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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  E02B
管理番号 1179067
審判番号 無効2006-80039  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-03-06 
確定日 2008-03-03 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3749833号「コンクリート製の水路壁面改良工法」の特許無効審判事件についてされた平成19年1月16日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において、本件の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とするとの部分を取り消す旨の決定(平成19年(行ケ)第10081号 平成19年6月20日決定)があったので、当該取り消された部分につきさらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3749833号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、その3分の1を請求人の負担とし、3分の2を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件は、平成13年1月30日(優先権主張、平成12年2月3日及び平成12年6月30日)に出願され、平成17年12月9日に特許登録がなされたものである。
2.平成18年3月6日に、審判請求人より請求項1、2及び4に係る発明についての特許を無効にすることを求める本件無効審判が請求され、被請求人より平成18年5月26日に、請求項4及び請求項4に関する明細書の段落【0014】、【0032】、【0079】、【0080】についての訂正請求がなされ、特許庁において平成19年1月16日に、「訂正を認める。特許第3749833号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。特許第3749833号の請求項4に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」とする審決(以下、「第1審決」という。)がなされた。
3.被請求人は、上記第1審決の「特許第3749833号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。」との部分の取消しを求め、知的財産高等裁判所へ出訴(平成19年(行ケ)第10081号)し、その後、平成19年5月11日付けで訂正審判(訂正2007-390059)を請求したところ、平成19年6月20日に、「『特許第3749833号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。』との部分を取り消す。」という一部取消の決定がなされ、当該決定は確定した。
当該決定において、本件審決のうち「特許第3749833号の請求項4に係る発明についての審判請求は成り立たないとの部分が確定したことに伴って本件審決中訂正を認めるとの部分も確定したものと解するのが相当である」旨判示された。
4.被請求人より平成19年8月9日に訂正請求がなされ(特許法第134条の3第5項の規定により、同条第2項の規定により指定された期間の末日である平成19年8月9日に、訂正2007-390059の審判請求書に添付された特許請求の範囲、明細書を援用した本件無効審判の「訂正の請求」がされたものとみなす。以下、上記審判請求書を「訂正請求書」、上記審判請求書による訂正の請求を「訂正請求」、上記審判請求書に添付された訂正明細書を「訂正明細書」という。)、これに対し、平成19年10月3日付けで審判請求人により弁駁書(第2回)が提出され、当審において、平成19年10月24日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、被請求人より平成19年11月28日付けで意見書が提出された。
第2 当事者の主張
1.請求人の主張
(1)審判請求人は本件の特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とすることを求め、その理由として審判請求書及び平成18年6月21日付け弁駁書において、次のように主張するとともに、証拠方法として、下記の甲第1号証ないし甲第9号証、甲第3号証の1、甲第5号証の1及び2を提出した。
(2)審判請求人はさらに、平成19年10月3日付け弁駁書(第2回)において、訂正請求は認められない旨主張し、証拠方法として甲第10号証を提出した。
[無効理由]
本件の特許請求の範囲請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、同法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。
[証拠方法]
(請求書添付)
甲第1号証:特開平11-172654号公報
甲第2号証:特開平8-259294号公報
甲第3号証:月刊誌「建築仕上技術」、株式会社工文社発行、工学博士西忠雄監修の昭和59年2月号(Vol9.No.103)に掲載された「コンクリート外壁面接着増強剤エマルション塗布型工法によるモルタル塗装仕上げの経年変化実態調査報告」の抜粋
甲第4号証:技術資料「土木建築用途へのスミカフレックス(マルR)の応用」住友化学工業株式会社
甲第5号証:特開平11-36315号公報
甲第6号証:特開平1-126251号公報
甲第7号証:特開平9-242342号公報
甲第8号証:特開昭59-72349号公報
甲第9号証:特公平4-67546号公報
(平成18年6月21日付け弁駁書添付)
甲第3号証の1:月刊誌「建築仕上げ技術」、1989年1月号「モルタル接着増強剤塗布工法の考察」、58?68頁
甲第5号証の1:特願平9-207299号(甲第5号証参照)の平成12年2月18日付け手続き補正書
甲第5号証の2:特願平9-207299号(甲第5号証参照)の平成13年7月18日付け拒絶理由通知書
(平成19年10月3日付け弁駁書(第2回)添付)
甲第10号証:住宅・都市整備公団「保全工事共通仕様書」平成10年版 平成10年6月1日発行、75?76頁
2.被請求人の主張
(1)被請求人は、平成18年5月26日付け答弁書において、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、請求項1及び2に係る発明が具備する構成である「塗工工程では、非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後にセメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなる高弾性特殊モルタルを塗工」する点は、甲第1号証ないし甲第9号証のいずれにも記載されていないと主張するとともに、証拠方法として下記の乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。
(2)また、被請求人は、訂正請求書において、訂正後の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものではない旨主張している。
(3)さらに、被請求人は、平成19年11月28日付けの意見書において、平成19年5月11日付けの訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2に係る発明を変更するものではない旨主張している。
[証拠方法]
乙第1号証:「土地改良長期計画」平成15年10月10日 閣議決定
乙第2号証:*1 2003(平成15)年10月閣議決定 農林水産省発行「土地改良長期計画」、*2 香川県満濃池土地改良区内試験施設施工工事で国営事務所提供によって標示されている看板
乙第3号証:「ゼム・ライナー更新工法」チラシ 株式会社 アース・ストーン
乙第4号証:「非破壊用水路施工マニュアル」(株)アース.ストーン
乙第5号証:「CTA 技術評価表」社団法人 日本工業技術振興協会技術評価情報センター(CTA)
乙第6号証:「工法比較表」
乙第7号証:「従前改修法」と「非破壊 新改修工法」との比較
第3 訂正の適否
1.本件の特許明細書
本件特許第3749833号については、上記第1 3.のとおり、平成19年(行ケ)第10081号の決定において、「訂正を認める。」との部分は確定している旨判示された。
したがって、願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)は、平成18年5月26日付け訂正請求書に添付された訂正明細書に記載されたとおりのものである。
2.訂正の内容
平成19年8月9日になされた訂正請求は、特許明細書を訂正明細書のとおり訂正しようとするものであり、当該訂正請求には、請求項1ないし3を次のとおりとする訂正事項が含まれている。
「【請求項1】
水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分に、セメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなる高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程とを具備すると共に、
塗工工程では、非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に上記高弾性特殊モルタルを塗工して上記高弾性特殊モルタルによる下地塗工面を形成する工程と、この下地塗工面に上記樹脂系水性接着剤を塗布して乾燥させた後に上記高弾性特殊モルタルを塗工する工程を具備し、
同高弾性特殊モルタルに、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力と、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力とを発現させることを特徴とするコンクリート製の水路壁面改良工法。
【請求項2】
塗工工程にて塗工した塗工面に補強用炭素繊維シートを貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面に高弾性特殊モルタルを塗工する補強工程を具備することを特徴とする請求項1記載のコンクリート製の水路壁面改良工法。
【請求項3】
水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分に、セメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなる高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程とを具備すると共に、
塗工工程では、非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に上記高弾性特殊モルタルを塗工して、同高弾性特殊モルタルに、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力と、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力とを発現させるコンクリート製の水路壁面改良工法において、
塗工工程にて塗工した塗工面に、薄肉板状の石材を同塗工面の略全面にわたって張設する補強工程を具備することを特徴とするコンクリート製の水路壁面改良工法。」
3.訂正拒絶理由の概要
当審において、平成19年10月24日付けで通知した訂正拒絶の理由は、概略次のとおりである。
(1)請求項1に係る訂正事項は、特許法第134条の2第1項ただし書き各号のいずれを目的とする訂正にも該当しない。
(2)請求項1に係る訂正事項は、訂正前の請求項1に係る発明の「塗工工程」の内容を実質的に変更するものであり、さらに請求項1を引用する請求項2に係る発明の「塗工工程」の内容をも実質的に変更するものであるから、特許法第134条の2第5項で準用する特許法第126条第3項の規定に違反する。
4.訂正の適否についての判断
(4-1)上記訂正事項のうち、請求項1に係る訂正事項(以下、「訂正事項A」という。)の目的について検討する。
訂正前の請求項1に係る発明の「高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程」は、「非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に上記高弾性特殊モルタルを塗工して、同高弾性特殊モルタルに、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力と、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力とを発現させる」ものである。
一方、訂正後の請求項1に係る発明の「高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程」は、「非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に上記高弾性特殊モルタルを塗工して上記高弾性特殊モルタルによる下地塗工面を形成する工程と、この下地塗工面に上記樹脂系水性接着剤を塗布して乾燥させた後に上記高弾性特殊モルタルを塗工する工程を具備し、同高弾性特殊モルタルに、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力と、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力とを発現させる」ものである。
そうすると、訂正事項Aは、「高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程」を、訂正前の「樹脂系水性接着剤」及び「高弾性特殊モルタル」をそれぞれ1回塗工するものから、訂正後の「樹脂系水性接着剤」及び「高弾性特殊モルタル」をそれぞれ2回塗工するものに変更するものであるから、訂正前の請求項1に係る発明を限定するものとはいえず、訂正事項Aは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当しない。
また、訂正前の請求項1に記載の「塗工工程」の内容は明確であり、上記訂正事項は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものともいえない。
さらに、上記訂正事項Aは誤記の訂正を目的とするものでもない。
したがって、訂正事項Aは、特許法第134条の2第1項ただし書き各号のいずれにも該当しない。
(4-2)上記訂正事項のうち、請求項3に係る訂正事項(以下、「訂正事項B」という。)の目的について検討すると、訂正事項Bは、請求項1が訂正されたことに伴い、訂正前の請求項1を引用していた請求項3に係る発明を独立形式で表現したものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正と認める。
5.特許請求の範囲の拡張、実質的な変更の有無
上記のとおり、訂正事項Aにより、請求項1に係る発明の「高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程」は、訂正前の「樹脂系水性接着剤」及び「高弾性特殊モルタル」をそれぞれ1回塗工するものから、訂正後のそれぞれ2回塗工するものに変更されている。
さらに、請求項1の訂正にともない、請求項1を引用する請求項2に係る発明は、訂正前の「下地処理工程」-「高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程」-「補強工程」を具備するものから、訂正後は「下地処理工程」-「高弾性特殊モルタルを塗工する下地塗工工程」-「高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程」-「補強工程」を具備するものとなり、「補強工程」の前の「高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程」が1回のものから2回のものに変更されている。
したがって、上記訂正事項Aは、請求項1及び2に係る発明を実質的に変更するものであり、特許法第134条の2第5項で準用する特許法第126条第3項の規定に適合しない。
6.むすび
以上のとおり、訂正事項Aは、特許法第134条の2第1項ただし書き各号のいずれにも該当せず、かつ、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項の規定に適合しないから、平成19年8月9日になされた訂正請求は認めない。
第4 無効理由の判断
1.本件発明
上記のとおり、平成19年8月9日になされた訂正請求は認められないから、本件特許第3749833号の請求項1、2に係る発明(以下順に、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
[本件発明1]
「水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分に、セメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなる高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程とを具備すると共に、
塗工工程では、非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に上記高弾性特殊モルタルを塗工して、同高弾性特殊モルタルに、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力と、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力とを発現させることを特徴とするコンクリート製の水路壁面改良工法。」
[本件発明2]
「塗工工程にて塗工した塗工面に補強用炭素繊維シートを貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面に高弾性特殊モルタルを塗工する補強工程を具備することを特徴とする請求項1記載のコンクリート製の水路壁面改良工法。」
2.各証拠の記載事項
(1)甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】U字状を成すコンクリート水路において、水路の底壁部(3)又は側壁部(4)のいずれか一方又は双方に生じた損傷箇所(S)に、補修部材(2)を施して水路の形状を整え、さらに上側から溶剤を混入しないポリウレタン樹脂塗料を、水路壁部の内面側に厚く塗布し、膜厚の厚い塗膜層(1)を形成することを特徴とするコンクリート水路の補修工法。」
(1b)【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はコンクリート水路における損傷箇所の補修工法に関する。」、
(1c)「【0004】本発明の目的とするところは、損傷が激しい水路や老朽化の進んだ古い水路においても、水路を新しく作り直すことなく、補修を施すだけで長期間に亘る使用を可能にするコンクリート水路の補修工法を提供することにある。」、
(1d)「【0007】…コンクリート水路の補修工法の全体説明をする。コンクリート水路をU字状に構成する底壁部3或いは側壁部4,4のいずれか一方又は双方に生じた損傷箇所Sに、補修部材2であるコンクリート或いはモルタルを施して水路の形状を整え、さらに上側から溶剤を混入しないポリウレタン樹脂塗料を、水路壁部の内面側に厚く塗布し、膜厚の厚い塗膜層1を形成する。」、
(1e)「【0008】補修部材2として用いるコンクリート或いはモルタルは、上記課題で示した諸原因により損なわれた水路壁部の形状を整えるために施されるもので、以下にその施工工程を示す。まず、既設コンクリート水路の損傷箇所Sから劣化したコンクリートを削り取り、補修部材2を水路の底壁部3又は側壁部4,4のいずれか又は双方に発生した損傷箇所Sに、損傷の状態に合わせて施し、水路壁部の形状を整える。…」、
(1f)「【0010】上記性質である溶剤を混入しないポリウレタン樹脂塗料を、補修部材2により形状を整えたコンクリート水路壁部に塗布し、塗膜層1を形成する施工工程を、以下に示していく。まず、コンクリート水路壁部の内面側に塗膜層1を固着させるための下地処理を施す必要があり、水路の底壁部3内面側又は側壁部4,4のいずれか一方又は双方の全域に亘り、高圧水により洗浄し、且つ両者の壁面を塗膜層1の固着を緊密にするために粗面に仕上げた後、エア-で壁面の水を吹き飛ばすと共に、壁面をバーナーで強制乾燥させる。さらに水路内に滞っているゴミや、洗浄の工程で生じたコンクリート片を十分に清掃して除去する。上記のように下地処理を施したコンクリート水路に、塗膜層1の固着をさらに緊密で強力なものにするため、下塗り工程を施す。下塗り工程として商品名ミゼロンシーラーU-60(三井金属塗料化学株式会社製造)を、1m^(2)あたり0.1?0.3kgの割合でエアレス塗装又は刷毛塗りにより、含浸させる程度に塗布する。尚、下塗り工程に用いるミゼロンシーラーU-60は、一液型ポリウレタン樹脂塗料で、組成は湿気硬化型ポリウレタン樹脂と芳香族系炭化水素系溶剤とエステル系溶剤を適応配合したものである。下塗り工程の後に、上塗り工程としてミゼロンS-100/A-1000を専用塗装機により、水路の側壁部に塗布する場合は膜厚が1.0cm厚で行い、また底壁部に塗布する場合は、膜厚が2.0cm厚になるように吹き付けて塗布する。」
(1g)「【0013】第2実施形態の水路の補修工法は、図2に示すように、まず側壁部4,4内面側における損傷箇所Sに、接着剤を塗布した後に補修部材2としてモルタルを施し、壁面が平面を成す側壁部4,4を形成する。次に養生を行い、側壁部4,4内面側及び側壁部上端面5,5の全域に、ミゼロンを前記した塗膜層1の施工工程に則って塗布し、塗膜層1を形成する。…
【0014】第3実施形態の水路の補修工法は、図3で示すように、側壁部4,4の一部分が欠けた状態の損傷箇所Sに型枠をあてて補修部材2を施し、形状を整えた側壁部4,4を形成する(モルタルを施す場合はモルタル専用の接着剤を使用する)。次に養生後、損傷箇所Sと補修部材2との接着面を完全に覆うように、側壁部4,4の内面側及び側壁部上端面5,5、側壁部4,4外面側9における地面Nからの露出部分の全域に亘り、ミゼロンを前記した塗膜層1の施工方法に則って塗布し、塗膜層1を形成する。
【0015】第4実施形態の水路の補修工法は、図4で示すように、水路壁部の内面側の至るところに生じている損傷箇所Sに補修部材2を施し、水路壁部内面側の全域に亘って平面を成す形状にする。次に養生を行った後、水路壁部の内面側全域及び両側の側壁部4,4の上端面5,5に亘り、ミゼロンを前記した塗膜層1の施工方法に則って塗布し、塗膜層1を形成する。」
(1f)「【0016】
【発明の効果】本発明による効果は,損傷箇所に補修部材を施して水路の形状を整え、さらに上側に溶剤を混入しないポリウレタン樹脂塗料を塗布して形成した膜厚の厚い塗膜層によって、水路壁部において外界からの水の浸透を防ぐことができ、それに伴い水路壁部の伸縮を最小限に抑えられるために、補修部材であるコンクリート或いはモルタルの亀裂や剥離を防ぐことが可能である。また損傷が激しく、且つ老朽化したコンクリート水路でも、前記した補修工法を施せば、既設の水路を取り壊して新しい水路を作り直すことなく、補修後も長期間に亘る使用に耐え得るコンクリート水路を提供することが可能である。」。
上記記載事項及び図面の記載を総合すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「コンクリート水路において、水路の底壁部3又は側壁部4,4に発生した損傷箇所Sから劣化したコンクリートを削り取る工程と、損傷箇所Sに、モルタルからなる補修部材2を施す工程と、溶剤を混入しないポリウレタン樹脂塗料の塗膜層1を塗布する工程を具備すると共に、補修部材2を施す工程では、損傷箇所Sに接着剤を塗布した後に上記モルタルを施すコンクリート水路の補修工法。」(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)
(2)甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】セメント、乾燥した骨材、粉末状水溶性樹脂、減水剤粉末、及び消泡剤粉末を含有した無水の混合粉末と水を混合することを特徴とするコンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物。」、
(2b)「【請求項3】更に、長さ3mm乃至30mmの繊維分を、セメント1に対し、重量比で0.002?0.06の範囲で含む請求項1又は2記載のコンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物。」、
(2c)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は既設のコンクリート構造物やセメントモルタルを使用した構築物等の劣化した部分を補修するに際して、好適なコンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物に関する。」
(3)甲第3号証には、次の事項が記載されている。
(3a)「1.まえがき
本調査は、鉄筋コンクリート建築物の外壁モルタル仕上げに対し、コンクリート面の接着増強剤エマルション塗布型工法(NSハイフレックスHF-1000(日本化成(株)製品を使用)で施工した建築物について、その経年変化追跡調査を実施し、その実態調査結果を報告する。」(2頁左欄1?6行)、
(3b)「3.調査項目
建築物条件
(1)所在地=大阪市内のRC造り10階建て
(2)モルタル経時年数=●モルタル施工は「NSハイフレックスHF-1000」の3倍液塗布型工法で、1973年10月に行われ、本追跡調査は1983年6月21日行われた。約10年の経過である。●モルタルは3層仕上げ(25mm塗厚)。
(3)外装仕上げ=新築時は複層模様吹付剤(Eタイプ)仕上げで、1980年4月に弾性吹付材仕上げで改装され、現在に至る。」(2頁左欄下から9行?右欄1行)、
(3c)「6.考察
(1)モルタル経年後の接着力測定追跡調査結果では、コンクリート層破壊およびモルタル塗継ぎ面からの破断で、コンクリート界面からの破断はなく、非常に良好な接着状態であった。塗布工法によるモルタル塗装仕上げ10年経過後の今回の実態調査では、コンクリートと塗継ぎモルタルが一体であることが確認できた。

(5)試験片Aを塩酸処理剥離させた「NSハイフレックスHF-1000」のポリマーフィルムは、完全な連続皮膜ではなく網の目のような皮膜であることが目視で観察できた。「NSハイフレックスHF-1000」のポリマーフィルムは透過性があるので、同材料をコンクリート面に塗布するとガラス板面に塗布するような場合と異なり、コンクリート面の凹凸やコンクリートのポーラスな部分に不均一で欠陥部をもつフィルムが生成され、さらに打継ぎモルタルを金鏝で加圧し塗りつける時に、薄いポリマーフィルムはセメントや砂の粒子により破壊され、最終的にポリマーフィルは網目構造となるのであろう。…」(8頁目左欄4行?9頁目左欄5行)
(3d)「7.別件の塗布工法による外壁リシン吹付け仕上げの経年(11年)変化実態調査報告
(1)調査項目
建築物条件
a.所在地=名古屋市内RC造6階建て
b.モルタル仕様
●NSハイフレックスHF-1000=1:水=2の3倍液塗布…
●モルタル配合 下塗-1:2プレーン…
上塗-1:3プレーン…
●仕上げ アクリルリシン吹付仕上げ
●施工年月 1971年4月
c.追跡調査 1982年7月14日
d.経時年数 11年3ヶ月…」(9頁目右欄1?15行)、
(3e)「8.まとめ
外壁塗布型工法の打継ぎモルタル施工後10年および11年経過した実際の建築物について追跡調査を実施した結果、「NSハイフレックスHF-1000」のEVAポリマーはコンクリート、モルタル中に長期にわたり存在しても劣化は認められず、ポリマーフィルムが網目構造であることから、下地コンクリートと打継ぎモルタルの接着は、ポリマーフィルムと打継ぎモルタルのセメント硬化物による有機と無機が一体となった相乗効果から長期に安定した接着性能が発揮していることが、今回2件の実際の施工物件で確認できたことを報告する。」(10頁目右欄4?14行)。
(3f)3頁目左下の「モルタル接着力測定断面図」には、コンクリート面にNSハイフレックスHF1000を塗布し、その上からモルタルを施工した態様が示されており、NSハイフレックスHF1000をモルタルとコンクリート面との接着剤として使用した態様が示されている。
(4)甲第4号証には、「土木建築用途へのスミカフレックス(マルR)の応用」(1頁表題)に関し、次の事項が記載されている。
(4a)スミカフレックス(マルR)は、酢酸ビニル-エチレンコポリマーエマルジョン(以下VAEエマルジョンという)で、ポリ酢酸ビニルとポリエチレンの長所をそれぞれ兼備したポリマーであること(1頁左欄1?6行)。
(4b)「モルタル接着増強剤としてのスミカフレックス(マルR)の応用」(3?5頁」の項に、合成樹脂エマルジョンは、新旧コンクリートあるいはモルタルの打継ぎにおいて既設の旧コンクリート面にエマルジョンを塗布し、その上に新しいモルタルをかける場合に用いられること(3頁左欄1?8行)、エマルジョン塗布により接着性が改良されるのは、コンクリート面などの多孔質面にエマルジョン粒子が浸透し、機械的なからみ合いが生じると同時に、形成された均一なフィルムがモルタルの急速な脱水を防止し、モルタルの硬化を均一にするためであること(3頁左欄下から5行?右欄2行、第7図)。
(4c)「モルタル混和用途へのスミカフレックス(マルR)の応用」(5?8頁)の項に、コンクリート、モルタルにエマルジョン、ラテックスを混入して改質する試みはポリマーラテックスとして実用化されており、使用されるエマルジョン、ラテックスの中でもVAEエマルジョンは耐水、耐アルカリ、耐候(光)性にすぐれるため最近注目されていること(5頁左欄下)。
(5)甲第5号証には、「張りブロックの製造に最適な強化モルタル」に関し、次の事項が記載されている。
(5a)「【0033】上記の張りブロックの製造に際しては、下記の配合の強化モルタルを使用することが望ましい。
【0034】
セメント 884 キログラム
砂 1163 キログラム
ガラス繊維(…繊維長19?25ミリメートル) 16.3キログラム
酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン(…商品名スミカフレックス)
32.6キログラム
減水材(…) 4.1キログラム
消泡材(…) 3.3キログラム
水 286 キログラム」
(6)甲第6号証には、次の事項が記載されている。
(6a)「<産業上の利用分野>
本発明はセメント組成物に関するものである。さらに詳しくは特定のエチレン-第3級脂肪酸ビニルエステル-酢酸ビニル共重合体エマルジョンをセメント組成物に混入することにより柔軟性、接着性とその耐久性にすぐれ、コンクリート構造物の耐久性向上材として仕上材、防水材、下地調整材、接着剤等に利用できるセメント組成物に関する。」(1頁左下欄14行?右下欄1行)、
(6b)「<従来の技術>
セメントコンクリート構造物は古くから半永久的な耐久性を持つものとして土木、建築分野で広く使用されているが、近年コンクリート構築物の中性化、クラック、骨材による塩害、アルカリ骨材反応などから早期にコンクリートが劣化する問題がクローズアップされている。これらの問題に対して耐久性向上保護材、改修材、補修材がいろいろ検討されているが、それらの一つとしてコンクリートのクラックに追随できるポリマーセメントモルタルが期待されている。従来一般に公知のポリマーセメントモルタルは接着性改良を主体に曲げ、引張強度および水密性、気密性、摩耗性などを向上させるため、セメントモルタルに合成樹脂エマルジョン合成ゴムラテックスなどを混入したものであり、中でも合成樹脂エマルジョンのうちエチレン-酢酸ビニル系共重合樹脂エマルジョンがセメントのなじみにすぐれ、さらに各種下地に対する接着性がすぐれることから大量に使用されている。しかしながらこれらのものはコンクリートのクラックに追随できるような柔軟性や伸びを持つまでに到っていない。
特公昭47-33054号公報では、酢酸ビニル成分の含量60?90重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョンがセメントに対し樹脂固形分として2?40重量%の割合で混入せられてなる改質されたセメント製品が提示されている。かかるセメント組成物では、クラックへの追随性を付与することができず、特に低温時に皮膜の伸びが著しく小さくなり使用に耐えない。」(1頁右下欄2行?2頁左上欄10行)、
(6c)「<発明が解決しようとする問題点>
上記の実状に鑑み、本発明が解決しようとする問題点、すなわち本発明の目的は、セメント組成物を調製する時、気泡の混入が少なくセメント硬化物がコンクリートに追随出来る高柔軟性と伸び、さらにそれらの温度の影響が小さく、またさらに付着力にすぐれるセメント組成物を提供することにある。」(2頁右上欄18行?左下欄5行)、
(6d)「本発明におけるセメント組成物はセメントとエチレン-第3級脂肪酸ビニルエステル-酢酸ビニル共重合体エマルジョンのほかに一般にセメント組成物に用いられる山砂、川砂、珪砂などの骨材、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、石粉などの充填材、ガラス繊維、スチールファイバー、カーボンファイバー、プラスチックファイバーなどの繊維状物質、流動化剤、減水剤、防水剤、消泡剤など用途や作業性などによって混入することができる。」(4頁右上欄3?11行)。
(7)甲第7号証には、次のことが記載されている。
(7a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、コンクリートによる橋脚や建築物等の既設構造物の老朽化、および建築基準法や耐震基準の見直しに伴なう補強方法に係り、特に炭素繊維強化プラスチックシートによる構造物の補修方法に関する。」、
(7b)「【0002】
【従来の技術】近年、高強度の材料として開発された炭素繊維はヤング率等が鉄筋の10倍の強度を有するにも関わらず軽量で、化学的にも非常に安定しているが、1本の直径が7μmの細い繊維であるために、複数本並列させてエポキシ系樹脂のようなプラスチックで固めて平織り状に成形した炭素繊維強化プラスチックとしてスポーツ用品や航空機の翼などに使用されているのが現状である。
【0003】炭素繊維はこのような優れた性質を持つために、鉄筋コンクリートのような構造物の補強においても炭素繊維の持つ優れた性質を生かす方法として長年の使用により老化した構造物に樹脂を塗って炭素繊維を貼り、さらに構造物の耐用年数の延長を図るようにすることが行われている。
【0004】その補強の具体的方法は、図4に示すように長年の使用により粗雑になった構造物aの表面を、まず不陸調整パテbにより平坦にしたのち、その表面にエポキシ系樹脂cにより(図4では上下に示すように)包まれて固められた炭素繊維dを貼るようにしたものであり、したがって構造物aと炭素繊維dとの間には樹脂cが介在した構造となっている。」、
(7c)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】このように構造物にエポキシ系樹脂を直接塗布して炭素繊維を貼る従来の方法は以下に示すような種々の欠点がある。
【0006】1)構造物がセメントコンクリートで構成されている場合、セメントコンクリートの持つ弾性係数は炭素繊維の持つ弾性係数とかけ離れており、構造物の受ける力が炭素繊維に伝わり難い。」、
(7d)「【0016】
【発明の実施の形態】本発明にかかる補修方法の一実施形態を以下に示す図面を参照して説明する。図1は請求項1にかかる炭素繊維強化プラスチックシートによる構造物の補修方法の第1実施形態を示す断面による説明図で、以下番号順に補修方法の手順を述べる。
【0017】1)粗雑になったコンクリート構造物1の表面に早強性セメントモルタル2を塗布して表面を平らにしたのち、その上からそのセメントモルタル2が固まる前に炭素繊維シート3を当接させて貼付ける。
【0018】2)つぎに炭素繊維シート3にエポキシ系樹脂4を含浸させ、樹脂4が固まることにより炭素繊維強化プラスチックシート5が得られる。
【0019】3)そのエポキシ系樹脂4が固まる前に炭素繊維シート3の表面にさらに早強性セメントモルタル2を塗布し、表面仕上げすることで補修が完了する。
【0020】これにより早強性セメントモルタル2と炭素繊維強化プラスチックシート5とは複合一体化される。」。
(8)甲第8号証には、次のことが記載されている。
(8a)「本発明は建造物の壁面に表装を施こすとともに亀裂の発生を防止する表装方法に関する。」(1頁右下欄1?2行)、
(8b)「実施例3
実施例2で用いた樹脂加工されたガラス繊維製織物をセメントモルタル製の壁面に、エチレン-酢酸ビニル共重合エマルジョンをセメントに対して固形分で10パーセントの割合で混入させ、少量の細骨材とともに混練して作成したセメントペーストを用いて貼着し、十分乾燥しないうちに前記セメントペーストを表面にローラーで塗布乾燥したのち、アクリル樹脂溶剤型塗料を塗布して仕上げた。」(3頁右上欄3?12行)。
(9)甲第9号証には、次のことが記載されている。
(9a)「補修すべきセメント系硬化物下地壁面に合成樹脂の混入されたモルタルを適宜の厚さに塗着し、その塗着面に寒冷紗等の網体を当接し、鏝圧をかけつつモルタルの移動を促しながら前記網体を塗着面下に埋入することを特徴とするセメント系硬化物壁の補修方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(9b)「(産業上の利用分野)
本発明は、ビルデイング等のセメント系硬化下地建造物の外壁及び室内、廊下等のセメント系硬化物内壁等を補修するための方法に関する。」(1欄9?12行)、
「(実施例)
セメント系硬化物の表面に、SBR系共重合樹脂1重量部とプレミツクスタイプのセメント3重量部を混合したセメント水重量比約78%の合成樹脂の混入されたモルタルを厚さ約2mmに塗着し、次いで太さ0.35mmの繊維から成り、網目間隔5mmのガラス繊維網寒冷紗をセメント系硬化物表面の略全面に被覆させ、鏝で押圧しながら前記寒冷紗をモルタル面下に埋入させ、モルタル面を平滑にした状態で該モルタルを硬化させた。
この結果、薄層でありながら表面が平坦な、外観に優れた表面層が形成された。
この表面層は第1図?第3図に示すように、その形成過程において、起伏を有するセメント系硬化物1の表面に上記方法に従つて合成樹脂の混入されたモルタルを塗着すると、セメント系硬化物1の表面の起伏に沿つて該モルタル層2が形成される(第1図)。」(4欄39行?5欄12行)。
(10)その他の証拠の記載事項
甲第3号証の1には、次のことが記載されている。
(31a)「モルタルが剥離(肌わかれ、浮き)するという問題から、接着を改良する目的に合成樹脂エマルションをコンクリート躰体にあらかじめ塗布し、次いでモルタルを塗りつける、いわゆる塗布工法が開発された。…使用されるエマルションは塗布型モルタル用エマルション、モルタル接着増強剤、モルタル接着補強剤、モルタルプライマーなどと呼ばれている。…昭和44年ごろからエチレン-酢酸ビニル(EVA:エバ)が出現すると、モルタルに混入できることおよび塗布におけるモルタルの追かけ塗りもできることなどから市場の多くを占め、さらに使用量が拡大していった。」(58頁本文の左欄6行?右欄9行)
(31b)「2.1.2.被膜の形成
コンクリート下地にエマルションを塗布すると、エマルション中の水分はコンクリート下地に吸水されることと、空中に蒸散することにより被膜を形成する。」(60頁左欄6?9行)、
(31c)図5(60頁右中段)には、コンクリート躯体A、ポリマーB、及び、塗りつけモルタルCが順次積層されている態様が示されており、図6(61頁上段)には、エマルション(NSハイフレックス等)のモルタル下地への「接着力」という接着性が示されており、図7(61頁中段)には、モルタルのポリマー皮膜(NSハイフレックス等)への「付着力」という付着性が示されており、表1(64頁)には、モルタル塗布工法において、「下地処理」と「塗りモルタル」に「HF-1000」と「HF-1000混入モルタル」を用いる例が示されている。
(31d)「2.6.2使用上の注意(NSハイフレックスHF-1000の場合)…
モルタルの塗りつけは、塗布したエマルションが半乾き以上になってからとし、塗布後長期間経時したものは、表面のほこり等を洗い落とすことを目的に軽く水洗いすること。」(68頁左欄16?28行)。
6.対比・判断
(6-1)本件発明1
本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、その機能ないし構造から見て、甲第1号証記載の発明の「コンクリート水路」は、本件発明1の「コンクリート製の水路」に相当し、以下同様に、「側壁部」は「水路壁面」に、「損傷箇所S」は「老朽化部分」に、「コンクリートを削り取る工程」は「下地処理工程」に、「モルタルからなる補修部材2を施す工程」は「塗工工程」に相当する。
甲第1号証記載の発明の「モルタルからなる補修部材2を施す工程」と、本件発明の「非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に高弾性特殊モルタルを塗工」する「塗工工程」とは、「モルタルを塗工する塗工工程」である点で共通する。
また、甲第1号証記載の発明の「補修工法」は、コンクリート製の水路の壁面に施されるものであり、本件発明の「壁面改良工法」とは、「壁面の修理工法」である点で共通する。
さらに、甲第1号証記載の発明の「コンクリート水路」に、水圧と水流が存在することは自明な事項であり、また、甲第1号証記載の発明は、劣化したコンクリートを削り取るのであるから、その結果、中心部の非老朽化部分が核として残ることも、自明な事項である。
してみると、両者は、
「水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分に、モルタルを塗工する塗工工程を具備すると共に、
塗工工程では、非老朽化部分の表面に接着剤を塗布し、その後に上記モルタルを塗工したコンクリート製の水路壁面の修理工法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1では、塗工工程において塗工するモルタルが「セメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなる高弾性特殊モルタル」であるのに対し、甲第1号証記載の発明では、モルタルの組成は限定されていないものの、このような組成のものを使用することは、甲第1号証に記載されていない点。
[相違点2]
接着剤が本件発明は「樹脂系水性接着剤」であり、「樹脂系水性接着剤が乾燥した後に」モルタルを塗工するのに対して、甲第1号証記載の発明は、接着剤の種類が限定されておらず、接着剤が乾燥した後にモルタルを塗工するものであるか不明な点。
[相違点3]
本件発明1では、モルタルに、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力と、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力とを発現させる」のに対し、甲第1号証記載の発明では、モルタルを塗工する工程の後に、ポリウレタン樹脂塗料の塗膜層を塗布することを必要とするものであって、モルタルの付着力及び圧縮力が本件発明1のようなものであることは示されていない点。
[相違点4]
「壁面の修理工法」が、本件発明は「壁面改良工法」であるのに対し、甲第1号証記載の発明は「補修工法」である点。
そこで、上記の各相違点につき、以下検討する。
[相違点1について]
モルタルの組成について検討すると、甲第6号証には、本件発明1の「コンクリート製の水路壁面」と同様のコンクリート構造物の仕上げ材に利用できるセメント組成物に関して、接着性改良、曲げ、引張強度および水密性、気密性、摩耗性などを向上させるため、セメントモルタルに合成樹脂エマルジョン合成ゴムラテックスなどを混入したものが知られており、中でも合成樹脂エマルジョンのうちエチレン-酢酸ビニル系共重合樹脂エマルジョンがセメントのなじみにすぐれ、さらに各種下地に対する接着性がすぐれることから大量に使用されていることが記載されている。
また、同甲第6号証には、さらに柔軟性や伸び等を改善するために、合成樹脂エマルジョンとして、エチレン-第3級脂肪酸ビニルエステル-酢酸ビニル共重合体エマルジョンを採用したセメント組成物が併せて記載されているとともに、そのセメント組成物は、一般にセメント組成物に用いられる、砂、ガラス繊維などの繊維状物質、減水剤、消泡剤等を配合することが記載されている。
さらに、甲第2号証には、骨材、粉末状水溶性樹脂、減水剤粉末、消泡剤粉末を含有した無水の混合粉末並びにカーボン繊維又はガラス繊維と水を混合するコンクリート構造物の補修用及び仕上げ用のポリマーセメント組成物が記載されており、セメント組成物に砂、ガラス繊維などの繊維状物質、減水剤、消泡剤、水を配合することは周知の技術である。
そうすると、甲第6号証には、その従来技術に関する記載を併せ考慮すれば、モルタルとエチレン-酢酸ビニル系共重合樹脂エマルジョンを含む、接着性改良、曲げ、引張強度および水密性、気密性、摩耗性などを向上させたセメント組成物において、セメント組成物の成分として周知の砂、ガラス繊維などの繊維状物質、減水剤、消泡剤、及び水を配合したもの、すなわち、本件発明1の「セメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなる高弾性特殊モルタル」に相当するセメント組成物が、示唆されているということができる。
そして、コンクリート製の水路壁面においても、接着性の改良、曲げ、引張強度、水密性、気密性及び摩耗性の向上は周知の課題であるから、甲第1号証記載の発明のモルタルとして、甲第6号証に記載の、高弾性特殊モルタルに相当するセメント組成物を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
[相違点2について]
本件発明1の「樹脂系水性接着剤」につき特許明細書の記載を参酌すると、特許明細書の段落【0041】には、本件発明1の樹脂系水性接着剤として、日本化成(株)製の「エヌセスハフフレックス」(甲第3号証を参酌すると、商品名(「エヌエスハイフレックス」の誤記と認められる。)を使用することができると記載されており、かつまた、甲第3号証によれば、昭和59年頃には、上記エヌエスハイフレックスが、コンクリート建築物の外壁モルタル仕上げのための接着剤として一般的に知られていたものといえる。
さらに甲第3号証には、「エヌエスハイフレックス」は経年後においてもコンクリート界面からの破断はなく、非常に良好な接着状態が得られることが記載されている。
そして、コンクリート水路は長期間使用されるものであり、長期に亘って良好な接着状態が維持されることが求められるものであるから、甲第1号証記載の発明のモルタルを塗工する際に使用される接着剤として、甲第3号証に記載されているような接着性のすぐれた周知の接着剤を用いることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
また、接着剤は、乾燥後に被接着物を配置することで強固な接着力が得られることは本件の出願前周知であり、甲第3号証の1にも「エヌエスハイフレックス」接着剤を塗布後半乾燥状態でモルタルを塗工することが記載されており(31b)、「樹脂系水性接着剤」の乾燥後にモルタルを塗工することは当業者が適宜なしうることである。
[相違点3について]
上記[相違点1について]及び[相違点2について]で述べたとおり、樹脂系水性接着剤を塗布すると良好な接着性が得られること、酢酸ビニル-エチレン共重合体エマルジョンを含む高弾性特殊モルタルを塗工するこで曲げ、引張強度、水密性、気密性、摩耗性などが向上できることは従来から知られていることであり、樹脂系水性接着剤と高弾性特殊モルタルを塗工することにより大きな付着力と、大きな圧縮力とを発現させる得られることは容易に予測できる。
してみると、甲第1号証記載の発明において、「モルタルを塗工する工程」として、あるいは「モルタルを塗工する工程の後にポリウレタン樹脂塗料の塗膜層を塗布する」ことに代えて、樹脂系水性接着剤と高弾性特殊モルタルを塗工する工程を採用し、モルタルに、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力と、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力とを発現させるように、その組成成分の配合割合や塗工厚さを調整することは当業者が容易になしうることである。
[相違点4について]
相違点4に係る事項は、甲第1号証記載の発明に甲第3号証及び甲第6号証記載の技術並びに本件出願前の周知技術を適用して、相違点1ないし3に係る事項を備えた修理方法を採用した際の作用効果を「改良」と表現したにすぎない。
そして、コンクリート製の水路壁面を長期間耐久性のあるものとすることができるとの本件発明の作用効果は、甲第1号証記載の発明、甲第3号証及び甲第6号証記載の技術並びに本件出願前の周知技術から予測できる程度のものであり、格別なものということはできない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証記載の発明に、甲第3号証及び甲第6号証記載の技術、並びに本件出願前の周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6-2)本件発明2
本件発明2は本件発明1を引用する発明であって、本件発明1の構成に加えて、さらに「塗工工程にて塗工した塗工面に補強用炭素繊維シートを貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面に高弾性特殊モルタルを塗工する補強工程を具備する」という限定をしたものであるから、本件発明2と甲第1号証記載の発明を対比すると、上記一致点で一致するとともに、上記相違点1ないし4に加えて、次の相違点5で相違する。
[相違点5]
本件発明2が「塗工工程にて塗工した塗工面に補強用炭素繊維シートを貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面に高弾性特殊モルタルを塗工する補強工程を具備する」のに対し、甲第1号証記載の発明はこのような補強用炭素繊維シートと補強工程を具備しない点。
上記の各相違点1ないし5につき、以下検討する。
[相違点1ないし4について]
相違点1ないし4については、上記「(6-1)本件発明1」で説示したとおりである。
[相違点5について]
甲第7号証には、モルタル(早強性セメントモルタル2)を塗工した塗工面に炭素繊維強化プラスチックシートを貼付し、同炭素繊維強化プラスチックシートの表面にさらにモルタル(早強性セメントモルタル2)を塗工する補強工程を用いるコンクリートによる橋脚や建築物等の既設構造物の老朽化に伴なう補強方法の発明が記載されている((7a)参照)。
もっとも、甲第7号証には、従来行われている構造物表面にエポキシ系樹脂により炭素繊維dを貼るようにしたものでは、セメントコンクリートの持つ弾性係数は炭素繊維の持つ弾性係数とかけ離れており、構造物の受ける力が炭素繊維に伝わり難いこと((7b)参照)から、炭素繊維シート3に含浸したエポキシ系樹脂4が固まる前に早強性セメントモルタルを塗布して、炭素繊維シート3、エポキシ系樹脂4、早強性セメントモルタルを硬化により複合一体化させる必要があることも示されている。
しかしながら、甲第7号証に従来技術として記載されているように、炭素繊維シートが一般的に補強効果を有するものであることは周知であり、酢酸ビニル-エチレン共重合体エマルジョンを含む高弾性特殊モルタルは、樹脂の添加により弾性係数を調整可能であるとともに、酢酸ビニル-エチレン共重合体エマルジョン樹脂は接着性を有するものであるから((6b)参照)、高弾性特殊モルタルの表面に補強用炭素繊維シートを貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面にさらに高弾性特殊モルタルを塗工した場合に、高弾性特殊モルタル、補強用炭素繊維シート、上塗りした高弾性特殊モルタルが相互に接着し、炭素繊維シートの補強効果が十分に発揮できることは容易に予測できる。
そうすると、甲第1号証記載の発明のモルタルの塗工として、樹脂系水性接着剤と高強度特殊モルタルを適用するに際し、さらに、強度を上げることを意図して、モルタル塗工面に補強用炭素繊維シートを貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面に高弾性特殊モルタルを塗工することは、当業者が容易に想到し得たことといわざるを得ない。
また、その作用効果は、甲第1号証記載の発明、甲第3号証、甲第6号証及び甲第7号証記載の技術、並びに本件出願前の周知技術から予測できる程度のものであり、格別なものということはできない。
したがって、本件発明2は、甲第1号証記載の発明に、甲第3号証、甲第6号証及び甲第7号証記載の技術、並びに本件出願前の周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものである。
7.むすび
以上のとおり、本件請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明は、審判請求人の提出した証拠に記載の発明に基づいて、それぞれ、当業者が容易に発明できたものであるから、本件請求項1に係る特許及び請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである。
なお、請求人は、本件請求項4に係る特許を無効とするとの審決をも求めていたところ、上記第1に記載したとおり、本件請求項4に係る特許は無効とすることができないとの先の審決部分が確定している。
したがって、審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、これを3分し、その1を請求人が負担し、残部を被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 【別記】


審決
無効2006-80039
東京都新宿区西新宿6丁目5番1号
請求人 日本化成 株式会社
東京都世田谷区深沢5丁目31番14号 中村特許事務所
代理人弁理士 中村 宏
大分県大分市大字永興字弁財天602番地の2
被請求人 佐藤 全良
福岡県福岡市中央区赤坂1丁目10番17号 しんくみ赤坂ビル7階 松尾特許事務所
代理人弁理士 松尾 憲一郎
上記当事者間の特許第3749833号発明「コンクリート製の水路壁面改良工法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結 論
訂正を認める。
特許第3749833号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。
特許第3749833号の請求項4に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
審判費用は、その3分の1を請求人の負担とし、3分の2を被請求人の負担とする。
理 由
1.手続の経緯
平成12年 2月 3日 優先権主張(特願2000-26529)
平成12年 6月30日 優先権主張(特願2000-199232)
平成13年 1月30日 特許出願
平成17年12月 9日 特許登録
平成18年 3月 6日 無効審判請求
平成18年 5月26日 訂正請求書及び答弁書提出
平成18年 6月21日 弁駁書提出
2.訂正の適否
(2-1)訂正の内容
平成18年5月26日の訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、本件の特許明細書を、訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものであって、その訂正内容は、次のとおりのものである。
(イ)訂正事項1
特許明細書の特許請求の範囲の請求項4を次のとおりに訂正する。
「【請求項4】
水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する下地塗工工程と、同下地塗工工程にて下地塗工した塗工面にガラス繊維製ネットを張設する補強工工程と、同補強工工程にて張設したガラス繊維製ネット上に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する仕上塗工工程とを具備することを特徴とするコンクリート製の水路壁面改良工法。」
(ロ)訂正事項2
特許明細書の【0014】を次のとおりに訂正する。
「【0014】
(3)水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する下地塗工工程と、同下地塗工工程にて下地塗工した塗工面にガラス繊維製ネットを張設する補強工工程と、同補強工工程にて張設したガラス繊維製ネット上に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する仕上塗工工程とを具備することを特徴とするコンクリート製の水路壁面改良工法。」
(ハ)訂正事項3
特許明細書の【0032】を次のとおりに訂正する。
「【0032】
また、本発明に係るコンクリート製の水路壁面改良工法は、前記した下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する下地塗工工程と、同下地塗工工程にて下地塗工した塗工面にガラス繊維製ネットを張設する補強工工程と、同補強工工程にて張設したガラス繊維製ネット上に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する仕上塗工工程とを具備している。」
(ニ)訂正事項4
特許明細書の【0079】を次のとおりに訂正する。
「【0079】
(4)請求項4記載の本発明では、水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する下地塗工工程と、同下地塗工工程にて下地塗工した塗工面にガラス繊維製ネットを張設する補強工工程と、同補強工工程にて張設したガラス繊維製ネット上に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する仕上塗工工程とを具備している。」
(ホ)訂正事項5
特許明細書の【0080】を次のとおりに訂正する。
「【0080】
このようにして、下地処理した非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する下地塗工と仕上塗工との間に、ガラス繊維製ネットを張設する補強工を設けているため、下地塗工と仕上塗工においてモルタル中にガラス繊維が配合されていないにもかかわらず、強度を確保することができると共に、補強による水路の流路断面積の縮小を回避することができて、流量と水位の確保も図れる。」
(2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(訂正事項1について)
上記訂正事項1について検討すると、本件の訂正前の請求項4に係る発明が、(モルタルとして「高弾性特殊モルタル」を用いた請求項1及び2に係る発明と異なり、)「高弾性特殊モルタル」という特定のない「モルタル」の塗工とは別に補強工程としてガラス繊維製ネットを張設したのは、補強繊維が配合されていない「モルタル」を使用することを前提としているからであると解されるところ、訂正前の特許明細書の段落【0053】?【0061】に記載された「他の実施例」につき、当該実施例に使用される「特殊モルタル5」は段落【0057】の(表2)を見ると、その配合素材としてガラス繊維を含まないことが明らかであり、また、段落【0080】には、「…ガラス繊維製ネットを張設する補強工を設けているため、下地塗工と仕上塗工においてモルタル中にガラス繊維が配合されていないにもかかわらず、強度を確保することができる…」との記載がある。
そして、本件の訂正前の請求項4には、その「モルタル」に補強繊維を配合するとの規定がないことも明らかである。
そうすると、訂正前の請求項4に記載された「モルタル」を、「ガラス繊維が配合されていないもの」に特定した点は、訂正前に明確でなかった事項を明らかとしたものであり、明瞭でない記載の釈明ないし特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
また、訂正事項1が特許明細書に記載された事項の範囲内のものであること、実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでないことも上述したとおりである。
なお、審判請求人は、平成18年12月26日付け上申書において、本件の特許明細書には「特殊モルタル」以外の「ガラス繊維を含まないモルタル」が記載されていないから、上記訂正が不適法である旨を主張しているが、上述した特許明細書の段落【0057】の「表2」には、その配合素材から見て、訂正事項1における「酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタル」が示されていることが明らかである。
(訂正事項2?5について)
上記訂正事項2?5は、上記訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
なお、審判請求人は、平成18年6月21日付け弁駁書の第2頁において、このような「モルタル」は、特許明細書(基準明細書)中に記載されていない「モルタル」である他、明細書本文中に明記されている「特殊モルタル」以外のモルタルをも含むことになることは明白である旨主張している。
しかしながら、訂正前の請求項4には、「特殊モルタル」を使用するとの規定がないことが明らかであり、また、その「モルタル」として「ガラス繊維が配合されていない」モルタルを使用することも、上述したように本件特許明細書に記載されていた事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないというべきである。
また、請求人は、特許請求の範囲の「否定表現」は、審査基準を参照するまでもなく発明を不明瞭にする典型例として許容されない旨主張しているが、この審査基準が示すことは、否定的表現(「?を除く」、「?でない」等)が記載中に存在することにより、特許請求の範囲が不明確となる場合を記載不備として許されないとするものであって、「否定表現」が、如何なる場合も許されないとしたものではないというべきである。
(2-3)むすび
したがって、上記訂正事項1?5は、特許法第134条の2ただし書きに適合し、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから、本件訂正を認める。
3.当事者の主張
(3-1)請求人の主張
審判請求人は、審判請求書及び平成18年6月21日付け弁駁書によれば、本件の特許請求の範囲の請求項1、2及び4に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として次のように主張するとともに、その証拠として、下記のものを提出する。
(無効理由)本件の特許請求の範囲請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証?甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、同法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。
(証拠)
(請求書添付のもの)
甲第1号証:特開平11-172654号公報
甲第2号証:特開平8-259294号公報
甲第3号証:月刊誌「建築仕上技術」、株式会社工文社発行、工学博士西忠雄監修の昭和59年2月号(Vol9.No.103)に掲載された「コンクリート外壁面接着増強剤エマルション塗布型工法によるモルタル塗装仕上げの経年変化実態調査報告」の抜粋
甲第4号証:技術資料「土木建築用途へのスミカフレックス(マルR)の応用」住友化学工業株式会社
甲第5号証:特開平11-36315号公報
甲第6号証:特開平1-126251号公報
甲第7号証:特開平9-242342号公報
甲第8号証:特開昭59-72349号公報
甲第9号証:特公平4-67546号公報
(弁駁書添付のもの)
甲第3号証の1:「月刊 建築仕上げ技術」、1989年1月号「モルタル接着増強剤塗布工法の考察」、第58?68頁
甲第5号証の1:特願平9-207299号(甲第5号証参照)の平成12年2月18日付け手続き補正書
甲第5号証の2:特願平9-207299号(甲第5号証参照)の平成13年7月18日付け拒絶理由通知書
(3-2)被請求人の主張
被請求人は、平成18年5月26日付け答弁書において、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として次のように主張するとともに、証拠として下記のものを提出する。
(イ)請求項1及び2に係る発明が具備する構成である「塗工工程では、非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後にセメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなる高弾性特殊モルタルを塗工」する点は、甲第1号証?甲第9号証のいずれにも記載されていない。
(ロ)請求項4に係る発明が具備する構成である「樹脂系水性接着剤が乾燥した後に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する下地塗工工程と、同下地塗工工程にて下地塗工した塗工面にガラス繊維製ネットを張設する補強工工程と、同補強工工程にて張設したガラス繊維製ネット上に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する仕上塗工工程」の点は、甲第1号証?甲第9号証のいずれにも記載されていない。
(証拠)
乙第1号証:「土地改良長期計画」平成15年10月10日 閣議決定
乙第2号証:*1 2003(平成15)年10月閣議決定 農林水産省発行「土地改良長期計画」、*2 香川県満濃池土地改良区内試験施設施工工事で国営事務所提供によって標示されている看板
乙第3号証:「ゼム・ライナー更新工法」チラシ 株式会社 アース・ストーン
乙第4号証:「非破壊用水路施工マニュアル」(株)アース.ストーン
乙第5号証:「CTA 技術評価表」社団法人 日本工業技術振興協会 技術評価情報センター(CTA)
乙第6号証:「工法比較表」
乙第7号証:「従前改修法」と「非破壊 新改修工法」との比較
4.本件発明
本件特許第3749833号の請求項1、2及び4に係る発明(以下順に、「本件発明1」等という。)は、上記したとおり本件訂正が認められることから、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2及び4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
(本件発明1)
「水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分に、セメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなる高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程とを具備すると共に、
塗工工程では、非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に上記高弾性特殊モルタルを塗工して、同高弾性特殊モルタルに、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力と、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力とを発現させることを特徴とするコンクリート製の水路壁面改良工法。」
(本件発明2)
「塗工工程にて塗工した塗工面に補強用炭素繊維シートを貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面に高弾性特殊モルタルを塗工する補強工程を具備することを特徴とする請求項1記載のコンクリート製の水路壁面改良工法。」
(本件発明4)
「水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する下地塗工工程と、同下地塗工工程にて下地塗工した塗工面にガラス繊維製ネットを張設する補強工工程と、同補強工工程にて張設したガラス繊維製ネット上に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する仕上塗工工程とを具備することを特徴とするコンクリート製の水路壁面改良工法。」
5.甲号各証の記載事項
(1)甲第1号証には次のことが記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はコンクリート水路における損傷箇所の補修工法に関する。」、
「【0004】本発明の目的とするところは、損傷が激しい水路や老朽化の進んだ古い水路においても、水路を新しく作り直すことなく、補修を施すだけで長期間に亘る使用を可能にするコンクリート水路の補修工法を提供することにある。」、
「【0007】…コンクリート水路の補修工法の全体説明をする。コンクリート水路をU字状に構成する底壁部3或いは側壁部4,4のいずれか一方又は双方に生じた損傷箇所Sに、補修部材2であるコンクリート或いはモルタルを施して水路の形状を整え、さらに上側から溶剤を混入しないポリウレタン樹脂塗料を、水路壁部の内面側に厚く塗布し、膜厚の厚い塗膜層1を形成する。」、
「【0008】補修部材2として用いるコンクリート或いはモルタルは、上記課題で示した諸原因により損なわれた水路壁部の形状を整えるために施されるもので、以下にその施工工程を示す。まず、既設コンクリート水路の損傷箇所Sから劣化したコンクリートを削り取り、補修部材2を水路の底壁部3又は側壁部4,4のいずれか又は双方に発生した損傷箇所Sに、損傷の状態に合わせて施し、水路壁部の形状を整える。…」、
「【0013】第2実施形態の水路の補修工法は、図2に示すように、まず側壁部4,4内面側における損傷箇所Sに、接着剤を塗布した後に補修部材2としてモルタルを施し、壁面が平面を成す側壁部4,4を形成する。次に養生を行い、側壁部4,4内面側及び側壁部上端面5,5の全域に、ミゼロンを前記した塗膜層1の施工工程に則って塗布し、塗膜層1を形成する。…」。
上記記載事項(特に図面の図2に示される第2実施形態の内容)を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲第1号証記載の発明)
「コンクリート水路において、水路の底壁部3又は側壁部4,4に発生した損傷箇所Sから劣化したコンクリートを削り取る工程と、損傷箇所Sに、モルタルからなる補修部材2を施す工程と、塗膜層1を塗布する工程を具備すると共に、補修部材2を施す工程では、損傷箇所Sに接着剤を塗布した後に上記モルタルを施すコンクリート水路の補修工法。」
(2)甲第2号証には、次のことが記載されている。
「【請求項1】セメント、乾燥した骨材、粉末状水溶性樹脂、減水剤粉末、及び消泡剤粉末を含有した無水の混合粉末と水を混合することを特徴とするコンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物。」、
「【請求項3】更に、長さ3mm乃至30mmの繊維分を、セメント1に対し、重量比で0.002?0.06の範囲で含む請求項1又は2記載のコンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物。」、
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は既設のコンクリート構造物やセメントモルタルを使用した構築物等の劣化した部分を補修するに際して、好適なコンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物に関する。」
(3)甲第3号証には、次のことが記載されている。
「1.まえがき
本調査は、鉄筋コンクリート建築物の外壁モルタル仕上げに対し、コンクリート面の接着増強剤エマルション塗布型工法(NSハイフレックスHF-1000(日本化成(株)製品を使用)で施工した建築物について、その経年変化追跡調査を実施し、その実態調査結果を報告する。」(2頁左欄1?6行)、
「3.調査項目
建築物条件
(1)所在地=大阪市内のRC造り10階建て
(2)モルタル経時年数=●モルタル施工は「NSハイフレックスHF-1000」の3倍液塗布型工法で、1973年10月に行われ、本追跡調査は1983年6月21日行われた。約10年の経過である。●モルタルは3層仕上げ(25mm塗厚)。
(3)外装仕上げ=新築時は複層模様吹付材(Eタイプ)仕上げで、1980年4月に弾性吹付材仕上げで改装され、現在に至る。」(2頁左欄下から9行?右欄1行)、
「7.別件の塗布工法による外壁リシン吹付け仕上げの経年(11年)変化実態調査報告
(1)調査項目
建築物条件
a.所在地=名古屋市内RC造6階建て
b.モルタル仕様
●NSハイフレックスHF-1000=1:水=2の3倍液塗布…
●モルタル配合 下塗り-1:2プレーン…
上塗り-1:3プレーン…
●仕上げ アクリルリシン吹付仕上げ
●施工年月 1971年4月
c.追跡調査 1982年7月14日
d.経時年数 11年3ヶ月…」(9頁右欄1?15行)、
「8.まとめ
外壁塗布工法の打継ぎモルタル施工後10年および11年経過した実際の建築物について追跡調査を実施した結果、「NSハイフレックスHF-1000」のEVAポリマーはコンクリート、モルタル中に長期にわたり存在しても劣化は認められず、ポリマーフィルムが網目構造であることから、下地コンクリートと打継ぎモルタルの接着は、ポリマーフィルムと打継ぎモルタルのセメント硬化物による有機と無機とが一体となった相乗効果から長期に安定した接着性能が発揮していることが、今回2件の実際の施工物件で確認できたことを報告する。」(10頁右欄4?14行)。
また、3頁左下の「モルタル接着力測定断面図」には、コンクリート面にNSハイフレックスHF1000を塗布し、その上からモルタルを施工した態様が示されており、NSハイフレックスHF1000をモルタルとコンクリート面との接着剤として使用した態様が示されている。
(4)甲第4号証には、次のことが記載されている。
「土木建築用途へのスミカフレックス(マルR)の応用」(1頁表題)、
「はじめに
スミカフレックス(マルR)は…酢酸ビニル-エチレンコポリマーエマルジョン(以下VAEエマルジョンという)で、ポリ酢酸ビニルとポリエチレンの長所をそれぞれ兼備したポリマーです。」(1頁左欄1?6行)、
「モルタル接着増強剤としてのスミカフレックス(マルR)の応用」(3頁上段の表題)、
「モルタル混和用途へのスミカフレックス(マルR)の応用」(5頁中段の表題)。
(5)甲第5号証には、次のことが記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、薄くて軽量であるにもかかわらず充分な強度を備えた張りブロックと、この張りブロックを使用する張りブロック工法、並びに、この張りブロックの製造に最適な強化モルタルに関する。」、
「【0033】上記の張りブロックの製造に際しては、下記の配合の強化モルタルを使用することが望ましい。
【0034】
セメント 884 キログラム
砂 1163 キログラム
ガラス繊維(…繊維長19?25ミリメートル) 16.3キログラム
酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン(…商品名スミカフレックス)
32.6キログラム
減水材(…) 4.1キログラム
消泡材(…) 3.3キログラム
水 286 キログラム」
(6)甲第6号証には、次のことが記載されている。
「<産業上の利用分野>
本発明はセメント組成物に関するものである。さらに詳しくは特定のエチレン-第3級脂肪酸ビニルエステル-酢酸ビニル共重合体エマルジョンをセメント組成物に混入することにより柔軟性、接着性とその耐久性にすぐれ、コンクリート構造物の耐久性向上材として仕上材、防水材、下地調整材、接着剤等に利用できるセメント組成物に関する。」(1頁左下欄14行?右下欄1行)、
「<従来の技術>
セメントコンクリート構造物は古くから半永久的な耐久性を持つものとして土木、建築分野で広く使用されているが、近年コンクリート構築物の中性化、クラック、骨材による塩害、アルカリ骨材反応などから早期にコンクリートが劣化する問題がクローズアップされている。これらの問題に対して耐久性向上保護材、改修材、補修材がいろいろ検討されているが、それらの一つとしてコンクリートのクラックに追随できるポリマーセメントモルタルが期待されている。従来一般に公知のポリマーセメントモルタルは接着性改良を主体に曲げ、引張強度および水密性、気密性、摩耗性などを向上させるため、セメントモルタルに合成樹脂エマルジョン合成ゴムラテックスなどを混入したものであり、中でも合成樹脂エマルジョンのうちエチレン-酢酸ビニル系共重合樹脂エマルジョンがセメントのなじみにすぐれ、さらに各種下地に対する接着性がすぐれることから大量に使用されている。しかしながらこれらのものはコンクリートのクラックに追随できるような柔軟性や伸びを持つまでに到っていない。
特公昭47-33054号公報では、酢酸ビニル成分の含量60?90重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョンがセメントに対し樹脂固形分として2?40重量%の割合で混入せられてなる改質されたセメント製品が提示されている。かかるセメント組成物では、クラックへの追随性を付与することができず、特に低温時に皮膜の伸びが著しく小さくなり使用に耐えない。」(1頁右下欄2行?2頁左上欄10行)、
「<発明が解決しようとする問題点>
上記の実状に鑑み、本発明が解決しようとする問題点、すなわち本発明の目的は、セメント組成物を調製する時、気泡の混入が少なくセメント硬化物がコンクリートに追随出来る高柔軟性と伸び、さらにそれらの温度の影響が小さく、またさらに付着力にすぐれるセメント組成物を提供することにある。」(2頁右上欄18行?左下欄5行)、
「本発明におけるセメント組成物はセメントとエチレン-第3級脂肪酸ビニルエステル-酢酸ビニル共重合体エマルジョンのほかに一般にセメント組成物に用いられる山砂、川砂、珪砂などの骨材、炭酸カルシウ厶、水酸化カルシウ厶、石粉などの充填材、ガラス繊維、スチールファイバー、カーボンファイバー、プラスチックファイバーなどの繊維状物質、流動化剤、減水剤、防水剤、消泡剤など用途や作業性などによって混入することができる。」(4頁右上欄3?11行)。
(7)甲第7号証には、次のことが記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、コンクリートによる橋脚や建築物等の既設構造物の老朽化、および建築基準法や耐震基準の見直しに伴なう補強方法に係り、特に炭素繊維強化プラスチックシートによる構造物の補修方法に関する。」、
「【0016】
【発明の実施の形態】本発明にかかる補修方法の一実施形態を以下に示す図面を参照して説明する。図1は請求項1にかかる炭素繊維強化プラスチックシートによる構造物の補修方法の第1実施形態を示す断面による説明図で、以下番号順に補修方法の手順を述べる。
【0017】1)粗雑になったコンクリート構造物1の表面に早強性セメントモルタル2を塗布して表面を平らにしたのち、その上からそのセメントモルタル2が固まる前に炭素繊維シート3を当接させて貼付ける。
【0018】2)つぎに炭素繊維シート3にエポキシ系樹脂4を含浸させ、樹脂4が固まることにより炭素繊維強化プラスチックシート5が得られる。
【0019】3)そのエポキシ系樹脂4が固まる前に炭素繊維シート3の表面にさらに早強性セメントモルタル2を塗布し、表面仕上げすることで補修が完了する。
【0020】これにより早強性セメントモルタル2と炭素繊維強化プラスチックシート5とは複合一体化される。」。
(8)甲第8号証には、次のことが記載されている。
「本発明は建造物の壁面に表装を施こすとともに亀裂の発生を防止する表装方法に関する。」(1頁右下欄1?2行)、
「実施例3
実施例2で用いた樹脂加工されたガラス繊維製織物をセメントモルタル製の壁面にエチレン-酢酸ビニル共重合エマルジョンをセメントに対して固形分で10パーセントの割合で混入させ、少量の細骨材とともに混練して作成したセメントペーストを用いて貼着し、十分乾燥しないうちに前記セメントペーストを表面にローラーで塗布乾燥したのち、アクリル樹脂溶剤型塗料を塗布して仕上げた。」(3頁右上欄3?12行)。
(9)甲第9号証には、次のことが記載されている。
「(産業上の利用分野)
本発明は、ビルデイング等のセメント系硬化下地建造物の外壁及び室内、廊下等のセメント系硬化物内壁等を補修するための方法に関する。」(1欄9?12行)、
「(実施例)
セメント系硬化物の表面に、SBR系共重合樹脂1重量部とプレミツクスタイプのセメント3重量部を混合したセメント水重量比約78%の合成樹脂の混入されたモルタルを厚さ約2mmに塗着し、次いで太さ0.35mmの繊維から成り、網目間隔5mmのガラス繊維網寒冷紗をセメント系硬化物表面の略全面に被覆させ、鏝で押圧しながら前記寒冷紗をモルタル面下に埋入させ、モルタル面を平滑にした状態で該モルタルを硬化させた。
この結果、薄層でありながら表面が平坦な、外観に優れた表面層が形成された。
この表面層は第1図?第3図に示すように、その形成過程において、起伏を有するセメント系硬化物1の表面に上記方法に従つて合成樹脂の混入されたモルタルを塗着すると、セメント系硬化物1の表面の起伏に沿つて該モルタル層2が形成される(第1図)。該モルタル層2を形成した後、ただちに網体3を該モルタル層2の表面に点付し、鏝で押圧すると網体3はモルタル層2内に埋入して行くと共に、セメント系硬化物1表面の起伏山部1aの該モルタル層2を押圧し、同谷部1bに充填するように流動させて該モルタル層2を平坦化し(第2図)、ついには第3図に示す状態となる。」(4欄39行?5欄19行)。
(10)その他の証拠の記載事項
甲第3号証の1には、次のことが記載されている。
「2.1.2.被膜の形成
コンクリート下地にエマルションを塗布すると、エマルション中の水分はコンクリート下地に吸水されることと、空中に蒸散することにより被膜を形成する。」(60頁左欄6?9行)、
図5(60頁右中段)には、コンクリート躯体A、ポリマーB、及び、塗りつけモルタルCが順次積層されている態様が示されており、図6(61頁上段)には、エマルション(NSハイフレックス等)のモルタル下地への「接着力」という接着性が示されており、図7(61頁中段)には、のモルタルのポリマー皮膜(NSハイフレックス等)への「付着力」という付着性が示されており、表1(64頁)には、モルタル塗布工法において、「下地処理」と「塗りモルタル」に「HF-1000」と「HF-1000混入モルタル」を用いる例が示されている。
6.対比・判断
(6-1)本件発明1
本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、その機能ないし構造から見て、甲第1号証記載の発明の「コンクリート水路」は、本件発明1の「コンクリート製の水路」に相当し、以下同様に、「側壁部」は「水路壁面」に、「損傷箇所S」は「老朽化部分」に、「コンクリートを削り取る工程」は「下地処理工程」に、「モルタルからなる補修部材2を施す工程」は「塗工工程」に、「補修工法」は「壁面改良工法」に、それぞれ相当するといえる。
また、甲第1号証記載の発明の「コンクリート水路」に、水圧と水流が存在することは自明な事項であり、また、甲第1号証記載の発明は、劣化したコンクリートを削り取るのであるから、その結果、中心部の非老朽化部分が核として残ることも、自明な事項である。
してみると、両者は、
「水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分に、モルタルを塗工する塗工工程とを具備すると共に、
塗工工程では、非老朽化部分の表面に接着剤を塗布し、その後に上記モルタルを塗工したコンクリート製の水路壁面改良工法。」(以下、「一致点」という。)である点で一致し、次の相違点1?3で相違する。
(相違点1)
塗工工程において塗工するモルタルに関して、本件発明1が「セメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなる高弾性特殊モルタル」を用いているのに対し、甲第1号証記載の発明はこのような高弾性特殊モルタルを用いるとの限定がない点。
(相違点2)
塗工工程において非老朽化部分の表面に塗布する接着剤に関して、本件発明1が、「樹脂系水性接着剤」を用いるとともに、「同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に」モルタルを塗工するのに対し、甲第1号証記載の発明は、その接着剤につきこのような「樹脂系水性接着剤」を用いるとの限定がない点。
(相違点3)
本件発明1には、「モルタルに、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力と、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力とを発現させる」との作用が規定されているのに対し、甲第1号証記載の発明がこのような作用を奏するか否かが明らかでない点。
そこで、上記の各相違点1?3につき、以下検討する。
(相違点1について)
ところで、甲第6号証には、本件発明1の「コンクリート製の水路壁面」と同様の土木建築分野のコンクリート構造物の仕上げ材に利用できるモルタル(セメント組成物)に関して、従来より、ポリマーセメントモルタルは接着性改良を主体に曲げ、引張強度および水密性、気密性、摩耗性などを向上させるため、セメントモルタルに合成樹脂エマルジョン合成ゴムラテックスなどを混入したものが、一般に公知であることが記載されており、中でも合成樹脂エマルジョンのうちエチレン-酢酸ビニル系共重合樹脂エマルジョンがセメントのなじみにすぐれ、さらに各種下地に対する接着性がすぐれることから大量に使用されていることが記載されている。
また、同甲第6号証には、そのモルタル(セメント組成物)につき、さらに柔軟性や伸び等を改善するために、合成樹脂エマルジョンとして、エチレン-酢酸ビニル系共重合樹脂エマルジョンに代えて、セメントとエチレン-第3級脂肪酸ビニルエステル-酢酸ビニル共重合体エマルジョンを採用したことが、併せて記載されているとともに、そのモルタル(セメント組成物)は、セメント、砂、ガラス繊維、セメントとエチレン-第3級脂肪酸ビニルエステル-酢酸ビニル共重合体エマルジョン、減水剤、消泡剤、及び、水を配合してなるものであることが記載されている。
そうすると、甲第6号証には、その従来技術に関する記載を併せ考慮すれば、その曲げ、引張強度などを向上させたものであるところのモルタル(セメント組成物)に関して、本件発明1の「セメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなる高弾性特殊モルタル」に相当するものが、記載ないし示唆されているということができる(すなわち、甲第6号証には、モルタルに配合する共重合体エマルジョンとして、エチレン-酢酸ビニル系共重合樹脂エマルジョンが従来より一般的であると説示されているのであるから、甲第6号証記載の発明のように、柔軟性や伸び等をさらに改善することを必要としなければ、その共重合体エマルジョンとして従来からあるエチレン-酢酸ビニル系共重合樹脂エマルジョンを用いれば良いことが併せて示唆されているということができる)。
してみると、甲第1号証記載の発明のモルタルとして、甲第6号証に記載の
(高弾性特殊モルタルに相当する)ものを採用することは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
(相違点2について)
本件発明1の「樹脂系水性接着剤」につき特許明細書の記載を参酌すると、訂正明細書の段落【0041】には、本件発明1の樹脂系水性接着剤として、日本化成(株)製の「エヌセスハフフレックス」(甲第3号証を参酌すると、商品名(「エヌエスハイフレックス」の誤記と認められる。)を使用することができると記載されており、かつまた、甲第3号証によれば、昭和59年頃には、上記エヌエスハイフレックスが、コンクリート建築物の外壁モルタル仕上げのための接着剤として一般的に知られていたものといえる。
してみると、甲第1号証記載の発明のモルタルを塗工する際に使用される接着剤として、甲第6号証に記載されているような従来より周知の接着剤を用いることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
(相違点3について)
本件発明1が、「モルタルに、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力と、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力とを発現させる」との作用を規定している点につき、被請求人は、「高弾性特殊モルタルの成分である酢酸ビニル-エチレン共重合体エマルジョンは、樹脂系接着剤の一種であるため、コンクリートに含浸した樹脂系接着剤との相性がきわめて良好であり、従って、樹脂系水性接着剤自身が…コンクリートに含浸することによって強固に付着することに加え、…高弾性特殊モルタル中の酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンが樹脂系接着剤と強固に結びつき、結果として、高弾性特殊モルタルが…コンクリートに強固に付着することになる。」(答弁書4頁17?28行等)と主張している。
ところで、このような効果は、コンクリート製の水路壁面の改良工法についてではないものの、甲第3号証のコンクリート外壁面のモルタル塗装仕上げの経年変化実態調査報告において、例えば、その「8.まとめ」(10頁右欄4?14行)で総括されているように明確に記載されているものであって、当業者が予測できないような格別のものということができない。
また、被請求人は、「高弾性特殊モルタル中にはガラス繊維が配合されているため、亀裂等の問題が生じることはない。」(答弁書5頁3?4行等)と主張しているものの、このような効果は、甲第6号証にも記載されているように、モルタルにガラス繊維を配合することにより発現されることが自明なものであって、同様に格別のものということができない。
そして、相違点3に係る本件発明1の作用は、上記相違点1及び2について説示したところの甲第1号証記載の発明に甲第3号証記載の事項及び甲第6号証記載の事項を組み合わせることにより容易に得られた構成が奏するものであって、上述したように、甲第1号証記載の発明並びに甲第3号証及び甲第6号証の記載事項から当業者であれば予測できるものであり、格別なものということはできない。
(6-2)本件発明2
本件発明2は本件発明1を引用する発明であって、本件発明1の構成に加えて、さらに「塗工工程にて塗工した塗工面に補強用炭素繊維シートを貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面に高弾性特殊モルタルを塗工する補強工程を具備する」という限定をしたものであるから、本件発明2と甲第1号証記載の発明を対比すると、上記一致点で一致するとともに、上記相違点1?3に加えて、次の相違点4で相違する。
(相違点4)
本件発明2が「塗工工程にて塗工した塗工面に補強用炭素繊維シートを貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面に高弾性特殊モルタルを塗工する補強工程を具備する」のに対し、甲第1号証記載の発明はこのような補強用炭素繊維シートを用いた構成を具備しない点。
そこで、上記の各相違点1?4につき、以下検討する。
(相違点1?3について)
相違点1?3については、上記「(6-1)本件発明1」で説示したとおりである。
(相違点4について)
甲第7号証には、本件発明2の「コンクリート製の水路壁面」と同様の土木建築分野のコンクリートによる橋脚や建築物等の既設構造物の老朽化に伴なう補強方法が記載されており、その図1には、モルタル(早強性セメントモルタル2)を塗工した塗工面に補強用炭素繊維シート(炭素繊維シート3)を貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面にさらにモルタル(早強性セメントモルタル2)を塗工する補強工程を用いることが記載されている。
そうすると、甲第1号証記載の発明のモルタルの塗工工程に、(上記相違点1で説示したところのモルタルを適用するに際して、)甲第7号証記載のモルタル塗工面のための補強工程を単に採用することは、当業者が容易に想到し得たことといわざるを得ない。
(6-3)本件発明4
同様に、本件発明4と甲第1号証記載の発明とを対比すると、その機能ないし構造から見て、両者は、
「水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分の表面に接着剤を塗布し、モルタルを塗工する工程とを具備するコンクリート製の水路壁面改良工法。」である点で一致し、次の相違点5で相違する。
(相違点5)
本件発明4が、「下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する下地塗工工程と、同下地塗工工程にて下地塗工した塗工面にガラス繊維製ネットを張設する補強工工程と、同補強工工程にて張設したガラス繊維製ネット上に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する仕上塗工工程とを具備する」のに対し、甲第1号証記載の発明はこのような下地塗工工程、ガラス繊維製ネットを用いた補強工程や仕上塗工工程を具備しない点。
そこで、上記の相違点5につき、以下検討する。
上記したように、上記相違点の内の「下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分の表面に樹脂系接着剤を塗布し、同樹脂系接着剤が乾燥した後に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しモルタルを塗工する」ことは、上記「(6-1)本件発明1」の「(相違点2について)」で検討したのと同様の理由により、当業者が容易に想到し得ることである。
そこで、上記相違点の内の残る構成、すなわち、甲第1号証記載の発明に、本件発明4のように、下地の表面にガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工し、さらに該塗工面にガラス繊維製ネットを張設し、該ガラス繊維製ネット上にガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工するものと構成することが当業者により容易に想到し得るか否かにつき、さらに検討する。
ところで、甲第8号証には、樹脂加工されたガラス繊維製織物をセメントモルタル製の壁面に、セメントペーストを用いて貼着し、充分乾燥しないうちに前記セメントペーストを表面に塗布することは記載されているが、本件発明4のように、下地の表面にモルタルを塗工し、さらに該塗工面にガラス繊維製ネットを張設し、該ガラス繊維製ネット上にモルタルを塗工することは記載されていない。
甲第9号証には、下地の表面(セメント系硬化物の表面)にモルタルを塗工(塗着)し、次いでガラス繊維性ネット(ガラス繊維網寒羅紗)を被覆し、前記ガラス繊維性ネットを鏝で押圧しながらモルタル面下に埋入することは記載されているが、本件発明4のように、下地の表面にモルタルを塗工し、さらに該塗工面にガラス繊維製ネットを張設し、該ガラス繊維製ネット上にモルタルを塗工することは記載されていない。
また、甲第2号証にはコンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物が、甲第3号証には接着剤としてのNSハイフレックスHF-1000が、甲第4号証にはモルタル接着増強剤としてのスミカフレックスの応用又はモルタル混和用途へのスミカフレックスの応用が、甲第5号証には張りブロックの強化モルタル用組成物が、甲第6号証には共重合体エマルジョンを混入したセメント組成物が、甲第7号証には、早強性セメントモルタルを塗工した塗工面に補強用炭素繊維シートを貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面に早強性セメントモルタルを塗工することが、甲第3号証の1にはモルタル接着増強剤塗布工法が、それぞれ記載されているが、いずれにも、本件発明4のように、下地の表面にモルタルを塗工し、さらに該塗工面にガラス繊維製ネットを張設し、該ガラス繊維製ネット上にモルタルを塗工することは記載されていない。
上記したように、甲第8号証及び甲第9号証には、セメントモルタル製の壁面の塗装下地材や当該外壁面等の補修箇所へ塗装下地材を形成する補修方法として、ガラス繊維製ネット等を用いてセメントペーストを貼着することが記載されている。
これに対して、本件発明4は、このような塗装下地材は、「下地処理した非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する下地塗工工程」で作成されるとともに、「同下地塗工工程にて下地塗工した塗工面にガラス繊維製ネットを張設する補強工工程と、同補強工工程にて張設したガラス繊維製ネット上に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する仕上塗工工程」とを併せて具備させたものである。
そうすると、甲第1号証記載の発明の「損傷箇所Sに、モルタルからなる補修部材2を施す工程と、塗膜層1を塗布する工程」に、上記甲第8号証及び甲第9号証に記載の塗装下地材を形成する補修方法を適用すると、その「損傷箇所Sに、モルタルからなる補修部材2を施す工程と、塗膜層1を塗布する工程」が上述のガラス繊維製ネットを用いてセメントペーストを用いて貼着するものと変更した構成が当業者により容易に得られるといえるものの、甲第1号証記載の発明の「損傷箇所Sに、モルタルからなる補修部材2を施す工程と、塗膜層1を塗布する工程」に、さらに、上記甲第8号証及び甲第9号証に記載の塗装下地材を形成する補修方法で使用されていたところのガラス繊維製ネットを用いてセメントペーストを貼着するという手法を上記塗装下地材の補強工程として付加する構成までが、当業者により容易に得られるということができない。
そして、審判請求人が提出した証拠を見ても、このようなガラス繊維製ネット等を用いてセメントペーストを貼着するという手法が、例えば、甲第7号証記載のモルタル塗工面のための補強工程のように、塗装下地材を形成した後のモルタル塗工面のための更なる補強工程として採用することを記載ないし示唆したものを見出すことができない。
したがって、本件発明4は、審判請求人が提出した証拠によっては当業者が容易に発明をすることができたものということができない。
(6-4)まとめ
以上検討したことから、本件発明1は、甲第1号証記載の発明並びに甲第3号証及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、また、本件発明2は、甲第1号証記載の発明並びに甲第3号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載の発明に基づいて、それぞれ、当業者が容易に発明できたものである。
他方、本件発明4は、甲第1号証記載の発明に他の証拠に記載の発明を適用してもその構成を得ることができないから、上記証拠らに記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。
なお、被請求人は、乙第1号証?乙第7号証を挙げ、本件発明1、2らの「改修工法」は、「実際に、大きな技術評価を受けていると共に、事業を大きく促進させる牽引力となっているものであり、このことからしても進歩性を十分に有している。」(答弁書38頁(4-8)参照)と主張する。
しかしながら、乙第6号証の「工法比較表」にも示されているように、被請求人が主張するところの本件発明1,2らの「改修工法」の高い評価得点は、例えば、「m^(2)当たり単価」が比較的安いものとできる点が評価の主要な要素の一つとして加味されているものであり、また、乙第5号証の「CTA」による技術評価も、「新規性」を中心とする評価であって、他の公知技術の存在を総合的に考慮した「進歩性」等の評価項目は無いものであって、このようなコストの高低によってはその判断が基本的に影響されないものであるとともに、他の公知技術の存在を総合的に考慮したものであるところの特許法上の進歩性の判断とはその評価の基準も相違するといわざるを得ない。
そして、本件発明1及び2は、当業者が容易に発明をすることができたものであって、その作用効果も当業者が予測できる範囲内のものであることは、上記説示したとおりである。
7.むすび
以上のとおり、本件発明1及び2は、審判請求人の提出した証拠に記載の発明に基づいて、それぞれ、当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第2号により、無効とすべきである。
他方、本件発明4は、審判請求人の提出した証拠に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明4に係る特許は、無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、これを3分し、その1を請求人が負担し、残部を被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
平成19年 1月16日
審判長 特許庁審判官 大元 修二
特許庁審判官 宮川 哲伸
特許庁審判官 小山 清二
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
コンクリート製の水路壁面改良工法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分に、セメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなる高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程とを具備すると共に、
塗工工程では、非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に上記高弾性特殊モルタルを塗工して、同高弾性特殊モルタルに、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力と、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力とを発現させることを特徴とするコンクリート製の水路壁面改良工法。
【請求項2】
塗工工程にて塗工した塗工面に補強用炭素繊維シートを貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面に高弾性特殊モルタルを塗工する補強工程を具備することを特徴とする請求項1記載のコンクリート製の水路壁面改良工法。
【請求項3】
塗工工程にて塗工した塗工面に、薄肉板状の石材を同塗工面の略全面にわたって張設する補強工程を具備することを特徴とする請求項1記載のコンクリート製の水路壁面改良工法。
【請求項4】
水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する下地塗工工程と、同下地塗工工程にて下地塗工した塗工面にガラス繊維製ネットを張設する補強工工程と、同補強工工程にて張設したガラス繊維製ネット上に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する仕上塗工工程とを具備することを特徴とするコンクリート製の水路壁面改良工法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、一定の流量を確保しなければならないコンクリート製の水路の改修を、内部流量を減少させることなく行うことが可能なコンクリート製の水路壁面改良工法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、用水路や排水路等の水路の一形態として、コンクリート製の水路があり、同水路の表面は、水圧や水流を受けているため、劣化等した表面をモルタルにより修復しても、水圧や水流がモルタルの離脱作用を高め、2?3年でモルタルが離脱しているのが実態である。
【0003】
従って、かかるモルタルでは修復が困難な上に修復費用も嵩むので、老朽化や劣化等により水路としての機能を十分に果たさなくなった場合には、やむを得ず水路を全面的に破壊して、新たに水路を構築している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記のように水路を破壊して、新たに水路を構築する場合には、次のような課題を有している。
【0005】
▲1▼工事費が高くついている。
【0006】
▲2▼水路の破壊作業に長時間を要し、かつ、その破壊作業中に騒音が発生して環境問題に発展することがある。
【0007】
▲3▼水路の破壊作業により、建設廃材が多く排出され、この場合も環境問題に発展することがある。
【0008】
▲4▼水路の破壊作業時に、大型建設機械を必要とする場合があり、この場合に、大規模な仮設道路が必要となる場合がある。
【0009】
▲5▼水路の破壊作業に、建設機械を導入することができない作業環境においては、人力により作業を行わなければならず、このような場合には多大な労力を要する。
【0010】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明は、水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分に、セメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなる高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程とを具備すると共に、塗工工程では、非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に上記高弾性特殊モルタルを塗工して、同高弾性特殊モルタルに、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力と、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力とを発現させることを特徴とするコンクリート製の水路壁面改良工法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、次の構成にも特徴を有する。
【0012】
(1)塗工工程にて塗工した塗工面に補強用炭素繊維シートを貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面に高弾性特殊モルタルを塗工する補強工程を具備することを特徴とする請求項1記載のコンクリート製の水路壁面改良工法。
【0013】
(2)塗工工程にて塗工した塗工面に、薄肉板状の石材を同塗工面の略全面にわたって張設する補強工程を具備することを特徴とする請求項1記載のコンクリート製の水路壁面改良工法。
【0014】
(3)水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する下地塗工工程と、同下地塗工工程にて下地塗工した塗工面にガラス繊維製ネットを張設する補強工工程と、同補強工工程にて張設したガラス繊維製ネット上に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する仕上塗工工程とを具備することを特徴とするコンクリート製の水路壁面改良工法。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
すなわち、本発明に係るコンクリート製の水路壁面改良工法は、水圧と水流を受ける表面(壁面)の補修用のモルタルの付着力を高めるために、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分に、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力を有し、かつ、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力を有する高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程とを具備している。
【0018】
このようにして、水路を全て破壊することなく、水路壁面の老朽化部分を除去すると共に、中心部の未だ使用に耐え得る非老朽化部分は核として残して下地処理した後に、その下地処理した部分に高弾性特殊モルタルを塗工することにより水路壁面を改良するようにしている。
【0019】
この際、高弾性特殊モルタルは、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力を有し、かつ、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力を有するため、改良した水路の耐用年数を、改良前と同等若しくはそれ以上に延長することができる。
【0020】
そして、塗工工程にて塗工した塗工面に補強用炭素繊維シートを貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面に高弾性特殊モルタルを塗工する補強工程を具備している。
【0021】
このようにして、強度が不足する場合には、補強工程を追加することにより、簡単かつ確実に強度を確保することができる。
【0022】
また、塗工工程にて塗工した塗工面に、薄肉板状の石材を同塗工面の略全面にわたって張設する補強工程を具備させることもできる。
【0023】
このようにして、強度が不足する場合には、補強工程を追加することにより、簡単かつ確実に強度を確保することができると共に、外的美観を向上させることができる。
【0024】
ここで、高弾性特殊モルタルは、セメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなるものである。
【0025】
そして、ガラス繊維は、セメントと砂と水とから形成されるモルタルを補強する補強材として配合している。そして、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンは、強度、耐久性、接着性、及び、養生性を増大させるために配合している。また、減水材は、空気が連行されて、ワーカビリティが向上するようにするために配合している。また、消泡材は、成形性を改善させるために配合している。
【0026】
かかる高弾性特殊モルタルは、▲1▼高強度・高弾性、▲2▼耐摩耗・耐衝撃性・耐ひび割れ性、▲3▼強接着性、▲4▼低透水性・少吸水量、▲5▼難燃性・断熱性、▲6▼耐海水・耐アルカリ、▲7▼耐温度疲労・耐凍結融解性・耐候性等に優れ、安全性・耐久性・経済性を良好に確保することができる。
【0027】
従って、上記した高弾性特殊モルタルにより水路壁面を改良した際には、作業性を向上させることができると共に、施工期間の大幅な短縮を図ることができる。
【0028】
この際、作業条件等によって、強度、耐久性、接着性、及び、養生性を増大させる必要性がある場合には、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンの配合割合を適宜増加することができる。
【0029】
しかも、かかる高弾性特殊モルタルを使用することにより、塗工するモルタルの肉厚を可及的に薄くすることができ、この場合に問題となるモルタルの強度不足やひび割れ性をガラス繊維により確実に解消することができる。
【0030】
さらには、仕上げ面の粗度係数を小さくすることができるため、水路内の流量を1割?2割増大させることができて、同水路の流路断面積が補強によって小さくなった場合にも、流量と水位を少なくとも従前(改良前)の水路と同一に確保することができる。
【0031】
なお、ガラス繊維、減水材、消泡材、及び、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンの配合割合は、砂の含水比によって、0?20%の範囲内で適宜増減させることができる。
【0032】
また、本発明に係るコンクリート製の水路壁面改良工法は、前記した下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する下地塗工工程と、同下地塗工工程にて下地塗工した塗工面にガラス繊維製ネットを張設する補強工工程と、同補強工工程にて張設したガラス繊維製ネット上に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する仕上塗工工程とを具備している。
【0033】
このようにして、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有するモルタルを塗工する下地塗工と仕上塗工との間に、ガラス繊維製ネットを張設する補強工を設けているため、下地塗工と仕上塗工においてモルタル中にガラス繊維が配合されていないにもかかわらず、強度を確保することができると共に、補強による水路の流路断面積の縮小を回避することができて、流量と水位の確保も図れる。
【0034】
しかも、作業性を向上させることができると共に、施工期間の大幅な短縮を図ることができる。
【0035】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を、図面を参照しながら説明する。
【0036】
図1は、本発明に係る水路壁面改良工法により改良したコンクリート製の水路Aの断面正面図である。Bは基礎、Gは地面、Tは鉄筋である。
【0037】
そして、かかる水路Aを改良する作業を、図2?図7を参照しながら説明すると、次の通りである。
【0038】
▲1▼図2に示すように、水路Aの表面に劣化部分が発生したり、異物等が付着した場合には、図3に示すように、水圧と水流を受ける表面(壁面)の補修用のモルタルの付着力を高めるために、これら劣化部分や異物等の老朽化部分aを除去した後、洗浄・清掃等を行う(下地処理工程)。
【0039】
ここで、老朽化していない部分、すなわち、非老朽化部分cは、核としてそのまま残して有効利用する。
【0040】
▲2▼図4に示すように、下地処理工程にて、下地処理した水路Aの非老朽化部分cの表面bに、樹脂系水性接着剤1を塗布して水路Aの表面を中性化し、乾燥後に付着力の高い高弾性特殊モルタル2を塗工する(下地塗工工程)。
【0041】
ここで、樹脂系水性接着剤1としては、例えば、日本化成(株)製の「エヌセスハフフレックス」(商品名)を使用することができる。
【0042】
また、高弾性特殊モルタル2としては、例えば、表1に示す配合割合のものを使用することができる。
【0043】
【表1】

【0044】
ここで、ガラス繊維としては、例えば、日本電子硝子製の「AGRファイバー」(商品名)を繊維長19?25mmに形成して使用することができる。また、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンとしては、例えば、住友化学製の「スミカフレックス」(商品名)を使用することができる。また、減水材としては、例えば、花王製の「マイテイ150」(商品名)のようにアニオン系界面活性剤・ナフタリンスルホン酸塩を主成分とするものを使用することができる。また、消泡材としては、例えば、サンノプス製の「SNデフォーマー11P」(商品名)のように無機担体と非イオン系界面活性剤の混合物を使用することができる。
【0045】
このようにして、高弾性特殊モルタル2としては、コンクリートに比して、付着力を(コンクリートの凝結力よりも)大きくし、かつ、浸透性を小さくし、かつ、圧縮力を大きくし、粗度係数を小さくしたものを使用することにより、改良した水路の耐用年数を、新設当時の耐用年数よりもさらに延長することができるようにしている。
【0046】
▲3▼図5に示すように、下地塗工工程にて塗工した下地塗工面2aに樹脂系接着剤1を塗布し、乾燥後に高弾性特殊モルタル2を塗工する(中間塗工工程)。
【0047】
▲4▼図6に示すように、中間塗工工程にて塗工した中間塗工面2bに補強用炭素繊維シート3を貼付する(補強工工程)。
【0048】
ここで、補強用炭素繊維シート3としては、例えば、三菱化学(株)製の「リペラーク」(商品名)を使用することができる。
【0049】
▲5▼図7に示すように、補強工程にて貼付した補強用炭素繊維シート3の表面に高弾性特殊モルタル2を塗工する(仕上塗工工程)。
【0050】
このようにして、水路Aの改良作業を完了させることができる。
【0051】
また、図8及び図9は、他の実施例としての補強工工程を示しており、同補強工工程は、前記した▲1▼の下地処理工程から▲3▼の中間塗工工程までは共通し、同中間塗工工程にて塗工した中間塗工面2bに、薄肉板状の石材4を同塗工面の略全面にわたって張設するようにしている。2cは目地部である。
【0052】
このようにして、強度が不足する場合には、補強工程を追加することにより、簡単かつ確実に強度を確保することができると共に、外的美観を向上させることができる。
【0053】
次に、他の実施例としての水路壁面改良工法について説明する。
【0054】
▲1▼前記した図2に示す下地処理工程と同様に、水圧と水流を受ける表面(壁面)の補修用のモルタルの付着力を高めるために、これら劣化部分や異物等の老朽化部分aを除去した後、洗浄・清掃等を行う。
【0055】
▲2▼図10に示すように、下地処理工程にて、下地処理した水路Aの非老朽化部分cの表面bに、樹脂系水性接着剤1を塗布して水路Aの表面を中性化し、乾燥後に付着力の高い特殊モルタル5を塗工する(下地塗工工程)。
【0056】
特殊モルタル5としては、例えば、表2に示す配合割合のものを使用することができる。
【0057】
【表2】

【0058】
▲3▼図10に示すように、下地塗工工程にて塗工した下地塗工面5aにガラス繊維製ネット6を張設する(補強工工程)。
【0059】
ここで、ガラス繊維製ネット6としては、例えば、日本電子硝子製の「ネット10」(商品名)を使用することができる。
【0060】
▲4▼図11に示すように、補強工程にて張設したガラス繊維製ネット6の表面に特殊モルタル5を塗工する(仕上塗工工程)。
【0061】
このようにして、水路Aの改良作業を簡単かつ確実に完了させることができる。
【0062】
なお、本発明にかかる水路改良工法により水路Aの改良作業を行う際に、非老朽化部分cに亀裂等がある場合には、予め付着力と強度のある接着剤(例えば、モルタル類)を亀裂部分に注入して、止水・補強処理を施しておく。
【0063】
【発明の効果】
本発明によれば、次のような効果が得られる。
【0064】
(1)請求項1記載の本発明では、水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分に、セメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなる高弾性特殊モルタルを塗工する塗工工程とを具備すると共に、塗工工程では、非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に上記高弾性特殊モルタルを塗工して、同高弾性特殊モルタルに、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力と、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力とを発現させるようにしている。
【0065】
このようにして、水路を全て破壊することなく、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分を除去して下地処理することにより、非老朽化部分は核として残して有効利用し、その後、その下地処理した非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に高弾性特殊モルタルを塗工することにより水路壁面を改良することができる。
【0066】
ここで、高弾性特殊モルタルは、セメント、砂、ガラス繊維、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョン、減水材、消泡材、及び、水を配合してなるものである。
【0067】
そして、ガラス繊維は、セメントと砂と水とから形成されるモルタルを補強する補強材として配合している。そして、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンは、強度、耐久性、接着性、及び、養生性を増大させるために配合している。
【0068】
また、減水材は、空気が連行されて、ワーカビリティが向上するようにするために配合している。また、消泡材は、成形性を改善させるために配合している。
【0069】
その結果、かかる高弾性特殊モルタルは、1)高強度・高弾性、2)耐摩耗・耐衝撃性・耐ひび割れ性、3)強接着性、4)低透水性・少吸水量、5)難燃性・断熱性、6)耐海水・耐アルカリ、7)耐温度疲労・耐凍結融解性・耐候性等に優れ、安全性・耐久性・経済性を良好に確保することができる。
【0070】
従って、上記した高弾性特殊モルタルにより水路壁面を改良した際には、作業性を向上させることができると共に、施工期間の大幅な短縮を図ることができる。
【0071】
この際、作業条件等によって、強度、耐久性、接着性、及び、養生性を増大させる必要性がある場合には、酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンの配合割合を適宜増加することができる。
【0072】
しかも、高弾性特殊モルタルは、コンクリートの凝集力と同等若しくはそれよりも大きな付着力を有し、かつ、コンクリートと同等若しくはそれよりも大きな圧縮力を発現するようにしているため、改良した水路の耐用年数を、改良前と同等若しくはそれ以上に延長することができる。
【0073】
さらには、工事費が安価になり、作業時間を大幅に短縮することができると共に、作業中における騒音の発生を極力抑えることができ、かつ、建設廃材の排出を大幅に減少させることができて、環境問題に発展するのを防止することができる。
【0074】
そして、大型建設機械を必要としないことから、大規模な仮設道路も必要とせず、人力により作業を行うにもかかわらず、少ない労力にて短時間に簡単かつ確実に作業を行うことができる。
【0075】
(2)請求項2記載の本発明では、塗工工程にて塗工した塗工面に補強用炭素繊維シートを貼付し、同補強用炭素繊維シートの表面に高弾性特殊モルタルを塗工する補強工程を具備している。
【0076】
このようにして、強度が不足する場合には、補強工程を追加することにより、簡単かつ確実に強度を確保することができる。
【0077】
(3)請求項3記載の本発明では、塗工工程にて塗工した塗工面に、薄肉板状の石材を同塗工面の略全面にわたって張設する補強工程を具備している。
【0078】
このようにして、強度が不足する場合には、補強工程を追加することにより、簡単かつ確実に強度を確保することができると共に、外的美観を向上させることができる。
【0079】
(4)請求項4記載の本発明では、水圧と水流のあるコンクリート製の水路において、水路壁面の劣化部分や異物等の老朽化部分は除去すると共に、中心部の非老朽化部分は核として残して下地処理する下地処理工程と、同下地処理工程にて下地処理した非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する下地塗工工程と、同下地塗工工程にて下地塗工した塗工面にガラス繊維製ネットを張設する補強工工程と、同補強工工程にて張設したガラス繊維製ネット上に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する仕上塗工工程とを具備している。
【0080】
このようにして、下地処理した非老朽化部分の表面に樹脂系水性接着剤を塗布し、同樹脂系水性接着剤が乾燥した後に酢酸ビニルーエチレン共重合体エマルジョンを含有しガラス繊維が配合されていないモルタルを塗工する下地塗工と仕上塗工との間に、ガラス繊維製ネットを張設する補強工を設けているため、下地塗工と仕上塗工においてモルタル中にガラス繊維が配合されていないにもかかわらず、強度を確保することができると共に、補強による水路の流路断面積の縮小を回避することができて、流量と水位の確保も図れる。
【0081】
しかも、作業性を向上させることができると共に、施工期間の大幅な短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる水路壁面改良工法により改良した水路の断面正面図。
【図2】水路の表面の劣化状態を示す断面正面図。
【図3】下地処理後の水路の断面正面図。
【図4】下地塗工後の水路の断面正面図。
【図5】中間塗工後の水路の断面正面図。
【図6】補強工後の水路の断面正面図。
【図7】仕上塗工後の水路の断面正面図。
【図8】他の実施例としての補強工後の水路の断面正面図。
【図9】同水路の断面側面図。
【図10】他の実施例としての水路壁面改良工法により改良した水路下地塗工後の水路の断面正面図。
【図11】仕上塗工後の水路の断面正面図。
【符号の説明】
A 水路
B 基礎
G 地面
T 鉄筋
a 老朽化部分
b 下地処理した水路の表面
c 非老朽化部分
1 樹脂系水性接着剤
2 高弾性特殊モルタル
2a 下地塗工面
2b 中間塗工面
2c 目地部
3 補強用炭素繊維シート
4 石材
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-12-26 
結審通知日 2008-01-08 
審決日 2008-01-21 
出願番号 特願2001-22301(P2001-22301)
審決分類 P 1 123・ 121- ZB (E02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西田 秀彦  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 小山 清二
伊波 猛
登録日 2005-12-09 
登録番号 特許第3749833号(P3749833)
発明の名称 コンクリート製の水路壁面改良工法  
代理人 松尾 憲一郎  
代理人 松尾 憲一郎  
代理人 中村 宏  

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