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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B05C
管理番号 1179492
審判番号 無効2007-800139  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-07-23 
確定日 2008-05-26 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3523836号発明「環状山付塗工用ロッドの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3523836号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第3523836号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)についての出願は、平成12年9月28日に出願され、平成16年2月20日にその発明について設定の登録がされたものである。

(2)請求人は、平成19年7月23日に審判請求書を提出し、本件特許発明は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに甲第4号証乃至甲第7号証に記載されたような周知技術に基づいて、または、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明並びに甲第4号証乃至甲第7号証に記載されたような周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、したがって、本件特許発明は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたと主張し、証拠方法として甲第1号証乃至甲第7号証を提出している。

(3)被請求人は、平成19年10月11日に訂正請求書を提出し訂正を求めた。当該訂正の内容は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。具体的には、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を下記の通り訂正することを求めるものである。

a)訂正事項1
本件特許明細書における特許請求の範囲の請求項1について、
「【請求項1】 被塗工部材の表面に所定の塗工剤を塗布するために外周面に周方向の凸条が設けられた円柱形状の塗工用ロッドの製造方法であって、
所定のリード角を有する凸条歯が外周面に設けられた転造ダイスを用いて、該転造ダイスの軸心をロッド素材の軸心に対して該所定のリード角だけ傾斜させた状態で該ロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、該ロッド素材の外周部にリード角が零である多数の環状山を所定のピッチで形成したことを特徴とする環状山付塗工用ロッドの製造方法。」とあるのを、
「【請求項1】 被塗工部材の表面に所定の塗工剤を450乃至800m/minの速度で高速塗布するために外周面に0.1乃至3.0mmの間隔で周方向の凸条が設けられた円柱形状の塗工用ロッドの製造方法であって、
所定のリード角を有する凸条歯が外周面に設けられた転造ダイスを用いて、該転造ダイスの軸心をロッド素材の軸心に対して該所定のリード角だけ傾斜させた状態で該ロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、該ロッド素材の外周部にリード角が零である多数の環状山を所定のピッチで形成して環状山付塗工用ロッドを一方向へ送り出すようにしたことを特徴とする環状山付塗工用ロッドの製造方法。」と訂正する。(下線部は訂正箇所を示す、以下同じ。)

b)訂正事項2
本件特許明細書の発明の詳細な説明、段落【0009】における
「【課題を解決するための手段】
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、被塗工部材の表面に所定の塗工剤を塗布するために外周面に周方向の凸条が設けられた円柱形状の塗工用ロッドの製造方法であって、所定のリード角を有する周方向の凸条歯が外周面に設けられた転造ダイスを用いて、その転造ダイスの軸心をロッド素材の軸心に対して該所定のリード角だけ傾斜させた状態で該ロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、そのロッド素材の外周部にリード角が零である多数の環状山を所定のピッチで形成したことにある。」とあるのを、
「【課題を解決するための手段】
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、被塗工部材の表面に所定の塗工剤を450乃至800m/minの速度で高速塗布するために外周面に0.1乃至3.0mmの間隔で周方向の凸条が設けられた円柱形状の塗工用ロッドの製造方法であって、所定のリード角を有する周方向の凸条歯が外周面に設けられた転造ダイスを用いて、その転造ダイスの軸心をロッド素材の軸心に対して該所定のリード角だけ傾斜させた状態で該ロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、そのロッド素材の外周部にリード角が零である多数の環状山を所定のピッチで形成して環状山付塗工用ロッドを一方向へ送り出すようにしたことにある。」と訂正する。

2.訂正の可否に対する判断
上記訂正事項1及び2について、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否について、以下に検討する。

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、3つの訂正を包含しているので、それぞれ以下に判断する。
a)訂正前の「被塗工部材の表面に所定の塗工剤を塗布するため」を「被塗工部材の表面に所定の塗工剤を450乃至800m/minの速度で高速塗布するため」と速度に関する限定を追加する訂正は、「塗布」の条件について「450乃至800m/minの速度」という「高速」で実行するものであることを限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正後の「450乃至800m/minの速度で高速塗布する」なる記載は、本件特許明細書の「たとえば450m乃至800m/min程度の比較的高速の塗工となると」(本件特許明細書の段落【0019】)なる記載に基づくものであり、明細書に記載された範囲にない事項を追加するものではない。

b)訂正前の「外周面に周方向の凸条が設けられた」を「外周面に0.1乃至3.0mmの間隔で周方向の凸条が設けられた」とする訂正は、塗工用ロッドに設けられる「周方向の凸条」について、その間隔を「0.1乃至3.0mm」と限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正後の「0.1乃至3.0mm」なる点は、本件特許明細書の「上記凸条12は、山頂を含む外周面が軸心と平行な円筒面となるように形成されており、たとえば0.1mm≦P_(1) ≦3.0mmの範囲内で設定された1ピッチP_(1) の間隔で環状或いはリング状に形成されている。」(段落【0014】)なる記載に基づくものであり、明細書に記載された範囲にない事項を追加するものではない。

c)訂正前の「多数の環状山を所定のピッチで形成した」を「多数の環状山を所定のピッチで形成して環状山付塗工用ロッドを一方向へ送り出すようにした」とする訂正は、「環状山」を形成する際の「環状山付塗工用ロッド」の動きを記載したもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと解される。
また、訂正後の環状山付塗工用ロッドを「一方向へ送り出すようにした」なる点は、「以上のように構成された転造加工装置20において、1対の転造ダイス22、24が、図2或いは図4の矢印で示す方向へ回転駆動されると、ロッド素材26の外周面にはリード角θが零の環状の凸条12が転造加工されるとともに、ロッド素材26は図2或いは図4の矢印で示す方向へ軸心まわりに回転しつつ図2の左方向へ送られる。そして、図示しない装置により所定長さで切断されることにより前記環状山付塗工用ロッド10が得られる。」(本件特許明細書の段落【0018】)なる記載に基づくものであり、明細書に記載された範囲にない事項を追加するものではない。

さらに、上記a)乃至c)いずれも、また全体としてみても、特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1により請求項1に対してなしたと同様の内容について、本件特許明細書の発明の詳細な説明、段落【0009】の記載を訂正するもので、請求項1の記載と記載を整合させるものであり、明りょうでない記載の釈明に該当するものであり、訂正事項1と同様に、明細書に記載された範囲にない事項を追加するものでもなく、また実質的に特許請求の範囲を拡張または変更するものでもない。

3.訂正の適否についての判断
したがって、平成19年10月11日付け訂正請求書による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び同条同項第3号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、特許法第134条の2第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定を満足するものであるから、当該訂正を認める。

なお、請求人は、後述するように、上記訂正について、特許法第134条の2第1項ただし書き各号何れを目的とするものでもない旨主張するが、上記の通り、訂正事項1は、訂正前に記載されていた事項について追加的に限定を加えるものであり、同法同項ただし書きの第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮、を目的とするものと解され、また、訂正事項2は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とをあわせるもので、同法同項ただし書き第3号に規定する明りょうでない記載の釈明に該当するものであり、請求人の主張は採用できない。

4.当事者の主張
4-1.請求人の主張
請求人は、本件特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、次のように主張し、証拠方法として甲第1号証乃至甲第7号証を提出している。

(1)無効理由1
本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明、並びに甲第4号証乃至甲第7号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件特許発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明、並びに甲第4号証乃至甲第7号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

甲第1号証 特開昭60-193565号公報
甲第2号証 特公昭38- 23466号公報
甲第3号証 社団法人 日本塑性加工学会 編、「回転加工 -転造とス ピニング-」、初版第2刷、株式会社コロナ社、1998年 7月10日発行、P.200?209
甲第4号証 特許第 2676634号公報
甲第5号証 特開平 5- 347号公報
甲第6号証 特開平 5-293580号公報
甲第7号証 実公平 4- 40767号公報

(3)請求人は、平成19年11月26日付け弁駁書において、
a)平成19年10月11日付け訂正請求書による訂正について、当該訂正は特許法第134条の2第1項ただし書きに規定する何れのことを目的とするものでもないので、当該訂正は認められるべきでない旨、主張し、
b)当該訂正後の請求項1に係る発明について、不明確なものであるから、本件特許は特許法第36条第6項の規定を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである、と主張すると共に、
c)訂正後の請求項1に係る発明についても、甲第1号証、及び甲第2号証に記載された発明若しくは甲第3号証に記載された発明、並びに甲第4号証乃至甲第7号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである旨、主張している。

(4)請求人は、平成20年2月7日の口頭審理において、口頭審理陳述要領書を提出し、基本的には、弁駁書で主張したと同様のことを主張している。

4-2.被請求人の主張
(1)一方、被請求人は、平成19年10月11日付け答弁書において、同日付け訂正請求書により訂正後の請求項1に係る発明について、甲第1号証乃至甲第7号証に記載された発明から容易に発明できたものではなく、請求人主張の無効理由はないと主張している。

(2)平成20年2月7日の口頭審理において、口頭審理陳述要領書を提出し、
a)平成19年10月11日付け訂正請求書による訂正について、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮、及び同条同項ただし書き第3号に規定する、明りょうでない記載の釈明、の2つを目的とするものであり、当該訂正は適法なものであること、
b)訂正後の請求項1に係る発明について、請求人の主張するような不明確なものではなく、請求人が主張するような無効理由はないと主張し、また、
c)訂正後の請求項1に係る発明について、甲第1号証乃至甲第7号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではなく、請求人主張の無効理由はないと主張している。

5.記載不備について
請求人は弁駁書等において、訂正後の発明について、特許請求の範囲の記載は明確でない旨主張する。ただし、これについては、審判請求の理由としては主張されておらず、また審判請求の理由について補正を希望するという主張もないので、特に判断する必要はないところではあるが、本件に係る発明の認定にも係わるので、念のため以下に判断する。

訂正後の請求項1に記載された「被塗工部材の表面に所定の塗工剤を450乃至800m/minの速度で高速塗布する」なる点に関し、本件特許明細書においては、既述の通り段落【0019】に「因みに、リード角θが設けられた螺旋状の凸条12が形成された塗工用ロッドが用いられる場合には、たとえば450m乃至800m/min程度の比較的高速の塗工となると、巻き込まれた空気の流れに上記リード角θ方向の方向性が発生し、これにより局部的な厚みのばらつきが発生してそのリード角方向に視覚的に認識される塗工むらが形成されてしまうのである。」と、従来技術との関連において記載されているのみであり、本件特許発明に関して当該速度について明細書には具体的な記載はない。
そこで、この種のロッド塗工装置の技術における技術常識を検討する。
例えば本件特許の出願前に頒布された刊行物である、「コーティングのすべて」(株式会社加工技術研究会編集企画、(発行人)荒木正義、(発行者)株式会社加工技術研究会、平成11年12月3日発行。以下、「周知例1」という。)には、その「塗工装置、2.7 ロッドコーター」の項に、「塗工量は20g/m^(2)以下、塗工速度は10?400m/minである。」(第27頁、右欄、第25、26行)なること、および、「塗布型磁気記録メディアにおけるコーティング方式、3.グラビア方式の磁気媒体」の項に「技術の立場からこの方式の仕様を見てみると、通常、塗布厚は1?50μm、塗料粘度は15?1,500Pa・s、塗布速度は600m/minまでは十分である。 … … 短所; (1)1,000m/min近くの高速運転は少々困難。」(第177頁中欄第14行?第178頁左欄第3行、上記における「(1)」なる記載は、原文では丸付き数字である。)と記載されている(なお、周知例1記載の「マイクログラビアロール」も、本件訂正発明の塗工用ロッドに該当するものである)。また、特開平2-17967号公報(以下、「周知例2」という。)には、ロッドコータに関して「この発明のロッドコータは、シート状物の走行速度を50?1000m/分もの高速で塗布することが可能となり、シート状物の塗布コストのコストダウンに大きく寄与する。」(公報第5頁右下欄第8?11行)と記載されており、さらに、特開2000-126670号公報(以下、「周知例3」という。)には、ロッド・コート方式に関するもので、ワイヤーロッドまたはフラットロッドを使用する場合の(被塗布物である)ウエブの走行速度について「160m/min」、「300m/min」、「800m/min」の実施例が記載されている(公報段落【0023】表1)。
これら各周知例に記載された事項を参酌すると、この種のロッド塗工装置においては、シート、ウエブのような被塗工材の搬送速度を、塗布速度の判断の尺度としており、かつ「m/min」の単位の速度で記載することが普通に行われていたものと解される。

このような本件特許の出願時以前における技術常識を前提とすれば、訂正後の発明の「被塗工部材の表面に所定の塗工剤を450乃至800m/minの速度で高速塗布する」なる記載についても、被塗工部材の搬送速度を意味することは理解可能であり、また当該訂正が、塗工ロッドの製造方法に関する発明である訂正後の本件発明により製造された塗工ロッドについて限定するものであることは明らかであるので、特に訂正後の発明が不明確なものとはいえない。

したがって、訂正後の発明に関して、特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものとはいえない。

6.本件訂正発明
したがって、本件特許発明は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された事項により特定される、次の通りのものと認められる。

「【請求項1】 被塗工部材の表面に所定の塗工剤を450乃至800m/minの速度で高速塗布するために外周面に0.1乃至3.0mmの間隔で周方向の凸条が設けられた円柱形状の塗工用ロッドの製造方法であって、
所定のリード角を有する凸条歯が外周面に設けられた転造ダイスを用いて、該転造ダイスの軸心をロッド素材の軸心に対して該所定のリード角だけ傾斜させた状態で該ロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、該ロッド素材の外周部にリード角が零である多数の環状山を所定のピッチで形成して環状山付塗工用ロッドを一方向へ送り出すようにしたことを特徴とする環状山付塗工用ロッドの製造方法。」(以下、「本件訂正発明」という。)

7.甲第1号証乃至甲第7号証に記載された発明、周知技術
(1)甲第1号証に記載された発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開昭60-193565号公報)には、以下のことが記載されている。

a)「第2図において、6は塗布ロールであり、その外周面が、周方向の突条と溝とを軸方向に交互に配置した凹凸面からなり、水平軸心6a回りで回転可能に支持されている。」(甲第1号証、第2頁左上欄第8?11行)

b)「接着剤10は、塗布ロール6の回転(矢印B方向)により、塗布ロール6の周面に付着し被塗布材7に塗布される。」(同第2頁右上欄第4?6行)

c)以上のこと、及び図面の記載からみて、甲第1号証には、次のことが記載されているといえる。

「被塗布材7の表面に接着剤10を塗布するために、外周面に周方向の突条が設けられた円柱形状の塗布ロール。」(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)

(2)甲第2号証に記載された発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特公昭38-23466号公報)には、以下のことが記載されている。

a)「第1図Cに示すようなものを製造する場合にはあらかじめ後述するような計算によつて適正な異形のネジ溝の形を求め、このようなネジ溝を切削した全く同じ設計の一組の成形ロール1,1'を第2図及び第3図の如き配置を持たせて同方向に同速回転させ、この間を第1図aに示すごとき長尺の丸棒素材を、第2図、第3図のXX’の方向に送り込み、ネジ溝間で素材を漸次変形させるとき、その成形過程の中間における或る瞬間の形状として第1図bの如き中間形状を経てcの最終形状のものに連続成形するものである。」(甲第2号証、第1頁左欄第27?36行)

b)「本成形法に使用する成形ネジロールは第2図に示すように全く相等しい設計を行なつた2個のロール1,1'の軸をロール軸が交わる位置において水平線XX’から、ロールの最終成形部(製品排出部)におけるネジのリード角θだけ夫々図のように上下に傾け、第3図に示すように平面図においては両ロール1,1'の軸が平行になるように設定する。」(同、第1頁右欄第4?9行)

c)「成形ネジロールのネジ山は成形当初区切られた素材部分が常に体積一定に保たれ且該素材部分の最小直径部がロール溝の谷底部に軽く接触し、この部分において … … この際ロールネジ溝の谷底部を結ぶ線はロール軸に平行となるようにする。」(同、第1頁右欄第10?17行)

d)「即ち、第6図に示すように製品の中心孔に近い直径の心金4を一組の本発明ロール1,1'の中央に設置し、これに適当な肉厚で内径が心金の直径に近いパイプ材3を通し、心金を案内してパイプ材をロール間に送り込めば他端より連続した製品5が送り出される。」(同、第2頁左欄第7?11行)

以上のこと、及び第1図乃至第3図、第6図の記載からみて、甲第2号証には以下の発明が記載されているといえる。

「リード角θを有するネジ山が外周面に設けられたロール1,1'を用いて、該ロールの1,1'軸心を丸棒素材の軸心に対してθ(θ_(0))だけ傾斜させた状態で丸棒素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、外周面に環状の大径部を所定の間隔で形成して回転体形状を有する製品を一方向に送り出すようにした、傾斜圧延式連続成形法。」(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)

(3)甲第3号証記載の発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(社団法人 日本塑性加工学会 編、「回転加工 -転造とスピニング-」、初版第2刷、株式会社コロナ社、1998年7月10日発行、P.200?209)には、以下のことが記載されている。

a)「9.1.1 加工方法の概略
傾斜軸転造では,図9.1に示すように,被加工材軸SWに対してロール軸SR1,SR2をそれぞれ角度θずつ互いに逆方向に傾け一定の間隔で配置する。このとき,ロールと被加工材との接触回転におけるロール転動円直径をD_(w)、ロール回転速度をn〔rpm〕,ロール転動円上の点Pの周速度をvとすると,被加工材には
v_(z)=vsinθ=πD_(w)nsinθ/60 (9.1)
の軸方向送り速度が発生する。このv_(z)によって被加工材は自動的に軸方向に送られ,スルーフィード転造が行われる。」(甲第3号証、第200頁、「9.1 傾斜転造軸」の項第1行-201頁第1行)

b)「ロール外周面には,成形すべき転造品の形状に対応した孔型(凹凸)が所定のピッチでつけられる。そのリード角をロール転動円上でβ_(R)とすると,転造品に成形されるプロフィルのリード角β_(W)は、被加工材の転動円上において,
β_(W)=β_(R)-θ (9.2)
である。ただし,ロールの回転と軸の傾斜角が図9.1に示す方向の場合にθは正で,ロール孔型が右ねじれのときβ_(R)>0,転造品プロフィルが左ねじれのときβ_(W)>0とする。したがって,θ=β_(R)とするとβ_(W)=0となってリード角のない環状の転造プロフィルが得られ、β_(R)=0とするとβ_(W)=-θのねじ状の転造プロフィルが成形される。β_(R)<0とすると、ロール孔型より大きなリード角を持った転造プロフィルを小さなロール軸傾斜角で成形できる。」(同、第201頁第2?11行)

c)「〔2〕段付き中空部品の転造 厚肉の継目なし鋼管から,図9.7に示すように,3個のロールとマンドレルを用いた傾斜転造法によって,自転車用のハブ(スリーブ)や軸受リングなどを熱間で連続的に成形する。ソビエトで開発された方法であり,中実丸棒素材から加熱,マンネスマンせん孔を経てこの方法で段付き中空部品が一貫ラインで成形される。表9.1は自転車用ハブの転造装置の主要諸元例である。 … … 成型品はリード角を持たないので,式(9.2)から,平行なねじ状突起のリード角β_(R)とロール軸傾斜角θは等しく設定することになる。」(同、第205頁第8行?206頁第14行)

d)「〔3〕フィン付きチューブの転造 図9.8のように,3個のロールを用いた傾斜軸転造法によって,アルミニウムや銅などの軟質金属チューブの外周部に薄いフィンまたはリブを小ピッチで盛り上げて成形する。ねじ山状にリード角を持つフィンを成形する場合には,ロールは薄い円板状要素を所定のピッチで重ね合わせて一体に固定した構造をとることが多く,各円板要素の外径はロールの食込み部において入口側から出口側に向かって漸増させる。この場合,式(9.2)により,ロール軸傾斜角θはフィンのリード角(転動径上)β_(W)と等しくなる。リード角を持たない円板状フィンを成形する場合には、ロールは薄い突起をねじ山状につけたものとなり、このときのロール軸傾斜角はロール上の突起のリード角β_(R)と等しくなる。」(同、第206頁第19?28行)

e)上記a)、b)には、転造加工の技術における、ロールのリード角とロール軸の傾斜角との関係が記載されているから、転造に使用するロールのリード角と軸の傾斜角とを等しくすると環状の加工を行うことができることがわかる。さらに、被加工材が転造成形過程において一方向に送り出されることも記載されている。
また、上記c)、d)によれば、当該環状の凹凸を備えた、比較的長尺の円柱状の加工品が成形できることもわかる。

f)以上のことから、甲第3号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「所定のリード角を有する凹凸が外周面に設けられたロールを用いて、該ロールの軸心を被加工材の軸心に対して該所定のリード角だけ傾斜させた状態で該被加工材の外周面に押圧しながら回転させることにより、該被加工材の外周部にリード角が零である多数の凹凸を所定のピッチで形成して、被加工材を一方向へ送り出すようにした円柱状加工品の製造方法。」(以下、「甲第3号証記載の発明」という。)

(4)甲第4号証乃至甲第7号証(周知技術)
甲第4号証乃至甲第7号証には、何れも、螺旋状の凸条を有する塗工用ロッドを転造ダイスを用いて転属加工により製造することが記載されており、また、当該塗工用ロッドにおいて、隣接する凸条の間隔(ピッチ)については、0.15mm(甲第4号証)、0.3mm(甲第5号証)、0.3mm?1.52mm(甲第7号証)としたことも記載されている。

8.対比
本件訂正発明と甲第1号証記載の発明とを比較すると、甲第1号証記載の発明が備える「被塗布材7」、「接着剤10」及び「突条」は、本件訂正発明の備える「被塗工部材」、「所定の塗工剤」及び「凸条」に相当するものであり、また、本件訂正発明の「塗工ロッド」は、塗工方法を特定されない広範な用途を持つものであることに鑑み、甲第1号証記載の発明のような「塗布ロール」も包含するものと解される。

したがって、両者は「被塗工部材の表面に所定の塗工剤を塗布するために外周面に周方向の凸条が設けられた円柱形状の塗工用ロッド。」である点、一致し、以下の点で相違する。

(1)相違点1
本件訂正発明の塗工ロッドが「被塗工部材の表面に所定の塗工剤を450乃至800m/minの速度で高速塗布するために外周面に0.1乃至3.0mmの間隔で周方向の凸条が設けられた円柱形状の塗工用ロッド」であるのに対し、甲第1号証記載の発明の塗工ロッドである塗布ロールは、「被塗工部材の表面に所定の塗工剤を塗布するために外周面に周方向の凸条が設けられた円柱形状の塗工用ロッド」ではあるが、どのような速度で塗布するものか明らかでなく、また周方向に設けられた凸条の間隔についても不明である点(以下、「相違点1」という。)。

(2)相違点2
本件訂正発明の塗工ロッドの製造方法が、「所定のリード角を有する凸条歯が外周面に設けられた転造ダイスを用いて、該転造ダイスの軸心をロッド素材の軸心に対して該所定のリード角だけ傾斜させた状態で該ロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、該ロッド素材の外周部にリード角が零である多数の環状山を所定のピッチで形成して環状山付塗工用ロッドを一方向へ送り出すようにした」ものであるのに対し、甲第1号証記載の発明に係る塗布ロールは、その具体的な製造方法は明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

9.当審の判断
以下、上記各相違点について検討する。

(1)相違点1について
螺旋状の凸条を有するものではあるが転造により製造された塗工用ロッドにおいて、隣接する凸条の間隔が0.15mm,0.3mm?1.52mmとしたことが周知であったことを考慮すると、本件訂正発明は数値範囲において当該周知技術を包含するものであり、その上・下限の値については、当該上・下限の値において特に技術的意義があるものとも解されないので、甲第1号証記載の発明のような塗工用ロッドについて、塗工装置に求められる塗工性能・塗工条件等に基づき塗工用ロッドの凸条の間隔を適宜に決定し、上記相違点1にある本件訂正発明に係る数値範囲とすることは、当業者にとり設計上適宜になしうる程度のことにすぎない。
また、請求項1の記載によれば、当該「450乃至800m/minの速度で高速塗布する」ために「0.1乃至3.0mmの間隔で周方向の凸条を設けられた」とされており、そうすると文理上「外周面に0.1乃至3.0mmの間隔で周方向の凸条が設けられた円柱形状の塗工用ロッド」であれば「被塗工部材の表面に所定の塗工剤を450乃至800m/minの速度で高速塗布する」ものとなると解される。
上記の通り、本件訂正発明における塗工用ロッドの凸条の間隔については当業者にとり設計上適宜に定める程度のことであるので、上記「450乃至800m/minの速度で高速塗布する」点についても、相違点1の本件訂正発明のような凸条の間隔とした結果、当然、そのような高速塗布するものとなったと解される。

なお、上記「5.記載不備について」において、技術常識を参酌する上で示した周知例1乃至3にも、本件訂正発明の相違点1の数値範囲に入る速度で塗工を行うロッド型塗工装置が記載されており(周知例1では、本件訂正発明に包含されると考えられるマイクログラビアロールを使用した塗布において「塗布速度は600m/minまでは十分である。 … … 短所; (1)1,000m/min近くの高速運転は少々困難。」と塗工速度が記載され、周知例2では「シート状物の走行速度を50?1000m/分もの高速で塗布することが可能」と、また、周知例3ではウエブの走行速度について「300m/min」、「800m/min」と記載されている。)、このことを参酌すると、本件訂正発明において規定する塗工速度についても従前周知の域を超えるものではないといえる。

(2)相違点2について
甲第3号証記載の発明の備える「凹凸」、「ロール」、「被加工材」、及び「円柱状加工品」は、それぞれ本件訂正発明の備える「凸条歯」、「転造ダイス」、「ロッド素材」及び「環状山付き塗工用ロッド」に相当し、甲第3号証記載の発明を本件訂正発明にあわせて記載すると、「所定のリード角を有する凸条歯が外周面に設けられた転造ダイスを用いて、該転造ダイスの軸心をロッド素材の軸心に対して該所定のリード角だけ傾斜させた状態で該ロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、該ロッド素材の外周部にリード角が零である多数の環状山を所定のピッチで形成して環状山付塗工用ロッドを一方向へ送り出すようにした環状山付き塗工用ロッドの製造方法。」となる。
また、甲第2号証記載の発明の備える「リード角θ」、「ねじ山」、「ロール1,1'」、「丸棒素材」、「回転体形状を有する製品」及び「傾斜圧延式連続成形法」は、それぞれ本件訂正発明の「所定のリード角」、「凸条歯」、「転造ダイス」、「ロッド素材」、「環状山付き塗工用ロッド」及び「環状山付塗工用ロッドの製造方法」に相当するから、甲第2号証記載の発明も、甲第3号証記載の発明と同様の製造方法が記載されているといえる。

甲第4号証乃至甲第7号証に記載されているように、塗工用ロッドを転造加工により製造することがよく知られていたことを参酌すると、甲第1号証記載の発明のような塗工用ロッドを製造するにあたり、転造加工に関する技術である甲第3号証または甲第2号証に記載の発明を適宜採用し、上記相違点2に係る本件訂正発明のようにすることは、当業者にとりごく普通に想到する程度のことにすぎない。

なお、請求人が主張する塗工むら等に関する効果に関しても、甲第1号証記載の発明のような従来知られた環状山付き塗工ロッドが、本来その属性として有していたことを主張するにすぎず、本件訂正発明のようにした結果特に顕著な効果が生じたものとも認められない。

10.むすび
以上のことから、本件訂正発明は、甲第1号証記載の発明、及び甲第2号証または甲第3号証記載の発明、並びに甲4号証乃至甲第7号証記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当する。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。

よって、結論の通り審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
環状山付塗工用ロッドの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】被塗工部材の表面に所定の塗工剤を450乃至800m/minの速度で高速塗布するために外周面に0.1乃至3.0mmの間隔で周方向の凸条が設けられた円柱形状の塗工用ロッドの製造方法であって、
所定のリード角を有する凸条歯が外周面に設けられた転造ダイスを用いて、該転造ダイスの軸心をロッド素材の軸心に対して該所定のリード角だけ傾斜させた状態で該ロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、該ロッド素材の外周部にリード角が零である多数の環状山を所定のピッチで形成して環状山付塗工用ロッドを一方向へ送り出すようにした
ことを特徴とする環状山付塗工用ロッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被塗工部材の表面に所定の塗工剤を塗布するための環状山塗工用ロッドおよびその製造方法、その環状山塗工用ロッドを用いた塗工方法に関し、特に、塗工むらを無くして塗工性能を向上させる技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
円柱形状の外周部に螺旋状に凸条が設けられて被塗工部材の表面近傍に略平行に配設され、軸心まわりに回転させられるとともにその被塗工部材の表面に沿って相対移動させられることにより、その被塗工部材の表面に所定の塗工剤を塗布する塗工用ロッドが知られている。かかる塗工用ロッドは、従来、円柱形状のロッドの外周面に所定の径寸法のワイヤを螺旋状に巻回したものが用いられていたが、例えば実公平4-40767号公報に記載されているように、転造加工によって螺旋状の凸条を一体に設けたものも提案されている。
【0003】
図5の塗工用ロッド100は上記実公平4-40767号公報に記載されているものであり、略周方向の凸条102の間隔が相互に接するように狭くされて小さなピッチPとされたものである。図6の塗工用ロッド101は略周方向の凸条102の間隔が広くされて相対的に大きなPとされたものである。それら塗工用ロッド100および101の外周面に設けられた凸条102は、断面が半円形状を成して螺旋状に一体的に設けられており、例えば図7の(a)、(b)に示すように使用されて、合成樹脂製のフィルムやシート等の被塗工部材104の表面に、例えば接着剤、感光乳剤、コーティング剤などの粘性流体或いは液状物質である所定材料の塗工剤106を塗布する。
【0004】
図7の(a)は、略水平に配設された送りローラ108の上方に略平行に塗工用ロッド100或いは101が被塗工部材104の表面近傍に配設され、長手形状の被塗工部材104が送りローラ108によって図の右方向へ走行させられるとともに、その送り速度に応じて定められた一定の回転速度で塗工用ロッド100或いは101が矢印で示すように送り方向へ回転させられることにより、被塗工部材104の上面に供給された塗工剤106を定量送りして被塗工部材104の上面に所定の厚さで略均一に塗布するようになっている。また、図7の(b)は、複数の送りローラ110によって塗工剤106が収容された容器112内を被塗工部材104が走行させられることにより、その被塗工部材104の表面に塗工剤106が付着させられる一方、その容器112の上方において被塗工部材104の表面に近接して略平行に配設された塗工用ロッド100或いは101が矢印で示すように逆方向へ所定の回転速度で回転させられ、余分な塗工剤104が掻き落とされることにより、被塗工部材104の表面に塗工剤106が所定の厚さで略均一に塗布されるようになっている。
【0005】
なお、図7(a)についても、被塗工部材104の走行方向と逆向きに塗工用ロッド100或いは101を回転させて、余分な塗工剤106の通過を阻止することにより、塗工剤106を略均一に塗布するようにしても良いなど、塗工用ロッド100或いは101の使用態様は上記図7(a)、(b)に限定されるものではない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の塗工用ロッド100或いは101の外周面に形成された凸条102は螺旋状であることから、被塗工部材104に塗工剤106が塗布された後の所定時間経過後においても、塗工剤106の塗布された塗布層の表面に、図8の破線に示すように、塗工用ロッド100或いは101の外周面に螺旋状に形成された凸条102の方向に関係して形成された塗工むらが凸条102のリード角方向に連なって生じるという問題があった。このようなむらは、膜厚の局所的なばらつきに由来するものであり、塗工剤106の粘性が高くて平滑化し難い場合に顕著になる。
【0007】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、塗工膜厚のむらが少ない良好な塗工品質が得られる塗工用ロッドを提供することにある。
【0008】
【0009】
【課題を解決するための手段】
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、被塗工部材の表面に所定の塗工剤を450乃至800m/minの速度で高速塗布するために外周面に0.1乃至3.0mmの間隔で周方向の凸条が設けられた円柱形状の塗工用ロッドの製造方法であって、所定のリード角を有する周方向の凸条歯が外周面に設けられた転造ダイスを用いて、その転造ダイスの軸心をロッド素材の軸心に対して該所定のリード角だけ傾斜させた状態で該ロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、そのロッド素材の外周部にリード角が零である多数の環状山を所定のピッチで形成して環状山付塗工用ロッドを一方向へ送り出すようにしたことにある。
【0010】
【0011】
【発明の効果】
本発明の製造方法により製造された環状山付塗工用ロッドにおいては、軸心まわりに回転させて塗工剤を塗布する場合、被塗工部材の表面に所定の塗工剤を塗布するために円柱形状の塗工用ロッドの外周面に周方向に設けられた凸条が、リード角が零である多数の環状山から構成されていることから、被塗工部材に塗工剤が塗布された後の塗布層において上記凸条のリード角方向に連なる塗工むらが発生しないので、塗工品質が高められる。また、本発明の製造方法によれば、所定のリード角を有する周方向の凸条歯が外周面に設けられた転造ダイスを、その軸心をロッド素材の軸心に対して該所定のリード角だけ傾斜させた状態でそのロッド素材の外周面に押圧しながら回転させることにより、そのロッド素材の外周面にリード角が零である多数の環状山が所定のピッチで形成されたロッド素材がその軸心まわりに回転させられつつ、一方向へ送り出される。
【0012】
【発明の好適な実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施例である環状山付塗工用ロッド10を示す図であって、軸心と直角な方向から見た正面図である。この環状山付塗工用ロッド10は、金属製であって、たとえば10乃至30mmφ程度の円柱形状を成し、軸心方向に所定の間隔で環状に形成された多数の凸条12をその外周面に備えている。この凸条12は、たとえば10μm乃至数百μm程度の高さであって、従来に比較してリード角がない(零である)ので、上記環状山付塗工用ロッド10はリードレス塗工用ロッドと称され得る。
【0014】
上記凸条12は、山頂を含む外周面が軸心と平行な円筒面となるように形成されており、たとえば0.1mm≦P_(1)≦3.0mmの範囲内で設定された1ピッチP_(1)の間隔で環状或いはリング状に形成されている。この凸条12の断面において、山頂形状や半円状とされているが、山頂が平坦な台形状などであってもよい。また、凸条12の間の凹部すなわち谷部18の形状は、塗布される材料すなわち塗工剤の物性に応じて種々の形状とされる。
【0015】
上記環状山付塗工用ロッド10は、被塗工部材104の表面近傍に略平行に配設され、軸心まわりに回転させられるとともに被塗工部材104の表面に沿って相対移動させられることにより、その被塗工部材104の表面に所定の塗工剤106を略均一に塗布するものである。例えば、前記図7(a)、(b)に示すコーティング(塗工)装置において前記塗工用ロッド100或いは101の代わりに配設され、軸心まわりに回転させられることにより被塗工部材104の表面に、接着剤、粘着剤、感光乳剤、コーティング剤などの粘性流体である所定の塗工剤106を所定の厚さで略均一に塗布するように使用される。
【0016】
このような環状山付塗工用ロッド10は、例えば図2乃至図4に示す転造加工装置20によって製造される。転造加工装置20は、円柱形状のロッド素材26を両側から挟圧して転造加工を行う一対の転造丸ダイス22、24と、転造加工中のロッド素材26を下から支持するための支持部材28とを備えている。図2はロッド素材26の軸心方向から見た正面図であり、図3は図2の右側面図であり、図4は図2の平面図である。
【0017】
転造ダイス22、24の外周面には、何れも前記凸条12の間の凹部18の形状に対応する断面形状の転造歯30が前記ピッチP_(1)と略同じピッチの間隔で軸方向に離間してリード角θがたとえば0.04’程度となるように螺旋状で設けられおり、一対の転造ダイス22、24は、図3および図4に示すように、その転造歯30のロッド素材26に接触する部位の歯筋方向がそのロッド素材26の軸心に対して直角な方向、図3では垂直な方向となる姿勢となるように回転可能に配設される。すなわち、ロッド素材26の進行方向の右側に位置する転造ダイス22の回転軸心Aとロッド素材26の進行方向の左側に位置する転造ダイス24の回転軸心Bとがロッド素材26の回転軸心Cを含む平面に対してリード角θだけそれぞれ反対方向に傾斜させられるように、一対の転造ダイス22、24が配設されている。なお理解を容易とするために、図3及び図4において、転造ダイス22、24の回転軸心の傾斜は強調されている。
【0018】
以上のように構成された転造加工装置20において、1対の転造ダイス22、24が、図2或いは図4の矢印で示す方向へ回転駆動されると、ロッド素材26の外周面にはリード角θが零の環状の凸条12が転造加工されるとともに、ロッド素材26は図2或いは図4の矢印で示す方向へ軸心まわりに回転しつつ図2の左方向へ送られる。そして、図示しない装置により所定長さで切断されることにより前記環状山付塗工用ロッド10が得られる。なお、一対の転造ダイス22、24の何れか一方は、転造歯30が無い円筒面のものを用いるようにしても良い。
【0019】
ここで、上記のような環状山塗工用ロッド10が、前記図7(a)、(b)に示すコーティング装置において被塗工部材104の表面に塗工剤106を所定厚みで一様に塗布するために用いられると、その外周面に形成された凸条12のリード角が零であることから、たとえ高速で塗布されても塗工むらが発生しない。因みに、リード角θが設けられた螺旋状の凸条12が形成された塗工用ロッドが用いられる場合には、たとえば450m乃至800m/min程度の比較的高速の塗工となると、巻き込まれた空気の流れに上記リード角θ方向の方向性が発生し、これにより局部的な厚みのばらつきが発生してそのリード角方向に視覚的に認識される塗工むらが形成されてしまうのである。
【0020】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0021】
たとえば、前述の実施例の環状山付塗工用ロッド10は、被塗工部材104としての合成樹脂製のフィルムやシートの表面に所定の塗工剤106を薄く塗布する場合に好適に用いられるが、このようなフィルムやシート以外の被塗工部材104に塗工剤106を塗布する場合に用いることも可能である。塗工剤としては、例えば所定の流動性、粘性を有する液状物質が好適に用いられるが、粉状物などを塗工剤として塗布することもできる。
【0022】
また、前述の環状山付塗工用ロッド10は、その直径が10mm乃至30mmφ程度、凸条12の1ピッチP_(1)が0.1mm乃至3.0mm程度、凸条12の高さが10μm乃至数百μm程度の範囲内であったが、必ずしもその範囲に限定されない。
【0023】
また、1対の転動丸ダイス22、24のリード角θは0.04’(分)程度とされていたが、必ずしもその値とする必要はない。
【0024】
また、本発明の環状山付塗工用ロッド10は、例えば図7(a)、(b)に示す態様で塗工に使用されるが、それ以外の態様でも使用することも可能である。
【0025】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例である環状山付塗工用ロッドを示す正面図である。
【図2】
図1の環状山付塗工用ロッドを好適に製造できる転造加工装置の要部を説明する正面図である。
【図3】
図2の転造加工装置の要部を説明する右側面図である。
【図4】
図3の転造加工装置の要部を説明する平面図である。
【図5】
従来の塗工用ロッドの一例を示す正面図である。
【図6】
従来の塗工用ロッドの他の一例を示す正面図である。
【図7】
(a)、(b)共に塗工用ロッドを用いて塗工剤を塗布する装置の一例を説明する概略図である。
【図8】
図5或いは図6の塗工用ロッドを用いて塗工剤を塗布した場合に、その塗工用ロッドの外周面に形成された凸条のリード角に起因して視覚的に生じる縞模様を示す図である。
【符号の説明】
10:塗工用ロッド
12:凸条
18:凹部
104:被塗工部材
106:塗工剤
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-03-26 
結審通知日 2008-03-31 
審決日 2008-04-14 
出願番号 特願2000-297176(P2000-297176)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (B05C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊藤 元人  
特許庁審判長 早野 公惠
特許庁審判官 西本 浩司
深澤 幹朗
登録日 2004-02-20 
登録番号 特許第3523836号(P3523836)
発明の名称 環状山付塗工用ロッドの製造方法  
代理人 池田 治幸  
代理人 円城寺 貞夫  
代理人 富崎 元成  
代理人 池田 治幸  
代理人 池田 光治郎  
代理人 池田 光治郎  

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