝を形成する塗工装置用ロッドの製造方法において、該転造ダイスの1つが相互に連続していない多数の溝部と頂部とを有する形状より成り、他の1つもしくは2つのダイスが平滑面より成るダイスを用いることを特徴とする塗工装置用ロッドの製造方法。」(【特許請求の範囲】、【請求項1】)

b)「【0008】本発明における溝付転造ダイスとしては、図1(c)に示すように転造ダイスの溝部5は螺旋状の連続溝の様に相互に連続したものでなく、リング状の連続していない溝より成る。溝の形状は図1(c)に1つの例を示すが、種々のロッド径及び溝部5のピッチPと,頂部5の高さCをもった形状のものが可能である。また、転造ダイスのピッチPは0.1迄のものが製作可能である。 … … 」(段落【0008】)

以上のこと、及び図1(A)乃至(C)の記載からみて、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「塗工装置用ロッドを転造により製造するに際し、外周面に、リング状の相互に連続していない頂部がピッチPで複数設けられた転造ダイスを用いて、転造ダイスをロッド素材に押圧しながら回転させることによりロッド素材の外周面に螺旋状の頂部(及び溝部)を転造加工する、塗工装置用ロッドの製造方法。」(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)

(3)甲第3号証に記載された発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(特公昭38-23466号公報)には、以下のことが記載されている。
a)「第1図Cに示すようなものを製造する場合にはあらかじめ後述するような計算によつて適正な異形のネジ溝の形を求め、このようなネジ溝を切削した全く同じ設計の一組の成形ロール1,1'を第2図及び第3図の如き配置を持たせて同方向に同速回転させ、この間を第1図aに示すごとき長尺の丸棒素材を、第2図、第3図のXX’の方向に送り込み、ネジ溝間で素材を漸次変形させるとき、その成形過程の中間における或る瞬間の形状として第1図bの如き中間形状を経てcの最終形状のものに連続成形するものである。」(甲第1号証、第1頁左欄第27?36行)

b)「本成形法に使用する成形ネジロールは第2図に示すように全く相等しい設計を行なつた2個のロール1,1'の軸をロール軸が交わる位置において水平線XX’から、ロールの最終成形部(製品排出部)におけるネジのリード角θだけ夫々図のように上下に傾け、第3図に示すように平面図において両ロール1,1'の軸が平行になるように設定する。」(同、第1頁右欄第4?9行)

c)「成形ネジロールのネジ山は成形当初区切られた素材部分が常に体積一定に保たれ且該素材部分の最小直径部がロール溝の谷底部に軽く接触し、この部分において … … この際ロールネジ溝の谷底部を結ぶ線はロール軸に平行となるようにする。」(同、第1頁右欄第10?17行)

d)「即ち、第6図に示すように製品の中心孔に近い直径の心金4を一組の本発明ロール1,1'の中央に設置し、これに適当な肉厚で内径が心金の直径に近いパイプ材3を通し、心金を案内してパイプ材をロール間に送り込めば他端より連続した製品5が送り出される。」(同、第2頁左欄第7?11行)

以上のこと、及び第1図乃至第3図、第6図の記載からみて、甲第3号証には以下の発明が記載されているといえる。

「ネジ山が外周面に設けられたロール1,1'を用いて、該ロール1,1'の軸心を丸棒素材の軸心に対してθ(θ_(0))だけ傾斜させた状態で丸棒素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、外周面に環状の大径部を所定の間隔で形成して回転体形状を有する製品を一方向に送り出すようにした、傾斜圧延式連続成形法。」(以下、「甲第3号証記載の発明」という。)

(4)甲第4号証に記載された発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(社団法人 日本塑性加工学会 編、「回転加工 -転造とスピニング-」、初版第2刷、株式会社コロナ社、1998年7月10日発行、P.200?209)には、以下のことが記載されている。

a)「9.1.1 加工方法の概略
傾斜軸転造では,図9.1に示すように,被加工材軸SWに対してロール軸SR1,SR2をそれぞれ角度θずつ互いに逆方向に傾け一定の間隔で配置する。このとき,ロールと被加工材との接触回転におけるロール転動円直径をD_(w)、ロール回転速度をn〔rpm〕,ロール転動円上の点Pの周速度をvとすると,被加工材には
v_(z)=vsinθ=πD_(w)nsinθ/60 (9.1)
の軸方向送り速度が発生する。このv_(z)によって被加工材は自動的に軸方向に送られ,スルーフィード転造が行われる。」(甲第3号証、第200頁、「9.1 傾斜転造軸」の項第1行-201頁第1行)

b)「ロール外周面には,成形すべき転造品の形状に対応した孔型(凹凸)が所定のピッチでつけられる。そのリード角をロール転動円上でβ_(R)とすると,転造品に成形されるプロフィルのリード角β_(W)は、被加工材の転動円上において,
β_(W)=β_(R)-θ (9.2)
である。ただし,ロールの回転と軸の傾斜角が図9.1に示す方向の場合にθは正で,ロール孔型が右ねじれのときβ_(R)>0,転造品プロフィルが左ねじれのときβ_(W)>0とする。したがって,θ=β_(R)とするとβ_(W)=0となってリード角のない環状の転造プロフィルが得られ、β_(R)=0とするとβ_(W)=-θのねじ状の転造プロフィルが成形される。β_(R)<0とすると、ロール孔型より大きなリード角を持った転造プロフィルを小さなロール軸傾斜角で成形できる。」(同、第201頁第2?11行)

c)「〔2〕段付き中空部品の転造 厚肉の継目なし鋼管から,図9.7に示すように,3個のロールとマンドレルを用いた傾斜転造法によって,自転車用のハブ(スリーブ)や軸受リングなどを熱間で連続的に成形する。ソビエトで開発された方法であり,中実丸棒素材から加熱,マンネスマンせん孔を経てこの方法で段付き中空部品が一貫ラインで成形される。表9.1は自転車用ハブの転造装置の主要諸元例である。」(同、第205頁第8行?第206頁第2行)

d)「〔3〕フィン付きチューブの転造 図9.8のように,3個のロールを用いた傾斜軸転造法によって,アルミニウムや銅などの軟質金属チューブの外周部に薄いフィンまたはリブを小ピッチで盛り上げて成形する。ねじ山状にリード角を持つフィンを成形する場合には,ロールは薄い円板状要素を所定のピッチで重ね合わせて一体に固定した構造をとることが多く,各円板要素の外径はロールの食込み部において入口側から出口側に向かって漸増させる。この場合,式(9.2)により,ロール軸傾斜角θはフィンのリード角(転動径上)β_(W)と等しくなる。リード角を持たない円板状フィンを成形する場合には、ロールは薄い突起をねじ山状につけたものとなり、このときのロール軸傾斜角はロール上の突起のリード角β_(R)と等しくなる。」(同、第206頁第19?28行)

e)上記a)、b)には、転造加工の技術における、ロールのリード角とロール軸の傾斜角との関係が記載されており、転造に使用するロール外周面につけられた凹凸のリード角を0とすると(β_(R)=0)、β_(W)=-θのねじ状の転造プロフィルが形成されることがわかる。

f)上記c)、d)によれば、比較的長尺の円柱状の加工品が転造加工により成形できることもわかる。

以上のことから、甲第4号証には以下の発明が記載されているといえる。

「外周面にリード角0の凹凸が所定のピッチで複数設けられたロールを用いて、該ロールの軸心を被加工材の軸心に対して該所定の角度だけ傾斜させた状態で該被加工材の外周面に押圧しながら回転させることにより、該被加工材の外周部に螺旋状の凹凸を転造加工する円柱状加工品の製造方法。」(以下、「甲第4号証記載の発明」という。)

(5)甲第5号証記載の発明について
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開平7-185712号公報)には、以下のことが記載されている。

a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、小型プリンタの印字ヘッドを移動させる確動送りロッド,連続走行する帯状支持体に塗布液を塗布する装置に用いられる塗工装置用ロッドなど、外周面に螺旋状山を有するロッドの製造方法に係り、特に、その螺旋状山を転造加工によって形成すると同時に山頂を所定の平滑面とする技術に関するものである。」(段落【0001】)

b)「【0012】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明方法を好適に実施できる転造盤の一例で、一対の転造丸ダイス10,12は、その軸心O1,O2が略水平で且つ互いに略平行となる姿勢で軸心まわりの回転可能に配設されているとともに、図示しないモータ等によって互いに同期して回転駆動されるようになっている。転造丸ダイス10,12は、転造加工すべき溝や凸条に対応する断面形状の凹凸が設けられた転造加工面14,16を外周部に備えており、その転造加工面14,16には、軸方向の一端すなわち図1の紙面の表側から食付き部,仕上げ部,および逃げ部が設けられている。転造加工すべき円柱形状のロッド素材18は、上記一対の転造丸ダイス10,12の間において、素材支持台20により軸心O1,O2と略平行な姿勢で支持されるとともに、その軸心方向、具体的には紙面の表側から裏側へ強制的に送り込まれるようになっている。これにより、ロッド素材18は、左右両側から転造丸ダイス10,12によって挟圧されるとともに、両転造丸ダイス10,12の回転に従動して軸心Ow(図3参照)まわりに回転させられ、外周面に螺旋状山が転造加工される。このようにロッド素材18を軸心方向へ強制的に送り込む通し転造では、転造丸ダイス10,12の転造加工面14,16に形成する凹凸は、所定のねじれ角でねじれていてもねじれ角が0であっても良く、ロッド素材18の送り速度は、そのねじれ角や転造丸ダイス12の回転速度に応じて、所望するねじれ角の螺旋状山が転造されるように設定される。」(段落【0012】)

c)「【0017】図4は、図1の転造盤を用いて本発明方法に従って転造加工された螺旋状山付きロッドとしての確動送りロッドの一例で、この確動送りロッド60の外周面には2本の螺旋状溝62,64がそれぞれピッチP1=15.875mmで互いに半ピッチだけずらして設けられており、図示しない印字ヘッドに設けられた貫通穴内を挿通させられるとともに、その貫通穴内面に突設された係合突起が何れかの螺旋状溝62または64と係合させられた状態で確動送りロッド60が軸心まわりに回転駆動されることにより、印字ヘッドは確動送りロッド60の軸心方向へ直線移動させられる。上記一対の螺旋状溝62,64の間には比較的浅い補助溝66が同じピッチP1で螺旋状に形成されており、それ等の溝62,64,66の間の部分には、それぞれ余肉の盛り上がりによって計4条の螺旋状山68が形成されるが、その螺旋状山68の頂には、図5の拡大断面図から明らかなように前記ロータリレスト22に押圧されることによって平滑面70が形成されている。
… … なお、転造丸ダイス10,12の転造加工面14,16には、螺旋状溝62,64を転造するために高さ寸法が1mmよりも大きい凸条が設けられているとともに、補助溝66を転造するために高さ寸法が0.35mmよりも高い凸条が設けられている。」(段落【0017】)

d)「【0019】図6は、前記ロッド素材18として直径が12.7mmのSUS304を用いて、図1の転造盤により本発明方法に従って製造した螺旋状山付きロッドとしての塗工装置用ロッド72の外周部形状を拡大して示す部分断面図で、ピッチP2=0.2mmの螺旋状山74を有するとともに、その螺旋状山74の頂にはロータリレスト22によって平滑面76が形成されている。その場合に、転造加工面14,16に深さが0.0329mmで上記螺旋状山74に対応する断面形状の凹溝が設けられた転造丸ダイス10,12を用い、高さ調整ダイヤル52により寸法Xを種々変更して転造加工を行ったところ、螺旋状山74の高さH3および平滑面76の幅Wは図7のように変化し、寸法Xを変更することによってそれ等の高さH3や幅Wを微調整できることが分かる。図7の横軸は、転造丸ダイス10,12の軸心O1,O2を通る直線Lからロッド素材18の軸心Owまでの寸法Yで、寸法Xからロッド素材18の半径rを引き算した値である。」(段落【0019】)

e)上記a)、b)からみて、小型プリンタの印字ヘッドを移動させる「確動送りロッド」及び「塗工装置用ロッド」共に、略平行に配設された一対の転造丸ダイスを使用して転造加工により製造できることがわかる。

f)上記b)より、円柱形状のロッド素材を、一対の転造丸ダイス10,12の間で挟圧するとともにその転造丸ダイスの回転に従動してロッド素材を軸心まわりに回転させることにより、そのロッド素材の外周面に螺旋状山を転造加工する点、及び、転造丸ダイス10,12の転造加工面に形成された凹凸は、「所定のねじれ角でねじれていてもねじれ角が0であっても良」いことがわかる。

g)上記c)より、複数条(2条または4条)の螺旋状山を外周面に形成された確動送りロッドの製造方法が記載されていることがわかる。

h)上記d)より、甲第5号証に記載の転造加工方法は、塗工装置用ロッドの製造にも適用可能であることがわかる。

以上のことから、甲第5号証には、次の発明が記載されているといえる。

「転造加工面14,16にねじれ角0の凹凸を設けられた転造丸ダイス10,12を用いて、該転造丸ダイス10,12により、ロッド素材を挟圧させながら回転させることにより、ロッド素材の外周面に螺旋状の山を転造加工するに際して、該山が多条に設けられるようにした、確動送りロッドの製造方法。」(以下、「甲第5号証記載の発明」という。)

(6)周知技術
a)本件特許の出願前に頒布された刊行物である、実願平5-3266号(実開平6-63329号)の願書に最初に添付された明細書及び図面の内容を記録したCD-ROM(甲第7号証)には、「本実施例のグラビアロール6における凹部9の形状は、線数が200/cmの多数螺旋状とした。」(明細書、段落【0019】)と記載されており、また、当該グラビアローラは、「ロール状の基体7を回転させ、基体7の表面8の塗工部10となる軸方向の一方の端部の位置に、線数が200/cmの多条螺旋状溝に対応させた形状を有する彫刻母型ローラ12を、押しつけるとともに、彫刻母型ローラ12を図において破線矢印にて示すように、基体7の表面8に沿って軸方向に平行に図において右方の他方の端部の位置に向けて移動させることにより、基体7の表面8に所望の形状の凹部9を形成する。」(段落【0024】)、「 なお、本実施例においては、凹部9を転造加工により形成したが、切削加工、ケミカルエッチング、レーザ加工等各種の加工方法を用いてもよく、特に、本実施例に限定されるものではない。」(段落【0025】)と記載されているから、当該グラビアロールは転造加工により形成されることがわかる。
また、当該グラビアロールは、塗工ムラの発生を防止し、平滑な塗装面を得るものである(段落【0033】、【0036】)こともわかる。

b)本件特許の出願前に頒布された刊行物である、「コーティングのすべて」(株式会社加工技術研究会編集企画、(発行人)荒木正義、(発行者)株式会社加工技術研究会、平成11年12月3日発行。以下、「周知例1」という。)には、「塗布型磁気記録メディアにおけるコーティング方式、3.グラビア方式の磁気媒体」の項に、図11として、ロッド状の塗工部材を使用したこと、及び図12(a)及び図13として、多条の凹凸を形成したグラビアロールが記載されており、また、グラビアコーターの長所として「(1)比較的薄いフィルムに全面高速塗布ができる。(2)塗布作業が容易でありながら、広幅でも幅方向に均一な塗布量が得られる。」(177頁右欄第12?15行、なお「(1)」、「(2)」は、原文では丸付き数字である。)と記載されているから、グラビアコーターは、均一な塗布を行うものであることがわかると共に、図11に記載のグラビアコータに使用されているマイクログラビアロール若しくはRodは、フィルム等被塗工材の搬送方向とは逆方向に回転するものであるから、グラビア印刷のような、グラビアロール面の凹凸を被塗工材に転写するようなものではないこともわかる。

c)また、本件特許発明の塗工用ロッドは、本件特許の明細書に記載されているように広範な用途をもつ(本件特許の明細書の段落【0024】及び図4(a)、(b)によれば、図4(a)のように塗布ロールとして使用するもの、及び図4(b)のように、計量(ドクター)ロッドとして使用するもの、何れも、塗工用ロッドである、としている)ものであること、また、その構造(円柱形状で、表面に螺旋状等の凸条を備えたもの)、機能(長尺ウエブに何らかの塗布材料を均一塗布するものである)からみて、上記a)、b)に記載されたようなグラビアロールをも包含するものと解される。

したがって、本件特許の出願前において、多条の凹凸を形成した塗工用ロッドは、周知のものであったことがわかる。

5.対比
本件特許発明と、甲第1号証記載の発明とを比較すると、甲第1号証記載の発明が備える「凸部」、「塗布液」、「転造溝付ダイス1」及び「塗工装置用ロッド」、は、本件特許発明の備える「凸条」、「所定の塗工剤」、「転造ダイス」及び「塗工用ロッド」に相当し、甲第1号証記載の発明の備える「ウエブ」は、その表面に塗布液が塗布されるものであるから本件特許発明の「被塗工部材」に相当する。

したがって、両者は、
「円柱形状の外周部に螺旋状の凸条が設けられて被塗工部材の表面に所定の塗工剤を塗布する塗工用ロッドの製造方法であって、
転造ダイスを用いて、該転造ダイスをロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、該ロッド素材の外周面に前記螺旋状の凸条を転造加工する、塗工用ロッドの製造方法。」である点一致し、以下の点で相違している。

(1)相違点1
本件特許発明が「外周面にリードが0の成形凸部が所定のピッチで複数設けられた転造ダイス」を用いるものであるのに対し、甲第1号証記載の発明は、成形用の凸部を有する転造ダイスを使用するものではあるが、そのリード角、ピッチが明らかではない点。(以下、「相違点1」という。)

(2)相違点2
本件特許発明が「該転造ダイスの軸心をロッド素材の軸心に対して所定の傾斜角度だけ傾斜させた状態で該ロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、該ロッド素材の外周部に前記螺旋状の凸条を転造加工する」ものであるのに対し、甲第1号証記載の発明は、「該ロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、該ロッド素材の外周部に前記螺旋状の凸条を転造加工する」ものではあるが、当該転造ダイスの傾斜角度が明らかではない点。(以下、「相違点2」という。)

(3)相違点3
本件特許発明が、転造加工に際し「該凸条のリードがピッチの2以上の整数倍で、該凸条が多条ねじのように2条以上設けられるように前記傾斜角度を設定」したものであるのに対し、甲第1号証記載の発明では、この点が不明である点。(以下、「相違点3」という。)

6.当審の判断
以下、上記各相違点について検討する。

(1)相違点1について
本件特許発明及び甲第1号証記載の発明と同様の塗工用ロッドを製造する技術として甲第2号証記載の発明があり、当該甲第2号証記載の発明が備える「頂部」は、本件特許発明が備える「凸部」に相当し、また甲第2号証記載の発明において当該「頂部」が「リング状で相互に連続していない」ことは、すなわち「リード角が0」であることであるから、甲第2号証記載の発明を本件特許発明とあわせて記載すると「外周面にリードが0の成形凸部が所定のピッチで複数設けられた転造ダイスを用いて、転造ダイスをロッド素材に押圧しながら回転させることによりロッド素材の外周面に螺旋状の凸条を転造加工する塗工用ロッドの製造方法。」となる。

当該甲第2号証記載の発明を、同じ塗工用ロッドの転造加工による製造方法に関する技術である甲第1号証記載の発明の転造ダイス部に採用し、相違点1に係る本件特許発明のようにすることは、当業者にとりごく普通に想到する程度のことにすぎない。
なお、甲第5号証にも、外周面に複数の凸条をそなえたロッド状部材の転造加工による製造に際して、ねじれ角0の転造加工面を使用することが記載されており(段落【0012】)、このことからみても、当該「リード角0」の成形用凹部が所定のピッチで設けられた「転造ダイス」を採用することは、当業者にとりごく普通に想到する程度のことであったと考えられる。

(2)相違点2について
甲第4号証に記載されているとおり、転造加工技術において、ロール上の転造凹凸のリード角(β_(R))、軸の傾斜角(θ)、及び成形品の傾斜角(転造品プロフィルβ_(W))が「β_(W)=β_(R)-θ」(式(9.2))の関係を有すること、及び、ロール上の転造凹凸のリード角(β_(R))を0としたことは、ともに転造加工においてよく知られたことであり、甲第4号証記載の発明が備える「ロール」、「凹凸」及び「被加工材」は、それぞれ本件特許発明の備える「転造ダイス」、「成形凸部」及び「ロッド素材」に相当するのであるから、当該甲第4号証記載の発明を本件特許発明にあわせて記載すると、「外周面にリードが0の成形凸部が所定のピッチで複数設けられた転造ダイスを用いて、該転造ダイスの軸心をロッド素材の軸心に対して所定の傾斜角度だけ傾斜させた状態で該ロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、該ロッド素材の外周部に前記螺旋状の凸条を転造加工する転造加工方法。」となり、上記相違点2に係る本件特許発明を示すものである。
甲第1号証、甲第2号証または甲第5号証に記載があるように、塗工用ロッドを転造加工により製造することがこの出願前において周知であったことを考慮すると、甲第4号証記載の発明のような転造加工技術を、甲第1号証記載の発明の塗工用ロッドの転造加工に転用し、上記相違点2に係る本件特許発明のようにすることは、当業者にとり、格別の創作力なく相当する程度のことにすぎない。

(3)相違点3について
周知技術として指摘したように、外周に複数条の突条が略平行状に設けられた塗工用ロッドは周知のものである。
また、甲第5号証において多条のロッドとして記載されたものは「確動送りロッド」であるが、甲第5号証において「確動送りロッド」と「塗工装置用ロッド」とは並列に記載されているように、転造加工という加工技術からみた場合、「確動送りロッド」と「塗工装置用ロッド」は技術的に極めて類似のもので、同様の加工方法で加工できることを示唆するものである。
さらに、周知の塗工用ロッドについて、転造加工により製造する場合、そのリードとピッチの関係は、リードは凸条(及び溝)の数、幅等に応じて定まるものであるから、複数存在する凸条を周知の塗工用ロッドのように並列配置するようにすると、自然に「ピッチの整数倍」となるものと考えられる。
してみると、上記相違点3に係る本件特許発明は、甲第1号証記載の発明により、甲第5号証記載の発明の示唆の下、周知の多条塗工用ロッドを製造するようにした結果、当然生起したことを記載したにすぎないと解される。

また、被請求人が本件特許発明のようにした結果生じたと主張する本件発明の、a)曲げ剛性が高い形状が得られる、b)高能率で転造可能な形状を得られる、c)塗工能率が高い形状が得られる、なる効果については、いずれも当該塗工ロッドの形状に基づくことばかりであり、多条の塗工用ロッド自体が周知である以上、被請求人の主張する効果についても、当該周知の塗工用ロッドの形状が本来有していたことすぎず、本件特許発明において格別顕著なものとは認められない。

その他、本件特許発明のようにした結果、全体として、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明及び上記周知技術から予測されないような効果が生じたものとも認められない。

7.むすび
以上のことから、本件特許発明は、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当する。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。

よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2008-03-26 
結審通知日 2008-03-31 
審決日 2008-04-14 
出願番号 特願2000-234311(P2000-234311)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (B05C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 村山 禎恒  
特許庁審判長 早野 公惠
特許庁審判官 西本 浩司
深澤 幹朗
登録日 2005-06-17 
登録番号 特許第3688190号(P3688190)
発明の名称 塗工用ロッド、その製造方法、および塗工方法  
代理人 富崎 元成  
代理人 池田 治幸  
代理人 池田 光治郎  
代理人 町田 光信  
代理人 円城寺 貞夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ